宇宙の彼方から飛来したハイペロン爆弾と続々と押し寄せてきた暗黒星団帝国の大戦力の前に、地球防衛軍は敗北し、地球は瞬く間に制圧された。
暗黒星団帝国は地球へ撃ち込んだハイペロン爆弾により人類の脳細胞を一挙に死滅させることが出来ると地球連邦政府を脅す。
地球を救うため、ヤマトは暗黒星団帝国の本星を目指し旅立つ。
その途中、シリウスにて演習中に暗黒星団帝国の奇襲を受けたまほろば、春藍を救助し、共に暗黒星団帝国の本星を目指す。
数々の妨害の中、ついに暗黒星団帝国の本星へと到達する。
一方、地球でも暗黒星団帝国の支配に抵抗する地球人はパルチザンを結成し、多くの犠牲を払いながらも着々と暗黒星団帝国の戦力を削いでいき、最終的に地球へ撃ち込まれたハイペロン爆弾の占拠と起爆装置の解除に成功する。
宇宙の方でもヤマト、まほろば、そしてサーシアの活躍により、暗黒星団帝国側の起爆装置を破壊することが出来た。
地球、暗黒星団帝国、両方のハイペロン爆弾の起爆装置を破壊して無事に地球を救うことが出来、あとは地球へ帰還するだけとなった。
地球への帰路の途中、ヤマトの第一艦橋にて古代は島に、
「なぁ、兄さんとトチローさんは今頃、どの辺りにいるのだろう?」
と、自身の兄である古代守と守、真田の同期であるトチローの現状についてポツリと零した。
「心配することはないさ、古代。きっと無事に着くよ」
島はあの守とトチローならば大丈夫だろうと言う確信があり、古代を励ます。
「兄さん‥‥」
実はヤマトら一行が地球への帰還行動に入る前に良馬はサーシアの双子の妹のユリーシャを連れてヤマトを訪れていた。
それは守からユリーシャに大切な話があると言われたからだ。
ヤマトに到着した際、ユリーシャはサーシアの下へ駆け寄り、姉の生還を喜んでいる。
そんな姉妹の姿に思わずほっこりする中、
「ん?やっぱり、あれは‥‥」
良馬はヤマト艦内の装備品を興味深かそうに見ている一人の男性に気づき、声をかけた。
「あの、もしかしてスカリエッティさん?」
「っ!?」
声をかけられて男性はビクッと体を震わせ恐る恐る良馬の方へと振り向く。
「あっ!!やっぱり!!スカリエッティさん。どうして此処に?」
親しげに声をかけながら男性に近づく良馬。
サーシアがヤマトにデザリアム内部での現状を通信で送ってきた際、まほろばの艦橋にあるパネルで男性が映し出された時から、『あれ?もしかして‥‥』と思っていたのだが、こうして間近で出会い、男性が誰なのかを確信して声をかけたのだ。
一方、良馬から声をかけられた男性は顔や態度には見せないが内心ではかなり焦っていた。
(な、なぜ、この男は私の名前を知っている!?もしかして、この男は管理局の人間なのか!?)
(い、いや、落ち着け私。ここは地球防衛軍とやらの戦艦なのだから、管理局の人間が居る筈がない)
「スカリエッティ?」
「ジェレミア・ゴットバルトじゃないのか?」
この男性‥‥ジェレミア・ゴットバルトはサーシアと共にヤマトへ乗艦した際、守たちに自らの名をジェレミア・ゴットバルトと名乗っていた。
名乗った名前と異なることに訝しむ古代たち。
「あっ、知りません?最近地球で流行っている『BRAVE DUEL』っていう仮想体験型のアクションゲームなんですけど、そのゲームシステムを考案し、製作したのがこちらのジェイル・スカリエッティさんなんですよ」
「いや、ゲームはやらないから‥‥」
「俺も‥‥」
良馬は訝しむ古代たちにジェレミア・ゴットバルト‥‥もとい、ジェイル・スカリエッティを紹介する。
もし、この場に真田がいれば、ゲーム内容や開発者の顔は知らずともBRAVE DUELの仮想システムやそのゲームシステムの開発者の名前については知っていただろう。
しかし、古代兄弟はBRAVE DUELについて全く知らなかったので、開発者のジェイル・スカリエッティと言われてもピンとこなかった。
「それにしてもどうして此処に?まさか、暗黒星団帝国に拉致されていたんですか?」
ジェレミアにグイグイと質問する良馬であるが、彼の紹介を聞いてジェレミアは、
(BRAVE DUEL?そんなゲームシステムなんて聞いたことも開発したこともないぞ!?)
(し、しかし、彼の話を聞く限り、どうやら彼らの故郷である地球にはもう一人の私が居るみたいだな。そして、彼はもう一人の私と思い込んでいるようだ‥‥)
(ここはもう一人の私に成りすましても良いが、下手に誤魔化してドジを踏むわけにはいくまい)
ジェレミアはそう考え、
「すまないが、貴方は私をどなたかと人違いされている様だ。私はジェレミア・ゴットバルトと言う者だが?」
あくまでも自分はジェイル・スカリエッティではなく、ジェレミア・ゴットバルトである事を貫く選択をした。
「えっ?もしかして人違い?」
「ああ、残念ながら私は地球とは別の星から暗黒星団帝国に連れ去られて来てね。そちらのお嬢さんとあの星の中で出会い、脱出の為に協力させてもらったのだよ」
「そ、そうだったんですか?すみません。知人に貴方と瓜二つの人が居ましたので‥‥」
「いや、いや、世の中には自分に似ている人間が三人居ると聞くからねぇ~君が見間違えるのも仕方ないさ」
ジェレミアは笑みを浮かべながら人違いである事を突き通す。
(ふぅ~何とか誤魔化せたか‥‥)
笑みを浮かべていたがジェレミアは内心ひやひやしていた。
(人違いだったのか‥‥でも、ウチの砲雷長とハラオウンさんも似ているし、ギンガと加奈江さんも似ているから、広い宇宙だからそっくりな人が居ても不思議ではないか‥‥)
ジェレミアの話を聞いて良馬はジェレミアと自分が知るスカリエッティが別人であり、自分は人違いしたのだとあっさりと納得した。
ジェレミアの主張は一見苦しいものがあるが、良馬の周りにそっくりな人たちが居たおかげでジェレミアはこの危機を乗り切ることが出来たのだ。
古代もフェイトとフェリシア、故人であるがスターシアの妹の方のサーシアと雪、などの前例があったので良馬同様に納得した。
ジェレミアの人違い騒動が収まり、守はユリーシャにわざわざヤマトへ呼んだ訳を話す。
「ユリーシャ」
「はい、お父様」
「俺とサーシアはこのままイスカンダルへ帰ろうと思う」
「えっ?」
「兄さん、本当にイスカンダルへ帰るんですか?」
守の発言にユリーシャも古代も驚いている。
「ああ。俺は地球人でもあるが、同時にイスカンダル人でもあるんだ。サーシアもユリーシャも無事にここまで成長した。俺がこれから進むべき道はイスカンダルへ帰り、スターシアやサーシアと共にあの星を立て直すことだと思う」
「私も、もう二度とお父様と離れたくないわ。叔父様やみんなと離れるのは辛いけど‥‥」
守はイスカンダルへ戻り、イスカンダルの復興を決意しており、サーシアもやはり父親である守がイスカンダルへ戻ると言うのであれば、彼と共に母親が待つイスカンダルへ戻るのも不思議ではない。
それに失恋相手の古代と一緒にいるのは気まずい。
「ユリーシャ、貴女はどうする?」
サーシアは妹のユリーシャに自分たちと共にイスカンダルへ戻るかそれともこのまま地球へ戻るかを訊ねる。
守やサーシアとしては勿論ユリーシャにもイスカンダルへ戻ってきて欲しいが、もしユリーシャがイスカンダルへ戻らず地球への残留を望むのであるならば、二人はユリーシャの意思を尊重するつもりだ。
「わ、私は‥‥」
ユリーシャは守、サーシア、そして良馬をチラッと見て、
「私は地球へ行きます」
と、自分は守やサーシアと共にイスカンダルへは戻らずこのまま地球への残留を希望した。
「そうか‥‥月村」
「は、はい」
「ユリーシャの事をくれぐれも‥‥いいか、く・れ・ぐ・れ・も頼むぞ」
守は両手で良馬の両肩をガシッと掴み、背後にゴゴゴゴ‥‥と文字が浮き出るほどの圧がある笑みを浮かべながら良馬にユリーシャのことを託した。
彼としては娘の成長は嬉しい反面、自分の手から娘が離れてしまうのはやはり寂しい。
しかし、娘が望むのであるならば‥‥
と、苦渋の決断でもあった。
「は、はい。お嬢さんの後見人として悪い虫がつかないよう気を付けます」
「ん?あっ、ああ‥‥そうだな。うん‥頼むぞ」
ユリーシャの仕草と父親としての勘から娘のユリーシャが良馬に対して好意を抱いているのは察したが、その良馬からの返答を聞きあくまでも良馬はユリーシャの後見人としての役目を全力で果たすと言う。
良馬からの返答を聞いて、守は良馬がユリーシャの事を異性として意識していないことに対して怒りの様な、娘が取られない事に対してホッとしたような複雑な心境だった。
そんな良馬と守の様子を見て、サーシアとユリーシャの姉妹は、
「ユリーシャ‥貴女も苦労しそうね。でも、私よりは可能性があるかな?」
サーシアの場合、自身の叔父に恋心を抱いてしまい、更にはその叔父には既に雪と言う婚約者も居た。
略奪愛にするにしても叔父と姪と言う関係上から倫理的にも血筋的にもサーシアの初恋は実ることはなかったのだ。
しかし、ユリーシャの場合は恋心を抱いたのは叔父の古代ではなかったのでサーシアと異なりワンチャンある。
「うん、頑張る」
ユリーシャ自身、良馬は自分よりもギンガのことを愛しているのは知っている。
でも、ユリーシャ自身負けるつもりはなかった。
だからこそ、自分は父親や姉と違って故郷であるイスカンダルへは戻らず地球へ行くのだ。
(私も志郎おじさまではなく、ユリーシャと同じ家に預けられていれば違った未来があったのかな?)
ユリーシャの姿を見て、もし自分もユリーシャと同じく月村家に預けられていれば、初恋の相手は古代ではなかったのかと言う想像もしたが、しかしそれはあくまでも結果論に過ぎない。
「元気でね、ユリーシャ」
「お姉様も‥‥」
今生の別れではないが、今度はまたいつ出会えるかわからない。
姉妹は再び抱擁を交わす。
「俺も行くぞ、古代」
すると、トチローも守、サーシアと共にイスカンダルへ行くと言う。
「大山。お前‥‥」
「なあに、ほんの道連れさ。お前とスターシアの仲を邪魔をするようで悪いが、俺だったら荒廃したイスカンダルをどうにか元の姿に戻せると思ってな、いくら俺でも星一つの相手じゃあ無理かもしれんが、まぁ何とかやってみるさ」
「すまない大山」
イスカンダルはあの暗黒星団帝国とイスカンダリウムの争奪戦の影響でただでさえ寿命が尽きかけている星だったにもかかわらず、無理をさせてしまった。
軌道を外れ暴走し、暗黒星団帝国に取られないようにするためとは言え、イスカンダリウムの組成変換までした為、残り少ない星の寿命を更に縮めてしまった可能性もある。
しかし、イスカンダリウムの組成変換をしたトチローが行くのであれば、確かに彼の言う通りイスカンダルの寿命をもう少し延ばすことも出来るかもしれない。
「気持ちの悪いセリフを吐くなよ。俺の勝手にすることだ。それじゃあ行くとするか?古代。俺たちの雪風でな」
「ああ‥‥」
イスカンダルへ古代とトチローが向かおうとすると、
「だったら、私とロベルも良いかな?」
すると、トチローの話を聞いていたジェレミアも自身の秘書であるロベルと共にイスカンダルへの渡航を求める。
(向こうの地球の技術も見てみたいが、何やら厄介な予感がする)
(それならば、彼らと共にそのイスカンダルとやらへ行った方が良さそうだ)
(彼らの反応から、そのイスカンダルはどうやら管理局とは無縁の世界の様だしね)
ジェレミアの勘はまさに当たっており、ヤマトがこれから向かう地球にはかつて自分を逮捕した管理局の執務官が居る。
その執務官がジェレミアの正体を知ったら色々と面倒だ。
「えっ?でも‥‥」
守はジェレミアからの突然の申し出に困惑する。
(暗黒星団帝国内部では確かに協力者だったけど、この人をイスカンダルへ連れて行って大丈夫かしら?)
サーシアもジェレミアの暗黒星団帝国内での研究内容や言動から不安視する。
「まぁ、いいじゃないか古代。人手は少しでも多ければ多いほどイスカンダルの復興も早まるってもんだろう?」
困惑する古代親子であるが、楽天的なトチローはむしろ人手が増えると言う事で賛成の様子。
「まぁ、お前が言うなら‥‥」
若干の不安が残るものの確かにトチローの言う通り、イスカンダルの復興には人手が必要なのも事実だ。
それに怪しさがあるもののジェレミアはサーシアを無事に暗黒星団帝国から脱出させるために協力してくれた恩もある。
「それじゃあ進。元気でな」
「兄さんも‥‥」
「叔父様。また‥‥またいつか会えるわ」
「サーシア‥‥」
こうして守、サーシアの古代親子、トチロー、ジェレミア、ロベルの五人を乗せた雪風・改は地球へ帰還するヤマトら一行とは別にイスカンダルがあるマゼラン星雲へと旅立って行った。
あの暗黒星団帝国がここからマゼラン星雲のイスカンダルへ襲来したのだから、雪風・改だってイスカンダルへ行ける筈だ。
(雪、今から帰るよ‥‥)
古代は兄や姪たちの無事を信じて今は愛する人が待つ地球へ戻ることを最優先した。
古代親子たちの旅立ちを見送り、ユリーシャと共に まほろば に戻ってきた良馬はギンガがジッと窓の外を眺めているのを見つける。
「ギンガ、どうした?」
「あっ、良馬さん‥‥ちょっと思うことがあって‥‥」
「ん?」
「人はいつになったら血を流さずに幸せになれるんでしょうね?」
「‥‥」
「私たちはサーシアちゃんも地球の人々も救うことが出来ました。でも、暗黒星団帝国の人々は私たちが滅ぼさなければならない人たちだったのでしょうか?生き残るには敵を滅ぼすしか手はないのでしょうか?」
地球の脅威となった彗星帝国、そして今回の敵だった暗黒星団帝国には地球側が流した血以上の血が流れ、命が消えた。
ティアナから聞いた話では、機動六課時代に戦った広域指名手配犯の方のジェイル・スカリエッティの下に居た戦闘機人たちはそのほとんどが今は平和にミッドチルダで暮らし、更には四人がナカジマ家の養女となりスバルと姉妹関係であると言う。
また最初に地球を滅ぼそうとしたガミラスも暗黒星団帝国との共闘をきっかけに和解が出来た。
『昨日の敵は今日の友』と言う言葉があるように例え一度は敵対しても友になりえる可能性だってある。
しかし、それは互いに生き残った場合だ。
強大な脅威となった場合、どちらかが滅ぶまで戦わなければならないのか?
ギンガはそんな疑問を抱く。
「ギンガの気持ちは十分にわかるよ。でも、俺たちは自分の罪を知っている。血を流すことの恐ろしさを感じている。その思いが少しずつ積み重なって、今はダメでもきっといつかは命を大切に出来る人類を作り上げることが出来る筈だ」
「良馬さん‥‥」
「ギンガ、俺はやはりこの宇宙で地球が一番美しい星だと思うよ‥‥それは何かをひたむきに信じることが出来るからだ。今は無理でもいずれやって来るさ、宇宙の全てが平和になる日が‥‥俺たちがそれを信じている限りね」
「‥‥そうですね」
「さあ、帰ろう‥‥皆が待っている地球へ‥‥」
「はい!!」
良馬の言う宇宙の平和が来る日‥‥
それはいつ来るのは分からない。
しかし一つ確実なのは、地球は暗黒星団帝国からの脅威から脱したと言う事だ。
ただ、地球へ戻る中でユリーシャがサーシアと共にイスカンダルへは行かず、このまま地球へ一緒に帰る事を知って、
「ええー!?ユリーシャちゃん、サーシアちゃんとイスカンダルへ帰らなかったの!?」
「うん。私は地球で暮らすことにしたの」
ユリーシャは指で髪先を弄りながら答える。
「で、でも‥‥どうして‥‥」
やや動揺するギンガはユリーシャに地球への残留理由を訊ねる。
「それはギンガが何よりも知っているんじゃない?」
「‥‥」
ギンガはユリーシャが何故父親や姉と共に母親が居るイスカンダルへ戻らず、地球へ一緒に帰るのか女としての勘ですぐに分かった。
ユリーシャは家族や故郷よりも愛を選んだのだと‥‥
「これからもよろしくね、ギンガさん」
「え、ええ‥‥こちらこそ‥‥」
ユリーシャはいたずらっ子の様な笑みを浮かべるが、反対にギンガの方は引き攣った笑みを浮かべる。
(むぅ~やっぱりユリーシャちゃんはお邪魔虫です)
そして、心の中でユリーシャに対して毒づいた。
ヤマトら一行が地球との通信圏内に入ると、早速戦況報告を地球へと入れる。
暗黒星団帝国側のハイペロン爆弾の起爆装置は破壊し、地球はハイペロン爆弾からの脅威から去ったことを伝えるとその場にいたパルチザンメンバーは歓声をあげる。
ヤマト、まほろば のカメラが記録した暗黒星団帝国の中心部とも言える人工都市を破壊した映像、内部から波動融合反応で誘爆していく暗黒星団帝国本星の映像の数々‥‥
これらの映像が決して作られたものではない事はヤマトらが地球への帰還行動に移っている事から明白であった。
ようやく暗黒星団帝国からの脅威が去った事実は藤堂から地球連邦政府へと伝えられ、大統領は連邦市民に対し公式に会見を開くと地球の各所では歓喜の声が響いた。
ただ、ヤマト、まほろばが撮影したデザリアム星の崩壊映像は暗黒星団帝国の人たちが吹き飛ぶ詳細な映像ではないが、都市がヤマト、まほろば の波動砲で消滅していく光景は都市内部に居た民間人も同じく消滅していくことを意味しているショッキングな映像なので、大統領からの会見ではその映像は使用されず、あくまでも防衛軍関係者がその映像を確認し、暗黒星団帝国の脅威は完全に去ったと判断したのだ。
地球上が歓喜の声で満たされている中、雪とティアナの姿は英雄の丘にあった。
二人は髪を風になびかせながら、じっと空を見上げている。
「終わりましたね‥‥」
一息吐きながらティアナは雪に声をかける。
「ええ‥‥でも、地球はまた新しい始まりを迎えることになるわね」
英雄の丘から見える市街地ではパルチザンと占領軍との戦禍の爪痕が残っており、まだあちこちに煙が上がっているのが見えるし、ビルも破壊されたままだ。
「でも、地球の人ならまた復興できますよ」
ガミラス、彗星帝国とこれまでこの世界の地球は二度に渡る大きな戦乱を乗り越え復興を果たした。
今度だって復興を果たせるとティアナはそう思っていた。
「そうね‥‥」
ティアナの言葉に雪は微笑みながらそう答える。
(やっぱり、この世界の人たちは強いわね‥‥)
ティアナ自身もJS事件にて、公開陳述会にてナンバーズとガジェットの襲撃で地上本部ビル、機動六課隊舎が破壊された経験があり、事件後に地上本部ビルは修繕された現場を見たが、復興レベルが全然違う。
暗黒星団帝国は日本だけではなく、地球全域を占領下に置いたことから復興作業は地球全域となるのだ。
それ以前に占領下の中、不屈の闘志でパルチザンを組織して徹底抗戦をした事、
あてもない航海になるかもしれない中、敵の本星を突き止め攻略し、地球を救ったのだから、まさに英雄の名にふさわしい功績だろう。
管理局の魔導師にここまでの功績をあげることが出来る者がいるだろうか?
JS事件の時は陸、空の局員はミッドで‥‥
海はゆりかごに引導を渡すために戦ったが、ミッドが今回の地球の様に占領下であった場合果たして管理局は‥‥ミッドの人たちはパルチザンとして徹底抗戦をするだろうか?
なのはやはやて、ヴォルケンリッターたちならば徹底抗戦を決意するだろうが、例え一人の魔力レベルが高くても少人数では大勢の敵には勝てないだろうし、今回のパルチザンみたいに、なのはたちに賛同して一緒に戦ってくれる局員や聖王教会の騎士が一体何人いるだろうか?
そしてミッドの住人は何も全てが魔導師であり管理局員と言う訳ではない。
スバルの父親のゲンヤみたいに非魔導師も居れば、ヴィヴィオの様な学生を始めとする民間人も当然いる。
ティアナが共に戦ったパルチザンの中には民間人も多数含まれていた。
ミッドが万が一、どこかの勢力の手によって占領された時、局員は勿論の事、ミッドの民間人も戦うだろうか?
パルチザンとして暗黒星団帝国と戦ったティアナだからこそ、管理局の局員としての視点から管理局とこの地球の人たちと比べ疑問を持ってしまう。
ティアナがそう思いながらチラッと隣に立つ雪の姿を見ると、雪は空を見上げながら微笑んでいる。
ヤマトが帰ってくると言う事は、古代の帰還も意味している。
アクシデントで離れ離れになってしまった雪であったが、もう少しで婚約者と再会できる。
雪としては一日千秋の思いでヤマトの帰還を待っているのだろう。
「‥‥」
雪の表情を見てティアナは、
(戦っている時の雪さんは女性ながらも頼もしく見えたけど、こうして恋人を待っている雪さんは同じ女性ながらも綺麗だわ‥‥やっぱり、恋をすると女性って綺麗になるのね)
戦闘時の雪はなのはの様に頼もしく見えたが、こうして古代の帰りを待っている雪の表情は同性のティアナから見ても綺麗だった。
(恋‥‥か‥‥)
これまでの人生でティアナは年齢=彼氏無しであった。
それ以前に異性に対して現を抜かす余裕がなかった。
しかし、遭難してパルチザンとして戦闘をしこうして平和が来たという実感を感じていると何だか心に余裕が出来たような感覚となり、雪やギンガの様に婚約者や彼氏が居る人に対して羨むと同時に自分も恋をしてみたいと言う思いが沸き上がり始めた。
とは言え、先日の戦闘で自分は顔に傷を負った。
忍の話では整形で傷は消すことは出来るが、ティアナとしてはこの傷はこの戦いを忘れないために残したい。
でも、こんな顔に傷がある女を貰ってくれる男なんているだろうか?
そう思いつつも傷がある自分を愛してくれる男が居たとしたら、それは自分の全てを受け入れてくれる男と言う事でもある。
(そんな人、現れるのかな‥‥?)
異性関係や管理局についての将来を思いつつ、ティアナは雪と共に再び空を見上げた。
地球のあちこちで暗黒星団帝国からの脅威が去った事に歓喜する中、反対に悲哀な空気を出している者たちが居た。
それは捕虜収容所に収監されている暗黒星団帝国の占領軍将兵たちだった。
藤堂が収容所へと赴き、アルフォンとメイトリックの二人にヤマト、まほろばが撮影したデザリアム星の映像を確認してもらったのだ。
二人にしてみれば、祖国が滅ぼされる映像を見せられたことになったが、アルフォンもメイトリックも占領軍終末の時から可能性の一つとして祖国の滅亡は覚悟していた。
アルフォンもメイトリックも藤堂の見解通り、この映像はフェイクではなく事実であることを認めた。
アルフォンとメイトリック以外の捕虜になった占領軍の将兵たちにアルフォンは祖国の滅亡を伝えた。
本国には家族や恋人を残してきた者も大勢いたので、祖国の滅亡の知らせを聞き、涙を流す将兵たちが大勢居た。
それからしばらくして、ヤマト、まほろば、春藍が地球へ帰還した。
それはヤマトが最初のイスカンダルからの航海で帰還した時の様に連邦市民や防衛軍関係者からの歓喜の声で迎えられた。
まさに凱旋とも言える帰還だった。
「何とか無事に地球へ戻れましたね」
地球へ到着し新見が安心したように言う。
「ああ‥でも当分戦後処理で忙しくなるだろうな」
良馬はこの後地球で待っている戦後処理で当分は宇宙へ上がることはないだろうと判断した。
帰還後、古代、良馬、山南は防衛軍司令部に戦況報告を求められ司令部へと出頭し、地球までの帰路の途中で作成した報告書を提出した。
地球はまたもや復興作業が急務となる。
復興作業の他に問題は暗黒星団帝国がメガロポリス東京に撃ち込んだハイペロン爆弾の処理と捕虜になった暗黒星団帝国の将兵たちの処遇だ。
ハイペロン爆弾の処理に関しては真田率いる科学局の技術者たちが念入りに調査を行った後、爆破処理されることになった。
しかし、起爆装置を外したとはいえ、地球上で爆発すれば地球の中間子質量を破壊し地球人類を滅亡させてしまうので、浮上させる際も細心の注意が払われた。
地球人類がハイペロン爆弾処理の不手際で地球人類を滅ぼすなんて洒落にならない。
ハイペロン爆弾自体に自走機能もあったので、七色星団での戦闘の際、ヤマトに撃ち込まれたドリルミサイルを逆転させたようにハイペロン爆弾下部に装備されていたドリル部分を逆回転させ、空からは頑丈なワイヤーとパワーのある戦艦で引っ張りあげる。
ハイペロン爆弾の牽引には春藍の他に数隻の無人戦艦群が担当した。
春藍や無人戦艦は波動エンジンを二基装備しているので、ヤマト まほろば よりもパワーがあったからだ。
春藍の艦橋には艦長の山南の他に真田の姿もあり、パワー出力の調整監督を務めた。
地表からハイペロン爆弾が引き抜かれる際には現地に沢山のマスコミが集まり、生中継で世界各国に放送された。
宇宙へ牽引されたハイペロン爆弾は第十一番惑星の沖合まで曳航された後、十分な距離をとり、牽引した戦艦部隊の波動砲の一斉射撃で爆破処理された。
ハイペロン爆弾の処理が行われている中、雪は暗黒星団帝国の捕虜が収容されている捕虜収容所へと出向いた。
「お加減はいかがですか?アルフォン少尉」
雪は収容所にある医務室のベッドに居るアルフォンを見舞う。
「動きに関して多少の違和感はあるが、動くだけならば問題はない。この後控えている裁判にも十分に耐えられる」
「‥‥」
裁判と言う言葉を聞き雪は表情を曇らせる。
「そんな顔をしないでくれ‥私たちはあまりにもやりすぎた。この後の裁判の判決を私は受け入れるつもりだ」
アルフォンの言う通り、ハイペロン爆弾の処理に続いての戦後処理は暗黒星団帝国の捕虜たちの処遇だった。
ただ、彗星帝国の残党と異なり、暗黒星団帝国の将兵たちは地球襲来時に直接地球へ降下して軍・民問わずに多くの破壊と虐殺行為を行った。
任務の為とは言え、民間人も多数虐殺したことは許されない行為だった。
防衛軍も地球連邦政府、連邦市民も暗黒星団帝国の捕虜に対する憎悪は激しかった。
カザンの後任としてアルフォンは地球占領軍総司令官に就任していた。
例えアルフォン本人が民間人の虐殺に関与していなくとも総司令官という立場上責任は取らなければならない。
「‥アルフォン少尉。実は今日、少尉には会ってもらいたい人が居て‥‥」
「ん?誰だい?」
雪はアルフォンにある人物と会ってもらいたく、今日はその人物を連れてきた。
「貴方がアルフォン少尉‥‥」
「君は?」
「ヤマト艦長代理の古代進です」
雪は今日、アルフォンに古代と会ってもらいたく、彼を連れてアルフォンの下を訪れた。
「そうか、君が‥‥雪から話を聞いているよ‥‥それにヤマトの事もね」
「私の方も雪からアルフォン少尉、貴方の事を聞いています。負傷した雪を治療し、介抱していただきありがとうございます」
「礼なんてよしてくれ。私は君たちの仲を引き裂いた憎むべき敵なのだからな」
「いえ、例え貴方が敵だとしても大切な人を守ってくれたことには変わりないので、礼を言うのは人として当然のことです。それに私たちは地球人類のためとは言え、貴方がたの母星を滅ぼし、大勢の同胞を殺しました」
「君も私も軍に身を置くのだから互いに敵を倒す行為は当然の事だ。そして我々は負けた。敗軍の将となった者の末路は大体分かっている。そして、私はそれを覚悟している」
「‥‥」
デスラー同様、古代はアルフォンとも違った形で出会えれば、彼との間に友情関係を結べたかもしれず、残念に思った。
その後に民間人殺害に関してアルフォンとメイトリックをはじめとして生き残った士官・下士官に関しては連日厳しい尋問が行われ、事実確認が行われた。
もっともこれまでのパルチザンとの戦闘で占領軍側にも大勢の戦死者を出しているので確認は困難になった。
中には戦死した将兵に民間人殺害の罪をきせて逃れようとする者も居た。
民間人虐殺行為が確定的な者に対して死刑判決が下される中、やはりアルフォンの身柄については処遇が割れた。
カザンの後任として地球占領軍総司令官なのだから死刑にするべきだと言う意見の他、雪や古代から彼の助命を乞う意見も出ている。
死刑を免れた捕虜に関しては彗星帝国の残党同様、太陽系からの追放だろうが、その時のリーダー役としてアルフォンを推す意見があるのも事実である。
復興作業の中、アルフォンを含めた捕虜に関する処遇はもう少しもめそうだった。
暗黒星団帝国からの脅威が去ったことから、抵抗勢力であるパルチザンは解散となり、民間人は地球の復興へ今度はその力を貸し、軍人はそのまま軍へと戻る。
パルチザンが使用した兵器のメンテナンス係をしていた忍とノエル、戦闘員だったティアナは海鳴市の月村邸へと戻った。
源三郎も中嶋家に戻り、一時的に中嶋家に世話になっていたフェイトとヴィヴィオも月村邸へと戻る。
フェイトは月村邸でティアナと再会した際、ティアナの頬に貼られているガーゼを見て目を見開く。
「ティアナ!!どうしたの!?そのガーゼ!?やっぱり、怪我を!?」
「あっ‥は、はい。油断して‥‥」
「大丈夫なの?ちゃんと治るの?」
「一応、手術をすれば傷は消えるみたいなんですけど‥‥」
「そうなの?良かった」
手術をすればティアナの頬の傷は消えるようなので、それを聞いてホッとするフェイト。
しかし、ティアナは、
「‥‥でも、フェイトさん。私はこの傷を敢えて残すつもりです」
ティアナは手術をせずに傷を残すと言う。
彼女の返答に驚くフェイト。
「えっ!?なんで!?どうして!?手術が怖いの!?大丈夫だよ、手術中は麻酔で意識が無いみたいだし」
フェイトはティアナが手術をせずに傷を残すのは手術が怖いからだと思った。
しかし、手術中は全身麻酔をするのだから痛くはないから安心して手術を受ければいいと言う。
「いえ、そうではなくて‥‥この傷は私がここで戦った証でもあるんです‥‥あの戦いを忘れないため、私は敢えてこの傷を残します」
ティアナはフェイトに手術で傷を消さない訳を話す。
「そう‥‥」
フェイトもティアナの理由を聞いてティアナの出した決断ならばそれ以上深くは言わず、彼女の意思を尊重した。
「でも、なのははきっと‥‥」
「ええ‥‥色々言うかもしれませんね」
フェイトはティアナの決断に理解を示したが、なのはに関してはきっとティアナの言動に対して理解に苦しむかもしれない。
それでもティアナは自分が下した決断を曲げるつもりはなく、例え相手がなのはだろうとも文句は言わせないつもりだった。
「ねぇ、ティアナさん」
「ん?何?ヴィヴィオ」
「そのガーゼの下、どんな風になっているの?」
これまでの話を聞いてヴィヴィオはティアナの傷がどんなモノなのか気になり、ティアナに傷を見せてくれと頼む。
「ちょっ、ヴィヴィオ!?」
ヴィヴィオの頼みにフェイトはドキッとする。
いくらなんでもそれは失礼じゃないかと思ったからだ。
しかし、ヴィヴィオもこの世界に来て色々と図太くなったようだ。
それは傷を負ったティアナも例外ではない。
「まぁ、傷口もだいぶ乾いたみたいだし、もう大丈夫かな?」
ティアナは慎重に頬に貼られたガーゼをゆっくりと取る。
ベリベリベリ‥‥
ガーゼの下から露になった傷はティアナの左頬から鼻骨にかけて斜めに着いた傷で、レーザー銃の影響による火傷と縫った後も含め魚の骨みたいな傷となっていた。
「‥‥」
フェイトはティアナが経験した戦闘の凄まじさを想像し、露になったティアナの傷を見て息をのむ。
(ティアナ‥‥きっと、激しい戦闘を経験したんだ‥‥)
「おぉーティアナさん、カッコいい!!まるで女海賊みたい!!」
一方、ヴィヴィオの方は地球で女海賊が主人公のアニメを見た経緯から今のティアナとそのアニメの女海賊の主人公と姿が重なり、キラキラした目でティアナを見る。
(えっ!?ちょっとヴィヴィオ!!まさか、ヴィヴィオもティアナみたいな傷を作るなんて言わないよね!?)
ティアナの傷を見たヴィヴィオの反応を見て、心配になるフェイトであった。