星の海へ   作:ステルス兄貴

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管理局側で動きがありました。


百七十九話 管理局の闇

 

 

ガミラス、彗星帝国、暗黒星団帝国と三つの星間国家からの侵略を退けるも太陽の核融合異常増進と言う自然相手にガミラス戦役から四度目の危機を迎えた地球。

 

第二の地球となる星を求めて銀河系の彼方此方を各国の探査船団が惑星探査を行うも、第二の地球となりうる惑星は見つからず、探査中にアメリカ、ヨーロッパ、アフリカの探査船団からの連絡が途絶え、アメリカの探査船団は担当宙域にてボラー連邦の襲撃に遭い、スカラゲック海峡で遭難している事が判明した。

 

未だに連絡もつかず、また船体も見つからないヨーロッパ、アフリカの探査船団も宇宙気象かボラー連邦の襲撃に遭った事が予測される。

 

第二の地球となる新惑星が見つからず、地球に残された時間が刻々と失われていく中でかつて銀河系最強と噂されるシャルバート星へ辿り着いたヤマトとまほろば。

 

そのシャルバート星で太陽の核融合異常増進を止めることが出来るハイドロコスモジェン砲を受け取り、それを使用する事で太陽の核融合異常増進を止めることが出来、地球は救われた。

 

しかし、その代償は勇敢で若い宇宙戦士二人の戦死と言うあまりにも大きな代償を払う事になった。

 

なお、余談であるが今回の新惑星探査の任務に参加することになった際、ギンガはケンタウロス座アルファ星にて、出航前に生活必需品や消耗品をショッピングモールにて購入していたが、その中で避妊具も密かに購入しており、その避妊具は航海前と航海後では数が減っていた事は当人同士の秘密である。

 

 

ヤマトがハイドロコスモジェン砲を使用し、更にコスモクリーナーを使用して荒廃した地球の気温が数ヶ月の時間をかけて戻し、人類が地下都市から地表へ戻った某日‥‥

 

四度地球を救ったヤマト、そしてまほろばはドックにその身を横たえ、乗員たちも暫しの休息となった。

 

そんな中、月村家に一本の電話が入った。

 

「はい。月村でございます‥‥はい、在宅中でございます‥‥はい、少々お待ちください。忍様」

 

電話の相手は忍に用があるみたいで、電話に出たノエルは忍を呼ぶ。

 

「はい、お電話代わりました。月村です‥‥はい‥‥はい‥‥そうですか‥‥分かりました‥‥はい‥‥では‥‥」

 

忍が電話を終えたタイミングで良馬がその場に来た。

 

「あれ?忍さん、電話?誰から?」

 

電話を終えた忍が何だか神妙な顔つきだったので、電話の相手と電話内容が気になったので、訊ねたのだ。

 

「ああ、揚羽財閥の人よ」

 

「揚羽財閥‥‥」

 

(この前の戦いで戦死した揚羽君の実家か‥‥)

 

『揚羽』と聞いて真っ先に思い浮かぶのが、揚羽武の実家だ。

 

「ええ‥揚羽さん、どうやら会社の経営権を親戚の人に譲って、奥さんと一緒に田舎へ隠居するみたい」

 

「隠居‥‥それって財界から引退するってこと?」

 

「そうよ。揚羽さん、確か先日息子さんを亡くしたのよね?」

 

「はい。金星宙域での戦いで‥‥」

 

電話の相手は揚羽財閥の関係者であり、その内容が揚羽財閥の総帥である揚羽蝶人の引退だった。

 

蝶人はまだまだ経営者としては持病等の病気も無く現役バリバリの年齢であるにもかかわらず、突然の財界からの引退‥‥

 

彼の電撃引退は政財界では困惑や多少の混乱も起きるだろうが、良馬は蝶人が何故引退を決めたのか心当たりがあった。

 

先日の金星宙域での戦いにおいて蝶人は一人息子を失った。

 

敵の要塞へ特攻をした事で息子の遺体さえも見つからない。

 

そして蝶人の奥さんが病弱である事を良馬は知っていた。

 

当然、奥さんも蝶人も一人息子を失った事にショックを受けただろう。

 

息子を失ったショックでただでさえ病弱だった奥さんの症状が悪化してもおかしくはない。

 

それ故に蝶人自身もこれ以上、会社を経営していく意欲を失ったので、会社の経営権を親戚へと譲り渡して自身は奥さんと共に田舎へ隠居する事に決めたのだ。

 

あの戦いに参加していた良馬としては蝶人の気持ちも理解できると共に揚羽を戦死させてしまった事に間接的ではあるが、責任を感じてしまう。

 

(忍さんも俺が防衛軍へ入隊した時も揚羽さんと同じ気持ちだったんだろうな‥‥)

 

今回の蝶人の引退であの時の忍の気持ちが分かった。

 

今日まで自分が生きているのは艦の能力や自らの指揮の他に運も含まれている。

 

一歩間違えれば自分も何時死んでもおかしくはない環境に居る。

 

「忍さんは、もしも俺が戦死したら‥‥やっぱり、ショックを受ける?」

 

「えっ?どうしたの?急に?」

 

「いや、今回の揚羽さんの事でちょっと‥‥」

 

「‥‥そうね‥そりゃあ貴方が死んだら当然悲しいわ。それでも私は、私の意志で今の座からは下りたりはしないわ」

 

忍は蝶人と異なり、例え良馬が戦死しても月村グループの総帥の座からは自らの意志では引退しないと明言する。

 

「それはどうして?」

 

「月村グループの総帥の座は、私の両親から受け継いだ大事な椅子だもの‥‥これまで多くの者が私を総帥の座から引きずり下ろそうと暗躍してきたわ。そんな中でもあの人は、私の事を守り続けてくれたの‥‥両親とあの人の為にも‥‥そして私を慕ってくれる会社の人たちの為にも私は総帥の座からそう簡単に降りる訳にはいかないの‥‥」

 

「‥‥」

 

忍が言う『あの人』は大昔に死別した忍のパートナーを差している事を良馬はすぐに分かった。

 

昔から、事あるごとに惚気話を聞かされていたからだ。

 

忍は例え良馬が死んでも蝶人とは違い総帥の座からは下りないが、良馬もそう易々と死ぬつもりは無いと心では決めていた。

 

 

地球において今回の太陽異常における地球本土の復興作業、蝶人の財界からの電撃引退、そして地球が復活した事によりガルマン・ガミラスとの同盟締結についての話し合いが再開される等の出来事が起きている頃、ミッドチルダでも動きがあった。

 

ミノフスキーの指導の下、次元航行艦の新型エンジンの開発に置いて既に試作型のエンジンは完成して、稼働試験も無事にクリアーする段階まで来て、あとは細々な改良点の追及と同時に新型エンジンが搭載可能な新たな次元航行艦の設計段階へと移った。

 

次世代の次元航行艦の設計にあたり、一応ミノフスキーはボラー連邦の技師であり、当然ボラー連邦が運用していた宇宙艦艇の形状は知っていた。

 

しかし、管理局はボラー連邦に手痛い目にあっていたので、鹵獲した艦艇は兎も角として、新たに建造する次世代の次元航行艦の艦影がボラー連邦と同じ艦影なんて絶対にしないだろうが、参考資料としてミノフスキーにボラー連邦が運用している宇宙艦艇の設計図を知っている限りで提出させた。

 

“陸”の方でも装甲車や戦車、“陸”所属の局員たちの為の装備である携行型の光学武器‥防衛軍で言う所のコスモガンの制作と整備が進められていた。

 

そんな管理局がボラー連邦への武力制裁失敗から、新型エンジンと新たな次元航行艦の建造と再建を始めている中で、ミノフスキーの下で助手として働いていたマリエルとシャリオの二人が突然人事部への出頭を命じられた。

 

「突然の人事部への出頭‥‥私たちに一体何の用があるのでしょう?」

 

通路を歩きながらシャリオは人事部から呼ばれる見当がないので、人事部が一体何の用で自分とマリエルを呼ぶのか不思議そうだ。

 

「そうね、新型のエンジンも正式に製造が決まって、造艦部でもその新型エンジンを搭載する次世代の次元航行艦の設計が始まったみたいで、私たちの仕事も本番はこれからって言う時に‥‥」

 

「あっ、もしかして新型エンジンの開発を手伝った功績で昇進の話かもしれませんよ」

 

シャリオはミノフスキーの助手とは言え、新型エンジンの研究に関わり、開発に成功した事からその功績により昇進するのかもしれないと思った。

 

「うーん‥‥私としては別に昇進は興味ないんだけどね‥‥」

 

昇進話かもしれないと思いシャリオは嬉しそうだが、マリエルは別に興味がなさそうだった。

 

「そりゃあマリーさんは佐官じゃないですか。私はまだまだ下っ端の一士なんですから、昇進試験なしで昇進できるなら儲けものですよ」

 

ミノフスキーの下で助手として新型エンジンの開発業務をしていたので、昇進試験の勉強も出来なかったので、試験を受ける事も出来なかった。

 

その為、試験なしで昇進することが出来るのなら、非魔導師であるシャリオにとってはまさに棚から牡丹餅だ。

 

機動六課卒業後、エリオとキャロは自然保護官になりミッドチルダから他の管理世界へ向かい階級はその若さゆえか二等陸士のままであったが、スバルは特別救助隊へ入隊を果たすと二等陸士から士長へ昇進して、ティアナは執務官補佐となり、一気に准尉へと昇進した。

 

最もティアナは管理局を辞めてもう一つの地球にて、宇宙戦士訓練学校へ入校したので、准尉から再び訓練生になり下がったが、シャリオとしては年下のスバルやティアナが階級で上回った事に焦りみたいなモノを感じていたのだろう。

 

幼馴染みであるグリフィスは六課時代には准尉であり、現在はニ尉になっており、非魔導師ながらもエリート街道まっしぐら‥‥

 

これは彼の母親であるレティが本局の人事を含む本局運用部の提督なので、息子であるグリフィスも勿論本人の努力もあるだろうが、やはりレティ・ロウランの息子と言う事で忖度のようなモノがあるのだろう。

 

と、昇進に期待するシャリオと一体どんな要件なのかと思うマリエルの二人は人事部へと出頭した。

 

「マリエル・アテンザ技術官、出頭命令を受け参りました」

 

「同じくシャリオ・フィニーノ一士、参りました」

 

出頭命令があった人事部の部屋に行くとそこに居たのはレティではなく、別の人事部所属の局員であった。

 

まぁ、人事部の仕事をレティ一人でやっている訳でもなく、また彼女は人事部以外の仕事もあるので、別の人事部の局員が対応するのも不思議ではない。

 

「それで、私たちに一体どういった御用でしょうか?」

 

マリエルは早速人事部の局員に自分たちを呼び出した要件を訊ねる。

 

「ふむ、今日二人を呼び出したのは他でもない。マリエル・アテンザ技師を三佐から二佐へ、シャリオ・フィニーノ一士を士長へと昇進する」

 

やはり要件は自分たちの昇進であった。

 

昇進が書かれた辞令書を二人に受け渡す人事部の局員。

 

辞令書を受け取り、これで要件が終わったかと思ったが、まだ要件は終わっていなかった。

 

「それとだ。今回の昇進に伴い、マリエル・アテンザ二佐は本局第四技術部へ、シャリオ・フィニーノ士長は本局艦隊司令部付き通信士へと異動を命じる」

 

「「えっ?」」

 

昇進の他に異動命令もあり、二人は啞然とする。

 

「ま、待ってください!!」

 

「何故、この様な時期に異動命令が出るんですか!?」

 

「『この様な時期』とは?」

 

人事部の局員は二人の言葉の意味が分かっていないのか首を傾げる。

 

「新型エンジンの開発は確かに成功しました。ですがまだまだ試行錯誤してより完璧に、そしてより高性能に発展させていく必要があります!!」

 

「それにこの新型エンジンを搭載する為の新造艦の設計もあるんです!!」

 

「分かっている。君たち二人が開発・研究し完成させたMS機関の研究・開発は今後も局内の技師、研究者たちが引き継ぐ事になっている」

 

「MS機関?」

 

「それに私たち二人って‥‥」

 

人事部の局員の発言に違和感を覚える二人。

 

「MS機関は開発者である君たちの名前のイニシャルを取った名である。君たちは管理局の歴史に名を遺す偉大な貢献をしたのだよ。あのプレシア・テスタロッサ以上の功績だ」

 

大魔導師であるプレシア・テスタロッサはproject fate にて愛娘であるアリシアのクローンを生み出し、第97管理外世界においてP・T事件を起こした張本人であるが、その事件前の彼女は大魔導師でもあり、優れた技術者であった。

 

愛娘のアリシアを失う切っ掛けとなった大型魔力駆動炉ヒュードラーの開発もプレシアほどの頭脳をもってしても開発成功には至らなかった。

 

しかし、今回開発成功した新型エンジンはヒュードラー以上の性能を有していたので、管理局‥本局が歓喜するのも理解できる。

 

だが、納得出来ない所もある。

 

「ちょっと待ってください!!一体どういう事ですか!?」

 

「そうですよ!!」

 

人事部の局員からの説明を聞き思わず大声をあげるマリエルとシャリオ。

 

「確かに私たちは新型エンジンの開発に携わりました。ですが、あくまでもミノフスキー博士のサポートであり、実際に新型エンジンの開発の中心だったのはミノフスキー博士です!!」

 

「そうですよ!!それなのに私たちがまるで博士の功績を横取りするみたいじゃないですか!!」

 

「開発者の名前をつけるなら、ミノフスキー博士の名前をつけてください!!」

 

ミノフスキーの功績が一切表に出ない事に二人は憤慨する。

 

最もミノフスキー本人は恐らく気にしないだろうがマリエルとシャリオは他人の功績を横取りしたかのような行為に対して恥辱を感じていた。

 

「この判断は当然私一人の判断で行なったものではない。今回のこの判断は管理局の意向であり総意なのだ」

 

「管理局の‥‥」

 

「総意‥‥」

 

管理局の総意‥‥それは管理局上層部がミノフスキーの存在を表に出さないような姿勢に絶句するマリエルとシャリオ。

 

今回の昇進もミノフスキーの存在を表に出さない件についても管理局の総意であるならば、一管理局員の自分たちが騒いだところで撤回されることは絶対にないだろう。

 

マリエルとシャリオは黙って今回の件に従うしかなかった。

 

しかし、今回のミノフスキーの件について、マリエルとシャリオが予想外の事が起きていた。

 

マリエルとシャリオが人事部からの出頭命令が出て部屋に向かっている時、ミノフスキーとヴィータはミノフスキーの居住スペース兼研究室に居た。

 

ヴィータとシグナムはミノフスキーの護衛と言う名の監視役であったが、彼が本局へ来て新型エンジンの開発をしてから、スパイ行為をする気配もなく、黙々とエンジンの開発・研究を行っている事から監視役と言うよりも表向きの護衛に専念している形であった。

 

二人の内、ヴィータの方は海鳴に居る頃、地元のゲートボールクラブに参加していた事から近所のおじいちゃんとおばあちゃんからまるで孫の様に可愛がってもらい、管理局に入った後、三提督の紅一点であるミゼットの護衛を経験した事からミゼットからにも目をかけて貰った事からヴィータ自身も高齢者には好印象を抱いていた。

 

そんなヴィータだからこそ、ミノフスキーに対しても周囲がボラー連邦に対する憎しみの感情を抱いている中で、亡命して周囲は自分を敵視している人間ばかりの環境だったからこそ、自分だけでもミノフスキーの味方でいたいと思い話し相手や食事を共にしたりした。

 

そんなミノフスキーの部屋は相変わらず書類やら様々な機械や模型が置かれており、ヴィータには書類に書かれている内容も空間ディスプレイに映し出されている事も何一つ分からなかった。

 

ただ、ホワイトボードに貼られている紙にはかつてミノフスキーが所属していた星間国家、ボラー連邦の宇宙艦船の設計図が描かれていた。

 

管理局によるボラー連邦への武力制裁失敗の際、ヴィータはボラー連邦がどのような方法で管理局の次元航行艦隊を返り討ちにしたのかしらず、ボラー連邦の宇宙艦船も見ていない。

 

よって、ヴィータがボラー連邦の宇宙艦船を見たのは実物ではないが、このホワイトボードに貼られている設計図が初めてであり、流石のヴィータもこれが宇宙船の絵であることは理解することが出来た。

 

「なぁ、ミノフスキーの爺さん」

 

「ん?なんだね?」

 

「このホワイトボードに貼られている船みたいなのが、ボラー連邦の宇宙船なんだろう?」

 

「ああ、そうじゃ。新しく開発した宇宙船のエンジンを搭載するのに管理局でも新しく宇宙船を造るみたいじゃから、参考に覚えている限りで良いので設計図も製作してくれと言われたので、図面に起こしておいたんじゃ」

 

「でも、この丸っこい姿で本当に戦えるのか?武器らしいモノを積んでいるようには見えねぇんだが?」

 

ヴィータは管理局が保有している次元航行艦は勿論の事、フェイトとティアナが乗っていたテリオスを攻撃したククルカン級襲撃型駆逐艦、同じく自然保護世界であるプレオを破壊した彗星帝国が保有していたゴストーク級ミサイル戦艦は全身がハリネズミの様にミサイルで武装しており、強力な印象を受けた。

 

そしてそのフェイトたちを助けたもう一つの地球が保有している防衛軍所属の宇宙戦艦ヤマトも砲身付きの砲塔や対空砲を装備しており、何よりも従来の管理局が保有している次元航行艦の切り札とも言えるアルカンシエルよりも何十倍の威力を持つ波動砲を装備している事から強力な印象を持っていた。

 

これらの星間国家が保有している宇宙艦船と比較してボラー連邦の宇宙艦船は何だか頼りない感じに見える。

 

「ボラー連邦の宇宙艦船の武器はほとんどが格納式であり、単艦ではなく主に多数の艦隊戦を想定している造りになっておるんじゃよ」

 

「艦隊戦ね‥‥」

 

(管理局の艦は主に少数での行動ばかりだからな‥‥)

 

(一対多数じゃあ、管理局に分が悪いな‥‥)

 

(そもそも管理局は艦隊行動なんてあまりとらない‥‥そして艦隊行動は一朝一夕で出来るモノじゃねぇから、管理局が艦隊行動の得意なボラーに戦いを挑んで負けるのも無理はねぇな‥‥)

 

ミノフスキーからボラー連邦が運用する宇宙艦船の話を聞いて管理局が負けた理由を察するヴィータであった。

 

そんな時、突如ミノフスキーの部屋の扉が開くと数人の局員が入って来た。

 

「あん?なんだ?お前たちは?」

 

入って来た局員はヴィータの騎士としての直感から何だか陰湿な印象があった。

 

「我々は保安部の者だ」

 

「保安部?保安部が何の用だ?爺さんの護衛ならアタシがいるからこれ以上の護衛はいらねぇぞ」

 

「違う。護衛の件で来たのではない」

 

「じゃあ、何の用だよ?」

 

「ミノフスキー博士、貴方に研究費用の横領容疑がかかっている。大人しく我々についてきてもらおう」

 

保安部に所属していると言う局員は懐から一枚の書類を取り出し、ミノフスキーとヴィータに見せる。

 

局員が提示した書類はミノフスキーに対する逮捕状であり、容疑の欄には『横領』と書かれていた。

 

「はぁ?この爺さんが横領だ?ふざけてんのか?」

 

容疑者であるミノフスキーよりもヴィータの方が怒りを露にしていた。

 

「おい、この爺さんは一日のほとんどをこの部屋で過ごしているんだぞ!?そんな爺さんがどうやって研究費を横領するって言うんだよ!?」

 

「『ほとんど』と言う事はこの部屋を出る事もあったと言う訳ですな?」

 

「それに貴女は四六時中、ミノフスキー氏の傍を絶対に離れていないのですか?」

 

ミノフスキーの護衛はシグナムと二交代制で行っているし、常に彼の傍に居る訳ではない。

 

「くだらねぇ揚げ足を取ってねぇで、調べ直したらどうだ?爺さんの仕事の邪魔だ。さっさと失せろ」

 

しかし、そんな保安部の要求などヴィータには関係なく、内に敵意を含めながら保安部の局員に退室を促す。

 

「我々も証拠も無く、此処へ来ている訳ではありません。ミノフスキー氏の口座には不明な入金が確認されている。これが何よりの証拠だ」

 

保安部の局員はヴィータとミノフスキーに彼の口座のコピーを見せつける。

 

「それとも、ミノフスキー氏以外の関係者がミノフスキー氏の口座に入金していると言うのか?」

 

「この研究室でミノフスキー氏以外の関係者と言うと‥‥」

 

「はぁ!?マリーやシャーリーがそんなバカな事をする訳ねぇだろう!!勿論、爺さんもだ!!」

 

マリエルとシャリオの人となりを知っているヴィータは、あの二人がミノフスキーに横領の濡れ衣を着せるような人物ではない事を知っているし、当然研究バカのミノフスキーが研究費の横領をする事も信じていなかった。

 

「だいたい、爺さんの口座なんて言うが、いつそんなモノを爺さんが開設したんだよ?」

 

「さあ、そこまでは我々は把握しておりません」

 

「爺さんは身に覚えがあるのか?」

 

「いや、儂は開設をした覚えはないが、もしかしたらこちらに亡命した際に誰かが開設したのかもしれん」

 

ボラー連邦からミッドチルダに亡命し、新型の宇宙船のエンジン開発と研究を行う際に誰かがミノフスキーの給料を入れる為の口座を開設したのかもしれない。

 

「だったら、爺さんやマリー、シャーリーを疑う前に爺さんの口座を開設した奴を探し出せよ。怪しいのはソイツなんだから」

 

「では、その件も含めて事情をお聞きしたいので、ご同行をしてもらえますね?」

 

「まぁ、そういう事なら‥‥」

 

「ちょっ、おい、爺さん!!」

 

「大丈夫じゃよ、ヴィータちゃん。儂は後ろめたい事など一切しておらんのだから」

 

「‥‥」

 

事情聴取と言う事でミノフスキーは保安部の局員たちと共に部屋から出て行った。

 

ヴィータは不安な顔でそれを見送るしか出来なかった。

 

 

ミノフスキーが保安部の局員たちと共に部屋を出て行ってからしばらくして不機嫌な様子のマリエルとシャリオがやって来た。

 

「ん?どうした二人とも、何か不機嫌そうな顔で‥‥人事部で何かあったのか?」

 

「聞いてくださいよ!!ヴィータさん!!」

 

シャリオは先ほど人事部であった出来事をヴィータに話す。

 

「ホントなのか!?それは!?」

 

「ええ。全く、管理局が新型エンジンを開発できたのは全部ミノフスキー博士のおかげなのに、その博士の存在をまるで無かったかのような扱いをするなんて恩を仇で返す行為ですよ‥って、ヴィータさん、どうしたんですか?そんな険しい顔をして?」

 

シャリオは人事部での出来事を話した後、今度はヴィータが険しい顔をしている事に気づき、ヴィータに訊ねる。

 

「そう言えばミノフスキー博士が居ませんね?お手洗いですか?」

 

そして、マリエルがミノフスキーの姿ない事に気づく。

 

「ん?爺さんなら‥‥っ!?」

 

ヴィータはシャリオの話とついさっき此処で起きた出来事から何かを察し、急ぎミノフスキーの部屋から外に出て行く。

 

「えっ?ちょ、ヴィータさん!?」

 

「一体どうしたんでしょう?」

 

慌てて部屋を出て行ったヴィータにシャリオとマリエルは首を傾げた。

 

本局の通路を走っているヴィータの中にはある推測が成り立っていた。

 

(さっきのシャリオからの話じゃあ、管理局は爺さんの存在をまるで居なかったように扱っている)

 

(それにさっき爺さんの部屋に来た保安部の連中‥‥)

 

(間違いねぇ、管理局は爺さんに冤罪をきせようとしているんだ!!)

 

ヴィータは、管理局は新型エンジンの開発が終わったミノフスキーを用済みと判断し、研究費の横領と言う濡れ衣を着せようとしていると判断した。

 

(管理局が爺さんに濡れ衣をかける前に何とか助け出さねぇと!!)

 

ヴィータはミノフスキーが逮捕・送検される前に彼の身柄を保護しようと保安部の下に急いだ。

 

ボラー連邦からの亡命者なんで弁護士の弁護だってあまり期待は出来ない。

 

送検されたら100%有罪にされる。

 

「おい、さっき事情聴取の為に連れてこられたミノフスキー博士の身柄だが、やっぱり、こっちで預からせてもらう!!」

 

声を上げてヴィータはミノフスキーの身柄引き渡しを要求する。

 

「八神三尉、困ります。たった今、事情聴取が始まったばかりです」

 

「事情聴取とか言って本当は爺さんに横領の濡れ衣を着せようって魂胆じゃねぇのか?」

 

「何を訳の分からない事を」

 

保安部の局員はヴィータの言動に対して小馬鹿にしているような態度だ。

 

「いいから、さっさと爺さんの身柄を渡せ!!」

 

「八神三尉、これ以上騒ぐようならば、威力業務妨害で貴女の身柄を拘束しなければなりませんよ」

 

「威力業務妨害だと!?ふざけるな!!」

 

今にも保安部の局員に掴みかかりそうな勢いのヴィータ。

 

そこに、

 

「ヴィ、ヴィータさん!!落ち着いてください!!」

 

ヴィータの様子に違和感を覚えたシャリオとマリエルがあの後、ヴィータの後を追いかけてきて、ヴィータを宥める。

 

「ど、どうもお騒がせいたしました」

 

マリエルが引きつらせた笑顔で保安部の局員に詫びの言葉を言いながらシャリオと共にヴィータを引きずって行った。

 

「おい、何で止める!?このままだと爺さんがやべぇんだぞ!?」

 

「何言っているんですか!?あのままだとヴィータさんが身柄を拘束されていたかもしれないんですよ!?」

 

「そもそも一体何があったんですか?博士も戻ってこないですし‥‥」

 

「ついさっき、お前たちが戻ってくる前に‥‥」

 

ヴィータはマリエルとシャリオに保安部の局員がやって来てミノフスキーに研究費の横領容疑がかけられ事情聴取のために連れて行かれた事を話す。

 

「研究費の横領!?」

 

「ミノフスキー博士が!?」

 

ヴィータの話を聞いてマリエルもシャリオも驚く。

 

「あの博士が横領何て‥‥」

 

「あり得ないですよ!!」

 

マリエルとシャリオもミノフスキーの人柄から研究費の横領なんてあり得ないと言い切る。

 

「それとお前らの人事部での話を聞いて、管理局は用済みになった爺さんに濡れ衣を着せようとしているんじゃないかと思ってな」

 

「ま、まさか‥‥」

 

「管理局がそんなことを‥‥」

 

ヴィータが推測した管理局がミノフスキーに冤罪をかけようと画策している事についてはマリエルとシャリオは半信半疑であった。

 

「いずれにせよ爺さんの安全確保のため、保安部から爺さんの身柄を引き渡してもらわねぇとヤバい気がするんだよ」

 

「でも、私たちじゃあ、保安部から博士の身柄を引き取らせるには権限が足りませよ」

 

「それじゃあ、ミゼットばーちゃんからなら引き渡してもらえるな」

 

保安部とは言え、ミゼットからの要請ならば逆らえない筈だ。

 

ヴィータは急ぎミゼットにコンタクトを取るが、

 

「クローベル閣下は現在、お風邪をめしており療養中なので、お取次ぎは受け付けできません」

 

と、ミゼットの秘書から彼女の現状を知らされ、力になれそうにない事が伝えられる。

 

「ミゼットさん、風邪なんだ‥‥」

 

「早く治ってくれればいいけど‥‥」

 

マリエルとシャリオも風邪をひいたミゼットの身を案じる。

 

「それもあるが、ミゼットばーちゃんが風邪で休んでいるとなると‥‥」

 

「リンディさんかレティ提督はどうでしょう?リンディさんは本局の統括官で、レティ提督も人事と運用に関係しています。博士は今後も管理局には必要な人材ですから、今回の件を聞けば何とかしてくれる筈です」

 

「そうだな」

 

ヴィータたちは早速、リンディとレティの下に向かい事の次第を話した。

 

「博士が‥‥」

 

「そうなんですよ」

 

「御二人の力で何とか博士の身柄を保安部からこちらに引き渡してもらえませんか?」

 

「あの爺さんが横領なんてする訳がないんだよ」

 

ヴィータたちはリンディとレティにミノフスキーの潔白を嘆願する。

 

「博士の引き渡しを要求するにしてもまずは本当に博士が研究費の横領をしていない事を証明する必要があるわ」

 

「そうね。疑いがあるままだと保安部から釈放されても監視がついたり、また身柄を拘束されるかもしれないしね‥‥」

 

リンディとレティはミノフスキーの身柄の保護は彼に掛けられた容疑を晴らしてからと言う。

 

「だったら急いで調査してくれよ。誰かが爺さんが亡命してきた時に爺さんの生活費様に口座を開設したみたいなんだ」

 

「きっとその人物が博士に横領の濡れ衣を着せた犯人ですよ!!」

 

「分かったわ。その辺も調査してみるわね」

 

「「お願いします」」

 

「なるべく急いで調査してくれ、リンディさん」

 

ヴィータたちはミノフスキーの事をリンディとレティに任せ、この日は解散となった。

 

「むっ?ミノフスキーの姿が見えないがどこかに出かけているのか?」

 

ヴィータと交代でミノフスキーの護衛役を務めているシグナムがミノフスキーの部屋に来ると、部屋の主であるミノフスキーの姿が見えない事に気づき、ヴィータたちにミノフスキーの行方を訊ねる。

 

「それが‥‥」

 

ヴィータたちは事情を知らないシグナムにこれまでの経緯を伝える。

 

「あの男が横領?あり得んな」

 

シグナムもミノフスキーの容疑を否認する。

 

「シグナムもそう思うだろう?」

 

「ああ、研究一筋のあの男が横領何て真似は考えられん」

 

「今、リンディさんとレティ提督が調査を始めてくれましたが‥‥」

 

「私たちは今日付けで配置転換になりました。ヴィータさん、シグナムさん、博士の事、よろしくお願いいたします」

 

「お願いします」

 

昇進と同時にミノフスキーの研究室から去る配置転換の辞令を受けたマリエルとシャリオはヴィータとシグナムにミノフスキーの事を託すしか出来なかった。

 

「おう、任せろ。爺さんは必ず助け出してみせるからな」

 

こうして、マリエルとシャリオはミノフスキーの研究室を去り、マリエルは元の職場である本局第四技術部へ‥‥

 

シャリオは本局の指令室に通信士として新たな職場へと向かった。

 

 

それから数日後、ヴィータはリンディに調査状況を訊ねた。

 

「リンディさん、爺さんの件についての調査の進展はどうなっているんです?」

 

「それがまだ調査中なのよ」

 

「えっ?まだ?‥‥そんなっ!?リンディさんもレティさんも動かせる人間は沢山いるんだろう?口座の開設や金の流れ何てすぐに分かる筈じゃあ‥‥?」

 

「お金の流れを追うって言うのは意外と難しいモノで、慎重に追わないと証拠を隠滅されてしまうのよ。もし、証拠が無くなれば、博士を救う事が難しくなるわ」

 

「‥‥」

 

六課に出向する前、ヴィータは“空”の特別捜査官補佐と言う役職についていたが、その時は詐欺、背任、横領等の知能的犯罪捜査とは縁が無く、こういった金銭に関わる捜査と言うのがどういった捜査なのか分からないが、ミノフスキーを助ける為に今の自分が出来る事はリンディとレティを信じ待つ事だけだった。

 

しかし、調査が一向に進展せず無駄に時間が過ぎて行き更には、

 

「はぁ!?何だよ!?この辞令は!?」

 

「ふむ、この辞令は確かにおかしい‥‥」

 

この日、ヴィータとシグナムの下に人事部から通達された辞令に対して二人は思わず声を上げる。

 

人事部からの通達は、ヴィータを航空戦技教導隊、シグナムをミッドチルダ首都航空隊‥‥つまり、六課卒業後の原隊へ復帰するようにとの通達であった。

 

「まだ、ミノフスキーの爺さんの件に方が付いていねぇのに『原隊へ復帰しろ』だ!?ふざけているのか!?」」

 

辞令書を破く勢いでヴィータは憤慨していた。

 

「こんなふざけた辞令を出した人事部に殴り込みに行ってやる!!」

 

「待て、ヴィータ」

 

「なんだよ!?シグナム。お前はまさか、こんなふざけた辞令に従えって言うのか!?ついさっき、言ってたじゃねぇか!!『この辞令はおかしい』って!!」

 

「私自身もこの辞令に納得したわけではない。しかし、組織に属している以上、指示には従わなくては主に迷惑がかかるぞ」

 

「くっ‥‥」

 

人事部で騒動を起こせば、はやてに多大な迷惑がかかる事をシグナムに指摘され、ヴィータは苦虫を嚙み潰したように顔を歪め、渋々辞令に従った。

 

しかし、ヴィータは定期的にリンディとレティに捜査についての進展を訊ねていた。

 

そんな中でヴィータにとって衝撃的な出来事が起きた。

 

「そんな!?爺さんが死んだ!?」

 

「ええ‥‥」

 

ある日、ヴィータがリンディに捜査の進捗を訪ねた際、リンディから衝撃的な事実が齎された。

 

保安部で事情聴取中のミノフスキーが亡くなったと言うのだ。

 

「な、なんで爺さんが‥‥まさか保安部の連中、爺さんに拷問を!?」

 

「いえ。私も事情聴取に参加していた訳じゃあないけど、博士の死因は急性心不全らしいわ」

 

「リンディさん、アンタは保安部の連中が言う事を信じているのか!?」

 

ヴィータはミノフスキーの死因について不信視していた。

 

「勿論保安部からの通達を全て信じている訳じゃあないけど、確認したくても博士のご遺体は既に荼毘に付してしまった様で、もう確認が出来ないのよ」

 

「それじゃあ、捜査の方は?」

 

「博士自身が亡くなったので、捜査も打ち切りの見通しが立ったわ」

 

「‥‥」

 

ヴィータにとっては納得のいかないばかりの出来事であったが、一番納得がいかなかったのはミノフスキーの死と死因の追及、そして彼の名誉を回復することが出来なくなったことだ。

 

新型エンジンの開発成功と言う管理局にとって新たな改革と偉業を成し遂げたミノフスキーは研究費の横領と言う不名誉な汚名を着せられ、葬式も挙げられることなく人知れず葬られた。

 

 

ミノフスキーの死は彼の存在を知っているごく一部の局員たちにしか知らされず、死因も保安部からの通達通り急性心不全とされた。

 

ミノフスキーの死が知らされた中、本局の一室では‥‥

 

「ふっ、あの野蛮人め、ようやくくたばったか‥‥」

 

「はい。その様です」

 

「何でも死因は急性心不全だとか?」

 

「まぁ、ご老体でしたからねぇ~突然の病死も起こりうるとの事ですね」

 

「それで死体は始末したんだろうな?」

 

「はい。既に荼毘に付して処分したとの事です」

 

「よろしい。まぁ、あんな野蛮人でも我々管理局の役には立ったようだな?」

 

「ええ、新型エンジン‥MS機関のノウハウは既に技術部で設計・製作技法も共有されており、後は量産するだけとなっております」

 

「よろしい。このMS機関が量産されたあかつきには管理局は以前の勢いを取り戻し‥いや、それ以上の勢いで次元の海全てを管理できる力を手に入れることが出来るぞ!!」

 

本局の管理世界拡大派の局員たちは近い将来、管理局の次世代型の次元航行艦が宇宙を支配する未来図を思い浮かべ高笑いをした。

 

 

時空管理局の歴史は輝かしい戦果と活動だけでなく、謀略と言う闇の部分もあり、管理局によって謀殺の手に倒された者の数は正確には分からぬほどである。

 

これら一切は管理局の歴史の闇に封じ込められて、末端の局員や一般人には決して知られることはなかった。

 

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