星の海へ   作:ステルス兄貴

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百九十話 ディエチの捜査そのⅢ

 

 

ディエチの養父であるゲンヤが部隊長を務める陸士108部隊の管轄内で起きている行方不明事件‥‥

 

その事件の一件に関わる事になったディエチ。

 

彼女はその件について重要な手掛かりを手に入れ、ゲンヤに伝えに向かった。

 

そのディエチが向かっている陸士108部隊の隊舎では‥‥

 

「失礼します。ナカジマ三佐」

 

ゲンヤは執務室にて管轄内での事件の報告書に目を通していた。

 

そこへ、同じく108部隊に所属する捜査官、ラッド・カルタスが追加の報告書と事件の鑑定書を持ってゲンヤの居る執務室に来た。

 

「ナカジマ三佐。追加の書類です」

 

「はぁ~‥‥またかよ‥‥」

 

追加の書類と言われげんなりするゲンヤ。

 

「それで、何か分かった事はあるか?」

 

108部隊の管轄内では行方不明事件の他に川辺に人間の骨、臓器、肉片が漂着している奇妙な事件も起きていた。

 

事件に大なり小なりはないが、108部隊では行方不明事件よりもこの川辺に漂着している人の破片の事件の方を重要視していた。

 

行方不明事件では被害者の生死が不明であるが、川辺の事件では確実に人が死んでいる事が判明しているからだ。

 

「DNA鑑定の結果、被害者は一人ではなく多数いるみたいです」

 

「それ以上は?害者の身元とかは?」

 

「いえ、あまりにもバラバラにされていたので、身元の判明は未だに分かりません。ただ前科者データに該当する者が居ないので、被害者の中には前科者が含まれていないと言うことだけしか分かっていません」

 

「はぁ~‥‥」

 

事件の進展も手掛かりもないので、八方塞がり状態。

 

そんな状況とカルタスの報告を聞いてゲンヤは深いため息をつく。

 

そんな中、

 

「ナカジマ三佐、ディエチさんが受付にお見えになっており、三佐との面会を求めています」

 

受付係からディエチが来ているとの内線が入る。

 

「ディエチが?」

 

「はい。なんでも三佐にお話があるみたいです」

 

「‥‥」

 

「いかがいたしましょうか?」

 

(うーん、ディエチが一体何の用なんだ?)

 

(今日は特に忘れ物をした覚えはねぇし‥‥)

 

(しかし、ディエチがこれまでこんなことをしてくるなんて初めての事だ‥‥)

 

「分かった。執務室に通してくれ」

 

「承知しました」

 

ゲンヤは一体ディエチが何の用で来たのか?

 

そして、自分に何の話があるのか気になり、受付係にディエチを執務室に通すように指示を出した。

 

それからすぐにディエチがゲンヤの居る執務室にやって来た。

 

「おう、ディエチ。どうした?」

 

「父さんにちょっと見てもらいたいモノがあって‥‥」

 

「見てもらいたいモノ?なんだ?」

 

「コレ‥‥」

 

「タブレット端末?ディエチが買ったのか?」

 

「ううん。これはこの前、父さんにお弁当を届けた時、受付に来ていた女の人のご主人が持っていたタブレット端末」

 

「ん?受付に来ていた女の人?」

 

ディエチの説明にゲンヤは首を傾げる。

 

彼女の言葉の意味が分からない様だ。

 

「その女の人のご主人が行方不明になっているみたいなんだけど、此処に居る局員の人たちは『もう、亡くなっているだろうから捜す意味がない』みたいなことを言って捜す素振りがなくて‥‥」

 

「そうか、それはその人にすまねぇ事をしてしちまったな‥‥ただ、こっちは沢山の事件を抱えちまっていてな‥‥」

 

「マリエルさんから聞いているけど、今父さんの管轄内で行方不明事件が沢山起きているって‥‥」

 

「ああ、確かに起きている。ただ、今ウチが抱えている事件はそれだけじゃなくて、もう一つの事件に人員を割いていてな。失踪者の捜索がどうしてもおざなりになっちまっているんだ‥害者家族には本当にすまねぇがな‥‥」

 

“陸”はただでさえ人手不足なので、こうした大きな事件が起きると人員の割き方に偏りが生じてしまう。

 

「もう一つの事件?」

 

「ああ‥‥詳しい詳細は言えねぇがな」

 

「そう‥‥それで、その女の人が、私が父さんの家の娘だって聞いていたみたいで、私も嘱託局員としてその女の人の相談を受ける事にしたの」

 

「お、お前、勝手に‥‥」

 

「ご、ごめんなさい。でも、あの女の人が物凄く困っていたから‥‥それに大切な人が行方不明になっている中、その人の帰りを待つ気持ち、父さんなら分かってくれると思って」

 

「‥‥」

 

ディエチの言う事は分かる。

 

実際に一部の者しか知らないが、死んだと思われていたギンガは実際にもう一つの地球で生存している。

 

その事実を知るゲンヤとスバルであったが、ギンガとはもう事実上会うことはかなわない状況だ。

 

しかし、ゲンヤもスバルも何時かはギンガと再び会えることを信じている。

 

だからこそ、行方不明者を捜そうとしているディエチの行動を強く非難することは出来なかった。

 

「分かった。その件は咎めない。それで、そのタブレット端末に何か手掛かりがあったのか?」

 

「うん。コレを見て」

 

そう言って、ディエチは昨日、マリエルにプロテクトを解除してもらったタブレット端末の中に記録されていたロナウの日記を見せる。

 

「こ、こいつは‥‥」

 

「この日記を書いた人の変装趣味は放っておいて、日記の中に出て来た脳交換手術を進めて来た料理店オーナーの王って人は少なくとも、この日記を書いた人の失踪に関わっていると思う」

 

「ああ、そうだな」

 

「それで、さっきノーヴェを連れてこの王って人がオーナーを務めている料理屋に行ってきた。勿論、お客としてね」

 

「そこまでしたのか!?」

 

ディエチの行動力に驚くゲンヤ。

 

「で、怪しい所はあったのか?」

 

「バックヤードにはサーチャーを飛ばして、厨房もチラッと見た。それで、厨房に怪しい床下扉があるのを確認した」

 

「そうか‥それじゃあ、その店に強制捜査をして‥‥」

 

「でも、一歩間違えれば証拠を隠滅される可能性もあるから、逃れられない状況で確保しないと‥それに怪しいのは店のオーナーだけじゃなく、日記の中にある料理長も絶対に関係しているから、確保するなら二人いっぺんに確保しないと‥‥」

 

「そうだな」

 

「だから、まず私がもう一度、王の店を調査する。それで、確実な証拠が揃ったら二人を逮捕してほしい」

 

「うーん‥でもな‥‥」

 

ディエチの提案は彼女一人を虎穴に立ち入らせる行為だ。

 

ギンガがもう一つの地球へ次元漂流させた状況と似ている。

 

そんな経験をしているので、ゲンヤとしては当然そのような危険な行為を簡単に許可させるわけにはいかない。

 

しかし、ディエチの言う事も尤もであり、逮捕しても証拠不十分で釈放なんてされたら逃げられてしまい真相が永久に分からなくなる。

 

「‥‥分かった。お前さんに任せる。ただし、少しでも身の危険を感じたら連絡をしろ。今回は多少人員をお前さんの方に割くように手配しておく」

 

「分かった。ありがとう」

 

「それと‥‥」

 

ゲンヤはディエチの捜査に対して何人かの捜査員を支援として回してくれるように手配しれくれ、更に‥‥

 

「此奴を持っていけ」

 

デスクの中から一丁の拳銃を取り出し、ディエチに渡す。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「拳銃?でも、これって管理局で言う質量兵器にあたるんじゃない?」

 

「いや、此奴が出すのは鉛玉じゃなく、ガジェットの武器と同じビーム‥つまりこの銃はレーザー銃って事だ」

 

「レーザー銃‥‥」

 

「そうだ。レーザーだから火薬銃と違い発射の反動はねぇし、出力調整をすれば非殺傷制定にも殺傷設定にも変えられる」

 

「管理局がそんなモノを‥‥」

 

「法改正とこの銃の配備が始まったのは最近の事だからな。危険な場所に行くのに丸腰は不味いだろうし、お前さんのバズーカじゃあ目立つからな」

 

「な、なるほど‥‥」

 

(バズーカじゃなくて、大型狙撃銃なんだけどな‥‥)

 

ゲンヤのバズーカ宣言にディエチは心の中で自分の愛銃はバズーカではなく大型狙撃銃なのだと心の中で修正を入れる。

 

ディエチの愛銃とも言える固有武装である大型の狙撃砲『イノーメスカノン』はまさにバズーカのような形状をしているので、これから潜入するのだからそんなバズーカみたいなモノを持って行けば一発でバレてしまう。

 

だからといって丸腰のままで行くのはリスクがある。

 

なので、ディエチはゲンヤから渡されたレーザー銃を受け取り持っていく事にした。

 

とは言え、ディエチも銃器を扱うプロなので、いきなり手渡された銃をいきなり現場で使用するのはリスクがあるので、ディエチは108部隊の敷地内にある射撃場にて試射をした。

 

バキューン!!

 

バキューン!!

 

バキューン!!

 

ある程度の距離へ離した的に向かってレーザー銃を撃つディエチ。

 

(ふむ、確かに父さんの言う通り、レーザーだから火薬の爆発による反動はない)

 

(音もそこまで大きくはない)

 

(でも、魔導師が放つシューターじゃないから銃口から的まで真っ直ぐの弾道しか撃てない‥‥まぁ、当然だけどね‥‥)

 

(‥‥この銃、私のIS能力でも適用できるかな?)

 

ディエチのIS能力は、体内で生成したエネルギーを本来ならばイノーメスカノンから砲撃として放つ「ヘヴィバレル」。

 

自身の体内でエネルギーを生成するのは問題ない。

 

放つのが生まれた時から使っているイノーメスカノンか、ついさっき渡されたレーザー銃かの違いだ。

 

(流石にフルパワーだと銃が私のエネルギーに耐えられないだろうし、なによりIS能力には非殺傷なんてないから、エネルギー調整が重要だ)

 

イノーメスカノンは大口径のバズーカみたいな大型狙撃銃なので、蓄えられるエネルギー量もその耐久力もレーザー銃とは雲泥の差である。

 

さらにエネルギー調整もあるが、イノーメスカノンから放たれるヘヴィバレルはSクラスの破壊力を誇る威力がある。

 

それを防げるのはせいぜい、なのは、はやて、フェイトクラスの高ランクの魔導師ぐらいだ。

 

王や華晨が魔導師なのかはロナウの日記の中から魔導師なのか、非魔導師なのかは不明であるが、生きて逮捕は管理局の鉄則なので、万が一彼らと交戦するようなことがあれば相手を非殺傷設定で倒さなければならない。

 

(潜入するまえに装備は万全な状態にして使いこなさないと‥‥)

 

ディエチはそう思い、目を閉じて集中する。

 

エネルギー調整を間違えれば、手にしているレーザー銃が暴発する恐れがある。

 

そうなれば、捜査する前に再びマリエルの下を訊ねなければならなくなる。

 

手を治している間に事態が動くことも十分に考えられる。

 

(集中‥‥集中‥‥)

 

集中しながら体内のエネルギー調整をしながら手にしたレーザー銃にエネルギーを貯める。

 

エネルギーが溜まり、レーザー銃の周りにバチ、バチと小さなスパークが生じる。

 

そして、ディエチがカッと目を見開き、レーザー銃の引き金を的に向かって撃つ。

 

バシューン!!

 

先程のレーザーとは異なり、物凄い速さの光の線が的へと向かい、的に命中すると、

 

ドカーン!!

 

的はもとより、射撃場の壁の一部を撃ち抜いた。

 

「ヤバッ‥威力が強すぎた‥‥うーん、調整が難しいな‥‥あっ、銃は‥‥うん、壊れていない。意外と頑丈だ」

 

魔導師の魔法はデバイスやリミッターで調整が可能だが、戦闘機人のIS能力の調整は使う本人の力加減に左右される。

 

それを含めて調整されていたとはいえ、ディエチのヘヴィバレルに耐えたこのレーザー銃はかなりの強度な事が窺える。

 

それもそのはずで、このレーザー銃そしてビームライフルはロールスロイスたち“陸”の上層部が開発費を得た後、心血を注いで“陸”で働く非魔導師局員たちのために威力・耐久性、携行しやすい形状など様々な観点や意見を取り入れて開発をした光学武器なのだ。

 

(通常のレーザー銃の使い方は分かった)

 

(でも、この銃でヘヴィバレルを撃つには少し訓練が必要みたいだ‥‥)

 

(いつ踏み込むか分からない中で、どこまで調整が出来るだろう‥‥?)

 

(もし使いこなせなかったら、精密射撃でいくしかないけど、使える手は一つでもあった方がいいよね)

 

(よし、そうとなれば訓練あるのみだ!!)

 

ディエチは再び目を閉じて体内でエネルギー調整を始めた。

 

その後、ディエチがレーザー銃とヘヴィバレルの鍛錬をしていると、王の店に仕掛けてきたサーチャーに動きがあった。

 

「ん?」

 

『華晨、商品が随分集まったネェ。今夜、オークションをするからお客に連絡を入れるヨロシ』

 

『了解ネェ。オーナー』

 

(オークション?料理屋の店で?)

 

(一体何をオークションに出すんだろう?)

 

料理屋に関係なさそうな単語である『オークション』という言葉に違和感を覚えるディエチ。

 

(これはもしや、何か手掛かりが掴めるかも‥‥)

 

そう思ったディエチは早速ゲンヤにこの旨を伝えた。

 

「確かにディエチの言う通り、料理屋でオークションって単語は妙だが、どこかの好事家かオークションの運営会社がオークション会場にその料理屋を貸し切った可能性もあるがな‥‥」

 

かつて機動六課が稼働中にホテルアグスタでロストロギアのオークションが行われたことがあった。

 

「な、なるほど‥‥」

 

ゲンヤの可能性を聞き、ディエチは納得する。

 

「でも、本当にただのオークションなのかは実際に行ってみないと分からないから‥‥」

 

「そうだな。でも、気をつけろよ。ディエチ」

 

「うん」

 

こうして、今夜ディエチはオークションが開かれる王がオーナーをしている例の料理屋に潜入る事になった。

 

潜入前、

 

「では、ナカジマさん。服の内側に集音マイクを仕込んで下さい」

 

108部隊の指令車の中でディエチは店内の様子を他の捜査員に知らせるための集音マイクを手渡され、服の内側に仕込む。

 

「それと通信インカムです。こちらと連絡が取りやすい様に耳へ着けてください」

 

「‥‥ありがとう」

 

続いてディエチは捜査員と連絡をとるための通信インカムを耳に着ける。

 

「集音マイク・通信インカムの起動を確認‥店内の状況はこちらで音声として聞いていますし、何かあればインカムでこちらと連絡が取れるようになっています。勿論、録音もしているので、安心してください」

 

「例の店を監視していた別動隊からの連絡では例の店に多数の人間が入っていくのが確認されています。あの店で今夜何か行われるのは間違いありません」

 

「了解。それじゃあ、行ってきます」

 

服の内側に集音マイクを仕込み、そのマイクの稼働を確認した後、ディエチは王の料理屋へと向かう。

 

正面出入口では見張りが居るだろうし、もし正式なオークションが行われるのであるならば、招待状が必要だ。

 

なので、ディエチは裏口からの潜入を試みた。

 

(‥‥裏口の向こう側に人の気配は‥‥なし)

 

(よーし)

 

ディエチはまず扉の向こう側に人の気配が無い事を確認し、裏口のドアノブをゆっくりと回す。

 

しかし、扉にはカギがかかっていた。

 

(そりゃあそうだよね)

 

(仕方ない)

 

問題行動であると自覚はしているが、ディエチは内ポケットからピッキングツールを取り出し、それを使い裏口の扉を開けて店の中に潜入した。

 

(おかしい人の気配がない‥‥)

 

(此処に来る前の情報では、確かに店の中に多数の人が入っている筈‥‥)

 

店内は必要最低限の明かりが灯っているだけで、人の気配がない。

 

オークションが店内で行われているのであるならば、人の気配があり人の声がする筈だ、

 

しかし、店内は何故かシーンと静まり返っている。

 

(店内に入った人たちは一体何処へ‥‥)

 

(はっ!?確か依頼人のご主人が記した日記では、『地下で脳交換手術をした人と出会った』って書いてあった‥‥それならオークション会場は地下か!?)

 

ロナウの日記が書いた日記の文面からディエチはオークション会場が厨房の床下扉の下‥‥

 

店の地下と判断し、急ぎ厨房へと向かう。

 

厨房は綺麗に整理整頓されていたが、誰もいない。

 

しかし、明かりは点いており、床下扉は開いていた。

 

「やっぱり、会場は地下か‥‥」

 

ディエチは地下へと続く床下扉の中を覗く。

 

「こちら、ディエチ・ナカジマ。オークション会場は厨房の地下にあると思われます」

 

そして、ディエチはインカムにて外で待機している捜査員たちに現状を報告する。

 

「店内には誰も居なかったのか?」

 

「はい。裏口付近、厨房を含め、人の気配はありません。残るはこの地下のみです」

 

「そうか‥分かった。一度戻った方が良いのではないか?」

 

「いえ、まだオークション内容を確認していません。オークションの出品内容が美術品とかの普通のオークションなら、このまま撤退しますが、もし問題のある品を競売していたらそのまま摘発します」

 

ディエチは外の捜査員に地下へ行く旨を伝えた後、地下へと降りて行った。

 

地下通路を進んで行くと、奥の方から人の声が聞こえて来た。

 

(やっぱり、会場は此処か‥‥)

 

ディエチは気配を殺し、オークション会場となっている地下に設けられている一室の扉を少し開けて、室内の様子を窺う。

 

「では、次の競売品はコレネェ」

 

室内に設けられた舞台の上には店のオーナーである王が一つの生体ポッドをテーブルの上に置く。

 

その生体ポッドの中には一つの脳髄が入っていた。

 

「お買い得、早い者勝ちネェ。生物学の権威、ロナウ・マクトリン氏の脳ミソ!!百万から!!」

 

「百二十万!!」

 

「百三十万!!」

 

「百四十万!!」

 

ロナウの脳ミソをオークションにかけて値段を入札する参加者たち。

 

人の脳ミソを平気で購入しようとしている事からこのオークションの参加者たちも普通の人間たちではないのだろう。

 

「お客さん、もっと気前良く値を張るヨロシ」

 

思ったよりも値段が吊り上がらない事に王はやや不満気だ。

 

「お国の軍事用生物兵器、細菌兵器研究に役立つ事請け合いネェ!!脳ミソ状態でもちゃんと生きているネェ。かさばらないから出国の時、怪しまれない。とても便利ネェ。ミナサンの国の役立たずの脳ミソを取り出して、ソイツの身体に移植しればヨロシネェ」

 

王がロナウの脳ミソの使い道を嬉々として話す。

 

「百五十万!!」

 

それでも値段はあまり上がらない。

 

新しい体にロナウの脳ミソを移植しても王の言う様に生物兵器の研究をしてくれるのか?

 

脳ミソの移植手術が成功するのか?

 

そうしたリスクがあるので、例えロナウが優秀な生物学学者でも値段が吊り上がらないのだ。

 

(ロナウ・マクトリン‥‥依頼人のご主人の名前だ)

 

(やはり、この店のオーナーが依頼人のご主人の失踪に関わっている事に間違いない様だ)

 

「百五十万!!百五十万!!それ以上は居ないアルカ?」

 

オークションの内容を聞いて黒と判断したディエチは‥‥

 

「そこまでだ!!全員手を上げろ!!」

 

レーザー銃を構えながら室内に突入した。

 

「な、ナンネ?お前は?」

 

「時空管理局 嘱託局員、ディエチ・ナカジマ」

 

「アイヤ~管理局の局員カ?でも、残念ネェ」

 

王はディエチの姿を見て、リモコンを取り出し、

 

「この装置を動かせば、魔導師なんて怖くないネェ」

 

ボタンを押す。

 

すると、何かが作動した。

 

「?」

 

「気づかないカ?身体の違和感に‥‥」

 

「別に何も‥‥」

 

しかし、ディエチは違和感なんてない。

 

「この部屋にはAMF発生装置が仕掛けて有るのヨォ~これでお前たち魔導師は魔法が使えなくなるネェ」

 

この部屋にはスカリエッティが作ったガジェットの機能の一つ、AMF発生装置が仕込まれていたようで、王はそのAMF装置を作動させたみたいだが、戦闘機人であるディエチにAMFは何の意味もない。

 

「残念ながら、私は魔導師じゃないからAMFは関係ないんだよ」

 

「アイヤ~非魔導だったカ‥‥しかし、それでも関係ないネェ。このオークションを見られたからには死んでもらうネェ!!」

 

王は懐から拳銃を取り出す。

 

他のオークション参加者たちもこのままだと自分らが管理局に摘発される事から自らの保身のために王と同じく拳銃やマシンガン等の質量兵器を取り出し、その銃口をディエチへと向ける。

 

「お前、迂闊だったネェ。一人で来るなんて‥‥大人しく死ぬヨロシ」

 

ディエチを確実に口封じ出来ると確信したのか王はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「一つ質問」

 

「なんネェ」

 

「脳ミソを取り出した後のロナウさんの身体はどこに?身体もとってあるの?」

 

「あんな年老いた身体なんて不要なモノ。だからミンチにしたあるヨォ。お前もそうなる」

 

「ミンチ?」

 

「ソウネェ。細かく刻んで川に捨てる。肉は魚が食べてくれるからとってもecoネェ」

 

108部隊の管轄内で起きている人の肉片や骨が川原に打ち上げられている事件の犯人も王たちの仕業のようだ。

 

「さあ、此処で撃ち殺されるか、それとも生きたままミンチになるかドッチがいいカ?」

 

万事休すかと思われたが、ディエチは此処に来る前に集音マイクとインカムを装備しており、更に店のすぐそばには捜査員たちが待機していた。

 

先程の王とディエチの会話の内容は当然、集音マイクで捜査員たちに聞かれていた。

 

なので‥‥

 

「全員動くな!!」

 

外で待機していた捜査員たちが突入してきた。

 

勿論、突入して来た捜査員たちの手にはディエチ同様、レーザー銃が握られていた。

 

「くそっ、捕まってたまるか!!」

 

「こうなれば自棄だ!!」

 

オークション参加者たちは捜査員たちへ発砲し、オークション会場はたちまち銃撃戦の戦場となった。

 

「アイヤ~これは不味いネェ」

 

「お、オーナー待って~」

 

銃撃戦のどさくさに紛れて王と華晨は地下に設置されている隠しエレベーターに飛び乗って逃げて行った。

 

「あっ、逃げた!!」

 

その様子に気づいたディエチは銃撃戦が起きているオークション会場から急いで出た。

 

隠しエレベーターから逃げた王と華晨は屋上に隠していた小型のヘリコプターに乗り、空へと逃亡した。

 

今回の事件は“陸”の108部隊の管轄内で起きていた事から“空”へ応援要請をしていなかったので、空の警戒はしていなかった。

 

尤も“空”に応援要請をしたところで、“空”が空戦魔導師の応援を寄越したとは思えない。

 

「いや~まさか管理局にバレるとは予想外ネェ~でもワタシ、どさくさに紛れて逃げるのとても得意ネェ」

 

「オーナーこれからどうするネェ」

 

「しかたないネェ。ひとまず、他の世界に高飛びするヨロシ」

 

王と華晨はこのまま次元航行船の発着場へと向かい他の世界への高飛びを画策する。

 

しかし、そうは問屋が卸さない。

 

「お、オーナーあれ!!」

 

華晨がビルの一角を指さす。

 

「ん?あ、アレは!?」

 

王も華晨が指を差した方向を見て思わず驚愕の声を漏らす。

 

華晨が指を差し、王が驚愕の声を出したその先に居たのはレーザー銃を構えたディエチだった。

 

「あ、アイヤ~!!」

 

バシューン!!

 

ディエチは王と華晨が乗った小型ヘリコプターに向かってレーザー銃からヘヴィバレルを撃つ。

 

ヘヴィバレルは見事二人が乗った小型ヘリコプターに命中した。

 

「「アイヤ~!!」」

 

二人は墜落していく小型ヘリコプターと共に川へと落ちた。

 

オークション会場に居た参加者たちも108部隊の捜査員たちの手で全員逮捕された。

 

しかし、川に落ちた王と華晨の身柄は確保できず、死亡したのか逃亡したのか不明となり、その生死の確認が急がれる事になった。

 

それから数日後‥‥

 

ディエチの姿は108部隊の部隊長室にあった。

 

彼女はゲンヤに事後報告を入れに来たのだ。

 

「それで、お前さんに旦那の捜索を依頼したご婦人はどうなった?やはり、旦那を亡くした事を気に病んでいたか?」

 

「いえ、彼女は未だでもご主人と一緒に生活をしています」

 

「ん?一緒に生活?でも、旦那の身体はバラバラにされたんだろう?」

 

ディエチの回答に首を傾げるゲンヤ。

 

「はい。確認はとれていませんが、あの事件の首謀者である王が言うには、ロナウさんの身体はバラバラにされたみたいです」

 

「だったら‥‥」

 

「しかし、脳ミソは無事でした‥‥」

 

「ん?」

 

「認めたくはありませんが、あの華晨と言う外科医は凄腕の外科医だったみたいです。それに脳ミソを保存する生体ポッドも精巧に作られたモノみたいでロナウさんは脳ミソの状態で生きています‥‥かつての最高評議会のメンバーみたいに‥‥ね‥‥」

 

「‥‥」

 

「でも、依頼人は例え脳ミソだけの存在になってしまっても心の底からご主人を愛しているみたいで、嬉々として引き取っていきました」

 

ディエチの回答にゲンヤは絶句した。

 

JS事件の後日に判明した正体不明の管理局最高意思決定機関のメンバーたち。

 

彼らは旧暦の時代、未だ統制の取れていなかった数多の次元世界を平定した英雄たちであったが新暦となった今では、死を恐れるまま脳髄だけとなり、管理局を陰から牛耳っていた過去の亡霊と言える存在だった‥‥。

 

ロナウはそんな最高評議会のメンバーと同じ状態であるとディエチは言う。

 

しかし、エレーヌはそんな状態でもロナウの事を愛していたので、生体ポッドに入った脳ミソ状態のロナウを引き取って行った。

 

「でも、JS事件の時はまだ華晨の脳交換手術の術式は確立されていなかったけど、もし確立されていたら、あの脳ミソの老害たちは身体を交換して生き続けて管理局をずっと陰から牛耳っていたかもしれないね‥‥その場合、管理局のエースや夜天の書の主、ハラオウン候補生も狙われていたかもしれないね」

 

「‥‥」

 

ディエチ曰く、もしJS事件前に脳交換手術の手法が確立されていた場合、最高評議会のメンバーはなのは、はやて、フェイトの若い肉体、魔力に目をつけていたと推測する。

 

ゲンヤもディエチがたてた推測を否定する事が出来なかった。

 

「しかし、そんな手術が出来る外科医を確保できなかったのは痛かったな‥‥」

 

「その点についてはごめんなさい。あのまま逃亡を許す訳にはいかなかったから‥‥」

 

二人が乗ったヘリコプターを撃ち落したディエチ自身もまさか、ヘリコプターが川に墜落して王と華晨が生死不明になってしまったのは想定外の事態だった。

 

「ああ、流石にヘリで逃亡した後の事はお前さんの不可抗力だ」

 

ゲンヤもその点は理解してディエチに罰則を与える事はなかった。

 

とは言え、現状‥燃えながら墜落していくヘリコプターの中からパラシュートも飛行魔法も確認できずに王と華晨の二人はヘリコプター諸共、川へ墜落した事から二人の生存を疑問視している捜査員は多かった。

 

 

その頃、今回ディエチに旦那の捜索を依頼したエレーヌと被害者であるロナウの自宅であるマクトリン邸では‥‥

 

「アナタ、今日はいい天気よ」

 

エレーヌが脳髄の入った生体ポッドを両手で大切そうに持ちながら庭に出て微笑んでいた。

 

すると生体ポッドからはまるで返事をするかのようにゴポッ、ゴポッと気泡が出ていた。

 

 

また今回の事件の余波は意外にもナカジマ家でもあった。

 

「うそ!!あの店が潰れた!?マジかよ!?」

 

「うん。店のオーナーが犯罪に関わっていたみたいで‥‥」

 

「そっか‥‥あの店の料理、美味かったのになぁ‥‥」

 

意外にも王の料理屋で出された料理が気に入っていたノーヴェが、王の店が閉店した事に驚き、残念がっていた。

 

「あっ、でもね‥‥」

 

がっかりしているノーヴェに対してディエチは、とある紙の束を見せる。

 

「ん?なんだ?この紙の束は?」

 

「あの後、お店の家宅捜索があって、事件とは関係ないって事で、あの店にあった料理のレシピを父さんの許可を貰ってコピーさせてもらったの。だから材料があれば家でも作れるよ」

 

「ほんとうか!?」

 

「う、うん。全部って訳にはいかないかもしれないけどね」

 

「じゃあ、今度作ってみようぜ!!材料があれば作れるかもしれねぇんだろう?」

 

「わ、分かった。その前にレシピを見て、作れそうな料理のピックアップと材料の調達をしよう。父さんは今日、飲み会で遅くなるみたいだけど、今日の料理の反応を見て後日、父さんの分も作ろう」

 

「おう!!」

 

もうあの店の料理が食べられないと諦めたノーヴェであったが、ディエチの機転であの店で提供していた料理のレシピを手に入れた事で、材料と手間、調理器具があれば作れるかもしれないと言う事実にノーヴェは喜んだ。

 

後日、朝早くからディエチとノーヴェはあの店があった新都心地区の市場へと赴き材料の調達をした。

 

新都心地区には他の世界での食材を扱う店があった。

 

だからこそ、王はこの新都心地区で店を構えたのだ。

 

ただ、この市場に行く前、ノーヴェがウェンディに、

 

「ウェンディ、これからあたしとディエチはちょっと市場で食材を仕入れてくる。今日の夕食は期待していいぞ!!」

 

「えっ?わざわざ市場に?近くのスーパーじゃあダメなんっスか?」

 

「あの店の料理を再現するにはスーパーの食材じゃあ揃わないんだよ」

 

「ん?あの店?それってもしかして、ノーヴェとディエチがこの前行ったカエルや亀を出す料理屋っスか!?」

 

「ああ。あの店、何か潰れちまったみたいなんだが、ディエチがレシピを手に入れて、今日はその料理を再現しようって事になったんだよ」

 

「‥‥」

 

ノーヴェの言葉を聞き、ウェンディは絶句。

 

(なんで好き好んで亀やカエルを食べなきゃならないっスか!?)

 

ウェンディにしてみれば強制的にゲテモノを食わされることになるので、心の中でノーヴェに対して文句を言う。

 

「スバルやヴィヴィオ、アインハルトにも伝えてあるから、今日の夕食は賑やかになるぞ」

 

(ええ、そりゃあ、ある意味で賑やかになるだろうっスね!!)

 

嬉しそうなノーヴェと異なりウェンディはげんなりとしていた。

 

それからしばらくして、タクシーに沢山の段ボールを詰め込んだディエチとノーヴェが帰って来た。

 

「うわぁぁ~本当にカエルや亀を買って来たっス‥‥」

 

二人の帰宅の様子を見たウェンディは引いていた。

 

やがて、食材を台所に運び込んだ二人は下ごしらえを始める。

 

「‥‥」

 

ウェンディは顔を引き攣らせてキッチンに居るディエチとノーヴェを見ている。

 

そんな中、

 

「ただいま~」

 

ノーヴェに呼ばれたスバルが帰省した。

 

「あっ、スバル‥‥」

 

「ん?どうしたの?ウェンディ」

 

「今日の夕飯の事、聞いているっスか?」

 

「えっ?今日の夕飯?うーんと、ノーヴェから『凄いご馳走を作るから帰ってこい』としか聞いていないけど‥‥一体何を作るんだろう?」

 

そう言いながらキッチンをチラ見すると、

 

「ん?もう、作り始めているの?」

 

「あぁ~うん。ノーヴェもディエチも張り切っているみたいで‥‥」

 

「そうなんだ‥‥じゃあ、今日の夕飯は期待できるね!!」

 

「そ、そうっスね‥‥」

 

(スバル、聞いていないみたいっスね‥‥)

 

(まさか、亀やカエルを食わされることを知らないみたいだし、此処まで嬉しそうなスバルをがっかりさせるのは気が引けるっス‥‥)

 

スバルはどうやら今日の夕飯のメニューを知らされていないみたいだ。

 

しかもスバルはディエチとノーヴェの様子から今日の夕飯を楽しみにしている。

 

そんなスバルを絶望の淵に叩き落すのはあまりにも可哀そうだったので、ウェンディは今日の夕飯のメニューを伝えない事にした。

 

夕方になり、ノーヴェが呼んだヴィヴィオとアインハルトもナカジマ家へとやって来た。

 

「「こんにちは」」

 

「おっ、二人とも来たな」

 

ノーヴェがキッチンからひょいっと顔を出す。

 

「はい。今日はお招きありがとうございます」

 

「ありがとうございます!!」

 

ヴィヴィオとアインハルトを招き入れ夕食に向けてラストスパートをかけるノーヴェ。

 

「ヴィヴィオ、アインハルト、今日はノーヴェから夕食について何か聞いているっスか?」

 

「ううん、何も聞いていない」

 

「私も‥‥」

 

スバル同様、ヴィヴィオとアインハルトも今日の夕飯のメニューは聞いていないみたいだ。

 

やがて、夕飯の準備が整い、リビングのテーブルに料理が並び始める。

 

「柔甲魚(スッポンみたいな亀)の姿煮」

 

「「「「‥‥」」」」

 

皿の上に亀が一匹まるまると乗っている料理を見て目が点になるスバルたち。

 

「それとこれ、水鶏(食用カエル)のから揚げ」

 

「こっちは川魚と山菜の味噌粥だ。いやぁ~この粥はマジで手間がかかって作るのに苦労したぜぇ~」

 

テーブルに並ぶ料理の数々であるが、スバルたちは亀には手を出さず他の料理を食べている。

 

「ん?なんだ?ヴィヴィオもアインハルトも姿煮は食べねぇのか?」

 

「さ、流石に‥‥」

 

「亀はちょっと‥‥」

 

「まぁ、見た目はグロいかもしれねぇが、この亀は肌に良い成分がふんだんに含まれているんだぜ。それにアミノ酸から作られるタンパク質は体内で筋肉や酵素、ホルモンの材料になるため滋養強壮の効果があるし、リノール酸は、コレステロール値や中性脂肪を抑える働きがある」

 

「えっ?この亀にそんな効果が!?」

 

「意外かも‥‥」

 

ノーヴェから効果を聞きヴィヴィオとアインハルトは恐る恐るだが、姿煮に箸を伸ばす。

 

スバルもやはり、効果が気になったのか姿煮に箸を伸ばした。

 

続いてノーヴェは唐揚げに箸を伸ばす。

 

「ノーヴェ、それは?」

 

「水鶏の唐揚げだ」

 

「水鶏の唐揚げ‥‥?」

 

「それってなんの肉なの?」

 

食材に聞き覚えがなかったアインハルトとヴィヴィオは水鶏が一体どんな生き物の肉なのか気になった。

 

「水鶏は食用カエルの一種だ」

 

「か、カエル!?」

 

「気持ち悪っ!!」

 

「ほら、ほら、それがいけない。確かに食材の正体を聞けば気持ち悪いと思うが、味は鶏の唐揚げよりも美味い。上品且つタンパクで奥行きが深い味だ」

 

「そ、それじゃあ‥‥」

 

「一つ‥‥」

 

ヴィヴィオとアインハルトは恐る恐る箸を伸ばし、一口食べてみた。

 

「意外とあっさりしている‥‥」

 

「確かに奥行きがある味‥ですね」

 

カエルと聞いて最初は気持ち悪がっていたヴィヴィオとアインハルトであるが、味を知るとパク、パクと食べた。

 

スバルとウェンディもヴィヴィオとアインハルトの様子から恐る恐る水鶏の唐揚げを食べてみたが、カエルと言う割にその味を気にったのかスバルが食べる唐揚げの消費はノーヴェと競い合うかのようだった。

 

この日の夕食でスバルたちの食に対する見方が変わったのは言うまでもなかった。

 

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