星の海へ   作:ステルス兄貴

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二百六話 士官学校殺人事件 そのⅣ

 

 

フェイトとチンクが在学中である管理局の士官学校で起きた殺人事件。

 

執務官資格と捜査経験がある事からフェイトとチンクの二人がこの事件の捜査を行う事となった。

 

被害者は三年生の学生で、未だに犯人の目星も凶器も動機も分からないまま、フェイトとチンクが所用で士官学校を外出している間に二人の留守を狙うかのように第二の事件が発生した。

 

第一の事件同様、第二の事件でも被害者は三年生の学生であった。

 

第二の事件を未然に防げなかった事からフェイトは士官学校校長であるミハイルよりおだやかな毒舌を受けるがフェイトは抗弁しなかった。

 

しかし、ミハイルは第二の事件が起きる前に、その第二の事件の被害者であるアナキンから秘密裏に何らかの相談を受けて欲しいと頼まれていたが、ミハイルはその相談を受けなかった。

 

もしもその相談を受けていたら第二の事件の発生は防げたのかもしれない。

 

そうした点や士官学校で起きた事件の観点から最大の責任は校長であるミハイルにある筈である。

 

今後はそうした些細な情報でも包み隠さずに事件捜査をしている自分かチンクに伝えるようにフェイトはミハイルへ釘をさしたのだった。

 

翌朝、フェイトとチンクの姿は第一の事件現場である原材料倉庫にあった。

 

第一の事件の被害者であるハイネの人柄について訊ねまわっていた時、『彼は寮の食事についての不満が多かった』と言う証言があったのを思い出したのだ。

 

「捜査に行き詰ったら現場に戻るのは、捜査における基本中の基本だ」

 

そう言うチンクであるが、実際に捜査は行き詰っていた。

 

それに第二の事件よりも第一の事件の方が未だに違和感が多いのも事実だ。

 

第二の事件でも凶器は見つかっていないが、被害者の死因は刃物に刺された事による失血死であったが、第一の事件では被害者の死因が頭蓋骨陥没であった事から凶器が鈍器の様なモノなのだろうが、その鈍器がどんなモノなのか判明していない。

 

無人の倉庫内を歩き回るが、やはり第一の事件の手掛かりの様なモノは見つからない。

 

そしてフェイトが第一の事件の被害者が倒れていた現場で立ち止まり周囲を見渡している中、彼女の近く‥頭上から白い粉の様なモノがパラパラと降って来た。

 

それを見たチンクは当初、埃かと思ったが、白い粉は断続的にパラパラとフェイトの周囲に降っている。

 

しかし、フェイトはその粉の存在に気づいていない。

 

「ん?」

 

そこで、チンクが上を見上げると、頭上からフェイトに危険が迫っている事に気づいた。

 

「フェイト!!危ない!!」

 

声に出したつもりであったが、実際は声よりも全身の方が迅速に動いていた。

 

チンクはフェイトに思いっきり飛びつき数メートルほどの距離を高速で水平移動した直後、先ほどまでフェイトが立っていた場所に別の物体が垂直落下して倉庫の床にバスン!!と重々しい音と共に白い微粒子を舞い上げた。

 

垂直落下してきた物体の正体は倉庫に積み上げられていた重さ三、四十キロはあろう小麦粉がぎっしりと入った袋であった。

 

「「‥‥」」

 

二人は数秒間、床に座り込んだまま落ちて来た小麦袋を注視していた。

 

「あっ!?そうか!!」

 

すると、フェイトは床に落ちている小麦袋を見て何かに気づく。

 

「ん?どうした?フェイト」

 

「チンク!!凶器はコレよ!!この小麦袋が凶器だよ!!」

 

フェイトは床に落ちている小麦袋を指さす。

 

「この小麦袋が凶器?」

 

チンクは小麦袋でどうやって人を殺すのかと首を傾げる。

 

「そう!!きっと、あの事件の夜も倉庫に入り込んだ被害者の頭上に小麦袋が落ちて来たんだ!!今、落ちて来た様にね!!」

 

フェイトは倉庫に積み上げられている小麦袋こそ、ハイネの命を奪った凶器だと断定した。

 

「この小麦袋の重さは少なくとも三十キロから四十キロ‥‥それが十五メートルの高さから頭に落ちたら人間の頭蓋骨なんて簡単に割れてしまうよ」

 

フェイトは積み上げられている小麦袋を見上げながら言う。

 

「しかし、現場には小麦粉なんて落ちていなかったんだろう?」

 

「それは今に分かるよ」

 

「えっ?」

 

暫くすると床に落ちた小麦粉を感知した自動集塵装置が作動して床に落ちている小麦粉は全て清掃され、床には小麦粉が入っていた袋だけが残る。

 

「ほら、これで小麦粉は無くなった」

 

「しかし、小麦粉は集塵装置で綺麗になったが、袋自体はこうして床に残るぞ」

 

チンクは頭上を警戒しながら床に残った小麦袋を摘まみ上げる。

 

「袋は折りたたんで服の下に隠しておけば、凶器は消失して、出入り口に鍵を掛ければ密室殺人の完成だよ」

 

「だが、その推理には穴があるぞ、フェイト。もし、最初の事件の被害者が落ちて来た小麦袋で死んだのであるならば、何故袋を持ち去る必要がある?袋をそのままにしておけば、凶器が小麦袋と分かって最初の事件は事故として処理されるはずだ。仮に凶器が小麦袋ではなく鈍器のようなモノで被害者を撲殺した場合でもそっちの方が犯人としては都合が良い筈だ」

 

通常殺人事件を起こした犯人は自分の犯罪がバレないようにするため、被害者の遺体や現場には事故や自殺の様な痕跡を残して捜査員を殺人ではなく事故や自殺に誘導する筈だ。

 

仮にチンクが言うようにこの事件に犯人がおり、ハイネを鈍器の様なモノで撲殺したのであるならば、凶器を偽装するために小麦袋を現場に置いていくはずだ。

 

しかし、この事件の犯人は事故ではなくいかにも殺人事件であるかのような現場にした。

 

殺人を犯し、気が動転してそのような偽装をし忘れたかもしれないが、それでもフェイトには床に落ちている小麦袋を見て、最初の事件が殺人ではなく事故である様に思えた。

 

「小麦袋を回収する事が出来るのは第一発見者のあの用務員さんだけど‥‥」

 

第一発見者の用務員はハイネの死体を見つけ悲鳴をあげる前に小麦袋を回収するには十分な余裕があった。

 

「となると、やはり犯人はあの用務員か?」

 

「でも、事故だったとしたら用務員さんが袋を回収する意味があるのかな?」

 

いくら用務員が学校関係者だとしても、用務員にハイネの死亡事故に責任が伴うモノだろうか?

 

フェイトがそんな疑問を抱くが、

 

「いや、責任問題は発生するかもしれないぞ」

 

しかし、チンクは用務員に責任問題が生じる可能性があると指摘する。

 

「えっ?どういうこと?」

 

「ハイネの死因が小麦袋の落下によるものだったら、小麦袋をあのような野積みにして、落下する危険性があったにもかかわらず、改善せずにそのまま放置していた用務員にも責任問題が生じるかもしれないと言う事だ。むろん、責任問題と言う点では校長の方が重大であるがな」

 

「なるほど‥事故の場合、学校側‥校長が管理責任を問われるけど、殺人事件が起きたなんて不名誉は回避することが出来た筈だし、責任は犯人が負うから校長の責任問題も負わずに済む‥‥ん?責任問題?‥‥まさか‥‥」

 

「ん?どうした?何か分かったのか?」

 

「ううん、まだ憶測の域を越えていないから後でクロノに調べてもらおう‥‥もう一つ、最初の事件が事故の場合、ハイネが一体どこからこの倉庫に侵入したのか?その侵入路を見つける事だね」

 

小麦袋の落下から第一の事件は殺人ではなく事故として仮定し、ハイネが出入り口以外にどこからこの倉庫に侵入したのか、彼が使用した侵入路の捜索となった。

 

もし侵入路が分かれば、第一の事件は殺人から事故へと変わる大きな証拠になる。

 

「「‥‥」」

 

外部からの侵入路と言うで、フェイトとチンクは倉庫の周りを入念に見て回る。

 

そして、

 

「ん?」

 

「どうしたの?チンク」

 

「フェイト、この通風孔のネジ、最近に弄られた跡があるぞ」

 

「えっ?どこ?」

 

倉庫の床部分に設置されている通風孔の一つにネジ穴を最近になって弄った跡が見つかった。

 

そこで、用務員からドライバーを借りてネジを外し、通風孔の金網を外すと倉庫の内部へ侵入することが出来た。

 

「これで、密室のトリックも判明したな」

 

「そうだね。小麦袋に通風孔‥最初の事件は殺人の可能性もまだあるけど、事故の可能性の方が高くなったよ。でも、第二の事件は正真正銘殺人事件だろうけど‥‥」

 

「それで、フェイトは何を調べてもらうつもりなんだ?」

 

「それは直ぐに分かるよ」

 

「しかし、第一の事件が事故だったにせよ、第二の事件は殺人事件なのは間違いないが、犯人の動機は一体‥‥」

 

「元々第二の事件の被害者が誰かに恨まれていたか‥‥?」

 

「被害者は三年生の次席らしいからな。今回は『成績を疎まれて』って事も考えられるな」

 

「でも、そうなると何で次席の学生なのかな?成績で‥って話なら次席の学生よりも首席の学生を狙う筈だよ」

 

「た、確かに‥‥そうなると次席の学生個人がやはり誰かから恨まれていたのか‥‥それとも何か別の動機があるのか‥‥いや、仮に第二の事件の被害者が誰かに恨まれていたとしても何故このタイミングで殺したんだ?」

 

チンクは第二の事件が起きたタイミングにも疑問を持つ。

 

「確かに、今の士官学校は第一の事件で殺人犯がいるかもしれないとピリピリするか、疑心暗鬼になっているから、事件を起こすにはタイミングがおかしい‥‥」

 

第一の事件が事故だとして、第二の事件の犯人は第一の事件が事故だと知らず、連続殺人に見立てようとしたのか?

 

それとも犯人はこのタイミングで事件を起こさなければならない理由があるのだろうか?

 

ひとまず、フェイトとチンクは急ぎクロノへ連絡をいれた。

 

『やあ、フェイト。どうしたんだい?またシャマルについてかい?』

 

(ん?また?)

 

チンクはクロノの言葉に違和感を覚える。

 

「フェイト、『またシャマルについて』ってどういうことだ?」

 

「最初の事件で、被害者の検死をシャマルに頼もうとして、クロノにシャマルの行方を聞いたの」

 

「そうか‥‥」

 

(ん?ハラオウン提督って次元航行艦勤務だった筈‥‥次元の海に出ないのか?それとも配置転換でもあったのだろうか?)

 

チンクが抱く次元航行艦乗りは常に次元の海‥宇宙を次元航行艦で回っているイメージがあったので、本局で対応しているクロノが次元航行艦乗りからリンディの様な本局勤務になったのかと思った。

 

しかし、チンクの予想は少々異なっていた。

 

現在、本局第零ドックで建造中の新型の次元潜航艦‥‥クロノはその建造中の新型次元航行艦の艤装委員長を務めていたので、本局に居るのだ。

 

「ううん、今日はシャマルじゃなくて、別の件」

 

『それはいいが、士官学校で何が起きているんだ?こんな短期間に連絡を寄越してくるのは何だか妙に思えるのだが?』

 

クロノはシャマルの件や今回の件から士官学校で何かただならぬ事が起きているのだと察した。

 

シャマルの行方を聞いた時には『いずれ話す』と言ったが、今回は二度目となるので、等価交換でフェイトが調べて欲しい件の代わりに士官学校の現状をクロノに伝えなければならないかもしれない。

 

それにクロノは口が堅いし、犯人が捕まればこの事件も公になる。

 

ならば、今の内にマスコミ対策してもらった方が管理局としてもダメージが少ないかもしれない。

 

「分かった。話すよ‥‥」

 

フェイトはクロノに士官学校で起きた殺人事件について話した。

 

『なっ!?士官学校で殺人事件だと!?』

 

案の定、クロノはフェイトからの話を聞き驚愕する。

 

『それで、その殺人事件の捜査をフェイトとチンクがしていると言うのか?』

 

「うん、そう」

 

『本局の執務官や“陸”の捜査官の介入は一切ないのか?』

 

「学校側が面子を気にしているみたい。でも、私に与えられた捜査権は一週間で、あと三、四日で、その後は本局の執務官が介入する予定だけど、多分その間にカタはつくと思う」

 

フェイトは自信ありげにこの事件は間もなく解決出来そうに言う。

 

『そ、そうか‥それは良かった。それで、一体何を調べて欲しいんだ?』

 

「それは‥‥」

 

フェイトはクロノに調べて欲しい内容を伝える。

 

『なるほど、分かった。しかし、レティ提督が今、多忙だからな‥‥』

 

フェイトから内容を聞き、クロノは少々困った顔を浮かべる。

 

『あっ、無限書庫ならあるかもしれない。ユーノの奴に大至急調べさせよう』

 

「あっ、うん。お願い」

 

フェイトがクロノに頼んで調べてもらいたい内容は人事に関係ある内容だったのだが、その人事部がガーラミオで起きた事件の影響であまりにも多忙なため、人事部に問い合わせると時間がかかるみたいだ。

 

なので、ある程度の時期が過ぎている情報であれば、バックアップとして無限書庫にも保存されているので、ユーノにフェイトが求めている情報を提供してもらおうとなった。

 

その頃、無限書庫では‥‥

 

ミッドチルダの大学にて考古学を教えているランティスがユーノの下を訪れていた。

 

「それで、教授。以前行った発掘調査で出て来た粘土板文章の解読は進んでいますか?」

 

ユーノは以前にランティスから遺跡調査の助っ人を頼まれて、ある民族が滅亡した世界へ行った。

 

その時の調査で一枚の粘土板が発掘された。

 

粘土板には絵の様なモノがびっしりと描かれており、それがかつてその世界に住んでいた古代人の文字である推測したランティスはその解読を行っていた。

 

途中、第6管理世界アルザスの洞窟で見つかった壁画の調査も並行して行ったが、アルザスの壁画については同世界出身のキャロの協力もあって解明する事が出来、その後の調査は管理局が引き継いでいる。

 

アルザスの壁画調査が終わり、ランティスは再び粘土板文章の解読に専念していたのだが、丁度彼が自分の職場である此処、無限書庫へ来たので、ユーノはランティスに進捗状況を訊ねたのだ。

 

「いや~なかなか、苦戦させられているよ。何しろ、あの世界に住んでいた民族が滅亡してしまい、その民族の末裔もおらず、辞書の様なモノもないからな、近隣の民族からの伝手などから遠回りしつつ解読しているから時間がかかりそうだ。もしかしたら、私の代では終わらないかもしれない」

 

「そんなに困難なんですか?」

 

「考古学とはそうした一面もあるのだよ。古代人たちが辿った歴史を一個人が追いかけても真実に辿り着けるのはまさに奇跡であり、我々が知る事の出来る事実はほんの一握りなのだよ」

 

ランティスの言う事はこれまで遺跡調査をしてきたユーノも分かっている。

 

「しかし、何もわかっていない訳ではない。所々ではあるが、解読できた部分もある」

 

「どんな所ですか?」

 

「例えば、此処だ。この絵は彼らの文字で『水』を表し、こっちの絵はどうやら『星』を表す言葉の様だ」

 

ランティスは解読できた絵文字をユーノに教える。

 

「水に星‥‥もしかして、この粘土板にかかれている文字は占いに関する文章が書かれているのでしょうか?」

 

古代文明においては占いで国の行く末を決める事が多々あった事が判明している。

 

星の動きで未来を占う占星術や、動物の骨を火で炙り、そのヒビの形で未来を占う骨占い、水の増減・清濁、また、水にもみ・豆などを落として沈みぐあいで占う水占いなど、その占い方法は様々な方法がある。

 

先日の遺跡調査で出土した粘土板において、解読できた文字で『水』 『星』 と判明した文字から占いに関する文章が書かれているのではないかとユーノは推測する。

 

「占いか‥‥確かに古代文明と占いは関りが深いからその説もありそうだな」

 

ランティスはユーノの推測が当たっているかもしれないと、目を輝かせながら粘土板を見つめる。

 

そこへ、

 

『ユーノ、いいだろうか?』

 

クロノから通信が入る。

 

「ん?クロノ」

 

『ちょっと調べてもらいたい事がある。早急に調べてもらいたい』

 

「えっ?調べてほしい事?なんだい?」

 

『コレについて調べてくれ』

 

クロノは一枚の紙をユーノに見せる。

 

「ん?それについては僕よりもレティ提督に聞いた方が早いでしょう?」

 

『そうしたいが、例の事件の影響で人事部は多忙で後回しにされそうなんだ』

 

「ああ、ガーラミオで起きた事件ね。噂は無限書庫にも届いているよ。スバルが活躍したって‥ナカジマ三佐やなのはもきっと鼻が高いだろうね」

 

『その事件の影響で管理局‥特に本局は蜂の巣をつついたような大騒ぎだ。業務にも支障をきたしている。兎に角、急いでそこに書かれている件について調べてくれ』

 

「分かった。今日中に調べてそっちに送る」

 

『ああ、待っている』

 

そう言ってクロノは通信を切った。

 

「仕事かい?」

 

「ええ、知り合いの提督なんだけど、いきなり資料やら、さっきみたいに古い管理局の記録を調べてくれとか言ってくるんですよ」

 

ユーノはやれやれと思いつつクロノに頼まれた件について調べ始めた。

 

「教授はどうします?大学へ戻られますか?」

 

「いや、折角だ。この書庫にも参考となる資料があるかもしれないから調べさせてもらうよ」

 

ランティスは参考文献を探しに書庫へと向かった。

 

クロノがユーノに頼んだ調べ物は直ぐに分かり、ユーノはクロノに結果を送る。

 

「頼まれていた件だよ」

 

『随分と早かったな』

 

「そこまで古くはない管理局の記録だから直ぐに分かったよ。しかし、こんな記録、一体何に使うんだい?」

 

ユーノとしてはこれまでクロノから資料やら記録やらを調べてくれと頼まれてきたが、今回の依頼はこれまでの依頼と異なり奇妙な依頼だった。

 

そのため、ユーノはクロノに今回自分が調べた記録を一体何に使うのか気になった。

 

『事件の捜査に必要な資料‥としか言えない。それじゃあ』

 

クロノはそう言って通信を切る。

 

「あっ‥もう、なんだよ。折角時間を割いて調べたのに‥‥」

 

クロノの態度にユーノは愚痴った。

 

ユーノに調べてもらった記録を受け取ったクロノは早速受け取った記録をフェイトとチンクに渡す。

 

『フェイト、頼まれていた記録だ。ユーノの奴に調べてもらった』

 

「ありがとう。クロノ」

 

クロノから受け取った記録は電子データであったが、フェイトはそれをプリントアウトした。

 

そして、改めてその記録を見る。

 

「‥‥やっぱり」

 

「ん?どうした?何か分かったのか?」

 

「此処を見て」

 

「ん?こ、これはっ!!」

 

チンクはフェイトが指さした部分を見て思わず驚いた声をだした。

 

「これが本当なら、次席の学生を殺したのは‥‥まさか‥‥」

 

チンクは犯人の目星がついた様子であるが、信じたくはないと言う感じだった。

 

それはフェイトも同じだ。

 

「とは言え、証拠がない。あくまでも犯人かもしれないってことだけど‥‥」

 

「第二の事件の凶器がまだ見つかっていない事と首席の学生が生きている事‥‥まさか、事件はまだ続き、次はあの学生が狙われるかもしれないと言う事か?」

 

「それもあるけど、犯人があの人だった場合、社会的地位もあるし守るべきモノもある。そもそも第一の事件を事故から殺人に切り替えたくらいだから、自分ではなく別人を犯人に仕立て上げる筈‥‥」

 

フェイトはもし、自分たちが予測している通りのあの人が犯人だった場合、決して犯行が自分の手によるものではなく、別人の手によって行われたモノだと偽装する筈だと推測する。

 

「別人に罪をきせるか‥‥でも誰に?」

 

「うーん‥‥」

 

別人に自分の罪をきせるとして一体誰にきせるのか?

 

もし、フェイトの推測通りならば冤罪は防がなければならない。

 

「候補としてはやはりあの用務員だろうか?」

 

チンクは第一の事件の被害者を最初に見つけた用務員ではないかと思う。

 

用務員ならば、倉庫の鍵をもっており、寮を含め学校内のあちこちを出歩いてもおかしくはなく自由に動き回れる点から犯人に仕立て上げるには丁度いい人物だ。

 

それにまだ首席のマスミが生きている事から彼が狙われる事も考えられる。

 

フェイトもチンクも次に狙われるとしたら十中八九、彼だと確信した。

 

「それで、どうする?一応、狙われるのだから忠告は入れておくか?」

 

チンク個人としてはマスミはメアリー同様あまり好感は得られない人物ではあるが、殺されるかもしれないと言う事で彼に警告をするか訊ねる。

 

「そうだね。第二の事件は防げなかったけど、第三の事件は未然に防がないと」

 

フェイトもこれ以上の殺人を防ぐためにマスミに警告することにした。

 

二人がマスミを捜すと彼は寮の共用スペースで自習をしていた。

 

「ウィンザード候補生」

 

「えっ?あっ、は、ハラオウン執務官殿」

 

マスミはフェイトに声をかけられ慌てて椅子から立ち上がり敬礼する。

 

「今は執務官じゃなくて貴方と同じ候補生だし、此処では貴方の方が先輩だからそこまで畏まらなくても大丈夫」

 

「は、はぁ‥‥それで、何か御用ですか?」

 

「貴方もこの学校で起きた事件は知っているでしょう?」

 

「は、はい。つい最近も第二の事件が起きたとか?」

 

「そう‥それで、まだ事件は起こるかもしれない‥‥そして、次に狙われるのは貴方かもしれないの」

 

「えっ!?」

 

フェイトから次に狙われるのは自分だと言われ、マスミはギョッとする。

 

「そ、それは‥確かなんですか?」

 

「うん。私とナカジマ候補生はそう思っている。だから事件の犯人が見つかるまでは、単独行動は控えて、此処みたいに人の目がある場所で過ごして」

 

「は、はい‥‥」

 

同期からマスミは元々他者との関りに消極的な所があるので、誰かと一緒に居ろと言うのは彼にとって難しい行為だったのかもしれない。

 

そんな中、

 

「そういえば、明日は持ち物検査があるって噂だ」

 

「えっ?マジで?」

 

「ああ、さっき教官たちが話していた」

 

「持ち物検査なんてしても変なモノなんてないのに‥‥」

 

近くの生徒たちが明日、抜き打ちの持ち物検査があることを噂していた。

 

「‥‥」

 

スバルやギンガ同様、戦闘機人であり耳の良いチンクはその噂話をしっかりと聞いていた。

 

その日の夜、学生たちが寝静まった時間、校舎のロッカールームに何者かが入ってくると、とある学生のロッカーにあるモノを入れた。

 

ロッカーの扉を閉める際、その人物はニヤリと口元を不気味に歪ませた。

 

翌日‥‥

 

フェイトとチンクは朝一で校長であるミハイルの下へと向かった。

 

「失礼します」

 

「ん?どうしたのかね?ハラオウン候補生。こんなに朝早くから」

 

「今回、士官学校で起きた二つの事件‥その真相が分かりました」

 

「なに!?それは本当か!?」

 

「はい」

 

フェイトの言葉にミハイルは驚愕する。

 

「失礼します」

 

そこへ、チンクが校長室へ入ってきた。

 

彼女の手には布で包まれていた何かを持っていた。

 

「チンク、それでどうだった?」

 

「うむ、予想通りだった」

 

チンクは手に持っていたモノをフェイトに手渡す。

 

「そう‥‥校長先生。これがアナキン・ナナバルク候補生を殺害した凶器です。ナカジマ候補生が、ネロ・カートライトと言う学生のロッカーの中から見つかりました」

 

フェイトがチンクから受け取ったモノをデスクの上に広げる。

 

ソレは布に包まれた一本のナイフで、そのナイフの刃には血がべっとりと付着していた。

 

「既に警備員へ連絡をして、カートライト候補生の身柄を抑えて、尋問をしている筈です。自分が今回の事件の犯人であると自供するのも時間の問題でしょう」

 

「バカな!!そんな筈がない!!」

 

「何故そう言い切れるのですか?」

 

フェイトが現状を説明すると、ミハイルは両眼と口から同時にすさまじい怒声を放つ。

 

「そんな筈がない!!アレが犯人の筈がない!!第一、そのナイフはウィンザードのロッカーに入っていた筈だ!!」

 

「‥‥ええ、その通りです。校長先生」

 

チンクは冷静にナイフが入っていた本当の場所がミハイルの言う通りだと肯定する。

 

「これはウィンザード候補生のロッカーの中から見つかりました。ですが、校長先生。どうして貴方はその場所を知っているんですか?」

 

「むっ、そ、それは‥‥」

 

ミハイルはバツが悪そうにフェイトとチンクから視線を逸らす。

 

大方、今日行われる持ち物検査で教官に見つけてもらうつもりだったのだろう。

 

しかし、教官よりも早くチンクに見つかってしまった。

 

「ナイフの件は一時置いて、今回の事件について犯人の動機を説明します」

 

フェイトはバツが悪そうにしているミハイルを尻目に今回の事件の犯人の動機については語り始める。

 

「マスミ・ウィンザード候補生は三年生の首席、第二の事件で殺されたアナキン・ナナバルク候補生は次席‥この二人が消えれば、学年主席は繰り上げとなり、三席であるネロ・カートライトとなる。ネロ・カートライト‥‥この際、彼の姓は問題ではなく、問題なのは、彼の母方の祖父の姓‥‥」

 

フェイトはポケットから一枚の紙を取り出す。

 

「サザーランド‥‥ミハイル・サザーランド‥‥これが彼の母方の祖父の名前‥‥つまりカートライト候補生は貴方の孫にあたる‥‥そうですよね?校長先生?」

 

フェイトがクロノに頼んだのは三年生の三席から十席までの学生の戸籍謄本だった。

 

管理局の士官学校は主に本局が資本で運営している学校であるので、当然そこで働く職員の情報も管理局の人事部とバックアップとして無限書庫で記録されている。

 

フェイトからプリントアウトされた戸籍謄本を見せつけられたミハイルは顔を強張らせる。

 

やがて、彼が発した声はかすれているように感じた。

 

「ハラオウン候補生‥‥私は君の過去の実績を考慮して、今回の事件の捜査を頼んだのだが、どうやら君は冗談が下手な学生の様だ。もう少しユーモアを持った方が良いのではないか?」

 

「訂正してください。出来の悪い冗談ではなく、出来の悪い事実です。校長先生」

 

「‥‥」

 

「話を続けさせてもらいます。まだオチがついていませんから」

 

フェイトの返答にミハイルはギロっとにらむが、フェイトはそれに屈することなく話を続ける。

 

その理由はミハイルが『止めろ』とは言わなかったからだ。

 

彼としてもフェイトが本当に事件の真相を突き止めたのか気になり、矛盾があればその隙を突いて言い逃れようと思ったのだ。

 

「第一の事件‥‥ハイネ・クラウンの事件‥あの事件はそもそも殺人事件ではなかった。学生たちへの事情聴取の中で、彼は日頃から寮の食事に不満を零していました。そして、『食事が貧しいのはもしかしたら、厨房関係者が物質を横流ししているのではないか?』そう考えた。そこで、実状を探ろうと夜間、寮を抜け出して倉庫に侵入した‥‥」

 

「し、しかし、倉庫には鍵がかかっていた筈だ。鍵が無ければ倉庫には入れない」

 

「侵入路については、既に判明しています。彼は倉庫の床部分に作られている通風孔の網を外して倉庫の中に侵入したのです」

 

「‥‥」

 

「倉庫に入った彼はそこで思わぬ事態にあった。倉庫の中で物資の横流しの物証を探している彼の頭上から小麦袋が落下して来た‥‥そして、落ちて来た小麦袋は彼の頭に直撃し、彼は即死‥‥校長先生、貴方は夜の巡回中に彼が開けた侵入路を見つけ、不審に思い倉庫の中に入り、彼の遺体を見つけた」

 

フェイトは第一の事件の夜の出来事をまるでその場で見ていたかのように語る。

 

「倉庫内で彼の遺体を見つけた時、貴方は困惑せざるをえなかったでしょうね。校長と言う立場から学校内で学生が事故死したなんて事実が分かれば、責任問題を問われる。でも、事故を殺人に切り替えれば、責任は自分ではなく犯人が負う筈‥‥そう考えた貴方は小麦袋を現場から持ち去り、密かに処分して、倉庫の鍵を閉め、通風孔の網も元通りにする。これで事故ではなく密室殺人となる」

 

「‥‥」

 

「貴方がこの時点でウィンザード候補生に罪をきせようと思っていたのかは、私は分かりません。もしかしたら、用務員さんに罪をきせようとしていたのかもしれませんし‥‥ですが、貴方はウィンザード候補生に罪をきせるつもりだった‥‥殺人を犯した学生をそのまま在籍させておく訳がない。しかし、首席のウィンザード候補生が士官学校から出て行っても孫の上にはまだ次席のナナバルク候補生が居る。孫を首席にするにはこの二人を排除しなければならない‥‥貴方は孫可愛さにナナバルク候補生を殺し、ウィンザード候補生を犯人に仕立て上げた!!」

 

「ぬぅ~‥‥」

 

ミハイルの顔に赤みがさした。

 

もっとも指摘されたくない事を執務官資格があるとは言え、学生に容赦なく指摘されたからだ。

 

「くっ‥‥」

 

ミハイルはスッと手をデスクの引き出しへと伸ばす。

 

「悪あがきはみっともないですよ、校長」

 

すると、チンクがミハイル首筋にヒヤリと冷たい金属質なモノを押し当てる。

 

「‥‥どちらが早いか試してみても良い」

 

この時、ミハイルはチンクの発言と首筋に押し付けられているヒヤリと冷たい金属質のモノから、自分の首筋にはナイフが突きつけられているのだと思い、引き出しから手を遠のけた。

 

「‥‥」

 

フェイトが引き出しへ手を伸ばすとそこには一丁のレーザー銃が入っていた。

 

どうやらミハイルは口封じにフェイトとチンクを殺害するつもりだったのだろう。

 

「校長先生‥‥貴方は卑怯者だ!!教育者と言う立場を利用して、弱い立場の学生を害する事で、孫可愛さのエゴイズムを満足させようとした!!殺された学生にも家族だって居た筈だ!!貴方に教育者を名乗る資格はない!!」

 

「き、きさまなどに理解出来るものか!!」

 

すると、鬱憤を晴らすかのようにミハイルが怒声をあげる。

 

「元犯罪者の分際で、魔力レベルが高いだけで、大した罪にも問われず、ハラオウン家に潜り込み楽々と出世できるような奴にワシの苦労が分かるものか!!」

 

「‥‥」

 

「これまでの局員生活の中で、上官の理不尽に耐えに耐えぬいて、ようやくここまでの地位にたどり着いたわしの気持ちが分かってたまるか!!わしは、わし自身が味わって来た理不尽を孫に味合わせまいと孫のために邪魔者を排除してやったのだ!!それの何処が悪い!?」

 

ミハイルの言い訳を聞いてフェイトはもとより、チンクも段々と胸糞が悪くなってきたのか怒りで顔を歪める。

 

「そもそもマスミ・ウィンザード‥‥あんな、人として感情も能力も欠如している者が学年首席だと!?一体何の冗談だ!?あんな欠陥人間よりも我が孫こそ首席にふさわしいのだ!!」

 

ミハイルは次に三年首席のマスミについて人格否定をする。

 

すると、これ以上ミハイルの言い訳を聞くのが限界だったのか、

 

「ふざけるなよ!!この外道が!!」

 

チンクが手にしていたモノをポイッと放り投げミハイルの胸倉を両手でつかむ。

 

身長が低いチンクであるが、ミハイルは椅子に座っていたので、身長差を気にせずにチンクはミハイルの胸倉を掴むことが出来た。

 

そして、校長室の床にカランと金属音を立てて落ちたのは厨房より拝借してきた一本のスプーンであった。

 

デスクの上には人を刺殺したナイフがあり、自分の首筋には金属質なモノを押し当てられたミハイルはそのスプーンをナイフだと錯覚したのだ。

 

チンクが切れたのはミハイルの理不尽な動機も当然のことながら、第一の事件の被害者であるハイネの葬儀における遺族たちの姿が脳裏を過ったからだ。

 

自分が手にかけたゼスト隊メンバーの遺族も第二の事件の被害者遺族もきっと同じ悲しみを抱くに違いない。

 

何故、殺されなければならなかったのか?と‥‥

 

その動機を今、自分は知ってしまった。

 

だからこそ、チンクはミハイルが許せなかった。

 

「お前は‥お前が殺した学生の遺族に面と向かって言えるのか!?『お前たちの子が死んだのは、お前の子が孫よりも成績がよかったせいだ』と!!それで、遺族が納得するつもりだと思っているのか!?」

 

戦闘機人の力のこもった握力の前にミハイルは撥ね除けることが出来ない。

 

このままだとチンクがミハイルを絞め殺してしまうと思ったフェイトは慌ててチンクを止める。

 

「チンク、もういいよ。それ以上締めつけるとその人が死んじゃうから」

 

「こんな奴、此処で葬った方が‥‥」

 

「チンクには家族が居るでしょう?こんな奴を殺してチンクが裁かれる事の方が間違っているよ」

 

「ちっ‥‥」

 

チンクの脳裏にはゲンヤやスバル、ノーヴェ、ディエチ、ウェンディたちの姿が過る。

 

フェイトに促され、チンクはミハイルを離す。

 

そして、校長室の外に待機してもらっていた警備員に来てもらいミハイルは身柄を拘束された。

 

しばらくすれば、本局から事件の一報を聞きつけた執務官が派遣されて彼の身柄は本局へ連行され、そこで取り調べが行われるだろう。

 

やがて、本局から派遣された執務官が来てミハイルは本局へと連行されて行った。

 

「‥‥これで、士官学校は校長と二人の優等生を失うな」

 

本局へ連行されていくミハイルを見てフェイトはぽつりと零す。

 

「二人?」

 

フェイトが言う二人の優等生と言う言葉を聞きチンクは首を傾げる。

 

「うん。一人は言わずもがな、殺された学生、そしてもう一人は三席の学生だよ」

 

「しかし、彼は生きているじゃないか」

 

「祖父が殺人を‥‥学友を殺したんだよ?とてもじゃないけど、士官学校にこのまま在籍何て出来ないよ」

 

「あっ‥‥」

 

フェイトの説明を聞きチンクは理解した。

 

ミハイルが孫のためにと思って行った殺人はかえってその孫を苦しめる皮肉な結果となってしまったのだった。

 

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