星の海へ   作:ステルス兄貴

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十四話 ギンガさんの純愛道 前編

 

 

アステロイドが漂う宇宙空間を最近になって防衛軍で正式採用されたコスモファルコンの後続機、コスモタイガーが二機飛んでいる。

 

しかし、友軍同士の筈のコスモタイガー同士が互いに背後を取り合いつつ機銃で打ち合っている。

 

「そう言えば、配属先はもう決まったのか?ギンガ?」

 

「いえ、まだです」

 

ギンガに配属先を尋ねながら操縦桿を操作し機銃の発射ボタンを押す良馬。

 

そして撃ち込まれる機銃弾を回避しながらまだ自分の配属先が決まらない事を伝えるギンガ。

 

この二機のコスモタイガーにはそれぞれ良馬とギンガが乗っていたのだ。

 

両機は互いに背後を取って取られての攻防を繰り返しながら機銃で撃ち合っていた。

 

ギンガが乗るコスモタイガーが良馬のコスモタイガーの背後を取り、機銃で撃つが、良馬はアステロイドを巧みに使い撃ち込まれる機銃弾を回避し、スラスターを吹かし、スクロール状態を保ち、ギンガのコスモタイガーをいなすと再びギンガの機体の背後を取る。

 

「ロックオンサレマシタ」

 

「っ!?」

 

コックピットのコンピューターから警告を受けるとギンガはすかさず回避行動に入る。

 

だが、その直後、背後から機銃弾の雨が降り注ぐ。

 

回避行動を続けていたギンガであったが、機銃弾の一発がコスモタイガーの噴射口に当たると、そのままバランスを崩す、その隙を良馬は見逃さず、ギンガのコスモタイガーに機銃弾を撃ちまくる。

 

やがてギンガのコスモタイガーは火達磨となり、爆発した。

 

ビィー!!ビィー!!と言う電子音と共に目の前の画面には赤文字で大きく『YOU LOSE』と表示された。

 

「あぁー!!また負けたー!!」

 

ギンガが悔しそうな声を出しながら頭部に着けていたヘッドギアを外し、コックピットから出る。

 

「ハハ、現役の軍人が士官候補生に負けるわけにはいかないからね」

 

ニッと笑いながらギンガの目の前に居た。

 

二人は月村家にあるパイロット養成用のシミュレーターで対戦を行っていたのだ。

 

任官前に勘を鈍らせる訳にはいかないので、良馬からの提案をギンガは受け、こうしてシミュレートによる模擬戦などを行っていた。

 

当然、リニスと紅葉との魔導戦も欠かさず行っている。

 

「むぅ~私だって、士官学校を卒業したので、もう立派な現役の軍人で、士官です!!‥まだ新米ですけど‥‥」

 

ギンガは頬を膨らませ、プイッと良馬から顔を逸らす。

 

その仕草がちょっと子供っぽいことに良馬は苦笑する。

 

「それじゃあ、もう一戦お相手いたしましょうか?新米君♪~」

 

「もぉ~バカにして!!今度こそ絶対良馬さんを撃ち落してやります!!」

 

「期待しているよ、ギンガ」

 

ギンガはもう一度ヘッドギアを装着して、シミュレート用のコックピットに座る。

今度こそはと言う思いを抱いて‥‥

 

そんなギンガの様子を見ながら良馬はフッと小さく笑みをこぼし、自らもヘッドギアを装着して、コックピットへと座った。

 

リニスと紅葉との魔法を使った模擬戦もそうであるが、管理局在籍時には体験した事のない、戦闘機による戦闘はギンガに新たな快感や思いを抱かせていた様で結構気に入った様子だ。

 

 

時に西暦2201年の事だった‥‥

 

 

デスラーは去った‥‥

 

古代守もスターシアも宇宙と言う無限の海の彼方へ消えていった‥‥

 

ヤマトは母なる地球へと帰った‥‥

 

そして時は流れた‥‥

 

沖田十三がヤマトとその乗組員達と共におし渡ったイスカンダルへの航海のことさえ人々はもう忘れようとしていた。

 

 

 

 

地球は今、本土の再建をほぼ達成し、その勢いを同じ太陽系の他の惑星へ押し広げようとしていた。

 

各惑星やその衛星にはそれぞれ基地が建設され、資源開発が急ピッチで行われていた。

 

また防衛軍の再建もほぼ達成し、十分な艦隊行動を取れるほどの艦船が揃い始めていた。

 

勿論、その性能はイスカンダルからの技術提供のおかげで、ガミラス戦役で使用していた艦船と比べるとかなり飛躍していた。

 

そのガミラス戦役を戦い抜いた艦船達は、損傷が激しい艦は解体され、まだ使えそうな艦は宇宙戦士訓練学校、士官学校の練習艦として、第二の艦船人生を送った。

その中には、良馬が艦長を務めた三笠も含まれた。

 

艦長として苦楽を共にし、共に戦った戦友だけに良馬は三笠が解体処分されなかった事にホッとした。

 

そして、良馬はギンガ同様、新たな配属先が決まるまで暫しの休息に入った。

 

その間、桜花と紅葉は名門校である私立天応中学へと進学していた。

 

桜花は持ち前の運動神経から体育推薦で合格し、紅葉は元々賢い子だったので天応中学の中でも難関である特別進学科へと進んだ。

 

ただ、昼夜関わらず受験勉強をしていたせいか視力を少し落とし魔導戦の時は眼鏡をしていないが、普段の生活時は上部のフレームがない赤縁の逆ナイロールの眼鏡をかけている。

 

ガミラスの遊星爆弾での攻撃で一度は焼失した月村の屋敷も今では焼失前と変わらない形で修復された。

 

休暇中、良馬は実家である月村の家と下宿先の中嶋家と実家を行ったり来たりの生活を送っていた。

 

ギンガの配属先も、もう間もなく決まりそうでギンガは残り少ない休息の時間を有意義に過ごしていた。

 

そんな中、ギンガにある変化があった。

 

ある日、良馬と紅葉が中嶋家のリビングで本を読んでいると、

 

「あ、あの‥‥」

 

ギンガが声をかけてきた。

 

「ん?どうした?ギンガ」

 

「あ、あの、良かったら一緒に出掛けませんか? その‥‥たまには一緒に食事でも‥‥」

 

ほんのりと頬を赤くし、告げたのは外食への誘いだった。

 

込められたのは初々しく、そして甘い感情。

 

淡い期待を孕んだ乙女の誘いを、良馬は、

 

「いいね、行こうか?」

 

「は、はい!」

 

と、ギンガの誘いを受けたが、

 

「それじゃあ、紅葉ちゃんも一緒に行こう」

 

「「えっ!?」」

 

その場にいた紅葉も誘った。

 

良馬のその行為に紅葉とギンガは揃って声をあげる。

 

「えっ?あっいや、良馬さん、此処は‥‥」

 

ギンガの意図を何となく悟った紅葉は、良馬にギンガの意図を伝えようとするが、その場に本人は居てはどうも伝え難い。

 

「桜花も出かけないか?これから、皆で外にご飯を食べに行くんだけど‥‥」

 

良馬は庭で空手の型を練習していた桜花にも声をかけた。

 

良馬が紅葉と桜花に声をかけた時、ギンガの表情が曇るが彼の視線は庭に居た桜花へと向けられていた為、気付く事もない。

 

豊かな胸の前で少女が手を固く握り哀しげな色を瞳に溶かした事を良馬は知らない。

 

しかし、良馬は気が付かなかったギンガの仕草を紅葉は見逃さず、ジッと気が付かないフリで見ていた。

 

「‥‥」

 

ギンガから紡ごうとした声は出でる事無く。

 

虚しく無音を刻み、乙女は今日もまた自分の想いを胸の内に仕舞いこむ。

 

声をかけられた桜花は当然、一緒に行くと言い、四人は外に食事へと出かけた。

 

 

最初、ギンガが食事の誘いをしたのだが、会計の時、良馬が、「いい女は男に貢がせるもんさ」と、言って良馬が全て支払った。

 

その後も、ウィンドウショッピングをした四人であったが、ギンガは三人から一歩後ろを歩いていた。

 

その表情はどこか冴えない感じだった。

 

「‥‥」

 

そんなギンガの様子を紅葉はチラッと見ていた。

 

茜色に燃え上がる夕焼けの空の下、四人は家路へと続く道を歩いていた。

 

先頭に良馬と桜花が並び、その後ろにギンガ、最後尾を紅葉が歩いている。

 

その日の空が美しき情景を描こうと頬を涼やかな風が撫ぜようと乙女(ギンガ)は物憂げな顔を俯かせている。

 

その理由は一つ。

 

今日の良馬とのやり取りである。

 

実は、彼女が今日の様に良馬を誘ったのはこれが初めてではない。

 

残り少ない休みの期間、彼女は今まで何度も彼を誘っては二人の時間を作ろうと摸索してきた。

 

結果は芳しくなく、成功した事はあまりない‥‥と言うか、成功した事が無い。

 

その事を思い返し、少女は力ない溜息を吐いた。

 

「‥‥」

 

そんなギンガの様子を紅葉はまたも後ろからジッと見ていた。

 

「はぁ~やっぱり今日も駄目だったかぁ‥‥全く良馬さんったら、私の気持ちも知らないで‥‥」

 

家に帰り、夕食と入浴後の後、ギンガは一人自室の机の上で頬をついていた。

 

そして、ギンガは誰にでもなく、独り言を呟く。

 

それは彼女が燻らせ続けている恋心のささやかな吐露。

 

そう、中嶋ギンガという少女は、月村良馬という男に恋をしていた。

 

自分より一回り年上の男で、間もなく任官する自分にとっては、先輩でもあり、階級上、上官にあたる男に恋心を抱いたのはたしていつ頃なのか?

 

それは、ギンガ自身にもそれは分からない。

 

敢えて答えるならば、いつの間にか、だろうか?

 

気付けば視線は彼を追い、胸の中には彼への想いが満ちていった。

 

最初は自分を助けてくれた命の恩人。

 

それから彼には世話になりっぱなしだった。

 

未知なる世界に一人ぼっちの中、彼は自分に新しい家と家族を用意してくれた。

 

そんな、彼に何かしたいと思っていたら、彼は、艦長と言う職務と戦友に死なれた現実の前に苦しんでいた。

 

彼を助けたい‥‥湧き上がる思いの全てがそうさせた。

 

今、思えば、この時からギンガは彼に惹かれていたのかもしれない。

 

愛おしい。

 

この人が愛おしい。

 

癒してあげたい。

 

守ってあげたい。

 

彼自身が抱いて、戦っている不安や恐怖から‥‥

 

そう、思い、自分は彼と一晩共にした。

 

最も、男女の営みがあったわけでなく、普通に添い寝しただけだ。

 

そして、先程まで苦しんでいた彼は、みるみるうちに静かに寝息を立てた。

 

その寝顔はとても穏やかであった。

 

彼の為に、もっと尽くしたい。

 

父(源三郎)から、彼が死に急いでいると言う事を聞き、自分が新たな生きる糧となりたかった。

 

これからも‥‥

 

「はぁ~」

 

改めて、ギンガが溜め息をついていると、

 

コン、コンと、部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 

「はい?」

 

「紅葉です。ギンガさん、少しよろしいでしょうか?」

 

「え、ええ、どうぞ」

 

ギンガがドアを開けるとそこには両手に湯気が立った二つのマグカップを持った紅葉が立っていた。

 

「失礼します」

 

一言声をかけてから、紅葉はギンガの部屋の中へと入る。

 

そして手に持っていたマグカップの内、片方をギンガに渡した。

 

受け取ったマグカップの中にはホットミルクが入っており、温かな湯気を出していた。

 

「それでどうしたの?」

 

ギンガは紅葉からマグカップを受け取り、彼女が自分に会いに来た要件を訊ねる。

 

紅葉はマグカップの中のホットミルクを一口飲んだ後、

 

「ギンガさん」

 

「ん?」

 

ギンガも紅葉同様、マグカップの中のホットミルクを飲もうと、マグカップに口を付けたその時、

 

「ギンガさん。ギンガさんは良馬さんに惚れたんですか?」

 

紅葉の直球にギンガは、

 

「ゴホっ、ゴホっ‥‥」

 

飲んでいたホットミルクでむせた。

 

ギンガはマグカップをその場に置き、

 

「と、突然、何を言い出すのよ!?」

 

頬を赤く染め、声をあげる。

 

「えっ?違うんですか?」

 

一方の紅葉は首を傾げつつ、冷静な様子でホットミルクを飲んでいる。

 

「今日の‥‥いえ、今までのギンガさんの行動からそうではないかと予測したのですが?」

 

「‥‥」

 

紅葉の予想が当たっていたため、反論するに反論出来ないギンガ。

 

「こ、この事は‥‥」

 

「大丈夫です。桜花と源三郎さんは気が付いていませんし、言いふらすつもりもありません‥‥ですが‥‥」

 

「ですが?」

 

「ですが、多分、加奈江さんと良馬さん本人は薄々勘付いていますよ。ギンガさんの気持ちに‥‥」

 

「えっ!?」

 

紅葉の言葉に尚、戸惑うギンガ。

 

加奈江は恋愛などの事には人一倍勘が鋭そうだが、母親なので別に気にすることではない。

 

今、気になるのは良馬の気持ちなのだが恋愛感情を抱いている相手に自分の気持ちが薄々ではるが、気が付いていると言う。

 

では何故、彼は自分の気持ちに何らかのリアクションを起こさないのであろうか?

もしや、自分は彼のタイプではないのだろうか?

 

だから、彼は自分の気持ちに答えてくれないのだろうか?

 

彼は優しい人だから、直接自分に「嫌い」などと言えば傷つくと思い敢えて気が付かないフリをしているのだろうか?

 

そんなネガティブな考えしか浮かんでこないギンガは思わず顔を俯かせる。

 

「‥‥」

 

顔を俯かせるギンガに紅葉は、またホットミルクを一口飲んでから口を開く。

 

「‥‥これは、死んだ私の兄から聞いた話なんですが‥‥良馬さんの初恋の相手‥‥実は加奈江さんだったらしいですよ」

 

「えっ!?」

 

またも驚愕の事実を聞き、俯かせていた顔をバっとあげるギンガ。

 

「まだ、良馬さんが士官学校を卒業したての頃に一時期、源三郎さんの下で働いていた時があり、下宿先に此処(中嶋家)を紹介されたらしいのですが、その時に加奈江さんに会って一目惚れしたそうです。まぁ、本人は否定していましたけど‥‥」

 

「そ、それで?」

 

ギンガは固唾を飲んで、紅葉の話に聞き入る。

 

「もちろん、良馬さんの初恋が実る事はありませんでした。加奈江さんは既に既婚者でしたから。しかし、その事を踏まえると、加奈江さんに似ているギンガさんならば十分に脈は有ると思いますよ」

 

「だったら、どうして良馬さんは、私の気持ちに答えてくれないだろう?」

 

「恐らく、ギンガさんは気になる‥‥けれど、自分はギンガさんを加奈江さんの代わりじゃないかと言うと思いがあり、それが本当にギンガさんを愛しているのかと言う疑問を抱いているのかもしれません。まぁ、そこは時間をかけるしか確かめる方法はありませんけど」

 

「‥‥」

 

「それで、どうします?」

 

「えっ!?」

 

「だから、あくまで私の憶測ですが、良馬さんもギンガさんの事を気になっているようですが、今日の様に遠まわしで気を引くようでは効果が無いと思います。此処は直接良馬さんに告白してみてはどうでしょう?」

 

「‥‥」

 

紅葉は『直に告れ』と言うが、それが出来れば、苦労はしない。

 

「ギンガさんは間もなく任官、良馬さんも新たな配属地に赴きます。グズグズしている暇はありませんよ」

 

そう、紅葉の言う通り、良馬にも自分にも残されている時間は少ない。

 

配属先が異なれば休暇期間も異なるだろう。

 

特に良馬は以前から艦船勤務だったので、新たな配属先も艦船勤務になる可能性が高い。

 

本人もそれを強く希望している様子だし‥‥。

 

そうなれば、何時会えるか分からない。

 

その間にもし、良馬が他の女性を恋仲になったら‥‥。

 

そんな事、考えたくもない。

 

しかし、直接告るのも勇気がいり、そう簡単には出来ない。

 

ギンガが云々唸って考え始め、紅葉は、

 

「そ、その‥‥頑張って下さい」

 

ただ、紅葉はギンガに告れとは言ったが、自分の知るギンガと目の前にいるギンガとの違いに戸惑う。

 

(ギンガが好きになったのはアキラの筈‥‥それが何で‥‥?いや、それよりも防衛軍の士官学校を卒業し、このAMFが充満したこの環境の中で今の私やリニスさんと模擬戦を繰り返して来たギンガがミッドに戻ったとしたら、もっと強くなっている筈‥‥)

 

そこで、紅葉は、

 

「あ、あの‥ギンガ‥さん」

 

紅葉は恐る恐るギンガに声をかけながら肩を叩く。

 

考え込んでいたギンガは紅葉に声をかけられて、肩を叩かれ思考の海から現実へと戻って来る。

 

「ん?な、なに?紅葉」

 

「あの‥‥私、最近変な夢を見るんですけど‥‥」

 

紅葉は前世の事を夢としてギンガに話した。

 

アキラと言う男子局員の事、

 

メグと言う名の前世の自分が親友である事、

 

そして、夢の中のギンガがアキラと結婚をして女の子を出産した事を‥‥

 

しかし、ギンガはミッドに居る頃にアキラと言う名前の男子局員にもメグと言う同僚も全くの心当たりがないし、知らないと言う。

 

紅葉は話を変えて、ギンガにミッドでの事を訊ねると、八神はやてが機動六課を起動させた事は前世と同じだったが、ギンガはその稼働と同時に六課に出向予定だったと言う。

 

しかし、紅葉の記憶の中のギンガはアキラと共に夏頃に六課へと出向した。

 

六課への出向時期についても自分の知る歴史と異なる。

 

此処まで自分の知る歴史と異なると言う事は一体どういう事なのか?

 

ますます混乱する紅葉。

 

ギンガは根が真面目なので、嘘をつくとは思えない。

 

そんな時、紅葉は転生と共にもう一つ、ネットの二次創作である設定を思い出した。

 

それは平行世界‥パラレルワールドと言うモノだ。

 

人は生きて行く中で数多くの選択肢にぶつかる。

 

その選択肢は一つしか選べない。

 

平行世界はその選択肢分世界が分かれる。

 

こっちを選んだ世界もあれば、あっちを選んだ世界もある。

 

もしかしたら、目の前にいるギンガも自分が転生する前のギンガではなく、前世の自分が知らない平行世界から来たギンガなのかもしれない。

 

目の前のギンガが自分の知らない平行世界から来たのであるならば、ギンガがアキラや前世の自分の事を知らないのも頷ける。

 

ギンガが自分の知らない平行世界から来たのであれば、この世界のギンガにも幸せになってもらいたいと紅葉はそう思った。

 

この世界のギンガの幸せを願いながら紅葉はマグカップを持ってギンガの部屋から出た。

 

それから暫くして、ギンガは良馬の部屋へと行き様子を窺った。

 

気づかれないようにドアを少し開けて部屋の中の様子を見ると、良馬は机の上にパソコンのキーを打ちながら時折、パソコンの傍に置いてある書類の束に目を通したり、書類にペンを走らせていた。

 

待機中とは言え、新米士官である自分と違い現役士官である良馬には待機中とは言え、何かしら仕事が有る様だった。

 

執務中の良馬の姿を見た後、ギンガはそっと部屋のドアを閉めた。

 

仕事中に声をかけるのも無粋であり、何より告白したり、紅葉の話の裏付けを確認する勇気をギンガは持ち合わせていなかった。

 

ギンガはそっと足音を立てないよう自分の部屋へと戻っていった。

 

ギンガが自分の部屋の前に来た事に気が付かない良馬は一心不乱で執務を行っていた。

 

やがて、彼が報告書の最後の文字をキーボードで叩き終えたその瞬間。

 

「ふぅ~‥‥」

 

報告書を纏め上げた良馬は疲労をたっぷりと溶かした溜息を吐いた。

 

夜の一族とは言え、体力が無限で疲労とは無縁‥‥と言うわけではない。

 

長時間のデスクワークで指も肩もついでに長時間椅子に座り続けたお陰で尻も痛い。

 

肩と首を回せば、凝った筋肉に疲労感が染み渡る。

 

体重を背もたれにかければオフィスチェアが乾いた金属音と共に軋んだ。

 

ふと、机の上の置き時計に目をやれば、時刻は既に深夜を回っていた。

 

20時頃から行った執務だったので自分が時間を忘れるほど仕事にのめり込んでいたのがよく分かる。

 

それを自覚すると、どっと疲れが押し寄せてきた。

 

そして、執務を終えると良馬は別の事を思った。

 

「それにしてもバカな事をやったな‥‥彼女からの折角の誘いを断るなんて‥‥」

 

それは仕事への不満ではなく、今日の・・・・正確には昨日の昼間、自分がギンガに取った態度についての後悔だった。

 

紅葉は、空気を読める子だ。

 

ギンガと二人で出かけることに関しては特に口を出すことは無いし着いていくとは言わないだろう。

 

そして桜花はあの時、庭にいたから声を掛けなければ、おそらく気が付かなかっただろう。

 

最も、二人で食事に出かけたと知ったら後で何を言われる分かったもんじゃなかったが‥‥

 

まぁ、その時は後日に桜花を食事に連れて行けばそれで済むだろう。

 

いずれにしても、二人で出かけることに関して何ら問題は無かった。

 

それにもかかわらず、良馬は敢えて紅葉と桜花の二人に声をかけて四人で出かけた。

 

その理由はやはり、中嶋ギンガと言う少女の存在に他ならない。

 

彼女の告げた食事の誘いをできるだけ自然に断る為の方便だった。

 

良馬は、そうやってギンガと距離を置こうと常に心がけている。

 

理由は取るに足らないもの。

 

彼の胸の内で静かに‥されど熱く燃える感情が為だった。

 

紅葉がギンガに伝えた通り、良馬はかつて、中嶋加奈江と言う女性に片思いをしていた。

 

忍やリニスとは少し違う感覚で、大きく自分を暖かく包み込んでくれる加奈江。

 

母性と同時に女性としての魅力を感じていた。

 

忍やリニスの場合は既に身内の女性として認識していた為、感情が揺れ動くことは無かったのだ。

 

しかし、自分と出会った当初から加奈江は既に既婚者であり一児の母だった。

 

不倫関係に持ち込み、当時上司であった源三郎の家庭を壊すわけにもいかず良馬の初恋は敢え無く終わった。

 

その後、謎の宇宙船で救助した少女が自分の初恋相手に似ていた事に驚愕したが、当時の地球の状況から、良馬に恋愛感情を抱いている暇など無かった。

 

しかし、資源輸送の護衛任務での出撃の際、お守りだと言われて受け取った紫色の水晶のペンダント(待機中のブリッツ・キャリバー)から、確かにギンガの声がした時、秘めていた思いが再び芽生えた。

 

彼女が防衛軍士官学校へ入校すると聞いた時には、彼女をガミラスとの戦争で失うのが怖かった。

 

だからこそ、自分は彼女の士官学校の入校を反対した。

 

だが、その説得も忍の登場にて失敗に終わった。

 

その時、自分は彼女が任官する時にはこの戦争が終わっていて欲しいと願った。

 

そしてその願いが叶ったのか、彼女が任官する前にヤマトが無事地球に帰還し、ガミラスとの戦争は終り、地球は放射の脅威から救われた。

 

彼女と自分の新たな配属先が決まるまでのこの短い期間、戦争中と違い、ゆっくりと考える時間が出来てから、良馬のギンガに対する思いが日に日に膨れ上がっていった。

 

だが、良馬はその想いを成就させようとは思わなかった。

 

二十台も半ばの自分とまだ十代のギンガ。

 

年の差があり過ぎる。

 

そして、養子とは言え今のギンガは源三郎の娘なのだ。

 

防衛軍に任官してから、良馬は色々と源三郎には世話になった。

 

その彼の娘に手を出すというのは、どこか後ろめたいものを感じていた。

 

ギンガの思いを感じながら良馬はパソコンのメール機能を開きメールのチェックをした。

 

すると、忍からまたもやお見合いのメールが来ていた。

 

良馬は言わずと知れた月村の家に生まれた男児だ。その為、将来は月村の家の当主になる事になる。

 

そして月村と言えば、様々な分野で手広く商売をしている。

 

その為、忍は何としても月村の家を絶やしてはならないと次期当主である良馬に良くお見合いを薦めてくる。

 

相手の方は、日本はもとより、世界各国の大企業や政治家、軍のお偉いさんのお嬢様方がほとんどだ。

 

しかし、良馬は今のところその全てのお見合いを断っている。

 

どうも、お見合い相手は、良馬自身よりも月村と言うブランド名を欲しがっているように思えたので良馬は、見合い‥‥引いては結婚にどうしても踏み切れなかった。

 

その点、ギンガは月村の家名目当てで近づいてきた様子は全く無い。

 

そういう点においてもやはりギンガは魅力的な女性だった。

 

だが、年の差やギンガの家の問題の他にやはり自分の家の問題もあった。

 

忍は説得すれば認めるだろうが会社の重役が認めるかと言う問題もあった。

 

月村の次期当主と、防衛軍の一官僚‥‥しかも養子の女性‥‥難しそうだ。

 

それに自分は、容姿は人間だが分類は夜の一族と呼ばれる吸血鬼‥‥化け物だ。

 

もし、ギンガが自分の正体を知った時、どんな顔をするだろうか?

 

きっと化け物と罵って恐れ戦くだろう。

 

だからこそ、彼女を傷つけない為にも自分は彼女から身を引くべきなのだ。

 

若干自己弁護も含まれているが、良馬にはそう言った様々な経緯があり、彼はギンガへの想いを胸に仕舞いこみ、ただ燻らせるに任せていた。

 

あの容姿と性格だ‥‥きっと、彼女にもすぐ恋人が出来るだろう。

 

自分の様な人外(化け物)ではなく、れっきとした人間の男が‥‥

 

彼女にふさわしい男が‥‥

 

それまで耐えれば良いのだと自分には言い聞かせ、良馬はギンガと積極的にプライベートで関わらぬよう努め始めていた。

 

しかし、彼自身もまだ知らなかった。

 

ギンガ自身も魔導師である事を除いて、普通の人ではないと言う事に‥‥

 

取りあえず、忍にはお見合いに関しては、毎度の様に断りのメールを送り、良馬はベッドの中へと入った。

 

 

翌朝―――――

 

 

「おはようございます‥‥」

 

朝食の席である中嶋家のリビングに良馬は現れたが、その様子は完全に寝不足ですという事を体で表現していた。

 

目の下にはうっすらと隈があり、髪の毛もボサボサ‥‥

 

寝間着(パジャマ)のままで、足取りは少しフラついている。

 

その様子は、とても防衛軍の士官と言う格好ではなかった。

 

「随分、眠そうね?大丈夫?」

 

朝食のサラダ(特盛)が乗った器をテーブルに置きながら加奈江が訊ねてきた。

 

「ええ、夕べ遅くまで仕事を片付けていたので‥‥今日は非番なので、朝食後、また寝ます」

 

「軍人は体が資本なのよ。あまり無理をしないようにね」

 

「はい」

 

良馬と加奈江の何気ない会話なのだが昨夜紅葉から良馬の初恋の人が加奈江だと聞いたギンガは二人の様子が何となく違って見えた。

 

それは、夫の体を気遣う妻の様に見えた。

 

朝食後、紅葉と桜花は学校へと行き、源三郎は司令部庁舎へ出勤。

 

良馬はやはり、寝不足の為か朝食の進みが遅く眠そうにまだ紅茶を啜っていた。

 

「良馬君」

 

「はい?」

 

朝食で使った食器を洗いながら声をかける加奈江。

 

「私とギンガ、リニスさんはこの後、買い出しに行ってくるわね。カップは流し台に置いてといていいから」

 

「分かりました」

 

良馬が一人、リビングでのんびりと朝食をとっている間に加奈江たちは食器を洗い終え、買い出しに出かけて行った。

 

朝食後、再び寝ると言っても良馬は、流し台にカップを置いた後、洗面所へ行き、歯を磨き、顔を洗った。

 

そのまま、部屋へと行こうとしたが、自分が思っていたよりも体は疲労していたらしく、良馬はリビングのソファーに横たわった。

 

ソファーに横たわった途端、眠気が押し寄せそのまま目を閉じ深い眠りについた。

 

 

買い出しへ出かけた加奈江達だったが、ショッピングモールへ着いた時、加奈江はギンガに買い出しのリストを渡すと加奈江は、

 

「買い物が終わったら、先に帰っていて大丈夫よ」

 

と、言い残してリニスと共にショッピングモールの奥へと姿を消した。

 

ギンガが頼まれた買い出しは意外と早く終わり、彼女は、加奈江が言ったように、買い出しをした品を持ち、家へと戻った。

 

「あれ?」

 

買い物から帰り、家に戻ったギンガが発したのは疑問符の一声だった。

 

リビングの一角に鎮座するソファーの上に見覚えのある人間が寝そべっている。

 

格好は朝食の時に見た寝間着のまま‥‥

 

髪の毛も朝見た時と同じで梳かした様子はなく、ボサボサの状態の男、月村良馬の姿だった。

 

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