――無限に広がる大宇宙――。
全ての始まりとも言う“ビッグバン”から約150億年‥‥数多の星が生まれ、消えていった。
それはまさしく生命の営みに酷似している。
億年単位で進む星の生涯に比べれば、人間の営みなどまさに一瞬の光芒にも満たない。
しかし、その一瞬の光芒のごとき人の生命にもまた、輝きと煌めきがある――。
だが、その生命の息吹は時に宇宙の平和を乱す事が有る‥‥
あのガミラス、ガトランティスの侵略を何とか跳ね返した地球は、侵略・絶滅戦争の痛手を乗り越えて立ち上がろうとしていた。
その最中、地球より14万8000光年の彼方にあるイスカンダル星を襲った謎の敵、『暗黒星団帝国』との戦いは地球防衛軍とデスラー率いるガミラス残存艦隊との協力により、終結した。
そして、今地球は平和への営みを取り戻したかのように思えた‥‥。
また、地球とは別次元の世界に本部が存在する汎世界規模の治安・司法維持組織ともいうべき一大組織、時空管理局は、魔法による世界平和の構築と維持を掲げて活躍してきたが、成立から150年を経ずして、早くも行き詰まりを見せ始めていた。
さらに、魔法戦力を児戯のごとくあしらう強力かつ凶悪な軍事勢力や国家との遭遇で、管理局はジワジワとその力を削がれ始めていた――。
時に西暦2202年‥‥。
管理世界では新暦77年‥‥の事であった。
時空管理局 本局 次元航行艦バース
この日、新造艦、ヴォルフラムが停泊するドックに数多くの人々が集まっていた。
集った人々は、ヴォルフラムの乗員とそれら乗員の家族や関係者たちだった。
連日の様に起こった次元航行艦の相次ぐ遭難に、ボラー連邦の襲撃、武力制裁の失敗も重なり、見送りに来た人々の表情は、やはり皆不安そうだ。
「それじゃあ、はやてちゃん気をつけてね」
なのはははやてに見送りの言葉をかける。
「大丈夫やてなのはちゃん。今回、私らが行くのはボラー連邦の推定位置から全くの真逆の位置や。それに敵に見つかったら、形振り構わず逃げるつもりやで」
局員としては何とも情けない言葉であるが、管理局の艦船では全く歯が立たない現状では、当然の判断だ。
やがて、出航時間となり、はやてを含む乗員は艦へと次々に乗艦し、見送り人は所定の見送り場へと移動する。
乗員は全員が配置につき、後は艦長(はやて)からの命令を待つばかりとなった。
そして、ブリッジに艦長のはやてが入ると、
「敬礼」
グリフィスが号令をかけ、ブリッジクルー全員がはやてに敬礼し、はやてが返礼する。
はやてが腕を下ろすと、皆も下ろす。
「総員に告ぐ、艦長の八神はやてや。これより本艦は、試験航海へと出航する。皆も知っての通り、現在、次元の海は、ガトランティスやボラー連邦と言った血に飢えた鮫共が徘徊する危険な場所となっとる。従って訓練とは言え、これは実戦に近い航海となるが、私は皆を再びこのミッドの地へと帰すと約束する。だから、皆も職務を全うするように尚一層の努力を期待する‥‥以上や」
「出航用意!!」
はやてが訓示を述べた後、副長のグリフィスが号令をかける。
「システムチェックスタンバイ」
「システムチェック‥‥システム、オールグリーン」
「機関始動」
「機関始動‥‥魔動力炉へシステム接続‥薬室内圧力上昇中」
「バインドアンカー解除」
「了解、バインドアンカー解除」
「ヴォルフラム発進」
魔動力炉が起動し、ヴォルフラムはゆっくりと動き出した。
「はやてちゃん‥‥気を付けてね‥‥そして、絶対に帰って来てね‥‥」
なのはを始めとする大勢の見送り人は不安と心配を抱きながら、ドックを離れていくヴォルフラムを見送った。
ヴォルフラムが試験航海へと出発した頃、第二の地球では‥‥
海鳴市 月村邸
「明日からまた遠洋航海へと出るので、暫くは家を留守にします」
「そう‥気を付けてね」
と、良馬が忍に明日から暫く家を留守にする旨を伝えた。
「‥‥」
ただ、この時、良馬と忍がこの会話を聞いている人物がいたのを気がついてはいたが、まさかその人物があの様な行動に出るとは予想もつかなかった。
翌朝
月村の屋敷の前には、良馬をドックまで送るためのハイヤーが止まっていた。
リニスは既に前日から、まほろば へと泊っているので、今回は良馬一人が月村邸からドックへと向かう事になっている。
「それじゃあ、忍さん‥ノエル‥‥いってきます」
「ええ、気を付けてね、良馬」
「いってらっしゃいませ、良馬様」
忍とノエルの見送りを受けて良馬はハイヤーに乗り、ドックへと向かった。
まほろば が停泊しているドックの隣にはアンドロメダに似た様な艦影の艦、アンドロメダ改級宇宙戦艦、春藍が停泊している。
良馬がハイヤーから降りると、
「艦長」
「ん?おお、機関長」
途中で機関長の井上と出会い、話し込んだ。
その際、ハイヤーのトランクの扉が開いたことは、この時気がついた者は誰も居なかった。
後にハイヤーの運転手がトランクの扉を開け、荷物を取り出そうとした時、
「あれ?開いている?‥‥さっき、開けたっけ?」
トランクの扉が開いている事に運転手は首を傾げた。
「ヤマト、まほろば、春藍‥‥この、三隻が地球不在で少し心配ですね‥‥」
「ん?」
「暗黒星団帝国の事ですよ‥‥」
「ああ、あの連中か‥‥」
「ええ、あのゴルバを率いていたメルダースと言う男は、出会い頭に『地球の戦艦よ』と言いました。連中はガミラスやガトランティスの様に地球側が、気がつかない内に地球の存在を知っていた様でもありましたし‥‥」
「しかし、ペテルギウスで遭遇した連中が知らせたのかもしれんぞ」
「その可能性もありますが、もし、そちらじゃなかったとしたら‥‥」
「‥‥」
「あの連中はペテルギウスのエネルギーやガミラスのガミラシウム、イスカンダルのイスカンダリウムを狙っていました。その使用方法も自分たちの星のエネルギー枯渇問題ではなく、戦争使用の為のエネルギー源でした。あの連中が地球に矛先を向けないとは決して言えません」
「むぅ‥‥確かに‥‥」
太陽系内に不審な宇宙船や不自然な動きをする小天体が入り込めば、即座に地球や各惑星の有人基地は即応体制に入る。
しかし、ワープで突然内惑星域に入り込んで来るケースもあるし、いきなり地球に降下してくる可能性も否定できない。
暗黒星団帝国という、まだ全貌がわからない宇宙帝国主義の星間国家がどんな形で地球に接触してくるか、全く予想がつかない。
だからこそ、連中が握手ではなく、銃をつきつけてくるのが一番最悪なのだ。
無論、いざとなれば避難勧告や避難指示、はては身柄の一時拘束も可能な避難命令も出るが、状況は常に変わるものだ。
軍や行政機関におんぶに抱っこではいけない。
自分の目で見て判断することも必要というものだ。
「しかし、あの連中が仮に攻めてくるにしても、この地球を支配するメリットは一体何じゃろう?」
「そこまでは分かりません‥‥単にエネルギー採掘の邪魔をされた腹いせ‥‥ガミラスやガトランティス同様、地球人の奴隷化‥‥行動原理が地球人とは多少違うだろうから、連中の目的が全く分かりません」
「そうじゃのう‥ガミラス人やガトランティス人もメンタリティは地球人と大差なかったからのう‥‥」
「ええ、ガミラス人やガトランティス人も容姿は、肌の色以外は地球人と変わらないし、暗黒星団帝国人も映画に出てくるようなエイリアンでは無く、見かけは地球人と大差なさそうでしたし‥‥最も科学技術はあちらの方が上でしょうね‥‥」
上には上がいる。
決して奢ることなかれ、そうした精神でなければ、この宇宙では生き残れないのかもしれない。
やがて、まほろば、春藍、両艦の乗員が集合し、出航準備へと取り掛かった。
「総員に告ぐ、これより まほろば は 春藍との合同試験航海の為、シリウス方面へと出航する。総員出航配置につけ」
良馬が指示を出し、乗員が慌ただしく配置へとついて行く。
「出航配置完了」
「機関始動」
「機関始動‥補助エンジン点火」
まほろば の波動エンジンが心地よい轟音を奏でだした。
「ガントリーロック解除」
「ガントリーロック解除」
船体を固定していた拘束具が外され、轟音と共に まほろば 春藍の巨大な船体はフワリと宙へと浮いた。
二隻の巨大な黒鉄の要塞は星の海へ‥‥シリウスを目指し、舞い上がって行った。
二隻の巨艦は、途中月軌道の沖合において、月基地から無線操作されて出撃してきた自動戦艦、ハルバードとファルシオンと合流した。
ハルバードとファルシオンは形状が全く同じ、自動戦艦であるが、ハルバードはヤマトと同じ収束型の波動砲を装備し、ファルシオンはアンドロメダ級やガトランティス戦役時にて使用していた主力戦艦と同じ、拡散波動砲を装備していた。
月軌道までは月面基地からの無線操作を受けていたハルバードとファルシオンはこれから先、春藍からの無線操作を受ける事になる。
今回の春藍の試験航海には無人艦の無線操作機能の試験も兼ねていた。
そして、今回の航海では二隻だけの無線操作だが、後々は小隊、中隊、大隊と無人艦の規模を大きくし、春藍以外の艦隊はすべて無人艦と言う構想も防衛軍は立てていた。
天の川銀河・オリオン腕辺境、太陽系外縁部
八神はやてが艦長を務める時空管理局所属の新型次元航行艦、ヴォルフラムは、試験航海の最中、本部からの指示により、第二の97管理外世界方面の哨戒任務に当たっていた。
しかし、はやては無理に第二の97管理外世界への座標を掴み取ろうとはせず、当初の目的通りの航路を辿っていた。
「センサー、レーダーともに正常。次元断層反応なし。周辺空域に異常ありません」
「うん‥‥」
ここまでボラー連邦、ガトランティスの艦船に発見される事も無く、訓練日程をこなしつつ、ヴォルフラムは平穏に哨戒任務兼テスト航海をこなしていた。
とはいえ、太陽系を囲む“エッジワース・カイパーベルト”から内側は地球防衛軍の衛星や哨戒艦艇による監視網が敷かれており、不用意に侵入すれば管理局の艦船では簡単に拿捕・撃沈の憂き目に遭うのが目に見えているため、カイパーベルトの外側に近寄るのが精一杯なのだ。
出発前、クロノから『過度な接近は防衛軍側の警戒心を強める為、自重するように』と、言われており、はやて自身もその点に関しては十分に承知していた。
万が一領海外で遭遇しても防衛軍の艦艇ならば、領海外と言う事でこちらから手を出さない限り、攻撃される心配は恐らく無いだろう。
それから、小一時間程経過した頃、
観測担当のオペレーターが緊張した声を上げた。
「前方、左方向に空間歪曲反応を複数確認!」
「っ!?緊急空間転移スタンバイ!それと、念のため、通信回線をいつでも開けるようにしといてや」
「よろしいのですか?」
「かまへん」
オペレーターが疑問の声を上げるが、それは仕方ないことだ。
基本、管理局員は管理外世界の住民と接触することは規制されている。
但し、第二の97管理外世界こと地球連邦とは何度もコミュニケーションをとっており、知らない間柄でもない。
「転移してきたのは艦船四隻‥‥共に大型艦‥‥戦艦クラスです!!反応は地球防衛軍の艦船です!!」
「もしかして、ヤマトか!?」
緊迫した観測オペレーターの声に、他のブリッジクルーも驚きの声を上げる。
それは、はやても例外では無かった。
「接近する。あちらさんから質問されたら、正直に答えればええ‥ただし、絶対にこっちからは手を出しちゃならんで‥‥それに高圧的な態度もNGや」
「し、しかし、大丈夫ですか?」
はやての指示に通信員は不安そうに訊ねる。
「ボラー連邦やガトランティスと違い、いきなり撃ってはきいひん!!大丈夫や!!」
はやては即座に防衛軍艦への接近を行い、防衛軍艦の確認を決断した。
(反応は四隻‥内一隻はもしかしたら、ヤマトかもしれへん‥‥)
今まで映像でしか見た事の無かった宇宙戦艦ヤマト‥‥。
滅亡寸前だった地球を救った艦‥‥
その乗員たちと話せるのであれば、はやては個人的にもヤマトのクルーとは話がしてみたかった。
「周辺監視を厳重。針路、110!!全速前進!」
「は、はいっ!」
はやては地球艦がワープアウトした空間にヴォルフラムを向かわせた。
「捕捉できるか?」
「今のスピードなら何とかなりますが、何分、巡航速力が違い過ぎます‥‥」
「わかった。とにかく接近しよう。速度そのまま!」
ヴォルフラムは最大戦速で地球艦に向かっていった。
同宙域、宇宙戦艦 まほろば 艦橋
「ワープアウト成功‥‥」
「春藍、ハルバード、ファルシオンも無事にワープアウトを成功した模様です」
「各部、損傷の有無を知らせ」
「船体異常なし」
「機関異常なし」
「レーダー、通信設備共に異常なし」
「火器管制システム異常なし」
「艦の損傷は認められません。艦長」
「うむ‥‥」
ワープを無事に終えた、まほろば 春藍 ハルバード、ファルシオンは外宇宙巡航速度で航行した。
そんな中、まほろば のレーダーが此方に接近して来る艦影を捉えた。
「艦長、本艦隊に接近中の艦影あり‥‥」
艦橋内が一瞬の内に緊張が走る。
「総員、戦闘配備」
艦内に警報がなり、まほろば の火器管制システムが作動し、乗員は次々と配置につく。
「接近中の艦船の所属は分かるか?」
「少々お待ちください」
新見が接近中の艦船の熱源ライブラリーを調べ、どこの所属かを調べる。
「判明しました。接近する艦は、時空管理局の艦です」
「通信長」
「はい」
「こちらで対処すると春藍に連絡」
「は、はい」
良馬は春藍への連絡を指示し、ギンガは春藍の山南艦長に接近中の艦船が時空管理局の艦である事、その対処は まほろば が行う旨を伝えた。
ヴォルフラムの接近は早々に地球側に捕捉され、警戒体制の全艦は一時緊張状態になった。
それは接近するヴォルフラムも同様だ。
「接触まであと50秒です!」
「通信長、念のため所属と船名を問い質して、回答しないようなら警告を送れ」
「はい」
新見からの報告に、良馬は念の為、接近中の艦船が時空管理局の艦なのか否かの確認を指示するようにギンガへと指示する。
次元航行艦 ヴォルフラム ブリッジ
「で、でけぇ‥‥」
こちらの接近を知った防衛軍の軍艦一隻が、ヴォルフラムへと近づいてくる。
そのフォルムを見て、ブリッジのクルーは皆唖然としている。
管理局‥いや、どの管理世界の中でも見た事のない艦影‥‥
管理局とは設計思想が全く異なる艦‥‥
戦うためだけに生み出されたまさに黒鉄の要塞‥‥
その艦が今まさに自分たちに近づいてきている。
その艦影はヴォルフラムのクルーたちを圧倒させるには十分な姿だった。
(あれは、ヤマトやない‥‥フェイトちゃんたちを救助した まほろば っちゅう艦やな‥‥)
接近中の艦船がヤマトではなく、まほろば と判断したはやて。
ヤマト と まほろば は確かに両艦とも水上艦を模した姿をしているが、艦の大きさ、武装の数、艦の造りが若干異なる。
ヤマトの画像を何度も見た事のある、はやて はヤマト と まほろば の違いを知っていた。
そこへ、
「接近中の艦船より、通信です。 『 貴艦ノ所属、艦名ヲ求ム。我、地球防衛軍所属戦艦 まほろば 也 』‥‥以上です」
(やっぱり、まほろば やったか‥‥)
はやては、自分の予想通りの結果を聞いた後、通信員に命令を下す。
「まほろば にこっちの所属と艦名、それに要件として『かの大型艦の名を知りたい』と打電してや」
「りょ、了解」
どのみち、詳しい事を教えて貰えるわけがなかろうが、艦名位は訊ねても良いだろう。
それにしても、今ここに強硬派の局員が乗り合わせていなかった事は何よりの幸いだ。
と、言うよりもはやて自身が六課の時と同じように、この艦の乗員を選んだのだ。
次元の海が荒れている中で、自分が艦長を務める艦に危なそうな火種を持ち込む様な真似は極力避けたかったためである。
もし、この場に強硬派の局員が乗り合わせていたら、
「相手は四隻だが、こちらは管理局の新型艦なのだから負ける筈がない!!」
「接近中の艦船を臨検し、拿捕しよう」
等と明らかな死亡フラグを立てていただろう。
そんな事をしても無視されるか最悪撃破されてしまう。
しかし、折角防衛軍と接触したのだ。
はやても手ぶらで帰るつもりは全くなかった。
宇宙戦艦 まほろば 艦橋
「接近中の艦船より返信 『 我、時空管理局所属、ヴォルフラム。かの大型艦の名を知りたい 』‥‥以上です。如何いたしますか?」
ギンガがヴォルフラムからの通信文の内容を良馬に伝え、指示を求める。
「艦名ぐらいならいいだろう‥‥通信長、『春藍』の艦名を管理局の艦に送ってやれ」
「了解」
ギンガはヴォルフラムに通信を送った。
次元航行艦 ヴォルフラム ブリッジ
「まほろば から回答。あの大型艦の名は『春藍』であるとの事です」
「『春藍』か‥‥鮮明な映像データは取れる?その他の二隻の戦艦もや‥‥」
「はい、今とっています」
ここはいわば宇宙の公海‥必要以上に挑発しなければ情報収集は認められている。
「モニターに出せるか?」
「はい、映像データ出します」
太陽からも遠く離れた太陽系外空間ゆえ、処理した映像だが、それでも春藍の艦影は比較的鮮明だった。
「推定全長は450メートル以上、質量は推定20万トンクラス。主な武装は艦首に高エネルギー砲らしき構造物を三門、三連又は四連大型砲塔が五~六基。全体的な形状からみて、防衛軍の新型艦と思われます」
「な、何て艦だ‥‥あのヤマト級ですら我々の理解を越える艦なのに‥‥」
グリフィスが まほろば 春藍を見て、震える声で言う。
「これは、明らかにあちらさん(第二の97管理外世界)からのメッセージなんやろうな‥‥我々は独自の道を歩む。故に管理局はその邪魔をするなという警告やな‥‥」
(フェイトちゃんやティアナの言う通り‥フェイトちゃんたちをミッドに還したら、もうウチら、管理局と関わりたくないと言う意思がひしひしと感じるわ‥‥)
春藍の存在‥そして、先日フェイトやティアナからの通信にてやはり、防衛軍と管理局は相容れない存在なのだと思う、はやてだった。
「‥‥」
そして、
(こりゃあ、管理局なんて話にならんわ‥‥)
自分が所属している組織と第二の地球の宇宙軍が所有している艦船の性能の差を映像では無く間近で見て、思い知らされた。
「艦長」
「なんや?」
観測をしていたオペレーターがはやてに報告を入れるが、彼女はその報告を聞き、さらに驚愕する事になる。
「まほろば、春藍からは人の‥生体反応があるのですが、残りの二隻には全く、生体反応がありません」
「なんやて!?」
「観測ミスとかではないのか?」
グリフィスが訊ねるが、
「いいえ、三度、確認しましたが間違いありません」
「と言う事はあの同型艦の二隻の戦艦は無人で航行していると言う事か!?」
「だと‥‥思います。恐らく、春藍からの遠隔操作で航行しているものと思われます」
「なんちゅう技術や‥‥戦艦を人っ子一人乗せずに操作できるなんて‥‥」
「あの艦はまさに、戦艦の形をしたアンドロイドと言っても過言じゃありませんね」
絶句しているブリッジクルーの中にあって、通信担当のオペレーターは黙々と己の職務を進めていた。
「地球艦隊、右に転針して離れていきます‥‥更に まほろば より入電、『 貴艦の航海の無事を祈る 』‥‥以上です!」
「艦長、追跡しますか?」
オペレーターの報告に、副長のグリフィスが引き続き追跡するかをはやてに訊ねるが、
「いや、これ以上は無理や。やめとこう」
はやてはこれ以上の追跡を断念した。
「どのみちこの艦では追いつけないし、これ以上追跡すれば、防衛軍からの疑惑を買う可能性がある。まほろば に感謝の意思を伝えればそれでええ。本艦も予定の針路へと戻るで」
「わかりました」
これ以上留まれば地球防衛軍から警戒されかねない。
収穫は十分にあったのだ。
ただ、コレを見て、本局の連中が益々第二の97管理外世界を管理世界へ編入させようと躍起にならないか心配であった。
宇宙戦艦 まほろば 艦橋
管理局の艦と遭遇すると言うイレギュラーはあったが、戦闘も無く、航海は順調そのものであった。
「艦長、当直時間が終了しました。交代します」
副長の新見が良馬との交代を伝えに来た。
「そうか。現在の針路、速度は‥‥この先の針路状況は‥‥」
良馬は新見に現在の航行速度と針路、航路状況等ここまでの航海の状態と状況を伝え、これから先予想される針路状況を伝える。
「それじゃあ、後を頼む」
「ご苦労様でした」
互いに敬礼し、新見は当直任務につき、良馬は緊急事態が無い限り、次の交代までの間、暫しの休息に入った。
艦長室に入った良馬は、食事よりも睡眠を欲していたので、軍帽とスカーフ、手袋を取り、ジャケットと靴を脱いでベッドへと入る。
「ん?‥‥ユリーシャ‥もう少し詰めてくれ」
「ん‥‥わかった‥‥」
ベッドに入ると、そこには既に先客がおり、良馬はその先客であるユリーシャにもう少し奥へ詰める様に言うと、彼女はもぞもぞと奥へと詰めた。
それから十数秒後‥‥
「‥‥うわぁぁぁぁあ!!」
良馬は大声をあげてベッドから転がり落ちた。
「ん?‥リョーマ‥うるさい‥‥」
寝ぼけまなこを擦りながら、ユリーシャはムクっと上半身を起こした。
「むっ!?」
キュピーン!!
まほろば の艦橋で新見と共に当直勤務をしていたギンガが突然辺りを見渡した。
「どうしたの?通信長」
「いえ、お邪魔虫が出てきた様な気がしたので‥‥」
「?」
ギンガの言葉に新見は首を傾げた。
そして、そのお邪魔虫‥‥もといユリーシャを発見した良馬は、
「ユリーシャ、何で君がここに!?」
「はてな?」
ユリーシャは、良馬の質問の意図が分からない様子で首を傾げる。
「いや、『はてな?』じゃなくて、何で君がここに居るのかを聞いているの!?」
「リョーマが行くから」
「あのねぇ~」
ユリーシャが月村邸で今回の試験航海の話を聞いていた事は気配から何となくだが、察していた。
でも、まさか、密航して来るとは思いもよらなかった。
しかし、今更地球へ戻る訳にもいかないし、ましてやここで放り出すわけにもいかない。
また、彼女一人の為に、近くのパトロール艦を呼び寄せる訳にもいかない。
「はぁ~‥‥ここまで順調な航海だったのに、ここでまさかの問題浮上だ‥‥」
良馬はやれやれと言った様子で艦橋に居る新見に連絡を入れた。
ユリーシャの密航はあっという間に広がり、まず、春藍の副長であり、ユリーシャの父親である守は、ユリーシャの行動に当初、呆れその次には延々とお説教を始めた。
父からのお説教を受け、涙目のユリーシャを見た山南司令は、
「まぁ、来てしまったものは仕方がないので、計画に支障が無い様に面倒をみてやれ」
と、訓練終了まで、ユリーシャの まほろば 乗艦を認めた。
ただ、ギンガはやきもちを焼いた様に頬を膨らませていた。
そして、父親である守は良馬に「くれぐれも、娘に破廉恥なことはするなよ」と釘を刺した。
ユリーシャの まほろば 乗艦が許可された後、良馬は地球の忍の下にも連絡を入れた。
きっと今頃、ユリーシャの姿が見えないと大騒ぎをしているに違いない。
連絡を入れると案の定、忍が人海戦術でユリーシャの捜索を行おうとしていた。
表向き、ユリーシャは月村家の遠縁の親戚であるが、その実はイスカンダルの王族‥表にしろ裏にしろ、重要人物には違いない。
行方不明になり、万が一の事があれば、重大な問題となるので、忍が力を入れるのも当然の事であった。
無事に居場所がわかったユリーシャであるが、彼女は忍よりもノエルから淑女たる行動とは何たるかのお説教を受ける羽目になった。
これには流石の良馬も弁解は出来ずに、後でユリーシャを まほろば の食堂に連れて行ってやり、ディアーチェが作った料理で慰めてあげようと思った。
管理局の艦との遭遇、そしてユリーシャの密航と言うイレギュラーがあったが、まほろば、春藍は順調に星の海を進んで行った。