ヤマト、まほろばが補修と補給の為、バジウド星系の第四惑星、バース星へ寄港した頃、ボラー連邦本星の首相官邸では軍部の上層部が集められていた。
ボラー連邦本星 首相官邸 会議室
「ガルマン帝国は我がボラー連邦と銀河系を二分する強敵である。だが、その勢力の均衡は今や破られつつある。彼らは大胆にも我が衛星国の大艦隊を撃滅した。これはボラー連邦の最大の恥辱であるばかりでなく、ガルマン帝国の挑戦状とも言えよう」
ベムラーゼの言葉に一同は頷く。
「我々はバース星艦隊の敗北の教訓を学びとり、断固として彼らの野望をくじかなければならないのだ」
ベムラーゼはガルマン・ガミラスとの決戦に備えるべく、兵器開発局へ多額の出資を行い新兵器の開発を急がせていた。
今回ベムラーゼがこうした強気の発言を行った背景には既に新兵器の開発に成功し実戦導入への目途がついた可能性があった。
一方のガルマン・ガミラスでもデスラーを中心にボラー連邦との決戦に備え総統府で軍議が開かれていた。
ガルマン・ガミラス本星 総統府 会議室
「諸君、銀河中心部における四方向の攻略はまもなく初期の目標を達する事が出来る。いよいよ最大の敵、ボラー連邦との決戦を開始する時が来た。先般ボラー連邦の武力を探る為、バース星の艦隊を攻撃したが、容易く撃滅することが出来た。この事をもって敵を侮ることは出来ないが、また必要以上に脅威を感じる事もない。ボラーを倒さずして銀河系を支配することは出来ない。勝利を得たとは言えないのだ!!」
デスラーの言葉を緊張した面持ちで聞くガルマン・ガミラスの将軍たち。
「そこで、諸君らの戦略プランを忌憚なく聞かせてもらいたい」
そして、将軍たちの対ボラー戦線の作戦を聞くことにした。
「総統、戦略討議の前にご報告する事があります」
「何だね?キーリング」
すると、総参謀長のキーリングがデスラーに何らや報告がある様子で、デスラーにある報告をいれる。
「ガルマン帝国内にもシャルバートの信者たちが不穏な動きを企てている事が発覚いたしました」
キーリングの報告はガルマン・ガミラス内に居るシャルバート教と言う宗教の信者がクーデターを計画していると言う報告であった。
「ほう?」
「ボラー連邦の決戦を前に彼らが蜂起し、全宇宙のシャルバート伝説の信者に何らかの影響を与えるとなると、作戦に重大な支障をきたす恐れがあります」
「‥‥」
キーリングの報告を聞く中、会議に参加している一人の将軍の顔色が悪い。
デスラーはその将軍の不審さを見逃さなかった。
「その首謀者ですが‥‥」
キーリングがクーデターの首謀者の名前を告げようとした時、デスラーは手でキーリングの説明を止め、
「ハイゲル将軍‥‥どうした?顔色が悪いようだが?」
「‥‥」
デスラーは顔色を悪くしている将軍‥ハイゲルに声をかけると彼は黙って席を立つと窓際へと歩み寄り跪くとポケットからペンダントを取り出し空へ掲げひれ伏して礼拝を始めた。
その姿勢はまるで地球の宗教の一つであるイスラム教の教徒がアラー神礼拝の形によく似ていた。
「マザー・シャルバート‥‥マザー・シャルバート‥‥」
すると、空に輝くように美しい女性の像が現れた。
シャルバート教の信者が崇めるシャルバート‥‥それは伝説の星と言われる星で、幾千もの昔、銀河系に大きな影響力を持ち、星々に平和と愛を齎したシャルバート星‥‥
その星はイスカンダル同様、代々女王が治め、女神と言うべき超人的な権威で平和を守ってきたと言われている。
まさに大マゼラン星雲のイスカンダル、銀河系のシャルバートとも言える星だった。
しかし、今やシャルバート星はその力を落としシャルバート星の存在位置さえも不明となってしまい、地球で言うアトランティス大陸やムー大陸、レムリア大陸と言った伝説の大陸同様、本当に存在したのかさえ分からない宇宙伝説とされているが、シャルバート星の女王を神として崇める信仰はこうして現在でも根深く残っており、それはボラー連邦、ガルマン・ガミラスだけではなく、宇宙のあちこちにシャルバート教の信者が居た。
そして、ハイゲル自身もガルマン・ガミラスの将軍と言う地位にありながら、シャルバート教の信者の一人であった。
キーリングが掴んだ情報では彼こそがガルマン・ガミラス内に居るシャルバート教の信者たちを先導し、クーデターを起こそうとする主犯格であった。
バキューン!!
ハイゲルが礼拝を行っていると一発の銃声が会議室に響く。
ドサッ‥‥
そして、ハイゲルの身体は力なくその場に横たわる。
「ガルマンには神は二人も要らん」
銃声の正体はデスラーであり、彼は礼拝をしていたハイゲルを射殺したのだ。
とは言え、ハイゲル自身もキーリングに自身のクーデター計画を知られ、どの道処刑されることは分かっていたからこそ、こうして最後の礼拝を行ったのだろう。
自身の死が殉死となり、ガルマン・ガミラス内に居る同志たちの働きを期待して‥‥
ハイゲルを射殺したデスラーは銃をホルスターに戻して席に着くと、
「さあ、諸君。会議を続けよう」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべ何事もなかったかのように軍議を続ける。
デスラーの一連の行動にハイゲルのクーデターを報告したキーリングを始めとして会議室に居た将軍一同は唖然としていた。
ボラー連邦、ガルマン・ガミラスにおいて互いの勢力への決戦に挑むための会議が行われている頃、バジウド星系第四惑星のバース星近海に一隻の艦がワープアウトした。
ガルマン・ガミラス 第十七機動艦隊所属 ゲルバデス級航宙戦闘母艦 アルバレス 艦橋
ワープアウトしたのはゲルバデス級航宙戦闘母艦であり、この艦はジュラたち特使団一行の護衛の為に地球へ派遣されたガルマン・ガミラスの第十七機動艦隊所属の艦の一隻であったが、ジュラの伝令任務を受けたバレルがガルマン・ガミラス本星への帰途のために乗艦していた艦であった。
アルバレスは連続ワープ等の強行軍でやっとの事、地球からバジウド星系まで到着した。
「バレル様。本艦は現在、バジウド星系第四惑星の惑星バース近海まで来ました」
「うむ、戦闘がなかったとは言え地球から此処までは中々の距離だったな‥‥この後の航海の為に一時惑星バースに立ち寄り補給と補修を行う。特に機関の方には連続ワープで無理をさせたからな」
「承知しました」
「バレル様、本艦に接近中の艦影があります」
「味方識別信号を確認せよ」
「了解‥‥識別判明、惑星バースに駐留している友軍艦艇です。恐らくパトロール隊と思われます」
「よし、そのパトロール隊と交信し、バース星へ寄港許可を取ってくれ」
「了解」
アルバレスは味方のパトロール隊と交信して、補給と補修の為にバース星への寄港許可を求めた。
相手がガルマン・ガミラスの外務省に所属する上級役人と言う事でパトロール隊はすんなりとアルバレスの寄港許可を出した。
「本艦は着陸態勢に入ります。速度、006‥005‥‥」
「ん?あれは‥‥」
バース星へ降下していく中、ドックにはバレルが見慣れた二隻の地球型の戦艦が停泊していた。
明後日にバース星を出航予定のヤマト、まほろばが停泊しているドックの隣に空から轟音と共に一隻のゲルバデス級が降下してきた。
まほろば 第一艦橋
「ゲルバデス級だ‥‥」
「パトロール隊の艦か?」
ゆっくりと降下してきたゲルバデス級はまほろばの隣のドックへ着陸した。
「艦長、着陸したゲルバデス級より通信が入っています」
「繋いでくれ」
「はい」
隣のドックに着陸したゲルバデス級から通信と言う事で何事かと思ったが、パネルに映し出された人物に良馬は驚いた。
「やはり、まほろばとヤマトでしたか」
「バレル大使!?何故此処に!?」
バレルは地球でジュラと共に地球との同盟締結の交渉にあたっていた筈だ。
それが単身ゲルバデス級でバース星に来たのだから驚くのも当然だ。
「地球との同盟交渉で何かトラブルがあったんですか!?」
「いえ、交渉については現在もジュラ様が地球側の代表と交渉を続けております。今回、私はジュラ様からのメッセージを届ける伝令役としてガルマン・ガミラス本星へ急いでいる次第です」
「ジュラさんからのメッセージ?」
「はい。ジュラ様も地球の太陽で起きている異常を察し、ガルマン・ガミラスでも太陽制御が出来ないかと本国へ打診するよう私に命じられました」
「そうだったんですか‥‥」
(確かにガルマン・ガミラスの技術は地球よりも上だ。彼らの技術ならばもしかしたら太陽制御も可能かもしれない‥‥)
「大使、後でヤマトの古代艦長とその件について協議したいので、御苦労かもしれませんが、同席していただけますか?」
「承知しました。では、準備が出来ましたら連絡を下さい」
「はい。では、後ほど」
バレルがバース星に来た目的を聞き、良馬は次にヤマトの古代と連絡を取る。
「古代艦長、先ほど着陸したゲルバデス級のバレル大使はジュラさんからの伝令を頼まれており、ガルマン・ガミラス本星に向かっているそうですが、その内容はガルマン・ガミラスの技術で地球の太陽制御を行ってもらおうと言う依頼みたいです」
「ガルマン・ガミラスに太陽制御の依頼?」
「ああ。だが実際の所、ガルマン・ガミラスが動いてくれるのか?そしてどんな方法で太陽制御を行うのかはまだ不明だが、ガルマン・ガミラスの科学技術は地球よりも上だ」
「でしょうね」
「それならば、ガルマン・ガミラスの技術を使っての太陽制御ならば‥‥」
「地球の太陽制御も可能かもしれない‥と‥‥」
「うん。勿論、地球側もこの事を知っているだろうが、打てる手は全て打っておこうと言う事で同時に新惑星探査計画を進めたのだろう」
「なるほど、世の中に絶対や完璧なんてありませんからね」
「その事でこの後、大使と協議をするのだけれども古代艦長もその席に出席してもらいたいのだがよろしいだろうか?」
「勿論、出席させていただきます」
バレルと古代、両名からの協議の出席を取り付けた良馬はさっそく二人をまほろばへと呼んだ。
まほろばの会議室では良馬、古代、バレルの三人での話し合いが行われた。
「それで、ガルマン・ガミラスの技術で地球の太陽制御は可能なのでしょうか?」
古代はバレルに肝心の太陽制御が成功するのかを訊ねる。
「私は技術者ではないので何とも言えません。しかし、可能性は十分にあると思います」
バレルは母国の技術の力をもってすれば地球の太陽制御は可能であると信じている様子。
「ですが、まずは総統に地球の現状を伝え、太陽制御のプランを立てなければなりません。総統の許可が下りた後は本国の技術者たちに地球の太陽のデータを渡す必要があります」
「では、このままガルマン・ガミラス本星を目指す航海ですか?」
良馬はバレルに今後の航海日程を訊ねる。
「最終的にはそうなります。ですが、その前にこの宙域を管轄とする東部方面軍司令部の宇宙要塞へ向かいます」
「宇宙要塞へ?」
「はい。その要塞ならば、艦艇よりも強力な通信設備がありますので、そこから本国の総統へ通信を入れ、地球の現状をお伝えします。そちらの方が幾ばくかの時間を短縮する事が出来るので」
「なるほど」
「大使、もし差し支えなければガルマン・ガミラス本星までの航路を聞いてもよろしいでしょうか?」
良馬がバレルにガルマン・ガミラス本星の位置を訊ねた。
バレルは暫し考えた後、持参したタブレット端末の様な機械でこの後の予定航路を表示する。
「途中まではヤマトの探査航路と同じだ」
アルバレスの予定航路とヤマト、まほろばの探査航路は被っていた。
「大使。もし大使がよろしければ途中までヤマトとまほろばは同行してもよろしいでしょうか?」
良馬はバレルに同行の許可を求めた。
「大使は後にこの宙域を管轄する司令部となっている宇宙要塞へと赴くとの事で、ヤマトとまほろばが赴いた際、何かしらの誤解や問題が生じては‥‥」
「そうですね。私が同行した方が東部方面軍へ変な誤解を与えはしないでしょう。分かりました。途中まで共に行きましょう」
「ヤマトとまほろばは明日までこのバース星の寄港許可が下りています」
「分かりました。アルバレスも明日までに出航準備を整えます」
「ヤマト、まほろばの乗員たちも協力します」
「ありがとうございます」
アルバレスとヤマト、まほろばはこの宙域を管区とする東部方面軍の宇宙要塞まで同行することになった。
「そう言えば、昨日総督府主催の会食会が行われ、このバース星について教えて頂いたのですが、ボラーはこの星を支配している時にこの星を流刑地として使用していたみたいなのですが、大使はその件についてご存知でしょうか?」
「ええ、勿論知っています」
「では、この星へ送られた人々はどうなったのでしょう?聞いたところ、ドロッペ総督はこの地にあった強制収容所を取り壊していたので、もうこの星にはボラーが送り込んだ囚人は居ないと思ったのですが‥‥?」
「この星がガルマン・ガミラスの自治領となる直前にどうやらバース星人が収容されていた囚人たちを宇宙へ逃がしたみたいです」
外務省の役人だからなのかバレルは意外にも情報通であった。
「この星に流刑された囚人たちは一体何をしたかは‥‥流石に知りませんよね?」
「さすがに全員は知りません。ですが、大半の囚人は主にシャルバート教の信者が収容されていたみたいです」
「シャルバート教?」
「『教』と言う事は宗教ですね?」
「ええ、シャルバート教はボラー連邦、ガルマン・ガミラス‥いえ、宇宙の彼方此方に信者を持つ大規模な宗教です」
「「‥‥」」
ガルマン・ガミラス、ボラー連邦‥両国の垣根を越えて宇宙に信仰がある宗教に良馬も古代も神妙な顔つきになる。
地球ではシャルバート教なんて宗教はないからだ。
そう言う一面からも地球はまだまだ宇宙では発展途上なのかもしれない。
「それでそのシャルバート教と言う宗教は一体どんな宗教なんですか?」
「伝説の星、シャルバート星の女王を崇拝する宗教です」
バレルの端末にはシャルバート教の情報として跪きペンダントらしき物を空に掲げている信者の写真が映し出される。
「伝説の星‥‥」
「そんな星が銀河系に?」
「古い文献等に度々登場する星の名前ですが、実際にその星が何処にあるのかは不明なのです。今では存在しないただの伝説ではないかと言う意見もあります」
(伝説の星、シャルバート星か‥‥それってシャンブロウで出会ったジレル人の方舟みたいに惑星サイズの移動する宇宙船なのだろうか?それとも彗星帝国の様な移動要塞なのだろうか?)
シャルバート星の説明を聞いて良馬はかつて迷い込んだ異次元で見たジレル人の方舟を思い出し、シャルバート星も星ではなく常に移動する方舟や彗星帝国みたいな移動要塞だからこそ、星の位置が掴めないのではないだろうかと思った。
「そして、シャルバート教はボラー連邦でも我がガルマン・ガミラスでも禁教となっている宗教なのです」
「禁教?」
「なんでまた禁教なのですか?」
「全ての信者には当てはまりはしないのですが、一部の信者の中には過激な思想を持つ者も居て、各所でテロ活動を行っているのです」
続いて映し出されたのはシャルバート教信者が起こしたテロ活動の被害写真。
「禁教なのは恐らくテロ活動だけではないのでしょう?」
「‥‥」
シャルバート教が禁教なのはテロリストを生み出す危険な宗教という理由だけではないと指摘する良馬にバレルは気まずそうな顔をする。
「月村艦長。それってどういうことですか?」
古代が良馬に質問したので、答える良馬。
「先ほど大使はシャルバート教の説明で、シャルバート教は『シャルバート星の女王を崇拝する宗教』と仰いました。ボラー連邦がどのような政治体制なのかは知りませんが、デスラー総統としては自分が統治する国家で自分以外の人物を崇拝されるのが我慢ならないんじゃないかな?」
「「‥‥」」
古代もデスラーの性格からあり得そうだと思い神妙な顔つきだ。
バレルもやはり図星だったのか良馬から視線を逸らしている。
「ま、まぁ、宇宙の宗教よりも今は新惑星探査と太陽の問題を解決する事にしましょう」
自分で指摘してしまい気まずい空気を作ってしまった良馬はシャルバート教についての話題を逸らした。
「そ、そうですね」
「ええ‥‥」
バレルとしてもあまり触れては欲しくなかった話題だったので、早々にこの話題を打ち切った。
その後、アルバレスにはヤマト、まほろばから人員が送られ補給と補修が急ピッチで行われた。
バース星でまほろば、ヤマト、アルバレスの補修と補給が行われている頃、東部方面軍管轄のバジウド星系手前の某宙域では‥‥
??? 艦橋
「敵輸送船団、本艦の頭上を航行中‥‥」
「艦長、敵は我々に気づいてはいません」
「よし、狩りの時間だ。亜空間暗号通信ブイを射出。司令官に報告だ」
「はっ!!亜空間暗号通信ブイ射出!!」
通常とは異なる次元に潜んでいた襲撃者たちは今まさに星の海を航行しているガルマン・ガミラスの輸送船団へその牙をむけようとしていた。
ガルマン・ガミラス 輸送船団 護衛隊 旗艦
「司令官、妙な電波を受信しました」
「妙な電波?」
「はい。内容から暗号通信かと思われますが解読不能です」
「暗号通信だと発信源は?」
「至近なのですが、見張り員からは艦船や艦載機等の報告はなく、またレーダーにも反応はありません」
「‥‥全方位警戒。輸送船を中心に護衛艦はその周囲へ展開せよ」
「はっ!!陣形を変更!!各艦へ信号!!」
友軍からの暗号通信ではない通信が至近で発せられたのだから警戒するは当然の事だった。
護衛隊司令官は陣形を変更し周囲を警戒しつつ進んで行く。
??? 艦橋
「友軍艦艇より連絡があった敵輸送船団を発見」
「敵は陣形を変えているようですが、本艦ならびに友軍艦艇には気づいている様子はありません」
「ふむ、敵はまんまと罠にかかったな‥‥機関始動、微速前進追尾する」
「はっ!!機関始動、微速前進!!」
襲撃者たちの包囲網は徐々に狭められていく‥‥
ガルマン・ガミラス 輸送船団 護衛隊 旗艦
「周囲に異常は?」
「ありません。この宙域を航行しているのは我が輸送船団のみです」
司令官はレーダー手に周囲の状況を訊ねるが、輸送船団周辺には相変わらず何の変化もなく、航行している他の宇宙艦艇は存在していない。
「‥‥」
(周囲に艦影はない‥‥しかし、どうも嫌な予感がする)
護衛隊の司令官は妙な胸騒ぎを覚える。
そしてその予感は的中する事になる。
??? 艦橋
「‥‥時間だ。亜空間魚雷全門発射!!」
「亜空間魚雷全門発射!!」
「発射!!」
異次元の空間に潜む襲撃者たちは遂にその牙をガルマン・ガミラスの輸送船団へと向けた。
ガルマン・ガミラス 輸送船団 護衛隊 旗艦
「高速飛来物、我が輸送船団に接近!!」
「な、なに!?応戦!!急げ!!」
輸送艦の護衛についていた戦闘艦艇は直ちに砲門を開き応戦するが、距離が近かった事、そして数が多かったが為に対処が遅れた。
「駆逐艦Z-168撃沈!!」
「同じくZ-34も被弾!!」
「輸送船305号被弾し大破!!」
「司令官、飛来してきたのは亜空間魚雷です!!」
「亜空間魚雷だと!?では、次元潜行艦か!?」
「間違いありません!!」
「まさか、ボラーの連中が次元潜行艦の技術を‥‥」
謎の暗号通信にレーダーに映らない事、突然の攻撃、しかも攻撃方法が亜空間魚雷と言う事から護衛隊の司令官は自分たちを攻撃してきたのが次元潜行艦であると察した。
しかし、ボラーはこれまでの戦いで次元潜行艦を繰り出した事などなかった。
だが、現に自分たちはこうして攻撃を受けている。
いくらなんでも友軍の次元航行艦が自分たちを攻撃してくるとは思えない。
その事から司令官はボラー連邦が自分たち同様、次元潜行艦の建造技術を得てソレを建造し、実戦に投入して来たのだと判断した。
「周辺のパトロール隊に緊急伝!!」
「は、はい!!」
「亜空間魚雷、本艦にも接近!!」
「迎撃しつつ回避!!」
「敵亜空間魚雷、きわめて至近!!回避間に合いません!!」
「そ、そんな‥‥」
「あ、当たる!!うわぁぁぁぁぁぁぁー!!」
亜空間魚雷は輸送船団の護衛をしていた護衛隊の旗艦へと命中した。
???改め、ボラー連邦 B型次元潜行艦 B-001 艦橋
「亜空間魚雷全弾命中、敵輸送船団は壊滅状態です」
「ふむ、初戦にしては中々の戦果だな」
「はっ!!首相閣下にも吉報をお伝え出来ますね」
「うむ。このまま戦果をあげれば我々は国家英雄になれるぞ」
「敵輸送船団の残存艦が救難信号を発信しています!!」
「全艦に通達、直ちにこの宙域から離脱する」
「はっ!!」
「ふっ、ガルマンの連中め、次元潜行艦を有しているのは自分たちだけではないぞ。これからはどこから魚雷が襲い掛かって来るのか分からない不安な航海となるだろう。ハハハハハ!!」
ボラー連邦の次元航行艦隊はガルマン・ガミラスの輸送船団を壊滅させるとその姿を何処かへと消した。
輸送船団からの救難信号を受信したガルマン・ガミラス東部方面軍のパトロール隊が現場に到着すると、そこには既に敵の姿はなく輸送船団とその護衛をしていた戦闘艦艇の残骸と大破した艦艇が空しく宇宙空間を漂っていた。
「い、一体彼らの身に何があったと言うのだ‥‥」
ガルマン・ガミラス側がボラー連邦も次元潜行艦を使用し通商破壊活動を行っている事を知るのはもう少し先になってからだった。
此処でガルマン・ガミラス、ボラー連邦、両陣営が保有する次元潜行艦について説明しておこう。
ガルマン・ガミラスが保有する次元潜行艦はまだデスラーがガルマン星を見つける前、彗星帝国に身を寄せていた時、デスラーは彗星帝国との間に技術交換を行っていた。
それにより彗星帝国はガミラスの瞬間物質転送機の技術を得て、メダルーザ級殲滅型重戦艦を建造することが出来た。
一方のガミラスは彗星帝国の宇宙艦艇で採用されている回転式砲塔の技術と彗星帝国が保有していた潜宙艦の技術を得た。
木星圏におけるヤマトとの決戦後、デスラーはヤマトへの憎しみを解消し新天地への大航海へと出た。
マゼラン星雲にてヤマトと共にゴルバと戦い、そしてようやく新天地であるガルマン星へとたどり着き、当時ガルマン星を支配していたボラー連邦を一掃した後、新国家を樹立させた。
新国家樹立後にデスラーはボラー連邦を完全な敵対国として認識し、優位に戦況を進める為、新兵器の開発を進め、次々と新たな新造艦を建造していった。
そして、その最中に彗星帝国からの技術交換で得た潜宙艦の技術で次元潜行艦を建造した。
ガルマン・ガミラスの次元航行艦が彗星帝国からの技術で建造された経緯がある一方、今回初めて実戦導入されたボラー連邦側は時空管理局より次元潜行艦技術を得ていた。
時空管理局がボラー連邦への武力制裁失敗により、時空管理局が保有していた次元航行艦が何隻かボラー連邦側に鹵獲されていた。
ベムラーゼが時空管理局への見せしめとして破壊した次元航行艦もあったが、鹵獲し改造したボラーの次元航行艦は本局へ帰還する管理局の次元航行艦を追撃する働きを見せるが、鹵獲した次元航行艦はその後のガルマン・ガミラスとの戦闘により喪失した。
だが、次元航行艦の実戦データや技術調査のデータはボラー連邦本国に残されていた。
ガルマン・ガミラスと敵対していたボラー連邦はガルマン・ガミラスが次元潜行艦を保有していた事を当然、知っていた。
管理局から鹵獲した次元航行艦を沈めたのもガルマン・ガミラスの次元潜行艦だからだ。
ガルマン・ガミラスの次元潜行艦により喪失した管理局の次元航行艦なんて当初、ボラー連邦は自分たちよりも弱小勢力の艦なので、『所詮この程度かと』思い歯牙にもかけない扱いであったが、その後も続くガルマン・ガミラスとの戦争で次元潜行艦の優位性に気づいたボラー連邦の兵器開発局は再び管理局の次元航行艦のデータとガルマン星支配時代に得た波動エンジンの技術を組み合わせてボラー側も次元潜行艦の建造を開始して短期間で次元潜行艦の建造に成功したのだ。
管理局では現在、ボラー連邦から亡命したミノフスキーが宇宙艦艇の新型エンジンの開発を行っているが、その反面、管理局はボラー連邦に次元潜行艦技術を不本意ながらもプレゼントしてしまう皮肉な結果となってしまった。
その管理局において、某日フェイトはクロノにある相談をしていた。
「えっ?士官学校へ行く?フェイトが?今から?」
「うん」
フェイトは管理局の士官学校へ学び直したいと言うのだ。
フェイトはPT事件後に事情聴取、裁判を半年で終えた後、嘱託局員として活動し、海鳴でジュエルシードをかけて後に管理局でエース・オブ・エースと呼ばれる高町なのはと共に聖祥大附属中学を卒業後に管理局の訓練校を僅か三ヶ月の短期プログラムを受けた後、実績を積んで執務官試験を受験して合格した後、執務官となり現在に至る。
そのフェイトが改めて士官学校へ入校したいとクロノに言ってきたのだ。
「どうして今になって士官学校へ?」
クロノは何故今頃になってフェイトがわざわざ士官学校へ入りたいのか?
その真意をフェイトに訊ねる。
既に執務官資格を有して魔導師としても管理局員としても実績も十分に積んでいるフェイトはまさに絵に描いたようなエリート局員なのだから今更士官学校へ入校する意味はない筈だ。
それにもかかわらずフェイトはこうしてクロノに士官学校への入校を相談している。
「私、将来はクロノみたいに次元航行艦の艦長を目指したい」
「次元航行艦の艦長に?」
フェイトは本格的に次元航行艦乗りを目指しゆくゆくはクロノやはやてと同じく次元航行艦の艦長を目指したいと言う。
「うん。その為には現場の経験も大切だけど、まずは基礎から学びたいの‥ティアナもきっと向こうの地球で防衛軍の軍人になる為、専門の学校か訓練校に通っているだろうし」
(フェイトもティアナに感化されたのだろうか?)
そう思いつつクロノはフェイトに管理局‥“海”の現状を話す。
「しかし、フェイト。“海”‥特に次元航行艦乗りは既に少し前のような花形職業ではない。ひとたび次元の海へ出れば常に死の覚悟が必要になる。乗員の中には不正も横行し他の世界の住人に恨まれ、時にはそんな彼らを手にかけろとまで言われるかもしれないんだぞ。今の次元航行艦乗りはそんな職場環境になっているんだ」
クロノの話ではフェイトが思っていた以上に“海”の次元航行艦乗りの職場は危険で荒れている様子だ。
危険な職場になっているからこそ、使い捨てのような素行が悪い局員があてがわれているのかもしれない。
「この前の次元断層での遭難もそうだが、彗星帝国から襲撃を受け遭難して、暗黒星団帝国の占領下を経験したフェイトも分かっている筈だ」
「だからこそだよ、クロノ。クロノだってボラーへの武力制裁を経験した後もこうして管理局に残って、次元航行艦の艦長をしているじゃない。それに不正を正したいって言う思いがあるからこそ、こうして学び直したいんだよ」
「‥‥」
「私もなのはもはやてもこれまで管理局の綺麗な所しか見てこなかった‥‥ううん、気づかなかったのかもしれない‥‥六課が解散する前までは“陸”は文句が多い部署としてか見ていなかったけど、実際にJS事件後の事後調査で“海”がいかに恵まれていたのかを理解できたし、“陸”の事を誤解していた自分が物凄く恥ずかしかった」
「‥‥分かった。フェイトがそこまで言うのなら、推薦状は用意しよう。ただし試験は他の受験生同様受けてもらうぞ。でないと受験生に示しがつかないからな」
「うん。そのつもりだよ」
こうして、ティアナと同じくフェイトはミッドにて士官学校を受験をして次元航行艦乗りを目指す事になった。
フェイト同様、もう一人将来について悩んでいる者がもう一人いた。
ミッドチルダ西部地方 エルセア ナカジマ家
チンク・ナカジマは悩んでいた。
彼女はJS事件後に管理局の司法取引を受け、海上更生施設にて更生教育を受けた後、ナカジマ家に他の姉妹と共に養女として引き取られた。
管理局の司法取引があったので、チンクたちは嘱託局員扱いであり、ピンチヒッターとして現場に出る事があった。
その中でも海上第七支部、次元航行船コスパ・コンコルド号の救助任務が、チンクたちが嘱託局員となってから体験した大きな事件であった。
その後、ノーヴェは嘱託局員をする傍らスポーツジムの経営者を目指して勉強中、ディエチとウェンディもスバル同様、救助隊に所属している。
スバルは兎も角、ディエチとウェンディは戦闘機人だからこそ、通常の人間では困難な現場でも活動できる、自分の存在意義は人を助ける事なのだと新たな生きがいを感じている様だった。
ナカジマ家ではなく聖王教会へ引き取られたセイン、オットー、ディードもシスター、教会騎士として頑張っている。
特に感情が乏しかったオットーとディードは教会に引き取られてからは感情豊かになりつつあり、それは良い傾向だろう。
しかし、チンクの場合他の妹たちよりも稼働期間が早かった事と養父であるゲンヤの妻であるクイントが所属しているゼスト隊の壊滅に関わっていた。
そういった点からもチンクは他に姉妹と異なり負い目を感じていた。
当初は管理局の司法取引を拒否したウーノ、トーレ、クアットロ、セッテの様に刑務所に服役しようかと思ったが、ウーノたちが刑務所に収監されることを選んだ事から最年長は自分だけとなり、妹たちの引率も兼ねて自分は司法取引を受けた。
嘱託局員として時には人命救助、そして時には捜査官として犯罪者を追う捜査も行っているが、チンクはどこかやりがいを感じられない所があった。
元とは言え犯罪者の自分がこんなことを感じる事はあまりにも無神経と言うか贅沢すぎる事なのだが、はたしてただやりがいを感じないだけなのだろうか?
そんな疑問もチンクの中にはあった。
妹たちはもう十分に外の世界で経験を積み、自立した。
姉として妹の引率役は果たしたのではないか?
では、自分は一体この後どうする?
「‥‥」
チンクが自身の今後に悩んでいると、
「あっ‥ち、チンク姉?」
実家に戻っていたスバルがチンクに声をかけた。
スバルはこう見えて他人の感情には鋭い一面がある。
チンクが何かに悩んでいるのではないかと察したのだ。
「ああ、スバルか‥‥」
「どうしたの?何か悩んでいるみたいだけど‥‥」
「‥‥ちょっと自分の将来に‥な」
「?チンク姉の将来?」
「ああ‥‥ノーヴェはスポーツジムの経営者を目指し、セインたちは教会のシスター、ディエチとウェンディは救助隊でスバル同様活躍をしているのだろう?」
「う、うん。でもチンク姉も救助隊や父さんの部隊で活躍しているってノーヴェが言っていたけど?」
「活躍か‥‥ただ指示に従って動いていただけだ。それではドクターの作った玩具となんら変わらん」
「‥‥」
自嘲した笑みを浮かべるチンクに対してスバルは何だか危いモノを感じた。
「チンクが悩んでいる?」
「はい」
スバルはフェイトに連絡を入れた。
なのはではなくフェイトに連絡を入れたのは共にギンガの生存を知っている仲であり、フェイトはもう一つの地球でティアナの悩みを聞いていたからだと推察したからだ。
「それってどんな悩みなの?」
悩みにも色々ある。
もし、チンクが異性関係で悩んでいるとしたら恋愛経験のない自分は、アドバイスは出来そうにない。
「チンク姉が言うには将来について悩んでいるみたいですが、ただそれだけじゃないようにも思えて‥‥」
「そう‥‥それなら、今度私がチンクと話そうか?」
「えっ?フェイト執務官が?」
「うん。実は私もちょっと将来について悩む所があってね」
「わ、分かりました。フェイト執務官がよければチンク姉の相談にのってあげて下さい。チンク姉の方にはあたしから伝えておきますので、フェイト執務官の都合がいい日を教えてもらえますか?」
「えっとね‥‥」
「ありがとうございます。フェイト執務官。えっと‥チンク姉の事よろしくお願いします」
「うん。できる限りの事はするよ」
こうしてフェイトはチンクの相談に乗る事にした。
果たしてフェイトはチンクの悩みを解決する事が出来るのであろうか?
今回登場したボラー連邦保有の次元潜行艦のデータです。
武装などの詳しい設定は登場艦船 ボラー連邦に記載しております。
B型次元潜行艦
ボラー連邦が、時空管理局が保有している次元航行艦を鹵獲し技術調査をした後、建造したボラー連邦の次元潜行艦。
正式艦級名称は第2系列ベムーリン型次元潜行艦。
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