星の海へ   作:ステルス兄貴

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二百三話 士官学校殺人事件

 

 

此処で視点は地球・バジウド星系からミッドチルダへと移り、時系列はフェイトとチンクが士官学校に在学している頃へと巻き戻す。

 

ミッドチルダ 東部 時空管理局・士官学校

 

『起床!!起床!!起床!!』

 

管理局の未来のエリートを育成する士官学校も訓練校同様、寮での集団生活が前提となる。

 

午前六時に起床、ベッドから飛び降りて洗面、制服に着替えて晴天ならば校庭で、雨天ならば講堂にて朝礼。

 

その後、朝食の後に午前の講義が始まる。

 

十二時~十三時は昼食と昼休憩。

 

十三時半から十五時まで午後の講義。

 

その後は部活動・サークル活動に勤しむ者、図書館・シミュレーションルームで自習する者、夕食まで寮の自室で休む者、自習する者と様々な行動をする。

 

十七時~十九時までが夕食の時間となる。

 

入浴に関しては寮の自室に小さいながらもバスルームがあるが、大浴場も完備されている。

 

しかし、学年ごとに入る時間帯は決められているので、大浴場を利用する学生は自分の学年の利用時間に利用しなければならない。

 

そんな士官学校では通常の学校の様にテストが一年に何度かある。

 

そして、今日は前回行われたテストの結果発表があり、学年ごとの掲示板にテストの順位が発表される。

 

掲示板の前には沢山の学生たちが集まっておりテスト結果が発表されるのを待っている。

 

訓練校においてもこの形式は同じであり、かつてティアナはスバルと共に初めての試験において、総合三位の好成績を叩き出すが、同期生からは陰口を叩かれた事もあった。

 

やがて、時間になり電光掲示板にはテスト結果が表示される。

 

フェイト、チンクが在籍中の学年は‥‥

 

一位 メアリー・スー 500/500

 

二位 フェイト・テスタロッサ・ハラオウン 499/500

 

三位 チンク・ナカジマ 497/500

 

と、フェイトは次席、チンクは三席と成績上位者となっていた。

 

「あらあら、あのハラオウン家の人がまさか、一点差で次席なんてね」

 

フェイトとチンクが掲示板を見ていると、主席のメアリーが嫌味ったらしい口調でフェイトに話しかけて来た。

 

「まぁ、人なんだし、ミスくらいはあるんじゃない?」

 

「ミスくらい?私たちが将来就く仕事にはミスは決して許されないの‥執務官でありながらそんな事も分からないのかしら?」

 

「私たちは学生の内なんだし、その間のミスなら良いんじゃない?貴女の言い分だと私だけでなく、他の大勢の学生も当てはまる事になるよ。それこそ、上の学年の先輩もね」

 

「ふん、負け犬の遠吠えね。せいぜい、仕事について大きなミスをするのだけは止めてよね。貴女が私の同期だと思われると、私もそんな目で見られるから」

 

フェイトからの返しに若干顔を引き攣らせるも、メアリーは最後までフェイトを見下す姿勢は崩さずにその場から去っていく。

 

「何なんだ?アイツは?」

 

そんな二人のやり取りを見つつ、チンクはフェイトに訊ねる。

 

「なんか、シミュレーションバトルの後から妙に絡んでくるようになったんだよね。あの子‥‥」

 

「ああ、あの時のか‥‥」

 

フェイトのシミュレーションバトルと言う単語で、チンクは思い出したかのように呟く。

 

「なんだ、あいつの方こそ負け犬ではないか」

 

「本人はそう思っていないみたい」

 

「でも、あれからアイツはフェイトとのバトルを拒んでいるのだろう?」

 

「うん。何か教官にも色々と言って対戦相手を変えてもらっているみたい」

 

「ならば、奴こそ尻尾を巻いて逃げている負け犬ではないか」

 

チンクはメアリーの言動に呆れた様子で呟く。

 

「それよりもチンクが三位なのは意外だったな‥‥」

 

フェイト自身もメアリーについては全く興味も相手にもしていないのか、話題を変える。

 

「ん?それは私がもっと順位が下であると思ったのか?」

 

「ううん。てっきり一位かと思ったから」

 

「何故そう思う?」

 

「だって以前、自室で、『講義は要点を記憶して、それを応用すればいい』 『教官の説明振りや講義中の顔つきに気を付けていると、出しそうな試験問題をほぼ推定することが出来る』って言っていたじゃない?」

 

「ああ、確かに‥でも、首席だと何かと目立つ‥‥私は過去に色々とあるし、それに出自がな‥‥」

 

「‥‥」

 

「だからこそ、怪しまれずに適当な問題をわざと間違えておいた。しかし、フェイトとあの負け犬の様子を見る限り、今回はそれでよかったと思っている」

 

「えぇぇーそうなの!?そんなの構わずに満点を取ってよ!!そっちのほうがナカジマ三佐もきっと喜ぶって!!」

 

フェイトとしてはメアリーからのウザ絡みの標的をチンクへ移したかった。

 

「いや、先ほどのフェイトとあの負け犬の様子を見たら、私の判断が間違っていなかった事が証明された。もしも、テストで満点何てとれば、あの負け犬がウザ絡みをして来るのは目に見えるからな」

 

「うぅぅ~‥‥」

 

チンクはあくまでもあまり目立たないスタンスを貫くつもりであり、そんなチンクをフェイトは恨めしいジト目で睨みつけた。

 

テストは全学年が同日に行われたので、結果発表も同じ日に行われたので、フェイトたちよりも上の学年のテスト結果も別の場所で発表されていた。

 

「どうなるかな?」

 

「今回は俺も結構頑張ったから、上がっていると思うけどな」

 

一位 マスミ・ウィンザード 489/500

 

二位 アナキン・ナナバルク 475/500

 

三位 ネロ・カートライト 469/500

 

順位と点数が表示され、学生たちが群がり、自分の順位と点数を確認している。

 

「やった!!上がったぞ!!」

 

「くそっ、前回よりも下がっている‥‥」

 

と、テストの順位を見て喜ぶ者が居れば、落ち込む者も居る。

 

そんな中、

 

「やれやれ、一位~三位までは相変わらず変動なしか‥‥これじゃあまるで指定席だぜ」

 

一位から三位までの名前を見て呟く一人の男子生徒が居た。

 

「指定席か‥‥こりゃあ、卒業するまで万年三位だな」

 

三位であるネロ・カートライトがやや諦めモードの様に呟く。

 

しかし、三位でも充分に誇れる成績である。

 

「親が嘆くか?」

 

「ああ、親父や祖父がな‥‥期待をかけてくれるのは良いが、それがプレッシャーになっていてな‥‥」

 

「そう言うお前は何位だったんだ?ハイネ」

 

二位のアナキン・ナナバルクが最初に一位から三位の生徒の名前を見て呟いた男子生徒、ハイネ・クラウンに訊ねる。

 

彼、ハイネ・クラウンは以前、St.ヒルデ魔法学院に復学したヴィヴィオに対して、復学初日に絡んで来たカテジナ・クラウンの兄であった。

 

「三十七番、前回よりも五位落としちまった」

 

「さしずめ自由席って所か?」

 

ネロが先ほど、ハイネが言った『指定席』にあやかって彼の成績をそう呼んだ。

 

「俺も指定席が欲しいよ。三位でいいからさ‥あっ、マスミ!!首位は狙わないから安心してくれ!!」

 

ハイネが声をかけた先には眼鏡をかけた気の弱そうな男子生徒が居た。

 

「‥‥」

 

彼は何も言わずにその場から去っていく。

 

「なんだ?アイツ。相変わらず無愛想な奴だ」

 

「普段から人付き合いの少ない奴だしな」

 

アナキンとネロは首席であるマスミに対して不機嫌そうに言い放つ。

 

「いや、あれで悪い奴じゃあ、ないんだけどね」

 

そんな二人とは対照的にハイネはマスミを弁護する。

 

「それよりも成績を飛躍的に上げる方法は何かないか?優等生諸君」

 

ハイネが話題をマスミから成績について訊ねる。

 

「そんな方法があったら、俺が知りたいよ。俺たちも今年で卒業だ。俺だって在学中は一度で良いから首席になりたいんだ!!」

 

「俺も‥‥」

 

「上には上なりの悩みもあるって事か」

 

やはり、アナキンもネロも首席になりたかったようだ。

 

テスト結果の発表が終わり、普段通り授業の時間となる。

 

それから時間が経ち、夕食の時間となる。

 

夕食が乗ったトレイを持ち席に着くフェイトとチンク。

 

「士官学校に来て思ったのだが‥‥」

 

「ん?」

 

チンクがトレイの上に夕食を見ながら呟く。

 

「なんか、食事の質が貧しく感じる」

 

トレイの上に乗っているのは、ライ麦パン、ソーセージ、チーズ、野菜スープ、蒸かしたジャガイモが皿の上に雑然と並んでいる。

 

「ああ、私もそう思った。何日も次元の海で航海をする時の次元航行艦の食事に似ているんだよね」

 

フェイト、なのは、はやては三ヶ月と言う短期間であったが、管理局員になるために管理局の訓練校に通っていた。

 

当時の訓練校で出された食事と比べると、士官学校の食事は何だか貧しく思えてしまう。

 

「もしかして、学生時代から質素な食生活に慣れろと言う事なのか?」

 

「うーん、流石にそんな事は無いと思うけど‥‥今の艦は随分と艦内の食事事情も改善されたって聞いているし‥‥それに士官学校の卒業生全員が“海”に行くとは限らないしね」

 

「それならば、何故士官学校の食事事情も改善しないのか?‥‥ノーヴェやスバルだったら、今頃食堂で暴れていたぞ」

 

「あぁ~確かにありえそう‥‥」

 

ノーヴェはよく知らないが、スバルが沢山食べるのは六課時代に食堂で何度も見ている。

 

そんなスバルが士官学校の食事に満足するかと問われれば、きっと満足なんて出来ない。

 

「エリオもきっと、表立って不満や愚痴は言わないだろうけど、きっとひもじい思いをしただろうな‥‥」

 

自身が後見人を務めているエリオもスバル同様、沢山食べる子だったので、スバルやエリオは士官学校の食生活に不満を抱く姿が思い浮かぶ。

 

自分以外にもスバルとエリオも管理局員になるために管理局の訓練校は卒業していたので、そう思うと訓練校や機動六課での食事事情がいかに恵まれていたのか改めて思い知らされる。

 

そして、スバルが現在所属する特別救助隊、エリオが所属している自然保護部隊でも食事事情は良いのだろう。

 

スバルとエリオが訓練校を卒業出来たのは、管理局員になりたいと言う思いのほかに、訓練校の食事事情が良かったのも関係しているのだろう。

 

しかし、此処でいくら愚痴っても食事事情が改善される訳ではない。

 

今の自分たちが出来る事は、目の前の食事を食べて、明日の講義や演習に備える事だ。

 

一方、別の席ではチンクと同じ思いを抱く学生が居た。

 

とある席にて、三年生の首席であるマスミが黙々と夕食を食べている中、

 

「空いているかい?」

 

ハイネがマスミの隣の席が空いているかを訊ねてくる。

 

「う、うん。空いているよ」

 

「それじゃあ‥‥」

 

席が開いていると言う事で、ハイネはマスミの隣に座る。

 

「それにしても、寮の食事は貧しいよな。予算だって貰っている筈なのに‥‥」

 

ハイネはトレイの上に乗っている夕食に愚痴る。

 

士官学校は主に“海”が運営費を出している。

 

なので、運営費に関しては問題がない筈だ。

 

それにもかかわらず、寮の食事は訓練校よりも下‥‥

 

「う、噂だけど‥‥」

 

「ん?」

 

ハイネの愚痴を聞いて、マスミが小声で語りだす。

 

「じ、実は寮の厨房関係者が物資を横流ししているって‥‥」

 

「えっ?本当か!?」

 

「あ、あくまで噂だからね。証拠もないし‥‥」

 

マスミはたどたどしく『噂』であることを強調する。

 

「‥‥」

 

しかし、マスミの言葉は既にハイネの耳に入っていないのか、トレイの上の夕食をジッと見つめていた。

 

(もし、本当に寮の関係者が物資を横流ししていたら‥‥)

 

(その証拠を押さえることが出来たら‥‥)

 

(任官まえに犯罪の摘発を協力したとして、箔が付くな)

 

(今回のテストは順位を落としちまったしな‥‥)

 

(此処でテストの成績以上の実績があれば‥‥)

 

テストの成績が前回よりも下回ってしまった事で、この事実が実家にバレたら両親からの説教が飛んでくるかもしれない。

 

ならば、テストの成績を覆す程の実績があれば、両親からの説教を回避することが出来るかもしれない。

 

「あ、あれ?おーい‥‥」

 

ハイネのすぐそばでは、マスミが声をかけるが、ハイネは一切答えない。

 

「そ、それじゃあ、ボクはもう食べ終わったからいくね」

 

考え込むハイネを尻目にマスミは席を立った。

 

 

その日の深夜‥‥

 

寮の部屋は全て寝静まり、周囲は夜の暗闇が支配している中、一人の生徒が懐中電灯片手に部屋を抜け出して、士官学校の敷地内のとある場所へと向かっていた。

 

夜の敷地内を走っていたのは、今日の夕食でマスミから寮の関係者が不正をしているかもしれないと聞きつけたハイネだった。

 

ハイネは巡回中の教官に気を付けながら、敷地内の隅になる倉庫区画へとやって来た。

 

そして、通風口の網を外して、食糧原料庫の中に忍び込む。

 

もしも寮の関係者が噂通り、物資を横流しして、寮の食事事情が貧しいのであるならば、横流しされている物質は食糧の原材料だと睨んだのだ。

 

物資を横流しするなら、生徒の目が届かない深夜帯に行う筈だ。

 

そう思い、ハイネは教官の目を盗んでこうして食糧原料庫までやってきたのだ。

 

例え、今日寮の関係者が横流しをしていなくても何かしらの物証があるかもしれない。

 

それを教官か校長に報告すれば、自分は犯罪を見抜いた功労者であり、寮の食事事情も改善されると言う打算が彼にはあった。

 

倉庫内に忍び込む、懐中電灯の明かりを点けるハイネ。

 

一応、倉庫内にも照明が設置されているが、明かりが点けば巡回中の教官が来てしまうので、懐中電灯の明かりで物資の横流しの形跡を探すハイネ。

 

そんな時、

 

ドスッ!!

 

「ひぃっ!!」

 

ハイネは頭部に強い衝撃と激痛を受けた。

 

それと同時に彼は意識が遠のいていった‥‥

 

 

翌朝‥‥

 

「あれ?ハイネの奴、トイレか?」

 

ハイネと同じ部屋の同期生が、ハイネのベッドが空になっている事に気づく。

 

士官学校の三年生となると、起床放送前に自然と目を覚ますのも不思議ではない。

 

同じ部屋の同期のベッドが空になっていたが、当初はトイレかと思い寝間着から制服へと着替える。

 

しかし、いくら待っても同室の同期はいつまで待っても戻ってこない。

 

「おせぇな、ハイネの奴‥‥もうすぐ起床放送が流れるって時に‥‥」

 

部屋の外へ出て確認してみると、自分同様早起きした同期生たちがちらほらと部屋から出ていた。

 

「なぁ、ハイネの奴知らねぇか?」

 

「ん?」

 

「ハイネ?」

 

「いや、知らねぇ」

 

「ハイネがどうかしたのか?」

 

「俺が起きた時、部屋に居なかったんだよ。もうすぐ起床放送が流れるって時間なのに部屋にも戻って来ねぇし、今までこんな事は無かったのに‥‥」

 

「捜しに行くか?」

 

「そうだな」

 

起きていた同期生たちは士官学校の敷地内へハイネを捜しまわる。

 

「おーい!!ハイネ!!」

 

「ハイネ!!」

 

「どこだ!?」

 

トイレ、風呂場、食堂などの寮の施設内は勿論、教室、講堂、体育館、演習場、部活塔などの校舎内の施設も捜すが、ハイネの姿は見えない。

 

「此処にも居ないか‥‥」

 

「ったく、ハイネの奴、夜中に寮を抜け出すなんて何を考えているんだ?」

 

「あと捜していないのは‥‥」

 

「職員寮と倉庫区画ぐらいか?」

 

「流石に職員寮には居ねぇだろう」

 

「だよな~」

 

「となると‥‥」

 

「倉庫区画か‥‥」

 

「そんなところに居るのか?」

 

「分からないが、行ってみよう」

 

職員寮と倉庫区画、学生であるハイネが居るとしたら、倉庫区画の方であるが、その倉庫区画にも居るとは思えないが、このまま彼が見つからなければクラスは連帯責任として何かしらのペナルティを課せられる可能性が高い。

 

そしていざ、倉庫区画へとやって来るも、倉庫の出入口には全て鍵がかけられている。

 

「鍵がかかっているし、中には居ないんじゃないか?」

 

「うーんとなるとハイネの奴は一体何処に‥‥?」

 

「校内を捜しても無駄じゃないのか?大方、夜遊びをしに出て行って戻り損ねたのがオチだろう」

 

これだけ捜しても見つからないのだから、ハイネは夜間、士官学校の敷地外へ遊びに出てまだ戻っていないのではないかと思う同期生も居た。

 

「あいつがそんな評価が下がるような軽率な真似をすると思うか?あれで結構成績を気にする奴なんだぞ」

 

しかし、ハイネの普段の性格を知る同期生は夜遊びの可能性を否定する。

 

「でも、どこにも居ないし‥‥」

 

倉庫には鍵がかかっていたので、倉庫内に忍び込んだとは思えず、当然職員寮に言えるとは思えない。

 

部屋に入れ違いにならない様にハイネの部屋にも同期生の一人が待機しているのだが、その待機している同期生からもハイネが戻って来たと言う連絡は未だに無い。

 

「外に出て捜す訳にもいかないし‥‥」

 

仮にハイネが士官学校の敷地外に出ていたとしても自分たちが彼を捜しに敷地外へ出る訳にはいかない。

 

倉庫前でハイネがどこに居るのか?

 

自分たちは何処を捜せばいいのか?

 

いや、朝礼の時間もおしているので、もう時間をかけて捜す事も難しい。

 

学生たちがどうしたものかと悩んでいると、

 

「おや?朝早くからどうしたんだい?」

 

学生たちはいきなり声をかけられた。

 

「えっ?」

 

「ああ、用務員さん」

 

学生たちに声をかけたのは士官学校の用務員だった。

 

「実は‥‥」

 

朝礼の時間も迫っているので、もう自分たち学生のみでハイネを捜すのを諦めて用務員にも協力してもらおうと、学生の一人が用務員に訳を話した。

 

「そうか‥‥しかし、君たちが捜している様な学生は見なかったな」

 

「そうですか‥‥」

 

用務員も此処に来るまでの道すがら、ハイネの姿は見ていないらしい。

 

「すまないね。力になれなくて‥‥」

 

「いえ、用務員さんは悪くありません」

 

「そうですよ。悪いのは寮を抜け出したハイネの奴ですから」

 

「用務員さんはどうして此処に?」

 

「昨日、厨房の人から材料が足りなくなっている連絡を受けてね。だからそれを取りに来たのさ」

 

「そ、そうですか‥‥」

 

「それじゃあ」

 

「え、ええ‥‥」

 

「はい‥‥」

 

その後、用務員は台車を押しながら倉庫の出入り口を開けて倉庫の中へと台車を押しながら入って行く。

 

そんな用務員を見送り、

 

「くそっ、ハイネの奴のせいで俺たちのクラス全員ペナルティ決定かよ」

 

「ハイネの奴、帰ってきたらただじゃおかねぇぞ」

 

「ああ、一発入れなきゃ気が済まねぇ」

 

もうハイネが見つからないと決まったのかペナルティ決定なのかと諦めモードの学生たち。

 

諦めて寮に帰ろうとしたその時、

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁー!!」

 

『っ!?』

 

先ほど、用務員が入って行った倉庫の中からその用務員の叫び声がした。

 

「な、なんだ?」

 

「用務員さんの声だ」

 

「何かあったのか!?」

 

「行ってみよう!!」

 

倉庫前に居た学生たちは倉庫の中に入って行く。

 

「あわわわわ‥‥」

 

すると、倉庫内の一角で用務員が腰を抜かしていた。

 

「用務員さん!!」

 

「どうしたんですか!?」

 

「大丈夫ですか!?」

 

学生たちが腰を抜かしている用務員に近づく。

 

「あっ、あっ、あわわわわ‥‥」

 

用務員は震える指で倉庫内のある箇所を指さす。

 

「ん?」

 

「えっ?」

 

「‥‥」

 

学生たちも目を凝らして用務員が指をさしている箇所を見る。

 

そして‥‥

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁー!!』

 

用務員同様、悲鳴をあげた。

 

「お、おい、誰か教官を呼んで来い」

 

「お、おう」

 

一人の学生が震える声で教官を此処へ呼ぶように言うと、足元がフラフラとなりながらも別の学生が教官を呼びに行った。

 

『起床!!起床!!起床!!』

 

そうこうしているうちに起床放送が流れ、その放送を聞いて起きた学生たちは寝間着から急いで制服に着替えて朝礼の準備をする学生たち。

 

そんな中、

 

『本日の朝礼は急遽中止とする。朝食を始めとする食事は時間通り食堂で行うが授業に関して、本日は臨時休講とする』

 

と、いきなりの朝礼と授業の休講放送が寮に流れる。

 

「休講?」

 

「どう言う事だ?」

 

突然の休講に困惑する学生たち。

 

「フェイト‥‥」

 

「うん、何かあったのは間違いなさそうだね」

 

周囲の学生たちが休講を知らせる放送を聞き困惑している中、フェイトとチンクは冷静に何か異常事態が起きたのだと察した。

 

フェイトとチンクの予想通り、士官学校の敷地内の一角にある倉庫区画では、複数の教官が集まって深刻そうな表情でひそひそと話をしていた。

 

「大変な事になりましたぞ」

 

「どうする?」

 

「どうすると言われても‥‥」

 

「此処はやはり、本局に連絡を入れた方が‥‥」

 

「しかし、そうなると我々の管理責任が問われる事に‥‥」

 

「だが、隠蔽しようにも事が事だけに無理ではないか?」

 

挙動不審な教官たちの前に、

 

ジャリ‥‥

 

新たな人物がやって来た。

 

「あっ、校長!!」

 

「校長!!」

 

「何事だ?この騒ぎは一体なんだ?」

 

新たにやって来た人物‥‥

 

それはこの士官学校の校長、ミハイル・サザーランドだった。

 

「じ、実は何か事件があったみたいで‥‥」

 

教官の一人がミハイルにこの騒ぎの原因を話す。

 

しかし、この教官も何があったのか詳しくは知らない様だ。

 

「何!?それは本当か!?」

 

「は、はい‥‥現場はこの倉庫の中の様です」

 

「うむ‥‥」

 

教官に促され、ミハイルは倉庫の中を進んで行く。

 

すると、倉庫内の一角に用務員、数名の学生と教官が居た。

 

「どうした?何があった?」

 

ミハイルは改めてその場に居る者たちにこの騒ぎを訊ねる。

 

そして、ミハイルの眼前にはうつ伏せで倒れ、頭部から血を流しているハイネの姿があった。

 

最初に用務員が悲鳴をあげたのは、ハイネの死体を見つけたからで、後に学生たちも悲鳴をあげ、狼狽えていたのも同様の理由だ。

 

「三年生のハイネ・クラウンです。今朝、寮の自室に姿が見えないので、学生たちが捜していたところ、用務員の彼が、此処でこのような姿で死んでいるのを見つけ、悲鳴をあげた所、学生たちもかけつけたそうです」

 

「事故か?それとも自殺か?」

 

ミハイルはハイネの死因について訊ねる。

 

「この倉庫は外から鍵がかけられていました。それは用務員も学生たちにも確認済みです。また現場は何も手をつけておりません。つまり、彼に致命傷を与える凶器がどこにも見つかりません」

 

倉庫の鍵を開けて倉庫内に入った用務員、そして用務員が鍵を開ける場面を学生たちがしっかりと見た事から現場の倉庫には鍵がかけられていた事は間違いなかった。

 

更にハイネの死体の傍には懐中電灯が一つ落ちているだけでその他にはなにも落ちていない。

 

その懐中電灯にも殴ったような変形箇所もハイネの血痕もついていないので、懐中電灯が凶器の可能性は極めて低い。

 

「つまり、これは密室殺人であり、現場から凶器が持ち去られているのが殺人の何よりの証拠であると貴官はそう言うのだな?」

 

「そうとしか考えられません」

 

「殺人‥‥」

 

「一体誰が‥‥」

 

教官からこれは密室殺人だと言われ、狼狽える学生たち。

 

この学校内の誰かがハイネを殺したかもしれない事で動揺している。

 

「いかがなさいますか?校長。“陸”の部隊は兎も角、本局へは一報を入れた方が良いのではないでしょうか?」

 

「このような不祥事を公表せよと言うのか!?君は!?」

 

「い、いえ‥‥ですが‥‥事が事なだけに隠し通すのは不可能かと‥‥」

 

「むっ‥‥兎に角、学生たちを寮に戻せ!!それと全教官を緊急招集だ!!急げ!!」

 

「は、はい!!」

 

「それと君たち‥この件については捜査が始まるまで他言無用とする。いいな?」

 

『は、はい』

 

『分かりました‥‥』

 

物資を横流しならば兎も角、殺人事件となるとそう簡単に隠蔽は出来ない。

 

ましてや被害者が職員ではなく、学生となると家族も居るので、隠し通せない。

 

ミハイルはこの事件についてどう対処すべきか教官たちと話し合うために教官らを集めるように指示を出し、ハイネの死体を見た学生たちに対しては緘口令を敷いた。

 

 

士官学校 会議室

 

「ま、まさか殺人事件とは‥‥」

 

「士官学校設立以来の大事件ですぞ」

 

「それで、事件の捜査は?」

 

「被害者家族には何と‥‥?」

 

会議室では教官たちが今回の事件を聞き、様々な意見を出し合うも決定打を打ち出せない状況となっている。

 

「校長、此処はやはり本局に連絡を入れて、執務官の派遣を要請すべきかと‥‥」

 

「‥‥」

 

今回起きた事件は殺人事件なので、捜査をして犯人を検挙しない訳にはいかない。

 

その為には捜査をする人間が必要だ。

 

主に“海”の資金で運営されている士官学校なので、“陸”の捜査官に頼れば、“海”の信用はまたもや失墜する。

 

ならば、本局の執務官を呼んで捜査に当たらせ、犯人を検挙すれば“海”へのダメージは最小限で済ませることが出来るかもしれない。

 

「むっ?そう言えば、学生の中で確か執務官資格を持った学生が居たな‥‥」

 

「あっ‥‥」

 

ミハイルは朧気ながら執務官資格を持った学生の存在を思い出す。

 

教官の一人がパソコンを操作して学生のデータベースを検索する。

 

「あっ、居ました。フェイト・テスタロッサ・ハラオウン候補生です。彼女は編入生ですが、元機動六課出身の局員です」

 

「その者をすぐに呼んでくれ」

 

「はっ!!」

 

フェイトならば、執務官資格を持ち、尚且つ士官学校に在籍中だったので、本局からわざわざ執務官を呼び寄せるよりも早かった。

 

その頃、フェイトは、『学生は寮での待機』と言う命令が出ていたので、それに従い寮の自室で待機していた。

 

「それにしても一体何が起こったのだろうか?」

 

同室のチンクも今朝の緊急放送でナニかが起きている事は察していたが、流石にその内容まで判断がついていない。

 

「今日の講義、演習、部活動が全て休みになるくらいだからね。かなり大きな出来事だと思うけど‥‥」

 

勿論、フェイトも知る由がなかった。

 

そこへ、

 

コン、コン、コン

 

フェイトとチンクの部屋の扉がノックされた。

 

「はい」

 

「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン候補生、至急職員会議室まで出頭せよ」

 

と、フェイトはいきなり呼び出しを受けた。

 

「えっ?私?」

 

「学生は待機と言う中での呼び出し‥‥今朝の件と何か関係があるのではないか?」

 

「うん。多分‥‥兎も角、行ってみるよ」

 

フェイトは呼び出しに応じて訪ねてきた教官と共に職員会議室へと向かった。

 

そこには士官学校の校長を含め、全教官が勢揃いしていた。

 

「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン候補生、呼び出しに応じ、出頭致しました」

 

校長を含めた教官たちに敬礼し、報告するフェイト。

 

「よく来てくれた、ハラオウン候補生」

 

ミハイルがフェイトに労いの言葉をかける。

 

「それで、私は何故呼び出されたのでしょうか?」

 

フェイトはミハイルに自分を呼び出した要件を早速訊ねる。

 

「うむ、実はな‥‥」

 

ミハイルはフェイトに今朝、倉庫区画で起きた事件について話した。

 

「殺人事件‥‥」

 

今朝の緊急放送の理由は士官学校内で起きた殺人事件が原因だと此処で知ったフェイト。

 

「それで被害者は?」

 

殺人事件と言う事であるならば、殺されてしまった被害者が居る筈だ。

 

「‥‥」

 

ミハイルは副校長にアイコンタクトを送る。

 

「被害者はハイネ・クラウン。年齢は君の方が上ではあるが、士官学校の三年生‥君の先輩にあたる人物だ」

 

副校長が、今回の事件の被害者であるハイネの情報をスクリーンに投影する。

 

「被害者は学生なんですか‥‥」

 

「そうだ」

 

被害者が自分よりも年下の学生と言う事実に驚愕するフェイト。

 

「そ、それで捜査の方は?“陸”の部隊か本局への報告は?」

 

殺人事件が起こったのだから、捜査官や鑑識、執務官を派遣し事件の捜査を行うべきなのだが、校長たちの様子から“陸”の部隊や本局通報した様には見えない。

 

「君も“海”に所属していたから分かっていると思うが、この士官学校は主に“海”からの資本金で運用されている。そんな中、士官学校で学生が殺されたとすれば、学校側としても慎重に事を運ぶ必要があるのだ」

 

(要は面子‥責任問題が絡むって事か‥‥)

 

副校長からの説明でフェイトは何だか冷めた目で教官たちを見る。

 

「そこで、学生ながら執務官資格を有する君に今回の事件の捜査を行ってもらいたいのだ」

 

「私が‥ですか?確かに私は執務官資格を有していますが、今は士官学校の学生ですが?」

 

「これまでの君の執務官としての能力は知っている。JS事件では、あのジェイル・スカリエッティを逮捕したそうではないか。それに先ほど君が言ったように今は学生だ。ならば、学生寮内の内部事情を我々教官よりも知っているのではないか?」

 

「同学年は兎も角、上級生についてはあまり交流がないのですが‥‥」

 

フェイトは士官学校では部活動に入部していないので、上級生とも交流がないので、内部事情と言われてもそこまで詳しいとは言えない。

 

「だが、学生たちから事情聴取をするにしても年齢が近い君の方が都合がいいのではないか?」

 

「それは‥そうかもしれませんが‥‥」

 

「一週間は君に捜査の指揮権を与える。だが、事態が君の手に余るようならば、本局に連絡を入れて代わりの執務官の派遣を要請する」

 

「‥‥分かりました。では、一週間と言う期限付きですが、捜査の全権を頂けると言うのであるならば、私の要望も聞いて頂けると言う事でよろしいのですね?」

 

「むろんだ。君が必要と言うのであるならば、学生たちにも協力は仰がせよう。勿論、我々教官陣もだ」

 

「ありがとうございます。ですが私一人では一週間で事件の収拾は困難なので、もう一人、捜査に参加してもらいたい学生が居るのですが‥‥」

 

「ん?誰かね?それは?」

 

「同室のチンク・ナカジマ候補生です。彼女は士官学校に来る前、陸士108部隊で捜査官の仕事も行っていましたから、捜査の手順は熟知している筈です」

 

「むぅ‥陸士か‥‥」

 

“陸”の関係者が今回の事件捜査に加わると言う事で、教官の何人かは顔を歪める。

 

しかし、フェイトに事件捜査の全権を一週間の期限付きとは言え、与えてしまった手前、それを拒否する事は出来なかった。

 

「わ、分かった。認めよう」

 

「ありがとうございます。では、現時点における事件の情報を全て教えていただけますか?」

 

フェイトは教官たちより、今回の事件における情報を貰い、寮へと戻った。

 

そして‥‥

 

「なにっ!?殺人事件だと!?」

 

「うん」

 

チンクも今朝の騒動は殺人事件が原因だとフェイトから聞かされて、驚愕する。

 

「そうか、今朝の緊急放送はソレが原因か‥‥」

 

「うん。それで、その事件捜査を私とチンクで行う事になったの」

 

「‥‥は?今何と言った?」

 

「だから、私とチンクでその殺人事件を捜査するの」

 

「ちょっと待て、何故私たちが事件の捜査をしなければならない!?」

 

部屋に戻ってくるなりいきなり、殺人事件の捜査を自分たちが行うと言われ、チンクは思わず声が裏返る。

 

「士官学校では、この事件をあまり表立ってしたくないみたい。だから執務官資格を持っている私に捜査の全権を委ねたの」

 

「それで、何故私まで捜査に参加する事になっているんだ?」

 

「だって、チンクも108部隊で捜査官の仕事をしていたでしょう?」

 

「あ、ああ‥‥」

 

「それに捜査権があるとはいえ、全権が貰えた期限は一週間なの。でもたった一週間で容疑者が何百人も居る状況で一人で捜査するのは無理があるでしょう?だからチンクにも手伝ってもらおうと思って‥‥」

 

「いや、いや、いくら何でも一人増えただけで捜査に影響があるのか?」

 

チンクは容疑者の規模から一人でも二人でもあまり効果があるとは思えず、ソレをフェイトに指摘する。

 

「でも、一人増えた事で、一人でやるよりも多少なりとも変わるのは事実でしょう?」

 

「そ、それはそうかもしれないが‥‥」

 

「それに事件を解決出来れば、チンクの株も上がるし、ナカジマ三佐としても鼻が高いんじゃない?」

 

「‥‥」

 

チンクとしては元テロリストである自分を養女として引き取ってくれたゲンヤには恩義がある。

 

自分が事件を解決させて、それがゲンヤの評価アップに繋がるのであるならば、今回の事件捜査に協力するのもやぶさかではない。

 

「わ、分かった。協力しよう」

 

渋々であるが、チンクは考えた末、フェイトと共に今回の殺人事件の捜査をする事となったのだった。

 

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