星の海へ   作:ステルス兄貴

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二百四話 士官学校殺人事件 そのⅡ 

 

 

フェイトとチンクが在学している管理局の士官学校にて、学生が被害者となる殺人事件が起こった。

 

士官学校の教官陣は面子と責任問題からか本局・“陸”の捜査機関へは通報せずに、執務官資格を有して、現在は学生の身分であるフェイトにこの事件の捜査を命じた。

 

フェイトに与えられた捜査権は一週間と言う期限付きではあるが、学校側としてはこの一週間で事件を解決してもらいたい部分があったが、容疑者は士官学校に在学中の学生、教官を含めた職員全員となり、その人数は物凄く多い。

 

しかし、いきなり本局へ連絡をして執務官を派遣すると、学校側の面子が崩れる。

 

だが、執務官とは言え、今は学生であるフェイトが事件を解決すれば、少しは面子が保てると思ったのだろう。

 

流石に容疑者の人数が多い為、フェイトは一時、108部隊で捜査官の仕事をしていたチンクにも今回の事件捜査の協力をしてもらう事となった。

 

「さて、それじゃあまずは事件の概要から整理しておこう」

 

寮の自室にて、フェイトは教官から渡された事件のあらましを整理する。

 

「ふむ、現場は倉庫区画にある食糧原料庫か‥‥」

 

「出入り口は鍵がかかっていたみたいで、凶器も遺体の傍には落ちていない」

 

「死因と死亡推定時刻は?」

 

「流石に検視官が居る訳じゃないから詳しい時間帯は分からないけど、保険医さんが言うには深夜だって」

 

「‥‥まぁ、本来ならば生きている人間を相手にする保険医ではそこまで細かい死亡推定時刻は分からないか‥‥」

 

「死因は頭部を強く殴られた事による頭蓋骨陥没」

 

「頭蓋骨陥没か‥‥」

 

「凶器は分からないけど、多分魔法の類ではないと思う」

 

フェイトは被害者の死因について、被害者は殺傷設定の魔法で殺されたのではないと推察する。

 

「ん?何故そう言い切れる?」

 

「そもそも、デバイスは全て教官が生徒から預かって保管されているし、持ち出し、返還についても時刻が記録される。何より、頭部を殺傷設定で狙って撃つとなると、通常は首から上が無くなっているだろうからね。精密な殺傷設定のシューターなら可能かもしれないけど、なのはやティアナ、ヴァイス程の魔導師じゃないと無理だよ」

 

生徒のデバイス管理は細かく記録・管理されており、それはフェイトも例外ではなく、愛機であるバルディッシュは普段の訓練時以外は教官に預けてある。

 

そうしたデバイス事情と魔導師としてまだまだ未熟な学生の腕では精密な魔法は不可能なので、犯人は魔法を使用しての殺人ではなく、学生が犯人であった場合でも魔法で殺したのではないと確信する。

 

「それはあくまでも学生ならば‥‥の話だな」

 

「そう、学生なら‥‥ね」

 

もし、被害者のハイネが殺傷設定の魔法で殺された場合、学生はデバイスの持ち出しは管理されており、首をフッ飛ばさずに頭蓋骨陥没で殺すには練度が必要である。

 

だが、教官や職員に関してはデバイスの持ち出しについては学生ほど管理が厳しくなく、魔導師としての経験、練度も学生よりは上なので、ハイネが殺傷設定の魔法で殺された場合、犯人は学生ではなく教官である可能性が高い。

 

「さて、次は現場に行ってみようか?」

 

「ああ、捜査でも現場百遍は基本中の基本だからな」

 

二人は概要を読んだ後、殺害現場である食糧原料庫へと向かった。

 

用務員に頼み食糧原料庫の出入り口を開けてもらい中に入る。

 

「此処が‥その‥‥不幸な事件の現場です」

 

流石にハイネの遺体も血痕も片付けられているが、白いチョークで人型の型が床に描かれている。

 

用務員から殺害現場を聞き、周囲を見渡す。

 

辺りは何の変哲もない倉庫だ。

 

周囲を探索しても何か変わったモノも見つからない。

 

「やはり、何もない‥‥か‥‥」

 

「凶器になりそうなモノも手掛かりになるようなモノもないな‥‥」

 

粗方倉庫内を見回るも特に手掛かりはなく、用務員に声をかけて倉庫の外へと出る二人。

 

倉庫の扉に鍵をかけた後、二人は用務員へ話しかける。

 

「確か、第一発見者は貴方ですよね?」

 

「は、はい」

 

「どうしてあんな朝早くにこの倉庫へ?」

 

「事件の前の日に寮の厨房職員から追加の食料物資の運搬を頼まれまして‥‥」

 

「なるほど、それで物資を取りに来たら遺体を発見したと‥‥?」

 

「はい」

 

「貴方が悲鳴をあげて学生たちがくるまでどれくらいかかりましたか?」

 

「十数秒ほどです」

 

「その後、教官や校長が来るまで学生たちと共に現場に留まった訳ですね?」

 

「は、はい」

 

「フェイト」

 

「ん?」

 

「仮にこの用務員が犯人だった場合、夜此処で被害者を殺し、朝になって自然な形で遺体の第一発見者になり得ることも可能ではないか?」

 

「‥‥」

 

「凶器はまだ見つかってない‥‥絶対に魔法で殺された確証もない。死因はあくまでも頭蓋骨陥没だ。魔法でなくとも鈍器のようなモノで撲殺しても頭蓋骨陥没となる。なにより、用務員ならば倉庫の鍵を常備していてもおかしくはないからな」

 

遺体の第一発見者が犯人であったと言うパターンはこれまでの犯罪事件の中で存在する事例であり、倉庫の鍵と言う点については確かにこの用務員は容疑者として充分あり得る。

 

「失礼だが、昨夜はどこに居たのか聞いても良いだろうか?」

 

チンクは用務員に昨夜のアリバイを訊ねる。

 

「さ、昨夜ですか?寮の自室に居ましたけど‥‥」

 

「それを証明することが出来る人は?」

 

「ひ、一人部屋なので誰も‥‥ま、まさか私を疑っているのですか!?」

 

「気分を害されたのでしたら申し訳ありません。何しろ容疑者はこの学校の学生、そして教官を含めた全職員なので‥‥」

 

「で、ですが、私は死んだ学生とは面識はありません。向こうは用務員として認識していたかもしれませんが、彼が在学中に私は一度も声をかけられたことも無いのです」

 

用務員は必死に自分の無実を主張する。

 

「そうですか‥‥」

 

フェイトが用務員フォローをして、第一発見者である用務員一人に疑惑が掛かっている訳ではないと説明する。

 

(面識がなくても学生‥いや、この学校関係者ならば、誰でも良い‥‥と言う可能性もあるがな‥‥)

 

チンクは口には出さなかったが、無差別殺人の場合、面識なんて関係ないと思うも、用務員は遺体の第一発見者であり、あくまでも数多く居る容疑者の一人と言う事で今は追及を避けた。

 

「用務員さんは寮にも出入りしていますけど、その際学生たちの様子はどうでしたか?」

 

「私と共に被害者の遺体を見つけた学生はショックを受けている様子でした。そのほかの学年‥特に被害者と同じ三年年の学生たちの間では、『ハイネ・クラウンは祟りで殺されたのではないか?』と言う噂がちらほら出ていました」

 

「祟り?」

 

「はい。何十年も前に事故死、自殺した学生の霊が仲間を欲しがっているとか、悪魔崇拝者たちの集会を偶然目撃したことから口封じのために殺されたのではないか?など‥‥」

 

「あまりにも突拍子過ぎないか?」

 

祟りや幽霊、悪魔崇拝の集会なんて非現実的な現象に懐疑的なチンク。

 

「ええ、私もそう思います。事実、私がこちらで用務員として働いてもう二十年以上になりますが、少なくとも私が勤務している期間中に学生の事故死や自殺などの事件は起きていません」

 

「分かりました。貴重なご意見ありがとうございます」

 

「いえ、では私は仕事に戻ります」

 

用務員は仕事へと戻って行った。

 

「それにしても祟りに幽霊、悪魔崇拝か‥‥魔法が存在するミッドで言うのも少々変だが、あまりにも非現実的過ぎる」

 

「そうだね。でも、学校には怪談はつきものだけどね」

 

「そうなのか?」

 

「うん。私が昔、97管理外世界に通っていた学校でも怪談はあったよ」

 

「ちなみにどんな怪談があったんだ?」

 

「うーんとね、理科室で夜になると標本や人体模型が動き出す、音楽室の肖像画の目が光る、女子トイレの三番目の個室を三回ノックして『花子さん遊びましょう』と言うと、花子さんという名の幽霊が現れる、夜中に段数が変わる階段、4時44分に大鏡の前に立つと鏡の中に引き込まれる、プールの第四コースを泳いでいると何者かに足を引っ張られる‥あとは、夜中の校庭や体育館に昔死んだ学生の幽霊が現れる‥‥かな?」

 

フェイトはチンクに海鳴の私立聖祥大附属小学校・中学校に通っていた時、聖祥大附属で語られていた七不思議を語って聞かせる。

 

「まぁ、どれも動画があるわけじゃなくて、昔から語り継がれている話だけどね。でもその話を聞かされた当時のなのはは幽霊の存在を信じて怖がっていたっけ」

 

「‥もし、本当にこの世に幽霊や祟りなんてモノが存在していたら、私やドクターはあの事件を引き起こす前に祟り殺されていただろうからな」

 

チンクは過去における自分たちの所業から祟りや幽霊が存在していれば、JS事件を引き起こす前に幽霊から祟り殺されていた筈だと自虐めいた様子で呟く。

 

チンクが関係した事件‥‥ゼスト隊事件‥スバルの母親であり、ゲンヤの妻であるクイントが殉職した事件‥‥

 

チンクはゼストと対峙して右目を失った。

 

しかしそれ以前にゼスト隊の隊員たちを手にかけた。

 

チンクはナンバーズの中でも人を殺めた経験のある数少ないメンバーの一人であり、ウーノ、ドゥーエ、トーレ、クアットロが死亡している現状、唯一生き残っているナンバーズなのだ。

 

フェイトはそんなチンクの過去の経歴を当然知っている。

 

そんなチンクにフェイトはかける言葉が見つからなかった。

 

とは言え、闇の奥に潜む超人的な存在が士官学校の学生を害したと言う考えはこの際、排除してかからねばならなかった。

 

二人は、現場である倉庫から校舎内、体育館、図書館、演習場、部活塔‥‥と、敷地内を歩き回った。

 

そして、建物を抜けて広い芝のグラウンドへと出た。

 

その時、士官学校の敷地内を歩き回った事で、わずかに汗ばんだ自覚からグラウンドの隅にある大きな木の木陰へ歩を進めさせた。

 

木陰に座り込み抱えていたノートパソコンを開き、もう一度資料のページを開く。

 

「そう言えば、寮の自室では被害者について調べていなかったな‥‥被害者はどんな人物だったんだ?」

 

「えっと‥学年は最高年の三年生‥‥成績は‥‥」

 

フェイトはノートパソコンを操作して被害者であるハイネの情報を検索する。

 

通常の生徒ならば、個人情報にあたるので普通ならば閲覧不可なのだが、今回フェイトが事件を捜査する事と被害者が既に死亡している事から閲覧が可能となっているのだ。

 

勿論、事件解決後も被害者の情報を第三者に口外するのはNGである。

 

執務官であるフェイトは当然、その事を理解している。

 

「出た。成績は十位代から五十位代のあたりを前後しているみたい」

 

「成績を見る限り、優秀ではあるが突出していると言う訳ではないな」

 

「となると、成績をそねまねて‥‥と言う訳ではなさそうね」

 

「そうだな。ただ、フェイトの場合はあの負け犬メアリーと言う存在があるからな。士官学校を卒業するまでは気を付けないとな」

 

「うぅぅ‥‥」

 

時分よりも年下の娘からのウザ絡みは面倒だと思いつつ、同じ土俵で争うのはあまりにも不毛なので、なるべく無視することにすると共にチンクが先日のテストみたいにどこかでわざとミスをする事にした。

 

まずは士官学校を無事に卒業する事が目標なのだから‥‥

 

「ただ、用務員から話を聞いている時に、ふと思った事だが‥‥無差別‥‥と言う事はあり得ないか?」

 

「えっ?無差別?」

 

「ああ‥無差別‥‥つまり、殺すのは誰でもいい‥‥それならば成績など関係なく、被害者が誰かに恨まれていようがいなかろうが関係ない。たまたまそこに居たから殺した‥‥そんな風には思えないだろうか?」

 

「その可能性は捨てきれないけど、そもそも被害者が死んでいた場所‥‥そこにも妙な違和感があるんだよね」

 

「確か原材料倉庫だったな」

 

「そう‥死体の状況から、別の場所で殺されてあの倉庫に運ばれた訳ではなさそう」

 

遺体の出血状況から倉庫の床には血だまりが出来ていた事、それ以外に血の跡が無かった事から犯行現場は間違いなくあの倉庫だ。

 

「しかし、現場は原材料倉庫だ。盗み食いするにしても原材料ばかりだ。加工・調理しなければ食べられないぞ。まぁ、食事に関して不満があるのは分からない訳ではないがな」

 

「そうなんだよね‥‥そもそも彼が何で夜中に寮を抜け出してあんなところで殺されたこと自体この事件の妙な所なんだよね‥‥」

 

「誰かに呼び出されたにしても夜間に原材料倉庫へ呼び出されて、のこのこと行くか?」

 

人目につかないと言う点では夜間の倉庫区画は確かに人目につかない。

 

だが、あまりにも人目につかない場所だと却って怪しむ筈だ。

 

それに寮から倉庫区画はそれなりに距離がある。

 

「彼が誰かに弱みを握られていて仕方なく応じるしかなかったとか?それかその逆とか?」

 

「逆?」

 

「被害者が誰かの弱みを握っていてあの倉庫に呼び出して、金銭を要求したけど‥‥」

 

「弱みを握っていた者に返り討ちにされた‥‥と‥‥」

 

「そう。そして、現場には鍵がかけられていたとなると‥‥」

 

「犯人は倉庫の鍵を持っている者‥‥」

 

倉庫の鍵を持っている者となると、学生ではなく用務員か教官など士官学校の職員となる。

 

二人はハイネが原材料倉庫で殺されていた理由を考えるが、納得のいく答えが導き出せず、むしろ違和感ばかりが増す。

 

「渡された資料だけでは被害者の人となりは分からない。此処は被害者の同期たちに彼の人となりを聞いたほうが違和感を払拭する事が出来るのではないか?」

 

「そうだね」

 

二人は次に職員から渡された情報ではなく、実際に彼と交流があった三年の学生たちに生前における彼の人となりを聞き込みしようとなった。

 

その時、自分たちの方に一人の学生が駆け寄って来た。

 

そして、フェイトとチンクの前に立ち直立不動の姿勢をとって敬礼した。

 

「し、失礼します。じ、自分は三年生のマスミ・ウィンザードといいます。校長から命を受けまして、ハラオウン候補生らの捜査に協力するように言われました」

 

「三年生‥となると今回の事件の被害者とは‥‥」

 

「は、はい。同期でありクラスも一緒でした」

 

被害者を知る学生から事情を聞きたかったので、丁度良いと思い早速話を聞くことにした。

 

「ご苦労様。一先ず座って」

 

フェイトはマスミに座るように促すが、

 

「いえ、執務官どのの前で座るのは‥‥このままで‥‥」

 

「「‥‥」」

 

おろおろした口調ではあるが躾や規則に対する機械的な従順さを二人は感じたがその点に関しては彼の性格なのだろうと思い二人は口にする事はなかった。

 

「それじゃあ、早速だけど亡くなったクラウン候補生について、彼の評判はどうだった?」

 

「え、えっと‥‥すみません。よくわかりません」

 

「「‥‥」」

 

彼の返答に一瞬ポカンとするフェイトとチンク。

 

「えっと、誰かと仲が悪かったりとか、そんな話を聞いていない?」

 

「さあ、どうでしょうか‥‥」

 

(コイツ、ふざけているのか‥‥?)

 

(何が捜査に協力だ‥‥全く使えんではないか!!)

 

チンクはマスミの対応に内心イライラしている。

 

彼の受け答えはまったく意味をなしていない。

 

勿論、彼がフェイトとチンクの二人に対して非協力的な意志を抱いてこのような受け答えをしている訳ではない。

 

チンクがイライラしているのと対照的にフェイトの方は‥‥

 

(この子は他者の人間関係に関心が薄い様な印象を受ける)

 

昔、エリオを助け出した時、彼は研究所で酷い扱いをされていた事から人間不信に陥っていた。

 

その為、自分に近づく者は攻撃対象となっていたが、フェイトは自身が傷つくのも厭わずにエリオと接し何度も話をして彼の塞ぎ込んだ心を解放した。

 

攻撃的だったエリオとは多少異なるが、目の前に居る学生も自分の心の中の殻に閉じこもっているから他者への関心が薄いのかもしれない。

 

「じゃ、じゃあ、逆に彼と仲が良かった学生が誰か知らない?」

 

「ぼ、僕です」

 

「えっ?そ、そう‥‥」

 

ハイネの交流関係について分からないと答えたにもかかわらず、彼と仲が良かった人物として、マスミは自らがそうだと答えた。

 

そんな彼の答えにフェイトとチンクはまたもや声を詰まらせる。

 

(コイツが被害者と仲が良いだと?)

 

(どう見ても見え透いた嘘のようにしか思えないな‥‥)

 

チンクは先ほどの彼の言動から、マスミと被害者が仲の良い同期とはとても思えず、彼の言葉には信憑性が欠けているようにしか思えなかった。

 

「それじゃあ、君の目から見て被害者のハイネ・クラウンはどんな人間だった?」

 

「どんな‥って言われても‥‥」

 

マスミは顎に手を当てて考え込む仕草をとる。

 

「例えば自分の成績が落ちた時、平然としていた?それとも気にしていた?」

 

「気にする方でした」

 

「それじゃあ、彼は他罰傾向があった?」

 

「他罰傾向?」

 

「つまり成績が落ちた原因を自分の勉強不足や努力不足ではなく、他人のせいにしていたって事」

 

「は、はい。そんなところもあったような気がします」

 

「‥‥友人だと言うのにあまりかばいだてないんだな」

 

話を聞いていたチンクがまるで友人を平気で売り渡すような言動をするマスミに対して訊ねる。

 

「率直に答えることが事件解決の協力になると思いましたので‥‥」

 

(やっぱりこの子は自分が思った事や信じている事よりも相手が望んでいる事を答えようとしている様だ‥‥)

 

(本当なら、彼は一度精神科医か心療内科のカウンセリングを受けた方が良いのかもしれない)

 

全て合っているとは言い切れないが、マスミの言動からフェイトは、彼にはカウンセリングが必要なのではないかと考えるが、今は彼の問題よりも事件の解決を優先しなければならない。

 

「ありがとう。もういいよ」

 

「は、はい。それで失礼します」

 

マスミはフェイトとチンクに敬礼すると、その場か去っていく。

 

「ふん、使えない奴だったな」

 

声が聞こえなくなるくらの距離になった時、マスミの背中を見ながらチンクが呟く。

 

「まぁ、まぁ、あの子はあの子で協力したつもりだったんだと思うよ」

 

「非協力的ではなかったかもしれないが、役に立たなければ意味が無いと思うがな」

 

「他者への関心が薄い子なんだと思う」

 

「所謂コミュ障ってやつだな。しかし、奴がコミュ障ならば被害者と親しかったと言う奴の言葉も怪しい所だ」

 

「私もさっきの話には違和感を覚えたよ。どうやら彼にとって自分の意志よりも数字や資料、過去の事例や実績に現実を見出す性格なのかもしれない」

 

「コミュ障らしい性格だな。なんで校長はそんな奴を寄越したんだ?」

 

「えっと‥‥」

 

チンクはマスミを寄越した校長の意図が分からなかった。

 

フェイトも気になったのか、マスミについて調べる。

 

「あっ、なるほど‥‥」

 

「ん?何か分かったのか?」

 

「彼が三年生の首席みたい」

 

「あいつが三年の首席‥‥やはり、テストの成績はあくまでも人間の一面だけだな。実戦で学校の成績など役に立つのか?」

 

「まぁ、チンクの言う事は確かに当たっているかな」

 

実際に宇宙で遭難し、もう一つの地球での経験から、管理局の執務官資格なんて何の役にも立たなかった。

 

「メアリーとか言う負け犬もそうだが、先ほどの学生もリーダー気質ではないな」

 

同じ学年のメアリーや先ほどのマスミの様に勉強だけ出来ても人間性に欠陥があるのでは優秀な人間とは言えない。

 

「ん?」

 

「ああいうマニュアルタイプの人間は誰から何か指示を出されなければ、動かないタイプだ。そして、メアリーも自分の思い通りに事が進まなければ、癇癪を起す子供のような気質なのではないか?そんな人間が自分の意志で下の人間に正しい指示を出せると思うか?」

 

「た、確かに‥‥でも、昔のクロノもそんなタイプの人間だったけど、今は立派に大勢の部下の人たちを使って艦を指揮しているよ」

 

チンクはメアリーやマスミは上に立つような人間ではないと言うが、フェイトは成長すれば、人は変わるのだからまだ学生の内に将来を否定してはいけないとやんわりチンクに言う。

 

「成長か‥‥」

 

自分自身の身長は相変わらず伸びていないが、他の姉妹たちの内面についてはスカリエッティの下に居た頃と比べて大きく変わっている。

 

それが成長と言うのならば、彼女たちは大きく成長したのだろう。

 

だからこそ、自分も彼女たちの世話から自分のやりたい事をやろうとしているのだ。

 

「それよりも事件の事に話を戻そう」

 

さっさと目の前にある事件を終わらせて普段の学生生活を取り戻す事が今の自分たちに仕事だと言い聞かせ、事件について話を戻る。

 

「とは言え、犯人の目星はおろかまだ凶器も特定できていないね。一体何が凶器であり、どうやって殺害して、どうやって凶器を始末したのか?それに倉庫の鍵の問題もある」

 

「犯人‥そして凶器もそうだが、まず犯人の動機について考えてみるか‥‥殺害現場があの倉庫の時、色々と推測してみたが、結局のところ犯人が事件を起こす動機は単一のものに還元される‥‥それこそ無差別殺人をするサイコパスやテロリストでなければな‥‥」

 

「動機か‥通常‥って言うのも変だけど、大抵の犯人の動機は自己の利益を優先して守る事‥‥」

 

「そうだ。もしも被害者が誰か‥この場合は犯人を脅していたと仮定して、犯人としてはこれ以上、被害者に脅される事に耐えられなくなり、口封じとして殺害した場合は防衛的動機となり、被害者に対して強い恨みを持ち、それが限界を迎えての殺害の場合は攻撃的動機となる」

 

「攻撃的動機、防衛的動機、いずれにしても被害者が誰かに恨まれていたかいないか‥‥あの子一人の証言を鵜呑みには出来ないからね」

 

「そうだな」

 

二人は再び移動を始め、マスミ以外の三年生‥特に被害者であるハイネと同じクラスの学生に話を聞くことにした。

 

話を聞くために声をかけられた学生は緊張している事が窺える。

 

学年で言えば自分たち三年生の方が先輩にあたるのだが、管理局員としての実績はフェイトの方が上だ。

 

何より、元機動六課所属であのJS事件を解決に導き、容姿も端麗な事が男子学生としては憧れを抱く。

 

しかも通常は先輩後輩の中で交流が殆どないのだから、こうしてフェイトから話しかけられれば緊張もする。

 

「えっ?ハイネについて‥でありますか?」

 

「うん。どんな学生だったのか知りたくて‥よければ教えてくれる?」

 

「は、はい」

 

フェイトは先ほど、マスミにした同じ質問を三年生の学生にする。

 

「被害者であるハイネ・クラウンは成績や学校の評価を気にする人だった?」

 

「ああ、はい。気にするタイプでした。この前のテストも順位が下がった事を嘆いていましたし‥‥」

 

「それじゃあ、成績が下がった原因について他の学生のせいにする事なんてあった?」

 

「えっ?アイツが?いえ、彼は自分の失態を他人のせいにすることはありません。むしろ、努力家タイプの学生でした‥‥もっとも楽に成績が上がる方法があれば、その方法を知りたがっていましたけど‥‥」

 

成績・評価を気にすると言う点ではマスミとこの学生の証言は一致するが、彼に他罰傾向があるかと言う質問については真逆の回答がきた。

 

「三年生の首席であるマスミ・ウィンザードと被害者は親しい関係だった?」

 

「えっ?ハイネとウィンザードが?‥‥うーん‥どうでしょう?ハイネがウィンザードに話しかける場面を何度か見た事はありますが、ウィンザードの方は殆どハイネを無視しているような感じでした」

 

「無視?」

 

「ええ‥ウィンザードが誰かと行動を共にする事なんて、訓練や体育の授業以外で見た事がありません。基本的にあいつは一人ですから」

 

(やはり、コミュ障故のボッチだったか‥‥)

 

「それで、被害者が誰かに恨まれているって話は聞いたことない?」

 

「ハイネが人に恨まれる!?それはないですよ。アイツは誰とでも分け隔てなく接する奴だったんで、恨まれる事なんて考えられません」

 

その学生はハイネが他者から恨まれる人間ではないと断言する。

 

その後、他の学生に訊ねても‥‥

 

「えっ?ハイネが?あり得ません。彼はサバサバした性格ですから、人から恨みを買うなんてありえませんよ」

 

「成績が落ちた時に人のせいにしたりしていた?」

 

「いえ、そんなことはありませんでした」

 

別の学生もハイネが人から恨まれること、他罰傾向を否定する。

 

「ハイネは実家が裕福な家でも家柄を自慢したりする奴ではありませんでした」

 

「えっ?被害者の家って裕福だったんだ‥‥」

 

「ええ。金持ちの中には家柄を自慢して、他者を侍らせて家来みたいに扱う奴もいるけど、ハイネはそんな素振りは一切ありませんでした」

 

(被害者の実家は金持ち‥‥)

 

(実家絡みで恨みを買っていた可能性も出てきたな‥‥)

 

ハイネの実家が金持ちと言う事で、ハイネ自身は誰かに恨みを買っていなくても、ハイネの実家絡みで誰かしらの恨みを買い、クラウン家の人間であると言う理由からハイネが殺されたかもしれないと言う可能性が出て来た。

 

他の学生に聞いてもハイネは成績・評価については気にするが、他罰傾向のない努力家タイプに学生で、人から恨みを買う様な人物ではなかったと言う話ばかりで、他罰傾向があると言ったのはマスミだけであった。

 

「だから言っただろう?奴は使えないと‥‥」

 

「う、うん」

 

学生からの聞き取りを終えマスミの言葉に信憑性があまりなかったことが判明した。

 

凶器、動機、そして犯人は不明で被害者の人となりだけが判明した時、

 

「ハラオウン候補生」

 

教官がフェイトに声をかけた。

 

「はい」

 

「校長がお呼びだ。至急校長室へ来てくれ」

 

「わ、分かりました」

 

(まだ、捜査権があるのに一体何の用だろう?)

 

フェイトとしては何故、ミハイルが自分と呼び出したのか分からなかったが、校長が自分を呼んでいるのだからそれを拒否や無視する訳にはならず‥‥

 

コン、コン、

 

「ハラオウン候補生です」

 

「はいりたまえ」

 

「失礼します」

 

校長室を訪れた。

 

「御用があるとの事ですが‥‥?」

 

「うむ。それでハラオウン候補生、捜査の進捗はどうかね?」

 

「まだ、着手したばかりで、犯人の目星も凶器の断定も‥‥」

 

「むぅ~‥‥そうか、なるべく犯人の早期検挙に努めてくれたまえ」

 

「はい」

 

「それで、君を呼んだ件であるが、本局への報告は遅らせるとして流石に被害者遺族へは知らせなければならなくてな」

 

「え、ええ」

 

「それで、ついさっきクラウン候補生の実家に彼の訃報を知らせた。ご遺族は当然悲しんでおられた」

 

「‥‥」

 

「そして、被害者の遺体は今日の夜、ご遺族に引き渡し、明日には葬儀を行う予定だ」

 

「えっ!?明日に葬儀!?それに今日の夜にはご遺体を返却する!?‥ちょ、ちょっと待ってください!!」

 

「なんだね?」

 

「殺人事件の被害者のご遺体は通常は司法解剖を行い、死因の特定をする筈です。今回の事件ではまだその司法解剖さえ行われていないのに、ご遺体を遺族に引き渡しては詳しい死因も死亡推定時刻も分からないままになってしまいます!!それにご遺体に犯人の痕跡があるかもしれません!!」

 

「それは分かっている」

 

「でしたら何故!?」

 

「息子を失ったご遺族の気持ちも理解してやれ、ハラオウン候補生」

 

「それは私自身も重々承知しています。それでも事件捜査が終わるまでは‥‥」

 

フェイトとしては遺体を調べるまでは遺体を遺族へ引き渡す事に消極的だった。

 

「君は、死体解剖資格は有しているのかね?」

 

「いいえ、持っていません」

 

「司法解剖するにも資格が必要なのだが、この事件は極力外部には知られたくないのだよ」

 

流石のフェイトも医師免許・死体解剖資格は持っていない。

 

なので、被害者の司法解剖は出来ない。

 

そして、学校側はこの事件を表立って公表したくない。

 

ならば、被害者の遺体は遺族にさっさと引き渡してしまおうと言うのだ。

 

「それに死因は頭蓋骨陥没と言う結論が出ている。死亡推定時刻も凡そついているではないか」

 

「で、ですが‥‥」

 

確かに被害者の死因と死亡推定時刻は分かっている。

 

それでもご遺体には犯人を指し示す手掛かりがあるかもしれない。

 

しかし、それを調べる手立てがフェイトにはない。

 

遺族に遺体が引き渡されてしまったら、もう調べることは出来ない。

 

しかも葬儀は明日‥‥

 

(あっ、もしかしたらシャマルなら‥‥)

 

知り合いの医療担当者のシャマルならば、もしかしたら死体解剖資格を持っているかもしれない。

 

「今日の夜にご遺体は引き渡されるんですよね?」

 

「うむ。そうだ」

 

「では、それまではご遺体は学校に保存されていますし、私の管轄下にあると判断していいですね?」

 

「あ、ああ‥一週間は君に捜査の全権を有しているからな」

 

「分かりました。では、少々時間が惜しいので失礼します」

 

フェイトは急いで校長室から出ると、本局に居るクロノへ連絡を入れた。

 

「あっ、クロノ」

 

『ん?どうしたんだ?フェイト。何か切羽詰まっている様だが?』

 

「訳は後で話す。それより本局の医局にシャマルは居る!?」

 

『シャマル先生?』

 

「そう、シャマル!!」

 

『シャマル先生は今、本局には居ない』

 

「えっ?居ない!?それじゃあ、今シャマルは何処に居るの!?」

 

『シャマル先生は今、はやてが艦長を務めている次元航行艦に船医として乗艦している』

 

「そ、そんな‥‥じゃ、じゃあ、はやての艦は本局には‥‥」

 

『今、テスト航海に出ている』

 

「‥‥」

 

(つ、詰んだ‥‥)

 

シャマルが本局に居ない事から今日の夜までに被害者の遺体を調べてもらう事は不可能となった。

 

『一体どうしたんだ?士官学校で何があったんだ?』

 

フェイトの慌てた様子、そしてシャマルが居ないと知った時の絶望感が浮かぶフェイトの表情から士官学校で何か起こったのは明白である。

 

「あ、あとで説明するよ‥‥それじゃあ‥‥」

 

事件については外部に漏らせないので、フェイトはクロノに話せなかった。

 

ただ、クロノに話してシャマル以外の死体解剖資格を持つ医務官を派遣してもらえれば、被害者のご遺体を調べる事が出来たのだが、フェイトはそこまで気が回らなかった。

 

シャマルが不在で、代わりの医務官を派遣してもらうも言わなかった為、その日の夜に今回の事件の被害者であるハイネの遺体は遺族の下へ引き渡された。

 

「‥‥」

 

フェイトはハイネが眠る棺を運び出されるのを見送った。

 

悲しみにくれ、喪服に身を包んだハイネの家族の姿を忘れられそうになかった。

 

それと同時に何としてでもこの事件の犯人を捕まえてやると言う決意を抱くのであった。

 




三年生の先輩であるマスミ・ウィンザードの容姿は『みなみけ~おかわり~』のオリジナルキャラクターである冬木 真澄 を高校生くらいに成長させた姿をイメージしてください。
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