星の海へ   作:ステルス兄貴

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百八十九話 ディエチの捜査そのⅡ

 

 

ある日、ディエチが養父、ゲンヤが忘れた弁当を勤め先である陸士108部隊の隊舎へ届けに行くと、受付で行方不明になった旦那を捜して欲しいと懇願する女性と出会った。

 

女性の話では、旦那が既に失踪してから一ヶ月の時間が経っており、108部隊の局員は既に女性の旦那の生存は絶望視していた。

 

しかし、関係者である女性は旦那の生存を信じていた。

 

関係者ならば当然の心情である。

 

それに女性には旦那が生きていると言う根拠があったのだが、108部隊の受付係は女性の話をまともに聞いてくれず、追い返されてしまった。

 

ただ女性が108部隊の受付係と問答を繰り返している時に弁当を届けに来たディエチの姿を見た彼女はディエチにゲンヤと執り成してもらえるように頼む。

 

ただ、ゲンヤもゲンヤで仕事が多忙だったようなので、ディエチ本人が女性の頼みを聞き、彼女の旦那の行方を捜す事にした。

 

そして、女性が言う旦那の生存を確信する根拠は、旦那が愛用していたタブレット端末であった。

 

しかし、彼女の旦那が研究職をしているらしくタブレット端末には厳重なプロテクトがかかっていた。

 

その為、手掛かりを掴むにはまず、タブレット端末のプロテクト解除をしなければならなかった。

 

そこで、ディエチは自分たち姉妹の健康診断を行っているマリエルにこのタブレット端末のプロテクトを解除してもらうことにした。

 

そして、マリエルにアポイントメントを取って、現在マリエルの職場である先端技術医療センターへと向かった。

 

先端技術医療センターに着き、受付でマリエルにアポイントメントがある事を伝えると受付係はマリエルと連絡をとり、ディエチにマリエルが居る部屋の場所を伝える。

 

「こんにちは、マリエルさん」

 

そして、ディエチがマリエルの下を訊ねると、

 

「ああ、いらっしゃい。ディエチ」

 

マリエルがディエチを迎え入れてくれたのだが‥‥

 

「また、部屋をこんなに汚して‥‥」

 

マリエルの研究室は物が散乱していた。

 

「ああ、ごめんなさい。いつか、片付けようと思っていたのだけど、どうしてもやる気が起きなくてね‥‥」

 

マリエルはなんだか気だるそうに言う。

 

(マリエルさんは変わったな‥‥)

 

ナカジマ家に養子入りしたばかりの頃、マリエルは出来る女と言う印象があった。

 

しかし、彼女が先端技術医療センターから一時別の部署へ異動し、再び先端技術医療センターへ戻って来てから彼女は何だか仕事に対して意欲を失っている感じがした。

 

現に眼前に居るマリエルは髪の毛がボサボサで服も皺だらけでヨレヨレだ。

 

マリエルが別部署から先端技術医療センターへ戻って来た当初は、

 

(これが燃え尽き症候群と言うやつ何だろうか?)

 

と、思っていたがどうやら違うみたいだが、その理由はディエチを含めてナカジマ家姉妹全員は知らない。

 

特に自分たちよりも付き合いが長いスバルがマリエルの変貌に一番驚いていた。

 

それにマリエルとシャリオが次世代の次元航行艦のエンジンを開発したと聞き、祝福の言葉を言った際、マリエルはあまり喜んでいる様子は無く、

 

「その話はしないで」

 

と、話題に出されたくない様子だった。

 

彼女自身、ヴィータ同様ミノフスキーの死について納得できず、また彼の功績を自分が横から搔っ攫うようなことを決めた管理局に対して若干の嫌気があった。

 

彼女がすさんだ生活を送っているのはそうした経緯があった。

 

「それで、見てもらいたいタブレット端末は?」

 

「これです」

 

「ん‥‥」

 

ディエチからタブレット端末を受け取り、パソコンに繋がっているコードに繋げるとマリエルはキーボードを操作する。

 

「それにしてもディエチ、今回の件はナカジマ三佐から頼まれたの?」

 

解析中、マリエルはディエチに訊ねる。

 

「ううん。私の独断‥父さん、仕事で忙しそうだから」

 

「独断?いいの?勝手にそんなことをして」

 

「一応、私も嘱託局員だから‥それに少しでも父さんの役に立ちないし‥‥」

 

「そう‥でもあまり危険な事はダメよ。ナカジマ三佐もこれ以上家族を失いたくはないだろうし」

 

「分かっています」

 

ディエチはゲンヤが奥さんを亡くしている事をナカジマ家に養子入りする前に知っていた。

 

特にチンクは物凄く責任を感じていた。

 

何しろ彼女はゲンヤの奥さんであるクイントが殉職したゼスト隊事件の当事者であったのだから‥‥

 

ゼスト隊事件の際、チンクはゼストと対峙していたので、クイントを手にかけてはいないが、あの事件現場に居たのだから責任を感じてしまうのも当然だった。

 

それにナカジマ家にはかつて自分以外に姉妹が居た事も聞いていた。

 

ゲンヤとスバルが言うには機動六課稼働前にある任務中に事故で殉職してしまったらしい‥‥

 

スバルの姉と言う事で、殉職した彼女も戦闘機人なのだったのだろう。

 

写真で見たが、確かにスバルとそこはかとなく似ている印象があったが、それ以上に彼女はクイントと似ていたので、親子と言われれば親子で通じる。

 

しかし、マリエルやゲンヤ、そしてスバル本人が言うにはスバルと殉職した姉は元々クイントのDNAデータからスカリエッティ以外の何者かが生み出した戦闘機人らしい。

 

スカリエッティ以外の人物が戦闘機人を生み出した事に当初は驚いたが未だにその人物が誰なのかは判明していない。

 

「さっき、仕事が多忙って言っていたけど、ナカジマ三佐も年だし、あまり無理をしないように貴女からも言っておいてあげてね」

 

「はい‥‥その仕事関連ですが、最近108部隊の管轄内でどうも行方不明事件があるみたいですけど、マリエルさんは何か知っていますか?」

 

「行方不明?‥‥ああ、そう言えばそんな話、聞いたわね。テレビでもニュースとかやっていたけど、ディエチは見ていないの?」

 

「ノーヴェとウェンディがチャンネル争いをしているから基本、私はテレビを見ていない」

 

ディエチはナカジマ家でのテレビにおけるチャンネル争いの場面を思い出す。

 

チンクは士官学校に行っており、スバルは実家を出て一人暮らしをして、現在ナカジマ家は家主のゲンヤ、ディエチ、ノーヴェ、ウェンディの四人で暮らしているが、夜のテレビではノーヴェとウェンディがバラエティー番組、ドラマ、歌番組などでチャンネル争いが起こっており、ゲンヤとディエチは基本テレビを見ず新聞や本を読んでいる。

 

それにディエチは、昼間の間は掃除や洗濯、食事の用意、買い物など家事で忙しい。

 

「マリエルさんはその行方不明事件、何か知っているの?」

 

「ん?何か行方不明になっている人って研究者や学者みたいで、私も『気をつけろ』って注意を受けたわ」

 

「研究者や学者が行方不明‥‥」

 

(そう言えば行方不明になったあの人の旦那さんも生物学者だったな‥‥)

 

(うーん、もしあの女の人の依頼が今回の行方不明事件に関係しているとしたら‥‥)

 

ディエチは今回の依頼と108部隊の管轄内で起きている行方不明事件に関係性があるように思えてきた。

 

「‥‥解析出来たわ」

 

そんな中、マリエルはタブレット端末のプロテクトを解除した。

 

「中身見てみる?」

 

「はい」

 

パソコンの画面にタブレット端末の内容が表示される。

 

「このタブレット端末の持ち主ってどんな人なの?」

 

今更ながらマリエルはディエチにタブレット端末の持ち主が誰なのかを訊ねる。

 

最初、ディエチがマリエルにアポイントメントを取る際に事情を説明する時、ディエチはマリエルに調べて欲しいタブレット端末の持ち主が誰なのかは伝えていなかった。

 

「ロナウ・マクトリンって言う学者」

 

「学者‥‥その人も行方不明になっているのよね?」

 

「うん。依頼人はその人の奥さん。でも、奥さんはそのタブレット端末の中身には旦那さんが生きている根拠があるって言っていたけど‥‥」

 

マリエルとディエチはとりあえずタブレット端末の中身を見てみた。

 

「‥‥流石、学者なだけあってファイルのほとんどが研究データや資料、報告書だらけね」

 

「ここら辺のファイルは、事件と関係なさそう‥‥」

 

流石に研究データや資料が行方不明事件に関係しているとは思えなかった。

 

「こっちのファイルは?」

 

「これ?」

 

ディエチが別のファイルを開いてもらうとそれはロナウが記録した日記の様だった。

 

「日記‥みたいね」

 

「奥さんが言う根拠ってこれの事なのかな?」

 

「でも、他人の日記を見てもいいのかしら?奥さんが言うには日記の中には奥さんにも見られては困る私生活の内容も書かれているかもしれないし‥‥」

 

「一応、奥さんには許可を得ているし大丈夫じゃないかな?」

 

マリエルは他人の日記の内容を盗み見るような行為に抵抗を覚える。

 

もしかしたら、不倫などの奥さんが知らない旦那の裏の顔が抱えているかもしれない。

 

とは言え、日記ならば奥さんが知らないロナウの私生活が書かれているだろうし、その内容から行方不明になった原因も分かるかもしれないと思いディエチは日記に目を通した。

 

マリエルも抵抗感はあったが、やはり気になるのかディエチと共にパソコンの画面に顔を向ける。

 

その日記には以下の様な事が記されていた。

 

 

〇月〇〇日

 

今日の午後から妻は生け花の稽古に出かける。

 

帰りの時間も把握しているので、私も出かける事にした。

 

今日の姿は女装だ。

 

周囲の人間は私が男であると言う事に一切気づいていない。

 

これも日々の鍛錬の賜物であり、化粧と服装の選択もまさに完璧だ。

 

髪についても様々な髪型、髪の長さのウィッグを購入し、帽子、イヤリング、ネックレス、指輪、香水についても情報を収集して最新のトレンド調査も抜かりはない。

 

そして入った映画館にて、わざと隣席の男客に身を摺り寄せる。

 

男客は突然、私に摺り寄せられてドギマギしている。

 

例え暗闇の中でもはっきりとわかる。

 

そんな様子を見ていると自分の変装の完璧さに自画自賛を送りたくなるし、快感を覚える。

 

 

〇月〇×日

 

この日は妻に研究会といつわり、港湾地区へと向かった。

 

今日は船乗り姿に変えて船員酒場へと入る。

 

嘘八百の船幽霊や未確認生命体の話で酒場に居る女たちを笑わせた。

 

ただ、この日は調子に乗り飲みすぎた。

 

夜十時に帰宅。

 

妻には研究会が終わった後、飲み会となりそれに参加したと誤魔化した。

 

 

×月△日

 

この日は休日だったので、朝からホームレスの姿で橋のたもとに座り込む。

 

誰も彼もが私が学者であることに気づかすに通り過ぎていく。

 

中にはまるで私をゴミでも見るかのような目で見て来る者も居た。

 

若い女たちは嫌悪するように私から距離を取り、小等部の学生たちは怯えながら私の前を駆け足で通り過ぎて行く。

 

例え嫌悪感を抱かれても私は一切気にしない。

 

何しろ学者のロナウ・マクトリンではなく、名も無きホームレスとして‥‥他人の目で世の中の人間を観察するのは実に愉快である。

 

だが、この日の夕方、私は驚愕する。

 

朝から十分に人間観察を堪能して帰ろうとした時、あの男が現れた。

 

 

(あの男?)

 

ロナウの日記の中にある登場人物が出た事にディエチは眉をひそめる。

 

『失礼、アナタ。生物学と脳科学の学者、ロナウ・マクトリンではナイですか?』

 

と、話しかけられて来た事には驚いた。

 

話し方に独特の訛りがあったので、その男はミッドチルダ出身の人間ではない。

 

正体がバレそうになったので、私は慌ててその場から逃げた。

 

これまで私の変装がバレた事は無いのに‥‥

 

あの男は一体何者なのだろうか?

 

(ミッド外出身の謎の男‥‥)

 

(この男が依頼人のご主人の失踪に関わっている事は間違いなさそうだ‥‥)

 

(それにしても依頼人のご主人がこんな趣味を持っていたなんて‥‥)

 

(確かにこんな事、奥さんに教えられないな‥‥)

 

(もし、この人がドゥーエ姉の事を知ったら羨ましがるだろうな‥‥)

 

ディエチの脳裏にJS事件において唯一の死亡者である姉の姿が過る。

 

性別と体形は変えられなかったが、容姿を替えることが出来る偽りの仮面(ライアーズ・マスク)の能力を持っていた姉‥‥

 

かつてコンビを組んでいたクアットロからは「究極の戦闘機人」として尊敬されていた。

 

ディエチが思ったように容姿を変えられるロナウが知ればその能力を羨ましがっただろう。

 

(兎に角、この男がどこの誰なのか、日記の続きに書かれているかもしれない)

 

ディエチはロナウに接触してきた謎の男の正体を探る為、日記の続きに目を通した。

 

 

×月〇△日

 

 

その日、私は旧再開発地区に建てられた新市街地の街中を散策していた。

 

すると、背後から私に声をかけて来る者が居た。

 

あのミッドではなかなか聞かない独特の訛りがある声‥‥

 

そう、あの日私の正体を見破ったあの男だ。

 

『その後ろ姿。やっぱり、ソウだ。マクトリンさんではアリマセンか?ワタシ、すぐにワカッタ。ワタシの前デ、ごまかしきかないヨォ』

 

まさか再会してしまうとは運が無かった。

 

更に言えばこの日、私は女装をしていた。

 

そして靴は踵が高いヒールを履いており、走る事が出来なかった。

 

『ワタシ、ちょっとアナタとオハナシしたいネェ』

 

逃げる事も出来ず、この男に騒がれては私の学者としての社会的地位、そして妻にもバレる恐れがあったので、この男の誘いを断る事が出来なかった。

 

私はその男の誘いで新市街地に出来た『亭酒堂』と言う名の料理屋に入った。

 

その料理屋はミッドには無い酒や料理を出す店で、この男の出身世界の郷土料理を出す店らしい。

 

テーブルについて私は男と話した。

 

『それで、いくら欲しい?いくら出せば黙ってくれる?』

 

私は当初、この男が私の密かな楽しみを世間にばらそうとする代わりに金を集りに来た不埒な輩かと思い口止め料の額を訊ねた。

 

しかし、意外にもその男は、

 

『誤解よくないネェ。ワタシ、ゆすり、集り、お金目当てじゃないヨォ。ワタシ、貴方の良き理解者あるネェ』

 

『理解者?』

 

『ソウネェ。人は誰も変身願望あるヨォ。自分以外の人になって、世の中みてみたい。コレ、自然の欲求。当然の摂理、恥ずかしがることないネェ。特に貴方のような有名人、社会的地位がある人、優秀な人はそんな願望が強い。ワタシも故郷では上流階級人、だから貴方の気持ち、良くワカル』

 

『な、なるほど‥‥』

 

『でも、変装は所詮変装。いくら変装上手くても完全に他人にはナレナイ。出来ナイ』

 

『‥‥』

 

男の言葉に私はぐぅの音が出なかった。

 

確かにこの男が言っている事は当たっているのだ。

 

いくら変装しても元がロナウ・マクトリンでは完全に他人になったとは言えない。

 

『変装は見破られる。私の様な気配に敏感で目が鋭い人間には見破られる。人間ミンナ、私の様な人ジャナイ。ゆすり、集りスル人、多いネェ。そうなれば、貴方、身の破滅、笑い者、社会的地位落ちる』

 

そうだ‥この男の言う通りだ。

 

この男は私の変装を見破った。

 

もしかしたら、世間にはこの男以外にも私の変装を見破る者もいるかもしれない。

 

確かにこの男以外に私の変装を見破る者が居たら‥‥

 

そして、ソイツが私の趣味を世間にバラすと脅してきたら?

 

金を払ってもまた金を集ってきたら?

 

それが続いたら?

 

私の行動に妻が不審を抱くかもしれない。

 

そうなれば私の趣味がいつか妻にバレるかもしれない。

 

そうなる前に止めるには私の趣味に気づいた者をこの世から抹殺しなければならない。

 

だが、その犯罪がバレた時、私の地位は?立場は?学者としての名声は?

 

完全に終わってしまうだろう。

 

『だから?』

 

表向きは冷静に対処していたが、内心私の心臓は波を打つかのように酷く動揺していた。

 

私の心の中で未来に対する不安が過る。

 

『ワタシが提案スルのは、完全に他人にナレルちょっとした外科手術ネェ』

 

『整形手術でもしろと言うのか?』

 

『チガウ。整形も変装も大して変わらないネェ。ワタシの言う完全に他人にナレル方法、ソレハ‥‥「脳交換手術」ネェ』

 

『脳‥交換手術‥‥そ、そんな方法が本当にあるのか?』

 

『あるヨォ。もし、興味があるなら‥‥』

 

私はその男の言う『脳交換手術』に興味を持った。

 

そして、その男‥王・東風(ワン・トウフウ)が指定した日時に脳交換手術をしたと言う人たちと会うことにした‥‥

 

一体どんな人たちなのか今から会うのが楽しみだ。

 

 

(脳交換手術‥‥)

 

(そして、脳を交換した人たち?)

 

(そんな人たちが本当に居るのだろうか?)

 

ディエチが日記の内容に疑問を覚えていると、

 

「うっ‥なんか想像したら気持ち悪くなってきた‥‥」

 

ディエチと同じくロナウの日記を見ていたマリエルは顔を青くしてお手洗いへと向かった。

 

「此処から先はマリエルさんには見せない方がいいかも‥‥でも、謎の男の名前は分かった。もしかしたら、偽名かもしれないけど調べてみる価値はあるかもしれないな‥‥」

 

(脳交換手術‥‥もしそんな方法があって、依頼人のご主人が誰か別の人の身体に自らの脳を移植しているのだとしたら、奥さんの下に戻らず今も他人の姿でどこかで生活をしているのだろうか?)

 

(しかし、手術と言う事は失敗する可能性もある筈だ‥‥)

 

(ましてや脳なんて最もデリケートな部分を扱うのだから‥‥)

 

(いずれにしてもこの日記は最後まで見てその後で、父さんと相談した方がいいかもしれない)

 

(でも、いくら父さんでも信じてくれるかな?)

 

ディエチはこの日記の内容をゲンヤに伝える事にした。

 

しかし、内容だけでは眉唾物か頭のいかれた変態の妄想日記として片づけられるかもしれない。

 

(話すにしてももう少し情報と証拠が必要かな?)

 

そう思いながらもディエチは日記の続きに目を通した。

 

 

△月〇×日

 

あの料理屋で王氏に言われた脳交換手術‥‥

 

それがどんな手術なのか?

 

はたして本当にそんな手術が存在しているのか?

 

私はその好奇心が抑えきれず今日の夜、脳交換手術をしたと言う人たちと会うことにした。

 

妻には研究で遅くなると言って家を出た。

 

そして、約束の時間‥‥

 

場所は王氏と会食をした例の料理屋だ。

 

その店の地下が会場だ。

 

料理屋の地下は上の店の様相と異なり、木造とセメントで造られている簡素な造りな部屋だ。

 

『マクトリンさん。紹介するネェ、此処に居るヒトタチ皆、脳交換手術をしたヒトタチネェ』

 

会場には数人の男女がテーブル席に居た。

 

『こちらは外科医の華晨(かしん)。凄腕の外科医。普段は上の店の料理長をしているネェ』

 

王氏が部屋に居た大柄な男を紹介する。

 

王氏が言うには彼は凄腕の外科医らしい。

 

多分、彼が脳の交換手術をしているのだろう。

 

『貴方も脳交換手術に興味があるの?』

 

テーブル席に居た一人の女性が私に話しかけて来た。

 

『え、ええ‥‥まぁ‥‥』

 

『素敵よ、他人の肉体、他人の顔、他人の生活は』

 

『私はこの前、十八の小娘の肉体に脳を移植していた。若い肉体はいいのだが、いかんせん異性の肉体は勝手が違うので、今はこうして若い男の肉体にしているが、貴重な体験だったよ』

 

すると別の男が自身の経験談を話してきた。

 

『もちろん、この体験をするにはそれ相応の金が必要になるがね』

 

『でも、手術は簡単よ。いつでも好きな身体になれて飽きれば元の身体に戻れるし、別の身体にも慣れるわ。コレを繰り返して行けば永遠に生きられるのよ』

 

『傷痕も大して残らないわ。ホラ』

 

別の女性が前髪を手で額を私に見せて来た。

 

すると、女性の額には薄っすらと手術痕があったが、確かに彼女が言う程、気にするような痕ではない。

 

その後も脳を交換した人たちから経験談を聞き、私の興味は益々強くなった。

 

『どうネェ?貴方も脳を交換して別の人の身体になってみないカ?』

 

王氏が私に脳の交換手術を提案してくる。

 

『ちょっと考えさせてくれ』

 

興味はあったが、流石に即決できる内容ではなかったので、この日は猶予をもらった。

 

 

(日記は此処で終わっている‥‥)

 

(日記が終わっていると言う事は依頼人のご主人は日記にあった脳の交換手術をしたのか?)

 

(姿を変えた事で今でも他人の肉体で生活をしているから依頼人の下へ帰っていないのか?)

 

(それにしても、脳を交換して他人の肉体で永遠の命を得よう‥か‥‥)

 

(ドクターのスポンサーだった管理局の最高評議会の連中みたいだ‥‥)

 

旧暦の時代に世界の平定に尽力し引退後も評議会を設立して強大な影響力を持つ三人の元魔導師たち‥‥

 

彼らは死を恐れ、年老いた身体を捨て脳髄のみの姿で、生命維持ポット内にて生き長らえていた。

 

だが、長い月日が経ち、時代も考えも変わっていく中、生命維持ポット内が世界の全てとなった彼らの思考は硬直、先鋭化して自分たちの思惑で世界を動かそうと考えるようになり、アルハザードの技術を元に「無限の欲望(アンリミテッド・デザイア)」ことジェイル・スカリエッティを生み出した。

 

そして、スカリエッティにクローン技術‥PROJECT・Fate、戦闘機人を生み出す理論を考えさせ、戦闘機人‥ナンバーズを誕生させた。

 

スカリエッティがディエチたちにとって生みの親であるならば、最高評議会のメンバーはディエチたちにとって生みの祖父にあたる。

 

そんな彼らもJS事件の折、スカリエッティの命を受けたナンバーズNo.2ドゥーエにより全員抹殺された。

 

(やっぱり、権力者って老いと死を恐れ、永遠の命を求めるモノなんだ‥‥)

 

元々スカリエッティの下に居たのだから、ディエチも最高評議会について実際に会った事はないがその存在と正体は知っていた。

 

日記の内容を見てディエチは最高評議会のメンバーと日記に出て来る登場人物が被った。

 

「ふぅ~‥‥吐くモノ吐いたら、少しスッキリ出来たわ」

 

お手洗いでお腹の中のモノを出すだけ出したマリエルが戻って来た。

 

「ん?ディエチは平気なの?」

 

「うん。大丈夫。もう、日記は全部見たけど、マリエルさんも見る?」

 

「ううん。私はもういいよ」

 

「そう?」

 

マリエルは日記をこれ以上見ないと言う事で、コンピューターとタブレット端末を繋いでいるコードを外し、預かったタブレット端末をカバンに詰めた。

 

「それじゃあ、私はもう帰ります。ありがとうございました」

 

「ううん。良いのよ。ここ最近は大して研究もしていないし」

 

「そう?でも、少しは生活態度を改めた方がいいよ」

 

「ま、まぁ、考えておくわ」

 

ディエチはマリエルに生活習慣の見直しを忠告して先端技術医療センターを後にした。

 

(父さんに伝える前にまずは王・東風と華晨がいるかもしれない料理屋に行ってみるか‥‥)

 

(でも、嘱託とは言え、局員として行くと警戒されるだろうし、証拠隠滅をされるかもしれない)

 

(となると、此処はやはりお客として偵察をした方が良いな‥‥)

 

ディエチは脳を交換が行われている、もしくは脳を交換した人たちが集まる王がオーナーを務める店にお客として偵察へ行く事にした。

 

 

そして、その日の夜‥‥

 

 

ミッドチルダ西部地方 エルセア ナカジマ家

 

 

「ノーヴェ‥‥」

 

「ん?なんだ?」

 

ディエチは周囲を確認して、ノーヴェが一人でいる時に彼女へ声をかけた。

 

「明日のお昼さ、一緒に外食しない?食事代は私が持つから」

 

「珍しいな。ディエチから誘うなんて」

 

「知り合いの人からちょっと変わった料理屋を教えてもらったんだけど、どんな味なのか気になって‥‥ノーヴェ、ジムの資格の勉強で栄養学もやっているでしょう?ノーヴェから見て、その料理屋の味の感想とか聞きたいからさ‥もし、美味しかったら次は父さんやスバル、ウェンディも一緒に連れて行けるし・・どうかな?」

 

「いいぜ。ディエチの驕りだしな」

 

「う、うん。ありがとう」

 

(貯金、どれくらいとんじゃうかな‥‥)

 

(後で領収書を見せれば経費で落ちないかな?)

 

ノーヴェはナンバーズ組の中でギンガ、スバル同様、その誕生にはクイントのDNAデータが使用されているので、ノーヴェも結構食べる方なのだ。

 

そんな彼女を食事に連れて行き、食事代は自分がもつのだから、ディエチの財布の中身がかなり吹っ飛ぶのは目に見えていた。

 

しかし、情報収集するための必要な犠牲だとディエチは割り切った。

 

 

翌日‥‥

 

ディエチとノーヴェの姿はロナウの日記の中にあった王がオーナーを務める料理屋、『亭酒堂』にあった。

 

『亭酒堂』は地球で言う所の中華料理屋であり、独特の内装をしていた。

 

ミッドチルダで中華料理は珍しい類の料理みたいで、利用客のほとんどは王と同じ世界の出身者らしき人ばかりで、ミッドチルダ在住の人は全くいない訳ではないが、まばらであった。

 

「へぇ~変わった店だな。出されている料理もミッドじゃあ、あまりなじみのない料理ばかりだ」

 

「ミッドではない他の世界の料理を出す店だからね。でも、栄養学を学ぶ者としてはミッドの料理だけでなく、他の世界の料理にも目を向けても良いんじゃないかな?」

 

「ま、まあな」

 

ディエチの言葉に頷きながらメニュー表へ目を通すノーヴェ。

 

ミッドチルダではなく他の世界の料理と言う事で、ミッドチルダの人たちでも分かりやすいように料理の写真の隣にはその料理が一体どんな料理なのか?使用されている食材はどんなモノなのか説明が書かれていた。

 

やがて注文した料理が届くとディエチとノーヴェは食べ始める。

 

「うーん、やっぱり、他の世界の料理だからか、使っている食材、調味料がミッドのモノとは違うからか、不思議な味だ。でも、食べられない訳じゃないな」

 

「でも、使用している食材は凄いね。こっちの料理は亀を使っているみたい」

 

「か、亀!?」

 

「うん。それでこっちは、カエルだって」

 

「カエル‥‥」

 

使用されている食材にやや引いているノーヴェであるが、味については不味くはないので、ゆっくりと咀嚼して味を確かめるように食べている。

 

一方のディエチは視線を動かしながら周囲を見渡している。

 

(この料理屋にはオーナーの王と料理長の華晨が居る筈だ)

 

(それに依頼人のご主人が脳を交換した人とあった地下室も‥‥)

 

(でも、日記には地下への出入り口が何処なのか書かれていなかった)

 

(店の出入り口近くにある案内図にも地下は書かれていなかった‥‥)

 

(となると、地下への入り口は従業員しか立ち入れない所か‥‥)

 

(厨房かバックヤードか‥‥)

 

(とりあえず調べてみるしかないな‥‥幸い私には特別な目があるし‥‥)

 

戦闘機人として生まれたナンバーズの中で、ディエチは狙撃手タイプの戦闘機人であり、両目に仕込まれた機器によって優れた望遠能力と解析能力を有していた。

 

なので、怪しい箇所があれば分かると思った。

 

「ノーヴェ、ゴメン。私、ちょっとお手洗いに行ってくるね」

 

「ん?ああ、いってらっしゃい」

 

ディエチはノーヴェに一言声をかけた後、席を立った。

 

しかし、ディエチはお手洗いではなく、『従業員以外立ち入り禁止』とプレートがついた扉の前に居た。

 

そして周囲を確認した後、その扉の中に入る。

 

扉の向こうはバックヤードになっており、従業員の休憩室兼更衣室になっていた。

 

今は昼時で従業員たちも多忙だった為かバックヤードには誰もいなくなった。

 

しかし、その状況はディエチはとっては好都合だった。

 

「‥‥」

 

ディエチは両目の機能を駆使して怪しい所が無いか確認する。

 

しかし、怪しい箇所は見つからなかった。

 

「此処は異常なし‥か‥‥でも、念のため‥‥」

 

ディエチはこのバックヤードにサーチャーを仕掛けてバックヤードを出た。

 

(次は‥‥)

 

バックヤードの次に怪しいのは厨房であるが、厨房は従業員が沢山居るだろうから確認するのは難しい。

 

(こういう時、クア姉だったら簡単に潜入出来たんだろうな‥‥)

 

(あっ、ノーヴェじゃなくてセインを連れて来るべきだったな‥‥)

 

此処でディエチは連れて来たパートナーの人選ミスに気づく。

 

セインのIS能力、『ディープダイバー』ならば潜入と秘密工作に特化したIS能力故に人が沢山居る厨房でも怪しまれずに確認する事が出来ただろう。

 

(今更後悔しても仕方がない)

 

(短時間しか見る事が出来ないだろうけど、やらないよりはマシか‥‥)

 

ディエチは迷子の振りをして厨房へと向かった。

 

「‥‥」

 

厨房の扉の隙間から厨房の様子を窺っていると、

 

「チョットお客サン、此処は厨房ネェ。お客サンは入れないヨォ」

 

ディエチは背後から声をかけられた。

 

その店員はガタイの良い大男な店員だった。

 

「す、すみません。お手洗いを探している途中で、迷ってしまって‥‥」

 

「お手洗いは向こうネェ」

 

店員はある方向を指さす。

 

「ど、どうもありがとうございます」

 

ディエチは礼を述べ、お手洗いがある方向へ向かう。

 

しかし、ディエチはあの短時間で見逃さなかった。

 

厨房の奥に木製の大きな床下扉があることに‥‥

 

(厨房だから収納庫かもしれないけど、業務用の冷蔵庫も確認できたから十中八九、厨房に地下への扉があるとみていいだろうな)

 

お手洗いへ続く通路を歩きながらディエチは厨房に地下への扉がある事を確信した。

 

一応、厨房にもサーチャーを残す事も成功しているので、概ね目的は達成することは出来た。

 

それから直ぐにディエチはノーヴェの居るテーブル席へと戻る。

 

すると、テーブル席からは大量の空皿を厨房へと運んでいく従業員の姿が見えた。

 

それと反対に厨房から料理が乗る皿をテーブル席へ運んでいく従業員の姿も見えた。

 

(ま、まさか‥‥)

 

ディエチは嫌な予感がしてノーヴェが居るテーブル席へと向かう。

 

するとそこには一心不乱に料理を食べるノーヴェの姿があった。

 

「の、ノーヴェ、何をやっているの?」

 

「おう、ディエチ。遅かったな。いや~あれから気になる料理を片っ端食べているんだよ。最初は食材に抵抗感があったが、食べてみれば意外とうまくてな。箸が止まらねぇんだよ。すみません!!これ二つ追加でお願いします!!」

 

「ちょっ、ノーヴェ、頼みすぎ!!」

 

昨夜に食事代は自分がもつと言ったが、流石にこれほど食べられては払いきれないかもしれない。

 

「分かっているよ。一応、あたしも幾らかは持ってきているから、足りない分はあたしも払うよ」

 

「当たり前じゃん!!これだけ食べたんだから、絶対に私の手持ちだけじゃあ足りないからね!!」

 

ディエチは冷めた目でテーブルの上にある皿を眺めた。

 

そして、会計では案の定‥‥と言うか当たり前でディエチの手持ちだけでは足りなく、ノーヴェとの割り勘となった。

 

ディエチにとっては手痛い出費となったが、確認することは出来た。

 

後は明確な証拠だけとなった。

 

(此処までの事を一応、父さんに伝えよう)

 

流石に全てを独断専行でするほどディエチは無鉄砲ではなく、元来の真面目さからゲンヤにロナウの日記と『亭酒堂』の厨房に地下への出入り口がある事実を伝える事にした。

 

その為、料理屋を出るとディエチとノーヴェは別れ、ディエチは108部隊の隊舎へ‥‥

 

ノーヴェはエルセアにあるナカジマ家へと戻った。

 

そして自宅に戻ったノーヴェは今日、ディエチと共に行った料理屋の事をスバルとウェンディに自慢していた。

 

勿論、スバルはナカジマ家を出ているので通信画面の画面越しとなっている。

 

「それで、今日の昼にディエチと行った料理屋なんだけどよ、ミッドチルダじゃない他の世界の料理を出す店で、食材は亀やカエルを使っている料理もあったんだよ」

 

「えっ?亀やカエル!?」

 

「うげぇ‥ノーヴェ、そんなモンを食べたんっスか?」

 

スバルもウェンディも料理の食材に亀やカエルを使った料理と聞いて引く。

 

自宅に居たウェンディは物理的にノーヴェから距離を取っていた。

 

「いや、そのリアクションは分かるぜ。あたしもメニュー表を見た時は『こんなモン食えるのか?』って思ったけど、実際に食べてみると意外と美味かったんだって!!」

 

「えぇ~本当にぃ~」

 

「まぁ、ノーヴェは何を食べても上手いって言うっスからね」

 

「いや、いや、マジで美味いんだって!!そう思うなら、今度みんなで行こうぜ」

 

意外にもノーヴェは今日食べた他の世界の料理が気に入っている様子であった。

 

「今日食べた亀だって何か肌に良い成分がふんだんに含まれていたみたいだし、カエルの方も鶏肉に似ている味だけど、メニュー表にあった説明だと鶏肉よりもヘルシーなんだ。栄養学的にもささ身よりもカエル肉の方が良いかもしれないな」

 

(えっ?それってヴィヴィオたちにカエル肉を食べさせるつもりじゃあ‥‥)

 

ノーヴェの言葉にスバルはヴィヴィオたちのトレーニング食にカエルを出してソレを食べさせるのかと予測する。

 

(もし、ヴィヴィオにカエルを食べさせたなんて、なのはさんやフェイトさんが知ったら、ノーヴェの命が危ないんじゃあ‥‥)

 

それと同時にノーヴェの身を案じるのであった。

 

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