星の海へ   作:ステルス兄貴

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九十八話 中間補給基地

 

 

ミヨーズの罠を突破した地球艦隊は、予定通り銀河系から20万光年の位置へと向けて3万光年のワープを行った。

 

 銀河系から20万光年の位置‥‥。

 当然地球の宇宙開拓の歴史上、地球人類が到達した事の無い未知の宙域だ。

 そして、今地球を占領している暗黒星団帝国の中間基地が有ると予想される宙域‥‥。

 その為、暗黒星団帝国の艦艇と接触する可能性もあるが、今の地球艦隊は暗黒星団帝国の本星の正確な位置を未だに掴んでいない現状では、まほろば 春藍が遭遇した敵艦隊の航路を逆算して進むしかないのだ。

 もしかしたら、ここは暗黒星団帝国の庭先なのかもしれない。

 その為、どこから敵が襲いかかって来るか分からない状況。

 しかも地球人類が人質にとられている現状で、のんびりという訳にはいかないのだが、かと言って四六時中神経を張り詰めさせる事など不可能だ。

 それゆえ、緊急事態や訓練以外の場合は、当直・待機シフトに入っていない乗組員は休息するよう厳命されており、それは艦長も例外ではなかった――。

 ヤマトの古代守は、基本的に艦橋に詰めていたが、親友に弟の忠告に従って、愛娘と親子水入らずの一時を過ごしていた。

 一方、まほろば の良馬も守同様基本的に艦橋に詰めていたが、此方は恋人と守のもう一人の娘からの忠告に従って、休息をとる様に言われたのだが‥‥

 

「‥‥」

 

「むぅ~‥‥」

 

「ん~‥‥」

 

 まほろば の食堂にて、自分に休息を促した美女二人が睨みあっている。

 二人の眼からは火花が散っているようにも見えた。

 

「リョーマ、これ美味しいから食べて」

 

「良馬さん、こちらの料理美味しいですよ」

 

 二人は、互いに自分のお勧めの料理を良馬に食べさせようとしていた。

 傍から見れば、両手に花で羨ましい光景であるが、当事者にとってはまさに板挟みの状態‥修羅場状態であった。

 

(休憩時間なのに何でこんなに緊張しなければならないんだ?)

 

 と、顔を引き攣らせながら乾いた笑みを浮かべていた。

 

 

――それから、約12時間後――

 

 

宇宙戦艦ヤマト 第一艦橋

 

「コスモタイガー、発進!」

 

「了解。山本機出撃するぜ!!」

 

「坂本機出撃します!!」

 

「椎名機行きます!!」

 

 古代の指示に従い、艦尾の発進口から山本明夫らの三機のコスモタイガーが飛び立っていく。

 素早く編隊を組んだ三機の向かう先には機首と尾部をスカイブルー、オレンジに塗装したコスモタイガーとコスモゼロ、まほろば の戦闘機隊長の坂井、コスモタイガー隊所属の加藤、山本玲が待っていた。

 

「みんな揃ったな、よし、行くぞ!!」

 

『はい!!』

 

「だが気を抜くな。これは実戦だからな!」

 

 コスモタイガー隊はスロットルを開いて艦隊前方に向かった。

 

 艦隊全体には既に総員配置がかかり、全ての艦橋員が配置に就いていた。

 

 

宇宙戦艦 まほろば 艦橋

 

「敵さんは、いるんでしょうかねぇ‥‥」

 

「艦隊もだけど、中継拠点があってもおかしくはないわね‥‥」

 

 永倉の疑問に新見が答えた。

 地球からあれだけ離れた距離に艦隊を送り込んで来る暗黒星団帝国であるが、幾らなんでも艦隊を連続ワープでそのまま本星から地球へダイレクトに送り込んで来るとは考えにくい。

 無人の重核子爆弾なら兎も角、艦隊では艦の修理、補給、乗員の休養を行う拠点がどうしても必要な筈。

 その証拠にほんの三十分前、まほろば の強力なレーダーとセンサーは、極めて微弱ながらも天体起源ではない反応を捉えた。

 それは春藍も同様だった。

 まほろば からの報告を受けた守は全艦に警戒態勢を下令すると共に索敵飛行を決意。

 山南の承認を得て、まほろば ヤマト から前路索敵隊を出した。

 実戦経験豊かな坂井、山本をリーダーに、ヤマトのパイロットの中から、くじ引きで紅一点の椎名晶と準エースパイロットの坂本茂が山本に同行することになり、まほろば でも同じく紅一点であり、山本の妹である玲、坂本同様、準エースパイロットの加藤 四郎らが発進して行った。

 

「接敵するなら、奇襲だと好都合だけどね‥‥」

 

「ええ‥‥」

 

 全く会敵しないまま敵本星に行けるとは思っていないが、できるなら一人も死なせたくはない。

 否、全員を地球に連れ帰りたいのだ。

 それを現実のものにするのが、艦長たる自分に課された務め――。

 全く持って難しい務めである。

 

 艦隊が偵察隊の報告を待っていると、

 突如、アラームが鳴り響く。

 

「緊急連絡、緊急連絡。こちら、偵察隊!!敵基地を発見!!繰り返す、敵基地を発見!!」

 

 偵察隊より、敵基地発見の報告が入った。

 守は偵察隊に一度帰還するように命令した。

 幸い偵察隊は敵の警戒網にかからず、偵察隊も発見される事は無かった。

 

 

宇宙戦艦 まほろば 艦橋

 

「やはり、ありましたね‥‥敵の基地‥‥」

 

「うん、敵の襲来方向はトチローさんが見つけた暗黒星雲の方向と一致している。そして、この辺りはその線上の中間地点‥敵が基地を設置する可能性は非常に高いだろう。ガミラスも地球からガミラス本星の中間位置にあるバラン星にも基地を設置していたからね」

 

 フェリシアの質問に良馬は敵の戦略上、やはり中間地点に補給用の基地を設置する可能性が高い事を指摘した。

 

「偵察隊よりデータが送られてきました。パネルに転送します」

 

 ギンガが偵察隊から送られてきた敵基地の映像をパネルに映した。

 パネルには円盤状の土台に水晶で出来た様な都市のように白く輝くクリスタル状の建造物があり、滑走路やドーム型のドックらしき施設を備えている基地の映像が投影された。

 

「これは‥‥確かにデカイな」

 

「差し渡し、十キロ前後と言う所じゃな、彗星帝国の要塞都市とまではいかないが、巨大な事には変わらんな」

 

 投影された敵基地の画像を見ていると、ヤマトから通信が入った。

 内容はやはりこの敵基地の件について協議したいと言うモノであった。

 守、良馬、山南の指揮官三人で通信越しではあるが、協議が行われた。

 

 どうにか回り道をしてもその後、発見され追撃をされても厄介である。

 それにその場合、前後からの挟撃も考えられる。

 その他にも送られてきた画像からこの基地が敵の重要施設であることには変わらない。

 予想される敵本星があるとされる暗黒星雲と地球の中間点から、ここに停泊している艦船が地球への更なる侵攻を許す結果にもつながる恐れがある。

 そうなれば、今も地球で戦っている同胞に苦戦を強いらせる事になる。

 結果、この基地と停泊している艦船の殲滅が決定された。

 そして、次に基地攻略の為の作戦が練られた。

 

 送られてきた基地の画像のエネルギー反応から、中心にあるドーム状の構造物が艦船の補給、修理用ドックなのは間違いなく、そこには大中小、様々な艦船の反応が有り、その数は約七十隻以上に及んだ。

 更に外で警戒、または補給の順番待ちをしている艦船を含めると、百隻以上の艦船がこの基地周辺に居る計算となる。

 それにこれだけ、大規模な基地である。

 基地自体にも何か自衛の為の武装が施されていると考えて良い。

 これらすべての艦船と基地に戦いを挑むのは余りにも無謀である。

 しかし、逆転の発想で考えると、ドック内に七十隻以上の艦船が居ると言う事は、逆に言えば、直ぐに戦える艦船は外に居る三十隻ほどに絞られる。

 更に補給の順番待ちで満足に戦えない艦船もいるかもしれない。

 ドーム内の敵を外に逃がす事無く沈められることが出来れば数で劣る地球艦隊にも十分に勝機はある。

 そこで、先陣をきるのはコスモタイガー隊となった。

 まず、艦載機で奇襲を行い、ドーム内にいる敵を一掃してもうらう。

 さながらパールハーバー奇襲作戦の様だ。

 そして、作戦内容が纏まり、実行に移された。

 

 出撃前、良馬はコスモタイガー隊に以下の内容を訓示した。

 

「全機対艦爆装で発進。敵の迎撃機が来なければそのまま攻撃。迎撃された場合は爆装解除して空戦行動に移れ!それと絶対に独り相撲はとるな。皆、まずは生きて帰る事を最優先にしろ。まだまだ暗黒星団帝国との戦いは始まったばかりなんだからな!必ず生還しろ。無理はするなよ!!」

 

『はいっ!!』

 

 やがて、ヤマト まほろば からは爆装されたコスモタイガー隊が全機出撃した。

 

「目標は敵さんの中間拠点、こいつを潰して奴らの血管と神経をズタズタにしてやるんだ!!いつも通りにやれば必ずうまくいく!!地球のためなんてでかい事を考えずに、地球に残してきた家族、彼女、親友の笑顔を守るために小憎らしいアイツらをぶっ潰せ!!」

 

『はい!!』

 

 坂井は部下全員を鼓舞した。

 

「山本、この作戦は、最初の奇襲が要だ。できるだけ、多くの敵艦を沈め、敵基地を攪乱してくれ」

 

「ああ、奇襲だけで決定的なダメージを与えるつもりでやるぜ」

 

 古代は山本と作戦内容を改めて確認し、出来るだけ多くの戦果を出せるように言う。そして、山本はそれ以上の戦果を出して見せると意気込んだ。

 

 

暗黒星団帝国・地球侵攻軍 中間補給基地 管制室

 

 接近するコスモタイガー隊は基地のレーダーで捕捉される位置まで来た。

その報告は当然、基地司令官であるグノンにも知らされた。

 

「グノン司令!!正体不明の編隊がこちらに向かってきます!!」

 

「何だと?全く正体が分からんのか?」

 

「いえ、恐らくエネルギー反応から地球の機体と思われます」

 

「地球?地球は確か既に我が軍の占領下にある筈‥‥いや、まて‥‥ミヨーズの奴が追っていたヤマトとか言う艦があったな‥‥」

 

 グノンは思い当たる節を口にする。

 

「はっ、しかし、ミヨーズ大佐は確か三万光年先でヤマトを待ち構えている筈‥‥何故、連絡が来なかったのでしょう?」

 

 オペレーターは、ミヨーズからヤマトに関する情報が一切知らされてこなかった事に疑問を持つ。

 

「ふん、知れた事‥‥どうせ奴は愚かにも敗北したのだろう。前から気に食わなかった若造だ。いい気味だわい」

 

 グノンはミヨーズが既にヤマトとの戦いで戦死しており、その為にこの基地に対して、ヤマトに関する情報が無かったのだと推察する。

 しかし、まさか自分たちがミヨーズから切り捨てられて、敢えてヤマトに関する情報が送られて来なかったのだとは、グノンを始め、この基地に居る誰もが思ってもみなかった。

 

「それよりも眼前の敵だ。ふふ、たったあれだけの戦闘機隊でこの中間基地を落そうとするとは。全く持って片腹痛いわ!!迎撃態勢を整えろ!!返り討ちにしてくれる!!」

 

「はっ!!」

 

 この時、グノンはコスモタイガー隊の攻撃目標がドーム内の敵だとは知る由も無く、敵は正面からこの中間補給基地に挑んで来たと思い、態々ドーム内の艦を動かす事も無く、この基地の対空砲だけで、勝敗はつくと思っていた。

 

コスモタイガー隊

 

「山本隊長、敵基地外部の艦隊に動きが有りました。どうやら、発見されたようです」

 

「よし、皆気合を入れろ!!外の奴等には目もくれるな‥‥俺たちの目標はあのデカブツだ!!」

 

 コスモタイガー隊は外に居る敵艦船を無視して一気に中間基地へと迫る。

 

「見えて来たぜ‥‥」

 

 やがて、コスモタイガー隊は敵基地を視認できる距離まで来ていた。

 

「隊長お先に!!」

 

 坂本はブースターを吹かし、一気に敵基地のドームに繋がっている排気口へと突っ込んでいく。

 

「あの野郎‥‥」

 

「椎名!!お前は坂本のバックアップにまわれ!!」

 

「了解」

 

「全機、一直線に突っ切るぞ!!坂本と椎名に続け!!」

 

 コスモタイガー隊は敵の対空砲火に怯むことなく排気口目指して突っ込む。

 やがて、ドームの内部へと侵入すると、ドック内に停泊している艦船に対し、容赦ない爆撃を敢行した。

 

 停泊している艦船はコスモタイガー隊の攻撃を受け、爆薬や燃料に引火し次々と誘爆していく。

 ドーム内の艦船を粗方片付けたコスモタイガー隊は、長居は無用と言わんばかりに退避行動へと移った。

 

 

暗黒星団帝国・地球侵攻軍 中間補給基地 管制室

 

「な、何だと‥‥!!敵は、始めから内部に侵入するのが目的で‥‥!!」

 

 敵の攻撃目標が判明した後、その行動に驚愕するグノンであったが、時すでに遅し。

 

「ドック内に停泊していた艦、七十二隻の内、四十四隻が轟沈、十七隻が大破!!」

 

「残りの艦も殆どが補給中で飛び立てません!!このままでは、爆発に巻き込まれてしまいます!!」

 

「敵艦載機、応戦可能宙域外へ離脱!!‥‥は、速いっ‥‥!!」

 

 ドック内に居た艦船はその殆どが戦闘不能状態に追い込まれ、その原因となった敵機は基地の応戦可能外へと逃げていく。

 

「むむむ‥‥おのれっ!!基地外部の艦隊に伝令!!あの攻撃機を何としても追撃するのだ!!」

 

 憤慨したグノンは敵機の追撃を命じた。

 

「しかし、それでは基地が手薄になってしまいますが‥‥」

 

 オペレーターは最後の防御手段とも言える基地外部の艦隊を基地から離す事に異議を唱えるが、

 

「かまわん!!追え!!この基地の威信にかけて、追うのだっ!!」

 

 頭に血が上っていたグノンは完全に周りが見えていなかった。

 オペレーターの意見を退け、残存艦に敵機追撃を命じた。

 

 

宇宙戦艦 まほろば 艦橋

 

「敵、中間基地ドーム内に爆発を確認。外の艦隊にも動きが出始めました!!」

 

「コスモタイガー隊から入電!!『我、奇襲ニ成功。間モ無ク本隊ト合流ス』‥‥以上です」

 

「コスモタイガー隊後方に敵艦隊を確認!!」

 

「よし、まずは波動砲で一気に敵を殲滅するぞ」

 

「了解。拡散波動砲の発射準備」

 

 敵は両翼から戦艦と巡洋艦の部隊、中央に駆逐艦部を展開してきた。

 しかし、ドーム内の艦船が沈んでおり、その他の艦船もまだ補給が終了していなかったようで、展開する艦船は少ない。

 両翼の戦艦、巡洋艦部隊は まほろば 春藍 ハルバードが対応し、中央の駆逐艦隊にはヤマト 雪風・改 ファルシオンが対応した。

 速度差で一番早く波動砲の射程に入って来たのは中央の駆逐艦隊だった。

 そこへ、ヤマトとファルシオンの波動砲が火を吹いた。

 

「この閃光は‥‥っ!!」

 

 駆逐艦隊は一瞬の内に消滅した。

 

 

暗黒星団帝国・地球侵攻軍 中間補給基地 管制室

 

「司令‥‥!!敵の艦隊が‥‥!!」

 

「な、なんということ‥‥!!お、大型対艦ミサイル発射準備!!艦隊も防衛に回せ!!狙撃戦艦でまだ無事な物は!?」

 

「はっ!!基地外部甲板で調整中だったものが五隻!!補給は完了しています!!」

 

「よし、全て出撃させろ!!」

 

「はっ!!」

 

 グノンからの突然の反転命令を受けて、両翼の部隊は行足が鈍った。

 そこを まほろば 春藍の拡散波動砲が襲い掛かった。

 基地の前衛部隊を退けたヤマト まほろば 春藍 雪風・改 ハルバード ファルシオンはコスモタイガー隊と合流し、敵基地へと攻め込んだ。

 

「敵基地表面に変化あり!!対艦ミサイル砲門だと思われます!!」

 

「迎撃準備!!対艦ミサイルとは言え、コスモタイガー隊も気をつけろ!!」

 

「ミサイルの発射を確認!!‥‥第一波ミサイル‥二十五発!!来ます!!」

 

「対空砲火で撃ち落せ!!」

 

 ヤマト まほろば 春藍 ハルバード ファルシオンからはパルスレーザーや主砲、副砲が火を吹き、ミサイルの迎撃に当たる。

 それと同時に基地への艦砲射撃を行う。

 そんな中、ミサイルとは別の攻撃‥‥。

 敵の大口径ショックカノンがヤマトの左舷中央部に命中した。

 

 

宇宙戦艦ヤマト 第一艦橋

 

「な、なんだ!?今のは!?」

 

 被弾によってヤマトの船体は大きく揺れる。

 

「砲撃!?‥‥どこからだ!?」

 

「レーダー範囲外からです!!位置、割り出せません!!」

 

「レーダー範囲外だって!?」

 

「敵には超射程兵器を持つ狙撃艦がいるのかもしれん‥‥まずいぞ!!早くその艦の位置を特定し、沈めなければ此方が蜂の巣にされてしまうぞ」

 

「タイムレーダーから敵の砲撃方向はわかるか!?」

 

「なんとか‥‥」

 

「ならば、コスモタイガー隊にそのデータを転送!!狙撃艦の撃破に当たらせろ!!」

 

「了解」

 

 コスモタイガー隊が狙撃艦を撃破するまで艦隊は基地からの対艦ミサイルと狙撃艦からの狙撃砲撃に晒された。

 

「消火器を持ってこい!!消火を急げ!!」

 

「負傷者が居る!!ストレッチャーを急げっ!!」

 

 被弾箇所では、応急作業員が消火作業、負傷者の救助、被弾箇所の修理と声を上げながら駆けまわっている。

 消火器を持つ者は被弾部に消火剤を噴きかけ、またある者は負傷者を肩に担ぎ、用意されたストレッチャーに乗せ、医務室へと運ぶ。

 

「先生、お願いします!!」

 

 看護士と応急作業員が二台のストレッチャーを押して来た。

 

「分かった!!重傷者は無菌室へ!!軽傷者は診察室の方へ運んで!!」

 

「はいっ!!」

 

 当然ながら、重傷者が優先だ。軽傷者は看護師らの手によって被曝チェックと傷の手当てを行い、後ほど医師の診断を受けることになる。

 

 

暗黒星団帝国・地球侵攻軍 中間補給基地 管制室

 

「艦船発着口の修理はまだできないのか!?」

 

「ダメです。外側からでないと修理できない上、敵戦闘機が付近に居座っています!!」

 

 一度工作艇を出したが、すぐに地球の戦闘機に追跡され、多数の死傷者を出して断念させられた。

 ゲートが開かなければ中にいる艦艇を出せず、迎撃できない。

 基地はミサイルによる敵艦隊への攻撃のみを強いられた。

 

 一方、狙撃艦の撃破に向かったコスモタイガー隊は空間照明弾、レーダー衛星を設置しながら、狙撃艦の探知をしながら、進んでいく。

 

その最中、

 

「ぐわっ!!」

 

「八番機がやられました!!」

 

「まだ飛べるか!?」

 

「は、はい‥‥」

 

「直ぐに戻れ!!」

 

「す、すみません‥‥」

 

 狙撃艦からの長距離砲撃で、僚機が一機被弾した。

 

「怯むな!!進め!!」

 

 コスモタイガー隊は尚も進撃するが、またもや

 

「うわっ!!」

 

「五番機がっ!!」

 

 先程被弾した機よりも今度被弾した機は被弾箇所が悪く、瞬く間に爆散した。

 

「くそっ!!」

 

 味方を失いながらもコスモタイガー隊は進撃を止めない。

 そして、ようやく敵の狙撃艦を発見した。

 

「野郎~やっと見つけたぞ!!仲間の仇だ!!全機、突撃!!」

 

 コスモタイガー隊は猛禽の群れの如く、狙撃艦に攻撃を開始した。

 仲間を殺られたコスモタイガー隊の攻撃は苛烈を極め、狙撃艦は次々と沈められて行った。

 

 

暗黒星団帝国・地球侵攻軍 中間補給基地 管制室

 

「我が基地の艦隊‥‥全て全滅‥‥!!」

 

「馬鹿な‥‥馬鹿なっ!!」

 

 オペレーターの報告に唖然とするグノン。

 しかし、更なる凶報がグノンに知らされる。

 

「し、司令‥‥大変です‥‥!!」

 

「こ、今度は何事だ!?」

 

「敵艦船の砲撃の一発が四番外殻に被弾!!爆発の影響で格納ドームの火災が動力炉に燃え移りました!!」

 

「な、なんだとっ!!」

 

「第四動力炉爆発停止!!このままでは全ての炉が連鎖爆発を‥‥!!」

 

「す、すぐに消火に移れ!!」

 

「だ、駄目です!!爆発の影響が物凄く消火不能です!!スプリンクラーも異常が発生し、機能しません!!」

 

「アラート拡大中!!第二動力炉溶解!!第三動力炉出力停止!!」

 

「‥‥ああっ、第一動力炉も‥‥うわぁぁぁぁぁっ!!」

 

 動力炉区画からのアラートが鳴り響く中、基地の彼方此方で爆発が起こり始めた。

 

「そ、そんな‥‥そんなぁぁぁぁぁっ!!」

 

 グノンは唖然とした表情のまま絶叫し、やがて、彼の目の前が真っ白になり、体全体が燃えるような熱さがグノンを襲ったが、それもほんの一瞬の事だった。

 

 暗黒星団帝国・地球侵攻軍 中間補給基地は爆発を何度も繰り返し、やがて宇宙の塵と成り果てた。

基 地司令官のグノンを始め、生存者は一人もいなかった‥‥。

 

 

宇宙戦艦 まほろば 艦橋

 

「敵基地、消滅」

 

「残存艦の方は?」

 

「基地周辺に展開していた艦は全て基地の爆発に巻き込まれたようです。この宙域に敵艦の存在は認められません」

 

「どうやら、終わった様じゃな、艦長」

 

「ええ‥‥」

 

「しかし、数や規模の割には何だかあっさり倒せましたね」

 

 永倉が今回撃破した敵の規模に何か引っかかる様子。

 

「奇襲攻撃が上手く言ったからじゃないんですか?」

 

 ギンガが永倉に訊ねる。

 

「いや、三万光年で遭遇した敵はあれだけ周到な罠を張っていたんだ。敵にはその知らせやこちらの戦闘データが有っても良い筈なのに‥‥妙じゃないか?」

 

「た、確かに‥‥」

 

 永倉の言葉に頷くギンガ。

 他の乗員も永倉の意見に一理あると思っている。

 

「念の為、敵の形状やエネルギー波長、通信パターンを全て記録していたのですが、計測した結果、あの干渉装置の罠を使った艦隊はここには居なかったようです」

 

 新見が永倉の疑問を解消する答えを掲示した。

 

「なるほど、敵も決して一枚岩じゃないようじゃのう」

 

 相手も人間‥‥。

 それ故、例え同じ星、同じ組織に属していても考え方は十人十色。

 全て同じと言う訳ではない様だ。

 

 今回の戦闘に置いて、艦の乗員に負傷者は多数出したが、死亡者は出さずに済んだ。

 しかし、コスモタイガー隊には何機かの未帰還者を出す結果となった。

 坂井は、今回の結果を良馬に報告した後、展望室に立ち寄った。

 窓辺に立った彼はポケットから指揮官用端末を取り出すと、しばらくその画面に見入っていた。

 

「‥‥」

 

 その表情に出撃前の豪放磊落さはなく、打って変わって哀しみの色が浮かんでいる。

 坂井が見ているのは、未帰還になった まほろば所属パイロットの顔写真付きプロフィール。

 航空攻撃は敵基地と敵艦船に痛撃を与えたが、対空砲火で撃墜される機も少数ながら出ていた。

 戦争に犠牲は付き物だ。それは紛れもない事実だが、訳知り顔な連中ならいざしらず、実戦指揮官たる者がそんな事を口に出すことは許されない。

 犠牲者が出たと報告を受けた良馬も何か思う所がある表情をしていた。

 彼としても全員を地球へ帰してやりたかった。

 しかし、その思いは叶わぬものとなってしまった。

 坂井は、しばらく展望室の窓際を離れなかった――。

 

 

太陽系最外縁・エッジワース・カイパーベルト

 

「間一髪でしたね」

 

「そうだな‥‥」

 

 時空管理局の次元航行艦クラウディアは、通常空間から緊急転移して逃れたばかりだ。

 太陽系の外縁、エッジワース・カイパーベルトに到達したクラウディアを迎えたのは地球防衛軍の艦艇ではなく、管理局も敵と認定した暗黒星団帝国の中型戦闘艦一隻と小型戦闘艦六隻だった。

 地球防衛軍の艦であればまず停船命令を出してこちらの所属を質してくるだろうが、暗黒星団帝国軍の艦はこちらの所属も確認しないままいきなり発砲してきた。

 

「提督、今後の方針はいかがいたしましょうか?」

 

 副官がクロノに訊ね、彼は断言する。

 

「しばらくこの空間に留まり、時々通常空間に出て情報を集める。結論を出すには時期尚早だ。次の再転移で情報収集の為、サーチャーを多数射出する!!皆、気合と根性を入れて任務に当たれ!」

 

「は、はい!!」

 

 クラウディアは、間違いなく時空管理局一勇敢な艦船であった――。

 

それから数日後‥‥

 

 時空管理局の次元航行艦クラウディアは、どうにかカイパーベルト内に進入を果たしていた。

 艦長のクロノ・ハラオウンは臆病な位に慎重に次元空間と通常空間を行き来しながら、通常空間座標をカイパーベルトの中にまで移していた。

 ここに来て分かった事はやはり、地球は例の暗黒星団帝国の侵略を受けていると言う事だ。

 本来地球連邦‥地球防衛軍の艦艇がパトロールしていそうな宙域でサーチャーによって確認できたのは防衛軍の艦艇では無く、暗黒星団帝国の艦艇だった。

 それから更に調査を進め、敵の無線傍受に成功すると、有力な情報を幾つか入手する事ができた。

 それは、現在太陽系内に暗黒星団帝国の主力艦隊が不在の事、

 そして、不在理由はヤマトを追跡している事だった。

 

「暗黒星団帝国の艦艇の主力が出払ってくれたのは助かりましたね」

 

「そうだな。その分、太陽系内にいる敵艦の密度が減るわけだからな」

 

 艦内食堂で、クロノと数人のクルーが一緒に昼食をとりながら雑談している。

 

「それにしても、どうして暗黒星団帝国はヤマトをそんなに恐れるんでしょう?」

 

「不思議か?」

 

 今回が初乗り組みの新人オペレーターが素朴な疑問を呈し、クロノが面白そうな表情になった。

 

「はい。大規模な艦隊ならいざ知らず、たった一隻の戦艦をそんなに怖がるんでしょうか?少し異常とも思えますが‥‥」

 

 管理局では、次元航行部隊でもヤマトや地球防衛艦隊の事は、提督以上の高官や直接見聞きした極少数の者以外には余り知らされていない。

 理由は色々あるのだが、クロノは、

 

(一隻で大陸を、数隻でミッドチルダ級の惑星を破壊できる宇宙戦艦の存在が知れ渡れば、局員は元より市民が動揺すると思ったからだろうな‥‥)

 

 と、地球艦隊の異常とも言える攻撃力の高さに余計な混乱を避けるための処置だと思っていた。

 そして、クロノは若いクルーの疑問を受け、彼なりの回答を出す。

 

「本当の理由は暗黒星団帝国の軍の高官でないと分からないが、ヤマトは過去二回、多大な犠牲を払いながらも絶望的な状況に追い込まれた地球を救った、いわば奇跡の艦だ。逆に、敵サイドからすれば、ヤマトを撃沈あるいは拿捕する事が出来れば地球も諦めると踏んでいるのではないかな?ましてや暗黒星団帝国は既にヤマトに苦杯を舐めさせられているからね。メンツにかけても討ちたいだろうな。もっとも、それだけではないのかも知れないがね‥‥」

 

「奇跡を起こした存在ですか‥‥まるで八神艦長が部隊長を務めていた機動六課みたいですね」

 

『奇跡』と言う事から連想されたモノはJS事件を解決に導いた機動六課の事が脳裏に過ぎった新人クルーであったが、クロノは苦笑しながら、

 

「いや、困難さでは遥かにヤマトや地球防衛軍の方に軍配があがるだろうな。彼らが失敗すれば、地球人類は文字通り破滅していたんだからね」

 

 と、自らが後見人を務めたにも関わらず、『奇跡』『英雄』と言う言葉は機動六課よりもヤマトや地球防衛軍の方にこそ相応しいと言う。

 更にクロノは、

 

「それに、ヤマトの成功は何もあの艦の乗組員だけの功績じゃない。僅か数ヶ月でタキオン機関を開発した技術陣、留守の地球を守り抜いた地球防衛軍の戦友たち、ヤマトの成功を信じた地球の人たち‥どれか一つが欠けても地球は滅んでいたんじゃないかな?」

 

 と、地球防衛軍軍人と地球の技術者達の事も褒め称えた。

 

「‥‥」

 

 皆が静聴してクロノの言葉に耳を貸す中、

 クロノはここでひと呼吸置いた。

 

「しかし、ここの世界で起きている出来事は、管理局も他人事と傍観している事はできなくなるかも知れないぞ」

 

「と、おっしゃいますと?」

 

「管理局も、こういった強力な軍事力を持った星間国家と向かい合わなければならなくなることさ。これまでの次元世界では、管理局が一番でいられたが、この世界の国家はガトランティス帝国も暗黒星団帝国も管理局を敵視し、軍事力で圧倒している。先に遭遇したボラー連邦がその良い例だ」

 

『‥‥‥』

 

 クロノからボラー連邦の名を聞き、クルー達が少し顔色を青くする。

 

「地球連邦はだいぶ穏健ではあるが、それでも管理世界入り等は絶対にありえないだろう。これからはそういった国家とも付き合っていかなければならなくなるかも知れない。そうなれば、管理局はこれまでのような上から目線や魔導師至上主義を掲げている事は不可能だろう。でも、その前に認識を改める事ができるかどうか‥‥」

 

 以前に比べれば少なくなったが、まだ頑なに非魔導師や管理外世界を見下す者は少なからず存在する。それも管理局の中枢近くに‥‥。

 次元世界を平和にするにはまずはそう言った偏った思考者を排除しなければ、いずれ管理局は滅びる。

 ボラー連邦相手にあれだけの大敗をしたと言うのに、まだそんな考えなのかと怒鳴り付けたい気持ちにさせられたものだ。

 いい加減現実を見てもらいたいものである。

 

「諸君。もはや、魔法と魔導師の優位性が崩れつつあることを認識して職務に当たれ‥‥どんなに優れた魔導師でも宇宙空間の中では生きられない‥‥我々の所有する次元航行艦も彼らが装備するレーザー兵器(ショックカノン)やタキオン砲(波動砲)の前では紙切れ同然の防御力しかないのだからな」

 

「了解」

 

「はっ」

 

 新たに配属された乗組員にクロノはこう訓示し、事あるごとに説いていたが、本局ではまだ多数派たりえていないのだ――。

 

 

時空管理局本局 士官用サロン

 

「あっ、はやてちゃん」

 

「ああ、なのはちゃん」

 

 補佐官のリィンフォースⅡを肩にココアを飲んでいたはやては、なのはの姿を見つけて手を振った。

 なのははカウンターでコーヒーを受け取るとはやての向かいに座る。

 

「ねぇ、はやてちゃん。オーリス元三佐が管理局に復帰するって本当なの?」

 

「‥‥うん。ナカジマ三佐も肯定しとったから間違いないやろうなぁ。最も階級は三佐から三等陸尉に降格やけど、元の地上本部長付秘書官に復帰するそうや」

 

「そう‥なんだ‥‥」

 

 なのはは罰悪そうな顔でカップに視線を落とした。

 

オーリス・ゲイズ‥‥

 

J S事件において死亡したレジアス・ゲイズの娘で、そのJS事件では、重要参考人であり、捜査に協力する交換条件で無期限停職処分になり、捜査終了に伴って懲戒免職になる予定のところを、現ミッド地上本部長のロールスロイスが懲戒免職処分を撤回し、無期限停職処分の方も階級の降格で停職解除と旧職務への復帰を命じた。

 当然ながら、この人事は賛否両論を呼んだが、否定的な者は本局の“海”に多く、反対にミッド地上本部では概ね歓迎されたのである。

結果はどうあれオーリスの実務能力は一流であったため、人手不足の“陸”としては是が非でも復帰してもらいたい人材だった。

 

「本局は反対する人が多かったんやけど、ロールスロイス本部長は『ならばナンバーズは全員刑務所入りだな』と、にべもなく突っぱねたそうや。元々、本部長はチンクたちも一年ないし数年の懲役刑にするべきやと言うとったからな。だからあの時、あの人はチンクたちを保護監察・再教育処分にすることにあっさり同意したんやね。おかしいと思ったわ」

 

 はやては『してやられた』と言う表情になった。

 旧ナンバーズのうち、管理局の取り調べ、司法取引に協力的だったチンク、セイン、ディエチ、ノーヴェ、ウェンディ、オットー、ディードの七人については、ロールスロイスは司法取引を経ても一~五年の有期懲役刑を求刑するつもりと思われていた。

 特に取り調べの結果、ゼスト隊殲滅作戦に従事したチンクは他の六人の姉妹たちの中でも厳しく、下手をしたら、取り調べに非協力的だったウーノたちと同じ処分を受けてもおかしくは無かった。

 そして、もしチンクがウーノらと共に刑務所に服役したら、きっと今頃は謎の病死として片付けられていた事だろう。

 しかし、本局サイドからの“要請”で海上施設での再教育というかなり寛大な処分で落ち着いた。

 強く反発すると思われたロールスロイスがあっさり賛成したので、本局は拍子抜けしたのだが、まさかここでオーリス・ゲイズの復職を交換条件にしてくるとは予想していなかった。

 

「恐らく、地上本部は各管理世界の政府や本局に質量兵器限定解禁法案を提出するつもりなんやろう。オーリスさんの復職はそのための布石やな」

 

 はやての見立てはほぼ的中していた。

 

「そんなっ!?管理局はミッドや管理世界での質量兵器の使用を認めるって言うの!?」

 

 なのはは、ミッドでの管理局員による質量兵器の使用にはやはり反対の様子。

 

「‥‥なのはちゃん。残念やけど、管理局はもう形振り構っていられるほど余裕が無くなっているんや‥‥」

 

 はやては深いため息をつきながらそう呟いた。

 

「‥‥」

 

 なのはははやての様子を見て、もはや管理局やミッドの改革はどう転んでも止められないと思っていた。

 

 それから数日後、太陽系最外縁での情報収集任務を終えたクラウディアが本局へと帰還した。

 そして、帰還したクロノからは、驚愕する事実が報告された。

 

“第二の97管理外世界の太陽系は暗黒星団帝国軍に占拠されている“

 

“暗黒星団帝国の中間基地が地球艦隊に襲われ、潰滅した模様”

 

 この報せは本局を震撼させた。

 特にあの世界に義妹がいるクロノにとっては気が気でないだろう。

 そんな中、クロノやレティたちを絶句させる議題が出た。

 左遷を免れていた“海”の拡張派から、

 

“太陽系に艦隊を派遣し、放棄された地球の艦船を接収してはどうか”

 

 という提案がなされたのだ。

 その意見に対し、拡張派からは次々と賛同の声が上がった。

 たとえ友好国であろうと、敗戦国の艦船を接収することは多くの管理外世界では常識のことで、地球連邦とほぼ同じ歴史を歩んできたと思われる第97管理外世界でもそうだ。

 故にルール違反ではない。

 それにこれが成功すれば、管理局の造艦能力は飛躍的に進歩するのだが‥‥

 

「そもそも、管理局の艦船で暗黒星団帝国に占領されている今の太陽系内に入れるのか?君たちは先のボラー連邦との大敗から何も学んでいないのか!?」

 

「仮に艦船を持って来れても、建造や運用のノウハウもないままで、どうやって戦力化できるのか!?使いこなせない艦等、ただのお荷物に過ぎないではないか!!」

 

 といった反対意見が出て、激しい議論になった。

 ボラー連邦の武力制裁失敗後、未だに艦船、人員問題は解決しておらず、日に日に悪化しているとも言ってよかった。

 “陸”や“空”からの出向組はいずれ原隊に帰さなければいけないし、“海”への転籍を希望する者は激減していた。

 むしろ、“陸”への転籍を希望する者の方が多いのだが、曹・士の下士官、兵士クラスはともかく、尉官以上の士官は相変わらず断られるケースが多いのだ。

 また、“海”への新規入局者も減少していた。

 現有の次元航行艦船ではあまりに脆弱過ぎるからで、またボラー連邦や暗黒星団帝国のような獰猛な勢力と遭遇した場合、次元空間に転移するしか対処法がなく、万一、管理世界に侵攻された場合、陥落する可能性が高いのだ。

 特に二十歳以下の年少層の入局が激減したのは、保護者の意向が大きかろう。

 本局が着目していた高ランク魔導師の雛鳥や卵たちも入局を延期したり、出身世界の地上本部に入局したりで、“海”のみならず“空”への入局者も減少していた。

 今回の事件に関して“陸”としてはありがたい事なのだが、

 

「まさか“海”の不手際がこちらにまで響くとは‥‥」

 

“空”に関しては完全に巻き添えであった。

 ボラー連邦の武力制裁に派遣した空戦魔導師は全員が還らず、再建には年単位の時間がかかるのに加えての入局者減で、空戦特性がある者が“陸”に流れ、ヘッドハンティングも思うに任せなくなっている。

 こういう情勢の中、各管理世界駐留の航空武装隊は自ずと地元地上本部との連携を模索し、“海”と距離をとり始めた。

 中心であるミッドチルダでは、地上本部長のロールスロイスと防空総監に就任したルーデル中将が士官学校からの友人同士という事もあり、前任者同士がいがみ合って頓挫していた“空”“陸”の連携を再び進める動きを見せていた。

 “海”サイドは当然不愉快さを隠せなかったが、現在の窮状の主因が自分たちにあることを知っていたため、文句をつけることができなかった。

 

 白熱する会議場をクロノからの続報がこの議論を収めた。

 ヤマトと一部の地球艦隊が暗黒星団帝国軍の警戒網を突破して太陽系を脱出。

 太陽系を占領している暗黒星団帝国の主力は現在追跡中。

 

“ならば、主力艦隊が居ない今こそ、太陽系へ行き、艦を接収しようではないか”

 

“艦隊を派遣し、我々が防衛軍に代わり地球を解放すれば地球はすんなりと管理世界入りをするのではないか?”

 

 等と、意見が出たが、確かに今は太陽系に暗黒星団帝国の主力艦隊は居ないが、あくまで主力艦隊が居ないだけで、現在も太陽系内には暗黒星団帝国の艦艇は存在し、太陽系内を警戒中である。

 事実、調査中のクラウディアは幾度も敵艦と遭遇し、撃沈されそうになった。

 それに管理局が現存する次元航行艦全てを向かわせても能力はどうみても暗黒星団帝国の軍艦の方が上だろう。

 現に数で勝って居た筈の第37探査部隊は数で劣る暗黒星団帝国の艦艇に拿捕されて悪魔の実験の餌食となった前例が有る。

 それに暗黒星団帝国は奇襲攻撃とは言え、あの地球を占領下においているのだから‥‥

 それらの意見を聞き、やはり太陽系への出撃は見送るべきだと穏健派は主張した。

 更にクロノの報告は続き、

 

“防衛軍司令長官は地下に潜伏。占領軍に対するレジスタンス活動を展開中”

 

 と、地球連邦・地球防衛軍がまだ降伏していないと連絡してきた。

 事態ここに至り、地球艦船の接収は延期された。

 三提督は初めから難色を示していたのに加え、レティら穏健派から、

 

「接収を強行し、暗黒星団帝国に見つかった場合、地球防衛軍からも見捨てられるだけでなく、管理局は盗賊と同一視され、今後はコンタクトを取るにも難儀になる」

 

「かの世界には他人の苦難に乗じる事を『火事場泥棒』といい、永く軽蔑の対象になる」

 

「地球艦隊の艦一隻を接収するのに一体何隻の次元航行艦を生贄にするつもりだ?」

 

 等との意見が出され、ハイリスク・ノーリターンでしかないとの結論が出たのだ。

 更に、追い討ちをかける意見がリンディから出た。

 

「地球防衛軍にはノア、テリオスのデータがあります。地球が暗黒星団帝国に屈すれば、どういう事態になるでしょう?」

 

 これには全員が蒼白になり絶句した。

 あの地球を占領した技術力と軍事力を有する星間国家なのだ。

 もし、彼らが次のターゲットにミッドや管理世界を選択すれば、防衛軍以下の性能しか有さない管理局の艦船では歯が立たず、ミッドもあっという間に占領されてしまう。

 

「そうだ、そもそも地球連邦がしっかりしていないからこういう事になるんだ!」

 

 自分たちの事を棚に上げて地球連邦政府を非難する高官も居た。

 

「そんな戯事を言っている場合か!地球連邦と地球防衛軍には、何が何でも勝ってもらわなければいずれ我々も地球連邦と同じ運命を辿らされるんだぞ!」

 

 管理局にとって望ましい結果は、ヤマトと地球艦隊が暗黒星団帝国に大打撃を与え、地球占領軍を追い出す事だ。

 

「我々がもし関与するならば、地球防衛軍を支援することしかありません。それに、地球防衛軍にもエースやストライカーは存在します。今は彼らを信じるしかないと思うのですが、どうでしょう?」

 

 更にリンディは幾らか声を低めてダメを押す。

 少なくとも、地球が降参していない今の時点で防衛軍の艦船の接収など、失う物が多く得る物余りに少ない無謀な賭けでしかない。

 今は黙って情勢を見極めろ。

 リンディはそう言いたかったのだ。

 

 

本局の会議室でクラウディアからの報告で会議場が沸いている最中、ミッドチルダの北西部にある森林保護区では‥‥

 

 特別救助隊に籍を置くスバル・ナカジマ一等防災士は、端境期で閑散とした湖畔にある公営キャンプ場を訪れた。

 ここは湖畔に自動車を乗り入ることを禁止しているため、静かなキャンプを楽しみたいベテランに好まれるのだが、スバルもここを訪れるのはコレが二回目だった。

 一度目はまだスバルが幼かった頃‥‥

 母親も姉も生きていた頃だった。

 楽しい思い出と同時にスバルには今は亡き、母と姉を思い出させる悲しい場所であるが、スバルは心を落ち着け、自分を見直す為、敢えてここに来たのだ。

 ここに来れば、母と姉が自分に何かを語り掛けてくれそうな気がしたのだ。

 

 スバルはまず、バックパックや、先に送り込んであった寸胴から荷物を取り出し、キャンプスペースを作る。

 寸胴は明らかに業務用の大型だが、彼女の体力維持にはこの位でなければならないのだ。

 

「ふぅ‥‥」

 

 キャンプペースの設営を終えたスバルは、早速夕食の支度にかかっていた。

 湖畔の日暮れは早く、明るい内に支度しなければならないのだが、スバルは溜息をつかずにいられなかった。

 

 ここ最近は、精神的にきつい出動が多かった。

 特に第七海上支部での救助活動任務とボラー連邦軍に撃破されたザンクト・ヒルデ魔法学院のチャーター船、コスパ・コンコルド号での救助任務はあまりにもしんどかった。

 チャーター船、コスパ・コンコルド号の件はスバルも憤りが込み上げ、拳を震わせたほどだ。

 後年、戦うレスキューお姉さんと謳われたスバルやノーヴェでも、現場には今一歩及ばず、要救助者を死なせてしまう事が多々あった。

 物言わぬ骸と化した家族や親しき者に取り縋って泣き叫ぶ者たちを見た時は、己の無力と未熟を悔いて唇を噛み締め、心の中で泣いた。

 もっと速ければ、もっと強ければ、もっと力があれば、もっと技術があれば、より多くの命を助けられるのに――。

 いつまでも落ち込んではいられない。

 しかし、もう二度と還ってこない、愛する者への慟哭を忘れてはならない。

 自己満足に過ぎないかも知れないが、救えなかった人々への手向けは、この後、同じような悲劇を少しでも減らすこと。

 そう思って、リフレッシュとトレーニングを風光明媚なこの地で行うことにしたのだ。

 スバルの他の姉妹達も父(養父)、ゲンヤからそれぞれリフレッシュしてこいと言われ、今頃、姉妹同士、水入らずで暫しの休息を満喫して居る頃だろう。

 自分も与えられたこの短い休暇を精一杯楽しもうと思ったスバルであった。

 

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