星の海へ   作:ステルス兄貴

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百二十五話 交信再開

 

 

暗黒星団帝国からの脅威が去り、地球は再び復興への道のりを辿らなければならなかった。

 

帰還後、良馬はシリウスから暗黒星団帝国までの航海とその最中で行われた戦闘報告の為、海鳴市の実家へ戻れず、メガロポリス東京に留まっていた。

 

イスカンダルへは戻らず、地球への残留を決めたユリーシャはリニスに任せて先に海鳴市にある実家に戻ってもらった。

 

そして、報告会が終わると春藍に関しては地球へ撃ち込まれたハイペロン爆弾の処理作業の為、近日中に再び宇宙へ飛び立つ事になった。

 

良馬は暗黒星団帝国との戦いにおける報告を終え、ようやく暫しの休暇がもらえた。

 

山南たち春藍の乗員らもハイペロン爆弾の処理が終われば休暇となる。

 

「ふぅ~やっと帰れた‥‥」

 

海鳴市の実家に久しぶりに戻った良馬。

 

「‥‥なんかものすごく懐かしく感じるな」

 

実家の月村邸を見てポツリと呟く。

 

「ただいま~」

 

「あっ、月村さんおかえりなさい」

 

良馬を出迎えたのはたまたまロビーに居たティアナだった。

 

「っ!?ら、ランスターさん、その頬の傷どうしたの!?」

 

良馬はティアナの頬の傷を見てギョッとする。

 

「あっ、これは‥‥」

 

ティアナは良馬に暗黒星団帝国の占領下でパルチザン活動をして、頬の傷はその最中で負った傷であることを伝える。

 

ユリーシャを連れて帰ったリニスも当然、ティアナを見て驚いた。

 

しかし、リニスと一緒に居たユリーシャの方は、「はてな?」と口にはしたがリニスほど驚いてはいなかった。

 

なお余談であるが、リニスとユリーシャが先に月村邸に戻った日、忍たちは当然、どんな旅だったのかをリニスとユリーシャに訊ねた。

 

一日で全てを語るには時間が足りないが、守とサーシアが地球へ戻らずイスカンダルへ戻った話をした際、フェイトは物凄く落ち込んでいた。

 

(フェイトさんまさか本気で守さんの事を‥‥)

 

守が地球へ戻らなかった事実を知り落ち込んでいるフェイトを見て、ティアナはフェイトが失恋したのだと直感し、まさか、まさかの失恋場面を目撃してしまったことになる。

 

 

「そんなっ!?ランスターさんは元々この地球の動乱には関係なかったのに‥‥」

 

本来ならばミッドの住人であるティアナにとって地球の動乱は無関係でありそのまま無視して構わなかった。

 

それにもかかわらずティアナはパルチザンの一員として暗黒星団帝国の占領軍相手にドンパチしていたなんてまさに寝耳に水であった。

 

しかも顔に傷までつける程の大怪我をさせてしまった。

 

(あっ、そういえば暗黒星団帝国との戦いですっかり忘れていたけど、ランスターさんやハラオウンさんの問題もあったんだ‥‥)

 

暗黒星団帝国との戦いで忘れていたが、こうしてティアナの姿を見て彼女たちを元の世界へ還す問題も残っていた。

 

こうして暗黒星団帝国との戦いが終わったので彼女たちの帰還について管理局との交信も再開されることになるだろう。

 

(ランスターさんの傷を見て管理局がクレームをつけてこなければいいけど‥‥)

 

管理局との交信の際には嫌でもティアナの傷は管理局側の人間に見られる。

 

その時、管理局側がティアナを傷物にしたと喚いてくる可能性は高い。

 

「ランスターさん。知っていると思うけど、暗黒星団帝国との戦いは決着がついた」

 

「はい」

 

「そうなると管理局との交信はまた再開されることになるだろう。だから‥‥」

 

「この傷については全て私の自己責任ですから、管理局に文句を言わせません」

 

ティアナは良馬が何を言いたいのかすぐに察し、先手を打つ。

 

「で、でも、それぐらいの傷は手術で‥‥」

 

「分かっています。それでも、私は忘れたくないんです。この世界であったことを‥‥あの戦いの事を‥‥」

 

ティアナにとってはこの世界での戦闘はこれまでの人生の中で生と死を間近で経験した物凄い体験だ。

 

ハイペロン爆弾の占領作戦では、すぐそばで戦友を亡くす経験もした。

 

ティアナが傷を敢えて残すのはあの戦いで死んでいった仲間を忘れたくないと言うセンチメンタルな面があった。

 

良馬とティアナとの間でしんみりとした空気がある中、

 

「リョーマ!!」

 

その空気を壊すかのように明るい声がその場に響いたと思ったら、

 

「わぷっ!?」

 

ユリーシャが良馬に抱き着く。

 

ギュっ‥‥

 

ただ抱き着かれた時、ユリーシャの柔らかい体‥‥特に短期間で大きく育った胸がその存在感を主張してくる。

 

「ゆ、ユリーシャ!?」

 

「もう、リョーマ。なかなか帰ってこないんだもん。あぁ~久しぶりのリョーマの匂い‥‥」

 

ユリーシャは良馬に抱き着いたまま胸板に顔を埋める。

 

「ちょ、ちょっと、ユリーシャ」

 

「‥‥」

 

ユリーシャと良馬とのやり取りを見ているティアナの視線が気になる。

 

「あ、あの‥‥ランスターさん?」

 

「あぁ~私にはお構いなく。ごゆっくり~」

 

「えっ?ちょっ、ランスターさん!?」

 

羨むような、ドン引きするような感情が入り混じった視線をしながらその場から去るティアナだった。

 

(月村さんもか‥‥あれ?ちょっと待って、確か月村さんはギンガさんと‥‥浮気!?浮気なの!?)

 

ティアナとフェイトは月村邸で良馬とギンガの二人がキスをしているのを目撃しているし、クリスマスに行った温泉宿ではキスどころか露天風呂で二人は合体なんてしていた。

 

(くっ、リア充め!!)

 

ギンガと言う恋人が居ながらユリーシャともイチャイチャ(ティアナ視点)している良馬の姿を見て胸にむかむかする気分になるティアナだったが、

 

(ん?あれ?でも確かイスカンダル人って赤ん坊の期間がすごく短いのが特徴‥‥ってことは、ユリーシャちゃんはあの体付きで一桁の年齢!?)

 

(それって年齢的に大丈夫なのかしら!?)

 

ユリーシャの体つきを見ると十代後半~二十代前半ぐらいなのだが、実年齢はまだ二~三歳‥‥

 

イスカンダル人の特徴を知らなければ何の疑問も持たないが、特徴を知っているとやはり気にしてしまう。

 

良馬がユリーシャに対してよそよそしい態度をとるのは彼女が古代守とイスカンダルの女王であるスターシアの娘と言う理由だけでなく、ユリーシャの年齢も関係していた。

 

(いけない、いけない、それよりも現状を確認しましょう)

 

いくら心の中で文句を言っても自分に彼氏が出来るわけではないので、ティアナは良馬からの情報と現状の確認を行う。

 

(暗黒星団帝国からの脅威が去ったから管理局との交信が再開されるとなると、やっぱりなのはさんとも話すのは当然よね‥‥?)

 

フェイトと話した時にも思ったが、この傷を見たらなのはは絶対に経緯を訊ねてくる。

 

ガーゼを貼っても同様だ。

 

『そのガーゼはどうしたの?』と、絶対に聞いてくる。

 

メイクで誤魔化せるかと一瞬そう思ったがこの傷は大きく広範囲なので、メイクだけでは完全に隠せそうにない。

 

だからと言ってこの傷を手術で消すつもりはない。

 

だったら、管理局との交信の際、その席にでなければ良いのではないか?

 

スバル辺りが心配しそうだが、少なくともなのはと顔を合わせることはない。

 

でも、ミッドに戻ったら嫌でも顔を合わせることになる。

 

それならば、面倒事はさっさと片付けた方が良い。

 

ティアナは面倒だと思いつつもいつまでも先延ばしに出来る問題ではないので、管理局との交信が再開されたらこの傷の経緯を話そうと思った。

 

 

地球の復興作業と暗黒星団帝国の捕虜の扱い問題の中、地球側のもう一つの問題‥‥フェイトたちをミッドへ戻さなければならなかった。

 

流石に人員がイスカンダルの様に少ない訳ではないので、地球の復興作業、暗黒星団帝国の捕虜に関する処遇もあるが、管理局との交信は従来通り源三郎と良馬が担当することになった。

 

幸い休暇後も まほろば はあの長距離航海と戦闘を行った為、ヤマトと共にドック入りしているので、宇宙へ航海する予定もないので、良馬の方はフェイトたちの帰還に専念することにしたのだ。

 

なお、休暇中は同じく休暇になったギンガとあちこち出かけたり、あの航海中は一回きりだけだったので、それを埋め合わせするかのように互いに体を重ねた。

 

ギンガと二人っきりのお出かけの他に良馬はちゃんと家族サービスもした。

 

忍やリニス、ユリーシャを連れて出かけたりもした。

 

ただ、出かけ先でのユリーシャのアプローチにはドギマギさせられることも多々あった。

 

ギンガの方も中嶋家の皆と離れている時間が長かったので彼女も家族サービスを行った。

 

そんな良馬とギンガであったが、月村家と中嶋家の皆で出かけた際、良馬に引っ付くユリーシャの姿にギンガが嫉妬オーラを全開にする場面も見られた。

 

嫉妬オーラ全開のギンガ‥目のハイライトが仕事を辞め、普段はエメラルドグリーンの瞳だったはずなのに、この時ばかりは金色に変化していた。

 

流石のフェイトとティアナはそんなギンガの姿に思わず身震いしていた。

 

ユリーシャとしてはやはり、姉の失恋場面を見ているので、積極的に意識してもらおうと言う行動だった。

 

そして、嫉妬オーラ全開のギンガの機嫌をなおすために良馬の財布の中身と一軒のレストランが犠牲になった。

 

 

それからしばらくして‥‥

 

 

時空管理局・次元航行本部 

 

コンソールに着信を知らせるシグナルが点灯し、アラームが鳴る。

 

それはしばらくの間、遠のいていたアラーム音だった。

 

「っ!?ま、まさか!?」

 

当直に当たっていたオペレーターはアラーム音を聴いて慌てて回線を繋ぐ。

 

モニターには良馬と源三郎の姿が映し出される。

 

「地球防衛軍、宇宙戦艦 まほろば 艦長の月村良馬です」

 

「同じく、地球防衛軍作戦課第五課長の中嶋源三郎です」

 

「じ、時空管理局本局勤務、オペレーターの‥‥」

 

オペレーターは慌てて良馬と源三郎に役職と名前を名乗る。

 

「暗黒星団帝国襲来と言うアクシデントにより、交信が滞っておりましたが、何とか退けることが出来、こうして再びハラオウン執務官らの返還についての協議を再開したく、今回こうして交信をした次第です」

 

「なお、こちらの地球が一時暗黒星団帝国の占領下に置かれましたが、ハラオウン執務官らは無事です。次回の交信時にはその席に同席するでしょう」

 

「わ、分かりました。至急上司に報告し、協議の再開の旨を打診いたします」

 

「了解です。では、次の交信日時ですが‥‥」

 

良馬たちは管理局との次の交信日時を知らせ今回は通信を切った。

 

オペレーターは早速上官に地球防衛軍が暗黒星団帝国を退け、もう一つの地球との交信が再開されたことを報告した。

 

「何っ!?かの世界があの暗黒星団帝国を退けただと!?」

 

「はい。先ほど先方より交信が入り、ハラオウン執務官らの帰還について協議を再開したいとのことです」

 

「分かった。ハラオウン提督とレティ―提督に報告しておこう」

 

「了解です」

 

もう一つの地球が暗黒星団帝国を退けたことは瞬く間に管理局の中を駆け巡った。

 

「なのはさん!!ティアたちがいる世界との交信が再開したって聞いたんですけど、本当ですか!?」

 

スバルが早速、噂を聞きつけなのはに噂が本当なのかを訊ねてきた。

 

「うん。私も直接その場にいた訳じゃないけど、リンディさんに聞いてみたら本当みたい」

 

「そうですか‥‥また、ティアと話せるんだ‥‥」

 

スバルは再びティアナの顔を見て話せることに喜んだ。

 

スバル同様、なのは自身も嬉しかった。

 

なのはの場合、かつての教え子と親友の他に養女のヴィヴィオが向こうの地球に居るのだ。

 

その地球が宇宙からの侵略者の手により占領されてしまい、管理局との交信が途絶えてしまったのだから、スバル以上に気に病んでいた。

 

それがようやく向こうの地球と交信が再開されるのだから、なのはとしては次の交信日には有休をとってでもその席に同席するつもりだった。

 

「それで、なのはさん。次の交信日はいつですか!?」

 

もう一つの地球との交信はなのはの様子から確定の様子だったので、その交信日がいつなのかをなのはに訊ねる。

 

交信日が自分の非番の日ならばいいのだが、もしそうでなければスバルもなのは同様、有休を使うつもりだった。

 

「えっと‥私もまだ交信する日は聞いてないの‥リンディさんに聞いてみて分かったら連絡するね」

 

「ありがとうございます!!なのはさん!!」

 

なのは同様、スバルももう一つの地球との交信日を楽しみにしていた。

 

 

フェイトやティアナと関係があるスバルやなのはたちはもう一つの地球との交信再開を喜ぶ者が居たのは当然であるが、反面交信再開についてもう一つの地球を危惧する者たちも居た。

 

「まさか、もう一つの地球が暗黒星団帝国を撃退するとは‥‥」

 

「魔法をろくに使えない蛮族だと思われましたが、やはりあの世界の存在は極めて危険です!!」

 

「しかし、肝心の座標が分からないのではどうしよもない」

 

「それに艦船の数も未だに揃っていない」

 

「では、このまま手を拱いて見ていろと言うのですか?」

 

「チャンスはハラオウン執務官の帰還の機会だが‥‥」

 

「何とか、執務官らの引き渡し場所を向こうの地球へ指定することは出来ないのだろうか?」

 

フェイトたちの引き渡し場所をもう一つの地球にすれば迎えに居た次元航行艦のログから、もう一つの地球の座標を特定できる。

 

「それは今後の交渉次第ですな‥‥」

 

「しかし、あの女狐(リンディ)にそれが出来るでしょうか?」

 

「うーん‥‥」

 

リンディに頼んでフェイトたちの引き渡し場所をもう一つの地球に指定するように言ったところで彼女がそれに従うのかと言う疑問がある。

 

「あの女狐も管理局の提督だ。今回の事態には危機感を抱くのではないか?」

 

暗黒星団帝国はもう一つの地球よりも科学技術が上であの地球を一時的とはいえ占領したのだ。

 

その格上の暗黒星団帝国を地球防衛軍は退けたのだから、管理局としてはもう一つの地球に危機感を抱くのも当然だ。

 

リンディも管理局の提督と言う立場ならば、同様の危機感を抱く筈だとここに集まった高官たちはそう思った。

 

交信前の某日、リンディは本局内のとある会議室に呼び出された。

 

「失礼します。リンディ・ハラオウン参りました」

 

その会議室には幾人かの本局の高官局員らが待っていた。

 

「よく来てくれたハラオウン提督。さっ、掛け給え」

 

高官の一人がリンディに椅子へ座るように促す。

 

「失礼します」

 

促されリンディは椅子へと腰かける。

 

「早速だが、ハラオウン提督。君ももう一つの地球が暗黒星団帝国を退けた件については知っていると思う」

 

「はい。それでもう一つの地球と交信が再開されたのだとか?」

 

「うむ‥君としても義娘さんがミッドに戻ってこられるのだから一安心だろう?」

 

「そうですね」

 

「‥‥今回の件、君はどう思う?」」

 

「『どう?』とは?どういう意味でしょう?」

 

「聞けばもう一つの地球を占領した暗黒星団帝国‥‥かの帝国はもう一つの地球よりも優れた技術力を有していたと聞く」

 

「はい。私もそれについては聞いています。先日、探査航海に出た八神艦長が暗黒星団帝国と地球防衛軍との戦場跡を発見し、工作部隊が残骸を回収したとのことです」

 

「それで何か分かったのか?」

 

「例の地球の情報とか?」

 

暗黒星団帝国はもう一つの地球を占領していたので、はやてが見つけた暗黒星団帝国艦の残骸からもう一つの地球についての情報があるかもしれなかった。

 

「残骸を回収し調査をしましたが、航海ログなどの情報は全て消去していたみたいでもう一つの地球に関しての情報はありませんでした」

 

暗黒星団帝国側も自分たちの本星の座標をヤマトら一行に知られないように戦闘前にあらかじめ航海ログを消去したり、艦が撃沈された際に調査されることを見越して撃沈された時に作動する自滅プログラムを仕込んでいた。

 

その為、はやてが見つけた暗黒星団帝国の残骸からはもう一つの地球の情報は手に入らなかった。

 

防衛軍側の残骸はコスモタイガーばかりであり、戦闘機であるコスモタイガーにはワープ機能なんてないので、地球の座標なんて言う情報はなかった。

 

とは言え、管理局には存在していない貴重な宇宙金属と宇宙船のエンジン等がわずかながらも手に入ったので全くの無駄骨と言う訳ではなかった。

 

「そうか‥‥」

 

もう一つの地球の情報が何ら手に入らなかったことに落胆している様子の高官たち。

 

「ハラオウン提督、そんな暗黒星団帝国が格下の地球相手に敗北した‥‥この結果は由々しき事態ではないと思わないかね?」

 

「我々が暗黒星団帝国の残骸を手に入れることが出来たように、もう一つの地球は我々以上に暗黒星団帝国の技術を接収できたのではないか?」

 

「その通りだ。それによってもう一つの地球がいつ我々に牙をむけるが分からない状況だ」

 

「この際、打つべき手は事前に打っておくべきではないかな?」

 

「ん?打つべき手とおっしゃりますと?」

 

(まさか、もう一つの地球に対して武力行使をする気じゃないでしょうね?)

 

(でも、もう一つの地球の座標は不明だから、もう一つの地球に対して武力行使なんて不可能な筈‥‥)

 

リンディは高官たちの言動に嫌な予感がした。

 

「ハラオウン提督‥今後、交渉を通じて君の義娘であるハラオウン執務官らの帰還交渉が考えられるだろう?」

 

「ええ、そうですね」

 

「その交渉を通じてハラオウン執務官らの返還場所をもう一つの地球に出来んかね?」

 

高官の一人がリンディに今回彼女を呼んだ要件を切り出す。

 

「えっ?」

 

高官の提案にリンディは鳩が豆鉄砲を食ったようにポカーンとした顔になる。

 

「返還場所をもう一つの地球に設定すれば、必然的に座標を知ることが出来る。座標さえ知ることが出来れば後はどうとでも対処は出来る」

 

「暗黒星団帝国を退けたとは言え、地球側も無傷と言う訳ではあるまい。何かしらの被害が出ている筈だ。ならば、我々でも今の地球防衛軍に勝てるのではないか?」

 

「それに武力でなくとも戦災復興の名目で我々が救いの手を差し伸べ、かの世界に介入し管理世界へ編入も出来るのではないかね?」

 

高官たちはポカーンとしているリンディを無視して、彼女を通じて何とかもう一つの地球の座標を手に入れようと提案する。

 

「お、お言葉ですが、それは難しいかと思います」

 

しかし、リンディはすぐに再起動して高官らの提案はほぼ不可能だと言う。

 

リンディ自身も管理局の提督と言う立場から防衛軍と暗黒星団帝国の強さは理解しているし、高官らの言う格上相手の暗黒星団帝国を防衛軍が破ったと言う事実から彼らの強さを改めて実感している。

 

だが、地球防衛軍はこちらが手を出さない限り、管理局に対して牙をむくとは思えない。

 

防衛軍を敵に回さないようにするには変なちょっかいを出さない事こそ防衛軍側にも管理局側にも被害を出さず、両者にとっても円満なのだ。

 

「そもそも、私たち時空管理局は地球防衛軍から不信視されています。それは皆様にもその心当たりがあるかと思いますが?」

 

リンディが目を細めて高官たちを見渡しながら訊ねると、彼らは気まずそうに視線を逸らす。

 

視線を逸らすと言う事は彼らに心当たりがあると言う事だ。

 

管理局はこれまで通信ポッドをいじったり、無許可で地球連邦の領海とも言える太陽系内へ次元航行艦を派遣した。

 

その結果、逆にコンピューターウィルスを送り込まれ、派遣した次元航行艦は遭難し乗員は全員殉職した。

 

そして、その件についてあたかも防衛軍側に非があるような態度をとった。

 

『そんな相手を信用できるか?』と聞かれれば当然その答えは『信用できない』である。

 

そんな中でフェイトたちの引き取り場所を地球にしてくれと頼み込んだところで却下されるのは目に見えている。

 

「よって、ハラオウン執務官らの返還場所はおそらく宇宙空間の公海上のどこかになるでしょう。では、私はそのための交渉準備がありますので失礼します」

 

リンディはきっぱりと地球でのフェイトたちの返還は無理であることを高官らに告げ、会議室からそそくさと出て行った。

 

「くっ‥‥」

 

「‥‥」

 

高官らはリンディの背中を悔しそうに顔を歪めながら眺める事しかできなかった。

 

 

一方、もう一つの地球に居る件のフェイトたちの方はと言うと‥‥

 

「うーん‥‥こっちが良いかな?それともこっちかな?でも、色合いからしてこっちかな?いや、こっちも捨てがたいな」

 

「ねぇ、フェイトママ、もういい?眠いよぉ~」

 

「もうちょっと待ってヴィヴィオ。久しぶりになのはママとお話するんだから、おめかしして行かないと」

 

自分たちの引き渡し場所についての話し合いが行われているとは知る由もなく、フェイトは久しぶりにミッドの皆と交信をするのだから、ヴィヴィオには十分にめかしこんだ服を着てもらって、なのはには会ってほしかった。

 

しかし、親バカな一面があるフェイトはなかなかヴィヴィオの服を選べずに夜遅くになっても迷いに迷っていた。

 

そんな親バカなフェイトに付き合わされているヴィヴィオは既に眠いようで目をこすっている。

 

こうして様々な思いを抱く中、いよいよ交信の日を迎えた。

 

先日、防衛軍側が管理局へ伝えた日時と時間に通信を知らせるアラーム音が鳴る。

 

オペレーターは早速通信回路を開く。

 

モニターには先日、交信を入れた良馬の姿が映し出される。

 

「こちら、地球防衛軍所属、宇宙戦艦 まほろば 艦長の月村良馬です」

 

「こちらは時空管理局・本局です」

 

良馬とオペレーターが形式的な挨拶を交わすと、返還についての話よりも暗黒星団帝国の侵略の為、フェイトらとミッドの友人たちとの交信が滞っていたので色々と積もる話もあるだろうと思いまずは彼女たちには久しぶりの交流をしてもらおうと良馬なりの気遣いだった。

 

「フェイトちゃん!!ヴィヴィオ!!」

 

「久しぶりなのは」

 

「なのはママ、久しぶり!!元気だった!?」

 

管理局側のモニターにはなのはがモニターに食いつく勢いでフェイトとヴィヴィオに声をかける。

 

なのはは今日の為にリンディから交信日を聞いてわざわざ有休をとったのだ。

 

「暗黒星団帝国に地球が占領されたって聞いて物凄く心配したんだよ!?ケガとかしなかった!?」

 

「えっ?あぁ~‥‥うん、ワタシタチハダイジョウブダッタヨ‥‥」

 

フェイトはなのはから少し視線を逸らし、カタコトで無事だったことを伝える。

 

ティアナは頬に大きなケガをしたが、フェイトとヴィヴィオは無傷なのであながちフェイトの返答はある意味で間違ってはいなかった。

 

「あれ?フェイトさん、ティアはどうしたんですか?今日来てないんですか?」

 

なのは同様、スバルもなのは経由から今日の交信日を聞いて有休をとったのだ。

 

しかし、地球側のモニターには良馬、フェイト、ヴィヴィオだけでティアナの姿がなかった。

 

「あぁ~ティアナはね‥‥」

 

フェイトは今日この場にティアナが居ない理由を語る。

 

 

どうして今日、ティアナがこの場に居ないのか?

 

それは少し時間を巻き戻し、月村邸での朝食時まで遡る。

 

「あの、フェイトさん」

 

「ん?何かな?」

 

「今日の交信ですが、私は欠席してもいいでしょうか?」

 

「えっ?」

 

ティアナは今日の交信は欠席すると言い、彼女の言葉にフェイトは驚く。

 

「理由を聞いても良いかな?」

 

「その‥‥先日、フェイトさんに言いましたけど、この傷をなのはさんが見たらきっと口論になるでしょう‥‥久しぶりの交信でフェイトさんもヴィヴィオも‥おそらくなのはさんも沢山話したいことがある中、私のせいで場の空気を悪くするのは‥‥」

 

「‥‥」

 

「だから、この傷については次の交信の日にして、今日はフェイトさんたちも久しぶりになのはさんとお話してください」

 

フェイトもティアナの言い分には理解できる。

 

自分やヴィヴィオがミッドの皆との交信を楽しみにしているのだから、きっとミッドのなのはたちも楽しみにしているに違いない。

 

楽しみにして中、口論で終わるのはあまりにも後味が悪い。

 

「分かった。でも、スバルはきっとがっかりするんじゃないかな?」

 

「でしょうね‥‥でも、なのはさんとの事を思えば‥‥」

 

「うん‥‥」

 

「それに次の交信には嫌でも顔を合わせるますから‥‥フェイトさんにはすみませんが、私は今日欠席する理由を適当に伝えてもらえますか?」

 

「分かったよ、ティアナ。ヴィヴィオも今日、ティアナは一緒に行かないけど、余計な事を言っちゃだめだよ」

 

「うん、分かった」

 

と、この様なやり取りがあった。

 

当然、なのはたちはこの場にティアナも来るものばかりだと思っていたので、ティアナの欠席は意外だったのだ。

 

「ティアナはちょっと風邪気味みたいで‥‥」

 

「えぇー!!あのティアが風邪!?訓練でも六課の時も風邪なんてひいたことが無かったのに‥‥」

 

フェイトは今日、ティアナが風邪のために欠席だと伝えると、スバルは物凄く驚いていた。

 

「暗黒星団帝国の事とか色々あったから、きっと疲れちゃったんだよ。次の交信には来るって言っていたから」

 

「そうですか‥‥」

 

久しぶりにティアナと出会い話すことが出来ると思ったスバルはティアナが欠席と言う事でがっかりしていた。

 

「まぁ、風邪って言うなら仕方ないよ、スバル。無理をして悪化させちゃそれこそティアナが可哀想でしょう?」

 

「は、はい」

 

なのははがっかりしているスバルを慰める。

 

「それで、そっちの地球が暗黒星団帝国に占領されている時、フェイトちゃんもヴィヴィオも大丈夫だった?収容所みたいなところに連れて行かれなかった?」

 

「うん。情報管制や夜間の外出禁止とかはあったけど、比較的に自由に過ごせたよ」

 

「ヴィヴィオは平気だった?怖いことはなかった?」

 

「最初は少し怖かったけど、でも大佐と一緒にBRAVE DUELをやって楽しかった」

 

「大佐?」

 

「くすっ、それがヴィヴィオがね‥‥」

 

フェイトはヴィヴィオが暗黒星団帝国の大佐とゲームを通じて仲良くなっていた話をなのはたちに話す。

 

「えええーっ!!ヴィヴィオ、そんな人と仲良くゲームを!?」

 

地球を占領していた敵兵‥しかも大佐と言う上級将校と仲良くゲームしていたヴィヴィオの行動になのはもスバルも驚愕する。

 

「ヴィヴィオ、本当に大丈夫なの!?その人から酷いことをされなかったの!?」

 

育ての親として、やはりなのははヴィヴィオが敵兵と仲良くなったという事実が信じられない感じでヴィヴィオに訊ねる。

 

「大佐はちょっと変わった人だけど、いい人だったよ。暗黒星団帝国の人たちがBRAVE DUELを止めさせようとした時、大佐はそれを止めてくれたの」

 

ヴィヴィオはなのはたちにメイトリックとBRAVE DUELを一緒にプレイした事を楽しそうに話した。

 

ヴィヴィオの様子からなのはは本当にヴィヴィオが怖い思いをしたわけではないのだと判断した。

 

その後もフェイト、ヴィヴィオ、なのは、スバルはこの空白期間を埋めるかのように互いにあった身の上話を楽しそうに語り合った。

 

結局今日の交信では、帰還についての話は出来ず、次の交信日の日にちを決め、終了した。

 

 

フェイトたちがなのはたちと交信をしている中、月村邸の地下では‥‥

 

「ランスターさん。はい、これ」

 

忍はティアナに新しく改良したクロスミラージュを手渡す。

 

朝食の席で今日、ティアナが交信を欠席するのであれば、その間新しく改良したクロスミラージュの試験運用をしてみようと言う事になったのだ。

 

元々、ティアナが忍にクロスミラージュの改造を頼んでおり、暗黒星団帝国とのごたごたが終わり丁度良かった。

 

「これが‥‥」

 

ティアナは受け取ったクロスミラージュ・改を受け取る。

 

クロスミラージュの待機モードはタロットカードの様なカード状であるが、新しくなったクロスミラージュはそのカードにドクロマークが描かれていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

(ど、ドクロマーク?何故、ドクロマーク?)

 

ティアナは何故、ドクロマークなのか疑問に思った。

 

「あ、あの‥‥どうしてドクロマークなのでしょうか?」

 

そこで、ティアナは何故ドクロマークにしたのかを忍に訊ねた。

 

「クロスマークだったから、より強そうなドクロマークにしたの」

 

「そ、そうですか‥‥」

 

「さっ、それよりも起動してみて」

 

「は、はい」

 

この際、ドクロマークにはもう突っ込まず、ティアナはクロスミラージュを稼働させてみた。

 

稼働させてみると、これまで自動拳銃型のデバイスはリボルバー型へと変わっていた。

 

カートリッジも四発から六発に増えていた。

 

リボルバー型であるが、パルチザンの際に使用していたコスモガンとほぼ同じ大きさに設定されていたので、今のティアナには手に十分馴染んだ。

 

ティアナが試し打ちしてみると、改造前よりもシューターの精製の速さも連射速度も断然違う。

 

(早い!?)

 

(それにAMAで満たされているこの環境なのに威力もある‥‥これがAMAの無い環境ならリミッターものね)

 

しかも、威力も上がっていた。

 

近接のダガーモードも問題なく使用できた。

 

「更に追加のモードも設定しておいたわ」

 

「追加の設定?」

 

「えっと‥‥ここをこうして‥‥」

 

忍がクロスミラージュ・改に追加された機能を発動すると、リボルバー型のクロスミラージュ・改は重力サーベル型に変化する。

 

「け、剣!?‥‥いえ、銃身が長い銃?」

 

ティアナは重力サーベルを今回初めて見たので、重力サーベルが銃身が長い銃に見えた。

 

「これは重力サーベルを参考にしたのよ。ダガーモードは近接型だけど、この重力サーベル型は中距離、遠距離に対応できるわ。ただ、この銃身の長さだから使用できるのは主に屋外になるけどね」

 

重力サーベル型は使用空間が限られるが拳銃型、ダガーモードと忍の手によりクロスミラージュ・改はオールラウンド型のデバイスへとなった。

 

「それじゃあ、早速模擬戦をしてみましょう」

 

「えっ?模擬戦?」

 

このAMAで満たされた環境での模擬戦‥‥

 

しかも、此処にいる魔導師の人数は限られている。

 

模擬戦の相手は一体誰なのだろうか?

 

ティアナがそう思っていると、

 

「ふもっふ!!」

 

月村邸の地下にパルチザン活動中によく見たあのボ〇太くんが居た。

 

「ぼ、ボ〇太くん!?」

 

「このスーツのパイロットはノエルが勤めているわ。大丈夫、ノエルとこのボ〇太くんスーツなら多少無理をしても大丈夫だから」

 

「だ、大丈夫って‥‥」

 

ティアナは改めてボ〇太くんを見る。

 

ボ〇太くんは手にビームライフル、腰にはコスモガンに手榴弾、背中にはハルバードを背負っている。

 

「さっ、では模擬戦開始!!」

 

「えっ?ちょっと!!忍さん!?」

 

忍がティアナから距離をとり、模擬戦の開始を宣言すると、

 

「もふる!!」

 

ボ〇太くんがビームライフルを撃ちながら突撃してきた。

 

模擬戦なので勿論、ボ〇太くんが使用しているビームライフルは最低限の出力に設定されているので、命中しても電気ショックを喰らうぐらいのダメージだ。

 

コスモガンもビームライフルと同じで、手榴弾は閃光弾で背中のハルバードは刃が無い模造ハルバードとなっている。

 

「ヒぇ~!!」

 

ティアナ自身、あのボ〇太くんスーツの能力は知っていた。

 

実際にパルチザン活動の時もあのボ〇太くんスーツにはティアナ自身もお世話になっていたからだ。

 

(こ、こんなことならなのはさんと言い合いになってもフェイトさんたちと一緒に行けば良かった!!)

 

デバイスの起動だけだと思ったのだが、まさかのボ〇太くんとの模擬戦なんて予想外だった。

 

しかもノエルは自動人形なので、通常の人間と異なり多少無理な動きをしても丈夫なのでティアナの予想外な動きをしてくる。

 

忍も忍でノエルにボ〇太くんスーツを着てこうしてティアナの相手をしてもらい敢えて無理な動きしてもらい、ボ〇太くんの耐久テストを兼ねていた。

 

 

それからしばらくして‥‥

 

「ただいま~」

 

「ふぅ~なのはたちも元気で良かった」

 

管理局との交信を終えたフェイトたちが帰ってきた。

 

「あっ、フェイさん、ヴィヴィオ。おかえりなさい」

 

「ティ、ティアナ!?どうしたの!?なんでボロボロなの!?」

 

ボ〇太くんとの模擬戦を終えたティアナはまさにボロボロとなっていた。

 

「色々ありまして‥‥」

 

「ほ、本当に大丈夫?」

 

「は、はい‥‥」

 

「えっと‥‥それで、次の交信日なんだけど‥‥」

 

フェイトはティアナを心配しつつも次の交信日の日程を教えた。

 

「次の交信日は来るんでしょう?」

 

「は、はい。スバルは元気でしたか?」

 

「うん。多分、次の交信もスバルは来ると思うよ‥‥勿論なのはも‥‥」

 

「‥‥」

 

ティアナもフェイトも次の交信はやや荒れる予感がした。

 

しかし、ティアナにしてもそれは言わなければならない事案だった‥‥

 




流石になのはもスバルも交信の再開を楽しみにしていたので、その交信で口論は可哀想そうなので、ティアナは欠席し、月村邸の地下でボ〇太くんと模擬戦をしてもらいました。

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