ミノフスキーと言うボラー連邦からの亡命者が居り、その彼が管理局へ多大な貢献をした後、研究費の横領容疑がかけられたまま急死した事を多くの局員が知らないまま、管理局はそのミノフスキーが研究・開発に成功した新型エンジンを搭載した次世代の次元航行艦の設計・開発を行おうとしていた。
その頃、フェイトはもう一つの地球から戻った後、向こうでの経験から次元航行艦乗りを目指す為に士官学校へ入り直していた。
フェイトの士官学校への入校と同時にナカジマ家に養子入りしていたチンクも同時期に士官学校へと入り、フェイトと肩を並べて学んでいた。
そんなある日‥‥
「ハラオウンさん、ハラオウンさん」
士官学校の事務員が、フェイトが在籍するクラスにやって来てフェイトを呼ぶ。
「あっ、はい。何でしょう?」
「ハラオウンさんにお客様が来ています」
「えっ?お客さん?私に?」
「はい。第一応接室で待っています」
「分かりました」
誰かがフェイトを訪ねて来た事を事務員はフェイトに知らせ、フェイトは自分を訪ねて来たと言う訪問者が居る第一応接室へと向かう。
(私にお客さんって誰だろう?)
(はやてかなのはかな?)
士官学校に入校してからフェイトは士官学校の寮で生活しており、なのは、はやてとは連絡が取れない程、毎日勉学や演習に勤しんでいたので、フェイトはもしかしたら、なのはかはやてが自分の様子を見に来たのかもしれないと思いながら客人が待つ応接室へと向かう。
しかし、応接室で待っていたのは、なのはでもはやてでもなく、本局の制服を纏った一人の男性局員であった。
(えっ?誰だろう?この人‥‥)
(まさか、また査察部の人!?)
見慣れない若い男性局員の姿を見てフェイトはまた査察部の局員かと思い警戒する。
「はじめまして、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンさんですね?」
「ええ。そうですけど‥失礼ですがどちら様でしょうか?」
男性局員の事を警戒している為かフェイトの声は若干トーンダウンしており冷たい感じだ。
「失礼しました。自分は艦政部造艦科所属のフランソワ・エミール・ヴェルタンと申します」
男性局員こと、ヴェルタンはフェイトに自身の身分証明書を提示しながら自己紹介をする。
「艦政部造艦科?」
取り敢えず査察部ではないことにフェイトは若干警戒心を解くと同時にこれまでの局員生活の中で一切関りがない部署の局員が一体自分に何の用かと疑問を抱く。
「あの‥艦政部の人が私に一体何の御用でしょうか?」
自分に何か用があるからこそ、ヴェルタンはわざわざ士官学校へ来たのだからフェイトはヴェルタンに訪問目的を訊ねる。
「その前に‥‥」
ヴェルタンは周囲に結界を張り、サーチャーや盗聴器の類がないかを調べる。
「ふう~‥盗聴の類はないか‥‥あっ、すみません。少々まだ発表前の事項を含む内容なので‥‥」
「はぁ‥‥」
「申し訳ございませんが、今回の話の内容も公式に発表されるまで、どうか内密にお願いします」
「え、ええ‥‥」
(何か勝手に巻き込まれているよね?私‥‥)
(だとしたら勝手に巻き込まないでくれるかな?)
フェイトは例えヴェルタンが査察部所属の局員でないにしろ、彼の冒頭の内容からもしかしたら厄介事かと思う。
しかし、実際にこうして会ってしまった以上、今更ここで退室する訳にもいかないのでとりあえずフェイトはヴェルタンの話を聞くことにした。
「それで話とは一体何ですか?」
応接室に備え付けの椅子へ互いに座り、フェイトは改めてヴェルタンに話の内容を訊ねる。
「ハラオウンさんは確かマリエル・アテンザ技師とシャリオ・フィニーノ士長とは面識がお有りでしたよね?」
「ええ、マリエルさんは機動六課時代に六課で‥‥シャーリーは六課稼働前から私の補佐役として一緒に仕事をしてきましたから‥‥」
(士長?シャーリー、昇進したんだ‥‥)
ヴェルタンの話の中でシャリオの階級が上がっていた事からシャリオと会っていない間に彼女は昇進したのだと知った。
「それで、マリエルさんとシャーリーがどうかしましたか?」
「実はお二人が先日、次元航行艦の新型エンジンの開発に成功されまして、現在艦政部ではその新型エンジン‥MS機関を搭載した次世代の次元航行艦の設計を始めています」
「新型のエンジン!?それに次世代の次元航行艦って‥管理局はいつの間にそんな代物を!?」
(そう言えば、マリエルさんもシャーリーも私がミッドに戻ってきた時、何か忙しそうだったけど、次元航行艦のエンジンを造っていたんだ‥‥)
「自分もつい最近知ったばかりで正確な開発日時は分かりませんが、結構前から極秘裏に進められていたようです」
ヴェルタンは実際に新型エンジンの研究・開発を行っていたのはボラー連邦からの亡命者であるミノフスキーであると言う事を知らなかったので、後々に管理局から公式発表される新型エンジンの開発者がマリエルとシャリオであると言う情報を信じていた。
そしてフェイトもヴェルタン同様、ミノフスキーの存在をはやてたちから知らされていなかったので、彼から伝えられた情報を信じ、新型エンジンを開発したのがマリエルとシャリオの二人なのだと信じた。
「しかし、新型のエンジン開発だなんて‥それは本当に成功しているんですか?」
自分がもう一つの地球へ行っている間、管理局はボラー連邦に対して武力制裁を行い、失敗して艦船と人材に大きな被害を受けて管理局‥特に“海”は次元航行艦の再建に奔走していた筈だ。
そんな中、時期的にも短い期間でマリエルとシャリオが次元航行艦の新型エンジンの開発に成功していたとはフェイトとしては俄かに信じられなかった。
「開発に成功したのは事実です。自分も艦政部造艦科の所属と言う事もあり、今後の次元航行艦に搭載予定のエンジンと言う事で、稼働実験の映像(編集でミノフスキーの姿が消されている)を確認しましたので間違いありません」
「は、はぁ‥‥」
次元航行艦の設計・開発に関わる部署の局員が言うのだから管理局が新型のエンジンの開発に成功したのは事実なのだろう。
「エンジンに関しては別部署の局員が製造・増産体制を整備しており、自分はそのエンジンを搭載する次世代の次元航行艦の設計を担当してすることになりました」
「それで何故、私の所へ?私はこれまで事件の捜査は行ってきましたが、次元航行艦の設計の仕事なんて携わった事はないですよ」
フェイトはヴェルタンに次元航行艦の設計について、自分は畑違いの素人である事を告げる。
「それは承知しております。ですが、自分はハラオウンさんの体験談から、設計のヒントを貰おうと本日、ハラオウンさんを訪ねて来たのです」
「私の体験談?」
「はい。実は次世代の次元航行艦の設計について就役を迅速にする為、ボラー連邦の艦を参考にしようと言う意見があるのです」
「ボラー連邦の艦を!?」
管理局が次世代の次元航行艦を少しでも早く就航させるためにボラー連邦の艦を基に設計し、就役させようとしている事にフェイトは思わず声をあげる。
しかし、応接室に張られている結界の為にフェイトの声は外に漏れる事は無かった。
「ええ」
「でも、ボラー連邦は管理局に対して酷い事をしたじゃないですか!!」
「自分たち艦政部の人間も同じ意見を持つ者が居るのですが‥‥」
管理局の上層部としてはボラー連邦への武力制裁失敗から一日でも早く次世代の次元航行艦を就役したがっている事から艦の外見など関係ない様だ。
「従来の艦にその新しいエンジンを取り付ける事は出来ないのですか?」
フェイトはボラー連邦の艦を基にしなくても管理局がこれまで就役させて来た既存の次元航行艦のデザインを採用すればよいのではないかと訊ねるが、
「何でも現在の艦の構造上からMS機関を搭載すると衝撃波やエンジンの振動等の影響から艦がバラバラになる可能性がシミュレーション結果から出ていて‥‥それに“海”の上層部は『管理局の新たな門出だ』とか言ってこれまでにないデザインの艦を求めているみたいです‥‥」
これまでの次元航行艦とMS機関の相性はどうやら悪いらしく、既存の設計図は使えなかった。
スカリエッティを向かい入れるために暗黒星団帝国は管理局の艦をもした偽装艦で局員たちを騙した経緯があるが、暗黒星団帝国のエンジンはボラー連邦で採用しているエンジンとは異なる事から管理局の次元航行艦を偽造することが出来た。
実際に暗黒星団帝国の残骸を手に入れた管理局はミノフスキーにその残骸を見せたが、ミノフスキーは『見覚えが無い』と言っていた。
ボラー連邦出身のミノフスキーではなく、暗黒星団帝国からの亡命者であれば既存の設計図をそのまま使用できたのかもしれない。
「だからってなにもボラー連邦の艦なんて‥‥そもそも、ボラー連邦の艦のデータなんてあるんですか?武力制裁の際、鹵獲出来たとか?」
「いえ、ハラオウンさんの兄でもあるクロノ・ハラオウン提督が指揮をするクラウディアを始め、あの武力制裁で運よく生き残った艦が撮影した映像を解析してボラー連邦の宇宙船のデータをとったみたいです」
「クロノたちが‥‥」
ヴェルタンが言うボラー連邦の宇宙艦船のデータについては、当然彼が言う通り、あの武力制裁から命からがら生き残った次元航行艦の記録からとったモノもあるかもしれないが、その大半のデータは管理局がミノフスキーに要請したボラー連邦が運用している宇宙艦船のデータであった。
ヴェルタンは当然、この事実も知らない。
「次元航行艦を揃えるのは確かに現状の管理局としては急務であるのは分かります。ですが、そもそもの原因であるボラー連邦の艦に似せるのはミッドの住民はどう思うか‥‥」
「管理局への不信を増々高めるかもしれない‥‥と?」
「ええ。なので、ハラオウンさんに協力を求めに来ました」
「?」
先程もヴェルタンはフェイトに自身の体験談を聞きに来たと言っていたのだが、フェイトとしては未だに話が繋がらない。
「テレビで見ましたが、ハラオウンさんは管理局よりも宇宙技術が進んでいるもう一つの第97管理外世界へ一時滞在していたと拝見しました」
「ええ‥‥」
「出来る限りで良いんです。もう一つの第97管理外世界で運用されていた宇宙船の構造を教えてもらえませんか?」
「えっ?」
ヴェルタンの目的を聞き、フェイトは思わず啞然とし、目が点になる。
「ハラオウンさんはもう一つの第97管理外世界の宇宙船に乗艦していたんですよね?それでしたら、その宇宙船はどんな姿をしていたんですか?」
「え、えっと‥‥」
目を輝かせながらずいずいと来るヴェルタンにタジタジなフェイト。
(この人、ルキノと同類なタイプだ‥‥)
「以前ハラオウン提督がもう一つの第97管理外世界から得た情報ですと、かの世界ではタキオン粒子を用いた機関を採用していると聞きました。今回のMS機関もハラオウン提督が言うタキオン機関とは若干の違いがありますが、概ねに多様な技術なので、ハラオウンさんが一時滞在していたもう一つの第97管理外世界で運用されていた宇宙船とも相性がいい筈です!!」
「ひとまず、落ち着いてください」
「あっ、失礼しました。それで、教えていただけますか?」
「それについて、ヴェルタンさんはテレビを見て私がもう一つの第97管理外世界に滞在していた事を知ったんですよね?」
「はい」
「それなら、テレビの記者会見で見た様に私はマスコミの質問に対して当たり障りのない感じで答えました。ヴェルタンさんはその理由は分かりますか?」
「い、いえ‥‥」
ヴェルタンも流石にフェイトがもう一つの地球での滞在についての記者会見時のフェイトの心情を理解できるはずがない。
「私は管理局がもう一つの第97管理外世界に興味をなるべく示さない様に当たり障りのない回答をしたんです」
フェイトはヴェルタンにあの時の記者会見における自身の態度の理由を話す。
しかし、見方を変えると管理局は益々もう一つの地球に興味を示してしまう可能性も秘めていたが、フェイトとしては素っ気ない態度を取れば管理局は諦めると思い、記者会見の際、あのような態度を取ったのだ。
「興味を示さない様に?それは何故です?」
「もう一つの第97管理外世界に滞在して分かりました。あの世界の人たちの強さを‥‥それはただ単に軍事力、科学力が管理局より優れているだけではなく、もう一つの第97管理外世界の人々の精神の強さと士気の高さが管理局の人よりも勝っていました。管理局の上層部の一部は『魔法も使えない蛮族』と思って見下している様子だけれど、魔法が使えない=弱いと言う考えは大間違いだよ。私は管理局がやったボラーへの武力制裁を詳しくは知らないけど、少なくともボラー連邦は管理局の様に魔法を使って戦う訳ではなく、質量兵器を主力としていたんじゃない?」
「は、はい」
「ミッドでも魔法素質がある人も居れば、無い人も居るし、魔法素質がある人でもランクによって分けられている‥‥一部の特権階級みたいな人だけで戦争なんて出来ないよ。でも、もう一つの第97管理外世界もボラー連邦もそんな魔法素質やランクなんか関係なしに戦う人がいる‥‥」
「つまり、宇宙船の技術以外、兵力においても士気においても管理局はそれらの勢力に劣っていると?」
「私はそう思っているよ。現にもう一つの第97管理外世界は母星が危機的状況になっても、敵の勢力に本土が占領されても諦めずに最後まで戦って勝っているからね。そんな勢力を相手に管理局がちょっかいをかけても手痛い目に遭うのが目に見えているからね」
「ボラーに対する武力制裁の時の様に?」
「ええ‥だからこそ、私はあの時の記者会見ではあんな素っ気ない態度を取ったし、質問に関しても当たり障りのない回答ばかりした。管理局にはもう一つの第97管理外世界について興味を持ってもらいたくは無いの‥‥かの世界に残ったランスター元補佐官はもしかしたら滞在中に管理局を見限ったのかもしれない」
もう一つの地球にちょっかいや喧嘩を振れば管理局は当然手痛い目に遭うのは当然の事で、あの世界にはあの世界のなのはの子孫である紅葉やティアナが居るので、管理局がもう一つの地球に手を出さなければ自分とティアナは互いに戦い合う事がない筈だ。
「なるほど‥‥ハラオウンさんの心情は分かりました。しかし、今後の管理局の為、ボラーとの一件やソレを上回るような悲劇を回避する為に今はハラオウンさんの経験を役立ててもらいたいのです!!」
ヴェルタンはフェイトに深々と頭を下げてフェイトが知りうる限りの防衛軍が運用している艦艇の外見だけでも教えてくれと頼み込む。
「‥‥分かりました。ですが先程言ったように、私は艦の設計については素人なので、大まかな事しか覚えていないのですが、それでもいいですか?」
「はい。最初の切っ掛けでもあればこちらでなとかしてみせます」
フェイトとしては管理局が防衛軍に喧嘩を売るような愚行は勘弁して欲しいが、ボラー連邦に対しての武力制裁の失敗の様な大惨事を繰り返さない為‥多くの局員が犠牲にならない様に協力した。
「それじゃあ‥‥」
フェイトはヴェルタンが用意した製図紙に自身が覚えている限りの記憶の中でヤマト、まほろばの絵を描いた。
「もう一つの第97管理外世界の宇宙船は水上船舶を意識した設計なんですね」
「元々、このヤマトはかの世界に存在した水上艦船を基に作られたみたいですからね。でも、他の艦艇に関してはあの世界独自の艦影をしていました。とは言え、軍艦の設計は軍の中でも機密事項なので、私が印象深く覚えているのは救助され、乗艦したこのヤマトとまほろばだけです」
フェイトはもう一つの地球にてその地球が辿った歴史とルキノの土産用に防衛軍のプラモデルから防衛軍の艦船の外見は知っていたが、やはりもう一つの地球の情報をあまり提示したくはなかったので、ヴェルタンに教えるのはあくまでも自身が乗艦経験があるヤマトとまほろば、そして防衛軍と暗黒星団帝国との戦いで見たコスモタイガーだけに留めた。
「なるほど‥‥大きさもそれなりにあったでしょう?」
「確か300メートル以上でした」
「300メートル以上‥それは大きい‥‥」
ヴェルタンはフェイトが描いたヤマト、まほろばの絵を興味津々で眺めている。
「ん?ハラオウンさん、こちらは?小型の航空機ですか?」
ミッドにおける航空機は地球同様、大勢の旅客や貨物を運送する為の大型か中型の航空機または輸送ヘリであり、戦闘機と呼ばれる航空機は存在していない。
“空”に関する守りは“空”所属の空戦属性を持つ魔導師が務めているからだ。
なのでヘリコプターに関しても機銃やミサイルを装備した戦闘ヘリもミッドには勿論存在していない。
「ええ、これら小型の航空機もヤマト、まほろばの装備の一つでもあり、強力な兵器の一つでもあります」
「強力な兵器‥ですか‥‥」
小型の航空機の絵を見てヴェルタンは何だか訝しむ。
(こんな小さな一人乗りの航空機が強力な兵器‥ね‥‥)
戦闘機をこれまでの人生で見た事もないヴェルタンにとってはどう見ても戦闘機が強いとは思えなかった。
「ヤマト、まほろば自体も管理局の次元航行艦以上の性能を持つ強力な兵器であり軍艦‥戦うために生まれた艦で、この小型の航空機もミッドの空でお客さんや荷物を乗せている航空機ではなく、やはり戦うための航空機ですから」
「戦うための航空機‥‥ですか‥‥空戦属性のあるハラオウンさんから見て、この航空機はどう見えましたか?」
「この航空機は、空は勿論の事、真空の宇宙空間でも運用が可能でしたし、速度に関しても空戦魔導師の比ではありません。当然、彼らに救助されて一時行動を共にしていた私もこの航空機の活躍をこの目で見てきました。この航空機は確かに空戦属性の魔導師にとってはその立場を危うくする代物です」
「やはり‥‥」
「ですが、管理局の将来の為を思うと私は戦闘機は必要不可欠なモノと思っています」
「それは何故です?もしこの航空機が管理局に広まったらハラオウンさんの立場もある意味では危ういのではないのでしょうか?」
「そうでしょうね。しかし、いくら高ランクの魔導師でも真空の宇宙空間ではバリアジャケットだけでは活動は出来ませんし、大気圏内と同等の動きが出来るかと問われれば、個人差はありますが、難しいと思います。それに‥‥」
「それに?」
「空の守りは“空”所属の空戦属性の魔導師のみと言う限られた人だけですが、戦闘機は魔導師だろうが、非魔導師だろうが、本人の努力と適正だけで空を守る防人になれます。常に人手不足な管理局にとっては救世主になると思っています。最もヴェルタンさんの言う通り、空戦属性の魔導師からは反発があるでしょうけど‥ですが、管理局は近い将来大きな選択をしなければならない時が必ず来るでしょう。その時、こうした戦闘機の導入に関しても選択肢を突きつけられると思っています」
「そ、そうですか‥‥」
「それに次元航行艦の運用に関してもこれまでの運用方法以外にも改革が必要になるでしょう」
「と、言うと?」
「管理局の艦は主に単艦で行動をしてきました。一応、JS事件の折、聖王のゆりかごを破壊する際は複数で行動を共にする艦隊行動をとっていましたが、ごく短時間の事でした。ボラーに対する武力制裁の時が本格的な艦隊行動でした。ボラーの宇宙艦船が管理局の次元航行艦よりも優れていたと言う点もありますが、これまで艦隊行動をとった事の無い管理局としては統一された動きを取ると言う行為は難しかったのでしょう。ボラーの一件を教訓とするならば、今後は艦隊行動の訓練も必要です。勿論、この士官学校でもそう言ったカリキュラムの導入も同様の事が言えます」
「‥‥」
ヴェルタンはフェイトの意見をジッと聞いていた。
「今日は貴重なご意見、どうもありがとうございました」
「いえ、今後の管理局の為に役立ててもらえれば何よりです」
フェイトからもう一つの地球に関しての意見とヤマト、まほろばのデザイン画を持ってヴェルタンは士官学校を後にした。
その日の夜‥‥
「フェイト、どうだ?士官学校の生活にはもう慣れたか?」
士官学校に入ったフェイトの様子が気になったクロノが連絡をしてきた。
「カリキュラムは訓練校以上に難しい事ばかりだけど、何とかなっているよ。それにチンクも頑張っている。この前も一緒に課題をやったんだ」
「そうか」
フェイトの士官学校での生活を聞いてホッとするクロノ。
「あっ、そう言えば今日、艦政部の人が来たんだ」
「艦政部の人間が?一体、何の用だったんだ?」
クロノとしてみれば、艦政部の人間が士官学校に何の用があるのか疑問に思った。
OBとして士官学校を訪問したのだろうか?
それとも身内が士官学校に在学中だとしても今の自分の様に連絡すれば良いだけの事なのだが、その艦政部の局員がよほどの過保護なのだろうか?
「もう一つの地球について聞かれた」
「あの世界の事をか!?フェイトはその局員にあの世界の事を話したのか!?」
「う、うん。でも、盗聴防止やあまり周りに話さない様に忠告はしたよ」
「盗聴防止は兎も角、口約束だけではどれほどの効力があるかどうか‥‥それで、その艦政部の局員に何を聞かれた?」
「私が見て来た防衛軍の宇宙艦船について聞いて来た。なんでも今度、次元航行艦の新型エンジンが完成したから艦政部でも次世代の次元航行艦を設計しているみたいで‥‥」
「新型のエンジン?」
「うん。あれ?クロノは知らなかったの?」
「ああ、初耳だ」
フェイトとしてはリンディ経由かクロノ自身が新型のエンジンの存在を知っていると思っていたが、クロノは知らなかったみたいだ。
「あっ‥‥」
フェイトはヤバッと思ったが、既にクロノに話してしまった後なのでもう後の祭りだ。
「ご、ゴメン。新型のエンジンについてはまだ解禁されていない事だから発表されるまで黙っていて」
「それは良いが、艦政部の局員は防衛軍の宇宙艦船だけ聞いて来たんだな?もう一つの地球の座標とか軍の気密に関する事は聞いて来なかったんだな?」
「う、うん」
軍艦についてもある意味で軍事機密にあたるかもしれないが、ヤマト、まほろばの外見については管理局の一部の局員たちに目撃されているので、軍事機密度は低いと思いたい。
(近々、フェイトを訪ねて来たと言う艦政部の局員と接触してその目的を問う必要があるみたいだな)
クロノとしてもフェイト同様、あまりもう一つの地球に対して興味を抱き、あの世界に変なちょっかいを出したり、“海”の上層部を焚き付けられても困るので、後日フェイトを訪ねて来たと言う艦政部の局員と会い、その目的とどんな人物なのかを確かめる事にした。
「まぁ、今回は不可抗力としてだ。今後はあまりあの世界の事を不用意に第三者へ話すのは控えてくれ」
「う、うん。分かった」
「それじゃあ、フェイト。勉強頑張れよ」
「うん、ありがとう。クロノもお仕事頑張ってね」
「ああ。それじゃあ‥‥」
クロノから警告を受けつつも彼はフェイトの士官学校生活を気にしつつ通信を切った。
後日、ヴェルタンはフェイトが描いたヤマト、まほろば、コスモタイガーの絵を持ち造艦部の庁舎にて上司にこの案件を採用してもらおうと掛け合った。
造艦部庁舎の設計室では、やはり次世代の次元航行艦の就役を急務とし、建造に関しても時短目的でミノフスキーが遺したボラー連邦の艦とこれまで管理局が建造した艦を合わせ持った艦影の設計が主流となっていた。
そんな中でフェイトが折れてヴェルタンにヤマト、まほろば、コスモタイガーの絵を描き渡した行為が無駄になってしまう可能性が高い。
しかし、フェイトからもう一つの第97管理外世界での宇宙艦船についての話を聞き、無駄にはしたくないと言う思いと同時に設計士として絶対に沈まない強力な艦を造り上げたいと言う思いが募った。
だが、現実は厳しく‥‥
「何故ダメなのですか!?」
ヴェルタンは上司にボラーではなく、フェイトが一時滞在していたもう一つの地球における防衛軍の艦影を基にした設計を提案するが、
「君は今の管理局の現状を理解していないのか?ボラーとの戦いに敗れ、“海”は現状の戦力で手一杯の状況で活動をしているのだ。“海”が欲するのは直ぐに就役できる強力な艦だ。幸いMS機関が既に実用段階となった今、我々造艦部は一日でも早く次世代の次元航行艦を就役しなければならないのだ。君の提案では一から艦の設計図を造らなければならない」
「だから言ってそもそもの原因であるボラーの艦の設計を流用するのはいかがなものかと‥‥」
「何もすべてをあの野蛮人共の真似をする訳ではない」
「ですが‥‥」
「兎に角、君の提案は既に却下だ」
彼の提案は却下されてしまった。
「‥‥」
(あの分からず屋め!!)
ヴェルタンは不機嫌オーラ全開で庁舎の通路を歩いていると、
「ん?」
資料室にて人の気配を感じて扉を開ける。
この資料室は普段から人の出入りが無い部屋なので、ヴェルタンは気になって資料室の扉を開ける。
すると資料室に備え付けのテーブル席には一人の若い男性局員が座っており、何かを描いていた。
「ん?なにか‥‥?」
「あっ、いえ、この部屋から人の気配があったので、気になって‥‥」
「ああ、普段からこの部屋は使われていませんからね。ですが、私にとって此処はまさにプライベートオフィスなので、ちょくちょく使用させてもらっているんですよ」
「そうなんですか‥‥」
ヴェルタンはふとこの局員が資料室で何をやっていたのか気になって近づいてみると、テーブルの上には巡航艦らしき艦の絵が描かれた製図紙があった。
「これは?」
「コンペに落ちた巡航艦の設計図です」
「コンペに落ちた?」
「ええ‥‥失礼ですが、お名前を聞いても?」
「失礼、フランソワ・エミール・ヴェルタンです」
「自分はルイ・レオンス・ヴェルニーと申します」
「さきほど、コンペに落ちたと仰っていましたが‥‥」
「ええ、貴方も艦政部の人間なら知っているでしょう?現在、造艦科が次世代の次元航行艦の設計と就役を急いでいる事を‥‥」
「はい。存じています」
「しかもその設計をボラーの艦影を基に設計されている事も‥‥」
「ええ。元々の発端がボラーとの武力衝突ですからね。“海”も当初は此処までの被害を想定していなかったのでしょう」
「まぁ、理由はどうあれ、新たな艦を設計・就役することが出来るなら、造艦技師としてやりがいを覚えるのですが‥‥」
「コンペに落ちてしまった‥と‥‥」
「元々今回のコンペは出来レースだったんですよ」
「出来レース‥‥か‥‥」
「はい。それで、上司とやり合いましてね。大体あいつらは知性と教養のカケラもない。親の七光りで高い地位にいるくせにそれに見合う実力もなく、口では『管理局の為だ』とか言っているが、その実態は保身と出世欲しかない俗物ばかり‥実に不愉快だ。あんな奴らと同じ空間に居るのも、出来レースで採用された艦の仕事をするのも耐えられない。だからこの部屋に逃げ込んだんです」
ヴェルニーがヴェルタンに資料室に居た理由は不貞腐れながら話す。
(言い分は理解できるところもあるが、何だか精神的に未成熟で感情的過ぎる)
(しかし、コンペに敗れたとは言え、巡航艦の設計を任ぜられる程の才能があると言うなら、実力もある筈‥‥)
「艦が好きなんですね」
「ええ、よく父親と一緒に模型や雑誌を買って部屋で眺め、自分で絵を描いていました。それで自分は艦政部へと入りました」
(この人も艦が好きなんだな‥‥)
ヴェルタンはヴェルニーに対して親近感を覚える。
もっともフェイトからしてみれば、今の二人を見たら、きっとルキノ、ヴェルタン、ヴェルニーの三人は類友に見えただろう。
ヴェルニーはその後、コンペに落ちたとされる巡航艦の設計図にペンを走らせる。
既にコンペに落ちているので、製図紙に描かれている巡航艦が世に出る事は無いが、それでも彼の頭の中にはこの巡航艦の完成図や様々なバリエーションがあるのだろう。
そして、巡航艦のデザインを描いている時の彼の表情はまるで無邪気な子供のように輝いていた。
「ん?まだなにか?」
巡航艦のデザインの続きを描いていたヴェルニーは未だに自分の傍に居るヴェルタンの存在に気づき、まだ自分に何か用があるのかを訊ねる。
「あっ、いや‥その、自分も先ほど上司とやり合いましてね」
「ほぉ~貴方も‥‥」
ヴェルタンはヴェルニーに自分も彼と同じ境遇である事をボヤく。
「ええ。貴方と同じく次世代の次元航行艦の設計案を出しましたが、あっさりと却下されましてね」
「どんな案件を出したんですか?」
「やはり、次世代の次元航行艦の設計についてボラーの宇宙船を基にする案件について自分も思うところがありまして‥‥ですが、自分の上司も次世代の次元航行艦の就役を優先すると言って自分が提案した案件は却下されました」
「そうですか‥案件が却下されたと言う事は貴方も何か設計したと言う事ですか?」
「ええ。まだ本格的な設計はこれからなのですが、ある人と出会いアイディアをもらってきまして‥‥ボラーの艦ではない別の世界の宇宙船を基にしようかと思いましてね‥‥」
「ちなみにどんなデザイン何ですか?」
ヴェルニーは宇宙船のデザインと言う事で興味を示す。
「こちらです」
ヴェルタンはヴェルニーに先日、士官学校にてフェイトが描いたヤマト、まほろばのデザインを見せる。
「ふむ、水上船舶を意識して描いたような印象ですが、何だか古臭い‥全然垢抜けない。まるで素人が描いたようなデザインですね。一体誰が描いたのですか?」
ヴェルニーはフェイトが描いたデザインを小馬鹿にした様に言う。
「管理局の関係者‥としか今は言えません。ですが、その人は確かに造艦に関しては素人でしたが宇宙船の見聞に関しては恐らく管理局随一かと思います」
「へぇ~‥これを描いた人がねぇ~‥‥」
ヴェルタンの言葉をヴェルニーはあまり信じてはいない様子だ。
「今はまだ無理かもしれませんが、近い将来、このデザインの艦を建造し就役したいと思っています。‥‥もし、貴方がこのデザインを基に艦を設計するなら一体どんなデザインにしますか?」
ヴェルタンはヴェルニーにヤマト、まほろばのデザインを基に新たな次元航行艦を設計するならどんなデザインにするのかを問う。
「これを基に?そうですね‥‥」
ヴェルニーは新しい製図紙を取り出し、フェイトが描いたヤマト、まほろばのデザインを基に次元航行艦のデザインを描き始めた。
「これらの艦の大きさはどれくらいなのですか?」
デザインを描きながらヴェルニーはヴェルタンにヤマト、まほろばの大きさを訊ねる。
「全長は300メートル越えらしいです」
「ほぉ~‥300メートル以上とは‥‥」
艦の大きさを聞いた後、ヴェルニーはヴェルタンに質問をすることなく、一心にデザインを描いていく。
「‥‥」
(もう集中している)
(彼の次元航行艦に対する設計への情熱はもしかしたら私以上かもしれない)
(彼とならボラーを基にした次元航行艦ではなく、新たな次元航行艦を造れるかもしれない)
(もっとも設計班として集団を形成した時、人間関係の問題は増えそうだが‥‥)
艦の設計・建造は一人ではできない。
幾人もの設計士が艦の様々箇所の設計をして様々な意見を話し合い、取り入れて設計図を製作し、大勢の工員が艦を造り上げる。
しかし、此処までの会話と彼の態度からヴェルニーは人付き合いが得意とは言えない印象がある。
大勢の人との協調性が必要になった際、きっと一悶着が起きる可能性が高い。
だが、今はボラーではなく、もう一つの地球の宇宙艦船のデザインを基にした艦の設計図だけでも見てみたいと言う思いがヴェルタンにはあった。
ヴェルタンとヴェルニーのこの出会いはまさに運命的な出会いであった。
そして、クロノとフェイトも後々にこの二人と交流する事になるのであった。