星の海へ   作:ステルス兄貴

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百二十八話 様々な思惑

 

 

管理局との交信が再開されて二回目の交信の際、ティアナの予想通りティアナとなのはとの間で口論が起きた。

 

なのはとしては元教え子が管理局と無関係の筈の戦いに身を投じ、宇宙人とは言え人を殺した事が許せなかった。

 

一方のティアナもパルチザンに参加したのは自分自身の意思だったのでそれを否定され、ティアナの方もムキになったのだ。

 

重苦しい空気の中で二回目の交信が終わった。

 

ただ、その重苦しい空気の中で文字通り、空気になりかけていた良馬はその帰り道、

 

「あの‥‥ランスターさん。その‥‥大丈夫?」

 

「あっ、はい‥‥」

 

「でも、疲れたんじゃない?」

 

「ええ‥‥こうなることは予想出来ていたんですが‥‥」

 

ティアナは帰りの車の中でぐったりとしていた。

 

交渉に関しても次の交信日を決めるぐらいでフェイトたちの帰還に関する話は出来なかった。

 

 

一方、なのはも今日の出来事について、ヴィータに相談した。

 

ミッドにあるなのはとフェイトの家は先日、ミッドで起きた暴動により暴徒たちの手によって滅茶苦茶にされたので、今は教導隊の教官宿舎に住んでおり、なのはと同じく教導隊に所属しているヴィータも暴動で家が暴徒の手により滅茶苦茶にされ、なのはと同じ教導隊の教官宿舎に住んでいる。

 

現在、ヴィータはシグナムと交代で本局にてボラー連邦からの亡命者であるミノフスキー博士の護衛に当たっている。

 

今日はシグナムとの交代でヴィータは宿舎に戻っていた。

 

「おっ、なのは」

 

「あっ、ヴィータちゃん‥‥」

 

「ん?どうした?やけに元気がないが‥‥今日は確かもう一つの地球との交信日だったんだろう?」

 

「う、うん‥‥」

 

交信日だったのだからフェイトやヴィヴィオと話すことが出来た筈なのに、今日のなのはは何だか沈んでいる。

 

「‥‥何があった?」

 

なのはの様子から今日の交信で何かあったのだと判断したヴィータは何があったのか事情をなのはに訊ねる。

 

「‥‥」

 

「とりあえず、此処じゃあ何だ‥‥アタシの部屋に行こう」

 

ヴィータは宿舎の通路で話す内容ではないと判断し、なのはを自らの部屋に案内する。

 

自分の部屋になのはを招いたヴィータはなのはをソファに座らせお茶を出す。

 

「それで何があった?フェイトたちに何かあったのか?」

 

ヴィータももう一つの地球がついこの前まで暗黒星団帝国に占領されていたが、その脅威が去ったからこそ交信が再開された事を知っていたのだが、最初の交信の内容をなのはから聞いていなかったので、フェイトたちの身に何かあったのだと思った。

 

「ううん‥フェイトちゃんとヴィヴィオは無事だったよ‥‥」

 

「フェイトとヴィヴィオは‥‥?ってことはティアナの身に何かあったのか?」

 

「う、うん‥‥」

 

なのははレイジングハートに記録されているティアナの今の姿をヴィータに見せた。

 

「っ!?こ、これがティアナだっていうのか!?」

 

今日の交信で見たティアナの今の姿を見たヴィータは驚愕した。

 

元々猫みたいな釣り目であったが、その目つきは鋭く猫と言うよりもライオンやトラみたいな肉食獣の様で、何より左頬に走る魚の骨みたいな傷が今のティアナの凄みを一層引き立てている。

 

「い、一体、ティアナに何があったんだ?」

 

「じ、実は‥‥」

 

なのははヴィータに今日の交信でティアナが地球と暗黒星団帝国の戦いに身を投じた事、

 

その過程で暗黒星団帝国の兵士を殺したこと、

 

顔に傷を負った事を話した。

 

(ったく、ティアナの奴、一体何考えているんだ?)

 

なのはの話を聞いてヴィータはティアナの行動に呆れた。

 

本来ならば関わらなくても良い筈の戦いに身を投じ、顔に傷を負い、ましてや戦時下とは言えこちらも管理局に無関係な暗黒星団帝国の兵士を殺したなんて‥‥

 

一探索部隊が捕まり、悪魔の実験により、部隊全員が殺された経緯があるが、そもそも暗黒星団帝国と管理局はボラー連邦と違い交戦世界でもない。

 

そんな中で、管理局の執務補佐官が暗黒星団帝国の兵士を殺したなんて事実は暗黒星団帝国に対しての敵対行動になる。

 

幸いにして暗黒星団帝国は地球防衛軍により本星も占領軍も壊滅させられ、管理局が暗黒星団帝国の脅威に晒されることはないがそれはあくまでも結果論である。

 

(とは言え、ティアナはなのはと同じ、馬鹿正直で融通が利かない頑固な一面があるからな‥‥六課の模擬戦の時もなのはとティアナの主義主張がぶつかり合った結果、起きた事だったからな‥‥)

 

六課稼働中の一年間と言う長い様で短い期限付きとは言え、ヴィータもティアナの上官と言う立場から、ティアナの性格は一応理解しているつもりだ。

 

なのはとティアナは似ている性格だとヴィータは思っていた。

 

「でも、なのは。今更過去の事を言っても変えようがない。大事なのはこれからだろう?ティアナがミッドに戻ってきた時にあいつとじっくり話し合え。それくらいの時間はあるだろう?モニター越しじゃあなくて面と向かってだ」

 

「う、うん‥そうだね。ありがとうヴィータちゃん」

 

「お、おう。あたしはお前の友人だからな、困った時はなんでも言ってくれ」

 

ヴィータに相談し、そして励まされたことによりなのはは多少元気になった。

 

その日の深夜、本局内部にある艦船修理ドック‥‥

 

艦船ドックは普段この時間は作業員も撤収し静まり返っている筈だがこの日の艦船ドックは、奇妙なくらいの厳重な体制が敷かれていた。

 

ドックに続く出入り口では、武装した局員たちが見張っており、周囲にはサーチャーが多数存在し、アリ一匹も入り込む隙がなく、その体制はまるでどこぞの要人が来ているのかと言うぐらいの厳重であり、その反面何故かドック内部の監視カメラは今日だけ映像が切られており、内部で何が行われているのか不明な状態であった。

 

そんな奇妙な体制となっているドックの内部には、リンディ、マリエル、シャーリーの他に肌が水色の老人の姿があった。

 

そして、艦船ドックには管理局の艦船ではなく、残骸と化した宇宙船が横たわっていた。

 

残骸は既に宇宙船の形を有しておらず、焦げ目と溶けた跡がありかろうじて原型を留めている事からその残骸は宇宙船の機関部らしき部分と言う事だけが分かっているだけだ。

 

この残骸は先日、はやてが某宙域で発見した暗黒星団帝国の艦船の残骸であった。

 

はやては探査航海していた某宙域でこの残骸を発見した際、暗黒星団帝国の襲来を危惧してビーコンを残して、残骸の回収は後に工作艦部隊が安全を確保して行った。

 

当初は管理局の艦船技術官やドックの作業員たちがこの残骸を調べたが、彼らの手ではその詳細を得ることが出来なかった。

 

そこで、管理局はボラー連邦からの亡命者であるミノフスキーを呼び、この残骸の調査を依頼したのだ。

 

しかし、ミノフスキーの存在は管理局でもごく一部の者しか知られていない極秘扱いなので、残骸が置かれているドックに招いた今回もこうした厳戒態勢を敷いていたのだ。

 

そして、人目を避けるために人の出入りが激しい昼間ではなくこうして深夜の時間帯となったのだ。

 

「フム‥‥」

 

ミノフスキーはドックに横たわる残骸を丁寧に調べている。

 

「博士、何かわかりましたか?」

 

マリエルが残骸を調べているミノフスキーに質問する。

 

「フム‥‥これは確かに私の故郷、ボラー連邦の宇宙船と似たエンジンの仕組みだが、所々異なる点もある‥‥これは一体‥‥?」

 

ミノフスキーには予めボラー連邦とは異なる星団帝国の宇宙船の残骸を回収したので、その調査と知らせていた。

 

「これは、ある宇宙空間で回収された暗黒星団帝国と言う星間国家で使用されていた宇宙船のエンジンです」

 

リンディがミノフスキーにこの残骸の正体を告げる。

 

「暗黒星団帝国?」

 

「知りませんか?」

 

「うむ、少なくとも私がボラー連邦に居た時には、そのような星間国家の名前は聞いたことが無いな」

 

どうやら、暗黒星団帝国とボラー連邦は交戦相手では無い様で、ミノフスキーは暗黒星団帝国の名前を知らなかった。

 

「何か参考になりませんか?」

 

「もう少し調査が必要だが、参考資料には十分になるな」

 

「そうですか」

 

この暗黒星団帝国の残骸とミノフスキーの頭脳‥‥

 

この二つは今後の管理局の宇宙船技術の発展に大いに貢献することになった。

 

 

 

 

フェイトたちのミッドへの帰還問題の他に地球側が抱えている問題‥‥

 

暗黒星団帝国との戦後処理において、アルフォン、メイトリックら捕虜の扱いで死刑判決を免れた将兵については大方彗星帝国同様、太陽系からの追放であるが、やはり当時の地球占領軍総司令官となっていたアルフォンの取り扱いだった。

 

指揮官には大佐であるメイトリックが居るので、アルフォンはやはり処刑すべきだと言う意見も出ていた。

 

雪と古代は藤堂にアルフォンの助命を嘆願し、次第に島や真田ら第一艦橋のメンバーも古代と雪に賛同し始めた。

 

地球を何度も救ったヤマトの乗員たちの意見と言う事で藤堂も無下には出来なかった。

 

藤堂とヤマトの第一艦橋メンバーがアルフォンの進退について協議される中、源三郎と良馬はフェイトたちの帰還問題について話し合っていた。

 

藤堂が暗黒星団帝国の戦後処理に追われていたので、フェイトたちの帰還問題については作戦課五課の源三郎に全権を委ね、フェイトたち帰還問題については源三郎が責任者として動いていた。

 

「では、ハラオウン執務官らの身柄引き渡し場所については太陽系内では無理なんだな?」

 

源三郎と良馬は後日行われるフェイトたちの身柄を管理局へ引き渡す場所について話し合っていた。

 

「はい。平和的に付き合えるか否か見極めがつかない武装組織を相手に太陽系での接触は危険です」

 

「まぁ、暗黒星団帝国との戦後処理もまだまだ終わっていないからな」

 

「ええ‥‥それに時空管理局はこれまで二度、こちらの太陽系にちょっかいを出してきました。その内、一度は太陽系に武装艦を無断で派遣してきましたからね」

 

一度目は通信ポッドをいじり逆探して地球の座標を知ろうした事。

 

二度目は太陽系に無断で入り込んでいた管理局艦については通信ポッドの間違った座標を鵜吞みにして太陽か木星本星へ墜落した事だ。

 

しかも、管理局側は管理局艦の墜落について防衛軍側に非があるような高圧的態度をとってきたことにより、防衛軍側からの信用を完全に失っていた。

 

ましてや今は暗黒星団帝国との戦後処理でごたついている中だ。

 

そんな中で管理局が大挙して地球へ再び襲来なんて来られたら事態は余計に混乱してしまう。

 

これまで回収された管理局艦の装甲や武装を解析した結果、その性能は2190年代にガミラス戦役で使用していた防衛軍の旧式艦艇と同等かそれ以下のレベルなので、現在の防衛軍の宇宙戦闘艦でも十分に対処は出来る。

 

しかし、ガミラス、ガトランティスとこれまで地球本土の占領を許したことのない地球が暗黒星団帝国の奇襲で成す術なく占領されてしまった経緯から慢心は禁物である。

 

実際に防衛軍もガミラス戦役当初は、ガミラス相手に手も足も出なかった宇宙戦闘艦群を僅か一年ちょっとでガミラス相手に十分対応できる強力な宇宙戦闘艦を建造できる技術を手に入れたので、管理局も決して例外ではないかもしれない。

 

地球が暗黒星団帝国と戦っている間、もしかしたら管理局側も地球が回収した管理局の艦船よりも強力な宇宙戦闘艦を建造しているかもしれない。

 

「会合場所を太陽系外にする理由は分かった。だが、十分に会合場所の安全は確保する必要があるな」

 

「はい。彗星帝国も残党が居たように暗黒星団帝国も太陽系周辺に残党が居ないとも限りませんからね」

 

彗星帝国残党軍は第十一番惑星の戦力増強に占領下であるアンドロメダ星雲から援軍を送らせ戦力を増強していた。

 

暗黒星団帝国もイスカンダルで戦ったメルダースの発言からあちこちの宇宙へ戦線を広げていた様子だったので、それらの戦線から援軍を求める可能性は十分にあった。

 

「うむ‥‥そういった安全確保のために まほろば 一隻だけではなく、会合当日は周辺の哨戒のために空母とパトロール艦を何隻か同行させよう」

 

「お願いします」

 

会合の後、フェイトたちが乗艦した管理局の艦が暗黒星団帝国の残党に遭遇し撃沈でもされれば管理局は防衛軍が撃沈したといちゃもんをつけこないとも限らない。

 

そういったことから会合場所周辺の安全確保は十分に確保しなければならない。

 

他にも組織は大勢の人間が在籍し、その人数分、様々な考えを持つので、例え同じ組織に在籍しても一枚岩とは限らない。

 

もし、管理局がこの地球を暗黒星団帝国の様に手に入れたいと考えていれば、迎えに来たフェイトたちの艦を味方であるはずの管理局艦が撃沈してその原因を防衛軍側になすりつける可能性も捨てきれない。

 

フェイトたちが無事にミッドへ帰るまで油断は出来ないが流石に向こうも防衛軍側に自分たちの根拠地や本星の場所を突き止められたくはないだろう。

 

(周囲の安全確保は兎も角、ハラオウン執務官を引き渡した後、ミッドチルダとやらまでの航路の安全は向こうの責任だからな。迎えに来た艦の艦長には本国との連絡は密にするように伝えるか)

 

フェイトたちを管理局側へ引き渡した後、ミッドまでの航海は管理局側の責任である。

 

その後のアクシデントは流石に責任を持てない。

 

そのため、管理局側には本国との連絡を密にしてもらい、ミッドまでの航海途中で何らかのアクシデントが起きても防衛軍側に一切の責任が無いことを伝えてもらわなければならない。

 

もっとも管理局側の艦が連絡を密にしても何らかのアクシデントで遭難した場合、管理局側は受信した報告をそのまま採用するは限らないが、それでも記録は残してもらいたい。

 

(会合場所は周辺にアステロイド、小惑星の障害物が無く見渡しやすくなおかつ電離ガスも少なくレーダーに影響が少ない宙域に設定しないとな)

 

周辺の安全確保のためには周りに障害物がなく、レーダーに影響がない宙域でなければならない。

 

(となると、通信ポッドが設置されているカイパーベルトはアステロイドが存在しているから無理だな)

 

管理局との交信に使用されている通信ポッドが設置されているカイパーベルトではアステロイドが存在するので、会合場所としては不向きと判断した良馬。

 

(次の交信で会合場所について管理局と話すか‥‥)

 

 

フェイトたちの帰還への準備が進む中、日程の調節で管理局側と交信が続けられる中、その交信の席にティアナが出席する回数は目に見えて減っていた。

 

なのははティアナが欠席するのは自分のせいなのではないかと落ち込み、スバルもティアナが出席しないなら‥‥と、スバルも交信の出席回数が減っていった。

 

「本日はハラオウン執務官らの身柄をそちらに引き渡す会合場所について意見を交換したいと思います」

 

「分かりました」

 

なのはとスバルの出席回数は減ったがリンディに関しては統括官と言う立場から交信には出席し始めていた。

 

「ハラオウン執務官らの身柄引き渡しについてですが、管理局側へ引き渡すのはハラオウン執務官らだけではなく、こちらが可能な限り収容が出来ましたハラオウン執務官が乗艦しておりましたテリオス及びそれ以前に太陽系内で遭難しましたノアの乗員のご遺体を引き渡したいと思います」

 

「防衛軍側のご厚意に感謝いたします」

 

リンディとしてはまさかテリオスとノアの殉職者の遺体を防衛軍が収容していたとは思っておらず、フェイトたちと共に彼らの遺体も引き取れるのは遺族にとってせめてもの慰めであり、管理局のイメージダウンを緩和することもできるかもしれないとリンディはそう思った。

 

「それで、会合場所についてですが、彗星帝国の残党が太陽系内に存在していたように暗黒星団帝国も残党が居ないとは言い切れません」

 

「はい」

 

「ハラオウン執務官らの安全の為に会合場所については周辺にアステロイドや小惑星などの障害物がなく、レーダーの妨げになるガスが比較的に少ない宙域に設定したいと考えております」

 

「となると、通信ポッドが設置されている宙域ではないと言う事ですか?」

 

「はい。通信ポッドが設置されているカイパーベルトは周辺にアステロイドが存在しているので、万が一暗黒星団帝国の残党が襲撃してくると初動行動に支障をきたす可能性がありますので‥‥」

 

「な、なるほど‥‥」

 

「それと当日は周辺哨戒の為に私が艦長を務めます まほろば の他に何隻かの艦船が哨戒任務の為に同行いたしますが、これは決して武力を誇示するためではない事をご理解ください」

 

「分かりました」

 

「では、会合場所でいくつかピックアップした宙域の説明をいたします」

 

良馬は事前に会合場所をピックアップしており、シリウス恒星系かプロキオン恒星系の近くに定めていた。

 

(やはり、そちらの本星は設定していないわね‥‥まっ、それは想定内だったし、あちらは明らかに管理局を不審に思っているからこちら側から指定することもないか‥‥)

 

リンディは何時ぞや管理局の高官に意見したようにフェイトたちの引き渡し場所がもう一つの地球でないことは想定内だったので、良馬がピックアップした場所がもう一つの地球でなかったことに関して意見することはなかった。

 

 

今日の交信が終わるとリンディは一息つく。

 

管理局側でもフェイトたちの帰還についての議題がのぼっていた。

 

フェイトたちがいる地球は交流もなければ座標さえも特定されていないため、管理局が認知している第97管理外世界の地球と異なり転送ポートが使えるはずもない。

 

そこで、フェイトたちを迎えに行くには直接次元航行艦を出して迎えに行くしかない。

 

リンディは慎重になおかつ信頼できる者にフェイトたちの迎え役を選定しなければならない。

 

贔屓になるが、リンディは今回のその任務にはやてを指名した。

 

リンディは早速その旨をはやてに伝えた。

 

もっともはやては今現在、探査航海へ出ていたので、リンディからの話は星の海の最中で聞いた。

 

「ええぇぇぇー!!わ、私がフェイトちゃんたちを迎えに行くんですか!?」

 

はやてはリンディにフェイトたちのお迎えに行く任務を知らされ驚く。

 

「で、でも、私じゃなくてクロノ君の方が適任じゃないんですか?」

 

はやては自分よりもクロノの方が防衛軍と交信して向こうの軍人と顔見知りであるし、次元航行艦乗りとしてはクロノの方が経験は上である。

 

はやての言葉にリンディは気まずそうにはやてから視線をずらし、

 

「あぁ~クロノはねぇ~‥‥その‥‥」

 

リンディにしては珍しく口ごもる。

 

「ん?クロノ君に何かあったんですか?確か少し前に休暇を取ったと聞いたんですけど、いつまで何ですか?」

 

はやてもクロノが現在休暇中であることは知っていたが、その休暇期間もそろそろあける筈だと思いリンディに訊ねた。

 

「それが、クロノは休暇の延長を申請してきたのよ」

 

「ええー!!あのクロノ君が!?」

 

はやての知るクロノはまさに仕事人間なのでそのクロノが休暇を延長したのはまさに驚愕に値する事だった。

 

「そうなの‥‥それで、今回の任務は私も同行するのだけれど、信用がおける人じゃないと‥‥万が一にも防衛軍との間に問題が起きたら‥‥ね?」

 

「ゾッとしますね‥‥」

 

はやてはリンディからの信頼の他に防衛軍を敵に回せばどうなるのかをこれまでのもう一つの地球と敵対してきた星間国家の末路を知っているし、はやて自身は実際に防衛軍の艦船と出会ったことがある。

 

その艦影から見ても防衛軍と管理局とはあまりにも設計概念が違いすぎる。

 

そんな相手に対してはやては当然ちょっかいを出すつもりは毛頭ない。

 

リンディははやてに対する長年の付き合いからの信頼の他にそういった人となりが今回の選抜に影響していた。

 

「分かりました。その任務、承ります」

 

そして、はやてはフェイトたちのお迎え任務を引き受けた。

 

「まだ日程は決まっていないけど、行く前に艦の状態は万全にしてほしいから、機を見て本局へ戻って来てちょうだい」

 

「分かりました」

 

リンディからの通信を終えたはやてはドサッと椅子に深く腰掛ける。

 

「ふぅ~まさか、私がフェイトちゃんたちのお迎えに行くなんてな‥‥」

 

はやてが艦長を務めるヴォルフラムは一度だけ防衛軍の艦船と出会ったことがあるがその際は艦影を見て通信をした程度だったが、フェイトたちの身柄引き渡しと言う事は実際に防衛軍の軍人と出会うことになる。

 

それが、何度か交信を交わした良馬かもしれないし、別の軍人かもしれない。

 

いずれにせよ、簡単なようで重要な任務だとはやては実感した。

 

 

一方、もう一つの地球での残留期間が短くなっているフェイトたちは、目一杯思い出を残そうと言う忍の意見からこの日は管理局との交信もなかったので、フェイトたちと月村家の一行は遊園地へとやって来た。

 

ガミラス戦役後に復興し、運よくガトランティスからの攻撃を免れた山梨県にあるこの遊園地は1960年代にオープンした今では歴史のある遊園地の一つで、数多くのジェットコースターや本物の幽霊が出ると噂されたお化け屋敷が有名である。

 

最もお化け屋敷だけは老朽化で何度か改装され、ガミラス戦役時における遊星爆弾で建造物は破壊され、地上は放射能まみれになり、歴史あるこの遊園地も物理的に閉園となったが、ガミラス戦役後にこうして復興されたがお化け屋敷に関してはかつての様に本物が出るのかは定かではない。

 

「ウフフフ‥‥」

 

「ちょっ、ユリーシャ、くっつきすぎ」

 

「でも、人が多いし迷子になったら大変でしょう?」

 

「‥‥」

 

ユリーシャは良馬の右隣をガッチリキープして、右腕に胸を当てている。

 

そんな二人の姿をギンガはジト目でジッと見ている。

 

良馬の左隣は空いているのだからギンガは彼の左側へ行けばいいのだが、生憎良馬の左手にはカバンが握られており、彼の左手を握ることは叶わなかった。

 

ヴィヴィオは初めて来たこの世界の遊園地に大はしゃぎで、フェイトはそんなヴィヴィオが迷子にならない様に彼女から目を離せない状況なのでフェイトはギンガの様子に気づかず、ティアナは折角の遊園地なのだが、何やら深刻そうな顔だ。

 

「あらあら良馬ったら、罪作りな子ね」

 

忍は良馬、ギンガ、ユリーシャの様子を見て何だか楽しんでいる様子だった。

 

しかし、良馬としては守からユリーシャの事を頼まれており、実年齢からも良馬はユリーシャの事を後見人の一人または妹の様にしか思っていなかった。

 

ヴィヴィオは遊園地にある絶叫マシンをはしごして、それに着きあわされているフェイトはグロッキー状態となっている。

 

「うぷっ‥‥最近、空を飛んでないせいか酔ったかも」

 

こちらの地球に来てからフェイトは空を飛ぶ機会もなかった為、久しぶりに高速と浮遊感を体験したせいか酔ったみたいだが、ヴィヴィオは平気な様子でフェイトに次に乗りたい絶叫マシンをピックアップしている。

 

「ヴィ、ヴィヴィオ、ちょっと自重してあげよう。フェイトさん大変なことになっているから‥‥」

 

ティアナがヴィヴィオにフェイトの現状を伝えるとヴィヴィオは明らかに不満そうな顔をする。

 

ヴィヴィオとしても管理局との交信の話から、この地球に居られる日数があと僅かであると察している為、一分一秒でもこの地球のアトラクションを楽しみたいのだろう。

 

「じゃあ、ヴィヴィオちゃん。私と乗りましょう」

 

そこで、忍がヴィヴィオと共にアトラクションに乗ることにした。

 

「えっ?いいの?」

 

「ええ、行きましょう」

 

「わーい!!やった!!」

 

「では、私はハラオウン様の介抱をいたします」

 

グロッキー状態のフェイトの世話はノエルが行う。

 

「す、すみません」

 

「いえいえ」

 

「じゃあ、リョーマ。私たちはあそこに行こう」

 

「えっ?」

 

ユリーシャはお化け屋敷を指さす。

 

「あそこはお化け屋敷だけど、ユリーシャ大丈夫なの?」

 

「うん、へーき!!行こう!!」

 

ユリーシャは良馬の手を引いてお化け屋敷へと向かった。

 

「ティアナ‥‥」

 

「は、はい」

 

ティアナはギンガの底冷えするような声をかけられ思わず身体をビクッと震わせる。

 

「私たちも行くわよ」

 

「えっ?」

 

ギンガの言い知れぬ圧に圧倒されティアナもお化け屋敷へ着きあわされることになった。

 

この遊園地のお化け屋敷は機械仕掛けの人形ではなく、従業員がお化けの仮装をして驚かしてくるスタイルであった。

 

「キャー、コワイ!!」

 

お化け役の従業員が驚かしにかかるとユリーシャは悲鳴を上げて良馬に抱き着くが、彼女の悲鳴は物凄いカタコトであり、表情も笑みを浮かべているので、とても怖がっている様子が無い。

 

怖がっているフリは良馬に抱き着くための口実に過ぎなかった。

 

そんなユリーシャと抱き着かれている良馬の姿を見せつけられた従業員たちの方はと言うと、

 

(くそっ、人前でイチャイチャしやがって‥‥)

 

(リア充爆発しろ!!)

 

と、嫉妬の感情を露にしていた。

 

ユリーシャは、実年齢は兎も角、容姿、スタイルはまさしく美女にカテゴリーされるので、男性従業員たちにとっては当たり前の感情だったかもしれない。

 

(おい、次の客は女らしいぞ!!それも美人の部類だ!!)

 

(なにっ!?よーし、こうなればこの感情を鎮めるためどさくさに紛れてお触りしてやるぞ!!)

 

お化け役の男性従業員は次に来る客が女性‥しかも美人な人だと聞くと、驚かすことを良いことに女性客へのお触り行為をしてやろうと決めたのだが、

 

「ヴォォォォォー!!」

 

ギロッ!!

 

「ひぃっ!?」

 

やってきた女性客を驚かし、そのまま胸かお尻を触ってやろうとしたのだが、その女性客の眼光で逆に驚かされてしまった。

 

「ぎ、ギンガさん‥お化けの方を驚かせてどうするんですか?」

 

「ん?何か言ったかな?ティアナ?」

 

「イイエ、ナニモイッテイマセン」

 

(お化けよりも今のギンガさんの方が怖い‥‥)

 

良馬とユリーシャの後を追うギンガはまささにお化け屋敷に居るお化けよりも怖かったとティアナは後にそう語っている。

 

その後、フードコートにて、

 

「ん~♪」

 

ユリーシャは満面の笑みを浮かべソフトクリームを食べている。

 

「ユリーシャ、鼻の頭にクリームが付いているぞ」

 

良馬が紙ナプキンでユリーシャの鼻に付いていたアイスクリームを拭う。

 

ベコッ!!

 

その光景を見たギンガは思わず手にしたコーヒー缶を手で握りつぶす。

 

(あれ?今、ギンガさんが持っている缶ってアルミ缶じゃなくてスチール缶よね?身体強化魔法をかけているの?あっ、そう言えばギンガさんはスバルと同じ戦闘機人だったわね‥‥)

 

軽く現実逃避しつつもティアナはギンガの事を知っているので、スチール缶を手で握りつぶした件について納得した。

 

「あ、あの‥ギンガさん」

 

「ん?何かな?ティアナ」

 

振り向いたギンガは笑みを浮かべていたのだが、額の辺りにはムカツキマークが浮き出ていた。

 

「あ、あの‥こんな空気の中ですけど、ちょっとお話したいことが‥‥」

 

「えっ?」

 

良馬とユリーシャのイチャイチャ(ギンガ視点)に対して嫉妬の炎を燃やしていたギンガであるが、ティアナの真剣な表情を見て、彼女が自分に相談事があるのだと判断してティアナの話を聞くことにした。

 

(まぁ、夜に良馬さんを搾りとればいいでしょう)

 

ギンガは今日の夜、良馬から搾り取ってやると決意した。

 

ビクッ!?

 

「ん?どうしたの?リョーマ」

 

「い、いや、なんか寒気が‥‥」

 

良馬は何故か言い知れぬ寒気を感じた。

 

 

「それで話って何かな?」

 

ギンガとティアナは比較的人が少ないフードコートの端の席に座る。

 

完全に人がいないわけではないが、これだけの雑踏の中で二人の会話に聞き耳を立てている人なんていないので、二人は特に気にする様子はなかった。

 

「あの‥‥ギンガさんはフェイトさんたちと一緒にミッドに戻りますか?」

 

ティアナはギンガに先日、良馬がした同じ質問をした。

 

ギンガとしては二度手間になってしまったが、まぁ、ティアナとしては気になる事だったし、ティアナもフェイトもギンガの決意を知らないのでこれは当然の質問だと言えよう。

 

「ううん、私はミッドには戻らずに此処で暮らしていくつもりよ」

 

「でも、ミッドにはスバルやナカジマ三佐が‥‥」

 

「ええ、そうね‥‥もし、私がこの世界に来たのがティアナたちと同じ頃だったりしたら私もフェイトさんたちと一緒にミッドへ戻っていたかもしれない‥‥でも、今の私は防衛軍の軍人だし、好きな人も出来た‥‥その人と添い遂げるから私はミッドへは戻らない」

 

「‥‥」

 

ギンガの決意を聞いてティアナは沈黙する。

 

「‥‥もしかしてティアナ‥貴女は迷っているの?」

 

そして、ギンガはティアナの反応を見て、彼女がミッドへ戻るか?それともこのまま地球に残るか迷っているのではないかと思い訊ねる。

 

「は、はい‥‥」

 

やはり、ティアナはミッドへの帰還か地球への残留に迷っていた。

 

「でも、今のティアナは執務補佐官なんでしょう?あと少しで念願の執務官になれるじゃない。以前、スバルから聞いたけど確かお兄さんの意思を継いで執務官になるのが夢だって‥‥」

 

「はい。その思いで私はこれまで訓練校や管理局で頑張ってきました。でも、今回の事でいかに管理局の肩書が無意味だったことに気づかされて‥‥それに管理局の将来についても‥‥」

 

「管理局の将来?」

 

「はい‥この地球が管理局よりも優れた技術を持っているのは艦船の素人目で見ても分かります。そんな地球でさえ暗黒星団帝国に占領されました‥‥この地球よりも技術が下の管理局が今後も次元の世界の管理者の地位を維持できるのか?それにこれまでの管理世界の方針に対しても彗星帝国や暗黒星団帝国を見ていると疑問を感じてきて‥‥」

 

「その話フェイトさんには‥‥」

 

「まだ詳しくは話していませんが、多分フェイトさんも様々な思いを抱いていると思いますし、私が迷っている事も何となく察していると思います」

 

「それで、ティアナは地球に残るとして何をしたいの?」

 

「‥‥できれば私もギンガさんと同じく防衛軍に入りたいです」

 

ティアナは管理局の将来に対して不安を感じ、ミッドへの帰還さえも迷っていたが実際はティアナの中ではもう答えは出ている様子だった。

 

「‥‥ティアナの決意は分かったわ。もし、地球に残り防衛軍に入りたいって言うならお父さん‥ああ、こっちの中嶋家のお父さんね。お父さんに協力を頼んでみるわ。私の時もそうだったから」

 

「はい。ありがとうございます。ギンガさん」

 

「でも、地球に残るとしてもフェイトさんにはちゃんと話してあげて‥それにスバルとも‥‥多分、フェイトさんたちがミッドへ帰ったら管理局と今後もコンタクトをとるか分からないから、スバルとは後悔を残さないように話したいことは話した方がいいわ」

 

「は、はい」

 

この地球に残留するとすれば、防衛軍と管理局との関係性からスバルともなのはとも今生の別れになる可能性が高いのでティアナには自分と違いスバルとは後腐れがないように伝えたいことは伝えた方がいいとアドバイスを送るギンガであった。

 

なお、その日の夜に良馬がギンガに目一杯搾り取られたのは言うまでもなかった。

 




書いている時の状態等で誤字・脱字等があり、読者の皆様の誤字報告は大変役立っております。

誤字報告ありがとうございます。

こうした誤字・脱字がある作品ですが今後もよろしくお願いします。
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