今年もよろしくお願いします。
太陽の核融合異常増進騒動から数年後‥‥
人類は再び生活の場を地上に戻し、本土を復興させることに成功した。
外交面においても紆余曲折があったが、地球はガルマン・ガミラスとの間に同盟を締結させた。
ガルマン・ガミラスとの同盟締結後に両星間国家は技術交換を行い、その結果地球はガルマン・ガミラスから次元潜航艦の技術を得て地球独自の次元潜航艦を就役させた他航空機技術についてもガルマン・ガミラスより学び、運用する機種を広める事となった。
一方、地球はガルマン・ガミラスに対してアンドロメダ級を基にした戦艦と空母のライセンスを一部譲渡し、ガルマン・ガミラスはそれらの艦艇を建造した。
ただし、ガルマン・ガミラス側はクーデターを警戒しているのか、ガルマン・ガミラス仕様のアンドロメダ級戦艦を五隻、空母型を五隻の計十隻のみの建造に留まった。
そんな中、防衛軍司令部勤務となっていたギンガはいつでも宇宙艦隊勤務に異動しても良いようにシミュレーションで勘を鈍らせないよう日々の鍛錬は欠かさなかったのは真面目な彼女らしいと言えば彼女らしい。
良馬の方は変わらずに、まほろばの艦長職でケンタウロス座のアルファ星と地球を行ったり来たりして、地球へ訪れた日はギンガと夜を共にして、遠距離恋愛状態ながらも逢瀬を重ねていた。
ただ、安全であり家族と常に会うことが出来る環境下ではあったが、ギンガは今の生活に物足りなさを感じていた。
しかし、そんなギンガの願いが叶ったのか、ギンガに昇進と共に新たな辞令が下った。
新たな配属先は宇宙艦隊勤務であったが、配属先はまほろばではなく、防衛軍が次世代の宇宙艦船として建造・完成したばかりの試作型の巡洋艦で役職も通信長ではなく副長と言う艦のナンバー2にあたる役職であった。
「わ、私が副長!?」
当然この辞令を見たギンガは驚愕した。
養母である加奈江が言ったように司令部勤務は確かにエリート街道であったようだ。
人事部にこの辞令が間違いないかを確認した後、ギンガは宇宙艦隊勤務に復帰した後にいきなり艦のナンバー2になった件について理由を訊ねた。
軍としてもこれまでの戦役にて人材不足のままとなっており、やっと再建しかけた時に起こった太陽騒動におけるアメリカ、ヨーロッパ、アフリカの探査船団全滅の被害は軍にとっても手痛い被害であった。
ギンガは早速辞令に書かれた役職を承諾すると、数年の間に着慣れた司令部勤務の制服から宇宙艦船の為の新しい制服を受け取った。
そして今回から副長職と言う事で新しい制服と共に水色の軍帽も支給された。
宇宙戦士になりたての時、まほろば副長の新見を見て軍帽を忘れたかと思った頃を思い出し、微笑しつつ軍帽を眺めるギンガ。
まさかあの時はこうして軍帽を被る地位に昇り詰めるとは思ってもみなかった。
宇宙に出れば、まほろばにも‥良馬とも出会える機会も増えるだろう。
心機一転の気持ちで新たな勤務地で励もうとするギンガであった。
ギンガが司令部勤務から再び宇宙艦隊勤務へ異動したのと時を同じくして、宇宙戦士訓練校も正規の卒業時期を迎えようとしていた。
「うららはどこか勤務希望とかある?」
「うーん‥‥私はとりあえず宇宙艦隊勤務になれればいいかな」
卒業式前に訓練校卒業予定者は勤務先の希望書を訓練校側に提出することになっている。
訓練校の卒業予定者の中には軍に任官せずに一般企業に就職する者も居る。
(そう言えば、管理局の訓練校に入学したての時‥‥)
ティアナの脳裏には管理局の訓練校に入りたての頃、訓練生たちの在学中の希望と卒業後の配属先の希望を調査する進路調査の書類を書いた時の事を思い出す。
(あの時、スバルは備考欄に『在学中はティアナ・ランスター訓練生とのコンビ継続を希望します』って書いていたわね)
(結局スバルとは訓練校~六課卒業までコンビを組むことになったけど‥‥)
(うららはまさか、『任官先はティアナ・ランスターと同じ配属先を希望します』‥‥なんて書いていないわよね?)
スバルと言う前例がある為、ティアナはうららが書いている配属先希望書にかつてスバルが書いたような内容を書いていないか気になった。
「‥‥」
うららの背後に立ち気配を殺して、うららの配属先希望書を覗き見るティアナ。
しかし、うららはスバルと異なりスバルが書いたような事は書いていなかった。
「ん?なに?」
ホッと一息ついた際、うららに気配を読まれ気づかれた。
「あっ、いや、うららの希望が気になって‥‥」
「いや、さっき言ったじゃん。宇宙艦隊勤務だって」
「ええ、そうね‥‥」
「?」
ティアナの言動に首を傾げるうららであった。
「さて、私も書いちゃおう」
訓練校の卒業まで期間が迫っているので、ティアナも配属先希望書にペンを走らせた。
そして‥‥
「諸君らは日々厳しい訓練をこなし、本日無事にこの宇宙戦士訓練校を卒業する。先の太陽騒動で繰り上げ卒業をした同期生の中には無念にもその任務の過程で命を落とした同期生も居る。諸君らが進む道は決して平坦で安全な道ではない。しかし、君たち宇宙戦士は地球人類を守る重要な防波堤であるのも事実である。諸君の今後の活躍と無事を祈る。卒業おめでとう!!」
講堂の壇上では訓練校の校長である榎本が卒業する訓練生たちに祝辞を述べ、訓練生を卒業した証である卒業証書授与が行われる。
卒業式が終わった後、卒業前に記載して提出した配属先希望書に則った訓練生たちの配属先が掲示板に表示された。
「うららはどこに配属されたの?」
「私は火星基地所属の護衛艦勤務で役職は砲術員ね。ティアナは?」
「えっと、私は‥‥ん?えっ?なにこれ?」
ティアナは自分の配属先を見て困惑する。
彼女の配属先は‥‥
配属先 第四艦隊、第ゼロ戦隊所属巡洋艦、八雲
役職 戦術長
と、書かれていた。
「えっ?戦術長!?」
「戦術長?すごいじゃん!!ティアナ!!いきなり配属先で戦術長なんて!!もしかしたら、卒業生の中で一番の出世頭なんじゃない?」
「‥‥」
うららはティアナの配属先に称賛を送るが、肝心のティアナ本人は困惑していた。
(えっ?えっ?なんで?)
(士官学校じゃなくて訓練校の卒業生の生徒がいきなり艦のチーフ職なの?)
しかし、管理局の訓練校同様、ティアナは宇宙戦士訓練校でも優秀な成績を残しており、更に訓練校入校前に暗黒星団帝国の占領軍相手にパルチザン活動を行っていた事も今回の配属に多少なり影響しているのかもしれない。
「まぁ、今更配属先を変えてもらうのも難しいし、頑張りなさい」
「うらら‥アンタ、他人事だと思って‥‥」
「まぁ、実際に他人事だし、私自身も役職と職場は違うけどティアナと同じ宇宙艦隊勤務なんだし、似たようなモノよ」
「うーん‥それでも何か違う気が‥‥」
うららの返答に納得できず、モヤモヤした気持ちを抱きつつもティアナは宇宙戦士訓練校を卒業した。
それから数日後‥‥
ティアナの姿は指定された宇宙船ドックにあった。
「これが巡洋艦、八雲‥‥」
ドックには巡洋艦と言う艦種の割には大きな艦影の巡洋艦が一隻鎮座していた。
これまで防衛軍が就役させていた巡洋艦が軽巡洋艦とするなら今、自分の目の前に停泊している巡航艦はまさに重巡洋艦である。
ティアナが視線を下げながら巡航艦、八雲を見ているとその視線の先に見慣れた後ろ姿を見つける。
「ん?あの後ろ姿はもしかして‥‥」
ティアナはその後ろ姿の人物に心当たりがあり、声をかけてみた。
ティアナが、八雲が停泊しているドックに来る少し前、ギンガも自身が副長を務める事になった巡洋艦が停泊しているドックへと向かった。
「これが次世代の巡航艦‥‥」
ギンガの目の前にはこれまでの防衛軍が採用していた巡洋艦とは大きさも艦影も異なる姿の巡洋艦が停泊していた。
(これまでの防衛軍の巡洋艦と全然形が違うし、大きい‥‥なんだかヤマトを意識しているような形ね‥‥)
(今日からこの艦の副長か‥‥)
(艦長は一体どんな人なんだろう?)
ギンガが新たなる職場である巡洋艦を見上げていると、
「もしかしてギンガさん?」
ギンガは後ろから声をかけられた。
「えっ?」
彼女が振り向くとそこには‥‥
「えっ!?ティアナ!?」
ティアナの姿があり、ギンガは目を見開いて驚いた。
「ティアナこそ、どうして此処に!?」
「わ、私は先日訓練校を卒業してこの艦に配属になりまして‥‥」
「あっ、そっか、そろそろ訓練校の卒業時期だったわね」
「はい。ギンガさんもこの艦に配属ですか?」
「ええ。この艦の副長をすることになったの‥‥ティアナは?」
「私は戦術長をやる事になりました」
「戦術長?凄いじゃないティアナ」
「でも、訓練校を卒業したての私が務まるかちょっと不安です」
「大丈夫よ、ティアナなら。六課の時もセンターガードを務めていたんでしょう?戦術や作戦を立てる仕事だったし、ティアナは射撃も得意だから戦術長っていう役職はティアナにはピッタリじゃない?」
「そうでしょうか‥‥六課の時と今の状況はプレッシャーの度合いが全然違いますよ」
六課にスカウトされた時も隊長陣はすべてSランク以上の魔導師で構成されたエリート部隊で、同僚も魔力保持量や特殊技能が自分よりも優れている者ばかりであり、そんなエリートばかりの部隊で自分はやって行けるのかと言う不安があった。
ただ六課と今の状況の違いは、六課の時は勤務地がミッドチルダの地上であったが、今回の勤務先は真空の宇宙空間。
自分の戦術・作戦ミスが自分の命は当然の事、ギンガを始めとする巡洋艦乗員全員の命を奪う事になりかねない。
「もしも、私の作戦指示のミスが原因になったら、私もギンガさんも死んでしまうと思うとプレッシャーが大きくて‥‥」
ティアナはギンガに自身の立場による不安を伝える。
「ティアナが抱いているその不安は分かるわ。私も初めての宇宙艦隊勤務になった時もちゃんと自分の仕事を熟せるか不安だったし、宇宙へ出れば一体どんな事が起きるのかと言う不安もあったわ。でも、艦は一人では動かない‥ティアナが立てた作戦だって艦長や私もちゃんと検討して判断するし、今防衛軍はどこかの星間国家と戦争をしていないし大丈夫よ」
「そ、そうでしょうか‥‥」
「少なくとも太陽系内は基地や他の友軍艦艇も居るから安全よ」
「‥‥」
一抹の不安を抱きつつもティアナはギンガと共に八雲へと乗艦した。
八雲へ乗艦した後、各部の長は会議室にて集まる。
会議室に集まったギンガ以外の乗員たちはティアナの顔を見てギョッとした。
その理由は他ならぬティアナの頬に走る傷のせいであった。
やがて、会議室に艦長服を着た老人が入って来た。
一同は椅子から立ち上がり敬礼する。
そして、老人の方も返礼し、椅子に着席すると一同も椅子に座る。
「諸君、儂がこの度八雲の艦長を拝命した瓢仁だ。本艦は新鋭艦とは言え次世代の試作艦であり、儂も艦長と言う立場ながらも民間会社から軍への途中入隊で、実務も主に空間輸送ばかりを熟してきた事で実戦経験が乏しい退役寸前の老いぼれだ」
まずは八雲艦長の瓢が皆に挨拶をする。
「こんな頼りない艦長であるが故に儂は諸君らの安全を完全に保証することは出来ない。そこで儂は諸君らに選択の機会を与える。退艦したい者は退艦を許可する。司令部には儂の方から伝え、退艦者にも新たな配属先を用意してもらえるよう頼んでおく」
瓢は周囲を見渡し退艦者が居ないかを確認する。
勿論この後で瓢は艦内放送を通じ、この場に居ない下士官、兵にも同じことを伝え、退艦者の希望を募るつもりだ。
『‥‥』
瓢の言葉に各部の長はどうするべきかと戸惑っている。
(確かにあの艦長が言うように何か頼りない艦長ね‥‥この艦も試作艦って言うし‥‥)
(ギンガさんはどうするんだろう?)
降りるか?それとも残るか?
その選択肢を瓢から言われティアナは迷い、ギンガの方をチラッと見る。
初めての宇宙艦隊勤務になり、いきなり戦術長と言う地位について不安になりつつもギンガと言う顔馴染みが居た事で多少はこの不安は和らいだ。
しかし、艦や艦長に役職だけでなく不安度が増したので、もしギンガが降りるなら自分も降りようかと思うもギンガは退艦しようという感じがしない。
(ギンガさん、もしかして腹を括っている!?)
(ギンガさんだって腹を括っているのに、此処で逃げたら女が廃るわよ、ティアナ!!)
(土門や揚羽たちだってそうだったじゃない)
(逃げたりしたらあの二人があの世で馬鹿笑いするわね)
ギンガが降りる気配がなく、うららたち同期も頑張っているのだから自分だけ逃げ出す訳にもいかなかった。
それに訓練校を自分よりも先に繰り上げ卒業をして宇宙へと旅立っていった土門と揚羽だって逃げずに職務を全うした。
彼らに恥じない宇宙戦士になろうと二人の訃報を聞いた時にうららと共に誓った事も事実なので、ティアナは退艦せず残る事を決めた。
一方のギンガは、
(副長と言う立場上、此処で逃げる訳にはいかないし、やっと宇宙艦隊勤務に復帰出来たんですもの、退艦するなんて選択肢は無いわね)
(それに宇宙に出れば、まほろばとも‥‥良馬さんとも会えるかもしれないしね‥‥)
と、自らの立場と宇宙に出ればまほろばと出会える可能性を考慮して退艦はしなかった。
ギンガ、ティアナを含め、試作艦とは言え新鋭艦のチーフ職と言う事で他のメンバーも退艦はせずに残る事を決めたようだ。
その後、瓢が艦内放送にて下士官、兵に対してギンガ、ティアナたちと同じ内容の放送をして退艦する者の退艦を許可した。
退艦者の有無の確認後、八雲はいよいよ出航準備となる。
「波動エンジン、異常なし。補助エンジンエネルギー充填80%」
波動エンジンが起動し始め振動と唸りを上げ始める。
「か、艦長、出航準備整いました」
機関部、航海部からの報告を受け、ギンガが瓢に八雲の出航準備が整った事を報告する。
「微速前進0.5」
「微速前進0.5」
八雲はゆっくりとドックを離れる。
「出航水路へ進入」
「波動エンジン内へエネルギー注入」
「補助エンジン、第二戦速へ‥‥」
ドックから海へと出て波動エンジンのエネルギーが充填されるまでは海上走行をする八雲。
「波動エンジン内エネルギー上昇、エネルギー充填90%」
「補助エンジン最大戦速へ‥‥」
「波動エンジン内エネルギー充填100%」
「現在、補助エンジンの出力最大」
「エネルギー充填120%、フライホイール始動」
「波動エンジン点火十秒前‥‥九‥‥八‥‥七‥‥六‥‥五‥‥四‥‥三‥‥ニ‥‥一‥‥接続」
「点火」
「八雲、浮上」
八雲は後部の噴射口から勢いよく火を噴射し、艦首を持ち上げて海から浮上する。
「大気圏脱出‥‥」
「波動エンジン、大気圏外出力へ‥‥」
地球圏を脱した八雲。
「本艦はこれより太陽系内で乗員の熟練訓練を行いつつ、艦の性能試験も兼ねてケンタウロス座アルファ星へと向かう。この艦には宇宙戦士訓練校を卒業したばかりの乗員たちも含まれる。儂も実戦経験が少ないが彼らもまた少ない。宇宙での生活を一日でも早く慣れてもらいたい」
瓢が艦内放送にて、今後の八雲の針路と行動を八雲全乗員に伝える。
八雲の目的地がケンタウロス座アルファ星と知り、ギンガは‥‥
(アルファ星だとまほろばが居る‥‥)
(良馬さんとも会える‥‥)
と、アルファ星に居る良馬と会える事に心の中で歓喜した。
ただ、新鋭艦ならではとも言うべき問題、初期不良による主砲や機関、通信機器による故障が起きる可能性もあり、乗員たちもそれらアクシデントに対する処置や八雲の装備を使いこなす必要がある。
幸いなことに太陽系内ならば万が一、故障を起こしても各惑星や衛星の基地、友軍艦艇がすく近くにあるので、救助に来てくれる。
しかし、第十一番惑星~ケンタウロス座アルファ星までの宇宙空間には防衛軍の基地がないので、太陽系内に居る内に乗員の慣熟訓練と艦の性能と不備がないようにしなければならなかった。
「艦長、間もなく月軌道を離れます」
「よし、これより火星圏までのワープテストを行う。総員ワープ準備」
「了解、ワープ自動装置セット!!」
「機関チェック」
「メイン・エンジン、異常なし」
「エネルギー上昇中」
「スーパー・チャージャー・チェック」
機関室では、機関員が慌ただしく機関チェックを行う。
ワープの際、機関の調整が何よりも重要な作業である。
これを怠り、万が一にもワープ中に事故が起きれば亜空間から脱出できなくなる。
「従事しながら聞け、特に新人たち。言うまでも無くワープは時間の波の頂点から頂点へと飛んで、本来あら何光年もかかる距離を一気に航行する技術だ。訓練校で充分な訓練を積んだと思うが、実際のワープはシミュレーションとは違う。つまらぬミスは許されない。迅速に正確に行うのだ!!」
それ故に機関長は新人の機関部員に激を飛ばす。
「ワープ姿勢。各自、ベルト着用」
やがて、ワープ態勢が整う。
「カウント開始、十、九、八、七、六、五、四、三、二、一、ゼロ‥‥ワープ!!」
八雲周辺の空間がグニャリと歪み、通常空間から亜空間へ放り込まれる巨大な圧迫感がドッと全身に襲って来た。
髪の毛が総毛立ち、全神経細胞がキリキリと苦痛の声を上げる。
苦痛がフッと消えたかと思うと再び全身を凄まじい圧力が来る。
(まほろば、ヤマト、そして訓練校の疑似体験システムで何度も体験したけど、やっぱりこの感覚に慣れるにはまだ時間がかかりそうね)
ワープアウトをした八雲の眼前には赤く輝く火星の姿がうつった。
「ワープアウト成功」
「現在位置、艦の損傷の有無の確認」
「了解」
航海班、技術班、機関部は瓢の指示に従い八雲の現在位置と艦の状態確認を行う。
「機関部、異常なし」
「船体に異常なし」
「現在位置、火星宙域PT‐77地点、誤差0.025、許容範囲内です」
「ふむ、これでまたひとつ自信がついただろう」
「しかし、艦長。あまり無茶はなりませんよ」
ギンガは瓢に乗員のメンタル面も考慮しなければならないと忠告する。
火星までのワープ試験を行った八雲は、引き続き航行しながらかつてヤマトが訓練校の繰り上げ卒業者たちの慣熟訓練を行った同じ宙域にて、八雲も慣熟訓練を行っていた。
慣熟訓練の中には八雲は軍艦なので当然、戦闘訓練も含まれていた。
「総員戦闘配置!!」
艦内には警報が鳴り響く。
砲塔には砲術員たちが配置につく。
ガミラス戦役後の防衛軍の宇宙艦船は人員不足から砲塔や機関部には乗員を乗せず、機械による自動管理方式を採用していた。
しかし、八雲以降の次世代の宇宙艦船では、ヤマト、まほろばの様に砲塔、機関部には乗員を配置する有人管理方式に変更されつつあった。
本来ならば、コスモタイガーを出して強襲した後に砲撃で仕留めるのが通常のセオリーなのだが、八雲の航海はあくまでも艦の性能と訓練校を卒業したばかりの新米乗員たちの熟練訓練と言う事で、敢えて今回の航海にコスモタイガー等の艦載機は搭載されていなかった。
「標的アステロイドベルトα―2356まで距離三百宇宙キロ、方位左舷十五度!!」
「主砲斉射!!」
「右舷、二十五度に敵艦接近!!距離五百宇宙キロ!!」
「二番砲塔旋回!!」
「敵艦、ミサイル発射!!」
「パルスレーザー砲射撃用意!!」
砲術員は標的用のアステロイドベルトや射出したダミーを標的に砲撃する。
また砲術員以外でも、
「左舷艦尾付近に命中弾!!」
「技術班!!応急修理に向かえ!!」
被弾を想定した応急修理訓練、
「重傷者はストレッチャーへ!!」
「軽傷者は応急手当てを!!」
生活班・医療班は負傷者の搬送と応急手当ての訓練を行った。
「ふぅ~疲れた‥‥」
「まぁ、実戦がないだけ幾分ましだろう。先輩の中には卒業したばかりで雷王作戦にいきなり実戦投入された先輩もいるみたいだし」
「飯食ってさっさと寝ちまおう」
新人たちがヘトヘトになりながら食堂へと向かうと‥‥
「な、なんだ!?あれ!?」
「すげぇ‥‥」
「あんなに沢山食えるのか!?」
食堂にあるテーブルの一角を見て、唖然とする乗員たち。
そのテーブルに居たのはギンガとティアナの二人で、ギンガの前には物凄い量の料理が置かれていた。
ティアナはギンガが沢山食べる事を知っていたので、ギンガの前に置かれている料理の量に関しては驚いてはいないが、ギンガと初めて同じ艦になった者は新人でなくとも驚いている。
そんな驚愕した乗員たちの視線に晒されてティアナは気まずいと言うか恥ずかしい思いがあるが、当のギンガ本人は何処吹く風と言った様子で料理を食べていた。
「まだ乗艦一日目だけど、大丈夫?やっていけそう?」
「え、ええ‥訓練の時は、アドレナリンのせいか興奮していて不安なんか覚える余裕はありませんでした」
「私も同じ‥数年くらいブランクがあって、いきなり副長なんて役職が務まるか最初は不安だったけど、ティアナの言う通り、訓練中はそんな事を気にしている余裕なんて無かったわね」
「ギンガさんは何度も戦闘に参加していますが、それでも慣れませんか?」
「慣れるところもあれば未だに慣れないところもあるわね。ティアナはワープとか大丈夫だった?」
「あぁ~確かにあれは中々慣れないですね」
月軌道で行ったワープを思い出してティアナは未だにワープに慣れていない事をギンガに伝える。
酔わなくなったので、多少ワープには耐性がついてきたのだろうが、あの衝撃を受けるのはやはり慣れないみたいだった。
八雲はこうした訓練を行いながらケンタウロス座アルファ星へと近づいていた。
この頃にはギンガが物凄く沢山の量を食べる人なのだと認識されていたので、食堂で彼女の食事に対して驚く者は居なくなっていた。
「そう言えばティアナは、アルファ星に来るのは初めてよね?」
「はい。ギンガさんはアルファ星に滞在した経験があるんですよね?」
「ええ。でも、地球勤務になってからはアルファ星の情報を調べてはいなかったけど、きっとこの数年の間に開拓も進んでいるんじゃないかしら?」
「上陸許可が下りれば良いんですけどね」
「うーん。一応、アルファ星が今回の目的地でもあるし、多分下りるんじゃないかしら?」
アルファ星到着後の予定は特に聞いていないので、アルファ星に上陸後は補給をした後、乗員の休養の後、地球へ戻るのではないかとこの時はそう思っていた。
ギンガが数年ぶりに見るアルファ星は最後に滞在していた時と比べ、地球の様に青い星に代わっていた。
地表には青い海が広がり、木々らしき緑も確認する事が出来た。
ギンガが最後に見たアルファ星はまだまだ未開拓地の惑星で、宇宙から見ても雲と赤茶けた大地が広がる惑星であったが、その姿が今は見違えるようだ。
八雲がケンタウロス座アルファ星へと接近すると、
「こちらは地球防衛軍・ケンタウロス座アルファ星駐屯基地、接近中の艦船に告ぐ、所属と艦名を申告せよ」
アルファ星にある防衛軍基地から八雲へ通信が入って来た。
「こちらは地球防衛軍第四艦隊所属、試作巡洋艦、八雲。地球からの試験航海の為、当惑星への着陸許可・入港許可を求む」
八雲の通信長がアルファ星へと返信を送る。
「‥‥確認した。巡洋艦、八雲の入港を許可する。貴艦は第三ドックへ着陸せよ」
「了解。第三ドックへと着陸します」
アルファ星への着陸許可が下りると八雲は速度を絞りつつ降下していき、指定されたドックへと無事に着陸する。
(あっ、まほろば‥‥)
八雲の艦橋からは別のドックに停泊しているまほろばの姿が確認できた。
(まほろばが居るってことは良馬さんが居る‥‥)
まほろばの姿を見てギンガは良馬がアルファ星に居るのだと確信した。
ドックに着陸した後、主電源を八雲自体の機関から地上電源に切り替える。
そして瓢は艦内放送を入れる。
「諸君、慣れない艦、厳しい訓練をよく耐えた。諸君らの努力により本艦は無事にアルファ星へとたどり着くことが出来た。今後の予定は未定であるが、これまでの厳しい訓練を熟してきた諸君らには感謝している。故に諸君らには半舷上陸を許可する」
ギンガの予想通り乗員たちにはアルファ星の上陸許可が下りた。
瓢の艦内放送を聞くと、艦内の彼方此方で歓喜の叫びが響く。
「やった!!これで良馬さんに会いに行ける!!」
上陸に喜んだのはギンガも例外ではなく、艦から降りたら良馬に会いに行こうと決めた。
やがて、上陸側の乗員たちは制服から私服に着替え、上陸準備をしていく。
そんな中、
「ギンガさんはもうどこに行くのか決めてありますか?」
ティアナから声をかけられてギンガは、
「えっ?ああ、うん。一応ね‥‥」
「そうですか‥‥」
ギンガからの返答を聞き、ティアナは少し困った顔をする。
「ん?どうかしたの?」
「あっ、私この星には初めて来たので、どこに何があるのか分からなくて‥‥」
「なるほど‥‥そうだ、私はちょっとまほろばに顔を出そうと思っているの‥まほろばの人ならティアナも知っている人が居ると思うけど、どうかな?」
「そうですね。では、お願いします」
ギンガの提案を聞いて納得したティアナはギンガと共にまほろばへと向かった。
「あっ、通信長!?久しぶりです!!」
まほろばに行くとギンガの事を知っていたまほろばの乗員が声をかけて来た。
「もう、通信長じゃないよ」
「あっ、そうですね。でも、我々にとっては通信長って印象が強くて‥‥」
ギンガとまほろばの乗員は互いに苦笑しつつも談笑する。
「さっき来た艦に乗っていたのって‥‥」
「私たちよ」
「やっぱり‥‥見た事の無い艦影の艦だったんで『何だ?』って思いましたよ」
「ぎ、ギンガさん、あの‥‥」
まほろばの乗員との談笑に花を咲かせているギンガにティアナは恐る恐る声をかけた。
「あっ、そうだったわね。ごめん」
「ん?どうかなさいましたか?」
「実は今、半舷上陸で私たちは艦を降りたんですけど、こっちの子‥ティアナって言うんだけど彼女、この星に来たのが初めてでどこに何があるのか分からなくて‥‥」
「なるほど、確かにこの星は少し前に比べると随分と開拓されましたからね。ガイドをするならやはり女性の方がいいですよね?」
「は、はい。そうしてもらえるとありがたいです」
ティアナとしても初めて来た星のガイドを務めるのであるならば、なるべく異性ではなく同性の方が安心できる。
誰をティアナのガイドにつけようか迷っていると、
「ん?どうかしましたか?」
そこにリニスがやって来た。
「あっ、医務長」
「リニスさん」
「あら?ギンガさん。久しぶりね」
「はい」
「それで、どうしたの?」
「実は‥‥」
まほろばの乗員がリニスに事情を話す。
「なるほど‥では、ティアナのガイドは私が務めましょう」
ティアナのガイドにリニスが名乗りを上げた。
「えっ?でも、良いんですか?」
「大丈夫よ。まほろばはまだ出航予定はないから‥ただその前に艦長へ事情を話す必要があるけどね。ギンガさんも艦長に用があるのでしょう?」
どうやらリニスにはお見通しだったみたいだ。
「は、はい」
リニスは内線で良馬にギンガが来たこと、そして自分はティアナのガイドで外に出る事を伝えた。
「えっ?ギンガが来た!?」
「はい。どうやら先ほど来た巡洋艦に乗艦していたみたいです」
「そうか‥‥」
(ギンガ、地球勤務から艦隊勤務に復帰していたのか‥‥)
地球勤務のギンガが輸送船でわざわざアルファ星に来るとは思えなかったので、彼女が此処に来たのはやはりギンガが艦隊勤務に復帰したからこそ、アルファ星に来たのだろうと判断した。
「他にもランスターさんも一緒みたいで、私は彼女を案内しますね。ランスターさん、アルファ星に来たのは今回が初めてみたいですから」
「あ、ああ。分かった」
リニスに外出許可を出し、良馬はギンガがアルファ星に‥まほろばに来ているとの事なので、急いでギンガを出迎えに行く。
良馬がギンガの下に来ると既にリニスとティアナは既に出かけていた。
「ぎ、ギンガ‥久しぶり」
「は、はい」
まほろばが地球に来た際は会っていたのだが、こうして再会するとなんだか互いに気まずくなってしまう。
その後、二人はまほろばの艦長室にてお茶と茶菓子を前に互いの身の上話をした。
艦長と言えど、そう簡単に艦を離れる事は難しかったからだ。
「それでギンガはやっぱり地球勤務から宇宙艦隊勤務に復帰したの?」
「は、はい。あそこに停泊している巡洋艦の副長になりました」
「副長!?それは凄い出世だな」
地球勤務から宇宙艦隊勤務に復帰したが役職が通信長から副長への昇進なのだから大した出世だ。
「それにしてもあの艦が巡洋艦か‥見慣れない艦影だし、大きさもこれまでの巡洋艦よりもデカいな」
「なんでも防衛軍が建造したばかりの次世代型の艦みたいです」
「次世代の艦か‥‥」
管理局で次世代の次元航行艦の建造が進められている様に防衛軍もイスカンダルから波動エンジンの恩恵を受け、M-21881式雪風型宇宙突撃駆逐艦から01式宇宙突撃駆逐艦、巡洋艦もM-21701式宇宙巡洋艦から01式宇宙巡洋艦、戦艦はM-21741式宇宙戦艦からドレッドノート級、アンドロメダ級と進化していった。
地球人類が存在する限りこの先、人類の技術は停滞する事なく、進化し続ける。
ギンガたちが乗艦してきた巡洋艦もそうした進化の過程で建造された巡洋艦なのだろう。
その後も良馬はアルファ星での生活、ギンガは地球での生活についての身の上話をしていると時間はあっという間に過ぎてしまった。
「あっ、もうこんな時間か‥‥」
「ホント、時間が経つのが早かったですね。どおりでお腹がすくわけです」
互いに時計を見て時の流れの早さに驚く。
「あっ、良馬さん。今夜時間は取れますか?」
「今夜?まぁ、何とか都合をつければ」
「じゃあ‥‥今夜‥二人で出かけましょう?」
「あ、ああ‥そうだな」
『何処へ?』なんて質問はあまりにも野暮である。
「それで昼食はどうする?ウチの食堂で食べて行く?」
「はい。久しぶりにディアーチェさんの料理を食べたいですから」
「わかった」
二人は少々遅めのランチを食べにまほろばの食堂へと向かった。
「おっ?ギンガではないか!!久しいな!!」
食堂に入るとディアーチェがギンガに気づき声をかけてきた。
「はい。お久しぶりです、ディアーチェさん」
「ギンガが此処に居ると言う事は宇宙艦隊勤務に復帰したのか?」
「はい。先日‥‥」
「そうか。所属はどこだ?また此処か?」
「いえ、別の艦です。ちょうど航海の目的地がアルファ星で、艦長から半舷上陸が許可されたので、来ました」
「それで、此処に来たと言う事は食事か?」
「は、はい。久しぶりにディアーチェさんの料理を食べたくて」
「ハハ、嬉しい事を言うではないか。それで、何を食す?」
「とりあえずまずは日替わりランチを下さい」
ギンガの言葉に気をよくしたディアーチェは腕によりをかけて料理をふるまった。
ギンガがまほろばを降りて二年‥‥
乗員の中にはギンガの事を知らない乗員も当然いた訳であり、それらの乗員たちは食堂に来た際、唖然とする。
何しろ見慣れない女性が物凄い量の料理を食べているのだから‥‥
ティアナがこの場に居たらきっと八雲における航海初日の食堂の光景とデジャヴを覚えただろう。
「ふぅ~‥‥ごちそうさまでした」
「相変わらず、食べるな‥‥」
実際に料理を提供したディアーチェでも久しぶりに見たギンガの食欲には圧倒される。
「それじゃあ、良馬さん‥‥夜に‥‥」
「あ、ああ‥‥」
ギンガからの誘いに対して良馬は緊張した面持ちで頷いた。
八雲の外出許可の門限は二十四時間あったので、ギンガはこうして良馬を夜に誘ったのだ。
ティアナはそのような相手が居なかったので、夜間には八雲に戻った。
「あれ?ギンガさん、戻って来てないんだ‥‥」
ティアナはギンガが戻って来ていない事に首を傾げるが、
「あっ、まほろばが居るってことは‥‥」
瞬時にギンガが戻ってこない事を察した。
翌朝、ギンガは門限前にはちゃんと戻って来たが、その顔色は物凄くツヤツヤとしていた事をティアナは見逃さなかった‥‥
今回ギンガとティアナが乗艦した巡洋艦八雲ですが、艦影はヤマト完結編に登場した防衛軍の戦艦をベースに波動砲の形は同じく完結編に登場した巡洋艦で、戦艦の船体中心部にあったインテークを取り除いた感じです。
【挿絵表示】
全長 230m
武装
三連装主砲×3
連装パルスレーザー砲×16 (左右に八基)
魚雷発射管×4 (左右に二基)