フェイトがスバルにギンガからの手紙に書かれた『ギンガの恋人』について話している頃、
ミッドチルダの首都クラナガン中央部にある一際高いビル‥‥
地上本部‥‥
そこは時空管理局における“陸”の総本山とも言えるビルであり、毎年一回、“陸”、“海“、空”の幹部局員らが集まり一般人に対して管理局の予算や活動報告等を行う公開陳述会が行われる会場にもなる。
新暦75年に行われた公開陳述会では、当時広域指名手配されていたジェイル・スカリエッティらが襲撃を行いビル施設の一部が破損し、警備に当たっていた大勢の局員にも多数の負傷者を出すテロ現場にもなった。
現在は、その事件があった痕跡もなく、破壊された箇所は完全に修復され、“陸”の業務も通常通り行われている。
そんな地上本部ビルにある会議室にて、公開陳述会とは異なるが、“陸”、“海“、空”の幹部局員らが集まり予算会議が行われていた。
この予算会議では毎年、“海”が当たり前のように多額の予算を貪っていき、ミッドチルダ本土の治安維持を担っている“陸”の予算は“海”と比べるとはした金程度の予算が割り振られていた。
“陸”は更にその低予算をミッドチルダ本土の中央および東西南北に展開している各部隊へ割り当てなければならない。
今年は“海”がボラー連邦に対する武力制裁の失敗もあり、失った艦艇の建造費に人件費、装備費で例年よりも多額の予算を申請するのは目に見えていた。
「今回の予算会議の結果次第で、我々“陸”の発展か停滞若しくは後退が決まる」
本部長のロールスロイスは緊張した面持ちで“陸”の幕僚たちを見回しながら今回の予算会議における重要性を説き、幕僚たちは皆頷く。
「さて、それでは参ろうか?諸君」
『はっ!!』
ロールスロイスは幕僚たちを引き連れて会議室へと向かった。
予算会議が始めると案の定、“海”が多額の予算を申請してきた。
しかもその額はこれまでの予算を越える程の額であり、“陸”も“空”も一部隊しか賄えるか分からないぐらいの予算しか割り当てられない。
しかし、“海”からしてみればこの予算は当然の額であり、予算は通るモノだと思っていたが、当然“陸”と“空”からしてみれば、“海”の横暴は許せるものではない。
「異議あり。議長、よろしいですか?」
そこへ、異議を申し出たのがロールスロイスだった。
ロールスロイスの突然の『異議あり』発言に対して、“海”の幹部局員からしてみれば、『また“陸”の無能共が騒ぎ立てている』‥程度にしか思っていなかった。
「ロールスロイス君」
「この“海”の予算額はあまりにも多額過ぎます。妙な表現になりますが、今日まで“陸” “海” “空”が財政のかろうじて許容できる範囲で予算を割り振ってきました。ですが、それはもはや過去の話となりつつあります」
「それは、どういうことですかな?ロールスロイス君」
「この上、“海”ばかりに予算が通ってゆけば、ミッドチルダの国家財政と経済が破綻するのではないかと言う事です」
無から有は生み出せない‥‥錬金術の基本通り、管理局で使用する予算はどこからともなく無限に湧いて出てくるわけでもなく、何もない空間からお金が出てくるわけでもなく、ミッドを始めとする管理世界から徴収された税金が資金となっている。
「ならば、紙幣の発行部数を増やせばいいだけではないか」
“海”の幹部局員の一人が、お札がないなら、造幣局で大量のお札を発行すれば問題は解決するのではないかとやや子供じみた解決案を言うが、
「財政の裏付けも無しに‥ですか?何年か先の未来では紙幣の額ではなく、重さで商品の売買が行われることになりますよ。あなた方は歴史的インフレーション時代を引き起こすつもりですか?」
お札を大量に発行すれば、そのお札の価値を下げ、インフレを起こすリスクがあるとロールスロイスは反論する。
「それならば、他の管理世界の税金を引き上げてはどうか?それと大規模な徴兵を行うとか?」
「新たに管理世界へ編入したばかりの世界ならば、管理世界の税や徴兵の仕組みなど分かっていないだろうから丁度いいのではないか?」
ミッドでのインフレを避けるために他の管理世界の住民に重税を課して財源を確保して、大規模な徴兵を行い人材の確保をしようと提案する“海”の幹部局員たち。
「重税と大規模な徴兵を課して、その世界での民衆の怒りを買いたいのであるならば、あなた方“海”が買って下さい。“陸”では他の世界まで赴いて暴動を鎮圧するほど人材に余裕がありませんので‥‥」
「我々“空”も“陸”同様、人材が不足しているので、“陸”と同様に他の世界へ回す人材はおりません」
ミッドで起きた市民による暴動を鎮圧した“陸”と“空”だからこそ、民衆たちによる暴動の凄まじさを知っているので、もし他の管理世界において民衆の暴動が起きた際には“海”のみで対処しろと突き放すロールスロイスと“空”の幹部局員。
“空”に関しては、ボラー連邦への武力制裁失敗で多くの空戦隊魔導師が殉職しているので、“空”も“海”への協力要請に対しては非協力的になっているので、ロールスロイスの言う通り、他の管理世界での揉め事に関しては同意見と言う姿勢だ。
「貴官らは我々“海”の活動をバカにしているのか?」
そんなロールスロイスと“空”の態度に不機嫌そうな“海”の幹部局員。
「いえいえ、あなた方“海”の崇高な職務は把握しております。宇宙を探索し、侵略して植民地を増やすという大変な職務をね‥‥」
「き、貴様‥‥」
「管理などと言葉を変えているだけ、実際に我々管理局が行っているのは、管理という名の支配ではありませんか?もし、違うと言うのであるならば、管理世界などと言う植民地の増加を即時止めるべきではありませんか?現状の管理世界の治安維持だけでも手一杯にもかかわらず、これ以上の植民地を増やしては財源や人材がいくらあっても永遠に足りないでしょう」
「ロールスロイス君。君の意見は分かった。しかし、我々時空管理局は次元の法の番人であり、絶対的正義な存在なのだ。不経済、人材不足などと言う理由で“海”の活動を止めることはできない。こうしている間にも我々の管理を欲する世界が存在している事を忘れないでもらいたい」
「私もそう思う。経済的問題は内政的努力と増税と徴兵で何とか解消できるはずだ」
「しかし、人的資源として一言申し上げたい」
そこへ、“陸”の人事部長が“海”の幹部局員らに物申す。
「経済もそうですが、“陸”では人材の問題はもうどうにもならないところまで来ている。優秀な人材が“海”ばかりに偏り過ぎている。“陸”及び民間企業には高齢者や若年層、非魔導師ばかり、このままではミッドの治安維持はおろか、社会構造さえも崩壊するかもしれない」
「何を大袈裟な事を‥‥」
“海”の幹部局員らはこれまでの方法で上手くいっているのだから、この先も多少の変更はありつつもこのままの方法で大丈夫だと楽観視している“海”の幹部局員たち。
もう、ボラー連邦に対する武力制裁の失敗を忘れているかのようだ。
それはボラー連邦がミッドを始めとする管理世界へ報復行動に移らない事、
現在探査を再開した際、リンディの訓示が行き届き、現場の“海”の局員らが横暴な態度をとっておらず、またボラー連邦並みの技術力を持った星間国家と遭遇していない偶然が続いただけだ。
『喉元過ぎれば熱さを忘れる』とはまさにこのことであった。
そして、“海”の幹部局員たちがロールスロイスに対して更に不愉快になる事態が起きる。
「それにこの“陸”から提案された『新装備の開発費』‥‥これは一体なんだね?ロールスロイス本部長」
「文字通りです。“陸”でも“陸”所属の局員‥主に非魔導師の局員に対して新たな武器を装備したく、その開発費を申請した次第です」
「非魔導師に新たな装備?ハハ、“陸”所属の非魔導師などに装備など不要だ」
「左様。そんな獄潰しの無能共に持たせる武器の開発費など、それこそ無駄な金だ」
高ランクの魔導師である“海”の幹部局員たちはヘラヘラと小馬鹿な笑みを浮かべロールスロイスの申請した予算案に対して却下しようとする。
「ならば、“海”へ出向させている“陸”所属の局員らは直ちに原隊へ戻さなければなりませんな。我々“陸”は“海”と異なり人材不足なので‥‥その他にボラー連邦への武力制裁失敗後に“海”から“陸”への転属届が増加しておりまして、士官のほとんどが“海”のこの事態が収まるまで、安全な“陸”に居ようとする志が低い者ばかりですが、こうも人材不足が続きますと志が低くても“陸”に来てもらえるというのであるならば、士官の異動も寛容にする必要がありますな」
「むぅ‥‥」
「くっ‥‥」
“海”の幹部局員らは忌々しそうにロールスロイスを睨みつける。
しかし、とうのロールスロイスはどこ吹く風の様にスルーしている。
“海”からの人材流出を防ぎたい“海”としては“陸”の‥‥ロールスロイスの申請を受け入れるしか方法はなく、“海”は当初申請をした予算を大きく減額し、その分が“陸”へと流れる事になった。
予算会議後、“海”の幹部局員らは皆、忌々しそうに顔を歪めながら会議室から出て行った。
一方、これまでにない多額の予算を獲得したロールスロイスたち“陸”の幹部局員らは皆、ホクホク顔であった。
「やりましたね、本部長」
「ああ‥‥だが、この手はそう長くは続かない。“海”が再び体制を整えれば、これまで通り、“海”が多額の予算を独占するだろう。それまでに“陸”としては何としてでも装備を充実させなければならない‥‥我々は限られた時間内に“陸”の改革を行わなければならないのだ」
「はっ、承知しました!!」
“海”、“陸”互いに職場、職務は異なるが、限られた時間、限られた予算内での改革が望まれた。
「ふぅ~ただいま‥‥」
本局内にあるリンディとフェイトが住んでいる居住区の部屋にお疲れ様子のリンディが帰宅した。
「おかえり‥‥ん?リンディ母さん、何か疲れているみたいだね」
疲れている様子のリンディをフェイトは玄関先で出迎える。
なお、この時は既にスバルはミッドに戻っていた。
「うん。今日の予算会議でね‥‥」
「今日、予算会議だったんだ‥‥」
統括官であるリンディも地上本部ビルで行われた予算会議に参加していた。
「ええ‥それで、予算会議で一悶着があってね」
「一悶着?何があったの?」
「‥‥フェイトは管理局がボラー連邦への武力制裁で失敗した事を知っているでしょう?」
「う、うん‥‥」
「それで、“海”は去年よりも多額の予算を申請したんだけど‥‥」
「ああ‥まぁ“海”としては当然の事だね」
「申請をした‥までは良かったんだけど、そこを“陸”のロールスロイス本部長が『待った』をかけてね‥‥」
「“陸”側としても当然の事だね」
「今は人材不足で“陸”からも出向って形で人材の補填をしているんだけど、“陸”でも人材不足じゃない?」
「“陸”や“海”を含めて、管理局はどの部署でも人材不足だしね」
「それで、“陸”からの人材を原隊に戻すって言ってきて、更に“陸”所属の非魔導師の局員の為に新装備を開発するからその開発費を申請してきたわ」
「非魔導師の局員の為に新装備?それってどんな装備なの?」
「さあ?そこまでは分からないわ」
「でも、ロールスロイス本部長なら、その予算を横領するとは思えないから折角得た予算を非魔導師の局員の為に使ってくれるんじゃないかな?」
「そうね‥でもそれで、“海”の予算の申請は却下されて申請した予算よりもかなり減額されたわ‥‥」
「うわぁ~」
艦艇と人材が不足している中、予算も減らされて“海”としては踏んだり蹴ったりでリンディの苦労を心中察するフェイト。
「レティも頭を抱えていたわ」
リンディは友人の心中を察し彼女の気苦労を察した。
(はぁ~ロールスロイス本部長もレジアス中将みたいに何か大きなスキャンダルが起きれば失脚するかもしれないんだけど‥‥)
リンディは心の中でロールスロイスがレジアスの様に何か裏で犯罪行為を行っていないかと願ってしまう。
地上本部ビルで“陸” “海” “空”の予算会議が行われた翌日‥‥
「ヴィヴィオ、本当に大丈夫?」
教導隊の教官宿舎にて、なのはが心配そうにヴィヴィオへ訊ねる。
「うん。大丈夫だよ、なのはママ」
ヴィヴィオは休学していたSt.ヒルデ魔法学院初等科へ今日復学するのだ。
ヴィヴィオが通うSt.ヒルデ魔法学院でも、ボラー連邦への武力制裁失敗で家族を失った家族が多く居た。
ボラー連邦への武力制裁の決定打が修学旅行中のSt.ヒルデ魔法学院高等科の生徒たちが乗った次元航行船がボラー連邦から攻撃を受けた事であるが、最初の発端は“海”がボラー連邦の輸送船を強引に臨検した事に始まる。
最初の発端が管理局側に責任があるとはいえ、武力制裁を行い、失敗した後にどこからともなく、なのは、はやて、シグナムたちヴォルケンリッターのメンバーたちがボラー連邦への武力制裁に参加しなかったから、武力制裁が失敗したと言う根も葉もないデマが流れ出た。
ミッドではそのデマを信じた民衆が暴徒と化し、その結果的になのはとはやての家が焼き討ちに遭う被害を受け、シスター・シャッハからSt.ヒルデ魔法学院に通う遺族の生徒たちからヴィヴィオが虐めに遭う可能性を指摘して、なのははヴィヴィオに対する虐めを危惧し、暫くの期間、ヴィヴィオはSt.ヒルデ魔法学院を休学していた。
しかし、いつまでも学校を休学するわけにもいかないのも事実だ。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい‥‥」
なのはの心配を他所にヴィヴィオは学院へと通学して行った。
確かにヴィヴィオはもう一つの地球から戻って来てからなのはから見ても何だか逞しく見えた。
(大丈夫‥なのかな‥‥)
ヴィヴィオ本人は『大丈夫』と言うが、それでもヴィヴィオの保護者としては、不安が拭えなかった。
St.ヒルデ魔法学院の敷地内に入ると、ヴィヴィオの姿を見た何人かの生徒たちはひそひそ話をし始める。
きっと、例のデマを信じている生徒たちなのだろう。
しかし、ヴィヴィオはそんな生徒たちの様子を気にせずに昇降口へと向かう。
そして、下駄箱にて外履きと上履きを履き替えていると、
「あら?そこにいるのは卑怯者の高町さんではありませんか?」
「ん?」
ヴィヴィオが顔を上げるとそこにはふんぞり返っている初等科の制服を着てふんぞり返っている一人の女子生徒とその取り巻きらしき数人の女子生徒が居た。
「えっと‥‥誰?」
ヴィヴィオの記憶の中には少なくとも眼前でふんぞり返っている女子生徒には覚えがない。
少なくともクラスメイトではない。
「まぁ!!貴女、この私を知らないというの!?この私、カテジナ・クラウンの事を!?」
「ううん、全然知らない」
元々St.ヒルデ魔法学院は初等科、中等科、高等科があるマンモス校であり、在籍する生徒の人数が多い。
そんな大勢の生徒が在籍するマンモス校のクラスメイトでもない生徒の事を覚える程の余裕はヴィヴィオにはない。
だからこそ、ヴィヴィオが眼前でふんぞり返っている女子生徒、カテジナの事を知らないのも無理はないし不思議でもない。
「それで?そのクラウンさんが私に何の用かな?」
ヴィヴィオはカテジナの事を知らないが、向こうの方は自分の事を知っている様子であり、何か自分に用があるからこそ、こうして話しかけてきたのだろう。
ただし、彼女の態度が高圧的であり、尚且つ最初に言い放った『卑怯者』と言う部分は引っかかるが‥‥
「ふん、貴女、貴女の母親の愚行がどれだけ沢山の生徒の心を傷つけたのか理解していないの?」
「ん?」
「自覚がないなんて、貴女自身はおつむが足りないみたいですわね。どうやってこの伝統ある学院に入学できたのかしら?」
「きっとアレですわ。この方の母親が裏口入学をさせたか、身体を使って教育関係者を誘惑させたに決まっていますわ」
「そうですわね」
「管理局ではエース何て言われていますけど、本性は卑怯者ですからね」
「本当に管理局でもエースなのかしら?」
「怪しいですわねぇ~」
カテジナとその取り巻きたちは人を小馬鹿にした様な笑みを浮かべながら、なのはをバカにしてくる。
一方、ヴィヴィオにとってはなのはの名誉を一方的に傷つけている眼前の生徒たちに不快感を覚える。
「なのはママは此処の生徒を傷つけた覚えはありませんけど?」
ヴィヴィオは管理局員であり教導官であるなのはが、この学院の生徒に対して一方的に暴力をふるったとは思えずに首を傾げながらカテジナの言葉を否定する。
「ですから、こうして知能が足りない貴女にも分かりやすく説明してあげますわ。貴女の母親が遠征に参加しなかったせいで、この学院に通う生徒の中で家族を失った方が大勢いると言う事ですわ」
「なのはママが元々その遠征に参加する予定だったんですか?その証拠はあるんですか?」
「貴女はご自身の母親が遠征前までなんて言われていたかご存知ないの?」
「うーん‥‥管理局の白い悪魔?」
「‥‥貴女、ご自身の母親に対して辛辣ですわね。違いますわ!!管理局のエース!!エース・オブ・エースですわ!!」
「ああ、そっちの方ね」
「それで、管理局の大遠征にその管理局のエースが行かないなんて普通ならありえませんわ!!」
「つまり、勝手な想像をして、証拠もないのになのはママの事をバカにしたって事?」
ヴィヴィオは年齢に似合わず凄みがある目つきでカテジナたちを睨みつける。
『っ!?』
ヴィヴィオの眼力に怯むカテジナたち。
クローンとは言え、ヴィヴィオの元となった人物が古代ベルカ時代の聖王オリヴィエである事、JS事件、教会の強硬派に襲われた事、そしてもう一つの地球では占領下を経験した事からヴィヴィオのメンタルは年齢に反比例して強くなっていた。
「さあ?どうなんですか?答えて下さいよ‥‥さあ、さあ、さあ‥‥」
カテジナに詰め寄るヴィヴィオ。
「くっ、お、覚えていなさい!!」
「あっ、待ってください!!」
「クラウンさん!!」
ヴィヴィオの迫力に負けたカテジナとその取り巻きたちは蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
ヴィヴィオが教室に入ると、彼女の姿を見て、気まずさなのかヴィヴィオから視線を逸らす者、ひそひそと話す者も居たが、
「あっ、ヴィヴィオ!!」
「もう大丈夫なの?心配したよ」
と、ヴィヴィオに声をかけてくれる生徒もいた。
ヴィヴィオに声をかけてきたのはクラスメイトであり、ヴィヴィオの親友であるリオ・ウェズリーとコロナ・ティミルの二人だった。
「あっ、リオ、コロナ‥うん。もう大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
「ううん、そんなことないよ」
「そうだよ。ヴィヴィオが無事に戻って来てくれただけでいいよ」
リオとコロナはヴィヴィオがこうして無事に学校へ復学した事を喜んだ。
やがて、教室に教師が入って来ると生徒たちはそれぞれ自分に着席する。
「皆さん、おはようございます」
『おはようございます!!』
「さて、皆さんもお気づきのようですが、本日より高町さんが当学院に復学しました」
『‥‥』
教師がヴィヴィオの事を話題にすると、ヴィヴィオの事をチラッと見るクラスメイトがちらほら居た。
「皆さんも、高町さんのお母さんが先の遠征に参加しなかった件についてのあらぬ噂を耳にしたかもしれませんが、それは事実無根の噂であり、元々高町さんのお母さんは遠征メンバーでなかったことは管理局から通達があり、学院側でも既に確認済みです。よって、皆さんもあらぬ噂を鵜吞みにしてはいけません。勿論、この件について高町さん本人も無関係なので、これまで通り接して下さい」
教師はクラスメイトに対して、ボラー連邦への遠征に伴うなのはの噂は事実無根の噂であり、当然ヴィヴィオもその噂には全くの無関係なので、なのはに対する噂の憂さをヴィヴィオに向けない様に釘を刺した。
教師から釘を刺され、クラスメイトの中には渋々と言った様子のクラスメイトも居たが、こうして教師から直々に釘を刺されては強くは言えない。
しかし、学院の運営元である聖王教会としてはやはりヴィヴィオの身を案じており、教師が釘を刺したにもかかわらず、ヴィヴィオに対して良からぬ事をしでかす生徒が居ないとは言い切れず、密かに学院のあちこちにサーチャーを飛ばしてヴィヴィオ、そして学院の生徒の動向を監視していた。
こうして学院は暫くの間、半ば刑務所みたいな様相となってしまった。
そんな中、なのははフェイトに連絡を入れていた。
「そう‥ヴィヴィオ、今日から学院に復学するんだね」
「うん。でも、大丈夫かな?ヴィヴィオ‥私のせいで、学校でいじめられないかな?」
なのはは以前シスター・シャッハから聞かされた懸念をフェイトに伝える。
「大丈夫だよ、なのは。元々なのははあの遠征に参加予定じゃなかったんでしょう?」
「う、うん」
「管理局側から教会に説明が言っているだろうから、教会が学校の理事に伝えて、そこから教師、生徒に説明がいくだろうしきっと大丈夫だよ」
「そ、そうかな‥‥?」
「うん。それにヴィヴィオは強くなったと思うよ‥‥」
「それは、もう一つの地球でデバイスを貰ったから?」
「ううん。それだけじゃなくて、ヴィヴィオは同年代の子供と比べたら色々な経験をしているでしょう」
「う、うん‥確かに‥‥」
「特にもう一つの地球での体験はヴィヴィオを精神的に大きく成長させたと思う」
「‥‥」
(フェイトちゃんも何だか、変わったような気もするけどな‥‥)
ヴィヴィオに対するフェイトの反応を見て、なのはは、変わったのはヴィヴィオだけでなく、フェイトも変わったという印象を受けた。
まだ機動六課時代、ヴィヴィオが保護されたばかりの頃のフェイトはヴィヴィオには勿論、自身が後見人を務めているエリオやキャロの二人にも周囲がやや引くほど甘かった。
まぁ、ヴィヴィオ、エリオ、キャロの三人に家族的な問題があり、フェイト自身も幼少期から家族に問題を抱えていた事もフェイトがヴィヴィオ、エリオ、キャロに甘い事が要因になっている。
ヴィヴィオが六課の訓練場で転んだ時もフェイトはいち早くヴィヴィオに駆け寄ろうとしたところをなのはが止めて、ヴィヴィオに自力で立ち上がる事を促した。
新暦75年、公開陳述会が行われた日に地上本部ビルがスカリエッティたちの襲撃を受けた時、機動六課の隊舎も襲撃を受けた。
その際、ヴィヴィオはスカリエッティの配下のナンバーズに攫われてしまった。
なのはは破壊された隊舎からヴィヴィオが気に入っていたうさぎのぬいぐるみが落ちていた事にショックを受けた。
JS事件が終息し、ヴィヴィオは成長して学院に通う様になり、平穏を過ごせると思いつつ、管理局の横暴さが招いたボラーとの一件から自分に変な噂が立ち、そこからヴィヴィオが学校から虐められるかもしれない懸念を聞かされて、良かれと思いミッドから避難させたが、教会の強硬派に拉致されそうになり、ジュエルシードの欠片でフェイトが救助されたもう一つの地球へ次元転移した時はホッと胸をなでおろす。
しかし、そのもう一つの地球がどこかの星間国家から侵略を受け、交信が一時停止してしまった際はなのはは気が気でない日々を過ごした。
その後、もう一つの地球は徹底抗戦の後、占領下から解放して交信が再開し、フェイトとヴィヴィオは無事にミッドに戻って来たが、こうした波乱万丈な事が立て続けに起こった経緯から六課時代のなのはとフェイトのヴィヴィオに対する態度が逆転していた。
なのははヴィヴィオに深く関係し、逆にフェイトはヴィヴィオともう一つの地球で過ごヴィヴィオの精神的成長を間近で見て来た事からヴィヴィオが自立している事を知っているので、ヴィヴィオに対して過干渉をしていない。
それが今回、なのはが思っているフェイトの印象なのだろう。
学院に復学したヴィヴィオの事を案じているのはなのはだけではなく‥‥
聖王教会 カリム・グラシア執務室
「そう言えば、今日からヴィヴィオが学院に復学するって聞いたけど?」
この執務室の主であるカリム・グラシアがシスター・シャッハに確認するように訊ねる。
「はい。学院の理事から報告が上がっています」
シスター・シャッハがテーブルの上に置かれているカップに紅茶を注ぎながら答える。
「‥‥」
「心配ですか?ヴィヴィオの事‥‥」
「ええ‥あんな噂が出回ってしまって‥‥管理局側が学院に噂を否定したけれど、あの遠征で家族を失った生徒さんはそう簡単に信じるかどうか‥‥」
「一応、警戒のためにサーチャーを飛ばしてヴィヴィオの動向を監視していますが‥‥」
そう言ってシスター・シャッハはタブレット端末を取り出してカリムに見せる。
タブレット端末にはヴィヴィオが在籍している教室の風景が映し出される。
映像ではこの時間帯は授業中なので、ヴィヴィオたち生徒が私語もなく授業を受けている映像が映っている。
そんな中、ヴィヴィオの後方に席がある一人のクラスメイトがヴィヴィオに向けて消しゴムの切っ端をデコピンで飛ばす。
ヴィヴィオに対して些細な嫌がらせのつもりだったのだろう。
飛んでくる消しゴムの切っ端‥‥
このままではヴィヴィオに消しゴムの切っ端が当たってしまうかと思われた時、
『もっふる!!』
犬だかネズミだかよく分からない茶色のぬいぐるみがヴィヴィオに向かって飛んでくる消しゴムの切っ端を逆に消しゴムの切っ端を飛ばしたクラスメイトに向かって跳ね返した。
「いっ‥‥」
ヴィヴィオに当てるつもりが跳ね返って来た消しゴムの切っ端が自分の額に勢い良く当たり、クラスメイトは思わず小さく悲鳴を上げた。
勿論。この様子はサーチャーで記録されていた。
「ほら、あのような事が授業中にもかかわらず、起こっているんですよ!!幸い今回はヴィヴィオのデバイスが防ぎましたが、やはりサーチャーだけでは不十分です!!」
更にカリムはサーチャーが記録した昇降口でのカテジナとの一件を見ると、
「何ですか!?この生徒は!?証拠もない噂を信じ、多勢で攻めるなんて学院の生徒の質も随分と下がりましたね!?」
カリムはこれらの映像を見て、サーチャーによる監視だけでは不十分だとシスター・シャッハに指摘する。
「わ、分かりました。では、シスター・セインを現場に向かわせましょう。彼女の能力は潜入にはもってこいですし」
「直ぐにシスター・セインを派遣して!!」
「わ、分かりました」
カリムの勢いに負け、シスター・シャッハは急ぎセインをSt.ヒルデ魔法学院に向かってもらうことにした。
「えぇぇー!!ヴィヴィオが学院にいる間、私も学院に潜入していろと!?」
シスター・シャッハから派遣の依頼を聞いたセインは思わず声をあげる。
「ええ。これは騎士カリムからの依頼です。シスター・セイン」
「で、でも、半日ずっとヴィヴィオの監視だなんて‥‥それに監視ならサーチャーで十分じゃないんですか?」
セインは今回の学院での任務にやや不満そうな様子だ。
「もし、この任務を引き受けてもらえるならば、当分の掃除当番を免除しても良いとの事です」
「直ぐに向かいます!!」
シスター・シャッハから掃除当番免除の特典を聞いてセインは直ぐに学院へと向かうと言う。
「それで、監視の件ですが、私もサーチャーだけで事足りると思っていましたが、やはり不十分でした」
そう言って先ほどの昇降口での出来事とクラスメイトの行いが記録された映像をセインに見せる。
「あぁ~まぁ、子供の悪ふざけと言えば悪ふざけなんでしょうけど‥‥」
「今はこの程度で済んでいるだけで、それがいつエスカレートするか分かりません。子供は無邪気な分、限度を知りませんからね」
「分かりました‥‥元ナンバーズの私がこう言うのも変ですが、折角ヴィヴィオが学院に復学出来たんですからね‥‥ヴィヴィオには普通のスクールライフを送って欲しいものです」
「ええ、そうね」
セインもヴィヴィオの生い立ちや辛い経験を知っているので、映像を見てやっと復学できたヴィヴィオにも今後も平穏な学生ライフを送って欲しいという望みがあるので、ただ単に掃除当番が免除になるからと言う訳ではなく、ヴィヴィオの為に一肌脱ぐことにした。
「ただ、あくまでも陰からの監視とヴィヴィオの警護を優先にしてください。決して先に手を出さない様に‥いいですね?シスター・セイン」
「分かっていますよ」
シスター・シャッハから監視・警護の注意点を言われセインはヴィヴィオの監視・警護の為、St.ヒルデ魔法学院に向かい、陰ながら当分ヴィヴィオの護衛に就くことになった。
今回の予算会議を始めとして自分の作品に登場するレジアス中将の後任となっているロールスロイス本部長のイメージ図です。
自分が抱くロールスロイス本部長のイメージ図はSFアニメ『ストラトス・フォー』の登場人物であるロバート・レイノルズです。
【挿絵表示】
CV秋元羊介