彼の年齢が不明だったので、年齢に関しては作者のオリジナル設定であり、名字は中の人の名字を使用しました。
【挿絵表示】
これまで管理局が就役させてきた次世代型の次元航行艦とは異なるコンセプトで建造された新造艦、ガイアは士官学校、管理局の訓練校を卒業したばかりの新人たちを乗せ、試験航海へと出航した。
勿論、全員が新人と言う訳ではないが、全乗員の全体数は新人たちが多い。
次元航行艦勤務のある乗員も次世代型の次元航行艦と若干異なるMS機関を搭載する艦は初めての経験でもあるので、ある意味ではこの艦の乗員は全員が新人とも言える。
ガイア 艦橋
「本局、管制圏を通過‥‥」
本局から十分に離れたガイア。
「よし、これより本艦は訓練海域までの次元跳躍を行う。総員、次元跳躍準備!!」
クロノは大規模な訓練を行う宙域までのワープを行う旨を伝える。
「えっ?いきなり次元跳躍?新人にはちょっとキツイと思いますけど?」
フェイトはいきなりの次元跳躍は新人にとってハードではないかと訊ねる。
「だからこそ、今の内に経験してもらうんだ。ガイアのエンジンのテストも兼ねてな」
「なるほど‥‥」
「エンジンチェック!!」
「エンジンチェック、スタンバイ‥‥メインエンジン異常なし、スーパーチャージャー異常なし、エネルギー上昇‥‥」
コウランがMS機関のチェックを行い、次元跳躍が出来るようにエネルギーの圧力を上げる。
「総員に告ぐ、本艦はこれより訓練海域までの次元跳躍を行う。知っての通り、次元跳躍は何光年もかかる距離を一気に短縮し、航行する技術だ。ただし、失敗をしたら、超空間に閉じ込められる危険性を持つ。よって、つまらぬミスを起こさぬよう迅速で正確に行動せよ!!」
クロノの訓示後に各部の長がチェックを行い、艦橋へと報告を入れる。
「次元跳躍、カウント開始‥‥十‥‥九‥‥八‥‥七‥‥六‥‥五‥‥四‥‥三‥‥二‥‥一‥‥跳躍」
航海長のレイセンが次元跳躍装置を起動させると、ガイアは通常空間から次元跳躍の為の超空間へ突入する。
すると、圧迫感がドッと全身に伝わる。
(出力が大きくなって次元跳躍の速度が早くなった分、ヤマトやまほろばで体験したワープに似た衝撃を感じる‥‥)
ガイアで体験した次元跳躍はこれまでのL級やXV級の次元航行艦で体験した次元跳躍よりもむしろ遭難時に体験したヤマト、まほろばでのワープ体験に近いモノを感じるフェイト。
(次元跳躍開けにはワープ酔いする乗員も居るんだろうな‥‥)
まほろばで初めてのワープ体験をした際、リニスから念のために酔い止め薬を貰い、自分は飲んだが、ティアナは本当に酔うのかと不信に思い酔い止め薬を飲まなかった結果、ワープ明けにワープ酔いをした。
ガイアの次元跳躍がL級やXV級よりもむしろヤマト、まほろばのワープに近いモノならば、この次元跳躍開けには酔う新人が居るのではないかと思うフェイトだった。
「次元跳躍完了。現在位置、アステロイド帯の二十一番間隙です。右舷前方に大型の小惑星を確認。小惑星アリエルです」
本局出航後にガイアは次元跳躍を行い大規模な訓練宙域へとやって来た。
(チンクの言う通り、レイセン航海長の操艦術は確かに凄いな‥‥)
この訓練宙域までの僅かな航海でレイセンはガイアの操艦をかなりマスターしていた。
その操艦術にはクロノも感嘆した。
「各部チェックを行え」
ガイアとしては初めての次元跳躍なので、艦の何処かに異常が生じていないかのチェックが行われる。
だがその最中‥‥
「き、気持ちわりぃ~‥‥」
「は、吐きそう‥‥」
「な、なんで次元の海を走る次元航行艦なのに酔うんだよ‥‥」
艦自体には異常はなかったが、やはりフェイトの読み通り、各部署においてワープ酔と同じ症状の乗員が出たと報告にあがって来た。
(あぁ~やっぱりね‥‥)
乗員が酔ったと言う報告を受けてフェイトは納得した様子だった。
フェイトに関してはヤマト、まほろばで既に経験していたので酔わなかったが、艦橋でも何名かは青い顔をしていた。
「まさか、次元跳躍で酔うとは‥‥」
クロノはこの報告を受けて思わず頭を抱えたくなる。
「艦長、この艦の次元跳躍はこれまでの次元航行艦の次元跳躍よりも衝撃が強いせいか、慣れていない乗員にはキツイかもしれないけど、数を熟せば次第に慣れて来る筈ですから」
フェイトはそんなクロノをフォローする。
自分もティアナもイスカンダルからの復路の時にはヤマトのワープには慣れていたので、場数を熟せば乗員たちもガイアの次元跳躍には慣れて行くはずだ。
「はぁ~‥‥酔った状態では訓練は出来ないな‥‥三十分の休憩とする」
酔ったままの状態では満足に体を動かすことが出来ず、怪我の原因にもなりかねない。
今のガイアには医務官が乗艦していないので、怪我には十分に気を付けなければならない。
クロノは乗員の安全を考慮して各自、交代で休息を命じた。
やがて、乗員たちの酔いも治ってきた頃、クロノは訓練を再開した。
「これより、戦闘訓練に入る。総員、戦闘配置につけ!!」
艦内に警報が鳴り響き、ガイアの乗員たちは駆け足で持ち場へと走る。
「敵艦発見、砲撃用意!!」
「次元の海での戦闘は、やるか、やられるかだ。死にたくなければ一秒たりとも無駄にはするな!!」
「速度を落とせ」
「減速‥メインエンジン停止、補助エンジン点火」
ガイアのメインノズルの噴射が止まり、かわりに補助ノズルが点火され、主砲が標的用のアステロイドに狙いをつける。
「全砲塔射撃用意よし!!」
「砲撃開始!!」
ガイアの主砲が訓練とはいえ、初めて火を噴いた。
弾道はシミュレーション・パネルにて表示され、標的のアステロイドへと伸びて行く。
「命中」
シミュレーション・パネルを見つめながらチンクが報告する。
「標的命中まで二十二秒」
「まだ遅いな。射撃訓練はこのまま続行。機関長」
「はい」
「左舷機関室付近で演習被弾及び火災発生!!消火作業及び応急修理演習開始!!」
「了解!!」
コウランは頭にヘルメットを被り、演習現場へと急いで向かう。
こうした戦闘、消火・応急修理等の訓練を熟しながらガイアの航海は続く。
次元跳躍の方も数を熟すうちにフェイトが言うようにワープ酔いの症状を訴える乗員の人数も減っていった。
「さて、火器について残る訓練項目は艦首のネオ・アルカンシェルの試射だけか‥‥」
防衛軍の波動砲、ガルマン・ガミラスのデスラー砲の様に管理局のアルカンシェルと呼ぶべき管理局の次元航行艦の切り札であるアルカンシェルであるが、次世代型の次元航行艦にもソレは当然搭載されており、MS機関の導入でその威力は格段に上がった。
「これまでのアルカンシェルと違って威力が上がっているみたいだから、試射をするなら、近くに有人世界、船舶が居ない事を十分に確認しないといけないね」
フェイトが訓練項目書を見ながらネオ・アルカンシェルの試射についての注意点を述べる。
「そうだな。ガイアのアルカンシェルはこれまでのアルカンシェルとは違うモノとして扱った方がいいだろう」
クロノもフェイトの意見に同意する。
火器管制についての訓練で残す項目が艦首にあるネオ・アルカンシェルの試射だけとなり、試射場での選定を行っていると、
「艦長、緊急救難信号を受信しました!!」
ミリアリアがクロノに救難が入った事を報告する。
「救難信号だって!?スピーカーに繋いでくれ!!」
「了解!!」
ミリアリアが聴きやすいようにスピーカーへと繋ぐと、
『メーデー!!メーデー!!こちら貨物船デュベール号!!現在、海賊の襲撃を受けている!!至急救助を求む!!本船の現在位置ガンマk2地点、至急救助を求む‥‥!!』
貨物船の通信士からは悲痛な叫び声がした。
その声を聞き、顔を青くする者も居た。
だが、その救難信号も途中で途絶えた。
通信を送っていた者の身に何かが起きたのか?
それとも船の通信設備が破壊されたのか?
いずれにしても事態は一刻も争う事態の様だ。
「本艦の位置は?」
クロノがレイセンにガイアの現在位置を訊ねる。
「‥‥此処です」
レイセンは直ぐにガイアの現在位置をクロノへ報告する。
「訓練中止!!ガイアは直ちに貨物船デュベール号の救助へ向かう!!」
クロノはガイアとデュベール号の位置を確認し、ガイアが一番現場に近い事から訓練を一時中止にして、デュベール号の救助へ向かう事に決めた。
「でも、大丈夫?訓練の最中なのにいきなり海賊相手の実戦なんて‥‥」
フェイトはクロノにガイアの乗員たちはまだ訓練課程の身であり、全ての訓練課程も終わった訳ではない。
それが海賊相手に実戦になるかもしれない救助に向かうと言うのだから、不安を抱かない訳がない。
「それは分かっている。だが、位置からしてみれば、僕たちが一番近い。海賊に襲撃されているデュベール号の乗員にしてみれば、訓練中だろうが、ガイアが管理局の艦であることに変わりない」
「そうだね‥‥」
フェイトもまほろばに救助された時もほぼ同じ状況だった事を思い出し、襲撃を受けた時、自身の死を覚悟した時に救助された時は文字通り九死に一生を得た。
現在、デュベール号の乗員たちは懸命に救助を待っているのだ。
訓練中という理由で、彼らを見捨てては一体なんの為の次元航行艦隊であろうか?
自分は次元の海の治安を守る為に士官学校へと入り、次元航行艦勤務を希望したのではないか?
フェイトは自分にそう言い聞かせて、現場に向かう事に同意した。
「総員に告ぐ、艦長のクロノだ。訓練中であるが、只今貨物船より救難信号を受信した。その貨物船の現場には本艦が一番近い‥よって、本艦はこれより貨物船救助へと向かう。現在、その貨物船は海賊の襲撃を受けている。現場では貨物船を襲撃している海賊との戦闘も予想される」
クロノは艦内放送でガイアがこれよりデュベール号の救助へ向かう旨を伝える。
「海賊‥‥」
「戦闘になるかもって‥‥」
クロノの艦内放送を聞き、不安そうに互いに顔を見つめる乗員たちの姿がチラホラと確認できた。
「なに、ぼさっとしとるんや!!これから救助に向かうんや!!一分一秒も争う事態なんやで!!さっさと配置に就かんとあかんやろう!!」
「は、はい!!」
「りょ、了解!!」
機関室にてコウランが機関士たちを一喝して、配置に就かせる。
コウランの一喝を受けて機関士たちは急ぎ配置に就く。
「艦長はん、こちら機関室や!!機関はいつでも全速を出せるで!!」
機関士たちが配置に就いたのを確認したコウランは艦橋のクロノへ報告をいれる。
「火器管制システムもオールグリーン。戦闘になってもすぐに対処できる」
チンクもガイアの火器管制を確認して、仮に救助現場にて海賊との戦闘になっても直ぐに対処できると報告をする。
「よし、航海長!!直ちに現場に向かえ!!」
「了解」
ガイアは急ぎ、デュベール号の救助へと向かった。
ガイアが向かっているその現場では‥‥
ダダダダダダダダ‥‥!!
バババババババ‥‥!!
「くそっ、海賊どもめ!!」
「救難信号は送ったのか!?」
「通信アンテナが壊された様だ!!」
「なに!?」
「しかし、救難信号は何度か送れた筈だ!!」
「その信号を誰かが受信してくれるのを信じるしかないか‥‥」
「それよりも前に俺たちが生きていられるかだ」
デュベール号の船員たちは必死に海賊たちと戦っていた。
既にデュベール号の機関は海賊たちの攻撃で破壊され、自走が不可能となっており、動けなくなったデュベール号に海賊たちは船を接舷させて次々とデュベール号の船内に侵入して来た。
しかもデュベール号が救難信号を送れない様に機関と共に通信アンテナも破壊していた。
しかし、海賊に襲撃された時、デュベール号の通信士はすぐに救難信号を送っていたので、アンテナが破壊される前に救難信号を送ることが出来た。
船員たちにとってアンテナが破壊される前に送った救難信号が管理局の艦に受信されている事を祈るだけであったが、侵入して来る海賊たちにも対処しなければならなかった。
相手は残忍で凶暴な無法者の海賊たち‥‥
交渉や命乞いなんて全くの無意味だ。
積荷も貰うし、船員たちの命も貰う‥‥
そんな相手だ。
積荷はもとより自分たちの命を守るために船員たちは救援が来るまでの間、必死に戦った。
ガイア 艦橋
「目標の貨物船を発見!!」
ガイアのレーダーが救難信号を発していたと思われるデュベール号の船影を見つける。
「周囲に海賊船と思われる反応も多数確認!!」
「既に何隻かは貨物船に接舷しています」
「遅かったか?いや、まだだ‥まだ間に合う筈だ。引き続きこのまま直進!!前部砲塔は戦闘用意」
「了解」
海賊たちはまだガイアの存在に気づいていない。
このまま先制攻撃を仕掛けたい所であるが、デュベール号に接舷している海賊船には攻撃をすることは出来ない。
流れ弾で、デュベール号まで被弾してしまうからだ。
「貨物船に接舷していない海賊船はあるか?」
「ニ隻が哨戒している模様」
「では、まずその二隻を沈める」
クロノは貨物船に接舷していない二隻の海賊船への攻撃を命じる。
「第一、 第二主砲、スタンバイ‥‥」
ガイアの第一、第二主砲はそれぞれの目標をロックする。
「目標をロック。攻撃準備完了」
「砲撃!!」
「発射!!」
ガイアの第一、第二主砲が訓練ではなく実戦で初めての砲火を放つ。
ガイアから放たれたジュスティスカノンは二隻の海賊船に命中し爆散した。
しかし、この爆発は当然、デュベール号に接舷している海賊たちにも救援が来た事を伝える結果となった。
「お頭!!哨戒に出していた仲間の船がやられた!!」
「なんだと!?管理局か!?」
「多分‥‥」
「バカやろう!!なんで近づくまで気づかなかった!?」
「す、すいやせん」
「積荷は盗ったか!?」
「へい、あらかた金目のモノは‥‥」
「よし、それならさっさとずらかるぞ!!」
「へい!!」
海賊たちは金目のモノをあらかた自分たちの船に積み込むと次々とデュベール号から離脱していく。
ガイア 艦橋
「目標の海賊船、撃沈を確認!!」
「貨物船に接舷している海賊船、次々と離脱していきます!!」
ガイアの艦橋にあるモニターにはデュベール号から逃げて行く海賊船の姿が映し出される。
「捕捉できるか?」
「‥‥いえ、物凄い加速で逃げて行きます!!」
「まさか、MS機関か!?」
これまでの海賊船からは想像もできない速度で海賊船は現場から逃げて行く。
クロノはその速度から逃げて行く海賊船のエンジンがこれまでの魔導炉機関ではなくガイアと同じMS機関ではないかと予測した。
「追尾しますか?」
「いや、デュベール号の乗員たちの安否が気になる。負傷者もいるかもしれない。本艦をデュベール号に接舷し、船内の捜索だ。それと撃沈した海賊船の調査も行え。通信長はこの付近を航行している船舶へ警告を送れ。それと、管理局の艦を此処へ寄越すようにも伝えてくれ」
「了解」
ミリアリアはこの付近を航行中の船舶に対して警報を送る。
いくら逃げたとは言え、海賊は新たな獲物を見つけて狩らないとは言い切れないからだ。
それと同時に他の管理局の次元航行艦も此処へ来てもらうように付近をパトロールしている次元航行艦へ通信を送る。
ミリアリアが通信を送っている中、
「艦長、船内捜索の指揮は私が執ります」
フェイトがデュベール号船内の捜索を志願した。
「分かった。ただし、まだ船内に海賊が潜んでいる可能性もあるから十分に気をつけろ」
「了解」
「接舷ハッチ、デュベール号に固定完了」
ガイアの接舷ハッチがデュベール号の船体に固定されて接舷準備が整う。
デュベール号への接舷準備が整った時、
「機関長」
「はいな」
「すまないが、海賊船の残骸調査に君も同行してくれないか?」
クロノはコウランに海賊船の残骸調査を頼む。
「特に機関部の調査を念入りにやってくれ」
「ええですけど‥でも、なんで機関部を念入りに?」
コウランは海賊船の残骸調査において何故、機関部を念入りに調査するのかをクロノに訊ねる。
「あの海賊船の速度から今回デュベール号を襲撃した海賊船にはMS機関が使用されていた可能性が高い」
「えっ?海賊たちがMS機関を!?」
海賊船にMS機関が搭載されていた可能性をクロノから指摘されコウランは驚愕する。
「調査次第ではあるが、あの海賊船がデュベール号から離れて行く速度はあまりにも早すぎる。考えられるのはMS機関だけだ」
「そ、そんな海賊にMS機関が‥‥」
「そんな訳だ。技術部に居た君の視点から見て、本当にあの海賊たちがMS機関を使っていたのか調べてもらいたい」
「りょ、了解です」
クロノからの説明を聞き、コウランは宇宙服を着てガイアに搭載されているシャトルで海賊船の残骸が漂う空間へと向かった。
そして、フェイトは武装隊を引き連れてデュベール号の船内へと入り捜索を行う。
フェイトは念のため、バリアジャケットを身に纏い手にはバルディッシュを持つ。
その他の武装隊もバリアジャケットに起動させたデバイスやビームガンを手にしている。
「それじゃあ、いくよ」
『了解!!』
緊張した面持ちでフェイトたちはデュベール号の船内へと足を踏み入れる。
「うっ‥‥」
「酷い‥‥」
デュベール号の船内へ入ったフェイトたちの目に飛び込んで来たのは、通路に横たわる船員たちの死体だ。
中には斃したであろう海賊の死体もあったが、圧倒的に船員たちの死体の方が多い。
(分かれて生存者を捜した方が良いかもしれないけど、クロノが言うようにまだ海賊が船内の何処かに潜んでいるかもしれない‥‥)
船内にまだ海賊が潜んでいる可能性を考慮すると分散して捜索するのは危険だとフェイトは判断し、多少効率は落ちるが皆で固まって船内の捜索をする事にした。
船倉は沢山の貨物があったのだろうが、残されている貨物は疎らであり、そこにも船員の遺体が転がっている。
機関室は海賊船の攻撃を受けて船内での戦闘よりもその際の被弾で死傷者が出た模様だ。
通信室では、ガイアに救難信号を送った通信士の遺体が転がっていた。
ブリッジも海賊との激しい戦闘があったのか、床には船員、海賊双方の血だまりが出来て遺体も転がっていた。
捜索隊の中には遺体と血だまりを見て顔を青くしている。
士官学校、訓練校を卒業したばかりの新人にはこの現場はキツイだろう。
「気分が悪いなら無理をしなくてもいいよ」
フェイトはそんな同僚を気遣う。
「い、いえ、大丈夫です‥‥」
青い顔をしつつもその隊員は引き続き同行できる旨をフェイトに伝える。
「そう?無理はしないでね。キツかったら遠慮なく言っていいから」
本人が『大丈夫』と言ったので、無理はしない様にと忠告をいれ、引き続き船内の捜索を続ける。
食堂もテーブルや椅子でバリケードを構築し、船員たちが必死の抵抗を見せた形跡がある。
倒れている船員一人、一人、確認しているが、誰もがこと切れている状態であり、今の所生存者は見つかっていない。
(来るのが遅かった‥‥)
(新しい力を手に入れても全ての人を助けられる訳じゃないんだ‥‥)
これまでの調査で生存者が見つからず、こと切れている船員たちの姿を見て、フェイトには悔しい思いを抱く。
しかし、MS機関を手に入れる以前にもう一つの地球‥‥防衛軍も彗星帝国、暗黒星団帝国相手に多くの犠牲者を出した。
強力な力を手に入れたからと言って全ての者を救済する事は不可能なのだ。
食堂同様、船員たちの居室区画も通路、船室のどこもかしこも飛沫痕に血だまり、船員、海賊の遺体が転がっている。
トイレの前を通りかかった際、遂に耐えかねたのか捜索隊のメンバーがトイレへと駆け込み、戻している光景も見られた。
フェイトは執務官として前線で様々な事件現場を見てきたし、遭難時の現場はまさに『凄惨』の一言に尽きる現場だった。
そのため、デュベール号の船内の様子を見てもフェイトはギリギリ耐えられる状況だった。
(これだけ捜しても生存者が見つからない様じゃあ、もうこの船の船員たちはみんな‥‥)
此処までの船内捜索で生存者が見つからない事からフェイトはデュベール号に生存者は居ないのではないかと思い始める。
そこでフェイトは生存者の捜索から遺体搬出作業に移ろうかと思っていた時、
ガタ‥‥
「っ!?」
かすかな物音がした。
(海賊?それとも生存者?)
フェイトはその音を聞き逃さなかったが、この物音は偶然にも物が落ちたために生じた音なのか?
それとも潜んでいる海賊が立てた音なのか?
それとも船の生存者が立てた音なのか?
いずれにしても確認をしてみなければ分からない。
「‥‥」
フェイトは緊張した面持ちで物音がした方向へと向かう。
音がしたのは船室に備えられているクローゼットからだ。
フェイトが正面でバルディッシュを構え、別の捜索隊員がクローゼットの取っ手に手をかけて一気にクローゼットを開ける。
「う、うわぁぁぁ~‥い、命だけはお助けを~」
クローゼットの中に居たのは一人の男性であった。
「落ち着いてください!!私たちは時空管理局の者です!!」
男性の様子からフェイトはこの男性が海賊ではなく、この船の関係者であると判断した。
「か、管理局‥‥?すると、ワシらを助けに来てくれたのか?」
「はい。失礼ですが、貴方は?」
一応、海賊が演技をしていなとも言えなかったので、フェイトは男性の身分を確認する。
「失礼。ワシはこういう者です」
男性は上着のポケットから身分証明書を取り出してフェイトに手渡す。
MEDICAL MASTER
Name Ban Yanami (バン・ヤナミ) ID SSX19821013-19830330
フェイトが確認するとそれは、役職 名前 顔写真 ID番号が書かれた管理局発行の身分証明書だった。
「メディカルマスター‥‥貴方は医務官なんですか?」
「左様。第四管理世界の支部で医務官をやっていた」
「それがどうしてこの船に?」
「 『若くてイケメンの医務官を新たに任官させたらからお前は用無しだ』 と言われて、配置転換をさせられてミッドに戻る途中で海賊の襲撃を受けて、あのクローゼットに隠れておったんじゃよ」
「そうだったんですか‥‥」
管理局発行の身分証明書を所有し、顔写真も一致していた事から目の前の男性が間違いなくこの船の生存者であり、管理局所属の医務官である事は間違いなさそうだった。
「ところで、ワシ以外に生き延びた者は?怪我人は居るかのう?」
男性こと‥バンはフェイトに自分以外の生存者か怪我人の有無を訊ねる。
「いえ、残念ながら生存者はどうやら貴方だけの様です」
「‥‥そうか‥ワシだけが生き延びてしまったのか‥‥」
第四管理世界から此処までの間、船旅を共にした仲間たちが海賊の手によって殺害された事実にバンはショックを受けた。
「ひとまず、貴方を保護します。こちらへ‥‥」
フェイトはデュベール号唯一の生存者であるバンをガイアへと案内した。
フェイトたちがデュベール号の船内を捜索している間、コウランはガイアが撃破した海賊船の残骸調査を行っていた。
宇宙空間には海賊の残骸の他に乗っていたであろう海賊の死体も漂っていた。
「うぇ~こりゃあキツイわ~‥‥」
宇宙服のヘルメット越しに破壊された海賊船と海賊の死体を見てコウランは思わず顔を顰める。
「さて、艦長はんが言うにはこの海賊船がMS機関を使っとるかもしれへんって言うとったけど‥‥」
コウランはチラッと残骸と化した海賊船を見る。
「調査出来るかいな‥‥とりあえず、残骸を根こそぎ回収してや」
『了解!!』
シャトルには大小さまざま大きさ、形の残骸が詰め込まれていく。
(此処までバラバラにされとると、一気に全部は運べへんし、調査をするのも大変そうやな‥‥)
コウランは宇宙空間に漂う海賊船の残骸を見渡しつつ調査には時間がかかる事を予測する。
残骸調査班のシャトルが何度もガイアと残骸が漂っている宇宙空間を往復している中、フェイトは唯一の生存者であるバンをクロノの下に案内した。
「艦長、こちらがデュベール号で保護をした医務官のバン・ヤナミさんです」
「ヤナミです。今回は助けて頂いてありがとうございます」
「いえ、次元の海で助けを求めている人を助けるのも管理局の仕事の一環ですし、我々がもう少し早く現場に到着していれば仲間を救う事が出来たでしょうし‥‥」
フェイトからデュベール号の生存者がバンだけである事を聞き、クロノもやはり悔しい思いを抱く。
「それでドクターは、この後どうするおつもりですか‥‥?」
「ミッドに戻って新たな配属地の辞令が来るのを待つことになりますが、この年ですからな、新たな任地には配属されずに予備役になるやもしれません」
バンはクロノに今後の身の振りを話す。
元々の勤務地から異動させられたのは年齢のせいであるので、管理局が必要としなければ、自分は予備役になるだろうと思っていた。
「年齢って‥‥失礼ですが、ドクターは何歳になるのですか?」
「今年で46になります」
「えっ?46‥‥」
クロノはバンの年齢を聞いて驚く。
バンの見た目の年齢が一致しなかったからだ。
(46で年齢を理由で異動って、管理局の医療部門はどうなっているんだ?)
それと同時に46歳ではまだまだ現役な筈なのだが、彼が第四管理世界から異動になった理由が年齢と言うのだからクロノが不思議に思う。
(ドクター本人が46歳と言っても周囲から信じられていなかったのではないだろうか?)
実年齢よりも老けた容姿のせいで実年齢を言っても信じて貰えなかったのではないかと思うクロノ。
「‥‥では、ドクター‥次の配属先が未定ならば本艦の医務官を務めてはいただけないでしょうか?」
「「えっ?」」
クロノの提案にバン本人はもとより、フェイトも驚く。
「実は都合がつかず、本艦には医務官が不在でありましてもしドクターがよろしければこのまま本艦の医務官として引き続き乗艦してもらえないでしょうか?本局の人事部には自分の方から伝えておきますので‥‥」
「‥‥分かりました。その話、お受けしましょう」
「本当ですか!?」
「ええ、どうせミッドに戻っても辺境の小さな診療所勤務か予備役になって腕を鈍らせるよりは、前線で医者としての使命を全うしたいですからな」
「ありがとうございます。ドクター‥そして、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
クロノとバンはギュッと握手を交わした。
バンがガイアの医務官へ任官が決まった中、コウランは海賊船の残骸を集め続けていた。
「艦長はん」
「機関長。そちらの状況は?」
「一応、回収できそうな残骸はなるべく回収するつもりやけど、此処から調査をしたら時間がえろうかかりそうや」
「そうか‥‥今、他の次元航行艦もこの現場に向かってもらっている。デュベール号の船体と船員たちのご遺体‥そして、海賊船の残骸のいくらかは本局へ運んでもらい、そっちでも調査をしてもらうつもりだ」
「了解や」
やがて、ミリアリアが呼んだ管理局の次元航行艦が現場に到着した。
クロノがその艦の艦長と話をして、デュベール号の船体と船員たちの遺体、ガイアが撃破した海賊船の残骸の一部を本局へ運んでもらうように頼んだ。
その間、コウランは早速、ガイアの艦内に持ち込んだ海賊船の残骸の調査に入った。
その集中力は同じく調査をしていた乗員たちをドン引きさせるぐらいのモノだった。
コウランがガイアの工作室で、残骸の調査を行っている中、応援に来た次元航行艦にデュベール号の本局への曳航を任せて、ガイアは引き続き訓練航海を続ける。
クロノがレティ提督にバンの事を伝えて、バンに関してはそのままガイアに乗艦し、同艦の医務長として就任する事になった。
「それでは、デュベール号の件‥よろしくお願いします」
『承知しました。引き続き、ガイアの航海の安全を祈ります』
「こちらも、本局への航海の安全を祈ります」
ガイアと応援の次元航行艦はそれぞれの目的のために動き出した。
デュベール号がこの後、曳航される本局‥‥
その本局内になる無限書庫では‥‥
「スクライア司書長」
「なんだい?」
「ミッドのスピアーノ教授から連絡がきています」
「教授から?分かった。繋いでくれ」
「はい」
司書がユーノ宛てに来たランティスとの通信回線を開くと、モニターにランティスの姿が映し出される。
『やあ、スクライア君』
「あっ、教授。どうも‥‥」
『相変わらず忙しいかい?無限書庫は‥‥?』
「ええ、毎日、毎日、管理局のいろんな部署や企業から資料の催促や書類・資料保管の依頼に整理と人手がいくらあっても足りませんよ」
ユーノはランティスに自分の職場での愚痴を零す。
『それで、まずはアルザスの件なのだが、あれか進展があったのか気になってね』
ランティスもヴォルデモートの件については気になっている様子だ。
「ああ、その件ですか‥‥僕の知り合いの局員が実際にアルザスへと赴き調査をしたみたいなんですが、未だにそれらしい情報はないみたいで、引き続き調査を行っているみたいです」
『まぁ、管理局としては『破壊竜』なんて言われている竜と契約をした召喚士を是が非でも管理局へ入局させたいだろうからね』
「ええ‥まぁ‥‥アルザスの竜の力はJS事件で実証済みですからね。要件はそれだけですか?」
『いや、もう一つある』
「なんです?」
『あれから、解読作業を続けて、ようやく例の粘土板に書かれている文字の解読に成功した』
ランティスの言う『粘土板』は以前、ユーノも参加したバシュタールの地で発掘された古代バシュタール人が残した粘土板文章だ。
「えっ?解読が出来たんですか!?」
『ああ、講義やら発掘調査、学会など解読作業の他に色々とやることがあったのだが、ようやく解読が終わった』
(解読作業と共に学会やら大学の仕事をやりながらあの訳の分からない古代文字を解読するなんて、やっぱり教授は凄いな‥‥)
ユーノもバシュタールで発掘された粘土板を見せてもらったが、何が書いてあるのかさっぱりわからなかった。
以前、途中経過で『水』に関係する文章であると聞かされたが、あの粘土板に一体何が書かれているのか気になったユーノは早速、ランティスにあの粘土板に何が書かれていたのかを訊ねる。
「それで、あの粘土板には何が書かれていたんですか?確か『水』に関する事だって以前、教授はそう言っていましたけど‥‥?」
『そうだ。だが、水は水でも、スケールがかなり大きく、簡単には信じられないような話だ』
古代都市で見つかり、『水』について書かれた粘土板なので、水路か水源についての内容かと思ったが、ランティスが言うには違う様だ。
『スクライア君は生物が住む世界の条件として何が必須だと思う?』
「それは‥酸素と水ですか?」
『そうだ。その水はどこから来ると思う?』
「えっ?うーん‥‥雨が降り、それが地表に溜まるか、湧水が海となり、そこからバクテリアが生まれ生物に進化していく‥‥ですか?」
『常識ではね』
「常識では?それでは、雨や湧き水以外に海が出来る事があるんですか?」
『そうだ‥‥この粘土板にはある星の名前が書かれていた‥‥その名は‥‥』
「名は?」
『アクエリアス‥‥』
「アクエリアス?」
『そうだ。この水惑星アクエリアスは特定の惑星系には属さず、次元の海を回遊する惑星で、近づいた惑星に引力の干渉で大量の水を降り注がせるという特徴を持つ』
「‥‥」
『そして、その水には「生命の芽」が含まれており、アクエリアスの水が降り注いだ惑星には生命が満ち溢れることになる‥‥こうして次元の海には生物が住む世界が生まれると言う事だ‥‥』
「た、確かに教授の言う通り壮大すぎる話ですね‥‥」
『ああ。もしかしたら解釈にいささか語弊があるかもしれないが、解読していく内に、このような内容になった』
「それを発表したところで信じて貰えるでしょうか?」
『解読した私自身が言うのも変だが、おそらく誰も信じてはくれないだろうな‥スクライア君も信じてはいないのではないか?』
「えっ?いや‥‥そんなことは‥‥」
ランティスに内心を指摘されてドキッとするユーノ。
『まぁ、分からない訳ではない。これを書いたのが既に滅亡した古代文明の人間なのだからな‥‥この水惑星アクエリアスの存在が確認されれば、嫌でも信じる事になるだろうがね』
古代文明の人間はあらゆるものに精霊が宿っていると考え、精霊を怒らせると大規模な自然災害が起きると信じていたり、彗星や日蝕などの天体現象でさえ神々の類や世界の終わりかと思うロマンチストな所がある。
「ヴォルデモートにアクエリアス‥‥実在するのか分からないモノばかりですね」
『だからこそ、ロマンがあるのではないか?』
ランティスはヴォルデモートもアクエリアスも信じている様だ。
同じスクライア族の中でもランティスは古代ロマンと真実を追う人物なのだとユーノは彼の姿を見てそう思った。