星の海へ   作:ステルス兄貴

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若干、クロノの病みが垣間見える感じです。


百三十七話 予兆?

 

 

ギンガから託された手紙をゲンヤとスバルに渡し、次にヴィヴィオのデバイスを公式にヴィヴィオのデバイスにする為に動くフェイト。

 

しかし、知り合いのデバイス関係者は現在何らかの任務で忙しいとの事でフェイトは聖王教会のデバイス技師に頼る事にして聖王教会へと向かいカリムを通じてヴィヴィオのデバイスを公式登録してもらった。

 

「デバイスの登録が無事に終わりました。これで、このデバイスは正式にヴィヴィオのモノですよ」

 

「ありがとうございます!!」

 

ヴィヴィオはクリスの秘密が解禁され、正式にクリスが自分のデバイスとなった事に嬉しそうだ。

 

「そういえば、ヴィヴィオのバリアジャケットはどんなデザインなんですか?」

 

カリムはヴィヴィオのバリアジャケットのデザインが気になり、ヴィヴィオに訊ねる。

 

「フェイト執務官は知っているんですか?」

 

「うん。向こうの地球で稼働試験をした時にその場に居たし、模擬戦もしたから‥‥」

 

模擬戦の相手はもっぱらギンガであったが、彼女の生存を知る者がミッドでは一人でも少ない方が良いので、誰がヴィヴィオの模擬戦の相手をしたのかは濁した。

 

フェイトが濁したことにより、カリムもシスター・シャッハもフェイトがヴィヴィオの模擬戦の相手だと思った。

 

「宜しければ見せていただいてもよろしいですか?」

 

「私も見てみたいです」

 

カリムもシスター・シャッハも気になる様だ。

 

「ミッドの環境での稼働も兼ねてここで起動させてもいいけど、二人とも驚かないでね」

 

「「?」」

 

ヴィヴィオの意味深なセリフに首を傾げる二人。

 

「セイクリッド・ハート!!セーット・アーップ!!」

 

ヴィヴィオがクリスを起動させるとデバイスとヴィヴィオの身体が光りだす。

 

そして、光が収まるとそこにはドレス甲冑を身に纏い大人姿になったヴィヴィオが居た。

 

「「っ!?」」

 

大人姿になったヴィヴィオを見てカリムもシスター・シャッハも目を大きく見開いて驚愕している。

 

「なっ‥なっ‥なっ‥‥」

 

「ど、どうしてヴィヴィオが‥‥レリックはないはずなのに‥‥」

 

JS事件において聖王のゆりかご内におけるヴィヴィオとなのはとの戦いはクアットロがミッド中に中継していたので、カリムもシスター・シャッハもヴィヴィオの大人姿‥聖王化した姿を知っているのだが、その聖王化したヴィヴィオが目の前に‥‥デバイスを起動したら居るのだから驚かないはずがない。

 

「これは決して聖王化したわけじゃないよ」

 

フェイトが二人に補足説明をする。

 

「この姿は魔法や武術の練習をするのに適した姿だとデバイスが認識し、大人化したんだよ」

 

「は、はぁ‥‥」

 

「な、なるほど‥‥」

 

ヴィヴィオの周りには確かに同年代の魔導師の友人が少ない。

 

反対に高レベルの魔導師が大勢いるのだが皆ヴィヴィオよりも年上なので、フェイトの説明通りヴィヴィオが大人姿になった方が模擬戦や練習をするのに適しているのだろう。

 

「クリス、変身解除」

 

ヴィヴィオは大人姿から元の姿に戻る。

 

「大人の姿になっても私は私‥‥高町ヴィヴィオですから‥‥もうゆりかごもレリックもない。だから大丈夫です。それにクリスもちゃんとサポートしてくれますから」

 

(やはり、ヴィヴィオは精神的に大きく成長なされている‥‥)

 

ヴィヴィオの言葉にシスター・シャッハは彼女の成長を感じた。

 

(もう一つの地球でヴィヴィオは成長したのですね)

 

カリムはヴィヴィオがもう一つの地球で貴重な経験をしてきたのだとここで感じる。

 

「なのはママに今の姿を見せたらきっとビックリするね」

 

「うん、多分ね」

 

聖王のゆりかごで聖王化したヴィヴィオと対峙したのは、なのはだったので、あの時の衝撃は今でも忘れてはいない筈なので、二人よりもきっと大きなリアクションをとってくれるだろう。

 

「カリム。ヴィヴィオのデバイスの登録の手続きありがとう」

 

「ありがとうございました!!」

 

「いえ、いえ、こちらとしてもお役に立てて良かったです」

 

「それじゃあ、私たちはこれで‥‥」

 

無事にデバイスの登録が終わり、フェイトとヴィヴィオはカリムの執務室を出る。

 

そして、教会の外に出ると、

 

「セイン姉様!!シャンテ!!覚悟なさい!!私のツインブレイズの錆にして差し上げますわ!!」

 

「「ヒエー!!」」

 

「あれはディード‥‥?」

 

「一体何があったんだろう?」

 

ディードが両手にツインブレイズを持って振り回しながらセインとオレンジ色の髪をしたシスターを追い回している姿があった。

 

そして、二人を追い回しているディードなのだが、何故か頭から赤ペンキを被っていた。

 

「もう!!セインが悪いんだからね!!シスター・シャッハを嵌める筈がよりにもよってディードを嵌めるなんて!!」

 

「仕方ないじゃん!!いつもはシスター・シャッハが来るはずだったんだから!!ディードがあそこを通るなんて予想外だったんだよ!!」

 

どうやらセインともう一人、ディードに追われているシスター‥‥シャンテはシスター・シャッハに悪戯の為に何か罠を仕掛けたみたいだ。

 

シスター・シャッハがフェイトとヴィヴィオの二人を案内する役があったので、彼女はセインとシャンテの罠にかからなかったのだろう。

 

しかしその反面、二人が仕掛けた罠にかかってしまったのがシスター・シャッハではなくディードだったのだ。

 

自分を罠にかけたことに憤慨したディードは罠を仕掛けた二人をこうして追い回している。

 

(オレンジ色の髪‥‥)

 

(ティアナ‥元気かな‥‥?)

 

シャンテをチラッとだが見たフェイトは彼女の髪の色を見てもう一つの地球に残ったティアナの姿が脳裏を過った。

 

フェイトとヴィヴィオが帰った後のカリムの執務室では、カリムとシスター・シャッハがまだ執務室に残っていた。

 

「ヴィヴィオは‥‥」

 

「はい?」

 

「ヴィヴィオはもう一つの地球で貴重な体験をして大きく成長したみたいね」

 

カリムはヴィヴィオの言動を見て、ヴィヴィオの成長を口にする。

 

「はい。私もそう感じました。それにもう一つの地球にて、デバイスを製作する技術がある事にも驚きです」

 

「そうね。なのはさんやはやてと言う例外があるけど、基本あの世界は魔法が存在しない世界と認識されているものね。でも、それを差し引いてもヴィヴィオが力を振るう事に対する大切さを学んでいたことが貴重ですね」

 

「はい。大抵の場合、力を得た者はそれを使ったり、試したりしたいと思うものです。それ自体は特に問題はありませんし、極当たり前の衝動でしょう。ですが、その欲求が度を超えれば……」

 

「力に呑まれ、力を振るう為に闘いを望むようになってしまう‥‥」

 

「はい。仰る通りです」

 

「ヴィヴィオにはあのまま強く、そして大きくなってもらいたいわね。万が一、億が一にも修羅道に堕ちたら大変ですもの」

 

「高町一尉、フェイト執務官がそんな事を許すとは思えませんが‥‥」

 

「そうね‥‥今はヴィヴィオの成長を嬉しく思うと同時に今後の更なる成長を期待しましょう」

 

窓の外には教会から去っていくフェイトとヴィヴィオの後姿があった。

 

ただこの時、カリムの執務室からディードに追いかけられているセインとシャンテの姿が死角になっていたが、

 

「シスター・シャッハ!!」

 

「どうしたのですか?オットー」

 

慌てた様子で執務室に入って来たオットー。

 

「それが、セインとシャンテが‥‥」

 

オットーがカリムとシスター・シャッハに現在、中庭で起きている騒動を伝えることで二人の耳にセインとシャンテが引き起こした悪戯の件が入る事になった。

 

「まったくあの二人は‥‥騎士カリム。すみませんが‥‥」

 

「ええ、行ってらっしゃい」

 

カリムは微笑みを浮かべながらシスター・シャッハを見送る。

 

「オットー、行きますよ」

 

「は、はい」

 

シスター・シャッハはオットーを連れて慌ただしく騒動が起きている中庭へと向かった。

 

この後、セインとシャンテの二人がシスター・シャッハから大目玉をくらったのは言うまでもなかった。

 

 

フェイトとヴィヴィオがベルカ自治区から出ると案の定、管理局のサーチャーが追跡を再開した。

 

(サーチャー!?まだ諦めていなかったの?)

 

再び始まったサーチャーによる監視にフェイトは呆れた。

 

「なのはママの所に帰ったらまずはクリスの話をしようか?」

 

「えっ?」

 

「もうクリスはヴィヴィオのデバイスになったから、秘密にしなくても良いんだよ」

 

「うん。なのはママきっとびっくりするよ!!」

 

「そうだね」

 

ヴィヴィオもフェイトもクリス、そして大人姿になったヴィヴィオを見た時のなのはのリアクションを今から想像するだけで笑みがこぼれた。

 

そして、なのはが用を済ませて教導隊の宿舎へと戻って来た。

 

「ただいま‥って、フェイトちゃんもヴィヴィオも先に帰っていたんだ」

 

「うん。要件は案外直ぐに終わったからね。なのはが帰ってくるまでヴィヴィオと待っていたの」

 

「そうだったんだ。ありがとうフェイトちゃん」

 

「それで、なのは」

 

「ん?何?フェイトちゃん」

 

「今日、ヴィヴィオと聖王教会に行った用なんだけど‥‥」

 

「うん」

 

「実は‥‥」

 

フェイトはなのはにヴィヴィオのデバイス‥クリスについて話した。

 

「ええー!!ヴィヴィオのデバイス!?」

 

ヴィヴィオはなのはにもう一つの地球でデバイスを貰ったことは管理局との交信の際に話していたが、没収を恐れたフェイトはヴィヴィオに登録が終わるまではクリスの事は秘密にするように言ってあった。

 

それはなのはに対しても例外ではなく、ミッドに戻ってきた時、なのはからクリスの事を訊ねられた時、ヴィヴィオはもう一つの地球に忘れてきたと伝えたが、今日正式にクリスがヴィヴィオのデバイスである登録が済んだのでその秘密も解禁となった。

 

「本当なの!?ヴィヴィオ」

 

「うん。黙っていてごめんなさい」

 

「なのは、ヴィヴィオを責めないであげて。ヴィヴィオにデバイスの事を黙っているように言ったのは私なの」

 

「どういうことなの?」

 

「なのはは、クリス‥ヴィヴィオのデバイスがもう一つの地球で作られたことは知っているよね?」

 

「う、うん」

 

「私はミッドに還る前、もし管理局がクリスの事を知ったらヴィヴィオからクリスを何かしらの理由をつけてヴィヴィオの手から没収すると考えたの」

 

「そんなっ!?管理局がそんなことを‥‥」

 

「『しない』と言い切れる?」

 

「‥‥」

 

フェイトの問いになのはは『ない』と言い切れなかった。

 

フェイトはもう一つの地球に居る間に管理局が仕出かした通信ポッドに小細工をした事や勝手に太陽系に次元航行艦を派遣した件を見てフェイトはこの時から管理局に対して不信感を抱いていたのかもしれない。

 

ミッドに戻ってきたら管理局がボラーへの武力制裁の失敗により多くの艦船と大勢の人材を失っていた事を知りフェイトは自分が取った対応が間違いではなかったことを改めて感じた。

 

「話を戻すね」

 

「うん」

 

「ヴィヴィオのデバイスを守る為にヴィヴィオにはデバイスをもう一つの地球に忘れたと言う事にして秘密にして、今日、聖王教会に行って、教会の名前でクリスの登録をしたの」

 

「そう‥だったんだ‥‥」

 

フェイトの言う事も分からない訳ではない。

 

実際にフェイトの問いに否定できなかったし、武力制裁の失敗後に起きたデモに関しても心無い言葉を遺族から投げられた。

 

フェイトの行動全てを否定することも出来ないなのはであった。

 

「でも、これでクリスは正式にヴィヴィオのデバイスになったから、もう秘密を解禁しても問題ないと判断したから、こうしてなのはに話したんだよ」

 

なのはもフェイトの話を聞き、元々ヴィヴィオがデバイスを手に入れたからと言って怒るつもりは毛頭なく、ただ驚いただけだ。

 

「それで、ヴィヴィオのデバイスはちゃんと稼働するの?」

 

「その点は問題ないよ。もう一つの地球で何度も稼働したし、教会でも稼働したばかりで、問題なく稼働出来るよ」

 

「へぇ~そうなんだ‥‥ねぇ、ヴィヴィオ。ちょっと見せてくれる?」

 

なのははヴィヴィオにクリスを稼働させてと頼む。

 

そこで、ヴィヴィオはなのはのリクエストに応え、クリスを稼働させる。

 

勿論、ヴィヴィオの姿はバリアジャケットを身に纏った大人姿であった。

 

大人姿になったヴィヴィオを見てなのはが声を上げて驚いたのは言うまでもなかった。

 

「ふぅ~びっくりしたよ。ヴィヴィオがまさか大人の姿になるなんて‥‥」

 

ようやく落ち着きを取り戻したなのはは一息ついてクリスを稼働したヴィヴィオについての感想を述べた。

 

「カリムとシスター・シャッハにも説明したけど、大人の姿になったからと言ってあの時みたいに聖王化した訳じゃなくて、大人の姿の方が練習しやすいって言うだけだから大丈夫だよなのは」

 

「う、うん。わかった」

 

なのはの了解も得てヴィヴィオはバリアジャケットを解除した後、元の姿に戻った。

 

「それじゃあ、私はまだやる事があるから」

 

「あれ?お仕事なの?確かしばらくの間休職扱いって聞いたけど?」

 

「個人的にやることがまだあるんだよ。それじゃあまたね」

 

「う、うん‥‥」

 

(なんだろう?個人的にやることって‥‥)

 

なのははフェイトが仕事ではなく、個人的にやる事に少々の興味が沸いたが、フェイト個人がやることなので、首を突っ込むのは野暮だと思い深くは突っ込まなかった。

 

ギンガからの手紙、エリオとキャロの二人に帰還した報告、ヴィヴィオのデバイス登録が終わり、あとはアルフにリニスからの手紙を渡すだけとなったフェイト。

 

アルフは今、海鳴市にあるハラオウン家に居るので、渡航許可を得なければならない。

 

フェイトが本局に戻り、第97外管理世界への渡航許可を申請したら、やはり査察部からの圧力があったのか第97管理外世界への渡航許可は下りなかった。

 

(やっぱり、そうなるよね‥‥)

 

未だに査察部からの事情聴取が終了していない為、他の世界への渡航許可なんておりる訳がないと思っていたがこれではアルフに手紙を渡す事が出来ない。

 

(いっそ、アルフをミッドに呼ぼうかな?)

 

自分が行けないのであるならば、手紙を渡す相手であるアルフを呼ぼうかと思ったフェイト。

 

そこで、海鳴市にあるハラオウン家に連絡をとった。

 

モニターに映し出されたのはクロノの奥さんであるエイミィだった。

 

「あっ、エイミィ」

 

「えっ?フェイトちゃん!?」

 

エイミィはモニターに映し出されたフェイトの姿を見て驚く。

 

「ミッドに戻っていたの!?」

 

「うん。少し前に‥‥ねぇ、エイミィ。アルフ居る?」

 

「アルフ?居るよ、ちょっと待ってね。アルフ!!」

 

「ん?何だい?エイミィ」

 

「フェイトちゃんがミッドに戻って来たよ!!」

 

「えっ!?ホントかい!?」

 

エイミィがアルフを呼ぶと、アルフは物凄い勢いでモニターの前に現れる。

 

「フェイト!!」

 

「アルフ‥久しぶり」

 

「うん!!フェイトこそ、元気だったのかい?もう一つの地球じゃあ窮屈な事や酷い目に遭わなかった?」

 

「大丈夫だよ。向こうの地球でも色んな事があって貴重な体験だったよ」

 

「フェイトちゃん、アルフに何か用があるみたいなんだけど‥‥」

 

「えっ?そうなのかい?フェイト」

 

「うん。アルフに渡したい物があるんだけど‥‥」

 

「あたしに?」

 

「うんそうなの‥それで、海鳴に行ければ良いんだけど、ちょっと事情があって渡航許可がおりなくて‥‥」

 

「えっ?どうして?」

 

「査察部が私に色々と事情を聞きたいみたいで‥‥」

 

「査察部が‥‥?」

 

「そうなの。それで、海鳴に私が行けないからアルフ、面倒かもしれないけど、ミッドに来てもらえるかな?」

 

「分かったよ。フェイト」

 

アルフがミッドに行き、フェイトが自分に渡したい物があるが、肝心のフェイト自身が査察部から睨まれているので、アルフが居る第97管理外世界への渡航が出来ないので、アルフに来てもらうことにした。

 

そして、アルフもフェイトの現状を理解してミッドに来ることを了承した。

 

アルフがミッドに来ることでリニスからの手紙を渡す件が解決しようとする中、

 

「アルフ、すまないがミッドには僕が代わりに行こう」

 

クロノがアルフの代わりにミッドに行くと言う。

 

「えっ?クロノ!?どうして海鳴の家に?」

 

フェイトは海鳴にあるハラオウン家にクロノが居た事に驚く。

 

「長期の休暇をとったんだ。それで、エイミィとアルフがフェイトと話しているのを見てね‥‥」

 

「そうなんだ‥‥それでアルフに代わってクロノがミッドに来るって話だけど、休暇中なのにわざわざミッドに来てもらっていいの?」

 

「ああ‥‥フェイトがもう一つの地球でどんな体験をしたのか話を聞いてみたいからね」

 

「私は別に構わないけど‥‥アルフは大丈夫?」

 

「あたしも別に構わないけど‥‥」

 

アルフも使い魔の自分よりも管理局の提督であるクロノならば、第97管理外世界からミッドに行くのも手続き等は早いだろう。

 

それにアルフ本人もクロノがミッドに行く事に対して了承しているので問題はなさそうだ。

 

こうしてリニスからの手紙の件はクロノがアルフの代理でミッドに来ることになった。

 

「それでなんだが、フェイト」

 

「なに?」

 

「僕がミッドに来る事は母さんには内緒にしてくれないか?」

 

「えっ?どうして?」

 

「休暇中に母さんと出会うと色々と付き合わされたり、事務仕事をやらされたりするかもしれないからね」

 

「あっ、うん。分かったよ」

 

人材不足となっている管理局では上層部の仕事は更に大変そうであり、リンディはちゃっかりしている所があるので、クロノがミッドに来ると知れば彼の言う通り、休暇中でも何かしらの仕事を頼みそうである。

 

クロノの現状とリンディの性格を知っているフェイトだからこそ、彼の言う通り、クロノがミッドに来る事を黙っている事にした。

 

フェイトはクロノが言う、休暇中だがリンディに知られると仕事を手伝われそうだと言う言葉を信じたが、クロノ本人としてはリンディの件もあるが、フェイトからもう一つの地球での生活や出来事を直接聞きたいと言う事の他、母であるリンディに若干の不信感を抱いているので彼女とあまり顔を合わせたくないと言う思いもあったのだ。

 

フェイトとの通信を終えたクロノは、

 

「アルフ、すまなかった」

 

アルフに謝罪した。

 

「えっ?」

 

「アルフもフェイトとモニター越しではなく、直接会いたかっただろうが、何だかが僕が横入りした感じになってしまって‥‥」

 

「いや‥あたしは‥‥フェイトがもうミッドに居ると分かったならこの後、フェイトと直接会う事もあるだろうから、大丈夫さね。あっ、ただ、フェイトはあたしに何かを渡すつもりだったらしいんだ」

 

「フェイトが?」

 

「ああ、だから、フェイトからの預かり物を忘れたり落としたりしないでおくれよ」

 

「ああ、分かったよ」

 

アルフもクロノと一緒に行けば早いのだが、管理外世界からミッドの渡航の手続きが二人だと時間がかかる。

 

ましてやアルフは使い魔なので、通常の人よりも色々と手続きが面倒なのだ。

 

その反面、クロノは休暇中とは言え現職の管理局の提督なので、クロノとアルフでは渡航手続きにかかる時間が違ったのだ。

 

それから数日後、本局にクロノの姿があった。

 

「あっ、クロノ」

 

事前に待ち合わせ場所と日時をクロノはフェイトに伝えていたので、二人はすんなりと合流することが出来た。

 

合流した二人は本局内にあるカフェに入った。

 

そのカフェは個室タイプのカフェだった。

 

本局内にあり、個室と言う事で管理局の幹部局員もよく使用している。

 

しかもその為かこのカフェは防諜対策がなされている。

 

恐らくこのカフェでは、これまで幹部局員同士の内密な会談も行われている事だろう。

 

「まずは、無事に帰って来てなによりだ。向こうの地球での生活はどうだった?大変だったか?」

 

「いろんなことがあったけど、どれも貴重な体験だったよ。それに大変だったのはクロノも同じでしょう?‥‥リンディ母さんに聞いたよ。私がミッドに居ない間に何があったか‥‥」

 

「そうか‥‥」

 

「うん。私も防衛軍の戦艦に乗って戦闘を経験したけど、あの時は管理局じゃあ考えられないと思った‥‥だけど、リンディ母さんから話を聞いた時にクロノもあの時と同じ状況で戦っていたんだと思ったよ」

 

「あの時の事はまるで悪夢のような時間だった‥‥一分一秒が物凄く長く感じた‥‥そして僕も防衛軍の軍人たちはあのような体験をしていたのだと感じ、彼らの強さを実感したよ‥‥それで、フェイト」

 

「ん?何?」

 

「向こうの地球と管理局‥‥この二つを比較してどう思った?」

 

「えっ?」

 

「もう一つの地球は何度も侵略を受けながらも必死に戦い勝って来た‥‥例え地球本土が占領されてもだ‥‥防衛軍の軍人‥いや、地球の人たちは決して諦めなかった。それはただ単に優れた技術力を持っているだけではないと僕はそう思う」

 

「そうだね‥‥でも、元々の強さはきっともう一つの地球が絶滅寸前まで追い込まれた環境じゃないかな?」

 

「ん?どういうことだ?」

 

「九死に一生を得ると人生観が変わるって聞いたことがある。もう一つの地球はまさに九死に一生を得える事によってメンタル面が強くなったんじゃないかな?」

 

「ならば、組織も同じなのかもな‥‥」

 

「えっ?」

 

「戦いで負けることで新しい時代、新しい組織として改革が可能となるんじゃないか?」

 

「でも‥それって‥‥」

 

「分かっている。負ける相手はちゃんと選別しなければならない。ボラー連邦やガトランティスの様な思想の持主には絶対に負けられない。その理由は分かるだろう?」

 

「う、うん‥‥」

 

「しかし、地球連邦政府なら‥‥防衛軍ならば‥‥」

 

「クロノ‥‥それって‥‥」

 

クロノの発言は地球連邦政府‥‥防衛軍に戦争を吹っかけて負けようと言う事に聞こえる。

 

「分かっている。管理局の‥現職の提督が口にして良いことではないことぐらい‥‥だが、ボラー連邦やガトランティスと比べてももう一つの地球は世論を反映しうる理性ある世界だと思わないか?」

 

「‥‥」

 

フェイトも防衛軍と管理局が戦争をした場合、現在の管理局の戦力では防衛軍に勝てない事はミッドに戻って来たばかりのフェイトも分かる。

 

ただ、防衛軍が経験した過去の映像でもヤマトらの防衛軍艦艇がガトランティス本土を砲雷撃して壊滅させた事、

 

防衛軍が管理局の次元航行艦の残骸を有している事、

 

暗黒星団帝国の本土も壊滅させた事、

 

これらの事から防衛軍を相手にする場合、匙加減も必要であると同時に思った。

 

意固地になり、徹底抗戦をすればミッドが灰燼に帰すだろうし、本局にもショックカノンとミサイルの雨どころか、波動砲が撃ち込まれる可能性だってある。

 

「‥‥クロノ、少し疲れているみたいだね」

 

これまでのクロノならば決してこんなことを口にすることはしないし、管理局の破滅なんて望むわけはなく、むしろ破滅を防ぐ側に立つ筈だ。

 

機動六課設立時に後見人の一人に立候補したのもただはやてと付き合いが長いと言う訳ではなく、カリムの予言を信じはやてと共に管理局の崩壊を防ぐ為だ。

 

それが今では何だか病んでいるようにも見える。

 

「そうかもな‥‥」

 

クロノは力なく答える。

 

「‥‥そう言えば、ランスター執務補佐官やヴィヴィオはどうしている?」

 

クロノは話題を変えようと、フェイトと共にもう一つの地球に行ったティアナとヴィヴィオについて訊ねた。

 

「あっ‥うん、ヴィヴィオも私と同じ元気で、デバイスも貰ったの」

 

「デバイス?もう一つの地球でか?」

 

「うん。もっとも表の書類上では聖王教会での製作になっているけどね」

 

フェイトは既にクリスが聖王教会で製作したデバイスになっている事と義兄であるクロノだからこそ、クリスが本当はどこで製作されたデバイスであるのかを話した。

 

「そ、そうか‥‥しかし、もう一つの地球は僕たちが知っている地球の異なる未来の世界とは言え、デバイスを製作する能力もあるとはな‥‥」

 

クロノも本来魔法が存在しない世界の筈なのにデバイスを製作する技術がある事に驚いている。

 

「ティアナのクロスミラージュもパワーアップしてもらったんだよ。条件付きで模擬戦をしたけど、負けちゃって‥‥」

 

「フェイトが?」

 

「うん」

 

フェイトがどんな条件を出したのかは分からないが、何かしらの制限がある中でティアナがフェイトを模擬戦で破った事についても驚愕する出来事であった。

 

「でも、ティアナにはまだ驚くことがあって‥‥」

 

「ん?これ以上まだあるのかい?」

 

「なのはやスバルは知っているけど、ティアナ‥もう一つの地球が暗黒星団帝国に占領された時、パルチザンとして戦ったの‥それで、顔に傷を負って‥‥」

 

「顔に傷?それにパルチザンって‥‥ランスター執務補佐官は防衛軍に徴兵でもされたのか?」

 

「ううん、ティアナがパルチザンに入ったのはティアナ自身の意志だよ。私もティアナからその話を聞いた時、止めたけどティアナは、お世話になっている地球の為に戦いたいって言って‥‥」

 

「しかし、あの世界は元々魔法が無い世界だし、何より空気がAMAとなっている状況じゃないか‥そんな中で魔法何て‥‥」

 

「ティアナは魔法じゃなくてあの世界の武器で戦っていたよ」

 

「あの世界の武器?それって質量兵器か?」

 

「うん」

 

「非殺傷設定があるのか?まさか、殺傷したのか?」

 

「一応、出力調整で非殺傷設定もあるみたいだけど、基本あの世界での戦闘はやるかやられるか‥らしいから‥‥その‥ティアナも‥‥」

 

「‥‥なのはが知ったら大激怒しそうな話だな」

 

「もう知っているよ。モニター越しで大喧嘩。見ているこっちがハラハラしちゃったよ」

 

「あの二人は似た者同士だからな‥‥それにしても僕の休暇中に色んな事があったんだな」

 

「それは私も同じだよ。もう一つの地球に居る間、管理局でも色んな事がありすぎた‥‥クロノやなのはたちが大変な時に私はミッドに居なかったことが、私としては悔やまれるところだよ」

 

「それで、ランスター執務補佐官はどうしたんだ?顔に傷を負ったのだから、当然治療はしたのだろう?」

 

「必要最低限の治療をしただけで、傷は残したままだよ」

 

「残したまま?」

 

「うん。本来は手術で消せる傷なんだけど、ティアナ本人が『傷は残したままにしておくって』言って‥‥」

 

「それは何故だい?」

 

クロノは顔に傷と聞いて、男ならば箔が付くのだろうが、女性の場合、その傷がコンプレックスになる筈だと思った。

 

しかもその傷は手術をすれば消せると言うのにティアナは敢えて残すと言うのだからクロノとしてはそれが解せない。

 

「ティアナにとって顔の傷は、戦った仲間やパルチザンとしての戦いを忘れない為だって」

 

「そうか‥‥しかし、そんな傷があると他の局員たちはビビったんじゃないか?」

 

クロノはミッドに戻ってくる際、顔に傷があるティアナを見た次元航行艦の乗員たちの姿を想像して苦笑する。

 

「その事なんだけど‥‥ティアナ‥ミッドに戻って来てないの‥‥」

 

「えっ!?ミッドに戻って来てない!?それはどういうことだ!?」

 

これまでのティアナのミッドの未帰還の話を聞いて来た人たちと同じリアクションでクロノも驚いた。

 

「ランスター執務補佐官は執務官になる事を目標にしていたじゃないか!?もうすぐで念願の執務官になれそうだったのに‥‥」

 

「ティアナは防衛軍に救助されて、戦闘を見て、そしてティアナ自身が戦いを経験して何かを悟ったみたい‥‥それに執務官の肩書きに対しても‥‥」

 

「‥‥」

 

ティアナの考えに対してクロノは共感できる部分があった。

 

フェイトも心のどこかでティアナの考えに共感している所があったが、あの時はヴィヴィオも居り、彼女をミッドへ無事に還すのは自分の役割だった。

 

だが、もしもヴィヴィオが居なかったら自分もティアナ同様残っていたかもしれないと最近になって思うようになっていた。

 

そして、クロノも今の自分には家族が居る。

 

しかし、独身でフェイト、ティアナと共にもう一つの地球に居たら‥‥

 

ティアナの話を聞いてそんな考えが脳裏を過るのも無理はなかった。

 

その後、注文したコーヒーを飲みながら、クロノはフェイトにこの他の日常生活について訊ねた。

 

「それで、ヴィヴィオが向こうの地球にある体感シュミレーションゲームにハマっちゃって」

 

「体感シュミレーションゲーム?それってどんなゲームなんだい?」

 

「現実とは違う仮想空間で魔法や武器を使用しての戦闘や球技、レースとか出来るんだよ」

 

「それはシミュレーター装置とどう違うんだい?」

 

六課の時、訓練用に最新鋭のシミュレーション装置を導入していた。

 

しかし、シミュレーション装置はあくまでも舞台のシミュレーションだけであったが、フェイトたちが体験した体感シュミレーションゲーム、BRAVE DUELは仮想空間なので、現実には考えられない世界を体験することが出来る。

 

更に仮想空間なので、肉体的疲労、痛みを感じないと言う利点があった。

 

フェイトは管理局で採用されているシミュレーション装置とBRAVE DUELの違いを話す。

 

「それで、ヴィヴィオの他に暗黒星団帝国の人も気に入った人が居て‥‥」

 

「えっ?暗黒星団帝国って地球を占領した?」

 

「うん。それで、ヴィヴィオがその人と仲良くなってね」

 

フェイトは楽しそうにもう一つの地球での日常をクロノに語った。

 

楽しい時間はあっという間に過ぎ、フェイトはクロノに本命の要件を頼んだ。

 

「それで、クロノに頼みたい事なんだけど‥‥」

 

「ああ、確かアルフに渡す物があるんだろう?」

 

「うん。コレをアルフに渡しておいてくれる?」

 

フェイトはクロノに厚みのある一通の封筒を渡す。

 

「これは?‥‥手紙かい?」

 

「そう。私とアルフにとって、大事な人からの手紙」

 

「わかった。確かに預かったよ」

 

クロノはフェイトから託された封筒を上着のポケットに入れた。

 

「そう言えば、フェイトは何故、地球への渡航許可が下りなかったんだい?」

 

クロノは此処でフェイトにそもそもの原因‥‥第97管理外世界への渡航許可が下りなかった理由を訊ねる。

 

「ああ、その事なんだけど、多分査察部からの圧力があったんだと思う」

 

フェイトがやや疲れた感じで渡航許可が下りなかった理由をクロノに言う。

 

「査察部からの?」

 

「うん。ミッドに還ってから査察部にしつこく付き纏われてね。しかもティアナがもう一つの地球に残った理由が私がティアナに諜報活動を命令したんじゃないかって訳のわからない考えになっているの‥‥それにもう一つの地球の座標や防衛軍の情報も物凄く欲しがっていた」

 

「なるほど‥‥だが、査察部はあくまでも使いっぱしりで、本命は本局の一部の連中だろう」

 

「私もそう思う。クロノも一応、用心してね。こうして私と会っている所を多分サーチャーで窺っているだろうから」

 

「ああ、分かった。気を付けよう」

 

こうして、クロノは再び第97管理外世界の海鳴にある家に戻って行った。

 

「ただいま」

 

「あっ、お帰りクロノ君」

 

「おかえり~」

 

「おかえりなさい、父さん」

 

「おかえり、クロノ」

 

クロノが玄関の扉を開けると家族とアルフが自分を出迎えてくれた。

 

「フェイトちゃんの様子はどうだった?」

 

モニター越しではなく、直接フェイトに会ったクロノにエイミィはフェイトの様子を訊ねる。

 

「ああ、元気そうだった。ただ、本局の一部の連中に目をつけられている様で、呆れている感じだったよ」

 

「えっ?それって大丈夫なの?」

 

「どうせ、連中の取り越し苦労で終わるさ」

 

査察部を使ってフェイトが呆れるまで付き纏うのだから、とうにフェイトへの事情聴取をしている筈だが、その事情聴取でもう一つの地球の情報が掴めなかったからこそ、未だに付き纏っているのだろう。

 

しかし、クロノはこれ以上フェイトに付き纏っても、もう一つの地球の情報は得られないだろと判断していた。

 

「それで、クロノ。フェイトがあたしに渡したい物って何だったんだい?」

 

「ああ、これだ」

 

クロノはアルフにフェイトから託された手紙を渡す。

 

「えっ?何だい?こりゃ?」

 

「手紙らしい」

 

「手紙?誰から?フェイトかい?」

 

「いや、フェイトが言うには自分とアルフの大切な人からの手紙らしい」

 

「ふーん‥‥」

 

自分とフェイトの共通した大切な人と言われてもピンとこない。

 

「一体誰からだろう?」

 

アルフは早速ロビーにて封筒を開けると中に同封知れていた写真を見て目を大きく見開く。

 

「そ、そんな‥‥こ、こんなことって‥‥」

 

「一体誰からの手紙だったんだい?」

 

「り、リニス‥‥リニスからの手紙だよ。これはっ!?」

 

「リニス?」

 

「誰それ?」

 

クロノもエイミィも『リニス』と言う人物には心当たりがない。

 

「‥‥フェイトのバルディッシュを造ったプレシアの元使い魔で‥‥プレシアの奴が契約を切って‥‥消えちまったと思ったのに‥‥」

 

アルフはクロノとエイミィにリニスについて説明すると、早速封筒の中に入っているリニスからの手紙を読むと、プレシアとの契約を切られ、消えるのを待つ筈だったのだが、もう一つの地球に転移した際、その世界に居た人と新たな契約を結びこうして生きているのだと書かれていた。

 

「リニス‥‥アンタも幸せになったんだね‥‥良かった‥‥」

 

今の自分もフェイトもプレシアの下に居た時と比べると幸せを感じている。

 

消えてしまったと思ったリニスも運よく生き長らえている。

 

そして同封されていた写真を見ると今のリニスが幸せになっているのだと見て取れた。

 

アルフにとってリニスからの手紙はフェイトの生存と同じく嬉しい知らせであった。

 




防衛軍所属 特務艦 デス・シャドー号


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