星の海へ   作:ステルス兄貴

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百十三話 それぞれの覚悟

 地球占領軍総司令官、カザンの死は瞬く間に地球占領軍全域へと知れ渡った。 

 

 当然、その知らせは占領軍にとっては最悪な知らせであり、今や占領軍には地球占領当時の勢いも士気もなかった。

 

 地球占領当時は、辺境の田舎惑星に住む野蛮人など、自分たちにとっての新たな器にしかならない、取るに足らない存在かと思いきや、実際にこの地球と言う辺境の田舎惑星に来てみると、この星に住む吸血害虫に害獣、独特の風土病、更にはパルチザンと共に戦う未確認の生物、そして徹底抗戦を掲げ、神出鬼没で現れるパルチザンの襲撃でその印象は大きく塗り替えられた。

 

 しかも対パルチザン用の新型戦車の製造プラントは破壊され、戦車製造の見通しはつかない中、ついには占領軍総司令官たるカザンまでもがパルチザンの手によって殺された。

 

生き残った占領軍司令部の幕僚たちは、当然動揺が隠せなかった。

 

 総司令官が殺されたのだから、次なる総司令官をすぐに決めなければ、占領軍の士気にも関わるが、新たな総司令官となれば、当然パルチザンの暗殺のターゲットにされるという恐怖が司令部幕僚たちに蔓延した。

 

 それほど、今回のカザン総司令の暗殺事件は占領軍にとってショッキングな出来事だったのだ。

 

 幕僚たちの中でもちろん、パルチザンの暗殺のターゲットに自ら立候補する者はいなかった。

 

 それに、地球占領軍総司令官なんて響きの言い役職ではあるが、正直に言って、今のその地位は針の筵に近い。

 

 兵士たちの士気は低下し、戦況はパルチザン側に徐々に傾きつつあるこの状況‥‥

 

 本星へ事の次第を報告したくとも、このような失態‥‥

 

『最高官であるカザン総司令がパルチザンに暗殺されましたので、援軍と代わりの司令官たる人物を派遣してください』

 

 なんて、報告をすれば、たちまち自分たちは無能者の烙印を押されて更迭‥‥ぐらいで済めばいい‥‥。

 

 最悪の場合は、永久追放、粛清の恐れもある。

 

 占領軍は報告を隠蔽することにして、現有戦力で地球での占領維持をしなければならなくなった。

 

 そして、総司令にはあの新型戦車の製造プラントを守り切れなかったとされるアルフォンにしようという意見があがった。

 

 もちろん、少尉と言う下級士官で尚且つ地位を剥奪されたアルフォンを総司令官にすることに対しての反対意見も出たが、意外にもそれはごく少数であった。

 

 そもそもの発端はアルフォンが新型戦車の製造プラントを守り切っていれば、カザンは暗殺されなかったのだからと言う、カザン同様、司令部の幕僚たちはアルフォンにすべての責任を押し付けたのだ。

 

 留置されていたアルフォンは釈放されると、さっそく司令官室へと通され、そこにあった独立回線にて、今回の人事異動の命令を受けた。

 

「―――わかりました‥‥私でよければ、お引き受けしましょう‥‥」

 

 アルフォンは、一切弁明することなく、司令部からの人事異動の命令を了承した。

 

 いや、元々アルフォンには拒否権なんて存在しなかった。

 

 このままこの命令を拒否すれば、新型戦車の製造プラントの件で裁かれていたところだ。

 

 アルフォンにとってこれまでの失態を挽回するにはこの命令を受けるしかなかったのだ。

 

 そして、戦士として最期を迎えるにしても処刑よりも戦場での最期を彼は望んでいた。

 

「はい‥‥司令部中枢はすぐに地表から撤退するのですね‥‥軌道上の艦隊へと‥‥はい、‥‥では‥‥」

 

 そして、生き残った司令部の幕僚たちは、パルチザンの襲撃や彼らのテロ行為によって命を落とすのは御免だと言わんばかりに、地表から撤退し、軌道上にいる艦隊へと司令部を移した。

 

 艦隊と言っても既に戦艦、巡洋艦などの攻撃力が高い大型艦船はなく、輸送艦、護衛艦、駆逐艦などの補助艦艇や小型艦艇しか存在しない輸送船団の様な艦隊だった。

 

 だが、宇宙船を有しないパルチザンは宇宙まで来ることはできない。

 

よって、宇宙船の中ならば、パルチザンの襲撃を恐れる必要はない。

 

 司令部はその収容機能を重視し、護衛艦ではなく、とある輸送艦に司令部を置いた。

 

 だが、新たな総司令官となったアルフォンは引き続き、地表から指示を送ることとなった。

 

 彼らが宇宙船へ避難したのは、パルチザンの襲撃がないという安全面の他に少尉と言う格下の士官から命令されるのは、自分たちのプライドが許さないという面もあったのだろう。

 

 司令室から出ると、そこにはメイトリックが待っていた。

 

「大佐‥‥」

 

「アルフォンちゃん‥‥総司令代行就任おめでとう」

 

「ありがとうございます。大佐‥‥しかし、階級で下回る自分が大佐を差し置いて、代行とはいえ、総司令の地位につくなんて思ってもみませんでした‥‥しかも、一時は軍務と階級を剥奪された身でしたのに‥‥」

 

「いいえ、司令部の腰抜けは、アルフォンちゃんに責任を押し付けて、自分たちは安全な宙へ逃げただけじゃない」

 

「‥‥大佐は避難されないのですか?」

 

「見くびられちゃ、困るわ~、取り締まる対象がいない宇宙の艦隊じゃあ、憲兵隊はごくつぶしじゃない?そんな遊兵を作るほど、今の軍には余裕はないでしょう?」

 

「は、はぁ~‥‥」

 

「これより、憲兵隊はアルフォン総司令代行の指揮下に入ります!!」

 

 メイトリックは真剣な表情でアルフォンに敬礼する。

 

 アルフォンは一瞬、目をパチクリと瞬きして、驚いたが、やがて彼も真剣な表情をし、メイトリックに敬礼し、

 

「メイトリック大佐‥‥総司令官代行として、憲兵隊の働きに期待します」

 

と、返答した。

 

 このアルフォンの言う、『働き』の中には通常の憲兵任務の他にパルチザンとの戦闘も含まれていた。

 

「了解であります。総司令代行」

 

 もちろん、メイトリック自身もそれはちゃんと理解していた。

 

 司令部庁舎を後にしたアルフォンは、自分の宿舎へと戻ると、宿舎に居た雪に今回の人事異動の件について話すことにした。

 

 アルフォンが雪の部屋へと行くと、彼女はバルコニーから外の景色を見ていた。

 そして、アルフォンの気配に気づくと振り返る。

 

「雪‥‥この間の話、考えてくれたかい?」

 

 アルフォンは以前、雪に対してプロポーズめいた事を言っていた。

 

 雪の心の中に存在する古代。

 

 しかし、アルフォンは、古代は既に高速連絡艇の事故で死んでいると判断していた。

 

 一方で雪は、実際にこの目で古代の死体を確認したわけではない。

 

 故に雪は、古代は生きていると確信していた。

 

 だが、雪はまだあのハイペロン爆弾についての情報を得ていない。

 

 地球を占領軍から解放するにはあのハイペロン爆弾の存在が要である。

 

「地球人はそれほどまでに愛する人の事を考えるモノなのか‥‥?重核子爆弾の秘密を知りたくはないのか?」

 

「‥‥」

 

 アルフォンは、自分を受け入れてくれるのであれば、雪にハイペロン爆弾の情報をすべて教えるという条件を提示してきた。

 

 雪だって、ハイペロン爆弾の情報を知りたい。

 

 しかし、それは古代や同じ地球人への裏切りに相当する。

 

 雪の心は葛藤していた。

 

「何も言わないんだね‥‥あくまでも実力で探り出そうというわけか‥‥君がこのところ、不穏な動きを見せていたことは知っていたよ」

 

 アルフォンは、ここで初めて雪に対して、彼女が自分たちから情報を盗み、それをパルチザンへ送っていたことを既に知っていた事実を突きつける。

 

 さらに、自分の周辺を嗅ぎ回り、ハイペロン爆弾の情報を得ようとしていることも‥‥

 

「だが、そんなことで重核子爆弾の秘密を知ることはできない」

 

 しかし、ハイペロン爆弾は暗黒星団帝国にとっては最大の切り札‥‥

 そう簡単に情報が洩れるようなヘマを暗黒星団帝国は‥アルフォンはしなかった。

 

「‥‥」

 

「仲間のところへ帰りたまえ‥‥」

 

「っ!?」

 

「今日、司令本部へパルチザンの襲撃があった‥‥通信網が破壊され、カザン総司令が暗殺された‥‥」

 

「‥‥」

 

 アルフォンがスパイ活動をしていた自分を殺すこともなく、また収容所へと送ることもなく、パルチザン活動をしている仲間のところへと帰れと言ったことにも驚いたが、まさか、自分たちの仲間が敵の占領軍たる総司令を暗殺したことにも驚いた。

 

「司令部要員も多くが斃れた‥‥おかけで、指揮系統はひどい混乱ぶりだよ。生き残った司令部要員は軌道上に撤退‥‥これより、各都市に居る地球占領軍は、それぞれ独立して、占領維持に挑まねばならん‥‥」

 

「‥‥」

 

 指揮系統が分断され、それぞれの司令部が独自の判断で動かねばならない状況となり、雪は占領軍が自棄をおこして住民への虐殺行為に出ないか心配となるが、占領軍も地球人をむやみに殺せない理由があるため、そうそう下手な行動をとれない。

 

 反対に弱体化した占領軍の方がパルチザンの襲撃に怯えなければならなくなった。 

 

「そして、私が‥‥私が、重核子爆弾の護衛を含む、このメガロポリス占領部隊の臨時司令官に任命されたよ‥‥皮肉なことに、一度地位を剥奪されかけた、下っ端士官の少尉ごとき私がね‥‥」

 

 自嘲めいたようにつぶやくアルフォン。

 

 傍から見れば、少尉から将官クラスの地位へ一気に昇りつめたことは物凄く凄い事なのだが、現状は責任と厄介ごとを押し付けられただけに過ぎなかった。

 

 アルフォンの話を聞き、雪は、

 

「‥‥それでは‥‥それでは、あなたは‥‥」

 

「そう‥‥今や私こそが、君たちパルチザンが倒すべき新たな敵なのだ‥‥」

 

 カザンにとって代わって新たな司令官となった人物‥‥

 

 それは、ハイペロン爆弾の情報を持っている人物‥‥アルフォン‥‥

 

 彼を倒せば、敵の戦意を下げ、更にはハイペロン爆弾の情報を得ることが出来る一石二鳥の状況となった。

 

 しかし、雪はなぜかそれを素直に喜べなかった。

 

 そんな雪の気持ちを知ってなのか?

 

 それとも戦士としての矜持なのか、アルフォンは、

 

「雪‥‥もう一度言おう‥‥仲間の所へ帰りたまえ‥‥そして、私に立ち向かってくるのだ‥‥」

 

 雪に仲間であるパルチザンの下に戻り、そして改めて自分へ挑んでくるように言う。

 

「私を倒すことができれば、そのときすべてを教えよう‥‥」

 

「‥‥」

 

「‥‥重核子爆弾の内部で、君を待っているよ」

 

 アルフォンの言葉が嘘ではないと判断した雪はただ黙って館を後にした。

 

 雪だって女性ながらも戦士である。

 

 戦士の気持ちは戦士にしか分からない。

 

「雪‥‥君は強い女性だ‥‥君ならば、ぼくを苦しみから解放してくれるかもしれない‥‥」

 

 去っていく雪の後姿を見つめながらアルフォンは哀愁が漂う雰囲気でつぶやく。

 

 実らぬ恋をしてしまったこと、

 

 上からの理不尽な命令‥‥

 

 雪を倒せば、自分の胸に抱くこの敵わぬ恋に終止符を‥‥

 

 そして、雪に倒されれば、この理不尽な世界から解放‥‥

 

 アルフォンは総司令官代行の人事命令を受けた時から、自らの死を願っていたのかもしれない‥‥。

 

 アルフォンは、この館についた時から雪を開放するつもりでいたので、警備兵には雪に手出しをすることを固く禁じていた。

 

 その為、雪が堂々と通路を歩き、正面玄関から出ていくのを止めたり、彼女を襲撃する者も居なかった。

 

「‥‥少尉‥例の地球人の女性を逃がしてしまって本当によろしかったのですか?それも尾行をつけずに‥‥?」

 

 警備の兵士の一人がアルフォンの下に来て、雪がこの館から完全に去っていったのだと確認した。

 

「構わぬ‥‥」

 

(彼女とは戦場で決着をつけたい‥‥それに雪の他にもこの私を倒そうとする地球の戦士が居る‥‥)

 

 アルフォンの脳裏に収容所、そして戦車製造プラントで見たパルチザンの戦士たちの姿が脳裏を過ぎった。

 

「し、しかし‥‥」

 

「いいんだ‥‥それより、我々もここを引き払う‥‥各自、撤収準備と機密情報の処分を行え‥‥特に情報に関しては念入りにな‥‥」

 

「はっ!!」

 

 アルフォンは、機密情報を念入りに処分した後、館に居た警備兵を伴い、ハイペロン爆弾の下へと向かった。

 

 アルフォンが雪へ別れを告げた頃、同じくメイトリックもある人物へ別れを告げに行った。

 

 HOBBY SHOP Testarossaにて、ヴィヴィオとBRAVE DUELを興じるメイトリック。

 しかし、今日のメイトリックは動きにキレがない。

 

「大佐、どうしたの?なんか今日は調子が悪そうだけど?」

 

 ヴィヴィオでもメイトリックの動きが今日は変だと気付く。

 

「‥‥その‥ヴィヴィオちゃん」

 

「ん?どうしたの?」

 

「その‥‥実は私‥‥もう、ヴィヴィオちゃんとBRAVE DUELは出来そうにないの‥‥」

 

「えっ?」

 

 メイトリックの言葉にヴィヴィオは目を見開く。

 

「それってどういうことなの?」

 

「‥‥実は、お仕事が忙しくなりそうなのよ‥‥だから、もう、ヴィヴィオちゃんとBRAVE DUELをする余裕がなくなりそうなの‥‥」

 

「お仕事‥‥それって大佐は地球の人を殺すってこと?」

 

 ヴィヴィオだって、メイトリックが異星人であることぐらいは分かる。

 

 そして、彼らの同胞が今、この地球を占領していることも‥‥

 

 その占領軍の仕事が忙しいということをヴィヴィオは子供なりに察した。

 

 ヴィヴィオの言葉にメイトリックは、悲しそうな顔をして、

 

「ごめんないさい‥‥出来ることなら、私だってこの星の人は傷つけたくないわ‥‥でも、私には大勢の部下が居るの‥‥その仲間を守るために、今は戦わないといけないの‥‥」

 

「‥‥」

 

「まだ、子供のヴィヴィオちゃんには私たちの事が酷い事をしている様に見えるけど、これだけは覚えておいてちょうだい」

 

「えっ?」

 

「正義は決して、一つだけじゃないの‥‥」

 

 メイトリックが言った『正義』と言う言葉‥‥

 

 この言葉はヴィヴィオがミッドにいる時から聞きなれた言葉だ。

 

 管理局はよくテレビのCMでこの言葉を使用している。

 

 そして、自分の知り合いはみんな、管理局の局員ばかり‥‥

 

 故にヴィヴィオは正義とは自分の養母を含め、管理局の局員の人が行っているような行動なのだと思っていた。

 

 実際、自分の養母たちや知り合いは凶悪な犯罪者たちを捕まえたり、災害にあった人たちを助けている。

 

 それはまさしくテレビアニメや漫画で描かれているヒーローそのものだ。

 

 しかし、メイトリックは、正義は一つではないと言う。

 

「ヴィヴィオちゃんたち、地球の人から見たら、私たちはどうみても正義じゃない、地球を占領している悪だけど、私たちにもちゃんとした理由があって、こんなことをしているの‥‥そして、私たちのこの行動には、故郷に居る大勢の人たちの未来がかかっているのよ‥‥」

 

「未来?」

 

「そう、未来が‥‥」

 

 メイトリックはヴィヴィオが自分と同じ異星人とは知る由もなかったので、ヴィヴィオを地球人として見ていた。

 

「過去の歴史の中で、勝者が正義だと描かれて来たけど、敗者にも敗者なりに正義を掲げて戦っていたのよ‥‥」

 

「‥‥」

 

「歴史は勝者が築いてきたのかもしれないけど、その中の正義は決して一つだけではないだろうし、正義が絶対に正しいとは限らないわ」

 

「えっ?」

 

「その正義の中の真実次第では、正義も悪になりえることもあるのよ」

 

 メイトリックの言っていることを当てはめると、管理局に勝ったボラー連邦が正義で負けた管理局が悪と言うことになる。

 

 しかし、ヴィヴィオは管理局が悪だとは思っていないし、話を聞いた限りでは、あんな酷い事をしたボラー連邦が正義だなんて思いたくもない。

 

 だからこそ、ヴィヴィオにはメイトリックの言葉が深く印象に残った。

 

 その後、メイトリックは時間が許す限り、ヴィヴィオとBRAVE DUELを楽しんだ。

 

「それじゃあ、ヴィヴィオちゃん、元気でね」

 

「大佐‥‥また会える‥‥?」

 

「‥‥難しいわね‥‥それは‥‥でも、ヴィヴィオちゃんが私の事を忘れない限り、私は、ヴィヴィオちゃんの思い出の中で永遠に生きているわ」

 

「‥‥」

 

「それと、今後は都市部でも戦闘が起こる可能性があるから、十分に注意してね」

 

「う、うん‥‥」

 

 メイトリックはヴィヴィオの無事を祈りながら、

 

(さようなら、ヴィヴィオちゃん‥‥貴女は私の良き友人でもあり、良きライバルだったわ‥‥)

 

 と、メイトリック自身はもう二度とヴィヴィオと出会うことも彼女とBRAVE DUELをすることもないだろうと心の中でそう思っていた。

 

 この時、メイトリックもアルフォン同様、死を覚悟していた。

 

 メイトリックが憲兵隊庁舎に戻ると、憲兵隊はほぼ全員揃っていた。

 

「気をつけ!!」

 

ザッ!!

 

 古参の先任憲兵伍長が号令をかけると、待っていた兵士たちは姿勢を正す。

 

「‥‥みんなも既にカザン総司令の件は聞いていると思う‥‥」

 

 メイトリックはそこに居る全員を見渡しながら、訓示を行う。

 

「生き残った司令部幕僚たちは、軌道上の艦隊へと避難し、新たに総司令官代理には技術部情報将校のアルフォン少尉が就任することになった‥‥今後、パルチザンとの戦いは苛烈さを増し、我々憲兵隊も今後は憲兵任務ではなく、陸戦隊としてパルチザンとの戦いに身を投じることになると思う‥‥」

 

『‥‥』

 

「そこで、私はみんなに選択の機会を与える‥‥司令部と共に軌道上の艦隊へ避難したい者は、申し出なさい‥‥私が司令部と話をつけて、艦隊勤務への異動を許可してもらうわ」

 

 メイトリックは部下の安全も考慮して、パルチザンとの戦いがある地表よりも安全な艦隊への異動を提案する。

 

 憲兵隊員たちは、顔を見合わせ困惑するも、誰も手を上げなかった。

 

「‥‥大佐、我ら憲兵隊は、艦隊への異動を志願する者は誰もおりません!!」

 

「メイトリック大佐と共に!!」

 

『大佐と共に!!』

 

 憲兵隊員たちはメイトリックに敬礼する。

 

「‥‥あなたたち‥‥ありがとう‥‥」

 

(そして、ごめんなさい‥‥)

 

 自分も含め、部下たちを死地へと追いやなければならないことにメイトリックは心の中で謝った。

 

 

 士気がガタガタとなった占領軍とは反対に総司令官たるカザンの暗殺、メガロポリスにおける占領軍の兵器庫を襲撃し、その戦力を大幅にダウンさせることが出来たパルチザンの士気は高まっていた。

 

 通信中枢を破壊し、総司令のカザンを斃し、防衛軍司令部から、パルチザン本部へと戻った古野間、北野、ティアナは、他のパルチザンメンバーからまるで英雄の凱旋のような感じで出迎えられた。

 

 しかし、ティアナの頬には血が滲むガーゼが貼り付けられており、彼女は医療室へと運ばれる。

 

 ティアナの治療はノエルが行い、忍もその場に立ち会う。

 

「うわぁ、結構、ザックリやられたね‥‥」

 

 忍はティアナの傷を見て、その傷がけっこう深いモノであり、痛そうで思わず声に出す。

 

「まさか、最後の抵抗を受けるとは思ってもみませんでした‥‥いつっ‥‥」

 

 ティアナとしてもカザンのあの攻撃はあまりにも予想外だった。

 

「今は、傷痕が残りますが、この戦いが終わったら、本格的な整形手術をしましょう。そうすれば、傷痕を綺麗に消すことはできると思いますよ」

 

 ティアナの治療をしながら、ノエルが今は無理でもこの戦いが終われば、ティアナの頬の傷は手術で綺麗に消すことが出来るという。

 

 しかし、ティアナは、

 

「いえ、傷はこのまま残してください」

 

 頬の傷は敢えてこのまま残しておくという。

 

「えっ?でも‥‥」

 

「そ、そうだよ、ティアナちゃん。折角の美人さんが台無しだよ」

 

 ノエルも忍も女の顔には似つかわしくないその傷を残そうと思っているティアナの心境が理解できなかった。

 

「この傷は、この戦いを忘れないため‥‥この戦いで死んでいった大勢の人たちの事を忘れないために、残しておきたいんです‥‥」

 

「「‥‥」」

 

 ティアナが傷を敢えて残す決意を黙って聞くノエルと忍。

 

「でも、その傷のせいで、出会いとかもなくなるかもしれないし‥‥」

 

 忍は折角の美人なのにその頬の傷のせいで、異性が恐れをなして、寄り付かないのではないかと訊ねる。

 

「この傷が怖くて近づけない男なんて、こっちから願い下げですよ」

 

 たかが頬の傷ぐらいで、自分を恐れるような腰抜けは、こっちから願い下げだとティアナはニッと笑みを浮かべながら言う。

 

 ただ、この戦いが終わったら、きっとミッドへの通信も再開されるだろう。

 

 その時、ミッドのなのはやスバルがなんて言うだろうか?

 

 自分が異星人相手とはいえ、既に人殺しになっていること、

 

 そして、ザックリと残るこの頬の傷を見て、何と言うだろうか?

 

 スバルなら理解を示してくれるだろうけど、なのはの事だろうから、きっと今の自分を否定してくるのではないだろうか?

 

 ホテル・アグスタ後の模擬戦の時の様に‥‥

 

 でも、これは誰かに命令された訳でも、強制された訳でもなく、これは自分の‥ティアナ・ランスターとしての意志なのだ‥‥

 

 例え、昔世話になった上官とはいえ、文句は言わせないし、否定もさせない。

 

 だが、それはこの戦いを生き残った後だ。

 

 ティアナの目は決意が宿っていた。

 

「あっ、忍さん」

 

「なにかしら?」

 

 そしてティアナは、忍にある頼みごとをするために、彼女に声をかける。

 

「確か忍さんは、ヴィヴィオのデバイスを制作したんですよね?」

 

「ええ、リニスさんに監修してもらったけどね」

 

「でしたら、私のデバイス‥‥クロス・ミラージュを改造してもらえませんか?」

 

「えっ?」

 

 ティアナの頼みを聞いた忍は唖然とする。

 

「でも、そんなことをしても大丈夫なの?」

 

 忍としては、別に異存はないが、勝手にデバイスを改造して、管理局が文句を言ってこないか?

 

 改造したデバイスを使用して、ティアナは大丈夫なのか?と、心配になったのだ。

 

「大丈夫です。クロス・ミラージュは私、ティアナ・ランスター個人の所有物です。管理局が文句を言ってきても、それを没収する権利はありませんし、私が処罰されることもありませんから」

 

 そう言って、ティアナは忍の心配事を解消する。

 

 とは言え、管理局がこの世界で改造されたクロス・ミラージュをロストロギア認定してくるかもしれないが、その場合、ティアナは、はやての夜天の書を引き合いに出すつもりだった。

 

 それに、この世界で改造したクロス・ミラージュをロストロギア認定するのであれば、この世界の純製であるヴィヴィオのデバイスだって、ロストロギアになる。

 

 だが、ヴィヴィオの場合、あの養母であり、管理局のエース・オブ・エースである高町なのはが、ヴィヴィオからデバイスを取り上げる筈がない。

 

 ヴィヴィオから取り上げず、自分からは取り上げる‥‥そんな理不尽がまかり通っていい筈がない。

 

 だからこそ、ティアナは絶対の自信があったのだ。

 

 それ以前にティアナにはある迷いがあった。

 

 それは、フェイトたちと共にミッドへと帰るか?

 

 それともギンガの様にこの地球に残留するか?

 

 いずれにせよ、その答えを出すのは今ではないが、いずれは出さなければならない答えであるが、今は目の前の戦いに集中する事にした。

 

「そう?それなら別にいいけど‥‥」

 

「お願いします」

 

「でも、今使用しているデバイスに何か不満でもあるの?」

 

「出力が弱く、近接戦闘に関して、リーチが短いんです‥‥それを何とか解消してもらいたくて‥‥」

 

 コスモガンを扱い、古野間から魔術無しの格闘技を教わっていると、どうしても今のデバイスの性能に不満が出てしまう。

 

「わかったわ。この戦いが終わったら、ティアナちゃんのデバイスも強化してあげる‥‥だから、絶対に生き残りなさい」

 

「はい!!」

 

 

 ティアナが頬の傷の治療を行っている頃、アルフォンの館を出た雪は、自分の後ろを尾行してくる敵兵の姿を警戒したが、意外にもその姿は見えなかった。

 

 アルフォンの館でも警備兵と通路ですれ違っても、呼び止められることもなく、また襲撃されることもなく、無事に館を出ることが出来た。

 

 しかし、だからと言って油断はできない。

 

 自分を囮にして、パルチザンの本部を突き止めようとするアルフォンの策略かもしれない。

 

 そこで、雪は尾行を振り切るために走った。

 

 建物の陰から蔭へと夢中で走った。

 

 しばらく走ってから雪は気づいた。

 

 走っているとかえって敵に気づかれて、怪しまれてしまう。

 

 敵の兵士はアルフォンの館に居た警備兵だけではないのだから‥‥

 

 そこで、雪は足を緩めた。

 

(いけない‥いけない‥もっと落ち着かなくちゃ‥‥)

 

 雪は走るのを止めて、平然を装って普段通りの歩幅で歩きだす。

 

 しかし、尾行がないか時折、後ろを振り返る。

 

 だが、自分の後ろには尾行者の様な怪しい人物は確認できない。

 

 それでも、一流の尾行者は、そう簡単には尻尾を掴ませない。

 

 雪はチューブカーやリニアを何度も乗り換えて、パルチザン本部に着く前になんとか尾行者をあぶりだそうとする。

 

 そして、えらく遠回りをして、パルチザンの本部であるヤマトの地下改修ドックの近くへと来てしまった。

 

 しかし、この長い時間と遠回りのルート、そして時折見せるフェイントでも自分を尾行する敵兵の姿は見えなかった。

 

 ここにきて、アルフォンは自分に尾行をつけていなかったのではないかと雪はそう思った。

 

 彼は雪に、「重核子爆弾の中で待っている」と言っていた。

 

 情報将校ながら、彼も自分や古代たちのように一流の戦士なのだろう。

 

 そして、地下の改修ドックへ続く階段を下りていくとドックの出入り口で雪をとがめる声がした。

 

「止まれ!!誰だ!!」

 

 出入り口を警備していたパルチザン兵たちがレーザーライフルの銃口を雪へと向けてくる。

 

「地球防衛軍、司令部司令長官付き、宇宙戦艦ヤマト乗員の森雪です」

 

 雪は味方からの誤射を防ぐため、自分の所属と名前を告げる。

 

「森雪だと?」

 

 警備のパルチザン兵が驚いた声をあげ、懐中電灯で雪の顔を照らす。

 

 そこに居たのは紛れもなく、森雪だった。

 

「間違いない!!森雪だ!!」

 

 警備のパルチザン兵の一人は雪の同僚の司令部勤務の軍人だったようで、雪の姿を確認して、自分の目の前に居る女性が間違いなく森雪だと確認した。

 

「ねぇ、あなた。ヤマトがどうなったか知っている?」

 

 雪は早速、ヤマトの行方について訊ねる。

 

「はい、ヤマトは現在、敵、暗黒星団帝国の本星を目指しているとのことです」

 

「それじゃあ、ヤマト艦長代理の古代進、航海長の島大介がどうなったか知っている?」

 

「えっ?ええ‥‥お二人とも、ヤマトに乗艦していると聞きましたが‥‥」

 

「っ!?」

 

 その軍人の話を聞き、雪は思わず走り出す。

 

 そして、パルチザン本部の中枢であるヤマトの改修ドックへとたどり着くと、雪の姿を見て、彼女を知る者たちはたちまちざわめく。

 

「雪だ!!」

 

「森雪だ!!」

 

「ホントだ!!」

 

「生きていたのか!?」

 

 パルチザン本部の皆がざわつく中、雪は藤堂の前に歩み寄り、

 

「森雪、ただいま、帰還しました」

 

 藤堂に敬礼し、戻ってきたことを報告する。

 

「雪‥‥」

 

「連絡艇発進の際、負傷して地球に残り、敵に軟禁されておりましたが、完治しました。私もパルチザンとして、戦います」

 

「うむ、力を合わせて頑張ろう‥‥」

 

「はい‥‥あの、長官‥‥ヤマトは‥‥古代君は、無事だったそうですね?」

 

「うむ、君のおかげだ‥‥だが、今は作戦上、通信を封鎖している。状況を知ることが出来ないが、ヤマトのことだ。今もきっと立派に戦ってくれていることだろう」

 

「はい、きっとそうですね」

 

「やはり、消息が分からないと不安かな?」

 

「いいえ、ヤマトが‥‥古代君たちが負けることなんてありえません」

 

 雪は、はっきりとした口調で藤堂に断言する。

 

 そこには一切の迷いはなかった。

 

「うむ、私もそれを信じている」

 

 ヤマトの現状を知ることはできなかったが、少なくともあの日、連絡艇で地球を脱した古代たちが生きていることは確認できた。

 

 ならば、何故、アルフォンは自分に古代たちは死んだと言ったのだろうか?

 

 もしかして、アルフォンは自分に古代を諦めさせるために、古代は死んだと言ったのだろうか?

 

 あの時のアルフォンの心境は分からないが、雪は不思議とアルフォンに怒りは沸いてこなかった。

 

 古代の死を信じたわけではないが、こうして、古代の生存を確認できたからこそ、雪はアルフォンに対する怒りよりも、古代の生存の歓喜が勝ったのだ。

 

 

一方、その頃、ミッドでは‥‥

 

 

 本局の奥深くにある特別ゲストルーム‥‥

 

 そこに、ボラー連邦から亡命をしたミノフスキーは居た。

 

 まだまだボラー星人であるミノフスキーの存在をおいそれとミッドや管理世界の住人に教えることが出来ない。

 

 彼はこの本局のゲストルームにて、宇宙船の新型エンジンの開発を進めていた。

 

「おーい、ミノフスキーの爺さん、飯だぞ」

 

 そこへ、ミノフスキーの護衛であるヴィータが、食事が乗ったトレーを持ってきた。

 

「うぉっ、相変わらず、すげぇ部屋だな‥‥」

 

 ミノフスキーの部屋に入ったヴィータは部屋の惨状を見て、呆れるように言う。

 

 それなりの広さがあるゲストルームだが、そこには沢山のパソコンやモニター、ホワイトボード、自分が見ても何が書いているのか分からない文字や絵、数字が書かれている紙が壁に貼り付けられたり、床一面に散らばっている。

 

 ヴィータがゲストルームの奥へと進んで行くと、デスクには無心で空間パネルのキーボードを打っているミノフスキーの姿があった。

 

「爺さん」

 

「‥‥」

 

「おい、爺さん」

 

「‥‥」

 

「爺さん!!」

 

 ヴィータが声をかけてもミノフスキーはヴィータの存在に気づかない様で、キーボードを打っていたが、ヴィータが大声を上げて、ようやく彼女の存在に気づいた。

 

「ん?おお、ヴィータちゃんか、どうした?」

 

「『どうした?』じゃねぇよ。飯だよ、飯」

 

「ん?お、おお‥すまんのぅ‥‥」

 

 ヴィータがトレーに乗った食事を見せて、ミノフスキーは、キーボードを打つ手を止めた。

 

 そして、ヴィータからトレーを受け取り、食事を食べ始める。

 

 ミノフスキーが食事を摂っている中、ヴィータが周囲を見回す。

 

「爺さん、ちゃんとした生活を送らねぇと体を壊すぞ、風呂とか入っているのか?それにちゃんと寝ているのか?」

 

「うむ‥まぁ、気が向いたらな」

 

「気が向いたらって‥‥」

 

 彼の発言にちょっと引くヴィータ。

 

(マリエルやシャーリーのヤツもこんな私生活を送っているのか?)

 

 ヴィータはミノフスキーの様に技術肌な知り合いの局員たちの寮の部屋もこの部屋みたいなのかと思った。

 

「それで、今はどんな感じなんだ?」

 

 ヴィータがミノフスキーに現状を訊ねる。

 

 すると、ミノフスキーの目がキラーンと光ったように見えた。

 

 そして、ミノフスキーが現状を説明するが、ヴィータには彼の言っていることがほとんど分からなかった。

 

 しかし、一度説明を始めたミノフスキーはヴィータが理解できていないにもかかわらず、延々と説明している。

 

 更にはホワイトボードを持ち出し、絵をかいて説明している。

 

 それはまるで、理系の大学の講義のようにも見える。

 

 マリエルやシャーリーならば彼の言っていることが理解できていたのかもしれない。

 

「‥‥と、現状はこんな感じだ。これについて君はどう思うかね?おや?」

 

「‥‥」

 

 ようやくミノフスキーの説明が終わった時、ヴィータの頭からは白い湯気が出ていた。

 

 彼の説明に対して、思考回路が追い付かずにオーバーヒートしたのだ。

 

 ヴィータはふらつく足で、ミノフスキーの部屋から出て通路を歩いていると、

 

「ヴィータ!!一体、どうしたのだ!?大丈夫か!?」

 

 オーバーヒートしたヴィータを見て、同じくミノフスキーを護衛しているシグナムが慌てて彼女に駆け寄り声をかける。

 

「し、シグナム‥‥か‥‥?」

 

「ああ、そうだ!!一体どうした!?」

 

「じ、爺さん‥‥に‥‥」

 

 シグナムに抱えられたヴィータはそこまで言うと、そのままガクッと項垂れ意識を失う。

 

「お、おのれ、あの年よりめ!!ヴィータに何かしたのだな!?」

 

 シグナムはミノフスキーがヴィータに何かしたのだと思い、彼の部屋へと向かう。

 

 

それから五時間後‥‥

 

 

「あっ‥‥うっ‥‥」

 

 本局の通路にて、自らのデバイスであるレヴァンティンを杖代わりにして、ヨロヨロと歩くシグナムの姿があった。

 

「ど、どないしたん!?シグナム!!大丈夫か!?」

 

 そこへ、はやてが慌てて、駆け寄り声をかける。

 

「あ、主‥はやて‥‥」

 

「な、なんや?」

 

「み、ミノフスキーに質問をしてはいけません‥‥」

 

「はい?」

 

 シグナムは、はやてにそこまで呟くとガクッと意識を失う。

 

「い、一体何があったんや‥‥」

 

 はやては、自らの腕の中で意識を失っているシグナムの姿を見て、首を傾げた。  

 

 

 本局‥“海”がミノフスキーの力を借りて、新型の宇宙戦艦のエンジン‥新型の宇宙船の開発を依頼している頃、“陸”でも、かつて、レジアス中将が開発・運用を推し進めていたアインヘリアルとは異なり、新たな兵器の導入を検討していた。

 

 それは第97管理外世界における陸上主力兵器である戦車と呼ばれる兵器の導入だった。

 

 “海”がボラー連邦への武力制裁に失敗し、共闘してきた“空”も“海”から離れつつある今、“陸”自身が新たな改革を押し迫るチャンスだった。

 

 ミッドでも着実に改革の変動が見え始めていた‥‥

 

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