バジウド星系に存在するボラー連邦派の星間国家を一掃する為、地球連邦政府は防衛軍のバジウド星系への遠征を決定する。
遠征戦力は地球本土からの遠征艦隊、ケンタウロス座アルファ星に駐屯している艦隊、バース星に駐屯している艦隊からの編成で行われる。
現在、地球本土から出撃した遠征艦隊は一路、ケンタウロス座アルファ星を目指して航行していた。
地球本土からケンタウロス座アルファ星までは完全な地球圏なので、遠征艦隊は悠々と航行していた。
しかし、遠征に反対していた者たちが乗艦している艦ではこの先に待ち受けている戦いのために艦内で訓練を行っている艦もあった。
ヤマト 第一艦橋
「ここまでの訓練は第二の地球探査の時以来だな」
第一艦橋で島が古代に話しかける。
ヤマトはアルファ星までの航海で乗員たちの訓練を行ったのだが、その内容は第二の地球探査時、太陽系内で行ったあの猛訓練並みの訓練内容だった。
「バジウド星系では激しい戦闘が予想されるからな。何だかんだで、俺たちは第二の地球探査から本格的な戦闘から離れていたから勘を取り戻さないと‥‥アルファ星を出航したらそこは一気に戦場だ」
戦闘が無かったと言う事は地球が平和だった証拠なのだが、これからヤマトが向かう先では嫌でも戦闘が待っている。
勘が鈍っているならば、訓練が可能な太陽系内で訓練を行い、勘を取り戻さなければならない。
「そうだな」
「艦長、まもなくケンタウロス座アルファ星に到着します。アルファ星駐屯基地より、誘導通信が来ました」
「よし、これよりアルファ星へ降下、そのまま基地に着陸する」
「了解」
地球からの遠征艦隊はアルファ星駐屯基地からの誘導に従い次々と着陸していく。
「久しぶりにアルファ星に来たが、開拓が随分と進んでいるな‥‥」
アルファ星の地表が肉眼で確認できる距離まで降下すると、地表に広がるのは流石に地球並みとはいかないが火星にある都市部の規模並みに開拓されたアルファ星の姿だった。
「太陽系側はこのアルファ星が最前線であり、これまでボラー連邦系の星間国家からちょっかいを受けて来たと言う‥‥俺たちの今回の遠征は此処に住む人たちの安全に関わる事なのだがな‥‥」
大きく発展したアルファ星、そしてアルファ星に住む大勢の人たちのため‥‥
今回遠征に参加する味方を守るため‥‥
藤堂から言われたヤマトの任務はとても大きく、重要なモノだった。
「おっ?地球からの遠征艦隊が到着したみたいだ」
「ヤマトも居るぞ‥‥」
「つまり、今回の遠征に防衛軍はかなり力を入れていると言う事だな」
基地から地球本土の遠征参加艦隊を見つめる軍人たち。
その中でヤマトが含まれている事に意外性を覚える者。
ヤマトがいれば既に勝利は決まったものだと確信する者。
リアクションは様々であるが、既に今回の遠征作戦はこれで勝ったと思い込んでいる者が多かった。
「まさか、今回の遠征にヤマトが参加するなんて意外でしたね」
永倉もヤマトがアルファ星に来た事に驚いている者の一人であった。
「それほど、今回の遠征には本気なのだろうけど‥‥」
地球本土からの遠征艦隊の姿を見て良馬は何だか煮え切らない様子。
「ん?何か気になる事でも?」
「ヤマトの他にアメリカ艦隊も同行しているみたいだが、本気でバジウド星系のボラー派を一掃しようとしているなら、アンドロメダ級、春藍、アリゾナ級を何故投入しないのかと思ってね」
「確かにそうですね。でも、アメリカさんにしてみれば、アリゾナ級の投入はやはり考え深いモノがあるのでしょう。何しろネームシップのアリゾナがボラーとの戦いで撃沈されてしまったのですから」
アメリカ側も今回の遠征に関しては若干賛成の様相を呈していたが、アリゾナ級を派遣してこなかった事に良馬は違和感を覚えたのだ。
永倉はネームシップであるアリゾナが第二の地球探査の際、ボラー連邦の襲撃を受けて沈んだので、純粋なボラー連邦艦隊を相手にする訳ではないが、ボラー連邦型の艦と戦うので、縁起が悪いから今回派遣されなかったのかと思った。
「ゲン担ぎか‥‥でも、そんな事を気にしている余裕は無いと思うのだけどな‥‥」
「しかし、それを言うなら日本もアンドロメダ級や春藍を送ってきていませんし‥‥」
「まぁ、第二陣として準備をしているのか‥‥それとも地球本土の留守部隊として温存しているのか‥‥」
「温存?」
「彗星帝国との戦いでは、土星圏に地球艦隊の主力を集めて対応したからな‥‥あの都市要塞を相手にした戦闘でその主力が壊滅したから、後々の事を考え少しは戦力を温存しておこうと藤堂長官はそう判断したのだろう」
「藤堂長官が‥‥?すると長官は今回の遠征は失敗すると思っていると言う事でしょうか?」
「長官の人となりを考えると遠征には反対しただろうしね。それに主力を集めているのは恐らく相手にするボラー派の方だ。彼らにしてみれば、此方が侵略者なのだから‥‥その侵略者から自分たちの星を守る為に必死に戦うだろうからな」
「それは‥‥俺たちもちょっとヤバいかもしれませんね」
カタログスペックではヤマト以上の戦闘能力と性能があるまほろばでも厳しい遠征になるかもしれない事で永倉は顔を引き攣らせる。
「まぁ、そこまでひどい戦いにならない様にこの後の会議で妥協点を提示して妥協してもらうつもりだ」
「妥協ですか‥‥連中、妥協しますかね?」
「‥‥」
遠征賛成派は強引に今回の遠征作戦を提案から実行させた。
良馬が妥協案を出したところで遠征作戦の中に妥協案を吞むだろうか?
正直厳しいだろうけど、妥協しなければ、遠征艦隊は土星圏の戦いの時の様に壊滅的な被害を受ける可能性が高かった。
地球本土からわざわざアルファ星に来て早々すまないが、艦隊司令官、各艦の艦長らは早速、アルファ星基地の会議室へと案内された。
そして、会議にて地球本土の遠征艦隊司令官、各艦の艦長、アルファ星駐屯艦隊の艦隊司令官、各艦の艦長が集まり、今回の遠征に関する会議が始まる。
バース星駐屯艦隊の駐屯基地司令官、戦隊司令官、各艦の艦長、そして藤堂もリモートにてこの会議に参加した。
遠征艦隊の陣容はすでに地球側がすでに決めていた。
遠征艦隊総司令官は階級が一番上のジェラード・ガルシアが就任。
副司令官にはデュエイン・ハルバートン。
後方主任参謀にはアルファ星駐屯基地司令官のアレックス・キャゼルヌが配置された。
そして今回の遠征作戦を地球連邦政府へと持ち込んだアンドリュー・フォークを始めとした遠征賛成派の軍人たちも作戦参謀や情報主任参謀など後方勤務ばかりとなった。
実戦部隊としては、ジェラード・ガルシア麾下の一個艦隊
デュエイン・ハルバートン提督麾下の二個艦隊
ヤマトを旗艦とする太陽系第三外周艦隊の一個艦隊
アルファ星駐屯基地、ラップ司令官は率いる第二艦隊の一個艦隊
まほろば以下のホワイト艦隊はラップの第二艦隊へと編入
バース星駐屯艦隊からは二個艦隊が投入となった。
『今回のバジウド星系への遠征計画は防衛会議によって決定された事だが‥‥』
地球本土の防衛軍司令部からリモート参加した藤堂の表情にも声にも高揚感は窺えない。
彼が今回の遠征作戦に強く反対していた事を古代は知っていた。
良馬も藤堂の人となりから遠征作戦に対して反対だと思っていた。
いや、古代や良馬だけでなく今回の遠征作戦に反対していた軍人たちも藤堂が反対しただろうと簡単に想像がついた。
『遠征艦隊の具体的な行動計画はまだ決まっていない。本日の会議はそれを決定するためのものだ。諸君らの活発な意見と討論を行ってもらいたい』
藤堂が会議の開始の挨拶をすると会議が始まるのだが、しばらく誰の発言もなかった。
それぞれの思いに浸っているようだ。
「藤堂長官、今回の遠征作戦は防衛軍の新たな歴史に一ページを刻む壮挙であると信じます。軍人としてこのような作戦に幕僚として参加させていただけるとは、まさに武人の名誉、これに過ぎたるはありません」
フォークのこの発言がこの会議における最初の発音だった。
(なんだか、原稿を棒読みしたような発言だな)
(会議の最初の発言がこれか‥‥)
良馬も古代も白けた視線でフォークを見るが、本人は二人の視線に気づいていない様子だ。
資料では自分たちよりも若いこの作戦参謀であるが、年齢よりも老けて見える。
血色の悪い顔は肉付きが薄すぎだが、眉目そのものは悪くない。
ただ、印象をすくいあげるような上目遣いと歪んだ口元が彼に対する印象をやや暗いものにしていた。
元々彼が老け顔な家系なのか?
一応、アメリカの士官学校を優秀な成績で卒業しているらく、その若さで准将‥閣下と呼ばれる地位にたどり着いているのだから、そこまでの地位にたどり着くまで並々ならぬ苦労をかけてきたのだろうか?
しかし、苦労を掛けて来てこの作戦を立案したのであるならば、能力的に疑問がある。
(私の事を嵌めたあの執務官とは顔つきが180度違うけど、陰険度は同じくらいありそうね)
バース星駐屯基地からリモートにて瓢と共に会議の席に同席したギンガはフォークの言動を見て、自身がもう一つの地球に来る切っ掛けとなった事件を指揮していた執務官を思い出す。
『総司令官にお訊ねしたい』
するとバース星駐屯艦隊所属のエイパー・シナプスがガルシアに質問をする。
『我々は軍人である以上、「赴け」と命令があれば、どこへでも赴く。今回の遠征作戦はアルファ星やバース星にちょっかいをかけてくるボラー派の星。確かに討伐する大義名分はあるかもしれない。しかし、蛮勇と勇敢、雄図と無謀はイコールではない。大規模な作戦を実行するのであるならば、周到な準備は必要不可欠だ。まず、この遠征における戦略上の目的をうかがいたい』
「作戦参謀、説明を」
「はっ!!大軍をもってバジウド星系を侵攻する。それだけでボラー派の蛮族どもの心胆を寒からしめることが出来ましょう」
『ん?それはつまり侵攻するだけで、戦わずして退くと言う訳か?』
(それだったら良いんだけどね‥‥)
(艦隊を組んで大名行列‥一見馬鹿らしいけど、それで終わるならそれに越したことはない)
良馬も古代も戦わず、ただ艦隊を組んでバジウド星系を回るだけならば、余計な戦闘を起こして味方に損害を出さないので、それだけならバカみたいな行動だが、それだけで終わるならそれで『良し』とした。
しかし、フォークはそう思ってはいない様で、
「そうではありません。高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処する事になろうかと思います」
(ん?何、言ってんだ?こいつ?)
良馬はフォークの返答に首を傾げる。
シナプスは眉をしかめて不満の意を表する。
『すまないが、もう少し具体的に言ってくれんか?貴官の説明はあまりにも抽象的過ぎる』
『つまり、行き当たりばったりと言う事ではないかな?』
シナプスが説明の追加を求めると、瓢がフォークの先ほどの説明を簡単に補足説明する。
瓢の皮肉と言う名のスパイスが効いた補足説明にフォークは悔しさから唇を大きく歪ませる。
(うわぁ~当たりかよ‥‥)
(此処まで大規模な遠征作戦を行き当たりばったりでやる気か?)
フォークのリアクションを見る限り、瓢の言う『行き当たりばったり』はあながち外れてはいなかった様子だ。
そんなフォークのリアクションを見て良馬はこの遠征作戦を行き当たりばったりで行うのかと呆れる。
(やはり、この作戦は時間をかけて検討されたモノではなかったか‥‥)
一方、古代はこの作戦が実行されるまでの時間が雷王作戦よりも短時間で決まった事から、この遠征が行き当たりばったりであると見抜く。
「他に何か?」
これ以上の追及を防ぐ為、フォークは話題を変え始めた。
躊躇いつつも古代はこの作戦の発動と共に思っていた疑問をフォークに訊ねてみる事にした。
「質問してもよろしいでしょうか?」
「何か?」
「バジウド星系への遠征する時期を現時点に定めた理由をお訊ねしたい」
防衛軍の現有戦力は彗星帝国戦役直前ほど揃っていない。
彗星帝国、暗黒星団帝国との戦いで艦船、人員の損失は回復したとは言えない。
ならば、地球は遠征作戦なんてとっている余裕は無く、戦力の温存と共に増強に努めるべきであった。
そんな中でバジウド星系への遠征‥‥
敗北すれば当然の事だが、例え成功してもまったくの被害なしで勝てるとは思えない。
しかも作戦についても先ほどのフォークの様子から時間をかけて練られたモノではなく、まるで思いつきで発動された作戦ではないかと言う思いが否めない。
(連邦政府の政治家や大統領が絡んでいるとなると、大方次の選挙を見越しているのだろう)
良馬はこの時期にバジウド星系への遠征が決まった理由に連邦政府の政治家たちの選挙も影響しているのではないかと思った。
特に大統領に関しては、彗星帝国戦役前に地球連邦政府初代大統領に就任したが、就任時期が悪かった。
就任したその年にガミラスに次ぐ新たな侵略国家、彗星帝国が地球へ襲来し、土星圏で地球艦隊の主力が壊滅した結果、彗星帝国へ無条件降伏を決めた。
ヤマトを始めとする地球残存艦隊の活躍とテレサのおかげで彗星帝国を退けることが出来た。
しかし、軍はやっとガミラスとの戦いから再建出来たかと思いきや、一から再建しなければならない事態となり、再建がまだ完了していない中で今度は暗黒星団帝国が地球へ襲来し、あっという間に地球を占領してしまった。
地球を占領した暗黒星団帝国は大統領を始め、連邦政府の重要ポストの政治家たちは身柄を拘束された。
この事態もヤマトを始めとする一部の地球艦隊と暗黒星団帝国の占領を受け入れない徹底抗戦派のパルチザンたちの活躍によって地球は三度救われた。
そして、太陽異常の件‥‥太陽エネルギー省の黒田博士の言葉を信じて、倉田博士、サイモン教授の説を妄言だと判断した結果、地球を破滅寸前まで追い詰めた責任が連邦政府、大統領にある。
それらの失態を帳消しにするには軍の作戦で大きな戦果を挙げて、それを大々的にアピールする必要がある。
そうでなければ、次の選挙で大統領をはじめ連邦政府の政治家の多くは落選することになる。
(政治家どもの政治生命の延命のために我々は命を賭けなければならないと言う事か‥‥バカバカしい)
民主主義の軍隊のありかたに窮屈さを覚えるも専制主義となっては地球の命運を更に縮める結果となる。
(まったく、世の中は矛盾だらけだ。さて、作戦参謀殿は古代艦長の質問に何と答えるのかな?)
良馬はフォークの回答がどんなモノなのかお手並みを拝見させてもらった。
「戦いには機というものがあります」
古代にむかってフォークはとくとくと説明を始める。
「それを逃しては、運命そのものに逆らう事になります。『あの時、実行しておけばよかった』と、後々になって後悔しても時間を過去に巻き戻すことは出来ません。これまでの星間国家との戦いで防衛軍はいくつもその様な間違いを犯してきたではありませんか!?」
確かにフォークの言う通り、人間である以上間違いは起こす。
防衛軍もこれまで戦術の間違いを何度も犯してきた。
白色彗星に関してもヤマトがテレザート星へ赴いた結果、ギリギリで彗星帝国との決戦に間に合ったが、当初からテレサのメッセージに真剣に向き合っていれば、もう少し違った形で彗星帝国を迎え撃つ事が出来た筈だ。
太陽異常の時も連邦政府が倉田博士、サイモン教授の話をちゃんと取り合っていれば、第二の地球探査任務に関してもう少し早い段階で行動をとることが出来た筈だ。
藤堂の先見の明があった事で、太陽異常の際もヤマト、まほろばを早い段階で第二の地球探査を行うことが出来た。
そう言った過去の過ちとアルファ星がボラー連邦派の勢力からの脅威がある以上、バジウド星系への遠征は防衛軍にとって都合のいい大義名分なのだろう。
「つまり、現在こそがバジウド星系のボラー連邦派に対して攻勢に出る絶好の機会だと作戦参謀は言うのですか?」
確認するのも馬鹿馬鹿しい気がしたが、古代はフォークに訊ねる。
「攻勢ではない!!大攻勢だ!!」
古代の質問にフォークは訂正する。
(過剰な形容句が好きな男だな)
(いや、変に演出をして事態を大袈裟にして自分を偉く見せているだけか?)
良馬はフォークが演出過剰な男と言う印象を抱く。
「防衛軍の大艦隊が長蛇の列をなし、正義の旗を掲げて進むところ勝利以外のなにものが前途に有りましょうか?」
(自己陶酔していないか?)
バジウド星系の宇宙海図を指しながら語るフォークに自己陶酔の気があるのではないかと古代も良馬もなんだか白けた目でフォークを見る。
「そもそもこの戦いにはバジウド星系でボラーからの圧政に苦しんでいる大勢の民を救うと言う崇高な義務があるのです!!宇宙の平和を守る為、圧政を敷く様な野蛮人どもには正義の鉄槌が必要なのです!!」
「しかし、その作戦では敵中に深入りし過ぎる。艦体の隊列は長くなり、補給にも連絡にも支障をきたす恐れがある。しかも敵は我が軍の細長い側面を突くことで容易に我が軍を分断することが出来る」
古代はフォークに対して反論する。
戦略構想がそもそもまともではないのに、実施レベルにおいて細かい配慮をすることにどれほどの意味があるだろうか?
「小官も古代艦長の意見と同じだ。いくらガルマン・ガミラスから情報提供があったとしても、それはあくまでもボラー派の惑星の位置であって、艦隊や次元潜航艦の位置まで詳細に伝えられている訳ではない。それに各ボラー派が建造したかもしれない宇宙要塞等の防御施設に関しては全く情報提供がなされていない。情報はないからと言って建設されていないとも言い切れない筈だ。ましてや相手にする宇宙艦隊の位置が分からないのでは敵中でむやみやたらに艦隊行動をとるのは危険ではないか?」
ハルバートンの補佐役でもあるニコラウス・ホフマンが古代の意見に賛同する。
「自分も古代艦長、ホフマン大佐の意見に賛成です。いくら情報提供があっても広大な宇宙空間で、点在するボラー派の惑星全てを今回の遠征艦隊だけでは、とても全て制覇するのは不可能かと思います。此処は、作戦宙域を設定し、橋頭堡を築きつつ徐々に時間をかけて彼らの力を削いでいくのはどうだろうか?」
良馬はこの作戦についての妥協案を提出する。
バジウド星系に侵攻し、敵と一戦交えつつボラー派が支配する宙域の一部を占拠し、橋頭堡を築き、補給・兵站をきちんと整え、次の目標へと侵攻する。
作戦は長期的なモノになるが、着実に進める方針が手堅い筈だ。
「何故、分断の危機のみ強調するのか小官には理解致しかねます。我が艦隊の中央に割り込んだ敵は前後から挟まれ、集中砲火を浴び惨敗すること疑いありません!」
するとフォークが再び反論する。
「そもそも、我々が相手にするのはボラー連邦の艦隊ではなく、ボラー連邦派の星間国家なのです。例え同じ派閥に所属していようともそれぞれが異なる星に住む野蛮人ども‥そんな烏合の衆に我々が後れを取る事がありましょうか?」
「作戦参謀殿、確かに今回我々が相手にするボラー派は別々の星間国家だ。しかし、バラバラな集団を一つに纏める方法を知っているだろうか?」
「ほぉ~そのような方法が本当にあるのですか?」
「共通の敵を作る事ですよ」
「共通の敵?」
「ええ、今度の遠征では、我々はボラー派にとっては共通の敵になります。バラバラだったボラー派が我々を打倒する為、一丸となり決死の覚悟で迎え撃つ事でしょう。それこそ、かつて土星圏で彗星帝国の侵攻艦隊を迎え撃った我々の様に‥‥ですから、今回の遠征作戦についてはバジウド星系のボラー派全てではなく、先ほど提案した徐々に侵攻していく方が味方の被害を抑える策だと思います」
「しかし、月村艦長が仰っている事は予測でしかありません。住んでいる星が異なる者同士が短期間の間で一致団結できるとはとても思えません」
「作戦参謀殿、貴方の言っている事も予測でしかない。明確にバジウド星系のボラー派が別々に配置されていると言う情報や証拠があるのですか?」
良馬もフォークの言動にややムッとして子供っぽいながらも言い返す。
「いずれにせよ、敵を過大評価し、必要以上に恐れるのは軍人として恥ずべきところ。まして、それが味方の指揮を削ぎ、その決断と行動を鈍らせるとあっては意図すると否とにかかわらず、結果として敵を勝たせる利敵行為に類するものとなりましょう。どうか注意されたい」
ドン!!
すると、会議室に大きな音が響く。
ハルバートンが会議室にあるテーブルを思いっきり叩いたのだ。
「フォーク准将、貴官の今の発言は礼を失しているのではないか!?」
「ど、どこがですか?」
同じ准将と言う階級でもハルバートンは下士官からの叩き上げでこれまで数多くの戦場を経験している。
年齢と経験が十分なこの提督を前に流石のフォークも遠慮があるのか若干声が震えている。
その様子はまるでテストの成績が悪かった息子を る雷親父の様であった。
「貴官の意見に賛同せず、慎重論、妥協案をとなえたからと言って利敵行為呼ばわりするのが節度ある発言か!?」
「私は一般論を申し上げただけです!!一個人に対する誹謗と捉えられては甚だ迷惑です!!」
フォークは頬を震わせながら弁明する。
(ムカついている様子だが、それはこっちも同じだ)
フォークの様子から彼が、不機嫌なのが確認できたが、良馬としてもハルバートン同様に自分が味方の損害を減らそうと妥協案を提出したにもかかわらず、利敵行為呼ばわりされたのだから、むしろ立腹するのはこちら側だと思った。
「先ほども申し上げましたが、今回の遠征はバジウド星系のボラー連邦派の下で圧政に苦しんでいる大勢の人々を救う崇高な戦いなのです!!これに反対する者はどう見ても利敵行為ではありませんか!!小官の言うところは間違っておりましょうか!?」
「ガルマン星やバース星など、確かにボラーからの圧政に苦しんでいる星はあるだろう。しかし、全ての星がボラーからの圧政に苦しんでいるとは言い切れないのではないか?」
「それはどういう意味ですかな?月村艦長」
「中にはボラーからの技術を欲するためにあえてボラーに帰順している星もあるのではないか?」
「なるほど‥ですが、月村艦長。奴隷化されていつまでもボラーに尻尾を振っているとお思いですか?」
「それは‥‥」
確かに良馬の言う通り、やむを得ずボラーからの支配を受け入れている星もあるだろう。
しかし、フォークの言う通り、技術を得た後いつまでもボラーの奴隷に成り下がっているだろうか?
良馬が言いよどむ姿を見たフォークはドヤ顔をしてまるで演説するかの様に声高に語る。
「例え敵に地の利あり、大兵力あり、あるいは想像を絶する新兵器があろうともそれを理由としてひるむ訳にはいきません!!我々が解放軍として大義にもとづいて行動すればボラー派の惑星に住む民衆たちは歓呼して我々を迎え、すすんで協力する事でしょう。さすれば、我々の同志が増える事を意味しており、バジウド星系の攻略は我々にとって有利に進む事でしょう!!」
フォークの演説が続く中、議場は鎮静していた。
それは決してフォークの演説に感動しているのではなく、呆れ白けているからだ。
彼の言う『想像を絶する新兵器』それは確かに存在する可能性は高い。
ガミラスのゲシュタム機関、反射衛星砲、瞬間物質転送機から始まり、
彗星帝国の火炎直撃砲、
暗黒星団帝国のハイペロン爆弾、
ボラー連邦のブラックホール砲、
ガルマン・ガミラスの次元潜航艦、これまで地球が遭遇してきた星間国家は独自の強力な兵器を保有・開発して来た。
バジウド星系のボラー連邦派の星間国家もその星間国家独自の新兵器を開発・保有していることだろう。
現にボラー連邦本星だけでなく、次元潜航艦を保有しているバジウド星系の星間国家の存在も確認されている。
そんな中、新兵器を恐れずに進めとはあまりにも無謀だ。
ガルマン・ガミラスからは新兵器についての情報は齎されていない。
情報がないと言う事は見方を変えれば、そもそも想像を絶する新兵器なんて存在していないとも言えるが、ガルマン・ガミラスがその情報を掴んでいない可能性もある。
そもそもこの遠征は、構想された動機からして信じがたいほど無責任なものだが、この会議を通じて運営も無責任なものになるのではないか?
遠征に反対していた軍人たちはいささか陰気な予想をした。
そして会議は進み、遠征軍の配置が決まった。
先鋒はハルバートンの艦隊、第二陣はガルシアの艦隊及びヤマトを旗艦とする太陽系第三外周艦隊、別動隊としてまほろば以下のホワイト艦隊及びラップの第二艦隊。
バース星駐屯艦隊は、シナプス率いる艦隊が先鋒となり、第二陣に八雲を含む支援艦体となった。
また、良馬が提示した妥協案についても却下され、今回の遠征の対象は当初の予定通り、バジウド星系に存在するボラー連邦派の星間国家全てとなった。
なお、総司令官のガルシアは前線へと赴くが、作戦参謀のフォークはアルファ星に残留する事も遠征反対派の軍人たちの忌避を買う一因となった。
良馬にとって何の成果も得られない会議が終了した。
いや、良馬だけではなく、今回の遠征に反対していた軍人たち全員も同様だろう。
「あんな無謀な作戦を立てて、自分は遠征に参加せず、アルファ星に残って高みの見物とはいい御身分だ」
会議室には良馬と古代、二人の姿があり、良馬はフォークに対して愚痴を零していた。
「たったあれだけの戦力でバジウド星系のボラー連邦派全てを平定するなんて、筏で太平洋を横断するくらい無謀だ。軍人ならそれくらい簡単な事なのに何故奴は分からない?アイツは本当に士官学校を卒業しているのか!?」
「自分も同じ判断です。地球を発進する前、藤堂長官も今回の遠征は失敗するだろうと見越していました」
「だろうね」
「そして、長官は自分にこう仰っていました。『ヤマトには最小限の犠牲で済むように味方を守ってくれ』と‥‥」
「藤堂長官が‥‥確かにあの人らしいな。しかし、長官がそれくらいの事を言うのだから、今回の遠征はそれ程の被害が出ると言う事だろうな」
「ええ、実際にボラー連邦の艦隊と戦った我々自身、ボラーの強さは身に染みていますからね。ボラーの技術を受け継いでいるボラー連邦派の星間国家だって、かなりの戦力と技術を有している事でしょう」
「まぁ、流石にあのブラックホールを生成する特殊砲台を量産しているとは思えないけど‥‥」
アルファ星近海に次元潜航艦隊の襲撃はあったが、金星付近で戦った機動要塞ゼスパーゼと同型の要塞の姿は確認されていない。
例えあの要塞と同型でなくともブラックホール砲をバジウド星系のボラー連邦派が所有していれば、ガルマン・ガミラスから情報提供がある筈だ。
「そうだといいのですが‥‥」
「あのブラックホールを生成する特殊砲がなくても、相手は次元潜航艦を保有している事は確かだ。実際にアルファ星基地所属の艦隊が襲撃を受け、討伐任務を行ったからな‥‥あの時の艦隊が全てだとは思えない。必ず、今回の遠征でも敵の次元潜航艦隊は出撃して来るだろう」
「次元潜航艦ですか‥‥それはまた厄介な‥‥」
「異次元からの襲撃者にとって、艦隊は絶好の鴨だ。対潜哨戒は厳重に行ってくれ。確かヤマトには早期警戒型のコスモタイガーが搭載されていたよね?」
「はい。敵に次元潜航艦が居るとなると、友軍艦にも対潜哨戒は徹底するように伝えます」
「そうしてくれ‥‥しかし、良かれと思った事が今回、裏目に出たな‥‥」
「ん?と言うと?」
「司令部で記録を見たかもしれないが、先ほど話した敵の次元潜航艦隊‥アルファ星の新たな脅威になると思って殲滅する事になったが。その事が今回の遠征に大きく関係してしまった‥‥アルファ星の新たな脅威、そしてそれらの艦隊を撃破できた事で、賛成派には『バジウド星系のボラー派はたいしたことない』と言う認識が出来てしまった‥‥その結果が今回の遠征だ」
良馬は苦々しく今回の遠征の決定に自分が関与してしまった事に後悔する。
だからこそ、作戦会議で今回の遠征で妥協案を提出したのだ。
しかし、結果はご覧の通りだ。
「それにしてもあの作戦参謀はどうも演出過剰な人物でしたね」
古代は良馬に配慮してなのか、話題を変える。
「思い出したくもないけどね‥‥彼は軍人ではなく、役者が演出家にでもなってくれていた方が大勢の人を不幸にしなかったのかもしれないな‥‥そう言えば、森さんは?ヤマトに乗艦しているの?」
良馬は今回の遠征に雪もヤマトの乗員として参加しているのかを古代に訊ねる。
「いえ、雪は司令部の長官付き秘書なので、今回の遠征には参加していません」
「じゃあ、ヤマトのレーダー手は誰が務めているの?」
「アナライザーが雪の代わりに努めています」
「そうか」
古代としては危険が伴う遠征に婚約者の雪が参加していない事に若干の安堵はある。
しかし、雪の方からしてみると、婚約者の古代が危険な遠征に参加している現状、古代の身を案じている事だろう。
彗星帝国戦役におけるテレザートへの航海では、ヤマトは‥古代たちは正規の命令ではなく、反逆者になる覚悟でヤマトを発進させた。
その時、雪は密かにヤマトへ密航して古代と合流を図るが、今回の遠征は正式な命令を受けての出撃だったので、テレザートの時の様な密航をすれば、逆に古代に迷惑をかけるので、雪は地球からヤマトの‥古代の無事を祈るしか出来なかった。
「月村さんの婚約者は確か‥‥」
「ああ、バース星に居る八雲の副長‥‥今回の遠征には八雲も参加するみたいだ」
会議における艦隊編成でバース星駐屯艦隊の編成も説明されており、その中に八雲も含まれていたので、今回の遠征にはギンガも参戦する。
「そ、それは‥‥」
自分と異なり、良馬は婚約者が今回の遠征に参戦する事実に何とも気まずい。
「大丈夫だ。確かに危険ではあるが、必ず死ぬとは限らない。俺はギンガの無事を信じているし、ギンガもきっと俺の無事を信じてくれているだろう」
「そうですね」
「ギンガもそうだが、古代艦長。君も気を付けろ‥藤堂長官はヤマトに味方を守るよう頼んだかもしれないが、ヤマト自体も危険であることは変わりない。艦長として乗員の安全を確保するのも艦長の仕事なのだからな」
「はい。月村さんもご無事で‥‥」
「ああ、必ず生きて戻るつもりだ。こんなバカバカしい任務で死ぬのは御免だからな」
古代と良馬は互いに生きて帰ろうと誓い合い、会議室を後にした。
一方、同じく今回の遠征に参加する事になったバース星の駐屯基地では‥‥
「ふぅ~‥‥」
八雲の食堂にてギンガはぐったりしている。
「‥‥随分とお疲れの様子ですが、会議で何かあったんですか?」
そんなギンガにティアナが声をかける。
「この遠征の作戦参謀って人が物凄く面倒くさい人で変な所が熱血っていうか、下手演説を強制的に聞かされたのよ‥‥」
ギンガはリモートとは言え、フォークの自己陶酔がかった演説を聞かされた事を思い出す。
「そんな人が居るんですか?」
「ああいうタイプは管理局でも自分をエリートさまだと思い込んでいる人と似たタイプよ」
自分がこの世界に来る切っ掛けとなった事件の指揮を執っていたあの執務官とフォークの姿が被る。
ルックスで言えば、あの執務官の方が上だが、中身は同族だ。
「あぁ~確かに居ました。そんな感じの人‥‥フェイトさんもしつこく声をかけられてうんざりしている様子でしたもん」
ティアナにも心当たりがあった。
また管理局でフェイトの補佐官として働いていた時、本局所属の局員で自他共に認めるエリート街道を歩く男性局員たちはフェイトの容姿と家柄からお近づきになりたい局員たちを見て来た。
殆どの局員は当然、下心を内に秘めていたのをフェイトもティアナも内心分かっていた。
今回の遠征の作戦参謀をティアナは実際に見てはいないが、ギンガの話を聞く限り、そんな感じの人物なのだろうと想像した。
「それで、遠征についてですが、やはり八雲も参戦するんですか?」
「ええ‥第二陣として出撃するわ。もうすぐ艦長から通達がくると思うわ」
「まさか、正式に防衛軍へ入ってから哨戒任務に救援支援、そして遠征‥‥ホント、この世界は波乱万丈な事ばかりですね」
「ええ、そうね」
こうして様々な思いを抱き、防衛軍のバジウド星系への遠征が始まろうとしていた。