「‥‥うぅ‥‥うう‥‥」
連絡艇ターミナルで敵の銃弾に倒れた雪は、意識を取り戻した。
「こ、ここは‥‥?」
どうやら、自分は死んではいない様だ。
「まだ、動いてはいけない」
そんな雪に声をかける人物が居た。
「貴方は‥‥?」
「私は、地球占領軍技術部情報将校、アルフォン少尉」
「情報将校‥‥なぜ私をここに?」
雪は何故敵の将校が自分を殺さず、手当てをしたのか理由を訊ねる。
「どんな勇猛な男でも、貴女ほど勇敢には戦えない。そんな女性を収容所に運ぶわけにはいかない。ましてや君は負傷していたのだからな‥‥」
「じゃあ、貴方はあのターミナルで‥‥」
雪はアルフォンの言葉からあの時、連絡艇のターミナルを襲撃して来た敵兵のメンバーの中に彼が居た事を察する。
雪の予想通り、彼女を狙撃したのは他ならぬアルフォンだった。
「教えてください。あの時発進した連絡艇はどうなったんです?」
雪はアルフォンならば、地球を脱した古代たちがどうなったのかを知っているかもしれないと訊ねた。
「敵である私がそんな質問に答えると思っているのかい?」
「‥‥」
アルフォンの意見は最もだった。
しかし、
「‥‥彼らは私たちの警戒網をぬって発進した。しかし、追跡した艦の報告ではあの連絡艇からは生命反応が消えていたそうだ」
沈黙の後、アルフォンはあの連絡艇について語り出した。
「生命反応が‥‥」
「多分、発進後に内部で事故が発生したのだろう‥‥」
「‥‥」
アルフォンの言葉を聞き、俯く雪。
この時二人はまさか、佐渡が特殊な薬を乗員に打ち、仮死状態で切り抜けたとは思いもよらなかった。
「‥‥涙一つ見せないか‥‥気丈な人だ‥‥女性は強いな。何が起ころうとも、誰を失おうとも次の世代へと命をつないでいける‥‥羨ましいかぎりだよ、君たち人間は‥‥」
アルフォンはまるで自分は人間ではないかのように言う。
その様子は『お前ら下等な地球人と一緒にするな』と言う上から目線の様子では無く、彼が最後に呟いた『羨ましい』と言う言葉通り、地球人を羨んでいる様子だった。
「貴方たちだって人間でしょう?」
「人間だ。だが、君たちとは違う」
「‥‥そうでしょうね」
アルフォンの言葉に雪は彼らの行った殺戮の酷さに同じ人間でもあれ程まで残虐な行為が出来る物かと言う意味を込めて言った。
「‥‥」
アルフォンは気まずくなったのか、黙って部屋から出ていった。
海鳴市 市街地
「「「‥‥」」」
フェイト、ティアナ、紅葉の三人は食料品の買い出しからの帰り道を歩いている。
地球の主要都市、軍、政治の中枢を制圧した暗黒星団帝国軍は、地下都市に避難した一般市民に対し、速やかに地上の家に帰宅し、日常生活に戻るよう命令した。
無論、従わない場合は拘束、最悪は武力行使と警告して、だ。
これにより、市民生活が再開されたのだが、全てが元どおりになったわけではない。
地下都市を出る前に忍はフェイトたちに中嶋家へ行くように言った。
理由は、月村家は軍、政治と密接な関係の家柄。
屋敷を見れば分かる様に、敵も月村家の人間を拘束するには十分な価値があると思うに違いない。
自分と一緒に行けば関係者と見なされ必ず捕まってしまう。
本来、フェイトたちはこの地球とは無関係の星(世界)の住人。
今回この様な騒動に巻き込まれてしまったが、これ以上巻き込む訳にはいかない。
そうした理由で忍はフェイトたちを逃がす為に提案したのだ。
フェイトたちは当初戸惑ったが、忍曰く地球は決してこのままじゃ終わらない。
必ず、助けは来るから心配はいらないと言ってノエルと共に戻り、案の定、屋敷前で待機していた兵士たちに身柄を拘束され、収容所へと送られた。
その時の忍の様子は恐怖に震える事も無く、毅然とした態度であり、ノエルもそんな忍の付き人として凛とした態度で忍に付き従った。
フェイトとティアナは忍の行為にいたたまれない気持ちになったのは言うまでもなく、ヴィヴィオは忍とノエルの身を案じていた。
ただ、忍はフェイトたちに中嶋家に向かうように言った時、ティアナに記憶媒体を手渡した。
「これは?」
「月村グループで作った戦闘スーツの改良プログラムが記憶してあるメモリーよ」
忍の言う戦闘スーツと聞いて、ティアナは真っ先に思いついたのがあの着ぐるみだった。
「でも、どうして‥‥?」
「‥‥中嶋さんの事だから、このままで済ますわけがないわ‥‥きっと、レジスタンス活動をするに決まっていると思うの‥‥その時、あの戦闘スーツは必ず彼らの役立つはず‥‥だからもし、中嶋さんと会ったら、あの人にコレを渡してほしいの」
「分かりました」
ティアナは事の重大さを感じていた。
中嶋家に避難したフェイトとティアナであったが、忍の予想通り、源三郎は既にデザリアム軍に対してのレジスタンス活動の為、パルチザンに身を投じており、中嶋家には不在で、ティアナは忍からのメモリーを手渡せずにいた。
また、マスメディアは活動を大幅に制限され、携帯電話やインターネットは原則として使用禁止となった。
当然使えない様に妨害電波が絶えず地球には流され続けられた。
テレビやラジオはニュースや討論番組は放映(送)を禁じられた。
深夜帯は放送休止。
外出に関しても地球全土に夜間外出禁止命令が布告され、22時から翌朝6時までは暗黒星団帝国軍関係や警察・消防等の緊急自動車以外は一切運行できなくなった。
当然、店舗はそれ以前に閉店せざるを得ない。
街中のあちこちにライフルを担いだ黒ずくめの暗黒星団帝国軍兵士が立ち、市民に威圧感を与えるようになったが、かなり厳しい軍律を敷いているようで、市民とのトラブルは少ないまま推移していた。
特に敵兵による女、子供に対する性的暴行が一件も起きていない事実に関しては、連邦市民は驚愕した。
「何ていうか‥‥威圧的ではあるけど、乱暴狼藉沙汰は不思議と聞かないわね」
ティアナは遠目からライフルを構えた兵士を見て意外そうに呟く。
地球のこれまでの歴史や管理局の歴史においても、軍や管理局では軍律や法律を敷き、統治または占領地の住民に対し、乱暴狼藉は厳罰に処している。
しかし、そんな中でも婦女子や子供に対しての乱暴狼藉事件は絶えず起こっている。
司令官の中には前線の兵士に対して、「暴行や略奪こそが兵の士気を高める」と言う理由で敢えて暴行や略奪を懐の痛まぬ褒美だと言って許可する例も多々あった。
「そう言われてみれば、そうね」
ティアナの意見に賛同するフェイト。
(ふむ、そうだな‥‥それとな、レディー。ミス、ハラオウン、ミス、ランスター。敵の兵士をサーチしたら、妙な反応があったぞ)
ルシフェリオンが紅葉たちに念話で話しかけて来た。
(妙な反応?)
(どういう事?)
(連中の胴体部の広範囲から、精密機械特有のノイズや電磁波が僅かだが検出された。同時に、地球人類に近い生命反応も探知した。それも一人だけじゃない。今まですれ違った敵の兵士全員がそうだ)
(それって、サイボーグじゃない!?)
どういう事なのか?兵力を補うためにアンドロイドが含まれていると言うのであれば解るが、兵士全員がサイボーグとは‥‥。
地球にも既にアンドロイドは存在するが、生身で戦闘をこなすようなハイレベルなものではない。
ましてやサイボーグなど、技術面もさりながら倫理的問題もあって実用化自体怪しいものだ。
ミッドでも戦闘機人と言うサイボーグに近い存在も居るが、顔から下が完全な機械のサイボーグなどミッドでも他の管理世界にもそんな存在は居ない。
(ひょっとして、暗黒星団帝国人は、生身での身体機能が著しく低下しているんじゃないでしょうか?)
紅葉は何故暗黒星団帝国人がサイボーグと言う身体をしているのか推測を立てる。
(ふむ、レディーの言う通り、あの重核子爆弾とやらの技術から地球人より高度に進化したのかも知らんが、その代償として生命力‥人類の種としての存在自体が衰弱してしまったという可能性はあるな)
(だとすれば、彼らの地球侵略の目的は‥‥)
三人は背中にこれまでになく冷たいものが走るのを感じ、慄然とした。
中嶋家
一体これはどんな光景なのか?
フェイトとティアナは完全に呆れ果てていた。
高町紅葉の容姿はどことなくだが、自分たちの親友、上官である高町なのはに似ている。
そして、バリアージャケットもデバイスの形状も似ている。
しかし、デバイスの性格は少々ズレている。
メンテナンスと称して酒や紅茶の風呂に浸かるようになったのはその最たるものだ。
そして今また、シュールな事をやり出した。
「どうだ?私の偽装はまさに完璧だろう?レディー」
「‥‥その姿で言われてもね」
長嘆息する紅葉の目の前を一羽の青いインコが飛び回っていた‥‥ただし、本物のインコではなくぬいぐるみのインコだ‥‥。
敵の兵士の身体がサイボーグであると看破したルシフェリオンは、帰宅するや、ヴィヴィオの様子を心配そうに見守っているクリス(セイクリッド・エクセリオン)を見て、自分をぬいぐるみに縫い込めと言い出した。
それで自由に行動できるのだと言う。
始めはペンギンのぬいぐるみに縫い込んだのだが動き難いし、日本のど真ん中にペンギンが居るのは不自然だと言い出し、次に紅葉のベッドサイドにあったインコのぬいぐるみを指名してきた。
改めて縫い込んだら、大層気に入ったらしく、部屋の中で飛び回り始めた。
心なしかバルディッシュとクロスミラージュも羨ましそうに見ている‥‥様な気がする‥‥。
「それで、その恰好で何をするつもりなのかな?」
意味も無くルシフェリオンがこんな行動をするとは思えない。
故に紅葉は自らの相棒に訊ねた。
「無論、情報収集と伝達だ。レディー」
紅葉の相棒は、当然のようにのたまった。
その日の夜‥‥
「古よりこの地に住みし蔑まれし者たちよ、我が朋輩が導きに応え給え‥‥」
中嶋家に用意されたフェイトとティアナの部屋の真ん中で紅葉が瞑目し、詠唱する。
やがて、彼女の足元には魔方陣が出現する。
フェイトとティアナ、ヴィヴィオの三人はその様子をジッと見ている。
紅葉の魔法に興味津々だったためである。
(いいぞ、レディー。動き始めたぞ)
瞑目している紅葉に念話が届く。
声の主は勿論、ルシフェリオンだ。
青いインコのぬいぐるみに身を包んだルシフェリオンは夜の街を飛び回り、あちこちに潜むドブネズミやゴキブリ、銀蠅、やぶ蚊といった、いわゆる生活害虫・害獣を集めているのだ。
紅葉から念話で送られてくる呪文を、それぞれの動物の行動に影響を与える周波数に変換して発信する。
四十年以上の年月を地球で過ごし、すっかり土着したルシフェリオンならではの“ふざけた”能力だ。
しかし、ミッドではルーテシアやキャロといった召喚師もいるのでさほど珍しい能力では無い。
だが、召喚されるのが生活害虫・害獣と言う点では珍しいと言えば珍しい。
こんな能力でも夏ともなれば、ルシフェリオンはそのまま虫除けに変わるので、重宝している。
紅葉の母親の代でも喫茶店をしていたので、この能力は大変重宝された。
ビルの間を飛び回るインコ姿のルシフェリオンの後ろからは何本もの蚊柱が追従し、地下の下水道をドブネズミやゴキブリがいくつもの群を作りながら駆けずり回る。
ルシフェリオンが向かう先には、デザリアム帝国軍が宿舎として接収したホテルがあった。
その頃、ミッドチルダでは‥‥
地球が暗黒星団帝国に占領されたと言う事実はミッドでは当然知られていないが、地球に何らかのトラブルが起きたのかもしれないと言う予測はたてられた。
何しろ、定時連絡の日時を過ぎても地球からの応答が全く無かったからだ。
時空管理局本局
「連絡がとれないって、本当なの!?」
「本当だ。何度コンタクトを試みても、防衛軍司令部との回線が繋がらないんだ。こちらのシステムや通信ポッドは正常に動作しているんだが‥‥」
クロノの言葉に、はやては、傍らのなのは共々困惑の表情になった。
ボラー連邦との紛争で次元航行部隊に大打撃を被った管理局本局は、戦力再編に苦慮していた。
更に最近では“空”までもが“海”を見限り“陸”と連携を取ろうとしている動きが有る。
“空”の方も大勢の若い空戦魔導師たちを失った痛手があり、それを回復するまでかなりの時間を有する為、危険が伴う次元の海での任務を減らそうと言う意見が増えた為だ。
何より遺族からのバッシングが効いていた。
そこで三提督は極秘にレティ・ロウランに地球連邦政府と接触する事を命じた。
地球連邦・地球防衛軍と提携し、タキオン推進機関艦船の建造技術を会得しようという声が技術部門から上がり、管理局としては最低でも波動エンジン技術の提供を求めたかった。
波動エンジンは武装ではなく、あくまで艦船の機関に過ぎず、管理局が掲げる「質量兵器の廃絶」には当たらない。
精々、魔導師至上主義者から「管理外世界の機関を採用するなんて恥ずかしくは無いのか!?」等の野次は来るだろうが、現在管理局が採用している最新の魔動力炉の最大出力でも波動エンジン並の速力は出ない。
いつまでも魔力だけで管理を維持する時代はもう終わりに近づいているのかもしれない。
三提督や一部の高官らはそれに気づき始めていた。
そのため、三提督から命令を受けたレティはまず、何度も彼らとコンタクトをとった経験をもつクロノに地球防衛軍にコンタクトをとらせたのだが、それはのっけから躓いた。
防衛軍司令部が暗黒星団帝国軍に陥とされた地球が管理局からの通信に答えられるはずがなかったのだが、管理局はまだその事実を知る由もなかったのだ。
「それってあの地球に何かアクシデントが起きたって事なの?」
なのはが心配そうに訊ねる。
第二の地球には親友の他に今は、愛娘のヴィヴィオがいるのだから、なのはとしては心配で仕方がない。
「それは何とも言えない。何分にも情報がないからな‥‥」
不安げな、なのはにクロノが答える。
「いずれにせよ、余り時間を空費するわけにはいかない。もしかしたら、クラウディアが派遣される可能性もあるな‥‥」
管理局の中で、多少なりとも地球防衛軍とコネクションを持つのはクロノ・ハラオウンとレティ・ロウランぐらいだ。
自ら、艦船を指揮するクロノが派遣されるのは当然といえよう。
そして、クロノの予想通り、数日後、クラウディアに第二の97管理外世界こと地球連邦への派遣命令が出た。
表向きはボラー連邦への警戒に対する哨戒任務であった。
クロノと同じく次元航行艦の艦長となったはやてもその任務に同行したかったが、はや てのヴォルフラムは先日テスト航海から戻ったばかりで、整備・補修等で出撃するにはまだ時間が必要だった。
艦長として、補修中の艦から離れる訳にはいかず、はやては複雑な心中のままクラウディアを見送った。
その頃、重核子爆弾の起爆装置の破壊を目的として、太陽系を脱し、一路暗黒星団帝国の本本星を目指すヤマト。
そのヤマトはワープにて太陽系を一気に脱し、オールトの雲へとやって来た。
しかし、当初の予定ではもっと遠方でワープアウトする筈だった。
何らかのイレギュラーが働き、オールトの雲でワープアウトしたのだ。
そして、連続ワープの影響の為か、レーダーにも被害が出た。
真田はそのイレギュラー原因を調査すると共に技術班にレーダーの修理を命じた。
しかし、そう簡単に原因は判明しなかった。
そのため、調査に少し時間が掛かった。
通常航行でオールト雲を航行していると、澪が接近してくる艦影を捕捉した。
敵かと思われたが、接近中の艦船は味方の‥‥防衛軍の艦艇だと判明した。
その最中、真田が先程のワープアウトのイレギュラー原因を突き止めた。
その原因は波動エンジンのフライホイールシャフトに使うベアリングだった。
一つでは何の変哲もないただの金属球だったが、そのベアリングがこのオールトの雲の周辺に無数にばら撒かれており、コンピューターが其れを障害物と認識し、ワープアウトしたのだ。
レーダーの故障もこれがレーダーにぶち当たった為に起きた事だった。
之は明らかに人為的な物なのだが、このベアリングは防衛軍‥‥地球連邦の艦船に採用されている部品で、敵の妨害工作とは考えられなかった。
そんな中、その犯人から通信が入った。
「よぉ!!やっと来たか」
「大山!!」
「トチローさん!!」
何とこのオールトの雲に無数のベアリングをばら撒いたのは、大山こと、トチローだった。
トチローは冥王星基地に新型エンジンの設計図を持って冥王星基地に赴いていたが、重核子爆弾が襲来する少し前に試験航海の為、冥王星基地を出ており命拾いしていた。
その後、オールトの雲に潜み、地球の様子を窺っていたのだと言う。
敵の無線も完全にではないが、傍受に成功し、ヤマトがこの宙域を通る事も知り、待っていたのだと言う。
そして、ヤマトを一時的に止めるために、この宙域一帯にベアリングをばら撒いたらしい。
トチローの迷惑行為に真田はキレ、
「こっちの航路が分かっていたのなら、無理に止めたりせずに、後からついて来ればよかったじゃないか」
と抗議する。
しかし、トチローの方にもヤマトにはどうしてもこの宙域で止って貰わなければならない事情があると言う。
「何かあったのか?」
真田が事情を訊ねると、
「敵に発見されて追われている」
と、サラリと言う。
トチロー自身も雪風・改で迎撃に当たったが、雪風・改には波動砲は搭載されておらず、相手は空母の様で艦載機を展開して撃ち落してもキリが無かった。
だからこそ、ヤマトにはこの宙域で停まって貰う必要があったのだ。
ヤマトは急ぎ戦闘態勢を取るが、このオールト雲には彗星となる原始惑星があり、それらを破壊すると、レーダーの効きが悪くなるので、ヤマトはコスモタイガーを先行させ、敵か原始惑星かの判別をさせた。
ヤマトのレーダーは、ベアリングとの衝突で未だに上手く作動しない為、雪風・改がヤマトをサポートした。
やがて、アステロイドの間に空母と駆逐艦数隻が潜んでいた。
ヤマトの対空砲火とコスモタイガー隊のドッグファイト、雪風・改の機動を生かした砲雷戦により、瞬く間に敵の空母を撃沈したヤマト。
空母が撃沈された事により、残存艦は次々と撤退して行った。
敵の存在がオールトの雲から消えるとトチローは雪風・改からヤマトへと移った。
戦闘終了後、古代は少し休むと言って艦橋を後にした。
戦闘後の興奮が冷め、ようやく一息がつける頃、古代は雪の事を思い出したのだ。
古代が艦橋を出て行くと、澪も真田に一言入れて、艦橋を後にした。
真田も船外作業の指揮の為、艦橋を降りた。
澪が艦橋を降りた後、
「あれ?」
太田が先程の出来事で一つ妙な事に気がついた。
「ん?どうしたんだ?」
「トチローさんが雪風で現れた時、澪が反応を発見したんだったよな?」
「ああ、確かそうだったと思うが‥‥それがどうかしたのか?」
「あの時はレーダーが使えなかったんだ‥‥レーダーが壊れていたのに、澪はどうやって雪風を見つけたんだ?」
「そう言えば‥‥」
「確かに‥‥」
太田の指摘に艦橋の皆が何とも言えない表情となった。
一方、艦橋を降りた古代は、展望室で一人、ターミナルで敵弾に倒れた雪の事を思い出していた。
そこへ、
「寂しそうね、おじさま」
澪が話しかけて来た。
「澪か‥‥君に何がわかるんだ?第一、俺はおじさまなんかじゃない」
澪の言葉にムッとする古代。
まだ二十代の古代と見た目、十五、六の澪。
どう見ても古代はまだおじさんと言う年柄じゃない。
せいぜい少し年の離れた兄妹か親戚と言う感じだ。
そのため、古代が『おじさまなんかじゃない』と言ったのはそう言う意味を含んでいた。
しかし、
「いーえ、おじさまよ」
澪はどうあっても古代を『おじさま』扱いする。
「?」
古代は何故澪が自分を『おじさま』と呼ぶ意味が分からなかった。
「ほら、あたしをよーく見て。分からない?」
「?????」
澪の言葉に益々混乱する古代。澪は真田の姪と紹介されたが、今までこの方、真田から姪を紹介されたことは無い為、澪とはヤマトで初めて出会ったのだ。
にも関わらず、澪は以前古代と出会った様な口調で話す。
「あたしよ。サーシアよ」
澪は遂に自分の正体を古代に明かした。
「‥‥サーシア?そんな‥‥君が兄さんとスターシアさんの‥‥あの時の赤ん坊‥‥しかし、まさか‥‥」
古代が目の前に居る澪が姪のサーシアだと言う事実が信じられないのもうなずける。
サーシアは去年まで赤ん坊だった。
それが今では立派な少女に成長している。
いくらなんでもこの僅かな年月でここまで人間が成長するのは余りにも可笑しかった。
そこで、サーシアはイスカンダル人特有の成長速度について古代に説明した。
「少し見ない間にあたしがこんなに大きくなったことが不思議なんでしょう」
「あ、ああ‥‥」
「驚くのも無理は無いでしょうね。あたしの体には、イスカンダル人のお母様の血が半分流れているわ。イスカンダル人は、大人になるまでの成長がすごく早いの。でも、周りの人を驚かせてもいけないから、お父様はあたしを真田さんに預けて、イカルスで育てていただいたの」
「そうだったのか」
「でも、これは当分、真田さんとあたしたちの秘密ね」
「そうしよう‥‥」
古代はサーシアの説明を受け、一応納得はした。
確かに血筋で言えば、自分はサーシアの叔父にあたる。
だから、サーシアは自分の事を『おじさま』と呼んだのだ
「ホントはイスカンダルで育つのが一番だったんでしょうけど‥‥いつかイスカンダルで暮らせるようになったら、あたしはきっとあの星で暮らすんでしょうね‥‥そしてあたしは、名前がサーシアからスターシアに変わるの。お母様の名を受け継ぐのよ。イスカンダルの女王の名前‥‥それがスターシア‥‥そして、次の王位継承者の名前がサーシア、その次がユリーシャ‥‥イスカンダルの女王は代々そうしてきたんだって。だから、お婆様も生まれた時はサーシア、女王になった時はスターシアって名前だったらしいわ。ユリーシャと言う名の王族も過去には居たみたいだけど、結構稀な事だったみたい」
澪‥もとい、サーシアは古代にイスカンダル王族が代々受け継いできた継承を説明する。
「でも、あたしはもう一つの名前をもっているわ。素敵な名前‥‥『真田 澪』って名前を‥‥」
サーシアは地球人の名前の方にも誇りを持っている様子。
「お母さん‥‥スターシアさんとは一度も‥‥?」
古代はサーシアが、あれから一度も連絡等を取っていないのか訊ねる。
「会った事はないわ。でも、いつも心の中で話しかけている‥‥お母様は、いつだってあたしこの事を見守ってくれているの。お父様にも‥もう長い間会っていないわ。今頃、何処で何をしているのかしら?」
サーシアは父、古代 守の行方を案じている。
「兄さんは、地球への侵攻が開始される前から、春藍の乗組員として長期のテスト航海に出ているらしい‥‥残念ながら、連絡も無いし、消息も掴めていないんだけど‥‥兄さんなら、何があっても生きているさ」
あながち古代の言う事は間違ってはいない。
あの冥王星海戦において生存が絶望視されていた中、奇跡的に生還したのだから。
「‥‥」
それでもやはり、父の姿、声を聞かない限り、心配な様子のサーシア。
「大丈夫、すぐに会えるよ」
「‥‥そうね‥‥お母様にも、きっと会えるわ」
「ああ、そうだな‥‥」
会いたい人に会えない‥‥。
それはサーシアも古代も同じ心境だった。
でも、必ず会える。
古代はサーシアに言い聞かせるのと同時に、自分にも言い聞かせた。
「それまでは、おじさまがお父様の代わりね」
「ああ‥‥俺で兄さんの代わりが務まるのなら、な」
古代は苦笑交じりに言った。
「そういえば、もう一人の‥えっと‥‥」
「ユリーシャ」
「そう、ユリーシャはどうしたんだい?」
古代はもう一人の姪でサーシアの妹である、ユリーシャ・イスカンダルの行方を訊ねた。
サーシアはイカルスに住んでいたのだから、当然妹のユリーシャが居ても不思議では無かった。
しかし、イカルスに居たのはサーシアだけ‥‥。
ならば、ユリーシャは、今、何処に居るのだろうか?
「妹は地球に住んでいるわ」
「地球に?」
「ええ‥‥真田さんが言うには、自分同様とても信頼できる人にお父様は預けたって仰っていたわ‥‥」
「そうか」
ユリーシャの行方は分かったが、地球に居ると言う事で、古代はユリーシャの身を案じた。
「でも‥‥」
「でも?」
「あたしは妹ともすぐに会えるような気がするの‥‥妹は直ぐ近くに居る‥‥そんな気がするの‥‥」
サーシアはユリーシャと直ぐに再会する予感がしていた。
それは強ち間違いでは無かった。
そのユリーシャが乗っている まほろば は今、苦境に立たされていた。
試験航海の目的地であるシリウス恒星において、まほろば 春藍 ハルバード ファルシオンは突如、暗黒星団帝国の大艦隊の襲撃を受けた。
防衛軍が誇る戦艦も数と突然の奇襲には対処がしようがなく、反撃もままならぬ内に後退を余儀なくされた。
ワープによる撤退はアステロイドや小惑星が密集しており、不可能の為、通常航行で撤退するしかなかった。
「針路230!!アステロイド帯へ向けろ!!」
「敵駆逐艦尚も接近!!」
「迎撃ミサイルと機雷で足止めをしろ!!」
「了解、ミサイル発射!!」
「機雷投下!!」
「序にありったけのジャミング弾も投下しろ!!少しでも敵の目を鈍らせるんだ!!」
「艦長、我々に出撃命令を!!」
坂井がコスモタイガー隊の出撃を求める意見を具申するが、
「駄目だ!!今、出ても返り討ちに遭うぞ!!」
「しかし‥‥」
「もう少し待て!!」
「りょ、了解‥‥」
まほろば のコスモタイガー隊のパイロットの腕が未熟ではないが、完全に多勢に無勢となっているこの状況下でコスモタイガー隊を出撃させても返り討ち遭うのは目に見えており、被弾・補給の為に艦へ戻ればそれは敵を案内する形になってしまう。
そのため、人的被害、状況の悪化を防ぐ為、彼らには出撃を我慢してもらわなければならなかった。
パイロットたちにとっては悔しい思いだろうが、良馬としてもここで彼らに犬死にしてもらいたくはない。
春藍はテスト航海と言う事でコスモタイガーを積んでいない。
そのため航空戦力は まほろば のみ‥‥。
無駄にすることは出来ないのだ。
敵の追撃を何とか振り切った まほろば 春藍 ハルバード ファルシオンは、機関を止め、必要最低限のエネルギー消費とし、息を殺して敵をやり過ごす事にした。
互いの連絡も小さな光源による発光信号か短時間の有線による通信で行われた。
「何とか敵の追撃は振り切れたな‥‥」
「ええ‥‥しかし、敵は諦めきれない様です‥‥この小惑星帯を探し回っています」
「うむ‥‥一先ず隠れ通せる内は隠れるしかないか‥‥」
「ええ、何とも情けない姿ですけど、やむを得ません」
山南との通信を終えた後、良馬は、休める者には休息を命じ、医療班には負傷者の応急手当てをさせ、技術班には破損個所の修復を命じた。
「通信長」
「はい」
「微弱で構わない。SOSを送信してくれ」
「微弱で、ですか?それでは友軍に届かない可能性がありますが‥‥」
「あまり出力を大きくすると、敵に気づかれる‥‥でも、何もしないより少しでも打てる手は打っておきたい」
「わかりました」
ギンガは出力を調節しながら救難信号を送った。
しかし、余りにも小さな出力の為、ノイズに掻き消されてしまうかもしれない。
かと言って近くの友軍に届く様な大きな出力で打てばあっという間に敵にこちらの居場所を教えてしまう。
(誰か気づいてくれればいいんだけど‥‥)
SOSを打つギンガは額に汗を滲ませながら、ひたすら遭難信号を打ち続けた。
(さて、どうする‥‥最悪の場合、艦を動かせる最低限の乗員を残し、コスモタイガー隊と乗員を春藍に移乗させ、まほろば ハルバード ファルシオンが敵を惹きつける囮となるか‥‥)
良馬は春藍を逃がす為にかつて、冥王星海戦において守や恭介がとった行動を再現するしかこの場を切り抜けられないのではないかと思った。
乗員の顔にも不安な顔色が隠せない。
敵に見つかってからでは、乗員を春藍に移乗させるのは危険である。
ならば、隠れおおせている今の内に乗員を春藍へ移乗させるか。
良馬がその旨を乗員に伝えようとした時、ユリーシャが艦橋に入って来た。
「ユリーシャ‥‥どうしてここに?部屋に居ないとダメじゃないか」
「来る‥‥」
「えっ?」
「近くまで来ている‥‥」
「来ている?誰が?」
「‥‥サーシア姉さん」
「えっ?」
ユリーシャの口から意外な人物の名前が出た時、その人物が乗艦しているヤマトは、シリウス恒星系へと突入していた。
ヤマトはシリウス恒星系に入ると、真田とトチローが新開発した通信機テストの為、コスモタイガー隊を偵察任務に向かわせていた。
そのコスモタイガー隊は、まほろば 春藍 ハルバード ファルシオンを捜索している敵艦隊を捕捉した。
山本は敵艦隊発見の報告を直ちにヤマトへと知らせた。
坂本は一戦交えるかと古代に訊ねるが、敵はまだヤマトの存在に気がついていない。
ならば、余計な戦闘は避けるべきだと判断し、コスモタイガー隊に帰投命令を出した。
コスモタイガー隊から得た敵艦隊の情報を元にヤマトで作戦会議が開かれた。
敵はヤマトにもコスモタイガー隊にも気がついていない。
ならば、敵をやり過ごし、この宙域をさっさと通り過ぎようと言う結論に出たのだが、先程から澪(サーシア)の様子がどうもおかしい。
ブツブツと何かを呟いている。
古代が敵の後方にレーダー照準を合わせ直してほしいと頼むと、澪(サーシア)は全く違う場所にレーダー照準を合わせた。
それは敵艦隊の前方を印していた。
「そっちじゃないよ、澪‥‥前方じゃなくて、敵の後方だ」
古代は澪(サーシア)に間違いを指摘するが、彼女は、
「‥‥こっち‥だわ‥‥ここに‥ここに貴女は居るのね?」
と、訳の分からない事を呟いている。
「おい、澪。聞いているのか?」
「ちょっと待て、古代‥‥澪にやらせてみよう」
真田は澪(サーシア)が何かを感じ取ったのだと察し、彼女の好きな様にやらせてみようと言った。
澪(サーシア)は敵の前方の宙域にあるアステロイド帯へと照準を動かし、最大の大きさで拡大した。
すると、そこには防衛軍の艦船反応があった。
「これはっ!?」
「地球防衛軍の艦ですよ!!」
相原と南部が思わず声を上げた。
「っ!?南部、急いで識別信号の確認を!!太田は敵の航路をもう一度割り出してくれ!!」
「「了解」」
南部と太田は急ぎ、古代に指示された内容を実行に移した。
「出ました!!‥‥っ!?これは、まほろば と 春藍の識別信号です!!」
「春藍?地球防衛軍の艦隊旗艦じゃないか!!それがどうしてこんな所に?」
島は春藍がこんな所に居たのが意外で思わず声を上げる。
「春藍は就航後、新型波動エンジンの調整の為に長期航海テストの為に地球を出ていた筈だ。そして まほろば はその護衛にあたっていた」
まほろば と 春藍がシリウスに居る心当たりを真田が説明すると、澪(サーシア)が突然倒れた。
「澪!!大丈夫か!?」
「やはり、力を使ったんだな‥‥澪。無茶なことを‥‥」
古代と真田が澪(サーシア)に駆け寄る。
「力?力って何の事ですか?」
太田が真田の呟いた『力』と言う言葉に引っ掛かりを感じ、訊ねる。
「説明は後だ。今はそれどころじゃない。敵が まほろば と 春藍 を狙っているのは明白だぞ!!」
「艦橋に戻るぞ!!総員、戦闘配置!!」
「古代さん、そう言えば春藍には‥‥」
艦橋に戻った相原が思い出したように古代に訊ねる。
「ああ、春藍には兄さんが‥‥守兄さんが乗っている‥‥相原、まほろば と 春藍に通信を送れ!!」
「でも、向こうは新型の通信機を積んでいませんよ。従来のタキオン通信ならば、送受信は可能でしょうけど、敵に傍受される危険が‥‥」
「かまわん!!送れ!!」
「了解」
古代はまだ敵に自分たちの存在が気づかれていないにも関わらず、まほろば と 春藍に通信を送る様に命じた。
相原が まほろば と 春藍 に通信を送っている中、澪(サーシア)が真田に付き添われて艦橋に入って来た。
「澪、大丈夫か?レーダーは何とかなる。君は休んでいた方が良い」
と、彼女を気遣うが、
「いえ‥‥大丈夫‥‥やれます。やらせてください‥‥」
当の本人は無理してでも職務に着く気でいた。
「古代さん、まほろば からの通信をキャッチしました‥‥SOSを送信しています!!」
相原が まほろば からの通信を受信した事を知らせる。
「余りにも微弱なので、ノイズに紛れて今まで見落としていたんですね‥‥もしかしてメインの通信機器が使えない程艦が損傷しているのかもしれませんね」
もし、澪(サーシア)が見つけなければ、気づかずにそのまま素通りしていたかもしれない事実に相原は冷汗が流れた。
「ですが。SOSが来ると言う事は彼らがまだ生きていると言う証拠です。事は一刻をあらそいますよ。艦長代理」
山崎が直ぐにでも救援へ向かうべきだと古代に言う。
「敵がこちらに気がつきました!!レーダー妨害を開始しています!!」
ヤマトの通信を傍受した敵がヤマトの存在に気がつき動き始めた。
「これよりヤマトは まほろば と 春藍の救出に向かう!!」
ヤマトは急ぎ、まほろば と 春藍 の救助へと向かった。