バジウド星系にて八雲が哨戒任務に就いている頃、アルファ星から鉱物資源を積載した輸送船団護衛を務めていたまほろばは地球へと帰還した。
地球へ帰還後、良馬はたまたま古代と出会いちょっとした人生相談に乗ってもらった。
現状、古代と良馬の立場が似ていたからだ。
共に戦艦の艦長であり、婚約者持ちと言う共通点が‥‥
良馬は古代と雪の馴れ初めを聞き、古代が雪との結婚になかなか踏み切れない事情を知った。
そして次は良馬の番となった。
「これから話す事だけど、決して第三者に他言しないでもらいたい。勿論、俺自身も先ほど古代君から聞いた馴れ初めは自分の胸の内に秘める」
「わ、分かりました」
古代も良馬に自分の馴れ初めを話した後で気づいたが、確かに自分たちの馴れ初めを他者に触れ回れるのは恥ずかしい。
きっと良馬もその類なのだろうと古代はこの時、そう思った。
「今のこのご時世だから言うが、俺の婚約者は地球人ではないんだ」
「えっ?」
「2199年の冥王星会戦は覚えているだろう?」
「はい‥‥あの時の戦いで兄さんは死んだと思っていましたから‥‥それに火星では島と一緒にスターシアさんの妹のサーシアさんの救助や宇宙船の調査を行ったりと色々と印象に残っていますから」
(姪も同じサーシアだからイスカンダルの風習ってややこしいな‥‥)
イスカンダル王家は代々襲名制なので、王家の女性はスターシア、サーシア、ユリーシャの名を代々継いできたので、古代が思っているようにややこしい。
話を戻して、2199年にあったあの冥王星会戦で防衛軍宇宙艦隊は壊滅するもイスカンダルからの使者がもたらした波動エンジンの設計図が地球を救う結果となった。
そして、死んだと思われていた古代の兄、守はイスカンダルで生きていた。
「そうか、あの時火星で合流した探査艇に乗っていたのは古代君たちだったのか?」
「はい」
「となると、君も多分見ただろう?火星付近の宇宙空間で防衛軍、ガミラス、イスカンダルでもない正体不明の宇宙船を‥‥」
「ええ‥チラッとですがあの時、探査艇のコックピットから見ました」
「その時の宇宙船に乗っていたのが、俺の婚約者であるギンガだったんだ」
「えっ?それって‥‥」
「つまり、彼女は地球人ではないって事だ」
「‥‥」
古代は、ギンガとは何度かの面識があり、肌の色などを含めて地球人と容姿は変わらない。
まぁ、イスカンダルやシャルバート星などを含めて宇宙には地球人と同じ肌の色を持つ星の人が居る事がこれまでの航海で判明しているのでそこまで驚くことではない。
「あの頃はガミラスとの戦争状態で地球以外の人だと知れたらどんな目に遭うか大体想像がつくだろう?」
「ええ。だからこそ、俺と島もサーシアさんのご遺体は当初、俺と島以外に分からない場所へ葬りました」
古代もあの頃は良馬と同じことを思っていた。
だからこそ、火星の地に葬ったサーシアの墓が暴かれないようにした。
「それで、ギンガは地球人と変わらない容姿をしていたから、宇宙船で彼女を救助した後で、俺が軍に入りたての頃にお世話になった人に頼んでギンガの後見人になってもらったんだ」
「彼女の後見人って言うと‥‥」
「防衛軍作戦五課長の中嶋さん。今はギンガの養父になっている」
「月村艦長の婚約者さんにそんな経緯が‥‥」
「ああ」
「それで、彼女を助けたことが切っ掛けで彼女と婚約を?」
「いや、切っ掛けはその事じゃなかったんだが‥‥」
「?」
良馬がギンガを助けた事はあくまでも出会いの切っ掛けであり、彼女を救助した事によって婚約に繋がった事でない。
しかし、その時の事を話す良馬が口ごもる事に古代は首を傾げる。
「でも、月村艦長の実家は南部や揚羽の家の様にお金持ちでしたよね?これまでそう言った見合い話とかなかったんですか?」
古代は金持ちの家ならば、ギンガと婚約関係になる前にどこか別の金持ちの家の娘と婚約関係を結ばなかったのかを訊ねる。
「幼少期から忍さん‥‥ああ、俺の育ての親の人がね、『異性関係には十分気を付けなさい!!』って言われながら育って来たから、学生時代は異性に対してそこまで興味はなかったかな。それにガミラスとの戦争になり、軍に入ってからは異性に現を抜かす‥‥暇はなかったしね」
小さい頃から良馬は忍からは異性関係について口酸っぱく注意を受けてきた。
その理由は、忍がこれまでの人生の中で一族の者たちが忍に婚約者を紹介してきた際、その婚約者が月村家の莫大な財産目当ての者、月村家の人間が夜の一族の血を引く者‥普通の人間ではない事を知るや否や化け物扱いして捨てる者を見て来た。
そう言った経緯から忍は月村家の人間になるには厳しい基準を設けたのだ。
ギンガの場合、彼女自身も普通の人間ではない事、ギンガ自身が自らの出生に対してコンプレックスを抱いていた事もあり、ギンガに対する忍の審査基準も若干緩かった。
「あれ?今、少し間がありませんでしたか?」
「ま、まぁ、これまでの人生で一度だけ‥‥ギンガが来る前に一目惚れってやつをしたことがあるんだが‥‥」
「ええっ!?月村艦長が一目惚れ!?」
ギンガが地球へ来る前の出来事とは言え、良馬が一目惚れした女性がどんな人なのか当然古代は気になる。
「い、一体どこの誰に一目惚れをしたんですか?」
「‥‥まぁ、今はギンガと婚約関係にある以上、結果は分かっている通り、俺の初恋は失恋で終わった事を理解しているうえで言おう‥‥勿論他言無用で頼む」
「勿論ですとも」
「‥‥中嶋さんの奥さんだ」
「えっ?中嶋さんの奥さんって、月村艦長は上官の奥さんに一目惚れしたんですか!?」
「‥‥あ、ああ‥‥でも流石に既婚者の人に対して恋愛感情を抱くのは良いが、それ以上の先は不味いだろう?」
「え、ええ、そうですね。それでどういった経緯で火星付近に現れた宇宙船からギンガさんを救助してからどうしたんですか?」
恋愛感情を抱くだけならばいい。
だが、それ以上先の関係は色々と世間的に不味い。
ましてや良馬は日本でも有名な家柄の人間であり、マスコミに知られれば大スキャンダルになりかねない。
勿論、良馬はちゃんとその辺の分別は理解していたので、加奈江に対してそのようなリアクションは当然起こしてはいない。
「ギンガと中嶋家の皆さんとは当然、血は繋がってはいないがギンガの容姿は中嶋さんの奥さんとそっくりだった。だからこそ、当初ギンガを救助した後で、中嶋さんの家ならば周囲から怪しまれないと踏んだんだ」
(まぁ、加奈江さんにも大きな秘密があって、ある意味で加奈江さんとギンガは親子なんだけどね)
良馬は加奈江の秘密を知る唯一の人物であり、その秘密を知った時は当然驚いた。
「な、なるほど‥‥それで、その後どうやってギンガさんとの仲は進展したんですか?」
ギンガは古代よりも年下ではあるが、一応年上で上官の婚約者なので、ギンガの事を『さん』付けで呼ぶ。
「ギンガを救助した当初は、中嶋さんの奥さんに似ているって感じぐらいしか意識していなかったんだ‥‥」
加奈江に一目惚れしていた良馬であったが、ギンガを救助した際、加奈江に似ていたギンガには一目惚れはしなかった。
その時は、加奈江との事は失恋として割り切っていたからだ。
「だが?」
「‥‥ガミラスとの戦争は精神的に来るモノがあって‥‥」
「分かります」
「ある晩に無理矢理にでも寝ようとして酒を無理に飲んでいる時にギンガに見つかって‥‥」
「‥‥」
「それで、彼女に窘められたんだ‥‥そこからかな?ギンガを意識し始めたのは‥‥ヤマトが地球へ帰還して、彗星帝国が攻めて来る前‥一時的に地球が平和になった時、ふとした切っ掛けでギンガの俺に対する気持ちを知る機会があってね‥‥そこからだ‥ギンガと婚約関係になったのは‥‥」
(俺としては月村艦長とギンガさんの『ふとした切っ掛け』の部分を詳しく知りたい所なんだけど、そこまで聞くのは野暮ってやつだな)
良馬としても流石に恥ずかしかったし、ギンガの名誉もあるので、古代にはギンガと初めて関係をもった経緯は大きく省いた。
ただ、この場に雪が居たら、深く聞いて来たかもしれない。
雪も古代との結婚で悩んでいる女子なのだから‥‥
(古代君と雪さんはそう言った関係には発展していないのかな?)
自分とギンガとの関係は恥ずかしくて言えない一方、良馬は古代と雪がその様な関係になっていないのか?いるのか?気にはなったが、古代同様、聞くに聞けなかった。
「それで、俺自身いつまでも婚約関係の現状に甘んじると言うのもどうだろうかと思って今回、古代君に声をかけて相談に乗ってもらったんだよ」
「なるほど‥‥」
良馬からギンガとの馴れ初めを聞きお互いに結婚のタイミングについての意見を交わす事になる。
「古代君の経緯だと確かにいざ結婚のタイミングで外宇宙からの侵略者の襲来が重なると結婚に対して変なジンクスがあるんじゃないかと勘繰ってしまうな‥‥」
「ええ。自然災害の様にいつ外宇宙から侵略者が来るのか分かりませんが、先ほど言ったように俺と雪が結婚式を挙げようとしたら侵略者が来るんじゃないかと変に勘繰ってしまいましてね‥‥」
「彗星帝国の時は、侵略の予兆があったけど、暗黒星団帝国の時はいきなりの電撃戦を仕掛けられたからね」
「暗黒星団帝国との戦いでは、雪を地球に残してしまった事で、彼女の事が常に脳裏を過っていました‥‥勿論、雪は生きていると信じてはいたんですが、雪の事を思うばかり、姪のサーシアには辛い思いをさせてしまいました」
暗黒星団帝国の本星、デザリアム星におけるサーシアの古代に対する思いは決して味方を油断させる方便ではなく、サーシア自身の本心であることは、古代本人は気づいていた。
しかし、古代とサーシアは叔父と姪であり、雪と婚約している。
サーシアの初恋は残酷ではあるが、最初から決して実る事はなかったのだ。
「そ、そうか‥‥」
「そう言えば、サーシアの双子の妹でえっと‥ユリーシャでしたっけ?彼女は兄さんたちと一緒にイスカンダルへは行かずに地球へ来たんですよね?」
「ああ、彼女は今も家で預かっている」
「月村艦長はユリーシャから何かアプローチみたいなことはされていますか?」
「アプローチか‥‥うーん‥‥家に帰ると子犬みたいに抱き着いて来り、寝室に忍び込んで来る事はあるが、直接本人から告白みたいな事はされていないな」
(えっ?抱き着いたり、寝室に忍び込むって‥‥)
古代は良馬から説明されたユリーシャの行動に何かを察する。
「ユリーシャの方もきっと寂しいんだろうね。見た目は兎も角、実年齢はまだまだ子供だし、家族とも離れて暮らしている訳だからね。彼女には寂しい思いをさせないようにしていくつもりだよ」
「えっ?あっ、いや‥‥ん?そうなんでしょうか?」
何だかユリーシャに対する古代の印象と良馬の印象に食い違いが生じている。
「あ、あの‥月村艦長はユリーシャの事をどう思っているんですか?」
この際なので、古代は良馬にユリーシャについての印象を訊ねてみた。
「えっ?ユリーシャについて?うーん、古代先輩は俺を信頼して娘を預けた訳だからその信頼に応えなければならないと思っているし、さっきも言ったように抱き着いたりする仕草はホント可愛い妹みたいな感じかな?」
「い、妹‥‥ですか?」
「ああ、俺は一人っ子だからね。ユリーシャともう一人‥ガミラスとの戦いで戦死した友人の妹の紅葉ちゃんは俺にとっては大切な妹だな」
「‥‥」
(月村艦長の話から察するにユリーシャは月村艦長に気があるのではないだろうか?)
(しかし、当の月村艦長本人はユリーシャの事を妹として認識している‥‥)
(それに月村艦長には既に婚約者が居る‥‥)
(うーん、兄さんとスターシアさんの娘たちは失恋する運命にあるのか?)
自分と良馬の婚約環境が似ている様にサーシアとユリーシャの初恋関係も似ている事に何だかユリーシャが気の毒に思えてしまう。
「しかし、いつまでも待たせるのも相手にも失礼になるな‥‥」
「えっ?」
「あまり長く待たせると自分は愛されていないのではないかと思ってしまうかもしれない」
「そ、そんなことは‥‥」
「『ない』と言い切れるかい?」
「‥‥」
良馬の問いに古代は口ごもる。
彗星帝国との最終決戦時、古代は負傷者を退艦させ自身はヤマトと共に巨大戦艦、ガトランティスへ特攻しようとした。
しかし、全員退艦させたと思ったら雪が残っていた。
その時、雪は古代との結婚に未練がある様に見えた。
ガトランティスがテレサの力により、消滅し地球へ帰還した後、古代と雪は結婚を延期したが、今となってはあの時延期して良かったのかと思う事がある反面、これまでのヤマトの航海を鑑みると結婚をしていなくて良かったと思う所もあった。
だが、これ以上雪を待たせるのも失礼だろうし、雪自身も何かを察するかもしれない。
自分は本当に古代から愛されているのだろうか?
自分ではなく他の誰かに靡いてしまっているのではないだろうか?
古代がなかなか自分に結婚の申し込みをしないのはそのせいなのではないだろうか?
それとも雪は自分以外の誰かが好きになっているのだろうか?
(い、いや‥ま、まさか、雪に限ってそんな事は‥‥)
古代はネガティブな考えが脳裏を過る。
「古代君が雪さんとの結婚に踏み切れない理由も分かるし、他人である俺が言うのも変だけど、やっぱり雪さんと結婚について話し合っても良いんじゃないかな?」
「‥‥」
良馬の言葉に古代は表情を硬くする。
「そうですね。月村艦長の言っていることは尤もです。近いうちに雪と話し合ってみます」
「そうか‥‥」
「それで、月村艦長の方は?」
「ギンガは新型巡洋艦の副長を務めていて今、地球を留守にしている。しかし、もし地球かアルファ星で会うことが出来たら将来についての話をしてみるさ」
「そうですか‥‥お互いに良い未来が来るといいですね」
「ああ。そうだね。ただ、我々の仕事は命の危険はもとより、任務によっては長期間家を空ける事がある」
「そうですね」
「もし、家庭を持ち、子供がいたら奥さんに負担をかけるから両親や義実家にも協力を仰がなければならないが、何か困った事があれば遠慮なく相談に乗ってくれ。協力はするから」
「はい。ありがとうございます」
古代の両親はガミラスとの戦争の初期時に遊星爆弾によって命を落とし、残された唯一の肉親である兄の守は14万8千光年の先にあるイスカンダルに居るので、子育てに協力を仰げるのは雪の実家だ。
一人娘を育てた実績があるのだから雪の両親は、子育てに関しては慣れている筈だ。
一方で子育てをするとしたら自分も雪も初心者であり、雪の両親には何かと世話になるだろう。
だからと言って子育ての全てを雪の両親に丸投げする訳にもいかないし、子供も一人とは限らない。
自分たちにも子育てスキルは必要だ。
勿論、それは良馬とギンガも同様の事が言える。
これまでの星間戦争によって地球全体の総人口は減っている。
なので、子供は将来の地球における宝なので、大切に育てていなかければならない。
ならば、状況が似ている者同士、協力していこうと良馬は古代に言うと古代も礼を言う。
そして、古代は自分の分の伝票を持って喫茶店を出て行った。
(結婚か‥‥)
(そう言えば古代君を見かける前まで仕事にかまけて意識していなかったな‥‥)
(いずれにせよ、ギンガと話さないと何も始まらないな‥‥)
古代と良馬はお互いの婚約者との結婚に前向きに進む事となった。
地球にて良馬が古代と将来について相談をしている頃、バジウド星系の中にある惑星ゼスにて整備・補修をしている八雲では‥‥
哨戒任務にて破損した部分はゼスから補修に必要な銅材、鉱石を分けてもらいそれらを使用してしっかりとした補修を行うことが出来た。
機関部でも機関部と技術班が波動エンジンを大掛かりなオーバーホールを行った。
更に乗員たちには半舷上陸が許可され、港付近のみだが右舷、左舷に勤務する者たちが交代で休養をとった。
周囲が綺麗な海だった事からゼス側の許可を得て多くの者が海水浴や釣りを興じて久しぶりの海を楽しんだ。
水着は流石に地球、そしてアルファ星へ出航した際、用意はしていなかったので、八雲艦内にあるオートソーイングマシーンによって主計科が製作した。
デザインに関しては個人の要望を一々聞いて作る暇はなかったので、性別以外は全て同じデザインとなっているが、色に関しては各科の制服と同じ色に分けられた。
ギンガとティアナも海水浴を楽しむために更衣室にて制服から水着に着替えている際、
「‥‥」
ギンガはティアナをチラッと見る。
「ん?どうかしましたか?ギンガさん」
「えっ?あっ、うーんと‥‥」
「?」
ギンガがティアナの姿を見て口ごもり、ティアナは首をかしげる。
「えっと‥‥前々から思っていたんだけど‥‥」
「はい」
「‥‥ティアナの胸って綺麗な形をしているよね」
「えっ?」
ギンガはティアナの胸をジッと凝視していた。
ギンガの言葉にティアナは一瞬フリーズする。
「えっ?あっ、いや、ギンガさんも胸がある方じゃないですか?少なくともはやてさんやなのはさん以上はあると思いますよ」
さりげなくギンガをフォローしつつもはやてとなのはをディスるティアナ。
「うーん‥‥でも、ティアナの方は形も整っているし‥‥スバルもあったのよね‥‥」
一方でギンガはティアナがはやてとなのはをディスった事をスルーしている。
「ああ、確かに‥‥今は分かりませんが、訓練校、六課時代でもスバルは年の割に胸はありましたね」
「あの子、今も成長しているのかしら?」
「さ、さあ‥‥」
スバルの胸について語っている時、ギンガの表情が一瞬、暗くなったように見えた。
「あ、あの、ギンガさん」
「ん?なに?」
「スバルの成長になにか問題でもあったんですか?」
ティアナはギンガが一瞬、表情を暗くした事について思い切って訊ねてみた。
今はもう会うことはかなわないが、かつての相棒であった事もありティアナは気になったのだ。
「‥‥」
ギンガはティアナの言葉にギュッと口を紡ぐが意を決したように話し始める。
「あの子、十三歳の頃から、事あるごとに『ブラが小さくなった』って相談してきたのよ」
「そ、それで‥‥?」
「‥‥それで、私のブラを渡したら、『小さくてつけられない』って言ってきたのよ‥‥」
「うわぁ~‥‥」
(スバルの奴、バカ正直だからな‥‥)
(そう言った部分はスバルの長所なんだけど、その長所が時には空気を読まない事態になりかねない所があるのよね‥‥)
「それで、機動六課の稼働前‥‥私がもう一つの地球に次元漂流する前に行った健康診断で、私の数値は変動が無かったのに、あの子は‥‥あの子は‥‥私に数値が上がった検査表紙を見せびらかしてきたのよ‥‥!!」
「も、もういいです!もういいですから!」
ティアナは慌ててギンガを宥める。
「す、スバルの事は一旦、忘れて今は海水浴を楽しみましょう!!」
互いに着替えが終わっていたので、ティアナはギンガの背中を押しながら更衣室を後にした。
八雲の前甲板では‥‥
「やっほーい!!」
ザプーン!!
「うわぁぁ!!」
ザプーン!!
「超気持ち!!」
八雲の乗員たちが前甲板から海に飛び込んでいた。
ギンガとティアナも海水浴と日光浴を楽しんでいる中、
「副長、制服の上からだと薄っすらしか分からなかったけど、水着姿だと身体つきが一目瞭然で、良い身体つきだ‥‥」
「ほんと、容姿も良ければ面倒見も良いし、まさに理想の女性だよな‥‥」
「戦術長も身体つきは良いんだけど‥‥」
「ああ、やっぱりあの顔の傷が‥な‥‥」
男性の乗員たちがギンガの水着姿を見て鼻の下を長くしていたが、ティアナに関しては身体つきは男性にとっては理想的だったのだが、やはり顔の傷がネックであるみたいだった。
「男ってバカばっか」
「ホント」
そんな男性乗員たちの姿に他の女性の乗員たちは呆れていた。
とは言え、この休養で八雲には穏やかな時間が流れ、乗組員たちは緊張と疲労から解放されていたのは間違いなかった。
此処で視点は、ミッドチルダへと移り、時間は過去へと巻き戻す。
元ナンバーズのディエチ。
彼女はJS事件の決戦時、聖王のゆりかごにてなのはと正面からの撃ち合いになるが、ブラスターリミットを解放したなのはに敗れた後に確保された。
事件後に管理局からの司法取引を受け、海上隔離施設で更生プログラムを受けた後にナカジマ家に引き取られた。
ナカジマ家に引き取られた後、彼女は主にナカジマ家の家事を担当していた。
ギンガが居た頃は殉職したクイントに代わってナカジマ家の家事をしていたが、表向きギンガが殉職した後、スバルは機動六課の寮生活をしていたので、ナカジマ家はゲンヤ一人となっていたので、食事は主に外食となり生活水準は下がっていたが、元ナンバーズの面々を迎え入れてからはナカジマ家の生活水準はクイントやギンガが居た頃のように戻った。
それは新たにナカジマ家の家事担当となったディエチの存在が大きかった。
そして、今日もディエチはナカジマ家の家事に勤しんでいた。
「あっ、父さんお昼のお弁当忘れている」
そんな中、養父であるゲンヤが昼食の弁当を忘れている事に気づく。
ディエチは急ぎ、その弁当を持ってゲンヤの職場である陸士108部隊の隊舎へと向かった。
受付にてディエチがゲンヤに弁当を渡しに来たことを伝えようとした時、
「もう少し捜索を続けてください」
「奥さん‥‥」
「私の主人は生きている筈なんです」
一人の女性が受付係に食ってかかっている。
女性の話の内容から察するにどうやらご主人が行方不明になっているみたいだ。
「奥さん、ご主人が行方不明になってから既に一ヶ月以上が経過しており、こちらとしても捜索範囲を広めましたが、ご主人の足取りが一切不明でお手上げ状態なんです。大変申し上げにくいのですが、ご主人は既に‥‥」
受付係言いにくそうに女性のご主人は既に他界にしている事を伝える。
「‥‥」
女性はグッと唇を噛む。
「あ、あの‥‥」
ディエチは気まずそうに受付係に声をかける。
いつまでも受付で待ちぼうけを喰らう訳にはいかず、養父であるゲンヤに弁当を渡したかったのだ。
「は、はい」
「ディエチ・ナカジマです。父が昼食のお弁当を忘れたので、渡しに来たのですが‥‥」
「は、はい。ナカジマ部隊長の娘さんですね。少々お待ちください‥あっ、受付ですが、部隊長。娘さんが忘れ物をとどけにきたみたいなんですが‥‥ええ‥はい、分かりました。では、お部屋にお通しいたしますね。ディエチさん、部隊長は執務室に居るみたです」
「分かりました」
受付係から入館証を受け取り、ディエチはゲンヤが居る部屋へと向かう。
そんなディエチの後姿を先ほどの女性はジッと見つめていた。
コン、コン、コン、
「おう」
「失礼します」
扉をノックして中からゲンヤの返答を聞きディエチは部屋の中に入る。
「父さんお昼のお弁当、忘れて行ったでしょう?持って来たよ」
「ああ、すまないな。わざわざ持ってきてもらって」
ディエチがゲンヤに弁当を渡す際、視界の中にゲンヤのデスクが映る。
彼のデスクは書類やら現場写真やらで一杯になっていた。
「お仕事大変そうだね」
「ああ、ここんとこ妙な事件やら行方不明事件やらで立て込んでいてな」
「そう言えばここ最近、父さん帰りが遅いもんね」
(行方不明事件‥‥そう言えばさっきも受付に‥‥)
ゲンヤはどうやら最近、この108部隊の管轄内で起きている事件の捜索で忙しいみたいだ。
そしてその事件の中に行方不明事件が含まれている事にディエチは先ほど受付で受付係と女性が押し問答をしていた事を思い出す。
「父さん、お仕事が大変そうなら手伝おうか?一応、私も嘱託局員だし‥‥」
管理局との司法取引の際、条項の中に『有事の際は嘱託局員として管理局の任務に従事する事』と言う内容があり、実際にディエチは自分と同じくナカジマ家に養子入りした他の姉妹たちと共にボラー連邦の攻撃を受けて被弾し、第七海上支部に激突したタイタンと第七海上支部、ボラー連邦の鹵獲艦によって攻撃を受けたコスパ・コンコルド号の救助活動にも参加していた。
そう言った経緯があるので、ディエチはゲンヤがこうして仕事で大変ならば、自分も協力して事件の解決の手助けをしようと言う。
毎晩遅く帰って来るゲンヤの事を思う行為である。
「いや、大丈夫だ。お前さんの力を借りなくてもこの事件はこちらで解決する」
しかし、ゲンヤはディエチからの協力を断る。
「でも‥‥」
「大丈夫だ」
「‥‥」
ゲンヤから断られてしまったので、ディエチは渋々ながらも引き下がるしかなかった。
しかし、元々人手不足な環境下で戦闘力があるディエチの協力は本来ならばありがたい事なのだが、ゲンヤが頑なに協力を拒んだのは、もう一つの地球に次元漂流してしまったギンガの件の様に今回の事件はやや危険な事件だったからであり、ディエチの安全確保の為であったのだ。
ディエチがゲンヤに弁当を渡して、陸士108部隊の隊舎を出た時、
「あの‥‥」
「ん?」
ディエチは声をかけられた。
声がした方を向くとそこには先ほど受付にて夫の捜索を頼んでいた女性が立っていた。
「貴女は‥さっき、受付係に居た人‥‥」
ディエチが啞然とした表情で女性を見ると、女性はディエチに一礼した後、
「貴女、此処の隊長さんの娘さんなんですって?」
「は、はい‥‥」
「貴女からお父さんである隊長さんに頼んでもらえないかしら?主人は今もどこかで生きている筈なんです。私には根拠があるんです。主人が生きていると言う‥‥」
「根拠?」
「はい。これまで管理局へ提出しようか迷っておりましたが、今日、その根拠を持参して参ったのですが、受付で半ば門前払いを受けてしまい困っていたところに貴女が来たので、こうして声をかけたの」
(この人の旦那さんを見つければ、父さんの仕事の一つは解決する‥‥)
(ちょっとは父さんの役に立てるかもしれない)
ゲンヤの心配を他所にディエチはディエチなりに養父であるゲンヤの役に立ちたいと思っていた。
「分かりました。ただ、父さんは今、抱えている仕事が忙しいみたいなので、私が代わりにお話を聞きます」
「えっ?貴女が?」
「はい。嘱託ですが、私も管理局の人間なので‥‥」
ディエチは女性に嘱託局員の身分証明書を見せる。
女性も嘱託ながらもディエチがゲンヤの娘であり、局員と言う事で納得してディエチに話す事にした。
しかし、流石に隊舎の前では第三者に聞かれるかもしれなかったので、二人は近くにあったカラオケボックスにて話し合いをすることになった。
カラオケボックスの個室ならば、防音とプライベートがしっかりとしていたからだ。
「まずは自己紹介を‥私はエレーヌ・マクトリンと申します」
「初めまして、ディエチ・ナカジマです。それで、行方不明になっているのが、貴女のご主人と言う事ですが‥‥」
「はい。行方不明になっているのは、私の主人、ロナウ・マクトリンです」
エレーヌはディエに捜し人である夫、ロナウの写真を見せる。
「失礼ですが、ご主人はお医者さんか科学者なのですか?」
「はい。生物学と脳科学を主に扱っている学者です」
エレーヌが見せた夫の写真は白衣を纏っている姿だった。
ディエチにとって白衣を纏った男性と言うと真っ先に思い浮かんだのが、自らの生みの親であるスカリエッティだった。
彼が収監先の刑務所から脱獄した時は、管理局中が蜂の巣をつついたような騒ぎとなり、元ナンバーズの自分たちや聖王教会の下にも管理局の執務官らが事情聴取を取りに来るし、またテロ活動をするのではないかと疑われてしばらくの間、複数の局員から監視されるしで、窮屈な思いをした。
自分たちをこの世に生み出したことは感謝しているが、今となってはもうスカリエッティに対して恩義なんて感じてはいないし、仮に今、目の前にスカリエッティが来て、
『もう一度、私の下で働いて欲しい』
と、言われても協力する気なんてサラサラ無い。
(生物学に脳科学‥‥)
(ますますドクターと同じ様な職種だな‥‥)
行方不明になったロナウがスカリエッティと同じ生物学・脳科学の学者と言う事でますますスカリエッティと被る。
(まさか、ドクターみたいにテロを考えているとか‥‥?)
あまりにもスカリエッティと被る為、ロナウがエレーヌの前から姿を消したのはテロ活動の準備をしている為ではないかと勘繰ってしまう。
「それで、先ほどご主人が生きている根拠があると仰っていましたけど‥‥」
「はい。主人の行方の手掛かりはこの中にある筈なんです」
エレーヌは鞄の中からタブレット端末を取り出してディエチに差し出す。
「タブレット端末?」
「はい。主人は研究過程や考察、データ、そして日々の出来事を日記としてこのタブレット端末に保存していました」
「もしかして、今日はソレを見せようと?」
「はい。ですが、プロテクトがかかっており開けず、管理局の人に見てもらおうと思ったのですが‥‥」
(うーんそれなら、さっさと訳を話してせめてタブレット端末のプロテクトを解除してもらえれば良かったような気が‥‥)
受付に居る時は、気が動転していたのか、興奮していたのか、タブレット端末の件には触れる前に門前払いされてしまったのだ。
「主人や私の誕生日、結婚記念日などの思いつく数字や文字を入力してみたのですが、どれもヒットしなくて‥‥」
ディエチもとりあえずタブレット端末を手にして適当に数字や文字を入れてみるが、エラー表示される。
「分かりました。私の知り合いに技師官が居るので、そこ人に解析を頼めばこのタブレット端末のプロジェクトも解除出来ると思います。このタブレット端末、お借りしてよろしいでしょうか?」
「ええ、構いません。主人が見つかるのなら‥‥お願いします。あの人を見つけて下さい」
「分かりました」
エレーヌはディエチに深々と頭を下げてロナウの行方をディエチに託した。
「さて、まずはこのタブレット端末のプロテクトの解除からか‥‥マリーさんなら出来るよね?」
ディエチは貸し出されたタブレット端末のプロテクトを解除する為にマリエルに協力してもらおうと考えた。
(クア姉が居たら、この場であっという間に解除出来るんだろうな‥‥)
タブレット端末のプロテクト解除をしてもらおうとした際、ディエチはかつてナンバーズの中でも行動を共にする機会が多かった姉の姿が脳裏を過る。
実際にクアットロは地上本部襲撃の際、本部ビルのメインコンピューターをハッキングした実績がある。
そんなクアットロにしてみれば、タブレット端末のプロテクト解除なんてあっという間に出来るだろう。
そう思いつつディエチはマリエルと連絡をとった。
マリエルはこれまでギンガとスバルの体調管理や健康診断を行って来た。
スカリエッティが捕まり、刑務所へ収監された後は、ナカジマ家に養子入りしたチンクたち、聖王教会へ引き取られたセインたち元ナンバーズ組の体調管理や健康診断はマリエルが担当していた。
それは彼女がミノフスキーの下で次世代の次元航行艦のエンジンを研究・開発している間も時間の合間を見つけて元ナンバーズの健康診断を行っていた。
そんな関係なので、ディエチとマリエルは決して知らない関係ではないし、ディエチ本人もマリエルが優秀な技術者である事を認識している。
「あっ、マリエルさん?」
『あら?ディエチじゃない。どうしたの?』
「実は‥‥」
ディエチはマリエルにこれまでの経緯を話す。
「それで、マリエルさんにタブレット端末のプロテクト解除をして欲しいんだ」
『分かったわ。それじゃあ、先端技術医療センターに来て』
「分かった」
こうしてディエチはマリエルが待つ先端技術医療センターへと向かった。