地球との最後の交信が終わり、ミッドへの帰国日も管理局との会合場所も決まり、あとはその日を迎えるだけとなった。
帰国を控えたある日、月村邸ではフェイトとヴィヴィオの送別会が開かれた。
この地球に転移したばかりのヴィヴィオを見つけた桜花の中嶋家と紅葉もこの送別会に参加した。
紅葉は前世では管理局員であり、当然その前世ではフェイトとヴィヴィオとも面識があったがこうしてこの世界のフェイトとヴィヴィオに会い、そしてもう二度と会えなくなるかもしれないと思うとやはり寂しくもあり、悲しくもある。
「はい、ヴィヴィオ。これは私と紅葉からの餞別だ」
「ありがとう、桜花お姉ちゃん、紅葉お姉ちゃん」
「ヴィヴィオ、向こうに行っても元気でな」
「うん、桜花お姉ちゃんもね」
「ヴィヴィオと過ごせた日々は楽しかったですよ」
「私も楽しかったよ、紅葉お姉ちゃん」
ヴィヴィオも桜花と紅葉から餞別のプレゼントを貰い目に涙を浮かべ、桜花も泣いていた。
(この世界でもヴィヴィオに友達が出来て良かったよ‥‥でも、もう二度と来れないと思うとヴィヴィオには悲しい思いもさせちゃったかな‥‥)
桜花と紅葉から餞別のプレゼントを貰っているヴィヴィオを見て、フェイトにとってもヴィヴィオにとっても此処は管理局でも認識していなかったもう一つの地球は全くの未知の世界でもあった。
そんな未知の世界でヴィヴィオには友人が出来た。
ミッドの学校では体験できない沢山の体験も経験した。
そして、もう二度と会うことが出来ないかもしれない今回の別れ‥‥
ティアナもこの地球で沢山の経験をした結果、この地球への残留を決めた。
きっとヴィヴィオも今回の地球滞在での経験から人として成長した事だろう。
それがフェイトにとっては嬉しい事だが、桜花、紅葉、ティアナとの別れはヴィヴィオにとっても悲しい事だろうが、それは自分にとっても同じ事だった。
一方でミッドに戻れば本局の事情聴取が控えていると思うと憂鬱になるフェイトであった。
時空管理局本局、次元港
本局の次元港、第四バースに接岸している八神はやてが艦長を務めるLS級次元航行艦ヴォルフラムの会議室では翌日の任務に控え、会議室にて乗員たちがブリーフィングを行っていた。
次元航行艦が次々と失われている中、まだ暗黒星団帝国との戦いが終わったばかりで厳戒態勢にあるという太陽系に赴くこともあり、ヴォルフラムの乗員たち緊張を隠せずにいるが、それでも多少なりとも不安感を和らげているのは、地球防衛軍は比較的穏健な軍事勢力であり、きちんと話し合える相手であると、先方と何度かコンタクトしたはやてが説明したからだ。
何より本来ならば何のメリットもない筈なのにも関わらず彗星帝国に襲われているテリオスの援に向かい、フェイト執務官たちを救出したという動かぬ事実があるのだ。
上層部はどう考えているか知らないが、最前線で働く艦船乗組員達の間では、地球防衛軍に対する印象は意外に良かったのだ。
それは質量兵器を使う軍隊であることを割り引いても‥‥
「いよいよ明日、ハラオウン執務官らを迎えに出航する。それについて先日、防衛軍との交信の際で、あちらさんからハラオウン執務官らが乗艦した艦以外にも周辺哨戒の為に何隻かの艦が同行する」
「周辺哨戒‥ですか?」
副官のグリフィスが首を傾げる。
「うん。もう一つの地球は暗黒星団帝国からの脅威は去ったみたいやけど、その残党が周辺に居ないとは限らへん。実際にハラオウン執務官らは彗星帝国の残党に襲われ遭難したからな」
「なるほど」
はやての説明を聞き、グリフィスを始めとしてヴォルフラムの乗員らは まほろば 以外の防衛軍の艦が同行する理由に頷く。
「で、ハラオウン執務官らを迎えに行くにあたって二つ伝えたいことがあるんや」
「なんでしょう?」
「‥‥まず、一つ目は‥ハラオウン執務官と一緒に遭難したティアナ・ランスター執務補佐官なんやけど‥‥」
はやては乗員たちにまずティアナの件を伝える。
「ランスター執務補佐官がどうかされましたか?」
「何かあったんですか?」
このヴォルフラムの乗員には艦長のはやて、副長のグリフィス以外にも旧六課の局員が複数居り、当然ティアナとは顔馴染みである。
しかし、もう一つの地球との交信には出席していなかったので、ティアナがもう一つの地球に残る事を知らなかった。
それにあの地球は少し前に暗黒星団帝国に占領されていたので、その為、ティアナの身に何かあったのかと心配になる。
「その事なんやけど‥‥ランスター執務補佐官はミッドへは帰還せぇへん」
「えっ!?」
「そ、それはどういうことですか!?」
「言葉のままの意味や‥‥ランスター執務補佐官はもう一つの地球に残り、向こうで暮らすっちゅうこっちゃ」
『‥‥』
はやての言葉にヴォルフラムの乗員たちは固まる。
「な、何故、ランスター執務補佐官はもう一つの地球に残ったんですか?」
「大怪我を負って動かせない状態とか?」
「ま、まさか、亡くなったとか?」
ヴォルフラムの乗員たちももう一つの地球が暗黒星団帝国に占領されたと言う情報を知っていたので、ティアナが暗黒星団帝国との戦いに巻き込まれ死傷したのかと思ったのだ。
「ランスター執務補佐官は元気や‥実際に最後の交信でランスター執務補佐官本人から地球残留の件を聞いたんや‥‥ただどんな心境の変化があったのか分からへんが、ランスター執務補佐官はきっともう一つの地球で管理局よりもやりがいのある事を見つけたんやろう」
はやてはヴォルフラムの乗員たちにはそう言ったが、実際はティアナが管理局の存在自体に暗雲を感じていたとは言えない。
一応、はやてがティアナ本人から聞いたと言う事で、ティアナが大怪我を負った、もしくは死亡したと言う訳ではなさそうであるが、それでもヴォルフラムの乗員たちはモヤモヤした気持だった。
「次はハラオウン執務官らの迎えに行く際に防衛軍の同行する艦についてや」
「確か周辺哨戒の為に来るんですよね?」
「そうや‥で、その防衛軍の同行する艦についてなんやけど、まほろば以外に防衛軍のパトロール艦の他に防衛軍が彗星帝国から鹵獲した艦も今回の任務に参加するみたいや」
「えっ?彗星帝国の鹵獲艦!?‥ですか?」
「せや、防衛軍は彗星帝国との戦いで、使用可能な彗星帝国の艦を鹵獲・改良して運用しているみたいや。そんで、ハラオウン執務官らの帰国の際にこれらの鹵獲艦が周辺哨戒の為に同行する」
『‥‥』
彗星帝国の鹵獲艦が来ると言う事でヴォルフラムの乗員たちは何とも言え複雑そうな表情を浮かべる。
「みんなの言いたいことも分かる。実際に管理局はプレオを破壊され、ノアやテリオスも彗星帝国の艦に攻撃を受け、多くの人員が失われた。でも、今回の任務に参加するのは、見かけは彗星帝国の艦やけど、運用しているのは防衛軍や。それに防衛軍側も彗星帝国との戦いで多くの被害を受けとる」
はやては乗員たちにあくまでも今回の任務に参加するのは防衛軍の艦艇であることを強調する。
「そんで、本局にあらぬ誤解を与えないように映像記録は取らんでええ。今回の任務はあくまでもハラオウン執務官らの迎えやからな」
そして、鹵獲艦の映像は取るなと伝える。
(えぇー防衛軍が彗星帝国の艦をどんなふうに改造したのか模型にしたかったのに‥‥)
(それに彗星帝国の艦を間近で見るチャンスだったのになぁ~‥‥)
はやての話を聞いてヴォルフラムの操舵長であるルキノは艦船マニアであり、フェイトたちの迎えでは、彗星帝国の宇宙艦艇を直に見る機会であり、画像を残せばそこからガレージキットを作成できるのだが、はやてが画像にも映像にも記録を残すなと言われてはそれが出来ないので、心の中で物凄く悔しがった。
(フェイトさん、あっちの世界の艦船模型を買ってくれたかな?)
そして、ティアナがミッドに還ってこないとなるとフェイトがもう一つの地球で防衛軍の宇宙艦艇のプラモデルを買ってきてくれることを祈った。
ブリーフィングが終わり、会議室からは乗員たちが退室していく。
「ふぅ~やれやれ、やっとフェイトちゃんたちが帰って来れる‥か‥‥」
感慨深げにはやてが呟く。
「はい。ランスター執務補佐官の事は残念に思いますが、帰還するハラオウン執務官らのもう一つの地球からどんな土産話を携えてくるのか、私も非常に興味深いです」
はやての傍にいたグリフィスが言う。
「そやなぁ~……なにしろ未来の地球やからな。あんな強力な軍備を持つに至った詳しい事もわかるかも知らんな」
向こうの地球が三度も外宇宙からの侵略にさらされ、多大な犠牲を払いながらも侵略者を退けてきた詳しい経緯は管理局員ならずとも知りたいところだ。
大まかな経緯は定期通信でも知らされていたが、フェイトならばもっと詳しい事を調べているだろう。
はやてはそう確信していた。
送別会が行われた翌日、防衛軍の公用車が月村邸にやってきた。
「皆さん、大変お世話になりました」
「なりました!!」
玄関先でフェイトとヴィヴィオは月村家、中嶋家の面々に深々と頭を下げ、今までお世話になった事に対してお礼を言う。
「ミッドに戻っても元気でね」
「私たちの事忘れないでね」
「あまり無茶しないでね」
月村家、中嶋家の面々はフェイトとヴィヴィオに別れの言葉をかける。
「フェイトさん‥ヴィヴィオ‥‥」
「ティアナ‥‥元気でね」
「はい‥‥フェイトさんも‥‥ヴィヴィオも元気でね」
ティアナはフェイト、ヴィヴィオと握手と言葉を交わす。
「さよなら、ティアナさん」
「さようなら」
別れの挨拶を交わし、フェイト、ヴィヴィオは公用車に乗る。
そして、良馬とギンガも公用車に乗り、まほろば が係留されている地球防衛軍新横須賀基地へ向かった。
月村家、中嶋家の面々、そしてティアナは公用車の姿が見えなくなるまで手を振り、フェイトたちの別れを見送った。
時空管理局本局、次元港 第四バース
ヴォルフラム ブリッジ
「艦内全システムオールグリーン、出港準備完了しました」
「了解。ヴォルフラム、防衛軍との会合地点へ向け、発進や」
係留アームが外され、ヴォルフラムは本局の第四バースから離れていく。
地球防衛軍との会合ポイントまでの所要時間は約70~80時間の航海だ。
ヴォルフラムは多くの局員に見守られフェイトとヴィヴィオを迎えに出航して行った。
ガミラス 彗星帝国 暗黒星団帝国 ボラー連邦‥管理局を遥かに凌ぐ科学技術力と軍事力を持つ勢力が悉く敵に回っている現状において、偶然とはいえフェイトたちを助ける行動を取った防衛軍に対する印象は、階級が下の者ほど良く、逆に高ランク魔導師が多い高級士官からは相変わらず不安視する声が高かった。
さすがに、武力を用いてでも質量兵器を接収しろと公言する者は最初に比べて減りはしていたが、『地球防衛軍・地球連邦と関わることが自分たちの優位性を突き崩すのではないか?』という懸念は隠せずにいた。
だからこそ、未だに『もう一つの地球に対して武力侵攻を』と言う声が完全に消滅してはいないのだ。
出航するヴォルフラムの見送りには管理局の白い悪魔こと、高町なのはとユーノ・スクライア・無限書庫司書長の姿もそこにはあった。
「あと、一週間もすればフェイトやヴィヴィオが帰って来るね」
ヴォルフラムの往復を考えればフェイトとヴィヴィオがミッドに戻ってくるのは約一週間後だ。
本局から離れていくヴォルフラムを見送りながらユーノはポツンと呟く。
「うん‥‥無事に帰って来てくれればいいけど‥‥」
往路は防衛軍の艦船で行くから特に不安視していないが、復路については、はやてのヴォルフラムで帰って来る。
ボラーへの武力制裁の失敗にフェイトとティアナの遭難から管理局の艦船の能力不足が否めない。
もしも途中でボラーや暗黒星団帝国、彗星帝国の残党と出くわしたらどうしよう‥‥
そんな不安がなのはにはあったのだ。
「そういえば、はやてからチラッと聞いたんだけど、リンディさんがもう一つの地球へ親書を託されたって聞いたんだけど‥‥?」
「うん、それは私も聞いたよ。内容までは聞かされていないけど‥‥」
「そうか‥‥ただ、内容によっては地球連邦政府さえも敵に回しかねないからね」
ただでさえ、管理局は地球連邦政府及び防衛軍から不信視されている。
そんな中、高圧的・挑発的な文章もしくは降伏勧告に近い文章なんて書いた親書を渡しでもしたら、それこそ地球連邦政府さえも敵に回してしまう。
「魔法とか質量兵器とか、ハードルは高いけど、何とか共存できる方向に進むといいんだけど、地球とミッドでは魔法を含めて文化の違いとかあるからね‥‥」
「そうだね‥‥」
魔法の有無を含めた文化の違いそして未だに不信視されていることからミッドともう一つの地球と交流を結ぶのは難しい現状であるが、自分が生きている間に交流することが出来れば自分ももう一つの地球へ行くことが出来る。
そうなればティアナとも再会する事が出来る。
現地に赴くリンディは管理局から地球防衛軍司令長官と地球連邦大統領に宛てた親書を預かっている。
ユーノとなのはは親書の内容が、向こうが歩み寄れるような穏健な内容であることを切に願った。
フェイトとヴィヴィオ、そして管理局の殉職者たちの棺を乗せた まほろば は屋久島上空から一気に大気圏を離脱し、一時間後には月軌道を抜けた。
「月軌道を通過しました!」
「機関、地球圏外出力へ切り換えます!」
「パトロール艦、畝傍、白浜及びホワイト艦隊との会合宙域まで、あと二十分です」
「僚艦と合流後、木星圏までワープする。ワープ準備」
やがて、今回の任務の同行艦が まほろば と合流すると、一行は木星圏まで一気にワープした。
木星圏
まほろば 畝傍 白浜 龍驤 ホワイトアローⅠ Ⅱ Ⅲの七隻は木星から500万キロの宙域にワープアウトした。
「ワープアウト」
「艦に異常を認めず‥‥」
「僚艦も全艦全てワープアウトを確認」
「全艦異常なしとのことです」
(ふむ、パトロール艦は兎も角、ホワイト艦隊の艦艇は今回が初の地球人による運用航海になるが、何とか無事にワープは出来たか‥‥)
今回の航海はただフェイトとヴィヴィオを管理局艦に引き渡すだけではなく、同行する彗星帝国の鹵獲艦の試験航海も兼ねている。
その為、会合場所の宙域まで航行や戦闘などの試験を行いながら向かう。
会合場所はプロキオン宙域の沖合‥‥
プロキオンはかつてヤマト と すくね がテレザートへ向かう途中に航路の一つに選定した宙域であり、その宙域では彗星帝国のコズモダート・ナスカが潜宙艦隊を率いてヤマト、すくねを襲撃した古戦場でもある。
また、土星圏のフェーベで戦ったゲルン機動部隊はこの宙域まで進出して、ズォーダーの太陽系への出撃命令を待っていた。
このプロキオン宙域にはヒアデス方面に超重力惑星である白色わい星、ソーサナーがあるが、プロキオン本星とそのソーサナーの超重力の影響により周囲にはアステロイドや惑星も少ない宙域で、電離ガスが多少存在するが決してレーダーに影響を及ぼす程のガス量ではない。
プロキオン本星とソーサナーへ近づかなければ、障害物も少なく哨戒しやすい宙域と言う事で今回、管理局との会合地点にこのプロキオン宙域が選ばれた。
管理局の母港である本局からこのプロキオン宙域まで約三日かかると言われたので、防衛軍は太陽系内でホワイト艦隊の性能試験航海をやりながら、時間を潰し、プロキオン宙域へと向かった。
そして、まほろば 以下の艦艇は会合場所であるプロキオン宙域へと到着した。
「全艦、会合宙域へ到達」
「減速開始!!重力アンカー始動!!」
「了解、減速開始!!重力アンカー始動!!」
「会合予定時刻まであと一時間です」
「よし、警戒態勢を維持。コスモタイガーは全機発進せよ。畝傍、白浜及びホワイト艦隊は各々の割り振られた宙域の哨戒任務を開始」
管理局との会合場所に先着した まほろば は機関を止めて管理局からの迎えの艦の到着を待つ。
その間、まほろば 所属のコスモタイガー隊と龍驤のコスモタイガー隊は他艦同様、周辺哨戒及び まほろば の直掩警戒を行う。
暗黒星団帝国の残党や存在しないとは思うが彗星帝国の残党の存在も否定できない。
また、防衛軍は管理局に対して不信感を有しているので、今回フェイトとヴィヴィオを迎えに来るヴォルフラム以外の管理局艦については、不審船として対処することにしていた。
とは言え、プロキオン宙域は公海なので、いきなり攻撃はせずに所属・目的を聞き出した後に対処する。
まほろば そして、龍驤から発艦し、宇宙空間を飛び交うコスモタイガーをフェイトは複雑な思いで見ていた。
いくら高ランクの魔導師でも真空の宇宙では、大気圏内と同じ様に高速で飛び回る事も出来ない。
だが、以前ティアナがなのはに指摘した、
「自分たちをお払い箱にしかねないような戦闘機の導入に対して、なのはさんは認められますか?」
と言う言葉通り、管理局が周囲を飛んでいるコスモタイガーの様な大気圏内・宇宙空間の両方を併用できる艦載機を採用するだろうか?
管理局での宇宙空間の活動は次元航行艦か次元巡航艦で遭難事件では、搭載されている小型艇で遭難した次元航行船に救助隊員を送り込む。
しかし、防衛軍、ガトランティス、暗黒星団帝国、ガミラス‥管理局よりも強力な勢力はどれも大気圏内・宇宙空間の両方を併用できる艦載機を運用している。
艦載機を持たない管理局の勢力で制宙権、制空権を取られれば成す術なく敗北するのではないか?
フェイトが管理局への将来に対して不安を抱きながらコスモタイガーをジッと見ていると、
「あっ、フェイトさん」
「ん?あっ、ギンガ‥‥」
ギンガに声をかけられた。
「あの‥これ‥‥」
ギンガはフェイトにそれなりの厚さがある封筒を渡す。
「お父さんとスバル宛ての手紙と写真です」
「うん、確かに受け取ったよ」
まほろば に乗艦してすぐにリニスからはアルフ宛ての手紙と写真を受け取っている。
そして、ギンガも以前フェイトからの提案からミッドに居るゲンヤとスバル宛ての手紙と写真を用意しており、それをフェイトに託した。
ギンガがフェイトに手紙を託してからすぐに、
「本艦、前方に空間歪曲を確認!!」
まほろば の近くで空間歪曲反応が確認された。
恐らく会合相手の管理局艦だろうが、念のため警戒態勢は崩さない。
やがて、歪曲した空間からはやてが艦長を務めるヴォルフラムが姿を現した。
ヴォルフラム ブリッジ
「通常空間を確認、次元転移完了」
「位置は?」
「防衛軍側の指定空間です。間違いありません」
「あっ‥‥これは‥‥!?」
ヴォルフラムが空間転移してきたのは間違いなく、防衛軍側が指定した会合宙域だった。
そんな中、ルキノが思わず声をあげる。
「ん?どうした?」
「なんかあったんか!?」
「いえ、外の景色が‥‥」
ルキノの指摘を受け、ヴォルフラムのブリッジ要員は皆、外を見る。
「おぉ‥‥」
「綺麗‥‥」
ヴォルフラムの乗員たちは初めて見るプロキオン宙域の景色に見とれる。
普段は漆黒の中に星々の薄明りが灯っている様な宇宙空間であるが、プロキオン宙域は電離ガスが恒星からの紫外線放射によりまるでオーロラがかかっている様な景色だった。
これまで短期間であるが、あちこちの宇宙へ航海したが、このような光景を見るのは初めてだった。
「って、いつまでも見とらんで、防衛軍と接触するで!!」
『は、はい!!』
はやてが、乗員たちを叱咤して防衛軍との会合準備を促した。
乗員たちは慌てて準備をする。
すると、出迎えなのかヴォルフラムの周辺にコスモタイガーが接近してきた。
「あれが、戦闘機……?」
スクリーン画面の中を飛び交うコスモタイガーにブリッジクルーは驚愕と戦慄の声を上げていたが、それを見てとった艦長席のはやてが声を上げる。
「大丈夫や!!あちらさんは魔法文化が存在しない世界なんや。平和を守る為に質量兵器を使うのは至って当然のことやで、それにあの戦闘機たちは私らを案内すると同時に護衛してくれているんや」
「は、はい……」
(まほろば は前にちょこっと見ただけだったけど、今回はじっくりと見れそう)
ルキノは今回、まほろば の姿をじっくりと観察できることから好奇心に目を輝かせていた。
初邂逅した際、まほろば は春藍の護衛でチラッとヴォルフラムの前に現れただけであったが、今回はフェイトとヴィヴィオを引き渡すことから停止している時間もそれなりにある筈なので、その間じっくりと観察するつもりであった。
はやてのお達しでその艦影を記録できない事が悔やまれるが、だからこそ自分の目と脳に まほろば の姿を焼き付けるつもりだった。
「艦長、防衛軍の戦闘機隊の指揮官から、音声通信が入っています」
「わかった。スピーカーに繋いでや」
「了解」
通信オペレーターがコンソールを操作すると、ブリッジに若い男の声が流れる。
「こちら、地球防衛軍所属、戦艦 まほろば 戦闘機隊隊長、坂井健夫。そちらは時空管理局、次元航行艦 ヴォルフラムでよろしいですか?」
「こちら、時空管理局・次元航行本部所属、次元航行艦ヴォルフラム。艦長の八神はやてです。お出迎えに感謝致します」
「了解しました。八神艦長、これからそちらに誘導通信を送りますので、よろしくお願いします』
まほろば も事前のミーティングでヴォルフラムの艦影についての情報を共有していたが念のために確認を行う。
確認が取れるとコスモタイガーはヴォルフラムを見つけると翼を振る。
そして、機体を反転すると まほろば の下へヴォルフラムを案内し始めた。
「周辺の状況はどうや?」
「事前に情報提供された地球防衛軍の艦船と戦闘機以外の反応はありません」
この宙域には既に複数の地球艦が展開してきているようだ。
やはり、暗黒星団帝国、彗星帝国の残党を警戒しているのだろうとはやてはそう思うが、防衛軍側としてはそれらの勢力以外にヴォルフラム以外の管理局の艦も警戒の対象に入っている事を彼女は知らなかった。
「誘導通信波を受信しました。シグナルに従い、半速航行します。まほろば との合流まであと十分です!!」
「いよいよ‥ですね……」
「うん‥‥」
公式な地球防衛軍との直接接触は初めてだが、これは同時に管理外世界の公的機関との初会合でもある。
フェイト、ティアナ、ギンガの場合は遭難した救助者なので、公式とは言えない。
この会合は時空管理局の将来に少なからぬ影響を及ぼすだろうとはやてはそう考えていた。
まほろば 艦橋
「ヴォルフラムとの合流まで、あと五分」
メインスクリーンにはゆっくりと接近してくるヴォルフラムの船体が映し出されていた。
「ふむ、どうやら武装は格納式みたいだな」
永倉がヴォルフラムの艦影を見て呟く。
「防衛軍と違い、建艦思想が全く違うし、管理世界の住民に必要以上のプレッシャーを与えないよう配慮しているのかも知れないな‥‥」
永倉の言葉に良馬が答える。
しかし、その配慮は今となっては全て空しく、彗星帝国、暗黒星団帝国、ボラー連邦の艦船に簡単に捻られる程度の戦闘力しかないのでは、この世界では戦闘艦と名乗ることすら恥ずかしく、せいぜい大型の巡視艇レベルの戦闘力だろう。
「艦長、ヴォルフラムから通信が入っています」
ギンガがヴォルフラムから通信が入ってきたことを報告する。
「わかった。繋いでくれ」
「はい」
ギンガは通信回路を開くとメインスクリーンの画面が変わるのに合わせ、良馬は艦長席から立ち上がり、ギンガはバレない様に顔を伏せる。
メインスクリーンにははやて、リンディの姿が映し出される。
「遠路はるばるご苦労様です」
「いえ、義娘の為ですから‥‥それで、そちらと合流しましたら、こちらから義理娘たちを迎えに伺いますが、よろしいでしょうか?」
「わかりました。お待ちしております」
敬礼を交わして通信を終える。
副長席では新見がディアーチェと回線を繋ぎ、何やら打ち合わせを始めた。
そして、はやてもリンディも良馬に視線が向いていたので、顔を俯かせているギンガには幸い気付かなかった。
ヴォルフラム ブリッジ
「それじゃ、私たちは行くから、後をお願いしますね、ロウランさん」
「はい!お任せください。統括官と艦長もお気を付けください」
まほろば の近くまで来たヴォルフラム。
留守を副長のグリフィスに任せて、はやてとリンディは小型シャトルで まほろば に向かう。
その小型シャトルの両側を まほろば 所属のコスモタイガーが固めている。
「あの機体を見ると、世界こそ違え、あのフォルムは地球の戦闘機なんだなと思います‥‥」
寄り添うように飛行するコスモタイガーを見ながらはやては呟いた。
海鳴にいた頃は、流石にミリオタではなかったが、戦闘機の姿をテレビや雑誌で見る機会はあったので、コスモタイガーの機影はまさに自分が知る戦闘機その物のフォルムをしていた。
「あの外見‥‥いかにも戦う為に生まれたという雰囲気ですね」
操縦桿を握るルキノが改めて まほろば の姿を見て呟く。
「ええ。それでも彗星帝国との戦闘では戦力の大半を失い、まほろば も あのヤマトもボロボロになったらしいわよ」
「大半って、管理局では全滅扱いですよね!?」
リンディから聞かされた内容に、思わずルキノは聞き返した。
あのボラーへの武力制裁以上の被害を出した防衛軍。
防衛軍側も彗星帝国との戦いに関してはテレサの力が無ければ負けていただろう。
彗星帝国との戦いの勝利はまさに奇跡的な勝利だったのだ。
「地球防衛軍とすれば、降伏すれば地球人類は奴隷化され、いずれ絶滅させられると思ったのだろう。だから戦友の屍の山を築いてでも戦ったと思う。管理局の戦いとは根本からして違うんやろうな」
「「‥‥」」
そして防衛軍の存在に対してのはやての言葉にリンディもルキノも黙って まほろば の姿をジッと見つめる。
やがて、シャトルは まほろば へと接舷した。
まほろば シャトル接舷部
「ご足労痛み入ります。ようこそ、まほろば へ」
「こちらこそ。義娘たちが大変お世話になりまして、ありがとうございます」
シャトル と まほろば との接舷部から、まほろば の艦内へ入ったはやてとリンディを良馬が出迎える。
そして、良馬とリンディは敬礼と握手を交わす。
リンディとはやてとは交信の際、何度か話しているので、改めて自己紹介することはなかったが、ルキノと良馬は今回が初対面だった。
「あっ、自分は時空管理局・次元航行本部所属、次元航行艦ヴォルフラム操舵士長のルキノ・リリエ一等海士でありまふっ!!」
ルキノは緊張の余り、噛んでしまった。
リンディ、そして若いながらも機動六課を指揮しJS事件を解決に導いたはやても管理局の歴戦の勇士として名を馳せているが、初対面である良馬もガミラス、彗星帝国、そして暗黒星団帝国と数多の戦いと修羅場を潜り抜けてきたであろうことが解ったため、ルキノは気圧されてガチガチになってしまった。
それにこれだけの戦艦の艦長なのだから、ルキノが緊張するのも無理はない。
「まほろば艦長の月村良馬です。ようこそ、まほろばへリリエ一士」
「は、はい……」
「では、ハラオウン執務官らが待機している部屋へ案内します。どうぞこちらへ‥‥」
良馬が三人をフェイトとヴィヴィオが待つ部屋へと案内する。
まほろば の艦内を歩いている時、はやてとリンディとしての本音は まほろば の艦内を隅々まで案内して構造などの説明を受けたかったが、それでは怪しまれると思い、周囲をキョロキョロと見渡すことなく歩いている。
しかし、ルキノの方は まほろば を見る事を楽しみにしており、その まほろば に図らずも乗艦した事で少し緊張が解けたので、まほろば の艦内をキョロキョロしながら見ている。
(やっぱり、管理局の艦船に比べると造りは武骨ね。でも、被害を受けた時はすぐパーツ交換ができそう)
天井や隔壁には各種のパイプが剥き出しになって走っており、如何にも実戦本位な造りが印象的だった。
まほろば の会議室にてフェイトとヴィヴィオは、リンディたちを待っていた。
「フェイト!!」
「義母さん!!」
「ヴィヴィオ!!」
「はやてさん!!」
「フェイト、ヴィヴィオ、元気だった?よく頑張ったわね」
「ううん、ごめんね。心配かけちゃって」
「皆さんには、本当に何から何までお世話になりました。何とお礼を申し上げたらいいのか‥‥」
「いえ。あの場に我々が通りかかったのは正真正銘の偶然でしたし、船乗りとして当然の事をしたまでですから、どうぞ、お気になさらないで下さい」
その後、一同は会議室の椅子へ着席する。
机には日本茶と和菓子が並べられていた。
なお、リンディは日本茶を見た時、クリームと砂糖を頼んだ。
そこで、良馬は主計科の乗員にクリームと砂糖を持ってくるように頼んだ。
「艦長、クリームと砂糖を持ってきたが一体何に‥‥ん?」
「「「えっ?」」」
会議室にクリームと砂糖を持って来たのはディアーチェだった。
最初、会議室へ日本茶と和菓子を持って来たのは別の主計科の乗員であったが、厨房で用意したのはディアーチェだったので、クリームと砂糖を使用するお茶とお菓子ではなかったので、気になってクリームと砂糖を持って来たのだ。
そして、ディアーチェは会議室に居るはやてを見てピクッと反応し、はやて、リンディ、ルキノの管理局側は会議室へ入ってきたディアーチェの姿を見て目を見開く。
「「はやてさんそっくり!!」」
「ぎ、銀髪の私や‥‥」
「ああ、お主がはやてか‥‥」
自分にそっくりなはやてを見て、ディアーチェは納得するように呟く。
「お主の事は聞いておる。我にそっくりな者が管理局に居るとな‥‥」
ディアーチェはギンガ、フェイト、ティアナからはやてと間違われていたので、実際にはやてを見てもそこまで驚く事はなかった。
「えっと‥‥」
「ああ、我は防衛軍、まほろば所属、主計科長兼厨房長のディアーチェ・K(コンドウ)・クローディアである」
はやてたちが戸惑っていると、ディアーチェは管理局の面々に自己紹介をする。
「あっ、私は時空管理局・次元航行本部所属、次元航行艦ヴォルフラム艦長の八神はやてです」
はやてが慌ててディアーチェに自己紹介をする。
「あの‥月村艦長、もしかして彼女はこの世界の‥‥」
「あっ、いえ、彼女は八神艦長とは全くの無関係で本当によく似ているだけの他人の空似です」
リンディはディアーチェがもう一つの地球におけるはやての子孫または関係者かと思い訊ねるが、ディアーチェと八神家とは何の関係もない。
「そ、そうですか‥‥」
「でも、他人の空似でここまで似るなんて‥‥」
ルキノもディアーチェとはやてを見比べて本当に赤の他人なのかと疑うレベルだ。
「私も初めてディアーチェと会った時は驚いたよ」
フェイトもディアーチェとの初邂逅の際の感想を述べる。
「それで、クリームと砂糖を何に使うのだ?」
「ああ、こちらのハラオウン統括官さんが使うみたいなんだ」
ディアーチェがクリームと砂糖を使用方法訊ねると、良馬はリンディがクリームと砂糖を使用する事を伝えるとディアーチェはリンディの傍にクリームと砂糖が入ってケースを置く。
日本茶と和菓子にクリームと砂糖をどう使うのか良馬とディアーチェが見ていると、リンディは日本茶の中にクリームと砂糖をこれでもかと言うぐらいにドバドバと入れる。
「「‥‥」」
リンディの行動に良馬もディアーチェも固まる。
(えっ?何この人?ミッドではこんな風にしてお茶を飲むの?)
(でも、ギンガたちはこんな風にしてお茶は飲まなかったし‥‥)
良馬はお茶の中にクリームと砂糖をドバドバ入れたリンディの行動に戸惑い、
(せっかくの茶をあんなゲテモノにしてからに‥‥)
ディアーチェは折角入れたお茶を台無しにされて心の中で憤慨した。