ミッドへ還って来たフェイトは還って来て早々に査察部からの事情聴取を受ける羽目になったが、事前に予測をしていたフェイトはもう一つの地球の情報を極力削除していた為、査察部はフェイトからもう一つの地球に関して有益な情報を得る事が出来なかった。
査察部からの事情聴取を受けた翌日、フェイトはなのはに会いに行くついでにヴィヴィオのデバイスに収納されていたギンガがゲンヤとスバルに記した手紙を回収しつつ、その手紙を渡す為にゲンヤの下へと赴いた。
ゲンヤに訪問目的を伝えると、彼はフェイトがスバルにも用がある事を伝えると、スバルにも連絡をいれて自身が部隊長を務める陸上警備隊第108部隊の隊舎にスバルも呼んでくれた。
陸上警備隊第108部隊の隊舎にてフェイトはゲンヤとスバルにギンガからの手紙を渡した。
当然、二人は死んだと思われたギンガからの手紙に驚愕したが、ギンガが生きていた事実を知り嬉しそうであったが、彼女がもう一つの地球にいる事から再会するには難しい現状に複雑そうだった。
フェイトがゲンヤとスバルにギンガからの手紙を渡して居る頃、本局のある一室では、管理局の幹部たちが、査察部からフェイトの事情聴取報告を受けていた。
「こちらがハラオウン執務官の事情聴取報告です」
「うむ‥‥」
コピーされた報告書に目を通す幹部たち。
しかし、その内容は幹部たちが望んだ結果ではなかった。
「なんだ!?この報告は!?」
「デバイスに何も記録されていなかっただと!?」
「どういうことだね!?」
幹部たちからの一喝に萎縮する査察部の局員。
「はっ、デバイスに何の記録がなかったのは、ハラオウン執務官によりますと、かの世界はAMAの環境下にあり、それがデバイスに影響したのではないかと言う事でして‥‥」
「例えAMAでデバイスが使用不可の環境下であるならば、カメラぐらいあるだろう。それを使用して何らかの情報を持ち帰るのが本局の執務官の職務ではないのかね?」
「は、はぁ‥‥」
幹部の一人は報告を持ち込んだ査察部の局員に愚痴る。
「左様、優秀な執務官だと思ったのだが、肝心なところで抜けている」
幹部たちはフェイトがもう一つの地球でスパイ活動みたいな事をしていなかった事に不満をぶちまけていた。
「多少強引な方法を用いてでもハラオウン執務官に詰問するべきではなかったのかね?」
「皆さんもご存知でしょうが、ハラオウン執務官はあのハラオウン統括官の義娘であり、ロウラン提督とも深い関りがあります。それに彼女は局内・民間でも有名な人物故にあまり手荒なことは‥‥」
幹部の言った『多少強引な方法』と言う部分に査察部の局員は反論する。
「ふん、あの女狐どもか‥‥」
査察部の局員からの反論を受け、苦虫を嚙み潰したように顔を歪める幹部局員たち。
「それで、次にランスター執務補佐官についてだが‥‥」
「ランスター?どこかで聞いたファミリーネームだな?」
幹部の一人はティアナのファミリーネームを聞いてどこかで顎に手をやりながら首を傾げる。
しかも、この幹部は『ランスター』と言うファミリーネームをどこかで聞いたとまで言う。
「ランスター執務補佐官は元機動六課にてFWメンバーの一人だったみたいですが?」
別の幹部はティアナがかつて機動六課所属の局員だったことからJS事件後にティアナの名前を聞いたのではないかと訊ねる。
「いや、機動六課よりも前に‥‥」
しかし、『ランスター』のファミリーネームを聞いたと言う幹部は機動六課がJS事件を解決する前に『ランスター』と言うファミリーネームを聞いたと言う。
「うーん‥‥あっ、そうか、思い出したぞ」
そして、ようやくどこで『ランスター』と言うファミリーネームを聞いたのかを思い出した。
「どこです?」
「役立たずの『ランスター』だ」
「役立たずの『ランスター』?」
「そうだ。かつて“空”の部隊の一つ、首都航空隊に所属していた一等空尉で‥‥逃走した違法魔導師の追跡中に無様にも返り討ちにあって殉職した局員だ」
幹部の一人はティアナの兄であるティーダ・ランスターについて他の幹部たちに説明する。
「それで、そのランスター執務補佐官がどうかしたのかね?かの世界で死んだのか?」
「それならば、それはそれでランスター執務補佐官の件を口実にかの世界に賠償を求めてもいいのではないか?何しろ、将来を担う筈だった『優秀な』執務官候補が死んだのだからな」
「いえ、死亡はしていません」
「ならば、なんだ?」
「ハラオウン執務官の話ですと、ランスター執務補佐官はかの世界に残った様です」
「はぁっ!?」
「残った?一体何のために?」
査察部の局員からティアナがもう一つの地球に残留した事を聞いて声が裏返る者もいた。
「理由はこちらでも聴取したのですが、ハラオウン執務官もあまり詳しい理由は不明ですが、ランスター執務補佐官は退職届をハラオウン執務官に託しており、こちらから人事課へ提出し既に受理されています」
ティアナからの管理局への退職届はフェイトに託され、査察部の事情聴取を受けた時に査察部へ渡され、査察部から人事課へと渡り、受理されティアナは既に管理局を退職した事になっている。
「くっ、役立たずは、役立たずなりに死んで少しでも管理局の役に立っていればいいものを‥‥」
「そうですな、かの世界は暗黒星団帝国に占領されていたのだからな。暗黒星団帝国の奴らも存外役立っておらんな」
幹部たちはティアナが暗黒星団帝国の占領時に死んでくれていればソレを口実にもう一つの地球にクレームをつけることが出来たのだが、そのティアナが生きている以上、ティアナの死に対するクレームをつけることが出来ない。
ティアナを殺すことを出来なかった暗黒星団帝国に対しても役立たず呼ばわりをする幹部たち。
「やはり、役立たずの妹も役立たず‥でしたか‥‥」
本人が居ないからこそ、言いたい放題である。
しかし、そんな中、
「あっ、もしかすると‥‥」
ティアナにも役立たずの烙印が押される中、一人の幹部がある仮説を唱えた。
「どうかしましたか?」
「ランスター執務補佐官がかの世界に残ったのは、もしかすると意図的に残ったのではないだろうか?」
「意図的に?」
「何故?」
「先ほどの査察部からの報告から恐らくハラオウン執務官はミッドに還る事から防衛軍から監視されていた為にかの世界の情報を持ち帰る事が出来ない為にランスター執務補佐官はかの世界に残り諜報活動を行っているのではないでしょうか?」
「そして、その情報をハラオウン執務官へ密かに報告を送ると言う事か?」
「おそらく‥‥」
幹部たちはフェイトがもう一つの地球の情報を持ってこなかったのは、フェイトが防衛軍から監視されていた事から情報を得ることが出来なかったので、ティアナをもう一つの地球に残し、彼女に諜報活動を行わせる為だと勝手な解釈をした。
しかも好都合にティアナからの退職届は既に受理されている為、万が一にも防衛軍側にティアナの諜報活動がバレたとしても『その者は既に管理局を退職している』とティアナを簡単に切り捨てる事も可能だ。
「では、次回のハラオウン執務官の事情聴取にてその点について尋問していただけるかな?」
「承知しました」
最初の事情聴取の時、査察部の局員はフェイトにティアナがミッドに戻らなかった訳を当然聴取した。
しかし、フェイトは半ば曖昧な感じで答えた。
それがかえってティアナがもう一つの地球で諜報活動を行っているのではないかと言う憶測に繋がった。
諜報活動を知る人物は一人でも少ない方が外部に情報が洩れるリスクが少ないからだ。
査察部からの報告を受けて管理局の幹部たちが勝手な解釈の結論を出したその頃、フェイトは陸上警備隊第108部隊の隊舎を後にした。
「さて、次はエリオとキャロの二人にミッドへ戻って来た事を伝えないと‥‥確か二人はポルテに居るんだっけ?‥‥バルディッシュ、ミッドとポルテの時差は?」
「三時間差でミッドが早いです」
フェイトはバルディッシュにエリオとキャロが居るポルテの時差とミッドの現在時刻を照らし合わせる。
すると、そこまでの時差がなかったので、フェイトはこのままエリオとキャロの二人にミッドへ戻って来た事を伝えようと思い本局へ戻った。
エリオとキャロが自然保護官として赴任しているそのポルテにて、二人は今日もいつもと変わらない日を送っており、二人はキャロの使役竜であるフリードの背中に乗りパトロール任務を行っていた。
すると、本部から二人に通信が入る。
「エリオ・モンディアル二士、キャロ・ル・ルシエ二士、応答せよ」
「はい、こちらエリオ・モンディアル二士です」
「キャロ・ル・ルシエ二士です」
「本局より、二人に通信が入っている。至急本部へ帰還せよ」
「本局から?」
「なんだろう?」
「了解しました。ただちに帰還します」
エリオはフリードの手綱を引き、踵を反転させ本部へと戻った。
「でも、一体何だろうね、本局からの連絡って‥‥」
キャロはいきなりの本局からの連絡に首を傾げる。
「ミッドで何かあったのかな?それとも勤務地の変更かな?」
エリオもやはり、本局から連絡に思い当たる節がない。
二人が本部へ戻ると、通信室へと案内される。
するとモニターに映し出されている人物の姿を見て、二人は目を見開く。
「「っ!?」」
「エリオ、キャロ、久しぶり、元気だった?」
「「フェイトさん!!」」
モニターに映っていたのはかつて所属していた部隊の上官であり、自分たちの後見人であるフェイトの姿であった。
「いつミッドに戻って来たんですか?」
「昨日だよ」
「フェイトさんも元気そうで良かったです」
モニター越しではあるが、エリオもキャロも久しぶりにフェイトと出会えて嬉しそうだ。
かく言うフェイト自身もエリオとキャロに出会えて嬉しそうだった。
エリオもキャロもポルテに赴任していた事からもう一つの地球との交信の席の出席回数が少なかったので、フェイトがもう一つの地球でどのような生活をしていたのか気になったので、早速フェイトに様々な質問をした。
「そう言えば、チラッと噂で聞いたんですけど、フェイトさんが居たもう一つの地球が一時、どこかの星の勢力に占領されたって聞いたんですけど、本当だったんですか?」
地球が一時暗黒星団帝国に占領されている間、地球と管理局との間の交信が途絶えていた事はポルテでも噂程度で伝わっていた様だ。
「うん、本当だよ」
「えっ?大丈夫だったですか?」
「キャロ、フェイトさんが此処に居るんだから大丈夫だったんだよ」
「あっ、そっか」
「でも、もう一つの地球が占領されていたと言う事は色々と苦労があったんじゃないですか?」
「武装した兵士が街中に居て、情報規制や夜の外出制限があったけど、そこまで不自由な思いはしなかったよ」
「そうなんですか‥良かった」
「それで、占領された地球はどうなったんですか?」
「占領した勢力と和解したんですか?」
「もう一つの地球は防衛軍の手で解放されたよ」
「一つの世界を占領した勢力と戦って解放したんですか?」
「そうだよ。占領下の中で地球の人たちは自分たちの星を取り返すために必死に戦って、宇宙でも故郷を救うために戦っていたよ」
「「‥‥」」
戦って解放した事にエリオとキャロは驚いたような、解放するには戦う方法しかなかったのかと複雑そうな表情だ。
「そう言えば、ティアさんは元気ですか?」
「フェイトさんと一緒にもう一つの地球に行きましたよね?」
二人は話題を変えてフェイトと一緒に遭難してもう一つの地球に救助されたティアナについて質問する。
「あっ、うん‥‥ティアナの事なんだけど‥‥」
フェイトは何とも言いにくそうな感じで口ごもる。
いずれ二人にはティアナの事を伝えなければならないと思ってはいたのだが、二人からティアナについて訊ねられると今ここで話さなければならない。
「何かあったんですか?」
「まさか、怪我をしたんですか?」
もう一つの地球が占領されたことからティアナが怪我をしたのかと思い、彼女を案じる二人。
「うーん‥怪我はしたんだけど‥‥」
「えっ?」
「ティアさんは大丈夫なんですか!?」
「‥‥実は、ティアナなんだけど‥‥」
「「‥‥」」
フェイトは言いにくそうに言うと、エリオとキャロはフェイトの様子からティアナが重傷を負ったのかと思い心配そうな表情を浮かべる。
「ティアナは地球が占領されている時に解放戦線に参戦したの」
「えええー!!」
「ティアさん、本当に戦争に参加したんですか!?」
管理局員である筈のティアナが地球の為に戦いそして負傷した事実に驚愕する二人。
「うん‥‥それで地球解放後にティアナは無事に帰って来たんだけど、顔に傷を負っていて‥‥」
「顔に傷‥‥」
同性のキャロは顔に傷を負うことがどれだけショックな事なのか瞬時に理解した。
「それで、手術をすれば傷は消せるって診断だったんだけど、ティアナは敢えて傷を残すって言って傷を消さなかった」
「ええー!!何故ですか!?」
「ティアナが言うには傷を消してしまうと、自分が戦った事もその戦いで死んでしまった仲間も忘れる事になるから‥って‥‥」
「「‥‥」」
フェイトが伝えたティアナからの思いについて二人は分からない訳ではなかった。
自分たちにも機動六課での思い出がありその絆は今でも繋がっている。
「それとティアナの事でもう一つ、二人には言っておかないといけない事があるの」
「何でしょう?」
ティアナの顔の傷やパルチザン活動に参加した事よりも今からフェイトが言う事がむしろ本題とも言える。
「ティアナなんだけど‥‥ティアナはもう一つの地球に残ったの」
「「えっ?」」
フェイトの発言に二人は時間が止まったかのように固まる。
「えっ?残った?もう一つの地球に‥‥?」
「なんで‥‥?どうして‥‥?ティアさんが‥‥?」
二人はフェイトの言った言葉の意味を理解するのにわずかながらの時間を要した。
「フェイトさん、嘘ですよね?ティアさんが残った何て‥‥?ミッドに戻らなかったなんて‥‥」
「ううん‥‥エリオ、キャロ、残念だけど本当だよ。ティアナはミッドに戻らずに地球に残ったの」
「そんなっ!?どうして!?」
「そうですよ!!ティアさん、六課に居た時から執務官になりたいって‥‥六課を卒業して執務補佐官になってもうすぐで念願の執務官になれそうだったのに‥‥」
エリオとキャロにしれみれば当然と言えば当然の疑問で、何故ティアナがもう一つの地球に残ったのか理解できない。
「私もその点についてはティアナに聞いたよ‥‥でも、ティアナは防衛軍に助けられて短い期間だけど、航海の最中防衛軍の戦闘を見て、もう一つの地球に来てから色んな見方が変わったんだと思う‥ティアナが占領軍に対してパルチザン活動に参加したのもそれが一因じゃないかな?」
念願の執務官の道を蹴ってでももう一つの地球に残ったのだからティアナにはかなりの覚悟と理由があったのだろう。
しかし、その理由を二人はティアナに訊ねる事は叶わない。
それが二人にとっての心残りとなった。
だが、それはティアナもきっと同じ事だろう。
スバルにはモニター越しであるがちゃんと別れを伝える事が出来たが、それ以外の六課のメンバーには面と向かって別れを伝える事が出来なかったのだから‥‥
エリオとキャロとの通信を終えたフェイトは、次にヴィヴィオのデバイスであるクリスを何とか公式の物にする為、シャリオに協力してもらおうと彼女と連絡を取ろうとした時、
「フェイト・T・ハラオウン執務官ですか?」
「はい、そうです」
「こちらは時空管理局・査察部の者です」
査察部からフェイトに連絡が来た。
(そう言えば、不定期に査察部から連絡が来るって言っていたっけ?)
(まだ、やることがあったのに‥‥)
フェイトとしては水を差された気分だった。
「本日○○時に査察部へ出頭して下さい」
「は、はい。分かりました」
査察部からの出頭指示を無視する訳に行かなかったので、フェイトは渋々ながら指示された時間に査察部へ出頭した。
査察部へ出頭したフェイトは昨日と同じ取調室へと案内される。
「それで、今日は何を聞きたいのでしょうか?」
さっさと終わらせたかったフェイトは査察部の局員に今日の事情聴取の要件を訊ねる。
「では早速ですが、ランスター元執務補佐官がかの世界に残ったのは、ハラオウン執務官、貴女の密命ではありませんか?」
「はぁっ!?」
査察部の局員からの指摘にフェイトは思わず声が裏返る。
「貴女はランスター元執務補佐官にかの世界の諜報活動を行うように命令をだし、かの世界の情報を密かに受け取る算段を取っているのではないかと我々はそう認識しておりますが?いかがですか?」
「‥‥」
あまりにも荒唐無稽な指摘にフェイトは絶句するし、頭を抱えたくなる。
どういった解釈で自分がティアナにもう一つの地球での諜報活動を命じなければならないのか?
(この人は一体何を言っているの?)
(私がティアナに諜報活動を命令?)
(あまりにも馬鹿げているわ)
「お言葉ですが、私はランスターさんに諜報活動を命じておりません。彼女がかの世界に残ったのはランスターさん自身の意志です」
ティアナは既に管理局を退職しているので、フェイトはティアナの事を『ランスターさん』と呼んだ。
そして、フェイトはティアナがもう一つの地球に残ったのはあくまでもティアナ自身の意志であり、自分は決してティアナに諜報活動の密命を命じていない事を伝える。
しかし、査察部の局員はティアナがもう一つの地球に残ったのは諜報活動であると主張し続ける。
一方でフェイトは否定するので、水掛け論になりつつあった。
それは夜まで続きフェイトとしてはまさに不毛な議論であり無駄な時間を費やす事になった。
そして、時間が時間と言う事で深夜近くにようやく解放された。
「ホント、こんなことなら私もティアナと一緒にもう一つの地球に残れば良かったかな‥‥?」
こんなことを愚痴りながらフェイトは本局内にあるリンディの部屋に戻った。
査察部からの事情聴取報告は当然、管理局の幹部たちの下に伝えられた。
「ハラオウン執務官はランスター元執務補佐官の件については否定しました」
「そう簡単には認めないか‥‥」
「しかし、いつかはランスター元執務補佐官からの報告を受ける筈だ。しばらくはハラオウン執務官を泳がせておき、報告を受け取ったところを抑えるのだ」
「では、ハラオウン執務官には監視の目をつけておきます」
ティアナがもう一つの地球で諜報活動を行っていると信じ込んでいる管理局の幹部たちはフェイトに監視の目をつけることで、しばらくの間、フェイトを泳がせることにした。
翌日、フェイトは昨日の査察部からの事情聴取のせいで潰れてしまったヴィヴィオのデバイスの件でシャリオに相談しようとするが、何故か彼女と連絡をつけることが出来ない。
「あれ?シャーリーと連絡がつかない‥‥何かの任務中なのかな?」
「ねぇ、リンディ母さん」
「何かしら?」
「シャーリーと連絡を取りたいんだけど、今シャーリーって何かの任務中なの?」
「えっ?シャーリーさんって、シャリオ・フィニーノさんの事?」
「うん。そうだよ」
「えっと‥‥彼女は今、重要な仕事をしている最中なんだけど‥‥」
「やっぱり、任務中だったんだ‥‥でも、何とか出来ない?もし、シャーリーがダメならマリエルさんでも良いんだけど‥‥」
フェイトはシャリオが無理ならば、マリエルでも構わないと言う。
なお、フェイトは六課時代にスバル経由でマリエルと知り合っていた。
「マリエルさんも実は今手が離せない状況で‥‥」
残念ながらマリエルもシャリオ同様、今は手が離せない状況下である事をフェイトに伝える。
マリエルもシャリオも現在、ミノフスキーの助手として新型宇宙エンジンの設計と製作に携わっており、その任務は管理局内でもトップシークレットであり、ボラーへの武力制裁が失敗し、戦力を一日でも早く回復させなければならない管理局にとって最重要任務なのだ。
フェイトが一体何の用があって二人とコンタクトを取りたがっているのかは分からないが、トップシークレットであるミノフスキーと深く関わっている二人を今は簡単にフェイトに合わせる訳にはいかなかった。
「二人が関わっている仕事って長引きそうなの?」
「そうね‥私の口からはどのくらいなのかは分からないわね」
リンディ自身もミノフスキーの研究が一体いつになったらその成果が出るのか分からない。
マリエルとシャリオが通常の任務に戻れるのがいつになるのかは分からない。
(シャーリーもマリエルさんも今は仕事で無理‥‥他に頼れそうな人は‥‥あっ!!)
デバイス関係の知り合い二人が何らかの任務中で連絡が取れず、しかもいつになったら戻ってくるのかも分からない。
となると、ヴィヴィオのデバイスであるクリスの対応がいつになるのかが分からない。
ヴィヴィオも一日でも早くクリスを堂々と使用したがっている中で、いつになるのか分からないと言う返答はきっとヴィヴィオをがっかりさせる結果に繋がる。
そこで、フェイトはヴィヴィオが聖王オリヴィエのクローンである事と、リィンの誕生に関して聖王教会がバックアップした事を思い出し、クリスについても聖王教会がバックアップしてくれるのではないかと思った。
幸い聖王教会には、はやて経由でカリムやシスター・シャッハ、それにセインたち教会に引き取られた元ナンバーズのメンバーと知り合いが居るので何とかなるかもしれない。
そこで、フェイトはヴィヴィオに連絡をいれて彼女と共に教会へと向かった。
「フェイトママ、どうして教会に行くの?」
ヴィヴィオとしてはもう一つの地球へ転移する切っ掛けが教会の強硬派の連中のせいだったので、これから聖王教会へ行くと言う事でちょっと緊張している様子だ。
なのはにもヴィヴィオを聖王教会へ連れて行く事を話したら難色を示す。
ただ、今日なのはにはどうしても外せない用事が入っていたので、フェイトたちと一緒に聖王教会へ行くことが出来なかったのも要因の一つだ。
フェイトはなのはを何とか説き伏せてヴィヴィオとこうして聖王教会へと向かっているのだ。
「その事なんだけど、ヴィヴィオのデバイスで、シャーリーやマリエルさんに頼もうとしたんだけど、二人ともお仕事が忙しいみたいで、連絡がつかなかったの‥‥それで、教会でもデバイス技師は居るから、ヴィヴィオのデバイスも何とか出来ると思ってね」
フェイトはヴィヴィオに聖王教会へ行く目的を話す。
管理局のデバイス関係の知り合いであるシャーリーとマリエルと連絡が取れない状況下では管理局側でヴィヴィオのデバイスの登録が出来ない。
しかし、デバイスを保有しているのは何も管理局員だけではない。
聖王教会所属の魔導騎士たちもデバイスを保有している。
そして、その教会騎士たちが使用するデバイスの製作・メンテナンスを行う教会お抱えのデバイス技師が教会に居る。
そこで、フェイトはカリムに頼んでヴィヴィオのデバイスを公式の所有者にヴィヴィオを登録してもらおうと考えたのだ。
民間企業ではツテがなく、管理局側が要請したらその要請に従わなければならないからだ。
しかし、聖王教会で登録したデバイスならば管理局もそう簡単にクリスをヴィヴィオから没収することは出来ないだろう。
聖王教会に向かっている中、フェイトは自分たちが乗る車を尾行してくるサーチャーの存在に気づいた。
(サーチャーの気配?)
(‥‥査察部のかな?)
(まさかと思うけど、まだ私がティアナに諜報活動を命令したと思っているのかな?)
(査察部って意外と暇なの?)
フェイトはそう思ったが、査察部としては大いに真面目でフェイトの動向を探っていた。
やがて、フェイトたちが乗る車が聖王教会のあるベルカ自治区へ入るとサーチャーの動きはピタッと止まる。
「むっ!?ベルカ自治区に入ったか!?」
「どうしますか?」
「やむを得ない。ハラオウン執務官がベルカ自治区から出てくるまで待つしかあるまい」
ベルカ自治区には聖王教会があり、その教会には魔導騎士や魔導師のシスターが大勢居る。
そんな彼らが自分たちの縄張りに管理局のサーチャーがうろついている事を知ったら、自分たちの縄張りを荒らされたと勘繰る可能性が高い。
と、言うのも管理局はボラーの武力制裁失敗から信用を大きく失墜し、更に人材も不足し、その人材不足を教会から騎士たちを派遣してもらうことでギリギリの活動をしており、今の管理局は聖王教会に対して強く出られない所がある。
管理局の力が落ち、教会が徐々に力を強めている状況下だからこそ、教会の強硬派が暴走したのだ。
(ん?サーチャーの追跡が‥)
(やっと諦めたのかな?)
ベルカ自治区に入るとサーチャーの追跡が消えた事により、フェイトは諦めたのかと思った。
しかし、まさか管理局側に聖王教会といざこざを起こす訳にはいかない理由がある事をフェイトは知らなかったでの、査察部がフェイトの事を諦めた訳ではない事も知らなかった。
聖王教会に着くとシスター・シャッハがフェイトとヴィヴィオを出迎えた。
「ヴィヴィオ、お久しぶりでございます。こちらの不手際でご迷惑をおかけして申し訳ございません」
シスター・シャッハはヴィヴィオに深々と頭を下げる。
「でも、アレがあったから、私はもう一つの地球に行けて色んな出会いが出来たのは怪我の功名?でした」
「あ、あれ?ヴィヴィオ‥なんだか口調が大人びましたね‥‥」
ヴィヴィオの返答にシスター・シャッハは戸惑った。
戸惑っているシスター・シャッハを見てフェイトは苦笑する。
あの世界に行って変わったのはティアナだけではなく、ヴィヴィオも成長していた。
「フェイト執務官もお久しぶりです。ヴィヴィオ同様、この度は大変でしたね」
「ううん、大変だったけど、私も貴重な体験をすることが出来たよ」
「そうですか‥‥では、早速ご案内いたします。騎士カリムは執務室にてお待ちしております」
シスター・シャッハの案内の下、フェイトとヴィヴィオはカリムが待つ執務官へと向かう。
「そう言えば、セインたちは元気?ちゃんとシスターをやれている?」
フェイトはシスター・シャッハに聖王教会に引き取られたセインたちの近況を訊ねる。
「‥‥あぁ~シスター・ディードとオットーは真面目なんですけど、シスター・セインは‥‥」
シスター・シャッハはセインの事を思い出して何かセインに思う所があるのか顔を歪める。
「セインが何かしたの?まさか、何か悪い事でも企んでいるとか?」
まさかと思うがセインが何か良からぬことでも企んでいるのかとフェイトはシスター・シャッハに訊ねる。
「い、いえ‥‥ま、まぁ、ある意味でフェイト執務官のおっしゃる通りなんですけど‥‥」
「一体何があったの?」
もし、セインが何か良からぬことを企んでいるのであるならば、早急に対処しなければならない。
「そ、それが‥‥」
シスター・シャッハは重い口を開けるのかの様にフェイトに話す。
「最近になりまして新人のシスター‥シャンテ・アピニオンと言う子を保護したのですが‥‥」
「うん、うん」
「その‥‥シスター・シャンテは元々無軌道な不良少女だったのですが、シスター・セインは馬が合ったみたいで、行動を共にする事が多くあるのですが‥‥」
「うん、うん。それで?」
「その‥‥よく掃除をサボったり、シスター・セインと一緒に悪戯をしたりしておりまして‥‥」
「えっ?悪戯?」
「はい」
先ほど、フェイトがシスター・シャッハに『セインが何か悪事を企んでいるのではないか?』と言う指摘について、シスター・シャッハはセインと新人のシスターであるシャンテがタッグを組んで悪戯をしていると言う。
「‥‥」
特に管理局へ通報されている様子はないので、人に大怪我を負わせた訳ではなく、教会内で対処できるレベルの悪戯なのだろう。
(シャッハ‥苦労しているんだ‥‥)
シスター・シャッハの様子を見てセインとシャンテの悪戯に手を焼いているのだろうと予測するフェイトだった。
そして、カリムが待つ執務室に到着し室内に入る。
「フェイトさん、ヴィヴィオ、お久しぶりです。それにお元気そうで何よりです。そしてヴィヴィオ、この度は私たちの不手際で怖い目に遭わせてしまい申し訳ありません」
シスター・シャッハ同様、カリムもヴィヴィオに頭を下げ、強硬派の行いを詫びる。
「ううん、大丈夫だよ。フェイトママにも会えたし、他にも友達や面白いゲームも出来たよ」
強硬派に襲われそうになった時は怖かったし、もう一つの地球に転移されたばかりの時は心細かった。
しかし、運よくもう一つの地球にはフェイトが居り、再会することが出来た。
そして、桜花や紅葉と出会いBRAVE DUELをプレイして楽しんだ他に地球を占領したはずの暗黒星団帝国の将校とBRAVE DUELを通じて交流を深めた。
それに他に自分のデバイスも貰った。
もう一つの地球での生活はヴィヴィオにとって成長と共にどれも貴重な体験ばかりだった。
「それで、今日はどういった御用でしょうか?」
カリムはフェイトに今日、二人が聖王教会へ来た要件を訊ねる。
「その前にこの部屋の防諜対策は大丈夫?」
フェイトは要件を話す前にカリムへ執務室の盗聴・盗撮対策を訊ねる。
「それは問題ありません。毎朝、私とシャッハで確認していますから」
「そう‥実は‥‥」
防諜対策が出来ているとの事なので、フェイトはカリムに今日、聖王教会に来た目的を話した。
「ヴィヴィオにデバイスを‥‥」
「うん、向こうの地球で製作されたデバイスで、稼働もちゃんと出来たんだけど‥‥」
「何か問題でも?」
「そのデバイスが向こうの地球で製作された事が問題なんだよ」
「「?」」
カリムもシャッハも、ヴィヴィオのデバイスについて稼働も問題なく出来たのだから一体何が問題なのかと首を傾げる。
「それはどういうこと何ですか?」
シャッハがフェイトに訊ねる。
「二人は私たちが先日までいたもう一つの地球についてどのくらい知っている?」
「確か、なのはさん、はやての故郷と似て非なる世界とか?」
「そして、管理局よりも強力な戦闘力を持つ軍艦が存在するとも聞きました」
「概ねそうだね‥‥私もつい先日、私たちがもう一つの地球に居る間に管理局で起こった事は聞いたけど、武力制裁の失敗で艦艇と人員を多く喪失した管理局は高い技術力を有するもう一つの地球の技術を手に入れたがっているみたい」
「管理局の現状はこちらとしても情報を掴んでおりますが、確かにJS事件の時以上に混乱していますね」
「そんな中でもう一つの地球で製作されたデバイスの存在を知れば、管理局はどうすると思う?」
「‥‥管理局はヴィヴィオからデバイスを取り上げる可能性が高いですね」
「うん。私としても折角ヴィヴィオの為に作ってもらったデバイスが取り上げられるのは辛いから‥‥」
「なるほど、それで教会のデバイス技師が製作した事にする‥と?」
「そう‥‥それで頼めるかな?」
「分かりました。こちらで何とかいたしましょう」
カリムはヴィヴィオの為にデバイスの登録に関して、教会側が用意したデバイスと言う形で登録手続きを進めてくれた。
聖王教会としても強硬派の一件もあり、ヴィヴィオに対して負い目がある事から、ヴィヴィオ自身が自分の身を守る為にもデバイスを所持した方が良いだろうと判断した。
「それで、ヴィヴィオさんのデバイスと言うのは?」
「これです」
ヴィヴィオはカリムにボ〇太くん人形を見せる。
「えっ?これ‥‥ですか?」
「はい」
「ず、随分個性的な生物の形をしていますね」
ボ〇太くん人形を見て若干顔を引き攣らせるカリム。
「では、早速登録手続きをいたしますね」
「お願いします」
「します!!」
こうしてカリムたち聖王教会の協力によりヴィヴィオのデバイスであるクリスの登録手続きが進められた。