ティアナがミッドへは戻らず、地球での残留を決めると決意してからいよいよ管理局と最後の交信の日となった。
防衛軍側は良馬、フェイト、ティアナが出席し、管理局側はオペレーターとリンディ、そして前回の交信の際にフェイトがリンディに頼んだスバルがおり、なのはの姿はなかった。
その代わりにはやてが来ていた。
リンディもティアナとなのはが交信の時に口論した事をオペレーターから聞いており、最後の交信であるが、ティアナがミッドへ戻ればモニター越しではなく直接話せるのだからと思い、今回の交信に声をかけず、代わりにフェイトたちの帰国の際に関わるはやてを呼び寄せたのだ。
(うわぁ~‥なのはちゃんとヴィータから事前に聞いておったけど、確かに今のティアナ、めっちゃインパクトがあるわ‥‥)
(目つきはバトル時のシグナムに何や似ているし、何よりあの顔に残る魚の骨みたいな傷が‥‥)
なのはやヴィータからティアナの現状を聞いていたはやてであったが、こうして顔に傷があるティアナとモニター越しとは言え対面するのは今回が初めてであり、改めて今のティアナを見てみると自分の知るティアナとは別人のような凄みを感じているはやてだった。
最初にティアナがスバルに対して自分はミッドへ戻らない事を伝えてはその後の話し合いがこじれてしまうので、まず最初にフェイトたちの帰国の件についての話し合いとなった。
「月村艦長、こちらが今回ハラオウン執務官らの帰国の際に同行する八神はやて艦長です」
リンディが良馬にはやてを紹介するが、良馬とはやては今回が初対面ではなく、年始の交信で会っており、その他にも春藍の試験航海の際にもはやてが艦長を務めるヴォルフラムと邂逅している。
「八神艦長とはこちらの年始の席で会いましたね」
「は、はい。あと、宇宙でも一度、月村さんが艦長を務める まほろば とも会いました」
「ああ、あの時の‥‥」
はやてに言われ、春藍の試験航海の時に出会った管理局の艦の事を思い出す良馬。
良馬としてはあの時の管理局艦の艦長がはやてであるとこの席で初めて知った。
「はい。あの時は、わざわざこちらの要望で艦名を教えていただきありがとうございます」
はやてはペコッと一礼する。
「いえ、艦名ぐらいは軍事機密には当たらないので‥‥それで、ハラオウン執務官らの帰国の際には貴女の艦が迎えに来ると言う訳ですね?」
「はい、そうです。ハラオウン統括官からは事前に会合場所は聞いております」
「分かりました。あと、会合場所の周辺哨戒の為に まほろば 以外にも防衛軍の艦艇が同行する事は聞いていますか?」
「はい、その件も聞いています」
「先日の交信の後、今回のハラオウン執務官らの帰国の際に防衛軍側の同行する艦が決まりまして、その件について事前に伝えておきたい事があるのでお伝えします」
「分かりました」
(でも、なんでわざわざ同行する艦について詳しく話す必要があるんやろう?)
(別に『まほろば以外の防衛軍の艦が同行します』の一言で済む話やないんか?)
はやてはフェイトたちの帰国に際して防衛軍側が まほろば 以外の艦を同行させる件についてわざわざここまで詳しく説明しなくても『当日は まほろば 以外の防衛軍の艦も同行します』の一言で済む話なのにどうしてなのかと疑問に思う。
「今回のハラオウン執務官らの帰国の際に同行する防衛軍の艦は まほろば 以外に防衛軍のパトロール艦二隻の他に彗星帝国の鹵獲艦が同行します」
「えっ?」
「彗星帝国の鹵獲艦?‥‥ですか?」
「はい。防衛軍が彗星帝国との戦いで比較的に損害が少ない艦を鹵獲し、地球人でも運用できるように改修した鹵獲艦で、そちらの所属艦であったノアやハラオウン執務官が乗艦していたテリオスを攻撃したのが彗星帝国の艦と言う事で、あらぬ誤解をそちらに与えないようにこうして事前に説明をと思いまして‥‥」
「なるほどそういう事ですか‥分かりました」
良馬の説明を聞いてリンディは納得した。
(彗星帝国の艦を鹵獲してそれを地球人でも運用しとるって‥‥それって彗星帝国の技術をそっちの地球の人らは手に入れてソレを理解しとるっちゅうこっちゃな)
はやては地球以外の星の技術をもう一つの地球人は手に入れソレを理解し運用している事を悟る。
(まさか、彗星帝国の艦を鹵獲してソレを使用しているなんて‥‥と言う事は、ノアやテリオスを通して管理局の‥‥次元航行能力もそちらの地球は手に入れているかもしれないってことね‥‥)
(防衛軍が彗星帝国の鹵獲艦を運用している事を本局の過激派幹部が知れば私と同じ考えをする人がいてもおかしくない‥‥)
(となると、もう一つの地球への侵攻を企てかねないわね‥‥)
(防衛軍が彗星帝国の鹵獲艦を運用している事は黙っていた方がいいかしら?)
防衛軍が彗星帝国の艦を鹵獲して運用していると言う事から既に防衛軍側が手中に収めている次元航行艦がある事から防衛軍がいつ次元航行能力を持つ艦を建造するのも時間の問題か既に建造しているかもしれないとリンディは危惧する。
そして、防衛軍が彗星帝国の鹵獲艦を運用している事を知れば自分と同じ考えにたどり着く者もきっと居る筈だ。
そうなればもう一つの地球に対して武力侵攻を本格的に提案して行いそうだ。
故にリンディは防衛軍が彗星帝国の鹵獲艦を運用している事を報告して大丈夫だろうかと悩んだ。
「こちらが、今回同行する鹵獲艦の外見です」
リンディの危惧を知る由もなく良馬はリンディたちに防衛軍が彗星帝国から鹵獲して改修した彗星帝国の巡洋艦と空母の写真を見せる。
(プレオを破壊したミサイル艦に似ている構造ね‥‥)
(説明が無ければ確かに管理局へ誤解を与えかねないわね)
彗星帝国のラスコー級突撃型巡洋艦は元々ゴストーク級ミサイル戦艦に外見が似ていた事から事前に知らされていなければ管理局側に誤解を与えていただろう。
「今回の任務で巡洋艦が三隻、空母が一隻同行いたします」
「分かりました」
その後、最後の事前確認を行い帰国に関する話し合いは終わった。
そして、いよいよティアナの番となった。
「久しぶりね、スバル」
「そ、そうだね‥‥」
スバルはティアナと久しぶりに会えて嬉しい筈なのだが、やはり前回の交信でなのはとの口論とティアナの目つきと傷でやや弱腰になっている。
「この前はごめんなさい。なのはさんと口論になって、アンタと沢山話せなくて」
「い、いいよ。気にしていないから‥‥それにティアがミッドに戻れば一緒に出掛けたり、お話しすることも出来るし‥‥」
ティアナは前回の交信でなのはと口論してスバルと中々話せずに終わってしまったことを詫びた。
しかし、スバルは気にしている様子はなく、ティアナがミッドに戻れば彼女と一緒に出掛ける事も出来るし、話すこともできる。
スバルは当初、その予定を決めるために今日ティアナはわざわざ自分を呼んだのだと思っていた。
だが、次にティアナの口から出た言葉はスバルをはじめその場に居た管理局側のメンバーに衝撃的な言葉だった。
「その事なんだけど、スバル‥‥」
「ん?何?」
「‥‥私はミッドに戻らず、この地球で暮らすことにしたの」
「えっ?」
「なっ!?」
「っ!?」
ティアナのこの発言にスバル、リンディ、はやては驚愕する。
ティアナがもう一つの地球に残るなんて去れが予想出来ただろか?
「えっ?えっ?ど、どういう事かな?ティア‥‥えっと‥冗談なのかな?」
スバルは震える声でティアナに確認するかのように訊ねる。
彼女にとってティアナの地球残留はまささに寝耳に水、青天の霹靂だったからだ。
「ごめん、スバル。これは冗談‥じゃないわ‥‥フェイトさんとヴィヴィオはミッドに還るけど、私はミッドには還らず地球に残る事に決めたの」
「な、なんで‥‥?ど、どうして?ま、まさか前の交信でなのはさんと喧嘩になったから?」
スバルはティアナがミッドに帰ってこない理由を前回の交信でなのはと言い合いをしたせいかと思って訊ねる。
「あのねぇ~いくらなんでもなのはさんと言い合いをしてそれで還らないって、家出じゃないのよ」
ティアナはスバルの言葉をあっさりと否定する。
「これは前々から考えていたのよ。フェイトさんたちの帰国が近づいたから決心したのよ」
「‥‥」
「な、なぁ、フェイトちゃん」
ティアナの話を聞いてはやてがフェイトに声をかける。
「ん?何?はやて」
「フェイトちゃんは随分と落ち着いているけど、ティアナの事を知ってたんか?」
自分やスバルはティアナの地球残留の話を聞いて驚愕したのにフェイトは驚く様子もなく平然としていたので、フェイトはティアナの地球残留を知っていたのかもしれないと思いフェイトに声をかけたのだ。
「うん。この前、ティアナから聞いたから」
やはり、フェイトはティアナの地球残留を知っていた。
「止めなかったんか?」
管理局員であり、執務官補佐と言う準エリートにまで上り詰めたにも関わらず地球へ残ると言う選択したことに理解できないはやて。
はやてはフェイトにティアナへ説得しなかったのかを訊ねた。
「もちろん、理由を聞いて考え直す余地がないか聞いたけど、ティアナの意志は固いみたい」
「そ、そうなんか‥‥」
勿論、フェイトもこの交信の前にティアナから地球残留の件を聞いて彼女に説得を試みたが、ティアナの意志は固く地球残留を撤回することはなかった事を伝える。
「ね、ねぇ、ティア。どうしてもミッドに還ってこないの?ティア、執務官になるのが夢だったんでしょう?もうすぐで念願の執務官になれるのに‥‥」
はやてとフェイトのやり取りを見たスバルであるが、彼女はやはり諦めきれないのかティアナの説得を試みる。
「ええ、今日アンタを呼んだのもこうして最後に会って話をする為よ。それに管理局の執務官の資格なんてこの宇宙じゃあなんの役にも立たない事が身に染みて分かったのよ」
「そ、そんなっ!?‥‥じゃ、じゃあ、もう二度と会えないの‥‥?」
「‥‥そうね‥ミッドとこの地球が国交を結ばない限りね‥‥でも、それは難しいと思うわ」
“陸”所属のスバルも今、ティアナが居る地球とミッドが将来的に国交を結ぶのは難しい事なのは何となくだが察している。
当然、本局所属のはやてとリンディもだ。
「だからスバル‥‥今日は時間が許すまで語り合いましょう。後悔が残らない様に」
「う、うん‥‥分かったよ。ティア」
ティアナの決意から自分がこれ以上説得しても無駄だと判断したスバルはティアナとの会話に興じるがやはり、もう二度とティアナと会うことが出来ないと分かると悲しいのか笑みを浮かべてもその目には涙が浮かんでいるし、声も震えて無理に明るい声を出している。
一方のティアナの方も自分が下した決断とは言え、訓練校時代から六課卒業までコンビを組み、配属先が別れた後も交流を深めたスバルとの別れはやはり悲しいのか、スバル同様、声が震えていた。
しかし、時間は有限であり、楽しい時間と言うのはあっという間に終わってしまう。
やがて、交信の終了時間となる。
「ランスターさん、そろそろ‥‥」
良馬がティアナに交信時間の終了が迫っている事を伝える。
「あっ、はい‥‥それじゃあ、スバル‥‥元気でね」
「グズッ‥‥ディア“もね‥‥」
スバルはもう顔面が涙でグズグズとなりながらティアナと別れを交わした。
ティアナもスバルとの交信の時は我慢していたのだろうが、こうして交信が終わると目には光るモノがあった。
「最後になのはさんにも伝えて頂戴」
「うん‥‥録画するね‥‥」
スバルはマッハキャリバーにてティアナのメッセージを録画し始める。
「なのはさんは星のような人でした‥‥私は教え子としては不出来でしたが、管理局の今後を思うと未来の人材を担う教導官の仕事はより一層重要な役割を果たすでしょう‥‥なのはさんは闇に浮かぶ光のような人でいてください」
ティアナはこの場にいないなのはにメッセージを残した。
なのはの性格を六課時代に少しは理解しているつもりであり、きっと自分がミッドに戻らないと知るとなのはは自分を責めるだろうと思ったからだ。
やがて地球との最後の交信が終わるとスバルは大号泣。
はやてとリンディは何とも言えない表情をしていた。
そして泣いているスバルにはやては彼女の背中を撫でてやり優しく慰めた。
一頻りに泣いた後スバルは、
「すみません‥‥」
「気にしなくてもええで、スバル」
「ええ。それにしてもまさかランスターさんが‥‥」
「‥‥」
ティアナの地球残留はスバルたちにしてみればまさに寝耳に水の出来事であった。
「はやてさん‥‥ミッドは今後、ティアの居る地球とは‥‥」
スバルははやてにミッドとティアナが残るとされるもう一つの地球との間に交流する可能性を訊ねる。
「うーん‥‥ティアナの言う通り、交流は難しいやろうな。何しろ、向こうさんが管理局の事をあまり信用してへんからな」
「‥‥」
しかし、はやて自身もティアナ同様、今の管理局がもう一つの地球と国交を結ぶのは難しいと判断している。
「せめて、未成年者の労働については文化の違いと言う事で説明し理解を求めていけばなんとかなったかもしれへんけど、通信ポッドを弄ったり、無断で向こうの地球へ艦を派遣した件については擁護出来へんな‥あの件がなければワンチャンあったのかもしれへんのにな‥‥」
管理局、管理世界において未成年での就労に関して文化が異なるので、もう一つの地球に関しては説明しそれについて理解してもらうほかない。
実際に地球でも発展途上国では未成年でも就労している子供はいる。
防衛軍は専守防衛を概念においているので、もう一つの地球である地球連邦政府が管理局や管理世界に対して自分たちの理念や法を押し付ける事はないだろうが、管理局は自分たちが決めた法律や概念を押し付ける傾向があるので、もう一つの地球と国交を結べばきっと管理局は自分たちの方が上の立場だと決めつけ、もう一つの地球に対して管理世界の法律や概念を押し付けるだろう。
もう一つの地球‥地球連邦政府及び防衛軍はそうした管理局の横暴さに対して不信感を抱いているのだろう。
「あの‥‥なのはさんにはいつ知らせるんですか‥‥?」
「まぁ、どの道フェイトちゃんたちがミッドに還って来る時には分かってもうからな。早い内に知らせておいた方がええやろう」
結果的に喧嘩別れになってしまったなのはとティアナであったが、ティアナの地球残留については遅かれ早かれフェイトたちがミッドに戻って来る時には嫌でも判明する事なので、はやてはフェイトたちがミッド戻る前にこの事実をなのはに伝えようとスバルに言う。
「分かりました。はやてさん、私もなのはさんの所へ一緒に行きます」
スバルはなのはにティアナの事を知らせる際、はやてと同行すると言う。
「そうしてくれるとありがたいわ」
ティアナと最後に言葉を交わしたのはスバルだったので、なのはにティアナの意志を伝えるのは自分の役目だと思っていた。
「なのはちゃんの他にもエリオとキャロにも伝えな‥‥」
六課時代に同じFW陣だったエリオとキャロもティアナと交流があったので、ちゃんと彼女の事を伝えなければならないと思うはやてだった。
二人もなのは同様、ティアナの顔を見ることなく別れる事になってしまった。
そう言う面を含めると今日、ティアナとモニター越しとは言え、別れの挨拶を交わしたスバルは恵まれていたのだろう。
「あっ、はやてさん」
「何でしょう?」
交信が終わり、はやてとスバルがなのはにティアナの件を伝えに行こうとした際、リンディは、はやてに声をかける。
「スバル、ちょっとリンディさんと話をするから部屋の外で待っていてもらえる」
「分かりました」
本局所属のリンディから声をかけられたと言う事は内容も“海”に関する話だろうと思ったはやてはスバルを部屋に外に出してそこで待ってもらった。
「何でしょう?リンディさん」
「さっきの防衛軍側の同行する艦について貴女はどう思う?」
「どう?とは?」
リンディははやてにフェイトの帰国の際に同行する防衛軍の艦について意見を求めた。
「これは予測でしかないのだけれど、彗星帝国の軍艦と防衛軍の軍艦は構造も操艦系統も何もかもが異なると思うの‥‥」
「でしょうね。暗黒星団帝国の軍艦は残骸とは言え、エンジンの構造を管理局の技術者たちは解析できませんでしたから‥‥」
暗黒星団帝国の軍人にとっては何の変哲もない宇宙艦艇のエンジンであるが、管理局から見たら残骸とは言え、それは全くの未知の構造物であった。
そうなると防衛軍側も当初は彗星帝国の宇宙艦艇も未知の艦扱いだったのだろうが、防衛軍はその未知の艦を既に地球人でも運用可能にしている。
「でも、防衛軍は彗星帝国の軍艦を鹵獲してそれを地球人でも運用可能にした‥‥」
「ええ‥‥」
「となると、ノアやテリオスの残骸から防衛軍が次元航行能力を持つ艦を建造してもおかしくはないとは思わない?」
「っ!?」
リンディの指摘を受けて、はやてはその事実に気づく。
未知の艦扱いだった彗星帝国の宇宙艦艇を地球人でも運用可能にした防衛軍の技術ならば、管理局のノアとテリオスを解析して次元航行能力を解明し、次元航行能力を可能にした宇宙艦艇を建造していてもおかしくはない筈だ。
「ま、まさか‥‥いや、でも‥‥」
「防衛軍が既に次元航行能力を持つ艦を完成、もしくは建造を進めていてもおかしくはないと思うわ」
「‥‥」
「それでもし、その事実を本局の幹部局員全員が知ったとなると‥‥」
「もう一つの地球に対して武力侵攻を?」
「‥‥」
はやての考えにリンディは頷く。
「防衛軍が彗星帝国の鹵獲艦を運用している事実‥‥フェイトさんたちを迎えに行った際、ついでに報告するべきかと思って‥‥」
「そ、それは‥‥」
はやては言葉に詰まる。
しかし、すぐに答えを出す。
「同行する艦についてそこまで詳しく報告する必要はないかと‥‥」
「理由を聞いても?」
「私たちの今回の任務はあくまでもフェイトちゃ‥‥いえ、ハラオウン執務官の帰国の補助です。それ以外については特に明記する事は無いかと‥‥」
はやてはあくまでも今回の任務はフェイトたちの帰還の迎えなので、わざわざ防衛軍側の同行する艦について報告する必要はないと判断した。
つまりは藪をつついて蛇を出す必要は無いだろうと言う事だ。
仮に防衛軍が次元航行能力を持つ艦を建造したとしても防衛軍‥地球連邦政府が暗黒星団帝国や彗星帝国みたいに侵略戦争を仕掛けてくるとは思えない事も要因の一つである。
「そうね‥‥はやてさんもそう思うわよね」
「はい」
リンディもはやてと同じ考えだったようだ。
「一応、フェイトさんを迎えに行く前にヴォルフラムの乗員にはこの件を伝えておいてくれるかしら?」
「分かりました」
事前にヴォルフラムの乗員にはフェイトたちが乗る まほろば に同行する防衛軍の艦が彗星帝国の鹵獲艦であることを伝え誤解を与えない事。
そして、それら鹵獲艦の映像記録を残さないようにする事を決めた。
幸い今回のお迎え任務にはヴォルフラムの乗員以外にはリンディだけが便乗者であり、他の本局の局員やマスコミ関係者は乗艦しないので、鹵獲艦の件については比較的に表には出ない様に対処しなければならなかった。
はやてやリンディとしては面倒な事をしてくれた防衛軍に対して愚痴りたいところだが、今更、『やっぱりその艦を連れてこないでくれ』とは言えなかった。
一方、親友と恐らく今生の別れとなったティアナの方は‥‥
(ごめんなさい。スバル‥‥もし、アンタがギンガさんの事を知っていれば、アンタもこっちの地球へ来ると言ったかもしれなかったわね‥‥でも、安易な考えで変な選択をするより知らない方が良いこともあるのよ‥‥)
スバルにとってこちらの地球は死んだとされた姉であるギンガが居り、ティアナも居る。
もしかしたら、スバルにとってもこちらの地球の方に居たかったかもしれない。
だが、今のスバルにはゲンヤの他に多くの姉妹が居り、六課卒業後に入りたかった部署へ入隊も果たした。
家族‥そして職場にも恵まれている彼女に姉と自分の居る環境を天秤にかけるのは酷だと思ったのだ。
しかし、ティアナの心情知る由もなくフェイトはギンガにミッドに居るスバルたちに手紙を送るように提案しており、ギンガもそれに乗り気であった。
スバルがそれを知るのはもう少し先の事であった‥‥
そのスバルは、はやてと共になのはが住んでいる教導隊の教官宿舎へと向かう。
「あっ、はやてちゃん。ミッドに戻っていたんだ。それにスバルもどうしたの?」
「あぁ~あんな、なのはちゃん‥‥ちょっと、なのはちゃんに話があるんやけど‥‥」
「えっ?話?いいけど‥‥」
なのはは怪訝な顔をするが、はやてとスバルが自分に話があると言うのだから、なのはは二人を自分の部屋に案内した。
この後、なのはにティアナの事を話さなければならないと思うと憂鬱になるはやてとスバルだった。
「それで、話って何かな?」
なのはははやてとスバルを部屋に招き入れ、お茶を出すと早速二人に訪問した要件を訊ねる。
「あ、あんな‥なのはちゃん‥‥」
「ん?」
「その‥‥実は今日、フェイトちゃんがいるもう一つの地球との交信があってな‥‥それが地球との最後の交信やったんよ‥‥」
「えっ!?そうだったの!?でも、最後ってことはもうすぐフェイトちゃんとヴィヴィオ、ティアナが帰って来るってことだね!?」
なのはは出来れば最後の交信に出席したかったが、それでも最後の交信と言う事でフェイトたちがもうすぐミッドに還ってくる事に繋がるので、そこまで残念はってはいなかった。
「ティアナとはじっくりとO・HA・NA・SHIをしないといけないし‥‥」
なのははフッフッフ‥‥と、薄気味悪い笑みを浮かべながらティアナとミッドでO・HA・NA・SHIをすることを何だか楽しみにしているようにも見えた。
「あ、あの‥なのはさん‥‥」
そんななのはにスバルは恐る恐る声をかける。
「何かな?スバル」
「あの‥‥ティアの事なんですけど‥‥」
「ティアナの事?」
「はい‥‥えっと‥‥」
スバルはチラッとはやてに目をやる。
(わ、私に言わすんか?スバル!?)
てっきり、ティアナの親友だったスバルがなのはに話すのかと思いきや、土壇場‥と言うか、なのはのダークオーラに当てられて尻込みしてしまったスバル。
(お、お願いします。はやてさん。はやてさん、なのはさんと付き合いが長いんですし‥‥)
念話ではやてに頼むスバル。
(むぅ~‥‥)
「あ、あんな‥なのはちゃん‥‥落ち着いて聞いて欲しいんやけど‥‥その‥ティアナの事なんやけど‥‥」
「えっ?ティアナの事?」
「うん‥‥その‥ティアナ‥ミッドには還らないって事に‥‥」
「えっ?」
はやてのこの一言になのはは固まる。
「はやてちゃん‥‥それってどういう事?ティアナ‥ミッドに戻らないの?ドッキリとか冗談なの?」
「なのはちゃん‥ちゃうねん‥‥これはドッキリでも冗談でもない‥‥ティアナから直接言われたんや‥‥恐らくティアナは本気でミッドには戻らずあの地球で暮らすつもりや‥‥ティアナの性格上、冗談やドッキリであのような事を言う訳がないんや‥‥」
「そ、そんなっ!?あっ、もしかして、私があの時、ティアナの事を否定したから?ティアナは私のことが嫌いだから‥私の顔なんて見たくないから‥‥同じミッドにいたくなかったから、ミッドに還らないんじゃあ‥‥」
なのはは自分のせいでティアナがミッドに還らないのではないかと思い始めた。
「なのはさん、それは違います!!」
スバルは声をあげてソレを否定する。
「ティアは、なのはさんの事を『嫌い』とは言っていませんでした。地球に残ると決めたのはティアの意志でした」
「でも、ティアナはもうすぐで念願の執務官になれそうだったのに‥‥」
ティアナが執務官志望なのはなのは自身も知っていた。
六課卒業後にフェイトの下で執務官を目指し、執務官補佐となり執務官までもうすぐの所まで来ていた。
それにもかかわらず、ティアナはその執務官の道を蹴ってまでもう一つの地球に残留すると言う。
なのはにはそれが理解できなかった。
「ティア‥言っていたんです‥‥執務官の肩書に何の意味があるのかって‥‥」
「きっと、ティアナはもう一つの地球で沢山の事を経験しすぎたんや‥‥それで、現状の管理局に対して思うことがあったんやろう‥‥管理局の執務官以上になりたいことがもう一つの地球で出来たんやろうな‥‥」
スバルとはやてはなのはを慰める。
「私、ダメな教官だった‥‥ティアナみたいに いい才能に出会ったら、その才能を磨くことに夢中になっちゃって、本人の気持ちを見落としちゃって……あの時もティアナが迷っていたのに気付けなくて……今度の事もティアナの気持ちを無視して頭ごなしに否定しちゃって‥‥」
なのはの言う『あの時』とは六課時代にあったホテル・アグスタの後の模擬戦の事だとスバルもはやてもすぐに分かった。
「私はティアナと強くなりたかった……また一緒に訓練して、ティアナを磨いて、私も磨かれて、一緒に強くなりたかった!もっと悩みを打ち明けてほしかった。私がティアナの相談相手に値しない人間だったとしても頼ってほしかった」
「なのはちゃん‥‥」
「なのはさん‥‥」
「‥‥私は取り返しのつかない最大の失敗をしちゃったよ」
「えっ?」
「失敗?」
「うん‥‥ティアナに嫌われたまま別れちゃった事だよ」
スバル、はやて、ティアナは管理局が‥‥ミッドが、もう一つの地球と国交を結ぶことはないだろうと思っていた。
それは、なのはも同じだったみたいで、ティアナとはもう二度と会うことがないだろうと瞬時に悟り、ティアナと喧嘩別れしてしまった事を悔いた。
過去の経験上、ティアナがミッドに戻ってきてO・HA・NA・SHIをすれば、きっとティアナとはまた良好な関係が築けると思っていたからだ。
「なのはさん‥‥ティアはなのはさんに事を嫌っていませんでしたよ。ちゃんとなのはさん宛てにメッセージを残して言いました」
「えっ?メッセージ?」
「はい」
そう言ってスバルはティアナからのメッセージをなのはに見せた。
「ティアナ‥‥」
なのははティアナとの別れは悲しいが、まだまだ教導官として一人前ではなく、精進しなければとティアナからのメッセージを見てそう決意した。
一方、管理局との最後の交信を終えたフェイトは月村邸に戻ると帰国の準備をするがその際、帰国後に行われるであろう本局での事情聴取を見越して打つべき手を打っておいた。
まず、バルディッシュに記録されている映像や画像を密かにヴィヴィオのデバイスであるクリスへと移動させた。
とにかくこの地球での記録は『AMAのせいで記録できなかった』と言う設定にしなければならない。
だが、この地球で記録した写真や映像をそのまま消去もしたくはなかった。
どれもこれもこの地球で体験した貴重な記録なのだ。
要は自分や自分の信頼できる一部の人と共有できればいいのだ。
そして、ヴィヴィオにもいくつかの注意事項を伝えた。
「ヴィヴィオ、もうすぐミッドに戻るけど、フェイトママは多分、ミッドに戻ったら本局の人たちとお話しないといけないんだけど、もしかしたらヴィヴィオにもいくつかの質問をするかもしれないんだけどね、その時にヴィヴィオが忍からデバイスを貰ったことは内緒にしてね」
「えっ?どうして?」
「もし、こっちの地球の人から貰ったと知れたら、本局の人にクリスを取り上げられちゃうかもしれないよ」
「えぇー嫌だ、そんなの!!」
せっかくもらったデバイスを取り上げられることに関してヴィヴィオは嫌がる。
「でしょう?だから、クリスを守るためにフェイトママが良いって言うまでクリスの事は内緒ね?」
「うん」
この地球で作られたデバイスとなれば、本局の局員は必ず調査するだろう。
そこから、この地球の座標、ギンガの事や紅葉の事が知られたら管理局はこの地球へやって来る可能性が高い。
万が一、侵略行為なんてしようものなら、手痛い仕返しを受けるのは管理局の方だ。
その発端がヴィヴィオになることをフェイトは保護者として何としてでも避けなければならなかった。
「ヴィヴィオがクリスを持っていてもいいようにフェイトママが何とかするから、それまで少し我慢してね」
「わかった」
「あと、ヴィヴィオはスバルの事を知っているでしょう?」
「うん。確かノーヴェのお姉さんだよね?六課の時もたまに遊んでくれた」
「そう‥‥それで、こっちの地球には桜花のおねえちゃんのギンガが居るでしょう?」
「うん」
「そのギンガが実はスバルのお姉ちゃんなの」
「えっ!?そうなの!?」
ヴィヴィオとギンガはこの地球で邂逅したので、ヴィヴィオはギンガがスバルの実の姉であると言う事実を知らない。
しかし、何がきっかけでギンガがこの地球で生きているか分からなかったのでフェイトはヴィヴィオにギンガの正体を教えた。
「うん。まだ、機動六課が稼働する前にギンガは事故でこの地球に来たの‥‥それで、この地球で防衛軍の軍人さんになったんだよ」
「へぇ~‥‥それじゃあ、ギンガさんもミッドに帰るの?」
当然ヴィヴィオは、ギンガはスバルの実姉なのだから、ギンガも自分たちと一緒にミッドに戻るのかと思った。
「ううん。ギンガはこの地球に残るよ‥‥それにティアナも‥‥」
「えっ!?ティアナさんもこの地球に残るの!?」
ヴィヴィオはここでティアナがミッドに戻らずこの地球に残る事を知った。
「うん。ティアナはこっちの地球でやりたい事を見つけたみたい」
「そうなんだ‥‥」
「それでギンガの事なんだけど、どうやら管理局の中にも悪い人がいるみたいなの」
「えっ?管理局の中に?」
「うん。それでもし、ギンガが生きていることがバレたら、スバルやノーヴェたちが酷い目に遭っちゃうかもしれないの‥‥」
「ノーヴェたちが!?」
「うん。ヴィヴィオもノーヴェたちが酷い目に遭うのは嫌でしょう?」
「うん‥‥」
「だから、ギンガの事は秘密ね?」
「分かった」
ヴィヴィオにデバイスのクリス、そしてギンガについて口止めしたフェイト。
「‥‥ヴィヴィオは‥‥ううん、何でもない。兎も角、クリスの事はミッドに戻っても暫くの間は内緒で、ギンガの事は絶対に秘密だからね?いい?ヴィヴィオ」
「うん。分かった」
ヴィヴィオはギンガがスバルの姉であることを知り、更にティアナがミッドには戻らず地球に残ることを知った。
そんなヴィヴィオにフェイトはもしかしたら、ヴィヴィオもこの地球に残りたいのではないかと思ったが、その問いをヴィヴィオに対して訊ねる事はなかった。
もし、ヴィヴィオがこの地球に残りたいと言った場合、自分はどうすればいいのかと自問自答しそうになる。
とは言え、ここまで帰国の準備が進められている中でヴィヴィオも自分も帰らないとなれば管理局、防衛軍共に迷惑をかける事になるからだ。
ティアナがこの地球に残留すると言うイレギュラーな事が起きるもフェイトとヴィヴィオの帰国の準備は滞りなく進んでいった‥‥
フェイトとヴィヴィオの二人がミッドに戻るまであと僅かだった。