バース星で流行した病気の鎮静化の為にアルファ星から流行り病に効くワクチンとワクチン製造機をバース星に輸送する為の輸送船の護衛任務に就いた八雲。
その道中にて未だにバジウド星系に潜む親ボラー派の待ち伏せに遭うも何とか無事に輸送船を守り切ってバース星へと到着した。
問題は往路よりも復路が困難と予想された。
いくら荷物を積載していないとは言え、武装を搭載していない輸送船を再びアルファ星まで護衛しなければならない。
アルファ星から地球までの航路は地球の領海なので、親ボラー派も手出しはしてこないので比較的安全だが、バース星からアルファ星までの航路は往路同様、親ボラー派の待ち伏せや襲撃も考えられる。
バース星にある艦船ドックにて八雲は整備・補修・補給が行われている間、八雲艦長の瓢はバース星の防衛軍司令部へ呼ばれた。
「瓢艦長、今回の輸送船護衛の任、ご苦労だった。これでこの星で流行している病も収束に向かうだろう」
「いえ、お役にたててなによりです。それに今回の任務では乗組員たちにも十分な経験になったことでしょう」
イレギュラーな任務ではあったが、八雲の乗組員たちにとって実戦を交えた良い経験になったと瓢は判断した。
それに瓢自身も経験を得ることが出来たので、今回の任務は受けて正解であったと思っていた。
「‥‥そうか‥瓢艦長」
「はっ」
「そんな貴官にすまないが、もう一つ貴官に新たな任務を頼みたい」
「ん?新たな任務‥ですか?」
「うむ。いくらワクチンが来たとは言え、すぐにこの病が沈静化するには暫し時間がかかる」
「でしょうね」
「君たちもこの星に来るまで親ボラー派の妨害を受けたと思う」
「はい。輸送船を連れての出来事だったので、ヒヤヒヤした場面が何度かありました」
「うむ、それで君たち八雲にはこの病が沈静化の目途が経つまで、この星周辺の哨戒任務を任せたいのだが‥‥」
「哨戒任務ですか?」
「ああ、この流行り病の影響でバース星に駐屯している軍の戦力は落ちている。それはガルマン・ガミラス側も同様だ」
「‥‥」
「今は一隻でも多くの軍艦が必要なのだ。それと情報だ。親ボラー派の戦力が現状どれくらいの規模であるのかもだ」
「なるほど」
バース星に未だに親ボラー派の総攻撃が無い所を見ると、そこまでの戦力は無いと判断されるが、それでも航路を脅かすゲリラ活動や通商破壊をされては地球、ガルマン・ガミラス、ガルマン派の惑星国家にしては厄介であり目障りだ。
「頼めるか?瓢艦長」
「分かりました。準備が出来ましたら、八雲はバース星周辺の哨戒任務に就きます」
「では、この宙域周辺の航路情報も後でそちらに送ろう。それに偵察機もそちらに搬入できるよう手配する」
「ありがとうございます」
軍人である以上、命の危険もあるがイレギュラーな任務もある。
子供みたいに『休みたいから嫌だ』 『仕事内容が気に食わないので嫌だ』 なんて対応は出来ないし、許されない。
八雲は再びイレギュラーな任務に就くことになった。
その八雲では、ギンガが今回の航海における報告書を作成していた。
「ギンガさんの報告書は、やっぱり丁寧で見やすいですね。内容も分かりやすいですし‥‥」
そこへ、ティアナがパソコンの画面を覗き込んでギンガが作成している報告書を褒める。
「報告書に関しては管理局時代から作っていたからね。ティアナやスバルはどうだった?」
ミッドチルダ西部にある陸士108部隊時代から報告書の作成をしてきたので、ギンガとしては報告書の作成は手慣れたモノだ。
ギンガはティアナとスバルの書類作成能力について訊ねる。
ティアナやスバルも管理局の訓練校を卒業後にスバルと共にミッドチルダ南部にある陸士386部隊へ配属となり、そこから機動六課へスカウトされた経緯を持つ。
機動六課を含め、局員を経験したのであるならば書類作成は絶対につきまとっていた。
「私もスバルも当初は四苦八苦していましたが、数を熟すうちに慣れていきました。スバルはああ見えて丁寧で物覚えも良かったですから‥‥」
「そうね。姉の私が言うのもなんだけど、確かにスバルは意外な所があったからね」
スバルは普段の言動から一見バカっぽく見えるが、ティアナの言う通り物覚えが良く管理局の訓練校における成績は上位だった。
それに、ギンガとスバルがナカジマ家に保護された後、ギンガは養母であるクイントからシューティング・アーツを習い始めたが、当初、スバルは『殴るのも、殴られるのも嫌だ』と言ってクイントからシューティング・アーツを習わなかった。
その後、クイントは追っていた事件の捜査中に殉職するもギンガはシューティング・アーツの訓練は欠かさずにやっていた。
そして、新暦71年四月に起きた空港火災事故により、スバルはなのはに助けられ、なのはと管理局に憧れ、管理局員を目指すようになると同時に自分も強くなりたいと言う思いからギンガからシューティング・アーツを習い始めた。
教えていたギンガ本人もスバルの成長を早く感じていた事から勉学以外の覚えについてもスバルは優秀だった。
「それにしても今回の航海でまさか彗星の核内部に隠れる事態になるなんて思いも寄りませんでした」
「そうね。でも、今回のこのデータは今後の航海で役に立つ筈よ」
ギンガの言う通り、八雲とおおすみが彗星の核内部へ隠れた実績は防衛軍の歴史の中でも今回が初の事例だ。
ギンガもそうであるが、ティアナも‥‥『元』が付くとは言え、管理局関係者でも初の実績だ。
なので、ギンガたちもこの事例の成功に対しては驚いている。
当然この事例は防衛軍司令部へ報告がいくだろう。
そして彗星内部の安全が実証された訳なので、今後敵を撒く際に近くを彗星が通り過ぎる際はこの回避方法も行われるかもしれない。
「それで、この後はやはり、アルファ星か地球へ還ると言う事でしょうか?」
「うーん‥‥どうだろう」
ティアナはバース星に届ける物は届けた訳だし、もうこの星には用は無いので、てっきりアルファ星か地球へ還るのかと思っている様だが、ギンガはこのまますんなりと帰還するとは思えなかった。
「えっ?どうしてですか?」
「ワクチンはバース星に搬入された‥今後はこの病気の規模も収束するだろうけど、ワクチンを打ったからといって病気は直ぐに治るモノではないでしょう?」
「た、確かに‥‥」
「だから、この病気が沈静化するまではこの星に留まる事になるんじゃないかしら?軍の人たちも感染しているみたいだし、私たちもワクチンは打っているけど、それが絶対に感染しないとは言い切れない‥‥感染者が居ない事が初めて分かってからこの星を出ないとアルファ星や地球でこの病気を流行らせてしまう事になるでしょう?」
「はい。そうですね」
ギンガの予測はまさに的中していた。
瓢が八雲に戻った後、八雲は暫らくの間バース星周辺の哨戒任務に就くことが伝達された。
(ギンガさんの予想通りになったわね‥‥)
(でも、今回は輸送船が同行しないから、多少は楽なのかしら?)
(でも、親ボラー派は多数でこちらは八雲一隻‥‥)
(包囲されればタコ殴りにならないと良いけど‥‥)
「なお、今回の哨戒任務にあたってバース星駐屯基地より、偵察機が譲渡される」
瓢が先ほどバース星駐屯基地における司令官とのやり取りの内容を八雲の艦橋員たちに説明する。
その中で駐屯基地から偵察機仕様のコスモタイガーが搬入される旨も伝えられた。
「偵察機が譲渡されるという事は、その機体のパイロットも補充される言う事でしょうか?」
ティアナが瓢に新たに偵察機のパイロットも八雲に乗艦するのかを訊ねる。
「いや、司令官からはパイロットについては聞いてはいない」
「‥‥えっ?と言う事は機体のみと言う事でしょうか?」
「そうなるのかのう」
(えっ?ちょっ、大丈夫なの?)
ティアナは瓢の対応に不安を覚える。
「ま、まぁ、搭乗員に関しては私とランスター戦術長はパイロットスキルがありますし、乗員の中には同じスキルがある乗員が代わる代わる搭乗する形にしましょう」
ギンガが偵察機の搭乗員についての案を出し、その案が採用された。
それから直ぐにバース星駐屯基地より偵察機仕様のコスモタイガーが八雲に搬入された。
その機体はギンガにとっては見た事のある機体であった。
暗黒星団帝国との戦いの最中、真田とトチローが三席タイプのコスモタイガーを改良した機体で、その時は物資や時間、状況等の関係からヤマトに一機のみ搭載されていたが、暗黒星団帝国の戦いの後、この偵察機仕様のコスモタイガーは防衛軍でも正式採用されて、真田の監修の下で生産されていた。
ギンガはこの機体は見た事はあるが、実際に乗った事はない。
今後の哨戒任務ではもしかして、この偵察機に搭乗するかもしれなかった。
ティアナも訓練校において砲術科以外に飛行科のカリキュラムを受講していたが、その飛行科のカリキュラムでも単座型の操縦訓練はもとより、古代、山本、椎名、ギンガたちと同じく、複座型の操縦訓練も受講していた。
よって、少なくともギンガとティアナはこの偵察機の操縦は出来る。
こうして偵察機を含めて、補給物資を積み込み、艦の補修が終わった八雲はバジウド星系の哨戒任務の為にバース星駐屯基地から飛び立った。
八雲がバース星駐屯基地を出航した頃、バジウド星系にある某宙域では‥‥
「ナタレンコフ隊長、本部より電文です」
「ん?内容は?」
「はっ、輸送船団の護衛任務です」
「なに?我々にか?」
「はい」
八雲とおおすみがアルファ星からバース星へ向かう中、妨害してきた親ボラー派のゲラーシモ・ナタレンコフの下に輸送船団の護衛任務が舞い込んで来た。
まさか、今度は自分たちが輸送船の護衛をするとは皮肉な展開だった。
「くそっ、輸送船団の護衛だなんて面倒な仕事を‥‥」
ナタレンコフは任務内容を聞いて愚痴を零す。
「ですが、輸送船団護衛は同志たちへの大切な物資です。この物資が届けば同志たちの士気もあがることでしょう」
「‥‥やむを得ない‥か‥‥」
ナタレンコフ本人にしてみれば、面倒な任務ではあったが、ガルマン・ガミラスからの解放の為に戦っている同志たちの為にもやむを得ないと思い、ナタレンコフは渋々護衛任務を引き受けた。
八雲 艦橋
「艦長」
「ん?なんだね?副長」
「哨戒中に親ボラー派の艦船を発見した場合、攻撃は許可されているのでしょうか?」
「ふむ‥状況‥そして、親ボラー派の戦力にもよるな‥‥副長は以前、まほろばに勤務していたのだろう?」
「はい」
「ヤマトと共に銀河系中心部への航海にてボラー連邦との戦闘も経験した筈だが、ボラー連邦の強みはその物量であったと聞いた。バジウド星系に潜んでいる親ボラー派がボラー連邦の艦隊と同規模の艦隊を運用しているとは思えないが、それでも此方は八雲一隻で相手は多数とみて良いだろう」
瓢はヤマト、まほろばが行った第二の地球探査任務の際に邂逅し、交戦したボラー連邦との報告書には目を通していた。
それはやはり、このバジウド星系にはボラー派の勢力が存在していたからである。
そもそもこのバジウド星系で暗躍している親ボラー派‥‥
以前、バース星を統治していたボローズはガルマン・ガミラスの東部進出を受け、本国への退路を断たれた事により、統治していたバース星を捨てて新天地を求め同志を募り、オリオン腕方面へと逃亡した。
その際、バース星を始めとして周辺の惑星国家にも自分と志を共にする者たちを集めていた。
ボラー関係者はもとより、ボラーからの統治を受け入れてボラーからの特権を貰い、同じ星の住民たちを虐げた権力者も同胞からの報復を恐れてボローズと共に逃亡した者たちも居た。
しかし、彼らはオリオン腕方面へ逃亡の際、ケンタウルス座・アルファ星を見つけ、一方的な攻撃をしかけるもまほろばを中心とする警備艦隊に返り討ちに遭い、最終的にバーナード星の戦いにて終幕を迎える結果となった。
だが、バジウド星系にはこの時のボローズと行動を共にせず、反ガルマン・ガミラス感情を抱いたまま、祖国防衛の為に戦っている者たちも居た。
その者たちこそが親ボラー派だった。
既にボラー本国からの支援は皆無に等しい中、親ボラー派は惑星国家間で独自のネットワークを構築し、ガルマン・ガミラスと戦っていた。
「仰る通りです。それにボラー連邦は誘導ミサイルを装備している厄介なミサイル艦や次元潜航艦も保有しています。このバース星付近での戦闘では、群狼戦術により、まほろばの月村艦長が負傷する事態に陥りましたから‥‥」
ギンガはあの時の航海を思い出しながらボラー連邦の艦船情報を瓢に伝える。
「群狼戦術か‥‥次元潜航艦に対して全く対処出来ない訳ではないが、多数で攻め込まれるとやはり、厄介な相手だな‥‥」
「艦長、此処は親ボラー派と鉢合わせをする前に艦の装備を熟知しておく必要があると思います。なので、早速ですが搬入したばかりの偵察機の試験飛行を兼ねて偵察機の先行偵察を具申します」
「ふむ、よかろう。副長の意見を採用しよう」
「はい。ありがとうございます」
「では、偵察機に乗る搭乗員についてだが‥‥」
瓢が偵察機に乗る搭乗員について応募をかけると、
「私が乗ります!!」
ティアナが志願した。
「では、オペレーターには私が乗ります」
偵察機型のコスモタイガーは二人乗りなので、もう一人の搭乗員にはギンガが志願した。
「むぅ~しかし、艦の幹部二人が抜けた後、君たちの身に万が一の事があると‥‥」
瓢としては副長のギンガ、戦術長のティアナが艦を留守にして、偵察中に何かあった時の事を危惧する。
瓢としては当然の懸念であった。
「艦長の懸念は当然でありますが、艦の装備を確認するのは戦闘面では戦術長は適任ですし、通信・戦術アドバイスに関しては副長の私が適任です」
「むぅ‥‥」
ギンガの返答に瓢は強く断れず渋々ティアナとギンガの二人を搭乗員として偵察機の搭乗を許した。
瓢の懸念は当たっていたが、ギンガの返答も今後の八雲の事を考えると当たっていたからだ。
「気密チェック完了、エネルギー問題なし」
偵察の許可が下りると二人は宇宙服を身に纏い、格納庫にて機体のチェックを行う。
「エンジン異常なし、発進します」
「うむ、くれぐれも気をつけてな」
「「了解!!」」
ティアナとギンガを乗せた偵察機は八雲を発進した。
「ギンガさん、通信・探知機器の状態はどうですか?」
操縦桿を操作しながらティアナは後部座席に居るギンガに機器の状態を訊ねる。
「機器はこれまで扱って来たモノと大して変わらないから大丈夫よ。広域レーダードーム作動開始‥‥相違差探知式センサー始動‥‥探査用シェイブビーム調整完了‥‥問題ないわ。ティアナこそ操縦は大丈夫?複座機の搭乗は訓練校卒業以来なんじゃない?」
ギンガは機器を操作しながら逆にティアナへ操縦について訊ねる。
「勘が鈍らない様にシミュレーションで復習はちゃんとしているので大丈夫ですよ」
ギンガもティアナも今の所、問題なく機体を操作していた。
その後も二人が乗る偵察機は先行偵察を続けていると、
ピコン!!
「ん?」
レーダーの反応をギンガは見逃さなかった。
「ギンガさん?」
「十時方向、距離一万五千で何かが反応したわ!!ティアナ!!」
「はい!!分かっています!!」
ティアナはレーダー反応があったとされる宙域へ機首を向けた。
偵察機が目標の方向へと近づいていくにつれて、レーダーの反応も強く、明確になっていく。
「ギンガさん、レーダー反応の正体は一体何なんですか?」
偵察機のレーダーが捉えた反応‥それは惑星か流星、アステロイドの類か?それとも‥‥
「分かったわ!!艦船反応よ!!」
「艦船!?それってまさか親ボラー派ですか!?」
バース星に来る途中で親ボラー派に妨害されたので、反射的にレーダーに反応した艦船は親ボラー派だと思ってしまうのも無理はない。
「もう少し近づいてくれる?そうしたら、確実に分かるわ。ただし、慎重にね」
「りょ、了解」
親ボラー派かもしれないと言う事でティアナは慎重に機体を接近させていく。
「分かったわ!!エネルギー反応からボラー型の艦船よ。ただ、これがガルマン派なのか親ボラー派かは流石に分からないわ」
「そうですよね」
バジウド星系におけるガルマン派の惑星国家の中にはバース星同様、ボラー連邦に支配されていた惑星国家もあり、これらの惑星国家がガルマン・ガミラスの手によって解放された後もボラー連邦の宇宙艦船をそのまま使用している惑星国家もあるので、レーダー反応からはボラー型の宇宙艦船だと言う事が判明しただけで、このボラー型宇宙艦船が親ボラー派なのか、ガルマン派なのかは分からない。
「味方識別信号で確認できれば一番早いけど‥‥」
「もしも、親ボラー派の場合、此方の存在と居場所を教える事になりますからね」
「ええ‥でも、親ボラー派だったら八雲に伝えないと‥‥」
「‥‥此処は危険ですが、更に接近して確かめますか?」
「‥そうね。ただ、艦隊を見つけた報告は八雲へ入れないと‥『こちら、先行偵察機、中嶋。ポイント〇〇地点にて、ボラー型艦船の艦隊らしき反応を捕捉‥‥』‥‥ん?」
ギンガは艦隊反応を捉えた事を八雲へと報告するが、何故か顔を顰める。
そんなギンガの様子に気づきティアナは何かあったのかと訊ねる。
「どうしました?」
「何か通信状況が悪くて‥‥」
ギンガが八雲へ通信を入れた際、インカムからはノイズ音がした。
「えっ?でも、この辺りは大きな惑星もありませんし、濃厚な電離ガスも見当たらないので、通信の妨げになるような要因は無いと思いますが‥‥?」
ティアナは周囲を目視にて、通信の妨げになる様なモノが存在していない事を確認する。
「‥‥もしかしたら、見つけた艦隊が妨害電波を流しているのかも」
「だとすると余計に怪しいですね‥‥」
「うーん‥でも、ガルマン派の艦隊が無線封鎖で行動中なのかもしれないけど‥‥」
「やっぱり此処は接近して確認しましょう‥‥」
ティアナとギンガは危険を承知でボラー型艦船の艦隊へと接近した。
ティナアとギンガが乗る偵察機が接近しているボラー型艦船の艦隊は、ナタレンコフの艦隊が護衛を務める輸送船団であった。
「ナタレンコフ隊長」
「なんだ?」
「未確認飛行物体らしき反応をキャッチしました」
「なに!?数は!?」
「一機です」
「一機?それは艦船ではなく、航宙機か?」
「はい。エネルギー反応からみて艦船ではありません」
「一機と言う事はガルマン・ガミラスの偵察機でしょうか?」
副官が意見を述べる。
「味方識別信号は?」
「反応ありません」
「隊長、味方識別信号が送られないと言う事は、接近中の未確認飛行物体は、やはりガルマン・ガミラスの偵察機とみて間違いないでしょう」
「それに通信妨害電波は流しているので、例え我々を発見できたとしても母艦には連絡をすることは不可能‥‥撃墜してしまえば我々の存在が明るみになる事はありますまい」
「うむ、迎撃機を出せ」
「はっ!!」
ナタレンコフが乗艦しているヴォルグは、セヴァストー級航宙戦闘艦でこの艦型は戦艦よりも空母に近い造りとなっており、かつてはバルコム率いるボラー連邦本国の第一主力艦隊の旗艦を務めるなど、ボラー系の艦隊では旗艦を務める程の能力があった。
ヴォルグからは戦闘機が未確認飛行物体の迎撃の為、三機が発進した。
この時、ナタレンコフは偵察機相手に戦闘機三機はあまりにも過剰戦力かと思う程の余裕があった。
とは言え、元々搭載している艦載機自体そこまで多くはなかったが、搭乗員の良い訓練になると言う思いもあった。
迎撃機が迫っている中、ティアナとギンガが乗っている偵察機は高性能のレーダーを供えている機体だったので、迎撃機の反応は直ぐに探知することが出来た。
「艦隊から迎撃機らしき飛行物体を捕捉‥‥どうやら親ボラー派の艦隊だったみたいね」
「妨害電波が出ている時点で薄々そうじゃないかと思っていましたが、迎撃機がお出迎えと言う事は、間違いなさそうですね」
「此処はあまり長居すると危険そうね」
「はい。通信が妨害されているとなると報告はもっと八雲に近づかないとダメですからね」
迎撃機に追いつかれる前にティアナは八雲に戻る事にした。
しかし、機体の上部に装備しているレドームのせいでこのままでは迎撃機に追いつかれてしまいそうだ。
「ギンガさん、このままだと敵の迎撃機に追いつかれてしまいます。勿体無いですが、レドームをパージします」
「うん。分かった」
ティアナはレドームをパージするレバーを引くと、機体上部に装備されているレドームが弾き飛ばされ、機体の質量が軽くなり速度が上がった。
しかし、親ボラー派の迎撃機も速度を上げて偵察機を追いかけて来る。
「くっ、しつこい」
(このままだと振り切れないかもしれないし、送り狼で八雲に連れて行ったら、連中に八雲の場所を教える事になる)
後方から追いかけて来る親ボラー派の迎撃機を振り切ろうとティアナは針路を左右に変更しながら振り切ろうとするが、此方が偵察機と言う事で情報を持ち帰らせないと言う思いからしつこく追撃して来る。
その反面、このまま敵の迎撃機を八雲へ連れて行くと親ボラー派に八雲の居場所を教える事になる。
今は三機であるが、その後に攻撃機の大編隊を八雲へ送って来る事も考えられる。
「ギンガさん!!後部機銃の用意をお願いします!!」
ティアナは振り切れない事態を考慮してギンガにレドームの下に装備されている三連装パルスレーザー砲の準備を任せる。
「了解、任せて!!」
ギンガも現状を理解していざという時は相手を撃墜する事も顧慮にいれなければならないと思いパルスレーザー砲の準備を行う。
そして、追いついて来た迎撃機はパルスレーザー砲の掃射を浴びせて来る。
「くっ‥‥」
ティアナは機体を上方へ捻り込ませて相手の後ろにつくとお返しと言わんばかりにパルスレーザー砲を撃ち、まずは一機を撃ち落す。
「まずは一機‥‥」
残る二機も撃ち落さなければ、親ボラー派の追撃は振り切れそうにないので、残りの迎撃機も撃ち落すつもりだった。
一方の親ボラー派の迎撃機のパイロットたちは『敵の偵察機を撃墜しろ』と命じられて出撃した時、偵察機なので、大した武装は施されていないだろうから、追いつくことが出来れば簡単に撃墜することが出来るだろうと予想していた。
そして実際に追いついた時、
「ん?ガルマン・ガミラスで使用されているスマルヒとは全然違う型だな」
「ガルマンの新型か?」
当初、迎撃機のパイロットたちは『敵の偵察機』と言われた際、相手はガミラス時代から偵察機として使用されているFG156 スマルヒかと思っていた。
しかし、実際に遭遇した機体がスマルヒとは全然違う機影をしていた。
まさか地球の偵察機型のコスモタイガーだとは思わず、ガルマン・ガミラスの新型偵察機かと思った。
例え新型機であろうとなかろうと自分たちの任務は敵の偵察機を撃墜する事なので、攻撃をしないという選択肢はない。
すると、敵の偵察機は機体の一部をパージしたかと思ったら、速度がさらに増した。
「こいつ、ただの偵察機じゃないぞ!!」
「は、早い!!」
「慌てるな!!例え早くても偵察機は偵察機だ!!大した武装はない!!こちらも速度を上げろ!!何としてでも撃墜するぞ!!」
「「了解!!」」
親ボラー派の迎撃機も速度をあげて敵の偵察機へ攻撃をしかけるが、相手は捻り込みをかけ、逆に自分たちの後方へとつけると友軍機を一機撃ち落す。
「ダロス!!くそっ!!」
友軍機を撃ち落され、親ボラー派の迎撃機側も絶対にあの偵察機を撃ち落してやると意気込む。
「後ろを取れば‥‥」
偵察機、戦闘機と言えど、背後をとれば攻撃は出来ないと思いきや、
ダダダダダダダ‥‥
後部にある銃座からパルスレーザー砲を撃って来た。
「ぐわっ!!」
「ステリス!!くそっ!!」
突然の後部からの攻撃で更に友軍機が落とされた。
「あと一機!!」
「ナイス攻撃です!!ギンガさん!!」
残る迎撃機は一機‥‥
迎撃機は正面と後部に武装が施されている事に警戒して横から回り込んできた。
「ティアナ!!十時方向から来たわよ!!」
「了解!!」
ギンガから敵機の来る方向を聞いたティアナは、機首を反転させ、旋回し相手の後ろにつく。
「ランスターの弾丸は全てを撃ち抜くってね!!」
ティアナは照準器で捕捉した敵の迎撃機に向けてパルスレーザーの発射ボタンを押す。
するとティアナが撃ったパルスレーザーは吸い込まれるかのように敵の迎撃機へと命中する。
「ラスト!!」
三機の迎撃機を全て撃墜した。
「もう、追ってはこないわね‥‥」
「ええ、追加の迎撃機の反応は無いわ。八雲へ帰還しましょう」
「了解」
親ボラー派の迎撃機からの追撃を振り切ったと判断したティアナとギンガは八雲へと戻った。
格納庫へと戻って来た偵察機の姿を見て、整備担当は、
「あれ?レドーム、パージしちゃったんですか?」
出撃した時と帰還した時の偵察機の姿が違っていたので、パイロットを務めていたティアナに訊ねる。
「ええ、途中で親ボラー派の艦載機に追われてね」
「えっ!?えええええー!!」
ティアナの返答を聞き整備員は驚く。
「大丈夫よ。追って来た敵機は全部撃墜したから」
そんな整備員を尻目にティアナはあっさりと追手を返り討ちにしたことを告げる。
「私たちはその件について艦長に報告を入れて来るから、替えのレドームを付け直しておいてくれるかしら?」
「分かりました」
ギンガはレドームを偵察中にパージしてしまったので、バース星で偵察機と共に搬入したレドームを付け替えておくように頼み、整備員は了承した。
その後、ティアナとギンガは瓢に先ほどの偵察行動における報告をいれた。
「なるほど、親ボラー派の艦隊か‥‥」
「はい。ただこちらの映像を見ると、武装している艦の存在も確認できますが、大半がガルマン・ガミラスからの情報で得たボラー型の輸送船である事が確認できます」
ボラー型宇宙艦船の武装は格納式なので、一見すると非武装艦に見える。
管理局もこの特徴を見誤った結果、返り討ちに遭い更にその先の大敗北を招いた。
そのボラー連邦と銀河系を二分する戦いをしてきたガルマン・ガミラスはボラーの武装艦なのか非武装艦なのかは区別がついており、その情報は同盟国である地球連邦にも共有されていた。
ガルマン・ガミラス側の情報から先ほどティアナとギンガが発見した親ボラー派の艦隊は大半が輸送船で構成されている事が偵察機で撮影した映像から判明した。
「輸送船で構成されている艦隊‥‥輸送船団か‥‥」
「恐らく」
「それで、この輸送船団はガルマン派の輸送船団ではないのだな?」
「はい。迎撃機を飛ばして此方を攻撃してきましたから間違いありません」
「艦長、この情報をガルマン・ガミラスに通報しますか?」
「そうだな。輸送船団と言う事は、どこかの戦線へ運ばれる戦術物資と言う事だろうからな」
瓢はティアナとギンガからの報告を受け、ガルマン・ガミラス東部方面軍へ輸送船団を発見した旨を通報する。
するとガルマン・ガミラスからは次元潜航艦を援軍として派遣するので、その艦と共に親ボラー派の輸送船団の殲滅を依頼された。
「援軍が次元潜航艦って‥‥戦艦や空母の援軍はないの?銀河系を二分する勢力なのに‥‥」
ガルマン・ガミラスからの返答を聞き、愚痴を零すティアナ。
「今のガルマン・ガミラスはボラーとの戦いを激化させているから、辺境の抵抗勢力なんて真面目に取り合わないのかもしれないわね」
ベムラーゼが金星宙域で戦死してからボラー連邦内は当然、大混乱となる。
ベムラーゼの他に総参謀長のゴルサコフ、バルコムを始めとする第一、第二主力艦隊、ハーキンスを含む第八打撃艦隊とボラー連邦宇宙軍の中核をなす指揮官と艦船を喪失している事から政治的以外に軍事でも混乱が起きていた。
ガルマン・ガミラスとしては当然そのチャンスを見逃す手はなく勢力拡大を一時停止してボラー連邦の殲滅へ切り替えた。
その為、北部方面軍と東部方面軍は競い合うかのようにボラー連邦領土への侵攻をしており、東部方面軍としてはバジウド星系の抵抗勢力の相手などに貴重な戦力を投入なんて出来なかった。
事実、ダゴン率いる第十八機甲師団も今はボラー連邦領内への遠征をしている。
地球側としてはバジウド星系の治安維持は今後のバース星、ガルマン・ガミラス本星への航路安全に関わる事態だ。
「まぁ、バース星への航海と違って今回はちゃんと援軍を送ってくれた事だけでもありがたいじゃない?」
「それはそうですけど‥‥」
何か納得できはしないが、援軍を送ってくるだけギンガの言う通りマシなのだろう。
こうして八雲はガルマン・ガミラスから送られてくる次元潜航艦と共に親ボラー派の輸送船団を攻撃する事になった。
此処で視点はバジウド星系からミッドチルダへと移し、時間も過去へ遡る。
ミッドチルダ 無限図書館
「あっ、そう言えば教授、あれから調査は進んだのかな?」
ユーノは以前、ミッドチルダの大学で考古学を教えている同じスクライア族のランティスから他の管理世界における遺跡調査のバイトに誘われて久しぶりの遺跡調査をした。
滅んだ文明で文献も乏しいと言う事で、その言葉の解読には時間がかかるとランティスはユーノに言っていたが、自分も調査を手伝ったので進捗が気になったのだ。
ユーノは大学に居るランティスへ連絡を取った。
「教授」
「おお、スクライア君か。久しぶりだな」
「はい。それで教授、この前の遺跡調査ですが、何か分かった事はありましたか?」
「ああ、あの後色々と伝手や伝承を調べて来たが、やはり記録が乏しいだけに中々調査は進まない」
「そうですか‥‥」
ランティスの返答にユーノは少々がっかりな様子。
「だが、全く進んでいない訳ではない。いくつか解読が出来た単語はある」
「えっ?本当ですか!?」
「ああ、あの時発掘した粘土板に記された文字らしき単語で『水』と言う言葉があった」
「みず?‥‥ですか?」
「うむ、まだ全ての単語の解読が出来ている訳ではないが、この粘土板は水に関係する事が書かれているのだと推測される」
「水に関する事‥‥水路の設計図や水害の伝承って事も考えられますね」
「ああ。今後もこの粘土板に書かれた文字の解析は続けていくつもりだ。あとは‥‥」
「ん?まだ何かあるんですか?」
「実は先日、第六管理世界のアルザスにある洞窟で壁画が発見された」
「壁画‥ですか‥‥」
(ん?第六管理世界のアルザスって言えば、フェイトが後見人を務めている子‥‥確かキャロって言う子の故郷だ‥‥)
第六管理世界アルザスと聞いて、ユーノの脳裏にはフェイトが後見人を務めている元機動六課に所属していた桃色髪の少女の姿が思い浮かんだ。
「それで教授。どんな壁画だったんですか?」
「私も実際にこの目で見た訳ではないが、発見した際の画像はこちらに送られてきている。コレだ」
ランティスはユーノに、タブレットに保存されているアルザスの洞窟で見つかった壁画の画像を見せる。
「こ、これは!?」
その画像を見てユーノは思わず声をあげる。
「これは‥‥もしかしてヴォルテール?」
壁画に描かれていたのはキャロの使役竜の一体であるヴォルテールにそっくりな黒い竜の姿が描かれていた。
「ああ、あのJS事件の際、クラナガンに現れた巨大な竜の一体にそっくりだろう?」
「ええ‥‥でも対に描かれているもう一体の灰色の竜‥‥こちらは見覚えがありませんね」
JS事件における決戦時、キャロは当時、スカリエッティ陣営に所属していたルーテシアと戦い、キャロはヴォルテールを‥そしてルーテシアは巨大な昆虫型の使役獣である白天王を召喚し戦った。
白天王の姿は文字通り、白を基調とした巨大な昆虫に似た使役獣であるが、壁画にヴォルテールのついと成すように描かれているのは灰色の竜なので、白天王とは似ても似つかない姿なので、灰色の竜は白天王とは違う様だ。
「この壁画についてはアルザスの民に聞けば何かわかるだろう」
「それについては知り合いが後見人を務めている子にアルザス出身の子が居ます。それにその子は壁画に描かれている竜にも関係している子なので、何かわかるかもしれません」
「そうなのかい!?」
「はい。近い内に後見人を務めている知り合いとコンタクトを取ってみますね」
「ああ、頼むよ」
アルザスの洞窟に描かれていたヴォルテールともう一体の竜の壁画‥‥
キャロならば、きっと知っているだろうとユーノは確信があった。
果てして壁画に書かれているもう一体の竜の正体とは?
ユーノとランティスがその竜の正体を知るのはもう少し先の出来事であった。