星の海へ   作:ステルス兄貴

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旧作のスターシアは波動砲については特に言及をしていなかったので、次元断層からの脱出の最後の鍵が波動砲と言うリメイク版と同じ設定にしました。

本来は波動砲が次元断層からの脱出の鍵ですがアルカンシェルの特徴とクロノの機転で無事に次元断層から脱出することが出来ました。


百五十二話 脱出

 

 

管理世界になり得る世界の探査を目的とした長距離航海を行っている最中に次元断層へ落ちてしまったクラウディア。

 

クロノは次元断層からの脱出の手がかりを求めてクラウディアと同じく次元断層にはまり込んで遭難してしまった他の宇宙船の調査をフェイトに命じる。

 

クロノから次元断層にはまり込んで遭難してしまった宇宙船の調査を命じられたフェイトは同僚を引き連れて周辺の宇宙船を調査するとほとんどの宇宙船は動力が停止して乗員は白骨化した遺体となり、食糧などの物資も見つからない状況が続いた。

 

そんな中、ある宇宙船の調査では運搬中だったのか蜘蛛に似た宇宙生物に同僚が襲われる事態が起きたが、フェイトは初めて殺傷設定でその宇宙生物を一撃で斃した。

 

その後の調査で宇宙生物が運搬されていた宇宙船はまだエネルギーが残されていたので、クラウディアへとドッキングした。

 

調査後にまだ、エネルギーが残っている宇宙船があるかもしれないと調査を続け、クラウディア周辺の宇宙船を調査し続けエネルギーが残っている宇宙船を見つけ、それらの船をクラウディアにドッキングした。

 

エネルギーがある宇宙船をドッキングしたことによってクラウディアのエネルギー問題はしばらくの間は解決したが、食糧問題等は未だに解決出来ておらず、本局を出てからこの宙域まである程度の日数が経っており食糧も減っている。

 

エネルギーがあっても食べる物が無ければクラウディアの乗員は死に絶えてしまう。

 

いや、それ以前に艦内で同僚同士の殺し合いが起きるかもしれない。

 

そうなる前に一刻も早くこの次元断層から出る必要があった。

 

脱出の手がかりを捜している中、フェイトが次元断層の空間を漂う一つのカプセルを見つける。

 

カプセルを収容してクラウディアで解析するとなんとそのカプセルはイスカンダルの女王、スターシアがヤマトの為に敢えてこの次元断層内に送り込んだカプセルであった。

 

カプセル内にはスターシアからのメッセージとこの次元断層を脱出する為のルートが記載されていた。

 

これで次元断層から脱出する事が出来る。

 

しかし、クラウディアの乗員たちには一つの懸念があった。

 

それは自分たちと同じく次元断層に落ちてしまった僚艦のソラーズの事だ。

 

ソラーズは次元断層に落ちてから直ぐにクロノの制止を聞かずに出口を求めて次元断層の奥深くへ行ってしまった。

 

クラウディアは次元断層からの脱出の手がかりを掴んだが、僚艦のソラーズは行方知れず‥‥

 

ソラーズ一隻を捜しまわって次元断層内を動き回ってしまっては、折角解決したエネルギー問題が再燃してしまうし、食糧問題は未だに解決していない。

 

ソラーズの艦長である二コラウフはクロノ個人としては苦手な同期生であったが、ソラーズには彼以外にも大勢の乗員たちが居た。

 

自分が下した決断は二コラウフを始め、ソラーズ全乗組員を見殺しにする決断でもある。

 

クロノはクラウディアの乗員たちの安全を優先する為、ソラーズを‥彼らを見捨てる決断を下したのだ。

 

しかし、クロノの決断に異議を唱える者は誰も居なかった。

 

脱出の手がかりを掴んだとは言え、今も遭難しているのは変わらない。

 

そんな中で、ソラーズを捜しに次元断層の奥深くへ行けば次元断層からの脱出する機会を永遠に失うかもしれない。

 

クラウディアは辛い決断をした後にスターシアが記した針路を進む。

 

「クロノ‥‥」

 

味方を見殺しにすると言う辛い決断をしたクロノを見つめるフェイト。

 

「ハラオウン執務官、我々も同じ気持ちです。ですが提督の判断も間違ってはいません‥‥状況によっては非情な決断を下さなければならない‥‥これも提督の仕事の一つなのです」

 

クラウディアの副長がフェイトにクロノの気持ちを代弁する。

 

「‥‥うん‥そう‥だね」

 

(クロノだけではなく、きっと防衛軍の艦長さんだってこんな決断をした筈だよね‥‥)

 

(古代守さんも沖田艦長も‥‥)

 

絶滅をかけた戦争ではきっと今回クロノが決断したような仲間を見捨てる、仲間の屍を踏み越えてでも作戦を成功させなければならない事態が多々あった筈だ。

 

古代守もあの冥王星会戦で、味方を逃がすために自らの艦を囮として、ガミラス艦隊へと突っ込んで行った。

 

自分一人だけでなく、当時有人艦であった雪風の乗員たちと共に‥‥

 

結果的に古代守はガミラスの捕虜になり、その後にスターシアの手で救助されたが、自分一人生き残ってしまった。

 

古代守としては辛い経験になったに違いない。

 

沖田艦長もそんな雪風を見捨てる決断をし、それまでのガミラスとの戦いで大勢の部下を失う経験をしてきた。

 

今回の経験はクロノもクラウディアの乗員たちにとっては辛い経験になったのは言うまでもないが、それは決して無駄になってはおらず、成長の糧に繋がるに違いない。

 

 

クラウディアが次元断層へ落ちて遭難した事はリンディから海鳴で暮らすエイミィにも伝えられた。

 

「えっ!?そんなっ!?クロノ君が!?」

 

当然、エイミィが受けた衝撃は計り知れない。

 

「リンディさん、間違いないんですか!?」

 

エイミィとしては夫の艦が次元断層へ落ちたなんて信じたくはなく、誤報だと信じたかった。

 

「クラウディアからの最後の通信から間違いないわ‥‥」

 

「そ、そんなっ‥‥」

 

しかし、現実は残酷でありクラウディアが次元断層へ落ちたのは間違いではなかった。

 

「く、クロノ君は‥‥クロノ君は助かるんですか!?」

 

「急いで救援の艦を現場に向かわせたけど、次元断層は通常の空間と違うから‥‥」

 

「‥‥」

 

リンディの返答に俯くエイミィ。

 

いくらリンディでも次元断層についてはどうしようもない。

 

故に義娘を励ます言葉が見つからない。

 

何かを言ったところで気休めにもならないのはリンディ自身も分かっているからだ。

 

クラウディアが次元断層に落ちた事をエイミィに黙っていても良かったのだが、黙っていてもクロノがいつまでも帰らなければいずれはバレる事なので、リンディは早めにエイミィへ伝えたのだ。

 

「‥‥エイミィ、残酷な事を言うのは承知しているけど、最悪の事態を覚悟しておいてね」

 

「‥‥はい」

 

エイミィとて次元航行艦勤務をしていたので、次元断層の事は知っているし、そこへ落ちた者の末路も当然知っていた。

 

リンディの言う『最悪の事態』‥それはクロノの殉職のことを指す。

 

エイミィは重々しく返答するしか出来なかった。

 

「‥‥」

 

リンディからの通信を切るとエイミィはまだ項垂れたままだ。

 

そこへ、

 

「お母さん、どうしたの?」

 

「何かあったの?」

 

カレルとリエラが母の異変に気付いて声をかけてきた。

 

「ううん、なんでもないよ。ちょっとリンディさんとお話をしただけ」

 

エイミィは子供たちに悟られない様に空元気ながらも明るく振舞った。

 

しかし、リンディが思ったようにクロノがいつまでも帰らなければ子供たちも不審に思うだろうが、まだクロノが死んだと完全に決まった訳ではない。

 

せめてクロノの殉職が正式に決まるまでエイミィは子供たちに黙っている事にした。

 

(クロノ君‥‥クロノ君がそう簡単に死ぬ筈がないよね‥‥)

 

(私も子供たちも待っているから‥‥)

 

だが、エイミィは最後まで希望を捨てる事はなかった。

 

この時、リンディはフェイトもクラウディアに乗艦している事をエイミィに伝えておらず、もしそれを知っていればエイミィは常にフェイトの使い魔であるアルフの様子を注視していただろう。

 

フェイトが彗星帝国の残党に襲われティアナと共に遭難した際、クロノはエイミィにアルフの様子を注視するように言っていた。

 

もし、フェイトの身に何かあれば使い魔であるアルフの様子にも変化が現れるからだ。

 

しかし、今回はリンディがエイミィにフェイトの事を伝え忘れていたので、エイミィがアルフの様子を注視することがなく、後にフェイトがあの時、クラウディアに乗艦していた事を知り、リンディに詰め寄ったのは言うまでもなかった。

 

 

家族たちが心配している中、星の明かりもない次元断層内をスターシアが作成した針路に従って進むクラウディア。

 

「周囲の遭難船に気を付けて進め。今のクラウディアは他の宇宙船をドッキングさせているから普段の様に舵は利かないぞ」

 

「りょ、了解」

 

クロノが航海長に注意を促すと航海長は緊張した様子で操舵する。

 

するとある地点で停止のサインが出た。

 

「て、提督。指示ではこの空間で停止するようにと出ています」

 

「分かった。ひとまず機関停止」

 

「機関停止」

 

停止指示が出た空間でクラウディアがエンジンを停止すると、再びスターシアのメッセージが流れる。

 

するとスターシアのメッセージからはこの空間で波動砲を撃てば次元の壁を一時的に打ち壊して穴を開けることが出来るので、穴が開いている内にそこを通れば通常空間へ出られるとの事だ。

 

スターシアのメッセージを聞いてクロノたちは再び頭を抱える事になる。

 

クラウディア艦内の会議室では重苦しい空気で艦上層部の局員らで会議が行われていた。

 

「まさか、脱出の最後の鍵があの波動砲とは‥‥」

 

次元断層内からの脱出の最後の鍵が波動砲であることに副長は思わず頭をかく。

 

「しかし、スターシア陛下は何故波動砲の存在を知っているんだ?‥‥メッセージでは、ヤマトがまだイスカンダルへ到着する前の事だと言うのに‥‥?」

 

クロノはスターシアがまるでヤマトに波動砲が搭載されることを見越しているかの様な発言に疑問を抱いた。

 

「いえ、それについては疑問に思う事ではありません」

 

クロノの疑問にフェイトはあっさりと回答する。

 

「それはどういうことだ?」

 

「ヤマトの波動エンジンは元々スターシア陛下が妹のサーシア殿下に託した設計図からもう一つの地球の技師たちが形にしたモノであり、恐らく波動エンジンの設計図が記されたデータには波動エンジン以外に波動砲のデータないし、波動砲の設計図も一緒に添付されていたんじゃないかな?」

 

「なるほど‥‥スターシア陛下はヤマトが波動エンジンの他に波動砲を搭載する事も見越していた訳か‥‥」

 

フェイトの説明を聞き納得するクロノ。

 

「しかし、提督。スターシア陛下がヤマトに波動砲を搭載する事を見越していたとしても我々はその波動砲を有しておりません。これではせっかく手に入れた脱出の手がかりも無駄に終わります」

 

「今からでも別の出入り口を捜しに行きますか?」

 

ヤマトに備わっている波動砲‥‥当然、管理局の次元航行艦であるクラウディアに搭載されている筈がない。

 

「アルカンシェルでは威力は足りませんか?」

 

そう、ヤマトに波動砲と言う切り札があるように管理局の次元航行艦にもアルカンシェルと言う切り札がある。

 

JS事件の折には古代兵器である 『聖王のゆりかご』 を葬った管理局が誇る兵器である。

 

とは言え、アルカンシェルと波動砲では威力があまりにも違い過ぎる。

 

「うーん‥‥」

 

しかし、現時点で試すことが出来るのはアルカンシェルぐらいだ。

 

「だが、アルカンシェルを撃つには莫大なエネルギーが必要だ。万が一、アルカンシェルを撃って次元断層の壁に穴をあける事が出来なかったら‥‥」

 

「無駄にエネルギーを消費するだけか‥‥」

 

乗員の中にはここからの脱出を諦めて別の空間に存在しているかもしれない出口を探そうと言う案も出る。

 

クロノはまたもや大きな決断を下すことになる。

 

「確かにアルカンシェルと波動砲ではその威力は比べなくとも波動砲が勝るだろう。だが、アルカンシェルの特徴を思い出してほしい」

 

「アルカンシェルの特徴?」

 

「そうだ。アルカンシェルは空間歪曲と反応消滅を起こすことにより広範囲の対象物を消滅させる。現在の次元航行艦は指向性の制御装置により殲滅範囲を調整することが出来る。空間を変換接続させる特性が位相に干渉をもたらせれば通常空間への接続‥‥開口部が形成できるかもしれない。此処周辺の空間は次元断層の中でも層の厚さが薄い事がスターシア陛下のメッセージから判明しているからな」

 

クロノはアルカンシェルの特徴から波動砲並みの威力がなくても脱出できるかもしれないと仮説を唱える。

 

それは此処周辺の次元断層の層が薄い事も関係している。

 

「ですが、それでも万が一の事もあります」

 

「ではどうする?あてもなくこのまま次元断層を彷徨うか?」

 

「そ、それは‥‥」

 

乗員の中にはアルカンシェルの使用を渋る者も居るが、此処でアルカンシェルの発射を諦めて、別の出口を捜しに行ったとして出口が見つかる保証はない。

 

ならば、一か八かの賭けでアルカンシェルをこの空間で撃ち込むのも一つの手であるが、もしアルカンシェルを撃ち込んで何も起きなければ無駄にエネルギーを消費するだけで終わる事になる。

 

「やりましょう」

 

すると副長がアルカンシェルの使用を支持する。

 

「副長‥‥」

 

「このまま次元断層の中を彷徨っても何処かに出口がある保証はありません。それならば、アルカンシェルの使用が此処からの脱出に繋がるかもしれないのであるならば、やってみる価値はある筈です。幸い、今の本艦は他の宇宙船をドッキングしているので、エネルギーに関しては多少の余裕があります」

 

「そうだね‥‥私も副長の意見に賛成するよ」

 

副長の他にフェイトも此処でアルカンシェルの使用に賛成する。

 

アルカンシェルの特徴とエネルギー問題から、『もしかしたら‥‥』という思いが強くなり、当初はアルカンシェルの使用に消極的な様子の乗員たちも次第にアルカンシェルの使用に賛成し始めた。

 

ただいきなりアルカンシェルを使用する訳ではなく、何度もシミュレーションで脱出プランを立てた。

 

「アルカンシェルを発射後、ドッキングしている宇宙船からエネルギーをクラウディアの機関へと流し込み直ぐにエンジンを動かせるようにしなければならない。機関室は常に動けるよう態勢を整えておいてくれ」

 

「はい」

 

「発射するアルカンシェルに関してもクラウディアのエネルギー全てを使用し尚且つエネルギーを集約した最大出力のアルカンシェルを次元断層の壁に撃ち込む‥‥」

 

「エネルギー全てを使用した最大出力のアルカンシェル‥‥」

 

「クラウディアでは、もう二度と使用はされないでしょうな‥そんなアルカンシェルは‥‥」

 

「そうだな。では、各部準備が出来次第、実行に移す。念の為、乗員全員には宇宙服の着用を徹底するように」

 

『了解!!』

 

脱出へのシミュレーションが終わり、各部署の乗員たちが配置へと着く。

 

「‥‥各部、配置に着きました」

 

「総員、宇宙服の着用も完了」

 

「不要箇所のエネルギー供給を停止‥‥」

 

クラウディア本来のエネルギーをアルカンシェルへと流し込んだので、ブリッジ内の明かりも消え、計器の明かりのみの明かりとなる。

 

「よし、エネルギー充填。アルカンシェル発射用意」

 

「アルカンシェルへエネルギー充填‥‥」

 

普段のアルカンシェルの発射も緊張感があるのだが、今回のアルカンシェルの準備はそれ以上に緊張感が漂っているのをフェイトは肌で感じていた。

 

「アルカンシェル、発射準備完了‥‥」

 

「機関室、アルカンシェルを撃つぞ!!準備は大丈夫か!?」

 

「いつでもどうぞ!!」

 

「アルカンシェル‥発射!!」

 

「発射!!」

 

クラウディアからはこれまでにない眩い光と分厚いアルカンシェルを放った。

 

すると、前方の何もない筈の空間に稲妻と共に赤黒い靄のようなモノが発生する。

 

「前方に突破口らしきモノが形成されました!!」

 

「やった!!」

 

「成功だ!!」

 

何もなかった空間から異常現状が起きた事からこれがスターシアの言う次元断層の壁に開いた穴だと判断した。

 

「機関室!!宇宙船のエネルギーをクラウディアへ流せ!!」

 

「了解!!」

 

「航海長、全速前進!!穴が閉じる前に突っ切れ!!」

 

「は、はい!!」

 

クロノは素早く機関室と航海長に指示を出す。

 

そして、クラウディアは全速で赤黒い靄の中へと突入し、その中を突っ切る。

 

「観測員、周囲の状況の変化に気をつけろ」

 

「はい」

 

次元断層の脱出なんて事はこれまでの管理局の歴史から今回が初めてのケースであり、何が待ち受けているのか一切情報がない。

 

その為、観測員も手空きの乗員たちも周囲の様子を注意深く監視する。

 

「提督、後方の穴が消滅しました」

 

「次元断層の壁が修復し始めたと言う事か‥‥」

 

「この空間も決して安定していると言う訳ではありませんね」

 

「変な刺激を与えなければ大丈夫だと思うが、慎重に且つ急いでこの空間から出るぞ」

 

次元断層とも通常空間とも異なるこの亜空間で止まってしまっては、この亜空間に閉じ込められる所か消滅してしまう恐れもある。

 

周囲が暗闇で支配されていた次元断層と異なり、赤黒く稲妻が鳴り響く亜空間を突き進むクラウディア。

 

すると、

 

「提督!!前方に星明かりらしき光源を確認!!」

 

クラウディアの前にはまるでチャックを開けたような亜空間の開口部が存在し、そこには星明かりらしき明かりが確認できた。

 

「そこが通常空間の出口だ!!」

 

「やった‥‥」

 

「助かったぞ」

 

「まだ、油断するな。感傷に浸るのは出てからにしろ」

 

「は、はい」

 

クラウディアが亜空間から通常空間へ向かっている頃、通常空間ではリンディからクラウディアが次元断層に落ちたと言う知らせを受けて現場に救助へ向かったヴォルフラムが例の宇宙気流の近くで停止して様子を見ていた。

 

ヴォルフラムはクラウディアが遭難した時、本局ではなく別の宙域への探査航海に出ていたので、比較的すぐにクラウディアの遭難現場へ到着したのだ。

 

 

ヴォルフラム ブリッジ

 

「艦長、ここがクラウディアの遭難現場です」

 

「クラウディアとソラーズが流された宇宙気流も確認できます」

 

「了解や‥あんまし宇宙気流の傍へは近づいたらあかんで。流されたらクラウディアとソラーズと同じ様に次元断層へ流されてしまうからな」

 

「了解」

 

はやてはヴォルフラムの航海長に宇宙気流へはあまり近づかないように忠告する。

 

「しかし、現場に到着したのは良いですけど、これからどうしましょう?」

 

グリフィスがはやてにどうやってクラウディアとソラーズを救出するかを訊ねる。

 

「うーん‥‥『どうしましょう?』と言われてもな‥‥」

 

はやて自身も困惑する。

 

クラウディアとソラーズを助け出すために次元断層に入り込んでは二重遭難する事になる。

 

自然を相手ではいくら高ランクの魔導師とは言え、勝てない。

 

現場についても何も出来ない。

 

(あんな中にクロノ君たちが居るっちゅうのに何も出来へんのは悔しいな‥‥)

 

はやては宇宙気流を見つめながら自身の無力さを悔しがる。

 

そんな中、

 

「艦長!!」

 

「なんや?」

 

「この近くで空間の歪みを確認!!」

 

オペレーターがこの近くの空間の歪みが発生したことを発見し、報告する。

 

「なんやて!?次元震か!?」

 

「いえ、違います!!次元震とは波長が異なります!!」

 

空間の歪みは次元震の発生パターンと異なる。

 

「じゃあ、何かが空間転移してくるのか?」

 

グリフィスがオペレーターに訊ねると、

 

「た、確かに空間転移に似てはいるのですが‥‥」

 

オペレーターはどうにも煮え切らない報告をする。

 

オペレーター自身もこんな反応を観測したのは初めてであったからだ。

 

「総員臨戦態勢!!」

 

はやては万が一を想定して戦闘及びこの宙域からいつでも離脱できるように指示を出す。

 

一体何が起きるのか、はやてを始めとしたヴォルフラム乗員たちが固唾を飲んで待機していると、

 

赤黒い靄と稲妻が出現し、その中から管理局のXV級の次元航行艦が出現した。

 

「え、XV級!?」

 

突然現れた味方のXV級の次元航行艦にはやてたちは驚いた。

 

そのXV級次元航行艦‥‥クラウディアでは、

 

「通常空間を確認!!」

 

「急いでこの場から離れろ!!直ぐに穴が塞がるぞ!!」

 

「提督!!艦のバランスが‥‥」

 

「ドッキングした宇宙船を切り離せ!!」

 

「了解」

 

速度を出すとやはりドッキングした宇宙船の影響でバランスを崩した。

 

そこでクロノはドッキングした宇宙船を切り離した。

 

クラウディアは航行に必要なエネルギーはドッキングした宇宙船から既に得ていたので、エネルギーがないドッキングした宇宙船は航行に支障をきたすと判断し、ドッキングを解除したのだ。

 

「本艦の近くに艦船反応があります!!」

 

「なに!?所属は分かるか!?」

 

「えっと‥‥判明しました!!八神艦長のヴォルフラムです!!」

 

「急ぎ八神艦長へ通信を入れろ!!」

 

「了解!!」

 

クロノは通常空間に出ても油断せずにテキパキと各部へと指示を出す。

 

そんな中で近くにはやてのヴォルフラムが居る事を確認すると、ヴォルフラムへ通信を入れる。

 

 

ヴォルフラム ブリッジ

 

「艦長、出現したXV級より通信です!!」

 

「繋いでや」

 

「は、はい」

 

ヴォルフラムの通信士が通信回線を開くとモニターには意外な人物が映し出される。

 

『はやて!!』

 

「えっ!?クロノ君!?」

 

「ハラオウン提督!?」

 

モニターに映るクロノの姿にはやてとグリフィスは驚愕する。

 

『はやて!!詳しい話は後でする!!直ぐに牽引ビームでクラウディアを引っ張ってくれ!!』

 

「りょ、了解や‥牽引ビーム用意!!」

 

「は、はい」

 

クロノから頼まれ、はやては牽引ビームの用意を指示し、クラウディアへと牽引ビームを放つ。

 

 

クラウディア ブリッジ

 

「ヴォルフラムからの牽引ビームの接続を確認!!」

 

「提督、形成口が‥‥」

 

監視をしていた観測員が次元断層からの出口の異変を報告する。

 

「どうした‥‥あっ‥‥」

 

クラウディアが出て来た穴はチャックが閉まるかのように消滅した。

 

「‥‥形成口‥消滅しました」

 

「本艦、ヴォルフラムは安全宙域まで退避しました」

 

「ふぅ~‥‥」

 

次元断層から脱出し、形成口の対消滅も無事に終わり、クラウディアは数日ぶりに通常空間へ脱出することが出来、クロノはようやく一息つくことが出来た。

 

「提督、八神艦長より通信が入っております」

 

「繋いでくれ」

 

「はい」

 

クラウディアの通信士がヴォルフラムとの通信回路を開く。

 

するとモニターにはやての姿が映し出される。

 

『クロノ君、これは一体どういう事や?それにあの穴は一体何なんや?』

 

『それにソラーズの姿が見えませんが、ソラーズはどうなったんですか?』

 

事態を飲み込めていないはやてとしては当然、クロノから事態の説明を求めるのは当たり前の事であった。

 

そしてグリフィスはクラウディアと一緒に次元断層へ落ちた筈のソラーズの姿が見えない事に疑問を覚え、クロノにソラーズの行方を訊ねる。

 

「あ、ああ‥説明しよう」

 

クロノは、はやてにある程度の事を話した。

 

ソラーズと共に宇宙気流に流されそのまま次元断層へと落ちた後、クロノはエネルギーの節約の為、その場から動かずに脱出の手がかりを探そうとしたが、ソラーズはクロノの制止を無視してそのまま次元断層の奥深くへ出口を捜しに行ってしまい、そこから分かれてしまった。

 

ソラーズと別れた後、周囲に漂流していた宇宙船を調査し次元断層からの脱出の手がかりを掴んで脱出をした事をクロノははやてたちに伝えた。

 

しかし、その話の中でスターシアのカプセルについては黙っていた。

 

『そんな事が‥‥』

 

「まさに九死に一生を得る経験だったよ」

 

『そら、そんな体験をしたらな‥‥』

 

「はやて、すまないが、本局への報告は少し待ってはくれないか?」

 

『えっ?どないしたん?』

 

「色々とありすぎて僕も含め、クラウディアの乗員全員は疲れているんだ‥‥本局へ報告を入れると、色々と質問攻めになる。せめて乗員たちの疲れを癒してからにしてもらいたいのだが‥‥」

 

『あぁ~確かに‥‥分かった。それじゃあ、報告をしても良いタイミングになったらまた連絡してや』

 

「ああ、分かった。それと乗員全員を休息するからヴォルフラムはしばらくの間、クラウディアを牽引してくれると助かる」

 

『了解や』

 

クロノは次元断層に落ちてから脱出までの事態を説明はしたが、本局への報告は、はやてに『待った』をかけた。

 

クラウディア乗員のメンタル面を理由に休息を入れてから本局へ報告してもらう事にしてもらった。

 

ただ、クロノが『待った』をかけたのは、乗員の休息だけではなかった。

 

「艦の航行はヴォルフラムが牽引してくれる。乗員は順次休息に入ってくれ‥‥ただ、各部の長はすまないが、会議室へ集まってくれ。フェイト、君も来てくれ」

 

「えっ?う、うん。分かった」

 

クロノは各部の長を再び会議室へ集めた。

 

その中にはフェイトも含まれていた。

 

会議室に集まったクラウディアの幹部たち。

 

「疲れている所を集まってもらってすまない」

 

「そんなことはないよ。一番疲れているのはクロノの筈だし」

 

「そうですよ。提督は我々の為に辛い決断をしたのですから」

 

フェイトと副長がクロノの苦労を労うと、他の幹部たちも頷く。

 

「ありがとう‥‥それでわざわざ集まってもらったのは他でもない‥‥次元断層内でハラオウン執務官が発見したスターシア陛下のカプセルについてだ」

 

クロノが議題を話す。

 

議題は次元断層内で見つけたスターシアのカプセルについてだ。

 

「スターシア陛下のカプセル?」

 

「どういうことでしょう?」

 

「今回の次元断層からの脱出にはスターシア陛下のカプセルが大いに役立った。ただ、それによってスターシア陛下の故郷が管理局に狙われないかと言う疑念がある」

 

『‥‥』

 

クロノの懸念にその場に居た一同は黙る。

 

「で、でも、あのカプセルにはスターシア陛下の故郷であるイスカンダルの座標は記録されていなかったけど‥‥」

 

「それは分かっている。だが、管理局が数を使ってこの周辺の宙域を捜索し、あのカプセル以外のカプセルを探査し、そのカプセルに万が一イスカンダルの座標が記されていたらどうする?」

 

「そ、それは‥‥」

 

「イスカンダルはもう一つの地球の恩人とも言える星だ。その星を管理という名の侵略目的で攻め込んだら‥‥」

 

「管理局は防衛軍に侵略者認定されると言う事ですね?」

 

「防衛軍以外にもガミラスからも敵と認識される‥‥私は遭難時、防衛軍に救助され一緒にイスカンダルまで航海をしましたが、防衛軍とガミラスに侵略者認定された暗黒星団帝国がどうなったのか?その末路をこの目で見ました‥‥管理局がその両者に敵と認識されたら、管理局は一日ともたずに消滅します」

 

フェイトは防衛軍とガミラスを敵に回すリスクを会議室に集まった幹部たちに話す。

 

防衛軍とガミラスを敵に回せば、管理局の次元航行艦隊は防衛軍の波動砲の餌食となり、ミッドチルダにはもう一つの地球を赤茶色の死の星に変えた遊星爆弾の雨が降り注ぐことになる。

 

管理局には放射能除去装置何て代物は無い。

 

仮にイスカンダルを占領してそこから放射能除去装置を手に入れてもAMAを発生させる装置なのだから魔導師としてはそんな装置は即刻処分するだろうから、放射能塗れになったミッドチルダには使用出来ないだろう。

 

となれば、どのみちミッドチルダは滅ぶ。

 

その破滅の発端を自分たちが原因となればミッドチルダに住む大勢の人々に申し訳が立たない。

 

「ここはやはり、スターシア陛下のカプセル‥と言うかカプセルに記録されていた中身については秘匿するべきだと思います」

 

フェイトはクロノにスターシアのカプセルについては黙っておくべきだと進言する。

 

「わ、私も‥‥」

 

フェイトに続いて副長もフェイトの意見に賛同する。

 

アルカンシェルの使用の時と同じく段々とフェイトの意見に賛同する者が続いた。

 

そもそもスターシアのカプセルの存在についてはフェイトと宇宙船を探査していた時に同行していた局員らは知っているが、カプセルの中身に何が記録されていたのかはクラウディアの中でも一部の者しか知らない。

 

同行した局員らには、『カプセルには何も記録されていなかった』と伝えれば中身を知られる事は無いだろう。

 

「ですが、あのカプセルが次元断層内に落ちたヤマトの為に用意されたモノだとすれば、ハラオウン執務官が収容したあのカプセルが一つとは限らずソラーズが収容しましたらどうしますか?」

 

副長がカプセルの存在を指摘する。

 

スターシアのカプセルがあの一つとは限らない。

 

今も次元断層内を彷徨っているソラーズが自分たちの様に次元断層の中でスターシアのカプセルを見つける可能性は十分にある。

 

「確かに副長の指摘は最もだ。しかし、次元断層を脱出するには波動砲が鍵となる」

 

「ですが、我々はアルカンシェルで脱出に成功しましたが?」

 

「それはまだエネルギーが残っている宇宙船をドッキングしたからだ。エネルギーが残った宇宙船をドッキングせずにアルカンシェルを使用してもエネルギー切れで次元断層からの脱出は無理だ」

 

「あっ‥‥」

 

クロノの指摘に確かに波動砲を装備していない次元航行艦でも次元断層からの脱出は出来たが、それは別エネルギー源を有している場合だ。

 

仮に次元断層内にあのカプセル以外のカプセルが存在し、ソラーズがそのカプセルを見つけたとしても二コラウフがクラウディアの様にエネルギーが残った他の宇宙船をドッキングしなければ次元断層からの脱出は不可能だろう。

 

果たして二コラウフにそこまでの機転があるかは疑問だ。

 

「しかし、カプセルの記録を秘匿するにしても本局への報告はどうしますか?」

 

次元断層から脱出してきたのは管理局の歴史史上クラウディアが初のケースになり、クラウディアの次元断層内とった行動と次元の壁の薄い箇所へ向かうルートは今後の“海”の活動に必要不可欠なデータになるだろう。

 

「それについては、僕に考えがある。スターシア陛下のカプセルの内容を秘匿しつつ、今回のデータを無駄にしない方法がな‥‥」

 

クロノには何か策がある様子だった。

 

「ひとまず、八神艦長に一つ確認する事がある」

 

そう言ってクロノは、はやてに通信を入れた。

 

『お?クロノ、準備は出来たんか?』

 

「その前に一つ、確認したいことがあるんだが‥‥」

 

『ん?なんや?』

 

「ヴォルフラムの映像記録にクラウディアが次元断層から出て来た時の映像は残っているか?」

 

『映像記録?ちょっと待ってな』

 

クロノに頼まれ、はやてはヴォルフラムが撮影した映像記録を調べる。

 

『クロノ君、あったで』

 

「そうか‥すまないが、そのデータを送ってくれないか?本局への報告にヴォルフラムの視点側と言うことで使いたい」

 

『了解や』

 

ヴォルフラムから送られてきた映像記録を確認してみると、次元の壁に出来た穴から出て来たクラウディア。

 

バランスを保つためにドッキングしていた宇宙船を切り離すシーンもあり、切り離された宇宙船は動かす人もエネルギーもなく、次元の穴へと吸い込まれて行った。

 

「確認できた。ありがとう、はやて」

 

『ほんなら、本局へ報告を入れてもええか?』

 

「ああ、構わない」

 

ヴォルフラムから送られてきた映像記録を確認した後で、クロノは、はやてに本局へ報告して構わないと伝えた。

 

はやてから本局へ齎された報告はリンディを始めとした本局に居た者たちを驚愕させた。

 

その内容と言うのが、

 

 

クラウディアが次元断層から無事生還を果たす。

 

 

と言うモノだった。

 

これまでの管理局の歴史上、次元断層に落ちて無事に戻って来た事例は存在せず、今回のクラウディアのケースはレアなケースとなった。

 

リンディとしては息子が無事に次元断層から戻って来たので、思わず涙目になった。

 

流石に次元断層から戻って来たクラウディアに再び長距離航海の続きをする余裕もなく、本局としてもどのような経緯で次元断層から戻って来たのかその方法をクロノから聴取する必要があったので、ヴォルフラムとクラウディアには本局への帰還命令が下された。

 

その他に次元断層から戻って来たのはクラウディア一隻だったので、この後に本局で控えている聴取には勿論、ソラーズの行方も含まれていた。

 

本局へ戻る最中、クロノはクラウディアの自室にて本局へ説明する為の報告書を作成していた。

 

「ふぅ~」

 

ある程度、報告書を作成した後、クロノは一息つきながらパソコンの画面から視線を逸らした。

 

そして、執務机の上にある写真立てに目をやる。

 

「‥‥」

 

その写真立ての中には妻であるエイミィと双子のカレルとリエラの写真が納まっていた。

 

(エイミィ‥‥今回の航海は色々と大変な事があったが、何とか帰れることが出来そうだ‥‥)

 

(流石に海鳴の家に戻る事は出来ないだろうが、本局へ着いたらエイミィたちに一報を入れて安心させてやらないとな‥‥)

 

身体は疲れ切っている筈なのにこうして家族の写真を見ると自然と顔が綻んだ。

 

 

「クロノ、ちょっと良いかな?」

 

それからしばらくしてフェイトがクロノの部屋を訪れる。

 

「‥‥」

 

しかし、部屋の中からクロノの返答がない。

 

「クロノ?」

 

返答がない事にフェイトは首を傾げ、恐る恐るクロノの部屋に入る。

 

「クロノ?大丈夫?」

 

フェイトがクロノの部屋に入ると、クロノは執務机に突っ伏していた。

 

近づいてみるとクロノはスー、スーと寝息を立てていた。

 

「‥クスッ‥‥お疲れ様‥クロノ」

 

次元断層内、そしてこの後に本局で控えている今回の件における報告会‥‥

 

まだまだクロノには気苦労が絶えないだろうが、せめて今だけはゆっくり眠らせてあげたい。

 

フェイトは眠っているクロノに毛布を掛けながら微笑んだ。

 

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