もう一つの地球に救助されたフェイトたちを迎えに行き、ミッドチルダへ帰還したヴォルフラム。
宇宙で死にそうな目に遭い命からがら地球防衛軍に救助され、そこで管理局や管理世界とのギャップを感じさせられる様々な体験をして、これまで管理局が観測していないもう一つの地球へ実際に来てみると、その地球が外宇宙からの侵略者に占領される経験をしたフェイト。
一生の内でもう二度と体験しないだろうと思われる超レアな体験をして、ようやくミッドチルダに還って来たと思ったら、着いてから直ぐに査察部からの事情聴取がフェイトを待っていた。
しかし、査察部からの事情聴取はフェイトにとって予測の範囲だったのだが、流石に夜中まで続くのは予想外であった。
(ふぅ~やっと終わった‥‥でも、査察部からの事情聴取を受けてみて、改めてギンガがミッドに戻ってこなくて良かったかもしれない)
自分たちよりも長く尚且つ防衛軍に入隊していたギンガがミッドに戻ってきていたら、きっと自分よりも厳しい事情聴取が行われていただろうと予測するフェイト。
そして、ようやく査察部の事情聴取から解放され、帰ろうとした時、フェイトを迎えに来たのは養母であるリンディだった。
夜も遅いと言う事で今日の夜、フェイトは本局内にあるリンディの部屋に泊る事になった。
リンディ曰く、自分がミッドを留守にしている間にどうやらミッドチルダでは様々事があったみたいで、しかもそれは地球に居る時に管理局との間で行われていた交信の席では話せない内容みたいだ。
フェイトとしても自分がミッドチルダに居ない間にミッドチルダで何があったのか当然気になる。
本局内にあるリンディの部屋へと赴き、遅い夕食と入浴を済ませた頃。時刻は既に夜の十時半を過ぎており、流石に時間が遅いと言う事で話は翌日に持ち越しとなった。
ただ寝る前にバルディッシュはフェイトに例のメンテナンスを頼んできたので、
「ね、ねぇ、リンディ母さん」
「何かしら?」
「あ、あの‥お酒ってある?」
「えっ?お酒?」
「う、うん‥‥」
「フェイトってお酒を飲むの?」
「あっ、向こうの地球でちょっと飲んで‥‥それで、今日は疲れたけど色々あって寝付けそうになくて‥‥」
「あら?そうなの?それじゃあ‥‥」
フェイトの頼みを聞いてリンディはアルコール度数が低いフルーツワインの瓶を差し出した。
「飲んでも良いけど、あまり飲み過ぎてはダメよ」
リンディは二日酔いを心配してフェイトに忠告をいれる。
「う、うん。ありがとう」
フェイトは自分が飲む訳ではないのだが、リンディは完全にフェイトが飲むものだと思っていた。
まぁ、例のメンテナンス方法を知らなければ当たり前の事だろう。
リンディからワインの瓶を受け取り、寝室にあてがわれた部屋に行くと、グラスにワインを注ぎ、そこにバルディッシュを浸ける。
「ふぅ~‥‥ん?やはり、地球のお酒とミッドのお酒では違いがありますが、今後の慣れで馴染んでいくでしょう」
バルディッシュは地球産のお酒とミッド産のお酒ではやはり、感覚が異なると呟く。
そんなバルディッシュの愚痴を聞きながら、フェイトは今後の予定を確認する。
仕事に関しては、査察部がまだフェイトに事情聴取があるかもしれない事ともう一つの地球から還って来たばかりと言う事から当面、休職扱いとなっている。
(えっと、まずはナカジマ三佐とスバルにギンガからの手紙を渡して、エリオとキャロにミッドへ戻ってきたことを伝えて、シャーリーにヴィヴィオのデバイスについて登録手続きをしてもらって、アルフにリニスからの手紙を渡して‥‥)
こうして予定を確認してみると、色々とやる事が沢山ある。
(査察部からの事情聴取もまだ続くかもしれないし、リンディ母さんも何だか深刻そうな顔をしていたし、私がミッドに居ない間に何があったのかな?)
フェイトは自分が立てた予定以外にも査察部からの事情聴取の他に自分がミッドチルダに居ない間の事を話そうとしたリンディの様子から何だか深刻そうであり、ミッドチルダで何があったのか気になった。
翌朝‥‥
フェイトは洗面と着替え、朝食を終えると、
「それで、リンディ母さん。私がミッドに居ない間に何があったの?」
リンディに改めて自分がミッドに居ない間に何があったのかを訊ねた。
「実はね‥‥」
リンディはフェイトが留守にしている間、管理局で何があったのかを話す。
ボラー連邦との邂逅から武力制裁の決定とその失敗、それに伴いミッドチルダにあるなのはとフェイトが一緒に住んでいる家、はやての家が暴徒たちの襲撃により半壊した事を伝えた。
ただ、ミノフスキー博士に関しては管理局内でもトップシークレット事項だったので、いくら義娘とは言え、リンディはミノフスキー博士については伝えなかった。
「‥‥」
リンディから事の次第を聞いたフェイトの顔は蒼白になっている。
まさか、自分がミッドチルダに居ない間にもう一つの地球と似た事が起きていたなんてあまりにも予想外だ。
管理局がもう一つの地球の技術をあれだけ欲するのもただ単に優れているからと言う理由だけでなく、早急に管理局の艦船を揃えなければならなかった。
(だったら、理由を話してもう一つの地球に波動エンジンの技術供与をお願いすればよかったのに‥‥)
(相手が管理外世界で非魔導師だから頭を下げるのは嫌だったのかな?)
余計な小細工をせずにもう一つの地球に対して頭を下げ、波動エンジンの技術供与を頼めばよかったモノを管理局はそれをせずにむしろもう一つの地球そのものを管理世界へ編入させようとした方針を立てたせいでもう一つの地球から不信感を買ってしまい、もう一つの地球からの波動エンジンの技術供与を管理局は自らの手で閉ざしてしまった。
「フェイトたちの引き渡しの時に防衛軍へ渡した親書が最後の頼みの綱だけど‥‥」
「これまでの管理局の言動からみると私から見ても望み薄だと思う」
「やっぱり‥‥」
ミノフスキーは現在も新型エンジンの研究を行ってはいるが、もう一つの地球からの波動エンジンの技術供与が行われればミノフスキーの研究成果を待つよりも早く、そして防衛軍の実績からも十分に信頼できる新型エンジンを管理局は得ることが出来る。
しかし、現状管理局が地球連邦政府、防衛軍から不信視されている現状、連邦政府と防衛軍に託した親書もあまり期待できないとリンディもフェイトもそう予測していた。
(ティアナ、貴女の選択はもしかしたら、正しかったのかもしれないよ‥‥)
フェイトはミッドチルダには戻らず、もう一つの地球に残ったティアナの選択は正しかったのではないかと思っていた。
だが、もう一つの地球に居る時、管理局の現状を知る由もなく、フェイトにはヴィヴィオが居たので、ミッドに戻らざるを得なかったのだ。
フェイトが管理局の現状を憂いても直ぐに改善は出来ない。
ひとまず、管理局の現状については今後の成り行きを見守るしかない。
まずは自分がやるべきことはたくさんあるので、そちらを優先した。
「フェイトはまだ査察部からの事情聴取があるの?」
「うん、そうみたい。でも事情聴取がある時は査察部から連絡がくるみたい」
「そう‥それで、今日はどうする?ここで休んでいる?」
「ううん、ちょっとやる事があるからクラナガンに行くよ。なのはにも会いたいし‥‥」
「分かったわ。ただ、気を付けてね。マスコミやボラーへの武力制裁失敗で殉職した遺族の中には貴女たち元機動六課の隊長陣に恨みを持っている人も居るから」
フェイトたちがミッドに帰還した事を知っているのはマスコミ関係者と本局の管理局員のみで、まだ公式には発表されていない。
それは査察部がフェイトからもう一つの地球について有益な情報をまだ得ていないので、そんな中でマスコミ連中にフェイトが付き纏われては事情聴取の邪魔になるので、管理局側がマスコミ側に圧力をかけてフェイトたちの帰還の情報について緘口令を敷いているのだが、それもあと数日もすればマスコミとの協定から解禁されるだろう。
しかし、それでもスクープを狙うマスコミが居ないとも言えないのでリンディはフェイトに注意喚起したのだ。
遺族に関しては言わずもがなだ。
いくらボラー連邦への武力制裁の時にフェイトがミッドチルダに不在であっても市民感情は些細な事を気にせずに刃を向けてくる。
「私服だし、髪型を変えて帽子や伊達眼鏡で変装をして行くよ」
フェイトは変装をして、本局のテレポート装置を使用してミッドチルダへと戻る。
ヴィヴィオ同様、フェイトにとって久しぶりのミッドチルダの街並みであった。
「さてと、まずはクリスに仕舞ってあるギンガからの手紙を回収しつつ、なのはに会いに行こう」
ギンガとリニスの二人が記した手紙は万が一を考えてヴィヴィオのデバイスのクリスに収納してある。
ただ、行く前になのはに連絡を入れるのをフェイトは忘れなかった。
「あっ、なのは?」
「えっ?フェイトちゃん!?」
フェイトからの突然の連絡に驚くなのは。
「フェイトちゃん、査察部から事情聴取を受けたって聞いたけど大丈夫‥‥?」
「あっ、うん。事情聴取は昨日の夜に終わって、今後は査察部からの連絡待ちなの」
「そうなんだ‥大変だったね」
「まぁ、予測できたことだから‥‥それで、リンディ母さんから聞いたけど、なのはたちの方も大変だったね‥ごめんね、なのはたちが大変な時にミッドに居なくて‥‥」
なのはは査察部からの事情聴取を受けたフェイトに労いの言葉をかけるが、フェイトは自分がミッドチルダに居ない間に大変な目に遭っていたなのはたちの方が自分より苦労したのだから、フェイトは大変な時になのはたちの力になれずに謝る。
「ううん、向こうの地球に居たんだもん仕方ないよ。それで、どうしたの?お仕事は?」
「なのはの顔を久しぶりに見ようと思って‥‥仕事はまだ査察部からの事情聴取が完全に終わっていないから休職扱いだよ。それで、今からなのはが居る宿舎に行っても大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
「それじゃあ、今から行くから」
リンディからミッドの自宅が暴徒たちの手によって襲撃を受けた話を聞き、なのはが今教導隊の宿舎に仮住まいしている事を聞いていたので、なのはに連絡を入れた後、フェイトは地上本部ビルからタクシーで向かった。
「なのは!!」
「フェイトちゃん!!」
昨日のヴィヴィオ同様、なのはとフェイトはモニター越しではなく、久しぶりに再会し、抱き合う。
その後、なのはの部屋に向かう二人。
はやては朝食後に仕事があるので、既になのはの部屋には居なかった。
「あっ、ヴィヴィオ。おはよう」
「おはよう、フェイトママ」
フェイトは部屋に居たヴィヴィオに声をかける。
「お家の方は今、修理しているみたいなんだけど‥‥」
その後、なのははフェイトにもてなしのお茶を振る舞い、ミッドチルダにある自宅についての現状を伝える。
「話は聞いていたけど、ミッドで暴動が起こるなんて‥‥」
「私自身も信じられなかったよ」
「はやての家も被害に遭ったって聞いたけど?」
「うん、はやてちゃんの家も滅茶苦茶になっていた」
「‥‥」
「私はこうして教導隊の宿舎に仮住まい出来たけど、フェイトちゃんは今後どうするの?」
「私は暫く本局にあるリンディ母さんの部屋に居るよ。それで、ヴィヴィオはどうするの?」
ヴィヴィオはボラー連邦への武力制裁失敗後に学校での虐めを不安視した教会側からなのはの故郷である第97管理外世界の地球へ避難していた。
しかし、教会の強硬派により拉致されそうになった時、ジュエルシードの欠片でもう一つの地球に転移した。
運よくその地球にフェイトが居たからこそ、ヴィヴィオは無事にミッドチルダへ‥なのはの下に帰ることが出来た。
だが、もしヴィヴィオの転移先が、人が誰も居ない未開の地だったり、管理局がまだ認識していない世界だったらヴィヴィオは未だに行方不明のままだった。
それを踏まえるとヴィヴィオの居住先は安全が確保されている環境でなければならない。
そう考えるともう一つの地球は安全地帯だったのかもしれない。
「本局なら、知り合いの人も多いし、託児施設も整っているよ」
フェイトはヴィヴィオの安全を考慮すると本局内に仮住まいする自分が引き取ろうかとなのはに提案する。
「うーん‥そうしたいけど、私もヴィヴィオとの時間を過ごしたい。それに教会の方もカリムやシスター・シャッハたちがヴィヴィオを攫おうとした人たちを処罰したみたいだし‥‥」
フェイトはもう一つの地球でヴィヴィオとの時間を過ごしたが、なのははモニター越しでヴィヴィオと面会するだけで、もう一つの地球が暗黒星団帝国に占領されてしばらくの間、なのははヴィヴィオとの交信も出来なかったので、なのはがヴィヴィオとの時間を取り戻したいと言うなのはの気持ちもフェイトには十分に理解できる。
「分かったよ、なのは。でも、無理はしないでね。何かあったらちゃんと相談して、私もはやてたちも協力するから」
「うん、分かったよ。フェイトちゃん」
なのはとヴィヴィオに会ったフェイトはこっそりとクリスからギンガとリニスの手紙を取り出しなのはの部屋を後にする。
「さて、次はナカジマ三佐か‥‥」
次にフェイトはギンガからの手紙をゲンヤに渡すべく行動する。
もちろん、相手であるゲンヤにアポイントメントを取るのも忘れない。
端末からゲンヤが部隊長を務めている陸上警備隊第108部隊へ連絡を取る。
「はい、こちら陸上警備隊第108部隊です」
「私は本局執務官のフェイト・T・ハラオウンです。部隊長のゲンヤ・ナカジマ三佐にお繋ぎして頂きたいのですが‥‥」
「確認いたしますので、承認コードをお願いします」
「承認コードは‥‥」
フェイトは管理局で登録されている自身のコードを伝える。
「‥‥確認しました。少々お待ちください」
「はい」
108部隊のオペレーターはフェイトの登録コードを確認すると部隊長のゲンヤに内線を入れる。
陸上警備隊第108部隊 部隊長室
ゲンヤは今日もいつもと変わらない日常を送っており、部隊長室にて書類作業をしていた。
そこへ、デスク上の電話が鳴る。
「ん?はい、部隊長室」
「ナカジマ三佐、本局のフェイト・T・ハラオウン執務官よりお電話が入っておりますが、お繋ぎしてよろしいでしょうか?」
「えっ?ハラオウンのお嬢から?分かった、繋いでくれ」
ゲンヤが許可を出すとフェイトの顔が映し出される。
「お久しぶりです、ナカジマ三佐」
「ああ、久しぶりだな。ハラオウンのお嬢。いつミッドに戻って来たんだい?」
「昨日ミッドに着きました」
「それで何か用かい?」
「ナカジマ三佐とスバルに渡したい物がありまして、今から直接三佐に手渡したいのですが、ご都合はよろしいでしょうか?」
「俺とスバルに?」
「はい」
「‥‥わかった。今は特に大きなヤマを抱えていないから大丈夫だ。スバルにも何か手渡すなら、スバルの奴も呼んでおくか?」
「スバルの予定が合えば良いですよ」
「分かった。それじゃあ、スバルには一応連絡をいれておく」
「はい、ありがとうございます。では、後ほど‥‥」
「ああ、後でな」
フェイトとの連絡を終えたゲンヤは次にスバルの勤務先である港湾警備防災部特別救助隊の隊舎へ連絡を入れる。
「ナカジマ一士、陸上警備隊第108部隊のナカジマ三佐からお電話です」
「えっ?父さんから!?」
オフィスで事務仕事をしていたスバルに突然父であるゲンヤから連絡が来たことに驚くも、すぐに対応する。
「父さん、どうしたの?突然連絡を入れてくるなんて‥‥」
「実はさっき、ハラオウンのお嬢から連絡があったんだ」
「えっ?フェイト執務官から!?」
「ああ、何でも俺とスバルに渡したい物があるみたいでな、今から俺の所に来るんだが、スバルは来れそうか?」
陸勤務のスバルはゲンヤ同様、フェイトがミッドチルダに戻っている事を知らなかったのでゲンヤからフェイトが自分に渡したい物があると言う事に驚く。
「上司の人に話さないと分からないかな?」
「だったら、お前さんの上司にはこっちで話を通しておく」
「分かった。ありがとう」
(フェイトさん、ミッドに戻っていたんだ‥‥)
(でも、あたしと父さんに渡したい物って何だろう?)
(向こうの地球のお土産かな?)
つい最近までもう一つの地球に居たフェイトがいつの間にか戻っており、自分に渡したい物があると言う事は必然的に考えて自分たちにもう一つの地球土産を渡すためだと思った。
スバルとは機動六課の時に上官と部下の関係であったし、ゲンヤの祖先は元々地球出身者であった為、地球と無関係というわけではない。
フェイトが一体自分たち親子に何を渡すのか分からないが、渡す物があるならばそれを受け取らない選択はスバルにはなかった。
ゲンヤがスバルの上司に話をつけてくれ、スバルはゲンヤが居る陸上警備隊第108部隊の隊舎へと向かう。
スバルが陸上警備隊第108部隊の隊舎へ向かっている最中、フェイトはスバルよりも先に陸上警備隊第108部隊の隊舎に到着した。
ロビーの受付にて、
「すみません。先ほど電話を入れたフェイト・T・ハラオウンです。ゲンヤ・ナカジマ三佐に面会の約束をしていたんですけど‥‥?」
フェイトは受付係に自分の身分証明書を提示してこの後でゲンヤと会う約束がある事を伝える。
「少々お待ちください」
受付係は内線でゲンヤにフェイトが来たことを伝える。
「確認しました。ナカジマ三佐は部隊長室でお待ちしております」
「分かりました」
受付係からゲンヤの居場所を聞いたフェイトはゲンヤが居る部隊長室へと向かった。
部隊長室のドアをノックすると、中からゲンヤの返答があり入室する。
「失礼します。ナカジマ三佐、お久しぶりです」
「おう、お嬢。久しぶりだな」
ゲンヤは気さくそうな笑みを浮かべてフェイトを出迎える。
「スバルは来れそうですか?」
「ああ、スバルの上司と話をして、今こっちに向かっている」
「では、スバルが来るまで待ちましょう」
スバルが来るのであるならば、フェイトは二人一緒に手紙を渡したかったので、フェイトとゲンヤはスバルの到着を待った。
スバルが陸上警備隊第108部隊の隊舎に到着し、ゲンヤが居る部隊長室へ来ると既にフェイトは到着していた。
「あっ、フェイト執務官。お久しぶりです」
「うん、久しぶりスバル。その‥元気‥‥?」
フェイトはティアナの事をスバルがまだ引きずっているかもしれないと思い声をかける。
「はい。ティアの事はもう気持ちの整理がついていますから‥‥それであたしと父さんに渡したい物ってなんですか?」
「その前に、事前に忠告を入れるよ」
「忠告?」
「それはどんな?」
「これから渡す物を見ても決して口外しないと約束してください」
「えっ?それってそんなにヤバい物なんですか?」
「まぁ、ある意味では‥‥」
てっきりもう一つの地球からの地球土産かと思っていたのだが、フェイトから事前に忠告を入れられ、しかも『ある意味でヤバい物』と言われた。
「お嬢、それは一体何なんだ?事と次第によってはスバルを退出させる」
ゲンヤはフェイトの話を聞いてスバルに火の粉がかからないように対処しようとする。
「父さん‥‥」
「えっと‥お二人に渡したいものは手紙です」
「手紙?」
「誰からの?‥‥もしかして、ティアからですか?」
もう一つの地球に居る知り合いと言えばティアナぐらいしか居ない。
しかし、それだとスバルは分かるが何故ティアナがゲンヤに手紙を書くのか分からない。
「ううん、ティアナからじゃないよ」
「えっ?ティアからじゃない‥‥?じゃあ一体誰だろう?」
ティアナではないとすると一体誰の手紙かますます分からない。
「分かった。兎に角、誰からの手紙か口外しなければいいんだろう?」
「はい」
「スバルもいいか?」
「う、うん‥‥」
『ある意味でヤバい物』の正体が手紙と言う事。
そして、その手紙が誰から送られて来た手紙なのか、それを黙っているだけなら構わないと判断したゲンヤはスバルに確認をとると、スバルも口外しないことを納得してその手紙を受け取る事を了承した。
「それじゃあ‥‥」
フェイトはバルディッシュに収納されていた二通の手紙をそれぞれゲンヤとスバルに手渡す。
二人は分厚い封筒を受け取り、早速裏を見て差出人を確認する。
「「っ!?」」
差出人の名前を見て二人は目を見開く。
封筒の裏には差出人の名前が書かれていた。
書かれていた名前は、『ギンガ・ナカジマ』と書かれていた。
「ギンガ‥ナカジマ‥‥だと‥‥?」
「ギン姉からの‥‥手紙‥‥?」
「お二人が困惑するのも無理はありません‥‥ですが、私はもう一つの地球でギンガに会いました‥‥ギンガは生きていました」
「じゃ、じゃあ、なんでギン姉はフェイト執務官と一緒にミッドに還らなかったんですか?」
「その理由は多分、手紙に書いてあると思うから手紙を見て」
「は、はい」
スバルとゲンヤはギンガからの手紙を読むために封筒を開ける。
封筒の中にはギンガが認めた手紙の他に何枚もの写真が入っていた。
そして、ゲンヤ宛ての封筒の中には何かの記憶媒体が入っていた。
記憶媒体についてはリニスがミッドの機械でも内部に記録されている画像や映像を見ることが出来るようにちゃんと対応できる物を製作してくれていた。
手紙には何故もう一つの地球へ行くことになった経緯から防衛軍の軍人になった事、
もう一つの地球にてある家族の養子入りをした事、
好きな人が出来た事、
そして、今回フェイトたちがミッドチルダに戻る際、自分が戻らない理由も書かれていた。
「そっか‥ギン姉は向こうの地球で防衛軍の軍人になっていたんだ‥‥」
「うん。私とティアナを助けた防衛軍の軍艦にギンガが乗艦していたよ‥‥」
新暦71年に起きた空港火災の時、フェイトはその火災事故で被災したギンガを救助した事があり、艦長はギンガではなかったが、テリオスが攻撃を受け、そのテリオスを救助した防衛軍の艦にギンガが乗艦していた‥‥
まさにギンガからの恩返しの様な形となってフェイトとティアナは助かったのだ。
「なぁ、ハラオウンのお嬢」
「なんでしょう?」
「ギンガが好きになった奴ってどんな奴だったんだ?」
ゲンヤはやはり、父親として娘の恋人が気になるようだ。
「えっと‥‥とても良い人ですよ」
フェイトは良馬の事についてお茶を濁すかのように言う。
実際にスバルはモニター越しとは言え、会っているのだが二人が既に肉体関係をもっている事を知っているフェイトとしてはどうしても二人の行為を何度か覗き見してしまった事もある為かその印象が強くてあまり詳しくは語れない。
「それにしてもあの時の執務官の野郎がやはり全ての元凶か‥‥」
ギンガの手紙には記録媒体にはブリッツ・キャリバーがあの時の映像を記録していると記載されていた。
ゲンヤにしてみればギンガの名誉を回復できる証拠を手に入れたが、それはギンガの生存を世間に知らせる事にもつながる事なので、その事が実に口惜しい。
しかもあの時の執務官であるジュリオはクライスラーを指揮してもう一つの太陽系に向かい、通信ポッドの出鱈目な情報を信じて太陽か木星本星に艦ごと突っ込んで殉職している。
本局は体裁を気にしてクライスラーは事故により沈んだと発表をし、指揮官であるジュリオは名誉の殉職となっているので、その事実がギンガの名誉回復を更に困難としている。
「それにしてもギン姉はどうしてミッドに戻ってこなかったんでしょう?‥‥それに生きていたなら交信の席に出てくれても良かったんじゃあ‥‥」
スバルは何故、ギンガがここまで自分の生存を隠したがるのか不思議だった。
「それは多分、ギンガはスバルたちに負い目を感じていたんじゃないかな?」
「負い目?」
「うん。もし、ギンガがあの地球に私やティアナと同じ時期に行っていたら、きっと私たちと一緒にミッドに戻って来ていたと思う。でも、ギンガがあの地球に行ったのはもう二年くらい前‥‥その間に色んなことがありすぎたんだと思う‥‥その‥恋人も出来たし‥‥」
「‥‥」
ゲンヤとしてはギンガが生きていた事は嬉しかったが、もう一つの地球と交流がないことからギンガと会うことは事実上不可能であり、更に恋人も居るので、ゲンヤとしては複雑な心境だった。
「でも、ギンガを恨まないであげて‥ギンガがもう一つの地球に来た時、もう一つの地球は外宇宙からの侵略で地球人が絶滅寸前まで追い込まれていて、その翌年復興したばかりの地球は別の星間国家から侵略を受けて何度も死にそうな体験をしたんだ‥私も救助される時に経験したけど、あの時の体験はJS事件の時の比じゃなかった・・それをギンガは何度も経験していたんだよ」
フェイトはゲンヤとスバルにギンガがもう一つの地球で管理局では考えられないくらいの修羅場をくぐってきた事を告げ、それぐらいの修羅場を経験したのだから、彼女がもう一つの地球で幸せになってもそれを恨まないで欲しいとギンガを弁護した。
「そんな、あたしはギン姉を恨むなんて‥‥」
ティアナでさえパルチザン活動で顔にあんな傷を残した戦いがあったのだから、あの世界に置ける修羅場がどんな凄惨な戦いが繰り広げられたのか容易に想像が出来る。
そんな世界の修羅場を何度も潜り抜けてと言うのだからそれ相応の幸せを得る権利はギンガにだってある。
「写真を見ると、確かにギンガの奴はもう一つの地球で楽しそうに過ごしている事が分かるな‥‥」
同封されている写真には まほろばの艦内で撮ったと思われる写真
月村家の人たちと撮った写真などがあり、その写真に写るギンガはどれも楽しそうに笑みを浮かべている。
そんな中で、ゲンヤとスバルが反応した写真があった。
それは向こうの地球におけるギンガの引き取り先である中嶋家の皆と一緒に撮った写真だった。
「クイント‥‥?」
「母さん?」
「あっ、その人は向こうの地球でのギンガの家族の人たちだよ」
フェイトが二人に補足説明を入れる。
「向こうの地球には何人かのそっくりさんが居るんだよ‥‥ほら、この人なんて私とはやてにそっくりでしょう?」
フェイトは まほろば で撮られた写真の中からフェリシアとディアーチェの写真を二人に見せる。
「た、確かに‥‥髪や目の色を除けば八神の奴にそっくりだ‥‥」
「この人は青い髪のフェイト執務官だ‥‥」
「そう、多分この人もスバルたちの母さんにそっくりな人なんだと思うの」
「まぁ、ここまで八神やお嬢にそっくりな人が居るなら‥‥」
はやてや自分以外にもなのはとスカリエッティそっくりな人物も居たが、あまり向こうの地球の情報を与えるのは避けようと判断し、フェイトは二人には黙っていた。
そして、ディアーチェとフェリシアの写真を見たゲンヤとスバルは中嶋加奈江が今は亡きクイントのそっくりさんであると判断した。
しかし、中嶋加奈江が実は殉職したクイントの転生体である事実を知っているのは本人と良馬のみであった。
「それで、先に述べたようにギンガが向こうの地球で生きている事は内密にお願いします」
「それが気になったんですけど、どうしてですか?」
スバルはフェイトにどうしてギンガの生存を秘密にしなければならないのかを改めて訊ねる。
「その手紙に書いてあるように今のギンガは防衛軍の軍人なのは分かったでしょう?」
「はい」
「‥‥昨日、私はミッドに還って来たのと同時に査察部からの事情聴取を受けました」
「査察部から?」
「はい。その際、向こうの地球について根掘り葉掘り聞かれました」
「えっ?もう一つの地球について?‥‥ですか?」
「防衛軍の艦に実際に乗って分かったし、スバルも何となくだけど察しているでしょう?防衛軍の艦と管理局の艦の性能の差を‥‥」
「は、はい」
「管理局としてはやっぱり防衛軍の艦を接収ないし、同等の能力を有する艦を保有したがっている事は間違いない。でも、肝心のもう一つの地球の座標が分からない以上、もう一つの地球の情報を持っている人の情報は是が非でも欲しい筈‥‥」
「なるほど、だから上層部連中は査察部を使って向こうの地球に滞在経験のあるお嬢を取り調べたのか‥‥もう一つの地球の情報を得るために‥‥」
ゲンヤは何故フェイトが査察部から事情聴取を受けたのかすぐに察しがついた。
「はい。まぁ、それについてはミッドに着く前から予測していたので適当にあしらいました」
「あしらうって‥お嬢もやるなぁ~」
「それで、もしギンガが私と一緒にミッドに戻ってきたら必ず査察部から事情聴取を受けていたでしょう‥‥しかも今のギンガは防衛軍の軍人‥‥」
「防衛軍の機密に関する情報をお嬢以上に持っている‥‥か‥?」
「‥‥」
ゲンヤの問いにフェイトは頷く。
「私よりも防衛軍の情報を持っているギンガが取り調べを受けたら、防衛軍の情報をどうしても知りたい管理局は強引な手段でギンガを取り調べていたに違いありません」
「強引な手段って‥‥」
スバルはフェイトの言う取り調べにおける『強引な手段』と言う部分に反応する。
「自白剤の使用や拷問による取り調べだよ」
「そ、そんなっ!?管理局がそんなことを‥‥」
「いや、ありえない訳じゃあねぇな」
スバルは管理局が取り調べにおいて自白剤の使用や拷問をするなんて信じられなかったが、ゲンヤは否定しなかった。
「お嬢は知っているかい?今の管理局の実情を‥‥?」
「はい。リンディ母さんから聞いています」
「そうかい‥それなら話が早い。管理局の現状‥特に“海”の連中は強力な艦を欲している。そんな中、管理局の艦よりも強力な艦を保有している世界が見つかった‥しかも高町嬢ちゃんや八神の故郷と同じ世界だ。管理局としてはボラーの連中よりも組み伏せしやすいと思っているんだろう。そんな中でもし、防衛軍の情報を持っている奴がミッドに来たら確かにお嬢の言う通り情報を何としてでも引き出そうとするだろうな」
「でも、フェイト執務官は自白剤も拷問もされなかったんですよね?」
「スバル、お嬢は防衛軍の軍人じゃあない。それに‥‥」
ゲンヤはチラッとフェイトを見る。
「‥‥それに私は本局の統括官の義娘だし、六課の元隊長ではやてやなのはと親しいから手荒な事は出来なかった‥‥からだと思うの」
「‥‥」
フェイトがスバルに自分が拷問紛いな事情聴取を受けなかった理由を話すとスバルは顔を曇らせる。
「ギンガは防衛軍に入って、何度も修羅場を潜り抜けて管理局のそうした裏の部分を知ったんだと思う‥‥それに防衛軍は“海”が密かに行ったダーティミッションの情報も持っているみたいだったから‥‥」
「ギンガがまたミッドに戻って来るにはもう一つの地球とミッドが交流を持つ事と、管理局のこうした体質を改善しないとギンガはミッドに戻れないと思う」
「‥‥」
ギンガがミッドチルダに持ってこない理由と、もしギンガが戻る為の条件をスバルに伝えても彼女は表情を曇らせたままだ。
現状、今の管理局では難しい条件の為、いつギンガが再び故郷であるミッドチルダの地を踏めるのか不透明なのだからスバルが顔を曇らせるのも分かる気がする。
「だからナカジマ三佐、スバル、ギンガの事は秘密にして頂戴。ギンガの為を思うなら‥‥」
「そうだな。今はギンガの奴が生きていた事が分かっただけで十分だ」
「そ、そうだね‥‥」
「元ナンバーズの皆にもギンガの事は‥‥」
スカリエッティの配下でJS事件終息後に管理局からの司法取引を受け、ナカジマ家の養子入りした元ナンバーズのチンク、ディエチ、ノーヴェ、ウェンディの四人はゲンヤからギンガの存在は語られていたが、その時は既に死亡していると伝えており、四人は今もギンガが死んでいると思っている。
しかし、今回フェイトがギンガから手紙と写真を持って来た事から彼女がもう一つの地球で生きている事が判明した。
だが、ギンガの事を思うと今はチンクたちにもギンガが生きている事は黙っておいた方が良いとフェイトは判断した。
「ああ。いつか、ギンガが居る地球と交流出来たらその時、改めてチンクたちにギンガを紹介しよう。スバルも良いか?」
「う、うん‥‥」
フェイトの説明を聞いてゲンヤとスバルはギンガが生きている事を秘密にすることにした。
その後、二人はフェイトに彼女が知る限り、向こうの地球に居るギンガの生活や写真を見ながら会話に花を咲かせた。