星の海へ   作:ステルス兄貴

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今回の話ではキャロの設定に一部オリジナル設定が含まれています。


百八十六話 アルザスの竜伝説

 

 

フェイトが士官学校へ入校してからクロノとはちょくちょく連絡を取っていたが、今日フェイトに連絡をいれてきたのは、はやてであった。

 

はやてもフェイトが士官学校へ入り直したのは知っていたが、ここ最近は仕事が忙しくフェイトの様子を聞くため連絡が出来ない状態が続いたが、本局がはやてに乗艦している艦の変更を打診してから宇宙へ行く事がなくなり、引き渡しの書類仕事となり、ようやくその仕事が終わり、時間が出来たので、士官学校へ入り直した友人の様子を知る為に連絡を入れたのだ。

 

「フェイトちゃん、久しぶりやな」

 

「はやても元気そう‥‥じゃないね」

 

フェイトから見たはやては何だかげっそりとしており、彼女の顔色を見ただけではやてが疲れている事が窺える。

 

「うん‥‥最近、仕事が忙しくてな‥‥」

 

「そ、そうなの?た、大変だね。ゆっくり休んでね‥‥でも、はやてが元気ないのってただ仕事が忙しいだけじゃないんじゃない?」

 

「‥実は‥‥」

 

はやてはフェイトにヴォルフラムが廃艦処分になり、自分は別の艦へ異動になった事を告げる。

 

「そっか‥‥ヴォルフラムが‥‥」

 

「いくら、次世代の次元航行艦が完成したからってなにも直ぐになんて‥‥」

 

はやてとしてもヴォルフラムは初めて自分が艦長を務めた艦なので思入れがあったのだろうが、それが短期間の間で異動となりヴォルフラムは解体処分と言う現実は、はやてにしてみれば残酷だった。

 

「‥‥でも、はやて。視点を変えてみれば、艦の性能が上がったのなら、乗員の生存確率が上がるって事じゃない?」

 

フェイトは、はやてに視点を変えた観点で語る。

 

「クロノから聞いたけど、ボラーへの武力制裁はまさに生き地獄だったみたいだし、私とティアナもあの世界で宇宙空間での戦闘を見たけど、艦の性能が低かったりするとそれは乗員の死を意味しているんだよ。あの世界もガミラスって言う星間国家と戦争している時、当時の防衛軍の宇宙艦船じゃあ、ガミラスの宇宙船に全然歯が立たなくて一方的にやられていたのを私は映像で見たよ」

 

「‥‥」

 

はやてはボラーへの武力制裁に参加していないし、防衛軍が経験した戦争の様な激戦の経験もない。

 

一応、太陽系に侵攻してきた彗星帝国残党と防衛軍の戦闘映像を見てはいるが、それはガミラス戦役時のモノとは比ではない。

 

一方でフェイトは第二次イスカンダル航海で生死が掛かった宇宙での戦いを経験しているし、もう一つの地球が辿って来た歴史も映像を見てその凄まじさを知っている。

 

確かにはやての気持ちは分からない訳でもないが、それでも自分を含めて大勢の乗員の生命が守られるなら割り切るしかない。

 

「そうやな‥‥フェイトちゃんの言う通りや‥‥私は艦長なんやから乗員の生命を守らなあかんな‥‥」

 

「うん。例え艦が変わっても乗員は変わらないならそれだけでもありがたい事だよ」

 

「ありがとな、フェイトちゃん。フェイトちゃんの言葉を聞いてなんだかやる気が出て来たわ」

 

「それは良かったよ」

 

フェイトの助言ではやてはやる気を取り戻せたようだ。

 

その後フェイトは、はやてに士官学校での出来事を話し久しぶりの友人との会話を楽しんだ。

 

「はやては、もう次世代の次元航行艦には乗ったの?クロノはこの前乗ったって言っていたけど?」

 

「あぁ~私はまだ乗っていないんや」

 

「そうなんだ‥‥クロノが言うにはこれまでの次元航行艦とは雲泥の差みたいだよ」

 

「そうなんか‥‥それだと訓練も大変そうやな」

 

「うん。それ以外に私としては将来的にある懸念があるんだけどね」

 

「懸念?」

 

「うん。これはクロノも同じ懸念を抱いていたけど、管理局が力をつけた時、ボラー連邦やもう一つの地球に対して報復をするんじゃないか?って‥‥」

 

「あぁ~‥‥それは確かにあり得そうやな‥‥」

 

クロノとフェイトが抱いた懸念を聞き、はやても二人が抱いた懸念はあり得ると同意する。

 

「それに管理局が得た技術が外部に流出する可能性だってあるしね」

 

「管理局がようやっと得た技術を外部に流すやろうか?」

 

フェイトのこの懸念については、はやてはやや懐疑的である。

 

「私は十分にあり得ると思っているよ。海鳴で回収した筈のジュエルシードがスカリエッティのガジェットに使用されていた事例があるからね。大金欲しさにマリエルさんとシャーリーが開発したエンジンの設計図を盗んでテロリストや海賊に売り渡すかもしれないでしょう?」

 

「うーん‥‥言われてみるとあり得ないとは言い切れへん」

 

はやて自身、六課の隊長を務め、撃破したガジェットからジュエルシードが出て来た経緯から見るとあながちフェイトの言う事もあり得ないとは言い切れない。

 

「でも、残念なことに技術が大きく広がっていくとすれば、いずれはその技術は遅かれ早かれ外部に流出してしまうだろうから、管理局はその時に備えてそれなりの力を蓄えないといけないし、今後はテロリストや海賊たちも同等の力をつけてくると思った方が良いだろうね」

 

「そ、そうやね‥‥」

 

フェイトの未来予測にはやては顔を引き攣らせる。

 

「それにしてもマリエルさんもシャーリーも何時から次元航行艦のエンジンの研究をしていたんだろう?」

 

次元航行艦のエンジンの研究・開発なんて膨大な時間がかかる。

 

自分の生みの親であるプレシアも管理局側の無理な要求があり、研究・開発をしていた魔導炉のヒュードラが暴走してしまいその結果、研究所へ見学に来ていたアリシアを失う結果となった。

 

マリエルもシャーリーも技術者としては確かに優秀であるが、贔屓目を抜きにしてもプレシアの方が優秀な印象がある。

 

そんなプレシアでさえ、開発に時間がかかり更に失敗に終わったのだから次元航行艦のエンジンの開発は時間がかかり難しいモノだ。

 

フェイトがもう一つの地球に居る間に研究開発をしていたのかもしれないが、それにしても時間が足りない様に思えた。

 

「えっ?ま、まぁ、フェイトちゃんも知っての通り、マリエルさんもシャーリーも優秀な技術者やし、当然の結果ちゃうんかな?」

 

ミノフスキーの存在は管理局の中でもトップシークレットだったので、はやてもいくらフェイトが親友でも教える事は出来なかった。

 

そもそも管理局が新開発した次元航行艦のエンジンもマリエルとシャーリーよりもミノフスキーが中心になって開発したモノだ。

 

それを管理局がボラー連邦出身であるという理由からひた隠しにし、ミノフスキー本人も不審死している。

 

彼の死については未だにヴィータ、マリエル、シャーリーの三人は疑問視している。

 

はやての態度から彼女が何かを隠している事を察したフェイトであるが、隠さなければならない事情があるのだから、そこは敢えて聞かなかった。

 

「ほな、フェイトちゃん。勉強頑張ってな」

 

「うん。はやても仕事頑張ってね」

 

はやては新たな艦の艦長として乗員たちと共に訓練、そしてフェイトは士官学校での勉強や試験と互いにやる事がまだまだあり、切りが良い所で通信を終えた。

 

(はやても色々と大変そうだけど、私も士官学校を卒業したら、そう言う世界に行くんだから、今の内から頑張らないと!!)

 

はやての姿を見てより一層勉学に励もうとするフェイトであった。

 

それから数日後‥‥

 

再びフェイトに連絡を入れて来た人物が居た。

 

その時、連絡をいれてきたのはクロノでもはやてでもなく、フェイトにしてみれば意外な人物であった。

 

「フェイト、久しぶり」

 

「あっ、ユーノ。久しぶり」

 

今日、フェイトに通信をいれてきたのはユーノであった。

 

士官学校の生徒になる前、もう一つの地球に居る間は無限書庫にこれといった用がなかったので、フェイトはユーノとはしばらくの間、交流がなかったので、こうしてモニター越しとは言え、ユーノと会うのはフェイトとしても久しぶりであった。

 

「クロノから聞いていたけど、士官学校の生活はどうだい?」

 

「色々と学ぶことがあって大変だけど、卒業したらもっと大変そうだから今は修行中って感じかな?」

 

フェイトはユーノに先日、はやてと連絡をとった事を話した。

 

「そうか‥はやてとも最近会っていなかったけど、はやてもはやてで色々と大変そうだね」

 

「うん。それで、今日はどうしたの?」

 

フェイトはユーノが世間話をするためにわざわざ連絡を入れて来たんじゃないと分かっていたので、ユーノが一体何の用で連絡を入れて来たのかを訊ねる。

 

「うん。実はフェイトが後見人を務めているキャロって言う子についてなんだけど‥‥」

 

「ん?キャロ?」

 

「ああ、実は用があるのはキャロなんだ」

 

「キャロに?一体キャロに何の用があるの?」

 

フェイトも自分が後見人を務めているキャロにユーノが一体何の用があるのか気になった。

 

「先日、僕の知り合いの大学教授の下にアルザスの洞窟で見つかった壁画の鑑定依頼が来たんだ」

 

「アルザス‥‥キャロの生まれ故郷だね‥‥」

 

「ああ、それでその壁画にキャロの使役獣であるヴォルテールそっくりの竜が描かれていたんだ」

 

「ヴォルテールの壁画!?」

 

「うん。もしかしたら、ヴォルテールそっくりの竜であって、壁画に描かれている竜がヴォルテールとは限らないかもしれない。いずれにしてもキャロにその壁画を見てもらって意見をもらわないと何とも言えないんだ」

 

「そう‥‥分かった。キャロには私の方から言っておくよ」

 

「そうかい?ありがとうフェイト」

 

「ただ、私もその壁画が気になるから出来れば私もその場に立会いたい。キャロにもしばらく会っていないし‥‥」

 

「分かった。日程調整はそっちに任せるよ」

 

「うん。分かったらユーノに連絡をいれるね」

 

「ああ。それじゃあ」

 

ユーノとの連絡を終えたフェイトは次にキャロへと連絡をとった。

 

 

 

自然管理世界 ポルテ

 

 

「ル・ルシエ一士」

 

「は、はい」

 

「ミッドチルダのフェイト・テスタロッサ・ハラオウンさんから連絡がきています」

 

「えっ?フェイトさんから?」

 

同僚にフェイトから連絡が来たことでキャロは驚きつつも久しぶりにフェイトと会えると言う嬉しさから急ぎ対応する。

 

「キャロ、久しぶり」

 

「フェイトさん!!フェイトさんも久しぶりです!!‥‥って、あれ?フェイトさん制服が‥‥」

 

モニターの向こうに居るフェイトはキャロが見慣れている本局の執務官の制服ではない別の制服を身に纏っていた。

 

「どこか別の部署に異動したんですか?」

 

六課の時は“陸”の制服を着ていたので、今回のそれと似たようなモノかと思いキャロはフェイトに訊ねる。

 

「ううん。異動じゃなくて、士官学校に入り直したの」

 

「えっ!?士官学校!?」

 

(あっ、そう言えばキャロとエリオには士官学校へ入り直した事、言うのを忘れていた‥‥)

 

あまりにも周囲で色々とあり、士官学校に入り直した際も勉強や演習やらで、後見人であるエリオとキャロに自分が士官学校に入り直した件について伝え忘れている事を思い出したフェイト。

 

キャロの方も、もう一つの地球から戻って来たフェイトが執務官から士官学校の学生になっていた事に驚いていた。

 

「ど、どうして士官学校に入り直したんですか!?フェイトさん執務官なのに‥‥」

 

キャロとしては既に執務官となっているのだからわざわざ士官学校へ行く理由が分からなかった。

 

「もう一つの地球で過ごして色々と思う所があってね‥‥ティアナも私と同じでもう一つの地球に残ったんだよ」

 

語れば長くなりそうなので、一言で片付けるフェイト。

 

「それで、キャロ。今日はキャロに協力して欲しい事があるの」

 

「えっ?私に?何でしょう?」

 

「実はさっき、ユーノから連絡があって、アルザスの洞窟である壁画が見つかったらしいの‥‥」

 

「あ、アルザス‥‥」

 

フェイトの口から自分の生まれ故郷の名前が出て来てキャロの表情がやや沈む。

 

「キャロにとってアルザスにいい思い出が事は分かっているけど、話を聞いてほしい」

 

キャロの後見人を務めているフェイトはキャロの境遇を当然知っていた。

 

「は、はい‥‥」

 

フェイトの言葉にキャロは頷く。

 

キャロが何故、生まれ故郷の話を聞くのが嫌なのか?

 

それはキャロの生まれに関係していた。

 

第六管理世界アルザスのル・ルシエと言う土地でキャロは生を受けた。

 

そしてその地にて、彼女は竜を使役する巫女としての類い稀なる素質を持っていた。

 

しかし、『出る杭は打たれる』 『触らぬ神に祟りなし』 『危険の芽を摘む』 これらの言葉に当てはまるかのようにその力を恐れた村の長老からキャロは集落を追放されてしまった。

 

新暦71年に追放されたのだが、この時キャロは六歳の子供であった。

 

彼女の両親も村の長が決めた事は逆らえなかったのか、キャロと共に村を出る訳でもなく、まだ六歳と言う幼子であるキャロを捨ててその後、連絡も一切寄越していない。

 

尤もル・ルシエにおいて、ミッドチルダからの情報が遮断されている可能性もあり、キャロが管理局員として働いている事を知れば両親は連絡を寄越すかもしれないが、一方で生活苦であった場合、捨てた自分の子供に生活費の援助を頼むかもしれない。

 

何せ長老の命令とは言え、キャロの両親は六歳の我が子を捨てたのだ。

 

集落でも肩身の狭い思いをしているに違いない。

 

両親も近所の人たちから我が子を捨てた毒親として白い目で見られているかもしれないが、キャロ本人はもっと悲しく苦労したのだから、肩身が狭い生活を強いられるのも両親の自業自得である。

 

故にキャロにとって、アルザスは自身の生まれ故郷ではあるが、同時に悲しく辛い過去のある世界なのだ。

 

「それでアルザスにある洞窟で、壁画が見つかったんだけど‥‥」

 

「壁画‥‥ですか?」

 

「うん。それでその壁画に描かれている竜がヴォルテールにそっくりみたいなの」

 

「えっ?ヴォルテールの壁画!?」

 

ヴォルテールと契約して、アルザスである一定期間過ごしたキャロもまさか自分の使役獣の壁画があるなんて知らなかった。

 

「それでユーノの知り合いの大学教授がその洞窟で見つかった壁画の画像を持っているみたいで、キャロの意見を聞きたいって言っているんだけど、キャロに協力して欲しいの‥‥」

 

「‥‥」

 

キャロは暫し考え込む。

 

「私自身もその壁画とヴォルテールの関係性は気になっている。もしかしたら、今後キャロの将来に何か関係してくるかもしれないから」

 

「わ、分かりました。協力します」

 

幼いときに故郷を追放された悲しい過去があるが、その後フェイトやエリオを始めとする大勢の出会いを経験して今の自分があり、キャロは今の環境に満足している。

 

それが今後、何かに巻き込まれ今の生活環境が大きく変化するかもしれない。

 

そうなる前に打つべき手は打っておかなければならない。

 

そうした未来への不安からキャロは今回の件について協力することにした。

 

その後、キャロとフェイトは日程調整を行いフェイトの休校日に合わせてキャロがポルテから一時的にミッドチルダへと戻り、二人でユーノの知り合いが居るとされる大学へ行く事になった。

 

「ごめんね。キャロ‥嫌な事を思い出させちゃって‥‥」

 

「いえ‥確かにアルザスでの出来事は辛くて悲しい事でしたが、今の私があるのはそんな過去を経験して乗り越えた結果ですから‥‥もし、故郷を追放されなかったらフェイトさんやエリオ君とも会えなかったですし‥‥」

 

「キャロ‥‥」

 

「では、ミッドで会えるのを楽しみにしています」

 

「うん。私もだよ、キャロ」

 

キャロとの通信を終えたフェイトは再びユーノへ連絡を入れて、日程を組んだのだった。

 

それから暫くして‥‥

 

士官学校の休校日、フェイトの姿は次元航行船の発着乗り場にあった。

 

「あっ、キャロ!!」

 

「フェイトさん!!」

 

到着口の近くにてフェイトは待ち人であるキャロの姿を確認すると声をあげる。

 

キャロの方も自分を迎えに来てくれたフェイトに声を上げて駆け足で彼女の下へと向かう。

 

ただ同僚であるエリオの姿はなかった。

 

確かにエリオはキャロの相棒ではあるが、今日用があるのはキャロであったので、エリオとキャロの使役獣であるフリードはポルテで留守番だった。

 

フリードは卵の時からキャロと一緒だったのだが、何か最近は自分よりもエリオと一緒に居る時間が多い気がするキャロであった。

 

「キャロ、元気だった!?大きく‥‥なった?」

 

モニター越しではなく実際に出会った頃と今日のキャロの身長はあまり変わっていない印象を受けたので、フェイトは身長の件に関しては疑問形になっていた。

 

「‥‥いえ、身長は相変わらずです」

 

どうやらキャロはフェイトと最後に会った頃とは変わっていなかったようだ。

 

同年代のエリオはまぁ、男性と言う事で身長が伸びているが、キャロは相変わらず身長が伸びずにいる。

 

身長が伸びない自分と異なり、同性であるルーテシアの方は身長も胸も成長しており、キャロとしてはちょっとしたコンプレックスとなっている。

 

(そう言えば、チンクも身長に関しては何か悩んでいたな‥‥)

 

今は士官学校の同期であるチンクもノーヴェやディエチ、ウェンディの姉なのだが、身長が反比例して一番低い現実に対してキャロ同様コンプレックスを抱いている事をフェイトは士官学校での生活で何度か目撃した事があった。

 

キャロとチンクにとって身長の話題は地雷みたいだ。

 

 

その後、フェイトとキャロはユーノの知り合いが居るとされる大学へと向かった。

 

本音を言えば、久しぶりに会ったキャロとショッピングや食事をしたかったが、今日の主目的は大学教授と会い、アルザスの洞窟で見つかった壁画の意見交換なので、キャロとのお出かけはソレが終わった後だ。

 

恐らくキャロ本人もフェイトと同じ気持ちなのだろうが、自分の未来に関係するかもしれない事なので、まずは大学での仕事を終えてからフェイトと出かけようと決めていた。

 

「あっ、フェイト!!」

 

大学の校門ではユーノが待っていた。

 

「あっ、ユーノ!!」

 

「君がキャロちゃん?」

 

「は、はい。キャロ・ル・ルシエです」

 

ユーノとキャロは何気に今日が初代面でであった。

 

六課が稼働している中、なのはとはホテルアグスタで会ったりしたが、六課のFW陣とは会ったり交流したりはしていなかった。

 

「僕はユーノ・スクライア。今日はわざわざ来てくれてありがとう」

 

「い、いえ、私で良ければ‥‥」

 

「この大学に勤めている教授は僕の知り合いでね。考古学に情熱を傾けるちょっと変わり者だけど、怖くはないから緊張しなくても良いし、壁画について何も分からなくても構わないから」

 

「は、はい」

 

「それじゃあ、行こうか」

 

ユーノはフェイトとキャロをランティスの研究室まで案内した。

 

「教授、先日お話をしたアルザスの出身の方を連れてきました」

 

「ご苦労様、スクライア君。そしてようこそ、我が研究室へ!!私はこの大学で考古学を教えているランティス・スピアーノです」

 

「初めまして、キャロ・ル・ルシエです」

 

「キャロの後見人を務めているフェイト・テスタロッサ・ハラオウンです」

 

「よろしく」

 

「それでスピアーノ教授、早速ですが、キャロに見せたい壁画と言うのはどんな壁画なのでしょう?」

 

「ふむ、では早速見てもらおう。見やすいようにそこのスクリーンに投影する」

 

ランティスは部屋の電気を消し、暗幕カーテンを敷くと研究室は暗くなるが、パソコンとスクリーンを作動させると青白い光が灯り、やがてスクリーンには例の壁画が映し出される。

 

「これがアルザスの洞窟で見つかった壁画だ」

 

「これは‥‥」

 

「‥‥」

 

壁画に映し出された壁画には確かにキャロの使役獣の一体であるヴォルテールにそっくりな竜が描かれて来た。

 

その姿にフェイトは驚き、キャロ本人は唖然としていた。

 

「どうだろう?この竜に見覚えはないかい?」

 

「こ、此処に描かれている竜の内、一体は間違いなく私の使役獣であるヴォルテールで間違いありません」

 

「そうか‥‥」

 

キャロは壁画に描かれている竜の一体はヴォルテールで間違いないと断言する。

 

「それで、一体はヴォルテールで間違いないとして、もう一体の竜について何か知っている事はないかい?」

 

「うーん‥‥」

 

キャロはヴォルテールと対を成すように描かれているもう一体の竜をまじまじと見るが、

 

「いえ、この様な姿の竜は見たことはありません。そもそもこの様な壁画がある事、事態今日初めて知りました」

 

「そうか‥‥」

 

もう一体の竜についてキャロは身に覚えがなかった。

 

キャロが見た事も無い竜ならば当然、フェイトも見たことが無い。

 

「それともう一つ、この壁画には二体の竜の他に文字らしきモノも描かれていたんだ」

 

ランティスはパソコンを操作して壁画の画像をズームして竜以外に文字らしきモノが描かれている部分を大きく見せる。

 

「アルザスの洞窟で見つかったからアルザスの文字だろうと思い、私はアルザスにある様々な地方の文字を調べた‥‥君の生まれ故郷であるル・ルシエの文字もだ‥‥しかし、どの地方にもこのような文字は存在していなかった‥‥この文字については何か分かる事はないかい?」

 

「この文字は死滅した古代のル・ルシエ文字です」

 

もう一体の竜については見覚えがなかったキャロであったが、文字らしきモノについては見覚えがあった。

 

「古代ル・ルシエ文字‥‥しかも死滅した‥‥」

 

「なるほど、私が調べたのはアルザスの現代語ばかりだったからヒットしなかったのか‥‥」

 

ランティスは自分が解読できなかった理由を知り、納得した様子。

 

「それで、キャロ。貴女はこの文字は読める?」

 

フェイトがキャロにこの死滅した古代文字を読むことが出来るかを問う。

 

「うーん‥‥」

 

キャロは昔の記憶を掘り起こす。

 

キャロがル・ルシエに居たのは僅か六年間と言う極めて短い期間であり、この文字見たのも自分の家にあった古い古文書であり、その古文書自体も全てを読んだ訳ではない。

 

(あれ?何だかこの絵を見ていると頭がボォっとしてくる‥‥)

 

しかし、この壁画を見ていると何だか意識が遠のいていく様な感覚となっていく。

 

「‥‥」

 

「キャロ?」

 

キャロの様子が何だか変な事にフェイトは気づき、声をかけるもキャロはボォッとしているように見えた。

 

やがて、キャロの目から光が消えると彼女は徐に口を開いた。

 

「アルザスの守護竜ヴォルテール‥‥その大いなる力を持ちアルザスの民を守護するモノなり‥‥」

 

「「えっ?」」

 

「キャロ?」

 

突然言葉を走ったキャロにユーノ、ランティス、フェイトは唖然とする。

 

「アルザスの破壊竜ヴォルデモート‥‥アルザスに災いを齎す者を青き破壊の光によって滅ぼすモノなり‥‥」

 

「ヴォルデモート‥‥それがこのもう一体の竜の名前か‥‥」

 

「キャロ、本当に大丈夫?」

 

「えっ?」

 

フェイトに再び声をかけられてキャロはハッと正気を取り戻した様子。

 

「わ、私‥‥今、何を‥‥」

 

キャロには先ほど発した言葉を全く覚えていない様だ。

 

「キャロ、貴女覚えていないの?」

 

「えっ?私、何かしたんですか?」

 

「「‥‥」」

 

キャロの返答にユーノとランティスは先ほど自分たちの目の前で起きた事に説明できず、唖然としている。

 

「えっとね、キャロ‥‥」

 

フェイトがついさっき、キャロに起きた出来事を彼女に話す。

 

「私がそんなことを‥‥」

 

フェイトから話を聞いたキャロだが、やはり覚えていない様だ。

 

「それで、さっきキャロの話の中に出て来た破壊竜ヴォルデモート‥‥この名前に聞き覚えはない?」

 

「破壊竜‥ヴォルデモート‥‥いえ、ありません」

 

先程の出来事同様、ヴォルデモートの名前にも心当たりはない様だ。

 

「でも、破壊竜って何か物騒な名前ね」

 

「さっきのキャロの言葉から敵対者を破壊して排除する様な内容だったな‥‥」

 

「ヴォルテールを盾とするなら、ヴォルデモートは剣か矛と言う感じかな」

 

「キャロがヴォルテールを使役獣として契約している様にヴォルデモートも誰かと契約して使役獣となっている可能性はないだろうか?」

 

ランティスはヴォルテールが既にキャロの使役獣となっている経緯からヴォルデモートもアルザスに住む現地の召喚魔導師が使役獣として契約している可能性を示唆する。

 

「どうでしょう‥‥少なくとも私はル・ルシエの集落に居る時、集落に居る人たちの中にはそのヴォルデモートと契約をした人は居ないと思います」

 

そんな強力な竜を自分以外に使役獣として契約している者が居れば、自分は集落から追放されることはなかっただろう。

 

「キャロが生まれる前とかは?」

 

「いえ、それも無いと思います。もし、そんな強力な竜を使役獣として契約した人がル・ルシエに居たとしたら集落で噂になりますから‥‥私はそんな噂を聞いた事がありません。もっとも私が追放された後の事は分かりませんが‥‥」

 

「ふむ、となると実際にアルザスに住む人たちに聞き取りをした方が良いだろうか?」

 

「でも、教授。教授にはやるべき仕事が沢山あるでしょう。それにヴォルデモートの件については若干考古学からかけ離れていませんか?」

 

「う、うむ。そうだな‥‥」

 

ユーノの指摘を受けて口ごもるランティス。

 

「でも、教授の言い分も分からない訳じゃないかな」

 

「えっ?」

 

「フェイト?」

 

「ヴォルテールの力はJS事件でも証明済みでしょう?」

 

「あ、ああ‥‥」

 

「うん」

 

「勿論ルーテシアの白天王もそうだけど、きっとそのヴォルデモートも凄い力を持った竜である事は間違いない筈だよ」

 

壁画に描かれているヴォルデモートはヴォルテールとほぼ同じくらいの大きさで描かれている事からヴォルデモートもヴォルテールや白天王と同じ大きさだと推察される。

 

「まぁ、キャロの言葉通りなら‥‥」

 

「もし、そんな強力な力を持った竜の契約者がテロリストとかだと‥‥」

 

「その竜の力がテロ等の破壊活動に使われるかもしれない‥‥と?」

 

「うん。この件についてはクロノやはやてにも伝えるけど、いいかな?」

 

一見、眉唾みたいな話みたいではあるが、実際にヴォルテールが存在しているのだから、ヴォルデモートも想像上の生き物とは言い切れない。

 

「そうだね。少なくともヴォルデモートが誰かの使役獣となっているのか、いないのかだけでも判明しておきたいね」

 

ユーノもフェイトの意見に賛同する。

 

ひとまずヴォルデモートの件については管理局が密かに調べる事になり、この日は解散となった。

 

「何だか大変なことになりましたね」

 

「うん。でも、キャロの将来に大きく関係する事じゃなくて良かったよ」

 

「そうですね」

 

「さて、まだ時間があるし、どこかに出かけない?」

 

「えっ?いいんですか?」

 

「うん。元々大学での用件が終わったらそのつもりでいたし」

 

フェイトはキャロがポルテに戻る次元航行船の時間までキャロとの時間を楽しんだ。

 

ショッピングモールで一緒に買い物をしてレストランで食事をした。

 

勿論ポルテに居るエリオとフリードの為のお土産も忘れなかった。

 

「それじゃあ、フェイトさん。お元気で‥‥今日は楽しかったです」

 

「私もだよ、キャロ。エリオにもよろしくね」

 

「はい」

 

フェイトは次元航行船の発着乗り場までキャロを見送りに来て、搭乗口にてキャロと別れた。

 

ポルテ行きの次元航行船の搭乗口へと消えていくキャロの後ろ姿を見ながらフェイトは寂しさを覚える。

 

きっとキャロも同じだろうが、仕事がある以上文句は言えない。

 

キャロを見送った後、フェイトは士官学校の寮へと戻ると早速クロノとはやてにコンタクトを取った。

 

「どうしたんや?フェイトちゃん」

 

「何かあったのか?」

 

「うん。実は今日ね‥‥」

 

フェイトは二人に今日、大学であった出来事を話した。

 

「ヴォルテールと対を成す存在か‥‥」

 

「まさか、キャロの生まれ故郷にヴォルテール以外にそんな竜が居るなんてな‥‥」

 

「一見信じられない話かもしれないけど、ヴォルテールはキャロの使役獣としてちゃんと存在している点を見ると対を成す存在である破壊竜ヴォルデモートも存在してる可能性は十分にあると私は判断するけど、二人はどう思う?」

 

「まぁ、確かにキャロのヴォルテールはJS事件の時に見たけど‥‥」

 

「そのヴォルテールの対を成す存在か‥‥しかし、フェイトの言う通りヴォルテールの件を鑑みてもその破壊竜が居ないとも結論できないな」

 

「そ、そうやね」

 

「しかし、キャロのヴォルテール、ルーテシアの白天王は兎も角、今回のアルザスの壁画で分かった破壊竜‥‥世の中には未確認ながらも巨大な使役獣となる竜や獣がまだまだ居ると言う事か‥‥」

 

「それらの巨大な使役獣全てを管理下に置く事は実上不可能だろうね」

 

「せやね。せめてその巨大な使役獣の契約者が管理局との敵対者ではない事を祈るしかないわな‥‥現状は‥‥」

 

「一応、アルザスの駐在局員には現地調査をさせて、その破壊竜についての情報を集めてもらおう」

 

クロノは情報収集を行う旨をフェイトとはやてに伝える。

 

「そうだね。未確認ながらも分かっている事から調査していこう」

 

アルザスに駐在している局員たちにはご苦労な事だが、彼らは破壊竜ヴォルデモートについての調査をする事になった。

 

 

フェイトと次元航行船の発着乗り場で別れたキャロは自分が今赴任しているポルテ行きの次元航行船に乗り、ポルテを目指していた。

 

(今日は久しぶりにフェイトさんに会えて楽しかったなぁ‥‥)

 

(それにお出かけもしたし、ご飯も一緒に食べたし‥‥)

 

(お土産、エリオ君とフリード喜んでくれるかな?)

 

(‥‥それにしてもヴォルテールの他にアルザスにはあんな竜が居たんだ)

 

今日一日でフェイトとの再会の他に様々な出来事がありキャロにとっては慌ただしい日であった。

 

ミッドチルダからポルテまでは半日はかかるので、ポルテに着くのは明日になり、今日の夜は次元航行船の船室で過ごす事になる。

 

(ポルテに着くのは明日になるし、今日は疲れた)

 

(夕ご飯食べてお風呂に入ってもう寝ちゃおう)

 

キャロは急ぎ船のレストランで食事を済ませ、船室に備え付けのシャワーを浴びるとベッドの中に潜り込んだ。

 

ベッドの中に潜り込むとキャロが思っていた通り身体は疲労が蓄積していたのか彼女は直ぐに眠りについた。

 

 

(ああ、これはきっと夢だ‥‥)

 

キャロはこれが夢の中であると自覚できた。

 

何故ならば彼女の眼前に広がる光景は生まれ故郷であり追放されたル・ルシエの集落だったからだ。

 

周囲の光景は鮮明に広がっているのに‥‥

 

「なんで‥なんでお前なんかがヴォルテール様に選ばれるんだ!!」

 

自分に対して声を荒げている人物の顔はモヤがかかっているかのようで思い出せない。

 

「たまたま竜の卵を見つけて、魔力レベルが高いからって調子に乗るなよ!!」

 

「前々からお前のことは気に入らなかったんだ!!」

 

「俺は将来この村を導く者なんだぞ!!」

 

目の前に居る人物は自分に対して罵声を浴び続ける。

 

「お前なんかこの村で暮らせないようにしてやるからな!!」

 

その言葉が決め手になったかのようにキャロは眼を覚ました。

 

「っ!?」

 

(な、なんであんな夢を‥‥)

 

目を覚ましたキャロの目に映っているのはポルテ行きの次元航行船の船室でありル・ルシエの集落ではない。

 

(昨日、アルザスの話題が出たせいかな?)

 

ランティスが務める大学にて、アルザスの話題が出たせいで、昔ル・ルシエの集落から追放される少し前の事を思い出して夢に見たのだろう。

 

(それにしても私に声を荒げていた人‥‥一体誰だったんだろう?)

 

自分の事を知って、罵倒してきたのだから夢の中に出て来た人物は同じル・ルシエの集落出身者なのだろうが、顔にモヤがかかっていたようにその人物の名前も誰なのかもキャロは思い出せない。

 

夢の中で罵倒されていたようにきっと自分はその人物に対して好印象を抱いていなかったからこそ、無意識的にその人物を思い出したくないから顔にモヤが掛かっていたのかもしれない。

 

『まもなく本船はポルテに到着いたします』

 

キャロが夢について考え込んでいると、船内放送で船がもうすぐポルテに到着する放送が流れた。

 

「あっ、もう着くんだ」

 

放送を聞きキャロは下船準備を整えて船を降りた。

 

「あっ、キャロ!!おかえり!!」

 

「キュクルー!!」

 

隊舎に戻るとエリオとフリードがキャロを出迎えた。

 

「ただいま!!エリオ君!!フリード!!」

 

キャロは自分を出迎えたエリオとフリードに満面の笑みで答えたのだった。

 

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