アルファ星近海にて、ボラー派の次元潜航艦隊が猛威を振るい、アルファ星を防衛している第二艦隊が手痛い被害を受けた。
第二艦隊司令官であるジャン・ロベール・ラップも負傷した。
その知らせを聞いた良馬は地球で改装工事中だったまほろばをアルファ星の援軍として出航させた。
途中、火星沖にて防衛軍が新たに就役させた次元潜航艦隊もまほろばと同行してアルファ星へと向かった。
アルファ星に到着した良馬は第二艦隊が受けた被害状況を聞き、ラップの見舞いに病院へと向かった。
勿論、見舞いに行くので、病院へ行く前に近くのスーパーで果物の詰め合わせを買った。
受付にて、ラップの病室を聞き彼が入院している病室へと向かう。
「えっと‥‥確かこの病室だな」
ドアの前に掛かっている入院者の名前を確認しドアをノックする。
コン、コン、コン、
「どうぞ」
ノックをした後、病室の中からラップの返答がしたので、良馬は軍帽を脱ぎ、脇に抱えると病室の中に入る。
「失礼します」
病室の中には入院衣を着たラップとレディーススーツを来た一人の女性が居た。
「月村艦長。どうした?」
「いえ、司令部よりラップ司令官が負傷したとの事でお見舞いに‥‥えっと‥‥」
良馬は視線で女性を見る。
「ああ、女房のジェシカだ」
ラップは良馬の視線に気づき、女性を紹介する。
「えっ?奥さん!?失礼しました。自分は戦艦まほろばの艦長を務めております。月村良馬と言います」
ラップの妻‥ジェシカに一礼して自己紹介をする良馬。
「はじめまして。ジャン・ロベールの妻、ジェシカです」
ジェシカも良馬に深々と頭を下げながら自己紹介をする。
「あっ、こちらは見舞いの品です」
良馬はジェシカに果物の詰め合わせを手渡す。
「わざわざありがとうございます」
「ジェシカ、すまないが月村艦長と色々と話したいのだが‥‥」
「分かりました。また明日来ますね」
「ああ」
ジェシカは再び良馬に一礼をして病室を出て行った。
ジェシカが病室を出た後、
「怪我の具合はどうですか?」
良馬はベッド脇にある椅子に腰かけ、ラップに怪我の具合を訊ねる。
「ふむ‥‥報告を受けた様に命に別条はないし、アルファ星近海があの有様だ。病院のベッドでいつまでも寝ている訳にはいかない」
「それはそうですが‥‥」
「時に月村艦長。君はもう食事は済んだか?」
「いえ、まだです」
「では、場所を変えよう。病室ではどうも辛気臭いし、今後についても話したい。だがその前に腹ごしらえだ」
「は、はぁ‥‥」
良馬はラップを車椅子に乗せて病院の通路を歩く。
「ですが、勝手に病室を抜け出して良いんですか?」
「ああ、怪我はもうだいぶ治っている。あとは退院許可が下りたらすぐに戦線へ復帰だ。さあ、両舷前進、第二船速」
「ヨーソロー」
そして二人は病院近くにあるレストランへと入った。
そこでラップはミラノ風カツレツを注文して、良馬は和食の定食を注文する。
やがて、注文した料理が来ると、良馬は小鉢の中に入っている納豆を箸でかき混ぜる。
ある程度かき混ぜて粘り気が出て来たらそこに醬油を入れて更にかき混ぜた後、ホカホカの白いご飯の上に掛けると納豆ごはんの出来上がりとなる。
そして、良馬は出来上がった納豆ごはんを食べ始める。
「な、何を食べているのかね?君は‥‥」
そんな納豆ごはんを食べる良馬を見てドン引きしているラップ。
納豆を知らない外国人からしてみれば、腐った豆を食べている様にしか見えないから、ドン引きするのも当然の反応だろう。
「納豆ごはんですよ。まぁ、独特の臭いがありますが、美味しいですよ。食べてみますか?」
「い、いや。遠慮させてもらう」
ラップは顔を引き攣らせて納豆ごはんを拒絶する。
「そうですか‥美味しいのに‥‥しかし、ラップ司令こそ病人なのにカツレツなんて油っこいモノを食べて良いんですか?」
納豆ごはんをある程度食べた後、今度は良馬がラップに訊ねる。
「怪我はほぼ治っているから問題ない。むしろ、病院の食事があまりおいしくなくてね。あれでは治るモノも治らん」
病院での食事に不満を言いつつカツレツを綺麗に切り分け食べ始めるラップ。
食事が終わり、ラップは紅茶、良馬は緑茶を前に話題をここ最近のアルファ星近海での出来事を話す。
「アルファ星に着陸する際、修理用ドックでメリーランドを見かけました」
「面目次第も無い。第二戦隊の仇を討とうと意気揚々と出撃したが、このザマだ」
「藤堂長官も第二艦隊の被害を受け、急遽自分にアルファ星へ向かうように指示なさいました」
「しかし、まほろば一隻でこの態勢を崩せるのか?」
「いえ、アルファ星での戦況を考慮しまして今回まほろばだけでなく防衛軍で就役したばかりの次元潜航艦隊も同行してもらいました」
「防衛軍の次元潜航艦隊!?‥‥そうか、防衛軍もいよいよ次元潜航艦を就役し運用を開始したのだな」
「長い時間でしたがようやく‥‥そして、この次元潜航艦隊こそ、今アルファ星近海で暴れまわっているボラー派の次元潜航艦隊を殲滅する切り札であると自分はそう思っております」
「防衛軍の次元潜航艦はそれほどの力を持っていると言うのか?」
「いえ、性能面では恐らくガルマン・ガミラス、ボラーとあまり変わらないでしょう。しかし、自分は地球を出る前に科学技術省の真田さんにあるモノを頼みました」
「あるモノ?」
「はい。そちらを使えば、ボラーの次元潜航艦にも優位に戦える筈です。まほろばの方でも最新の亜空間ソナーを備えてもらえましたし、新たにコスモハウンドⅡも搭載してきました。このコスモハウンドⅡにも亜空間ソナー、三次元レーダーを備えているので哨戒機としての運用も可能です」
「そうか、それは頼もしい」
「つきましては、ラップ司令にお願いがあるのですが‥‥」
「ん?なんだ?」
「第二艦隊に囮になって頂きたいのです」
「なに?囮?」
「はい。その際、勿論まほろばも同行いたします。ですが、通常空間を航行する我々が囮となり、亜空間に潜む敵の次元潜航艦隊を仕留める役を同じ亜空間に潜る事の出来る次元潜航艦に行ってもらいたいと思っております」
「‥‥」
囮役と言う事で、ラップは暫し考え込む。
「分かった」
ラップは囮役を務める事を了承した。
「ただ、囮役を引き受ける条件として俺もその作戦に参加する」
「えっ?ラップ司令官も!?」
「当たり前だ。部下たちだけを危険な任務に行かせるわけにはいかないからな。だが、懸念がある」
「懸念?どんな?」
「敵の動向だ。こうしている間もあの次元潜航艦隊が猛威を振るっているのではないかと心配でな」
「その件については、敵は盛大に亜空間魚雷を放っていました。あれだけ撃っていると、艦内の魚雷にも制限がある筈です。彗星帝国のミサイル艦は艦内でもミサイルの製造が出来る構造をしていましたが、次元潜航艦ですと艦内の大きさも制限されているので、艦内で亜空間魚雷の製造は不可能です。よって、一度魚雷やエネルギー、乗員の休養などで一時、補給の為に近くの基地へ戻る筈です」
「なるほど、補給か‥‥ボラー派でも運用しているのは人間だからな。では、敵が補給中な今がチャンスと言う事か‥‥」
「はい。今回の作戦の為の準備期間として利用させていただきます」
フッと良馬は不敵な笑みを零した。
アルファ星近海
アルファ星近海の亜空間では、防衛軍の次元潜航艦が航行していた。
乗員の慣熟訓練もあるが、今回SS伊500が亜空間を潜航しているのはただの訓練だけではなく、ボラー派の次元潜航艦隊殲滅作戦の準備も兼ねていた。
「月村艦長から突然渡されたモノがまさか、こんな風に使うなんて‥‥まぁ、それ以前にこれを作った科学技術省の技術力も凄いですけどね」
SS伊500の司令塔では、航海長兼副長の千賀真琴は準備を行いつつ、良馬は真田に頼んだモノについて感嘆の声を漏らす。
「そうね。ボラー派の次元潜航艦隊の力は私たちが思っていた以上のモノだったわ‥‥」
良馬同様、九鬼たちもアルファ星へ着陸する際、メリーランドを始めとして被害を受けて修理を受けている第二艦隊の艦船を見ている。
その事実からボラー派の次元潜航艦隊の力は自分たちよりも上なのだとマジマジと見せつけられた。
まぁ、次元潜航艦を配備・運用する期間がボラー派の方が先なので、経験差が生じているのは否めない事実だ。
だからこそ、その経験と実力の差を奇策で補おうとしているのだ。
「艦長、装置の設置完了しました」
「よし、では作動開始」
「作動開始」
「聴音、今は付近に味方の次元潜航艦が航行しているけど、まずは音に慣れるのよ」
「了解」
ボラー派の次元潜航艦殲滅作戦は着々と進んでいた。
それから十日後‥‥
「全艦出撃」
「全艦出撃」
ラップは病院を退院し、メリーランド以下、修理が終わった第二艦隊の艦船はアルファ星防衛軍基地を次々と発進していく。
表向きの任務はバース星への援軍であるが、本当の目的はボラー派の次元潜航艦隊の殲滅だ。
アルファ星を出撃していく第二艦隊‥その中にはまほろばの姿もあった。
(あれから十日‥‥こちらの準備が整ったのと同じように向こうも補給を終えてアルファ星の近海まで戻ってきている筈だ)
良馬はアルファ星~バース星の宙域には既にボラー派の次元潜航艦隊が潜んで此方を待ち伏せしていると踏んでいた。
「コスモハウンドⅡの発進準備」
「えっ?コスモハウンドⅡ‥をですか?」
「ああ。コスモハウンドは、本来惑星探査用の機体だが、コスモハウンドⅡは対潜航艦装備も施されている。既に此処は敵のホームグラウンドと見た方がいいだろう」
「分かりました。コスモハウンドⅡ発進準備」
ヤマト同様、まほろばの左舷後部にはコスモハウンドⅡ専用の格納庫が設置され、約90度に折りたたまれたデッキに固定されて、発進時にスライド式のハッチが開いた後に内部のデッキが展開し、そこから垂直離陸する方式をとっている。
「こちらコスモハウンドⅡ、発進準備完了」
コスモハウンドⅡのコックピットの機長席には加藤、副操縦席には玲が搭乗し、発進許可を求めている。
「発進」
「コスモハウンドⅡ発進します!!」
コスモハウンドⅡは対潜哨戒の為にまほろばから発進した。
「亜空間ソナーはまだ使うな。相手にトレースされてデコイを使われたり、逃げだしたら厄介だ」
「了解」
「対空砲とミサイルはいつでも撃てるようにしておけ、どこから亜空間魚雷が来るか分からないからな」
「はい」
対潜警戒をとりつつ航行するまほろば。
そんなまほろばを含む第二艦隊の姿は既にボラー派の次元潜航艦隊に捕捉されていた。
親ボラー連邦系ベロラージュ所属 次元襲撃艦隊 旗艦 B-004 司令塔
「辺境の野蛮人どもが懲りずにまた出て来たぞ」
B-004艦長兼司令官のルジッキーが潜望鏡を見ながら第二艦隊の姿を捕捉する。
獲物を選別しているルジッキーであったが、第二艦隊の中のある一隻の戦艦の姿を見て、目を大きく見開く。
「あ、あ、あれは‥‥あの艦は‥‥」
心なしか潜望鏡のレバーを握る両手が小さくカタ、カタ、と震えている。
彼にとってその艦はある意味で自分たちにトラウマを植え付けた戦艦でもある。
「魚雷室!!魚雷装填急げ!!」
そして、すぐに攻撃準備を下令する。
「し、司令官。どうなさったのですか?」
ルジッキーの豹変ぶりに副官であるニコラスが怪訝そうに訊ねる。
「や、奴だ‥‥奴が現れた‥‥」
「奴?」
「忘れたのか!?かつて俺たちが所属していた艦隊を一隻で壊滅させたあの戦艦だ!!」
「ま、まさか!?奴が‥‥」
「間違いない。見てみろ」
ルジッキーはその場から一歩引き、ニコラスに潜望鏡を覗かせる。
ニコラスが恐る恐る潜望鏡を覗くとそこには忘れもしない、自分たちの次元潜航艦隊を壊滅させたあの宇宙戦艦が居た。
「っ!?」
「どうだ?間違いなく、奴だろう?」
「‥‥」
ルジッキーの問いにニコラスは無言のままブン、ブン、と首を縦に振る。
「魚雷発射管、全門装填完了!!」
「よし、奴は手ごわい。一気に勝負を仕掛けるのではなく、慎重に行くぞ。一番、二番発射用意」
「魚雷一番、二番、発射管開け!!」
「魚雷発射管、一番、二番、発射管開きます!!」
B-004はまほろばを仕留めようと着々と攻撃準備を整える。
B-004が攻撃準備を行っている最中もコスモハウンドⅡは敵の次元潜航艦を捜索している。
「よし、亜空間ソナーブイ投下準備」
新たな装備品の一つ、亜空間ソナーブイの準備を行う。
「準備完了」
副操縦席に座っている玲がレバーに手をかける。
「投下」
「投下」
加藤の指示を受けて、玲はレバーを倒す。
すると、コスモハウンドⅡの機体下部にあるハッチが開き、そこから次々と亜空間ソナーブイが投下される。
投下された亜空間ソナーブイは投下当初は細長い金属製の筒であったが、ある程度宇宙空間を漂うとパンっと丸くバルーン状のセイルが開く。
バルーン表面は小さな星の微弱光でも発電可能なソーラーセイルとなっており、燃料を消費することなく、宇宙空間を移動し半永久的に使用可能な代物であった。
各亜空間ソナーブイはそれぞれの位置を把握し合い、同じエリアに固まらないように拡散していく。
宇宙空間を漂う亜空間ソナーブイは断続的にピンガーを打ち続け、次元境界面に異常がないかを探る。
そして、そのデータを逐次コスモハウンドⅡへと送り続ける。
コスモハウンドⅡに送られたデータは、まほろばを含む第二艦隊へと転送される。
「一番から三番、異状なし‥‥」
「四番から六番、異状なし‥‥」
コスモハウンドⅡに搭乗した通信科の乗員が亜空間ソナーブイのエコーに異常がないかモニターを見つつヘッドホンの音で確認する。
「っ!?八番にて感あり!!亜空間魚雷です!!」
「位置は!?」
「まほろば左舷後方!!雷数は‥二本!!」
「まほろばに急ぎデータを転送!!」
まほろばの後方の宇宙空間が僅かに歪みだすとそこからニ本の亜空間魚雷が出現し、まほろばへと向かっていく。
「本艦左舷後方より魚雷接近!!数は‥二本!!」
コスモハウンドⅡより魚雷の情報を受けたまほろばは即座に魚雷へ対応する。
B-004から発射された亜空間魚雷に対してまほろばは左舷魚雷発射管から八本の短魚雷を放つ。
まほろばから放たれた八本の短魚雷はB-004の亜空間魚雷の至近まで接近すると、近接信管を作動させて爆風と爆炎による熱のカーテンを作るように横一線で爆発した。
この爆発により、二本中一本の亜空間魚雷は誘爆したが、もう一本は迎撃網を突破してまほろばへと肉薄して来る。
接近する亜空間魚雷に対して、改装したばかりのパルスレーザー砲塔が今度は火を噴き、迫りくる亜空間魚雷へ一斉に射撃を開始する。
左舷にぎっしりと並ぶパルスレーザー砲が迫りくる亜空間魚雷をまるでドラムを叩くかのように叩く。
迎撃するパルスレーザー砲が迫りくる亜空間魚雷の噴射部分を貫き、被弾した亜空間魚雷は狂ったかのように衝突コースから外れ、クルクルと回転しながら爆発した。
亜空間から通常の宇宙空間へ飛び出る程の高性能を誇る亜空間魚雷でも、推進ノズルや姿勢制御ノズルが集中している後部は脆く、一発でも被弾すれば制御不能に陥ってしまうのだ。
幸いにも制御不能となった亜空間魚雷はコスモハウンドⅡ、まほろば、第二艦隊の宇宙艦船に被害を与える事は無かった。
「ん?十二番にも反応アリ!!次元境界面より突出する物体を検知!!」
通信科の乗員が報告すると、玲が双眼鏡で確認する。
「見えるか?」
「‥‥見つけた!!敵次元潜航艦の潜望鏡よ!!」
「よし、このまま敵の次元潜航艦へ攻撃をするぞ!!」
コスモハウンドⅡには波動爆雷も装備されていた。
加藤は操縦桿を操作して、機首を敵の次元潜航艦が潜んでいる空間へと向かわせる。
「玲、爆雷の投下準備」
「了解!!」
玲は波動爆雷の攻撃準備を行う。
「潜望鏡まで五、四、三、二、一、今!!」
加藤が機体を次元潜航艦が潜っている空間付近まで近づけ、爆雷を投下するタイミングを
玲は爆雷が装備されたレバーをグッと握る。
「投下!!」
玲はレバーを勢いよく引くと、コスモハウンドⅡから波動爆雷が投下される。
着弾した瞬間、大きな爆発が周囲を包み込む。
一方、爆雷攻撃を受けたB-004の方は‥‥
親ボラー連邦系ベロラージュ所属 次元襲撃艦隊 旗艦 B-004 司令塔
「ぐあっ!!」
「うわっ!!」
波動爆雷の爆発で船体が大きく揺れる。
「潜望鏡破損!!」
「右舷前部に敵の爆雷が命中!!」
「応急修理急げ!!」
(た、例え被弾したとしてもまだ航行可能だ)
(こちらは異次元の中だ。そう簡単にやられはしないぞ!!)
(潜望鏡は港に戻った時に修理すればいい‥‥)
ルジッキーはこのまま異次元の底に深く潜れば、逃げきれると思っていた。
しかし‥‥
SS伊500 司令塔
「敵艦に着弾を確認」
「敵の次元潜航艦が速力を上げました。このまま深く潜るようです。このまま音を辿っていきます」
「よし、こちらは有効射程に入るまで最大船速」
「了解」
「魚雷発射準備!!」
ボラー派の次元潜航艦隊の他にもこの周辺の異次元には防衛軍の次元潜航艦も潜んでいた。
SS伊500はB-004を完全に捕捉していた。
「魚雷発射準備完了」
「全部当てるわよ!!‥‥発射!!」
B-004目掛けてSS伊500から亜空間魚雷が放たれる。
親ボラー連邦系ベロラージュ所属 次元襲撃艦隊 旗艦 B-004 司令塔
「っ!?本艦に向けて魚雷接近!!数六つ!!」
「魚雷だと!?」
「い、一体どこから来たんだ!?」
「か、回避だ!!艦首反転九十度!!」
「もう間に合いません!!」
「アップトリム最大!!深度を上げろ!!」
「魚雷接近!!あと五十‥‥四十‥‥三十‥‥二十‥‥十‥‥」
SS伊500が放った六本の亜空間魚雷の内、二本がB-004の右舷船体中央部に当たる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁー!!」
船体に開いた破孔から異次元に吸い出されるB-004の乗員も居た。
ジリリリリ‥‥!!
艦内にはけたたましい警報音が鳴り響く。
「シアンガス発生!!」
「艦内各部で異常発生!!もう持ちません!!」
「被弾したブロックの隔壁を閉鎖しろ!!」
「第二波来ます!!数四つ!!」
「取舵一杯!!」
B-004が取舵を切る前にSS伊500が放った四本の亜空間魚雷、今度はB-004の右舷後部に四本命中し、B-004は異次元の海の中で爆沈した。
SS伊500 司令塔
「艦体の爆発を確認。撃沈と認める」
「ふぅ~‥‥」
敵次元潜航艦の撃沈が確認され、九鬼は一息つく。
「この艦の初スコアですね」
「そうね‥でも、敵はまだ潜んでいるわ。油断しない様に」
「はい」
初戦で敵の次元潜航艦隊旗艦を撃沈する好スタートをきったアルファ星第二艦隊であるが、敵はまだまだ次元潜航艦を有している。
第二艦隊の戦いはまだまだ続く。
旗艦であるB-004の撃沈はボラー派の次元潜航艦隊に衝撃と動揺を与えるには充分であった。
親ボラー連邦系ベロラージュ所属 次元襲撃艦隊 KU-001
「た、大変です!!旗艦、B-004が撃沈された模様です!!」
「な、なに!?原因は!?」
「敵哨戒機に発見されたもようです!!」
この時、ボラー派の次元潜航艦隊はB-004にとどめをさしたのが、地球の次元潜航艦ではなく、コスモハウンドⅡの爆雷攻撃だと思っていた。
「ど、どうしますか?」
「ん?『どうします』とは?」
「い、いえ、旗艦が撃沈されたのですから、撤退も視野に入れるべきかと‥‥」
「何を言う。撤退などあるまじき行為だ。死にかけの艦隊がのこのこと出て来たのだ。旗艦の敵討ちを含めて今度こそ、我々が引導を渡してやるのだ」
と、旗艦が撃沈されたのは艦隊に動揺を与えるも彼らはすぐに態勢を整え、撤退することなく、第二艦隊へ再び牙をむけようとしていた。
「全魚雷発射管に亜空間魚雷を装填」
「ベント開け、深度二十」
「取舵二十」
「機関微速前進」
「発射管扉開け。戦艦クラスに三本ずつ当ててやれ」
「ゆっくりと回頭しろ」
KU-001は亜空間ソナーとコスモハウンドⅡを警戒してゆっくりと攻撃準備を整える。
「戻せ」
「諸元入力完了」
あとは亜空間魚雷を打つだけとなり、
「よし、もらったぞ」
KU-001の艦長はこの雷撃で再び自分の艦に新たなスコアが加わると確信していた。
しかし、
「っ!?高速飛来物、右舷より接近!!距離は‥‥きわめて至近です!!」
「なに!?」
「あ、当たる‥‥!!」
聴音手がそう言い放った瞬間、KU-001の後部に亜空間魚雷が命中した。
KU-001もB-004同様、異次元の空間で爆沈した。
SS伊500 司令塔
「爆発を確認。撃沈と認」
「水雷長、ただいまの水雷見事!!」
KU-001の撃沈したのはこれまたB-004を撃沈したSS伊500であった。
「聴音より、艦長へ」
聴音手が何かの音源を捉えたのか九鬼に報告をいれる。
「ん?どうしたの?」
「ト三号に反応があります」
「方位は?」
「二十五度方向、深度五十」
「敵にとって第二艦隊はよほどうまい獲物の様ね。異次元のサメがウヨウヨと集まってくる」
「はっ、月村艦長の予測通りですね」
「そうね。さて、もう一匹、サメ退治と行くわよ」
「了解」
「艦首回頭、左二百四十五度、機関再微速。トリム上げ」
「ヨーソロー。回頭左二百四十五」
「機関再微速」
アルファ星近海の異次元にはマイクのヘッドの様な形をしたブイがいくつも浮遊していた。
これは事前に防衛軍の次元潜航艦が自分たちの耳となる亜空間集音ブイであり、その亜空間集音ブイがアルファ星近海の異次元空間のあちこちに設置されていた。
この亜空間集音ブイこそ、良馬が真田に頼み、用意してもらった切り札であった。
そして、この亜空間集音ブイによってボラー派の次元潜航艦の動きは逐一捕捉されていた。
「ト四号に反応アリ。距離六千」
「ト七号に反応アリ。敵速七、深度四十」
「ト七号の位置は伊501に対処を‥ト四号の位置は伊502に対処してもらって」
「了解」
「新たな音源を確認。ト五号に反応。極めて至近!!距離三千!!」
「攻撃、雷数二、魚雷撃て!!」
SS伊500の近くに無音潜航していたボラー派の次元潜航艦が動き出した様で、SS伊500は即座に魚雷を放ち、コレを撃沈した。
この十日間、防衛軍の次元潜航艦隊は異次元空間に亜空間集音ブイを設置する以外に、フレンドリーファイアを防ぐために僚艦の次元ヴァルター機関の音源や反応を充分に確認していた。
まほろば 艦橋
「亜空間ソナーに反応。艦体の爆発反応です」
「異次元の中ではサメ退治が忙しいようですね」
「ああ。真田に用意してもらったモノも充分に役立っている様でなによりだ」
就役したばかりで、乗員の熟練度や真田に用意してもらった亜空間集音ブイの性能に対して不安があったものの、この戦果を見る限り杞憂だったようだ。
(今回は亜空間集音ブイの性能が次元潜航艦の手助けになったが、この先、ボラーやボラー派もこの亜空間集音ブイの存在に気づくかもしれない‥‥)
(もし、ボラー側も亜空間集音ブイを開発し、亜空間に設置されれば次に狩られるのは此方かもしれない‥‥)
(そうなれば、次元潜航艦には大きな被害を出す事になるな‥‥)
良馬はいずれボラー側も今回、自分たちが取ったように異次元空間に亜空間集音ブイを設置する戦術をとってくるのではないかと懸念した。
(次元潜航艦はまだ開発途上だと真田さんは言っていた‥‥)
(ならば、もっと静粛性があるエンジンを作れば、集音ブイでも探知しにくくなるかもしれない‥‥)
(いずれにせよ、今回の戦闘データも司令部や科学技術省へ送られるだろうから今後の次元潜航艦の開発に期待するしかないか‥‥)
「次元境界面より浮上する物体を確認!!」
「戦闘用意!!」
周辺の宙域には味方の次元潜航艦が存在しているが、同時に敵の次元潜航艦も存在している。
浮上してくる次元潜航艦が味方の艦とは限らない。
警戒の中、通常空間に浮上して来たのは防衛軍の次元潜航艦、SS伊500であった。
その他にも僚艦であるSS伊500級の次元潜航艦が次々と通常空間に浮上してきた。
「SS伊500より通信が入っています」
「よし、繋いでくれ」
「はい」
まほろばの艦橋にあるモニターにSS伊500の艦長である九鬼の姿が映し出される。
良馬と九鬼は互いに敬礼をして、
『ラップ司令官、月村艦長。この周辺に展開していたであろうボラー派の次元潜航艦隊は全て沈めました』
次元潜航艦と亜空間集音ブイのおかげでアルファ星近海へ進出していたボラー派の次元潜航艦隊はどうやら殲滅出来た様だ。
『そうか‥しかし、まだ潜んでいる艦が居ないとも言い切れない。当分の間は次元潜航艦隊には異次元を含め、警戒態勢を維持してくれ』
『了解です』
僚艦がやられていく中、無音潜航で潜んでいるボラー派の次元潜航艦が居ないとも言い切れない。
逃げるのであるならば、反撃を受けるリスクを追ってまで追撃の必要があるのか判断に困るが、無音潜航で潜んでいる敵の次元潜航艦の存在が完全に確認できないまでは当分の間、アルファ星近海の警戒は続けられる事になった。
地球 メガロポリス東京 防衛軍司令部
「長官、ただいまケンタウロス座アルファ星基地より通信が入りました」
「うむ。内容は?」
「はっ、アルファ星所属の第二艦隊と次元潜航艦隊が合同でアルファ星近海において、作戦を展開。ボラー派の次元潜航艦隊をほぼ殲滅したもようです」
「そうか‥‥」
「これで、アルファ星近海の平穏が保たれましたな」
藤堂に西郷が声をかける。
「そうだな。しかしこの平穏はあくまでも一時的なモノだろう」
バジウド星系からボラー派が一掃された訳ではない。
今後もボラー派が次元潜航艦を続々と建造し、アルファ星‥そして太陽系内へ侵攻して来る可能性がある。
ラップはそれを警戒し、アルファ星近海の異次元に亜空間集音ブイを引き続き設置して、次元潜航艦の哨戒を指示したのだ。
「しかし、初めての実戦投入でしたが此処までの戦果を出すとは‥‥今後の防衛軍の大きな力になる事が証明されましたな」
報告にあがった次元潜航艦の戦果は防衛軍側としても今後の次元潜航艦の運用、そして開発には期待するところであった。
(真田君経由から、月村艦長の進言‥輸送艦型の次元潜航艦の案‥‥)
(確かに今後の防衛軍には必要な艦なのかもしれないな‥‥)
バジウド星系の治安がまだ乱れ、今回の様に最前線が孤立した場合、物資の輸送や民間人の避難に関して、通常空間を航行する宇宙艦船よりも異次元を航行する次元潜航艦の方が襲撃を受ける可能性は低いので、前線に物資を確実に届けることが出来、民間人も安全に避難させる事も出来る。
そういった面を考えると、次元潜航輸送艦の必要性が見えて来る。
しかし、真田が言うように異次元は防衛軍にとっては、まだまだ未知の空間であり、潜航中に事故が起きない様に完璧な代物を建造しなければならない。
防衛軍にとってはまたもや新たな課題が生まれた事態であった。
バジウド星系 ボラー連邦系 ベロラージュ 大統領官邸
「な、なに!?壊滅だと!?」
アルファ星近海へ進出したボラー派の次元潜航艦隊の母星であるベロラージュにある大統領官邸では、自軍の次元潜航艦隊壊滅の報が入ったのは、アルファ星近海で防衛軍によるボラー派次元潜航艦隊殲滅作戦が実施されてから五日経ってからだった。
「本当に我が次元潜航艦隊が壊滅したと言うのか!?何かの間違いではないのか!?」
ベロラージュ大統領のルカジェーコフは舞い込んだ知らせに驚愕した。
「は、はい。間違いないかと‥‥B-004以下の艦艇からの定時通信がまったく入りませんから‥‥」
「くっ、辺境の‥ガルマンに尻尾を振る蛮族共が‥‥」
ルカジェーコフは次元潜航艦隊を壊滅させた地球に対して憎悪を滾らせるのであった。