星の海へ   作:ステルス兄貴

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揚羽の問題と同時にケンタウロス座α星の場面を描こうと思ったのですが、揚羽の問題で終わってしまいました。

よって今回も主人公の視点が無く地球視点のみと言う形になってしまい申し訳ございません。


百四十四話 母は強し

 

 

太陽の核融合異常増進が進み、破滅に進んでいる太陽系、地球‥‥

 

この事態において地球人類を存続させるには、地球が破滅する前に宇宙に第二の地球となりえる星を見つけ、その星へ移住するしか現段階では方法がなかった。

 

そこで防衛軍司令長官である藤堂はヤマトを第二の地球捜索の特務艦として派遣することを決定し、乗員の補充として宇宙戦士訓練学校に通っている訓練生の中で成績優秀者を繰り上げ卒業させてヤマトの補充乗組員とした。

 

その中の一人、日本でも有数の大財閥の一つ、揚羽家の一人息子、揚羽武‥‥

 

彼も宇宙戦士訓練学校から繰り上げ卒業させてヤマトに乗艦した新人乗組員の一人であった。

 

新人の乗員たちの他にこれまでのヤマトの乗員たちもヤマトへ合流し、ヤマトの整備も着々と進む中で突如、揚羽の乗組員解除命令が出された。

 

突然の乗組員解除命令にヤマト艦長に就任した古代も揚羽本人も戸惑うだけだったが、司令部からの正式な命令では従わざるを得ないので、揚羽は渋々ヤマトを降りた。

 

ただ、古代の前で揚羽は何故、自分に乗組員解除命令が来たのか心当たりがないと言うとが、実際はどうして自分に乗組員解除命令が来たのか心当たりがあった。

 

揚羽に乗組員解除命令を出した‥‥正確には軍に揚羽の乗組員解除命令を出すように要請したのは揚羽の父親である揚羽蝶人だった。

 

父親の蝶人としては、一人息子を危険が孕む宇宙戦士なんぞにするつもりはなく、訓練校を卒業したら軍へは任官させずに揚羽財閥を継いでもらうつもりでいた。

 

メガロポリス東京にある実家に戻った揚羽であるが、親が敷いたレールを走さらせる事や自身のコネまで使ってまで自分をヤマトから退艦させた父親への反発なのか、彼は夜な夜な家を出てはバーやキャバクラで自棄酒をしてはチンピラや酔っぱらい相手に喧嘩をふっかける荒れた生活を送っていた。

 

 

揚羽が少し前まで通っていた宇宙戦士訓練学校でも休日はあり、その日は門限があるが、外出は可能となっている。

 

その外出許可日となっているとある日、ティアナとうららは外出日を満喫するために街へ買い物に出ていた。

 

「はぁ~この外出許可日がホント、命の洗濯になるわよねぇ~」

 

私服姿のうららが大きく背伸びをしながら外出許可日を満喫している様子だ。

 

「まぁ、その意見には同意ね。でも、あまり羽目を外し過ぎると明日の訓練にも響くから程々にね」

 

ティアナも管理局の訓練校、訓練校卒業後に配属された救助隊、そして機動六課でもこうした休日はスバルと行動を共にしていることが多かったのだが、このもう一つの地球にある宇宙戦士訓練学校でもこうして寮のルームメイトと出かけている事から、ティアナは、

 

(うららとも長い付き合いになるのかしら‥‥?)

 

管理局の訓練校でルームメイトになったスバルとは訓練校、救助隊、機動六課とそれなりの付き合いとなったので、うららとも訓練校を卒業した後、同じ部署に配属されるのかと思った。

 

二人が街中を歩いていると、

 

「!!!!」

 

「っ!?!!!」

 

路地裏から複数の男たちの怒声が聞こえてきたと思うと、

 

バキッ!!

 

ドカッ!!

 

殴り合いでもしているのか鈍い音が聞こえてきた。

 

「えっ?なに?喧嘩?」

 

「みたい‥ね‥‥」

 

怒声や殴る蹴るような鈍い音を聞き、路地裏で喧嘩が起きているのだろうと判断した二人。

 

「チンピラか暴力団同士の抗争?」

 

「うーん‥どうだろう?」

 

「いずれにしても近づかない方がいいわね」

 

「え、ええ‥‥」

 

(ん?でも、この声‥‥)

 

喧嘩と言う事でうららはチンピラ同士か暴力団同士の抗争なのかと思い、巻き込まれては堪らないので、その場から移動しようと提案するうららであるが、ティアナは喧嘩をしているであろう男たちの声の中に何となくではあるが、聞き覚えがあるような声が交じっている様な気がした。

 

「‥‥」

 

ティアナは気になって路地裏へと歩みを進める。

 

「えっ?ちょっと、ティアナ!?」

 

ティアナの行動に驚くうららだが、慌ててティアナを追いかける。

 

やがて、喧嘩をしている男たちの近くへ来ると、複数の男たちが一人の男相手に殴る蹴るの暴行を行っていた。

 

「っ!?」

 

「あれって‥‥」

 

ティアナとうららは殴られている男の姿を見て、息を呑む。

 

殴られていたのは二人にとって顔馴染みの男だったからだ。

 

「「揚羽っ!?」」

 

そう、殴られていたのはつい先日、訓練校を繰り上げ卒業してヤマトへ乗艦していったはずの揚羽だった。

 

「ど、どうしよぉ~ティアナ、このままだと揚羽が殺されちゃわない?」

 

「‥‥」

 

いくら自分とうららが防衛軍の訓練校に通っているとはいえ、流石に丸腰で複数の男を相手にするのは分が悪い。

 

(一か八か‥‥)

 

ティアナは大きく息を吸い込むと、

 

「おまわりさーん!!こっちです!!こっちで男の人が殴られています!!」

 

大声を上げて警官を呼ぶ。

 

「っ!?」

 

「サツだと!?」

 

「や、やべぇ!!」

 

「行くぞ、お前ら!!」

 

ティアナの声を聞き、その中の『おまわりさん』と言う単語を聞きつけて、揚羽に暴行していた男たちは蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。

 

「ティアナ、いつの間に警官を呼んだの?」

 

「ブラフよ」

 

「えええー!!」

 

男たちが完全に去るのを確認したティアナは急いで揚羽に駆け寄り、うららもそれに続く。

 

その際、うららはいつ警官を呼んだのかを訊ねるが、実際にティアナは警官を呼んではおらず、男たちを追っ払う為の嘘だった。

 

「揚羽、アンタなにやっているのよ!?」

 

「ヤマトに乗っていたんじゃなかったの?」

 

ティアナは揚羽の傍に駆け寄り、ハンカチで彼の顔から出血している血を拭う。

 

「あん?ランスターに日下部か?なんでこんなところに‥‥?」

 

「それはこっちのセリフよ!!」

 

「それにこの臭い‥あんた、どんだけ飲んだのよ?」

 

揚羽からは酒独特のアルコール臭が漂っていたし、深酒したせいか目も焦点が定まっておらず、呂律も回っていない。

 

「うるせぇなぁ~もう、俺とお前たちとは関係ないんだから、俺の事はほっといてくれ~」

 

揚羽はティアナの手を払いのけると、フラフラとした足取りで立ち上がる。

 

「ちょっと、アンタ何よその言い草は!?」

 

揚羽の態度に声をあらげるうらら。

 

しかし、揚羽は何も言わずそのまま路地裏へと消えて行った。

 

「「‥‥」」

 

そんな彼の後姿をティアナもうららも神妙な顔で見ていた。

 

訓練校での揚羽と今の揚羽は本当に同一人物なのかと思うぐらい別人に見えた。

 

それからティアナとうららは土門の端末へ連絡を入れた。

 

まだヤマトが地球を出ていない事が幸いだった。

 

「あれ?ランスターに日下部じゃん、どうした?」

 

「実は今日、訓練校の外出許可日だったから、うららと一緒に街に買い物へ出たんだけど‥‥」

 

「その時、路地裏で喧嘩をしている人たちが居てね」

 

「なんだ?喧嘩に巻き込まれたのか?それとも、自分たちを助けてくれた白馬の王子様とでも出会ったのか?」

 

「アンタ、真面目に聞きなさいよ」

 

「へい、へい」

 

「それで、喧嘩をしていたのが揚羽だったのよ」

 

「えっ?」

 

路地裏で揚羽が喧嘩をしていたと聞いて土門は目を見開いて驚いた。

 

「揚羽はアンタと一緒にヤマトに乗っている筈でしょう?それがなんで、街中でチンピラ相手にボコボコにされているのよ?」

 

「しかも、酒の臭いがすごかったわよ。あれは完全に悪酔いしていたわね」

 

ティアナとうららは土門に揚羽がどうしてヤマトに居た筈なのに街中でチンピラ相手に喧嘩をしているのかを訊ねる。

 

「じ、実はこの前、揚羽に乗組員解除命令が来たみたいなんだ」

 

そして、土門からヤマトに乗っていた筈の揚羽が何故、路地裏でチンピラ相手にボコボコにされていたのかを知ったティアナとうらら。

 

「乗組員解除命令って‥‥」

 

「どうやら、揚羽自身が頼んだ訳じゃないみたいね‥‥」

 

「当然だろう。揚羽はヤマトに乗って希望部署にも配属されていたからな」

 

土門から見ても揚羽が怖気づいて自分から乗組員解除命令を頼んだなんて信じられなかった。

 

まだヤマトに乗って数日しか経っていなかったが、揚羽の様子からいざヤマトに乗って怖気づいてしまったと言う様子もなかったし、嫌々でヤマトに乗った訳でもなさそうなので、とても揚羽自身の意志でヤマトを降りた様には見えなかった。

 

「土門、何とかならない?」

 

「何とかって‥‥」

 

「アンタの上官から艦長に伝えてもらうとか?」

 

「な、何とかやってみるが、あまり期待はするなよ」

 

新人の一乗組員である自分にどうにかなる問題ではないが、それでも何もやらないよりはマシなので、土門は上官である雪にティアナとうららから聞いた揚羽の情報を伝えに向かった。

 

「森船務長」

 

「あら?土門君」

 

「船務長、お話が‥‥」

 

「ん?どうかしたの?」

 

「実はさっき、訓練校の同期から電話があって‥‥その揚羽の事について何ですが‥‥」

 

「揚羽君の?」

 

「はい。実は‥‥」

 

土門は雪に先ほど、ティアナとうららから聞いた揚羽の件について話した。

 

「そう、そんなことが‥‥」

 

「船務長‥船務長から艦長にこの件を伝えてもらえないでしょうか?」

 

「えっ?古代艦長に?」

 

「は、はい。艦長なら、防衛軍のお偉いさんとも知り合いなのでしょう?何とか揚羽をヤマトに戻してやってくれませんか?」

 

「分かったわ。古代艦長に早速伝えるわ」

 

「お願いします」

 

土門から揚羽の現状を聞いた雪は古代にもこの件を伝える事にした。

 

その古代は第二艦橋にて、ヤマトの航海計画を島から聞いていた。

 

「我々が探すべき星は地球と同じ環境条件をもった星のみだ。惑星をテラフォーミングすることは可能であるが、重力、自転までを改造するには一年以内では不可能だ」

 

「その点が悩ましいな‥‥テラフォーミングが出来るのなら簡単なのだがな‥それで針路は?」

 

「針路は銀河系中心部へ向かうことになり、ケンタウロス座を経由して、6.4光年先にあるバーナード星を調査、この星が適合しない場合は、いて座のロス154惑星を通り更に銀河系中心部へと向かう」

 

「いて座の154惑星は調査しないのか?」

 

「ああ、この154惑星は地球型ではない惑星である事が既に判明している。時間は有効に使いたいだろう?」

 

「確かに」

 

「星の状態は5000光年までなら地球から観測出来ている。従って、地球から観測可能な衛星を持つ恒星系を選んで作ったのがこの航路図だ。5000光年から先は探査しながら進んで行くしかない」

 

「5000光年先は白紙の海図と言う訳か‥‥はたして鬼が出るか蛇が出るか‥‥」

 

「イスカンダルの最初の航海、テレザート、暗黒星団帝国の航海でも似たような状況だったが、今回は地球が滅ぶことが決まっているから何とも言えない気持ちだよ」

 

「それに異星人との出会いが完全に無い訳じゃあないからな‥‥」

 

ガミラス、彗星帝国、時空管理局、暗黒星団帝国と地球以外にも人類が存在している事が確認されている。

 

5000光年先の宇宙にもこうした人類が存在する惑星がある可能性が高い。

 

それらの星に住む人類が好戦的な人類ではないと言い切れない。

 

古代の言う通り、5000光年先はまさに暗中模索な航海である。

 

「ああ‥あまり、好戦的な惑星国家と出会わない事を祈るしかないな」

 

戦闘が起きればそれだけ時間をロスすることになる。

 

それはイスカンダルの最初の航海でも宇宙気象の影響もあったが、ガミラスとの戦闘で時間をロスした経緯がある。

 

地球人類に残されている時間は一年‥‥

 

宇宙が広大なのは当然、宇宙戦士である古代も島も理解しているが、出来ればすんなりと第二の地球となり得る惑星が見つかって欲しいものだ。

 

航海計画を島から聞いた古代は第二艦橋を出ると、雪が古代を呼び止める。

 

「古代君」

 

「ん?どうしたんだ?雪」

 

「ちょっと話があるの。私の部屋に来てくれない?」

 

「?」

 

「揚羽君のことで、土門君が‥‥」

 

「分かった」

 

古代が雪の部屋に向かうと、土門が先に待っていた。

 

「揚羽がどうかしたのか?」

 

古代は早速土門に揚羽について訊ねる。

 

「実はついさっき、訓練校の同期から連絡があって‥‥」

 

土門は古代に先ほどティアナとうららから聞いた揚羽の現状を伝える。

 

「揚羽の奴、ヤマトを降りてからどうも荒れているみたいで‥‥」

 

「荒れている?」

 

「はい。同期の話じゃあ、酒を飲んでチンピラ相手に喧嘩をしていたみたいで‥‥でも、揚羽はそんな奴じゃあないんです。アイツは宇宙戦士になる事を訓練校に入る前から夢見ていました。今回のヤマト乗艦だって物凄く喜んでいたんです!!」

 

「「‥‥」」

 

古代も雪も流石に訓練校での揚羽の事は知らなかったので、土門の話に耳を傾ける。

 

「今回、突然ヤマトを降ろされたのはきっと揚羽の親父の差し金です!!」

 

「揚羽の父親?」

 

「はい。アイツの親父は揚羽財閥の総帥なんです。艦長も聞いた事がある筈です。揚羽電子とか、揚羽医療とか‥揚羽の実家は手広く商売をしている大手企業なんです」

 

「確かこのドックの建設にも揚羽財閥は関係していたな‥‥それに防衛軍で使用している電子機器も確か揚羽電子の機材が多数納入されていた筈だ」

 

「揚羽の親父は揚羽に会社を継いでもらいたいんです。訓練校で揚羽は愚痴っていましたから‥‥訓練校の入学時だって親父と揉めたって‥‥でも、あいつの親父は学生だからってことで、訓練校までの入学は許可して卒業後は軍人なんてやらせず、自分の会社にいれるつもりだって‥‥だから揚羽は繰り上げ卒業の事もヤマト乗艦の事も親父には黙っていたんですが、それがバレて‥‥」

 

「ヤマトを降ろされたってことか?」

 

古代の問いに土門は頷く。

 

「艦長、お願いです!!揚羽をヤマトに戻してくれませんか?艦長ならなんとかできるでしょう?」

 

「うーん‥‥」

 

古代は腕を組んで考え込んでしまう。

 

いくら自分がヤマトの艦長だからと言って他人の家庭環境まで口を出す権限はない。

 

同じ財閥系の良馬に頼めばもしかしたら何とかなるかもしれないが、現在その良馬本人が地球に居ない。

 

ならば、月村グループの総帥である忍に頼めば良いのではないかと思うも、自分と忍は面識がない。

 

それにこれが原因で月村グループと揚羽財閥の仲が拗れれば経済的な問題が発生するかもしれない。

 

自分は流石にそこまでの責任は負えない。

 

「土門君、揚羽君を救えるのは揚羽君自身なのかもしれないわ」

 

成り行きを見ていた雪が土門を諭すように言う。

 

「揚羽自身?」

 

「ええ、揚羽君が自分の意志でお父さんと戦わなくてはならないの‥‥それは自分の親から勘当され、揚羽財閥との関係を解消するぐらいの覚悟がないと‥‥」

 

「‥‥」

 

土門自身には分からないが金持ちの家に生まれ、何不自由なく生活してきた中で自分の夢の為にその金持ちの実家と縁を切る覚悟はかなりの覚悟ではないだろうかと傍から見ればそう思える。

 

今後の自分の生活の為に夢を諦めて金持ちの実家で親が決めたレールの上を走るか?

 

それとも困難を承知で金持ちの実家と縁を切って自分の夢を叶えるか?

 

確かに雪の言う通り、これは揚羽自身の戦いだ。

 

そう思うと自分には何もできない。

 

「確かに雪の言う通りだが、梃入れだけはしてみよう。俺が直接揚羽に会って来る」

 

古代としても優秀で才能のある若者をこのまま埋もれさせたくはないと言う思いから揚羽が自分で戦わなければならない事を自覚させる為に直接彼に会いに行くと言う。

 

「ありがとうございます!!艦長!!」

 

土門は古代に礼を言って雪の部屋から出た。

 

 

翌日、古代はメガロポリス東京にある揚羽の実家へと向かった。

 

流石に北アルプスのドックから直接車でメガロポリス東京にある揚羽邸に行くのは時間がかかるので、ヘリで最寄りの空港まで行き、そこから鉄道とレンタカーで揚羽の実家へと赴いた。

 

(こんな時に月村さんが居てくれたら心強いんだがな‥‥)

 

(そう言えば、南部や月村さんも軍への入隊の時は家族と揉めたのだろうか?)

 

揚羽の他に同じ艦橋メンバーである南部も大企業である南部重工業の御曹司であるが、問題なく士官学校に入り、ヤマトに乗艦している。

 

良馬も今では まほろば の艦長職を務めている。

 

二人が軍へ入隊した時、地球はガミラスとの戦争の真っ最中であり命の危険が高い軍への入隊をよく親が許したモノだと思う古代だった。

 

そして、やってきた揚羽の実家‥‥

 

(月村さんや南部の実家もでかいと聞いているが、揚羽の実家もでかいな‥‥)

 

揚羽邸を見ながらその大きさに圧巻される古代。

 

呼び鈴を押すとインターホンからは機械的な声がした。

 

「ハイ、アゲハデゴザイマス」

 

使用人ロボの様だ。

 

「私は地球防衛軍、宇宙戦艦ヤマト艦長の古代です。揚羽武さんはご在宅でしょうか?」

 

「ショウショウオマチクダサイ」

 

その使用人ロボに要件を伝えると、暫くして門が開き、古代は揚羽邸へと入った。

 

そして揚羽邸のリビングにて、古代は揚羽と再会するが、彼の顔には絆創膏やガーゼが貼られており、土門の話が本当だったことを実感する。

 

古代は揚羽に土門と雪の言葉を伝えると、

 

「そうですか‥‥森船務長に土門が‥‥」

 

「それで、揚羽はどうする?」

 

「どう?とは?」

 

「親の言いなりになるのか?それとも家族の縁を切る覚悟で自分の夢を叶えるか?‥‥これは自分との戦いだぞ、揚羽武」

 

「‥‥」

 

「タケシサマ、オキャクサマ、オチャデゴザイマス‥‥オチャ‥ド‥‥オチャチャ!!」

 

ガシャン!!

 

ドサッ!!

 

古代の言葉に揚羽が顔を俯かせていると、突如室内の電灯が点滅し、お茶を持って来た使用人ロボが倒れる。

 

「また電波障害か!?」

 

先日、北アルプスでも起きた大規模な電波障害がまたもや起こった。

 

 

「ノエル!?」

 

「‥‥」

 

ドサッ!!

 

揚羽邸で使用人ロボが倒れたのと同じように月村邸でもノエルが突然、固まり床に倒れる。

 

「またなの‥‥?一体、地球に何が起こっているの?」

 

長い時間ノエルと共に過ごしてきたが、こんな大規模な電波障害が起こり、ノエルが倒れるなんて事はなかった。

 

忍は地球に何か異変が起きているのだとノエルを見て察した。

 

当然この電波障害は北アルプスのドックで整備中のヤマトにも影響があった。

 

「機関長、電波障害の様です」

 

「何またか!?」

 

ヤマトの機関室で機関整備を行っていた徳川が計器の異常を機関長の山崎に報告する。

 

異常はヤマトの計器だけではなく、前回同様アナライザーもこの電波障害の影響を受けて倒れる。

 

また、アナライザー以外のロボットたちも同様にバタバタと倒れる。

 

更に今回の電波障害は前回のモノよりもひどく、かなりの広範囲で強力なモノであり、東京空港では管制塔と飛行機との間の通信機器が電波障害で使用不能となってしまった。

 

「電波障害だ!!」

 

「くそっ、またか!?」

 

「レーダーも通信機器も全部使えないぞ!!」

 

「やむを得ん、障害が回復するまで空港を閉鎖しろ!!急げ!!」

 

「大変だ!!一機着陸してくるぞ!!」

 

突然の電波障害で通信機器、レーダーが使用不可となり、空港を閉鎖しようとするも通信機器が使用できないので、空港閉鎖の連絡が出来ない中、閉鎖をする前に飛行場の滑走路に一機の中型飛行機が着陸してきた。

 

滑走路へ着陸してくる飛行機を見て、管制塔は大混乱となる。

 

一方、着陸してくるこの飛行機も計器が電波障害の影響で狂い操縦が困難になっていた。

 

「機長!!計器が!!」

 

「緊急着陸だ!!」

 

操縦が困難な中、着陸態勢をとると、滑走路の前方から小型の飛行機が離陸態勢を取ってきた。

 

「き、機長!!前方に別の機が!?」

 

「何!?う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

二機の飛行機は滑走路上で衝突し炎上する大惨事となった。

 

「急いで消防隊を向かわせろ!!」

 

「救助も急げ!!」

 

「空港内でも利用客がパニックを起こしています!!」

 

「警備員を総動員して対処させろ!!」

 

電波障害で大混乱している中での惨事に空港スタッフはもとより、空港に来ていた利用客も滑走路の惨事を見てパニックになった。

 

通信機器が使用不可で警察が呼べない中、空港内のパニックは警備員の手によって対処させるしかなかった。

 

 

各所で電波障害の影響で混乱になっている中、此処で視点を揚羽邸に戻す。

 

「っ!?母さん!?」

 

揚羽はハッとして立ち上がると急ぎリビングを出て玄関から外に出ると車に飛び乗った。

 

「お、おい、揚羽!!」

 

古代も急ぎ揚羽の後を追う。

 

(一体、どうしたんだ?揚羽は?それになんであんなに慌てているんだ?)

 

揚羽の車を追いかけながら彼の行動に疑問を覚える古代。

 

街中は電波障害の影響で鳥はギャアギャアと声を上げながら滅茶苦茶に飛び、路上ではネズミの大群が走り回り、信号機も消え大混乱になっている。

 

揚羽は車線や一方通行を無視してある場所へと向かう。

 

(街中も無茶苦茶だが、アイツの運転も無茶苦茶だぞ!?)

 

彼の後を追う古代も必至についていくが、揚羽の運転に思わず心の中でツッコム。

 

そして揚羽が向かったのは揚羽財閥が運営する病院であった。

 

(揚羽総合病院?ここも揚羽の実家が運営している病院か‥‥?)

 

車を駐車場に止めることなく、病院の玄関近くに乗り捨てるように止めると揚羽は駆け足で病院内に入っていく。

 

病院内も電波障害の影響でレジや受付機器、医療機器も止まっているのか医療スタッフや病院の利用者たちが混乱している。

 

混乱している病院内を揚羽はひたすら走る。

 

やがて、彼はVIP専用病棟にある一つの病室へと入っていく‥‥

 

病室の扉には『揚羽美佐代』と言う札があった。

 

(揚羽と同じ苗字‥それに女の人の名前‥‥揚羽の親族なのか?)

 

(そう言えば、揚羽は『母さん』と言って家から出て行ったな‥‥)

 

(揚羽の母親か?)

 

病室の扉にあった札と彼の言動からこの病院に入院しているのは揚羽の母親だと判断した古代。

 

揚羽が病室に入ると医療スタッフが突然の電波障害によって医療機器が止まり、それにより美佐代の体調が悪くなった様子を見てどうすればいいのか判断がつかないのかオロオロしている。

 

「何をしているんだ!!電源の復旧なんて待てるか!?手動にするんだ!!手動に!!貸せ!!」

 

揚羽は医療スタッフを押しのけ、自ら医療機器を操作し始めた。

 

「うっ‥‥あ‥‥」

 

やがて、美佐代の呼吸は安定して、彼女の意識がはっきりとすると美佐代は瞼をゆっくりと開ける。

 

「母さん、俺だよ!!武だよ!!」

 

「武‥‥?」

 

「母さん‥‥よかった‥‥間に合った‥‥」

 

揚羽は美佐代の意識が戻りホッとしているが、額には玉のような汗を浮かべているので、彼の焦りが窺える。

 

それは医療スタッフも同じでオーナー夫人を電波障害があったとは言え殺してしまったと思われれば自分たちは医療業界からあっという間に干されてしまうからだ。

 

「あとは、我々が行いますので‥‥」

 

美佐代の容態が安定したので、揚羽は後を医療スタッフに任せた。

 

「揚羽、すまなかった。お前が乗員解除命令にあっさりとしたがったのは母親の事情があったなんて‥‥俺からはもう何も言わない」

 

「古代艦長‥‥」

 

「じゃあ、俺はヤマトの事もあるから戻る」

 

古代が揚羽に手を差し出すと揚羽は辛そうに古代の手を握り返した。

 

「古代艦長、態々ありがとうございます」

 

「母親を大切にな‥‥」

 

古代には両親が居ない。

 

だが、揚羽には両親が居る。

 

しかし、母親の美佐代の容態は様子を見る限り決して安定している訳でない。

 

この先、容態が急変してそのまま還らぬ人になるかもしれない。

 

自分や土門みたいに親の死に目に会えない事は辛い。

 

そんな時に彼を第二の地球捜索任務に何て連れてはいけない。

 

(揚羽の事は諦めるしかないか‥‥)

 

家庭事情は家柄の問題だけではなかった事から古代は揚羽の復帰を諦め病室を後にした。

 

古代が病室から去った後、

 

「武、あの人は?」

 

美佐代は揚羽に古代について訊ねる。

 

「ヤマトの古代艦長だよ」

 

「まぁ、こんなところまで来てくださったの?挨拶も出来なかったわ‥‥申し訳ない事をしたわ‥‥」

 

「いや、いいんだ」

 

「それで、貴方は行かないの?」

 

「えっ?」

 

「ヤマトによ‥艦長さんが態々来てくださったのだから、貴方も乗るんでしょう?ヤマトに?」

 

「そ、それは‥‥」

 

「武はヤマトには乗らんよ」

 

揚羽が口ごもっていると、彼の事を代弁するかのように一人の男の声がした。

 

「父さん‥‥」

 

そこには揚羽の父親である蝶人が居た。

 

「武、本当なの?」

 

「‥‥」

 

美佐代の問いに揚羽は辛そうな顔で肯定も否定も出来ずに黙り込む。

 

「ほら、武。『ヤマトには乗らない』と言って、母さんを安心させてあげなさい」

 

蝶人のこの言葉に激しい衝動が揚羽の胸の中から突き上げてきた。

 

そして古代や雪、土門の言葉、訓練校のティアナとうららの姿が脳裏を過った。

 

「いやだ!!俺はヤマトに乗る!!」

 

「武、お前‥‥」

 

「今はっきりと分かった。俺の人生は俺だけのモノだ!!そして俺の未来は俺自身が決める!!俺はヤマトに乗る!!そして、星の海へ行く!!」

 

「そんな勝手を許すと思っているのか!?大体、お前はヤマトを降ろされたのだぞ!?」

 

「これまでは父さんの言葉一つでみんな縮み上がってきた‥‥俺もそうだった‥‥でも、もう違う!!」

 

「どう違う?既に乗組員解除命令を受けたお前がどうやってヤマトに乗る?密航でもすると言うのか?悪い事は言わない。このまま地球に残れ」

 

「くっ‥‥」

 

確かにヤマトの乗組員解除命令を受けたが、軍籍自体はまだ除籍されていないので、ヤマトへ再び乗るには乗組員解除命令を撤回してもらわなければならない。

 

蝶人の言う通り、密航をしても見つかれば途中でヤマトを降ろされてしまう。

 

それでは意味がない。

 

揚羽が苦々しく顔を歪める。

 

そんな中、

 

「あなた‥‥」

 

美佐代が弱々しく口を開くと、彼女は自分の身体に繋がれているチューブをギュッと手で握ると今にもそれらのチューブを身体から引き抜こうとする。

 

「お、お前、何をするんだ?止めなさい!!」

 

「そうだよ!!母さん、止めてくれ!!そんなことをしたら母さんが死んでしまう!!」

 

美佐代の行動に揚羽も蝶人も驚く。

 

「いいのよ、武。母さんは私のせいで武のお荷物になるつもりはないわ。貴方が自分の夢を捨てて意に沿わない人生を送るのを見ながら生きていくなんて嫌なの」

 

「母さん‥‥」

 

「さあ、あなた。軍に電話して武をヤマトに戻してあげて」

 

「むっ‥だ、だが‥‥」

 

蝶人も諦めがつかないのか口ごもる。

 

すると、美佐代はとどめと言わんばかりにチューブを握る手に力を籠め、今にも身体からチューブを引っこ抜こうとする。

 

「あなた、早くして!!私は死にたくないのよ!!」

 

「くそっ、どいつもこいつも家にはロクな奴がおらんな!!」

 

蝶人はやけくそ気味に叫ぶと復旧したばかりの電話機を取り、軍の人事課に電話を入れた。

 

何だかんだ言っても蝶人は愛妻家であったので、妻の命には代えられなかった。

 

こうして揚羽武のヤマト乗組員解除命令は、彼の母親である美佐代の懸命な言動により撤回されることになった。

 

 

揚羽の問題が病室で解決した頃、古代はレンタカーを返却し、ヘリを止めてある空港まで行く為に列車を待っていた。

 

『この電波障害で東京空港では飛行機同士の接触事故が起き、死者が多数出たと報告があり、消防、警察、空港関係者は現在消火・救助活動を行うと共に原因の調査を行っております』

 

駅にある街頭テレビでは先程の東京空港での飛行機の接触事故の報道をしていた。

 

『一連の大規模な電波障害は太陽の影響があるのではないかと言う指摘がありますが、太陽エネルギー省ではそれらの指摘を否定しております』

 

(白色彗星の時もそうだが、危機意識が欠如し過ぎじゃないか?)

 

古代は一連の電波障害はサイモン教授や倉田博士が主張する太陽の核融合異常増進が関係しているのだと確信していたのだが、太陽エネルギー省も連邦大統領府もそれを認めていない。

 

街頭テレビを見ながら連邦政府の対応の遅れに古代が嫌悪感を感じていると彼は声をかけられた。

 

「古代さん」

 

「ん?あっ、サイモン教授」

 

古代に声をかけたのは地球連邦大学のサイモン教授だった。

 

ただ、先日長官室で出会った時と異なりサイモン教授はやつれている様に見えた。

 

「いえ、私はもう教授ではありません」

 

「えっ?それはどういう事ですか?」

 

「クビになりました。太陽の核融合異常増進を主張した事が太陽エネルギー省の黒田博士の逆鱗に触れたみたいで‥‥」

 

「そ、そんなっ!?」

 

太陽の核融合異常増進は太陽エネルギー省の黒田博士にとっては目障りな主張であった為、それを黙らせるために黒田博士は地球連邦大学へ圧力をかけて、サイモン教授をクビにした。

 

それはまさに地動説を唱えたガリレオ・ガリレイの様であった。

 

大学を追放されればサイモン教授は研究も観測も出来ないので、これ以上は太陽の核融合異常増進を主張できないだろうと黒田博士はそう判断したのだろう。

 

サイモン教授が自分の知らぬ間に大学をクビになっていたなんて驚愕な事実だった。

 

「私の事よりもヤマトは‥ヤマトは宇宙へ行くのですか?第二の地球を探しに‥‥?」

 

「ええ、もちろんです」

 

「そうですか‥良かった‥‥それだけ聞ければ満足です。では、私はこれで‥‥」

 

「は、はい。サイモン教授もお元気で‥‥」

 

サイモン教授はそう言って踵を返し駅の雑踏の中に姿を消していった。

 

「サイモン教授‥‥必ず‥必ず、第二の地球を見つけてみせます」

 

サイモン教授の名誉の為にも‥地球人類の為にも何としてでも第二の地球を見つけてみせると意気込む古代だった。

 

 

サイモン教授の他にも黒田博士の逆鱗に触れてしまった者が居た。

 

それは地球連邦中央天文台の倉田博士だった。

 

彼もまたサイモン教授同様、太陽の核融合異常増進を主張した為、黒田博士が地球連邦中央天文台に同じく圧力をかけて、地球連邦中央天文台の責任者の座から引きずり下ろしたのだ。

 

「倉田博士‥何故、博士が異動だなんて‥‥」

 

地球連邦中央天文台の職員が倉田博士の異動に関して悲観する様に言う。

 

「ハハ、一応形だけでも栄転ではあるし、太陽エネルギー省でも観測業務は続けられる」

 

「し、しかし‥‥」

 

倉田博士はサイモン教授と異なり、白色彗星の接近を観測し、軍へ報告した実績からか軍への信頼もあり、サイモン教授の様に地球連邦中央天文台をただクビにする訳にもいかなかったので、一応、栄転と言う形で地球連邦中央天文台から太陽エネルギー省の観測部へと異動させた。

 

だが、これは倉田博士の動向を監視する為の行動でもあった。

 

「良いんだ。それよりも私とサイモン教授は今回の件から退くことになるが、この先も太陽の動きには注意してくれ」

 

「は、はい」

 

「君も先日起きた電波障害、そして今日起きた電波障害については知っていると思うが、太陽の異常な活動によって磁気嵐的に大規模に起きている。今後もこのような電波障害が起きるだろうし、それ以上の異常な出来事がこの先、地球で起きるかもしれない。その前兆は太陽の動きに必ずある筈だ。些細な動きも見逃さないようにな」

 

「分かりました」

 

倉田博士は部下に今後の太陽の動向を託して、地球連邦中央天文台を去った。

 

 

後日、揚羽がヤマトに復帰を果たし、古代と雪の復帰の挨拶をしてきた。

 

「古代艦長、森船務長。俺、父と戦って勝ちました!!これからもよろしくお願いします!!」

 

「そうか‥‥これからも頼むぞ、揚羽」

 

「良かったわね、揚羽君」

 

「はい!!」

 

「揚羽が帰って来たって!?あっ、艦長、船務長、すみません」

 

揚羽が帰って来た話を聞いた土門が駆け込んできた。

 

「いや、構わない。君たちは同期生だし親友なのだからな」

 

古代から許可を貰うと、土門は揚羽にヘッドロックをかける。

 

「揚羽、この野郎!!心配かけやがて!!ちゃんとランスターと日下部にも詫びを入れておけよ!!」

 

「分かっているよ」

 

土門からヘッドロックをかけられながらも揚羽は嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 

それほど、揚羽にとっては同期の土門と一緒にヤマトに乗れることが嬉しかったのだ、

 

同期でもあり親友の二人のそんな姿を見て、自分や島、兄の守、真田、トチローのような男同士の友情を微笑ましく見る古代と雪だった。

 

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