星の海へ   作:ステルス兄貴

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今回は島田愛里寿さんより許可を貰い島田さんの話のネタの一部を自分なりにオマージュした話となっております。

そして、今回より登場した管理局の次世代の次元航行艦の外見は鉄血のオルフェンズに登場したハーフビーク級戦艦をベースに作成しました。


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百九十九話 はやての訓練航海

 

 

此処で時系列はガーラミオでスバルが麻薬絡みの事件に巻き込まれるよりも少し前となる。

 

本局 第六ドック

 

「これが、新しい艦‥‥ジャガーノート‥‥」

 

はやての眼前には管理局が次世代の次元航行艦として就役させた新型艦の姿が鎮座していた。

 

 

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オンリーワン艦だったヴォルフラムと異なり、ジャガーノートは管理局が現在量産建造している艦であるが、はやてとしてはヴォルフラムと別れた事による寂しさはあったものの、こうして新しい艦を見て、どんな性能を有しているのかワクワクしている部分もあった。

 

乗員に関してもヴォルフラム乗艦時の乗員たちを全員そのまま異動させたので、顔馴染みばかりの乗員たちだったので指揮に関しても執りやすかった。

 

やがて、乗員たちが続々とジャガーノートへと乗船し、航海に必要な物資が次々とジャガーノートへ積み込まれていく。

 

「艦長、全乗員の乗艦及び物資の搬入作業が終了しました」

 

ジャガーノートの艦橋にて、副長のグリフィスがはやてに出航準備の状況を報告する。

 

「ありがとうな、グリフィス君」

 

グリフィスからの報告を受けた後、はやては艦橋をぐるりと見渡す。

 

乗員たちはヴォルフラム時と同じでも全く異なる艦橋の姿に身が引き締まる思いだ。

 

「全乗組員に告ぐ、艦長の八神はやてや。皆、ヴォルフラムからの付き合いやけど、今乗っとる艦はヴォルフラムやない。管理局が新たに建造した艦、ジャガーノートや‥‥ジャガーノートはこれまでの管理局の艦とは全く違う艦や‥故に私を含めて皆も新人の気持ちで今回の航海に臨んでもらいたい‥以上」

 

「八神艦長に対し、敬礼!!」

 

副長のグリフィス以下、艦橋に居た全員がはやてに敬礼する。

 

はやてもそんな皆に返礼する。

 

「ジャガーノート、出航や!!」

 

「ジャガーノート、出航します!!」

 

タラップが外れ、艦を固定しているガントリーロックが外れるとジャガーノートに搭載されているMS機関が唸りを上げ始める。

 

やがて、ジャガーノートはゆっくりと本局のドックから動き始める。

 

こうして、はやてが艦長を務めるジャガーノートは乗員の熟練訓練の為に本局を出航した。

 

訓練項目及び航路はあらかじめ出航前に副長のグリフィス以下、各パートの長と打ち合わせ済みなので、訓練航海はその計画に沿って進められた。

 

ビィー!!ビィー!!ビィー!!ビィー!!ビィー!!ビィー!!

 

ジャガーノートの艦内に警報が鳴り響く。

 

「不明艦接近、不明艦接近、総員警戒態勢!!繰り返す、総員警戒態勢!!」

 

「隔壁閉鎖」

 

「はい。隔壁閉鎖します!!」

 

「ブリッジ遮蔽」

 

「ブリッジ遮蔽します」

 

機械音と共に振動が起こると、ジャガーノートの艦橋は船体内部へと降下していく。

 

これは戦闘や障害物、宇宙気象が激しい空間において万が一、艦橋が被弾し、艦の指揮系統が潰された場合、艦の指揮が不能となる事態を防ぐ為、管理局の新型次元航行艦は艦橋が船体内部へ格納する事が出来る造りになっている。

 

船体内部に格納されても艦橋の壁一面がモニターとなり、船体のあちこちにあるカメラが船外の様子を映し出すので、艦橋が船体の内部にあっても外の様子が分かる仕組みになっている。

 

「不明艦捕捉、距離‥‥包囲角‥‥」

 

「不明艦応答なし!!」

 

「不明艦発砲!!」

 

「主砲、ジュスティスカノン撃て!!」

 

ジャガーノートの主砲、ジュスティスカノンが就航後、初めてその火を噴いた。

 

「不明艦に命中!!」

 

「艦内に火災発生!!消火班及び応急処置班は直ちに配置につけ!!繰り返す、艦内に火災発生!!消火班及び応急処置班は直ちに配置につけ!!」

 

「急げ!!モタモタしていたら、あっという間に次元の海の藻屑になっちまうぞ!!」

 

『はい!!』

 

航海、戦闘、火災・応急処置等の訓練スケジュールをこなしながら航海を続けていく。

 

「それにしても今回の訓練、何かハード過ぎねぇ?」

 

「あっ、それは俺も思った。ヴォルフラムの時と比べるとかなりキツイぜ‥‥」

 

「新型艦になったんだし、どうしてこんなにも訓練が厳しくなるんだ?」

 

訓練終了後、ジャガーノートの乗員居室では、ベッドや備え付けのソファーには乗員たちがぐったりとした様子で横になっている。

 

なお、今回の訓練は管理局の次元航行艦の中でもかなり厳しめの訓練内容となっていた。

 

それは、はやてが士官学校に居るフェイトに防衛軍の訓練内容を知る限りの中で、その内容を聞いており、ソレを実行しているのだ。

 

いつボラー連邦や彗星帝国のような強力な宇宙艦船を持った星間国家が現れないとも言い切れない。

 

確かに管理局は新たな力を手に入れ、力を取り戻しつつある。

 

しかし、いくら機械や設備がこれまでの管理局の艦よりも優れていてもソレを操る人間も成長していなければ力を発揮できず、宝の持ち腐れとなる。

 

艦長であるはやてにはジャガーノートに乗艦している大勢の乗員の命を預かっているのだから、例え訓練漬けで乗員に恨まれても訓練を続け、ジャガーノートを手足のように操れるまで訓練を続けるつもりでいた。

 

 

訓練はあるものの航海そのものは特に問題も無く順調に訓練スケジュールをこなしながら航海を続けているジャガーノート。

 

本局を出航してから数日後‥‥

 

「本局を出航してから数日が経ちましたが、まさかほんの数日で此処まで来るとはこれまでの管理局の次元航行艦のエンジンでは考えられませんね」

 

ジャガーノートが航行している空間にグリフィスが感嘆の声を漏らす。

 

「せやな短い期間で此処までの進歩はめざましい事やな」

 

(ただ、これで管理局がボラーやもう一つの地球に対してリベンジ戦を考えなければええんやけどな‥‥)

 

はやて自身も実際にMS機関を搭載した次世代の次元航行艦の性能には舌を巻くが、それと同時にフェイトと話したように管理局が再び力を取り戻した際、自分たちに煮え湯を飲ませたボラー連邦や地球連邦政府・防衛軍に対して戦争を仕掛けるのではないかと言う懸念を抱く。

 

そんな中、人工衛星都市ガーラミオからある発信が管理局内を駆け巡り、それはジャガーノートの方でも受信する事となった。

 

「艦長、人工衛星都市ガーラミオにあるガーラミオ支部からの通信を傍受しました」

 

通信士がガーラミオ支部から傍受し、通信内容を記した紙をはやてに手渡す。

 

「ガーラミオ?ああ、つい最近オープンした行楽施設が目玉な人工都市やな。何や?観光施設の宣伝でもしとるんか?」

 

通信文を受け取る前は冗談が言えたはやてであるが、受け取った通信文を読んでいくと次第に表情が険しくなっていく。

 

「な、なんやて!?」

 

そして思わず声を上げる。

 

「どうしました?」

 

艦橋に居た全員が気になり、グリフィスがはやてに訊ねる。

 

「これや‥‥」

 

はやてはグリフィスに先ほどまで自分が目を通していた通信文をグリフィスに手渡す。

 

「こ、これはっ!?」

 

通信文を受け取ったグリフィスも思わず声をあげる。

 

「か、艦長。此処に書いてあるのは全て事実なのでしょうか?」

 

「認めたくはないけど、恐らく‥‥な‥‥」

 

「し、しかし、これは忌々しき事態ですよ」

 

「はぁ~‥‥管理局‥特に“海”の評判がまた落ちるで‥‥」

 

はやてとグリフィスが読んだ通信文には人工衛星都市ガーラミオにて管理局の元将官が麻薬絡みの事件で逮捕され、管理局内には麻薬組織が存在している事も指摘されていた。

 

「それにしてもまさかこの事件にナカジマ士長が関わっていた事は意外でした」

 

ガーラミオからの通信文には事件解決の為に捜査に関係した局員の名前の中にスバルの名前があった。

 

「うん。まさか、スバルがなぁ~‥‥」

 

六課時代の元部下がまさかこんな大きな事件の捜査に関わっていたのは、はやてとしても意外であった。

 

はやてが此処まで驚いているのだから、直属の元上司であるなのはは、はやて以上に驚いている事だろう。

 

「確かナカジマ士長はミッドで特別救助隊に所属している筈で、人工衛星都市ガーラミオの所属では無かった筈‥‥何故、捜査官ではない彼女がガーラミオで起きた事件に関わっていたのでしょう?」

 

グリフィスは何故、ミッドチルダで救助隊に居る筈のスバルが人工衛星都市ガーラミオに居て、事件の捜査に関係したのか分からなかった。

 

「ソレに関しては私も分からへん。今度、ミッドでスバルに会ったら聞いてみよか?」

 

それは、はやても同じだ。

 

知っているのは当のスバル本人なので、今自分たちが抱いている疑問を解消するには直接スバル本人に聞かなければ答えが出ない。

 

そんな中、

 

「艦長、本局から映像通信です」

 

本局から通信が入った。

 

「モニターに出してや」

 

「了解」

 

ジャガーノートの艦橋にあるモニターの一つにリンディの姿が映し出される。

 

『はやてさん、貴女も先ほど、ガーラミオからの通信を傍受している筈だと思うのだけど?』

 

「はい。つい先ほど傍受しました。私自身、あの内容が未だに本当なのか信じられません」

 

『私もそうよ‥‥あの通信を受けて、今本局中大騒ぎになっているわ』

 

「で、でしょうね‥‥」

 

はやての脳裏には確認の為に奔走している“海”の局員たちの姿が思い浮かぶ。

 

『主犯が管理局の元将官って事で現役の将官でない事が不幸中の幸いなのでしょうけど‥‥』

 

「主犯が管理局の元将官でも、その仲間には現役の局員も多数含まれると書いてありましたが?」

 

『ええ、今はその局員たちの身柄を抑えて確認をとっている所よ』

 

「事実だったとしたら、また槍玉にあげられてしまいますね」

 

『私のところもそうだけど、レティの所も寝耳に水だったみたいで、レティが発狂していたわ』

 

「レティ提督が‥‥?」

 

『MS機関の開発成功で、やっと“海”が力を取り戻して来た中で今回の事件でしょう?当然、人材配置にも影響が出ていてね‥‥』

 

「あぁ~‥‥」

 

(レティ提督、ご愁傷様です)

 

(母さん、大丈夫だろうか?)

 

リンディの話を聞き、はやては心の中でレティに合掌し、グリフィスは母の身を案じた。

 

『それで、はやてさんたちが今、訓練航海中であることは知っているけど、訓練をしながらで良いから、巡察任務も行ってもらえるかしら?今回の事件では管理局内にも麻薬絡みの犯罪組織がある事が証明されたわ。同じ管理局の艦でも不審な行動をとるようならば、摘発をして構わないわ』

 

「りょ、了解です」

 

リンディの言う言葉はガーラミオで起きた事件の影響だった。

 

例え『元』管理局員が起こした事件であっても、その主犯が管理局内に犯罪組織を造り上げており、これ以上管理局‥“海”に泥を塗る訳にはいかないと言うリンディなりの意地であり、管理局内に犯罪組織が秘密裏に造られている事が今回の事件で証明されてしまったので、その膿を取り除く為にも例え同じ管理局の艦であっても不審な行動をとっていたら躊躇せずに臨検して構わない許可を出した。

 

もっとも今回の事件前から管理局内では不正や汚職などは存在していたが、”海“としては新たな力を手に入れ、再出発しようとしている中での大スキャンダルだったので、早期の火消しに躍起になっているのだ。

 

リンディから訓練以外にはやてが本来所属している海上警備隊における警備任務を行いながら航海続けた。

 

ガーラミオからの通信を傍受した以外、訓練以外に特に問題は無く日程を消化していくジャガーノート。

 

「此処までは特に問題ありませんね」

 

艦橋にて、はやてにコーヒーが入ったカップを手渡すグリフィス。

 

「せやな‥このまま何事もなく、航海が終わってくれたらええんやけどな」

 

受け取ったカップを口につけコーヒーを飲むはやて。

 

「乗員たちの練度も着々と上がってきていますし、航海、訓練共に順調ですね」

 

「航海当初は慣れない機器に齷齪していたけど、皆も徐々にこの艦に慣れて来た証拠やな」

 

はやてとグリフィスがコーヒーを飲みながら此処までの訓練航海を振り返っていると、

 

「艦長、レーダーに感有り!!」

 

ジャガーノートのレーダーが何かを捉え、オペレーターがはやてに報告をいれる。

 

「位置は?」

 

はやてはレーダー反応があった位置を確認する。

 

「本艦より右前方八十一度、上方四十五度を移動中」

 

「艦種は分かるか?」

 

「この速度からMS機関を搭載した艦ではありません」

 

「‥‥」

 

レーダーが捕捉した移動速度から相手は管理局の次世代次元航行艦ではない事が判明する。

 

「民間船か前世代の次元航行艦の可能性がありますね」

 

海上警備隊が臨検するのは、本来は管理局の次元航行艦ではなく、主に民間船舶である。

 

同じ管理局の次元航行艦を臨検するのは例のガーラミオで起きた事件の影響だ。

 

「どうします?」

 

グリフィスは、はやてに民間船の対処を訊ねる。

 

本来ならば通常航行しているだけであるならば見守るだけであり、事故や海賊、テロリストに襲われたりして救難信号を発すれば向かうのだが、例のガーラミオで起きた事件の影響で“海”は次元航行船の航行に関しても過敏になっている。

 

「一応、船籍、積荷の詳細、目的地の確認をしてや」

 

「了解」

 

通信士が近くを航行している民間船へ通信を入れる。

 

すると、その民間船はジャガーノートへ返信することなく、逃走するかのように速度を上げ始めた。

 

「っ!?民間船速度を上げました!!」

 

その報告を受け、はやてもグリフィスも違和感を覚える。

 

「速度を上げる?まるで逃走を図っているかのような行動ですね」

 

「ああ、つまりあの船は何か後ろめたい事が有るっちゅう訳や」

 

「どうします?」

 

「決まっているやろう。追跡や!!航海長、全速であの民間船を追うんや!!」

 

「了解!!機関長、エンジン全開でお願いします!!」

 

「了解、機関全速!!」

 

はやては不審な民間船を追う様に指示を出し、ジャガーノートはエンジンを吹かして不審な民間船を追いかけた。

 

「通信士」

 

「はい」

 

「前方の民間船に停船命令や」

 

「えっ?警告ではなく命令ですか?」

 

いきなり停船警告の上の停船命令を送るように言われ、通信士はギョッとする。

 

「せや、こちらの通信をいきなり無視して逃走したんや、停船警告で停船するとは思えへんからな」

 

「りょ、了解」

 

通信士は不審な民間船に停船命令を送る。

 

しかし、不審な民間船は停船命令でも停船する気配がない。

 

だが、MS機関はまだ民間には出回っていない技術だったので、MS機関前の機関では、MS機関の出力と速度には敵わず両船の距離はどんどん縮んでいく。

 

「民間船にしては随分と足の速い船ですね」

 

「せやね。でも、MS機関には勝てへんみたいやね」

 

次第に距離が縮んでいく不審な民間船を眼前に見ながら会話が出来る余裕があるはやてとグリフィス。

 

並走し、ようやく停船する民間船。

 

「すぐに武装隊に臨検準備!!」

 

「はっ!!」

 

不審な民間船が停船した事で、はやては武装隊に臨検準備をさせて、搭載しているシャトルに武装隊を搭乗させて民間船の臨検を行う。

 

「艦長、民間船に臨検へ向かった武装隊より通信です」

 

「通信回路を繋いでや」

 

「了解」

 

通信士が通信回路を開くと、民間船に臨検へ向かった武装隊の隊長が状況報告を行う。

 

『船長を含め、船員に事情聴取を行いました。こちらの停船命令に従わなかったのは、我々を管理局と名乗る海賊かテロリストと勘違いした為だと供述しております』

 

「なるほど、MS機関を搭載した艦は大々的に就航を報道していませんでしたからね。艦影を知らない民間船からみたら、疑うのも当然の反応ですね」

 

SX級次元航行艦のキャデラックが就役した際、管理局は大々的に宣伝をするも、当時の管理局が自信をもって就役させたキャデラックはボラー連邦の宇宙艦船にあっさりと沈められた。

 

自信をもって就役させた筈のキャデラックがあっさりと沈められたことで管理局は勿論、世間でもその衝撃は計り知れない大きなモノだった。

 

その後のボラー連邦に対する武力制裁の失敗で管理局‥”海“は大きく信頼を失い、信頼回復の為に長い時間をかける事となった。

 

そんな経緯があり、MS機関が開発成功した後でも管理局は慎重に物事を進め、民間では次世代の次元航行艦の存在があまり知られていなかった。

 

そして、ジャガーノートはこれまで管理局が運用していた次元航行艦と全く異なる形状をしていたので、『自分たちは時空管理局だ』と主張しても民間船舶の乗員たちにしてみれば、海賊やテロリストが管理局だと偽装して船を止めて積荷を奪いにくるのではないかと疑っても不思議ではない。

 

故にこの時は、はやてもグリフィスも民間船の乗員たちの供述を信じていた。

 

『隊長!!』

 

『ん?どうした?‥‥は?何だと?』

 

臨検に向かった武装隊の隊長が、はやてに報告を行っていると、武装隊員の一人がやってきて隊長に何かを報告する。

 

「ん?どうしたんや?」

 

その様子から何かあったのだと分かる。

 

『そ、それが‥‥』

 

隊員から報告を受けた隊長は、はやてについさっき上がった報告をはやてにも報告する。

 

「なんやて?積荷の確認が出来ない?それはどう言う事や?」

 

『はっ、それが、船長が反対しているようなのです』

 

「こちらは公務だぞ、船長たちは一体何を考えているんだ?」

 

自分たちが海賊やテロリストの偽装ではなく、正真正銘、時空管理局に所属している事は証明された。

 

なので、積荷を奪われる危険はない筈だ。

 

にもかかわらず、民間船の船長は何故か積荷の臨検を拒んでいる。

 

「あの民間船、ただ単に我々を海賊やテロリストの偽装だと思って逃亡した訳ではなさそうですね」

 

「例え管理局でも何か臨検されては不味いモノを積んどるのかもしれへんな‥‥」

 

船長のこの態度に不信感を募らせるはやてとグリフィス。

 

「船長は何て言うとるんや?」

 

『「この船の積荷に臨検など必要ない」 の一点張りです』

 

「怪しいですね」

 

「せやな‥‥」

 

(なんや?管理局に見られては困るモンでも積んどるんか?)

 

(いや、船長の態度から十中八九そうやろう‥‥)

 

(まさか、麻薬でも積んでいるんやないやろうな‥‥)

 

ガーラミオで起きた例の麻薬事件の影響で、はやては民間船の積荷は大量の麻薬であり、船長が臨検を拒んでいるのはその麻薬が見つかる事を恐れているのではないかと思ってしまう。

 

「いかがなさいますか?」

 

「しゃーない。これ以上、非協力的な態度を取るなら、公務執行妨害で身柄を拘束してえぇで、武装隊にはそう伝えてや」

 

「りょ、了解」

 

これ以上、口で言っても臨検を拒むのであるならば、公務執行妨害を盾に船長を含む乗員たちの身柄を拘束してでも臨検を強行するつもりでいるはやて。

 

そもそもこちらは公務で臨検をしようというのだから、これ以上駄々をこねて拒否し続けるのであるならばそれは公務執行妨害となる。

 

武装隊の隊長から船長にはやての指示の伝えるとそれでも船長は「ギャーギャー」と文句を言うので、武装隊は船長を公務執行妨害で身柄を拘束し、他の乗員たちも一か所に集めた。

 

勿論、抵抗する乗員たちに対しても公務執行妨害を適用させて身柄を拘束させた。

 

乗員たちを軟禁させてしまう強硬策になってしまったが、向こうが非協力的だったので、やむなしな行動だった。

 

船長を含め、乗員たちを全員軟禁したので、臨検の妨害をする者が居なくなったので、武装隊は難なく船倉を調べることが出来た。

 

積荷は六つのコンテナに分散されて格納されていた。

 

武装隊はこの船の事務長より押収したタブレット端末で積荷のリストと照合する作業に入る。

 

六つのコンテナの内、三つまでは問題が無かった。

 

タブレット端末に記録されている積荷とコンテナにある現物が一致したからだ。

 

だが残りの三つのコンテナに問題が有った。

 

リストに積荷履歴が無かったのだ。

 

船長が臨検を拒否し続けたのはこの積荷が原因だろう。

 

武装隊の隊員たちはそう判断した。

 

危険物若しくは生物兵器でも密輸していた恐れもあるので、コンテナを開ける前に武装隊は入念にチェックを行う。

 

勿論、三つのコンテナが空だから積荷のリストに載っていないと言う可能性もあったが、チェックの結果このコンテナ群には何か積まれていると言う結果が出たので空ではなかった。

 

更にチェックした結果から、コンテナの中に危険物の反応がなかったので、武装隊はコンテナを開けようとするもコンテナの扉には厳重なロックがかかっていた。

 

『艦長。船の乗員たちは船長を含めて全員を軟禁する事になりましたが、臨検をした結果、積荷リストには無いコンテナを発見しました』

 

「リストに無いコンテナ‥‥?」

 

「船長が臨検を拒んだ理由‥でしょうね」

 

「それで、積荷の中身は?一体何があったんや?」

 

『いえ、それが厳重なロックがかかっており、コンテナを開けることが出来ません』

 

「リストには無い積荷なので、コンテナに厳重なロックをかけるのも当然ですね」

 

武装隊の隊長の話を聞き、納得するグリフィス。

 

「ですが、これでますます中身を確認する必要がありますが‥‥」

 

船長にロックの解除を頼んでも此処まで臨検を拒んで非協力的な態度を貫いてきたのだから、今更船長がコンテナのロックを解除するとは思えない。

 

ならば、コンテナの扉を壊せば中身を確認する事が出来る。

 

しかし、本当に壊していいのか?

 

そんな疑問も浮かぶ。

 

壊して何も出なかったらどうなる?

 

あるいはとんでもないものが出てきたら?

 

例えば、今管理局内で大騒ぎの原因となっている麻薬とか?

 

今なら多少外聞は悪いが問題無しとして後戻りは出来る。

 

だが壊せば戻る事は出来なくなる。

 

(艦長は一体どうするのだろうか?)

 

グリフィスは、はやてが一体どんな判断を下すのか、はやてをチラッと横目で見る。

 

はやては顎に手を当てて考え込んでいる様子だが、顎から手を離すと、

 

「やむを得へん。武装隊にコンテナの扉を壊す許可を出してや」

 

「えっ?壊すんですか!?」

 

選択肢の一つにコンテナの扉を壊すモノもあったが、まさかはやてがそれを選択した事にグリフィスは驚く。

 

「ですが、良いのでしょうか?」

 

「構へん。責任は全て私が取る」

 

「わ、分かりました」

 

グリフィスが武装隊にコンテナの扉を壊すように指示を出す。

 

指示を受けた武装隊は互いに顔を見合わせてやはり驚いている様子だ。

 

しかし、すぐに持ち直してコンテナの扉を壊し始めた。

 

コンテナの扉は武装隊のシューターを受けてあっさりと壊れた。

 

そして、コンテナの中を調べると中には包装紙に包まれた動物の毛皮が入っていた。

 

それもかなり大きい動物の毛皮が大量に‥‥

 

毛皮の他に角や牙のようなモノもあった。

 

「こ、これは‥‥」

 

「……」

 

「何かの動物の毛皮や角‥‥のようですが‥‥」

 

コンテナの中身を見た武装隊は皆困惑している。

 

「い、一体何の動物の毛皮だ?」

 

「とりあえず他のコンテナの中身も確認してみよう」

 

武装隊は残りのコンテナの扉を壊して中身を確認する。

 

すると残りのコンテナの中も同じような動物の毛皮や角や牙、瓶詰めになった動物の臓器が出て来た。

 

「うぇ、気持ち悪りぃ~」

 

瓶詰めになった動物の臓器を見て、気分を害する武装隊員も居た。

 

そして、最後のコンテナの扉を壊すと、そこには動物の剥製があった。

 

「ぬぉっ!?な、何だ?これは!?」

 

「動物の剥製?」

 

最後のコンテナの中にある動物の剝製は地球で言うライオンのようなトラのようなネコ科の猛獣の剝製で口には大きな犬歯、額には一本の角が特徴的な動物であった。

 

「あれ?この姿‥‥もしかして‥‥」

 

動物の正体に武装隊員が困惑している中、一人の隊員が何かに気づく。

 

「ん?どうした?」

 

「この動物に見覚えがあるのか?」

 

「もしかして、この剥製の動物、マダラオオツノシシじゃないか?」

 

「マダラオオツノシシ?」

 

「ああ、俺の同期が自然保護官をやっていて前に画像を見せてもらったから間違いない‥‥とすると、この毛皮とかも多分同じマダラオオツノシシの毛皮や角、牙だと思う‥‥だが、これがマダラオオツノシシだったらちょっと問題だぞ」

 

「ん?問題?」

 

「どう言う事だ?」

 

「マダラオオツノシシは絶滅危惧種で狩猟禁止の保護動物だ」

 

剥製、毛皮、牙や角の正体であるマダラオオツノシシはとある自然保護世界に生息する哺乳綱食肉目ネコ科に分類される食肉獣である。

 

 

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生息している世界における都市開発や農地開発、森林伐採・植林などによる生息地の破壊により、生息数は減少し、更に医学的根拠が立証されないままその牙や角、臓器は万病に効く効果があると言われる漢方薬の原料、またその毛皮目的の為の乱獲、人間や家畜を襲う害獣としての駆除対象動物に指定された事によって生息数は更に減少してしまった。

 

しかし、マダラオオツノシシはその世界にしか存在していない固有個体だった事から近年になり、個体数が激減した報告を受けて管理局は駆除対象動物から保護指定動物へと変更して、マダラオオツノシシの狩猟は無期限の禁止となっていた。

 

だが、狩猟が禁止となると禁止前に獲られたマダラオオツノシシの剝製、毛皮は必然的に価値が上がり、牙、角、臓器で作られた漢方薬も同じく値段が上がり、ミッドチルダを始めとする管理世界の金持ちはそう言ったご禁制の品を欲しがり、そうした金持ち相手に商売をするために希少動物の密猟が後を絶えない。

 

「もし、それが事実ならこれだけのご禁制の品だ‥‥」

 

「ああ、とんでもないものが出て来たと言う事だ」

 

「船長があれだけ積荷の臨検を拒む理由はコレか‥‥」

 

「ともかく、急ぎ艦長に報告を入れよう」

 

「了解」

 

武装隊の隊長は、コンテナの中身についてはやてに報告を入れた。

 

「なんやて!?保護動物の剥製に毛皮やと!?」

 

『は、はい。こちらをご覧ください』

 

武装隊の隊長は、ジャガーノートに居るはやてにコンテナの中身を見せる。

 

「‥‥コンテナにあるその毛皮や剥製はその保護動物で間違いないんやな?」

 

『はい。マダラオオツノシシの画像と剥製や毛皮を見比べましたが、間違いありません』

 

「‥‥密猟品か」

 

「麻薬ではありませんでしたが、ある意味で麻薬並みに厄介な物が出てきましたね」

 

「まぁ、唯一の救いは管理局がこの件に関わっていない事やな」

 

現時点ではこの保護動物の毛皮や剝製の件に管理局が関わっている気配が無い事だ。

 

ただでさえ、ガーラミオで起きた事件の影響で管理局‥“海”の心象が悪くなっている時に保護動物を大量に密猟したなんて事実が分かれば、管理局はまさに泣きっ面に蜂だ。

 

とは言え、現状管理局と関わりが無いと言えるだけなので、今度の捜査でもしかしたら管理局との関係が浮かび上がるかもしれない。

 

『艦長、いかがいたしましょうか?』

 

「こちらはまず、本局へ連絡を入れる。そちらはそのコンテナが何処の世界の港で積まれたのか?依頼主は誰か?そんで、船の目的地と受け取り主を調査してや」

 

『了解です』

 

「通信士」

 

「はい」

 

「本局へ今回の件を報告や」

 

「了解」

 

はやては密猟品を大量に輸送していた民間船を発見した旨の報告を本局へと入れた。

 

ガーラミオで起きた麻薬事件でてんてこ舞いとなっている本局へはやてからの報告を受け、本局はさらにカオス状態となる。

 

「何でも八神艦長がご禁制の品を輸送していた船を拿捕したそうだ」

 

「ご禁制の品?まさか、また麻薬か!?」

 

「いや、狩猟が禁止されている保護指定動物の剝製や毛皮だそうだ。しかもかなりの量らしい」

 

「上には何て報告を入れる?」

 

「こっちは例の麻薬事件の対処で忙しいんだ。適当に処理させておけ、どうせ上の方も同じことを言うに決まっている」

 

「それもそうだな」

 

下っ端や中間管理職の本局局員らは麻薬事件程の規模ではないと判断し、はやてに対処しろと返信を送る。

 

「本局からの返信がきました」

 

「本局は何て?」

 

「『そちらで対処されたし』‥以上です」

 

「はぁ!?随分と投げやりな対応やな」

 

「本局側もまだ例の事件対処で手一杯なのでしょう。事件捜査は一先ず、武装隊からの報告待ちとして、まずはあの船と密猟品をどうするかですね?」

 

(報告待ちって言うても、船長に当たっても多分無駄やろうな‥‥)

 

(おそらくこの船からは雇い主に対して定時連絡が行っている筈‥‥)

 

(あるいは停船命令を通告した時、船長が依頼主へ連絡を入れているかもしれへん)

 

(船長は雇い主の救いを頼みに沈黙するだろうし、雇い主も彼を救うためになりふりかまわないか、事が公になれば身の破滅に繋がる。それならば、今回の利益を捨てて船長たちを切り捨てるかのどっちかやな)

 

グリフィスの言葉を聞き、はやては船長と依頼主の今後の動向を予測する。

 

「一先ず、此処から一番近い管理世界にあの船を曳航するで、船を動かせる乗員を何人かあっちの船に送ってや」

 

「承知しました」

 

宇宙空間で止まっていても事態は進展しないので、はやては訓練航海を切り上げて、密猟品を積載している船を現宙域から一番近い管理世界へ曳航する事に決めた。

 

 

リンディの下にはやてが密猟品を積載した民間船を拿捕したと言う報告が入ったのは、その日の夜になってからだった。

 

「ちょっと、この報告が私の下に入るまでかなり時間があったけど、なんでこんなにも時間がかかったのよ!?」

 

リンディは、はやてからの報告が自分の下に来るまで時間がかかった件について秘書に食って掛かる。

 

「れ、例の事件のせいで、本局の対応能力が下がりまして‥それで現場の判断に任せたみたいで‥‥」

 

「この案件だって充分に大きな事案よ!!急いではやてさんの艦に通信を繋いで!!」

 

「は、はい!!」

 

秘書は急ぎジャガーノートに連絡を入れる。

 

「艦長、本局のリンディ統括官から映像通信です」

 

民間船を曳航中、リンディから通信が来た知らせが入り、はやては自分の船室から急いで艦橋へと上がる。

 

『こんな時間にごめんなさい。私の下にはやてさんからの報告が上がってくるのが遅れてしまって‥‥』

 

「いえ、本局の現状を鑑みると仕方のないことです」

 

『そう言ってもらえて助かるわ。それで現状を報告してもらえるかしら?』

 

「密猟品を積んだ船は今、一番近い管理世界へ曳航しています。詳しい事件捜査は船を曳航し終えた後からやろうと思っています。ただ、証拠隠滅を防ぐために船の乗員たちは軟禁をして、武装隊の人らが見張っており、コンピューターや通信機器もこちらで抑えてあります」

 

『現状が次元の海では、はやてさんの判断が正しいみたいね‥‥』

 

リンディは、現状におけるはやての判断を評価する。

 

『何か進展があれば報告を入れてちょうだい』

 

「了解です」

 

翌日、ジャガーノートと民間船はとある管理世界へ到着した。

 

民間船の乗員たちをいつまでも船倉に軟禁しておくわけにはいかないが、一応事情聴取があるので、その世界にある管理局の支部へ身柄をそちらに移した。

 

(これで、本局から執務官や捜査官が来てくれれば楽なんやけどな‥‥)

 

はやて自身が捜査出来ない訳ではないが、ジャガーノートはまだ訓練の途中なので、出来れば訓練を再開したいところだ。

 

本局では、相変わらずガーラミオで起きた麻薬事件の噂で持ち切りであるが、そんな中で、はやてが遭遇した事件の噂もちらほらと混ざっていた。

 

「なに?マダラオオツノシシの毛皮だと?」

 

「はい。訓練航海中だった八神艦長が不審な船舶を発見し、臨検をしたところ発見したそうです」

 

密猟品は基本的に映像や写真を撮られた後、現物は焼却処分している。

 

密猟品を輸送していた船は現場から一番近い管理世界へ曳航されており、押収した密猟品は記録された後、その世界で処分される。

 

(ご禁制の品とは言え、マダラオオツノシシの毛皮はなかなか手に入らない品‥‥)

 

(しかも大量にあるという事は、売ればかなりの金になる)

 

「八神艦長に緊急伝、至急押収品は全て本局へ輸送するように伝えろ」

 

「えっ?押収品を本局へ?‥ですか?」

 

「そうだ!!早くしろ!!」

 

「は、はい」

 

どこからか回って来たこの噂を聞きつけた本局の幹部は密猟品が処分される前にそれらの品を本局へ持ってくるようにはやてに伝える。

 

「艦長、本局から緊急伝です」

 

「緊急伝?本局から?」

 

「はい」

 

「それで、内容は?」

 

「はっ、『今回の押収品を全てロストロギアに認定する。ジャガーノートは直ちに押収品を本局へ輸送せよ』‥‥以上です」

 

「はぁ?いくら保護動物とは言え、動物の毛皮をロストロギア指定?本局は一体何を考えているんや?」

 

これまで多くの事件でロストロギアと関わって来たが、どうみても動物の毛皮をロストロギアに指定する事に違和感を覚えるはやて。

 

「しかし、本局の指示ですから‥‥」

 

「まぁ、本局の指示ならしゃーない‥か‥‥」

 

はやてとしてもこの世界に留まり、事件の捜査をするよりも本局へ押収品を持って行った後に訓練航海を再開するつもりでいたので、彼女にしてみれば本局からの指示はまさに渡りに船であった。

 

やがて、押収品の全てが民間船からジャガーノートへと運び込まれると、ジャガーノートは本局を目指して出航した。

 

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