星の海へ   作:ステルス兄貴

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二百十九話 証人警護

 

 

訓練航海の項目を終えて、本局へ帰還しようとしていたガイアに急遽、リンディからとある裁判に証人として出廷する一人の少女‥オードリーの護衛と移送を頼まれた。

 

彼女が出廷する裁判の事件には管理局の幹部局員も関係している事件らしく、証人が裁判で証言すればその幹部局員はこれまで築いてきた地位は崩れ、管理局員から犯罪者へと転落する。

 

幹部局員としては自らの破滅をただ黙っている訳もなく証人が裁判に出られない様に手を打つのは当然の事であった。

 

そんな幹部局員の心境をチンクは読んでおり、裏をかいて証人をガイアまで連れて行こうとした。

 

しかし、証人を保護していた第四管理世界の管理局支部の庁舎から出るところを幹部局員の息が掛かった局員に見られてしまった。

 

証人を迎えに行ったフェイト、チンクはその事実にまだ気づいていなかった‥‥

 

 

ガイアが停泊している第四管理世界の次元航行船発着場へ向かっている中、一応は警戒を怠らないチンク。

 

時々ルームミラーを見て、後ろから不審な車が着いて来ないか確認する。

 

「どう?チンク。後ろに不審な車は居る?」

 

ハンドルを握りながらフェイトはチンクに訊ねる。

 

「‥‥後続の民間車両‥三両目の後ろから不審な車とバイクが複数居る‥‥どうやら車を代えたのがバレたみたいだ」

 

「想定内だけど、随分早かったね」

 

「街中の至る所に監視の目があると言う事か‥‥それで、どうする?フェイト。このまま民間車両が多く走る道路を走っていては他の車両を巻き込む可能性があるぞ」

 

フェイトとしてはこのまま民間車両が多く走る道を走っていれば、相手も手を出して来ないかもしれないが、チンクの言う通り万が一にも相手が民間車両など関係なく手荒な事をしてきたら、何も知らない大勢の民間人を巻き込む事になる。

 

「仕方ない‥‥一旦脇道に逸れる。スピードを上げるよ!!二人とも、しっかり掴まっていてね!!」

 

フェイトは民間人への被害を避けるために民間車両が少ない脇道へと逸れる。

 

すると不審な車、バイクは速度を上げてフェイトたちの車に接近して来る。

 

「やっぱり、追手か!!」

 

やがて、不審な車から男たちが箱乗り状態をとりながらマシンガン、ビームライフルや杖状のデバイスから殺傷設定のシューターを放って来た。

 

マシンガンの銃弾やシューターの雨を浴び、リアガラスが粉々に割れる。

 

「キャッ!!」

 

「っ!?頭を下げて!!」

 

チンクがオードリーに姿勢を低くするように言い、懐からスティンガーを取り出し、

 

「IS‥ランブルデトネイター!!」

 

IS能力を使い、割れたリアガラスから追手に向かってスティンガーを投擲する。

 

追手の車両に突き刺さったスティンガーがやがて爆発をして走行不能とするが、追手はその車一両だけではなく、多数いる。

 

チンクは引き続き追手に向けてスティンガーを投擲し続ける。

 

「フェイト!!なるべく急いでくれ!!私のスティンガーも無限ではないのだぞ!!」

 

魔導師のシューターやバスターと異なりチンクのIS能力、ランブルデトネイターは手に触れた金属を爆発物に変える能力でありスティンガーを投擲して爆発させる戦法をとってきた。

 

故にスティンガーが拳銃で言う所の弾丸であり、チンクの身体に仕込むのも有限であるので、長時間の戦闘は不向きだった。

 

「分かっている!!」

 

フェイトも追手を振り切ろうとアクセルを強く踏み、ハンドルを操作する。

 

(発着場まで辿り着くことが出来れば‥‥)

 

流石の追手も発着場‥ガイアの近くまでは追って来る事は無いと判断したフェイトは一刻も早く発着場を目指す。

 

(それにしてもあれだけの質量兵器に殺傷設定の魔法‥‥やっぱり脇道に逸れて正解だった‥‥)

 

今もなお、追手は激しい攻撃を自分たちに仕掛けてくる。

 

もしも脇道にそれなかったら、きっと周囲に民間車両が居てもお構いなしに攻撃をしてきたに違いない。

 

その場合、民間人に一体何人の被害が出たのかさえ分からないが、大勢の民間人が死傷したに違いない。

 

「くそっ」

 

一方、追手側もターゲットをなかなか仕留めきれない事に苛立ちを覚え、バズーカを取り出した。

 

「バズーカ!?」

 

「あんな大型質量兵器まで投入して来るか!?」

 

バズーカを構えた追手の姿を見て驚愕するフェイトとチンク。

 

バシューン!!

 

バズーカからロケット弾が発射され、

 

「ちぃっ!!」

 

チンクも負けじとスティンガーを投擲する。

 

ロケット弾とスティンガーが命中し道中で爆発が起きる。

 

「‥‥フェイト」

 

「なに?」

 

「悪い知らせだ」

 

「えっ?」

 

「今ので、スティンガーが無くなった」

 

「えええー!!」

 

チンクの言葉にフェイトは思わず声をあげる。

 

自分が代わって追手の相手をしても良いが、今車はかなりのスピードを出しており、チンクと運転を代わってもらうのは危険だし、一度車を止めれば追手に追いつかれてしまう。

 

そんな中、追手は再びバズーカにロケット弾を装填してフェイトたちの車に向けて放つ。

 

「ヤバッ!!」

 

フェイトは咄嗟にハンドルをきってロケット弾を躱す。

 

すると、追手はまたもやバズーカを放つ。

 

しかも複数だ。

 

先程の様にハンドルをきってもロケット弾を複数撃たれてはどれかに当たってしまう。

 

まさに絶体絶命のピンチである。

 

(ど、どうしよう‥‥)

 

これがバリアジャケットを纏っているフェイトだけならば、躱すかロケット弾を破壊できる自信があるが、流石のフェイトもロケット弾よりも早く車は動かせない。

 

しかし、追手の方はそんなフェイトの焦り何てお構いなしに複数のロケット弾を放ってくる。

 

フェイトたちが乗る車に複数のロケット弾が迫って来る中、

 

ロケット弾と同じ数の魔力光弾が空から降り注ぎロケット弾を破壊する。

 

「えっ?」

 

「シューター?どこから?」

 

フェイトとチンクが空を見上げると、そこにはバリアジャケットを身に纏ったクロノが居た。

 

「クロノ!!」

 

「艦長!!どうして!?」

 

「嫌な予感がしてバルディッシュの位置を確認して来たんだ。此処は僕に任せてフェイトたちは証人を急いでガイアまで連れて行け!!」

 

「ありがとう!!」

 

「スティンガーレイ!!」

 

クロノはフェイトたちが乗る車を見送り、追手に直射型射撃魔法のスティンガーレイを放つ。

 

「ぐわぁぁぁー!!」

 

「ぐあぁぁぁぁー!!」

 

追手はまるでボウリングのピンの様にクロノの魔法を受けて吹き飛ぶ。

 

ある程度の追手を片付けたクロノはその場から飛び去り、次元航行船の発着場を目指した。

 

「見えた!!次元航行船の発着場!!」

 

クロノの思わぬ援軍を受け、フェイトたちが乗る車はボロボロになりながらも次元航行船の発着場へと到着する。

 

キィィィィィィぃー!!

 

と、金切り声のようなブレーキ音を立てて車は止まる。

 

(事前にクロノがレンタカーショップに話をつけてくれていてよかった‥‥)

 

チンクがレンタカーを借りる時、クロノがレンタカーショップの店員に借りた車がボロボロになる可能性を事前に知らせ、なおかつボロボロになった場合、管理局が弁償する旨を伝えてあったので、車の損傷を気にせずフェイトは運転することが出来た。

 

「急いで!!」

 

「は、はい」

 

フェイトは運転席から出るとオードリーを車から連れ出した。

 

チンクも二人の後に続き、停泊場に停まるガイアを目指す。

 

フェイトたちが発着場に着くと同時にクロノも発着場へと戻ってきた。

 

そして、フェイトたちの姿を確認し、

 

「フェイト!!君はチンクを!!僕は証人を抱える!!」

 

「分かった!!」

 

クロノがオードリーを抱え、フェイトがチンクを抱えると二人は飛行魔法で一気にガイアまで飛んだ。

 

ガイアの甲板上のハッチから艦内へと入り、

 

「航海長、出航だ!!」

 

スタンバイしていたレイセンに出航命令をクロノは下した。

 

「了解」

 

レイセンは直ぐにガイアを出航させた。

 

「ふぅ~これでひとまず地上からの追手は振り切ったな‥‥」

 

ガイアの出航を確認したクロノはオードリーを降ろして、一息つく。

 

「でも、連中はきっと次元の海でも追って来るよ‥きっと‥‥」

 

フェイトとしてはそう簡単に追手がオードリーの事を諦めるとは思えなかった。

 

「そうだな。むしろ地上よりも遠慮なく襲い掛かって来る可能性が高いな」

 

次元の海‥宇宙空間ならば、派手にドンパチしたところで民間人や周辺に被害を与える影響はほぼなく、追手は地上の時よりもむしろ次元の海の方が遠慮なく派手にドンパチを仕掛けてくる可能性が高い。

 

「次元の海とは言え、民間の次元航行船が航行している。それに味方の次元航行艦も近くに居るかもしれない。戦術長一応、確認をしてくれ」

 

「了解」

 

「副長は証人の方を船室まで案内してくれ」

 

「分かりました。バーンさん、こちらへ」

 

「は、はい」

 

第四管理世界の地上で追手に追われ、命の危険があると十分に自覚させられた事でオードリーの顔色は悪い。

 

クロノ、フェイト、チンクはそれを察する。

 

「バーンさん」

 

「は、はい」

 

「我々は必ず貴女を目的地へ送り届けます。今回の裁判では、管理局のとある幹部局員も事件に関与していると聞きました。我々も同じ組織に属していますが、組織の膿は排除したいと思っております。なので、裁判では包み隠さずに真実を述べてください」

 

「は、はい」

 

クロノは船室へ向かうオードリーに向けてエールを送った。

 

オードリーもクロノの言葉に感謝の意を込めて深々と一礼した。

 

「艦長」

 

「ん?なんだ?」

 

オードリーとフェイトを見送った後、チンクがクロノに声をかける。

 

「追手が管理局の息が掛かっている者だとしたら、その追手が使う艦は‥‥」

 

「ああ、十中八九MS機関を搭載しているだろう」

 

「まさか、管理局の次元航行艦に偽装して近づいて来る‥‥なんて事はないか?」

 

オードリーの命を狙う追手が管理局内部に居るとしたら、次元の海で追って来るのは管理局の次元航行艦‥‥と言う事も考えられる。

 

「‥‥」

 

チンクの推測を聞きそれがあり得ないとは言い切れないクロノ。

 

「こんな時に信頼できる人物の艦が増援として来てくれたら、良かったのだがな‥‥」

 

「元機動六課の部隊長の艦は?」

 

「はやての艦か?今は本局で長期のオーバーホール中だ」

 

はやてが艦長を務めるジャガーノートは現在、本局の修繕ドックにて補修中であった。

 

だからこそ、はやてはフェイトの士官学校を卒業した日にミッドチルダに居たのだ。

 

「これは賭けになるかもしれないが、もし追手が管理局の艦に偽装‥もしくは例の幹部局員の息が掛かった者が艦長を務める艦ならば、民間船舶が周囲に居た場合、下手に手を出せぬのではないか?」

 

「ん?」

 

「間違って民間船舶に流れ弾が当たれば、それこそ管理局の名に傷がつく。それに周囲に民間船舶が居ればそれだけ通報されて管理局の艦を引き寄せる結果に繋がる」

 

「民間船舶を盾にするような作戦だな」

 

「胸糞悪いが信頼できる増援が期待できない以上、周囲にあるモノを利用しなければ証人を守ることは出来ないのではないか?」

 

「‥‥」

 

クロノは管理局員として守るべき民間船舶を盾にするようなやり方は賛成できなかった。

 

しかし、証人であるオードリーを無事に第二十三管理世界の裁判所まで連れて行くのが今回の任務であり、裁判の結果次第では管理局に巣食う膿を取り除く機会にもなる。

 

それに民間船舶を盾にするとは言え、実際に民間船舶が追手からの攻撃を必ず受けるとは現時点では言い切れない。

 

(確かにチンクの言う事は尤もだ‥‥)

 

(増援が期待できず、証人を無事に目的地に連れて行くには‥‥)

 

この先の航海を考え、クロノが下した決断は‥‥

 

「‥‥チンクの言う事も尤もだ。なるべく他船が航行している航路をとろう」

 

クロノとしても心苦しいが、周囲に船舶が多数航行している航路ならば追手も下手に仕掛けては来れないだろうと踏んだ。

 

 

「航海長、第二十三管理世界までの航路だが、なるべく周囲に他船が多く航行している航路をとれ」

 

「えっ?他船が多く航行している航路?それは構わないが、大丈夫か?民間船舶が巻き込まれないか?」

 

レイセンは第四管理世界で起きた追手とのカーチェイスの様子をガイアの艦橋にあるモニターで見ていた。

 

クロノもソレを見て、救援に向かったのだ。

 

その様子から見てオードリーを追う追手が、かなり執着質で手段を選ばない相手である事が窺えた。

 

そんな相手が周囲に民間船舶が居るからと言って手荒な事を控えるだろうか?

 

レイセンの脳裏にはそんな疑問を抱く。

 

「もしも連中が、民間船舶が多く居る中で攻撃を仕掛けて来たら、管理局に通報されるリスクがある。そこまでのリスクを背負う気概があるか‥だ‥‥これは賭けになるがな」

 

(あるような気がするが‥‥)

 

そう思いつつも艦長であるクロノの命令なので、レイセンは比較的に民間船舶が多く航行している第二十三管理世界までのルートを選択して、一路目的地である第二十三管理世界へと向かう。

 

その頃、フェイトはオードリーを船室へと案内していた。

 

「目的地の第二十三管理世界までは此方の部屋を使ってください」

 

「ありがとうございます」

 

「‥‥お茶でも飲みますか?」

 

「えっ?」

 

「第四管理世界であんなことを体験したんですから、何か温かい飲み物でもと思いまして」

 

「で、では、いただけますか?」

 

「ハイ。直ぐに準備しますね」

 

フェイトはオードリーのために温かい紅茶を用意した。

 

ただ、彼女は第四管理世界であのカーチェイスを経験した事で管理局から命を狙われている事実を知り、自分たちも同じ管理局に所属している事から自分たちに対して不信感を抱いたかもしれないと考えた。

 

そこでフェイトはカップに関しては敢えてまだラッピングしている紙コップを使用した。

 

お客さんに対して紙コップを使用するのは失礼かもしれないが、オードリーの目の前でラッピングを外す事で開けたばかりの紙コップであり、カップの安全性を認識してもらう。

 

お茶に関してもティーポットに淹れて、自身も飲む事でお茶の安全性を見てもらう事にした。

 

オードリーの目の前で紙コップのラッピングを外し、二つ用意した紙コップにティーポットでお茶を注ぐフェイト。

 

そして、最初に紙コップに入ったお茶を飲み、オードリーに淹れたお茶が安全である事をアピールする。

 

フェイトのとった行動を理解してか、オードリーも恐る恐る紙コップに入ったお茶を飲み、ようやく一息ついた。

 

ようやく落ち着いた時、フェイトはふとオードリーの家族について訊ねる。

 

オードリー自身があそこまで周到に追いかけて来たのだ。

 

当然、彼女の家族も狙われて人質にとられるのではないかと思ったのだ。

 

「あ、あの‥‥」

 

「はい?」

 

「その‥バーンさんのご家族は大丈夫でしょうか?」

 

「‥‥」

 

フェイトがオードリーの家族について訊ねると、彼女は顔を俯かせる。

 

(や、ヤバッ‥私、もしかして変な事を聞いちゃったかな‥‥)

 

オードリーの反応を見て、家族の話題は地雷だったかと思うフェイト。

 

「その‥今回私が証言する裁判‥‥ですが、私の家族に関係する事件なんです」

 

「えっ?」

 

(そう言えば私、クロノからバーンさんが証言をする裁判について聞いていなかった‥‥)

 

今思えば、フェイトはオードリーが証言をする裁判の事件についてその詳細を知らなかった。

 

そして、オードリーによれば、彼女が証言をする裁判の事件には彼女の家族が関係している事件みたいだ。

 

オードリーはポツリ、ポツリと今回、自分が証言をする裁判の事件について語り始めた。

 

彼女の母親は、オードリーが生まれてすぐに病気で亡くなってしまった。

 

父親は、再婚をせずに父一人でオードリーを育てた。

 

そして、オードリーの父親はフェイトたちと同じ管理局員であった。

 

父子家庭の管理局員と聞いてフェイトの脳裏にはゲンヤとレジアスの姿が脳裏を過った。

 

そんなオードリーの父親は正義感のあふれる管理局員であったが、ある日、些細な切っ掛けでオードリーの父親は同僚の不正の証拠を突き止めた。

 

「不正‥それが、今回の裁判の原因ね?」

 

「はい」

 

「それで、その不正ってどんな不正なの?」

 

「父が言うには、公金の横領と‥‥その‥技術機密の漏洩‥と言っていました。本来、裁判に出廷し、証言をするのは私の父の筈でした‥‥」

 

(技術機密の漏洩?それってもしかして‥‥)

 

公金横領は兎も角、フェイトが気になったのはオードリーの父親の同僚がしたとされる不正の中の『技術機密の漏洩』だった。

 

(その技術ってもしかして、MS機関!?)

 

技術部で問題となっているMS機関の外部への流出。

 

今回事件に関与しているかもしれない幹部局員の不正はMS機関の外部流出の可能性を抱くフェイト。

 

それともう一つ、フェイトはある事を察した。

 

それは‥‥

 

「も、もしかして、貴女のお父さんは‥‥」

 

フェイトはオードリーの此処までの発言を聞いて、彼女の父親の身に何が起きたのかを察した。

 

「亡くなりました‥‥管理局側は事故‥‥と言っていますが‥‥」

 

フェイトの予測通りオードリーの父親は既に亡くなっていた。

 

しかし、オードリーの口ぶりから彼女は管理局側から説明された自分の父親の死因について納得していない様だ。

 

「何だか納得していない様にも見えるけど‥‥?」

 

フェイトは気になりオードリーに訊ねてみる。

 

「はい‥‥管理局からは父はお酒を飲んだ後に車を運転して、事故を起こし亡くなったと説明を受けました。でも‥‥」

 

管理局はオードリーに彼女の父親は飲酒運転の末の交通事故で死亡したと彼女に伝えた。

 

しかし、管理局から説明された父親の死因にオードリーは違和感を覚えていた。

 

「でも?」

 

「でも、私の父はお酒が全く飲めない人でした」

 

「えっ?」

 

「私の父は、お酒に全く耐久が無い人で、普段からお酒は飲まず、管理局での飲み会でもお酒は飲まない人でした‥‥そんな父がお酒を飲んで車を運転すると思いますか?」

 

フェイト自身、成人年齢を越えてお酒を嗜むようになったが、例え酔い潰れないくらいのお酒を飲んだ後でも絶対に車の運転はしない。

 

お酒に弱く普段からお酒を飲まない人物ならば、尚更お酒を飲んだ後で車の運転なんて不自然だ。

 

「確かに貴女のお父さんがお酒が全然飲めない人なら、管理局が説明したお父さんの死因は確かにおかしい‥‥」

 

「第四管理世界で追われた時、確信しました。父は仲間に‥‥管理局に殺されたのだと‥‥」

 

「‥‥」

 

管理局から知らされた父親の死因に不信感を抱き、第四管理世界で命を狙われた事でオードリーはフェイトの予測通り管理局に対して不信感を募らせていた。

 

今も管理局員と言う事でフェイトにも‥ガイアに居る乗員たち全員に不信感を抱いているのかもしれない。

 

「父は同僚の不正の証拠を集め、裁判で証言をするつもりでした。ですがその裁判が行われる前に父は‥‥」

 

「裁判が開かれる世界は、第二十三管理世界だけど、貴女が居たのは第四管理世界だったけど‥‥?」

 

「私の生まれ故郷は第二十三管理世界で、父もその世界にある管理局の支部で働いていました。ですが、私が通っている学校で交換留学があって、私は第四管理世界にある学校に通っていました」

 

「そうだったんだ‥‥」

 

「父が亡くなった知らせを受け取ってから直ぐに私の下に父宛てから一体のぬいぐるみが送られてきました」

 

「ぬいぐるみ?」

 

「はい。誕生日でもなく、父が祝い事のない中で贈り物をしてくる事に違和感を覚え、私がぬいぐるみを調べてみると中に父が掴んだ同僚の不正の証拠が記録された記録媒体が出てきました。今回の裁判ではこの証拠を突きつけて父の仇を討つつもりです」

 

管理局に家族を殺されたかもしれないが、それを裁くのも管理局‥‥

 

一権集中の管理局が果たしてちゃんとした裁判を開いてくれるのかフェイトとしてはオードリーの話を聞いて心配になってきた。

 

しかし、それ以前にオードリーを無事に裁判が開かれる世界へ連れていかなければならない。

 

そして万が一、管理局が不正をした幹部局員の方を擁護するようなことがあれば、フェイトは自分のもてる人脈を使って戦うつもりでいた。

 

クロノだってオードリーの話を聞けばきっとそうするに違いない。

 

PT事件の関係者であった自分が言うのも変ではあるが、例え今は同じ管理局に所属する者でも犯罪をすれば管理局員ではなく犯罪者だ。

 

フェイトがオードリーのお世話をしている中、ガイアの艦橋では‥‥

 

 

ガイア 艦橋

 

「周囲に異変はないか?」

 

「周辺に民間の貨物船らしき反応が多数ありますが、ガイア周辺では変わった行動をとる船はありません」

 

「そうか‥引き続き警戒を怠るな」

 

「了解」

 

民間船舶が多く航行する航路を選んだガイア。

 

周囲には様々な世界を目指す民間船舶が多く航行していた。

 

ガイアに急接近してくる船舶などはなく今の所、平穏な航海が続いているが、クロノにとってこの平穏な航海がまるで嵐の前の静けさのように感じられた。

 

しかし、嵐は直ぐにやって来る事になった。

 

「っ!?本艦に向かって高速飛来物接近!!」

 

「なにっ!?‥うわっ!?」

 

突如、ガイアに激しい震動が襲い掛かる。

 

それと同時に艦内には警報と赤い非常灯が灯る。

 

「右舷、第十ブロックに損傷を確認!!」

 

「更に高速飛来物本艦に接近!!」

 

「迎撃!!」

 

ガイアの艦橋下部にある格納式小型レーザー砲塔が接近して来る飛来物の迎撃にあたる。

 

「飛来物はどこから飛んできた!?」

 

「‥‥解析終了、右舷80度を航行している大型貨物船からです!!」

 

「なに!?モニターに表示!!」

 

「は、はい」

 

ガイアの艦橋にあるメインモニターには一隻の大型貨物船が映し出されており、大型貨物船のコンテナからは何が飛び出してきた。

 

「あ、あれはっ!?」

 

クロノたちにはコンテナから飛び出してきたモノに見覚えがあった。

 

それは先日、貨物船を襲撃していた海賊船だった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

海賊船を排出した大型貨物船は突如、爆発した。

 

後々、管理局に調べられると困るので証拠隠滅を図ったのだ。

 

「なんでこんな所に奴らが‥‥?」

 

「しかも連中は、周辺の貨物船には目もくれず、こちらに向かってきます!!」

 

「奴らの狙いはガイア‥というよりもガイアに乗せている証人か‥‥」

 

「で、でも、海賊が何故、証人を狙うのですか?」

 

「大方、海賊に金でも払って証人の抹殺を依頼したのだろう」

 

突然の海賊の出現に艦橋内は軽くパニックとなるが、チンクは海賊の出現に対して冷静に推測をする。

 

「い、いかん!!直ぐにこの航路から離れろ!!」

 

クロノは現宙域からの離脱を命じる。

 

追手が管理局関係ならば民間船舶を巻き添えにしないだろうと踏んで民間船舶が多く航行する航路を選んだが、追手が海賊であるならば話は別だ。

 

彼らにとって民間船舶なんてそこら辺の石ころや雑草程度の認識しかなく、民間船舶が何隻巻き添えになっても目的のためならば、民間人がいくら死のうが構わないと思っている連中だ。

 

しかも最初にガイアへ攻撃を仕掛けて来たのは管理局が禁止としている質量兵器‥ミサイルによる攻撃だ。

 

海賊なのだから管理局の法律なんて関係ない。

 

故に彼らは平気で質量兵器を使用して来る。

 

海賊船が迫っている中、ガイアは民間船舶に被害が出ない様、急ぎ航路を変更した。

 

 

突然の攻撃によるガイアの被弾と海賊船の出現、それらは周辺を航行していた民間船舶から管理局へ通報される事となる。

 

「スケルトン航路にて、海賊船の出現と通報があった!!」

 

「別の商船からの報告では海賊は質量兵器を使用したとの事だ!!」

 

「大型貨物船の爆発も確認されたぞ!!」

 

「直ちにスケルトン航路を航行している船舶全てに警戒警報を出せ!!それと、海域への乗り入れを制限しろ!!航行中の船舶の退避ルートを確保せよ!!」

 

「無理だ!!航行中の船舶の数が多すぎる!!このままでは衝突事故を引き起こしてしまう!!一旦、現海域で留まらせるしか‥‥」

 

「この密集した状況で‥しかも質量兵器を使用する海賊が居る海域で停まれだと!?連鎖的な事故を引き起こすぞ!?」

 

「近くの次元航行艦は!?」

 

「ガイアが航行しているみたいだが、被弾した。それにガイアは何かの任務中らしい」

 

「ガイア以外の艦は!?」

 

民間船舶からの通報内容に管理局‥本局の運行管理センターのオペレーターたちはどう対処すればいいのか混乱していた。

 

 

ガイア 艦橋

 

「航海長、周囲に民間船舶や小惑星の反応はあるか!?」

 

「いや、ない」

 

「よし、それなら次元跳躍をして奴らを振り切る!!」

 

「しかし、艦長。空間座標設定をせずに次元跳躍をすれば、どこに跳躍明けをするか分からんぞ」

 

レイセンはクロノに座標設定なしの次元跳躍の危険性を指摘する。

 

その間も、

 

「敵艦、後方から発砲!!」

 

追手となる海賊船はガイアの背後から迫って来る。

 

被弾する度にガイアの船体が揺れる。

 

「議論している暇はない。連中は我々を沈めにかかっている。このまま此処に居れば、本艦は大きなダメージを負う」

 

「わ、分かった‥‥次元跳躍」

 

レイセンも此処に居てはまずいと判断し、一か八かの賭けで座標設定なしの次元跳躍をする事にした。

 

やがて、ガイアは追手に追われながらも次元跳躍をした。

 

しかし、空間座標設定等の準備もせずに、いきなりの次元跳躍だったのでガイアの乗員たちは床に叩きつけられた者も居た。

 

 

海賊船 艦橋

 

「管理局艦、消えました!!」

 

「どうやら管理局艦は次元跳躍をした模様です」

 

「奴らの空間歪曲波をトレースして追うのだ!!」

 

海賊の首領はガイアが次元跳躍をしたからと言って逃すつもりはなく、ガイアが行った次元跳躍の航跡をトレースしてガイアの後を追いかける。

 

しかし、ガイアは準備無しの次元跳躍をしたので、空間座標は滅茶苦茶なので、空間歪曲の航跡をトレースするのに若干の時間がかかった。

 

 

漆黒の宇宙空間の某宙域の一部がグニャリと歪む。

 

そして、その歪みから宇宙空間に突如何かが飛び出してきた。

 

それは空間座標設定なしの次元跳躍をしたガイアであった。

 

次元跳躍明けをしたガイアの艦橋はパネルやメーターのランプが点滅したり点灯しているだけで何の音もなく静寂な時間が過ぎていた。

 

艦長のクロノを始めとして艦橋員のほぼ全員が床に倒れていた。

 

最後まで艦の制御を行っていたレイセンも座席の下に倒れていた。

 

「うっ‥‥」

 

クロノも艦長席の傍の床に仰向けの状態で倒れていた。

 

やがて、鈍い声と共にクロノは瞼を開ける。

 

瞼を開けたばかりの時は真上の焦点がぼんやりとしていたが、やがて焦点があってくるとはっきり見えるようになる。

 

「いっ!?」

 

身体を起こすと全身に鈍い痛みが走る。

 

床に叩きつけられた衝撃が強かったみたいだ。

 

幸い、骨に異常はないようで、痛みも決して我慢できない程の痛みではない。

 

「うっ‥‥」

 

全身の痛みの次に船酔いみたいな嘔吐感も沸いてきた。

 

元々MS機関となってから次元跳躍を行うとかすかな嘔吐感が残ったが、今回は空間座標の設定なしとほぼ準備の無い状態での次元跳躍を行ったので自身の身体が次元跳躍の準備をする事が出来ていなかったのだ。

 

だからこそ、目覚めがこんなにも不快だった。

 

クロノは身体を起こし、音のしない艦橋を見渡す。

 

(ひどい有様だな‥‥)

 

艦橋を見渡したクロノは心の中で思わずつぶやく。

 

艦橋員たちは誰一人としてまともに自分の座席に座っておらず、床で伸びている。

 

しかし、それは無理もないと思う。

 

実際に自分自身も艦長席から放り出されてついさっきまで床で伸びていたのだから‥‥

 

戦闘機人であるチンクもそれは例外ではなく、彼女も床に倒れている。

 

クロノはまず、ガイアがどこに居るのかを確認するために航海長のレイセンの下へと向かう。

 

クロノは身をかがめ、レイセンの肩を揺する。

 

「航海長、航海長。大丈夫か?」

 

「うっうぅ~‥‥あと五分‥‥」

 

「航海長、寝ぼけている暇か?起きろ!!」

 

クロノはレイセンの身体を大きく揺すり強制的に起こす。

 

「な、なんだ?‥‥ん?艦長か‥‥」

 

「航海長、すぐに現在位置の特定を急いでくれ」

 

「現在位置?‥‥そうか、準備無しの次元跳躍をしたのだったな」

 

寝ぼけていた意識が覚醒していきレイセンは現状を理解した。

 

レイセンがガイアの現在位置の特定を進めている中、クロノは他の艦橋メンバーを起こす。

 

皆、身体を床や座席等に打ち付けてはいたがクロノやレイセン同様、骨折はしていなかった。

 

艦橋以外でも倒れて意識を失っていた乗員たちが次々と起き上がる。

 

「各部、損害と負傷者の有無をチェックせよ」

 

クロノが艦の損傷や異常、乗員に負傷者が居ないかチェックしている中、オードリーの居る船室では‥‥

 

「バーンさん、大丈夫ですか?」

 

「うぅ~‥なんか気持ち悪い‥‥」

 

「いきなり次元跳躍をした影響ね。でも、どうして次元跳躍を‥‥艦内放送もなかったし‥‥」

 

なんの準備もなしでの次元跳躍をした影響でオードリーは酔ったみたいだ。

 

「ひとまず、横になって‥次第に酔いも醒めて来るから」

 

「は、はい」

 

フェイトはオードリーを船室に備わっているベッドに寝かせると、艦橋へ連絡を取り現状の確認を行う。

 

「艦長、一体何があったんですか?いきなり次元跳躍をするなんて‥‥」

 

『海賊‥というよりも証人を狙った追手の襲撃にあった』

 

「えっ?もう、追いついて来たんですか!?」

 

『どうやら連中は広範囲に網を張っているみたいだ‥‥それに証人の抹殺をどうやら海賊にも依頼していた様だ。それで、証人や君は大丈夫か?』

 

「私は大丈夫だけど、バーンさんは突然の次元跳躍で少し酔ったみたい。今、横になって休んでもらっている。それよりも海賊に追われているって、どういう事!?」

 

追手に海賊が居たという事実にフェイトは驚愕する。

 

『管理局の艦では次元の海では何かと制限がある。事と次第では目撃者も現れるからな‥だからこそ、無法者の海賊に証人の抹殺を依頼したのだろう。大金を払えば例え管理局からの依頼でもやるような手荒な連中だからな‥‥』

 

「管理局が海賊に依頼だなんて‥‥」

 

フェイトしては信じられなかったが、オードリーの話を聞いた後なので、あながち間違いとも言い切れない。

 

自分の不正を揉み消し、保身のために同僚を事故に見せかけて殺すような人物ならば、本来管理局が取り締まるべき海賊に大金を払い証人であるオードリーの抹殺を依頼するくらい平気でやるだろう。

 

(今回の裁判、何が何でも証人を守り切って真実を明らかにしないと!!)

 

「それで、此処は何処なの?」

 

『今、航海長が現在位置の特定を進めている。何か分かったら連絡をする』

 

「分かった」

 

ガイアに何があったのか、現状を聞いた後、フェイトはクロノとの通話をきった。

 

「艦長、ガイアの現在位置が分かったぞ」

 

「どこだ??」

 

「此処だ」

 

レイセンはガイアの現在位置が示された宇宙海図を表示する。

 

「かなり本来の航路から外れてしまったな‥‥それにこの辺の海域はまだ詳しい調査が行われていない海域だ」

 

「ああ、これまでの調査がされたギリギリの所だ。この先は海図にはない次元の海だ」

 

「‥‥」

 

「もう一度、次元跳躍をして通常航路に戻るか?」

 

ガイアの今回の任務は調査ではなく証人であるオードリーを第二十三管理世界の裁判所へ連れて行く事だ。

 

次元跳躍で航路を外れてしまったのなら、もう一度、今度はちゃんと空間座標を設定し直して航路に戻れば良いだけだ。

 

「しかし、通常航路に戻っても連中が手ぐすねを引いて待っているだろう‥‥そして、その半分は恐らく我々が行った次元跳躍の航跡をトレースして追いかけて来る。むしろ、この未知の海域で撒くことが出来れば戦力を減らせる事が出来る」

 

クロノは海賊に依頼してまで追手を差し向けて来たのだから、追手は広範囲に網を張っているだろうし、いずれはこの海域にも海賊の追手が来るだろうと踏んでいた。

 

ならば戦力を分断するにはこの未知の海域はちょうどいい環境であると判断した。

 

やがてクロノの予想通り、ガイアの後方に次元跳躍明けの反応があった。

 

ただ、クロノの予想外だったのは追手の全てが来たことだ。

 

しかし、相手の正確な戦力の情報を持っていないクロノたちにしてみれば、追手はあくまでも戦力の一部だと思っていた。

 

「本艦後方に次元跳躍明けの空間歪曲を確認!!」

 

「来たな‥‥航海長、全速前進!!」

 

「了解、全速前進」

 

ガイアはまだ管理局が調査をしていない未知の海域へと突入して行った。

 

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