星の海へ   作:ステルス兄貴

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三話 冥王星海戦 敗走

 

 

古代と島が火星で不明船の調査を行っている間も冥王星宙域では、いまだに地球防衛軍とガミラス軍の戦闘が続いていた。

しかし、状況はガミラス軍の一歩的な虐殺と言った方が正しいくらい、戦況は地球防衛軍が俄然不利な状態が続き、好転の見込みは未だに望み薄だった。

 

「駆逐艦 敷波  不知火 島風 撃沈!!」

 

「巡洋艦 愛宕、爆沈!!同じく 伊吹 航行不能!!」

 

「駆逐艦 影島 沈黙!!」

 

味方が次々撃沈されていく中、良馬は、

 

「このまま一矢も報いぬままでは、死んでも死に切れないな‥‥もっとも、死ぬ気などサラサラないけどな‥‥通信長、冬月の高町艦長に打電!!“之ヨリ抜刀シ、敵ニ切リ込ミヲ行ウ”だ」

 

「了解」

 

良馬の命令を受けた通信長は早速、駆逐艦、冬月に打電する。

 

「航海長、頼むぞ!!」

 

「任せて下さい!!機関長!!エンジン全速で頼みます!!」

 

「お前さんらはどうしてもこの艦を壊したいようなじゃな?」

 

三笠機関長の井上 貫一郎が皮肉を込めつつ不敵に笑みを浮かべ、機器を操作する。

艦長も航海長も‥そして機関長も敵陣への切込みをやる気でいると、

 

「ちょっと待って下さい!!艦長!!それは命令違反なのでは?」

 

と、良馬に異議を唱える者がいた。

良馬が視線を向けると、そこにはメガネをかけ、肩にかかるくらいの黒髪をした女性士官がいた。

彼女の名前は、ターニャ・L・コジマ。

士官学校を卒業したばかりの新米士官で、この海戦には研修目的で乗り込んでいた。

研修目的の最中、命を落とす士官もいるので、彼女はある意味幸運だったのかもしれない。

新米士官と言っても士官であることにかわりなく、艦長への意見具申権もちゃんと存在する。

だからこそ、彼女は艦長の良馬に意見具申をしたのだ。

 

「コジマ君、確かに提督からは“攻撃せよ”との命令は受けたが、“その場に留まり、ないし、戦列から離れるな”と言う命令は受けていないが?」

 

「なっ!?それは詭弁です!!」

 

良馬の言葉に反論するターニャであったが、

 

「冬月より打電“抜刀準備完了”とのことです!!」

 

「よし、之より敵陣に切り込む!!総員衝撃に備えろ!!面舵一杯!!変針角度50になったら、機関全速!!」

 

切込みの準備が出来た事で、ターニャの意見は半ば無視される形となった。

 

「‥‥」

 

ここまで切込みの準備が進み、艦長を始めとし、乗員の殆どがガミラス艦隊への切り込みに賛成しつつある空気の中、新米士官の自分がこれ以上反対意見を述べても無駄だと思ったターニャが出来る事は不満そうな顔で良馬を見るだけしかなかった。

 

「コジマ君、立っていては危険だから、座席に座ってシートベルトをつけた方が良い」

 

良馬の行動にターニャはムッとした表情をしつつ、用意されていた座席に座り、シートベルトを着けて衝撃に備えた。

 

三笠 は えいゆう に発光信号にて“我、敵陣二突入ス”と打つと、冬月と共に戦列から離れ、敵陣へ切り込んだ。

案の定、えいゆう の沖田は直ぐに三笠と冬月に通信を入れた。

 

「月村、高町!!無茶はするな!!隊列に戻れ!!」

 

「提督!!近距離攻撃でないと敵に歯が立ちません!!敵の懐まで援護をお願いします!!」

 

良馬の要請を聞いた沖田は、

 

(まったく、無茶をする)

 

と、思いながらも沖田は搭載されていたミサイルによる援護を行った。

やはりと言うか、当然と言うか、ガミラスは自分たちの隊列に突っ込んでくる愚か者(三笠)に対し、砲撃を集中させてきた。

だが、三笠はそれを紙一重で躱していく。

別に不思議なことではない。

船は横から見れば確かに大きいが、前に回りこんでみればわかるように正面は横と比べ、表面積が小さいため、被弾するリスクは大幅に軽減することができる。

更に、えいゆう によるミサイルの援護も功を奏した。

 

「敵の弾幕を突破した!!光球に倣って敵の懐へ飛び込め!!高町!!行くぞ!!」

 

「おう!!」

 

突如、三笠の後ろから冬月が飛び出してきた。

冬月は三笠の後ろにピッタリとついてきたのだ。

つまり、冬月は巡洋艦である三笠を囮にし、その死角に隠れ、敵に接近してきたのだ。

敵陣の真っただ中へ入った二隻はそれぞれ、左右に分かれ、敵を攪乱しつつ、攻撃を行った。

 

 

宇宙巡洋艦 三笠 艦橋

 

「飛び道具しか持たない連中の密集隊形など、一歩踏み込まれてしまえば脆いな‥‥目標、左舷前方のデストリア級宇宙重巡洋艦の艦橋部!!‥主砲撃て!!」

 

良馬の命令後、三笠の主砲がデストリア級宇宙重巡洋艦に向け放たれる。

 

デストリア級宇宙重巡洋艦は回避行動をとったが、密集隊形をとった中、慌てて回避したため、隣を航行していたケルカピア級宇宙高速巡洋艦に衝突し、両艦は大爆発を起こした。

 

「臆病者め!!当たってもご自慢の装甲で防げたのに。艦の装甲は分厚くても連中、心の装甲は薄いようだな!!」

 

爆発をしている敵艦を見て、良馬は口元をニヤリと緩める。

その頃、冬月も同様の行動を行い、デストリア級宇宙重巡洋艦を二隻衝突させ、之を撃沈した。

 

 

宇宙駆逐艦 冬月 艦橋

 

「ふん、慌てた自分の愚かさを呪え!!」

 

恭介は爆発した敵艦を見ながら、冷たく言い放った。

 

「敵、クリピテラ級宇宙駆逐艦二隻接近!!」

 

「ミサイル管全門開け!!この距離なら有効弾を与えられるぞ!!」

 

「敵射程内に細く捕捉!!」

 

「撃て!!」

 

冬月は装備されている全てのミサイル管からミサイルを発射した。

 

「敵艦の撃沈を確認!!」

 

「その調子だ!!続いて砲撃を――」

 

続けろ、と言おうとしたそのとき、強烈な振動が冬月を襲った。

立っていた恭介はバランスを崩すが、近くの手すりにつかまり転倒を防ぐ。

 

「損害報告!!各部、状況知らせ!!」

 

被弾したな、と即座に判断した恭介はマイクを手に取り、艦内一斉放送で状況を確認する。

 

「艦尾マストに被弾!!されど航行に支障なし!!」

 

軽い損害に恭介は顔には出さなかったが内心で安堵した。

 

三笠とて、負けておらず、着実に敵を攻撃し、沈めにかかっていた。

 

 

宇宙巡洋艦 三笠 艦橋

 

「距離8500、速度差+2‥‥軌道に乗った!!」

 

「ミサイル撃て!!」

 

三笠から放たれたミサイルは三笠の全方を航行していたケルカピア級宇宙高速巡洋艦を追尾し、やがて着弾すると、敵艦は爆発した。

地球防衛軍の光線はガミラスには効果がないがミサイルなどの実弾に関しては効果がある。

しかし、その実弾は射程距離が短いので、こうして近距離での戦闘をしなければならない。

 

「ミサイルの着弾を確認!!敵艦、撃沈しました!!」

 

「「「「やったー!!」」」」

 

やられっぱなしの状態から敵を撃沈したことに艦橋では、思わず、喝采が出た。

斬り込みに反対し、先程まで仏頂面だったタ―ニャも口元を緩めている。

更に両艦が動き回ることで、敵に混乱をもたらせた。

ガミラス側としては当然迎撃してきたのだが、密集した艦隊の中を三笠と冬月は動き回ったため、ガミラス艦の中には間違って友軍の艦艇を誤射してしまう艦もいた。

 

「駆逐艦 冬月 より、入電」

 

「繋げ」

 

「月村、上手く切り込めたがどうやら此処までのようだ」

 

「ああ、敵さん早くも陣形を整えようとしている。相変わらず動きが素早い‥‥長居は無用だ。戦列に戻ろう」

 

「そうした方が無難だな」

 

「航海長、転舵反転120度!!敵さんにありったけのジャミング閃光弾をプレゼントして離脱だ!!」

 

「了解!!」

 

三笠と冬月はジャミング用の閃光弾を敵に向け発射し、敵艦隊を再度混乱させた後すぐに反転し、味方艦隊に戻ろうとした。

その時だった‥‥

 

「二時方向!!敵艦一隻、えいゆう に急速接近!!速い!!」

 

オペレーターからの報告にあわててレーダーモニターを見ると、確かに えいゆう の上方から敵駆逐艦が一隻接近している。

これはまずい、と良馬は攻撃命令を下す。

しかし、

 

「っ!?ミサイルを!!」

 

「ダメです!!今、撃てば えいゆう にも当たってしまいます!!」

 

そう、三笠のこの位置からでは敵にも当たるかもしれないが、 えいゆう にも当ててしまう危険があった。

すると、 えいゆう に接近する敵艦の後ろから味方の駆逐艦一隻が急接近する。

その直後、モニターから敵艦の反応が消える。

 

「味方駆逐艦が敵艦を撃破しました!!」

 

「誰の艦だ?」

 

「第十七号駆逐艦 雪風 です!!」

 

「古代先輩か‥流石だ‥‥」

 

「スペースイーグルの名は伊達じゃないって事ッスね」

 

守の見事な操艦運動と雷撃に感心する良馬と永倉だった。

そして三笠と冬月が えいゆう のいる宙域についたとき、三笠の乗員の目に旗艦である えいゆう の姿が映った。

 

「提督の艦が‥‥」

 

「ひどい損傷じゃな‥‥」

 

目の前に映る えいゆう は船体の彼方此方に穴を開け、そこから煙を出していた。

その光景を見た良馬と井上は提督の身を案じながら口を開いた。

 

その えいゆう の艦橋部では、もはや戦闘よりも艦の復旧作業で手一杯だった。

 

「第七、第八隔壁緊急閉鎖!!」

 

「主砲の動力はまだ回復しないのか!?」

 

「ターレットへの動力供給が出来ません!!」

 

復旧作業をすすめる中もガミラスの攻撃は容赦なく続けられ、ますます追い詰められていく。

そんな中、沖田が右腕を負傷した。

 

「て、提督」

 

沖田が負傷したのを見た兵の一人が心配そうに声をかける。

 

「わしは大丈夫だ」

 

「巡洋艦 氷雨 沈黙!!駆逐艦 初風、綾瀬 轟沈!!」

 

「我々の艦隊は後、何隻残っている?」

 

「ハッ、本艦以外に、巡洋艦 三笠 駆逐艦 雪風、冬月の計三隻であります!!」

 

残存艦の数を聞いた沖田は目を閉じ、悔しそうな声で呟く。

 

「そうか‥‥もうこれまでだな‥‥撤退だ」

 

「提督、逃げるんですか!?」

 

撤退に不満があるのか、兵の一人が声をあげる。

 

「このままでは自滅するだけだ。撤退する。進路反転180度!!残存艦に命令“我二続ケ”とな‥‥」

 

 

宇宙巡洋艦 三笠 艦橋

 

「艦長、 えいゆう より撤退信号です!!」

 

「撤退だって!?」

 

良馬が えいゆう に再び目をやると、確かに えいゆう からは“コレヨリ、撤退ス。全艦、我ニ続ケ”と発光信号を出していた。

えいゆう からの撤退信号を見て、良馬は悔しさのあまりグッと拳に力を入れ、歯を喰いしばった。

旗艦(えいゆう)からの撤退信号は地球側の敗北を意味していた。

地球の命運をかけた最後の戦いに敗れたのだ。

その悔しさは当然だった。

今回ガミラスに与えたダメージは冥王星に駐屯するガミラス軍にとってはかすり傷程度のものだろう。

冥王星のガミラス軍が増援を求めれば、今回負わせたかすり傷さえもあっさりと回復してしまう。

数多くの仲間を失いながらも相手(ガミラス)にはかすり傷しか負わせられなかった。

その事実もまた辛いが、撤退命令が出た以上、この場に留まり、艦に乗っている大勢の乗員の生命を危機にさらしてはならないので、悔しいがここは素直に撤退するしかなかった。

 

「くっ‥‥えいゆう へ返信。“了解”と送れ‥‥」

 

「わ、わかりました。 えいゆう へ返信。“了解”」

 

「変針、反転180度。えいゆう の左舷後方につけろ」

 

「了解。反転180度 えいゆう の左舷後方へつけます」

 

三笠は反転し撤退行動を始める えいゆう へと続く。

だが、良馬はここでふと違和感を抱いた。

 

(近くに雪風と冬月の気配がない)

 

雪風とは先程すれ違ったばかりだし、冬月は常に三笠の傍に居た。 

駆逐艦の速度を考慮に入れれば、今頃は既に反転して着いて来ている筈だが、どうもそれらしい気配が感じられないし、その艦影も見えない。

 

「観測員。雪風と冬月の現在地は?」

 

(何だろう‥何か胸騒ぎ‥何か嫌な予感がする‥‥昔、父さんや母さんが死んだ時と同じような感じだ‥‥)

 

良馬の両親はガミラスが地球へ侵攻してくる前に、宇宙船の事故で亡くなっていた。

その日、良馬の両親は、息子である良馬を忍に預け、結婚記念日を宇宙で祝うため、宇宙旅行へと出かけた。

玄関先で両親と別れた良馬は、幼いながらもこの時、もう二度と両親とは会えないような予感がしていた。

良馬は、必死に両親にしがみついて「行かないで」と、頼むが、両親や忍はこの時、両親から離れたく無い一心で我儘を言っているのだと思い、「すぐに帰ってくるから」と、説得され、両親を見送った。

遠ざかっていく両親の背中を良馬は、不安そうに‥‥そして寂しそうに見つめていた。

その日の夜、良馬の両親が乗った宇宙船が事故を起こしたと連絡が入り、同時に両親が亡くなったと言う連絡も受けた。

そして今、この時と同じ胸騒ぎを感じた良馬はオペレーターに聞いた。

すると、驚きの答えが返ってきた。

 

「雪風 冬月、共に反転せず、まっすぐ敵艦隊へ突っ込んでいきます!!」

 

「なにっ!?」

 

良馬はそのあまりにも驚愕な報告に目を見開く。

 

「えいゆう が 雪風と冬月に通信を送っています!!内容は此方でも傍受出来、聞き取れますが‥‥」

 

「すぐに繋げ!!」

 

「りょ、了解」

 

「古代、高町、何をしとるか!?早くわしに続け!!」

 

スピーカーからは沖田の大声が聞こえた。

 

「沖田さん、僕は逃げません!!」

 

「古代‥‥」

 

守の撤退拒否の言葉に沖田にしては珍しく狼狽する。

 

「沖田提督、自分も古代艦長と同意見です」

 

「ここで撤退なんかしたら、死んでいった戦友たちに顔向け出来ません!!」

 

「高町、一、お前もか‥‥いいか三人ともよく聞け。ここで全滅してしまったら地球を守る者が居なくなってしまう。明日の為に今日の屈辱に耐えるのだ。それが男だ」

 

「沖田さん!!男だったら戦って、戦って、戦い抜いて一つでも多くの敵をやっつけて死ぬべきなんじゃないんですか!?」

 

沖田の説得に反論する守。

恭介も一も守と同じ考えのようだ。

 

「古代、高町、一、我々は死ぬために戦っているのではない。生きるために戦っているのだ。戦場に巣食う死に魅入られるな。生きてさえいれば人類にはまだ希望はある!!」

 

「でしたら、この作戦は何ですか!?軟弱な装甲に火器と物量で圧倒的な戦力差のある敵に挑む作戦の決定は?地球が我々に『死ね』と言っているようではありませんか!!」

 

次に高町が沖田の言葉に反論する。

 

「古代、高町、一、分かってくれ」

 

沖田は守と恭介、一を説得しているが、両艦は撤退をしようとしない。

この通信を聞いていた良馬は、頭に血が上った。

それは今にも怒りのあまりに軍帽を脱ぎそれを床に叩き付けそうな勢いだった。

いや、我慢できずに軍帽を床に叩き付けた。

 

(あのバカども!!出撃前に約束したのに!!まさか、こんな圧倒的な戦力差の中で徹底抗戦をする気なのか!?)

 

「通信長!!」

 

「は、はい」

 

良馬の怒気を含む声に思わず声が裏返る通信長。

 

「冬月に通信を繋げ!!」

 

「い、いや、しかし‥‥」

 

「いいから繋げ!!責任は全て俺がとる!!あのバカを引きずってでも地球へ連れて帰ってやる!!」

 

この時、良馬の脳内に公私混同という言葉はなかった。

 

「おい、コラァ!!バカ町!!アホ田!!テメェら何、寝言をほざいていやがる!?」

 

「つ、月村!?」

 

「良馬っ、お前‥‥」

 

「月村、通信中に勝手に入って来るな!!」

 

通信を入れて開口一番に恭介に対し怒鳴ると、狼狽した恭介の声と沖田の叱咤の声が同時に聞こえた。

 

「提督、申し訳ありません。ですが、しばしの規律違反をお許しください。自分はどうしてもこのバカたちと話をつけ、地球に引きづっていかなければなりません」

 

「‥分かった‥よかろう」

 

「ありがとうございます提督。おい、バカ町!!アホ田!!貴様ら、先ほどの提督の言葉を聞いていなかったのか!?今日の屈辱に耐えて、明日への希望に繋ぐため、退くことも勇気だ!!それは決して恥ではない!!それは古代先輩、貴方も同じだ!!」

 

「それは分かっている!!」

 

普段は冷静な守から考えられないほどの怒号がスピーカーから聞こえてくる。

その気迫に、良馬と沖田の声が一時静まる。

しかし、怯んでいるわけにはいかず、すかさず良馬が理由を訊ねる。

 

「だったら何故!?」

 

「月村、雪風は生命維持装置と機関に異常が出始めた。地球へ帰れる見込みは無い。ならば、雪風は戦線に留まり、えいゆう と 三笠の撤退を援護する。真田の奴も頑張ってくれたようだが、どうやら限界があったらしい」

 

守はここに来て、雪風が完全に整備されていないことを‥‥いや、出来なかった事を悟った。

恐らく資材不足のためだろう。

あの時、真田が、何かを言いたそうな表情をしていたのは、この事だったのだ。

しかし、守は真田の事を攻めるような事を言わなかった。

雪風を完全に整備出来なかった事は真田が一番悔しかった事だろうと、理解していたからだ。

 

「‥‥バカ町、アホ田‥お前らの方はどうなんだ?お前らも同じ理由なのか?」

 

「ああ、さっきの切込みの時に受けた傷が、今になって悪化してな‥‥」

 

「残念だが、冬月も地球へ帰れそうにない」

 

切込みの際、冬月は被弾したが、その時は航行に支障がないと判断された被弾も、時間がたつにつれ、機関部に相当の被害を齎し、応急修理では直らない状態になっていた。

 

「それなら今すぐ、内火艇で脱出を‥いや、三笠で冬月を引っ張っていってやる。だから‥‥」

 

「無理だよ」

 

「っ!?」

 

良馬は何とか恭介達、冬月の乗員を助けようと、救助策を提案するが、恭介に否定された。

 

「内火艇の速度じゃあ、格好の的だし、収容するには三笠の速度を落とさなければならない。牽引するのも同様だ。三笠を一度止めて牽引準備をしなければならない。そんな事、ガミラスの連中が攻撃をしないで見ていてくれると思っているのか?」

 

「‥‥」

 

恭介の言う通り、撤退‥しかも艦を止めて牽引を行おうとしている敵艦をみすみす逃がす程相手もバカではないだろう。

好機と言わんばかりに沈めにかかって来る。

そうなれば当然、冬月は元より三笠も撃沈されるのは火を見るよりも明らかである。

 

「俺たち、冬月の乗員の為に無事に帰れる筈の三笠の乗員まで危険に晒すわけにはいかない」

 

一のその言葉に二人は、いや、えいゆう と三笠のクルー達は絶句するしかなかった。

確かに恭介の言う通り、冬月を牽引するにしてもガミラスがその牽引作業を黙って見ている筈が無い。

速度を落としたり、艦を止めれば、格好の的になる。

だからこそ、恭介達、冬月の乗員は覚悟を決めていた。

 

もう地球へ帰れないとわかっている。

 

もう自分達は助からないと分かっている。

 

だからこそあえて彼らは殿を務めるのだと‥‥

 

えいゆう と三笠に希望を‥未来を託そうとしているのだと‥‥

 

「沖田さん、月村‥いや、えいゆう と 三笠の皆さん、貴方達はこんな所で死んではいけない!!地球は、貴方達をまだまだ必要としているんです!!だから、絶対に生き延びてください!!」

 

「古代、それはお前も同じだ。今の地球にはお前や高町君、一のような若者の力がまだまだ必要なのだ」

 

沖田が再度説得を行うが、

 

「ありがとうございます提督。そのお言葉だけで十分です。お元気で、地球の事をどうかよろしくお願いします!!」

 

「高町!!妹は!?紅葉(くれは)ちゃんはどうする!?お前が死んだら‥‥」

 

高町の両親や親戚は守の両親同様、遊星爆弾で全員、亡くなっており、恭介の唯一の肉親は妹の紅葉だけなのだ。

ここで恭介が死んだらその妹――高町 紅葉――は独りになってしまう。

良馬はやはり諦めきれず、恭介を再度説得する。

 

「出撃前に言ったとおりだ。良馬、妹をよろしく頼む」

 

確かに出撃前に互いに遺書のやり取りで、恭介から妹の事を頼まれていた良馬であったが、本音を言うと良馬自身も今回の戦いで戦死する覚悟していた手前、まさか、こうして自分だけが撤退し、生き恥を晒すとは思ってもみなかったし、冬月も撤退出来るものだと思っていた。

 

「高町‥沖田‥‥」

 

「さらばだ‥親友(とも)よ‥‥」

 

「達者でな‥‥」

 

「っ!?‥さらばだ‥‥親友‥‥」

 

恭介と一の最後の言葉を聞き、良馬は拳にグッと力を入れ、親友たちに永遠の別れを告げた。

 

「死ぬなよ、古代、高町‥‥一‥‥」

 

そして沖田も遠ざかっていく雪風と冬月に最後の通信を入れた。

その言葉を最後に通信が途切れ、雪風と冬月は敵艦隊のほうへ直進していった。

 

 

宇宙駆逐艦 雪風 艦橋

 

「みんな‥‥どうか赦してくれ」

 

通信を切った後、守は艦長として雪風のクルー達を地球へ帰すことが出来ないことに対し、詫びを入れる。

しかし、雪風のクルー達は泣き叫ぶことも、守に罵倒を浴びせたり、掴みかかる者も居らず、皆笑みを浮かべている。

 

「さぁて、奴等に一発、蹴りを入れに行くとしますか」

 

副長の石津がキャップを被り直す。

 

「よし、全砲門、ミサイル発射管開け!!」

 

守が最後の戦闘命令を下す。

雪風と冬月はガミラス艦隊へと突っ込んで行く中、

 

「~♪~♪~」

 

一人の乗員が宇宙船乗りの歌『銀河航路』を歌いだすと、それにつられて他の乗員達も歌いだした。

 

 

宇宙駆逐艦 冬月 艦橋

 

「冬月の友よ‥‥これまで一緒に戦ってきたことを光栄に思う。しかし、赦してくれ、本艦にはもう地球に帰還する力は残されていない。ならば雪風と共に味方撤退の楯となろう。沖田提督や月村艦長、土方さんや山南さんが生きていれば人類の希望は残される」

 

守同様、恭介も艦内マイクにて、乗員に皆を地球へ帰すことが出来ないことに詫びを入れ、自分たちの行動が決して無駄死にでないことを告げる。

 

「我々は死に行くのではない。明日に命を繋ぐ為に行くのだ‥‥来世でまた会おう‥‥」

 

やがて雪風と冬月は敵の集中砲火を浴びながらも、互いにデストリア級宇宙重巡洋艦をそれぞれ至近距離で艦橋部を攻撃し、これを一隻ずつ撃沈した。

冬月は旗艦らしきガイデロール級航宙戦艦への体当たり攻撃を敢行するが、旗艦を守らんとするデストリア級宇宙重巡洋艦が割り込み、同艦に体当たりして爆沈した。

雪風はガミラス軍の攻撃を受け、爆沈はしなかったものの漆黒の宇宙の闇の彼方へと消えていった。

 

 

先程までスピーカーから聞こえていた銀河航路の歌声はこれから死に行くと言うのにまるで宴会で披露するかのように歌声には震えもなかった。

雪風の皆が歌いだすとそれを聴いて冬月の皆も同じように歌いだす。

そして銀河航路の歌声が切れたスピーカーからはザーと言うノイズがうるさく聞こえてくるだけだった。

良馬は歯を食いしばり、目の奥からあふれてきそうなものを必死に抑えた。

「自分は無力だ」と彼は思った。

だが、今となってはもうどうにもならない。

高町も沖田も‥‥冬月の乗組員も、守を始めとする雪風の乗員も、皆、自ら進んで殿役を買って出たのだ。

今更彼らの後を追いかけることは、彼らの思いを踏みにじることになり、折角無事に帰すことの出来る三笠の乗員の命を無駄に散らしてしまう。

良馬は床に落ちていた軍帽を拾い、目深に被りなおし、命令を下す。

 

「航海長、針路そのまま‥本艦は えいゆう と共に現戦闘宙域より離脱する‥‥」

 

「艦長‥‥」

 

「後方の警戒を厳となせ、敵が追撃してくるかもしれない」

 

「りょ、了解」

 

「冥王星宙域を出たら、各自、交代で休憩に入れ、皆、疲れただろうから‥‥」

 

クルー達が悲痛な表情で自分達の艦長を見つめる中、

 

「まずは、艦長がお休みください。ここは私にお任せ下さい」

 

副長の三木が良馬に先に休むように勧める。

 

「いや、しかし‥‥」

 

「副長の言う通りッスよ。そんな辛気臭い顔されたんじゃ、操艦がやり辛いッスから」

 

「航海長‥‥」

 

良馬が艦橋を見渡すと皆が、「どうぞ」と言う感じの目で見てくる。

 

「そうか‥それじゃあすまないが、先に休ませてもらう」

 

良馬は艦橋を後にして、自室へ向かうがその足取りは重かった。

艦長たる者、皆の前では涙を見せぬ。

 

 

宇宙巡洋艦 三笠 艦長室

 

艦長室へ入った良馬はおもむろに軍帽と手袋を脱ぎ捨てると洗面所へと向かい蛇口を捻る。

蛇口からは勢いよく水が流れ出ているのを見ている中、良馬の脳裏には高町や沖田と過ごした士官学校時代や休暇、沖田の結婚式、そして共に駆け抜けた戦場での思い出が蘇る。

水を掌に掬うと彼は乱暴にそして勢いよく水を顔にかけた。

それは涙を誤魔化しているのか?

それとも無力な自分を攻めているのか?

どちらかは分からないが、彼は四、五回ほど水で顔を濡らすと両膝を床につけた。

今まで多くの仲間が死で行くのをこの目で見てきたはずなのに‥‥

今回の戦いだってそうだった。

しかし、言い知れぬ深い悲しみが良馬を包んだ。

だが、彼は再び立ち上がらなくてはならない。

 

彼は軍人であり、まだ生きているのだから‥‥

 

生きて居る限り戦いはまだ続くのだから‥‥

 




三笠の機関長の井上貫一郎の容姿は松本零士先生原作 アニメ版コスモウォーリア零の登場キャラ 海原武士

見習い士官で乗艦していたターニャ・L・コジマは彼女が登場したタクティカルロアの容姿そのままをイメージしてください。
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