星の海へ   作:ステルス兄貴

121 / 294
百十二話 司令部襲撃

 

 

暗黒星団帝国、聖総統側近のサーダが繰り出した三つの罠、そしてグロータスをはじめとする大勢の同胞の仇討ちに意欲を燃やす暗黒星団帝国が誇る猛将、サーグラス大将からの挑戦を受けてサーグラス率いる艦隊をも破った地球艦隊。

 

 しかし、サーグラスは残存艦を率いて撤退する際、今までとは異なりワープによる航跡を消してから撤退していった。

 

 これにより地球艦隊は敵の本星への手掛かりを失うことになった。

 

 この白色銀河のどこかに敵の本星があることは間違いないのだが、太陽系がある銀河とほぼ同じ大きさの銀河系から手掛かりなしで星一つを捜すのはあまりにも無茶苦茶である。

 

 一体どれだけの時間がかかるのか計算するのもあほらしい。

 

 だが、このまま地球を見捨てるわけにもいかない。

 

 地球艦隊はあてもなく敵の本星を求めて白色銀河を彷徨うことになった。

 

 しかし、やみくもに探しても物資やエネルギーを無駄に消耗するだけである。

 

 そこで、地球艦隊はコスモタイガー隊による偵察を行った。

 

 その偵察任務には真田とトチローが三席タイプのコスモタイガーを改良した偵察機型コスモタイガーの初陣となった。

 

 

 ヤマトに搭載された偵察機にはパイロットが山本、レーダー員には椎名が搭乗した。

 

 普段、コスモタイガーに搭乗してもこうして同じ機体に一緒に乗る機会なんて滅多になく、山本と椎名がコンビを組んだのはこれが初めてであった。

 

 同じコックピットに居る中で、山本は椎名が訓練学校時代にパイロットコースとレーダー員コースを並行で受講していたことを椎名本人の口からきいた。

 

 北野とギンガも椎名の様に様々なコースを受講していた。

 

 椎名からパイロットコースとレーダー員コースを並行受講している話を聞いて山本は、なぜ、レーダー員ではなくパイロットを選んだのかを訊ねる。

 

 椎名は女性ながら、十分にパイロットの素質は妹の玲同様、あったが正直に言ってパイロットは出世コースではない。

 

 守や良馬の時はガミラスとの戦争があったので、共に艦の長になれた時代背景があるが普通ならば精々飛行隊の隊長か飛行科の教官あたりだ。

 

 椎名は当初、レーダー員を希望していた。

 

 だが、彼女は今、こうしてコスモタイガーのパイロットになっている。

 

 椎名がレーダー員ではなく、なぜパイロットを選んだ理由を話そうとした時、レーダーに反応があった。

 

 確認のため、その惑星反応がある方向へと向かうとそこには恒星もない空間に惑星が一つ存在していた。

 

 太陽系からマゼラン星雲の中間地点に存在しているバラン星と同じ、恒星の周囲を回っていない単独惑星だった。

 

 長い時間をかけて恒星の重力圏から出て宇宙を放浪している単独惑星かと思われる星‥‥

 

 今の自分たちと同じような星だった。

 

 山本はこの星に敵の基地や要塞が建設されているかもしれないとこの放浪惑星を探査した。

 

 しかし、この星には敵の基地も要塞はなく完全な無人の惑星で、地表からは時々マグマが噴き出す危険な星だった。

 

 だが、敵の基地はなかったが敵の空母が存在していた。

 

 しかも、その空母には先の戦いでサーグラスが投入していた新型爆撃機の反応があった。

 

 おそらくこの放浪惑星相手に搭乗員の演習か訓練でもしていたのだろう。

 

 今の地球艦隊はコスモタイガーが全て出払っている。

 

 通信を入れようにもここから地球艦隊までは圏外‥‥

 

 圏内に戻って、味方に通信を入れるにしても時間がかかりすぎる。

 

 その間に敵の空母が地球艦隊へ迫る恐れもある。

 

 そこで、山本は一機ながらも敵へと挑んだ。

 

 やはり、敵は搭乗員の演習中だったみたいで、敵機のパイロットの腕は正直に言っていまいちであり、ガミラス、ガトランティスを戦い抜いたエースパイロット、山本明夫の敵ではなかった。

 

 しかも搭載されていた艦載機の数も少なかった。

 

 しかし、流石に空母本体は偵察型のコスモタイガーで撃沈させることは無理なので、あの空母が撤退するか、地球艦隊に対処してもらうことにした。

 

 だが、退避中にエンジンに被弾してスピードが落ちた。

 

 このままではいずれ追い付かれると思ったが、山本は放浪惑星のマグマの噴射を利用して、空母をマグマの噴射地点まで誘導し、空母をマグマの噴射で撃破した。

 

 敵を撃破したが、艦載機との戦闘前に上部に装備していたレーダードームをパージして、機体も被弾したことから、山本は偵察任務を切り上げ、戻ることにした。

 

 その際、戦闘前に椎名がなぜ、レーダー員ではなくパイロットになったのかを山本に語りだした。

 

 彼女は訓練学校卒業後にレーダー員の研修中に実戦配備されたパトロール艦がガトランティスの艦艇に襲撃された。

 

 椎名を含め、艦の乗員はもう撃沈されるのではないかと思った時、コスモタイガー隊が来て、敵を撃破し自分たちを救ってくれた。

 

 そして、それがきっかけで椎名はレーダー員ではなく、パイロットになったのだと言う。

 

 椎名がそこまで語ると彼女は顔を苦痛でゆがめる。

 

 この時、彼女は空母を撃破した際のマグマの爆発時にショートした計器の破片がいくつか体に食い込んでいた。

 

 しかもコスモタイガーは酸素タンクまで被弾していた。

 

 メインエンジンが被弾しているせいで、スピードが出ない。

 

 残る酸素の量は一人分で三十分‥‥

 

 しかし、今は二人乗っている‥‥

 

 よって、機体に残っている酸素の量は一人十五分‥‥

 

 予備の小型酸素ボンベを使っても十分‥‥

 

 現在位置からヤマトまで四十分かかる。

 

 そこで、椎名はイチかバチかの賭けで、インシュリンを使って自らを仮死状態にして、酸素の消費量を減らして、ヤマトへ帰還する旨を山本に伝える。

 

 彼女はレーダー員、パイロットコースの他に医療コースも受けていた。

 

 そして、椎名はそれを実行した‥‥

 

 酸素がゼロになるギリギリで、山本はヤマトへと帰還して椎名も一命を取り留めた。

 

 その後、坂本から椎名がレーダー員の研修時に乗り込んでいたパトロール艦が渦潮だったことを聞いた。

 

 パトロール艦、渦潮はヤマトがテレザートからの帰りにカイパーベルトで助けた艦で、渦潮を襲撃していたガトランティスの艦を撃破したのが、山本のコスモタイガー隊だったことを知った。

 

 山本は今回の件にて、意外な椎名の一面と、隠された彼女の過去を垣間見たのであった‥‥

 

 

 地球艦隊が敵本星の位置を掴むため、四苦八苦している中、地球では大きな動きがあった。

 

 それは、例の新型戦車の製造プラントを破壊してからすぐの事だった‥‥

 

 アルフォンが宿舎として使用している館に憲兵隊がやってきた。

 

「アルフォン少尉‥‥貴方に総司令部への出頭命令が下りました。ご同行を‥‥」

 

「分かった。ご苦労様です」

 

 憲兵隊大佐、メイトリックが、アルフォンに司令部への出頭を促し、アルフォンは、それに従った。

 

 そして、アルフォンは地球占領軍司令部(防衛軍司令部)の会議自室にて、総司令官、カザンから、先日の新型戦車製造プラントの件について尋問を受けた。

 

 アルフォンのすぐ後ろにはメイトリックの姿もあり、アルフォンとカザンのやり取りを見ていた。

 

「――――では、君は工場の破壊工作をまったく阻止できなかった‥‥いや、阻止しようとすらしなかったわけだな?その場に居たにもかかわらず‥‥」

 

「‥‥」

 

 あの時、確かにアルフォンは警備兵と共に戦いに参加せずに雪と共に製造プラントから脱出した。

 

 アルフォンは行動を共にしていた雪を戦いに巻き込みたくないと言う思いがあった。

 

 また、警備にあたっていた兵士たちも司令部からの監査に来たアルフォンを戦死させたり、負傷させては自分たちの責任問題に発展するかと思い、彼を逃がしたのだ。

 

 もっともその警備兵たちも今は生き残っておらず、案内役だった一人以外全員が戦死している。

 

 アルフォンはその案内役の兵士の名誉のために、弁解することなく、ただ沈黙を貫いている。

 

「おめおめと逃げ帰ってきおって!!貴様もあの新型戦車の製造がどれだけ重要かわかっておろう!!艦隊はヤマト討伐のために駆り出され、その四割近くが本星へと帰らねばならない羽目になってしまっておるのだぞ!!」

 

 現在の地球占領軍の戦力は地球襲来時に比べると見劣りするほど、戦力ダウンしている。

 

「地上での静止力を確保できねば、忌々しいパルチザンどもを一掃できんではないか!!」

 

 頼みである艦隊が不在と言うことで、軌道上からの艦砲射撃は事実上不可能となり、パルチザンに睨みを利かせる力の不在は占領軍にとっても痛い。

 

 その為に新たな抑止力としてあの新型戦車を製造したのだが、その製造プラントは破壊され、占領軍は再び抑止力を失った。

 

「‥‥」

 

「それに、アルフォン少尉‥‥最近は地球人の女に現を抜かしてるそうじゃないかね‥‥?」

 

「‥‥」

 

 カザンから雪の事を言われて、ピクっと眉を動かすアルフォン。

 

「否定せぬか‥‥いい心がけだ。だが、貴様のような奴に指揮権を渡したのが間違いだったわ‥‥地球占領軍総司令官の特権により、貴様の地位をはく奪する!!‥‥その後の処置については考えておこう。本星の判断次第だが、よくて銃殺か永久追放‥‥あるいは、ニッケル詰めにして超重力惑星へ放り出されるか‥‥とにかく、しばらくの間、謹慎して、判決を待っておるのだな‥‥連行せよ!!」

 

 確かに破壊阻止をできなかった点については現場指揮官であったムノーの責任であるが、彼が戦死してしまった以上、誰かが責任を負わねばならない。

 

 本来ならば、カザンも降格ぐらいの責任は負わねばならぬところをたまたまその日、現場視察に居たアルフォンにカザンは新型戦車の製造プラントの破壊の件について、すべての責任を押し付け、自らの地位の保身を図った。

 

 仮処分を言い渡したカザンはアルフォンを留置場へと連行するように命ずる。

 

 会議室を出て通路を歩いている中、

 

「こんなことになって残念だわ、アルフォン少尉‥‥アルフォンちゃんは、兵士、下士官には気遣ってくれる良い士官なのに‥‥私からもなんとか刑罰が軽減されるように、カザン総司令に嘆願してみるから‥‥」

 

「大佐‥ありがとうございます‥‥しかし、製造プラントを守れなかったことは事実ですから‥‥お気遣いだけ、ありがたく頂戴します」

 

「アルフォンちゃん‥‥」

 

 こうして、アルフォンは本星からの沙汰が下るまでその身柄を拘束されることになった。

 

 そして、時を同じくして、パルチザンはいよいよ占領軍の本丸‥‥地球防衛軍司令部の施設の破壊に着手した。

 

 これについては藤堂や西郷たち、防衛軍司令部の幹部も容認した。

 

 占領軍の司令はここから各国へと指令されている。

 

 ここを叩けば、占領軍の指揮系統は大きく乱れる。

 

 あわよくば、司令部要員を捕虜または斃すことができれば、なお占領軍の指揮系統を混乱させることが出来る狙いがあった。

 

「スペード1だ」

 

「ハート1、準備完了です。それよりも本当にそちらは三人で大丈夫なんですか?」

 

 宗像が心配そうに訊ねる。

 

 今回の司令部襲撃に関しては、北野、古野間、ティアナの三人だけで、あとの部隊は陽動となっている。

 

 しかも三人はあの戦闘スーツを着用していない。

 

「ああ、レーダー・通信中枢は警備が厳しい‥‥多数で乗り込んでも被害が拡大するだけだ‥‥それにあの大きさの戦闘スーツでは、入り込めないところもあるしな‥‥」

 

 古野間は大人数でいけば、それだけ味方の損害が大きくなるので少数精鋭で行くことにした。

 

 また、室内では戦闘スーツで入り込めないところがあるので、未着用となった。

 

「見つからないように忍び込んで内部から破壊するしかない‥‥」

 

「了解、わかりました‥‥三脚戦車の駐屯所はこっちに任せてください。そちらに目がいかないように思いっきり掻きまわしてみせます」

 

 反対に宗像たち陽動部隊の方にはあの戦闘スーツが回され、敵の目が司令部へといかないようにする手筈となった。

 

「よし、頼む。さて、北野、嬢ちゃん、行こうか?」

 

「はい‥‥ランスターさんは司令部の内部構造は大丈夫ですか?」

 

「大丈夫です。事前に地図を何度もみましたから」

 

 一応、端末に司令部の地図はインプットされているが、事前の下準備は完璧だとティアナ言う。

 

 ティアナの返答を聞き、北野は頷く。

 

 そして、どす黒く曇った空の下に聳え立つ防衛軍司令部の庁舎を見上げる。

 

「地球防衛軍本部か‥‥まさか、ここに忍び込むことになるなんて、昔なら夢にも思わなかったでしょうね‥‥」

 

「フッ、まったくだな‥‥」

 

 北野や古野間が少し前なら平然と正面玄関から出入りできた防衛軍の司令部に今度はコソ泥みたいに侵入し、内部の施設を破壊するテロ行為を行うことになんとも考え深いものを感じる。

 

 三人は地下駐車場の入り口からまず侵入する。

 

「もう一度、図面地図を確認しましょう」

 

 端末で司令部の地図を表示し、これからの作戦行動を確認する。

 

「おそらく、エレベーターはパスワードが書き換えられて使えません」

 

「となると、この階段を使わないと上には行けませんね」

 

 北野がエレベーターは使用不可である可能性を示唆し、上の階に行くには階段を使用しなければならない。

 

「レーダー・通信中枢は‥‥確か。四階の奥か‥‥結構登らなきゃならんか‥‥しかし、ここを破壊できれば、司令部と上空の艦隊、各国の占領軍の司令部との連絡がつかなくなるはずだ」

 

「とにかく、見つからないように進みましょう」

 

 ここは占領軍の司令部‥‥当然、警備もそれなりにあるはずだ。

 

 見つかって包囲されたら、あっという間に全滅だ。

 

 慎重に進まなければならない。

 

 三人は物陰に隠れ、敵兵をやり過ごしながら階段へと向かう。

 

 地球全体がAMFで満たされているので、魔法は長時間の使用は出来ないが、それでもティアナはクロス・ミラージュに周囲の探知を行わせた。

 

 古野間は時折、通路を歩いて巡回している兵士の背後から襲い掛かり、手で敵の兵士の口を塞いでナイフで首を掻っ切って敵兵を絶命させる。

 

 しかし、階段口で敵の兵士が立ち番をしていた。

 

 このままでは階段へ行くことが出来ない。

 

 だが、見つかり警報を鳴らされたら敵兵がわんさかと溢れてくる。

 

 ティアナは物陰から立ち番の兵士の頭に狙いを定めて一発で仕留める。

 

「なかなかやるじゃないか、嬢ちゃん」

 

 敵の兵士を一発のヘッドショットで斃したティアナを褒める古野間。

 

「先生が良かったですからね」

 

「そりゃどうも」

 

 実際に射撃型魔導師で射撃センスがあるティアナであるが、本格的なコスモガンの扱いはパルチザンに入ってから古野間と北野から教わった。

 

 その他にも魔法を使用しない生身だけでの近接戦闘術も空間騎兵である古野間直伝である。

 

 そのため、魔法を使わない格闘技だけならば、ティアナはなのははもとよりスバルやノーヴェとだっていい勝負が出来るかもしれない。

 

 ティアナと古野間は互いに軽口をたたきながら、階段へと向かう。

 

 幸い階段には敵の兵士はおらず、三人は無事に四階へとたどり着く。

 

 そして、エレベーターホールに来た時、司令部に警報が鳴り響く。

 

「見つかったんでしょうか?」

 

「いや、おそらくハート1だ。戦車の駐屯所の襲撃が上手くいったんだろう」

 

「それよりもここはエレベーターホールです。あまり長居をしていると敵に見つかります」

 

「そうですね、急ぎましょう」

 

 三人は目的地であるレーダー・通信中枢を目指す。

 

「この部屋だな」

 

「ここを壊すとどちらにしても警報が鳴ります。覚悟はいいですか?」

 

「はい」

 

「おう」

 

 レーダー・通信中枢の扉を開けると、

 

「な、なんだ!?お前たちは!?」

 

「し、侵入者だ!!」

 

 部屋の中には当然、敵の兵士居た。

 

 古野間はロケットランチャーで、北野はレーザーライフル、ティアナはコスモガンで、部屋の中に居た敵の兵士を斃し、主目的だった設備も壊した。

 

 

「よし、これでもう使い物にはならんぞ‥‥」

 

 完全に破壊されたレーダー・通信中枢‥‥

 

 復旧するにはかなりの時間を有するだろう。

 

 だが、防衛軍の軍人である北野や古野間にとってはきっと複雑な気持ちだろう。

 

 自分たちが使っていた施設を敵に使われないようにするためとはいえ、こうして破壊したのだから‥‥

 

「こちら、スペード1、ターゲットの破壊に成功」

 

 北野は陽動部隊に主目的の破壊が成功した旨を伝える。

 

 すると、警報が再び鳴り始め、下から順に隔壁が下り始めた。

 

 誤作動なのか?それとも、敵が新たにプログラムを加えていたのか?

 

 いずれにしてもこの場にいてはいずれ包囲殲滅されてしまう。

 

 だが、往路で使用した階段も既に隔壁が閉まっており、使用不可能となっている。

 

「出口が閉鎖されてしまいましたね」

 

「ああ、登ってきた階段も閉鎖されている」

 

 ティアナと古野間は焦ったり、パニックを起こす事無く、冷静に現状を見ている。

 

 こういう時、焦ったり、パニックを起こすとより事態を悪化させる。

 

「北野さん、どうします?このままじゃ、袋のネズミですよ」

 

 ティアナは隊長である北野に指示を仰ぐ。

 

「確か奥にはもう一つ‥非常階段があるはず‥‥そこなら隔壁も閉じていないでしょう‥‥でも‥‥」

 

「敵の待ち伏せが予測されている‥‥だな?」

 

「ええ」

 

「でも、このままここにいる訳にはいかないでしょう」

 

「そうですね」

 

 三人が行動に移そうとした時、扉が開いて、

 

「いたぞ!!」

 

 敵の兵士が入ってきた。

 

「このっ!!」

 

「ぐあぁ!!」

 

 古野間が出入り口に向けてロケットランチャーを撃ち通信室に入ってきた敵の兵士を斃して三人は非常階段を目指す。

 

 通路を走っていく中、後ろから敵の兵士の声や足音が聞こえるが決して後ろを振り向かずにひたすら走る。

 

そんな中、

 

「こいつは‥‥物資搬送のエレベーター‥‥こいつなら使えるかもしれない」

 

 途中にあった物資搬送用の大型エレベーターへ乗り込むが、ここで問題が生じた。

 

「北野さん、古野間さん!!このエレベーター、上の階にしか行けません!!」

 

 そう、この物資搬送用のエレベーターは今、自分たちが居る階が始発で上にしか行けなかった。

 

「行くしかない‥‥押せ!!」

 

 どのみち、エレベーターを降りてここから非常階段を目指す時間もない。

 

 ティアナはエレベーターのボタンを押す。

 

 そして、エレベーターは上昇し、二十五階に到着する。

 

 エレベーターの前には敵が既に待ち構えている可能性が高い。

 

(クロス・ミラージュ、敵の反応は?)

 

 ティアナはこの先に待ち構えているであろう敵の数をクロス・ミラージュに訊ねる。

 

(エレベーターホール周辺に敵の反応はありません)

 

(えっ!?)

 

 クロス・ミラージュからの返答にティアナは驚いた。

 

 古野間と北野は武器を構え、エレベーターの扉が開くのを待つ。

 

 しかし、扉の前には誰も居なかった。

 

「誰も居ない‥‥?」

 

 クロス・ミラージュから聞いていたが、こうして実際に無人のエレベーターホールを見ると、なんか拍子抜けしてしまう。

 

「敵が待ち受けていると思ったが‥‥一体、どうなっているんだ?」

 

 エレベーターホールに誰も居ないことに古野間とティアナは首を傾げる。

 

「駐屯所や兵器庫が同時に襲撃されていますし、通信中枢も破壊しましたからね。敵の指揮系統が混乱しているのでしょう‥‥」

 

「じゃあ、敵が指揮系統を回復する前にここを出ましょう」

 

「そうですね」

 

「ここから非常階段の位置はどこだ?」

 

「えっと‥‥こっちです」

 

 上の階に行くと言うアクシデントがあったが、敵の追撃を振り切り、陽動部隊の陽動と通信中枢の破壊で敵の指揮系統を混乱することが出来た三人は当初の予定より、遠回りになるが、司令部からの脱出を図る。

 

 なお、敵が再び物資搬送用のエレベーターで追いかけてこないようにエレベーターは停止させた。

 

 二十五階からの非常階段を目指していると、途中、人員用のエレベーターホールにて、誰かがやってきた。

 

「しっ‥‥誰か来る!!」

 

 三人はエレベーターホールの柱の物陰に隠れてやり過ごす。

 

「ええぃ!!被害の方はまだ分からんのか!?」

 

 やってきたのは数名の士官を連れたカザンであった。

 

 声を荒げている様子から、カザンはかなりご立腹の様子だ。

 

「そ、それが、通信中枢を破壊されておりまして、各隊とも連絡がつかない状態でして‥‥」

 

「馬鹿者!!ならば、自分たちの脚で伝達せよ!!‥‥部隊をまとめ上げ、侵入してきたパルチザンを一掃するのだ!!」

 

「はっ!!」

 

「くそっ、アルフォンの奴が、戦車工場を完全に守っていればこんなことには‥‥」

 

 カザンが苛立っている訳‥‥それは新型戦車の製造プラントを破壊されただけでなく、パルチザンの行動が着々と戦果をあげていることだった。

 

 戦車製造プラントの責任はアルフォンに押し付けることが出来たが、今回の司令部の通信中枢の破壊、その他多くのパルチザンの活動においては自分の責任問題にかかわる。

 

 これ以上の失態が続けば自分は更迭されるかもしれない。

 

 やっとここまでの地位に上り詰めたのに、ここで更迭なんてされれば、不敬罪の罪を着せられて軍刑務所に収監されてしまう恐れもあるからだ。

 

いや、下手をしたら処刑される可能性もある。

 

そのため、カザンが焦るのも無理はなかった。

 

「何をしておる!!早く行け!!」

 

 カザンは士官たちに伝令へ赴くように怒鳴る。

 

「はっ‥‥では、ご報告は司令室の専用独立回線で‥‥」

 

「馬鹿者!!あの回線は私が使う!!貴様らはその脚で直接報告に来い!!」

 

「「「はっ!!」」」

 

 まだ独立した通信回線が使用可能にもかかわらず、カザンは、報告は時間のかかる伝令で行うように命令する。

 

(典型的な嫌われる上司ね‥‥)

 

 ティアナはカザンと士官たちの様子を見て、カザンは正直に言って人望がないと判断した。

 

 管理局にも能力はないのに親や身内のコネで権力を手にしている輩が大勢いる。

 

 そんな輩の多くは権力を盾に威張り散らすだけしか出来ないので、部下からの信頼は当然ない。

 

 士官たちは急ぎ現場へと向かって走っていった。

 

 敵とは言え実にご苦労なことである。

 

「そうか‥‥この階から上は、元防衛軍の司令中枢‥‥」

 

「敵もそこを司令本部に使っているって訳だ‥‥カザン総司令‥‥あれが占領軍の親玉か‥‥」

 

「どうします?追いかけますか?それとも従来通り、撤退しますか?」

 

 ティアナはここであのカザン総司令を捕虜または斃すことができれば、敵の指揮系統をなお混乱させることが出来ると思い、北野と古野間の意見を求める。

 

 今の自分たちの状況は決して有利ではない。

 

 通路の彼方此方は隔壁が閉まっており、陽動部隊の働きがあり、指揮系統が混乱しているとはいえ、あまり時間をかけると指揮系統が回復して、この司令部にも敵兵が戻ってくる。

 

 そうなれば、数の上でも戦力の上でも自分たちはかなりの不利となる。

 

 しかし、目の前に敵の総大将が居る。

 

 北野は迷ったが、このチャンスを生かすことにして、カザンを捕虜または斃すことにした。

 

 だが、司令室の前には分厚い硬化テクタイト製の防御シャッターが三人の前に立ちはだかった。

 

「こ、これは‥‥」

 

 ティアナが硬化テクタイト製のシャッターを手でコンコンと叩く。

 

「硬化テクタイトの防御シャッター‥‥銃では打ち破れませんよ‥‥」

 

「宇宙船の窓と同じ物質か‥‥銃どころか手榴弾やロケットランチャーでも壊せそうにないな‥‥カードキーがあれば開くようだが‥‥」

 

 やはり、カザンを捕虜または斃すのは無理なのだろうか?

 

 その時、陽動部隊から通信が入った。

 

「スペード1だ」

 

「こちらハート1.そちらはご無事ですか?」

 

「無事だ‥‥そっちはどうだ?」

 

「こっちはほぼ占拠完了です。兵器庫の方も順調で、あと十五分もあれば制圧できます」

 

「上出来だ‥‥」

 

「ただ、指揮官らしいのは何人か取り逃がしました‥‥」

 

「わかった。あとは予定通りに行動してくれ」

 

「了解」

 

 陽動部隊との通信をきり、ティアナが、

 

「取り逃がした指揮官はさっき見た士官の誰かでしょうか?」

 

 陽動部隊が仕留めることが出来なかった士官は先程見たカザンの側近出る可能性を示唆する。

 

「多分な‥‥連中はカザンの命令で現場に向かうように言われていたからな」

 

「となると、ここへ戻ってきますね。カザンに直接報告を入れるために‥‥」

 

「その士官なら、さっきのシャッターのカードキーを持っているでしょうね」

 

 そこで、三人はカードキーを持っているであろう士官を待ち伏せた。

 

 司令室のある二十八階のエレベーターを降りた直後、伝令に来た士官の目の前に北野、古野間、ティアナの三人が姿を現す。

 

「な、なんだ!?お前たちは!?」

 

 突然、敵が目の前に現れたことで、その士官は驚き咄嗟の対応が遅れた。

 

 バキューン!!

 

 バキューン!!

 

 バキューン!!

 

 腰にあるホルスターから銃を抜く前に士官は三人に斃された。

 

「ぐあぁ!!」

 

 ドサッ

 

 ゴソ、ゴソ

 

 床に倒れた士官の軍服のポケットをまさぐり、お目当てのカードキーを見つける。

 

「ありました‥‥カードキーです!!」

 

「じゃあ、いよいよ敵の大将と決着をつけるときですね」

 

「そういうことだ‥‥いくぞ」

 

 三人は司令室まで向かい、カードキーを使って司令室前の硬化テクタイトのシャッターを開ける。

 

「準備は良いか?隊長?嬢ちゃん?」

 

「ええ!!」

 

「はい!!」

 

「よしっ、じゃあ行くぞ」

 

 三人が司令室へと入るとカザンは司令室に備え付けの独立回線で戦車駐屯所と通信をしていた。

 

「―――そうだ!!私のところに持ってこい!!‥‥例の新型戦車だ!!」

 

「     」

 

「‥‥何?無いとはどう言うことだ!?まだもう一台、完成品があったであろうが!!」

 

 新型戦車はあの製造プラントで古野間たちが破壊した第一号機の他に試作機の零号機が第一号機と同じく稼働が可能状態となっていた。

 

 試作機とはいえ、性能は一号機と変わらぬ性能を有していた。

 

 しかし、その零号機はカザンが今、通信をいれている戦車駐屯所には無いと言う返答がきた。

 

「‥‥そこに無い!?アルフォンの管轄だと!?‥‥ぬぅぅぅ~!!急いでアルフォンを呼べ!!そうだ!!司令室に来るように伝えるのだ!!」

 

 例の新型戦車零号機の場所を知っているのはアルフォンだと言う。

 

 カザンが新型戦車の保管場所を知っているアルフォンを司令室へ連れてくるように言うと、通信先の相手からの通信が突然途切れた。

 

「‥‥おい、どうした!!応答せんか!!おい!!」

 

 カザンがいくら怒鳴っても通信が回復することはなかった。

 

「戦車駐屯所も兵器管理庫も、もう連絡はつかないぜ‥‥」

 

「っ!?」

 

 自分の背後から何者かの声がした。

 

 カザンが振り返ると、そこには自分にコスモガンを構える古野間、北野、ティアナの姿があった。

 

「‥‥パルチザンか‥‥ハハ‥‥そ、そうか‥‥もうここまで侵入してきたわけか‥‥うん‥‥ゆ、優秀だな、君たちは‥‥ハハ‥‥私の部下の兵にも見習ってもらいたいぐらいに‥‥ハハ‥‥」

 

 先程までの威厳はなく、声が震えているカザン。

 

「「「‥‥」」」

 

 今のカザンの姿には地球占領軍総司令官の威厳はなく、小物臭しかいない。

 

 そんなカザンの姿に内心呆れる三人であるが、三人はコスモガンを構える姿勢を崩さない。

 

「ま、まさか、撃ったりはしないだろうね‥‥ハハ‥‥撃ったところで、良いことなど一つもないよ、うん」

 

「「「‥‥」」」

 

 三人は無言のままカザンを睨む。

 

「ひぃっ!!た、助けてくれ!!命ばかりは‥‥」

 

 ここにきてカザンは三人に対して命乞いをしてきた。

 

「そうやって命乞いをする人をお前は一体何人殺してきたんだ?」

 

「あまりにも見苦しいわよ」

 

「チッ、こんな奴のために‥‥こんな奴のために、何人もの地球人が死んでいったとはな‥‥」

 

 一時は捕虜にすることも考えたが、眼前に居るカザンのあまりにも見苦しい態度を見て、こんな小物相手にこれまで大勢の地球人が殺されたと思うと、腸が煮えくり返る思いがあり、殺された地球人のためにもここでカザンは斃すと決めた三人だった。

 

 しかし、カザンは三人の一瞬の隙を突いて、腰に装着されていた機械のボタンを押す。

 

 すると、機械の駆動音が鳴る。

 

 三人がカザンに向けてコスモガンを撃つと、コスモガンのエネルギー弾はカザンの身体を貫くことなく消滅する。

 

「何ぃ!?」

 

「エネルギー弾がかき消された!?」

 

「フハハハハハ!!馬鹿者めが!!早く撃っておればよかったものを!!」

 

 カザンの周囲には薄紫色のシールドが張られていた。

 

「こいつは要人保護のための携帯用エネルギー偏向フィールドだ!!ネズミどもめ!!覚悟しろ!!このまま地獄へ送ってくれてやるわ!!」

 

 そう言って、ホルスターからコスモガンを抜いて、三人を銃撃してくる。

 

 あの偏向フィールドは暗黒星団帝国の銃のエネルギー弾は通すが、地球のコスモガンのエネルギー弾は通さない仕組みになっているようで、三人がいくら銃撃してもカザンにかすり傷一つ負わせることが出来ない。

 

「効かない‥‥!!」

 

「そんな馬鹿なっ!?」

 

「だが、無尽蔵にエネルギーがある訳ねぇ!!いずれ、エネルギー切れをおこすはずだ!!それまで耐えろ!!ありったけの弾を撃ち込んで、奴のバリアーのエネルギーを減らすんだ!!」

 

「はい!!」

 

「了解!!」

 

 カザンの偏向フィールドはプレアデス、ガリアデスが張っていた偏向フィールドよりも強力でロケットランチャーの弾さえも無効化した。

 

 しかし、所詮は携帯型の偏向フィールド‥‥

 

 プレアデス級の戦艦に搭載されていた偏向フィールドよりもエネルギー消費が激しいようで、三人の攻撃を受けていると次第にフィールドの規模は縮小していき、遂には消滅してしまった。

 

「ひっ!!」

 

 とうとう自分を守るフィールドが消えて狼狽えるカザン。

 

「終わりだぜ‥‥お前を守ってくれたバリアーのエネルギーも、お前さん自身もな‥‥」

 

「ひぃっっっ!!」

 

「「‥‥」」

 

 三人の鋭い眼光がカザンに突き刺さる。

 

「き、キミたち‥‥う、撃たないよね‥‥?私は総司令官だ‥‥生かしておいてくれると、その‥‥あれだ‥‥な、何かと役に立つぞ‥‥」

 

 カザンは今度こそ、ガチで命乞いをしてきた。

 

 投降する姿勢も見せているのだが‥‥

 

「‥‥おしゃべりも、終わりだ」

 

 北野たちはカザンの投降を受け入れるつもりはなかった。

 

「く、くそがぁぁ!!」

 

 カザンは最後の抵抗を見せて銃を発砲してくる。

 

 その一発はティアナの左頬を掠める。

 

 ティアナを狙ったのはせめて一矢報いろうとしたカザンが、北野、古野間、ティアナの三人の内、ティアナがもっとも倒しやすそうに思ったのだろう。

 

 しかし、死の恐怖で手が震えたカザンの射撃はティアナの命を刈り取ることはできなかった。

 

 「っ!?」

 

 頬に突然、焼き鏝を押し当てられたかのような熱さと痛みが走るがティアナは姿勢を崩す事無くカザンに銃口を向けたまま‥‥

 

 そして、三人はコスモガンの引き金を引いた。

 

 三つのコスモガンのエネルギー弾はまっすぐカザンへと向かい、自分を守る偏向フィールドも無くなったカザンの身体を撃ち抜く。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 撃たれたカザンは大きくのけぞり、背後の窓ガラスを突き破って、外へと落下していった。

 

「ランスターさん!!大丈夫ですか!?」

 

 カザンを斃した後、北野はすぐにティアナに駆け寄って彼女の傷を診る。

 

「だ、大丈夫です‥‥」

 

 大丈夫と言うが、ティアナは痛みで顔を歪める。

 

 敵を倒したことで、ティアナは片膝をつき、血が流れ出る頬に手をやる。

 

 北野は持っていた救急キットでティアナの治療をする。

 

「いつっ‥‥で、でも、これで終わりましたね‥‥」

 

 今回の戦果は地球占領軍総司令官をも斃す大戦果だ。

 

 占領軍の士気はますます低下するはずだ。

 

しかし、

 

「いや‥‥まだ一人残っている‥‥」

 

 総司令官であるカザンを斃したにもかかわらず、古野間はまだ倒すべき敵が一人残っていると言う。

 

「「?」」

 

 総司令官以外に占領軍で重要な人物は見当がつかない。

 

 北野とティアナは首を傾げる。

 

「残っているんだ‥‥どうしても倒さなきゃならん奴がな‥‥」

 

 古野間の脳裏にはアルフォンの姿が強く焼き付いていた。

 

 彼にしてみれば、カザンよりもアルフォンの方が倒すべき本当の敵だった。

 




ティアナが傷物に‥‥

彼女の左頬にはカザンのコスモガンによって受けた傷が残ってしまうことに‥‥

左頬の傷にオレンジ色の長い髪‥‥

あれ?この人は‥‥
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。