防衛軍の次世代型宇宙艦船として建造された試験巡洋艦、八雲は地球からケンタウロス座・アルファ星までの空間を乗員たちの熟練訓練を行いながら無事にアルファ星へと到着した。
その八雲には数年前の人事異動にてまほろばを降り、地球勤務だったギンガが副長に‥‥
宇宙戦士訓練校を卒業したティアナが戦術長として着任した。
アルファ星に到着したばかりの八雲の乗員たちに半舷上陸の許可が下りると乗員たちは順次アルファ星の大地へと足を踏みしめた。
半舷上陸二日目、八雲の艦長である瓢はアルファ星基地の司令部から呼び出された。
「瓢仁、出頭いたしました」
アルファ星の基地司令部に入室して、敬礼し出頭に応じた事を口にする。
「待っていたよ、瓢艦長。実は君たち八雲にある任務を託したい」
「任務‥ですか?」
八雲は目的地であるアルファ星に到着後、てっきり地球へ帰還するのかと思っていた。
それは艦長である瓢も例外ではなかった。
「それは一体どんな任務なのでしょうか?」
瓢はまず、アルファ星の司令部が自分たちにどんな任務を与えようとしているのか?
その任務内容を訊ねた。
「うむ‥瓢艦長はバジウド星系の現状は知っているかな?」
「バジウド星系‥‥此処から近くにある恒星系で、確か少し前まではボラー連邦系の星間国家ばかりでしたね」
「ああ‥最も今はガルマン・ガミラスが手中に収めているが、完全に‥というわけではないようだ」
「まだ親ボラー勢力が潜んでいると?」
「バジウド星系の第四惑星、バースからの報告ではどうやらそうみたいだ」
バジウド星系第四惑星のバース星は、元々は独立していた星間国家であったが、十数年前に周辺の星間国家からの侵略の危機に遭っており、そこをボラー連邦が保護国と言う名の支配を受ける事になった。
しかし、ガルマン星がデスラーたちガミラスの生き残りとボラーからの解放を目的とするレジスタンスたちの手により解放され、銀河系中心部をガルマン・ガミラスが手中に収めるとバジウド星系はボラー本国からも孤立した点となり、ガルマン・ガミラスの侵攻を受け、次々と降伏していきバース星も宇宙艦隊が壊滅して、ガルマン・ガミラスに降伏した。
降伏後、ガルマン・ガミラスはバース星の自治は認めるも当初は総督府を置き、更にバース星にガルマン・ガミラスの駐屯艦隊の基地も建設された。
ガルマン・ガミラスと同盟を締結させた地球もガルマン・ガミラス本星への中継地としてバース星に防衛軍の駐屯基地を建設し、空間騎兵隊が第十一番惑星基地の様に基地と駐在大使の護衛の為の守備にあたり、宇宙艦隊に関しても無人艦隊を中心にホワイト艦隊の一個艦隊が駐屯していた。
だが、バジウド星系では未だにガルマン・ガミラスに反発する勢力はある様で、ガルマン・ガミラスとしてもバジウド星系の治安維持に関しては東部方面軍でも頭を悩ませている。
「そんな中ですまないが、バース星に向けて急遽補給船を向かわせる事になった」
「急遽と言う事は本来の輸送物資ではないと言う事ですね?」
「うむ、どうもバース星にてインフルエンザと似た症状の疫病が流行りだした。幸いなことにこの流行り病のワクチンはインフルエンザのワクチンでも効力がある事が証明された。よって今回、補給船に乗せるのはその病気に効くワクチンとその製造機だ」
「しかし、本艦は試作艦であり、乗員たちもまだ完全に八雲を使いこなしているかは疑問なところがあります。バース星への物資輸送が急務でしたら本艦よりも、まほろばの方がこの任務には適しているのではないでしょうか?」
「まほろばは昨日、地球へオスニウム鉱石を積んだ輸送船護衛の為に地球へ向かっている。航続距離や武装の観点からこの任務を託せるのは貴官たちだけなのだ」
「それは分かりました。ですが、護衛に就く艦は本艦だけなのでしょうか?」
「うむ、まほろばは地球へ行ってしまったし、アルファ星配備の艦は小中型の艦艇ばかりで、航続距離と防御面に関してもやや不安な所がある。だが、情報面に関してはアルファ星、バース星でしっかりと貴官たちのバックアップを行う」
「‥‥分かりました。最善を尽くします」
渋々ながらも瓢はバース星への輸送船護衛の任務を承諾した。
艦の性能や乗員たちの技量に関して瓢としては若干の不安があるものの今回の任務にはバース星に居る大勢の人々の健康‥ひいては命に係わる事なので、瓢としては受けざるを得なかった。
八雲に戻った瓢は直ぐに各部の長を会議室に集め、司令部からの任務についての話し合いを行った。
「諸君、突然であるが先ほどこの基地の司令部へと呼ばれ、本艦へある任務を命じて来た」
「ある任務?」
「それはどういった任務なのでしょう?」
補給をしたら地球へ帰還すると思っていたので、瓢から新たな任務と言われ、艦の幹部たちは顔をしかめたり、首を傾げたりしている。
「それはバジウド星系第四惑星のバース星へ物資を届ける輸送船の護衛任務だ」
「護衛任務‥‥」
「しかも行き先はバース星か‥‥」
「あそこ極寒の惑星なんだよな」
この中でバース星へ行ったことがあるのはギンガだけの様で、他の幹部たちはバース星へ行くことに対して若干の不安がある様だ。
「艦長、今回バース星へ輸送する物資とは一体何を輸送するんですか?」
ギンガが瓢にバース星へ輸送する物資が一体何なのかを訊ねる。
「ふむ、どうやらバース星にてインフルエンザに似た流行り病が流行っているようだ。今回輸送する物資はそのワクチンとワクチンを製造するための医療機器だ。現在、バース星には元々バース星に住んでいる住人の他にガルマン・ガミラス、そして防衛軍・地球連邦政府の大使も駐在している。それ故に今回バース星に輸送する物資は極めて重要なモノだ」
バース星への輸送物資について瓢から説明が入ると今回輸送する物資の重要性が窺えた。
「本艦以外に護衛につく艦は居るのでしょうか?」
ティアナが瓢に八雲以外に輸送船の護衛に就く艦が居るのかを訊ねる。
「いや、本艦だけだ」
「八雲だけ‥‥」
単艦ではなく、護衛対象が居り、しかもその護衛をするのが八雲一隻だけ‥‥
「しかし、情報に関してはアルファ星、そしてバース星からのバックアップは保証してくれるとの事だ」
ワクチンとワクチンを製造する医療機器を輸送する事からアルファ星とバース星からは情報が八雲に送られ、航路に関する情報をバックアップして、更にはバジウド星系をパトロールしているガルマン・ガミラスのパトロール隊も協力する旨が伝えられていた。
「まぁ、ガルマン・ガミラスのパトロール隊も協力してくれるなら‥‥」
「実質単艦ではないな」
ガルマン・ガミラスのパトロール隊も協力してくれると言う事で安堵感が漂うが、
(ガルマン・ガミラスのパトロール隊も協力してくれると言うけど、そのパトロール隊が一緒に行動する訳じゃないでしょう)
(それに万が一の事があって周辺のパトロール隊に遭難信号を出しても直ぐに来てくれるとは限らない‥‥パトロール隊の到着まで時間はかかる)
ギンガの脳裏にはあの第二の地球探査の際、ボラー相手に奮戦虚しく遭難したアリゾナの残骸が過った。
(それなら、どこかの宙域でガルマン・ガミラスのパトロール隊と合流した方が良いんじゃないかしら?)
ギンガはガルマン・ガミラスの協力に関してもう少し具体的な協力を求めるべきであると思った。
「あの一つよろしいでしょうか?」
「なんだね?」
「ガルマン・ガミラスの協力が得られると言うのであるなら、どこかの宙域でガルマン・ガミラスのパトロール隊と合流した方が確実ではないでしょうか?」
「ん?」
「万が一と言う事があります。それなら、本艦だけの単艦護衛ではなく、ガルマン・ガミラスのパトロール隊と合流し、そのままバース星へ向かうのはどうでしょう?もし、海賊ないし親ボラー派の艦船に襲撃された際、遭難信号を出しても距離によりますが、すぐに到着する保証はありませんし‥‥」
ギンガは自身が抱いた疑問と代案を瓢に提案する。
「ふむ、副長の言う事も最もだな‥‥急ぎアルファ星の司令部からガルマン・ガミラス側へ打診してもらおう」
瓢は急ぎアルファ星の司令部にギンガが提案した内容をガルマン・ガミラス東部方面軍へと打診してもらう。
しばらくした後、ガルマン・ガミラス東部方面からの返答が来た。
だが、その内容は八雲の乗員たちが期待していた内容とは異なっていた。
ガルマン・ガミラス東部方面からの返答は、
『アルファ星~バース星への航路は十分に安全が確保されており、地球の輸送部隊へ護衛に割くほどの余剰戦力は当方には存在せず』
であった。
(その自信は一体何処からくるのよ!?)
ガルマン・ガミラス東部方面からの返答内容を聞きギンガは心の中で突っ込んだ。
ギンガ同様、ガルマン・ガミラス東部方面からの返答に顔をしかめる八雲の幹部たち。
とは言え、一度受けてしまった任務を今更放棄する訳にはいかない。
不安はありつつも八雲はバース星へ向け、輸送船の護衛として出航する事になった。
幸いなことに今回の護衛対象である輸送船はドレッドノート級戦艦を輸送船に改造したタイプの輸送船なので、通常の輸送船よりは耐久性と航続距離がある。
八雲が輸送船護衛の任務に就くと言う事でアルファ星の基地から八雲に補給が行われた。
明日には八雲の乗員たちの半舷上陸も終わる。
そして、今回八雲の護衛対象である輸送船、おおすみ にも補給と輸送物資が積み込まれる。
八雲、おおすみで補給作業が行われている中、八雲の艦橋では‥‥
「ギンガさん」
「ん?何?ティアナ」
ティアナがギンガに声をかける。
「今回の任務についてどう思いますか?」
「うーん、ガルマン・ガミラスからの支援に関しては主に情報のみの支援で艦隊による支援はあまり期待できないわね」
「ですよね」
「それに情報だって、『航路上の安全は確保されています』 なんて、根拠のない情報だけじゃあ鵜呑みには出来ないわ」
「航路上に親ボラー派の勢力が現れない事を祈るしかありませんね」
「こればかりは運だからね‥‥でも、今回輸送する物資が物資なだけにどうしてもバース星に届けなければならないけど‥‥」
ギンガは顎に手を当てて考え込む。
「何か懸念が?」
「さっきの会議で、バース星で流行り病が流行している事は分かった‥‥でも、その情報がバジウド星系で暴れている反ガルマン勢力も知っていたら‥‥そして、今回輸送する物資がその病気に効くワクチンとワクチンを作る為の機械であると言う情報が何処からか洩れたら‥‥」
「‥‥まっさきに襲い掛かってきますね」
「ええ‥‥でも、流石に考え過ぎかな?」
「そう‥だと良いんですけど‥‥でも、アルファ星からバース星への通信が傍受されていないとは言い切れませんからね‥‥」
「ガルマン・ガミラスでもパトロールや治安維持だけじゃなくてワクチンの輸送をして欲しいものだわ」
「そうですよね。元々ガルマン・ガミラスが半ば統治している星なんですからね」
ワクチン輸送をする件についてギンガとティアナは懸念の他にガルマン・ガミラスへの対応について愚痴った。
「そう言えば、ティアナは昨日の半舷上陸、どこに行ったの?」
ギンガは話題を変えて、昨日ティアナがリニスの案内の下、初めてのアルファ星の街の何処を見に行ったのかを訊ねた。
「昨日は、リニスさんと一緒にショッピングモールに行って買い物をして、お昼はそこのフードコートで食べたんですけど、夕飯はリニスさんお勧めのお店で夕飯を食べました」
ティアナはギンガに昨日の出来事を話す。
「ギンガさんの方は何をしていたんですか?」
ティアナはギンガにアルファ星で何をしていたのかを反射的に訊ねてしまう。
(あっ!?やばっ!!)
しかし、訊ねた後にティアナはこの質問をしたことを後悔する。
「えっ?私?えっと、私はあの後、良馬さんとお茶会をして互いにあったことをお話して‥‥そしたら何か物凄く時間が過ぎるのが早くてね、夕飯はまほろばでディアーチェさんのご飯を食べて、その後は‥‥って、もう!!ティアナ、何を言わせるのよ!!」
と、顔を若干赤らめてティアナから顔を逸らして照れ隠しをしながらティアナの背中をバンバンと叩く。
「イタっ!!イタっ!!ちょ、ちょっとギンガさん!!痛い!!痛いです!!」
管理局の訓練校から機動六課卒業までギンガと同じ戦闘機人であるスバルとコンビを組んでいたためかギンガから背中をバンバン叩かれてもそこまで大きなダメージを受けていないティアナ。
だが、それでも戦闘機人からの強打は痛い。
「あっ、ごめん」
ティアナの痛がる声を聞きギンガはティアナを叩くのを止める。
「それで、まほろばでディアーチェさんが作った食事を食べた後、月村艦長と一体ナニをしていたんですか?帰りも遅かったみたいですし‥‥」
もうこうなれば自棄なのか?
それともギンガから叩かれたから腹いせなのか?
ティアナはギンガの恥ずかしい一夜を暴露させてやろうと思い此処は敢えてギンガに夜、良馬との間で何があったのかを訊ねた。
「そ、それは‥‥い、言える訳ないでしょう!!」
「つまり、月村艦長とギンガさんは言えないような事をしていたんですね?」
「うぅ~‥‥」
ジト目でギンガを見つめると彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「そ、それより、ティアナの方はどうなの?」
「ん?どうとは?」
(急に話題を逸らしてきたわね‥‥)
ギンガの態度にティアナはギンガの意図が簡単に読めた。
「ティアナもこっちの世界に残って随分と経つじゃない?だから、ティアナにもいい人が出来たのかな?って、思って」
ギンガはティアナに彼女の異性関係を訊ねてきた。
(チっ、リア充め!!)
ギンガの問いにティアナは心の中で毒づく。
「『こっちの世界に来て』って言いますけど、この世界に来てから直ぐに暗黒星団帝国に地球が占領されて、その後は宇宙戦士訓練校に入学したので、特に出会いらしい出会いはありませんよ。訓練校の同期は異性と言うよりはライバルでありましたし‥‥」
一応、宇宙戦士訓練校にて土門や揚羽とは出会ったが、彼らは異性と言うよりは学友・ライバルとして見ていたし、何より彼らはもうこの世にいない。
パルチザン活動の時に出会った古野間と北野は異性と言うより、上官と自分に戦闘技術を教えてくれた先生・戦友と言う認識であるし、向こうも自分の様な小娘を異性として認識しているとは思えなかった。
「えっ?そうなの‥‥その‥‥ごめんなさい」
「いや、謝らないでくださいよ!!ギンガさん!!何だか余計に惨めになるじゃないですか!?」
羞恥と彼氏が居るギンガへの嫉妬からティアナは思わず声を上げた。
翌日、八雲の乗員たちの半舷上陸が終わり、物資の積み込みも終わった。
瓢は昨日半舷上陸の乗員たちが居た事から八雲の今後の予定を艦内放送にて通達する。
「諸君、艦長の瓢だ。先日、アルファ星司令部より本艦にある任務が通達された」
昨日、半舷上陸をしていた乗員たちは突然この後に任務があると言う事にざわつく。
「その任務とはバース星へ向かう輸送船の護衛任務である。そして輸送される物資は、現在バース星で流行している病のワクチンとワクチンを製造する為の医療機器である。この任務にはバース星に居る大勢の人の命がかかっている。なお、向かう先のバジウド星系では今なお政権が安定しておらず、航行中に反政府組織からの攻撃もありえる」
戦闘が起きるかもしれない事に乗員たちの間に動揺と緊張が生じる。
「諸君たちにはこれまでの訓練の成果をこの任務で存分に発揮してもらいたい。発進はアルファ星標準時、12:45時である。以上だ」
瓢が艦内放送を終え艦橋を見渡すと、艦橋員たちは皆、緊張した面持ちをしていたが、覚悟は出来ている様子であった。
そして、出航時間となり八雲とおおすみはバース星に向けて発進した。
ここで時間をギンガがまだ地球勤務中の頃まで巻き戻し、視点を地球からミッドチルダへと移す‥‥
クロノは以前よりリンディに対してボラーへの武力制裁失敗の教訓から管理局でも艦隊行動の重要性を説いており、士官学校でも艦隊シミュレーションや艦隊行動に必要な戦術等を学ばせる必要性を説いた。
武力制裁での戦場経験者であるクロノからの説得にリンディも納得し、フェイトとチンクが入校してから直ぐに士官学校では艦隊行動についてのカリキュラムが新たに新設され、設備でも艦隊戦を行うためのシミュレーション装置も設置された。
そして、ボラーへの武力制裁失敗後に生き残った次元航行艦の提督や艦長が士官学校に臨時講師として赴き、艦隊戦の重要性を講義や演説として士官学校に通う生徒たちに説いた。
そんな某日‥‥
この日は士官学校にて初めての艦隊戦シミュレーションバトルがカリキュラムで行われようとしていた。
シミュレーションバトルとは言え互いに使用されるのは管理局がこれまで使用していた次元航行艦であったが、常に情報が更新されるたびに士官学校のシミュレーション装置内にあるデータもアップデートされていた。
「次の対戦は‥‥この学年の主席だな‥‥」
「スー候補生か‥‥」
「親父さんが管理局の高官で入学当初は親の七光りなんて言われていたけど‥‥」
「七光りもあり、実力もある‥ってか?」
「ああ」
「それで、そんな主席様の餌食になるのは一体誰だ?」
「スー候補生の相手は‥‥ハラオウン候補生だ」
「ああ、あの人ね。でも、ハラオウン候補生も主席‥までにはいかないけど、成績は上位じゃないか?」
「そうそう、それに魔力レベル、実績、そして家柄もまさにスー候補生よりも上だな」
「おまけに容姿も体付きも女としては上位だな」
「確かに‥‥あぁ~あんな美人とお近づきになりてぇ~」
「無理、無理、いくら士官学校に入れたからって俺たちみたいな平凡家庭の人間には高嶺の花さ」
「だよな~」
「まぁ潔く諦めなって」
「でも、それを差し引いてもこの試合はこりゃあ見ものだぜ‥‥士官学校の主席と実戦経験のあるエリート‥‥」
「だが、あの人の実績はあくまでも捜査とかだろう?捜査で実績があってもソレが艦隊戦のシミュレーションに直結するとは言い切れないんじゃないか?」
「ま、まあな‥‥」
観戦している候補生たちは一部に下世話な内容も含まれてはいたが、フェイトと学年主席の候補生とのシミュレーションバトルにてどちらが勝つかを話していた。
どちらが勝ってもそれはそれで自分たちの今後の戦術論の糧になる。
候補生たちは両者の戦いを見逃さないよう、モニターをジッと見つめた。
『黒陣、メアリー・スー候補生、白陣、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン候補生。両者共に同数の次元航行艦・次元巡航艦が主力として配備されており、艦隊後方には補給・工作船部隊が居り、損傷した艦艇、エネルギー不足となった艦艇はこれらの後方支援部隊と接触すればダメージとエネルギーが回復し、再び戦闘に参加することが出来る。それらの艦をどういった陣形で動かすか‥君たちの指揮官としての技能を十分この演習で発揮してもらいたい』
「「はい」」
『なお、勝敗に関しては全滅、もしくは降伏・撤退するかだ。では、演習開始!!』
教官から演習開始と言われ、フェイトとメアリーの艦隊シミュレーション演習が始まった。
フェイトは現状確認の為、自身の戦力の確認をする。
(戦力は‥‥次元航行艦と巡航艦‥‥そして、工作艦と補給部隊か‥‥)
(もし、ここに防衛軍が使っている艦載機があれば‥‥)
(まずは索敵攻撃の為の艦載機隊を出す。艦隊同士の撃ち合いはその後‥‥)
(艦隊数が同じなら、当然相手も同じ数の艦載機を有している筈‥‥)
(幸いこの周辺には有人世界やある程度の大きさの小惑星は確認できないから、敵基地の存在は無いと見て良いわね‥‥)
(とすると、敵基地からの敵機の襲来は無い‥‥)
(‥‥って、何を考えているのよ!?大事な演習中に‥‥)
(そもそも無いもの強請りをしたってどうしようもないじゃない!!)
(現状、管理局じゃあ艦載機の使用構想何て机上の空論‥‥)
(そんな机上の空論を建前にした作戦何て実行不能ね)
(相手は学年主席のメアリー‥‥油断は出来ないわ)
もう一つの地球において防衛軍の戦いを見て来たフェイトとしては艦隊戦に感化されていたので、艦載機の運用を考えてしまった。
しかし例え今の管理局にとって机上の空論であっても実戦を目の当たりにしたフェイトの方が対戦相手よりも有利だった。
そんなフェイトに対して、対戦相手のメアリーはと言うと‥‥
(相手はあのフェイト・テスタロッサ・ハラオウン‥‥)
(ふっ、相手にとって不足無しね)
(今更になって学歴コンプレックスでも抱いて士官学校に編入してきたみたいだけど、畑違いな現場ばかりでエリートを気取っているおばさんの鼻っ面をへし折ってあげるわ!!)
メアリーはフェイトに対する印象を今の年齢になって学歴コンプレックスを抱いて士官学校に入り直してきたと思い込んでいた。
更にフェイトの方が数年、設定年齢が上なだけでおばさん扱いしていたりもしている。
メアリーとしてもフェイトの実績、家柄、そして容姿に嫉妬していた面があったのかもしれない。
フェイトが士官学校に入校してからも男子候補生はフェイトに対して様々な視線を向けていた。
メアリー自身も自分の容姿にはそれなりの自信はあった。
それにもかかわらず殆どの男子候補生は自分ではなく、フェイトを見ているのだから女子としては当然、それは面白くはない。
ならばこのシミュレーションバトルにてフェイトをボコボコにして自分の有能さを周囲にアピールしようと言う思いがメアリーにはあった。
「艦隊を紡錘陣形に編成。全艦、敵艦隊に向け突入」
「陣形ヲ紡錘陣形ニ編成シマス」
「全艦突入シマス」
サポートAIがメアリーの命令を復唱して艦隊をメアリーの指示通りの動きをする。
(一気に中央突破してあの学歴コンプレックスおばさんの艦隊を粉砕してやるわ!!)
メアリーは意気揚々と艦隊を前進させる。
(メアリーは中央突破を仕掛けるつもりか‥‥)
(それなら‥‥)
フェイトはメアリーの艦隊の動きを見て自分の艦隊に指示を出す。
「左翼の第二、第三部隊を側面に展開し応戦、右翼の第五部隊を別働隊として編成し、敵の後方へ進め‥‥」
「左翼ノ第二、第三部隊ヲ側面に展開シマス」
「右翼、第五部隊、敵ノ後方二進ミマス」
(どうもメアリーは短期に決着をつけようとしている‥‥)
(その為、後方に展開している補給・工作部隊と大きく距離を広げすぎた‥‥)
(それなら、メアリーの補給部隊を潰せばメアリーは補給できず、撤退するしかない)
フェイトはメアリーの艦隊動きを見て、相手が短期決戦にこだわると言うのであるならば、それを逆手にとることにした。
「敵艦隊ノ一部、別働隊ヲ編成シマシタ」
「ふん、小賢しい‥‥」
「コマンドヲ入力シテクダサイ」
「艦隊はこのまま前進!!まずは右の二個部隊へ集中砲火!!」
(別動隊と言っても一個分隊‥‥私の後ろから狙うにしても数が少なすぎる。そんな少数でナニが出来ると思ってんの?学歴コンプレックスおばさんは数も数えられないのかしら?)
(それなら、別動隊が背後を突くよりも先にまずは側面に展開しているニ個分隊を殲滅した後、中央、そして後方と各個に殲滅してやる!!)
メアリーはフェイトの艦隊がいくつかの分隊へ分散したので、各個撃破する作戦に切り替えた。
「敵艦隊、左翼ノ部隊ニ攻撃ヲ集中シテイマス」
「コマンドヲ入力シテクダサイ」
「左翼部隊は応戦しつつ後退」
「左翼部隊、応戦シツツ後退シマス」
メアリー艦隊から攻撃を受けたフェイトの左翼側に展開していた第二、第三部隊はじりじりと後退していく。
「敵部隊、後退シマス」
「コマンドヲ入力シテクダサイ」
「攻撃を続行しつつ前進!!‥‥ふん、ハラオウン候補生は空戦魔導士としては最高クラスのスピードを誇るって聞いた事はあるけど、逃げ足も速いのかしら?」
既にフェイトの艦隊は左右に大きく分断されており、今メアリーの艦隊から攻撃を受けている第二、第三部隊は更に後退している。
メアリーはこの時すでに勝利を確信していた。
しかし‥‥
突如、メアリーの居るブースにて警報が鳴る。
「な、なに!?事故!?」
「後方ノ補給部隊ガ敵ノ別動隊ノ攻撃ヲ受ケ、壊滅シマシタ」
「補給部隊壊滅ニヨリ、行動ニ制限ガカケラレマス」
「なっ!?」
サポートAIからの報告にメアリーは絶句する。
「本艦隊後方ヨリ、敵艦隊接近」
「コマンドヲ入力シテクダサイ」
分断されたフェイトの艦隊の本隊がメアリーの艦隊の背後から迫る。
「後方の部隊は反転し、これを迎撃!!前衛は引き続き前方の敵を攻撃!!」
補給部隊が壊滅したことにより、メアリーの艦隊は損傷を受けた艦を修理する事も、エネルギーを補給する事も出来なくなり、当初とは異なるが、フェイトの艦隊を短期間で撃破しなければならない状況に陥った。
「前方ノ敵部隊、尚モ後退」
「くっ‥‥」
前方に居るフェイトの第二、第三部隊は応戦しつつ後退している事からメアリーの艦隊へ艦とエネルギーの消耗を強いていた。
メアリーの顔からは段々と余裕がなくなっている事が窺えた。
やがて、補給部隊を攻撃した別動隊も戻って来ると側面から攻撃をしてきた。
「こうなれば、こっちも相手の補給部隊に攻撃をしてやる!!全艦再集結、攻撃目標変更!!目標、敵補給部隊!!」
メアリーは此処に来て攻撃目標を敵部隊から敵の補給部隊へと変更するが、既に勝敗は決していた。
メアリーは結局、補給部隊も壊滅した事から撤退も不可能となり、最終的に体当たり攻撃を敢行して全滅した。
体当たりをしてきた際、フェイトはまさかメアリーがこんな暴挙に出てくるとは思ってもおらず驚きはしたが、冷静に対処して後退と反撃を繰り返し、メアリーの艦隊を全滅させた。
『黒陣、全滅!!よって勝者、白陣 フェイト・テスタロッサ・ハラオウン』
教官が演習終了を宣言するとフェイトは一息つく。
(それにしても最後の体当たり攻撃‥‥あれは驚いたな‥‥)
(私はメアリーが撤退できるようにわざと隙を作った‥‥)
(でも、メアリーは撤退をせずに体当たり攻撃をしてきて艦隊は全滅した‥‥)
(バーチャルシミュレーションだから自分は傷つかないと思っているとしたら、将来危険じゃないかな?)
(自分の命を預ける艦や大勢の部下や仲間を駒として見なくなる)
(今回の演習は初めてのシミュレーションだから良いけど、今後もこんな無茶苦茶な作戦が続くようなら、正直に言ってメアリーは指揮官には向かない‥‥)
フェイトはメアリーの戦術に対する危険性を予感していた。
一方、フェイトとのシミュレーションバトルに負けたメアリーはと言うと‥‥
演習終了の宣言と共にブースを駆け足で出て行くとトイレに駆け込んだ。
ダン!!ダン!!
ダン!!ダン!!
ダン!!ダン!!
トイレの壁を思いっきり叩いていた。
「認めない‥‥認めない‥‥あんな卑怯な戦法‥‥私は主席なんだ‥‥天才なんだ‥‥それがあんな年増に負けるなんて‥‥許さない‥‥絶対に許さない‥‥フェイト・テスタロッサ・ハラオウン‥‥」
壁を叩くのを止めたメアリーはギリッと歯を食いしばってフェイトに負けた悔しさを滲ませた。
クロノは次元断層からの脱出における事件において二コラウフ・ロガンの父親であるイヴァノヴァ・ロガンから恨みを買い、リンディも管理局におけるタカ派からは目障りな女狐として密かにマークされていた。
そして、今日士官学校で行われたシミュレーション演習にてフェイトはメアリーからの恨みを買う事になってしまった。
メアリーからまさか逆恨みを買っている事を知らないフェイト。
そんな彼女の下にクロノから連絡が入った。
「あっ、クロノ。久しぶり」
「ああ」
「クロノ、実は今日、シミュレーションの演習があったんだけど‥‥」
「ん?どうした?」
フェイトは今日メアリーとのシミュレーションバトルでの出来事をクロノに話した。
「そうか‥‥しかし、今日がシミュレーション演習の初日だからな‥‥初日の事だけでは全てを判断するのは早計だ。今後の結果に注目するしかないな‥‥」
「でも、もしも今後、彼女の姿勢が直らないまま士官学校を卒業したら彼女の下に就く局員があまりにも可哀そうに思えるよ」
「ふむ‥彼女の名前はメアリー・スー候補生なのだな?」
「うん」
「となると、彼女は恐らくスー大将の娘さんだな」
「スー大将?」
「ああ、本局のアンソン・スー大将‥指揮官としても魔導士としても優秀な将校だ」
「そうなんだ‥‥」
士官学校に入って以降、本局内の人事等はクロノを通じてしか情報が入らないので、フェイトは今日、初めてメアリーの父親について知った。
「まぁ、あの人は人格者だから、もしも娘さんがフェイトの言うように部下や艦を替えの利く駒の様に思い続けてもスー大将ならば改善してくれるはずだ」
(クロノに此処まで言わせるなんて、スー大将って凄い人みたい‥‥)
フェイトはメアリーの父親が人格者ならば、メアリーの今後の性格も変わるかと思っていたが、メアリーは後々 『味方殺しのメアリー』 『血塗れメアリー(ブラッディ・メアリー)』の異名を管理局内に轟かせる事になる。
「そう言えば、士官学校でも噂になっているけど、管理局はもう次世代の次元航行艦を運用し始めたって聞いたけど?」
「ああ、事実だ。実際に僕も先日、試乗した」
「それで、どうだった?」
「まるでサラブレッドの様だった。次世代艦と比べるとこれまでの次元航行艦が鈍足なロバの様に感じたよ」
「そこまでの性能が‥‥」
「ああ。これらの艦が建造されていけば、これまで運用していた艦は練習艦か除籍・解体となっていくだろう」
「‥‥でもさ、そうなると私としてはある懸念があるんだよね」
「ん?ある懸念」
「うん。管理局がいずれ次元航行艦の数をボラーへの武力制裁前‥‥ううん、それ以上の数を揃えた時、管理局がボラーやもう一つの地球に対して報復行動をするんじゃないかと思って‥‥」
「確かに、それは僕も思った」
ボラーに関しては武力制裁の失敗時、多くの次元航行艦と乗員を失う結果となり、もう一つの地球に関しては、管理局は煮え湯を飲まされたり、今後の軍備を鑑みるといずれは管理局にとっては大きな脅威になり得る存在だ。
「次世代の次元航行艦ならボラーや防衛軍と十分に戦えると思う?」
「今のボラーや防衛軍の戦力は分からないが、多分‥‥」
「そう‥‥」
クロノは次世代の次元航行艦ならば、ボラーや防衛軍の宇宙艦船と十分に戦えるのではないかと予測する。
「だからこそ、フェイトの言った行動を管理局が取る可能性が高く思えてしまい、将来が不安だよ。元々管理局には管理世界を望んでいない世界に対しても管理条件を満たしていると言う理由で無理矢理管理世界にした事例も多々あるしな‥‥」
「そこはリンディ母さんやレティ提督、クロノ、はやてが何とか止めないと‥‥管理局は法の番人ではなく侵略者に成り下がっちゃうよ」
「母さんか‥‥うーん‥‥」
(既に侵略者になりかけているがな‥‥)
(それにあの時は両者の艦船技術の差がありすぎたが、今はどうだろう‥‥)
(はやては何とかなるだろうが‥‥)
ボラーへの武力制裁時や防衛軍との邂逅時、それらの星間国家と管理局では、宇宙艦船の技術の差が大きく、リンディもレティも三提督も管理局におけるタカ派を抑えつけていたが、その技術の差が縮まった今、果たしてリンディやレティ、三提督らが穏健派を続けているか疑問を覚えるクロノ。
「ん?どうしたの?」
「い、いや、何でもない」
そんなクロノの様子にフェイトは何かあったのかと思い声をかける。
そもそもクロノとリンディの両者は公人としては淡々と業務を熟していたが、私人としては会話もない生活をしていた。
親子間の溝は深まってはいないが、埋まってもいないが未だに関係修復は叶ってはいなかった。
「フェイトも士官学校を卒業して手伝ってもらいたいぐらいだ」
「流石に学校は通う年月が決まっているから‥‥」
「そうだな。それまでは管理局がバカな行動をとらないように僕やはやてがしっかりと注意していくしかないか‥‥」
冗談めいた言葉を言うクロノであったが、その言葉が決して冗談ではない事をフェイトはちゃんと自覚していた。
クロノが言う通り、管理局は次世代の次元航行艦の建造ノウハウを手に入れた事でボラーへの武力制裁前以上の力を手にするのも時間の問題かもしれない。
その時、クロノや自分が予想した様な未来が来るかもしれない。
確かにクロノが言う通り、士官学校を卒業したらより一層フェイトには厳しい環境がまっているかもしれなかった。
今回、フェイトのシミュレーション演習の対戦相手であるメアリーは父親の名前と彼女自身の名前の通り、幼女戦記に登場したメアリーをイメージしております。