星の海へ   作:ステルス兄貴

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お待たせしました。
ようやくデザリアム帝国がスタンバイしました。


九十二話 嵐は来る

 

 

我々地球人類が住まう太陽系から、実に約40万光年を隔てたところに位置する白と黒に重なる二重銀河系星雲‥‥。

 

その二重銀河をほぼ支配下におくのが暗黒星団帝国ことデザリアム帝国だった。

 

その首都星たるデザリアム星では‥‥。

 

 この巨大銀河帝国とも言うべき星間帝国の頂点に立つ人物“聖総統”の住まいと執務所を兼ねる大宮殿の謁見室に二人の男が黙然と座っていた。

 前に座るのは暗黒星団帝国軍中将のカザン。

 その後ろに座るのは、彼の右腕とも言える青年士官のミヨーズ大佐。

 そして少し経った頃、謁見室に若い女性が入ってきた。

 眉がないカザンら男性とは異なり、切れ長の眼の上には細いながらはっきりと眉がある。

 そして、なにより、彼女が違うのがその女性の肌の色だった。

 カザンやミヨーズは、共に青白い肌の色をしていたが、この女性は地球人と変わらぬ肌の色‥容姿をしていた。

 その女性――サーダ――の姿を認めたカザンとミヨーズは起立し、目礼する。

 

「お忙しい中、お越しいただきましてありがとうございます。カザン中将、ミヨーズ大佐」

 

 サーダは一旦言葉を止め、口調を改めた。

 

「畏くも、聖総統がお出ましになります」

 

 居住まいを直した一同の前に、二重銀河の頂点に立つ男、聖総統スカルダートがゆっくりとした足どりで現れる。

 臣下が直立不動で迎える中、玉座に座ったデザリアム帝国聖総統スカルダートは、カザンを手招いた。

 

「カザン、ミヨーズ‥君たちがここに呼ばれた理由は解っているな?」

 

「「はっ」」

 

 臣下の回答に頷いたスカルダートは玉座から立ち上がると、改まった口調で告げる。

 

「カザン‥現時刻を持って太陽系攻略軍司令官に任命する」

 

「ありがたき幸せでございます。聖総統閣下」

 

「そして、ミヨーズ。現時刻を持ってプレアデス級戦艦、ガリアデス艦長兼第二特務艦隊司令官に任命する」

 

「承知いたしました。聖総統閣下」

 

「うむ‥君たちも知ってのとおり、この国に残された時は無限ではない。我が臣民の将来は、君の手腕にかかっているといってもいい。この帝国のさらなる繁栄のために、力を尽くしてほしい。頼んだぞ」

 

 国家元首の言葉に、カザンとミヨーズは頭を垂れて奉答する。

 スカリエッティ本人と彼の研究技術を手にしながらも、デザリアムはある大きな問題を抱えていた。

 彼の研究技術だけでは、帝国全体の問題解決には至らなかった。

 その為、聖総統は従来の計画も同時に進めたのだ。

 

「我が身に余る光栄。この身に代えまして太陽系を制圧し、新たなる帝都を建設してご覧に入れます」

 

 カザンの奉答に満足したスカルダートは更に続けた。

 

「うむ、君の元には主力として第三艦隊に加え、第二特務艦隊、第四艦隊、並びに第二・第五機動機甲師団をつける。直ちに準備し、完了次第太陽系へ向け出撃しろ」

 

「はっ!!」

 

「カザン、吉報を待っておるぞ」

 

「おかませ下さい。聖総統閣下」

 

 告げ終わるや、スカルダートは玉座につくことなく、カザンたちの敬礼を受け、サーダを従えて謁見室から歩み去った。

 

「早速出撃準備にかかる。ミヨーズ、関係する司令官、艦長、参謀長を召集するのだ」

 

「承知しました」

 

 謁見室を退出したカザンは、ミヨーズに最初の命令を下した――。

 

 

 地球が暗黒星団帝国の手によって侵略されそうになっていようとは知る由も無く、その地球、海鳴市の一角にある翠屋の跡地では‥‥

 

「ここが‥‥翠屋の有った場所‥‥」

 

 燦然と輝く太陽の下、ヴィヴィオは紅葉の案内の下、海鳴にある翠屋の跡地に来ていた。

 自分の知る翠屋と違い、そこは何もない更地であり、立札が一つ立って居るだけだった。

 今は何もない更地であるが、この土地は紛れもなく、翠屋があった場所で、紅葉が親から相続した土地で、紅葉の所有物件である。

 

「さてと‥それじゃあ始めますか」

 

「は、はい」

 

 今日、紅葉とヴィヴィオが来たのは、ただ単にヴィヴィオに並行世界とは言え、未来の翠屋の跡地を見せに来たわけでは無い。

 更地と言う事で、定期的に手入れをしなければ、あっという間に雑草やほうき草が生い茂る荒れ野になってしまう。

 その為、今日紅葉はここへ草刈りに来たのだ。

 ヴィヴィオに関しては紅葉が誘った訳では無いが、彼女が、この世界の翠屋について知りたかったため、紅葉に訊ねた所、遊星爆弾のため、店は吹き飛んでしまい、今は更地になっている事を伝え、今日はその更地の手入れに行くと言ったら、ヴィヴィオも手伝うと言う事で、紅葉について来たのだ。

 紅葉の話から店は吹き飛び、今は更地になっている事を事前に知っていたヴィヴィオであったが、いざそれを目の当たりにすると、神妙な気持ちになる。

 ほんの少し前、ヴィヴィオがお世話になっていた母の実家には確かに店が存在し、店内は笑顔と活気に満ちていた。

 それが今、目の前にあるのは何もない更地‥‥幼いながらも沈んだ気持ちになる。

 とは言え、いつまでもセンチメンタルに浸っている訳にはいかない。

 照り付ける太陽の中、草むしりは大変な作業であるが、海風がまともに通り、しんどい暑さではない。

 尤も、冬は寒風が吹きすさぶため、寒い‥‥。

 

 ガミラス、そして白色彗星の侵攻を受けた地球は、再建のやり直しとなった。

 海鳴の地がヴィヴィオの‥そして紅葉の幼い頃に知る海鳴に戻り、再び賑わうのは、果たしていつになるのか――。

 紅葉はそう考えながら、草むしりをする手を一度止め、海鳴の街並みを見渡した。

 

 

 お昼時、紅葉は念話でルシフェリオンに話しかけた。

 

(ねぇ、ルシフェリオン)

 

(なんだ?レディー?)

 

(暗黒星団帝国は“来る”と思う?)

 

(‥‥)

 

 ガミラス・白色彗星帝国との戦争は、紅葉から多くのものを理不尽に奪い去った。

 自分以外の家族、親戚、友人等々‥‥。

 あんな思いはもうごめんというのは、紅葉に限らず、あの戦争を生き延びた人たち全てに共通する思いだろう。

 

(暗黒星団帝国はまだその実態が把握されていない‥‥イスカンダルで接敵したのは氷山の一角とも言っていた‥‥彼らがイスカンダルへ来たのはエネルギー採掘のためだった‥‥その採掘を邪魔した地球は彼らにとって恨まれているだろう‥‥その過程で彼らが地球に対し、報復に来ないとは言い切れない‥‥)

 

(あんなことはもう二度と起こってほしくないんだけどな‥‥)

 

(うむ、それは私も同意見だ。しかし、暗黒星団帝国も話を聞く限りでは戦争こそが正義という考えの持ち主の様だ‥‥)

 

(‥‥)

 

 ルシフェリオンの考えを聞いて、俯く紅葉。

 戦争での勝利こそが正義‥‥それは、かの白色彗星帝国がそうだった。

 かの帝国は征服(侵略)こそが正義であり、それをやめる時は滅亡の時だというのが国是だった。

 立ち止まったら死んでしまうあたりはまさに大海原を回遊するマグロだ。

 ならば、彼らに侵略される国家はマグロに捕食されるイワシやアジと言ったところだろう。

 無論、地球連邦が掲げる正義とは到底相容れず、何もせずに捕食される訳にはいかず、もし彼らが戦争を仕掛けてくれば彼らとは戦うしかなかった。

 その結果、残念だが、勝者こそが正義という風潮はなかなか改まりそうにない

 

 

 白色彗星帝国との戦いからまだ一年も経っていないが、地球防衛軍は躍起になって戦力の整備を行っており、その象徴といえるのが、先日就役が発表されたアンドロメダ改級宇宙戦艦の春藍だ。

 その他にも無人艦や旧白色彗星帝国軍からの鹵獲・改造編入艦がある。

 旧白色彗星帝国軍からの編入艦に対しては少なからぬ拒否反応があった。

 これに対し、連邦議会で説明に立った藤堂司令長官は、

 

「我が軍の艦船は白色彗星帝国軍のそれに全く劣るものではありませんが、かの国の艦船は長距離侵攻作戦に適したもので、居住設備等、部分的には我々が見習うべき部分も少なからず見受けられます。無論、これらの点は今後の計画に活用することになりますが、我が軍は未だ再建半ばであり、使える艦船はたとえかつての敵国のものであっても、どんどん活用しなければ戦力が足りないのです!」

 

 なりふり構わぬ戦力の再建は、偏に新たな侵略に備えてのこと。

 ガミラスとは奇妙な休戦状態、白色彗星帝国の復讐戦も、先日の戦闘を最後にようやく終息した状態だ。

 となれば、イスカンダルへの侵略を図った暗黒星団帝国が新たなる侵略者としてやってくる可能性が相対的に高くなる‥‥と断言していた。

 それに例の時空管理局もその実態は完全につかめておらず、警戒するに越したことはない。

 

 転んでもただでは起きるなかれ。

 石に躓いたならばその石を持ち帰って詳しく調べろ‥‥。

 地球防衛軍の技術部門は、イスカンダルはもとよりガミラス、白色彗星帝国軍、さらには時空管理局からも盗める技術はどんどん盗み取っているのだ。

 自分たちの平和を勝ち取るために‥‥。

 

 とはいえ、際限なく戦力を揃えられるわけではない。

 全てが再建途上の地球は人材も資材も資金も限られている。

 地球を取り巻く情勢は相変わらず不安定であるため、軍の予算は比較的多くまわされるが、それは他の分野にしわ寄せを強いる事であり、それを当然とすることは許されず、少しでも効率的に予算を使わなければならない。

 尤も、勘違いする者は必ずいるもので、軍人や政治家の中には思い上がった言動をとる者も出ており、市民から強いブーイングを買ったケースも複数報告されている。

 軍人に関しては、

 

「守ってやっている等と考えている者は我が軍には要らん。即刻退官願を書け!」

 

 と、人事局長はそう檄を飛ばした。

 また同様の檄を飛ばした指揮官は多数いた。

 政治は当然として軍の場合、人の腐敗が命取りになることは往々にしてある。

 ましてや、今のような軍の存在感が相対的に増している時こそ注意しなければならないのだ。

 

 

 紅葉が見上げる空は青く澄んでいる。

 

(青空はどこまでも、いつまでも澄んでいてほしいんだけどな‥‥)

 

(そうだな、レディー)

 

 しかし、少女の願い空しく、再び空が焦がされる時が静かに忍び寄っていた――。

 

 

 紅葉とヴィヴィオが翠屋の跡地で草刈りをしている中、フェイトとティアナは今日もHOBBY SHOP テスタロッサでBRAVE DUELを楽しんだ後だった。

 

「はぁ~私たちこんな事をしていていいのかしら?」

 

 ティアナはHOBBY SHOP Testarossaのフードコートから外の景色をぼぉ~と眺めていた。

 この地球に来てからフェイトとティアナのする事と言えば、決まった日の定時通信と防衛軍側との意見交換会ぐらいで、その他は月村家の地下アリーナで、フェイトや紅葉、ヴィヴィオとの模擬戦や横須賀市や海鳴市に出てこうしてBRAVE DUELをしたり、ウィンドウショッピングをしている。

 その費用は皆、月村家から出ている。

 半ば紐生活を送っている気分である。

 管理局の高官からすれば、「何故軍事機密の諜報活動をしないのか?」と言われそうだが、何時迎えが来るか分からない中でそんな活動できるわけないし、フェイトもティアナもしようとも思わない。

 仮に防衛軍の軍人がミッドに次元漂流したら、管理局はここまで厚遇するだろうか?とさえ思う。

 

 ティアナが物思いにふけっている頃、フェイトはフードコートで注文した軽食とドリンクが乗ったお盆を持って、ティアナが確保した席に向かっている時だった。

 

その時、

 

トスッ

 

 フェイトの太ももの部分に何かやわらかい物が当たった。

 

「ん?」

 

 フェイトが視線を下げてみると、其処には薄紫色色でアホ毛が一本ぴょこんと立ったヴィヴィオ位の女の子が居た。

 女の子の手を見ると、其処にはドリンクボトルが二本抱えられており、その様子から察するに、彼女は手元の注意が注がれており、前に注意が向かないため、フェイトにぶつかったようだ。

 幸い蓋がしっかり閉まっていた為、彼女が抱えていた飲み物はこぼれていない。

 

「す、すみません‥‥」

 

 意外と無機質な声でフェイトに謝罪する女の子、

 フェイトはその子がJS事件時のルーテシアに通ずる雰囲気を感じたが、それ以前にフェイトは、目の前の女の子と何処かで出会った様な気がした。

 フェイトがジッと彼女から目が離せないでいると、その視線に疑問を感じたのか、女の子は首を傾げた。

 

そこへ、

 

「七緒、どうかしたのかい?」

 

 と、男性の声が聞こえた。

 

「あっ、パパ‥‥」

 

 女の子の父親が来たようで、振り向くとフェイトの目は大きく見開いた。

 

「っ!?」

 

 今、フェイトの眼前に居る男は彼女にとって忘れはずの無い男だった。

 

「ジェイル‥‥スカリエッティ‥‥」

 

 そう、フェイトの目の前に居る男はかつてミッドにて大規模なテロ事件を起こした男、ジェイル・スカリエッティがいたのだ。

 

「な、何でお前が‥‥」

 

 搾り出す様にフェイトはスカリエッティがここに居るのかを訊ねる。

 

「ん?」

 

一方、スカリエッティの方は、フェイトの質問の意図が掴めないのか首を傾げている。

 

そこへ、

 

「Mr.スカリエッティ、ちょっといいですか?」

 

 店員がスカリエッティを呼ぶと、

 

「ああ‥七緒、すまないがもう少しここ(フードコート)で待っていてくれ」

 

「うん‥‥」

 

 スカリエッティは自分を呼んだ店員と共に姿を消した。

 そして、その場には憎悪を浮き彫りにしたフェイトと七緒と呼ばれた女の子だけが残された。

 やがて、七緒は何事も無かったかのようにその場を去ろうとしたが、

 

「ちょっといいかな?」

 

 フェイトは七緒に話しかけた。

 

「ん?」

 

「少し、お父さんについて話を聞きたいんだけど‥‥」

 

「‥‥『知らない人について行っちゃダメ』ってお姉ちゃんやパパに言われている」

 

 七緒は意外としっかりした子で、彼女は、フェイトに対してはっきりと拒絶の構えをとった。

 そして、テトテトとテーブル席の方へ行ってしまった。

 このまま七緒について行っても彼女に不審を抱かれる為、やむをえずフェイトはティアナの下へと戻った。

 

「えっ!?スカリエッティが居た!?」

 

 そして、フェイトは先程、スカリエッティが今この場に居た事をティアナに話した。

 

「でも、何で彼がここに?彼は刑務所で服役中の筈じゃあ‥‥?」

 

「分からない‥‥でも、確かにスカリエッティだったわ‥‥店員さんからもそう呼ばれていたし‥‥」

 

「それでも妙です‥‥仮にスカリエッティが脱獄したのなら、この前の定期通信で管理局が伝える筈ですし、定期通信後に脱獄したとしてもこの地球へ来るにしては余りにも時間が無さすぎます。それに移動手段だって‥‥」

 

 ティアナの言う通り、管理局との最後の定期通信はつい先日でその時にはやてが新型の巡航艦の試験航海に行く事を知らされたばかりだ。

 その後でスカリエッティが脱獄したとしてもこの地球に次元漂流したとしてもあそこまでこの地球に馴染むには余りにも時間が少なすぎる。

 そもそも脱獄してもどうやってこの世界に来たのだろうか?

 それ以前にスカリエッティの身辺で七緒と言う少女は確認されていない。

 しかし、スカリエッティは既に暗黒星団帝国の手によって密かに留置されていた拘置場から救出されていた。

 だが、はやてもなのはもフェイトにいらぬ心配をかけまいとスカリエッティの一件もボラー連邦の一件も話していなかった。

 はやてはボラー連邦の一件で魔導師が大勢殉職してしまったので、高ランクの魔導師と思える紅葉のスカウトをしたかったのだが、フェイトとティアナからは紅葉は管理局からのスカウトには応じることは無い事と管理局と管理世界の揉め事を管理外世界出身の紅葉に負わせるのは筋違いだと紅葉を擁護する様な発言をしていた。

 ボラー連邦の一件を知らなかったとはいえ、フェイトとティアナのあまりにもドライな対応にはやてもなのはも驚いていた。

 だが、仮にフェイトとティアナがボラー連邦の一件を知っていたとしても紅葉を管理局へスカウトすることはないだろう。

 ボラー連邦の一件‥管理局の敗北理由を知ればなおさら、紅葉を管理局へはいれないだろう。

 

「もしかして、紅葉やフェリシアさん、ディアーチェさん同様、フェイトさんが見たスカリエッティもこの世界のスカリエッティって事は考えられませんか?」

 

 これまで自分たちの知り合いのそっくりさんやこの世界における子孫同様、先程フェイトが見たスカリエッティもそれと同類なのでは?と、仮説を立てるティアナ。

 

「兎も角、本人に聞いてみてはどうでしょうか?」

 

 ティアナはそう言うが、フェイトとしてはあのジェイル・スカリエッティと再び対峙しなければならないのかと思うと、腸が煮えくり返る思いだった。

 

それからしばらくして、

 

「どうもありがとうございました」

 

「いやいや、気にしないでくれたまえ」

 

 フードコートに再びスカリエッティが姿を現した。

 

「フェイトさんの言う通り本当にスカリエッティそっくりですね‥‥っていうか本人そのままですよ」

 

 改めて見ると、ティアナの目の前に映るスカリエッティはJS事件で逮捕したスカリエッティと瓜二つの容姿‥‥と言うかまんま本人と変わりない容姿だった。

 しかもファミリーネームまで同じときた。

 

「いくわよ、ティアナ」

 

「は、はい」

 

 フェイトとティアナはスカリエッティと接触する為、席を立った。

 

「あ、あの‥‥少しよろしいでしょうか?」

 

 フェイトは固い表情のままスカリエッティに話しかける。

 

「おや?君は‥‥?」

 

「さっきの人‥‥」

 

 フェイトとティアナはこのスカリエッティと瓜二つの人物から話を聞いた。

 すると、彼の名前は、ファミリーネームはスカリエッティ姓であったが、名前はジェームズ‥‥ジェームズ・スカリエッティと言うフルネームだった。

 容姿は兎も角、名前から察するに彼は自分たちがミッドで逮捕したジェイル・スカリエッティではなく、彼はこの世界におけるスカリエッティの子孫であると考えられる。

 当然、彼は犯罪者でも人造人間でもなく、普通の人間として生まれて来たスカリエッティの子孫だった。

 そして彼は、なんとBRAVE DUELの製作者であった。

 その事実にフェイトは物凄く納得がいかなった。

 目の前に居るスカリエッティは自分の知っているスカリエッティではない。

 それは分かっている筈なのだが、スカリエッティと同じ名前、同じ容姿、同じ声の人物がこんな素晴らしいゲームを創る筈がない。

 スカリエッティは人の命を何とも思わない外道だ。

 無意識的にフェイトは拳をギュッと握る。

 

(フェ、フェイトさんこのスカリエッティはあのスカリエッティじゃないですよ‥‥抑えて下さい)

 

 フェイトの余りにも険しい表情にティアナは念話で自重する様に伝える。

 只似ていると言うだけで、殴り掛かったら、時空管理局執務官の資格などこの世界では役にたたず、即座に障害罪で警察に逮捕される

 

 そして、彼の話が進んで行くと、この世界のスカリエッティには、七緒の他に後四人‥‥計五人の娘が居ると言う。

 彼はその娘の写真を見せてくれた。

 

(こ、これは‥‥)

 

(予想はしていましたけど‥‥)

 

 写真には、管理局の司法取引を拒否し、スカリエッティと共に刑務所に収監された戦闘機人たちと唯一の死亡が確認された戦闘機人の姿写っていた。

 長女の一架・スカリエッティはウーノの容姿と瓜二つで、彼女はミッドのスカリエッティ同様、この世界でもスカリエッティの秘書的存在だった。

 次女の二乃・スカリエッティはJS事件時に唯一死亡が確認された戦闘機人のドゥーエと同じ容姿をしていた。

 彼女は、普段外資系企業でOLをやっておりBRAVE DUELが成功するまで彼女がスカリエッティ一家の生活費のすべてを稼いでいた。

 そして、スカリエッティ家で唯一の自動車免許所持者で車を使っての外出時には彼女が運転手を務めている。

 その件に関してスカリエッティは、『二乃には随分と苦労を掛けた』と言っており、その時の表情を見たフェイトとティアナは、驚愕した。

 

あのスカリエッティがこんな顔をするなんて‥‥

 

 と、そう思っていた。

 三女の三月・スカリエッティはスカリエッティのアジトにて、フェイトと対峙したトーレと同じ容姿で、彼女は現在高校三年生で空手部所属しており、ボーイッシュな性格らしい。

 四女の四菜・スカリエッティは『ゆりかご』にて、なのはの怒りの砲撃をもろに食らった哀れな戦闘機人、クアットロと同じ容姿で、彼女はミッドのクアットロ同様少し性格が歪んでいる中学三年生。

 そして五女の七緒・スカリエッティは小学生ながら機械方面に詳しく父親(スカリエッティ)の助手としてシステム構築のサポートを行っている。

 性格は内気だと言う。

 今日もこの店のメンテの為に父と一緒に来たのだと言う。

 

(そうか!?この子、何処かで見たと思ったら、あのセッテって言う戦闘機人と似ていたんだ)

 

 フェイトはスカリエッティのアジトで戦った戦闘機人と七緒の容姿が似ている事に気がついた。

 セッテと七緒の身長が余りにも違いすぎる為、最初に七緒を見ても気がつかなかったのだ。

 スカリエッティ家の家族構成を聞いたティアナは、

 

「スカリエッティ‥さんは随分若い様に見えますけど、そのお歳で、これだけの娘さんを?」

 

 と、スカリエッティの年と娘の大きさにやや疑問を感じた。

 

「わ、若気の至りとでも言っておこう‥‥」

 

 スカリエッティはティアナから視線を逸らし、自分の年の割に娘の年齢が近そうな事実から話を逸らそうとしていた。

 

「スカリエッティさんの奥さんってどんな人なんですか?」

 

 そこで、ティアナがスカリエッティの奥さんについて訊ねると、彼は表情を曇らせて、

 

「ガミラスとの戦争でね‥‥」

 

 と、そこまで呟いた。

 

「あっ‥‥」

 

「‥‥」

 

 ティアナもフェイトも彼の呟いた言葉の意味を即座に察した。

 

「まぁ、妻の事はもう割り切っているから大丈夫だ‥‥今の私には可愛い娘たちがいるのだから‥‥」

 

 と、彼は七緒の頭を撫でた。

 そこには自分たちの知る元広域指名手配犯‥‥犯罪者であったジェイル・スカリエッティの面影は一切なく、フェイトもこのスカリエッティは自分の知るスカリエッティではないと思い始めた。

 一通り話をした後、スカリエッティは七緒と共に店を後にした。

 互いに手を繋いで帰って行くその様子はまさしく親子であり、スカリエッティのその姿にフェイトとティアナ余りにもギャップを感じたのは言うまでもなかった。

 なお、彼の亡くなった奥さんと言うのが、聖王教会のシスターであるシャッハに似ていた事に後で気づいたフェイトだった。

 

 

時空管理局 本局

 

 はやてが定時連絡でもたらした情報にクロノも息を飲む。

 

「それは本当かい!?はやて」

 

「間違いあらへん。随伴していたのは月村艦長の まほろば やったので、ほんで駄目元で照会したところ、艦名は『春藍』と回答してきたんや‥‥フォルムは艦首に三基の波動砲が特徴的やった超大型戦艦や‥‥しかも防衛軍は戦艦を無人でコントロールしとった‥‥」

 

 ヤマトは十分に強力な戦艦であったが、まほろば はそれよりも強力な艦‥そして今回、はやてが見たと言う春藍はまさに現在の防衛軍の最強の戦艦と言ってもいい。

 さらに防衛軍は無人で宇宙戦艦を操艦させる技術も有していた。

 

「春藍や無人艦の事は戻ってから詳しく協議する事にしよう」

 

「了解や」

 

 はやてとの通信を切ったクロノは、

 

(はやての報告を受けて“海”のお歴々たちがいきりだたなければ良いが‥‥)

 

 クロノははやてと同じ懸念を抱いた。

 無人で艦をコントロールする技術は管理局でも未だに成功していない。

 その技術を既に防衛軍は持っている。

 管理局としたら十分な脅威でもあり、手にしたい技術でもあった。

 

 

その頃、シリウス方面へ向かっていた まほろば と 春藍であったが、ただ何もすることなく、シリウスへ向かっていた訳では無い。

 

 

シリウス星系、宇宙戦艦 まほろば

 

「前方、11時方向から敵機接近!!数15!!」

 

「面舵一杯!!左舷対空射撃用意!」

 

「了解!」

 

「3時の方角から新たな編隊接近!」

 

「艦首下げ舵30!右舷対空射撃用意!主砲三番を右舷90度へ直角旋回!!上下角47度!!」

 

「はいっ!」

 

 試験航海の計画の中にはこうしたコスモタイガーやバルン・ダミーを使用してでの戦闘訓練も入っていた。

 “仏の山南”の課した演習という名の訓練はなかなか厳しく、地球防衛艦隊再建当初に土方総司令が課していた訓練とさほど変わらぬ苛烈さ。

 敵は待ってくれないという事で、抜き打ち訓練や17時間ぶっ通しの長時間演習も行われていたのだが、それでも事故による殉職者や重傷者が出ていないことは快挙といえた。

 しかし、彼らが知らぬ間に地球は新たな侵略者たちに狙われていた。

 

 

 

おまけ

 

 

仰天メンテナンス クリス編

 

 

「あれ?クリス、どうしたの?」

 

 先日、リニスよりデバイスを貰ったヴィヴィオであったが、そのデバイスのクリスがここ最近、調子が悪い様子だった。

 起動するにも貰ったばかりの頃と比べると時間が掛かるし、外装のぬいぐるみの表情もなんか冴えない様にも見える。

 

「どうかしましたか?」

 

 そこへ、紅葉がヴィヴィオに声をかける。

 

「あっ、紅葉お姉ちゃん。クリスの調子が悪いみたいなの‥‥」

 

 ヴィヴィオが自分の愛機を心配そうな表情で見ながら紅葉に言う。

 

「うーん‥そろそろメンテナンスが必要なのかもしれませんね」

 

 紅葉はヴィヴィオから受け取ったクリスを見ながら、メンテナンスをする必要があると言う。

 

「めんてなんす?」

 

 聞き慣れない言葉にヴィヴィオが首を傾げる。

 

「デバイスの健康診断です」

 

 紅葉の『健康診断』と言う言葉でヴィヴィオは『メンテナンス』の意味を理解した。

ヴィヴィオ自身、学校で行われている健康診断を受診しているからだ。

 

 メンテナンスを行うと言う事で、フェイトのデバイスとティアナのデバイスも序にメンテナンスを行う事になった。

 

「メンテナンス‥‥またアレをやるのね‥‥」

 

 紅葉流のメンテナンス方法を知っているティアナは「はぁ~」とため息をつく。

 しかし、フェイト、ティアナの両デバイスは、心なしか楽しみにしている様子でピカピカと嬉しそうに点滅している。

 

「ヴィヴィオ、これからやるメンテナンスは、物凄い特別な方法でミッドでは、あまり真似しないようにね。特になのはママの前では‥‥」

 

「 ? 」

 

 フェイトがミッドで紅葉流のメンテナンス方法やって、真似されたりしては少し恥ずかしいので、フェイトは予めヴィヴィオにミッドでは真似しない様に言う。

 

 やがて、フェイトたちが見た紅葉流独特のメンテナンス準備が揃うと、紅葉はぬいぐるみからクリスの本体を取り出し、手の中でギュッと握り、目を閉じる。

 

「‥‥ふむ、この子の好みは‥‥キャラメルミルクにココアですか‥‥」

 

 クリスの好みが分かると、早速紅葉は、クリスの好みとされるキャラメルミルクを作り始めた。

 そして出来上がったキャラメルミルクの入ったカップにクリスを入れる。

 なお、ヴィヴィオも紅葉が作ったキャラメルミルクを貰った。

 その他にもフェイトのバルディッシュはホットパンチの入ったグラス入ったグラスに沈んでいる。

 勿論紅葉のデバイス、ルシフェリオンとティアナのデバイス、クロス・ミラージュは、今回はヤマトの佐渡先生特製のヤマトカクテルを貰っていたので、ヤマトカクテルが入っているグラスの中に入っている。

 

「‥‥」

 

 ヴィヴィオは紅葉の作ったキャラメルミルクを飲みながら、目の前光景を見て、コレがデバイスのメンテナンス方法なのかと首を傾げている。

 

 やがて、キャラメルミルクの中からクリスが引き上げられ、紅葉が一度水で洗い流して布巾で綺麗に拭いた後、ぬいぐるみに収納して、ヴィヴィオに手渡す。

 ヴィヴィオは手渡された愛機に、

 

「クリス、何ともない?」

 

 と、訊ねると、ぬいぐるみは「大丈夫」と言っているかのようにメンテナンス前よりも確実に元気になっている様子だった。

 後にヴィヴィオは密かに紅葉からこの独特のメンテナンス方法を伝授してもらい、ミッドでちょっとした騒ぎを起こす事となった。

 


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