星の海へ   作:ステルス兄貴

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クロノが段々と銀河英雄伝説のヤン・ウェンリーみたいなポジションになっていくような気がします。


百五十三話 報告会

 

 

宇宙気流に流されてそのまま次元断層へ落ちてしまったクラウディアであったが、次元断層内を調査していると、ヤマトの為に用意されていたスターシアのメッセージ・カプセルとクロノの機転により、クラウディアは無事に次元断層から脱出することが出来た。

 

今回のクラウディアの行動は管理局の歴史史上初の次元断層からの生還と言う偉業を達した事になる。

 

遭難したクラウディアの救援に向かったヴォルフラムが本局に連絡を入れると、本局は歓喜と驚愕に満ちた。

 

ただ次元断層からの生還時に、クラウディアと共に次元断層へ落ちたソラーズの姿はなく、ソラーズ乗員の関係者たちは落胆と悲しみ、焦り等の感情が渦巻いていた。

 

此処までの航海と次元断層からの生還と言う偉業の経緯とソラーズの行方を訊ねる為、クラウディアには本局への帰還命令が下された。

 

クラウディア生還の知らせはリンディからエイミィに伝えられた。

 

勿論、エイミィ以外にもクラウディアの関係者全員にクラウディアの無事は伝えられる事になった。

 

「えっ?クラウディアが戻って来た!?本当なんですか!?リンディさん!?」

 

「ええ、はやてさんから本局へ知らせが入ったの‥映像でもクラウディアの姿を確認したから間違いないわ」

 

「そうなんですか‥‥良かった‥‥それで、クロノ君は無事なんですよね?怪我とかしていませんよね?」

 

「ええ‥クロノは、はやてさんとモニター越しだけど直接話したみたいで、怪我はしていないみたい。今、クラウディアは本局へ向かっているみたいだから、本局に着いたらクロノから貴女に連絡が入ると思うから待っていてね」

 

「はい」

 

先日のクラウディアが遭難した知らせを聞いた時とは打って変わり、エイミィの様子は顔が綻んでいた。

 

 

それから幾日かの日々が過ぎ、クラウディアとヴォルフラムは本局へ無事に到着した。

 

「お疲れ様です。クラウディアの皆さん‥‥そして、おかえりなさい」

 

本局に戻って来たクラウディアにリンディが通信を入れ、クロノをはじめとするクラウディアの乗員たちを労う。

 

「クロノ・ハラオウン以下、クラウディア全乗員‥ただいま、帰還しました」

 

一応、公務中なのでリンディとクロノは親子ではなく、統括官と一提督として通信を交わした。

 

「ハラオウン提督、戻って来たばかりですが、今回の件について報告をしてもらいたいので、本局の第三会議室へ出頭してください」

 

「分かりました。既に報告書は作成済みなので、皆さんがお訊ねしたい事情は直ぐに判明出来ると思います」

 

クロノはこうした事を既に予見していたので、特に驚く事も面倒くさがる事もなく、事前に用意してある資料と報告書を持って指定された会議室へ向かう旨をリンディに伝える。

 

「分かりました。では、第三会議室にて待っています」

 

「はい」

 

会議室で待っている幹部局員の関心はクラウディアがどのような方法で次元断層から脱出をしたのか?とクラウディアと共に次元断層に落ちたソラーズの行方なのはこれから会議に出席するクロノ以外でも簡単に想像がついた。

 

「クロノ‥‥私もオブザーバーとして一緒に行こうか?」

 

フェイトはクロノ一人に負担をさせまいと会議に一緒に付き合おうかと提案するが、

 

「いや、僕一人で大丈夫だ」

 

クロノは自分一人で今回の会議に臨むと言って支度をした後に会議室へと向かった。

 

彼としてはフェイトが自分と一緒に会議室へ来て今回の一件の他にもう一つの地球の情報をまた根掘り葉掘り聞かれると思い、フェイトの事を思って彼女からの提案を断った。

 

 

会場となった本局の第三会議室では主に“海”の高官が集まっていたが、今回のクラウディアの偉業に興味を示したのかレオーネ・フィルス、ラルゴ・キール、ミゼット・クローベルらの三提督も出席していた。

 

「クロノ・ハラオウン、召喚に応じ出頭しました」

 

会議室に入るとクロノは会議室に集まっていた高官らに敬礼する。

 

「ごくろう‥さっ、座り給え」

 

レオーネがクロノに着席を促す。

 

「はっ、失礼いたします」

 

クロノは会議室の下座に用意された椅子へ着席する。

 

そんなクロノを会議室に居る高官の一人が物凄い形相で睨みつけていた。

 

「さて、まずは次元断層からの生還、おめでとう。今回、君たちクラウディアの行動は今後の“海”の行動に希望を与える事になるだろう」

 

ラルゴがクロノに次元断層から生還した事を祝福する。

 

「ありがとうございます。キール元帥閣下」

 

「それで早速なのだが‥‥」

 

「クロノ・ハラオウン提督!!」

 

高官の一人がクロノに次元断層からの脱出方法を訊ねようとした時、その高官の声を遮る程の大声をあげてクロノの名を呼ぶ一人の男が居た。

 

「なんでしょう?ロガン少将」

 

このクロノの名を呼んだ男はクラウディアと共に次元断層に落ちたソラーズの艦長、二コラウフ・ロガンの父親であるイヴァノヴァ・ロガン少将だった。

 

「ハラオウン提督!!貴様は僚艦であるソラーズを見捨てて今この場に居るのではないか!?」

 

イヴァノヴァはクロノの事をビシッと指さしてクロノを糾弾する。

 

「貴様は私の息子を見捨てて自分たちだけのこのこと戻って来て、まるで英雄のような扱い‥‥貴様は英雄なのではない!!私の息子を‥‥ソラーズの乗員を見捨てた人でなしだ!!」

 

「‥‥」

 

「私の息子は、今も次元断層の中で苦しんでいるのだぞ!!‥‥おぉ~哀れな我が子よ‥‥」

 

イヴァノヴァは芝居じみたオーバーリアクションを取りつつも息子である二コラウフを思うあまりに涙を流す。

 

リンディもクロノの母親という立場から見れば、イヴァノヴァの気持ちは理解できる。

 

もしも立場が逆でソラーズが戻って来てクラウディアが今も次元断層を彷徨っていたら、どんな状況だったのかを二コラウフに詰問していただろう。

 

しかし、クロノ本人にしてみればただのとばっちりでしかない。

 

「確かにロガン少将の言う通り、自分は貴方のご子息であるロガン艦長を‥ソラーズを見捨てました。しかし、ロガン艦長が‥‥ソラーズが未だに次元断層を彷徨っているのは半分、ロガン艦長の自業自得なのです」

 

最終的にソラーズを見捨てたのはクロノの判断なので、イヴァノヴァが言う通り二コラウフを‥ソラーズを見捨てたのは半分当たっていたので、クロノはそれをあっさりと認めたが、ソラーズが未だに次元断層を彷徨っているのは二コラウフの自業自得であるとも言い放つ。

 

「な、なんだと!?貴様!!言うに事を欠いて、この場に居ない息子にも責任を押し付けるつもりか!?いくら統括官の息子だからといってそんな横暴‥‥」

 

「自分はちゃんとした証拠を持って、発言しております!!」

 

クロノはイヴァノヴァの言葉を遮って証拠があると言い放つ。

 

彼としてはいつまでもイヴァノヴァとソラーズの件で水掛け論をするつもりはなかったので、早々にこの話を決着する為に証拠を提示する事にした。

 

この会議場に居る大半の幹部局員もソラーズの件よりもクラウディアが‥クロノがどのような方法で次元断層から脱出したのか?

 

その経緯と方法を知りたかったに違いない。

 

「な、なんだと‥‥」

 

クロノの自信のある態度にイヴァノヴァは思わずたじろぐ。

 

「こちらは、クラウディアとソラーズが次元断層に落ちたばかりの時にソラーズの二コラウフ艦長と自分との間で行われた通信のやり取りです」

 

クロノは会議室に居たオペレーターに記録媒体を手渡す。

 

クロノから記録媒体を受け取ったオペレーターは記録媒体をパソコンに差して媒体の中に記録されていたデータを再生する。

 

すると、会議場にあるモニターにはクラウディアのブリッジの映像が流れだし、クラウディアとソラーズが次元断層に落ちたばかりの時、クロノが二コラウフにこの場から動かない様に提案するも二コラウフはクロノの提案を無視して勝手に次元断層の奥深くへと向かって行ってしまった。

 

「こ、これは捏造だ!!私の息子がこんな愚かな事をする訳が‥‥」

 

「御自分の御子息を信じたい気持ちは分かりますが、事実です。実際にその記録データには改竄をした形跡はない筈ですから」

 

イヴァノヴァにとっては次元断層内での息子の行動を当然信じたくないだろうが、実際にこれが、二コラウフが‥ソラーズが取った行動であり、これは覆せない事実だった。

 

「くぅ~‥‥」

 

イヴァノヴァにとっては三提督をはじめとする大勢の高官の前で赤っ恥をかかされた事になり、気まずくなったのか会議室から出て行った。

 

(おのれ~クロノ・ハラオウン‥‥この恥辱と息子の仇‥‥忘れはせぬぞ!!)

 

本局の通路を歩くロガン少将の顔はまさに阿修羅の如く憤怒にまみれていた。

 

「さて、要らぬ手間をとらせてすまなかったね」

 

レオーネがクロノとロガン少将との無駄なやり取りをさせてしまったことを謝る。

 

「いえ、ロガン艦長の家族として、ロガン少将の態度は当然の事だと思いますので‥‥」

 

クロノは大人な対応を貫く。

 

「では、早速であるが、今回の経緯を説明してもらおうか?」

 

「はい」

 

クロノは次元断層に落ち、ソラーズと別れた後の経緯を幹部局員たちに説明する。

 

「自分はエネルギーの節約の為、次元断層に落ちたその場から動かずに、同乗していたハラオウン執務官らに周辺で遭難している宇宙船の調査を命じました。周辺には本艦やソラーズ同様、次元断層へ落ちて遭難した宇宙船が多数ありました。もしかしたら、次元断層からの脱出方法の手がかりや使えるかもしれない物資があるかもしれないと思ったからです」

 

会議場のモニターにはフェイトたちが次元断層に落ちて遭難した宇宙船の調査映像が流れる。

 

「その中である宇宙船には次元断層からの脱出の手がかりを持つ宇宙船がありました。さらにその宇宙船のエンジンにはエネルギーが残されていたので、その宇宙船をクラウディアにドッキングしました」

 

映像にはクラウディアの艦尾に見慣れぬ宇宙船がドッキングされている映像が映し出される。

 

「私はこの一件から、エネルギーが残っている宇宙船がまだあると思い、宇宙船の調査を続行しました。そして周辺にある宇宙船をある程度調査を終えた後にドッキングした宇宙船の調査をしたところ、運良く一隻の宇宙船から次元断層からの脱出方法を見つけました」

 

「ほう?それはどんな方法なのかね?」

 

クロノから次元断層からの脱出方法と聞き、幹部局員たちは興味津々と言った様子だ。

 

「本艦が手に入れたデータによりますと、ある箇所が次元断層の層の厚さが薄い箇所であることが判明しました。なので、私はその層が薄い箇所へアルカンシェルを撃ち込みました。すると、データ通り、その箇所には穴が開き、本艦はその穴から次元断層を脱出し、通常の空間へ出て近くに居た八神艦長のヴォルフラムの牽引ビームで危険宙域から離れました‥‥これが今回の次元断層からの脱出の経緯です」

 

クロノは会議場の幹部局員に説明をするが、その中で脱出の手がかりがスターシアのカプセルからの情報である事を変更し、ドッキングした宇宙船から得たデータと言う事にした。

 

「ふむ‥‥ハラオウン提督。一ついいかね?」

 

「はい」

 

「君は次元断層からの脱出に関するデータを遭難した宇宙船から得たと言うが、では何故その宇宙船は次元断層から脱出をしなかったのか君は疑問に思わなかったのかね?」

 

幹部局員の一人がクロノへ質問する。

 

当然、クロノはスターシアのカプセルを秘匿する時からこのような質問が来ることを見越しており、

 

「その疑問はもっともです。ですが、この宇宙船が次元断層から脱出できなかったのはちゃんとした理由があります」

 

「理由?それは一体何だね?」

 

「はい。その宇宙船を調査したハラオウン執務官によりますと、その宇宙船は生物兵器を輸送していた輸送船だったらしく、調査に入った局員がその生物兵器に襲われる事態が起きました。幸いにも襲われた局員の生命には問題なく、局員を襲った生物兵器もハラオウン執務官が斃しました」

 

モニターにはフェイトが斃した蜘蛛に似た宇宙生物の死骸の映像が映し出される。

 

「人を襲う生物‥‥となると‥‥」

 

「はい。お察しの通り、この宇宙船の乗員たちはこの生物兵器を運搬中に何らかのトラブルが起き、生物兵器が収容していた檻から脱走。乗員たちはこの生物兵器に捕食されてしまったモノと推測できます。そして生物兵器しか居ない宇宙船は操船されず、そのまま宇宙を漂流して行き、運悪く次元断層に落ちてしまったモノと思われます。ただ、この宇宙船がどの世界に所属していたのか不明でしたが、あの宇宙船が所属していた世界では次元断層の調査もおこなっていたのかもしれません。生存者が居ないのですべては推測になりますが‥‥」

 

あの宇宙船の乗員たちが、フェイトが斃したあの宇宙生物に捕食されたのは間違いないだろうが、クロノがスターシアのカプセルの情報を秘匿する為にあの宇宙船が所属している惑星が管理局よりも高度な文明である事を告げる。

 

「ハラオウン提督。君はその宇宙船を調査対象として曳航しようとは思わなかったのかね?」

 

クロノの話を聞き、管理局よりも次元断層の詳しい情報を持っていたかもしれない宇宙船ならば、その宇宙船が所属していた世界の情報もあったかもしれない。

 

その世界を管理世界に置けば、管理局は次元断層さえも管理できると思い幹部局員の一人がクロノにその宇宙船を曳航して本局へ持って来れなかったのか?と問う。

 

「あの時は次元断層から脱出するのに手一杯でした」

 

クロノたちクラウディアの乗員にとっては次元断層からの脱出で手一杯でドッキングした宇宙船の事なんて気にする余裕はなかった。

 

「では、クラウディアの脱出地点の傍にはその宇宙船があるんではないか?」

 

「ならば、急ぎその宇宙船を回収してみてはどうか?」

 

次元断層開拓のカギを握る宇宙船がまだ宇宙を漂流している可能性があると指摘する幹部局員であるが、

 

「残念ですが、それは出来ません」

 

幹部局員たちの指摘をクロノは無理だと一蹴する。

 

「出来ない?それはどういうことかね?」

 

「クラウディアが次元断層から脱出した際、ドッキングした宇宙船のエネルギー全てを使用したので、ドッキングした宇宙船のエネルギーは空となり、クラウディアの航行バランスを崩したので、切り離しました。その際、切り離した宇宙船は次元断層の層に開いた穴に吸い込まれてしまいました。その光景はヴォルフラム側のカメラで記録されています」

 

クロノは次にヴォルフラムが記録した映像をモニターに映し出す。

 

モニターには次元断層と通常空間との間にクラウディアのアルカンシェルで開いた穴の光景が映っており、穴はジッパーを閉めるかのように塞がっていき、その穴に推進力が無い宇宙船は吸い込まれて行った。

 

「この映像の通り、今回の次元断層からの脱出における重要な手がかりを持つ宇宙船は次元断層へ逆戻りしてしまいました」

 

『‥‥』

 

次元断層を開拓・管理することが出来るかもしれないチャンスをみすみす逃した事に幹部局員たちは悔しさからか顔を歪める。

 

しかし、クロノの言う通りあの状況下では自分たちが次元断層から脱出するのが精一杯であり、切り離した宇宙船にまで構う余裕なんてない。

 

幹部局員たちもそれは分かっていたので、クロノに対して、

 

「命に代えてでもその宇宙船を持ってくるべきだ!!」

 

なんて無茶ぶりな事は言わなかった。

 

それは、あの状況下の他にクロノが統括官の息子であり、その統括官であるリンディ本人がこの会議場に居る事も関係しているのかもしれなかった。

 

「クラウディアが得た情報を共有する事で、今後は次元断層へ落ちても生存率はあがる事でしょう‥‥それだけでも今回のハラオウン提督の実績は称賛されるものではありませんか?」

 

ミゼットが幹部局員らに訊ねるかの様に問うと幹部局員らもそれで納得するしかなかった。

 

「ただ一つ補足をいれますと、次元断層からの脱出については今回入手したデータだけでは不足であり現在、管理局で採用している次元航行艦、単艦だけではエネルギーの問題から脱出は不可能です。先ほど、映像でご覧になられたようにクラウディアが脱出できたのも次元断層内で遭難し、まだエネルギーが残っていた宇宙船を数隻ドッキングした事により、エネルギー問題を解決しました。次元断層から脱出するにはデータの他に莫大なエネルギーが必要となる事を留意してください」

 

クロノが次元断層から脱出についての補足説明を行う。

 

「では、次元断層内に入り、ソラーズの救助を行うのは困難と言う事か‥‥」

 

「残念ながら‥‥次元断層も一体どれほどの広さなのかも不明なので‥‥」

 

次元断層からの脱出データとエネルギー問題に関しても増槽をつければもしかしたら、次元断層の調査‥‥そして現在も次元断層内を彷徨っているソラーズの救助も出来るかもしれないと思われたが、次元断層内の規模が不明である以上、下手に入り込んで二重遭難のリスクもあるので、ソラーズの救助は断念せざるを得なかった。

 

今回クロノが得た次元断層からの脱出データは管理局所属の次元航行艦に共有されることになったが、これはあくまでも非常手段であり、自ら好き好んで次元断層へ向かう事は管理局でも行う事はなかった。

 

 

「ふぅ~‥‥」

 

報告会が終わり、会議場を出たクロノは一息つく。

 

「クロノ‥‥」

 

そこへ、リンディがクロノに声をかける。

 

「なんでしょう?統括官」

 

「‥‥」

 

クロノとリンディの関係は休暇前の一件以降も改善することなく、むしろクロノが管理局の存在自体に疑問視してから冷めている感じになっている。

 

「い、いえ‥その‥‥次元断層から戻って来て良かったわ‥‥エイミィも心配していたから連絡を入れてあげてね」

 

「分かりました。では‥‥」

 

「‥‥」

 

クロノは妻であるエイミィに連絡を入れるためにその場から去る。

 

リンディはそんなクロノの背中を見つめていた。

 

 

会議室からクラウディアへ戻って来たクロノを出迎えたのは副長とフェイトの二人だった。

 

「お疲れ様です。提督」

 

「お疲れ、クロノ」

 

「ああ、ただいま」

 

「それで、どうだった?うまく秘匿できた?」

 

フェイトはクロノにスターシアのカプセルの事を秘匿する事が出来たかと訊ねる。

 

「ああ、スターシア陛下のカプセルについては上手く誤魔化す事が出来た。例の生物兵器が居た宇宙船に脱出に関するデータがあった事にしたよ」

 

「そうなんだ‥‥」

 

「他には、ロガン少将からの恨みを買ったよ‥‥」

 

「ロガン少将?えっ?誰?」

 

フェイトは『ロガン少将』と言われ、首を傾げる。

 

「ソラーズの艦長の父親だよ。『お前は息子を見殺しにした』って糾弾された」

 

「そんなっ!?」

 

「提督の決断は、あの状況下ではやむを得ないことではありませんか!?」

 

「しかし、ソラーズの関係者から見れば、クラウディアは身内を見殺しにしたとみられても仕方がない」

 

「「‥‥」」

 

「一応、乗員たちには注意を促す」

 

ロガン少将の反応からソラーズの関係者がクラウディアの乗員たちに対して何らかの行動をしてくる可能性があるので、当分クラウディアの乗員たちには周辺の注意を促すことぐらいしかできなかった。

 

「副長、今は無事に戻って来た事を家族に伝えてあげると良い‥‥乗員たちにもその旨を通達してくれ」

 

「了解しました」

 

本局へ戻るまで流石に私用で通信をする事は出来ないので、こうして無事に本局へ戻って来たので、クロノはクラウディアの乗員たちに家族へ無事を知らせる通信をする事を許可した。

 

クラウディアの乗員たちが家族に自分の無事を伝えている中、クロノも海鳴の自宅に居るエイミィに連絡をいれた。

 

「クロノ!!」

 

連絡を入れた途端、エイミィはモニターに食いついてきた。

 

「リンディさんから聞いていたけど、大丈夫なんだよね?怪我とかしてないよね?」

 

「ああ、僕もフェイトも怪我無く戻って来たよ」

 

「良かった~‥‥本当に良かったよ‥‥」

 

モニター越しとは言え、夫であるクロノが無事な事が完全に確認出来たことでエイミィは思わず涙を流す。

 

「心配かけたな‥‥」

 

「本当だよ、まったく‥‥」

 

目に涙を浮かべるもクロノの生還に心から喜び、笑みを浮かべるエイミィ。

 

「ねぇ、クロノ君。子供たちの為にも異動届けを出せない?」

 

「‥‥」

 

エイミィはクロノに対して異動届けを出して部署の移動が出来ないかを問う。

 

クロノの魔導師としてのレベルやこれまでの実績に有している資格ならば“海”ではなく、“空”か“陸”でも十分やっていける。

 

もしろ“陸”はクロノを喜んで出迎えそうである。

 

例え“空” “陸”でなくとも“海”だって何も艦船勤務以外にも仕事はある。

 

ボラー連邦への武力制裁、そして今回の次元断層の件から艦船勤務がいかに危険な仕事なのかを改めて実感させられる。

 

エイミィはカレルとリエラから父親を永遠に喪う事態を回避したかった。

 

父親を喪う経験はクロノ自身が経験しているので、そんな辛い経験を自分たちの子供たちに経験させたくはない気持ちはクロノだってわかっている筈だ。

 

「すまないエイミィ‥‥それは出来ない」

 

しかし、クロノはエイミィの願いを聞き入れなかった。

 

「ど、どうして?クロノ君は子供たちに寂しい思いをさせたいの?」

 

「エイミィ‥僕自身、父親を喪う経験をしたからその気持ちは分かる。だが、管理局の現状から今は苦しい状況だ‥‥もちろん、僕も管理局に対して思う所はあるが、誰かがやらなければならないんだ‥‥」

 

「何もそれがクロノ君じゃなくてもいいじゃない」

 

「僕だって出来るならそうしたいさ‥‥でも、周りがそれを決して許さないだろう‥‥」

 

「‥‥」

 

クロノが言う言葉の意味をエイミィは当然理解している。

 

高ランクの魔導師であり、本局統括官の息子であり、これまで管理局では有名な事件を一人ではないにしろ、解決に導いて来た若き英雄‥‥

 

ただでさえボラー連邦への武力制裁の失敗で人材が枯渇している管理局‥‥そんな時に“海”がクロノを手放す筈がない。

 

それにクロノ自身がクラウディアの乗員たちの事を案じているので、そう簡単に今の部署から離れるに離れられなかったのだ。

 

クロノがエイミィと通信を交わしている中、フェイトもはやてとなのはの二人とモニター越しに連絡を取っていた。

 

「いやぁ~それにしてもフェイトちゃんたちが無事でホンマ、良かったわ~」

 

「うん、私もリンディさんから聞いて物凄く心配したよ」

 

「はやてもなのはも心配かけてごめんね。でも、私自身これで二度も死にそうな目に遭うなんて思ってもみなかったよ」

 

「せやな、JS事件以降、フェイトちゃんは不運続きやったからな‥‥」

 

「ねぇ、フェイトちゃん」

 

「ん?何かな?なのは」

 

「その‥‥次元断層の中ってどんな感じだったの?」

 

「あぁ、クロノ君からはある程度聞いては居たけど、フェイトちゃんからの視点も気になるわ~」

 

なのはとはやてはフェイトに次元断層が一体どんな空間だったのか質問してきた。

 

次元断層なんて簡単に行って帰ってくるなんてことは出来ない空間なので、そんな空間から奇跡の生還を果たしたフェイトに次元断層がどんな空間だったのかを訊ねるのは至極当然の事だった。

 

「次元断層の中?うーん‥‥そうだね‥‥あそこはまさに宇宙の‥‥宇宙船の墓場の様な場所だったよ」

 

「宇宙船の墓場?」

 

「うん。光を発する星が無いから、辺りは完全な闇が支配する世界で、その中には管理局が把握していない星の宇宙船が沢山遭難していた‥‥」

 

「「‥‥」」

 

フェイトが説明する次元断層の中を想像して沈黙するなのはとはやて。

 

「私はクロノから周辺にある遭難した宇宙船の調査を頼まれて遭難した宇宙船の中を調査したんだよ。調査した宇宙船はどれもエネルギーが無かったから外の空間と同じく真っ暗闇でさ‥‥船の中には白骨化した乗員の遺体だらけだった‥‥」

 

「す、凄いね。フェイトちゃん」

 

「ん?」

 

真っ暗な遭難船の中を調査したフェイトになのはは『凄い』の言葉を送る。

 

しかし、フェイトはなのはの言葉の意味を理解していないのか首を傾げる。

 

「勤務中に不謹慎やけど、フェイトちゃんはその時、リアル肝試しをした事になるからな」

 

はやてはなのはの言う『凄い』という言葉の意味を理解してフェイトに教える。

 

「ああ、なるほど‥‥」

 

フェイトは、はやてからなのはの言った『凄い』の言葉の意味を理解して頷く。

 

「でも、あの時は仕事って事と早く次元断層から脱出しないと‥‥って思いが強かったから怖さなんて感じる余裕なんて無かったよ」

 

「まぁ、あの時のクラウディアやフェイトちゃんたちが置かれた環境を考えると、確かにそんな余裕なんて無いわな」

 

フェイトの回答を聞いて、納得するはやてだった。

 

「それで、調査していた宇宙船で、明かりが点いている船があったの‥‥」

 

「明かり?」

 

「クラウディアやソラーズの他に生きている船があったんか?」

 

「エネルギーが残っていて非常電源が働いていたみたい‥‥でもその船にはとんでもないモノが居たの」

 

「とんでもないモノ?」

 

「まさか、エイリアンとか?」

 

はやては昔見たSF映画みたいにフェイトが調査した宇宙船にエイリアンの様な化け物が居たのかと問う。

 

「まぁ、似たようなモノかな?」

 

「えっ?ほんまか!?」

 

すると、フェイトからの回答はエイリアンに似たような生物が居たとの事で、当てずっぽうで訊ねた回答がまさかの正解だった事にはやて自身も驚いた。

 

「うん。相手に幻覚を見せて足止めをさせている隙に獲物を捕らえて捕食する蜘蛛に似た姿の生物兵器が居たの」

 

「幻覚を見せるなんて‥‥」

 

「そんな生物が‥‥」

 

管理局が管理している自然世界でも幻覚を見せて獲物を捕獲して捕食する生物なんて聞いた事がない。

 

「それで、フェイトちゃんは大丈夫だったんか?」

 

はやてはフェイトにその生物兵器に襲われなかったか訊ねる。

 

「私は大丈夫だったけど、同行していた他のクルーが襲われて‥‥幸い直ぐに対処したから命に別状はなかったよ」

 

「そうなの?良かった~」

 

襲われた局員が無事だったことに胸をなでおろすなのは。

 

「それで、『直ぐに対処』って言うとったけど、捕獲したんか?その生物兵器を?」

 

はやてはフェイトに局員を襲った生物兵器の対処を訊ねる。

 

「ううん、違うよ。殺傷設定のバルディッシュで一突きにしたよ」

 

「えっ?殺傷設定!?」

 

「まさか、殺したんか?その生物兵器を‥‥」

 

フェイトが殺傷設定で局員を襲った生物兵器を殺した事を知り、なのはもはやても固まる。

 

はやてもなのはもてっきり、局員に襲い掛かった生物兵器を捕獲したのかと思ったからだ。

 

「あの状況下ではとても捕獲何て出来なかったよ。それにあの場で仕留めないとクルーの被害が広がっていただろうからね‥‥」

 

生物兵器とは言え、殺傷設定で生物を殺したにもかかわらずフェイトは淡々とした様子で語る。

 

「「‥‥」」

 

そんなフェイトに対してどんな言葉をかければ良いか言葉が見つからないはやてとなのはだった。

 

「話をつづけるけど、良い?」

 

「えっ?あっ、うん‥‥」

 

「大丈夫やで」

 

フェイトが二人に次元断層内での話を続けても良いかと訊ねると、二人は続けて構わないと言うので、フェイトは話を続けた。

 

「それで、その宇宙船にはエネルギーが残っていたから、クラウディアにドッキングしてエネルギーを貯めたんだよ。それで、クロノが周辺にまだエネルギーが残っている船があるかもしれないって言って、私は引き続き遭難船の調査を続けたの‥‥」

 

「他の宇宙船にフェイトちゃんが斃した生物兵器とか生きていた人は居たんか?」

 

「ううん、調査した宇宙船で生き物が居たのは蜘蛛に似た生物兵器だけだったよ。それで、調査を続けて数隻の宇宙船にエネルギーが残っていたから、その船を全部クラウディアにドッキングさせた後に改めてドッキングした宇宙船の調査をしたんだけど、あの生物兵器が居た宇宙船に脱出に関するデータがあったの」

 

フェイトはクロノが会議場で幹部局員らに説明したようにスターシアのカプセルの存在を二人に秘密にするかのように誤魔化した。

 

「どんなデータやったん?」

 

クロノと同じく次元航行艦の艦長となったはやてとしては、やはり次元断層からの脱出方法には興味があった。

 

「そもそも、次元断層は、通常の三次元空間異次元との結節点に存在する次元空洞なんだけど、一部に層の厚さが薄い箇所があるみたいなの‥‥私たちが手に入れたデータはその層が薄い箇所が記されたデータで、その箇所に強力なエネルギー波を撃ち込むと三次元空間との位相境界面に発生した干渉波で三次元空間への開口部‥つまり次元断層を出る出口が出来るからクラウディアはアルカンシェルを層が薄い箇所に打ち込んで、出口を作ってそこから脱出したの」

 

「へぇ~‥‥」

 

「‥‥」

 

三次元空間やら位相境界面やら聞いたことが無い単語を含むフェイトの説明になのははあまり理解できていない様子。

 

それは“海”所属のはやても全ては理解できているのか怪しい。

 

「ほんなら、その層が薄い所でアルカンシェルを撃てば簡単に次元断層から脱出する事が出来るんか?」

 

「ううん、クロノが言うには、通常のアルカンシェルじゃあ穴を開けるにはエネルギー不足で、穴をあけるぐらいのアルカンシェルを撃つには次元航行艦の全エネルギーを集約したアルカンシェルじゃないと穴は開けられないって結論になったの」

 

「でも、そんな無茶ぶりなアルカンシェルを撃てば、例え穴が開いても動けないとちゃうか?」

 

「そう、だからアルカンシェルにはクラウディアのエネルギーを使いきってエンジンにはドッキングした宇宙船のエネルギーを使って、クラウディアは穴を開けてそこから出てきたんだよ」

 

「なるほどな‥‥」

 

「ん?」

 

フェイトの説明を聞いてはやては理解したが、なのははやはり理解できずに首を傾げていた。

 

「多分、今回クラウディアが得たデータは管理局の全ての船に配布されると思うから、時期にはやての所にも来ると思うよ」

 

「そうなんか‥‥まぁ、本音を言うとそのデータが役立つ機会が来ない事を祈っとるわ」

 

「そうだね‥‥それが一番良いからね。でも、データだけじゃあ次元断層からは脱出できないから‥‥」

 

(防衛軍の波動砲搭載艦ならそんな面倒くさい事をしなくても大丈夫なんだろうけど‥‥)

 

次元断層から脱出に関するデータがあっても実際に脱出するには次元航行艦単艦では難しく、次元断層から脱出にはクラウディアの様に次元断層内でエネルギーが残っている遭難船を見つけなければならないので、一番は次元断層に落ちない事だ。

 

これが防衛軍の波動砲搭載艦ならエネルギーが残っている遭難船を探さなくても次元断層から脱出する事が出来るだろうとフェイトは心の中で呟いた。

 

 

はやてはクラウディアを救助した際、クラウディアと共に次元断層へ飲み込まれた僚艦のソラーズについてクロノから聞いていたので、事情を知らないなのはがソラーズの事を聞けばショックを受けると思い、この場ではソラーズについてフェイトには訊ねなかった。

 

フェイトの方もソラーズの件に関しては、ショッキングな話なので、普段スバルの様に一部で空気が読めない所があるが此処は空気を読んでソラーズの件については黙っていた。

 

「それでクラウディアはこの後、どうするんや?また直ぐに出航するんか?」

 

「ううん、今回の件でアルカンシェルを無理な形で撃ったから、エネルギー伝導管を含めて総チェックをしないといけないみたい。はやての方は?」

 

「私らの方は必要な物資を補給してまた出航せなあかんやろうな。まだ予定の航海日数を満たしておらんからな」

 

クラウディアはドック入りになるが、ヴォルフラムは消費した物資を補給した後、再び出航する様だ。

 

「クラウディアの乗員たちは休みになるんか?」

 

一方、クラウディアはドック入りになったので乗員たちはその間は休みになるのかをフェイトに訊ねるはやて。

 

「うーん。修復作業を手伝ったり、報告書や事務作業があるだろうから、当分は本局通いになるんじゃないかな?」

 

クロノをはじめクラウディアの乗員たちはこの航海前に休暇をとった者が多かったので、今回乗艦がドック入りになったとは言え、乗員たちが休暇になるかと言えばそれは違うみたいだ。

 

「そっか‥まぁ、本局通いとは言え、宇宙に出ている時よりは気が休めるやろうから、ゆっくり休んでや」

 

「そうだね。今は離れて暮らしているけど、ヴィヴィオもフェイトちゃんに会いたがっているからいつでも会いに来てね」

 

「うん、ありがとう。なのは」

 

なのはは教導隊の宿舎でヴィヴィオと一緒に暮らして、フェイトは本局の居住区にあるリンディの部屋に住んでおり、フェイトとヴィヴィオは離れて暮らしているが、なのははいつでも来て良いと言いフェイトはそんななのはの好意に礼を言った。

 

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