ケンタウロス座アルファ星から輸送船団護衛の為に地球へ帰還したまほろば。
地球に帰還した際、まほろばが停泊したドックの隣にあるドックではヤマトも停泊しており、そこで良馬はヤマト艦長である古代と出会った。
そして古代に今、自分が抱えている将来についての相談を受けてもらった。
その相談と言うのが、結婚のタイミングについてだ。
古代も良馬同様、雪との結婚のタイミングについて悩んでいる節があった。
良馬もギンガとの結婚を望んでいたし、古代も雪との結婚を望んでいた。
実際に古代と雪は結婚寸前の所まで関係が進んでいたのだが、彗星帝国の襲来で結婚式は延期となり、彗星帝国戦役後も二人は話し合いの結果、結婚を延期したままの関係が続いていた。
その理由は、彗星帝国戦役後も太陽系にはまだ彗星帝国の残党が存在しており、そんな中で、ガミラス星が消滅した事により、イスカンダルも危機に陥ってしまい、イスカンダルのスターシアと古代の兄、守を救助する為に急遽行われた第二次イスカンダル遠征、その後の暗黒星団帝国の襲来、太陽異常などの大きな事件が立て続けに起き、ようやく騒動が落ち着くも古代が雪に結婚を申し込む気配はなかった。
今回良馬が古代にその訳を訊ねる機会があり、聞いてみると古代曰く、雪に結婚を申し込めない理由は、自分たちが結婚しようとすると地球の命運に係わる大きな事件が起こるから‥‥
と、不吉なジンクスがあると信じていたからだ。
まぁ、ガミラス戦役から立て続けに起こったこれらの大事件を考慮するとそんな考えを抱いてしまうのも無理はない。
しかし、そんなジンクスを信じていてはいつまで経っても結婚することは出来ない。
結局、良馬と話した後、古代は雪と機会を見て互いに話し合う事にした。
それは良馬も同じでギンガが地球に戻った時、自分も地球に居たらギンガと結婚について話し合ってみようと思った。
古代に相談した後、良馬はまほろばの補給が終われば、再びアルファ星へ向かうのかと思いきや、司令部からまほろばの改装案が提出された。
かねてからの指摘で、まほろばの防空能力の脆弱性が問題点となり、対空兵装の増強が今回の主な改装となり、その改装期間中は地球に留まる事になった。
そこで、良馬は古代に次いでギンガの養母である中嶋加奈江にも相談に乗ってもらったのだった。
「そうね‥‥」
加奈江はギンガが将来、子供を欲しがるか?
前世からの経験から、彼女はその推測を口にする。
「私は、ギンガ本人じゃあないから、はっきりとは言えないけど‥‥」
「は、はい」
「ギンガは‥‥子供を‥‥望んでいる筈よ」
「そ、そうなんですか?」
「ええ‥ギンガはこの世界に漂流する前‥‥ミッドチルダで暮らしている頃から色々と家庭環境が波乱だった子なの‥‥良馬君はギンガの秘密を知っている?」
「は、はい。彼女が戦闘機人と言う存在である事を‥‥」
良馬は夜の一族と呼ばれる吸血鬼家系‥‥
そして、ギンガは人体に身体能力を強化するための機械部品をインプラントし、人の身体と機械を融合させ、常人を超える能力を得た存在‥‥
良馬がギンガを実家に連れて行った際、両者は互いの秘密を伝えあっている。
互いの正体を分かった上で、良馬もギンガも交際している。
「そう‥‥それじゃあ、ギンガが前世の私の下に来た経緯は?」
「いえ、そこまでは‥‥」
良馬の実家に来た際、ギンガは自身の身体に秘められた秘密を伝えたが、ミッドチルダにおける生活については語っていない。
なので、ギンガがどういった経緯で、ミッドチルダにあるナカジマ家へ迎え入れられたのかを良馬は知らない。
「じゃあ、その点を踏まえてギンガが何故、子供を望むのかを話すわね」
「はい。お願いします」
そこで、加奈江は前世においてどの様な経緯でギンガがミッドチルダのナカジマ家に迎え入れられたのかを語る。
「この世界でのクローン技術は民間人である私には分からないけど、前世の私の生まれ故郷であるミッドチルダでその技術は確立されていたけど、管理局は倫理的、人道的に禁止していたわ‥‥でも、管理世界の中には様々な理由でクローン技術に手を出す人たちが居たわ‥‥私が知っているのは死んだ家族をクローン技術で蘇生させようとした人が居たわ」
「死んだ‥家族‥‥」
「ええ‥‥」
『死んだ家族』と言われると良馬の周りには家族を失った人が多すぎる。
ミッドチルダと異なり、こちらの地球では、クローン技術は確立されていない。
もしもクローン技術が確立されていれば‥‥そう思ってしまうが、クローン技術は長所と短所があり、すんなりと受け入れがたい技術だ。
加奈江がクイントだった頃、この世界とは異なるもう一つの地球で起きたPT事件の報告書に目を賭した事があった。
加奈江は自分が知っているクローン技術を使って死んだ家族を蘇生させようとした人物が起こした事件を良馬に語った。
何故、加奈江がその事件を知っているのか?
それは、第97管理外世界‥地球‥‥そこは当時の夫であったゲンヤの先祖が住んでいた世界だったので、その世界で起きた事件と言う事で興味を抱き調べたのだ。
PT事件の主犯とされるプレシア・テスタロッサは自身の死んだ娘、アリシア・テスタロッサを蘇生させようと伝説の地、アルハザードを目指すためにジュエルシードを自身が生み出したアリシアのクローン、フェイト・テスタロッサに集めさせていた。
娘のクローンの筈なのに、フェイトはアリシアにはなれなかった。
だからこそ、プレシアはフェイトを娘として扱わず、ジュエルシードを集めるための人形としてしか見ていなかった。
この時、クイントの下には既にギンガとスバルが居たので、プレシアの行為について娘を亡くした母親視点としてプレシアの気持ちは分からなくもなかったが、例えクローンとは言え、生み出した娘を娘として扱わなかった事に対して、クイントは憤りを覚えた。
「フェイトって‥‥ま、まさか‥‥」
加奈江の話に出て来たクローン人間のフェイト‥‥
その名前に良馬は聞き覚えがあった。
「そう‥良馬君たちが助けたあのフェイトさんよ」
「‥‥」
まさか、あの時に救助したフェイトがクローン人間であった事を図らずも此処で知る事になり驚愕する良馬。
「クローン技術は死んだ家族を蘇生させるだけでなく、人材不足の解消にも当初は期待されたわ‥‥」
「‥‥」
人材不足の解消‥‥
軍に身を置く者としてそれは十分に理解できる。
ガミラス、彗星帝国、暗黒星団帝国、ボラー連邦、これらの星間国家との戦争で地球の人的損失はあまりにも大きい。
クローン技術があれば‥‥クローン兵士を次々と生み出せば、戦争で死ぬ兵士の補充が簡単であるが、最初から死ぬためにクローンの兵士を生み出す事は、加奈江の言う通り、倫理的、人道的に問題がある。
「管理局は大きく分けて三つの所属に別れるわ‥‥ミッドの治安維持を主に担当する“陸”、宇宙に出てロストギアの回収や犯罪者の追跡、管理世界になりえる世界探査を担当する“海”、ミッドの空、そして“海”に同行して現地の探査や制圧を担当する“空”‥‥それで、“陸”と“海”は同じ組織ながら犬猿の仲でね」
「それは防衛軍も似たようなモノです。宇宙艦隊勤務の者と陸戦専門の空間騎兵隊員でも軋轢がありますからね」
「それで、“海”の任務が広範囲で多岐に渡ると言う事で、優秀な人材、多額の資金や高価な装備品は“海”へ優先的に行き、“陸”は限られた人材、資金、装備でミッドの治安維持をしなければならなかった‥‥ミッドはお世辞にも治安が良い訳ではなかったの‥‥」
「ミッドは管理局が置かれている本星なんですよね?それで治安が悪い?」
「“海”の職務の一つに管理世界に成り得る世界の探査があるって言ったけど、その探査でやり過ぎた事例もあってね‥‥」
「やり過ぎた事例‥‥?それってまさか‥‥」
「そう‥“海”にとっては新たな管理世界の獲得だけど、その世界に住んでいる人にとって管理局は侵略者になるわね‥‥そう言った事例が重なって、管理局‥ミッドがテロの標的になって、ミッドではテロが横行してね‥‥“陸”の主な任務がミッドの治安維持だけど‥‥」
「人材、資金面が少ない‥‥」
「ええ、だから不足している人材の問題を解決するのにクローン技術が注目されたって訳‥‥でも、色々な問題が壁となって結局、管理局でもクローン技術を使った人材不足解消には至らなかったわ‥‥表向きはね‥‥」
「えっ?表向きは?」
「これは私の推測だけど、管理局は‥当時の“陸”はやっぱり、クローン技術の研究を続けていたと思っているわ」
「ミッドは確か、管理局の影響で三権分立が存在していないと聞いています。クローン技術は管理局が禁止している筈なのに、そのクローン技術の研究を続けていたんですか?」
「ええ‥‥クローン技術の研究で強力なクローン魔導師が生まれるとは限らない‥‥それなら、人為的な力を介在させることで安定した人数と武力を揃えられる方が確実と言う結論が出て、研究・開発されたのが‥‥」
「戦闘機人‥‥」
「そう。勿論、クローン技術同様、戦闘機人の研究・開発も管理局は禁止していたわ‥‥でも、当時、私が所属していた部隊‥ゼスト隊が違法な研究をしている施設があると言う情報を得て摘発をした…その施設で私は二人の子供を保護したわ」
「その二人の子供が‥‥」
「一人はギンガ‥‥もう一人はギンガの妹のスバル‥‥その施設で二人はタイプゼロ・ファースト、タイプゼロ・セカンドなんて幼い時からそんな機械みたいな名前で呼ばれて、施設に居た人たちから常に『お前たちは人間ではなく兵器だ』‥なんて言われ続けていたみたい」
「ギンガの過去にそんな事が‥‥」
加奈江の話を聞き、良馬としても胸糞悪くなる。
「このままだと二人の人格形成に問題が生じると思って、私は二人にギンガ、スバルと言う名前をつけて、二人は決して兵器ではなく人なのだと言い聞かせたわ」
「ん?あれ?ちょっと待ってください」
そこで良馬はある矛盾に気づく。
「あら?何かしら?」
「ギンガと妹のスバル‥ちゃん?はその違法施設で救助されたんですよね?」
「ええ」
「違法施設では機械みたいな名前で呼ばれていたし、ギンガとそのスバルちゃんは紛れもない戦闘機人‥‥と言う事は、その‥加奈江さんの前世でお腹を痛めて産んだ子ではなかったんですよね?」
「‥‥ええ、前世の私はその時の夫の間に子供は出来なかったわ」
「じゃあ、何故ギンガは加奈江さんと似ているんですか?‥‥ま、まぁ、他人の空似と言われればそれまでですけど‥‥」
実際にフェイトとフェリシア、はやてとディアーチェは本当に他人なのかと言われる程、似ていた。
加奈江とギンガもそういったケースなのかと加奈江に問う。
「当時の私も二人を助け出した際、それが気になってね、知り合いの技術者に二人の健康診断を兼ねて診察をしてもらったの‥‥その時に二人が戦闘機人である事が判明し、二人の誕生には私のDNAデータが使用されていた事も分かったのよ」
「えっと‥加奈江さんの前世のDNAデータ‥‥?」
「戦闘機人は人の身体と機械を融合させた存在だけど、その元となる人の身体もクローン技術が使用されてね。そのクローンの基盤には前世の私のDNAが使用されていたの‥‥それが分かった時、私は管理局がクローン技術、戦闘機人の開発・研究をしていたのだと悟ったわ‥‥」
「‥‥」
「前世の私がギンガとスバルと一緒に暮らせたのは僅か二年と言う短い時間だったけど、二人は自分たちが兵器ではなく、人なのだと実感してくれたと思うけど、心の中にはやっぱり自分は普通の人ではないと言うコンプレックスがあったと思うわ」
そのコンプレックスに関しては良馬も理解できる。
「前世ではギンガとスバルは確かに私たちの子供である事は間違いないわ‥でも、二人が来る前は夫との子供を欲しがった事もあった‥子供は愛する人との間に出来る愛情の結晶だから‥‥」
「‥‥」
「こうした過去があるからギンガは人一倍、家族愛を大切にする子だと思うからきっと良馬君との間に子供を望む筈よ。でも、一つ懸念する事があるの」
「懸念?なんですか?」
「ギンガは良馬君との子供を望む筈‥‥でも、前世では私は夫との間に子供を産むことが出来なかった‥‥だからギンガもそうなるんじゃないかって心配なのよ」
「あっ‥‥」
「下世話な話になるけど、良馬君はもうギンガを何度も抱いたのよね?」
「え、ええ‥‥」
「その時は全部避妊具を使っていたの?」
「い、いえ、全部では‥‥」
「その時にギンガが妊娠する事を危惧しなかった?」
「二の次でした‥‥」
これまでの中で、避妊具無しで行為に及んだ事も何度かあった。
その時は互いに求めあっていたので、妊娠と言う事態にお互い気づかなかった。
しかし、加奈江と話し改めて今思うと『もし、出来てしまったら‥‥』
なんて事態だってあってもおかしくはなかった。
だが、現状ギンガは妊娠していない。
そうした経緯とクイントの件、ギンガの特殊な出生もあり、ギンガは妊娠しにくい身体なのかもしれない。
と言っても不妊は女性だけが原因ではなく、男性の方にも原因がある場合があるので、一概にギンガの体質で片付けられる問題ではない。
しかし、加奈江の予測通りギンガが子供を望む中で、なかなか自分が妊娠出来なかった場合、『自分は人間ではなく兵器だから妊娠出来ないんだ』と、思い詰めてしまうかもしれない。
「加奈江さん、戦闘機人と言う種族は妊娠する事が出来ないのでしょうか?」
加奈江は前世の時から戦闘機人と言う種族と関りがあるので、自分よりも戦闘機人と言う種族に詳しい筈なので、戦闘機人と言う種族が妊娠できるのかを訊ねてみた。
兵器として製造したのであれば、妊娠なんて不必要な機能の筈だ。
ギンガを生み出したその違法施設の者がそのような設定を施していたら、ギンガは妊娠する事は無い。
「ごめんなさい‥前世の私も戦闘機人を追っていたと言うだけで、戦闘機人に対してそこまで詳しい訳じゃないの‥‥」
(マリーなら、知っていたかもしれないわね)
(こんな事なら二人を保護した時に聞いておくべきだったわね‥‥)
ギンガとスバルを保護した時、二人はまだ六歳と四歳だった。
そんな子供の時分に、『将来この子たちは子供を産むことが出来ますか?』 なんて質問は思いもしない。
その質問は二人がもう少し大きくなったら訊ねようとしていたが、二人を保護してから二年後に自分は死んでしまった。
なので、加奈江は戦闘機人が妊娠する事が出来るのか分からなかった。
「そ、そうですか‥‥」
加奈江ならば、分かると思ったのだがその加奈江が知らないのでは手が無い。
と、思われたのだが‥‥
「そう言えば、ギンガとスバルはミッドに居た時、定期的に健康診断をしていたけど、地球に来てからも健康診断をやっているのよね?」
「え、ええ‥‥あっ、そうか!!」
加奈江のその言葉を聞き、良馬は忍へ連絡をとった。
ミッドチルダに居た時、ギンガとスバルは先端技術医療センターでマリエルが定期的に検査を行っていた。
そして今でもスバルは定期的に通っている。
ギンガはこの地球へ遭難してから、月村家の医療関係施設で健康診断を受けている。
なので、忍ならばギンガの健康診断結果もしているだろうし、彼女の身体についても詳しく知っている筈だ。
「もしもし、忍さん?」
「あら?良馬、どうしたの?」
「実は忍さんにちょっと聞きたい事があって‥‥」
「聞きたい事?何かしら?」
「ギンガの事なんだけど‥‥」
「ん?ギンガちゃん?ギンガちゃんの何が知りたいの?でも、あまり個人のプライバシーに関わる内容の事だったら、いくら貴方でも教える訳にはいかないけどね」
「忍さんはギンガが定期的に健康診断を受けている事は知っているでしょう?」
「ええ、彼女を診察しているのは家の医療施設だもの」
「‥‥そ、それで、これまでの診察結果で‥‥その‥‥」
「ん?何?何?妙に歯切れが悪いわね。どうしたの?」
忍ならば、知っているだろうけど、実際にいざ聞いてみると恥ずかしさもあるが、答えを聞くのも怖いと言う所がある。
しかし、いつまでもこうして口ごもっている訳にもいかない。
「その‥‥ぎ、ギンガって‥‥に、妊娠する事って出来るの?」
「えっ?妊娠?ギンガちゃんが?」
忍は良馬からの質問にあっけにとられる。
「えっ?貴方、ギンガちゃんとそんな関係なの?」
忍は良馬とギンガが婚約関係にあるのは知っていたが、既に男女の関係だったのは知らなかった。
二人が男女な関係である事を知っているのはごく一部の人間だけであった。
「そ、それは‥‥と、とりあえず、さっきの質問なんだけど、忍さんはギンガが妊娠する事が出来るのか出来ないのか知っているの?」
「えっ?そりゃあ、知っているわよ」
「知っている!?良ければその結果を教えてくれる!?って言うか、ギンガはその結果を知っているの!?」
「ギンガちゃんもその結果を知っているわよ。少し前の健診で聞いて来たから」
「えっ?ギンガが‥‥?」
どうやらギンガ自身も自分の身体について知っておきたかった様で既に忍に質問していたようだった。
「まぁ、その時は近い将来の事を見据えていたのかと思っていたけど、まさか良馬とギンガちゃんがそこまでの関係に発展しているとはね‥‥」
「そ、それで、その‥‥結果は?俺自身も知りたいのだけれど‥‥」
「いずれギンガちゃん本人から聞かされると思うけど、それまで待てないの?」
「加奈江さん‥‥ギンガの家の人も知りたがっていて‥‥」
「なるほど‥でも、さっき言ったようにいずれギンガちゃん本人が貴方に伝えると思うからその時、初めて知ったように振る舞いなさい」
「う、うん。分かった」
「これまでの診断結果から‥‥」
「結果から?」
「ギンガちゃんは‥‥」
「う、うん。ギンガは?」
「‥‥普通の女の人同様、妊娠できるわ。戦闘機人と言っても内蔵や器官は通常の人間と変わらないから」
「‥‥」
忍からの返答を聞き、良馬は一瞬、啞然とする。
「ん?あれ?もしもし、ちょっとどうしたの?良馬。おーい」
忍は良馬から返答が無い事に忍が声をかける。
「あっ、うん‥‥ありがとう」
「ううん。それよりも大丈夫?なんか、声が裏返っていたけど‥‥?」
「うん、大丈夫だよ。それじゃあ‥‥」
ギンガについて知りたい事を知った良馬は忍との電話を切る。
「お、お待たせしました」
忍との電話を終えた良馬は加奈江の下へと戻る。
「それで、結果はどうだったの?」
加奈江もギンガの結果を知りたい様子でうずうずしている感じだ。
「その‥‥ギンガも普通の女性と同じく妊娠出来るそうです」
「そうなの?良かった~」
ギンガが普通の女性同様、妊娠出来ると言う結果を聞いてホッとする加奈江。
(ギンガが妊娠出来るって事はスバルも出来る訳ね‥‥)
(出来る事ならスバルにもこの結果を教えたかったわ‥‥)
「ただ、ギンガ自身もこの問題に関しては知りたがっていた様で、既に忍さんがギンガに伝えてあるみたいです」
「あら、そうなの?」
「はい。ですから、この件についてはギンガ本人が言うまで知らない振りをしてください」
「そうね。ギンガもきっと、私たち以上に気になった事でしょうから‥‥」
忍からギンガの身体問題について回答を得た良馬であったが、
(これまでギンガが妊娠しなかったのって、もしかして俺に問題があるんじゃあ‥‥)
自身が不妊症なのではないかと思ってしまい、
(結婚についてギンガと話し合う前に検査しておこうかな‥‥)
自分が不妊症なのか、そうでないのかを確認しておくことにした。
此処で、視点は地球から過去の人工衛星都市、ガーラミオへと移る。
ガーラミオで起きた管理局の元将官による麻薬絡みのスキャンダルは未だに収束する気配もなく、連日テレビでは管理局‥“海”に対する厳しい意見が飛び交っていた。
そんなガーラミオに一隻の次元航行艦が接近していた。
それはクロノが指揮するクラウディアであった。
ガーラミオの管制室からは通常の次元航行船が入港する港ではなく、特別船が入港するもう一つの港へ入港する指示が来た。
多くの次元航行船が入港する通常の港に管理局の次元航行艦が入港すれば、何かあったとマスコミに伝える結果となる。
クラウディアがガーラミオに接近した時も通常の次元航行船の入港やガーラミオ周辺の航行を制限する程の徹底ぶりだった。
「ふぅ~やっと着いたな‥人工衛星都市ガーラミオ‥‥」
「本当なら仕事ではなく休暇で来てみたかった所なんですけどね‥‥」
「それにしてもガーラミオ側は徹底的に周囲の船の航行に制限をかけたな‥‥」
本来ならば、観光地であるガーラミオ周辺には沢山の次元航行船が行きかう筈なのだが、現在ガーラミオ周囲を航行しているのはクラウディア一隻だけだった。
「都市内はマスコミがひしめき合っているって話ですから、制服で出歩くのは不味いですかね?」
“陸”の制服ならば、ガーラミオの駐在員として誤魔化せるかもしれないが、“海”の制服でガーラミオの市街地を出歩くとあっという間にマスコミに囲まれる恐れがあった。
「そうだな、デバイスと身分証明書を携帯した後、制服ではなく私服で行くぞ」
クロノは副官の意見を採用して制服ではなく私服でガーラミオ支部へ向かう事にした。
クロノ以外の護衛局員たちも同じく制服を脱ぎ、身分証明書とデバイスを携帯し、私服でクロノと共にガーラミオの管理局支部へと向かう。
支部へ向かう為に使用する車も管理局の公用車ではなく、あらかじめガーラミオ支部に要請しておいたレンタカーで向かう事にした。
勿論、容疑者を護送するのだからただのレンタカーではなく、窓ガラスは防弾仕様&車内の様子が見えないスモークガラスとなっていた。
クラウディアが入港した港にはそのレンタカーが用意されており、クロノたちは早速そのレンタカーに乗って、ガーラミオ支部へと向かった。
車窓からはテレビカメラを構えたカメラマンと観光客にインタビューをしている記者の姿があちこちで見られた。
「やれやれ、観光客も店も迷惑だろうに‥‥」
そんなマスコミの姿を車窓から見たクロノは思わずぼやく。
旅行に来たと思ったら、事件の事を知る筈もないのにインタビューなんてされても答えようがない。
観光客たちがマスコミの存在を煩いホテルに籠ってしまっては店側も商売あがったりだ。
そんな中、クロノの目にある知り合いである人物の姿が見えた。
「っ!?すまないが、ちょっと止めてくれ!!」
「えっ?あっ、はい」
クロノはドライバーに車を止めるように言うと、車を降りてその人物に駆け寄る。
「スバル」
「えっ?ああ、ハラオウン提督」
クロノは見つけた知り合いはガーラミオの市街地を観光していたスバルであった。
「ハラオウン提督も休暇で来たんですか?‥って言うか、あたし変装していたのによく気づきましたね」
スバルはクロノが私服だったことから彼も自分同様、旅行で来たのかと思ったのと同時に一応、マスコミ対策として変装していたにもかかわらず、よく自分の事が分かったものだと感心した。
「いや、一応仕事でね‥それに執務官時代に人の顔を覚える訓練をしていたから、簡単な変装ぐらいは見破れる」
クロノは自分がガーラミオに来た訳とスバルの変装を見破れた訳を言う。
「仕事って‥‥それは運が無かったですね。今、ガーラミオはこの前の事件でこの有様ですから」
「いや、此処に来た仕事と言うのはその事件に関係している」
「?」
「容疑者の護送だ」
「あっ‥‥なるほど」
今回の事件の容疑者であるエスコバルをガーラミオ支部ではなく、本局で本格的な取り調べを行おうと言う事らしい。
此処まで世間で騒がれている事件なので、“海”でも隠蔽する事は無いだろう。
勿論、この事件における裁判の方も注目されるだろうし、証拠もちゃんと抑えてあるので証拠不十分で不起訴となることも考えにくい。
事件の規模や犯罪内容、管理局・社会に与えた影響からしても執行猶予や一桁年の懲役とも思えない。
むしろ、そんな裁判結果になれば管理局はますます世間からの信用を無くすことになるだろう。
「しかし、まさか今回の事件に君が関わっていたとは驚いた」
「私も本来は旅行で此処に来たのですが、なんか成り行きで‥‥」
「しかし、成り行きとは言え、事件を解決に導いたのだから大したものだ。ナカジマ三佐も鼻が高いんじゃないか?」
「いえ、フォルクスさん‥此処の捜査官の人たちも頑張って‥‥あっ‥‥」
クロノにゲンヤの名を出されてスバルは思い出した。
ミッドチルダに居る家族に今回の件を何も話していなかった事に‥‥
「ん?どうした?」
「ミッドに居る家族に今回の件‥何も話していませんでした」
「それは‥‥ナカジマ三佐も心配しているだろうから、連絡を入れておいた方がいいだろう」
「はい。そうします」
「それで、君はいつまでガーラミオに滞在予定なんだい?今日、帰る予定ならば僕の艦で本局まで送るけど?」
クロノはスバにクラウディアで本局まで送ろうかと提案する。
本局まで行けば、あとは転送ポートでミッドチルダに簡単に帰れる。
「いえ、私は明日の船でミッドに戻る予定です」
しかし、スバルはまだ滞在期間があるので、期間ギリギリまでガーラミオに滞在するつもりだった。
何しろ、ガーラミオに来てから数日間は事件の調査で旅行を潰されたからだ。
「そうか‥それじゃあ旅行、楽しんでくれ」
「はい。ハラオウン提督もお仕事頑張ってください」
スバルとクロノはその場で別れ、クロノはガーラミオ支部に向かう。
ガーラミオ支部でも正面口からではなく、裏口から入る。
そして、支部内でクロノは今回の事件の容疑者であるエスコバルと対面した。
マーティンもエスコバルの妻、グリセルダの殺害についての事情聴取があるが、事件の大きさから言って、まずはエスコバルを本局へ連行し取り調べをしたいと言う思いがあった。
「ほぉ~まさか君が来るとはなぁ‥‥クロノ・ハラオウン」
「エスコバル元中将‥‥貴方がこんな事件を起こすなんて‥‥いえ、それ以前に局内に麻薬の密売組織を結成して多くの人々を苦しめるなんて‥‥同じ管理局員として僕は貴方を軽蔑します」
「ふっ、女狐の倅も随分と言うようになったではないか‥だが、管理局には私のように権力を握り、他人の生殺与奪をほしいままにするろくでなしが大勢居る‥正義だの法の番人だの綺麗ごとをほざいているがその実態は法の穴を掻い潜り、犯罪に手を染め私腹を肥やしている者が運営している欠陥だらけの組織だ。私の一件はあくまでも氷山の一角であり、まだ知られていない違法組織が管理局の内部にはあるだろう」
「その件について否定はしません」
「そうだろう。君も私と同じ組織の人間なのだからな‥‥そこでだ‥‥君とて組織内に蔓延る獅子身中の虫を排除したいだろう?」
「ええ」
「ならば話が早い。どうだ?私と取引をしないか?」
「取引?貴方と?」
「そうだ。私は君に私が知っている組織の実態を全て話そう。その見返りには恩赦でかえしてもらえないだろうか?」
エスコバルはスバルには通じなかった取引を今度はクロノに持ちかける。
彼としては司法取引をして罪を少しでも軽くしたかった。
「その件につきましては法務官に述べてください。僕はあくまでも貴方を本局へ護送するだけで此処へ来たので‥‥」
クロノは彼の提案をあっさりと蹴る。
「ふん、世渡りも知らぬ若造が‥‥」
クロノにも取引が通じないと察したエスコバルは顔を歪める。
そして、自分の任務を遂行する為にエスコバルを本局へ護送した。
その頃、ミッドチルダ西部にある108部隊では‥‥
「三佐、ガーラミオ支部から今回の件に関する報告書が届きました」
カルタスがゲンヤにガーラミオで起きた事件の報告書を取り寄せる事が出来たので、その報告書を早速ゲンヤに提出した。
「‥‥」
カルタスから報告書を受け取るとゲンヤはペラ、ペラと報告書をめくり、スバルがどういった経緯で事件に巻き込まれたのかを調べる。
報告書ではホテルで麻薬中毒者の管理局員がマーティンの命を狙った事からスバルが事件に関係するきっかけと報告書には書いてあった。
その後、報告書に目を通していくと、ガーラミオでスバルは二度にわたって命を狙われていた。
スバルが殺されそうになったかもしれない部分の記述を見た時、ゲンヤは当然驚愕した。
元々、ギンガとスバルが管理局員になる事を望んでいなかったのはこうした命の危険があるからだ。
そんな時、ゲンヤに一本の通信が入る。
「三佐、ガーラミオに居る娘さんから通信が入っております」
「繋いでくれ」
モニターには私服姿のスバルが映し出される。
クロノと分かれた後、スバルはゲンヤやミッドチルダの実家の事が気になって連絡を入れたのだ。
『父さん‥その‥‥』
スバルは何だか気まずそうな様子だ。
「話はこっちでも聞いている。それについさっき、ガーラミオで起きた事件の報告書も読んだ」
『えっ!?』
「スバル‥お前さん、ガーラミオで二回も殺されそうになったそうじゃないか」
『えっ!?あっ‥うん‥‥』
(フォルクスさん、そこまで記載していたの!?)
事件の報告書にまさか自分の事までも細かく記載されていたことにフォルクスの仕事の丁寧さが窺えるが、今はその丁寧さを恨む。
「これは昔、ギンガの奴にも言ったんだが、俺は本音を言うとお前さんたちを管理局員にはしたくなかった。それがどうしてだが、分かるか?」
『えっと‥‥危険な事もあるから?』
「そうだ。現にクイントもギンガもそうなった‥‥そして極めつきが今回の事件だ。一度ならず二度もお前は危険な目にあった‥‥親としては気が気じゃない」
『う、うん。それは分かるけど‥‥』
「とは言え、今更管理局を辞めろと言っても辞める気はないんだろう?」
『うん。父さんには悪いけど、あたしは辞めるつもりはないよ。ギン姉の名誉も回復したいし、あたしが戦闘機人として生まれてきたのは壊す為じゃなくて、この力で人を助ける為であることを証明する為だからね!!』
「やれやれ、どうして家の女たちはみんな頑固なんだ‥‥」
ゲンヤはフッと笑みを浮かべ、悟った様に言う。
『それで、家や父さんの部隊にマスコミの人が押しかけていない?』
「報道された当初は大変だったが、お前さんが今、ミッドに居ないと分かると引き上げていったから、沈静化はしている。それよりお前さんはいつ帰ってくる?」
『明日の船で帰るから、数日したらミッドに戻るよ。お土産も沢山買って帰るから』
「分かった。とんだ休暇になっちまったようだが、もう事件も起きないだろうから、短いが休暇を楽しめ」
『うん』
ミッドチルダに戻れば当然、今回の事件について職場や家族、そして地上本部からも根掘り葉掘り聞かれる事になるが、その前にある僅かな休息を楽しむことにしたスバル。
クロノはその日の内に容疑者であるエスコバルを連れてガーラミオを後にし、翌日にはスバルの姿はガーラミオの次元航行船の発着乗り場にあった。
「ナカジマ士長」
「ん?あっ、フォルクスさん」
ミッドチルダに戻ろうとするスバルにフォルクスは見送りに来た。
「今日の便でミッドに帰ると聞いてね」
「わざわざ見送りに来てくれたんですか?」
「ああ、短い間であったが、ともに捜査をした戦友だからな」
「ありがとうございます。ですがフォルクスさん、報告書を細かく書きすぎですよ。昨日、父さんに連絡を入れたら滅茶苦茶心配されました」
「まぁ、子を持つ親ならば当然の反応だろう。今回の事件に君を巻き込んでしまった件については君や君の親御さんに大変な迷惑をかけてしまったな‥‥すまなかった」
「いえ、最終的に捜査に協力するといったのはあたしなので‥‥それに事件を解決することが出来て満足していますから」
『ご案内申し上げます。ミッドチルダ行き次元航行船にご搭乗のお客様は第六番発着場においでください。まもなく搭乗手続きを開始いたします』
そこへ、ミッドチルダ行きの次元航行船の乗船案内が放送される。
「それじゃあ‥‥」
「ええ、もしまた縁があれば‥‥」
スバルとフォルクスは互いに握手をして別れた。
それから数日後‥‥
スバルが乗った次元航行船は無事にミッドチルダへと到着した。
ミッドチルダに到着したスバルはまず、地上本部への出頭が命じられ、それに応じ地上本部へと出頭した。
そこでスバルはガーラミオで起きた事件のあらましを語った後、地上本部のトップであるロールスロイスより昇進の話が来たが、スバルはこれを断った。
「何故だい?せっかくの昇進だと言うのに‥‥?」
「あたしは自分が偉くなりたいから今回の事件の捜査に協力した訳ではありません。麻薬中毒で苦しんでいる人たちを見て、これ以上の被害を出さない為に協力しました。今回の事件で頑張っていたのはフォルクスさんたち、ガーラミオの駐在員さんたちですから」
「そうか‥‥しかし、功労者である君に何かしらの恩賞がなければ示しがつかないと思うのだが?」
「でしたら、今も麻薬中毒で苦しんでいる人たちの救済と今回の事件における関係者で、元管理局少将のアストン・マーティンさんに寛大な処置をお願いします」
マーティンは証拠保全の為に人を殺めた。
証拠保全の為のやむを得ない処置とすれば、刑罰も軽いだろうが、フォルクスが言うにはマーティンは裁判でグリセルダを殺意があって殺害したと主張する筈だと言っていた。
もし、フォルクスが言うように裁判でマーティンが過去の贖罪の為に敢えて殺人罪で裁かれることを望んでいたとしてもスバル本人は、マーティンは愛する人を自らの手にかける程の辛い選択をしたのだからもう十分に苦しんだ。
スバルとしてはこれ以上あの老人を苦しませたくはなかった。
「分かった。出来るだけの事は助力しよう」
「ありがとうございます」
この後もまだあちこちに事件の説明をしなければならないだろうが、スバルの波乱に満ちた休暇はこうして終わったのだった。