星の海へ   作:ステルス兄貴

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前話の後半、そして今回の話でも登場した管理局の造艦技師であるニナ・パープルトンのイメージイラストになります。


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ヴェルタンとヴェルニーの二人が、フェイトが描いたヤマト、まほろばのイラストを基に造った艦のイメージはyamato2520に登場した17代目ヤマトの船体に一部銀河の艦橋を合わせたような外見の艦となっています。


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二百十四話 プロポーズ・新造艦完成

 

 

防衛軍が行ったバジウド星系への遠征は、地球連邦政府、防衛軍が共に望むような戦果とは程遠い結果となり、政府、軍もこの遠征失敗の後始末に右往左往する状況となってしまった。

 

同盟国であるガルマン・ガミラス側からも皮肉交じりたっぷりの忠告を受けた。

 

特に地球にとって最前線であるケンタウロス座アルファ星とバジウド星系の中にあるバース星では、地球側の戦力強化を行わなければならない。

 

そこで、太陽系の内惑星艦隊の一部がアルファ星とバース星へと派遣され、戦力の増強を行う事となり、太陽系内の戦力は若干低下する事となった。

 

 

軍と政府が遠征の後始末に追われている中、良馬は今回の遠征失敗についての報告書内に艦載機と空母についての意見を記載した。

 

防衛軍は彗星帝国戦役から攻撃機はコスモタイガー三席タイプの機体をベースにした雷撃機タイプを使用してきたが、対航空機戦ではその弱点をさらける事となった。

 

雷撃機タイプは対艦戦闘を強く意識した機体で、スピードよりも対艦攻撃を重視した設計であり、対艦装備では確かに大きな効果がある。

 

実際に彗星帝国戦役では土星圏フェーベで起きたゲルン機動部隊との戦いでは敵の空母部隊に大きな戦果を得た。

 

しかし、対航空機戦対策のパルスレーザー砲塔が機体の後部に連装式銃座があるだけで、機首や翼にはパルスレーザー砲が装備されていない。

 

また空母においても防衛軍はまだ正式な空母は彗星帝国が運用していたナスカ級高速中型空母の鹵獲艦だけであり、そのナスカ級‥もといホワイトスカウト級も旋回性や速度は申し分ないが、如何せん搭載機数が少ない。

 

「ガミラス‥そして、ガルマン・ガミラスでは航空機は戦闘機、攻撃機、雷撃機‥‥そして、空母においても防衛軍はまだまだ発展途上だな‥‥」

 

かつて、ガルマン・ガミラス本星で行われたガルマン・ガミラス建国記念日兼デスラーの生誕記念パレードでみたガルマン・ガミラスの艦艇、航空機のバリエーションの多さには舌を巻いた。

 

「防衛軍はどうも、大艦巨砲主義っぽいところがあるからな‥‥」

 

ヤマトの功績が大きすぎる為か、防衛軍は空母の建造に関してはどうも消極的な印象を受ける。

 

実際にホワイトスカウト級を得るまで、防衛軍が保有していた空母は、かつて日本海軍が保有していた改・伊勢型戦艦を宇宙艦船にしたような戦闘空母だ。

 

ガミラス、ガルマン・ガミラスでも戦闘空母は保有しているが、その他に正規空母としてガイペロン級多層式航宙母艦、ポルメリア級強襲航宙母艦、更には二連三段空母と空母の保有、建艦数も防衛軍とは大きく違う。

 

彗星帝国でもナスカ級以外にも超大型のアポカリクス級航宙母艦。

 

暗黒星団帝国でも正規の空母、戦艦よりも空母に主眼をおいた大型の戦闘空母。

 

そしてボラー連邦でさえ、大型の空母を保有していた。

 

同盟国、敵対国の空母戦力を比較すると防衛軍の空母の保有数、空母としての能力にかんしてはやはり、脆弱性を覚える。

 

「せっかく、ガルマン・ガミラスと同盟を結んでいるのだから、航空機、そして空母の建艦ノウハウを学ぶべきではないだろうか?そう言う意味では、今回の遠征失敗でも得た教訓はあったはずだ」

 

パソコンで書き上げた報告書を見ながら良馬は呟いた。

 

 

地球、アルファ星で遠征失敗の処理作業が粛々進められている中、バース星の補強戦力として駐屯していた八雲にアルファ星への帰還命令が下り、八雲はバース星から数隻の駆逐艦と共にアルファ星へと戻った。

 

アルファ星からバース星へ向かう際の航路では輸送船同行の護衛任務で、親ボラー連邦派の哨戒艦隊との戦闘やらで苦労したが、今回の航海では親ボラー連邦派の艦隊と接触することなく、無事にアルファ星へとたどり着いた。

 

 

八雲 艦内

 

「もうすぐ、アルファ星か‥‥」

 

「当初は、このアルファ星に来た後、地球に戻る試験航海だったのに、何だかんだあって色んな事に巻き込まれてしまいましたからね‥‥」

 

「でも、あの遠征ではアルファ星の艦隊も被害を受けたって‥‥」

 

「地球でも政治家や軍の上層部連中も大変みたいだぜ」

 

「そりゃあ、あんな無茶苦茶な遠征を決めたんだ、失敗の責任をとるのは当然だろう?」

 

「遠征に参加した俺たちも処分の対象になるのか?」

 

「ま、まさかそんなことは‥‥」

 

「俺たち下っ端まで責任を取らされるのか?」

 

アルファ星に近づく中、八雲の艦内では今回の遠征失敗について乗員たちは様々な憶測を立てていた。

 

そんな乗員たちの不安を他所に八雲はアルファ星へと到着する。

 

アルファ星の基地敷地内にある宇宙艦船ドックには、まほろばの姿もあり、あの遠征から無事に戻って来た事を物語っていた。

 

ドックに停泊するまほろばの姿を見て、ギンガが内心ホッとしたのは言うまでも無かった。

 

 

アルファ星 駐屯基地

 

「おっ?艦長、八雲がバース星から戻って来たみたいですよ」

 

まだ防衛軍には正式採用されていない八雲の独特の艦影は基地からでも直ぐに分かる。

 

「確か八雲にはウチの元通信長が副長として乗艦しているんですよね?」

 

「ああ、そうだよ」

 

「バース星駐屯艦隊もあの遠征に参加させられ、かなりの被害を出したみたいですよ」

 

「よく、無事に戻って来たな‥‥流石は試作とは言え、次世代の艦だ‥‥」

 

「でも、波動砲の部分がひしゃげていますよ」

 

「バース星駐屯艦隊が担当した攻撃目標はかなりの激戦地だったと言う事なのだろうな‥‥」

 

八雲の姿が肉眼で確認できる距離まで降下してくると艦首の波動砲発射口は変形している。

 

これは戦闘中、味方の巡洋艦と衝突した衝撃で変形してしまった事が原因だ。

 

バース星駐屯艦隊でも艦船修理用のドックは完備されているが、今回の遠征失敗で基地内の物資も節約しなければならず、八雲は元々正式なバース星駐屯艦隊所属では無かったので、アルファ星へと戻ったのだ。

 

第三者視点から見れば、散々使い古された後、用済みになった様に見えたが、アルファ星よりも最前線であり、尚且つ極寒なバース星にこのまま駐屯するよりもマシだと八雲の乗員たちは文句も言わずにバース星を後にした経緯があった。

 

ギンガが八雲の艦橋で、ドックに停泊するまほろばを見て、内心ホッとしたように、良馬もアルファ星に戻って来た事に口元を緩めた。

 

八雲はアルファ星駐屯基地のドックに停泊すると、まずはあの遠征で戦死した乗員たちのご遺体と負傷者たちが降ろされる。

 

負傷者はこのまま基地内の医療施設へ移送して治療と養生となり、ご遺体は地球へと運ばれる

 

そして、八雲は波動砲発射口の修理と補修、補給が行われ、暫くの間はアルファ星でその傷ついた船体を休める事となり、乗員たちには暫しの休暇が与えられた。

 

遠征失敗の責任や処分が課されるかと思いきや、休暇が与えられたことに八雲の乗員たちは歓喜する。

 

艦を降りたギンガが向かったのは勿論、良馬の所であった。

 

良馬も久しぶりにギンガと出会えて、嬉しそうだ。

 

再会した二人は仲睦まじい様子で出かけて行く。

 

そんな二人の姿を見たティアナは、

 

「あの二人、いい加減、くっつけばいいのに‥‥くっ、リア充め、爆発しろ‥‥」

 

フェイトと共に遭難者となり、もう一つの地球に滞在している時から良馬とギンガのバカップル?ぶりは何度か見せつけられている。

 

そんなバカップルぶりを展開している二人は何故か、身を固めようとしない。

 

自分は知る由もないが、何か結婚できない理由が当人たちにはあるのかもしれないが、彼氏が居ない身としては見せつけられている様に思えて空しくなる。

 

管理局の訓練校時代、その後の救助部隊、機動六課、本局、そして宇宙戦士訓練学校、巡洋艦八雲とこれまでの環境全てが同性のみと言う訳ではなかった筈なのに、何故か自分は異性との縁がなかった。

 

「はぁ~‥‥」

 

これまでの男運の無い自分自身に深いため息をついていると、

 

「あれ?もしかして、ランスターさん?」

 

「えっ?」

 

そこにはパルチザン活動時代に行動を共にしていた北野が居た。

 

「えっ?北野さん!?どうしてアルファ星に?」

 

「実は、先日の遠征についての査察と基地の調査にね」

 

北野は藤堂からの指令でアルファ星駐屯艦隊の被害調査を含めた査察に来ていた。

 

「そうなんですか‥なんだか大変そうですね」

 

「ええ、しかし、誰かがやらなければならない仕事ですからね。それにこれは今後の軍には必要な仕事だし‥‥」

 

ティアナが北野と話していると、互いの腹の音が鳴る。

 

「あっ‥‥」

 

異性の‥北野に腹の音を聞かれ、思わず顔を赤らめるティアナ。

 

「そ、その‥ランスターさんはアルファ星について詳しいですか?」

 

「えっ?ま、まぁ‥多少は‥‥」

 

ティアナはギンガからアルファ星の市街地についてある程度の事を以前、聞いていた。

 

「じゃあ、一緒に食事に行きませんか?」

 

「えっ?」

 

「実は、僕も食事がまだでして‥‥ただ、アルファ星に来たばかりで何処に何があるのか分からないので‥‥」

 

「ええ、良いですよ」

 

ティアナは北野と共にアルファ星の市街地へ一緒に出掛けていった。

 

そして、市街地にあるレストランにて北野と食事をした時、二人は互いの近況話をしながら食事を楽しんだ。

 

食事後、二人は互いの連絡先を交換した。

 

 

ティアナと北野は共に食事をして連絡先を交換するだけに至ったが、良馬とギンガの方は、あれから市街地をデートした後、夜にはホテルで一泊をした。

 

ベッドの上で、男女の営みをした後、

 

「‥ギンガは‥‥」

 

良馬は以前、地球で加奈江と話した際の事を思い出して、徐にギンガへ声をかける。

 

「はい?」

 

「‥いや、こうしてお互い無事に帰れて良かったと思ってね」

 

今、この場で話す内容ではないと思い、話題を逸らした良馬。

 

「ええ、そうですね」

 

生きて帰り、こうして恋人と再会した事を実感したギンガは恋人の身体に自らの身体を密着させる。

 

「まだ‥‥大丈夫ですよね?」

 

「あ、ああ、勿論‥‥」

 

やがて、二つの影が一つとなる‥‥

 

二人の夜はまだまだ続くことになる。

 

 

翌朝‥‥

 

やや遅めの朝食をホテルのレストランで摂り、食後のデザートとお茶を前にした時、良馬は昨夜思った事をギンガに訊ねてみた。

 

「‥‥ね、ねぇギンガ」

 

「はい?なんでしょう?」

 

「‥‥その‥ぎ、ギンガはさあ‥‥」

 

「はい」

 

「‥‥その」

 

良馬の何だかよそよそしい態度にギンガは首を傾げる。

 

(な、なに緊張をしているんだ!?)

 

(昨日はあんな簡単に聞こうとしたじゃないか!!)

 

ホテルのベッド内ではシチュエーションを思って訊ねようとしたけど、訊ねなかった。

 

しかし、今は違う。

 

ホテルのレストランであるが、遅めに来た事で周囲には他の利用客は居らず、ウェイトレスもウェイターも居ない。

 

落ち着いた空気だが、良馬の心臓は鼓動が早い。

 

これまで多くの修羅場をくぐって来たにもかかわらず、肝心な事で弱気になりかけている。

 

訊ねるのが怖い。

 

ギンガからの返答が怖い。

 

そんな恐怖心が良馬の中にある。

 

しかし、既にギンガに声をかけた事で、後戻りは出来ない。

 

(よ、よし、いくぞ‥‥)

 

意を決して良馬はギンガへと言葉を続ける。

 

「ぎ、ギンガはさあ‥‥その‥‥こ、子供は‥その‥‥欲しい?」

 

「えっ?」

 

良馬の問いにギンガは固まる。

 

(えっ?えっ?子供?)

 

(子供ってあの子供の事だよね?)

 

(良馬さんが私に訊ねてきているって事は、私と良馬さんとの子供の事だよね?)

 

(まさか、養子をとるなんてことじゃあないよね?)

 

(で、でも一応確認はした方が良いよね?)

 

ギンガは心の中で何度も自問を繰り返す。

 

「あ、あの‥‥」

 

「ん?」

 

「その‥子供って?」

 

「その‥‥将来‥ギンガは子供が欲しいかな?って意味で‥‥」

 

「子供って、良馬さんと私の子供‥ってことですか?」

 

「‥‥」

 

ギンガの問いに良馬は俯きつつ頷く。

 

良馬の態度にギンガは養子ではなく、良馬が自分と間に子供を欲しがっているのかを問うているのだと理解する。

 

「そ、そうですね‥‥」

 

「‥‥」

 

ギンガの返答が返ってくる時間が実際にはほんの僅かな時間だったのかもしれないが、良馬にしてみれば物凄く長い時間に感じられた。

 

(加奈江さんは、ギンガは子供が欲しいって言っていたけど、実際にギンガから聞いてみないと分からないし‥‥)

 

良馬が加奈江から聞いているのはあくまでも、加奈江の‥クイントの予想であり、実際にギンガが『子供が欲しい』とは言っていない。

 

だからこそ、ギンガからの返答で、彼女がどう思っているのかが分かる。

 

「わ、私は‥‥その‥‥欲しいです。良馬さんと私の子供が‥‥」

 

そして、ギンガからの返答が返ってきた。

 

ギンガは加奈江の‥クイントの予想通り、自らの子供を欲した。

 

「良馬さんも知っての通り、私は異星人であり、戦闘機人と言う普通の人ではありません‥私の故郷でも地球でも両親との間に血は繋がってはいません‥‥ですが、故郷でも地球でも私を育ててくれた両親は、私の事を本当の家族の様に接してくれました。そんな両親の為にも孫の姿を見せたい‥血の繋がった家族を築きたい‥そう思っています。それに‥‥子供は愛する人との結晶ですから‥‥」

 

ギンガは顔を赤らめつつも子供を欲する理由を語る。

 

「でも、いきなりどうしたんですか?」

 

ギンガは良馬に何故、子供についての話題を振ったのかを訊ねる。

 

「いや、その‥‥そろそろ、俺たち身を固めないかと思って‥‥」

 

「えっ?」

 

良馬の返答にギンガは一瞬、フリーズする。

 

「中嶋ギンガさん‥‥」

 

「は、はい」

 

「‥俺と結婚してください」

 

良馬は上着の内ポケットから指輪の入ったリングケースをギンガの前に差し出す。

 

「‥‥」

 

ギンガは未だに目の前の事が信じられない感じで唖然としていたが、やがて良馬の言動の意味を理解して、

 

「わ、私でよければ喜んで‥‥」

 

「あ、ありがとう‥ギンガ‥‥そして、これからよろしく」

 

「こちらこそ、お世話になります」

 

ギンガは満面の笑みで良馬からのプロポーズを受け入れたのだった‥‥

 

 

 

 

地球で、大敗北と言えるようなバジウド星系への遠征が行われていた頃、ミッドチルダでは士官学校の卒業式が近づいていた。

 

そして、その年の卒業生の中にはフェイトとチンクも含まれていた。

 

卒業生は卒業前に希望する任官地のアンケートを取る。

 

中には家の事情から、士官学校を卒業後に管理局に任官しない者も居る。

 

ボラー連邦への武力制裁前は、士官学校の卒業生たちの任官先希望は勿論、“海”が大半を占めていた。

 

しかし、ボラー連邦への武力制裁失敗後は管理局の次元航行艦の脆さが露呈した事で、圧倒的に“空”となっていたが、空戦属性がない候補生たちは渋々と言った様子で“陸”を選んでいたが、“陸”側も人手が来るのは良いが、正直やる気のない者が来ても迷惑だったので、“陸”の人事部も採用するかは吟味していた。

 

だが、近年になり次世代の次元航行艦が就役して、その性能がボラー連邦の宇宙艦船の性能と変わらない程の能力を有している事を知ると、士官学校の卒業生たちは手の平を返して“海”を選択するようになった。

 

人材が戻って来た事で当然、“海”はホクホク顔なのだが、問題も多々あり、スバルが解決した人工衛星都市ガーラミオで起きた事件、はやてが解決した密輸品事件において、本局所属の幹部局員たちの汚職と不正が露になり、マスコミから叩かれる事になったが、これまでの実績?から責任転嫁と隠蔽工作でのらりくらりとやり過ごした。

 

そんな進路先のアンケートは勿論、フェイトとチンクも書くことになる。

 

フェイトが寮の自室へと戻ると、チンクは何かを書いていた。

 

「ただいま、チンク」

 

「ああ、フェイトか‥おかえり」

 

「ん?チンク、何を書いているの?」

 

「これか?配属先希望のアンケートだ」

 

チンクは机の上に置いたアンケート用紙をフェイトに見せる。

 

「もう書いているんだ。提出期限は確か来週の筈だけど?」

 

「それは分かっているが、期限よりも早く提出したら、希望通りの部署に配置されるかもしれないと思ってな」

 

「へぇ~ちなみに、どんな部署を希望したの?」

 

フェイトはチンクが士官学校の卒業後の希望配属が気になったので、何処に配属希望なのかを聞いてみる。

 

「此処だ」

 

「ん?」

 

フェイトがチンクの配属先を見ると、

 

『次元航行艦勤務』

 

と、書かれていた。

 

「‥‥次元航行艦勤務なら、そこまで急がなくても多分希望通りになると思うよ」

 

“海”‥特に次元航行艦はボラー連邦への武力制裁前同様、人手不足なので、士官学校の卒業生‥特に優秀な候補生は喉から手が出る程欲しい筈なので、よほどの素行不良でなければ次元航行艦勤務を希望すれば、希望通りになるだろう。

 

「フェイトは何処を希望するつもりだ?」

 

「私もチンクと同じ、次元航行艦勤務を希望するつもり」

 

「そうか、フェイトも私と同じか‥‥それで、誰の艦に乗艦したい?やはり、元六課の隊長が居る艦か?」

 

機動六課で親友のはやてと同じ部隊に所属したのだから、卒業後は、はやてが艦長を務める艦への乗艦を希望するのかと思った。

 

「うーん‥まぁ、それも六課時代を思い出せるけど、誰の艦が良い‥って希望はないかな?」

 

「そうなのか?」

 

「うん」

 

「でも、あの負け犬と同じ艦だけは勘弁だな」

 

チンクはそこまで絡まれてはいないが、メアリーはどうも生理的に無理な様子なので、士官学校を卒業後も彼女と同じ勤務地になるのは遠慮したい様子で、

 

「あっ、それはそうだね」

 

流石のフェイトも士官学校の卒業後もメアリーと顔を合わせるのは辛いみたいだ。

 

「そう言えば、今更ながら気になる事があるのだが‥‥」

 

「ん?なに?」

 

卒業間近と言う事でチンクはある事が気になり、フェイトに訊ねた。

 

「以前、士官学校で殺人事件があっただろう?」

 

「うん。まさかあの事件の犯人が当時の校長先生だったのは意外だったね」

 

「それで、主犯に殺人罪の罪を着せられそうになった当時の首席‥あの弱々しい先輩はどうなったか知っているか?」

 

事件解決後、チンクは上級生との交流が無かったので、犯人であった当時の校長先生から冤罪を着せられそうになった当時の首席だったマスミ・ウィンザードの配属先が気になった。

 

「ああ‥‥あの人ね‥‥」

 

チンクはマスミがどうなったのか知らなかったが、フェイトは知っている様子だ。

 

しかし、フェイトは何か気まずそうな感じでチンクから視線を逸らす。

 

「ん?どうした?まさか、今度はアイツが何か事件でも起こしたのか?」

 

「いや、そうじゃなくて‥‥彼は事件の後、士官学校を中退しているの‥‥」

 

「中退!?い、一体どうして!?犯罪者ではない事は証明された筈だろう?」

 

「なんか、彼の父親が他の管理世界への転勤が決まって、彼は父親に着いて行く事を決めて士官学校を中退したの」

 

「‥‥」

 

フェイトからマスミの中退理由を聞いてチンクは何か呆れている様子だ。

 

「いや、いや、いくら父親が他の世界へ行くからと行って、何も着いて行く必要はあるのか?」

 

士官学校は基本寮生活なので、家族が他の管理世界へ行くからと行っても大して問題はない。

 

授業料だって振り込めば済む筈だ。

 

「やはり、アイツは管理局員には向いていなかったのではないか?」

 

出会った時も気弱で根暗、他に誰かに指示をされなければ動けないマニュアル気質な印象を受けたので、チンクとしてはそんな人物が管理局員‥しかも幹部クラスの局員にならなかった事は未来の管理局にとってある意味では幸運だったのかもしれない。

 

士官学校の卒業が近づく中、本局の第零造船ドックでも、クロノが待ちに待ったヴェルタンとヴェルニーが設計した新造艦がようやく完成した。

 

 

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「ようやく完成したか‥‥此処までの道のりは長かった‥‥」

 

「でも、こうして半ば秘密裏に建造するのはスリルがあって別の意味で楽しかった」

 

ヴェルタンとヴェルニーはこの新造艦の建造作業を造艦技師としてやりがいのある仕事だったと達成感があった。

 

「これも全てハラオウン提督の御尽力があったからです。提督の力が無ければ、我々は嫌々で仕事を続けていたか、造艦技師を辞めている所でした」

 

「いえ、お二人の造艦技師としての力がなければこの素晴らしい艦は日の目を見る事はなかったでしょう‥‥こちらこそ、お二人には感謝に堪えません」

 

「あとは艦の人選と提督たちがこの艦を手足の様に扱えるよう訓練を行ってください」

 

「はい。重ね重ねありがとうございます」

 

クロノはヴェルタンとヴェルニーから新造艦を受領し、続いては艦を動かす人選となった。

 

この新造艦が完成するまでクロノはVX級のクラウディアに乗艦し続け、次世代型の次元航行艦には乗らずにいた。

 

その間、クロノにはクラウディアとは別の艦の異動も検討されたが、本人が頑なにそれを拒んだ。

 

通常ならば、そんな我儘は通じないが、クロノが高ランクの魔導師であり管理局内でもエリートと名高いハラオウン家の人間である事からそれがまかり通った。

 

クロノ本人としてはそうした権力を使うのは心苦しいのだが、自分の心情では次世代型の次元航行艦に乗艦するのはボラーへ屈した心境だった。

 

その為、旧式となったVX級のクラウディアは出動任務があっても辺境警備の任務や人員や物資の輸送など、“海”の仕事でも裏方のような仕事ばかりであった。

 

そんな地味な裏方仕事ばかりであると、新人の局員にとっては辛いし、他の同期生からバカにされるので、クラウディアに配置された新人たちは落胆し、すぐにクロノへ配置転換願を出す者が多かった。

 

クロノはそんな新人たちの気持ちが分からない訳でもなかったので、去るもの追わずに自身の人脈で新たな配属先の手配を行った。

 

そんな訳でクラウディアの運航スタッフは代わり映えのない様子であったが、本局としては、ベテランの局員を旧式艦に留めておくよりも新型艦へと配置して一日でも早く管理局の威厳を取り戻し、管理世界の拡大を図りたく、本局人事部のレティの下には他艦の提督や艦長から矢のような催促が来て、レティはなくなくクラウディアのベテラン乗組員の配置転換をクロノに頼み込んで来た。

 

クロノはスカウトされたベテラン乗組員の意志を第一優先としたが、クロノに迷惑をかけられないと異動命令に応じるベテラン乗組員も居た。

 

やがて、乗組員がどんどん他艦へ配置転換されていくと、艦を運用するほどの人員が居なくなってしまい、クラウディアには廃艦処置が下された。

 

高性能な艦が出来、徐々に移り変わっていく中、例え建造年月がそこまで古くなくても旧式の烙印を押されてしまった艦は姿を消す運命にあった。

 

乗艦が廃艦となり、クロノは新造艦が完成するまで、艤装員長として本局で新造艦の建艦に協力していた。

 

新造艦の指揮官として誰よりもはやく新造艦の機能や能力を把握しておく必要性を感じていたのだ。

 

「さて、後は人選か‥‥」

 

脳裏を過ったのは元クラウディアの乗組員であるが、スカウトされ他艦へ配属された元乗組員を全員呼び戻すのは難しい。

 

引き戻せば、その乗員が抜けた穴を埋めなければならない。

 

「そう言えば、そろそろ士官学校の卒業時期か‥‥」

 

クロノはこの新造艦の完成時期と士官学校の卒業時期が重なる事を思い出した。

 

「ダメ元で士官学校の校長に話をしてみるか‥‥」

 

クロノは士官学校へ電話を入れ、アポイントメントを取り、士官学校へと赴いた。

 

 

時空管理局 士官学校 校長室

 

「これは、これは、ハラオウン提督。ようこそ」

 

フェイトとチンクが入った年に起きた例の殺人事件の犯人が士官学校の校長で会った事から現在は別の人物が士官学校の校長を務めている。

 

「突然の訪問ですが、わざわざ時間を割いて頂いてありがとうございます。早速ですが本日、自分が士官学校へ赴いた理由ですが、今度ある新造艦が就役する事になりまして‥‥」

 

「“海”では、新造艦の建造ラッシュが数年前から起こっていますからね」

 

「それで、今年の士官学校の卒業生の中から何名かをスカウトしたいのですが‥‥」

 

「ええ、構いませんよ。では、直ぐに今年の卒業生のリストを用意しましょう」

 

「お手数をおかけしますが、よろしくお願いします」

 

卒業間近の学生のスカウトも特に珍しい事ではないので、校長は急ぎ卒業者のリストを用意してクロノに渡した。

 

「あっ、それとですが‥‥」

 

「なんでしょう?」

 

「ハラオウン候補生を呼んでもらえますか?」

 

クロノはいの一番でフェイトには新造艦の事やスカウトについて伝えておきたかった。

 

「ええ、良いですよ」

 

校長は教官へ内線電話をかけるとフェイトを呼んでくれた。

 

「あっ、クロノ。どうしたの?急に?」

 

「フェイト、そろそろ卒業時期だと思ってね。卒業後の配属希望のアンケートはもう書いたかい?」

 

「うん、ついさっき」

 

「‥‥どこを配属先に希望したのか聞いても?」

 

「具体的な配属先は書いていないけど、次元航行艦の勤務先を希望したよ」

 

「次元航行艦勤務って事は、やっぱりはやての艦に乗艦を希望するのかい?」

 

クロノも機動六課の時の様にはやてが指揮する艦の乗艦を希望するのかと思っていた。

 

「いや、特に決めてはいないけど‥‥」

 

しかし、意外にもフェイトは、はやてが指揮する艦でなくても良いと返答する。

 

「それなら、フェイト。今度就役する新造艦に来ないか?」

 

「えっ?新造艦?」

 

「フェイトは覚えているかい?以前、艦政部造艦科所属の技師が来た事を‥‥」

 

「ん?‥‥ああ、確か私にヤマトとまほろばのイラストを頼んで来た人ね」

 

「そうだ。実はあの後、その人物と会い、交流を深めてね」

 

「へ、へぇ~そうなんだ‥‥」

 

フェイトの中ではあの時、自分を訪ねてきた艦政部造艦科所属の技師、ヴェルタンは変わり者と言う印象があったので、そんな変わり者と真面目なクロノが交流を深めた事に意外性を覚える。

 

「それで、その人の協力の元、今襲撃している管理局の次元航行艦とは異なるコンセプトの次元航行艦を建造して、つい先日完成した」

 

クロノがタブレット端末にてフェイトに完成したばかりの次元航行艦の画像を見せる。

 

「た、確かにこれは今まで管理局が造った次元航行艦とも、今はやてたちが乗っている次元航行艦とも違う‥‥どちらかというと‥‥」

 

「もう一つの地球の艦‥‥だろう?」

 

「そう。なんだかヤマトを基にしているみたい‥‥」

 

「基はフェイトが描いたヤマトとまほろばのイラストを艦政部造艦科所属の技師がアレンジしたらしいからな。それでだ、フェイト」

 

「ん?」

 

「フェイトが良ければ、この艦に乗ってくれないか?」

 

「えっ?」

 

フェイトはクロノの言葉に啞然とする。

 

「さっきも言ったようにこの艦は、フェイトたちが一時滞在したもう一つの地球の艦がモデルとなっている。そして、フェイトはその艦に乗っていた‥‥そう言った点ではフェイトには他の局員と比べ、アドバンテージがあると思うのだが?」

 

クロノの言葉を聞きつつ、フェイトは新造艦の画像をジッと見つめる。

 

「‥‥分かった。その話、受ける」

 

フェイトはこの新造艦の乗艦を了承した。

 

「あっ、クロノ。私の他にもう一人、この艦に乗せて欲しい人が居るんだけど‥‥」

 

「ん?誰だい」

 

「私と同室のチンクだよ」

 

フェイトはチンクを推薦した。

 

「チンク?ナカジマさんの所の?」

 

「そう。彼女も私と同じ次元航行艦勤務を希望していたし、私としても同室の顔馴染みが居てくれると何かと過ごしやすいし‥‥」

 

「なるほど」

 

フェイトが推すチンクの情報をクロノが確認すると成績や素行についても特に問題はなさそうだし、彼女が戦闘機人と言う特殊な出生をしていることから、その能力が何かの役に立つと思い、フェイトに次いでチンクもスカウトする事に決めた。

 

フェイト、チンクを新たな乗員にすると決め、クロノは着々と新造艦の就役準備を進めて行く。

 

 

クロノが新造艦の乗員を集めている中、とあるスペースコロニーでは‥‥

 

「パープルトン主任、艦政部造艦科本部のオサリバン部長から通信が入っています」

 

「分かったわ。繋いで頂戴」

 

通信回路を開くと、モニターには上司であるオサリバンの姿が映し出される。

 

『パープルトン君。作業の進捗はどうかね?』

 

オサリバンは彼女に任せた新造艦の進捗状況を訊ねる。

 

「既に80%の工程が終了しており、あと一ヶ月もあれば、完成させることが出来ます」

 

『そうか‥‥』

 

パープルトンから進捗状況を聞くと、オサリバンは少々渋い表情を浮かべる。

 

「何か問題でも?」

 

そんなオサリバンの様子に気づき、パープルトンはこの新造艦の建造に関して何か問題が浮かんだのかと思った。

 

『いや、特に大きな問題ではないのだが、どうもヴェルタンたちが建造した艦が完成したと言う情報が入ってな』

 

艦政部造艦科本部のトップのオサリバンの下には既にヴェルタンとヴェルニーが建造した次元航行艦の完成情報が届いていた。

 

「そうですか‥‥しかし、あちらの方が先に建造を開始したのが早かったので、それは仕方ない事です。焦って工期を短縮すれば、就役した後で何かしらの問題が生じる可能性が高いですから」

 

造艦技師としてパープルトンは工程を早めずに当初の予定通りの工程で進める事をオサリバンへ伝える。

 

ヴェルタンとヴェルニーの二人が手掛ける艦の方が先に設計、建造を開始した一方、こちらはオサリバンが資料室からヴェルタンとヴェルニーが没にした設計図を入手して、長所だけを纏め、設計図の草案を浮き彫りにしパープルトンへ依頼すると同時に建造のためのドックの確保、建造材料の手配など、建造を開始するまでの時間がかかった。

 

しかし、そうした時間があったにもかかわらず、一ヶ月には完成までこぎ着けたパープルトンの手腕は造艦技師としてはかなり優秀だ。

 

『むぅ~‥や、やむを得ないか‥‥』

 

オサリバンもヴェルタン、パープルトン同様、造艦技師であり、完成時期を無理に早め、何かしらの問題が起きた場合、自分にも責任問題が生じるので、それを避けるために渋々了承した感じだ。

 

「それに、あちらが先に就役したのならば、その艦の性能を知る事も出来るので、こちらとしては性能差を見せつけるチャンスでもあります」

 

『な、なるほど‥‥』

 

パープルトンの指摘にオサリバンは納得する。

 

ヴェルタンとヴェルニーが造った艦が先に就役すれば、当然試験航海を行う。

 

その試験航海の結果情報を得て、自分が建造している次元航行艦の能力を上げれば、自分はヴェルタンとヴェルニーを越えた造艦技師であることを証明できる。

 

完成時期が例え一ヶ月遅くとも、ヴェルタンとヴェルニーが造った艦よりも優れた艦を造り上げる‥‥パープルトンにはそんな野心があった。

 

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