これも読者の皆様のおかげです。
今後もよろしくお願いします。
管理局が次々と就役させている次世代の次元航行艦の一隻であるジャガーノートは、はやてが艦長を務め、訓練航海へと出航した。
訓練、航海、共に順調であったが、その最中で不審な民間船を発見した。
ジャガーノートが通信を送ると、その民間船はまるで逃走するかのような動きをした。
当初は、ジャガーノートが管理局の艦ではなく、海賊やテロリストの偽装かと思われたのかと判断する。
そこでジャガーノートは追跡して誤解を解き、その民間船を臨検しようとするも、何故か船長は臨検を拒む。
はやては公務執行妨害を盾にやや強引に民間船への臨検を行い、積荷物を調べると、そこから狩猟が禁止されて保護指定動物の毛皮や剥製などご禁制の品が見つかった。
これは明らかに保護指定動物が住む管理世界で密猟が行われた何よりの証拠であった。
これらの密猟品を輸送していた民間船の乗員‥特に船長は何かしらの事情を知っている筈なので、はやては現場から一番近い管理世界へ民間船を曳航した。
管理局‥本局は現在、人工衛星都市ガーラミオで起きた麻薬事件の影響で混乱の渦中にあった。
そんな中ではやての下に本局から押収した密猟品を本局まで運んで来いと言う指示を受けた。
この指示にはやては訝しむも、はやて本人としては密猟事件の捜査よりも自身が艦長を務めるジャガーノートの訓練航海を優先したかったので、とりあえず押収品を本局へ運んだ後、すぐにでも訓練航海を再開させたかった。
そして、本局へ到着したジャガーノートは次々と押収したマダラオオツノシシの毛皮、角、牙、剥製、瓶詰めになった臓器を降ろしていく。
やがて、全ての押収品がジャガーノートから降ろされる。
「それにしても動物の毛皮がロストロギアに認定するなんて何だか妙な話ですよね」
グリフィスもはやてと同じ違和感を覚えていた。
「でも、ご禁制の品と言う点ではある意味でロストロギアに当たるのかもしれへんな」
ロストロギアの定義の中には、既に滅んだ世界からの発見、古代遺跡からの発掘された技術や知識、物品とあり、保護指定動物に指定されて狩猟が無期限の禁止となったマダラオオツノシシの毛皮や剝製は本来、獲る事の出来ない毛皮などで視点を変えればロストロギアに当たるのかもしれない。
「アクシデントがあったけど私らは今回の密猟品についての捜査指示は受けてへんから、こっちは当初の予定通り訓練航海を再開しよか?」
「そうですね」
押収品を本局へ運び込み、補給を終えたジャガーノートは再び訓練航海へ出航していった。
ジャガーノートが本局を出航してから数日後‥‥
本局の押収品倉庫へこっそりと入る幹部局員の姿があった。
「流石に剥製は大きいから持ち出せばバレるな‥‥しかし、毛皮ならばこれだけあるのだから何枚か無くなっても気づかれはしないだろう。押収品の横領何て誰でもやっている事なんだ。俺がやっても問題はないだろう。早く取っておかないと他の連中もこの毛皮を狙っているかもしれないからな‥‥」
幹部局員は自らのデバイスを起動させ、マダラオオツノシシの毛皮を次々とデバイスの中へと収納していく。
「これだけの量の毛皮だ。闇取引に流せばかなりの金になるな。これで息子や娘たちの学費に老後の蓄えも全て解決する。金に換えた後はさっさと管理局なんて退職して退職金とこの毛皮を売った金を元手に新たな商売でもするか、それとも大企業への賄賂にして天下りをして役員報酬を貰いつつ悠々自適な生活でもするか」
新たな力を手に入れたとは言え、いつ強力な星間国家と鉢合わせをするか分からない。
それならば、危険な目に遭うかもしれない管理局なんてさっさと辞めて、どこかの大手企業に天下りして役員報酬を貰いながら安全に暮らした方が賢明だと判断した幹部局員。
後日、この幹部局員の隠し口座には使途不明な大金が振り込まれていた‥‥
また、本局の保管庫からは押収した筈のマダラオオツノシシの毛皮が消失していた事が、後々の調査で判明した。
しかし、本局が押収品の消失の事実に気づいた時、一人の幹部局員が管理局を自主退職した後だった。
本局はガーラミオで起きた事件を受けてこれ以上恥の上塗りをする訳にもいかなかったので、押収品の消失については隠ぺいする事にした。
そもそも海鳴でばら撒かれ、なのはたちが回収したジュエルシードがスカリエッティの手に渡っていた件についても管理局はろくに捜査をせずに有耶無耶のままになっていた程の杜撰な所があった。
恐らく今後も押収倉庫から押収品が消失する事例は続く事になるだろう。
此処で時系列は過去から現在に戻り、視点はミッドチルダからバジウド星系へと移る。
八雲 艦橋
「‥‥ゴホッ!!ゴホゴホッ!!‥‥うぅ~‥‥」
「‥‥航海長、大丈夫ですか?‥もしかして熱が出ているんじゃないですか?」
「う~ん‥‥ズズ~ッ!!どうかなぁ‥‥チーン!!」
八雲の艦橋にて航海長が咳をし、ちり紙で鼻をかむ。
「‥‥クシュッ!!クシュン、クシュンッ!!はぁ~‥‥」
すると通信長もくしゃみを連発する。
「通信長も、もしかして風邪?」
「‥そうかもしれない‥クシュン!!」
「二人とも大丈夫?」
「ズズズ~‥‥」
「う~ん‥‥」
「二人とも、自室で休んでいた方が良いんじゃない?」
「ですが、副長‥‥」
「今、急いで惑星ゼスへ向かっているけど、もうしばらくかかるわ。だから無理はせずに身体を治す事に専念しなさい」
「副長の言う通りだ。それに艦橋に居て我々にも感染させてしまったら、艦の運航に支障が出てしまう」
「そう言う事よ。さあ、此処は私たちに任せてゆっくり休んで」
「‥‥分かった。副長、自室で休ませてもらいます」
「自分もお言葉に甘えて‥‥」
「二人ともしっかりと休んでね」
航海長と通信長の二人は艦橋を後にする。
「‥‥」
その様子を神妙な顔つきで見送るギンガ。
「‥‥これで、艦長、戦術長に続いて四人目か‥‥」
「しかも肝心の医務長も風邪でダウンしちゃっているからなぁ~‥‥」
「それにしても困った事態ですね。まさか、艦内で風邪が流行るとは‥‥惑星ゼスへ着けば本格的な治療と感染拡大を抑える事が出来ると思いますが‥‥」
「そうね。今は一刻も早く惑星ゼスへ向かわないと」
今から数日前‥‥
「クシュッ!!クシュン、クシュンッ!!ズズズ‥‥あぁ~‥‥チーン!!」
ティアナがくしゃみをして、ちり紙で鼻をかむ。
「ティアナ、大丈夫?」
「うぅ~なんか頭がグワン、グワンする‥‥くしゃみと鼻水もとまらないし‥‥」
ギンガに声をかけられ自身の状態を話すティアナ。
「それってもしかして、風邪じゃないの?」
「うぅ~‥‥そうなのかな?」
「‥‥」
「ん?艦長?」
「‥‥」
「艦長?」
ティアナに次いで、ギンガは艦長である瓢に違和感を覚える。
彼はギンガの問いに何も答えない。
「?」
不審に思ったギンガは席を立ち、瓢が座る艦長席へと近づく。
「‥‥」
一見すると瓢は普段と変わらない様子で艦長席に座っている。
「艦長?艦長?」
「‥‥」
「‥‥」
ギンガが瓢の額に手を当ててみると、
「あつっ!!艦長、熱があるじゃないですか!!」
「‥‥」
「医務室!!至急艦橋へ医務員を派遣して!!艦長が高熱を出しているわ!!」
ギンガは急ぎ、医務室に連絡を入れる。
『ふ、副長!!医務長が風邪で倒れました!!』
すると、医務室から応答が来て、医務室でもアクシデントがあった。
「くっ、こんな時に‥‥」
『副長、医務長以外にも各部から風邪に感染したと言う報告が上がっています!!』
「処方薬は?」
『感染者にちゃんと処方はしていますが、このまま感染者が増えてしまっては在庫があっという間になくなってしまいます』
「‥‥では、重篤患者は冷凍睡眠装置に入れて病状の安定を!!軽症患者は自室での隔離を!!健常者には急ぎマスクを支給して!!」
『りょ、了解』
ギンガは医務室へ指示を出し、瓢に肩を貸して医務室へと運ぶ。
「ふ、副長‥‥」
「艦長?」
医務室に運んでいる中、瓢の意識が一時回復したのか弱々しい声でギンガに話しかける。
「き、君に‥艦の指揮権を‥‥委ねる‥‥」
「えっ?」
瓢はギンガに指揮権を委ねられ、思考が停止するが、すぐに持ち直す。
(えっ?私が艦の指揮を!?)
(う、嘘でしょう!?)
ギンガは瓢からの命令の意味を理解し、動揺する。
しかし、指揮系統では艦長の瓢が病気で倒れてしまった現状、階級の最高位はギンガなので、瓢の命令は至極当然の事だった。
瓢を医務室へと運ぶと医務科の隊員が言っていたようにそこには風邪をひいた乗員たちで溢れていた。
「い、いつの間に風邪が‥‥」
艦内で此処までの感染者が出ていた事に驚愕するギンガ。
「一先ず、艦長の治療を‥‥」
ギンガは医務科の乗員に瓢の治療を頼む。
「熱が高い‥‥艦長、無理をしていたみたいですね‥‥」
「‥‥」
艦長と言う立場から艦の指揮に関わると思っていたのか、瓢は風邪をひいてもソレを申告せずに艦の指揮を執って無理をしていたのか、彼の体調は思わしくない。
「これ以上の体調悪化を防ぐために艦長も冷凍睡眠処置を施します」
「ええ、お願い‥‥」
他の乗員と比べ年長者と言う事もあり、ちゃんとした医療施設と薬での治療が出来ない現状、瓢の体調悪化を防ぐために冷凍睡眠処置が施された。
先程まで、瓢から指揮権を一時譲渡されそんな重大な任務に対して自信がなく、困惑していたギンガであったが、艦の為に自分の身体を此処までボロボロにしながらも指揮を執ろうとしていた瓢の姿を見て、ギンガは奮い立った。
(艦長の為‥‥そして、風邪で倒れた皆の為に私が頑張らないと!!)
その後、ティアナも風邪でダウンしてしまった。
幸いティアナの症状は軽症だったので、冷凍睡眠処置まではいかなかったが、現在も自室で療養中だ。
そして現在、八雲の艦橋に居るのは瓢に代わり艦を指揮しているギンガ。
ティアナの代わりに戦闘指揮を執っている砲術長。
艦の運航指揮は航海長に代わり、次席航海長が艦の運航にあたり、機関部に関しては機関長が引き続き艦の機関部を指揮している。
艦内であまりにも風邪の感染者が多い為、ギンガはこれ以上の哨戒任務は困難だと判断し、現在位置から一番近い惑星へ向かう事にした。
その結果、判明したのが以前、ボラー連邦系の輸送船団を挟撃した次元潜航艦が所属している惑星ゼスであった。
惑星ゼスに現在の八雲状態を伝えると、快く医療体制を整えてくれると返信があった。
限られた人員で惑星ゼスへと向かう八雲。
そんな八雲の姿をバジウド星系に存在するボラー連邦系の哨戒艦隊が捕捉した。
「艦長、前方に敵艦を発見しました。いかがいたしますか?」
「なに!?敵艦だと?間違いないのか?」
「はい。これまでの戦闘おける熱源ライブラリーから、恐らく地球に所属する艦と思われます」
「それで、数は?」
「大型艦が一隻です」
「ならば攻撃だ!!みすみす逃がしてなるか!!」
「しかし、地球製の艦は単艦でも一騎当千の能力があると聞きます。我が隊の現有戦力では少々足りないのではないでしょうか?」
「えぇい!!弱気な事を言うな!!士気に影響するだろう!!‥‥いいか、戦争とは戦力差がモノを言うのではない!!作戦の成否により勝敗が決まるのだ!!」
「それはそうでしょうけど‥‥」
哨戒艦隊の指揮官はやる気満々だが、副官はどうも消極的な様子だ。
これまでの戦闘から地球製の宇宙艦船の能力を評価しており、いくら単艦とは言え、自身が所属している哨戒艦隊の戦力に自信がないのだ。
「大丈夫だ。我が隊には奥の手があるのだ!!‥全艦に告ぐ!!敵艦を発見!!直ちに攻撃に移れ!!我々の手でガルマン・ガミラスに尻尾を振る愚か者どもに正義の鉄槌を下してやるのだ!!」
しかし、指揮官は自信満々な態度で八雲との戦闘を決めて艦隊に戦闘準備を命じる。
ボラー連邦系哨戒艦隊は戦闘態勢をとり、八雲へと接近していく。
当然その姿は八雲の方でも捕捉した。
「本艦に向け、未確認飛行物体接近!!ボラー系の艦隊と思われます!!」
「くっ、こんな時に‥‥味方識別信号は!?」
「反応ありません!!」
元ボラー連邦系でもガルマン・ガミラスに寝返った星間国家はボラー連邦の宇宙艦船の色を変えて使用していた。
それらの宇宙艦船には誤射を防ぐために味方識別がガルマン・ガミラスより与えられていた。
当然その識別信号は同盟関係にある地球側にも伝えられている。
しかし、八雲に接近して来るボラー連邦系の宇宙艦船には味方識別が無い。
その為、接近してくるボラー連邦系の宇宙艦船は敵であるボラー連邦系の星間国家に所属している艦と言う事が判明した。
「敵戦力は?」
「アポストロ級航宙戦艦が五隻、ロスチラフ級航宙戦艦が一隻です」
(戦力としては偵察部隊かもしれないけど、今の八雲にとっては充分な脅威ね‥‥)
(でも、負けるわけにはいかない‥‥)
「砲術長、戦闘用意」
「し、しかし、戦術長が不在です!!」
「こ、航海長も‥‥」
「何を言っているの!?貴方たちがやらないで、一体誰がやるの!?もっと自信を持ちなさい!!私だって、こうして艦長が戻るまで指揮を執っているのよ!!」
砲術長も次席航海長も自信無さげに言うが、そこをギンガは 咤激励する。
「何も緊張する事は無い。普段通りにやればいいんだ。大丈夫だ!頑張れ!!」
「サポートはちゃんとするから」
機関長とギンガに励まされ、
「‥‥わ、分かりました。戦闘準備に入ります!!」
「よ、よし、敵さんに目にモノを見せてやる!!」
こうして八雲とボラー連邦系哨戒艦隊との戦闘が開始された。
「敵艦、発砲!!」
「回避!!右四十度!!」
「右四十度、回避!!」
「主砲一番砲塔は右舷、二番砲塔は左舷へ旋回し主砲発射準備!!」
「りょ、了解!!第一、第二主砲発射準備にかかれ!!」
ギンガは運航、戦闘の指示を的確に指示する。
「主砲発射準備完了!!」
「発射!!」
ギンガが射撃命令を下し、八雲の主砲は轟然とショックカノンを吐いた。
「敵艦に命中!!撃沈を確認!!」
「敵艦、尚も接近!!」
前衛の敵艦を撃沈するもボラー連邦系哨戒艦隊は撤退せずに八雲へと接近して来る。
「敵艦、発砲!!」
「反転、左舷三十度!!」
八雲は反転、また反転しつつ敵艦の攻撃を躱しながら反撃する。
そんな中‥‥
「っ!?レーダーに感あり!!未確認飛行物体接近!!て、敵の増援艦隊です!!」
「えぇぇー!!な、なんてことだ!!これ以上敵が増えるなんて!!」
「ど、どうすればいいんだ!?」
「‥‥」
敵の増援で八雲の艦橋内は混乱する。
そんな中でギンガはレーダー画面をジッと見つめている。
(ん?この反応‥‥)
そこで、ギンガは妙な違和感を覚えた。
「落ち着きなさい!!」
そして、艦橋内に響く大声で困惑している艦橋要員を 咤激励する。
『っ!!』
ギンガの一喝を受けて艦橋内に沈黙が訪れる。
「‥よく見なさい。敵の増援部隊の動きを‥‥様子が変だと思わない?それにレーダーの反応も通常のボラー系の宇宙艦船と比べると何だか変よ」
「そ、そう言われたら‥‥」
「何か動きが単調過ぎる‥‥」
「敵の増援部隊は恐らく精巧に作られたダミーシップよ」
ギンガは敵の増援部隊の正体を見破る。
「だ、ダミーシップ‥‥」
「そ、そうだったのか‥‥てっきり敵の増援部隊かと‥‥」
「危うく騙されるところだった‥‥」
敵の増援部隊の正体がダミーシップであると言う事に艦橋内にはホッと胸をなでおろす空気が流れる。
一方で、ダミーシップを運用しているボラー連邦系哨戒艦隊の方は‥‥
「‥‥バレませんかね?」
「ん?ダミーシップの事か?」
「地球の連中もそんなに単純ではないでしょうか?」
「ふん、あれはただのダミーシップではない!!」
「では、攻撃が可能なんですか?」
通常のダミーシップは敵の目を誤魔化すか、射撃の的として使用するくらいしか使い道がない。
しかし、司令官の様子と八雲と交戦する前に言っていた『奥の手』と言うくらいだから通常のダミーシップとは異なり、自衛の為の武器でも積んでいるのかと思う副官。
だが‥‥
「違う‥何と!!エンジン付きなのだ!!動けるんだぞ!!」
「‥‥」
「地球人ごときに見抜ける筈がない!!」
「‥‥」
司令官が豪語するダミーシップは通常のダミーシップと何ら変わらないダミーシップの性能であった。
これには副官も唖然とする。
何しろあんなに司令官が自信満々な言動をするのだから、何か物凄い切り札的な機能があるのかと思いきや、用意していた奥の手が通常のダミーシップなのだから‥‥
「これで奴らは慌てふためき逃げ出すに違いない!!そこを我々が追撃する!!いくら敵艦の能力が優れていても機関部を仕留めて足を止めれば、あとは射撃場の的同然!!じわじわとなぶり殺してやるわ!!」
しかし、司令官は相変わらず自信満々な様子だ。
その自信は一体どこから来るのだろうか?
「地球艦、こちらに向かってきます!!」
だが、八雲はダミーシップを既に見破っていたので、逃げるどころか自分たちに向かってくる。
「‥‥バレたみたいですね」
「なっ!?そ、そんなバカなっ!?」
「そりゃあ分かるよな、普通‥‥」
司令官は八雲にダミーシップが見破られた事に驚いていたが、副官は司令官の様子に呆れていた。
八雲 艦橋
「ダミーシップには攻撃機能はないみたいだから、攻撃してくる艦のみに反撃!!」
「了解!!」
ギンガは当然、ダミーシップには目もくれず、自分たちに攻撃してくる艦のみを攻撃対象とした。
ダミーシップは切り札とはならず、ボラー連邦系哨戒艦隊は結局最初の戦力で戦う事となり、八雲は次々と哨戒艦隊の艦艇を撃破していく。
哨戒艦隊も攻撃しない訳にはいかず、八雲を攻撃するが、それは八雲に自分の位置を教えるような行動であった。
「み、味方戦闘艦‥ぜ、全滅‥‥残っているのは本艦だけです!!」
「くっ‥て、撤退だ!!」
哨戒艦隊は等々司令官が座上している艦のみとなり、司令官は此処に来て撤退を決めた。
「ダミーシップはどうしますか?」
「我々の撤退成功の為の囮にしろ」
「りょ、了解」
司令官は自分たちの撤退を成功させるためにダミーシップを八雲の進撃コースに配置する。
八雲 艦橋
「敵の残存艦、撤退していきます!!」
「ダミーシップを殿に配置しています!!」
「追撃しますか?」
「‥‥いえ、八雲には今、大勢の病人が居るわ。今は逃げていく敵を追いかけるよりも一刻も早く、治療を優先します。ただし、ダミーシップは此処で全て破壊していきましょう。後々、回収されてまた使用されては面倒だし」
「了解」
「ダミーシップを破壊した後は全速で惑星ゼスに向かうわよ。病人の安否もあるけど、逃げた敵艦が今度は本当の増援を呼んでいないとは言い切れないしね」
「はい!!」
ギンガは逃げていく敵艦を追撃せず、残ったダミーシップを破壊して惑星ゼスへと向かった。
八雲に居る風邪をひいた乗員たちはもとより、逃げた敵艦が救援要請をして今度は本物の戦闘艦が増援として来ないとは言い切れない。
一刻も早く、この宙域を離れなければならなかった。
惑星ゼスまでの道中、八雲はあのダミーシップを用いた哨戒艦隊以外のボラー連邦系の艦とは遭遇することなく、無事に惑星ゼスへ到着することが出来た。
惑星ゼスに到着すると、冷凍睡眠処置で冷凍睡眠していた重症者は惑星ゼスにある医療施設へと運ばれ、軽症者には特効薬が処方された。
また、未感染者も念のためにワクチン接種が行われる。
八雲は艦長の瓢が重症患者で惑星ゼスの医療施設へ搬送されたので、八雲は再び惑星ゼスにて暫くの間、停泊する事となった。
それから数日後‥‥
「あっ、ティアナ!!」
「航海長も!!」
「ギンガさん‥皆さんにも随分とご迷惑をおかけしました」
「本当に申し訳ない」
「ティアナ・ランスター、完全に回復したので、本日付で八雲戦術長の任務に復帰いたします!!」
ティアナと航海長が復帰した翌日、通信長も職務に復帰した。
しかし、重症者の乗員たちはまだ八雲には戻ってきていない。
惑星ゼス 軍事医療施設
「えっと‥‥艦長の病室は‥‥」
ギンガは瓢の見舞いのために瓢を含めて重症者が入院している医療施設へとやって来た。
「あっ、此処だ」
そして、瓢の病室を見つけてドアをノックする。
「どうぞ」
すると、病室の中から瓢の声がした。
「失礼します」
病室のベッドには白い入院衣を着て、上半身を起こしている瓢の姿があった。
「艦長、お加減の方は?」
「だいぶ治って来ておる。来週中には退院できるそうだ」
「そうですか‥それは良かったです」
「惑星ゼスに来るまでの間に何やら大変な事があったようだな?」
「はい。ボラー連邦系の哨戒艦隊と遭遇しました。一応、報告書はあげていますが、拝見しますか?」
真面目なギンガらしく、あの時の戦闘報告書を既に書き上げていた。
そして、念のために持ってきていた。
「見よう‥‥」
瓢は報告書を見るくらいは平気だったので、彼はギンガが持参した報告書へと目を通し始めた。
「なるほど、ダミーシップを使用しての戦術か‥‥」
「はい。ですが、元々の戦闘艦の数が不足している事、これ見よがしなダミーシップの使用だったので、すぐに見破ることが出来ました」
ギンガはダミーシップが出現した時の艦橋内における様子を思い出す。
レーダーではなく、モニター越しでの肉眼で見たボラー連邦系のダミーシップは確かに本物の戦闘艦に見間違えるほど、精巧に作られていた。
実際にボラー連邦系のダミーシップを見たギンガ以外の艦橋要員は皆騙されていた。
しかし、レーダー妨害や破壊をされていなかった事からレーダー反応でダミーシップはいとも簡単に見抜かれてしまった。
「ふむ、旗艦らしき艦には逃げられたか‥‥」
「はい。艦隊でも最後方に位置しており、恐らくダミーシップのコントロールを行っていたと思われます。味方の戦闘艦が全滅すると、ダミーシップを囮にして逃げて行きました。追撃を断念したのは、八雲には艦長を含めて、病気になった乗員が大勢居ましたし、逃げていく敵艦が今度は本物の戦闘艦を増援に呼び寄せていた可能性がありましたから‥‥」
「うむ、的確な判断だな」
「ありがとうございます。ただ、今後の事を思い、現場に放置されたダミーシップのみは破壊しておきました」
「分かった。君を含めて、あの時八雲の運用に関わっていた乗員たちは限られた人数の中でよく頑張ってくれた。艦長として礼を言う‥‥ありがとう」
「いえ、あの時は普段の艦長の職務の重さを自覚させられました」
「そうか‥‥君としても将来におけるいい経験になったことだろう」
「いえ、私にはまだ分不相応な体験でしたよ」
ギンガとしても、もしあの時に遭遇した哨戒艦隊がダミーシップではなく本物の戦闘艦だったらと思うと生き残れたのかと思ってしまう。
「ですが、今回の経験においてダミーシップの使い方にもその運用方法で戦術が広がると思っています」
今回、ボラー連邦系の哨戒艦隊が使用したダミーシップは既に防衛軍でも使用されている。
しかし、既に無人艦を運用している防衛軍としては、ダミーシップは射撃訓練の標的くらいの運用方法しかない。
だが、今回の経験からただの標的だけでなく、戦術次第では何かしらの運用方法もある筈だとギンガは考え始めた。
(管理局相手なら、今回の戦術でも騙せたのかな?)
自分が知る限り、管理局はダミーシップと言うモノを運用していない。
従って、管理局の次元航行艦相手ならば、今回ボラー連邦系の哨戒艦隊が行った戦術も通じるのかと思ってしまう。
(はっ!?いえ、いえ、相手が管理局だからといって格下に見てはダメよ)
(私が知っている管理局の情報はもう何年も前のモノ‥‥)
(防衛軍がこうして日々進化している様に管理局だって進化している筈‥‥)
(例え管理局を相手にする時が来ても、決して舐めてかからず全力でいかないと!!)
ギンガはダミーシップの運用の他に今後、万が一管理局と砲火を交える事態が来てもその時は全力で管理局と戦うつもりでいた。
「では、艦長。私は他の乗員たちの見舞いもしますが、退院までしっかりと療養をしてください」
「うむ、久しぶりにゆっくりとさせてもらうよ」
瓢は笑みを浮かべつつギンガを見送った。
八雲 食堂
「はぁ~まさか、私が風邪をひくなんてね‥‥」
八雲の食堂でティアナは、クリームソーダを前に惚けていた。
軽症だったとはいえ、自分が風邪をひくなんて一体いつ以来だろうか?
管理局の訓練校時代、そして管理局へ任官後の機動六課時代、執務官補佐官時代、そして遭難してもう一つの地球での生活‥‥防衛軍の訓練校時代も風邪なんてひかなかった。
「任務中に風邪をひいたなんてうららあたりに知られたら笑われちゃうわね‥‥」
ティアナの脳裏にはうららが自分を指さして爆笑している姿が過る。
「ん?誰が笑われるって?」
「えっ?うわぁっ!?ギンガさん!?」
ティアナが惚けているといつの間にか医療施設での見舞いから戻って来たギンガが居た。
「あっ、いえ‥任務中にまさか風邪をひくなんて‥‥と思って‥‥」
「人なんだし、体調不良になることだってあるわよ」
「‥‥」
ギンガはティアナを励ますが、ティアナ本人としてはやはり恥ずかしかったのか顔を赤らめて俯いてしまった。
バジウド星系にある惑星ゼスにて、八雲が乗員たちの療養の為、停泊している中、八雲の母港である地球では‥‥
大型艦船ドックでは、重機の音や溶接レーザーの音が鳴り響いていた。
「改装案にあったように左右両舷のパルスレーザー砲塔を増設している」
ドックでは、まほろばの改装が行われていた。
その改装指揮は艤装員長となっている良馬と改装案を提出した真田が執っている。
「それと追加で、まほろばにもコスモハウンドを搭載する事になった」
「えっ?コスモハウンドを?」
「ああ。本来ならもっと早い時期に搭載する予定だったらしいが、例の太陽異常が起きてしまい、その時は、まほろばの搭載が見送られたんだ」
「あの時、まほろばはアルファ星を拠点にしていましたからね」
ヤマトは地球での長期改装時だったので、コスモハウンドを搭載する工事期間があったが、当時のまほろばはケンタウロス座アルファ星を拠点として動いており、更にアルファ星には搭載予定のコスモハウンド自体が無かったので、搭載工事を行わず、惑星探査をするヤマトの護衛として同行したのだ。
「それにコスモハウンド自体もあの時、ヤマトの惑星探査における実績とデータから色々とパワーアップしている。それにタイムレーダーや亜空間ソナーも今回の改装を機にバージョンアップしたからそれを搭載する予定だ」
まほろば艦首のバルバスバウの中に装備されていたタイムレーダーが露となっており、重機を使っての取り外し作業が行われていた。
同じく艦首艦底部に装備されている亜空間ソナーも交換作業が行われている。
「当初はパルスレーザー砲塔の増設だけの改装かと思っていたのですが、何だか大規模な改装になっていますね」
「ああ。本来の予定だとお前の言う通り、パルスレーザー砲塔の増設だったのだが、実際にまほろばを点検してみると、あちこち改装する箇所があったからな」
新たな装備の開発が行われていた事でこちらもいい機会だからと今回の改装でそれらの装備品の装備が行われた。
「亜空間ソナーに関しては新型の開発成功と装備はありがたい事です。ボラー連邦系の勢力も最近は次元潜航艦の戦線投入が顕著になってきたみたいですから」
彗星帝国、ガルマン・ガミラスに次いで、ボラー連邦も次元潜航艦を運用しているのは太陽異常の際、新惑星探査の時、ボラー連邦が運用していると思われる次元潜航艦からの襲撃を受けた経緯がある。
一度、建造したのだからその後の量産、改良だって出来る筈だ。
その技術を同じバジウド星系にあるボラー連邦系の星間国家に技術提供をしている可能性は充分ある。
次元潜航艦は水上の潜水艦同様、通常の空間とは異なる空間に姿を消しているので、次元潜航している潜航艦を見つけるには亜空間ソナーは必須な装備なのだ。
精度が高ければ高いほど、敵の次元潜航艦を早く見つけることが出来る。
良馬としては新型の亜空間ソナーの搭載はアルファ星防衛の観点からもありがたかった。
「ああ、そうだった。次元潜航艦と言えば‥‥」
すると真田は思い出すかのように新たな話題を振った。
「なんです?」
「防衛軍でもようやく次元潜航艦の建造が本格的に始まり、すでに何隻かは就航しているぞ」
「えっ?本当ですか!?」
「ああ。ガルマン・ガミラスからの技術供与とあの時空管理局の艦、彗星帝国の次元航行艦‥これらの技術調査からようやく形にする事が出来た。今は火星宙域で乗員の熟練訓練中だが、訓練が終わればアルファ星かバース星の最前線に配備されるのではないだろうか」
「確かにバジウド星系はまだボラー連邦系の勢力がありますからね」
まほろばの新装備に次元潜航艦と言う新造艦も建造・就役で、バジウド星系とケンタウロス座の防衛力は一段と上がる事だろう。
「そう言えば、まほろばが地球へ戻ってきた日、お前さんは古代になにやら話があったみたいだが、一体何の話をしたんだ?」
次元潜航艦の就役を伝えた後、真田は良馬に先日、古代に一体何の用があったのかを訊ねてきた。
「えっ?」
良馬は真田の問いにドキッとした。
「えっ、えっと‥‥まぁ、まぁ、他愛ない世間話ですよ。俺が地球を留守にしていた時の事とか‥‥」
「そうか‥‥」
一応、古代の名誉にも関わってくるので、良馬は誤魔化すのだった。