星の海へ   作:ステルス兄貴

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長かったクロノの休暇が明けました。

アルファ星の基地司令官の自己紹介場面がありますので、司令官には銀河英雄伝説のキャゼルヌ先輩を採用しました。

そして今回はクロノの士官学校の同期であるオリキャラが登場します。


百五十話 クロノの休暇明け

 

 

ケンタウロス座アルファ星近海へやってきたジュラたち、ガルマン・ガミラスの特使団一行。

 

その来訪目的がデスラーによる新国家の建国報告と地球との同盟だった。

 

しかし、いくら新国家となり名前を変えても地球人にとってガミラスもガルマン・ガミラスも同じ元侵略者なので、ガミラスに対する感情としてはすんなりと同盟を結ぶのは難しいと誰もが思い、特使団一行は一時、ケンタウロス座のアルファ星で待機してもらうことになった、

 

現在、アルファ星の守備艦隊に所属している まほろば の案内の下、特使団一行の艦隊はアルファ星の宇宙艦船ドックへ着陸した。

 

ジュラ、そして彼女の護衛であるメルダ、特使団の副団長であるローレン・バレルが乗艦していたガミラシアから降り、アルファ星の基地の司令官たちの前に現れる。

 

「ガルマン・ガミラス特使団のジュラです。こちらは私の護衛を務めるメルダ・ディッツ大尉」

 

「メルダ・ディッツです」

 

ジュラは自分たちを出迎えたアルファ星の基地の司令官たちに自己紹介とメルダを紹介する。

 

紹介されたメルダは基地司令官たちに自己紹介をしつつ一礼する。

 

「こちらは特使団、副団長のローレン・バレルさんです」

 

「ローレン・バレルです」

 

外務担当を務める文官と言う事でバレルはこれまで出会って来たガミラス人と異なり物腰が柔らかい印象を受けた。

 

「地球防衛軍、アルファ星兵站基地司令官のアレックス・キャゼルヌです。遠路はるばるご苦労様です」

 

特使団一行を出迎えたアルファ星基地の司令官であるキャゼルヌも主に主計等の軍における事務仕事で才幹を発揮する文官向きの軍人であり、バレル同様物腰が柔らかい軍人である。

 

「ジュラ様より、先日、ボラー連邦の艦船がこちらの惑星を攻撃したとお聞きしたのですが‥‥?」

 

「はい。突然の攻撃で、施設及び住民に被害を受けました」

 

「では、死亡者も‥‥?」

 

「‥‥はい。軍民問わず、少なからずの犠牲者を出しました」

 

ボラー連邦のアルファ星への攻撃は大規模なモノだったので、当然アルファ星には多数の死傷者が出ており、瓦礫の下敷きになり押しつぶされて即死する者も居れば、ミサイルの着弾の衝撃で吹き飛ばされる者も居れば、攻撃後瓦礫の下から救助されるも治療の甲斐も虚しく死亡した者も居た。

 

「「「‥‥」」」

 

キャゼルヌの説明を聞き、ジュラたちはいたたまれない気持ちとなる。

 

「‥‥キャゼルヌ司令官、もしよろしければその方々を弔わせていただいてもよろしいでしょうか?」

 

ジュラは先日に起きたボラー連邦からの攻撃で死亡した人たちを弔いたいと願い出た。

 

地球側から見たら、同盟締結のためのポーズだと捉える者も居るかもしれないが、それでも本来は地球とは関係ない外宇宙からの来訪者が地球人の死を悼んでいる。

 

例えそれがポーズであってもこうして願い出ているジュラの姿勢をキャゼルヌは汲んで、ジュラたちを基地内に設けてある遺体収容所へと案内する。

 

案内された遺体収容所には既に棺に納められた遺体が多数安置されていた。

 

犠牲者が納められているこの棺は、遺体を納める棺の役割の他に遺体の保存機能も有しているので、宇宙艦艇でも長い航海の中で事故や病死、戦闘による戦死等で死亡した者に対して宇宙葬を行う際に使用するために積み込まれている棺だった。

 

現在、遺体の身元確認と遺体の引き取りについて関係者へ連絡を入れている業務が行われている。

 

故郷である地球の地へ還すことを望む者が居れば、命を懸けて宇宙開拓を行ったこのアルファ星の地へ葬って欲しいと希望する者も居れば、関係者へ連絡がつかない者、生前なんらかの問題があり遺体の引き取りを拒否する者やあまりにも遺体の損傷が酷く身元が確認できない者も居た。

 

(生きている民間人は兎も角、地球へ葬ってもらいたいと希望をする犠牲者のご遺体は早く地球へ‥遺族の下に還してやりたいな‥‥)

 

遺体が納められている棺を見つつ、良馬は藤堂から民間人の地球への引き上げに関しては延長されるたが、地球の地で葬ってもらいたいと希望をする遺体だけでも地球へ還してやりたかった。

 

そんな数多くの遺体が安置されている遺体収容所にて、多数の棺の前でメルダとバレルは宇宙開拓に命を懸けた勇敢なる開拓者たちの鎮魂を祈り一礼し、ジュラは胸の前で手を組み犠牲者たちの冥福を祈った。

 

犠牲者たちの弔いを済ませ、ジュラたちは次に基地内にある応接室へ通され、今後の予定の確認を行う。

 

「銀河系中心部にあるガルマン・ガミラスからここまでの長距離航海で、そちらの艦でも色々と物資が消耗した事でしょう。こちら側も先日のボラー連邦からの攻撃を受け、ご覧の通り被災している状況下ですが、出来る限りの補給は提供いたしましょう」

 

長期間宇宙を航海したのだから当然、物資は消耗していることを宇宙戦士であり兵站部門で秀でていたキャゼルヌならば理解していた。

 

だからこそ、彼は外宇宙からの来訪者たちを冷たくあしらうことなく、ジュラたちをもてなした。

 

「地球側のご配慮に感謝いたします」

 

「それで、今後の予定ですが、地球には既に今回の特使団の件については既に報告済みであることはもうご存知かと思います」

 

「はい。月村艦長から聞いております」

 

「地球側も会談の日程を調節する為、しばしのお時間が必要とのことです」

 

「ええ、その辺りもご理解しております」

 

「ご理解、ありがとうございます。日程が判明次第、そちらへご連絡をいれますので、その間はこの基地の敷地内で待機していただきます」

 

ボラー艦隊からの突然の攻撃といくら国名を変えたとは言え、元はガミラスの人間が酸素適合薬を使用して出歩けるとは言え、やはり地球人と接し、互いに何らかの揉め事が起きるのは同盟の会談をこれから行う現状、それは何としてでも防ぎたかった。

 

旧ガミラス人は兎も角、ガルマン人にとっては自分たちの知らぬ恨みで地球人から恨まれることになるので、そう言ったトラブルも防がなければならない。

 

「わかりました」

 

ジュラもガミラスと地球の因縁からそうした理由を承知しておりキャゼルヌの提案を受け入れた。

 

こうしてジュラたちガルマン・ガミラスの特使団は地球側の日程が決まるまでアルファ星の基地で待機することになった。

 

一応、酸素適合薬を飲めば基地の敷地内であるならば、出歩くことを許可されていたので、特使団の団員たちは初めて見る地球の文化に触れていた。

 

ジュラの能力で特使団の団員が基地の外に出ようと考えればたちまちに見抜かれるので、特使団の団員たちはおとなしく指示に従っていた。

 

 

地球側で様々な出来事が起きている中、魔法世界であるミッドチルダでは‥‥

 

ボラー連邦への武力制裁が失敗して以降、クロノは長期の休暇を取り、最初の休暇期間が終わると更に休暇を申請した。

 

元々仕事人間だった為に有給休暇の期間がそれなりにあったので、普段できなかった家族サービスを行うことが出来、双子の子供たちも仕事で家を空ける事が多い父親が家に居て自分たちと遊んでくれるのを喜んでいた。

 

しかし、仕事をしている以上、休暇はいつか終わりが来る。

 

等々クロノの休暇期間が終わってしまう。

 

「はぁ~‥‥」

 

休暇期間終了の朝、クロノはこれから本局へ向かわなければならず、テンションは物凄く低い。

 

深いため息をつきながらも寝巻から本局制服のズボンを穿き、ワイシャツを着てネクタイを締める。

 

着替えを終え、リビングに用意されていた朝食の席に着く。

 

「お父さん、今日からお仕事?」

 

クロノの双子の兄であるカレルがクロノに訊ねる。

 

制服姿の父親の姿を見て今日から仕事なのだと察したのだ。

 

「ああ、今日からまたお仕事だ」

 

「今度はいつ帰って来るの?」

 

次に双子の妹であり、娘のリエラがクロノに今度の帰宅日を訊ねる。

 

「うーん‥‥今度はもしかしたら長いかもしれないな」

 

通常の休暇を更に延長したので、次の休暇はかなり長い間の勤務を行わなければ巡ってこないと判断したので、クロノは娘に次の休暇はかなり先になる事を教える。

 

「えぇ~そうなの~?」

 

「つまんない~」

 

再び父親が家に戻らない事実に子供たちは不満そうだ。

 

「ごめんな~お父さんもお前たちと一緒に居たいんだが、会社にはお父さんを待っている人が沢山居るんだ」

 

クラウディアの艦長として幾人もの部下が居るので彼らを見捨てる訳にはいかないので、休暇が終われば戻らなければならない。

 

「二人とも、お父さんがお仕事をしているから、ご飯を食べたり、二人が欲しいモノを買えるんだから我慢しないとね?」

 

エイミィがカレルとリエラに父であるクロノが仕事を頑張っている理由を話す。

 

「「はーい」」

 

エイミィの話を聞き、クロノとの暫しの別れを理解する二人。

 

その後、朝食を食べ終え、本局制服の上着を着たクロノは、

 

「じゃあ、行ってくる」

 

「「「いってらっしゃい」」」

 

「クロノ君、気を付けてね」

 

「ああ、エイミィや子供たちが居るんだ。そう簡単に死んでたまるか‥‥カレル、リエラ、お父さんが帰ってくるまで良い子にしているんだぞ。お母さんやアルフに迷惑をかけない様に‥いいか?」

 

「「はい」」

 

「うん。それじゃあ‥‥」

 

「うん」

 

家族に見送られクロノは地球から本局へと向かった。

 

(あの人たちも休暇明けはこんな気分なのだろうか?)

 

クロノはもう一つの地球‥‥防衛軍の宇宙艦船勤務の軍人たちも休暇が明け、再び宇宙艦艇勤務の時、家族や大切な人を残して宇宙へ出る際はこうした後ろ髪を引かれる気持ちなのだろうかと思いをはせる。

 

ボラー連邦の武力制裁前はこんな気持ちを抱くことはなかったが、武力制裁の失敗で‥眼前で大勢の仲間を失った現実と管理局の闇の一部を知りその不正さえも正そうとしない管理局の姿勢にあれだけ誇りに思っていた管理局の仕事に対してクロノの中では暗雲が立ち込めていた。

 

しかし、子供たちに言ったように今、自分が管理局を辞めるのは、自分の下に居る部下たちを裏切る事になる。

 

せめて信頼できる者にクラウディアと部下たちを託すまで自分は管理局を去る訳にはいかないとクロノは自分に言い聞かせた。

 

 

クロノが本局へ戻る少し前、その本局では‥‥

 

本局内にあるリンディの居住ルームにて、朝食を摂っているフェイトとリンディ。

 

「そう言えば、今日からクロノの休暇が明けて仕事に復帰するわ」

 

リンディはフェイトにクロノの職務復帰を伝える。

 

「そっか‥‥長く休んでいたみたいだから、次の休暇は結構先になるだろうからカレルやリエラは寂しいんじゃないかな?」

 

フェイトはクロノの子供たち‥‥自身にとっては甥と姪の二人が父親と長い間会えずに寂しい思いをするのではないかと思った。

 

「そうね‥‥でも、管理局の現状を見るとクロノにいつまでも休んでもらう訳にはいかないの」

 

「そうだね‥‥」

 

「それにエイミィもカレルもリエラもクロノの仕事の事をちゃんと理解している筈だからきっとわかってくれている筈よ」

 

「船乗りの宿命って奴かな‥‥?」

 

「それで、フェイト」

 

「ん?なに?」

 

「フェイトも執務官としてクロノの艦にまた同乗してもらいたいの」

 

「えっ?」

 

リンディはフェイトに今日、休暇明けするクロノが艦長を務めるクラウディアへ乗ってもらいたいと言う。

 

「マスコミへ記者発表をして査察部からの調査が一通り終わったと思うけど、まだ諦めきれない連中も少なからずいると思うの」

 

「ああ、確かに‥‥」

 

マスコミにも査察部にもまだフェイトに付き纏う者たちがいないとは言い切れない。

 

「今度のクロノの航海は少し長いモノになるからフェイトもクラウディアに乗ればそうした煩わしい思いをしなくても済むと思うんだけど、どうかしら?」

 

「うん、そうだね」

 

リンディの思いを理解したフェイトはこの後、本局へやって来るクロノと合流して、クラウディアへ乗艦することになった。

 

その為、フェイトは急いで荷造りをするのであった。

 

勿論その荷造りにはリンディも手伝った。

 

荷造りが終わり、クラウディアが停泊している本局の艦船ドックへとやってきやフェイト。

 

そこにはクラウディアの乗員たちがちらほらと集まっていた。

 

搬入口からは航海に必要な物資が積み込まれている。

 

クラウディアの他にも今日、航海に出るのか出航準備をしている艦も見える。

 

そんな中、クロノも艦船ドックへとやって来た。

 

「あっ、クロノ」

 

「フェイト?どうしてここに?」

 

「私も休職期間が開けて職務復帰したの。それで、今回はまたクラウディアに乗艦することになったんだよ」

 

「そうか、君も休み明けか」

 

「うん。またよろしくね」

 

「ああ、こちらこそ」

 

「それじゃあ、私は先に乗っているから」

 

クロノは提督兼艦長なので、出航手続きや搬入された物質の確認と受取書にサインしなければならない乗艦前の仕事等があるので、フェイトは先にクラウディアに乗艦した。

 

フェイトがクラウディアに乗艦する後ろ姿を確認した時、

 

「おや?そこに居るのはもしかして、クロノか?」

 

クロノの背後から自分に声をかける者が居た。

 

「ん?ああ、二コラウフか‥‥」

 

振り向くとそこにはクロノにとって知っている顔があった。

 

クロノに声をかけてきたのは二コラウフ・ロガン。

 

彼は管理局の士官学校におけるクロノの同期で二コラウフ本人が高ランクの魔導師であり、クロノの実家であるハラオウン家同様ロガン家は代々高ランク魔導師を輩出している名門家であり、二コラウフの父親も管理局ではかなりの地位に就いている。

 

「随分と長い休みをとっていたみたいだが、今日から復帰か?」

 

「あ、ああ」

 

「あの武力制裁からおめおめ逃げ戻って来た後、長期の休みをとるなんて復興に尽力している同僚にすまないと思わなかったのか?」

 

二コラウフは長期休暇明けのクロノに対して皮肉を言ってくる。

 

士官学校時代から二コラウフはクロノをライバル視してきた。

 

ハラオウン家と同じく代々高ランク魔導師を輩出し、自身も高ランク魔導師であった二コラウフは自分自身にも実家にも誇りを持っていた。

 

士官学校でも同期で自分に勝てる魔導師なんて居ないと思っていた。

 

しかし、その自信はあっけなく崩れた。

 

クロノは常に二コラウフの上を行っていた。

 

成績でもクロノは常に首席で自分は次席‥‥

 

家柄もハラオウン家は自分の家同様、代々高ランク魔導師を輩出してきた名門家であり、しかもクロノの父親であるクラウド・ハラオウンは自身の命と引き換えに闇の書を封じたと言う事で管理局でも英雄視されていた。

 

執務官になったのも自分ではなくクロノの方が先だった。

 

更に新暦65年、第97管理外世界においてPT事件、そして管理局の宿敵ともされる闇の書を完全に封じた闇の書事件の解決にも貢献し、母親のリンディ・ハラオウンはPT事件の被告人ながらも高ランク魔導師であるフェイトを養子にし、管理外世界出身者にも関わらず今では管理局では知らないと人が居ないとされるエース・オブ・エース、高町なのはをスカウトし、親子で八神はやての後見人となった。

 

その八神はやては新暦75年、試験運用ながらも機動六課を開設し、その年に起きたJS事件を解決に導いた。

 

その功績は後見人であったハラオウン親子にもはやての後見人と言う事で任命功績を得た。

 

士官学校卒業から自分とクロノ‥ハラオウン家とは明確な差が出来てしまった。

 

プライドが高かった二コラウフとしてはクロノをライバル視‥と言うか、彼に対して嫉妬心を抱くのも当然であった。

 

そんな中、管理局の次元航行艦がボラー連邦なる蛮族に襲われ、更には民間人も多数犠牲となる大事件が起きた。

 

管理局は当然、一連のボラー連邦が行った蛮行を許容する訳がなく、ボラー連邦に対して宣戦布告無しの武力制裁へと踏み切った。

 

武力制裁には管理局の新鋭艦に“空”のエースたちも投入するほどのこれまでにない大規模な制裁だった。

 

この制裁に関して管理局の高官の間では武力制裁は成功だろうと楽観視する者もいれば、管理局は負けるのではないかと悲観視する者も居た。

 

二コラウフの親はこの武力制裁に対するリスクを思い、息子をこの武力制裁に不参加させるように動き、息子はこの武力制裁には参加しなかった。

 

一方、クロノは参加することになり、二コラウフは万が一この武力制裁が成功したら、またクロノの株が上がるのではないかと思うが、結果は管理局側の大敗北で武力制裁に参加した艦の8割~9割の大損害を出した。

 

二コラウフは管理局の敗北でクロノが殉職したかと思ったが、悪運でもあるのかクロノは生きて戻って来た。

 

クロノが指揮するクラウディアの帰還に彼が舌打ちしたのは言うまでもない。

 

ただ武力制裁失敗から直ぐにクロノは長期の休暇を取りしばらくの間、本局でクロノの姿を見る事は無かった。

 

その間、クラウディアもドックで整備を施し、乗員たちも交代で休暇をとった。

 

そんな中、クロノの休暇期間が明けて、こうして自分の目の前に立っている。

 

二コラウフにしてみれば、クロノはボラーと言う蛮族相手に無様に負けた負け犬なので、見下すにはいい機会だった。

 

「休暇を取ったのは事実だが、あの戦いで艦は傷つき、乗員たちにはメンタル面も考慮して休みが必要だった」

 

クロノは二コラウフの皮肉をもろともせずに艦や乗員たちの事を考えて休みを与え自分も休んだことを言う。

 

「ふん、まぁいい。今度の航海はお前の艦は俺の艦と同行するみたいだが、休暇明けで感覚が鈍ったなんて言い訳をして俺の足を引っ張らないでくれよ、おめおめと戦場から逃げ帰った負け犬のクロノ君」

 

二コラウフは手をひらひらと振りながらその場を後にする。

 

彼としてはクロノの言葉は苦し紛れの言い訳か負け犬の遠吠えにしか聞こえなかったので、実に気分が良かった。

 

クロノは二コラウフの後姿をジッと見つめながら、

 

「僕が負け犬ならば、お前は戦いもせずに逃げた臆病者だよ」

 

と、座った眼でボソッと呟いた。

 

やがて出航手続きが全て終わり、クロノはクラウディアのブリッジへと上がる。

 

「あっ、クロノ提督」

 

「お久しぶりです。提督」

 

ブリッジにあがるとクロノは乗員たちから声をかけられる。

 

クラウディアは元々クロノの人柄もあるが、あの武力制裁を経験し、クロノと乗員たちとの絆はグッと固いモノとなった。

 

「みんなも元気そうでよかった。すまなかった。艦の長たる僕が長期の休暇をとってしまって‥‥」

 

クロノはブリッジの乗員たちに謝罪する。

 

「いえ、そのようなことは‥‥」

 

「そうですよ。クラウディアも整備が必要でしたし、私たちも休みを取れて息抜き出来ましたから」

 

クラウディアの乗員たちはクロノとはちょっと事情は異なるが、あの地獄のような戦場から生きて戻れたが、トラウマのようなモノを抱え、心の整理がつくまで休息は必要だった。

 

今回の休暇はクラウディアの乗員たちには必要不可欠であった。

 

やがて、出航準備が整うとクラウディアは出航する。

 

そして、今回クラウディアの航海に同行するのはついさっき出会った二コラウフが艦長を務めるSX級次元航行艦のソラーズとなっている。

 

武力制裁失敗後、管理局は数隻で一組の隊として航海を行いもし、宇宙空間で管理局以外の宇宙船を発見した場合、決して相手に通信は行わずその場から急ぎ撤退するようにリンディから訓示が出されていた。

 

誇りある時空管理局の艦が他の勢力の宇宙船を見て急ぎ逃げるのは管理局の魔導師としてのプライドが許さないかもしれないが、そもそもボラー連邦とのいざこざの原因は管理局の次元航行艦が高圧的にボラー連邦の宇宙船が輸送していた貨物を奪い取ろうとした結果、その後に起きた結末は言うまでもない。

 

管理局の次元航行艦乗りは内心、悔しい思いを抱きつつも最終的には自身の命が大事なので、リンディからの訓示を守っていた。

 

本局を出航したクラウディアとソラーズは広い宇宙を航海しながら管理局がまだ把握していない管理世界になりうる惑星を探すと同時に測定を行い宇宙海図を作成しながら航海を続けている。

 

ただ今回の航海は日程が決められた航海ではなかったので、長期間の航海となり食事も航海の日数が増えるにつれ、味気ない宇宙食へと変わっていく。

 

「‥‥防衛軍のO・M・C・Sがあれば長期航海でも色々と食べる事ができたのになぁ~‥‥」

 

クラウディアの食堂にてお皿の上にあるチューブ状の宇宙食を見ながらフェイトは愚痴を零す。

 

「そんなに凄いモノなのかい?そのO・M・C・Sと言う機械は‥‥?」

 

フェイトの向かい側に居るクロノは彼女の愚痴を聞いてO・M・C・Sについて質問する。

 

「うん。どんな原理かは教えてもらえなかったけど、土星圏からイスカンダル、イスカンダルから地球までの航海でほぼ補給なしの状態で色んな食事を出していた」

 

フェイトは第二次イスカンダルでの航海における防衛軍の食事事情をクロノに教える。

 

「通信ポッドが設置されていたヘリオポーズじゃあ、赤道祭をやってかなりの量の料理をだしていたし‥‥」

 

赤道祭の事をクロノに伝えるとフェイトの脳裏にあの黒歴史とも言えるフェリシアとの舞台が過る。

 

しかもあの時の映像は管理局内でもある程度の人数に知られてしまっている。

 

「‥‥」

 

「ん?どうした?」

 

フェイトが赤道祭での黒歴史を思い出し、複雑そうな表情を浮かべているとクロノが声をかけてきた。

 

「あっ、ううん、なんでもないよ」

 

「そ、そうか‥‥だが、軍艦に備えられていた機械なんだ。そのO・M・C・Sも防衛軍にとっては軍事機密の一つに当たるのだから、部外者にはそう簡単に原理は教えないだろうさ」

 

「それはそうなんだけどね‥‥」

 

まほろば ヤマトに乗艦したフェイトとしては長期間の航海ながらも普段の食生活と変わらない料理を提供してくれたO・M・C・Sの存在は管理局の艦に欲しい装備品であった。

 

しかし、クロノの言う通り、軍艦は機密情報の塊とも言える代物であり、その軍艦に備わっている機械なのだからO・M・C・Sも軍事機密に当たる機械なのでどんな構造をしてあれほどの料理を提供できるのか当然部外者だった自分には教える訳にはいかない。

 

それは分かっているのだが、一度快適な航海を経験すると、どうしても見比べてしまう。

 

フェイトとクロノが食堂で味気ない食事をしていると、

 

 

グラン‥‥

 

ゴゴゴゴゴゴゴ‥‥

 

グラグラグラグラ‥‥

 

 

突如、クラウディアの船体が揺れ、異常な振動が襲い掛かる。

 

「キャッ!?」

 

「な、なんだっ!?」

 

船体の揺れと異常振動‥‥艦に何か起きた証拠であり、二人は急ぎブリッジへと向かった。

 

「どうした!?何があった!?」

 

「異常な重力波が本艦に作用しています!!」

 

「なにっ!?」

 

「重力制御装置が効きません!!どんどん引っ張られていきます!!」

 

「本艦同様、ソラーズも引っ張られています!!」

 

「機関室出力を上げろ!!」

 

クロノは機関室へ連絡を入れ、機関出力を上げて振り切ろうとする。

 

「もっか補正しておりますがダメです!!」

 

「機関長、エンジン出力が低下していきます!!」

 

「オーバーブーストに非常電源も使え!!」

 

「は、はい」

 

クラウディアとソラーズは何かに引き寄せられるかのようにどこかへ引っ張られて行く。

 

「ん?あれはなんだ!?」

 

外に広がる宇宙空間には靄の様な気流があり、それにクラウディアとソラーズは流されている。

 

「現在、分析をしています」

 

「機関室、もっと出力を上げろ!!」

 

「それが、三度もチェックを行い、非常電源等の手段もやっているのですが、出力が上がりません!!」

 

「逆噴射もブレーキも効きません!!引きずりこまれます!!」

 

気流の流れに逆らい脱出を図るクラウディアとソラーズだが、それは無駄な抵抗となり、二隻の次元航行艦はどんどん流されていく。

 

「通信士、本局へ緊急連絡を入れろ!!」

 

「は、はい!!司令部、こちら次元航行艦、クラウディア!!本艦及びソラーズは宇宙気流の影響を受けている!!至急救援を!!現在位置は‥‥」

 

通信士は本局へクラウディアとソラーズの現状を伝える。

 

「繰り返す、こちら次元航行艦、クラウディア‥‥」

 

通信士は通信が可能な限り本局へ通信を送った。

 

その内に外の景色は星もない漆黒の空間へと変わっていく。

 

「提督、気流の成分分析が終わりました。この気流の正体は水素です!!」

 

「なにっ!?水素だって!?」

 

「はい。水素ガスの総量はミッドにある太陽の十倍、水素の噴流は毎秒二百キロ」

 

「提督この気流はあまりにも異常です」

 

「ああ‥‥これはただの宇宙気流ではない」

 

クロノは艦の外をジッと見ながら言う。

 

「と言いますと?」

 

「これはもしかして空間の歪みで出来た異次元断層の発生が原因かもしれない‥‥外をよく見てみろ」

 

「えっ?」

 

クロノが指をさすとブリッジに居た乗員たちは外を見る。

 

すると、そこには様々な形、様々な大きさの宇宙船が漂流していた。

 

「あ、あれはっ!?」

 

「次元断層に落ちて脱出できなかった宇宙船だ‥‥」

 

「い、いろんな宇宙船があるな‥‥」

 

「まさに宇宙の墓場だ」

 

外の光景を乗員たちは息を吞むように感想を述べるが、それと同時に自分たちの周囲の宇宙船の様になるのだと言う絶望感も同時に漂い始めた。

 

 

クラウディアとソラーズからの緊急伝は本局でも受信された。

 

「クラウディア、ソラーズ、こちら時空管理局、本局!!現状を伝えよ!!クラウディア、ソラーズ!!」

 

クラウディアとソラーズ、二隻の通信士の様子から何かアクシデントが起きたのは明白であった。

 

「あっ、ハラオウン統括官」

 

そんな中、リンディが本局の指令室へとやって来た。

 

「クラウディアに何かあったの!?」

 

「はい。クラウディアとソラーズが宇宙気流に流されたみたいで、その後通信が途絶えました」

 

「なっ!?」

 

オペレーターがリンディにクラウディアとソラーズの現状を説明すると彼女は言葉を失う。

 

「最後の通信位置は判明していますので、急ぎ救援を送ります」

 

「え、ええ‥そうしてちょうだい」

 

フェイトが遭難し、もう一つの地球からやっと帰って来たと思ったら再び遭難してしまった。

 

しかも今度は息子のクロノまでも‥‥

 

リンディは、表面上は冷静に徹していたが内心は気が気ではなかった。

 

そこで、リンディは急ぎ‥‥

 

「な、なんやて!?クロノ君のクラウディアが!?」

 

「ええ、どうやら宇宙気流に流されてしまったみたいなの」

 

ヴォルフラムに乗艦しているはやてに通信を送った。

 

「それにクラウディアにはクロノの他にフェイトも乗っているのよ」

 

「ええぇぇー!!フェイトちゃんまで!?」

 

「ええ、マスコミや査察部の連中から遠ざけようと思って‥‥それがまさかこんな事になるなんて‥‥」

 

リンディとしてはフェイトに対して良かれと思った行動が、再びフェイトを危険に晒してしまったことを後悔する。

 

「それでクラウディアの位置は分かっているんですか!?」

 

「ええ、宇宙気流に流されながらも本局へ連絡を入れていたわ‥‥クラウディアの座標が最後に判明している位置は此処よ」

 

リンディはヴォルフラムにクラウディアが通信を送って来た位置を伝える。

 

「本局からもクラウディアとソラーズの救援を出したけど、はやてさんのヴォルフラムも現場に向かってもらえるかしら?」

 

「分かりました。ヴォルフラムも急いでクラウディアの遭難現場に向かいます!!」

 

「ありがとう‥‥ただ、遭難現場の近くにあるとされる宇宙気流には気を付けてね。クラウディア、ソラーズと同じ運命を辿れば悲劇が大きくなるから」

 

「はい」

 

クラウディアとソラーズの救援のためにはやてが艦長を務めるヴォルフラムもクラウディアとソラーズの遭難現場へと向かった。

 

 

クラウディアとソラーズが宇宙気流に流され、次元断層に落ちた時、なのはとはやての故郷である第97管理外世界の地球‥海鳴市にあるハラオウン家のリビングでは‥‥

 

ガタッ、パリン!!

 

地震が起きてもいないのにクロノ、エイミィ、カレル、リエラの家族写真が納められている写真立てが床に落ちてカバーガラスが割れた。

 

「あっ、写真立てが‥‥」

 

エイミィが壊れた写真立てを見つけポツリと呟く。

 

「ま、まさか、クロノ君の身に何かあったんじゃあ‥‥」

 

地震も起きていないにも関わらず床に落ちて壊れた写真立てを見て虫の知らせのような感覚を覚えたエイミィだった。

 

 

その頃、次元断層に落ちたクラウディアとソラーズでは‥‥

 

「機関停止、ソラーズと通信は可能か?」

 

「はい。近距離ならなんとか」

 

「では、繋いでくれ」

 

「了解」

 

クロノはエンジンを止め、ソラーズとの通信を試みた。

 

彼としては二コラウフと話なんてしたくはなかったが、こうした緊急事態なのでやむを得なかった。

 

「ロガン艦長」

 

「なんだ?クロノ。今、忙しいんだ。お前と無駄話をしている暇は俺にはない!!」

 

ソラーズでも似たような状況で乗員たちは半ばパニックになっていおり、二コラウフは不機嫌そうな様子だった。

 

「こんな状況だからこそ、冷静にならなければ事態は益々悪化するぞ。ひとまずエンジンを止めて‥‥」

 

「うるさい!!俺に指図をするな!!」

 

「しかし、ここは冷静になってエンジンを止めて、エネルギーの節約を‥‥」

 

「入り口があるのだから、出口もある筈だ。俺たちソラーズは独自で出口を探す!!」

 

「やみくもに動いてもエネルギーを無駄に消費するだけだぞ!?落ち着けって!!」

 

「だったらお前はずっとそこに居るがいい!!俺たちはこんなところで死ぬなんて真っ平御免だからな!!」

 

そう言って二コラウフは通信を切り、ソラーズは出口を求めて次元断層内に広がる漆黒の闇の中へと消えてしまった。

 

「ソラーズ!!応答しろ!!ソラーズ!!おい、二コラウフ!!戻ってこい!!」

 

クロノがいくら通信を送っても二コラウフが‥‥ソラーズがクロノからの通信に応えることはなく、またクラウディアの傍に戻ってくることもなかった。

 

「くっ、あのバカが‥‥」

 

二コラウフの行動に思わず毒づくクロノ。

 

「提督、我々はどうしますか?」

 

「ソラーズの様に出口を探しますか?」

 

「‥‥本局へは連絡を入れてあるか?」

 

「はい。気流付近の位置の座標は送ってあります。しかし、この次元断層内まで救援が来る可能性は‥‥」

 

「分かっている。それは極めて低いだろうな」

 

次元断層に落ちて遭難をしたのだから、その次元断層内に来ては二重遭難となるので、救援がこの次元断層内まで来ることはないだろう。

 

ならば自力で次元断層を抜けた後、通常空間で救援をまたなければならない。

 

「フェイト」

 

「はい」

 

「武装局員数名を率いて周囲の様子を探索してくれるか?」

 

「分かったよ」

 

クロノはフェイト以下数名の武装局員に小型艇で周囲を遭難している宇宙船の探査を命じた。

 

もしかしたらこの次元断層から脱出する手がかりがあるかもしれないからだ。

 

真空の宇宙なのでバリアジャケットは展開できないが、手にはバルディッシュを持ち宇宙服を着て自分と同じく展開されたデバイスを手にした武装局員らと小型艇で周囲の宇宙船を探査した。

 

遭難している船なので、電源は落ちており艦内は暗く光源は宇宙服に装備されている懐中電灯の明かりのみ‥‥

 

「暗く、静かで不気味ですね‥‥」

 

暗い船内を慎重に進むフェイトたち。

 

「ひぃっ!?が、ガイコツ!?」

 

船内のあちこちには既に白骨化している乗員らしき遺体もあった。

 

白骨化した遺体を見て思わず悲鳴を上げる局員。

 

「生きている人は誰も居ない‥‥外の光景同様、まさに死の世界ね‥‥」

 

外は宇宙船の墓場であり、その宇宙船の中はまさに宇宙船乗りの棺となっている。

 

(この人たちにも帰りを待っている家族や大切な人も居たんだろうな‥‥)

 

白骨化した乗員の遺体を見てフェイトは死亡している乗員たちの家族や恋人の事を思うと胸が痛む。

 

しかし、この次元断層から脱出しなければ自分たちも彼らと同じ運命をたどる事になる。

 

何としてでも脱出の手がかりを見つけなければならなかった。

 




次元断層に落ちるのは松本零士先生の作品では鉄板なので、今回はクロノ君たち、クラウディアが次元断層へと落ちました。
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