星の海へ   作:ステルス兄貴

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九十九話 白い花

 

 敵の中間補給基地を撃破したヤマト まほろば 春藍 では今後の航路確認を行っていた。

 彼らの針路先には以前、大山がキャッチした『暗黒星雲』があった。

 観測の結果、この星雲の直径は約十万光年以上の大きさがある。

 約十万光年以上の大きさと言うと、太陽系がある銀河系とほぼ同じ大きさを誇る。

 これだけの大きな星雲が観測されなかったのは、全く発光しない星雲なので、地球からは、観測はおろか、その存在さえも確認できなかったのだ。

 この暗黒星雲の中には暗黒物質で出来た星が存在しているのかもしれない。

 そう言った意味ではこの星雲は暗黒星雲というよりも『暗黒銀河』と言った方が正しいかもしれない。

 しかもこの星雲はただ巨大な訳では無かった。

 中心部にはガス状の物質が渦を巻いて充満しており、反対側の光を全く通さない。

 故にその反対側に一体何があるのか分からないのだ。

 その為に星雲を突き抜けるにはかなりのリスク(危険)が伴うと予想された。

 そこで、連続ワープにて迂回する案も出たが、その案も難しいと言う結論に至った。

 その理由は、銀河間の様に何もない宙域ならば、十万光年と言う距離はあっという間に通過出来るが、この星雲には独特の特徴があったのだ。

 この星雲の回転速度は凄まじく、しかもその回転速度は、外縁部に行けば行くほど、速く激しくなっている。

 星雲の降着円盤から外れてもその渦は大きく広がっていると予想される。

 もし、ワープ中にこの渦の中に巻き込まれるような事態に陥れば、一巻の終わりになってしまう可能性もある。

 そこで、航路には暗黒星雲の中心部を通る事となった。

 どういう事だか、中心部は外縁と比べて回転が比較的に緩やかな為であった。

 しかし、ガスや暗黒物質等が高密度に充満しているので、長距離ワープが出来なくなる欠点もあったが、外縁部の渦に巻き込まれるよりはマシであった。

 

 やがて、一行は暗黒星雲・バルジ層へと到着した。

 まだ星雲内に入ってもいないのに、周囲が薄暗くなってきた。

 その薄暗さは暗黒物質の影響の為であった。

 操縦機能、レーダー機能は今の所問題ないが、この先進んで行くとどうなるか分からない。

 そんな中、先陣をきって航行していたヤマトに衝撃が走った。

 

 

宇宙戦艦 ヤマト 第一艦橋

 

「どうした!?」

 

「艦首右舷で爆発‥‥ロケットアンカー付近に損傷!!」

 

「原因はなんだ!?」

 

「わ、分かりません!!障害物反応も何もなかったんですが‥‥」

 

 原因不明の爆発。

 その原因の調査の為、艦隊は一時、行き足を止めた。

 このヤマトが受けた衝撃をミヨーズ司令率いる追撃隊が探知した。

 

 

ガリアデス 艦橋

 

「ミヨーズ様、ヤマトと思しき反応を捕えました!!」

 

「何‥‥どこだ?」

 

「暗黒星雲の界面近くです。どうも、友軍が散布した機雷に引っかかった模様です!!」

 

「ふん‥‥そうか‥‥」

 

「司令、グロータス准将より通信が入っております」

 

 ヤマトの位置を掴んだミヨーズの下に暗黒星団帝国浮遊要塞艦隊司令官のグロータス准将から通信が入る。

 

「繋げ」

 

 ガリアデスのメインモニターにはグロータスの姿が投影された。

 

「ミヨーズよ。ヤマト追撃の任、未だに成らずとは全くもってお前らしくないぞ」

 

 開始早々グロータスはミヨーズにいきなり皮肉を言って来る。

 

「はっ、しかし、ヤマトとその艦隊は予想を遥かに上回る強敵故。ご容赦いただきたい。グロータス閣下も強敵に対する私の執念をご存知の筈。今しばらくお待ちを」

 

 相手は自分よりも階級が上回る上官の為、ミヨーズは低い姿勢をとる。

 

「ふふふ‥‥お前の事をよく分かっているつもりだよ、ミヨーズ。私としても絶対に敵に回したくない男の一人だからな‥‥だが、中間基地も破壊され、聖総統閣下がご杞憂されておらしている。その為、私自らがこうして出る事になったのだ」

 

「では‥‥」

 

「うむ、貴官の艦隊は我々に合流してもらう。共にヤマトが沈む姿を眺めようではないか。幸運にもヤマトは我が軍の機雷原に突入すると言うミスを犯し位置を我々に教えてくれた。今私の配下の艦隊が機雷原に向かっている所だ」

 

「お言葉ですが閣下。機雷ごときで封じ込められる敵だとは思えませんが‥‥」

 

 ミヨーズは短い間ながらもヤマトと幾度も戦火を交え、グロータスの策が成功する可能性は低いと考えた。

 

「その時はその時だ。ヤマトがもし、無事に機雷原を突破することなら、貴官の知恵を借りる事になろう」

 

「かしこまりました」

 

 ミヨーズがそう言うとグロータスは通信をきった。

 

「司令、どうなされますか?」

 

 グロータスの話を聞き、幕僚の一人が今後の艦隊方針をミヨーズに訊ねる。

 

「ふん、何も変わらん。次の待ち伏せポイントまで移動を続けろ。敵は‥‥ヤマトは必ずくぐり抜けてくる」

 

 ミヨーズは艦隊の方針は変わらない事を告げると同時にヤマトはグロータスの策を破ってくると予想していた。

 

 その頃、ヤマトでは謎の爆発原因の調査でこの爆発原因が機雷である事が判明した。

 回収された機雷の残骸から機雷表面の装甲板は、レーダーで映らないステルス性に優れている事が判明した。

 しかも大きさは直径二十センチ程で目視できる大きさでもない。

 それ故、威力は大したことが無い。しかし、一個で大して威力が無い機雷でも無数あれば、その威力も増す。

 そんなものが周辺にばら撒かれているとなると、無暗に動けない。

 そこへ、敵艦隊の反応があった。

 絶好の攻撃時期に攻撃を仕掛けてこないバカはいない。

 予想通りの展開だ。

 しかも敵の主力は例の狙撃艦である。

 敵の戦法は機雷で動きを封じ、長距離からの狙撃でジワジワと攻撃して来るつもりだ。

 しかし、逆に言うと、機雷で此方の足を封じたと言うことは、あまり移動に長けた艦では無いということになる。

 機雷は脅威であるが、それを乗り切り上手く虚をついて敵に接近で切れば、勝機はつかめると言う事だ。

 

 ヤマト と まほろば はまず、戦艦よりも機動性に優れるコスモタイガーを発艦させた。

 発艦したコスモタイガー隊は、ECMポッドで敵のレーダー反応を鈍くし、空間照明弾やレーダー衛星を設置し、敵の索敵に全力を注いだ。

 艦隊は機雷に接触しながらも、敵へと向かって行く。

「死中に活を見出さねばこの包囲網は突破できない」と言う思いだった。 

 そして、一度突破した機雷原はちゃんとレーダーに登録し、どの宙域が機雷原なのかを記録しながら進んだ。

 あわよくば、敵を機雷原に追い込んで足を鈍くする事も可能かもしれないからだ。

そんな中、敵艦の中で一段と速度が違う艦が居た。

 同型の狙撃艦だが、新型の機関を搭載しているのだろう。

 おそらくこの艦が敵艦隊の旗艦だ。

 この艦を沈めれば、敵艦隊の指揮系統を混乱させられるかもしれない。

 しかし、ただでさえ、機雷の影響で行き足が鈍っているなか、高速で移動するあの狙撃艦を仕留めるには少々困難であった。

 敵を機雷原に追い込みたいが、恐らく敵はどの宙域に機雷をばら撒いたか把握して居る筈だ。

 

 

暗黒星団帝国 狙撃艦 旗艦 艦橋

 

「むぅ‥‥命知らずなのか‥‥あるいは気でも狂ったのか、機雷に怯まず突っ込んでくるとは‥‥仕方ない‥‥第一戦速まで加速!!敵艦との距離を取れ!!」

 

 追いかけられてきた狙撃艦旗艦は地球艦隊と距離を取ろうと一段加速を強めた。

 

 

宇宙戦艦 まほろば 艦橋

 

「敵旗艦加速!!」

 

「こっちを引き離すつもりか‥‥」

 

「追いつけないスピードじゃないんだが‥‥くそっ、やっぱり機雷が邪魔だ‥‥こんな機雷が無ければ、あんな奴らなんて‥‥」

 

 敵旗艦の加速は地球艦隊でも探知していた。

 通常の宇宙空間ならば、敵に追いつくことは可能なのだが、行く手を機雷が邪魔して戦速を上げる事が出来ない。

 その事実に航海科の乗員は悔しそうに顔を歪める。

 

「くそっ、敵を追えば反対側へ避けられる‥‥その繰り返しですよ!!」

 

「このままでは、機雷のダメージもバカになりませんよ‥‥」

 

 やはり小さい機雷でも接雷し続ければ、艦のダメージもバカにはならない。

 敵の動きを見て、地球艦隊は敵の旗艦を機雷原ではなく、この宙域に存在するアステロイドへと追い込む作戦に変更した。

 

 ヤマト まほろば のコスモタイガー隊は二手に分かれ、一隊はこのまま索敵行動、そしてもう一隊は敵をアステロイドへと追い込む行動へと移った。

 その作戦は見事成功し、敵艦は第一戦速のままアステロイドへと突っ込んだ為、前衛の艦艇がアステロイドに突っ込み爆沈、大破する艦がいた。

 

「くそっ、アステロイド帯か‥‥やむを得ん減速!!」

 

 狙撃艦隊はアステロイドと衝突を回避する為、速度を落した。

 それが、自分たちの首を絞め、地球艦隊側にとっては敵との距離を詰める大きな転機となった。

 

「主砲、最大射程にて、敵艦隊を捕捉!!」

 

「主砲撃て!!」

 

 ヤマト まほろば 春藍 ハルバード ファルシオンの主砲が火を吹き、敵艦を次々と沈めていく。

 

「誘い込まれたのは我々だと言うのか‥‥」

 

 ここに来て狙撃艦旗艦の艦長は自分が地球艦隊を機雷原に追い込む作戦が逆に自分たちがアステロイド帯へ追い込まれた事に気がつくが、気づくのが遅かった。

 僚艦は次々と沈められて行き、遂に自艦にも地球艦隊のショックカノンが迫って来た。

 

「直撃弾、本艦にも接近!!」

 

「か、回避しろ!!」

 

「ダメです間に合いません!!」

 

「そんな‥‥馬鹿な‥‥」

 

 グロータス麾下の狙撃艦隊はここで壊滅し、残存艦は撤退し地球艦隊はミヨーズの予見通り機雷原を突破する事に成功した。

 

「これで全部か?」

 

「はい、周囲に敵の反応はありません」

 

「何とかなったようですね」

 

「兎も角こんな宙域はさっさと脱出しましょう」

 

「同感だ。神経が擦り減っちまいますし、艦の損傷が増えるだけですからね」

 

「全くだ」

 

 地球艦隊は機雷原を突破した後、損傷具合を調査、修理しながら再び暗黒星団帝国本星へ向け、この暗黒銀河を進んで行った。

 

 

ガリアデス 艦橋

 

「グロータス閣下の艦隊より連絡、どうやら地球艦隊は機雷原を突破したもようです」

 

 地球艦隊機雷原突破の情報はミヨーズの下にも届いた。

 

「ふん、当然の事。それぐらいでなければ、このミヨーズの獲物は務まらんわ」

 

 機雷原の作戦前から突破される事を予見していたミヨーズは落ち着いていた。

 

「それから。准将閣下より何かのデータが届いておりますが、司令宛てに封印付きです」

 

 オペレーターはグロータスからミヨーズ宛に添付データが来た事も報告する。

 

「よし、こっちに転送しろ」

 

 オペレーターは添付データをミヨーズの端末に転送し、ミヨーズは早速その添付データの中身を見る。

 

「‥‥」

 

 添付データの中身を見たミヨーズは、

 

「目的地を変更する。暗黒星雲中心点へ針路を変えろ」

 

 と、当初の予定針路を変更する命令を下した。

 

「は?‥‥はい」

 

 操舵手は言われた通りの針路をセットし、舵をきった。

 

「グロータス准将は私を敵に回したくないと言っておられていたが、全くそれはこっちのセリフだ。あの方を敵には絶対にまわしたくないな‥‥まさか、こんな罠を考え出されるとは‥‥」

 

 添付データの中身を見たミヨーズはグロータスの手腕を褒めると同時に恐怖する。

 

「は?といいますと?」

 

 ミヨーズの独り言に反応した幕僚がその真意を訊ねる。

 

「向こうに行けば分かる」

 

 ミヨーズの言葉の意味を幕僚も‥‥そして、地球艦隊の乗員たちもいずれ知る事となった。

 

 

一方、その頃、暗黒星団帝国に占領されている地球では‥‥

 

メガロポリス東京

 

「‥‥」

 

 デザリアム帝国軍が占領軍政本部として接収した地球防衛司令部の一室で、占領軍総司令のカザンは渋面を隠さずにいた。

 自らの片腕として信頼していたミヨーズが艦隊を率いて地球軍とヤマトを追撃したにも関わらず、敵艦隊に追いつけないまま中間補給基地を急襲され、壊滅してしまった。

 ミヨーズはそのまま追撃を続けているのだが、その分太陽系内の戦力は少なくなってしまい、本国からの増援もすぐには望めない。

 いや、このままではヤマトを中心とする地球艦隊による本土攻撃が行われる可能性すら生じてきたのだ。とても増援どころではあるまい。

 また、地球各都市の敵軍残兵たちは地下都市等に潜み、時折散発的な奇襲をかけてきている。

 特に重核子爆弾付近では戦闘が頻発しており、兵士たちは気が休まらない。

 サイボーグの体でも頭部は生身であり、精神的にしんどくなっている。

 市民たちは、表向きは敵対行動こそとっていないが、裏で敵軍と繋がっている可能性は否定できない。

 しかし、本国からの命令で、今のところ市民に対しては原則として殺傷設定での鎮圧を禁じられているため、せいぜい身柄の拘束まで。

 特に脳移植のためのドナー‥‥健康な青少年層の肉体を傷つけるのは甚だ宜しくないとの判断だ。

 但し、壮老年者に対してはこの限りではなく、市民層であっても敵対行動をとる者は射殺可と、内々の通達もきている。

 

(ただでさえ厄介な事態なのに加えて‥‥)

 

 渋面のカザンの耳元でプゥ~ンと耳障りな羽音が聴こえてくる。

 

(これか‥‥)

 

 パンっと言う音と共にカザンは何かを叩いた。

 彼の手からは一匹の薮蚊の死骸がポロッと床に落ちていく。

 カザンの新たな悩みの種は、東京を始めとする現地部隊からの、現地に棲息する有害生物の被害だ。

 熱帯地方に駐留している部隊では、風土病であるマラリアや黄熱病に感染・発症する兵士が続出していた。

 地球人たちはそれらの治療薬をあらかた持ち去ってしまった上に、ようやく確保した薬はデザリアム人に適合せず、副作用を起こして発狂したり死亡する将兵が出ていた。

 それ以外の地域でも、地下都市等に棲息していたらしいネズミや蚊、蠅、ゴキブリ等が出没し、咬まれる、電線やケーブルを切断される、食料を食い荒らされる、羽音が耳障りで休めない等の訴えが寄せられていた。

 地球人の捕虜から事情を聞いた者によると、

 その捕虜は、

 

『とうに絶滅させるのは諦めて、適度に駆除しながら共存している』

 

 と、述べたらしい。

 さらに恐ろしい事態は、インフルエンザというこの星特有の伝染病だ。

 南半球では既に終息しつつあるが、人口の大半が住まう北半球ではあと数ヶ月で流行が始まる。

 地球人にはワクチンという予防薬や治療薬もあるが、それがデザリアム人に合うかはわからないし、これらもまたどさくさに紛れて地球人が持ち去ってしまっていた。

 

「くそっ、こうも厄介な星だったとは‥‥だから辺境の田舎惑星は好かんのだ」

 

 ガミラス、ガトランティスを退け、そしてイスカンダルにて我が軍で名将と謳われたメルダースとデーダーを討ち取った実力は本物だった。

 我々は、とんでもない星に手を出してしまったのではないだろうか?

 しばし、カザンは暗然たる思いに沈んだ。

 

 

中嶋家

 

 デザリアム軍を見舞った一連の“虫騒動”の張本人たる紅葉は、魔力切れのため活動休止状態になっていた。

 とはいえ、リンカーコアの有無等、時空管理局の魔導師の大半とは魔力の精製や貯蔵機能が根本的に異なっているため、魔力切れ状態でも日常生活や運動には支障をきたさない。

 ただ、こちらの地球は魔力素が少ないため再チャージに時間がかかる上、愛機ルシフェリオンは長距離空間転移で世界中各地に出張してはその地の生活害虫や害獣を集めてデザリアム軍基地等に誘導するような事をしているため、魔力消費が激しいのだ。

 それでも一晩経てば再チャージできるのは育ち盛り故なのだろう。

 淹れたばかりのキャラメルミルクを口にしながら、紅葉はルシフェリオンの話を聞いていたが、その表情は冴えない。

 昨夜出向いたフランスのパリでは市民の暴動に対してデザリアム軍が発砲し、二十名以上の市民が射殺されたというのだ。

 

「やはりフランスだからなのかな‥‥」

 

 その歴史上、自由は戦って勝ち取れというフランス人ならではと言えなくもないのだが、やはり気が重くなる。

 同様の市民暴動は欧米を中心に拡大を見せており、わかっているだけでも200名以上の犠牲者が出ている。

 日本では、武力闘争を行っているのは地下に潜伏した藤堂以下の地球防衛軍兵士を始めとするパルチザンメンバーだが、市民たちもまた、“非暴力不服従”で占領軍に相対していた。

 それは紅葉とルシフェリオンもそうだった。

 

「ふむ、これはこれで、案外乙なものだな」

 

 悦に入った風に話すのは紅葉の愛機であるルシフェリオン。

 今日の彼は普段の紅茶+ウィスキー風呂ではなく、甘酒の入ったカップの中に入っている。

 白濁した甘酒の中で紫色の光が点滅している。

 

「はぁ~‥‥」

 

 紅葉は首を横に振る。

 護り石の奇行は、前の主だった母の生前からだが、最近とみにエスカレートしており、これには嘆息せずにはいられなかった。

 

(リニスさんのバルニフィカスはもう手遅れかもしれないけど、バルディッシュとクロスミラージュ、クリスが真似してなきゃいいけど‥‥)

 

 だが、不幸にも紅葉の懸念は後に的中する事となる。

 

 

地球防衛軍 ヤマト改修ドック パルチザン司令本部

 

「‥‥」

 

 急遽誂えられた司令部の大テーブルを前に、藤堂は腕組みをして端然と座していた。

 司令部には、日本や各州でレジスタンス活動を行っている軍人たちからの戦況が入ってきていた。

 少し離れた場所では、源三郎が部下から物資の備蓄状況の報告を受けている。

 

そこへ、

 

「長官、ヤマトから報告が入りました!」

 

 通信文を手にした通信士官が小走りに入って来た。

 

「読んでくれ」

 

「はっ、我が艦隊は、敵中間補給基地並びに輸送船団を発見・攻撃し、撃滅に成功」

 

 おおっ、とどよめきの声が上がり、ガッツポーズをする者もいたが、デザリアム軍の監視を警戒して、歓声を上げる者はいなかった。

 藤堂は大きく頷くと立ち上がる。

 

「諸君、これで敵の危機感は一層強くなり、監視も厳しくなるだろうが、一致協力して重核子爆弾を無力化し、敵を追い出すまで力を尽くそう!」

 

 戦士たちは敬礼で応えた。

 

 

それから数日後‥‥

 

 時刻は午後二十三時の真夜中。

 パルチザン本部の非常回線端末に一通のメールが受信される。

 

「非常回線端末に入電!!例の『白い花』からです!!」

 

「よし、さっそくデータを解凍してくれ。パスワードは‥‥」

 

「『エイユウノオカ』でしょう?もう何度もやっているので、分かっていますよ」

 

 そう言ってオペレーターは受信したメールの解凍作業にかかる。

 

「しかし、毎度ながら助かるな‥‥実に貴重な情報ばかりを提供してくれる‥‥」

 

「うむ、この情報のおかげで、どれだけの同胞の命が救われた事か‥‥」

 

 古野間と西郷はこの謎の情報者、『白い花』に感謝の言葉を述べる。

 

「解凍完了、そちらに転送します」

 

 そうしている間にメールの解消作業が終わり、藤堂のノートパソコンにメールの内容が転送される。

 パルチザン幹部はその送られて来たメールの内容を見て息を飲む。

 

「ちょ、長官‥‥これは‥‥」

 

「うむ、敵はどうやら、捕虜として収容されている重要人物を軌道上の艦隊へ移送しようとしている様だな‥‥その中には連邦政府大統領閣下も含まれているか‥‥」

 

「どうします?軌道上に移されたら、俺たちじゃ手も足も出ませんぜ」

 

 敵がどういう理由で艦隊へ地球連邦政府要人の捕虜を移すのだろうか?

 パルチザンによる奪還を恐れているのか?

 確かに古野間の言う通り、宇宙艦船を持たないパルチザンにとって軌道上まで移されては奪還等不可能だ。

 パルチザンの手の届かない安全な軌道上へと移し、そこでパルチザンに対し、降伏勧告でもすると言うのだろうか?

 しかし、移送理由はメールの末文にちゃんと記されていた。

 

「まて、移送の理由は、建造物の老朽化によって警備が完全に行えない為と書いてある。何とか今の内に手を打てば救出できるかもしれんな‥‥」

 

「そう決まりゃ善は急げだ。長官、早速準備を行います」

 

「だが、敵も移送前は警戒しているだろう‥‥危険な任務だぞ」

 

 地球政府の要人を移送するというのだから、敵もパルチザンが奪還をするモノだと思い、警備を厳重にしていると予想される。

 しかも、相手は要人を人質にする可能性もある。

 この奪還任務はかなりの危険を伴う。

 

「はは、危険な場所に行くのが空間騎兵隊の仕事ですよ。それに建物内には多くは連れてきけません。少数で上手く侵入してみます」

 

「そうか‥‥では、頼むぞ」

 

「了解。北野、空間騎兵隊の残りに招集命令を!!あと、使えそうな奴を十名程集めてくれ」

 

「わかりました」

 

 こうして、政府要人奪還作戦が発動された。

 その作戦発動前、

 

「北野君」

 

 藤堂が北野を呼び止める。

 

「はい、何でしょう?

 

「匿名情報提供者、例の『白い花』だが‥‥君は直に会ったのだったね?」

 

 と、『白い花』の正体について訊ねる。

 

「はい‥‥」

 

「もしかして、我々が知っている人物なのではないかね?それにデータのパスワードが『エイユウノオカ』‥‥もしかして、この『白い花』という人物は‥‥」

 

 藤堂にはこの『白い花』の正体が誰なのか察しがついた様だ。

 

「すみません、長官‥‥名前は誰にも教えられない約束をしているんです‥‥我々も決死の覚悟で戦っています‥‥でも、彼女も同じように‥‥いや、それ以上に必死に戦ってくれているんです‥‥約束を破る訳にはいきません」

 

「そうか‥‥」

 

「では、失礼します」

 

 北野は『白い花』との約束を忠実に守ったのだが、根が正直過ぎたのか、うっかり会話の中で『彼女』と言う単語を使用してしまった。

 これにより、『白い花』が女性である事を教えてしまい、藤堂に『白い花』の正体に確信を持たせた。

 

(北野君は『彼女』と言った‥‥そうか‥‥生きて‥‥生きていてくれたんだな‥‥)

 

 しかし、藤堂も北野、そして『白い花』の意を汲んでそれ以上、『白い花』の正体を訊ねようとはしなかった。

 

 深夜の闇に紛れて古野間率いる救出部隊は捕虜収容施設の近くまで迫り、最後のミーティングを行い、作戦を決行した。

 施設には古野間、北野、ティアナの三人が潜入し、残りの大半が外で陽動攻撃を行った。

 

「すまんな、嬢ちゃん。初陣がこんな危険な任務になっちまって‥‥」

 

「い、いえ、大丈夫です」

 

 大丈夫と言うがティアナの声は少し震えていた。

 古野間、北野と同じ班と言う事で今回、ティアナはこの任務に参加する事になった。

 勿論、強制ではなく、作戦参加の志願に当たって、ティアナは自ら作戦に志願したのだ。

 それでも、緊張・不安はある。

 この日までティアナは古野間や北野を相手に訓練もして来た。

 ヤマトで手渡された訓練用のコスモガンではなく、人を殺せる正規のコスモガンを手にした時も思わず身震いをした。

 でも、これまでの訓練はこういう時の為なのだと自分に言い聞かせた。

 それにもし、自分がここで死ぬようならば所詮、自分の実力はその程度だったと言う訳だ。

 

 今回、室内への潜入と言う事で、古野間たちは例の戦闘スーツは着ていない。

 あの戦闘スーツは確かに強力なのだが、弱点もある。

 その一つは空を飛べない事、

 もう一つはその大きさゆえ、狭い場所には適さない。

 室内における殲滅戦ならば、実戦投入は可能であるが、室内における潜入には不向きだった。

 その為、屋外にて陽動をする部隊へ優先的に戦闘スーツは貸し出された。

 そして、政府要人が居るとされる収容施設に入った古野間たちは妙な違和感を覚えた。

 施設内の警備が余りにも手薄なのだ。

 既に要人は移送されてしまったのだろうか?

 しかし、メールを受信してこの短時間に大勢いる政府要人を軌道上の艦隊に移すのは不可能だ。

 施設に来る前に先発した偵察隊も施設からは何の動きが無いと報告も受けていた。

 だが、独房区画に入った古野間たちの目には誰も居ない‥‥無人の独房があった。

 

「そんなっ!?」

 

「誰も居ない‥‥」

 

「馬鹿なっ!?」

 

(しまった!!コイツは罠だ!!)

 

 古野間は直ぐに陽動部隊に撤退を促す。

 

そこへ、

 

「無駄な抵抗は止めたまえ」

 

 多数の兵士を連れたアルフォンが現れた。

 

「敵っ!?」

 

「優秀な君たちの事だ‥‥戦力差が歴然なのはわかるだろう‥‥投降したまえ‥‥君たちにはパルチザン本部の事を教えてもらわねばならない。ここで殺したくはない」

 

「そいつはどうも‥‥お優しい事で!!」

 

 アルフォンは古野間たちに投降を促すが、

 古野間は、アルフォンたちの下にスタングレネードを投げる。

 すると眩い閃光が辺りを覆う。

 

「うわぁぁー!!」

 

「くそっ!!」

 

「逃がすかぁ!!」

 

 突然の閃光と爆音でパニックを起こした兵や古野間たちを逃がさんとする兵がライフルを乱射。

 

「止めろ!!撃つな!!」

 

 アルフォンが発砲を禁じ、閃光が晴れると、床には同士討ちで斃れた兵の姿があった。

 

「くっ、同士討ちなどしおって‥‥」

 

 アルフォンは同士討ちをした兵たちの姿を見て顔を歪める。

 

「少尉!!侵入者は、ダストシュートから地下へと逃げた模様です!!」

 

 開かれたダストシュートを指さしながら侵入者たちの行方を報告する兵士。

 

「地下か‥‥確か下水道に繋がっているが出入り口は既に固めている‥‥となると、出口は一つしかないか‥‥」

 

「では、直ちに出口を封鎖、敵を追い詰めます!!」

 

「よし、行け。発砲も許可する。ただし、絶対に殺すな。何としてでも生け捕りにしろ!!」

 

「はっ!!」

 

 兵士たちは急ぎ地下の出口へと向かった。

 一方、ダストシュートから難を逃れた古野間たちは、何とか怪我は無かったが、古野間は『白い花』は敵の内通者か敵そのものだと思ったが、北野がそれを否定した。

 ダイレクトに『白い花』の正体を教えたわけでは無いが、北野の断片的な『白い花』の人柄で古野間も『白い花』の正体が誰なのか察しがついた。

 『白い花』の疑いが晴れてホッとした北野。

 そして、古野間たちは敵が待ち構えている出口を目指した。

 敵は古野間たちを殺す事無く捕える様に命じられていた為、猛撃をする事が出来ず、一方、古野間たちは少数ながらも、遠慮無く敵兵を斃しながら出口を目指した。

 この日、ティアナは異星人とは言え、初めて人を殺した。

 銃で殺したので、その手には人を殺めたという感覚が感じられなかったが、目の前で自分が殺した敵兵を見て、コスモガンを持つ彼女の手は小さく震えていた。

 

「ハァ‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥」

 

「大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫です」

 

「まぁ、初めての実戦を経験したんだ‥無理もない。だが、来たからにはそれ相応の覚悟を持て」

 

「は、はい」

 

 やや過呼吸になりかけているティアナに北野は声をかけ、古野間はこの場に来たのだから腹を括れと言う。

 そしてティアナは二人の荷物にはならないように大丈夫と答える。

 

(納得した筈よ、ティアナ‥‥パルチザンに参加する時から人を殺すって‥‥今更、後悔なんてする暇なんて無いわよ‥‥)

 

 ティアナは自分に言い聞かせ、自分を奮い立たせた。

 

 そして、漸く出口へと続くエレベーターホールまで来たのだが、古野間たちがここを目指している事を知っている敵兵たちはホールを厳重に警備していた。

 

「出口へと出るにはあのエレベーターに乗らなければなりません」

 

「くそっ、ガッチリ固めてやがるな‥‥」

 

「このまま出て行けば、それこそ蜂の巣ですね」

 

 何か手は無いかと周囲を見渡す古野間たち。

 そんな中、北野の目に天井部に設置されたスプリンクラーが目に入る。

 

「スプリンクラー‥‥」

 

「ん?スプリンクラーがどうした?」

 

「イスカンダルからの波動技術到来以降、防衛軍や警察の武器は全て衝撃銃‥‥つまり、拳銃サイズであるけど、艦船の砲門と同じ原理のショックカノンです。対して、敵が使用しているのは高出力のレーザー銃‥‥」

 

「何がいいたいんだ?」

 

「敵は決定的なミスを犯しているんですよ。レーザー銃にはショックカノンにはない決定的な欠点があるんです!!ほら、訓練学校の最初に習ったでしょう」

 

「そんな昔の事‥‥いや‥‥まてよ‥‥」

 

「どんな違いがあるんですか?」

 

 古野間は訓練学校入りたての頃の記憶をさかのぼらせてレーザー銃とショックカノンの違いを思いだそうとして、思いだした。

 一方、ティアナはこの世界の訓練校なんて言ってないので、その違いが分からない。

 

「‥‥そうか、思い出しだぞ。いいか、嬢ちゃん。レーザー銃の場合、雨や霧等の天候によって威力が大きく減衰する場合がある」

 

「なるほど、それでスプリンクラーなんですね」

 

 北野や古野間の言う通り、レーザー銃には天候によって威力が大幅に弱くなるという理由から、防衛軍、警察のコスモガンはイスカンダルの技術到来以降、全てレーザー銃からショックカノンへと変更されていた。

 しかし、敵の兵士の銃はイスカンダルの技術到来前の防衛軍、警察が使用していたレーザー銃‥‥。

 よって、スプリンクラーを作動させてその水を雨代わりにすれば、敵のレーザー銃の威力を落す事が出来るかもしれない。

 しかし、問題が一つあった。

 

「だが、どうやってスプリンクラーを作動させるんだ?この区画の動力は殆ど切られている」

 

「発煙筒もありませんし‥‥」

 

「確かこの施設のコントロール室は地下に有った筈‥‥そこから集中管理システムが有った筈です。それに管理室なら、非常電源があり、動くはずです」

 

「なるほど」

 

「では、急ぎましょう。敵が包囲網を作る前に」

 

「はい」

 

「ああ」

 

 三人は来た道を戻り、地下(この階)にある管理室へと向かった。

 

 管理室に到着すると、北野がコンソールを操作する。

 予想通り、管理室は非常電源が働いており、システムは生きていた。

 

「どうだ?分かるか?」

 

「ちょっと、待って下さい‥‥あった‥‥これだ!!」

 

 北野はスプリンクラーの作動システムを見つけ、それを作動させる。

 すると、スプリンクラーが作動し、天井から水が降り注ぐ。

 

「冷たっ!!」

 

「うぉ冷てぇ!!おい、何もこの部屋までやるこたねぇだろう?」

 

 突然、水を被った古野間は北野に作動させる部屋はあのエレベーターホールだけで良かったのではと言う。

 

「どうせ濡れるんです。我慢してください」

 

 北野は遅かれ早かれ濡れるのだから気にするなと言う。

 そして、三人は降り注ぐスプリンクラーの水を浴びながら、エレベーターホールを目指した。

 

 一方、三人が向かっているエレベーターホールでは、突然作動したスプリンクラーにホールを警備していた兵たちは慌てた。

 

「うわぁっ!?」

 

「どうしてスプリンクラーが!?」

 

「システムの故障か!?」

 

 動揺している兵たちに対し、

 

「うろたえるな!!これは敵の策略かもしれんぞ!!敵襲に備え!!全方位を警戒せよ!!」

 

『は、はい!!』

 

 上等兵の一喝で、兵たちは冷静さを取り戻し、全方位に警戒を強めた。

 

 そして、この上等兵の言う通り、自分たちの敵‥古野間たちは直ぐそこまで来ていた。

 

「準備はいいか?」

 

「は、はい」

 

「いつでもいいですよ」

 

「じゃあ、派手にぶっ放すぜ!!」

 

 そう言って古野間はまず、挨拶がわりと言わんばかりに、ハンドガンタイプのグレネードランチャーを警備兵に向けて放った。

 北野とティアナも手榴弾を敵に向かって投擲する。

 

「ぐあぁぁぁ!!」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!」

 

「て、敵襲!!」

 

「くそっ!!撃て!!応戦だ!!ただし殺すな!!何としてでも生け捕りにしろ!!」

 

 敵兵たちは手持ちのレーザー銃で応戦するが、

 

「兵長殿!!変です!!銃の威力が弱まっています!!」

 

「そんなバカな!!朝の装具点検では、異常は無かった筈だぞ!!」

 

「ですが、現に銃の威力が弱くなっています!!」

 

 古野間たち三人を生け捕りにしなければならず、銃の威力を最小限に設定していた上、スプリンクラーが雨代わりとなって敵兵の銃の威力は更に落ちていた。

 一方、古野間たちの銃は天候に左右されないショックカノンで更に実弾武器である手榴弾とグレネードランチャーが人数の戦力差をカバーしていた。

 次第に押され始める敵兵たち。

 

そこに、

 

「暗黒星団帝国、地球占領軍少尉アルフォン、参る!!」

 

 アルフォンが兵を引き攣れて援軍として登場した。

 

 古野間は敵との混戦の最中、援軍としてこのホールに現れた将校らしき敵兵が自分を狙っているのを察知し、咄嗟に体をずらした。

 その直後、彼の右肩に痛みが走った。

 

「くっ‥‥」

 

(っ!?あの将校が使っている銃は、こいつらとは違うのか!?)

 

 援軍の将校が持っている銃の威力は今戦っている兵のレーザー銃と明らかに威力が違っていた。

 

(こいつは少し厄介だ。早い所、片付けた方が良いな)

 

 と、兵よりもこの将校が厄介だと判断し、早期にこの将校を始末する事にした。

 

 古野間とアルフォンの銃撃戦は、古野間に軍配が上がった。

 将校とは言え、アルフォンは情報技術将校で、対する古野間は戦闘のプロである空間騎兵隊員‥‥

 対人戦ではアルフォンに分が悪かった。

 それにティアナと北野からの援護もあった。

 

「アルフォン少尉!!危険です、ご退出を!!」

 

「すまん」

 

 アルフォンは、護衛の兵たちと共にエレベーターホールから撤退した。

 

 アルフォンがエレベーターホールから撤退してからすぐ後、ホールを警備していた兵たちは全滅した。

 

「終わった‥‥あれだけの人数を‥‥たった三人で‥‥信じられませんよ」

 

「ハァ‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥ほ、ほんとうに‥‥生きた心地がしませんでした‥‥」

 

「いや、お前さんのアイディアのおかげだぜ。向こうが失ったのは三十人‥‥連中にとっては微々たるものかもしれないが、勝利は勝利だ‥‥生き残ったモンの勝ちだ‥‥嬢ちゃんも初陣ながら、よくやった」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 古野間はエレベーターホールの床に斃れている敵兵たちの死体を見渡しながら呟く。

 とは言え、今回の作戦では空間騎兵隊員の生き残り‥陸戦のプロ、パルチザンにおける精鋭を多く連れて来た。

 例の戦闘スーツを大量投入したとはいえ、罠であった為、味方にも少なからずの被害が及んだ。

 しかし、例の戦闘スーツがなければ被害はもっと甚大なモノに及んでいただろう。

 そんな中、古野間は床に落ちている一丁のコスモガンを見つけた。

 

「これは、あの将校が落としていった銃‥‥」

 

 古野間はあの戦闘で一人だけ他の兵士とは異なる銃を使っていたあの将校の銃を見つけたのだ。

 彼はその銃を拾い上げると、

 

「‥‥こりゃあ、防衛軍の銃じゃねぇか」

 

 あの将校‥アルフォンが使用していたのは自分たち防衛軍軍人が使用しているコスモガン、「南部97式防衛軍正式拳銃」であった。

 何故あの将校は自軍の銃では無く、敵である筈の防衛軍の銃を持っていたのか?

 捕虜から鹵獲したのか?

 それとも戦場跡で拾ったのか?

 古野間が銃を調べてみると、

 

「っ!?」

 

 グリップの部分を見た時、彼の目が大きく見開かれた。

 その銃のグリップの部分には自分の名前が彫られていた。

 この銃は紛れも無く、あの日‥‥暗黒星団帝国が地球に対し、上陸奇襲攻撃して来た日、防衛軍司令部の地下で自分が第四有人機基地へ向かう雪に手渡した銃であった。

 

「どうしたんですか?」

 

 古野間の様子が変な事に気がついたティアナが彼に声をかける。

 

「いや‥‥何でも無い‥‥」

 

 口では何でも無いと言ったが、古野間の心の中では、今回の作戦の敗因が判明した。

 

(そうか‥‥あいつが‥‥あいつがこの茶番劇の黒幕か‥‥あの娘を利用したってわけだ‥‥アルフォン‥‥この名前、忘れねぇぜ!!)

 

 古野間の心の中で傷ついた戦友の仇、そして、雪を利用した張本人であるアルフォンの名前が深く刻み込まれた。

 

 その後、三人は敵の増援が来る前にエレベーターにて、施設を無事に脱出した。

 今回の被害報告を受けた藤堂と西郷は悲痛な面持ちであったが、『白い花』もそして生還した古野間たちを攻める事も無かった。

 そして、古野間は『白い花』の正体を藤堂たちに報告する事は無く、その時が来るまで黙っていた。

 




お知らせ

今回の話でストックが切れた事と来月に試験を控えている事から、連日投稿をしてきましたが、今後は不定期とさせていただきます。

申し訳ございません。
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