バジウド星系、第四惑星のバース星にて流行り病が発病した事態を受けて、地球連邦政府は同惑星に駐屯している防衛軍、ガルマン・ガミラス、そして元々バース星に住んでいるバース星人の為にアルファ星よりワクチンとワクチン製造機を積み込んだ輸送船、おおすみの護衛のため八雲は、おおすみと共にバース星を目指してアルファ星を出航した。
現在、バース星はある程度の自治は認めているとは言え、実質ガルマン・ガミラスの属国となっているが、バース星周辺では未だに親ボラー派の勢力が存在しており、バジウド星系の航路は決して安全とは言えなかった。
だからこそ、バース星へ向かう おおすみ に護衛が必要だったのだ。
一応、バジウド星系の治安維持を担うガルマン・ガミラス東部方面軍からの知らせではアルファ星~バース星の航路の安全は確保できていると言う報告は受けてはいるが、現状を確認出来ていない事から情報を鵜吞みにして進むのは危険である。
不安を抱えながらも八雲とおおすみはアルファ星の防衛圏を離脱した。
なお、流行り病が蔓延している星に行くと言う事で八雲とおおすみの乗員全員はワクチン接種が義務付けられていた。
(これで、完全に地球の勢力圏を出たわね‥‥)
(この先は、ガルマン・ガミラスからの情報を頼りに進まなければならない‥‥)
(正直に言ってどこまで信じられるか疑問だけど、ひとまずガルマン・ガミラスからの情報を信じて進まなければ何も始まらないわね)
八雲副長のギンガは眼前に広がる星の海を見つめながら今回の航海に一抹の不安を抱いていた。
だが、それは八雲、おおすみの乗員たち全てが抱いていたのかもしれない。
八雲とおおすみは急ぎつつも慎重にバース星を向かう。
「艦長」
「ん?なんだね?副長」
「此処から先はある意味で未知の空間になります。本艦のみでしたら、特に問題はありませんが、今回は輸送船も同行しています。万が一にも親ボラー勢力の艦隊に遭遇すれば、輸送船の護衛は困難です」
「うむ」
「故に此処からさきはビーコンとレーダーの出力は下げて、おおすみへの通信も発光信号として、索敵はパッシブセンサーと見張り員を増やしての有視界で進んでみてはどうでしょうか?」
ギンガは瓢に親ボラー派の艦隊と遭遇した際のリスクを鑑みて少しでも発見されにくくするための行動を提案する。
「ふむ‥‥索敵機能が著しく低下するがやむを得ないか‥‥」
瓢もこの先の航海を考えギンガの提案を採用した。
「艦長、暗号通信が入りました」
ガルマン・ガミラスのリレー衛星より、航路に関する暗号通信が入ったのだ。
「S11宙域からT12宙域の空間は安全が確保されているみたいです」
「そうか‥‥航海長、航路をS11宙域からT12宙域へ設定せよ」
「了解」
「後方のおおすみにも発光信号。『我に続け』と‥‥」
「了解、発光信号送ります」
ガルマン・ガミラスからの情報を基に八雲とおおすみは安全が確認された航路を進む。
「艦長、前方にアステロイドベルト帯を確認」
「速度を落とせ」
「了解、アステロイド通行速度に落とします」
バース星を目指す八雲とおおすみの前にアステロイド帯が出現し、両艦はアステロイドとの衝突を防ぐために速度を落とした。
そんな中、
「ん?艦長、パッシブセンサーに反応があります。多数の航行物体がこのアステロイドの近くを航行しています」
「ガルマン・ガミラスの艦艇か?それとも親ボラー派か?」
「この反応はボラー型の艦艇かと思われます」
「‥‥」
ボラー系惑星が多かったバジウド星系であるが、ガルマン・ガミラス進出後に降伏した惑星国家の内、駐留していたボラー艦船はそのままガルマン・ガミラスに接収された。
接収の後、一部はガルマン・ガミラス本星へと回航され技術調査が行われたが、それ以外の艦船はそのままガルマン・ガミラスの艦船と同じ艦首部を黄色に、その他の船体を深緑に塗装されて使用された。
これはボラー、ガルマン・ガミラスの宇宙艦船の操縦系統に若干の違いがあり、ボラー系の宇宙艦船に乗り慣れていた乗員たちへの育成時間を短縮する目的と建造・回航の時間を短縮する事を目的として、更に味方からの誤射を防ぐ目的で船体の色と味方識別信号の変更を行い運用していたのだ。
故にバジウド星系にてボラー系の宇宙艦船が航行しているからと言って親ボラー派とは言い切れない。
だが、親ボラー派を警戒して進んでいる八雲とおおすみとしてはガルマン派なのか?
それとも親ボラー派なのかを判断するには相手が自分たちの視覚範囲まで待つしかないが、もしも親ボラー派で合った場合、危険が伴う。
「戦術長、反重力感応機の準備だ!!」
「は、はい」
接近中のボラー系艦船がガルマン派だろうと親ボラー派だろうとまずは自分たちの安全確保をしなければならない。
瓢はティアナに反重力感応機の準備をさせた。
「反重力感応機準備完了!!」
「反重力感応機発射!!」
「反重力感応機発射します!!」
八雲の主砲から反重力感応機が発射され、アステロイドへと突き刺さる。
「岩盤装着」
「岩盤装着」
八雲から放たれ、アステロイドへと突き刺さった反重力感応機へ無線指令が伝達され、アステロイドの岩塊が八雲とおおすみの船体周辺に密着する。
ヤマト副長兼技師長である真田志郎が生み出した反重力感応機によるアステロイドシップは相手から見ればアステロイドを密着させた艦は一見すると大き目なアステロイドにしか見えないので、こうして敵をやり過ごすにはうってつけの戦法であった。
「接近中のボラー系艦船、まもなく通り過ぎます」
艦橋にある八雲のモニターには接近して来るボラー系艦船の姿が映し出される。
接近してきたのはガルマン色に塗装されたボラー系艦船ではなく、ボラー系特有の紫と深青色で塗装されたボラー系艦船であり、それは親ボラー派の艦船である事が窺えた。
「接近中のボラー系艦船は親ボラー派の艦船と思われます」
「くそっ、何でこんな所に‥‥?」
(まさか、ギンガさんが言うように情報が漏れていたんじゃあ‥‥)
ティアナはアルファ星出航前にギンガと話していた内容が脳裏を過る。
アルファ星からバース星へワクチンを輸送している事が親ボラー派に無線傍受等でバレているのではないかと言う懸念だ。
そうでなければ、親ボラー派の艦船がこんな所をウロウロしているとは考えにくい。
そう思ったティアナは、
(ギンガさん、ギンガさん)
念話にてギンガに話しかける。
(ん?どうしたの?ティアナ)
(出発前に話していた事で、無線傍受されているかもしれないって話したじゃないですか)
(うん)
(やっぱり、無線傍受‥されていたんじゃないでしょうか?)
(ん?それはどう言う事かな?)
(まだ推測の域を出ていませんし、偶然‥かもしれませんが、こんな所に親ボラー派の艦船がうろついていた事に違和感があったので‥‥)
まだ一度っきりの邂逅であり、この広い宇宙なので此処で敵である親ボラー派の艦船と遭遇したとしても偶然として片づけられるかもしれないが、やはり懸念は残る。
(そうね、ティアナの言う通りだけど、まだ今回の一件だけじゃあ判断はつかないわ。でも、この先も親ボラー派の艦船と遭遇するなら、やっぱり無線傍受されたと見た方がいいわね)
(はい)
ギンガもやはり一度の邂逅では判断できず、様子見とした。
今回の親ボラー派の艦船との邂逅はアステロイドシップにて相手を誤魔化すことに成功した。
ガルマン・ガミラスに親ボラー派の艦船と邂逅した件を通報しても良いが、その通信をやはり親ボラー派に無線傍受されては八雲とおおすみの位置を相手に教えることになるので、通報は見送り、一路バース星を目指して出発する。
すると八雲とおおすみの前に次の試練が立ち塞がる。
「艦長、前方に宇宙気流があります」
「減速、気流の状態を確認せよ」
「了解、減速します」
八雲は早速前方の宇宙気流の観測を行う。
気流の速度、流れてくる方向と流れていく方向を‥だ。
「宇宙気流はかなりの速度と規模の気流みたいです」
「航行は何とか可能ですが、気流内を航行中に航海計器にダメージを負った場合、操艦不能になり気流に流されてしまいます」
「艦長、やはり気流の横断は断念した方がこの場合、賢明かと思います」
気流の観測データを見てギンガは瓢に気流を迂回する旨を提案する。
「ふむ‥‥」
瓢がギンガからの提案を受け、迂回路の検討をしようとした時、
「艦長、気流の反対側に艦隊反応をキャッチしました!!」
「なにっ!?」
「モニターに映せる!?」
「はい」
八雲艦橋のモニターには気流を挟んだ反対側に展開している艦隊の映像が映し出される。
これがガルマン・ガミラスの艦艇ならばギンガとティアナは懸念を抱かなかったが、気流の対岸に居たのは‥‥
「青いボラー系艦船‥‥」
「親ボラー派か!?」
親ボラー派かと思われる艦隊であった。
(ギンガさん‥‥)
(うん)
此処まで親ボラー派との邂逅が重なり、更に宇宙気流の対岸で八雲tとおおすみをまるで待ち受けているかのように展開していることからギンガとティアナの懸念は確信へと変わった。
「艦長」
「ん?何だね?副長」
「実は私とランスター戦術長は、出航前にある懸念を抱いていました」
「ある懸念?」
「はい。アルファ星とバース星との間での超光速通信が親ボラー派に傍受されているのではないかと言う懸念です」
「ふむ‥‥」
「アステロイド帯での親ボラー派との邂逅は最初‥と言う事で偶然ではないかと思いましたが、宇宙気流の対岸で待機しているこの状況を見て懸念から確信に変わりました。親ボラー派は我々の行動を知って待ち伏せしています」
「‥‥確かに副長の言う通り、相手の動きを見る限りその可能性が高そうだな。無理に気流を通過しようとすればかなりの被害を覚悟しなければならない。それでは気流を抜けても満足には戦えない‥‥ましてや此方は護衛任務中の身だ‥‥」
「それにこの宙域に留まるのは危険です。背後から親ボラー派の別動隊が迫ってくる恐れがあります」
ティアナも瓢にこの宙域に親ボラー派が集まって来る危険性も指摘する。
そんな中、
「艦長、まもなく彗星がこちらに接近してきます」
「なに?」
「計算によればこの彗星は宇宙気流を通過していきます」
「それだ。彗星の内部に飛び込めば彗星のガス体に守られ宇宙気流を通過できる。それに対岸に展開している親ボラー派の連中の目を誤魔化す事も出来るだろう」
「彗星が此方に接近してきます!!」
「よし、おおすみにも発光信号!!全速で彗星の内部へ飛び込め!!」
八雲とおおすみは近くを通過する彗星の内部へと飛び込んだ。
その頃、宇宙気流の対岸に展開していた親ボラー派の艦船では‥‥
「ふむ、気流の向こう側に居るのが、例の情報にあった輸送船と護衛の艦だな?」
「はい。その様です」
宙気流の対岸に展開していた親ボラー派の旗艦である戦艦の艦橋にあるモニターには八雲とおおすみの艦影が映し出されている。
「地球とか言う星がまさかこんなにもはやく対策をうってくるとは‥‥折角のバース星奪還の機会をむざむざと失わせてなるものか‥護衛の艦は破壊しても構わぬが、あの輸送船だけは出来るだけ拿捕せよとの命令であるが、護衛の艦一隻‥しかもこの位置ならば、赤子の手をひねるよりも簡単にこの命令を達成できそうだな」
この艦隊を率いるゲラーシモ・ナタレンコフは不敵な笑みを浮かべる。
バース星へ向かう航路で、この宙域に来たと言う事は眼前の宇宙気流を通過しなければならない。
この気流の影響でワープは事実上不可能。
であるならば、バース星へ向っている地球艦はこの気流を通り抜けて来る。
しかし、気流を無理に通れば艦にダメージを負う。
気流を抜けてヘロヘロになった相手などいとも簡単に撃沈出来ると思っていた。
そもそも、今回バース星で流行り病が流行したのは親ボラー派の工作員がバース星にてウィルスをまき散らした事が原因であった。
致死性の高いウィルスではなかったのは、致死性が高いとウィルスを撒いた工作員自身の身に危険があり、奪還作戦の際にも侵攻した仲間に感染する恐れがあるため、致死性が抑えられたが、感染力が高いウィルスが使用された。
そして、ナタレンコフたち親ボラー派がこうして待ち構えていたのはギンガとティアナが懸念した通り、彼らはアルファ星とバース星との通信を傍受してバース星で流行っている病に効くワクチンが輸送される事を知った。
バース星にいる敵対勢力をウィルス感染させて士気を下げたのだが、ワクチンなんて持ち込まれたら折角の作戦が台無しになる。
それにワクチン・ワクチン製造機を自分たちが手土産してバース星の自治政府へ自分たちへの協力を要請すれば、バース星を占領しているガルマン・ガミラスと地球連邦政府の勢力を一掃できると考えたのだ。
宇宙気流の対岸に居る八雲とおおすみを捕捉していたナタレンコフの艦隊であったが、
「な、ナタレンコフ隊長!!」
「ん?なんだ?どうした?」
オペレーターが慌てた様子でナタレンコフに声をかけてきた。
「レーダーから輸送船と護衛艦の反応が消えました!!」
「なにっ!?間違いないか!?」
「はい!!間違いありません!!」
(くっ、まさか一か八かの賭けでワープをしたのか?)
「ワープの反応はないか?」
ナタレンコフは反応が消える前にワープの反応があったかをオペレーターに訊ねる。
「いえ、ワープの反応はありません」
(ワープでもなく、反応が消えた‥‥?)
(どういう事だ?)
「周辺にある反応は彗星だけです」
「‥‥」
「彗星は宇宙気流を通り抜けて我が艦隊の左下方を飛んでいきます」
オペレーターから報告があがったように宇宙気流からは彗星が飛び出てくると漆黒の宇宙空間を流れていく。
「奴らはまだキャッチできんのか?」
「はっ、未だに‥‥」
(連中は一体何処へ‥‥はっ!?まさかっ!?)
「レーダー、急ぎさっきの彗星の動きを追え!!」
「は、はい!!」
ワープ反応もなく、通常空間からも突然姿を消した八雲とおおすみ。
変化があったのは近くを彗星が通り過ぎただけ‥‥
ならば彗星を怪しむのは当然の事だった。
「あっ、何かが彗星の中から飛び出してきました!!」
「くそっ、まんまと逃げられたか!?後衛の部隊を急ぎ向かわせろ!!」
「は、はい!!」
ナタレンコフは急ぎ後衛の部隊へ八雲とおおすみの追撃を命じた。
八雲 艦橋
「艦に異常はないか?」
「はい。本艦、おおすみ、共に艦に異常はありません」
彗星の核に潜むと言う防衛軍でも初めての回避方法をとったので、艦の何処かに被害を受けたかもしれないと思われたが、八雲とおおすみは無傷のまま彗星の核から離脱をして、宇宙気流を無事に渡り切り、親ボラー派の目を一時的には撒くことに成功した。
「そうか‥何とか親ボラー派を撒けたか‥‥」
「ですが、敵も直ぐに気づき追ってくるでしょう」
「うむ。此処からは親ボラー派の追撃を受けるやもしれん。陣形を変更する。おおすみを先行させろ」
「はっ、発光信号用意!!」
八雲はおおすみに先行するように発光信号を送るとおおすみは速度を上げて八雲を追い越す。
「後方よりボラー艦、接近してきます!!」
「やはり、来たな‥‥敵の動きは?」
「散開してこの彗星付近の探索を図るようです。あっ、敵艦二隻こちらに接近してきます!!」
「敵艦より停船命令がきています!!」
「無視しろ。針路を付近のアステロイド帯へ向けろ!!それと突発性事態に備え第三砲塔及び後部ミサイル管発射準備!!」
「了解、後部第三砲塔、ミサイル発射管発射準備」
「敵艦発砲!!」
八雲とおおすみを追いかけて来た親ボラー艦が撃って来た。
しかし、警告射撃なのか?それとも相手艦の砲手の腕が未熟なのか、八雲の船体ギリギリをかすめる。
「第三主砲撃て!!」
八雲が放ったショックカノンは追跡してきた親ボラー艦二隻の内、一隻に命中し爆沈した。
残るもう一隻は僚艦の爆炎を利用して八雲との距離を詰めて来た。
「近距離に接近する事で主砲とミサイルを封じて来たか!?前には出すな!!このまま並走しろ!!」
「りょ、了解!!」
八雲は追い抜かれまいと速度を上げるが相手も速度を上げて来た。
やがて、二隻の艦は‥‥
ズドン!!
親ボラー艦は八雲の右舷側に接触した。
「うっ‥‥」
「うわぁ!!」
「くっ‥‥」
ガリガリ‥‥
二隻は離れつつ、ぶつかり合う。
「か、艦長、この状態は危険です」
「分かっておる。だが、もう少し‥‥」
瓢は何かを狙っているかのようにチキンレースを続ける。
「‥‥今だ!!敵艦にぶつけろ!!」
瓢が声を上げると航海長は親ボラー艦へ八雲をぶつける。
すると、八雲がぶつかった衝撃を受けて親ボラー艦は大きく右側へと針路がズレる。
そして、親ボラー艦の眼前には小惑星があり、親ボラー艦は逆噴射をして制動をかけるが、先程まで八雲とチキンレースをしていた為、急に制動をかけても止まる事は出来ずに親ボラー艦は小惑星に衝突する。
「敵艦、小惑星に衝突。爆沈しました!!」
「よし、このまま敵を振り切るぞ!!」
「了解」
ひとまず追っ手を振り切ろうとするも親ボラー派は追撃を止めない。
「敵の増援を確認!!アステロイド帯へと突入してきます!!」
「熱感知機雷を放出、三分毎に三発ずつ段階を置いて足止めを図る」
「了解、熱感知機雷放出」
八雲の艦底部にある機雷発射口から機雷が放出される。
親ボラー派の艦はアステロイドを躱しながら八雲とおおすみを追いかけて来る。
「敵艦、機雷の第一波と触接!!」
後方で機雷の爆発を確認した。
「敵艦大破!!」
「これで少しは足が止まるか‥‥」
「機雷、第二波放出!!」
三分が経過し、ティアナは機雷の第二波を放出する。
「アステロイド帯、まもなく出ます。アステロイド帯出口に敵影無し」
「よし、残る機雷をアステロイド帯の出口付近に放出」
「了解」
アステロイド帯の出口に機雷をばら撒き、航路を簡易的にだが封鎖する。
しかし、追手を振り切ろうとする八雲とおおすみにとっては十分な時間である。
アステロイドと機雷によって八雲とおおすみを追いかけて来た親ボラー派の艦は機雷に接触した事で被害が大きくなり、無事な艦は被弾した艦の救助やら機雷を恐れて停止したことで八雲とおおすみの追撃を断念せざるを得ない状況となる。
「追撃に向かった味方の艦がアステロイドと敵の機雷によって足止めされています」
「被弾した艦からは救難信号が発信しています」
ナタレンコフの下には八雲とおおすみを追いかけて行った味方から救難信号が絶えず送られてきた‥それは追撃に向かった艦が撃沈されたか大破したと言う事だ。
「くっ、たかが一隻だと思って侮っていたか‥‥」
宇宙気流の対岸で八雲とおおすみを捕捉した時は簡単におおすみを奪取できるかと思っていたが、蓋を開けてみれば奪取に苦戦をして味方に損害が出る事態となっている。
「隊長、このままあの二隻を追跡するは少々危険ではないでしょうか?」
すると副官がナタレンコフに現状を鑑みて忠告をいれる。
「ん?どういう事だ?それは?」
「既に我々の存在が、ガルマン・ガミラス側に通報されている可能性があると言う事です。このままあの二隻の追跡を続けたらガルマン・ガミラスの警備部隊と遭遇する可能性があります。そうなれば、数で劣る我々が不利です」
確かに副官の言う事も一理あった。
ガルマン・ガミラスの警備艦隊はバジウド星系で活動している親ボラーの息の根を完全に潰す為に警備艦隊の艦数を増やし、捜索範囲を広げている。
それに警備艦隊の中で、次元潜航艦を繰り出されたらその対処も難しい。
今の自分たちは艦隊と言ってもあまりにも艦数が少なく、もし次元潜航艦を繰り出されたら相手の位置を探知する前に全滅させられる可能性が高い。
「此処はガルマン・ガミラスの警備艦隊が来る前に撤退した方がよろしいかと‥‥」
「ぬぅ~‥‥やむを得ない‥‥救助が終わり次第、撤退だ。全艦にそう伝えろ」
「はっ!!」
ナタレンコフは副官の意見を採用し、撤退を決めた。
(この借りは必ず返すぞ!!)
(次こそは貴様らは必ず宇宙の藻屑に変えてやる!!)
撤退する中、ナタレンコフは八雲へリベンジを誓った。
八雲 艦橋
「親ボラー派の連中は諦めたのだろうか?」
親ボラーからの追っ手を返り討ちにした後から親ボラー派からの追撃はなくまもなくバース星宙域へと差し掛かろうとしていた。
「前方に艦影を捕捉!!」
「親ボラー派の艦か!?」
「‥‥いえ、味方識別信号が送られてきました!!ガルマン・ガミラスの警備艦隊です!!」
「何とか安全圏まで来れましたね」
バース星に駐屯するガルマン・ガミラスの警備艦隊と合流できた八雲の艦橋に安堵感が漂う。
きっとおおすみの方も同じだろう。
「艦長、ガルマン・ガミラスの警備艦隊より通信です」
「うむ、繋いでくれ」
「はい」
八雲の艦橋にあるメインモニターに一人のガルマン・ガミラス士官の姿が映し出される。
「ガルマン・ガミラス東部方面軍、バース星駐留警備艦隊所属のゲルトハルク・メレンティウスであります。遠路はるばるご苦労様です」
「地球防衛軍第四艦隊所属、八雲です。バース星の現状については既に聞いております。ワクチンについては無事に輸送出来ました」
「それは‥ありがとうございます。これで、バース星の流行り病を収束することが出来ます」
「早速ですがバース星への入港許可をバース星の自治政府へと求めて下さい」
「承知しました」
ガルマン・ガミラスの警備艦隊を通して八雲とおおすみはバース星への入港許可を求めた。
おおすみの積荷が流行り病に効くワクチンとワクチン製造機と言う事でバース星への入港許可はすんなりとおりた。
ギンガにとっては二度目のバース星訪問であったが、それ以外の乗員たちとっては初めてのバース星の訪問であった。
「どこまでも広がる雪の世界‥‥見るからに寒そうですね」
眼下に広がる雪の世界‥バース星の姿を見てティアナは若干顔を引き攣らせる。
「このバース星は一年を通して雪に包まれている極寒の星よ」
そんなティアナにギンガはバース星の情報を伝える。
「バジウド星系にある他の星間国家から何度も侵略を受けていたらしいわ」
「こんな極寒の星を侵略‥‥この星を狙った奴らは一体、この星にどんなモノをみいだしたんでしょうね?」
ティアナとしてはバース星の様な極寒の星に一体どんな利用価値があるのか分からなかった。
「極寒の環境でも人が住める星と言う事で、勢力拡大を狙う星間国家としては、人が住めると言う理由だけでも征服する理由になるんじゃないかしら?」
「侵略者の考える事はよくわかりません」
「そうね‥それで、十数年前に銀河系東部に進出したボラー連邦はバース星の状況を鑑みてこの星を保護国に指定したの」
「保護国って‥‥それって体の良い支配じゃないですか?
「うん。私もそう思う…だけど、それは管理局でも当てはまるんじゃないかな?」
「‥‥」
ギンガの指摘にティアナは特にコメントは差し控えた。
実際にティアナも六課卒業後に本局勤務となり、その後にこうしてもう一つの地球で過ごしている中で、ギンガの指摘が的を射ていたからである。
「それで、ボラーまでがこの星を手に入れて領土拡大の悦に浸っていたわけですか?」
「それもあるけど、ボラーはこの星に大きな強制収容所を作って政治犯とかを収容していたみたい」
「強制収容所‥‥まぁ、確かにこの極寒で劣悪な環境なら刑罰になりますからね」
(流石に管理局でもこんな極寒の星に刑務所は作らないから、その点では管理局は幾分ましね)
主に無人世界に刑務所を作っている管理局ではあるが、その無人世界もバース星の様に極寒の星と言う訳ではないので、ボラーと管理局を比べると管理局の方が犯罪者に対する扱いはマシに思えたティアナ。
やがて、宇宙船の発着場に降りた八雲とおおすみ。
おおすみでは早速荷卸しの作業が行われた。
一応ワクチン接種は済ませているが、それでも用心をして荷卸し作業をしているおおすみの乗員たちはヘルメットに手袋、ブーツを着用している。
「ワクチンが製造されてバース星の人たちに接種していけば、この流行り病も収束してくでしょう‥‥でもこの後は、おおすみをアルファ星に送り帰す仕事もあるからまだまだ困難な航海は続くよ」
「そうですね。せめて帰りは途中まででいいからガルマン・ガミラスの警備艦隊に護衛を頼みたい所です。実際にアルファ星までの航路はガルマン側の情報と異なり実際に親ボラー派からの襲撃を受けたんですからね」
「そうね。その点は瓢艦長や基地の司令官からガルマン・ガミラス側へちゃんと伝えてもらわないと」
アルファ星を出航する前はガルマン・ガミラス側からバース星までの航路は安全だと言いながら実際には無線傍受されており、親ボラー派からの待ち伏せを受けた。
ならば、復路はちゃんとガルマン・ガミラスには責任をもって護衛してもらいたいと思うギンガとティアナであった。
しかし、二人の思いとは裏腹に八雲はしばらくこのバース星に留まる事になるのをこの時の二人はまだ知る由も無かった。
此処で視点はミッドチルダへと移り、時間も過去へと巻き戻す。
管理局が次々と次世代の次元航行艦を建造・就役している中、本局にある次元航行艦のドックでは‥‥
「‥‥」
はやては、自身が艦長を務めるヴォルフラムの艦長席に座り独り、物思いにふけっていた。
「考え事ですか?艦長」
そこへ、グリフィスがはやてに声をかけてきた。
「ん?ああ、グリフィス君か‥‥近々このヴォルフラムとお別れと思うとな‥‥」
「‥‥」
はやての言葉にグリフィスも思う所があった。
次世代の次元航行艦が就役して行き、これまで管理局が就役させていた次元航行艦は次々と廃艦か練習艦に払い下げとなっていった。
そしてそれは、はやてのヴォルフラムも例外ではなく、先日はやての下にも人事異動命令が来た。
命令の内容は、はやてをヴォルフラムの艦長から他艦への艦長にするというモノだった。
はやての異動後は、乗り手が居なくなったヴォルフラムは解体処分されて、解体によって出来た部品は他艦の建造や修理部品に回す事が決まった。
当初はやては何とかヴォルフラムを解体せずに、ヴォルフラムの機関を次世代の次元航行艦と同じ機関への換装を願った。
しかし、換装作業を行うとその間、ヴォルフラムは長期の‥年単位のドック入りとなり、乗員たちも換装期間は持て余す事になる。
次世代の次元航行艦が就役した管理局はこれまで停滞していた管理世界への拡大路線を再開しており、局員や艦を換装作業で管理世界への拡大作業を停滞させる余裕はなかった。
機動六課設立時は聖王教会の協力もあったが、ヴォルフラムの件については、聖王教会は完全に畑違いなので、流石に協力は出来ず、本局上層部もいくら実績があるとはいえ、管理局が組織である以上、一個人の頼みを一々かなえていてはそれこそ他の局員たちに示しがつかず、不満が募ってしまう。
その為、はやての要望は却下された。
ヴォルフラムの艦長になって僅か数年であるが、はやてにとってヴォルフラムは家でもあり苦楽を共にした仲間でもあったので、今回の人事異動は彼女にとって思う所があったのだ。
JS事件の決戦時にはやては破壊された六課の隊舎の代わりにアースラで指揮を執った。
このアースラもはやてはある意味で世話になった艦であったが、自身が指揮をとった長さではヴォルフラムの方が長かった。
とは言え、次元航行艦乗りにとっては艦を乗り移るのは当然の出来事ではあるが、はやてにとっては初めての経験だったであり、しかも艦長を務めていた艦が自分たちを降りた後に解体される辛い現実を突きつけられたのだから考えさせられる。
(さよなら‥‥ヴォルフラム‥‥)
その後、はやてはヴォルフラムとの別れを惜しみ、ヴォルフラムを後にした。