星の海へ   作:ステルス兄貴

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二百七話 遠征計画

 

 

此処で視点はミッドチルダから地球へと移り、時系列は現在へと戻る。

 

西暦2201年、アンドロメダ星雲より飛来した巨大な白色彗星‥‥

 

その彗星の正体は、ただの彗星ではなくズォーダー大帝を国家元首とした帝政国家であった。

 

彼らは巨大な白色彗星に擬態した人工都市で、広大な宇宙を旅して、針路上の星々を破壊か侵略することで植民地としていた。

 

アンドロメダ星雲の有人惑星を悉く植民地化した彼らの次の目標は、太陽系‥地球‥‥

 

当初、地球側はこの白色彗星については、アンドロメダ星雲から飛来するただの彗星‥‥

 

例え地球へ来てもハレー彗星の様に地球の近くを通り過ぎるのではないか?

 

地球軌道に到達しても当時、防衛軍で建造・配備された波動砲搭載戦艦の手で簡単に破壊できる。

 

その様な感じで白色彗星に対して楽観視していた。

 

政府・軍部のこの対応に地球滅亡が一年と迫ったガミラス戦役から僅か一年でこの堕落振りだと思う者も居た。

 

だが、実際に白色彗星の正体が判明し、彼らがガミラスに次ぐ侵略者であると判明すると、白色彗星の対処に奔走する事となり、最終的に軍、そして地球本土は多大な犠牲と被害を受ける事となった。

 

テレサの力によって、ズォーダーを倒すことが出来たが、残党が第十一番惑星を占拠して、地球に対する復讐戦を仕掛けるしぶとさを見せつけた。

 

しかし、国家元首に本土、主要な軍人、宇宙艦船を失った残党軍に勝ち目はなく、壊滅的打撃を受けた後、彗星帝国残党軍は地球連邦政府との間で停戦協定を結び、太陽系から撤退した。

 

その太陽系‥土星圏では彗星帝国の宇宙艦船の残骸が多く漂っており、防衛軍はそれらの残骸を再利用して、新たな宇宙艦船の建造と鹵獲・改修を行い、戦力の再編をして残党軍と戦った。

 

そして、地球圏‥‥月軌道には彗星帝国本土である都市要塞の下部部分が残された。

 

上部にあった都市部はヤマト、まほろばの決死隊が内部に侵入し、動力部を破壊し、都市部を守っていたガスバリアを発生させていたリング帯を停止させて、機能停止した所を砲雷撃で破壊した。

 

そしてとどめと言わんばかりにズォーダーは都市部の地下に秘匿されていた超巨大戦艦ガトランティスを起動したことで、都市部は完全に崩壊した。

 

超巨大戦艦ガトランティス自体はテレサの力にとって完全消滅したが、都市要塞下部はそのまま残され、防衛軍はこの要塞都市の下部も再利用を考えた。

 

しかし、ガミラス戦役から復興したばかりの地球を彗星帝国は再び復興が必要な規模の被害をもたらし、沢山の人々を死傷させた。

 

それに都市要塞自体も土星圏での戦いで当時の地球連合艦隊旗艦、アンドロメダの体当たりや、地球との最終決戦において少なからずダメージを受けているので、再利用するよりもスクラップにするか、標的として処分した方が安く済むのではないかと言う意見もチラホラ出ていた。

 

だが、彗星帝国の宇宙艦船が高い技術力で建造されている点を含め、土星圏での戦いや地球圏での最終決戦の時に見せた都市要塞の攻守における強力性を目の当たりにした軍部としては、やはりこのまま廃棄処分にするのは惜しいと感じたのか、再利用する方針とした。

 

再利用の方針を立てた軍部であったが、地球本土の復興、残党軍の脅威の排除、宇宙艦隊の再編がまずは優先され、やっと残党軍が太陽系より撤退したところで、今度は暗黒星団帝国の地球襲来、太陽の異常増進等の事件やトラブルの影響で、都市要塞の再利用化は遅れに遅れた。

 

しかし、防衛軍はようやく都市要塞を再利用する事ができる程に修復することが出来た。

 

此処までの道のりは当然険しかった。

 

事件やトラブルは勿論の事、暗黒星団帝国襲来後も建造を再開すると民間団体からの反対運動やデモも起きた。

 

そして太陽異常が起きると地球存亡の危機と言う事で工事はまたもや中止になったが、この騒動がかえって都市要塞の再利用化に追い風となった。

 

太陽異常の時、先の暗黒星団帝国襲来の件で都市要塞の工事は中止となっていたので、完成までは程遠い状態で動かす事は不可能であった。

 

太陽異常の騒動後、ボラーの妨害があり、くまなく探索する事が出来なかったが、『地球から半径一万五千光年には地球人類が住めそうな星が存在する可能性が極めて少ない』と言う結論に至った。

 

今後、太陽または地球に何らかの異常が起き、地球人類の居住が難しくなったことを想定すると、彗星帝国の置き土産とも言えるこの都市要塞は地球人類を次の世代へ橋渡しをする方舟となる事が判明した。

 

ガミラス戦役時、ヤマトを方舟にしようとしたイズモ計画では、一部の人類と動植物しか運べないと言う結論に至るが、都市要塞規模の大きさならば、十分に地球人類、動植物を宇宙へ運べる。

 

ただ、運用に関して強大で強力すぎる力はいずれ自分たちの身を滅ぼすのではないか?

 

地球も彗星帝国の様な侵略国家になってしまうのではないか?

 

そうした懸念があった事から、再利用にあたって地球連邦政府及び防衛軍は都市要塞の武装を彗星帝国が使用していた時と比べて大幅に減らした。

 

内部の構造に関しても防衛軍がとった戦術から、動力部を一つではなく、複数箇所設置した。

 

ガトランティス人は元々、内部へ侵入してくるなんて想定していなかったのか動力部を一つに纏めていた。

 

その構造が、地球側にはチャンスを‥‥

 

彗星帝国には本土を失う結果となった。

 

再建した上部の都市も地球の近代都市の他に城のような建造物を合わせ持った様な都市となっている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ほん、都市名を『ホワイト・フォーレスト』と命名する」

 

完成式典において、藤堂長官が都市要塞の名前を集まったマスコミ関係者へ発表する。

 

彗星帝国からの鹵獲艦は『ホワイト級』と命名されていたので、当然この都市要塞もそうした『ホワイト級』に属する都市だったからだ。

 

尤も、鹵獲したナスカ級高速空母‥ホワイト・スカウト級において日本艦隊ではホワイトの名を付けず、例外で別の艦名をつけている。

 

その後、未だにくすぶっているこのホワイト・フォーレストの存在に対して抗議している市民団体へ理解を深めてもらうため、マスコミ関係者をさっそくホワイト・フォーレストへ連れて行き、施設を紹介する。

 

元々が彗星帝国ガトランティス本土であり、国家元首であるズォーダーを始めとしてガトランティスの政治、軍事の中枢であり、多くの民間人も居住していたことが調査で判明している。

 

軍事としては、一個艦隊を収容できる程の宇宙港と整備ドックと兵器廠。

 

酸素供給システムの一環でもある広大な植物生成プラント。

 

住人の食を担い、長い宇宙生活における完全な自給自足を可能とする水耕農場、食品加工工場。

 

病院や学校、宿泊施設、飲食店、スポーツ施設、映画館や遊園地、入浴施設を始めとする様々な娯楽施設、民間人の居住施設、など大都市にあるべき施設が建設されていた。

 

軍事関係部分は流石に機密にあたるので、マスコミ関係者が案内されたのはこうした都市部の民間施設だった。

 

「この都市要塞はかつて、地球を侵略し、多大な被害と犠牲を出した彗星帝国の物であり、ホワイト・フォーレストはソレを再利用して建設された都市要塞であるが、運用するのは我々地球人である。その点を踏まえマスコミ関係者の皆さんには今後とも絶大な協力を要請し、この都市要塞の運用について誤解なきよう連邦市民の方々に伝えてもらいたい」

 

マスコミ関係者を案内した後、藤堂は記者会見を開き、この都市要塞の運用は決して侵略目的はなく、地球の防衛及び地球人類の避難用である事を強調した。

 

勿論、平時においては、ホワイト・フォーレストへの来訪及び民間施設の使用も出来る。

 

いわば観光地としても使用することができるのだ。

 

ホワイト・フォーレストの完成、披露の光景はケンタウロス座アルファ星でも伝えられていた。

 

「ホワイト・フォーレストか‥‥アレと戦った俺たちからすると何だか複雑な気持ちですね」

 

まほろばの食堂にあるテレビでホワイト・フォーレストの完成中継を見ながら永倉が件のホワイト・フォーレストを見つめる。

 

「ヤマトの古代艦長たちも多分、同じだろうな‥‥あの都市要塞を攻略するために地球が払った犠牲はあまりにも多すぎた‥‥」

 

永倉同様、良馬もあの時の戦いを思い出し、複雑な表情を浮かべる。

 

「とは言え、数年前に起きた太陽異常の出来事を踏まえると、やはりあのような施設は必要なのかもしれないな‥‥」

 

「第二の地球にそっくりな星はなかなか見つかりませんでしたからね‥‥地球滅亡のタイムリミットがあるとますます焦りが出ますからね」

 

「ヤマトも本来は地球からの脱出船として建造されていたみたいだからね。あの都市要塞規模の大きさならば、大勢の人や動植物を受け入れることが出来る」

 

「しかし、よく建造できましたよね?」

 

「確かに‥上部と都市部はあの超巨大戦艦の発進と共に大方崩壊したけど、下部はそのまま残ったからな‥‥多少は建設期間が浮いたのだろうけど、やはり市民団体からの抗議の声も凄かったらしい」

 

「それに暗黒星団帝国の襲来やら太陽異常がありましたからね」

 

「ただ完成し、ああしてマスコミを通じて運用目的は侵略ではなく、民間施設として‥‥そして、いざと言う時の脱出用の方舟として使う事をアピールしていても連邦市民全員がソレを受け入れるか‥‥だな‥そもそもホワイト艦隊の導入でさえ、最初は軍でも抵抗があったからな‥‥」

 

「地球には彗星帝国に家族や大切な人を殺された人たちが大勢いますからね‥‥」

 

「その他にテロリストにあの都市要塞が占拠されないかも不安だな」

 

「詳しい説明はしていませんでしたが、武装は彗星帝国の連中が使用していた時よりも減らしているみたいですよ」

 

「例え減らしていたとしてもあの強力なガスバリアは健在だろう?」

 

「ま、まぁ、あのリング帯が着いていますからね」

 

「外部からの防御はまさに完璧に近い‥‥あのガスバリアの強力さは俺たちは身をもって体験済みだろう?」

 

「そうですね。あのバリアは事実上、突破は不可能ですからね」

 

「だからこそ、あの時、都市要塞を攻略する際は決死隊を組織して都市要塞の内部へ侵入して、動力部を爆破、ガスバリアを始めとする都市要塞の機能を停止させて砲撃で都市部を破壊した‥‥」

 

「当然、軍部もその作戦を報告書で知っていますから‥‥」

 

「対策はとっているだろうね。だからこそ、あの都市要塞が占拠されたら、鎮圧に苦労しそうなんだ。アクション映画でよくあるだろう?新たな軍事施設がテロリストに占拠されて、落ちこぼれの兵士とエリート兵士が手を組んで、テロリストを一掃して施設を奪還する‥‥」

 

「確かにそんな内容のアクション映画は沢山作られていますからね」

 

「フィクションがノンフィクションにならない事を祈るよ」

 

地球にとって新たなる復興と発展としての象徴となったホワイト・フォーレストに対して、良馬は不安を抱いた。

 

一方、防衛軍としては良馬が抱く不安よりも別の不安を抱えていた。

 

それは未だにバジウド星系に巣食うボラー連邦派星間国家の存在であった。

 

藤堂長官も市民団体からのホワイト・フォーレストの運用についての抗議やバジウド星系のボラー連邦派の存在など、苦労・心労が絶えないだろう。

 

ホワイト・フォーレスト完成披露から翌日、アルファ星防衛軍基地司令部にある会議室には基地司令のキャゼルヌ、第二艦隊司令のラップをはじめとして、各艦の艦長たちが集まっていた。

 

(いきなりの招集‥一体何の用だ?)

 

会議に出席した良馬はいきなりの招集に眉をひそめる。

 

「バジウド星系に存在するボラー連邦派の勢力との交渉は既に地球連邦がガルマン・ガミラスと同盟を組んでいる時点で不可能となっております。そして、バジウド星系の攻略を担当するガルマン・ガミラス東部方面軍も今やボラー連邦本土への攻略に多忙となっており、いまやバジウド星系は再びボラー連邦派の勢いが回復しつつあります。これは防衛軍にとって新たな脅威と言えます!!」

 

会議が始まると、バジウド星系におけるボラー連邦派の対処について一人の参謀がボラー連邦派の存在の脅威を指摘する。

 

(誰だ?あの参謀は‥‥?)

 

力説する参謀に良馬は見知らぬ顔である事に訝しむ。

 

「だからと言って我々がガルマン・ガミラスに代わってバジウド星系のボラー連邦派勢力を一掃する役を行う必要はあるのか?」

 

会議の議題はバジウド星系のボラー連邦派について、ガルマン・ガミラスに代わって防衛軍がボラー連邦派の対処を行うべきだと言う意見が出始めたが、それでも全員ではなく、一部はバジウド星系のボラー連邦派討伐には懐疑的な者も居る。

 

だが、先日、ボラー連邦派の次元潜航艦の被害を受けたアメリカ艦隊は報復を含めてバジウド星系のボラー連邦派に対する遠征は賛成の様子だった。

 

「何を言うか!?バジウド星系のボラー連邦派は先日も我がアルファ星基地所属の艦隊へ攻撃を仕掛けているのだ!!脅威を取り除く為にも諸悪の根源は絶たねばならぬではないか!!」

 

「しかし、バジウド星系のボラー連邦派の星間国家は一つではなく、いくつも存在している。それら一つ一つの星間国家を攻略するには膨大な時間と兵力、そして犠牲が出るのではないか?」

 

諸悪の根源‥バジウド星系のボラー連邦派が一つの星間国家ならば、ギリギリ許容できない訳ではない。

 

しかし、バジウド星系にいくつも存在する星間国家の内、ガルマン派もあるが、ボラー連邦派も複数存在している。

 

座標に関してはガルマン・ガミラス側に情報提供を求めればボラー連邦派の星間国家の座標や情報提供はもらえる筈だ。

 

「軍としてもやっと復興したばかりと言っても過言ではない中で、そのような遠征を行えば、またもや回復したばかりの戦力を喪失するのだぞ!?そうなれば、また兵力が回復するのに一体どれくらいの時間がかかると思っている!?」

 

「だが、このまま手を拱いていれば、ボラー連邦派はますます戦力を増強し、アルファ星へ大挙して攻め込んでくる可能性もあるのだぞ!!」

 

「そうだ!!その通りだ!!ならば、やられるまえにやるべきではないか!?」

 

「しかし、相手の領域へ進めば進むほど、向こうも罠を仕掛けている可能性は高い!!」

 

「その通りだ。相手は宇宙艦隊だけではない。次元潜航艦に攻撃ステーション、戦闘衛星、本土自体にも強力な砲台や迎撃ミサイルを備えている事も予測できる」

 

「攻略するにしても、そうした罠をかいくぐり、相手の宇宙艦隊を撃破し、本土においても大規模な陸戦行動を行わなければならない。今の防衛軍にバジウド星系全てのボラー連邦派の星を攻略する程の戦力を揃える事は不可能だ」

 

「それに現状、ガルマン・ガミラスからの援軍も大して期待できない」

 

「先日もどこかのボラー連邦派の惑星から陸上部隊を撤収させたと言う報告を受けている」

 

地球だけで作戦を行うのが無理ならば、ガルマン・ガミラス、バジウド星系のガルマン派の星間国家と協同する‥‥

 

と言う案も出たが、ガルマン・ガミラス自体がバジウド星系のボラー連邦派よりもその大本のボラー連邦との決戦に入っており、同じくバジウド星系のガルマン派も防衛軍同様、今は守勢にまわっている様子で、とてもボラー連邦派に対して攻勢に出るのはなかなか厳しい様だ。

 

とは言え、防衛軍の一部としてはガルマン・ガミラスがバジウド星系の攻略に消極的な今こそ、バジウド星系のボラー連邦派を一掃し、バジウド星系における地球の発言権を強めたいと言う野心を抱いているのだろう。

 

ただ、戦力そうだが、時期も悪い。

 

ホワイト・フォーレストが完成したばかりの頃にバジウド星系へ遠征行為をすれば、防衛軍が侵略目的の遠征ではないかと勘繰られてしまう。

 

バジウド星系のボラー連邦派については一つ一つ攻略して確実な橋頭堡を築くか敢えて守勢に回って相手の遠征を誘い、補給路の遮断等を行い、敵の戦力を徐々に減らしていく戦法が今の防衛軍にとれる戦術なのかもしれない。

 

攻勢に回り、戦線が拡大すると兵站・輸送路の確保も必要となる。

 

輸送路が伸びると当然、そこを狙われる危険が高く、前線に物資が届かなければ味方は敵中で孤立することになる。

 

そもそも、防衛軍が他の星間国家へ遠征すること自体が防衛軍の存在を否定する行為なのではないかと思う軍人も居た。

 

「ラップ司令官、貴方はどう思いますか?」

 

「左様、貴官の艦隊は先日、手痛い目に遭ったそうではないですか。戦友の仇を討つためにもバジウド星系に巣食う蛮族共を征伐する大義名分が貴官にはあるはずだ」

 

遠征賛成派の軍人たちはラップから賛同を得ようとする。

 

しかし‥‥

 

「小官はバジウド星系への遠征には反対です」

 

ラップは遠征に反対の姿勢をとった。

 

「何を弱気な事を!!」

 

「まったくだ」

 

「攻撃は最大の防御という言葉を知らぬのか!?臆病者が!!」

 

攻勢に反対姿勢のラップに対して、賛成派の軍人たちは野次を飛ばした。

 

確かにバジウド星系のボラー連邦派は地球連邦政府にとって目の上のたん瘤の様な存在で新たな脅威でもある。

 

しかし、此方から攻勢を仕掛けるにしても司令部からの許可が必要だ。

 

彗星帝国の太陽系侵攻艦隊を相手にした時は地球存亡の危機と言う事で当時の地球連合艦隊総司令の土方が土星圏に絶対防衛圏を設定し、艦隊の配置変更を行った。

 

だが、バジウド星系のボラー連邦派は当時、太陽系に侵攻してきた彗星帝国の規模と異なる。

 

ボラー連邦派の艦隊が全て集結し、太陽系に侵攻して来るならば話は異なるが、彼らは基本的に自分たちの母星のから離れずに守勢に回り、嫌がらせ程度の攻撃をしかけてくる感じだ。

 

だからこそ、彼らを鎮圧するにはこちらから遠征しなければならない。

 

結局、この日の会議ではバジウド星系のボラー連邦派への遠征は行わない方針となった。

 

会議が終わり、良馬はラップに声をかけた。

 

「ラップ司令」

 

「ん?ああ、月村艦長。どうした?」

 

「先ほどの会議で遠征に賛成していたあの参謀ですが、彼は誰ですか?」

 

「ああ、彼はアンドリュー・フォーク准将。最近、司令部作戦三課から此処に赴任してきた作戦参謀だ」

 

「彼は随分とバジウド星系への遠征に力説を唱えていましたけど、何かボラー連邦に対して恨みでもあるんですかね?」

 

「いや、どちらかと言うと自らの昇進のためだろう」

 

「昇進?」

 

「ああ、本部の作戦参謀がこんな僻地の前線へ作戦参謀として派遣されたんだ。本部でとんでもない失敗でもして飛ばされて来たんじゃないか?」

 

「それで、一発大きな功績を立てて本部へ戻ろう‥‥そういう事ですか?」

 

「多分‥な」

 

「彼の功績の為に利用されるのは我々前線の将兵たちなんですけどね‥‥下手な作戦を立てられて犬死するのは御免なんですけど?」

 

「ハハハ、確かに」

 

「地球へ戻りたいのであるならば、他人の力を借りるのではなく自分の力で戻ってもらいたいモノだ」

 

フォークがどんな思惑でバジウド星系のボラー連邦派に対する遠征を強く主張するのかはまだ分からないが、もしも自分の出世欲から来るモノならば、そんな欲の為に利用されるのはまっぴらごめんだと思う良馬とラップであったが、悪い出来事と言うのはまさにフィクションではなく、ノンフィクションになるもので‥‥

 

会議終了後、アルファ星基地の宇宙港では、

 

「では、頼んだぞ、フォーク准将」

 

「君の交渉の手腕がアルファ星‥ひいては地球の危機を救うのだからな」

 

高速連絡艇の搭乗口の前で数名のアルファ星所属の高級士官がフォークの見送りに来ていた。

 

彼は地球本部への異動命令が出た訳ではなく、ある密命を帯びて今回臨時の地球行きの便に搭乗するのだ。

 

「臆病者どもの尻を蹴ってやれば、否が応でも連中はバジウド星系へ遠征しなければならなくなる」

 

「あとは連中の責任で作戦をやらせ、成功すればそれは我々の功績となり、こんな辺ぴな田舎前線と違って安全な地球本部で仕事が出来るし、家族にも会える」

 

「君の将来も約束されるぞ」

 

「はっ!!必ずや今回の密命を成功させてご覧にいれます!!」

 

フォークは見送りに来た高級士官に敬礼し、タラップを昇って行く。

 

やがて、フォークを乗せた高速連絡艇はアルファ星基地を発進し、一路地球を目指して行った。

 

その機上の席で‥‥

 

「ふん、俗物どもが‥‥お前らの昇進など私には全く興味ない。お前らも私の踏み台でしかないのだよ。全ては私の為のシナリオなのだ‥‥フフフフ」

 

フォークは不気味な笑みを浮かべ、この先に描かれるであろうシナリオに胸を躍らせるのだった。

 

 

フォークを乗せた高速連絡艇がアルファ星から地球に到着してから直ぐに防衛会議にて、バジウド星系への遠征案の議題が持ち上がった。

 

勿論、藤堂はバジウド星系への遠征なんて現在の防衛軍の戦力からみて酷い消耗戦になるのは目に見えていたので、反対した。

 

しかし、連邦政府の政治家たちは宇宙艦船能力に関してはボラー連邦派の艦船より防衛軍側の方が優れている筈なので、地球の脅威であるバジウド星系のボラー連邦派は一掃するべきだと強く主張してきた。

 

ただ政治家全員が遠征に参加した訳ではない。

 

「ガミラス、彗星帝国、暗黒星団帝国、そしてボラー連邦‥‥地球はこれらの星間国家との戦いであまりにも疲弊し過ぎた。ガミラス戦役後、ようやく持ち直した軍も彗星帝国との戦いで瓦解、やっと再建の目途がたったと思ったら暗黒星団帝国の襲来‥‥現状、軍としては民間の技術者をもう少し徴用したい所だが、これ以上の徴用を行えば、軍どころか社会そのものが瓦解してしまう」

 

「おやおや防衛軍長官としての言葉とは思えぬ発言ですな」

 

政治家の一人が藤堂を小馬鹿にしたようないやらしい目つきをしながら彼を嘲笑する。

 

「だが、藤堂長官の言葉も尤もだ。かつて日本のある軍人は『百年兵を養うは、ただ国家の平和を守るためである』と言う言葉を残している。それに先日、完成したホワイト・フォーレスト‥‥いざとなれば、あの要塞を最前線へと引っ張り出せば敵の侵入を阻止できるはずだ。それも長期間にわたって‥‥とすれば、何も好き好んで罠が張り巡らされているかもしれない敵の手中にあえて飛び込む危険はありますまい」

 

地球連邦政府首相のレベロもバジウド星系への遠征については反対する一人であった。

 

「これ以上、市民に犠牲を強いるのは連邦憲章の原則から外れる」

 

レベロは遠征に賛成する者たちへ熱心に説いた。

 

「そんなことはありません」

 

其処へ、反駁の声が上がる。

 

反駁の声を上げたのは、連邦政府議員の一人、コーネリア・ウィンザーだった。

 

「以前、大統領は『地球は宇宙の平和を守るリーダー』とおっしゃいました。そして、ボラー連邦領の星の中にはボラーの圧政に苦しんでいる大勢の人が居るのです。そうした圧政と弾圧に苦しんでいる人々を解放し、救う事こそ地球が行う崇高な義務なのではありませんか?」

 

ウィンザーはアンドロメダが就役した時の連邦大統領のスピーチの一文を持ち出した。

 

「あの時と今とでは軍の戦力も状況も何もかもが異なる」

 

「ですが、同盟国であるガルマン・ガミラスが行わなければ、我々が行わなければならないではありませんか。そもそも犠牲なくして大事業が達成された例があるでしょうか?ガミラス、彗星帝国、暗黒星団帝国、どの戦いも大勢の犠牲を払い、今の地球があるのです。安っぽいヒューマニズムに陶酔して、崇高な大義を忘れ果てる事が、果たして大道を歩む態度と言えるのでしょうか?」

 

「その犠牲があまりにも大きく回復出来ていないのだと何度も言っているだろうが!!」

 

「どれほど犠牲が多くとも、たとえ軍が全て全滅しようとも成すべきことがあるのです」

 

「それは政治の理論ではない!!」

 

「そもそも軍が全滅なんてすれば一体誰が地球を守ると言うのだ!?」

 

ウィンザーは『安っぽいヒューマニズム』と言うが、レベロや藤堂にしてみれば、彼女こそが、彼女の言う『安っぽいヒューマニズム』に陶酔しているのではないかと思ってしまう。

 

いや、実際にレベロと藤堂の思っている事は当たっているのだろう。

 

犠牲心を強いる彼女であるが、実際に彼女自身が前線に赴くこともないし、彼女の家族も戦場へ赴く事は無いだろう。

 

常に自分と自分の家族が安全な場所に居る事が分かっているからこそ、他人に犠牲心を強いることが出来るのだろう。

 

会議は紛糾し、賛成派の政治家が大統領に対して、選挙の話題を出すと大統領は心が揺らいだ。

 

彗星帝国、暗黒星団帝国、太陽異常‥‥これまでの連邦政府としての対応としては市民には政府に対する不満と不信が募っている筈だ。

 

そうなれば、次の選挙で落選する可能性が高い。

 

此処で、大きな戦果と実績を出すことが出来れば、連邦市民のこれまでの不満を払拭することが出来るかもしれない。

 

悪魔の囁きが大統領に囁く。

 

自分は地球連邦政府大統領‥‥

 

ガミラス、彗星帝国、暗黒星団帝国‥これまで死にそうな目に遭いながらも生き抜きやっとここまでの地位を得た。

 

それがたった一期で任期を終えるのか?

 

今回舞い込んで来た話は一発逆転のチャンスではないか?

 

此処で軍が功績を立てれば、作戦を支持した連邦政府‥ひいては自分の支持率にも直結する筈だ。

 

実績を得て支持率が上がれば、自分は次の選挙にも勝てる!!

 

大統領の椅子に引き続き座ることが出来る。

 

失敗するかもしれないリスクは一切聞こえず、大統領自身もバジウド星系への遠征を支持した。

 

「「‥‥」」

 

大統領が遠征に賛成した事で、軍はバジウド星系への遠征が具体的な形となってしまった。

 

レベロと藤堂はこの決定に敗北感を強く感じた。

 

 

メガロポリス東京 防衛軍司令部 長官執務室

 

「長官、宇宙戦艦ヤマトの古代艦長と真田副長が参りました」

 

「うむ、通してくれ」

 

「承知しました」

 

防衛会議を終え、司令部へと戻って来た藤堂は古代と真田を急ぎ呼び寄せた。

 

「古代進、参りました」

 

「真田志郎、参りました」

 

「二人とも、よく来てくれた。まぁ、掛けてくれたまえ」

 

「はっ!!」」

 

藤堂に促され、古代と真田は執務室に備え付けのソファーに座る。

 

「?長官、何かありましたか?何だかお疲れの様ですが‥‥?」

 

「もしかして例のホワイト・フォーレストの件で何か問題があったのですか?」

 

古代も真田も藤堂の顔色が悪い事を見抜き、その原因が先日完成したばかりのホワイト・フォーレストではないかと思った。

 

「まぁ、ホワイト・フォーレストの運用に関して市民団体からの抗議があったのは事実だが、今日二人を呼び出したのはその件とは別件だ」

 

「「?」」

 

「実はついさっき行われた防衛会議にて、バジウド星系への遠征が決まりそうなのだ」

 

「バジウド星系への遠征?」

 

「なぜ、バジウド星系へ遠征なんて‥‥」

 

古代と真田は防衛軍が何故バジウド星系へ遠征しなければならないのか理解できない様子だった。

 

「バジウド星系には未だにボラー連邦派の星間国家がある。今回の遠征の目的はそれらボラー連邦派の星間国家の討伐だ」

 

「なっ!?」

 

「討伐‥‥」

 

バジウド星系へ遠征が武力行使である事を知り、二人は絶句する。

 

「それで、バジウド星系へ遠征は正式に承認されたのですか!?」

 

「最終判断はまだついていないが、連邦政府も大統領も遠征には賛成している。正式に決まるのも時間の問題だ」

 

「そんなバカな!?他の星間国家への武力行使なんて、かつてのガミラスや彗星帝国のような所業を我々にやらせると言うのですか!?」

 

「長官、まさかそのような作戦にヤマトを使用なさるおつもりですか!?」

 

「遠征に賛成している政治家や大統領としては意見では、これは武力行使ではなく、ケンタウロス座アルファ星‥ひいてはボラーからの圧政と弾圧に苦しんでいる人々を救助する為の崇高な義務‥とのことだ」

 

「百歩譲ってアルファ星防衛は分かります。ならな、アルファ星防備を固めればすむ話ではないですか!?」

 

「私やレベロ首相も勿論、そのような作戦は断固反対した。そして、今後もそんなバカげた作戦が実行されない様に手は尽くすつもりだ‥‥だがもしもそのような作戦が決定となった時、ヤマトには味方を守ってもらいたい」

 

「味方を‥‥」

 

「守る‥‥」

 

「そうだ。こんなバカげた作戦に動員される味方を一人でも多く助けてもらいたい」

 

「‥‥すると、長官は仮に作戦が実行されるとしても防衛軍は負けると判断しているのですか?」

 

「バジウド星系にあるボラー連邦派の星間国家は一つや二つではない。それに完全制圧するにしても陸上戦で制圧する必要がある。今の防衛軍にそこまでの戦力を捻出するのは難しい‥‥」

 

「確かに星一つを解放するなんて一体幾つの軍団が必要になることやら‥‥」

 

「しかし、それが困難なことぐらい直ぐに分かると思うのですが‥‥」

 

「『暗黒星団帝国から地球を救えたのだから大丈夫だ』と思い込んでいるのだろう」

 

「「‥‥」」

 

古代も真田も遠征に賛成した政治家の神経を疑った。

 

それからしばらくして、バジウド星系への遠征が正式に決定される事となった‥‥

 

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