星の海へ   作:ステルス兄貴

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五話 救助

 

 

ミッドチルダ 西部地方郊外 公共墓地

 

蒼い空の下、郊外のとある一角に黒い服や管理局の制服を着た大勢の人が佇んでいた。

 

立ち並ぶ墓石の内の一つの前に、管理局の制服姿を着た壮年の男性と同じく管理局の制服を身に纏ったショートの青髪をした少女が居た。

 

青髪の少女、スバル・ナカジマは必死に涙を堪え、その父ゲンヤ・ナカジマも沈痛な面持ちだった。

 

親友に励まされてもやはりこの葬儀の場では、スバルの心は悲しみに暮れていた。

 

骨壺の中には遺骨どころか、一本の髪の毛はおろか、一片の肉片、骨の欠片さえ入って居らず、ただ『ギンガ・ナカジマ』と書かれた人型の紙切れが一枚入っているだけ‥‥。

 

母が眠るナカジマ家の墓に納骨され、母と姉の墓の前で涙を堪えていると管理局の本局と呼ばれる部署の制服を着た者達が侮蔑の言葉を墓に呟き始める。

 

 

「名誉の殉職には程遠いな」

 

囁くような声が、スバルの耳に障った。

 

その特殊な出生からスバルは目と耳は鋭かった。

 

それ故、小声のつもりだろうが静寂の中でそれは酷く耳障りに響く。

 

姉のギンガは自分同様地上部隊出身なのだが、姉は殉職した事件では本局との合同捜査だった故に今回の葬儀には地上部隊の局員の他にも本局の局員も参列していた。

 

「功を焦ってヘマをして死ぬとは何とも間抜けだな」

 

「全くだ。そんなに手柄が欲しかったのか?」

 

「それで、犯人を取り逃がしては元も子もないないではないか」

 

「まぁ、今回のミスは“陸”のミスですからな、我々、“海”には何の影響もあるますまい」

 

「そうですな。これだから、“陸”の魔導士は質の悪い役立たず揃いばかりだ。だから、ミッドの治安がいつまで経っても改善しないのだ」

 

「そういえば、聞きましたかな?」

 

「何ですかな?」

 

「あの殉職した局員の母親‥あの者も功を焦った挙句に殉職したらしいですよ」

 

「そうなんですか?」

 

「親子そろって間抜けも良い所ですな」

 

「全くですな、ハハハハハ‥‥」

 

本局の局員達は、此処が墓の前だと言うのに死んだ人間に侮蔑の言葉を吐き続ける。

 

それは自分の姉どころか母親までもを侮辱した挙句、死者を弔うこの場で笑みさえも浮かべている。

 

スバルにとって誰が何を言っているのかはもはやどうでもよかった。

 

ただ、彼らの心無い侮蔑の囁きが死者と自分達遺族を限りなく傷つけていることだけは確かだった。

 

スバルと共に葬儀に参列したティアナはかつて自分の兄の葬儀の際、兄の上官達から兄の誹謗・中傷を言われた事を思い出した。

 

今目の前で繰り広げられている光景はまさにあの時の再現そのものだった。

 

ティアナはスバルの姉と母親の死をバカにしている本局の連中に顔をしかめる。

 

それは、今、自分達が在籍している機動六課の部隊長、八神 はやて も同様だった。

 

ゲンヤも本局局員の誹謗・中傷は当然耳に入っており、彼はギュッと下唇を噛み、爪が食い込むほど拳を強く握っていた。

 

(コイツ等が何処の誰だが関係ない。母さんやギン姉を悪く言う奴はボコボコにしてやる!!)

 

(あの世に送って、母さんとギン姉に詫びさせてやる!!)

 

(スバル、止めさない)

 

(止めないでティア!!コイツ等をボコボコにしないとあたしの気がすまない!!)

 

(あんたの気持ち、わからなくはないけど、ここであのクズ連中を殴ってもあんたの拳が汚れるだけよ。それにあんたのお父さんや八神部隊長にも迷惑がかかるでしょう?)

 

スバルは怒りのあまり、そのまま本局の局員連中に殴り掛かりそうな感じであったが、ティアナは必死に念話で宥めた。

 

帰りの車の中、はやて、スバル、ティアナは終始不機嫌であった。

 

墓地で別れたゲンヤも恐らく同様だろう。

 

「何なんですか!?あの人達!!ギン姉どころか、お母さんまでもバカにして!!」

 

本局の局員達の暴言に腸が煮えくり返る思いのスバル。

 

「全くや、あんな連中と同類とみなされると思うとメッチャ恥ずかしいわ」

 

はやても同様の思いを抱いていた。

 

しかし、この時彼女達は‥いや、管理局の全ての局員達は、後に本局の体制が、大きく崩れて行く事をこの時には知るよしも無かった。

 

 

場面は変わり、冥王星の戦闘宙域から撤退した、えいゆう と 三笠 は無事に冥王星宙域を出た。

 

戦場に留まり、味方を逃す為、奮戦した雪風と冬月を血祭りにあげたガミラス艦隊はえいゆう と 三笠 を追撃することなく、冥王星の基地へと帰還していった。

 

あれから良馬は、艦長室にあるベッドの上で横になりながらボンヤリと天井を見ていた。

 

そしてどれくらいそうした時間が過ぎただろう?

 

すると不意に

 

コン、コン

 

と、部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。

 

休憩時間の終了を告げにきたのか、それともガミラスが追撃してきたのか、ともかく良馬は入室を許可した。

 

「どうぞ」

 

すると、入ってきたのは手にお盆を持ったディアーチェだった。

 

「艦長、食事の時間だ」

 

「食事か‥‥」

 

地球の命運をかけた戦いに敗れ、親友を失った今、とても食欲などわかない。

 

しかし、ディアーチェはこうして態々部屋まで持ってきてくれたのだ。無下に「食欲がないから下げろ」とは言えないのが良馬らしいところだ。

 

「赤飯?」

 

お盆の上には赤飯で出来たお握りが数個、置かれていた。

 

「言ったであろう。戦勝祝いに赤飯を出すと」

 

「戦いは此方(地球)の惨敗だ。大勢の戦友が死んだ‥高町も沖田も死んだ‥‥」

 

赤飯のおにぎりを見ながら良馬は呟く。

 

「今回の戦いでこちらも何隻かのガミラス艦を血祭りにあげた。そやつらは死に我らはこうしてちゃんと生きている。我らはそやつらの生存競争に勝利したのだ。これは立派な戦勝だ。高町や沖田には気の毒だったが‥‥」

 

「‥‥」

 

ディアーチェの言っていることは理解できるが、そう簡単にすべてを受け入れることは出来なかった。

 

「辛いかもしれぬが食べられるときには食べておけ、食えると言う行為は生きている者の特権だぞ」

 

そう言ってディアーチェは艦長室から出て行った。

 

「食べられることは生きている者の特権か‥‥」

 

ディアーチェの最後の言葉を繰り返し口ずさむと良馬は、赤飯のお握りを手に取り、それを口へと運んだ。

 

「‥‥やっぱり、美味いな、厨房長(ディアーチェ)の作る飯は‥‥」

 

良馬はゆっくりと味を噛みしめながら残りのお握りを食べた。

 

休憩時間を終えて、艦橋へ戻った良馬をクルー達は少し不安そうな表情で見た。

 

「皆、心配かけたが、もう大丈夫だ。皆を無事に地球へ連れて帰るのが今の僕の任務だ。戦いには、負けたが、我々はこうして生きている。胸を張って地球へ‥家族の下へ帰ろう。生きていれば次がある。次は必ず勝ってみせよう!!」

 

「了解」

 

「はい!!」

 

「アイサー!!」

 

「おう!!」

 

良馬の言葉に皆は不安げな表情から明るい表情になった。

 

(それにしても、ガミラスめ、あれだけの艦隊を展開しながらも追撃してこないなんて‥瀕死の狸など、もはや追撃する価値もないって事か‥‥?)

 

ガミラスの戦術に地球は完全に舐められているのだと思うと、少々腹が立った。

 

もっともガミラスが追撃をしてこなかったからこそ、えいゆう と 三笠 は無事に地球へ帰れるので、何とも言えない気分だった。

 

 

それから、幾日かが過ぎ、

 

火星本星 極冠部 観測所

 

「火星観測所、収集した資料を持ち、冥王星域から撤退してくる戦艦にドッキングし、地球へ帰還せよ」

 

「了解しました」

 

火星観測所にいた古代と島の下に地球への帰還命令が下された。

 

二人は先日火星へ墜落した不明船から収集した資料を持参し、偵察機へ乗り、火星観測所を後にした。

 

火星宙域では冥王星から撤退してきた えいゆう と 三笠 が火星の観測所から不明船の資料を持参してくる古代と島が乗った偵察機を待っていた。

 

火星からの偵察機を待っていると、三笠のレーダーが火星の近くで、突如、空間歪曲反応を捉えた。

 

「艦長!!次元レーダーに反応!!空間歪曲反応です!!」

 

「何!?総員戦闘配備!!通信長、えいゆう に通達!!『偵察機の収容を急がれたし』と!!」

 

「りょ、了解」

 

やがて空間歪曲反応が収まると、そこには一隻の船が漂っていた。

 

「空間歪曲収まりました」

 

「周辺に何か変化はあるか?」

 

「レーダーに感あり、船が一隻、漂流しています」

 

「ガミラス艦か?」

 

艦橋に緊張が走る。

 

もし、ガミラス艦ならば、彼らはワープして此処まで追ってきたことになる。

 

それはつまり、冥王星で追撃してこなかったのは、えいゆう と 三笠 を地球目前で撃沈しようという悪趣味なマネをしてきたと言うことになる。

 

例え一隻でもこれがガイデロール級宇宙戦艦かメルトリア級宇宙巡洋戦艦だとすれば今の地球艦隊でも十分脅威となる。

 

しかし、

 

「いえ、エネルギー反応から地球の物でもガミラスの物でもありません」

 

意外にも突如、ワープしてきたのはガミラス艦ではなかった。

 

「如何いたしますか?」

 

「接舷して、臨検してみよう」

 

「臨検ですか?」

 

「ああ、もしかしたら負傷者がいるかもしれない。それに何者が乗っているのかも気になる」

 

「通信長、えいゆう に再び通信、『空間歪曲反応近くに不明船アリ、我之より臨検を行う』と‥‥」

 

「了解」

 

三笠 が えいゆう に不明船の臨検を行う旨を伝えると、えいゆう から、

 

「臨検を許可する。気をつけろ」

 

と、返信があり、三笠は不明船へと接舷した。

 

「副長、暫く艦橋を頼む」

 

「えっ!?」

 

良馬の言葉に三木は驚きの表情と声を出す。

 

「艦長?」

 

「臨検は俺が指揮を執る。手空きの者を武装させて、接舷ハッチの前に集合させてくれ」

 

そう言って良馬は接舷ハッチの方へと向かった。

 

宇宙服に身を包み、万が一を考え、手にはコスモガンを持ち、不明船内部へと入っていく良馬達。

 

「艦長らしいッスね」

 

自ら進んで臨検の指揮にあたる良馬の行動を見て永倉が苦笑しながら言う。

 

「ですが、状況判断を優先せねばならぬ指揮官の行動とは思えません」

 

根が真面目なターニャは良馬の行動に指揮官としては少々不満の様子。

 

「目の前に救える命があるならば、自分で手を差し出さなければ気がすまない性格なんじゃよ」

 

井上が良馬の性格をターニャに伝える。

 

一方、不明船内部に入った良馬はまず、船内の空気成分を調査した。

 

「この船内の空気成分は、地球の酸素と同じ性質だ」

 

計測結果に驚きの声をあげる良馬。

 

「と言う事は、この船の乗員も我々と同じ人類と言う事ですか?」

 

「確証はないけどね。でも、もしかしたら昔の映画、『猿の惑星』に登場するような獣型の宇宙人かもしれないよ」

 

そう言いながら、不明船の内部を調査していく良馬達。

 

しかし、船内には人っ子一人の気配も姿もない。

 

同じく別働の調査班からも人の姿は確認できずとの報告が入る。

 

しかし、無人の船が独りでに動いてワープしてくるなんて信じられず、何処かにこの船の乗員がいると信じている良馬。

 

現にこの船の造りは無人ではなく、有人の造りをしていたからだ。

 

そこで、確実に人が居そうなブリッジを目指す良馬達。

 

ブリッジならば、この船の所属、そして行き先が突き止められる筈だ。

 

そう思い、ブリッジへと駆け込んだ良馬の目に映ったのは、ブリッジの床に倒れている長い藍色の髪をしている女性の姿だった。

 

 

「こちら、A班!!乗員らしき、女性を発見!!頭から出血しており、負傷している模様!!医務室は直ぐに治療体制を!!」

 

良馬は倒れている女性を抱き上げると、急ぎ三笠へと戻った。

 

三笠の医務室では、良馬から連絡を受けたリニスが医務室でスタンバイしていた。

 

「リニス、頼む!!」

 

医務室の寝台に救助してきた女性を横たえる。

 

「この服、まさか‥‥」

 

リニスは、女性が身に着けている服に見覚えが有るようだった。

 

「どうした?リニス」

 

「あ、いえ、何でもありません。報告は後でいたします。艦長とは言え、患者は女性なので、医務室から退室下さい」

 

「あ、ああ、そうだったな。それじゃあ頼むぞ、リニス」

 

「はい」

 

良馬はリニスがこの女性の服を脱がせるのだと思い、急ぎ医務室から退室した。

 

良馬から救助者の治療を任されたリニスは早速治療を開始するのであったが、

 

「警戒しなくても大丈夫、貴女のマスターを治療するだけだから」

 

意識を失っている女性に話しかけるリニス。

 

それは警戒心を解くように語る。

 

すると、女性の服装が変わり、紫の半袖のジャケットに上下一体の白いアンダーウェアーの服装から茶地にダブルの四つボタンのジャケットに同じく茶地のタイトスカート姿に変わった。

 

そして首には紫色の水晶のようなペンダントをかけていた。

 

「やっぱり、バリアジャケットだったのね」

 

リニスは自分の予想通りだった結果に特に驚く様子はなかった。

 

(それにしても、この人、あの方にそっくりね)

 

寝台で眠る女性を見て、この女性が自分の知り合いに似ている事に少し疑問を持つリニスであった。

 

その後、リニスはまず頭の傷の治療にあたり、その後は他に異常がないかレントゲンで彼女の体を調べた。

 

当然、良馬の予想通り、服を脱がして‥‥

 

幸い彼女は頭の傷以外、特に目立った外傷もなく、後は自然に目が覚めてくれるのを待つだけであったが、もう一つ、リニスには調べることがあった。

 

(デバイスを使用できると言う事はこの人も魔導士‥それも管理局所属の‥それなら一体どれくらいの魔力を有しているか、一応調べる必要があるわね)

 

「バルニフィカス、お願い」

 

リニスは自身が首から下げている蒼い水晶のペンダントに魔力を吹き込むと、リニスの両手に蒼白い光が灯る。

 

そしてリニスその手で、寝台の上で眠っている女性の体に触れると、女性の体の上に藍色の球体が浮かび上がった。

 

リニスはその球体に触れ、目を閉じる。

 

この浮かび上がってきた球体こそ、魔導士の魔力の源‥リンカーコアだった。

 

リンカーコアには魔導士それぞれの魔力の量などの情報が詰まっており、リニスはそのリンカーコアを調べることにより、この女性の魔力レベルを調べたのだ。

 

「えっ!?これって‥‥」

 

女性のリンカーコアを調べていたリニスが突如、驚きの顔を浮かべる。

 

(この人、骨や臓器にまるで溶け込むような‥自然な形で彼方此方に機械の様なモノが埋めこまれているわ。過去に大けがでもしたのかしら? いや、まって、確かフェイトを生むきっかけとなったプロジェクトFATEの他にもう一つ、Dr J・Sが提唱した論文が有った筈‥もしかしてこの人‥‥)

 

そして壊れ物を扱うようにリンカーコアを女性の体に戻した。

 

そう、この女性のリンカーコアは普通の魔導士のリンカーコアとは少し違う造りをしていたのだった。

 

更には普通のレントゲンでは分からないが、リンカーコアを調べるため、検査魔法を使用したところ、魔法に反応するかのように彼女の体には特殊な機械の様なモノがいたるところに埋め込まれていたのだった。

 

その後、リニスは医務室に常備されていた健診衣を着せ、女性が目を覚ますのを待った。

 

 

ギンガ side

 

「‥‥ぅ‥‥こ、此処は‥‥?」

 

目を開けると、目に入ってきたのは見知らぬ天井だった。

 

此処が何処なのか確認しよと、起き上がろうとしたら、頭にズキッとした痛みが襲った。

 

「っ!?」

 

私は痛みに顔を歪め、再びベッドに身を沈めた。

 

「あら?気が付いたみたいね?」

 

私の様子に気が付いた様で、人の声がして、誰かが私に近づいてきた。

 

その人物は黒いズボンに赤い十字マークが書かれている白衣を着ている女の人で、その女性の格好から医師だとわかった。

 

ただ、医師なのに頭にはナースキャップの様な帽子を被っている。

 

「はじめまして、私は軍医の月村 リニス。貴女は、さっきこの艦の艦長に救助されたのよ」

 

(艦ってことは次元航行艦の事よね?)

 

(って!?あれからどうなったんだろう!?)

 

(そうだ!!窃盗団は!?)

 

(それよりもこっちの情報が筒抜けだったことを父さんに急いで伝えないと!!)

 

「ところで、貴女の名前は?」

 

焦っている私にリニスさんが名前を聞いてきたので、

 

「失礼しました。陸士108部隊所属のギンガ・ナカジマ陸曹です。あの‥‥」

 

「なんです?」

 

「急ぎ、108部隊のナカジマ三佐にお伝えしたいことがあるんですけど‥‥」

 

「‥‥」

 

私が父と連絡を取りたいことを言うと、リニスさんは少し怪訝な顔をして、

 

「ナカジマさん、大変言いにくいことなんだけど‥‥」

 

「なんですか?」

 

その後、リニスさんの口から衝撃的な一言が発せられた。

 

「此処は、管理局の次元航行艦じゃないの」

 

「えっ!?」

 

リニスさんのこの一言に私は衝撃を受けた。

 

ギンガ side out

 

 

「此処は、管理局の次元航行艦じゃないの」

 

「えっ!?」

 

リニスのこの言葉にギンガは衝撃を受けた様で、そのまま体を硬直させた。

 

(管理局の次元航行艦じゃない?それじゃあ此処は‥‥?っ!?まさか!?)

 

ギンガは此処が管理局の次元航行艦じゃないという言葉を聞き、此処が、自分たちが追っていた窃盗団の船かと思った。

 

しかし、リニスのこの言葉で、別の意味で困惑した。

 

「此処は、地球防衛軍、宇宙巡洋艦、三笠の医務室よ」

 

(地球‥防衛軍――?一体どういうこと!?)

 

ギンガ自身、管理局が認識している地球という世界については、いくつか覚えがあった。

 

父、ゲンヤの先祖も元は地球出身者であり、今度出向予定だった六課部隊長の八神 はやて、そして管理局のエース・オブ・エース、高町 なのは も同じく地球出身者だったため、管理局内ではたまに地球の事が取りざたされていた。

 

その事は当然、管理局員であるギンガの耳にも届いていた。

 

しかし、聞いた話では地球はミッド程、宇宙開発技術は進んでおらず、ようやく、衛星である月にたどり着いたとか、宇宙ステーションを開発し始めたというレベルで、宇宙防衛を専門とする組織が存在していたなんて聞いていない。

 

「この制服とさっきの108部隊って事は貴女、管理局の関係者よね?」

 

リニスの問いにギンガの疑問はますます深まる。

 

「え、ええ、そうですけど‥貴女は管理局を知っているんですか?」

 

「私も昔、ミッドに住んでいたから」

 

「そうなんですか!?」

 

思わぬところで同郷の人と会い、声をおもわずあげてしまうギンガ。

 

「それと、さっき貴女のリンカーコアを一応調べさえてもらったのだけど、貴女‥普通の魔導士じゃないわね?」

 

「っ!?何故、そのような事を?」

 

初見で自分の正体を見破ったリニスにギンガは驚愕しつつ少し警戒した。

 

「これも昔の事なんだけどね、私がデバイスを作ってあげて、魔法の使い方を教えた子と貴女のリンカーコアの造りがとても似ていたのよ。その子は普通の魔導士じゃなかったから‥‥だから、貴女ももしかしてと思って‥‥」

 

すでにバレていてはもう言い逃れは出来ない。

 

ギンガは観念するかのように、

 

「はい‥私は人造魔導士です。それも戦闘機人と言う‥‥」

 

俯き、絞り出す様な声で自らの出生を語った。

 

自分達姉妹が母の遺伝子を元に造られたクローンである事を。

 

「そう‥でも此処(地球)では、人造魔導士だろうが、魔導士だろうがそんなの関係ないけど、あまり自分が魔導士だと言う事を言い触らさない方が身のためよ。まして貴女は地球人からみれば異星人に当たるのだから。まぁ、私もそうだけどね」

 

「はぁ‥‥」

 

「この後、艦長に事情を話してもらうけど、いいわね?」

 

「はい」

 

ギンガはこの後、暫しの休息の後、三笠の艦長、月村 良馬の事情聴取を受けることとなった。

 

救助された彼女に拒否権と言う選択はないのだから‥‥。

 

 

リニスから例の不明船の乗員が話せる状態になったと言うので、良馬はその乗員が居る医務室へと向かい、医務室のドアを数回ノックした。

 

「どうぞ」

 

中からリニスの入室を許可する声がしたので、良馬は医務室へと足を踏み入れた。

 

医務室の中にあるテーブルの前には例の不明船から救助した女性が立っていた。

 

女性は茶地にダブルの四つボタンのジャケットに同じく茶地のタイトスカートを履いていた。そして頭に巻かれた包帯が痛々しい。

 

良馬は女性を見た瞬間、一瞬ギョっとした。

 

(髪の色を除くとあの人そっくりだ‥‥)

 

救助したときは慌てていて顔をよく見なかったのだが、こうしてじっくり見ると、目の前にいる藍色の髪をしたこの女性は良馬の知り合いにとてもよく似ていた。

 

「艦長?どうかしましたか?」

 

「あっ、いや、何でもない」

 

リニスに声をかけられ平然を装う良馬。

 

(やっぱり良馬も驚きましたか‥‥)

 

リニスには先ほどの良馬の行動が分かる気がした。

 

自分でさえも、この藍色の髪をした女性が自分の知っている知人と似ていた事に疑問をかんじたのだから、同じくこの藍色の髪をした女性に似た人物を知る良馬もこの人を見たら驚くのは当然の反応だろう。

 

「それじゃあまず、自己紹介からかな?」

 

「そうですね」

 

「はじめまして、地球防衛軍、宇宙巡洋艦 三笠 艦長の月村 良馬です」

 

軍帽を脱ぎ、自己紹介をする良馬。

 

「時空管理局、陸士108部隊所属、ギンガ・ナカジマです」

 

ギンガも良馬に対し、一礼し、自己紹介をした。

 

「こういう場を設けたのは、双方の情報交換と今後の方針について話し合いたいからだ。ナカジマさんもまた、此方に色々訊きたい事があるだろう?」

 

「はい」

 

互いに自己紹介をした後、情報交換をと言う事で、良馬はまずギンガに時空管理局とはどの様な組織なのかを問うた。

 

「‥‥という様な仕事が主に管理局の仕事です」

 

「‥‥」

 

ギンガの話を聞き、少しあきれ顔になる良馬。

 

「あの‥‥」

 

「これは主観なのだが、時空管理局って随分と危ない組織なんじゃないのかな?」

 

「えっ?何故、そう思うのですか?」

 

ギンガには良馬が何故、管理局が危ない組織なのか理解できなかった。

 

「司法、行政、そして警察の役割が全て一つに集約された組織‥‥それってつまり、管理局の局員が『お前は有罪だ』と言えば、例え無実の人間でも有罪になってしまうのではないか?」

 

「っ!?」

 

産まれてこの方、研究所から母親に助けられ、外の世界を知って十一年‥‥。

 

魔法と管理局が当たり前のように存在する世界で生まれ、おまけに育ての両親が管理局員であった環境下で育ってきたギンガにとってこの指摘は衝撃的だった。

 

「そう‥言われてみれば‥‥」

 

魔法も管理局とも全く関係ない第三者から指摘されて初めて管理局の存在に疑問を感じたギンガだった。

 

次にギンガが何故、遭難したのか、その経緯について話した。

 

「‥‥と、言う訳です」

 

「なるほど、リニスはどう思う?」

 

ギンガが遭難した経緯について、元魔法世界出身者のリニスに意見を求める良馬。

 

「恐らく、あの次元航行船の機関部に何らかのロストロギアが仕掛けられていたのでしょう。そしてそれはある一定の時間が経つと、暴走状態になり、次元震を発動するようにセットされていたものと思われます」

 

「そうだろうね。調査に当たった部下からの報告で、あの船の機関室の破損が異常に大きかったそうだ」

 

「やっぱり、情報が漏れて‥‥」

 

ギンガが悔しそうに顔を歪める。

 

「その場合、管理局側に犯人と内通している人物がいる可能性があるな」

 

「管理局に!?」

 

良馬の指摘に思わず声をあげるギンガ。

 

「ナカジマさんが参加したその作戦、その船に局員が内部に潜入ないし、突入しないと取れない作戦だ。まして、相手側の人間は最初から誰一人乗っていなかったのだから‥‥そうなると、一番怪しいのは作戦の立案をした奴だな‥突入してきた局員の抹殺を企てたのかもしれない。もっともこれは推論だから真実かどうかは分からないけどね」

 

「まさか‥‥」

 

ギンガには心当たりが無いわけではなかった。

 

(まさか、あの執務官が‥‥)

 

ジュリオはプライドが高い人物であり、自分はそのプライドを傷つけたのだから、彼が自分に対し恨みを抱いても全くおかしくはなかった。

 

先程、良馬に指摘された事と言い、ギンガは管理局のあり方に疑問を抱き始めた。

 

「我々はナカジマさんを遭難救助者として保護します。地球に着くまで、艦内の一部は地球連邦の法律と地球防衛軍の軍規が適用されますが、居住ブロックでは堅苦しく考えず、普段どおり過ごしてもらって構いません」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「ナカジマさんの方から訊きたい事は何かあるかな? 流石に軍の機密事項は話せないが、それ以外の事ならば可能な限り答えよう」

 

「ありがとうございます。では‥‥」

 

(彼らもまた、ある程度情報を開示すると言っているのだから、私もここに来てから積み重なっていた疑問をぶつけてみよう)

 

そう思いギンガは地球防衛軍の組織についての歴史を聞いた。

 

良馬は口で説明するよりも見てもらった方が早いと言って、防衛軍が作成した記録映像をギンガに見せる事にした。

 

そして、

 

「‥‥」

 

ザー‥‥

 

彼女の正面には、砂の嵐と化したモニターの画面が光るだけ、

 

つい数分前まで彼女が見ていたのは八年前に始まった星間戦争、あるいは絶滅戦争の当事者にされた地球と人類が辿った運命と呼ぶには余りに苛酷で悲しい戦いを記録した映像。

 

最新のモノでつい、先日行われた冥王星海戦までの記録映像まで含まれていた。

 

これらの映像が創作されたものには見えなかったし、ブリッツ・キャリバーも同様の見解を示した。

特にギンガにとってショックだったのが、遊星爆弾による無差別攻撃だった。

 

たった一発で大都市を消滅させ、大勢の人々を一瞬のうちに消滅させる恐るべき大量殺戮破壊兵器。

 

当然、管理局では禁止されている質量兵器に類するものであるが、その破壊力と破壊規模は計り知れない。

 

しかもその後には人類には有害な放射能物質が大気を汚染し、人が住めない環境へと変貌させる。

 

そして、奮闘空しく次々と撃沈され、壊滅していく地球防衛軍の艦艇の姿。

 

良馬もつい先日行われた冥王星海戦で親友二人を亡くしたと言う。

 

こんな事は、管理局‥いや、ミッドや他の管理世界には今まで起こらなかった事態だ。

 

もし、これがミッドだったら管理局はここまで戦えただろうか?

 

もし、他の管理世界がこのような事態になったら管理局はその世界を守るためにここまで奮戦しただろうか?

 

様々な思いを巡らせるギンガに、良馬は、

 

「少し疲れたご様子ですし、今日はここまでにしておきましょう」

 

「そうですね。ナカジマさんもよろしいですか?」

 

良馬の意見にリニスも賛同しギンガに訊ねる。

 

「は、はい」

 

「地球に着いてからのナカジマさんの身の振りは此方で手配しておきます。決して悪いようにはしませんので」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「いえいえ、では、ゆっくり休んで下さい」

 

軍帽を被り医務室を退室する良馬。

 

「さっ、ゆっくりお休み下さい」

 

リニスはギンガを寝台の方へと案内する。

 

良馬は医務室を出た後、通信室へと入り地球へ通信を入れた。

 

「今回の戦いについては既に連絡が来ているよ。残念だったね。そして、お疲れ様」

 

通信相手はまず良馬に今回の戦いでの慰めと労いの言葉をかける。

 

「いえ、元々勝てる戦いとは思っていなかったので‥‥」

 

「しかし、君が生きて帰ってきてくれて嬉しいよ。家内や娘もきっと喜ぶだろう」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「ところで、要件は何かな?もうすぐ地球へ帰ってくるのだろう?」

 

「はい。実は火星付近で不明船が突如、ワープアウトをしてきまして‥‥」

 

「不明船?ガミラスの艦ではないのか?」

 

「はい。その件で是非とも五課長にはお願いが‥‥」

 

「ん?何かな?」

 

良馬は通信画面の向こうの人物に経緯を話し、そこで救助したギンガの顔写真を通信画面の向こうの人物に見せた。

 

「‥‥」

 

通信画面の向こうの人物もギンガの顔を見て驚いた顔をする。

 

「それで、君の言う『お願い』とは?」

 

「地球において、彼女の身柄の安全のため、身請け人となっていただけませんか?彼女の容姿ならば、上手くごまかせると思うのですが‥当然、自分も協力します」

 

「まぁ、確かに写真を見る限りでは彼女とウチの女房は瓜二つの容姿だし‥‥」

 

「それに彼女は、肌の色や容姿は地球人そのものですが、我々地球人から見れば異星人です。この事を防衛軍の上層部の一部が知ったら、彼女の身に危険が及ぶ可能性があります」

 

「‥‥」

 

家柄上、月村家には様々な情報網が存在し、その情報には世界の軍、政治、企業の裏情報が齎される事が多々ある。

 

その中で、軍が厳重な緘口令を強いている今回のガミラスとの戦争の噂は、世間で知らされているガミラス側が一方的に地球へ侵略行為を行ってきたものではなく、地球側からガミラスへ先制攻撃を仕掛けたと言うものであった。

 

しかし、いくら厳重な緘口令を敷こうが、限度と言うモノが有り、その僅かな隙間から情報が洩れ、月村で知られる事となった。

 

「俺も噂程度では聞いています。このガミラスとの戦い、先に戦端を開いたのは地球側である事を‥ですから‥‥」

 

「わかった。地球での彼女の事は私に任せなさい。藤堂長官にも此方から伝えておく。それに家内も恐らく反対はしないだろうからな」

 

「ありがとうございます。それと‥‥」

 

「ん?まだ何かあるのか?」

 

「高町が‥戦死しました」

 

「‥‥」

 

地球へは大まかにガミラスとの艦隊決戦に敗れたとだけ、知らされ、具体的な地球側の被害、戦闘報告はまだ報告されていなかった。

 

「あの子の事もお願いします」

 

良馬が言う彼女とは高町 恭介の妹、高町 紅葉のことを指していた。

 

「分かった。準備は此方でしておく。君の帰りを待っている」

 

そう言って良馬は通信機の機能をOFFにした。

 

その後、ギンガが乗っていた輸送船は地球へ回航される事となり、良馬は輸送船の回航作業を指揮するため艦橋へと戻った。

 

そしてギンガは未だに精神的、肉体的疲労から完全回復しない為、管理局の制服から再び健診衣へと着替え、寝台に横になるとすぐに眠りについた。

 

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