星の海へ   作:ステルス兄貴

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桜花の容姿は黒髪のアインハルトなので、当然声もアインハルトと同じ人なので、桜花の台詞は能登さんの声を思い浮かべてみてください。


十一話 それぞれの思いとそれぞれの戦い 桜花編

 

 

夜の中嶋家の寝室にて、ダブルベッドに横になりながら加奈江が旦那である源三郎に話しかけた。

 

「ねぇ、アナタ」

 

「ん?何だい?」

 

「近々あの話をあの子にしようと思うの‥‥」

 

「‥‥」

 

加奈江の提案に源三郎は黙って聞いている。

彼女の言う「あの子」と言うのが、ギンガの事を指しているのは直ぐに分かった。

 

「勿論、断られるかもしれない。けど、もしかしたら、このままあの子の世界の人達(管理局の局員)が迎えに来ないかもしれないし‥‥もし、そうなったら‥‥」

 

加奈江は最後の言葉をためらった。

もし、ギンガの世界の人達がギンガを救助しに来なかった場合、ギンガの身柄は防衛軍の情報局に拘束されるかもしれない。

そうなれば、薬物や暴力による拷問を受けるかもしれない。

いや、ただの暴力どころか性的暴行も受けるかもしれない。

そうなる前にギンガの身元をしっかりと証明させる必要がある。

そこで、加奈江はある事を思いつき源三郎に提案した。

 

「加奈江、君の好きなようにしなさい」

 

「いいの?」

 

「ああ」

 

「ありがとう」

 

源三郎の言葉に加奈江は微笑んだ。

こうしてギンガの知らない中、水面下である計画が動き出した。

 

そして、

 

「ねぇ、ギンガさん」

 

「はい?何でしょう?」

 

そしてある日、その計画は実行された。

加奈江は日中、桜花と紅葉が学校に行っている間にギンガに例の話を持ち掛けた。

 

「ギンガさん。その‥‥よかったら家(中嶋家)の養子にならない?」

 

「えっ?」

 

加奈江の提案にギンガは固まった。

 

「私がこの家の養子に‥‥?」

 

それはつまり、ミッドに帰る事を諦めると言う事‥‥

 

ミッドに居るゲンヤやスバルの下に帰る事を諦めると言う事‥‥

 

しかし、現状、管理局の救助が来る可能性は極めて低い。

 

でも、その可能性は絶対にゼロと言うわけではない。

 

だが、来ない可能性もある。

 

そうなったら‥‥

 

ギンガが、返答に困惑していると、

 

「桜花も貴女に懐いているし様だし‥‥あの子、今までずっと一人っ子だったでしょう?顔には出さないけど貴女が家に来て桜花はとっても喜んでいたのよ。あの子、貴女を本当のお姉ちゃんの様に慕っているの」

 

「えっと‥‥でも‥‥」

 

明らかにギンガは困惑している様子で加奈江から目を逸らす。

 

「ごめんなさい、急にこんなことを言われても混乱するわよね?‥‥直ぐに返事を出さなくてもいいわ。ゆっくり時間をかけて考えてね」

 

「は、はい‥‥」

 

困惑するギンガに加奈江は時間を与え、彼女からの返事を待つことにした。

 

それから数日後、ギンガと桜花の二人は加奈江に頼まれて配給される食糧を受け取りに出かけた。

ギンガは食糧が配給制になっている地球の現状を見て改めてこの地球が今、ガミラスの手によって追い詰められているのだと実感する。

その時、

 

「桜花姉ぇちゃん!!」

 

桜花に飛びつく一人の女の子が居た。

 

「ああ、アギトさん」

 

桜花は飛びついて来た女の子、アギトを抱きしめ、頭を撫でる。

 

「アギトさん、一人で来たの?」

 

「ううん、お母さんとルナと一緒に来たよ」

 

桜花がアギトに一人で来たのか訊ねるとアギトは母ともう一人の計三人で来たと言う。

そこへ、

 

「アギト、一人で駆け出しちゃダメでしょう」

 

アギトの母親らしき女性がアギトと同じくらいの女の子を連れてやって来た。

 

「なっ!?」

 

ギンガはアギトの母親ともう一人の女の子を見て、目を見開き驚く。

アギトの母親ともう一人の女の子の容姿が、

 

(シグナムさん!?リィンさん!?)

 

ミッドにいる自分の知り合いにそっくりの容姿だったのだ。

 

「おや?桜花ちゃん。おつかいなのかい?」

 

「はい」

 

シグナムに似た女性は桜花に話しかける。

 

「ん?そちらの人は?」

 

シグナム似の女性がギンガに気づく。

 

「親戚のお姉さんで、最近こっちに越してきたんです」

 

桜花は予め設定していたギンガの素性をシグナム似の女性に話す。

ギンガと加奈江の容姿は似ていたので、親戚だと言う桜花の言葉もすんなりと受け入れている様子だ。

 

「お姉さん、此方は八神・リインフォース・シュベルトさん」

 

「初めまして。八神です」

 

「は、初めまして。中嶋ギンガです」

 

(八神ってファミリーネームもはやてさん達と一緒なんだ‥‥)

 

シグナム似の女性、八神・リインフォース・シュベルトのファミリーネームが自分の知り合いと同じ事実に更に驚愕するギンガ。

 

「それで、この子はアギトさんでこちらの方がルナさんです」

 

桜花は赤髪の二人の女の子達をギンガに紹介する。

 

「ど、どうも‥‥」

 

「よろしくです」

 

紹介された二人の女の子達はギンガにペコッと頭を下げる。

 

「二人は二卵性双生児で容姿は似ていないけど、姉妹なんだ。アギトが姉でルナが妹」

 

シグナム似の女性、シュベルトが自分の娘達の紹介をギンガにする。

 

「へぇ~」

 

「桜花姉ぇちゃんはこれから食べ物貰うの?」

 

「ええ、そうです。アギトさんたちはもう貰ったの?」

 

「うん」

 

「もらったよ」

 

アギトとリィンそっくりのルナは貰ったばかりの食糧が入った袋を桜花とギンガに見せる。

 

「そう、家まで落とさない様に気をつけて持って帰るんですよ」

 

「「はい」」

 

「それじゃあ、私達はこれで‥‥」

 

「あっ、はい。それじゃあ」

 

シュベルトはギンガと桜花にペコッと一礼し、挨拶を交わして八神家のみんなは配給された食糧を手に帰って行った。

 

そしてギンガと桜花も配給された食糧を受け取り、帰ろうとする中、

 

「ジジイ!!その食糧を寄こせ!!」

 

「ひ、ひぃ!?」

 

自分たち同様、配給された食糧を受けとった老人にいかにもチンピラと言った男たちの一人がその老人に蹴りを見舞う。

当然、突然蹴られた老人は為す術もなく体勢を崩して転倒する。

そして転倒した老人の手から受け取ったばかりの食糧が入った袋が離れる。

男たちは、それを悪人面の笑みを浮かべて拾う。

当然と言えば当然の話であるが、誰もがそれに非難がましい視線を向ける。

ただし、それも長続きはしない。

誰だって面倒事や痛い思いは御免被りたい。非難の視線を向けても、男達に一睨みすれば目を逸らしてしまう。

 

「そ、ソレを返してくれ!!家には身体の弱い婆さんが居るのじゃ‥‥」

 

「ハッ、そんな事、俺たちは知ったこっちゃねぇよ」

 

「それに之は今、俺たちが拾ったんだぜ?大方何処かの誰かが、捨てて行ったんだろう?」

 

「そうそう。大体、之がお前のモノだって証拠はあるのか?どこかにお前の名前でも書いてあるのか?」

 

「欲しかったら、それ相応の対価を寄こしな」

 

下種な笑みを浮かべるチンピラ達。

あまりにも無茶苦茶なチンピラたちの行動と言論にギンガは段々腸が煮えくり返りそうになった。

地球が今、ガミラスのせいで大変な時に弱者を食い物にしようとしている彼らの行いにギンガが彼らに何かを言いかけた時、

 

「ふんっ!!」

 

桜花が食糧の袋を持ったチンピラに跳び蹴りをくらわす。

突然の予期せぬ奇襲に防御が間に合わず、食糧の袋を持ったチンピラはその場に倒れ、先程老人から奪った食糧を落とす。

すかさず桜花はそれを拾い、老人に持たせる。

 

「このクソガキがぁ!!」

 

蹴りを食らったチンピラは唸り声をあげて起き上がる。

しかし、桜花はそんなチンピラ相手に恐れることなく声をあげて言い放つ。

 

「貴方たち!!か弱いお爺さんから食い物を奪うなんて恥ずかしくないんですか!? 敬老の精神という言葉を知らないんですか!?」

 

ビシッとチンピラ連中に指をさしながら敬老の精神を問う桜花。

 

「うるせぇ!!俺たちゃいーんだよ、強いからな!!」

 

「弱い奴が強い奴に譲る、これは当たり前のルールだろうが!!」

 

「そっ、俺らは強いんだから弱い奴は大人しくしてりゃぁいーんだよ」

 

「ちげぇねぇ!それにこんな爺や婆が生きていても何の役にもたたねぇじゃねか。食糧や物資、酸素の無駄だ。だから俺たちが有効に使ってやろうとしているんじゃねぇか」

 

男たちは自分たちのセリフに気をよくしたのか、下品な笑い声を上げた。

しかし、

 

「ふん、貴方たちが何の役に立つんです?そのキモい顔と下種な笑い声でガミラスを不快にさせる事ですか?」

 

桜花にしては珍しく挑発的な笑みを浮かべる。

 

「このクソガキ!!こっちが下手に出てりゃ、つけ上がりやがって!!」

 

「少し痛い目に会わなきゃ分からねぇようだな!!」

 

チンピラたちが桜花に殴りかかろうとした時、

 

「憲兵さん!!こっちです!!」

 

桜花とチンピラ連中とのやり取りを見ていた他の人が憲兵を呼んできた。

 

「ちっ、覚えていやがれ!!」

 

「ぜってぇ後悔させてやるからな!!」

 

流石に国家権力には弱いらしく、負け犬の様な捨て台詞を吐きながらチンピラたちはその場から逃げていった。

ギンガは逃げて行ったチンピラ連中にアッカンベーをしている桜花に駆け寄って話しかける。

 

「大丈夫?桜花?」

 

「大丈夫です。あんな腰抜け連中にやられるようなヤワな鍛え方はしていませんので」

 

桜花は笑みを浮かべて手をヒラヒラ振りながらギンガに自身の健在っぷりをアピールする。

 

「そう?それならいいけど‥‥でも、無茶しすぎよ。相手は桜花よりも大人で複数の男達なんだから」

 

「でもギンガさん、地球が大変な中、ああいう自分勝手な連中は我慢ならないんです。例えどんなに弱くても、理不尽に反抗する権利は誰にでもある‥‥地球がガミラスと戦っているように‥‥」

 

桜花はグッと拳を握りギンガの目をジッと見ていた。

 

 

とある廃墟地区の薄暗い部屋の中を、『ガンガンガン!』という何かを蹴る音が何度も何度も響き渡る。

そんな中、耳に不快感を残す音と共に、狂った様な怒声を上げる男の声が発せられた。

 

「チクショウ、あのクソガキィがぁ!!」

 

荒れているのは先程火憐に跳び蹴りを食らった男だった。

 

「り、リーダー物に当たるのは結構ですけど、壊さないでくださいよぉ~」 

 

自分たちのリーダーの荒れ方に手下連中もオドオドしている。

 

「うるせぇ!あんなガキに舐められたまんまじゃ、俺のメンツにかかわるんだよ!!」

 

辺り構わず怒鳴り散らすリーダー。

 

「そ、それなら、こういうのはどうでしょう?」

 

手下の一人が何か思いついたらしく、リーダーの男に耳打ちする。

 

「へぇ~、そいつは良いや。あのガキには、しっかり礼をしねぇとなぁ‥‥」

 

手下の提案を聞いた男はニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

それから幾日かが過ぎ、

桜花は、防衛軍職員の託児施設に来ていた。

別に桜花が託児所でお世話になっているわけではない。

彼女はボランティア活動の一環で、ここで、子供達の面倒を見ているのだ。

そして、託児所で使う生活物資の買い出しに行く事になり、この託児所で預かっている八神家の姉妹、アギトも「自分達も手伝う」と言ってきた。

桜花は、近くの空手道場に通っており、桜花について行くと言ったアギトも桜花と同じ道場に通っていたのだ。

つまり、二人は姉妹(きょうだい)弟子と言う関係だった。

可愛い妹分の頼みを桜花は了承し、アギトと共に買い出しとへ出かけた。

その後姿を怪しい男たちがジッと見ている事を知らずに‥‥

 

 

それから何時間かの時間が過ぎ、

 

「せんせぇ~」

 

託児所にて、八神家姉妹の片割れのルナが託児所の職員に声をかける。

 

「どうしたの?」

 

「かれんおねぇちゃんとアギトおねえちゃんがまだかえってこないです」

 

ルナは少し不満げに訊ねる。

 

「そうね、少し遅いわね」

 

職員は時計をチラッと見る。

確かに買い出しに出かけたにしては帰りが少々遅い。

 

「あたし、おうかおねぇちゃんと遊ぶ約束したのにぃ~」

 

「もう少し待ってあげてね。お店が混んでいるのかもしれないから」

 

「ぶぅ~」

 

やっぱり不満の様だった。

しかし、家への帰宅時間が近づいても桜花とアギトが帰ってくることは無かった。

 

託児所から連絡を受け、源三郎が自宅に戻ると、そこには普段からは信じられない程、動揺している加奈江の姿があった。

ギンガと紅葉が宥めているのだが、効果が無い。

源三郎は加奈江を背中から抱きしめ、

 

「少しは落ち着け」

 

と、宥める。

 

「で、でも、桜花が‥桜花が‥‥あの子に万が一の事があったら、私‥‥私‥‥」

 

「大丈夫だ。アイツは俺とお前の子だ。必ず無事に戻ってくる。信じるんだ」

 

その直後、電話が鳴った。

加奈江は応対できる状態じゃないので、源三郎が電話に出た。

 

「はい、中嶋です」

 

「こちらは憲兵隊司令部ですが、中嶋源三郎、軍務課長でしょうか?」

 

「ああ」

 

「先ほど、御宅のお嬢さんと思われる女子と託児所の児童の二人が何者かに攫われる映像を設置されていたカメラが捉えました。また付近の住民に聞き込みをしたところ、車に連れ込まれるところも目撃されています。現在Nシステムにて、その車を追跡しております」

 

「引き続き捜査をお願いします」

 

「了解」

 

源三郎は受話器を力なく元の位置に戻す。

 

「アナタ、桜花は‥‥?」

 

「‥‥どうやら誘拐されたみたいだ」

 

「「「っ!?」」」

 

源三郎の言葉に加奈江だけでなく、ギンガと紅葉も驚愕した。

 

「営利目的なら身代金の要求がある筈だが、未だにそれがないとなると‥‥」

 

「まさか人身売買?」

 

管理局で捜査官の仕事をしていたギンガが営利目的の誘拐以外の可能性を示唆する。

 

「‥その可能性も捨てきれないな‥‥」

 

「そんなっ!?」

 

(でも、本当に人身売買目的なのかしら?何か別な目的の様な気がする‥‥)

 

ギンガは捜査官での経験からこの誘拐事件がただの人身売買目的の誘拐なのか、疑問視していた。

 

その頃、桜花とアギトはどことも知れない廃ビルに連れ込まれていた。

一面に小さな小窓があるだけの、他の面は堅いコンクリートがむき出しになった部屋。

おそらく使われなくなって久しいのだろう。チラホラとゴミやガラクタはあるが、それ以上のものはない。

 

「お、桜花姉ぇちゃん‥‥」

 

桜花と共に連れ去られたアギトは完全に怯えており、桜花にしがみついている。

 

「大丈夫だよ。私が、お姉ちゃんがちゃんと守るから。何があっても、守るから‥‥。だから、安心して‥‥」

 

「へっ、赤の他人なのに美しいねぇ~」

 

「全くだ。いったい、何をどうやって守るのかぜひ教えてほしいもんだ」

 

「くっ‥‥」

 

嘲りを多分に含んだ男の言葉に、桜花の口からは口惜しげな呻きが漏れる。

今、桜花の手首には縄がきつく結ばれており、拳を放つことも出来ない。

当然、縛られているので、蹴りを放とうにもバランスを崩すのも明白。なにより桜花は人質を取られている状況とほぼ同じなので、下手に動けない。

 

「よくよく見れば、ガキだがツラは悪くねぇなぁ‥‥」

 

「そういやそうだな、その筋で売ればいい値で売れそうだよなぁ」

 

「ああ、世の中には小さな女の子が大好きな変態が多いからなぁ」

 

下種には結局下種な考え方しかできない。

男達の舐める様な視線が桜花の顔と身体を舐る度、桜花は嫌悪感に身体を振るわせる。

彼らの言葉と視線から本能的に危険な物を感じる‥‥

 

「で、それはそうとして、このチビガキの方はどうするんだ? 予定じゃ、この前の生意気なガキの方だけだった筈だよな?」

 

「さぁて、どうするのかねぇ~」

 

「約束が違う!! 大人しくしていればこの子は解放する、そう言った筈よ!!」

 

「そうだったか? なぁ、お前覚えているか?」

 

「いや、さっぱり。お前の聞き間違いじゃねぇの?」

 

「くっ、下種が‥‥」

 

口々にそんな事をのたまう男達。悪意と嘲笑に満ちた言葉に不快そうに吐き捨てる桜花。

彼女は守る様にアギトを自らの背中の後ろに回した。

それが、今の桜花にできる、精一杯の反抗だった。

 

「どうも。だが実際、リーダーからはガキの扱いについて何も言われてねぇし、適当に売っちまえばいいだろ」

 

「そうだな」

 

「まっ、呪うんなら自分の迂闊さを呪うんだな。あの陰険で執念深いリーダーを怒らせちまった事をよ」

 

「全くだ。宥めるのも一苦労だったぜ。と・こ・ろ・で、まさか覚えてねぇって事はねぇだろうな?」

 

「‥‥」

 

男の問いに、桜花は返事を返さない。

 

「だが、俺らとしてもさすがに同情するぜ。リーダーは嫌がる女を無理矢理ってのが趣味だからな」

 

「早いけど、大人の階段上る訳だ。まぁ、このご時世だ。死ぬ前に男を経験しておくのもいいんじゃねぇ~」

 

頼んでもいないのに、勝手にこの後の展開を話し始める男達。

その言葉を聞き、さしもの桜花も顔を青ざめる。

桜花の恐怖を煽って楽しむという意味では、それは実に効果的だった。

ただの苦痛にならいくらでも耐えられる。

歯を食いしばり、口を閉ざし、相手が望む反応など一切示さない覚悟が幼いながらも桜花にはあった。

それは、このガミラスの戦争が子供たちをその様な性格にしたのかもしれない。

しかし、それとこれは話が別だ。

桜花とて女、それもまだまだ少女なのだ。男を知らず、恋も碌にしていない。

恋愛に関しては、まだまだ早い年頃だと思われるが、漫画・アニメ、ドラマなどで、その手の事に関しては幻想を持っている。

そんな彼女にとって、無理矢理散らされるというのは最悪の未来像だろう。

それも、こんな下種どもに‥‥

やがて、いやにわざとらしい鷹揚な歩き方で一人の男が側近らしき二人組をひきつれ、やや遅れて幾人かの取り巻きと思しき男達が部屋に入ってくる。

まるで「自分は大物です」と主張するかのようなその歩き方は、状況が違えばいっそ笑いを誘っただろう。

それほどまでに様にならず、滑稽な姿だった。

男は桜花の目の前まで歩み寄ると、長く伸びた黒い髪を力任せに引きよせる。

 

「つっ!!」

 

「桜花姉ぇちゃん!!」

 

「よぉ、この前は世話になったな。今日はその礼をしようと思って招待したんだが、気に入ってもらえたか?」

 

桜花の頭を引き寄せ、顔の前で舌なめずりをする男。

 

「人生の一大記念イベントだ。ちゃんと記録(撮影)して、後で家族の下に届けてやるよ。 まっ、お前らが家に帰る日が来るかどうかは、この先のお前の頑張り次第だがな。ハハハハハハ‥‥!!」

 

一体何が可笑しいのか?

男とその取り巻きたちは下卑た笑い声をあげている。

この後に何が待ち受けているのか、その手の事に経験の乏しい桜花にも分かる。

あの汚らしい手で衣服を剥ぎ取られ、その後は、きっといい様に嬲られて奴隷扱いか、あるいは殺されるかだ。

どちらにせよ、このままでは二人が無事に家に再び帰る日は来ない。

 

「さぁて、今日までさんざん待たされたんだ。そろそろ、お楽しみの時間としようや。精々泣き叫んでくれよ、その方が燃えるってもんだからな。楽しみ方を教えるのは、その後だ。ククク、悔しいか? 怖いか? お前の始めてもこれからも、全部、俺様のもんだ。それでこそ、あの日、俺が受けた屈辱を思い知らせてやれるってもんだ」

 

男はそのまま桜花を床に押し倒し、衣服を強引に破こうとする。

 

「いいねぇ、いいねぇ、やっぱり女を犯す時はこうでなくっちゃ。まっ、これで泣き叫んでくれりゃ言う事なしなんだが、そこは我慢するか。俺は寛容だからな。それに、気が強い女も嫌いじゃねぇ。その生意気なツラが涙に濡れて、俺に許しを請う所を想像するだけでゾクゾクするぜ‥‥とりあえずは躾から始めると‥‥」

 

「やめろ!」

 

悦に入った表情でべらべらしゃべる男は、「躾」と称して拳を振り上げる。

だが、その言葉と行動を制するように幼い子どもの声が挟まれた。

同時に、小さな影が男目掛けて突っ込んでくる。

 

「桜花姉ぇちゃんから離れろぉ!!」

 

「あぁ? ガキが調子に乗ってんじゃねぇ、よっ!」

 

「ぐぇっ!?」

 

無謀にも頭から突っ込んで行ったアギトに、男の無造作な蹴りが突き刺さる。

男が蹴りを入れる瞬間に、息が合ったかのように桜花の身柄は別の男により押さえつけられる。

 

アギトの身体はまるでボールの様に撥ね、コンクリートの床に転がった。

また、あり過ぎる体重差を考えれば一撃で沈んだのは疑いようもない。

男達は誰もがそれを確信し、アギトの無謀に嘲笑を浴びせる。

だがここで、アギトのこの後の行動は皆の予想を裏切った。

 

「わぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁー!!!」

 

「ちっ、コイツ、まだ動けたのか!!」

 

起き上がったアギトは再度男に向かって突っ込む。

しかし、彼は何らかの格闘術を学んでいるというわけではない。それに相手との体格差がありすぎる。

そうなれば、相手の乱雑な蹴りの餌食になるのは必定。

 

「鬱陶しいガキだ。ガキはガキらしく地べたを這いつくばっていろ!!!」

 

「げほっ!?」

 

男は堅く握りしめた拳で横っ面を殴り、アギトの身体は床に倒れる。

 

「やめて!! 相手はまだ小さい子どもなのよ!!」

 

「知ったことか! 調子に乗ったこのガキの自業自得だろうが!! いいか、覚えとけクソガキ!! 世の中はなぁ、強い奴が正しいんだよ! 勝った奴が正しいんだ!! 弱い奴らは強い奴の言いなりになって、媚売っていればいいんだよ!!お前みたいに正しい事が通ると思っているゴミクズを見ていると、虫唾が走るんだよ!!」

 

男は倒れているアギトの蹴りを入れようと足を振り上げる。

如何に雑な蹴りであっても、体重を乗せれば幼児の体ではアバラが折れ、内臓に重大なダメージを与えかねない。

それどころか、下手をすると背骨を折り、一生に渡る障害を負う可能性もある。

いやそれどころか最悪の場合は死んでしまうかもしれない。

 

「やめろ――――――!!」

 

桜花は叫ぶとともに自分の体を捻りながら自分の体を押さえていた男を振り払う。

そして、アギトの上に覆いかぶさり、蹴りを無防備な背中で受け止めた。

 

「ぐっ‥‥!!」

 

「桜花姉ぇちゃん!!」

 

「このっ、どいつもこいつも‥‥おい、こいつをちゃんと押さえとけよ!!つかえねぇ野郎だな!!」

 

「す、すみませんリーダー」

 

自分の思い通りにならない状況に、男はまるで癇癪を起した子供のように喚き散らす。

 

「全く、私に構わず逃げる事が出来たはずなのになんで逃げなかったの?」

 

「桜花姉ぇちゃんを置いて逃げる事なんて出来ないよ‥‥桜花姉ぇちゃんは大切な人だもの」

 

「痛いのに、辛いのに‥‥がんばったね。カッコよかったよ」

 

「桜花姉ぇちゃんを守‥れた‥‥かな‥‥?」

 

アギトはそう言って意識を失った。

意識を失ったアギトを静かに横たえた。

 

「‥貴方たち!!もう許さない!!」

 

「へっ、ガキがなに強がりを言っている?見ろ、この状況を。お前が俺たちに勝てる確率なんざぁ、1%もねぇんだよ」

 

「うるさい!!例え試合に負けて、勝負にも負けてそれでも、自分に負けなきゃ、負けじゃない!!貴方たちの様なクズに身体は渡しても私の信念は奪わせないし奪えない!!」

 

「ほぉ~面白れぇ。だったら、その信念ってやつをズタボロにして、廃人にしてやるよ!!」

 

対峙していた桜花と男。

男は叫ぶと、ニヤついた笑みを浮かべながら、拳を振り上げ、桜花へと迫った。

 

「うるさい!!私が許さないって言ったら絶対に許さない!!‥‥私は貴方たちみたいな奴らには絶対に負けない!!」

 

迫りくる男に桜花は精一杯声をあげ、叫んだ。

すると、桜花の身体の周りを青白いオーラの様なモノが桜花の身体を包み込んだ。

 

「な、なんだ!?」

 

迫りくる男も桜花のこのオーラに戸惑い、接近するのを止める。

他の連中も、見たことのない現象に戸惑い始める。

 

「ビビるんじゃねぇ!!こんなの下らないこけおどしだ!!野郎ども、やっちまえ!!」

 

オーラが出る前は自分で桜花を痛めつけようとした男だったが、自分たちが見たことのない現象をまのあたりにして、自分ではなく、部下の連中に任せるあたり、小物な男だった。

 

「「「「う、うおぉぉぉぉー!!」」」」

 

リーダーに命じられ、仕方なく、桜花へと迫る男達。

 

(なんだろう?力があふれる‥‥)

 

一方、謎の青白いオーラに包まれた桜花は普段よりも何倍もの力が溢れてくる感覚がした。

 

「ふんっ」

 

桜花が思いっ切り腕を振ると先程まで桜花の手を縛っていた縄はあっさりと切れた。

それを見てたじろぐ男たち。

まぁ、それも無理もなかった。

大人の男の手で縛った縄を小学生の女子児童があっさりと腕を振っただけで、縄を切ってしまったのだから‥‥

この時、桜花の身体に起きた現象は魔法世界でない地球では未知の現象化もしれないが魔法世界であるミッドでは結構メジャーな現象だった。

桜花の身体に起きた現象は身体強化と呼ばれる魔法で、ミッドにある名門校、St.ヒルデ魔法学院では初等科一年生の体育の始めに習う魔法だった。

元々桜花の身体には魔導師が持つ、魔力の源であるリンカーコアが存在しており、桜花の絶対に負けたくないというこの状況下で鳴動したのだろう。

未だに身体の周りにオーラ(魔力)が漂っているのは制御が出来ていないためである。

 

「さあ、覚悟しなさい!!下郎ども!!」

 

魔力を纏った桜花が反撃の狼煙をあげようとした瞬間、

部屋の壁の一部が突如、爆発した。

 

「こ、今度は何だ! 何が起こった!?」

 

「わかりません、いきなり壁が吹っ飛びました!!」

 

誰もが混乱する中、埃とも煙ともつかない靄が掛かる。

やがて、粉塵が晴れるとそこにいたのは、

 

「遅れてごめん。助けにきたわよ、桜花!!」

 

ギンガであり、混乱する男達を無視して桜花に声をかけた。

 

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