星の海へ   作:ステルス兄貴

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百九話 侵入者

 

 

 サーダが仕掛けた褐色矮星の罠を突破した地球艦隊。

 しかし、褐色矮星の爆発の影響による衝撃波を受け、ヤマトだけは地球艦隊の中で、一番大きな損害を受け、修理作業が滞っていた。

 ヤマトは艦を止めて、修理作業を行う。

 ヤマトの修理が終わるまで、まほろば、春藍は周辺の偵察を行うことになった。

 偵察に関しては山南が指揮を執ることになり、まほろば は一時、山南の指揮下につくことになった。

 その最中、良馬は守と今後の航海計画を練るために、ヤマトへと訪れるため、格納庫で宇宙服に着替え、ヘルメットを装着していた。

 航海計画の結果は後に偵察任務を終えた山南にも報告する予定となっている。

 ヤマトへと赴くために用意された単座のコスモゼロを前に良馬は念入りにチェックをした。

 その理由はユリーシャがどこかに潜んでいないかを確認するためだった。

 しかし、単座のコックピットに今のユリーシャの体型では隠れることはできない。

 

(どうやら、いないみたいだな)

 

 ユリーシャが居ないことを確認し、良馬はヤマトへと向かった。

 その頃、まほろば の医務室では、不満そうに頬を膨らませたユリーシャの姿があった。

 

「どうしたんですか?ユリーシャ」

 

「むぅ~私もリョーマと一緒にヤマトに行きたかった」

 

「マスター‥いえ、艦長は遊びに行ったわけではないのですよ」

 

 リニスはユリーシャにそう言うが、実際ヤマトには姉のサーシアに父親の守が居るので、家族団欒という意味では、まほろば よりもヤマトの方が良いのかもしれない。

 ギンガも話を聞けばおそらくユリーシャのヤマト移乗には賛成していただろう。

 しかし、今は公務中と言うことでそういった私情を挟まないと言うことで、今回ユリーシャのヤマト移乗はなされなかった。

 

 

 良馬が格納庫で搭乗するコスモゼロにユリーシャがいないかをチェックした後、まほろばを発進した頃、ヤマトでは船外、内部で修理作業が行われていた。

 良馬がまほろばを発進してすぐに、まほろば、春藍、ハルバード、ファルシオン、雪風・改は周辺の索敵任務へと向かって行った。

 そんな中、一人の技術班員が第三砲塔付近にて、口笛を吹きながら修理箇所へと向かっていると、

 

「~♪~~♪♪~~~‥‥♪~~‥‥ん?」

 

 第三砲塔の近くに何かが落ちていた。

 技術班員が近づいてみると、それはどうみてもヤマトの破損した部品や修理部品にも見えなかった。

 

「‥‥なんだ?これは‥‥不発弾かなにかかな‥‥?」

 

 それは砲弾の様にも見えるし、割れたカプセルの様にも見えた。

 

「‥‥とりあえず、報告しておくか‥‥」

 

 不発弾にせよ、違うにせよ、不審物には変わりない。

 その技術班員は上司である真田に報告しようとした時‥‥

 

「っ!?」

 

 後部甲板からその技術班員に向かってものすごい速さで何かが迫ってきた。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 迫ってきた何かは技術班員に襲い掛かる。

 技術班員の悲鳴が後部甲板に響くが、周囲には他の技術班員が居なかったため、その技術班員に襲い掛かってきた者の正体は分からず、見た者も居なかった。

 宇宙空間にはその技術班員が手に持っていた道具が不気味にヤマトの甲板から離れ宇宙空間へと漂っていった。

 後部甲板で技術班員が何者かに襲われた時、ヤマトの第一艦橋には各部の修理状況が報告される。

 

「各艦砲の修理は終わったみたいです。‥‥いつもながらさすがですね、技術班の連中は‥‥」

 

 ヤマト技術班員の優秀さに舌を巻く南部。

 

「艦外作業に出ていた技術班員もみんな収容したし、あとは波動エンジンの再調整ぐらいだな」

 

「ええ‥‥航路補正もだいたい完了です。波動エンジンの方には山崎機関長が向かってくれています」

 

 太田が航海計器の修理とチェックが終わったことを報告する。

 

「大変だなぁ、修理作業も」

 

 通信機器は損害がなかったので、相原は特に修理作業するところもなく、座席に座り、艦の内外を修理する技術班や通所の勤務の他にエンジンの修理も行う機関班が大変な部署なのだと改めて感じた。

 

「いつも通り、真田さんにまかせておけば大丈夫さ」

 

 島は真田の技術者としての腕を信頼しているようで、修理に関しては真田に任せておけば、問題はないと言う。

 

「よし、あとは山崎さんに急ぐように連絡しておいてくれ。真田さんにも、修理状況の最終確認を頼む」

 

「了解」

 

 相原が山崎と真田にヤマトの修理状況の確認の通信を送る。

 そんな中、ヤマトのコスモタイガーの格納庫に一機のコスモゼロが着艦する。

 着艦シークエンスが終わり、コックピットから降りると、格納庫には坂本が一人でヘルメットをかぶり、なにやら作業をしていた。

 

「あれ?月村艦長」

 

 坂本はヤマトの格納庫に着艦し、コスモゼロのコックピットから降りてきた良馬に気づき、声をかける。

 

「あっ、坂本君。どうしたの?一人で格納庫なんかで‥‥出迎え?」

 

「い、いえ‥コスモタイガーの気密チェックです」

 

「‥‥もしかして、何かやらかしたの?」

 

「えっと‥その‥‥あはははは‥‥」

 

「‥‥」

 

(なにかやらかしたんだな‥‥)

 

 笑ってごまかす坂本の態度に彼が、何かやらかして、山本から罰をくらってこうしてコスモタイガーの気密チェックをしているのだと良馬は思った。

 良馬がヤマトについた頃、相原は機関室に通信を入れていた。

 

「こちら相原、機関室、山崎機関長‥‥山崎機関長?‥‥あれ?」

 

 機関室へと通信を入れたのだが、山崎は応答しない。

 忙しくて手が離せないとしても代わりの機関員の誰かが応答してもいい筈なのだが、機関室からはうんともすんとも応答がない。

 

「技師長‥‥真田さん?」

 

 次に相原は機械工作室で修理作業の指揮を執っていた真田に通信を送るが、真田も応答しない。

 機関室同様、真田が不在または手が離せない状況だとしても他の技術班員が出てもおかしくはないのに機械工作室からも一切の応答がない。

 

「おかしいですよ。誰も返事がありません‥‥」

 

 相原もさすがにおかしいと思う。

 

「なんだって?真田さんもか?」

 

「はい‥‥」

 

 そんな中、突如、ヤマトのメイン動力が落ちた。

 

「な、なんだ?」

 

「メイン動力が落ちたみたいですね‥‥何かあったのかな?」

 

 ヤマトのメイン動力が落ちたと思ったら、今度は通風孔や気温清浄機からガスのようなものが流れてきた。

 

「お、おい!!なんだ?こりゃぁ!!」

 

 誰も応答に出ない状況にいきなりメイン動力が落ち、次はガス‥‥

 艦橋に居るみんなが動揺するのも無理はなかった。

 

「ガス‥‥!?通風孔から‥‥!?‥‥うう‥‥うぁぁっ‥‥!!」

 

 ガスを吸い込んで太田がのどを抑えながら倒れる。

 

「太田‥‥!?みんな、気密ヘルメットをつけろ!!」

 

 古代がガスを吸わないように気密ヘルメットの着用を指示する。

 

「うう‥‥うわぁぁぁ‥‥がっ‥‥!!」

 

「このガスは‥‥いったい‥‥うぅ‥‥ぐあっ‥‥!!」

 

「南部!!相原!!」

 

 気密ヘルメットを着ける前に太田、南部、相原はガスを吸い込んでしまい床に倒れる。

 古代はガスを吸い込む前になんとか気密ヘルメットを着用できたので、倒れることはなかった。

 気密ヘルメットを着けた古代は急いで倒れた相原と南部の様子を確認する。

 

「‥‥どうやら、死んではいないようだ‥‥昏睡状態になっているだけだ‥‥」

 

 相原も南部も倒れはしたが、ちゃんと呼吸はしているので、生きていることは確認できた。

 おそらく太田も相原や南部と同じように昏睡しているのだろう。

 

「島!!サーシア!!二人とも無事か!?」

 

 古代は残る艦橋メンバーである島とサーシアの状態を確認する。

 

「‥‥なんとかな。だが、ガスをいくらか吸い込んじまった。頭がクラクラするよ」

 

「あたしは平気です‥‥」

 

 島はいくらかガスを吸い込んでいしまったが、昏睡するほどの量ではなく、意識を保っていた。

 サーシアも古代や島同様、意識を保っている。

 

「助かったのは俺たちだけか‥‥しかし、このガスはいったい‥‥?」

 

 古代は艦橋に充満するガスが一体どこから流れてきたのか?

 そもそもこのガスの正体は何なのか?

 古代は辺りを見回していた。

 

 第一艦橋にガスが充満したようにこのガスはヤマト艦内の全体に広がっていた。

それはコスモタイガーの格納庫も例外ではなかった。

 

「な、なんだ!?」

 

「通風孔からガスが‥‥」

 

 坂本と良馬は最初から気密ヘルメットを着用していたので、このガスで昏睡することはなかった。

 

「このガスは一体何でしょう?」

 

「分からない‥‥でも、いきなりこれだけの量のガスが流れてくるなんて異常だ‥‥もしかしたら毒ガスかも‥‥」

 

「ど、毒ガス!?」

 

「とにかく艦橋へ行こう。このガスについて何か情報が入っているかもしれない。それに他の乗員の状態も気になる」

 

「そうですね」

 

 良馬と坂本は第一艦橋を目指して格納庫を後にする。

 その途中、あちこちの部屋を見て回ったが、気密ヘルメットの着用が間に合わなかったヤマトの乗員があちこちで倒れていた。

 

「‥‥」

 

 良馬が倒れている乗員の様子を窺う。

 

「し、死んでいるんですか?」

 

 坂本が恐る恐る訊ねる。

 

「いや、息はちゃんとしている‥‥寝ている‥‥というより、意識をなくしている感じだ‥‥」

 

「死んではいないんですね?よかった‥‥」

 

 とりあえず、仲間が死んでいないことにホッとする坂本。

 良馬と坂本は他に無事だった乗員が居ないか探しつつ第一艦橋を目指した。

 しかし、第一艦橋までの道のりの過程で、無事だった乗員は見当たらなかった。

 

「‥‥ちょっと、坂本君、そんなにくっつかないでくれるかな?歩きにくい‥‥」

 

 通路を歩く良馬と坂本の距離はかなり密接していた。

 そのため、良馬はなんか歩きにくそうだった。

 

「す、すみません‥‥でも、なんか、不気味で‥‥」

 

 普段見慣れている筈のヤマトの艦内なのだが、メイン動力が落ちて艦内全体的に薄暗く、しかもガスが充満しているせいで非常電源の明かりさえも不気味に濁って見える。

 しかも乗員は倒れており、見方によっては死んでいるようにも見え、艦内はシーンと静かな状態が更に不気味さのレベルを上げている。

 

「でも、第一艦橋に居る人も全員倒れていたらどうします?」

 

「通信でまほろばと春藍を呼び戻すしか方法はないな‥‥二人だけではどうにもできないし‥‥」

 

「そうですね」

 

 流石にメイン動力が落ちているヤマトを良馬と坂本の二人で動かすのには無理がある。

 それなら、ヤマトで、まほろば、春藍と合流するよりも、まほろばと春藍に来てもらった方が早い。

 良馬と坂本が第一艦橋へと繋がる扉を潜ると、

 

「坂本!!それに月村艦長も!!」

 

「無事だったんですね!!」

 

 第一艦橋には自分たちと同じように気密ヘルメットを着用した古代、島、サーシアの姿があった。

 三人もガスが充満する前に何とかヘルメットを着用し、昏睡は免れたようだ。

 

 

「――――というわけです。俺はコスモタイガーの気密チェック中で、ヘルメットをかぶっていたから助かりました‥‥」

 

「俺もヤマトに来たばかりで、ヘルメットをかぶっていたから坂本君同様無事だったんだ」

 

 良馬と坂本の二人は自分たちが無事だった経緯を古代たちに話した。

 

「山本さんも椎名もコスモタイガー隊の連中はみんな、パイロットルームで倒れていました」

 

「コスモタイガー隊のメンバーだけでなく、格納庫からここまで上がる途中、他の部屋や部署も確認したけど、どこも同じような感じだった‥‥どうやらヤマトの艦内全域にこのガスがいきわたっているみたいだ‥‥」

 

 良馬と坂本は第一艦橋まで上がる途中、無事だった乗員が居ないことも古代たちに伝える。

 

「そうですか‥‥となると、何者かが、通風孔か換気装置の中枢にガスを流し込んだんだな‥‥こっちはヘルメット着用が間に合ったのは俺と島だけだ。サーシアはガスを吸い込んでしまったようだが、半分流れているイスカンダルの血がガスの効果を弱めているんだろう‥‥」

 

 古代はヤマト艦内にガスが充満している原因を推測する。

 

「助かったのはわずか五人だけですか‥‥」

 

 坂本が弱々しくつぶやく。

 

「‥‥通風孔か換気装置にガスを流したとなると、ヤマトに敵の工作員かスパイが乗り込んだとみるほうがいいだろう」

 

 古代の推測から良馬はこのガスを通風孔か換気装置に流し込んだのは暗黒星団帝国のスパイか工作員だと追加推測をする。

 ヤマトの乗員がこんな馬鹿な真似をする筈がないし、そもそもこんなガスをヤマトは積み込んでいない。

 

「敵のスパイか工作員がヤマトに!?」

 

「「‥‥」」

 

 良馬の推測を聞いて、古代、坂本、島の間に緊張が走る。

 

「そういえば、お父様は大丈夫かしら‥‥」

 

 サーシアが父親である守の身を案じる。

 

「そうだね。もしかしたら、守さんも無事かもしれない」

 

「行ってみよう」

 

「ああ‥それと春藍とまほろばに救援要請をしてくれるかい?この状況じゃあ、ヤマトで春藍やまほろばと合流するより、向こうから来てもらった方がいい」

 

「そうですね‥‥しかし、どちらも偵察のために散会中‥‥ヤマトはメイン動力が落ちている状態でうまく連絡がつくかどうか‥‥」

 

「やるだけやってみよう。やらないよりはマシだ」

 

「ええ」

 

「連絡がつくまで、みんなの無事を確認しに行こう‥‥山崎さんと徳川は機関室、真田さんは機械工作室、兄さんは艦長室か‥‥」

 

「俺は残るぞ、古代。吸い込んじまったガスの影響か右足が痺れて動かないんだ。指先も動きが鈍くなってきた‥‥行っても足手まといになるだけだろう」

 

「よし、島は艦橋に残って南部たちの介抱を頼む。それになんとかして春藍とまほろばに連絡をつけてくれ」

 

「わかった。非常動力だけじゃあ、不安だが、とにかくやるだけやってみるよ」

 

「頼むぞ」

 

 少しガスを吸いこんでしまった島は第一艦橋に残り、救援を要請することにした。

 

「それじゃあ、サーシアちゃんもここで待っていてくれ」

 

 良馬はサーシアにも第一艦橋に残るように言う。

 

「えっ?」

 

「敵の工作員かスパイが艦内に潜んでいるかもしれないんだ。それに島君は満足に動けない‥‥もしかしたらここに敵の工作員かスパイが来るかもしれない。その時は君が島君やみんなを守ってくれ」

 

「わかりました」

 

「すまない、サーシア」

 

 世話になる島はサーシアに謝る。

 

「いえ、困ったときはお互い様です。それではおじさま、みなさんもお父様の事をよろしくお願いします」

 

「頼むぞ」

 

「ああ、任せてくれ」

 

「気を付けてくださいね」

 

 こうして、古代、良馬、坂本はまず、第一艦橋から一番近い艦長室へと向かい、守の安否確認をした。

 エレベーターでヤマトの一番上の階にある艦長室へといくと、艦長室の床で守が倒れていた。

 

「兄さん‥‥!!」

 

「古代先輩もダメだったか‥‥」

 

 守もヘルメット着用が間に合わなかったようだ。

 

 古代と良馬は守を部屋に備え付けのベッドに横たえる。

 

「このままじゃ、まずいですよ。ともかく、倒れているみんなを医務室でにも動かしましょう」

 

 坂本は倒れているヤマトの乗員を医務室へ連れていこうと提案する。

 

「いや‥‥佐渡先生の無事を確かめるのが先だ。俺たちは医療に関してはまったくの素人なんだ。治療する人間がいないのなら、あまりむやみに動かさない方が良い」

 

 古代は医務室に連れていくにしても医務長の佐渡の安否を確認した後の方が良いと言う。

 

「そうか‥‥あっ、アナライザーの奴はどうです?あいつならロボットだからガスは効かないし、医務室の助手をやっているんだからなんとかなりますよ」

 

「そうだな。よし、まずは佐渡先生、ついでアナライザーの無事を確かめよう」

 

 古代は方針を立てる。

 まずは昏睡している乗員のため、医務長の佐渡の安否を確認し、倒れている乗員を見てもらうことにした。

 

「でもアナライザーは無事なのかな?」

 

 良馬はこの事態になっても姿を見せないアナライザーが今も無事なのか不安視する。

 

「どういうことです?」

 

「坂本君の言う通り、アナライザーはロボットだから、当然このガスは効果がない。しかし、これだけの事態になったにもかかわらず、アナライザーの姿を見ていないし、連絡もない‥‥敵の工作員もアナライザーがロボットであり、ガスも効かないと知ったら‥‥」

 

「‥‥」

 

「とにかく、医務室へ行ってみよう」

 

 佐渡、そしてアナライザーの安否を確認するため、三人は医務室へ向かうことにした。

 第一艦橋にいる島、同様、念のため、艦長室のドアにはカギをかけ、医務室がある第一居住区へと降りた。

 敵の工作員が潜んでいる可能性があるので三人の手にはコスモガンが握られている。

 

「しかし、それにしてもいったい何が起きたんでしょうね‥‥動力は落ちるし、ガスは充満するし‥‥」

 

「やはり月村艦長の言う通り、ヤマトに敵の工作員が乗り込んで、やったとしか思えない」

 

「うーん‥‥敵かぁ‥‥でも、どうやってだ?」

 

 昏睡ガスにメイン動力の停止。

 どう見ても敵の仕業としか考えられない。

 しかし、敵はおそらく今、地球を占領している暗黒星団帝国で間違いはない。

 だが、ここで一番の疑問が敵の工作員が紛れ込んでいるとしても誰もその姿を見ていないと言うことだ。

 昏睡ガスの影響もあるが、暗黒星団帝国‥デザリアム星人の容姿は地球人の艦ではあまりにも目立つ。

 あの目立つ容姿で、メイン動力を落とし、通風孔か換気装置にガスを流し込むなんてことが出来るのだろうか?

 

「それにもし、敵の仕業なら、致死性のガスを使えば終わりのはずだ。わざわざ昏睡させる必要なんてないはずです」

 

 坂本の言う通り、これが致死性のある毒ガスならば、ヤマトの乗員はほぼ壊滅している。

 動かす人間が居ない宇宙戦艦なんてただの宇宙金属の塊に過ぎない。

 簡単に拿捕あるいは撃沈することが出来る。

 

「「‥‥」」

 

 坂本の意見は的を射ていた。

 敵にはヤマトの乗員を殺すことのできない理由が何かあるのだろうか?

 それは地球に打ち込まれたハイペロン爆弾と似たような理由なのかもしれないし、そうではないのかもしれない。

 いずれにしろ、ここで考えていても答えは出ない。

 今はこの事態の打開と乗員の安否を確認することが優先だ。

 

「あっ、そういえばサーシアは確か、超能力が使えるんでしたよね?彼女に頼んで、侵入者を見つけてもらうのはどうでしょう?」

 

「なるほど」

 

「今日の坂本君は冴えているね」

 

 古代はさっそく、第一艦橋にいるサーシアと連絡をとり、彼女の超能力で侵入者の位置を特定してもらおうと思ったのだが、やはりガスの影響か今の彼女は超能力がうまく作動できない状況だった。

 サーシアの超能力が使えないと言うことで当初の予定通り、自分たちの足で地道に探すしかなかった。

 医務室への通路を警戒しながら進んでいると、通路の先で誰かが立っていた。

 その人物はヤマト乗員の制服を身に纏っていた。

 

「古代さん、月村さん、誰かいますよ」

 

「俺たちの他に無事な乗員が居たんだ‥‥」

 

「そうみたいですね。おい、大丈夫か!?」

 

 ヤマトの乗員のほとんどが昏睡して倒れている中、その人物はちゃんと立っていることから、自分たち同様、ガスが充満する前にヘルメットをかぶって平気だった乗員だと思い、古代は声をかける。

 すると、その人物は振り返るといきなりコスモガンを撃ってきた。

 

「っ!?伏せろ!!」

 

 良馬が間一髪、声をかけたおかげで、古代と坂本は躱すことが出来た。

 

「うわっ!!」

 

「くっ‥‥」

 

「おーい!!俺だ!!コスモタイガー隊の坂本だよ!!」

 

 坂本は大声をあげて敵ではないことを告げるが、その人物は射撃をやめない。

 

「な、なんだっていうんですか?」

 

 どうして仲間であるはずのヤマトの乗員が自分たちに射撃してくるのか分からない。

 

「わからん‥‥だが、応戦するしかないぞ」

 

 古代はこのままでは医務室へ行けないし、事情を聞くにしても向こうは話が通じないのかずっとコスモガンを撃ってくる。

 先へ行くには倒すしかない。

 

「う、撃つんですか!?」

 

 坂本が仲間に向かってコスモガンを撃つのかと訊ねる。

 

「パラライザーを最低出力にしてやれば、殺傷能力はなくなる。話をきいてくれる感じじゃないし、ここは仕方ないだろう?」

 

 良馬が相手を殺さないようにする手段を坂本に伝えながら、コスモガンの出力を最低レベルまで下げる。

 

「は、はい」

 

 坂本、古代も良馬同様、コスモガンの出力を最低レベルまでさげてコスモガンを撃ってくる乗員に向けて撃つ。

 三人の一斉射撃をくらった乗員はその場に倒れる。

 そして、三人は恐る恐るその乗員に近づく。

 

「こいつは‥‥戦闘班の北谷じゃないか‥‥」

 

 同じ戦闘班である古代にはコスモガンを撃ってきた乗員が誰なのか顔を見てすぐに分かった。

 

「しかし、いったいなぜ‥‥」

 

「いくらなんでも、俺たちを敵と間違えて撃ったなんてことはないだろうし‥‥」

 

 北谷がコスモガンを発砲してきた時、坂本はちゃんと自分の名前と所属を北谷に言った。

 それにもかかわらず、北谷は発砲を続けた。

 その事実から、北谷が自分たちを敵と誤認したとは考えにくい。

 北谷がなぜ、自分たちに発砲してきた理由が分からない中、昏睡していたはずの乗員が起き上がり、コスモガンを手にフラフラとした足取りで近づいてきた。

 

「こ、古代さん!!月村さん!!ほかにも来ましたよ!!」

 

「とにかく、医務室を目指そう」

 

「は、はい!!」

 

「ええ!!」

 

 三人は迫ってくる他の乗員との戦闘をなるべくさけて、医務室を目指した。

 そしてやっとのことで目当ての医務室へとたどり着くと、佐渡の居住スペースにて、佐渡とトチローが昏睡している姿があった。

 佐渡は居住スペースの畳の上で大の字になって倒れており、トチローはちゃぶ台に突っ伏している。

 そしてそのちゃぶ台の上には沢山の空だったり、中身が中途半端になくなっている酒瓶が置いてあった。

 

「佐渡先生!!トチローさん!!」

 

 古代が声をかけながら、二人に近づく。

 しかし、二人は起きる気配がない。

 

「なんだか、ガスにやられたっていうよりも、宴会してぶっ潰れただけっていう感じですね‥‥」

 

(確かに‥‥)

 

 坂本の言う通り、ちゃぶ台の上の大量の酒瓶のせいで、ガスにやられたのか酒で酔いつぶれたのか判断に困る光景だった。

 

「バカなこと言っている場合か!!手伝え!!」

 

「は、はい!!」

 

 古代と坂本が佐渡を医務室のベッドに横たえ、良馬がトチローを肩に担いで医務室のベッドに横たえる。

 

「アナライザーが居ないな‥‥」

 

 ガスが充満する前、宴会をしていたのなら、アナライザーも医務室にいてもおかしくはなかった。

 しかし、アナライザーの姿は医務室にはなかった。

 

(アナライザーは一体どこに‥‥?)

 

 良馬がアナライザーの行方を考えていると、

 

「にゃ~~~」

 

 医務室に猫の鳴き声がした。

 良馬がふと足もとを見てみると、そこには佐渡の飼い猫であるミーくんが居た。

 

「あれ?この猫は‥‥?確か‥‥」

 

「佐渡先生の飼い猫です」

 

「猫にはこのガスは効かないみたいですね」

 

 昏睡ガスが充満する中、ミーくんは平然とした足取りで歩いている。

 

「サーシアのこともある‥‥我々地球人類だけを狙ったガスなのかもしれないな‥‥」

 

 猫のミーくん、そしてイスカンダルとの混血であるサーシア以外に昏睡していたことからこのガスは地球型の人類には有効なガスであることが証明された。

 

(ますます不可解だ‥‥)

 

 先程の坂本が言ったように毒ガスではなく、地球人のみに効く昏睡ガス‥‥敵の目的が全然わからない。

 

「にゃ~~~」

 

 こっちの状況を知っているのか知らないのか、ミーくんは再び鳴く。

 

「佐渡先生が倒れているのでは頼りはアナライザーだけなのだが、医務室にはそのアナライザーの姿がない‥‥どこへ行ったんだろう?‥‥古代君、坂本君、医務室以外にアナライザーが行きそうな場所の心当たりはないかい?」

 

「医務室以外‥‥ですか‥‥うーん‥‥」

 

「俺、あんまりアナライザーと交流がないんで‥‥」

 

 古代が思いつくアナライザーが行きそうな場所は医務室か第一艦橋ぐらい。

 しかし、そのどちらにもアナライザーはいなかった。

 坂本はもともと所属部署の関係上、アナライザーとあまり交流がなかったので、アナライザーが居そうな場所の心当たりはなかった。

 

「ねぇ、ミーくん‥君はアナライザーがどこに行ったのか知らないよね?」

 

 良馬はミーくんにアナライザーの行方を訊ねる。

 

「月村さん、いくらなんでも猫に聞いても知っている訳ないでしょう」

 

「それもそうだね」

 

「あと、アナライザーが行きそうな場所は‥‥展望室や真田さんの所とか‥‥うーん‥‥あと、他には‥‥」

 

 古代自身もそこまで深くアナライザーと交流があるわけではないので、医務室や第一艦橋以外にアナライザーが行きそうな場所の心当たりがなかった。

 良馬はヤマトの乗員でないので、当然アナライザーが行きそうな場所の心当たりなんてない。

 

「アナライザーが行きそうな場所もしらみつぶしに探して回るしかないみたいだね」

 

「トホホ~」

 

 こうして三人は、今度はアナライザーを探すことになった。

 

「そういえば、以前、アナライザーが雪さんのスカートをめくったりしていたけど、アナライザーって女の人が好きなの?」

 

「えっ?ええ‥‥まぁ‥‥」

 

「ロボットらしからぬ行動ですね」

 

 坂本はアナライザーのロボットっぽくない行動に対して呆れる様に言う。

 良馬はアナライザーのロボットっぽくない行動を思い出し、

 

「考えたくないけど、乗員が昏睡しているのをいいことに女性乗務員の区画で良からぬことをしている‥‥なんてことはないよね?」

 

「‥‥」

 

 良馬の言葉に古代は否定できなかった。

 最初のイスカンダルでの航海でアナライザーはやたらと雪のスカートをめくったりしていたし、テレザートへの航海で、アルデバランの火の河を航行した時、そこから発する放射線で乗員が倒れた時、ロボットであるアナライザーが奮闘してくれたのだが、その際、アナライザーは雪が昏睡していることをいいことに彼女のお尻をお触りしていたこともある。

 それに先日、サーシアが熱を出して倒れた時も、レーダー任務そっちのけで、サーシアの看病をしていたこともあった。

 

「‥‥念のため、女性乗員区画へ行ってみましょう」

 

 古代はそれらの経緯からアナライザーが普段は入れない女性乗員区画へと向かうことにした。

 女性乗員区画は第二居住スペースにある。

 エレベーターで一回降り、第二居住スペースへとやってきた三人。

 三人の後ろからはなぜかミーくんもついてくる。

 アナライザーを探している最中にもヤマトの乗員が襲い掛かってくる場面もあった。

乗員はなぜかミーくんには発砲することはなかった。

 こちらとしてもなるべく戦闘は避けたいのだが、挟み撃ちにされてはたまらない。

 こっちは最低出力で撃っているのだが、向こうは通常の殺傷能力がある出力で撃ってくる。

 すまないと思いつつ、乗員を撃って再び昏睡させながら三人と一匹はアナライザーを探す。

 

「にゃ~~~」

 

 すると、ミーくんはある通路にくると、タッタッタッタ‥‥と走っていく。

 

「おい!!待てよ、コラ!!」

 

 坂本がミーくんを止めようするが、ミーくんは止まることなく、先へと行ってしまう。

 

「何かを感じ取ったのかもしれない‥‥行ってみよう」

 

 良馬はミーくんが動物的勘で何かを見つけたか感じ取ったのかもしれないと思い、ミーくんの後を追うことにした。

 

「にゃ~~~」

 

 すると、ミーくんは女子トイレの前に止まっていた。

 そして、ミーくんの視線の先には‥‥

 

「ア、アナライザー!!」

 

「バラバラになっている‥‥」

 

 アナライザーはバラバラになり修理が必要な状態だった。

 

「ブチ壊れていやがる‥‥くそっ!!何なんですか!?」

 

 なぜ、アナライザーが壊れているのか理解できない。

 一体アナライザーの身になにがあったのか?

 

「わからん‥‥ガスでみんなが倒れたと思ったら、今度は仲間が襲い掛かってくるし、その次はアナライザーか‥‥何か‥‥裏に何かがあるはずなんだが‥‥」

 

「やはり、これも敵の工作員の仕業か‥‥それとも乗員の誰かの仕業か‥‥」

 

 乗員が襲い掛かってくるこの状況でアナライザーが一体誰に壊されたのかは不明だった。

 

「‥‥しかし、ロボットのアナライザーが、なんでトイレの前にいるんでしょうね?」

 

 アナライザーはロボットなので、生き物と違い排泄行為なんてしない。

 

「しかもここは女子トイレだし‥‥」

 

 良馬はアナライザーが倒れていた場所が場所なだけにアナライザーに対してちょっと引いている。

 

「まっ、アナライザーのことだからな‥‥」

 

(まさかと思うけど、この機会を利用して女子トイレに盗撮器具を設置しようとしていたんじゃないだろうな‥‥アナライザー‥‥)

 

 古代は口では日頃のアナライザーの言動から、どこか納得したような事を言ってはいるが、心の中ではアナライザーが盗撮未遂をしたんじゃないかと疑った。

 

「ん?‥‥これは‥‥」

 

「月村さん、どうしたんですか?」

 

 良馬が何気なく、床に目をやった時、床に小さな赤い点々を見つける。

 

「‥‥これは‥‥血痕だ‥‥」

 

 良馬は床に落ちていた赤い点々を指につけ、それが何なのかを調べると、その赤い点々は血だった。

 

「血痕!?」

 

「なんで、そんなものが!?」

 

「誰かが怪我をしているのかも‥‥血痕はこっちに続いている‥‥」

 

「よし、あとを追ってみよう」

 

 アナライザーは見つかったが、修理が必要な状態だったので、ひとまず三人はアナライザーをその場に放置して、今度はその血痕の後を追う。

 床に点々と残っていた血痕は洗濯室へと続いていた。

 洗濯室に負傷した誰かが逃げ込んだのかもしれない。

 そう思い、洗濯室へと入るが、そこには誰もいなかった。

 そして、洗濯室の床には一着のヤマト乗員の制服、気密手袋、ブーツ、ヘルメットが脱ぎ捨てられていた。

 

「古代さん‥‥これは‥‥」

 

「技術班の服だ‥‥それに、船外作業用のヤツじゃないか‥‥」

 

「深く破れているし、血もついている‥‥船外作業服をここまで深く傷つけるなんて‥‥」

 

 良馬は破れている制服を手に持って、傷口を調べる。

 

「「‥‥」」

 

 宇宙空間という状況下で船外作業を行うのだから、宇宙服はそれなりに丈夫な構造となっている。

 しかし、その丈夫な服をここまで傷つけることのできる武器‥‥

 しかも銃ではなく服に残っている傷から、刃物の類だと判断されるが、その刃物はかなりの切れ味を持つことになる。

 それにガスで昏睡していた筈の乗員が突然起き上がり、自分たちに襲い掛かってくるこの現象はあまりにも奇妙で不気味だ。

 

「しかし、なぜみんな襲い掛かってくんだろう‥‥」

 

 古代は今更ながら、仲間である乗員が襲い掛かってくるこの現象の原因に疑問を感じている。

 

「まるで、誰かに操られているみたいですよね‥‥」

 

 坂本の言う通り、確かにこれまで遭遇してきた乗員は声も発せず、表情も変えずに無言・無表情のまま自分たちにコスモガンを発砲してきた。

 それ以前に同じ仲間である自分たちに発砲してくる時点で、彼らは自分たちの意思で攻撃してくるわけではないのだと分かる。

 

(‥‥人を操る‥‥そういえば、暗黒星団帝国はあの時‥‥)

 

 良馬は以前のイスカンダルでの航海の途中で暗黒星団帝国が管理局の艦隊を使って洗脳実験を行っていたことを思い出した。

 あの時は捕虜にした局員の頭部に受信機を埋め込み、洗脳衛星から発せられる電波を受信させることにより、人間を意のままに操っていた。

 今回の事もその実験の改良版でこのガスに人を操る力があるのではないだろうか?

 

「あっ!?艦橋にはガスで倒れた南部君たちがいる‥‥島君やサーシアちゃんは大丈夫だろうか?」

 

「っ!?」

 

 良馬の言葉に古代はハッとなる。

 彼の言う通り、艦橋にはガスで倒れた南部、相原、太田の三人がいる。

 彼らもこれまで遭遇してきた乗員のように島とサーシアに襲い掛かる可能性が十分にある。

 

「島!!サーシア!!」

 

 古代は急ぎ、艦橋に居る二人に連絡を取る。

 

「どうした?古代。なにかあったのか?」

 

 インカムからは艦橋にいる島の普段通りの声がした。

 どうやら、襲われた形跡はなさそうだ。

 

「南部たちの様子はどうだ?」

 

「まだ昏睡して倒れているがどうかしたのか?」

 

「い、いや、なんでもない‥‥とにかく、事情を説明するために一度そっちへ戻る」

 

「わかった」

 

 念のため、三人は南部たちの様子を確認することを含めて第一艦橋へと戻ることにした。

 

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