星の海へ   作:ステルス兄貴

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原作(魔法少女リリカルなのはstrikers)ではギンガが六課に出向してきたのは新暦75年の八月の下旬~九月の上旬の間でしたが、この世界では原作と違い四月の六課起動から出向の内定を貰っていると言う設定です。


四話 遭難

 

 

第一管理世界 ミッドチルダ。

 

其処は管理世界発生の地とされる世界(惑星)

 

そして数多くの管理世界を管理・運営している世界(惑星)

 

その多くの管理世界の治安維持活動をしている組織が時空管理局、通称:管理局だった。

 

管理局の役割の中には、ロストロギアと呼ばれる過去に何らかの要因で消失、あるいは滅んでしまった世界や古代文明のテクロノジーで作られた遺産技術で、その中には使いようによっては一つの次元世界をいとも簡単に滅ぼす力、次元震引き持つこともある危険な物もあり、それら、ロストロギアの回収、管理・保管という仕事も担っていた。

 

そんな、時空管理局のビルのオフィスの一室に夜、電気もつけずに、一人の人物が誰かと電話をしていた。

 

「ああ、間違いない近日中に御宅の組織へ管理局がガサ入れをする。えっ?何故そんな事を教えるかだって?‥ちょっと御宅らに協力してもらいたいことがあってね」

 

「    」

 

「ああ、確かな情報さ。なんてってそのガサ入れの指揮を執るのはこの私だからな‥それで協力してくれるのかい?」

 

「     」

 

「ちょっと、目障りな奴が居てね。そいつを抹殺するのと同時に、死後、そいつの社会的地位もズタズタにしてやりたいのさ‥‥成功すれば当然謝礼も払うし、今後管理局の情報も全て御宅にリークしてあげよう。御宅らにとっても悪い話じゃないと思うが?」

 

「     」

 

「OK、OK。 交渉成立だ。それじゃあ、早速私の立てた策で進めてくれ、まずは‥‥」

 

それから数時間後、

 

「そうだ、船はそのまま、使ってくれ、ただし中身は入れ替えおいてくれ、折角の美術品やロストロギアが失われるのは、余りにも惜しいからな。後はこっちで上手く処理する」

 

「        」

 

「もちろん成功したあかつきには多額の謝礼と共に損失した埋め合わせとして船も一隻プレゼントしますよ」

 

「      」

 

「ええ、それじゃあ頼みましたよ」

 

そう言って電話を切ると、その人物は暗闇の中、口元をニヤリと緩めた。

 

 

この人物が何処かの誰かと電話をしていた夜から数日後、

 

ミッドの西部、エルセアと呼ばれる地域の治安維持を管轄とする陸士108部隊の隊舎の部隊長室にて、部隊長とその部隊に属する隊員が会話をしていた。

 

 

時空管理局 陸士 108部隊 部隊長室

 

「機動六課ですか?」

 

「ああ、お前も知っているだろう?豆狸の八神を」

 

「確か、以前ウチ(陸士108部隊)に現場研修に来たあの八神はやてさんの事ですよね?」

 

「そうだ。アイツが近々一年の試験運用だが、自分の部隊を持つんだ。未だ二十歳にもなってねぇくせに、何を生き急いでいやがんだか」

 

かつての教え子の事を思い返し、陸士108部隊部隊長ゲンヤ・ナカジマは溜め息交じりに呟く。

 

「は、はぁ‥‥」

 

「その八神の奴からおめぇを貸してくれって頼まれたんだ」

 

「わ、私、ですか?」

 

「ああ、どうもスバルの奴もその部隊のFW陣候補らしいんだが、即戦力としておめぇが欲しんだとよ。今、目星をつけている連中だと、身内のエース級と顔見知りのペーペーしかいねぇから、その間を埋める奴が欲しいんだと」

 

「でも、良いんですか?例の窃盗団の事件もあるのに‥‥」

 

108部隊所属の隊員ギンガ・ナカジマの言う窃盗団事件とは、

 

管理局局員であるゲンヤ・ナカジマが部隊長を務める陸士108部隊の管轄内で、最近、美術品やロストロギアの窃盗事件が多発していた。

 

しかも相手の手口が巧妙かつ俊敏でプロの窃盗犯でしかも犯人の人数は単独ではなく複数おり、似た様な事件が他の管理世界でも起こっている事から大規模なプロの窃盗団だと判明した。

 

「その件なら、さっき連絡が来てな」

 

「連絡?」

 

ゲンヤの言う連絡。

 

それは、

 

相次ぐ窃盗事件に頭を悩まされていたゲンヤに本局と呼ばれる陸士とは違う“海”と呼ばれる所属の局員から窃盗団の事件について合同捜査の話が持ち込まれたのだ。

 

その局員の話では、相手はあちこちの管理世界をまたにかける大規模な窃盗団で、“海”としてもその窃盗団の逮捕は管理世界の治安維持のため、急務だと話してきた。

 

「合同捜査ですか?」

 

「ああ、珍しく本局の連中が俺達、“陸”の連中と手を汲もうと言ってきた」

 

「確かに珍しい話ですね」

 

「だが、この話には何か裏がありそうでならねぇ」

 

本局との合同捜査ならば、窃盗団の逮捕が早まるかもしれない。

 

普通ならば喜ぶべき話なのだが、

 

その話に胡散臭さを感じたのは他ならぬゲンヤだった。

 

基本的に管理局の“陸”と“海”は仲が悪い。

 

“陸”はミッドチルダの治安維持活動を主にしており、“海”は他の管理世界の治安維持と管理世界になり得る他の世界の存在の捜索、または他の世界にあろうロストロギアの捜索のため、物凄い数の人材を必要としている。

 

そのため“海”は、“陸”の訓練校の新卒者や“陸”の部隊から優秀な人材を次々とヘッドハンティングし、“陸”は常に才能や高い魔力のある人材が枯竭している状態が続いている。

 

また予算や必要な機材、局員の装備も同様の事が言え、ミッドの治安はお世辞にも良いとは言えない。

 

ショッピングモールなど、人の集まりが多い場所では、反管理局のテロリストが自爆行為や爆弾テロを相次いで起こし、それにより、管理局員よりも一般人にその被害が多く及んでいる。

 

さながら地球の中東並の治安である。

 

そのくせ、“海”の局員達は“陸”の局員に対し、「自分たちの足元も綺麗にすることの出来ない、役立たず!!」と普段からそう罵っている。

 

若い“海”の士官には「出資をケチって文句ばかり言う怠け者」と言う認識まで持つ者さえもいる。

 

しかし、本当の理由は自分達、“海”が常に優秀な人材や多額の予算、最新の機材、装備を根こそぎ独占している事に連中は愚かにも気が付いていない。

 

むしろそうしたモノが支給されるのが当たり前だと思っている。

 

だが、“陸”に対しそうしたモノが支給されていない事を“海”の若い士官は知らないし、知ろうともしない。

 

そうした経緯から、基本的に“陸”のお偉いさんや古参の士官は“海”の局員に対し、好感を抱いてはいない。

 

そんな中、その“海”の局員が“陸”に合同捜査の話を持ち掛けたのだ。何か裏がると思うのは当然の事だった。

 

「それでその話を受けたんですか?」

 

「ああ‥この際事件が解決するのであれば仕方ねぇと思っている」

 

ゲンヤとしてもこの話に胡散臭さを感じつつも、これ以上自分の管轄内で事件が起きるのを少しでも防ぎたかった為、やむを得ず、ゲンヤはその合同捜査の話に乗った。

 

「そして本局で今回の捜査を指揮するお偉いさんがお前を指名してきた。大変だと思うが、六課出向前の最後の事件(ヤマ)だ。頑張ってくれ」

 

「はい」

 

しかし、これがまさか、あのような出来事になるとはゲンヤもそしてギンガ自身も思わなかった。

 

 

本局の部隊と108部隊との合同捜査。

 

今回、被害が多発したのが、108部隊の管轄内だったので、その為、合同捜査本部が108部隊に設置され、隊舎にある会議場では、本局の捜査官や犯人鎮圧の為の本局武装隊の局員が占めており、108部隊からは部隊長のゲンヤと副部隊長兼捜査主任のラッド・カルタス、そしてゲンヤの娘であり、この部隊の所属捜査官、ギンガ・ナカジマの僅か三人だけだった。

 

合同捜査とは名ばかり、犯人グループを逮捕しても手柄は全部本局の“海”の連中が持っていくだろうと予想していたゲンヤとカルタス。

 

一方、ギンガには別の思惑があり、今回の検挙の指揮にあたる本局の執務官をジッと見ていた。

 

執務官の名はジュリオ・セレヴァーレ。

 

容姿はサラサラとした綺麗な銀髪に左右眼の色が違うオッドアイと呼ばれる瞳を持ち、その整えられた顔は一種の芸術品とも言える容姿をしていた。

 

ギンガがこの執務官をジッと見ていたのは彼女が、彼に一目惚れないし、以前から彼に恋心めいたモノを抱いている‥‥と言うわけではなかった。

 

と言うよりもギンガはジト目で彼を睨んで嫌悪感さえ醸し出している。

 

実は、彼、ジュリオ・セレヴァーレは女性局員の中では有名な女誑しなのであった。

 

彼は自分の容姿と権力から今まで数多くの自分が気に行った女性局員と関係を持ってきた。

 

それは、婚約者がいようが、彼氏持ちだろうが、夫や子供がいようが、まだ成人していない様な少女でもお構いなしにだ。

 

そして新しい女が出来ると、前の女はボロ雑巾の様に捨てる様な奴で、彼に声をかけられ、手を付けられる前に退職するという女性局員もいるぐらいだった。

 

この様な問題ばかり起こす様な奴が何故今でも執務官の地位で居られるのかというと、彼は管理局上層部とのコネが強い一方で執務官・魔導士としては有能だったからだ。

 

しかも家柄も代々管理局のエリートを輩出している名門家。

 

才能さえあればそれが例え、それが年端もいかぬ子供だろうが、前科のある凶悪な犯罪者だろうが起用する。

 

それが管理局の現状だった。

 

そしてギンガ本人も以前、彼にしつこくナンパされ、関係を迫られたことがあり、あまりのしつこさにギンガは思わず、彼の頬を叩き、彼を罵った。

 

彼の女誑しの噂は既に陸の方でも有名でギンガもその噂を耳にしていた。

 

その後、彼の事を父、ゲンヤに相談し、ゲンヤは以前、108部隊に研修に来た八神 はやてにこの事を相談した。

 

八神 はやては、元々魔法の無い世界出身であったが、とある魔法に関連する事件に巻き込まれ、それ以降管理局に入局し、高い魔力から管理局でも重宝され、エリート街道を進み、その縁あってか、ジュリオとは別口で管理局上層部と聖王教会と呼ばれる組織とコネがあり、研修時代に教えを受けたゲンヤの相談を受け、ジュリオの事を上の方に報告し、彼は上から厳重注意を受けた。

 

しかし、厳重注意だけで、減俸や降格処分、懲戒免職などの処分は下されなかった。

 

その理由はやはり、管理局が魔力の高い魔導士を手放したくないからであった。

 

そんな彼が今回、自分達、108部隊との合同捜査の総指揮を執る。

 

何か思惑が有るに違いないと警戒するギンガだった。

 

(自分の有能さをアピールしたいのかしら?それともワザと失態を犯し、その原因を父さんに擦り付けようとしているのかしら?)

 

ギンガの思惑はある意味正しく的中していた。

 

ジュリオがまず、今まで盗難にあった被害の品、その時の犯人の手口を説明している中、彼自身もギンガの存在に気が付いており、心の中では、自分のプライドを傷つけたギンガに対する復讐心で一杯だった。

 

(あのアマぁ、見ていろよ。俺に恥をかかせたその罪、万死に値する。素直に俺のモノになっていれば、死なずにすんだのにな‥‥まぁ、こうなったのもお前が悪いんだからな‥‥この俺の寵愛を拒否したお前自身がな!!)

 

やがて、犯人グループの手口、推定人数等の説明が終わり、いよいよ今回の犯人グループ摘発の作戦が説明された。

 

「我々、本局が掴んだ情報によりますと、犯人グループは、この次元航行船の発着場より、輸送船を使い、盗品を他の管理世界へ持ち込み、それらを売買しているものと判明いたしました」

 

ジュリオの後ろにあるスクリーンに、次元航行船の発着場の写真と犯人グループが使用していると思われる次元航行能力を持つ輸送船の写真が掲載された。

 

「現在本局の別働隊が、密かに犯人グループがチャーターした輸送船の監視を行っています。それによりますと、犯人グループはすでに盗品の積み込みを開始している状況でして、時間的余裕は余り無いものと推察されます。そこで‥‥」

 

再びスクリーンの写真が変わった。

 

今度はジュリオがたてた作戦内容が発表された。

 

それは、以下のような内容だった。

 

「まず、犯人グループがチャーターしている輸送船に局員を一名、コンテナの中に潜入させ、輸送船に送り込みます。そして、輸送船内部において、犯人の数と行き先を突き止めてもらいます。その後、本局の次元航行艦隊が輸送船に強襲接舷し、武装隊が犯人を鎮圧、逮捕いたします。尚、突入のタイミングから潜入した局員はしばらくの間、コンテナ内部に待機しておいて下さい。コンテナから出るタイミングは此方から指示を出します」

 

ジュリオは作戦の内容をスクリーンに映った作戦内容を指揮棒で指しながら説明していく。

 

「なお今回、輸送船に潜入してもらう局員ですが、108部隊のギンガ・ナカジマ陸曹に任命します」

 

「「「なっ!?」」」

 

潜入する局員の名前にギンガがあげられ、108部隊の面々は一瞬フリーズする。

 

「続きまして突入部隊の指揮ですが‥‥」

 

ゲンヤ達の事を無視して話を進めていくジュリオ。

 

そんなジュリオに対し、ゲンヤは、

 

「ま、待って下さい!!」

 

突如、声をあげ、異議を唱える。

 

「何ですかな?ナカジマ三佐?」

 

話の腰を折られ、ジュリオは少し不機嫌そうな顔でゲンヤを睨む。

 

「何故、潜入する局員が108部隊(うち)のギンガなのですか!?」

 

「これは合同捜査です。当然108部隊さんからも人材を提供してもらわなければ困ります」

 

「ですが!!」

 

「危険かもしれない役に娘を使いたくない‥親としては当然の思いですが、仕事の最中で公私混同をしないで頂きたい。彼女も局員として入局したからには当然そういった危険も承知の筈‥‥まさか、親が局員だから自分も局員になるなんてそんな安易な考えで、管理局に入局したわけではありますまい?」

 

「そ、それは‥‥で、では、せめて潜入する局員の数をもう少し増やして貰いたい」

 

ギンガ一人ではあまりにも危険だと言う事でゲンヤは潜入する局員の数を増やしてほしいと要請するが、

 

「潜入捜査は少数で行うのが基本です。人数を多くすれば、それだけ、犯人に気づかれ、作戦自体が失敗し、局員の生命に危険が及ぶ可能性が高いですから」

 

と、ゲンヤの要請はあえなく却下された。

 

「ですが、やはり犯人を確実に確保するのであれば‥‥」

 

しかし、ゲンヤとしても娘の命が掛かっていりため、必死だった。

 

だが、結果は覆ることはなく、潜入する局員はギンガ一人となり、増員も認めないという結果に終わった。

 

 

作戦開始前、108部隊にギンガとスバルの身体を定期的に診断してくれているマリエル・アテンザ技術官が訪れた。

 

ギンガとスバルのナカジマ姉妹は、見た目こそ、普通の人間だが、その実、父親のゲンヤとは血が繋がっておらず、ゲンヤの妻であり、既に鬼籍に入っているクイント・ナカジマのクローン体だったのだ。

 

どういう経緯でギンガ達姉妹が生まれた経緯は未だに不明だが、当時、ギンガとスバルが収容されていた研究所をクイントが所属していた管理局の武装隊が摘発し、ギンガ達を保護、その後の診断でギンガ達姉妹が自分(クイント)の遺伝子を元に造られたクローン体であることが判明し、クイントは二人を養子としてナカジマ家に向かい入れた。

 

それから二年後、クイントが所属する武装隊はまたも違法研究所の摘発を行うが、その情報が敵側に事前に漏れていた様で、その結果、摘発は失敗し、クイントを始めとする部隊の隊員全員が殉職するという悲劇的最後を迎えた。

 

ギンガは母の意思を継ぎ、管理局に入局し、妹のスバルは十一歳の時、空港で起きた火災事故にギンガと共に巻き込まれ、そこで現在も管理局のエースと呼ばれる高町 なのは に救助され、自分も人を助ける仕事に就きたいと姉のギンガに続き管理局へと入った。

 

「ギンガ、コレを持って行って」

 

と、マリエルは待機状態のデバイスをギンガに渡した。

 

「コレは?」

 

「本当は六課に出向してから渡そうと思ったんだけどね。今回の任務が危険な任務だけに少しでも役立ってもらえればと思って」

 

「ありがとうございます」

 

ギンガは礼を言ってマリエルからデバイスを受け取った。

 

先程ゲンヤとギンガの話していた通り、ギンガは今年の四月から先程名前があがった八神 はやて が新設する機動六課に出向が決まっていた。

 

はやてはギンガとスバルが巻き込まれた空港火災から災害現場に迅速に対応できる部隊、さらにレリックとよばれる古代遺物の回収・管理を主とし、それを狙う広域指名手配犯、ジェイル・スカリエッティの逮捕を目的とする試験部隊、機動六課の発足を目前にしていた。

 

そしてその六課の隊長陣の中には、空港火災でギンガを救助した執務官フェイト・テスタロッサ・ハラオウンもいた。

 

本来ならば執務官の下には執務官補佐がおり、フェイト自身も執務官補佐がいるのだが、フェイトの補佐であるシャリオ・フィニーノ一士は執務官補佐の資格以外にデバイスのメンテナンス資格を持っており、六課では執務官補佐ではなく、デバイスのメンテナンス担当となり、フェイトの補佐には顔馴染みであり、捜査官資格を持つギンガが抜擢されたのだった。

 

つまり、今回の任務がギンガにとって108部隊では最後の仕事と言うわけだった。

 

しかし、この時ギンガ本人も108部隊どころか管理局員としての最後の仕事になるとは思ってもみなかった。

 

マリエルから新型のデバイスを受けったギンガは用意されたコンテナの中へと入り、そのコンテナは窃盗団がチャーターしている輸送船に潜り込ませることに成功した。

 

ギンガはコンテナ内部で不安と恐怖を拭うように待機状態の新しいデバイス『ブリッツ・キャリバー』をギュッと握る。

 

やがて、コンテナがゴトっと少し揺れると、輸送船の機関音が聞こえてきた。

 

犯人グループが輸送船を出港させたのだ。

 

轟々と轟くエンジン音が響く中、身体にフワッとした浮遊感をギンガは感じた。

 

輸送船が漸く浮上し始めたのだ。

 

これで後は頃合いを見て、コンテナから出て、この船の行き先を突き止めれば自分の任務は達成されるのだが、ここからが大変なのだ。

 

コンテナから出ればそこには犯人グループが大勢いる可能性がある。

 

捜査会議にて、犯人グループの人数は聞いていたが、それはあくまで、推定の人数で、この輸送船に何人乗っているか正確な人数が分かっていないため、行先を突き止めるのも一苦労だ。

 

輸送船が浮上してどれだけの時間が過ぎただろう?

 

一向に本部からは連絡が入ってこない。

 

ギンガはやむを得ず、バリアジャケットをセットアップし、独断でコンテナの外へ出た。

 

コンテナが収納されている貨物室には見張り役はおらず、轟々と機関音だけが鳴り響いている。

 

ギンガは念の為、盗品を確認しようと、別のコンテナの中を開けると、そこには何も入っていない空っぽのコンテナがあるだけだった。

 

「えっ?空っぽ?そんな筈は‥‥」

 

空っぽのコンテナを見てギンガは首を傾げた。

 

確かに捜査会議の時、盗品を積み込んでいるとあの執務官はそう言った。

 

それに配られた捜査資料でも窃盗団が盗んだ美術品やロストロギアはかなりの数だ。

 

そこで、ギンガは更に別のコンテナを開けてみると、そのコンテナもやはり何も入っていない空っぽのコンテナだった。

 

「おかしい‥‥」

 

そう思いつつ、ギンガは貨物室にあるコンテナを片っ端から開けて調べた。

 

すると、貨物室にあったコンテナ全てが空で、盗まれた美術品もロストギアも一つも無かった。

 

一抹の不安とこの奇妙な状況に不審を抱きつつ、ギンガは貨物室を後にして、輸送船の上層部へと昇り始めた。

 

通路を警戒しつつ進んでいくとそこでも奇妙な事に気が付いた。

 

犯人グループのメンバーを誰一人、見ていないのだ。

 

これだけ船内を歩き回っても犯人の姿どころか人の話し声も聞こえない。

 

いや、周囲に人の気配さえ感じない。

 

今思えば貨物室でコンテナを調べている時も犯人達は見張りはおろか巡回にさえ来なかった。

 

だからこそ、貨物室のコンテナを全て調べる事が出来たのだ。

 

「まさかっ!?」

 

ギンガは慌てて輸送船のブリッジへと向かった。

 

ブリッジへ向かう途中、もはや足音など気にせず、走ったが、やはり、犯人グループのメンバーは誰一人現れなかった。

 

輸送船のブリッジへ駆け込んだギンガの目には、誰もいない無人のブリッジの光景が広がっていた。

 

航海機器に目をやると、航路は全て自動でセットされていた。

 

ギンガはこの摘発が事前に犯人たちに情報が漏れていただと気づき、急ぎ本部へ連絡を入れたが繋がらない。

 

「ど、どうして?船に乗る前はちゃんと使えたのに‥‥」

 

渡された通信機が繋がらず、次にギンガはデバイスに搭載されている通信機機能も使ったが之もダメ。

 

この時、ギンガは『貰ったばかりのデバイスだからちゃんと設定されていないんだ』と思い次に輸送船に搭載されている通信機で交信を試みた。

 

ギンガは捜査官資格の他に二級通信士免許も有しており、この時ばかりは通信士資格をとっておいて良かったと思った。

 

早速通信機を操作するが、どのチャンネルを開いてもスピーカーからはガー、ピィーと言うノイズが聞こえるだけで、この船の通信機も使えそうにない。

 

「落ち着け、落ち着くのよ、ギンガ‥‥」

 

必死に冷静さを取り繕うギンガ。

 

こういう時パニックになるのが最悪の状況を引き起こすのだと、父や上司であるカルタスから何度も言われてきた。

 

幸いこの船にはギンガしか乗っていない為、犯人から襲われる心配はない。

 

それにこの作戦は次元航行艦による強襲が行われる作戦だ。

 

もうじき、味方の次元航行艦が来てくれる。

 

彼らに救助してもらいその時に犯人に此方の情報が漏れていた事を報告しよう。

 

そう思いギンガは味方の次元航行艦が来てくれるのを待った。

 

しかし、味方はいつまで待っても味方が来る気配が無い。

 

通信機が壊れ、こちらと連絡がつかない為、突入を渋っているのかもしれないと思い始めたその時、

 

グラッ

 

ドゴオオオオォー

 

突如、輸送船が異常振動を起こし始めた。

 

「な、なに?」

 

ブリッジの手すりに掴まりながら何が起きたのか不安げに辺りを見回すギンガ。

 

すると、船内に警報音が鳴り響く。

ギンガが慌ててブリッジにあるコンソールを操作すると画面に船全体を表した画像が表示された。

 

それによるとこの船の機関部にて、異常なまでのエネルギー反応が検出された。

 

「これってまさか、ロストギアの暴走時に起こる次元振動!?」

 

輸送船を襲う振動は益々、激しくなり、

 

「キャアッ!!」

 

遂にギンガはバランスを崩し、

 

「ぐっ‥うっぅぅぅ~‥‥」

 

壁に頭を強く打ち、そのまま意識を失った。

 

ギンガが乗った輸送船の後方に管理局の次元航行艦が一隻航行していた。

 

それは、本来犯人鎮圧・逮捕のため本局の武装隊が乗っている艦であった。

 

その艦には武装隊の他に今回の作戦の総指揮を執っているジュリオとゲンヤが乗っていた。

 

ゲンヤはギンガからの連絡を今か今かと待っていた。

 

しかし、ギンガからの連絡は一向に入ってこない。

 

やがて、オペレーターがある報告をしてきた。

 

「輸送船周辺に次元震反応を確認!!」

 

「何っ!?」

 

「範囲が広がっていきます!!」

 

「全速後進!!急いで輸送船から離れろ!!」

 

ジュリオの命令を聞いたゲンヤは、

 

「ま、待ってくれ!!あの船にはまだギンガが‥娘が乗っているんだ!!今すぐ接舷して救助を!!」

 

「無茶言わないでください!!そんな事をすれば我々まで次元震に巻き込まれてしまう!!死にたいんですか?」

 

「アンタが立てた作戦だろう!?このままギンガを見殺しにする気か!?」

 

思わずジュリオの胸倉を掴むゲンヤ。

 

「お言葉ですが彼女からの連絡が未だに入ってこない以上、恐らく彼女は此方が指示を出す前に独断で動き犯人グループに見つかり交戦し、その結果近くにあったロストギアが魔力に反応に次元震を起こし始めたのでしょう。あれは彼女自身が招いた結果です」

 

「て、テメェ‥‥」

 

この言葉をきっかけにゲンヤの我慢も限界で、後の処分何て関係ない。

 

この生簀かねぇ執務官の面に思いっきり拳を打ち込んでやろうとした時、

 

「輸送船周辺の次元震反応止まりません!!次元震衝撃波来ます!!」

 

「総員衝撃に備えろ!!」

 

艦長がそう叫ぶと、物凄い振動がゲンヤ達の乗る次元航行艦を襲った。

 

「うわぁ!!」

 

「ぬおっ!?」

 

立っていたゲンヤとジュリオもバランスを崩し、床に叩き付けられた。

 

「いててててて‥‥はっ!?そうだ!!船は!?ギンガは!?」

 

ゲンヤは慌てて倒れていた床から起き上がると、ブリッジの窓から眼前にいるであろう輸送船を見た。

 

しかし、そこにはギンガ乗る輸送船の姿はなく、静寂と化した星の海があるだけだった。

 

「あっ‥‥ぎ、ギンガ‥‥」

 

輸送船の姿が無い事にゲンヤは膝から崩れ、目尻に涙を浮かべた。

 

「輸送船は!?」

 

ジュリオが慌ててオペレーターに輸送船の行方を尋ねると、オペレーターは申し訳なさそうに、

 

「あの規模の次元震ですから、恐らく巻き込まれて消滅したものではないかと‥‥」

 

「そうか‥‥」

 

オペレーターの報告を聞き、ジュリオは人知れず、口元をニヤリと緩めた。

 

「艦長さん、頼む!!どうか、周辺を捜索してください。ギンガは‥娘はきっとまだ生きています!!我々の救助を待っているんです!!お願いします!!」

 

ゲンヤの方としてはギンガ(娘)の事を諦めきれず、この艦の艦長に何度も頭を下げ、ギンガの捜索を依頼するが、

 

「周辺には船影もエネルギー反応も感知できません。残念ですが、ご息女は、もう‥‥」

 

艦長はすまなそうにゲンヤに残酷な現実を突きつけた。

 

艦長のこの言葉にゲンヤはガクッと項垂れた。

 

「誰か、ナカジマ三佐を部屋へ」

 

艦長の配慮でゲンヤは用意されていた士官室へと運ばれた。

 

妻に続き、娘までも亡くしたという失意のまま、ゲンヤはミッドへと帰還した。

 

それからすぐに、地上本部のレジアス・ゲイズ中将から、今回の案件は『捜査中に不慮の事態により行方不明』‥‥すなわち、『未確認であるが、殉職として認定』、と言う処理が下された。

 

 

ミッドチルダ 首都 クラナガン 機動六課 隊舎

 

「う、嘘ですよね?八神部隊長‥ギン姉が‥ギン姉が殉職の認定を受けたって‥‥ギン姉が死んだなんて‥‥」

 

既に六課の隊舎入りしていた妹のスバル・ナカジマは部隊長の八神 はやてからギンガの殉職認定ついて報告を受けた。

 

はやての言葉をスバルは驚愕した表情で聞いている。

 

「ホンマや‥‥さっき、地上本部から直々に連絡が入ったから間違いあらへん」

 

深刻な表情ではやてはスバルに真実を教えた。

 

もっともはやて自身、直接その目で現場を見てきたわけではないので、本局と108部隊からの報告書に基づく事実であるが信憑性があるものだった。

 

しかし、報告を見る限り、ギンガの殉職‥それは動かしがたい事実である。

 

「本局や地上本部からの報告書、ナカジマ三佐の話によると108部隊の管轄内でロストギアや美術品の窃盗事件が多発していてなぁ、その犯人グループは次元世界をまたにかけた大規模な窃盗団で、その逮捕のため、本局と108部隊が合同捜査を行って、犯人がチャーターした輸送船に潜入したギンガから連絡がつかなくなり、その直後、その輸送船の近くで次元震反応が起きて、ギンガはその輸送船諸共消滅したって‥‥」

 

「うぅ~ギン姉ぇ‥‥」

 

はやての報告を聞き、スバルは目に涙を浮かべた。

 

しかし、彼女の不幸はこれだけじゃ終わらなかった。

 

翌日、朝食の席で、食堂に設置されていたテレビで早朝にも関わらず、昨日の事件についての記者発表があり、その席には事件の総指揮を執ったジュリオの姿があった。

 

スバルは茫然とした表情でテレビを見ていた。

 

姉を失った悲しみが抜けないまま、食堂に来たのは、ギンガ同様、スバルも真面目な性格の為、仕事はちゃんとしないと‥‥と思い、まずは、朝食をという事で食堂に来たのだ。

 

チームメイトのティアナ・ランスターはそんなスバルの様子を心配そうに見ていた。

 

訓練校からの付き合いであったティアナでさえ、ここまで落ち込んだスバルの姿を見るのは初めてだったからだ。

 

やがてテレビの画面の向こうで記者会見が行われた。

 

記者たちは早速、ジュリオに今回の事件で局員一名が殉職したことについて、作戦内容が悪かったのでは?と指摘したが、それに対しジュリオは今回の事件に関し、作戦も途中までは全て順調で間違いなど何一つないと断言し、今回の作戦の失敗の原因は全てギンガの独断専行によるものだと、記者の前で堂々と宣言した。

 

その宣言にスバルは俯いていた顔をバッとあげ、憤慨した。

 

さらにジュリオはギンガを無能呼ばわりし、カメラの前で堂々とギンガの名誉を酷く傷つけた。

 

その様子はまさに死人に口なし状態だった。

 

事実その記者会見場で彼に反論する者は居なかった。

 

ゲンヤでさえ、この記者会見は寝耳に水で、今放送されているテレビ放映で初めて知ったのだ。

 

そして記者たちはギンガが遭難した現場を見ていない。

 

そのため、ジュリオが話す事が今回の事件の事実とマスコミはそう受け止めた。

 

ジュリオがテレビの中で、ギンガの事をぼろ糞言っている中、スバルは等々我慢できずに、

 

「違う‥‥違う!!ギン姉は‥ギン姉は無能なんかじゃない!!全部出鱈目だ!!」

 

と、テーブルをバンッ!!と叩き、食堂に響く大声を上げた。

 

「スバル‥‥」

 

「「スバルさん‥‥」」

 

FW陣のキャロ・ル・ルシエとエリオ・モンディアルは大声をあげているスバルを心配そうに見つめ、スバルの訓練校からの相棒であるティアナは今のスバルの気持ちが痛いほど良く分かった。

 

彼女自身も十歳の頃、唯一の肉親であり、管理局員でもあった兄、ティーダ・ランスターが事件の捜査中、追跡中の犯人の手によって殉職し、葬儀の会場で、しかもティアナの目の前で当時の兄の上司達から散々「無能だ!!」「我が隊の恥だ!!」等と罵倒を受け、著しく名誉を傷つけられた。

 

その時の自分の姿が今のスバルと被って見えた。

 

ティアナは、激しく動揺し、大声をあげ、泣きじゃくりかけたスバルの頬を叩き、

 

「スバル、メソメソしている暇は無いわよ!!こうなったら、アンタがギンガさんの名誉を回復させるのよ!!」

 

「あ、アタシが‥‥?」

 

「そうよ。此処(六課)で手柄を立てて、ギンガさんをバカにしたアイツを見返してやるのよ!!」

 

ティアナは未だにギンガの名誉を傷つけているジュリオを指さす。

 

「ティア‥‥うん!!必ずギン姉の名誉を回復してみせるよ!!ギン姉は無能なんかじゃいって事をアタシが証明してみせるよ!!」

 

「だったら、いつまでもメソメソしている暇はないわよ。まずやるべき事はしっかりとご飯を食べること!『腹が減っては戦ができぬ』って、あんたのお父さんの口癖だったでしょう!?この後の訓練に備えて今は無理してでもお腹に入れなさい!」

 

「うん!!」

 

親友の叱咤を受け、スバルは無理矢理、朝食である特盛のパスタとサラダを掻き込んだ。

 

そして食べ終える頃にはスバルも幾らか落ち着きを取り戻した。

お互い似た者同士。

 

不器用ながらも此処(六課)で手柄を立て、家族の名誉を回復せんと、若きストライカ―達は、今日も前を進んで行く事だろう。

 

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