星の海へ   作:ステルス兄貴

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二百五話 士官学校殺人事件 そのⅢ

 

 

管理局の士官学校で起きた殺人事件。

 

この事件を捜査しているのは、本局の執務官でもなく、“陸”の捜査官でもなく、士官学校の学生であるフェイトとチンクであった。

 

フェイトはこの時、士官学校の学生であったが、士官学校に入る前から管理局員として働き執務官の資格を有していたので、学校側は面子を気にしてフェイトに今回の事件の捜査を命じたのだ。

 

学校から事件の捜査を命じられたフェイトは寮の同室であるチンクに協力を頼み、二人で事件の捜査を行った。

 

しかし、いざ事件の捜査をしてみると犯人の目星も殺人に至る動機も被害者を殺害した凶器も不明でいきなり手詰まり状態となる。

 

辛うじて判明したのは被害者の人となりだけであった。

 

被害者と同じクラスの学生たちからの話では被害者は人から恨まれる様な学生ではなかったのも捜査を困難にさせた。

 

チンクは今回の殺人事件は無差別殺人ではないかと仮説をたてた。

 

もし、彼女の言う通り今回の事件が無差別殺人の場合、容疑者の特定はさらに困難になる。

 

そんな中、学校側は本局や“陸”の部隊に事件の事は秘匿するが、被害者家族には知らせない訳にはいかず、学校は被害者家族に訃報を知らせた。

 

 

St.ヒルデ魔法学院

 

士官学校で事件が起こり、フェイトとチンクが捜査をしている中、ヴィヴィオが通っているSt.ヒルデ魔法学院では普段通りの日常が流れていた。

 

そんな中、とあるクラスにて、

 

「クラウンさん。カテジナ・クラウンさん」

 

教師の一人がある教室を訪れ、そのクラスに在学中の学生を呼び出す。

 

「はい」

 

「至急、職員室へ来てください」

 

「えっ?は、はい」

 

カテジナは突然教官から職員室へ呼び出されて何事かと不安がる。

 

カテジナの取り巻きたちも心配そうにカテジナの背中を見送っていた。

 

「あ、あの‥何故、私が職員室へ?」

 

カテジナは自分が職員室へ呼び出されるような事をしたかっ教師に訊ねると共に自問自答した。

 

(ま、まさか、以前高町ヴィヴィオに絡んだ件で何かお咎めを!?)

 

カテジナは思い当たる節として先日、ヴィヴィオが学院に復学した日の事が脳裏を過った。

 

ヴィヴィオ本人は兎も角、彼女の養母は管理局では有名なエース・オブ・エースで知られるあの高町なのはだ。

 

養子とは言え、あの高町なのはの家族に自分は一方的に喧嘩を吹っかけたのだ。

 

しかも、世間で言われている噂話を信じて確実な根拠もなければ、ヴィヴィオが直接関係している訳ではない噂話が原因で‥‥

 

管理局から学院に対して抗議が来てもおかしくない。

 

「詳しい話は職員室で話す」

 

カテジナで先日のヴィヴィオの一件で自分はこうして職員室へ呼び出されたのだと決めつける中、教師は神妙な面持ちで彼女を職員室まで連れて行く。

 

職員室へ連れて行かれたカテジナは職員室の中にある応接区画まで通される。

 

ただそこにはヴィヴィオの姿はなかった。

 

(あ、あれ?高町ヴィヴィオが居ない!?どういう事なの?)

 

ヴィヴィオの件で呼ばれたのであるならば、件のヴィヴィオが居ても良い筈だが、そのヴィヴィオの姿がなく、カテジナはますます困惑する。

 

やがて、St.ヒルデ魔法学院の校長がやって来た。

 

「こ、校長先生!?」

 

学院のトップである校長先生の登場に流石のカテジナも驚愕する。

 

(ま、まさか高町ヴィヴィオの件で校長先生が出てくるなんて‥‥こ、これはまさか私の退学を宣言しに来たのでは!?)

 

ヴィヴィオ本人ではなく、校長先生がこの場に来たのは既に自分の処分は決まっており、ヴィヴィオが来る必要がないからではないかと予測するカテジナ。

 

(『学院を退学になった』だなんて家族に知られたら、私はきっと勘当されてしまう‥‥)

 

(ど、どうすれば‥‥どうすればいいの‥‥)

 

(せ、せめて高町ヴィヴィオに謝罪すればなんとか‥‥)

 

カテジナは必死に自分が退学を免れる方法を頭の中で思考する。

 

「カテジナ・クラウンさん‥だね?」

 

「は、はい!!」

 

校長先生に名を呼ばれ思わす声が裏返てってしまうカテジナ。

 

「そ、その‥わ、私は何故、呼ばれたのでしょうか‥‥?」

 

恐る恐るカテジナは校長先生に呼び出された理由を訊ねる。

 

「「‥‥」」

 

すると、校長先生も一緒に職員室へ来た教師も気まずそうに彼女から視線を逸らす。

 

(こ、校長先生たちのこの態度‥‥や、やっぱり管理局から学院に抗議が来たんだわ!!)

 

(そして、私は退学処分にぃ~!!)

 

(学院を退学になれば、実家を勘当される~!!)

 

「‥‥その‥君には辛い話になるが‥‥」

 

校長先生が重い口を開く。

 

「は、はい‥‥」

 

この時点でカテジナは退学処分、そして実家からの勘当を覚悟した。

 

「先ほど、管理局の士官学校より連絡があった」

 

「えっ?管理局の士官学校?」

 

管理局ならば話は分かるが、管理局の士官学校から自分に一体何の連絡があるというのだろうか?

 

士官学校と聞いて、カテジナは啞然とする。

 

「君のお兄さんは確か士官学校の学生だったね?」

 

「は、はい。そうです」

 

「‥‥その士官学校から連絡があり‥その‥‥君のお兄さんが亡くなったそうだ」

 

「えっ‥‥?」

 

カテジナは校長先生が何を言ったのか理解できず、思考が停止する。

 

「えっ?あ、あの‥‥い、今、何と‥‥?」

 

「‥君のお兄さんが亡くなられた」

 

「‥‥な、何かの間違いでは?あ、兄が‥あの兄が‥‥な、亡くなる‥なんて‥‥」

 

カテジナは声を震わせながら兄の死を受け入れずにいる。

 

家族としては、彼女の反応は当然だ。

 

「お兄さんが亡くなってショックなのは当然だが、これは紛れもない事実だ。まもなくお家の人が君を迎えに来る。今日はそのまま早退しなさい」

 

「‥‥」

 

校長先生は彼女に早退を促すも今のカテジナに対応するほどの精神力はなかった。

 

しばらくすると、カテジナの両親が車で彼女を迎えに来た。

 

あまりにも辛い現実にカテジナは泣き喚くことなくブツブツ‥‥と何かを呟きながら両親に抱えられて車に乗り、実家へと戻って行った。

 

カテジナの両親も自分たちの息子の突然の死に現実を受け入れきれずにいたが、娘の手前、取り乱すことなく悲しみをグッと堪えていた。

 

しかし、夜になり士官学校で息子の遺体と対面した際、その悲しみの限界がカテジナと母親は泣き崩れ、父親は下唇を噛みしめ、拳を握り堪えていたが、その目には光るモノがあった。

 

発見された当時、事件の被害者であるハイネの頭部は強い衝撃を受けた為に頭部の皮膚がパックリと開いている状態であったが、遺族に遺体を引き渡すと言う事で、保険医がなるべく綺麗に縫ってくれた。

 

検死を含め、保険医には『ご苦労様』の一言では言い切れないくらいの苦労をかけた。

 

遺体の縫合が終わると、保険医は顔を青くしてそのままベッドに横になっていた。

 

きっと当分の間は肉料理やトマトソースを使った料理は食べる事が出来ないだろう。

 

やがて、葬儀社の人たちと共にクラウン一家がハイネの遺体と共に実家へと帰るのを見送ったフェイトが寮の通路を歩いていると、

 

「あっ、いた、いた、ハラオウンさ~ん」

 

「ん?‥げっ‥‥」

 

フェイトを呼ぶ声がしたので、視線を向けると視線の先に居たのはメアリーであった。

 

メアリーの姿を捉え、フェイトは小さく顔を歪める。

 

事件の捜査が手詰まり状態の中、会いたくもない人と会い、フェイトの気分は急降下。

 

「な、何かな?」

 

顔を引き攣らせつつもフェイトはメアリーからの要件を訊ねる。

 

「実はさっき教官から『明日、先輩の葬式に出ろ』って言われたの」

 

明日行われるハイネの葬儀には教官たちはもとより、彼のクラスメイトの他に士官学校の各学年の首席の学生も参列予定みたいだ。

 

メアリーはついさっき、その旨を教官から伝えられた。

 

「う、うん。それで?」

 

「でも、赤の他人の葬式何てしけた式典に参加するなんて面倒じゃない?だから首席である私の代わりに貴女がその葬式に出てくれない?」

 

「えっ?」

 

「貴女が『出る』って言うなら、私の方から教官に伝えておくから」

 

メアリーとしては交流が無かった先輩の葬式なんて参列するなんて面倒なので、自分の名代としてフェイトに出て欲しいと頼んで来た。

 

通常ならば、フェイトは断るが、今回は事件の捜査もあり、葬儀の出席者たちの中にもしかしたら犯人がおり、彼の葬儀の中で何らかのリアクションがあるかもしれないと思ったフェイトは、

 

「分かった」

 

メアリーの代理としてハイネの葬儀に参列する事にした。

 

「ただ、私以外にチンク・ナカジマ候補生も葬儀には参列させてもらうから」

 

「チンク?ナカジマ?‥‥ああ、あの眼帯チビね。まぁ、葬式に出てくれるならなんでもいいわ」

 

フェイトが自分の代わりにハイネの葬儀に参列する事が分かるとメアリーはもう興味なさげにその場から去っていく。

 

(この場にチンクが居なくて良かった‥‥)

 

チンクは自分の身長にコンプレックスを抱いている。

 

そんなチンクが、あまり好感を抱いていない‥むしろ嫌悪しているメアリーから『チビ』などと言われて黙っていられるだろうか?

 

それこそ、某錬金術師兄弟の兄の如くキレるかもしれない。

 

まぁ、何にせよ明日はチンクと共に事件被害者の葬儀に出る事になったフェイト。

 

そして翌日‥‥

 

今回の事件の被害者であるハイネ・クラウンの葬儀はクラナガンの公共墓地でとりおこなわれた。

 

この日は被害者の家族たちの気持ちを表現するかのようにどんよりとした空模様で、今にも雨が降りそうだった。

 

「‥‥このたびはご不幸な事故で‥‥」

 

「ご愁傷様です‥‥」

 

意気消沈している遺族にお悔やみを申し上げる複数のささやきがする。

 

遺族と学校関係者以外の参列者たちには今回の件については事故として知らせてあるみたいだ。

 

「フェイトが今回、あの負け犬メアリーの名代として葬儀に参列したのはこの参列者の中に犯人が居ると思っているからか?」

 

「犯行現場、犯行の状況からして外部からの侵入者とはとても思えない。犯人は学校関係者以外考えられないから」

 

「そうだな」

 

やがて、被害者の亡骸が眠る棺が墓穴へゆっくりと降ろされていく。

 

空模様と同じように葬儀は重苦しく進行し、学年代表が被害者へ弔辞を述べる。

 

「弔辞、学年代表、マスミ・ウィンザード」

 

弔辞を述べるのは三年生首席のマスミ・ウィンザードがその役目を務めた。

 

(奴が弔辞を読み上げるのか?葬儀の場に似つかわしくない冗談だな)

 

チンクはマスミが弔辞を述べる事に内心嘲笑する。

 

クラスメイトに聞き込みをしてみると、マスミだけが異なる印象をハイネに持っていたことから、どうみてもマスミとハイネの間に友人関係があったのかと思ってしまう。

 

マスミが弔辞を述べるのも彼が三年生の首席だからと言う学校側のポーズにすぎない。

 

「はい」

 

教官に言われ、参列者の列から一歩前に出たマスミは弔辞が書かれた紙を取り出して弔辞を読み上げ始める。

 

「つ、謹んで、学友ハイネ・クラウン君にお別れの言葉を捧げます」

 

緊張しているのかマスミの声は裏返っている。

 

「君の突然の死に、クラスを始めとする学年一同が打ちのめされたような強いショックと悲しみを抱いております。いつも快活で向上心に溢れていた君は試験勉強の時の徹夜でも『自分の取り柄は健康だけだ』なんて言ってそのタフさは人一倍だっただけにまさかこの様なことになるとは‥‥『信じられない』の一言に過ぎません。今こうして、君の霊前にこうして弔辞を述べていながらも未だに君が還ってきそうでなりません」

 

「弔辞としての形式は整っているが、心のこもっていない読み方だな」

 

チンクはマスミの弔辞の内容と読み方に違和感を覚える。

 

「君は常に学年上位の成績をおさめ、学業の上では良きライバルでした。しかし、将来は次元の平和を守るため、士官学校の学生としていわば私たちは戦友とも言えるかけがえのない大切な仲間でした。共に次元の平和を守るため、次元の海を渡る日を夢見ながら卒業を控えた時期にまさかこの様な不慮の事故で君の命が失われてしまおうとはとても残念でなりません。将来の管理局にとって大きな損失だったと言えるでしょう。痛切の極み‥これに勝るモノはありません。此処に残された同級生一同、君の意志を継いでますます学業に精励する事を此処に誓います。願わくば、ハイネ・クラウンの霊がやすらかに眠らん事を祈り、別れの言葉に変えたいと思います」

 

マスミが弔辞を読み終えると、ハイネの母親、そしてカテジナ、その他の女性の参列者たちは涙を流す。

 

彼の弔辞はチンクが言うようにまさに非の打ち所がない弔辞であり、最初は緊張しているためか声が裏返るが、言葉に詰まることなく弔辞を読み上げたその姿勢は非の打ち所がない姿勢であった。

 

つまり、聞き終えた瞬間、忘れるような没個性的な弔辞であったし、普段の学校内でのマスミの生活を見ると、その内容に気持ちがこもっていない証拠であった。

 

しかし、クラスメイトの誰もがこの場の空気を読み、彼の弔辞に対して野次を飛ばすような事はしなかった。

 

そして、マスミはそんな遺族たちへ一礼する。

 

やがて葬儀社の社員たちは棺の上から土を被せる。

 

土が被せられると墓石がその上に建てられ、花が添えられる。

 

参列者たちが次々と墓前から去っていく中、

 

「この度はご愁傷様です。クラウンさん」

 

フェイトがハイネの父親に声をかける。

 

「貴女は確か‥ハラオウン執務官ですか?」

 

「はい」

 

「わざわざ仕事の合間に息子の葬儀に?」

 

「いえ、今の私は士官学校の一年‥亡くなられたご子息の後輩にあたります」

 

「そうですか‥‥しかし、管理局で有名な方に参列してもらい、息子もきっと喜んでいる事でしょう」

 

「‥‥クラウンさん。実は現在、私は今回の事件を捜査するように士官学校の校長先生より、密命をおびております」

 

「そ、それは‥‥ではどうか、犯人を捜しだし相応の刑罰を与え下さるようお願い致します」

 

「むろんです。全力を尽くしてご子息の仇を報じさせていただきます」

 

「ありがとうございます」

 

「ですが、犯人を確保するまではどうかご子息の死の真相は‥‥」

 

「分かっております。管理局と士官学校の名誉にかかわる事ですから」

 

「‥‥」

 

フェイトは偽りなくハイネの父親伝えると同時に、息子を失い悲しみにくれる父親に息子の死が殺人であることをまだ口外しないように念をおさねばならない事に罪悪感も覚える。

 

せめて犯人が捕まるまでの間ではあるが、息子の本当の死の原因を隠さなければならない辛さは、犯人を特定することが出来ないフェイトの悔しさよりも遺族の方が何倍も辛い筈だ。

 

(彼のためにも‥‥そして、家族を失ったあの人たちのためにも何としてでも犯人を捕まえないと‥‥)

 

彼らの無念を晴らすのは犯人の特定と検挙‥‥それしかない。

 

「あ、あの‥それを踏まえてお聞きしたいことがあるのですが‥‥」

 

「なんでしょう?」

 

「最近、何かトラブルのような事はありませんでしたか?」

 

「トラブル‥‥ですか?」

 

「はい。ほんの些細な事でも良いんです」

 

「うーん‥‥いえ、思い当たる節はありませんね」

 

「そうですか‥‥」

 

実家の誰かが恨みを買い、ハイネが狙われたのかと思ったが、クラウン家では特にトラブルらしいトラブルは起きていない様だ。

 

しかし、自分たちは何とも思っていなくとも、やられた方は恨みをいだいているかもしれないので、一概に彼の言う事を全て鵜呑みには出来なかった。

 

「被害者のご遺体は埋葬されてしまったな‥‥もしも、遺体に犯人を示す手掛かりや証拠があったらと思うとこれは不味いな」

 

「うん。元々今日の葬儀自体があまりにも急だったんだよね‥‥」

 

「学校側が面子を気にしていたためか、遺体の保存についての問題か‥‥」

 

「チンクの言う通り、遺体に何らかの手掛かりがあったためか‥‥」

 

「何にせよ、既に遺体は土の中だ。仮に遺体に手掛かりがあったとしても、もう手遅れだ」

 

「そうなると、遺体以外で犯人を見つけるしかないか‥‥」

 

公共墓地から士官学校へと戻り、今後の捜査方針を考えていると、

 

チンクの下に養父であるゲンヤが倒れたと言う内容の連絡が入った。

 

「えっ!?父上が!?そ、それで、容体は!?」

 

『父さんは大したことないって言っているけど‥‥』

 

「‥‥」

 

ディエチからゲンヤの容体を伝えられ、本人はそこまで重病ではないみたいだが、それでも心配だ。

 

更にフェイトの方にもリンディが過労で倒れたと言う知らせが届いた。

 

ガーラミオで起きた管理局‥いや“海”の上層部の腐敗を表面化させる事件があり、リンディもレティもここ最近は事件の火消しに多忙な日々を送っていたので、遂に無理がたたり過労で倒れてしまったのだ。

 

二人とも死亡した訳ではないが、殺人事件の捜査をして今日はその被害者の葬儀に参列したばかりのフェイト、チンクにとってはやはり大事な人が入院したと聞けば心配、不安に思うのも当然の反応だ。

 

二人は教官に事情を説明し、翌日病院へと見舞いに出かけた。

 

もっともリンディとゲンヤはそれぞれ別の病院に入院していたので別行動となった。

 

陸士108部隊の近くにある病院へと見舞いに来たチンクは受付にてゲンヤの家族である事と身分証明書を提示してゲンヤが入院している病室を見舞う。

 

「いや~すまんな、お前さんも士官学校の勉強で忙しいのに、わざわざ見舞いに来てくれて」

 

ベッドの上で入院衣を着て、チンクの見舞いを受けるゲンヤ。

 

「いえ、教官に話したら快く外出を許可してもらえたので‥‥」

 

“陸”とは言え、一部隊の長の見舞いと言う事で学校側もチンクの外出許可をすんなりと許可したのだ。

 

「しかし、ディエチから父上が倒れて入院したと聞いて驚きましたが入院の原因は一体‥‥?」

 

「実はギックリ腰になっちまって‥‥ここ最近、ずっとデスクワークばかりだったんで、久しぶりにジムで運動したら、腰をグキっとやっちまってな」

 

「そ、そうですか‥‥」

 

ゲンヤの入院原因がギックリ腰だったことに顔を少し引き攣らせチンク。

 

とは言え、死につながるような重病ではなかったので、同時に少しホッとした。

 

「しかし、これを機に多少なりとも運動を勧めますぞ、父上」

 

「ま、まぁ、気が向いたらな‥‥」

 

デスクワークばかりで運動不足を気にしていざ、ジムに行ってみればギックリ腰となったので、ゲンヤが今後運動をちゃんとやるのかやや疑問なところである。

 

「‥‥あ、あの‥父上」

 

「ん?なんだ?」

 

チンクの脳裏には昨日参列したハイネの葬儀風景が過る。

 

マスミの形だけの弔辞は兎も角、家族・身内を亡くした遺族たちの悲しむ姿が目に焼き付き、かつて自分が手にかけたゼスト隊の隊員もあの時の遺族と同じ悲しみを抱いたに違いない。

 

そして、自分は手にかけてはいないが、彼の妻であるクイントも葬儀を挙げたはずだ。

 

その時、スバルもゲンヤも昨日見たハイネの遺族みたいに深い悲しみに包まれた筈だ。

 

自分以外の姉妹‥ノーヴェ、ディエチ、ウェンディはゼスト隊事件が起きた時、まだ稼働していなかったので、ゼスト隊事件とは無関係であるが、自分はその事件に大きく関係している。

 

“陸”の一部隊の長で、クイントの夫であるならば、自分がゼスト隊事件に関係している事をゲンヤは当然知っている筈だ。

 

ならば何故、事情を知っていながら自分を引き取ったのだろうか?

 

チンクはその真意をゲンヤに聞きたかったが、

 

「い、いえ‥‥では、私はこれで‥‥」

 

真相を知るのが怖く聞くに聞けなかった。

 

(私はこんなにも臆病だったのか‥‥)

 

チンクはそんな自分の一面に気づかされた。

 

「ああ、勉強頑張れ」

 

「はい」

 

ゲンヤの容体を確認したチンクは病院を後にした。

 

 

一方、その頃フェイトの方は、本局内にある病院を訪れていた。

 

「まさか、過労で倒れるなんてね‥‥私も年かしら?」

 

ゲンヤ同様、ベッドの上に入院衣姿のリンディが過労で倒れた自分自身へ自嘲めいた笑みを浮かべる。

 

とは言え、リンディは毎晩徹夜続きだったが、今回過労で倒れて入院した事で、久しぶりにベッドで眠ることが出来た。

 

「そ、そんなことないよ。それにあの事件はあまりにも大きな規模の事件だったし‥‥」

 

スバルが解決に協力したガーラミオで起きた事件についてはフェイトも当然知っている。

 

なにしろ、ニュースでも大々的に放送され、事件後にクロノと連絡をとり、そんな事件だったのか、

 

スバルがどういった経緯で事件捜査に協力したのかを聞いてはいたが、その後の本局幹部たちの多忙さまでは詳しく知らなかった。

 

クロノもリンディも士官学校で勉強を頑張っているフェイトに心配をかけまいとして、事件の後日談について話していなかったのだ。

 

「それにしてもまさか、スバルがあの事件捜査に協力していると知った時は驚いたよ」

 

「ええ、私も事件の一報を聞いた時は二重の意味で驚いたわ。そう言えば、はやてさんも最近、ある事件を解決したみたいよ」

 

「えっ?はやてが!?」

 

スバルに続き、はやてが何らかの事件を解決した事を今知った。

 

「はやてが解決した事件ってどんな事件だったの?」

 

殺人事件の捜査をしているフェイトとしては、友人が解決した事件が一体どんな事件だったのか興味があった。

 

「フェイトは、はやてさんが今、新型艦の艦長を務めて、テスト航海に出ている事を知っているかしら?」

 

「あっ、うん。知っているよ」

 

先日、シャマルの行方をクロノに聞いた際、彼女がはやての艦の船医を務めているとの話を聞いていた。

 

「そう‥それで、はやてさんが艦長をする艦が、テスト航海をしていると不審な動きをする船に遭遇したみたいでね、ガーラミオの一件からまだ間もなかったから、はやてさんはその船に臨検をかけたのよ」

 

「あの事件の直ぐ後なら当然の行動だね」

 

「それで、停船命令を出すとその船は命令に従わずにその場から逃走したわ」

 

「逃走?ますます怪しいね」

 

「当初は、管理局の新型艦を見て、管理局の名をかたる海賊やテロリストかと思われたんじゃないかと思ったそうよ」

 

「まぁ、新型艦はこれまでの管理局の艦と形状が異なるから、事情を知らない民間船舶の船員が、『自分たちは管理局だ』と言っても信じないのも無理はないね」

 

「でも、その後不審船は臨検を受けたんだけど、積荷の検査を拒否してね」

 

「えっ?拒否?それって怪しさ満点じゃない」

 

「はやてさんもそう思ってね。積荷の検査を拒否するなら公務執行妨害で摘発する旨を船長に伝えると渋々積荷の検査に応じたみたいだけど‥‥」

 

「だけど?」

 

「積荷のコンテナの中から保護動物の毛皮や剥製が出て来たのよ」

 

「保護動物?それって狩猟が禁止されている動物じゃないの?」

 

「ええ、だから見つかった積荷は密猟品ってことね」

 

(エリオやキャロがその場に居たら物凄く怒っていただろうな‥‥)

 

自然保護官をしているエリオやキャロにとっては密猟者は摘発すべき犯罪者なので、密猟品を輸送していたその船の乗員たちも間接的には密猟者と成り得るので、自然保護官にとっては憎むべき犯罪者である。

 

「テスト航海でそんな事件が‥‥」

 

「ええ、こっちの事件はガーラミオでの事件と違って公に公表はされていないけど、捜査が進んで、いずれはガーラミオで起きた一件の火消しとして報道されるんじゃないかしら?」

 

ガーラミオで起きた事件は管理局‥“海”には致命的なスキャンダルであった。

 

しかし、そのスキャンダルをはやてが密猟品を輸送していた船を摘発したと言う実績で払拭または話題をそちらへ逸らそうと言う魂胆が本局にはあった。

 

だが、後日その押収した密猟品が押収倉庫から密かに持ち出された事実に本局は再び批難される事となった。

 

(でも、スバルもはやても凄いな‥‥)

 

(身近で起きた事件を短時間で解決したんだから‥‥)

 

自分とチンクも現在、殺人事件の捜査をしているが、犯人の特定まで至っていない。

 

反対にスバルとはやては、事件を短期間で解決している。

 

フェイトとしては何だか自分の力の無さに打ちのめされそうになる。

 

(ううん、諦めちゃダメよ!!私が犯人を見つけないと!!誰が被害者の無念を晴らすって言うのよ!!)

 

「どうしたの?フェイト」

 

「えっ?っ、ううん、何でもないよ」

 

フェイトの険しい表情に気づいたリンディが声をかけ、それに気づいたフェイトは我に返った。

 

「そ、それじゃあ、私は戻るね」

 

「ええ、わざわざ来てくれてありがとう」

 

事件の事を知られ、これ以上リンディに心配をかけましとしてフェイトはリンディの病室を後にした。

 

フェイトとチンクが士官学校へ戻ると、教官たちの動きが慌ただし様子だった。

 

「ん?なんだ?」

 

「何かあったのかな?」

 

教官たちの様子から何か起きたのは明白だ。

 

「すみません。何かあったんですか?」

 

フェイトが近くを通りかかった教官に何事かと訊ねる。

 

すると、とんでもない返答が返ってきた。

 

「また殺人事件が起きた」

 

「えっ?」

 

「また殺人‥だと‥‥?」

 

フェイトもチンクも一瞬唖然とする。

 

「そ、それで、被害者は?」

 

フェイトは一体誰が殺されたのかを問う。

 

「アナキン・ナナバルク。先日亡くなったハイネ・クラウンと同じ三年生で、学年次席の秀才だった学生だ」

 

「くっ‥‥」

 

ダン!!

 

フェイトはまたもや殺人事件が起きてしまった事実に悔しさから壁を強く叩く。

 

「やってくれたな‥‥犯人は‥‥」

 

「そうだな。犯人は私たちが今日、士官学校を外出する事を知って、第二の事件を引き起こしたに違いない」

 

先日のハイネの事件は深夜‥夜勤当直、巡回の職員以外眠っている時間で起き、そして第二の事件は、捜査をしているフェイトとチンクが所用で士官学校を留守にしている時、まるで二人を挑発するかのように起こした。

 

その事実にフェイトはもとよりチンクもご立腹だ。

 

「また、人が‥学生が殺されてしまった‥‥これは私の責任だ‥‥」

 

自分が早期に事件を解決していれば第二の犯行を防ぎ、学生が死ぬことはなかった。

 

フェイトは自分を責める。

 

「いや、これはフェイトだけの責任ではない。私も同罪だ」

 

気休めにしかならないかもしれないが、自分もフェイトと共に捜査をしていたのだから、第二の事件を防げなかった責任はフェイトだけのモノではないとチンクはフォローする。

 

「それで、現場は?」

 

「こっちだ」

 

教官は第二の事件現場へ二人を案内する。

 

事件現場は男子用のトイレ‥‥

 

遺体は既に別室へ片付けられていたが、現場の様子から被害者が用を終えて手を洗っていた時に背後から襲われて一番奥の個室へ押し込められていた形跡が被害者の血痕が物語っている。

 

「遺体は奥の個室に押し込められていたが、犯行現場は間違いなく此処だ」

 

「「‥‥」」

 

血の痕が生々しく残る現場を見て、犯人への怒りが沸く二人。

 

「それで、被害者の死因と死亡推定時刻は分かっていますか?」

 

「保険医の報告によれば‥‥」

 

短期間に二人の遺体の検死をすることになった保険医には本当にご苦労様としか言えない。

 

「死因は鋭利な刃物によって刺された失血死。死亡推定時刻は今日の午後三時頃らしい」

 

「今度の凶器は刃物か‥‥」

 

「勿論、現場からは凶器らしき刃物は出ていない。犯人が犯行後、持って行ったのだろう」

 

(凶器を現場から持ち去る点は共通しているが、第一の事件では鈍器のようなものと曖昧だった‥‥しかし、第二の事件では鋭利な刃物とはっきりしている)

 

(持ち去ったと言う事は現場に放置しておくと凶器から犯人がバレてしまうようなモノだったのか?)

 

凶器が持ち去られる共通点があるものの二つの事件に違和感を覚えるチンク。

 

そこへ、

 

「ハラオウン候補生」

 

「はい」

 

「校長先生がお呼びだ」

 

「分かりました」

 

校長のミハイルが呼んでいると別の教官が呼びに来た。

 

ミハイルが自分を呼んでいる理由はこの第二の事件についてだろう。

 

フェイトが校長室へ行くと、ミハイルが険しい表情で窓の外を見ていた。

 

「君が捜査の任に就きながら、第二の事件が防止されなかったのは残念な事だ」

 

(責任と言うなら、校長先生。貴方の管理責任が第一だと思いますが?)

 

第一の殺人事件が起き、犯人がまだ検挙されていなかった中で、学生に対して注意喚起を厳重にしなかった学校‥ひいては校長の監督責任も重大な責任だと思うもそれは口にしないフェイト。

 

「私としても残念だ。アナキンは私に秘密裏に相談したい事があると言っていた。今となってはもしかしたら、彼は犯人の心当たり‥‥若しくは犯行を目撃するなりしており、それを私に知らせようとしていた所、犯人に口封じされたのかもしれん」

 

「ありえるかもしれませんが、何故その件を私に知らせてくれなかったのですか?もし、その件を知らせてくれていれば、第二の事件は防げたのかもしれませんよ」

 

「今にして思えばと言う事で、あの時はまさかこんなことになるとは予期できなかったのだ。それに君も他の心配事があったみたいだしな」

 

「‥‥」

 

リンディが入院したと言う知らせは確かにフェイトにとって心配事の一つであった。

 

しかし、事件に関わる情報であるならば、せめてその情報は伝えてもらいたかった。

 

「捜査権がある限り、今後は些細な情報は全て私かナカジマ候補生に伝えて下さい。では、失礼します」

 

ミハイルへ苦言を言うとフェイトは校長室を後にした。

 

(はやてやスバルに負けない気持ちで今回の事件捜査に乗り出すつもりがまさか第二の事件が起こるなんて‥‥)

 

校長室から寮の自室へ戻る中、フェイトは再び責任感に押しつぶされそうになる。

 

しかし、フェイトに立ち止まる事は許されなかった。

 

亡くなった二人の学生のためにも‥‥

 

 

此処で視点はミッドチルダからエリオとキャロが自然保護官として務める自然管理世界ポルテに移り、時系列はキャロがランティスにミッドチルダに一時呼ばれた後、再びポルテに戻った日に戻る。

 

「そう言えば、キャロは何でミッドに呼ばれたの?」

 

エリオがキャロにミッドへ呼ばれた理由を訊ねる。

 

フェイトはキャロにミッドチルダへ来てもらいたい理由を言ったが、エリオには言っていなかった。

 

「実はこの前、無限書庫のユーノさんからアルザスについて聞かれて‥‥」

 

「アルザス?それって確かキャロの生まれ故郷だよね?」

 

「うん。それで、アルザスのとある洞窟でヴォルテールにそっくりな竜の壁画が見つかってその意見を聞きたいって言われて‥ユーノさんの知り合いの大学教授から」

 

「えっ?大学の教授?」

 

「そう、私に話があったのはその大学教授さんだったの」

 

「それで何か分かったの?」

 

「壁画に描かれていたヴォルテールそっくりな竜はやっぱりヴォルテールだった」

 

「えっ?そうなの!?でも、その壁画は最近描かれたモノなの?」

 

「ユーノさんの知り合いの大学教授さんが言うにはかなり昔の壁画みたい」

 

「でも、そんな昔の壁画にヴォルテールが?」

 

エリオとしてはそんな昔からヴォルテールが生きていたのかと不思議に思う。

 

普段一緒に居るフリードはキャロが卵から孵化した時に一緒に居たり、此処で保護している野生動物は人よりも一生が短かったり、人と同じくらいの寿命なので、ヴォルテールの寿命に関して疑問に思うのも当然であった。

 

「竜の寿命は人と違ってかなり長いから大昔の壁画にヴォルテールが描かれていてもおかしくは無いよ」

 

そんなエリオに対して通常、竜の寿命は人よりも長い事を教える。

 

「それじゃあ、フリードも?」

 

「うん。私たちよりも長生きするかもね」

 

当然、フリードも竜なので長生きするみたいだ。

 

「私が死ぬ時、近くにフリードを託せる人が居たら、その人にフリードを託すつもりだよ」

 

「キュルル~‥‥」

 

キャロが死ぬなどそんな事を想像したくないのかフリードは悲しそうな声を出す。

 

「大丈夫だよ、フリード。まだまだ先の事だから」

 

そんなフリードにキャロはまだ先の未来の事なので、暫くは一緒に居る事を伝える。

 

「それとその壁画にはヴォルテール以外にもう一体の竜の絵が描かれていたの」

 

「もう一体の竜?」

 

「うん。私は記憶がなかったんだけど、大学教授さんやユーノさん、フェイトさんが言うには、私はその竜についても話していたみたい」

 

「記憶がない?」

 

「そう‥‥でも、フェイトさんたちは私がまるで知っていたかのように話していたって‥‥」

 

「キャロはもう一体の竜について何も知らなかったの?」

 

「全然知らなかった。壁画で初めて見た竜だった」

 

「一体どんな竜なの?」

 

「破壊竜ヴォルデモート‥‥って私は言っていたみたい」

 

「破壊竜‥‥なんか物騒な名前の竜だね」

 

「そうだね。それで今、はやてさんたちがその竜の契約者を捜しているって聞いた」

 

「その竜の契約者さんが悪い人でないといいね」

 

「うん」

 

未だに見つからない破壊竜ヴォルデモートの契約者‥‥

 

一見するとそんな竜が存在しているのか?

 

もしかしたら、そんな竜は存在しないのではないか?

 

そんな疑問があるが、壁画に描かれているヴォルテールがちゃんと存在している事から捜してみる価値はある。

 

JS事件の際、白天王を召喚したルーテシアと対峙した経験からエリオもキャロもその竜の契約者が犯罪者でない事を願うばかりであった。

 

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